鎮守府が、異世界に召喚されました。これより、部隊を展開させます。 作:Red October
もうそろそろ、レイフォリアでの戦闘も終わりかな。
少し時を巻き戻そう。
中央暦1644年1月31日 午後0時20分、レイフォリア郊外 グラ・バルカス帝国軍統合ラルス・フィルマイナ。
今日1日だけでこれまでに3回もの空襲を受けたラルス・フィルマイナ基地は、まさに死屍累々という有り様を呈していた。基地内の建物は半分以上が黒煙を噴き上げて燃えており、対空戦闘の合間を縫って兵士たちや、基地に避難してきた民間人たちが残骸の片付けや消火活動を行っている。だが、作業は遅々として進んでいない。というのも、まずそもそもの被害が大きすぎるのである。
それに加えて、ラルス・フィルマイナ基地の防空能力自体も大幅に弱体化していた。高射砲陣地はもう数えるほどしか生き残っておらず、陣地の周囲には朝から撃った砲弾の空薬莢が山と積み上げられている。射撃によってひどく熱された砲身に、兵士たちが必死で濡れたタオルなどを当て、熱を冷まそうとしていた。
とある防空陣地は敵機のロケット弾によって破壊されてしまっており、民間人が兵士と協力して片付けを行っている。だが、無惨に破壊された高射砲は重く、グロッキーなことになっている遺体に吐く民間人も多いため、作業がなかなか捗らない。
そして、ぐずぐずしている間に…
ウウウゥゥゥーッ!!
「空襲警報発令! 空襲警報発令ーっ!」
「ちくしょうまた来やがった! 民間人は急いで防空壕に退避! 全員対空戦闘配置につけー!」
こうなるのである。これで片付けが中断され、空襲が終わった時には片付けるべき残骸がさらに量産されているということの繰り返しで、片付けが全く終わらないのである。
西の空から聞こえてくるレシプロエンジンの多重奏が、こちらを押し潰すかのように迫ってくる。そして、200機にも達するかもしれないほどの数の敵機が姿を現した。
軍港にいる艦艇や基地の対空砲のうち、生き残っている物が必死に迎撃の砲火を放つ。しかし、上空に咲く黒煙の花の数は敵機を食い止めるにはあまりにも足りない。被弾し黒煙を吐いて墜ちていく機体もいるにはいるが、片手で数えられるほどしかいない。
隙間だらけの対空弾幕を突破した敵機は、上空で猛禽のように機体を翻して急降下に入り、あるいは緩降下で猛然と突っ込んでくる。そして、搭載してきたロケット弾や爆弾で好き放題に暴れ回った。
軍港に停泊、いや着底していた駆逐艦が、生き残っていた主砲と機銃を動員して迎撃を図る。それに対し、V字の編隊を組んで接近してきた敵機が主翼下にぶら下げたロケット弾を叩き付けた。3機の敵機は1機も墜ちることなく通りすぎていき、逆に駆逐艦の方は主砲塔の天蓋をぶち抜いたロケット弾によって弾薬庫が誘爆し、紅蓮の火柱を上げて真っ二つになっている。
軍港や基地に向けて急降下してきた敵機が、甲高い音を響かせながら航過する。その直後、敵機から切り離されて降ってきた爆弾が炸裂し、地上に炎と黒煙が沸き出す。これまでの空襲を奇跡的に生き延びていた対空機銃が、操作員もろとも粉微塵に吹っ飛ぶ。3階建ての司令部棟に落下した500㎏爆弾が屋根と3階をぶち抜いて2階の床に当たってから炸裂し、保管されていた作戦指令書やら机やら椅子やらが、元が何だったかも分からぬ黒い破片となって飛び散り、ガラスの割れた窓から吐き出される。空襲の被害は甚大という他なかった。
「もうダメだなこれは」
空襲が終わり敵機が去った後、地上の様子を確認したラルス・フィルマイナ基地司令ドルバス・ファンターレ准将は、諦めきった顔でそう呟いた。そして、地下に築かれた非常司令部へと戻っていく。
地下司令部に入ったファンターレは、見たものをそのまま説明した。その相手は、ナルガ戦線(グラ・バルカス帝国軍のムー大陸戦線の呼称)総司令官アルダ・グランギル大将や、ナルガ戦線司令部付海軍武官アルゼン・ローリー中将などの、名だたる面々である。
「……以上から、地上の建物はほぼ全てが被弾し、火災に見舞われたといっても過言ではありません。滑走路も複数の爆弾が命中し、当面航空機の離発着は不可能です。
もはやこの基地は機能を喪失したも同然です」
「そうか…」
グランギルの顔には悲愴感が漂う。
「そこで提案なのですが、ムー大陸侵攻軍司令部をダイジェネラ山要塞に移した方が良いのではないかと愚考します。あそこならば防御力は高く、敵の如何なる攻撃にも耐えられると考えます」
この提案に、ローリーが懸念を表明する。
「一理あるな。我が海軍のレイフォリア軍港にも、もはや戦える艦艇は残ってない。
だが、移動中に襲撃を受ける可能性があると考える。それについては、どう対処する?」
「は、現在この基地に残っている軍用車輌のほぼ全てと、最低限の人員を除いた陸軍歩兵を護衛に付けます。確かに襲撃はあるでしょうが、市街地で襲われたとしても現地人の蛮族どもが相手です。マスケットしか知らぬ奴らでは、勝負にならないでしょう。
よって、航空機が動けなくなる夜を狙って人員の移動を行います」
「…分かった、それで行こう」
ということで、ムー大陸侵攻軍司令部をダイジェネラ山要塞に移動させることになったのだった。ついでに、基地に逃げ込んでいたグラ・バルカス帝国の一般人たち(つまり入植者たち)もそちらに移動させることにした。
で、夜を待って移動させたのだが……その結果は皆様ご存じの通りである。
『こちら3号車! 敵襲だ!』
『ハウンドがやられたぞ! いったい何が起こっている!?』
『第5小隊全滅! なんて強さだちくしょう!』
移動中だった侵攻軍司令部や一般人たちは"情報収集部隊"に奇襲され、ほぼ何もできないまま次々と討ち取られていった。無線に響く叫び声はどんどん減っていき、ついには誰も無線を発さなくなってしまった。また、侵攻軍司令部を乗せた装甲車からの無線通信も、凄まじい爆発音の直後に途絶してしまったのである。
無論、装甲車からの無線通信に響いた爆発音というのは、地雷に転用された九三式魚雷の弾頭が爆発した時のものである。
「何てこった…」
基地に残っていたファンターレは、深刻なまでの動揺を押し隠そうとして失敗した。ちなみに無線機の前に座る通信兵は、幽霊かと見紛うほど蒼白な顔をファンターレに向けていた。まるで、この事態を打開できる策の発案を期待するかのように。
だがその時、無線機が再び空電音を鳴らした。弾かれたように通信兵の両肩が跳ね、次の瞬間には自らの職務を果たすべく無線に神経を集中させる。が、次第に通信兵の顔は血色すら欠いて白くなっていった。
というのは、飛び込んできた無線がレイフォリア東方の防衛線から打たれたものであり、その内容が悲劇的なものだったからだ。
『こちら最終防衛ライン司令部! 敵ロデニウス陸軍及びムー陸軍、我が方の防衛陣地を次々と突破!
奴らの戦車はバケモンだ、ハンテルどころかティゲルの新型を出してきやがった! こっちの対戦車砲のゼロ距離射撃も効かん! …くそっ、だめだ防ぎきれない! 帝王陛下万歳!』
それを最後に、防衛線司令部からの無線は途絶したのだった。
「まずいです、このままでは…!」
「……やむを得んな」
ファンターレは決断を下した。
「防衛線の部隊は、もはや撤退も間に合わない。死守命令を出すより他にない。
市街地で反乱者どもの掃討に当たっている全部隊に命令、市街地から撤収しラルス・フィルマイナ基地に帰還せよ。この基地を拠点に最後の抵抗を図る!」
ファンターレ、苦渋の決断であった。
だが実は、この命令の遂行は全く容易ではなかったのである。というのは、侵攻軍司令部や一般人の移動を阻止した"情報収集部隊"が、部隊の一部を割いてこちらに回ってきたからである。
「
「
屋根の上に潜む黒装束の2人組。片方はごつい双眼鏡のような形をした、簡易タイプの測距儀を目に当てており、もう1人は長大な銃身を持つ「98式25㎜対物・対深海棲艦狙撃銃」のスコープを覗いている。2本の脚を立てて支えられた銃身は、ただ1発で目標を喰らわんと静かに銃口を向けていた。
「発砲待て、新たな目標だ。
「
非常に静かな声でやり取りしつつ、スナイパー役が狙撃銃のスコープを覗き込む。
「
「西の風4メートルだ、レティクルワンハーフレフト。ヘッドショット、エイム」
「ワンハーフレフト。レディ……OK」
「ファイア」
ズドン!
口径にしてはかなり抑えられた銃声と共に、必殺の弾丸が飛び出す。
反乱を起こしたレイフォル人たちを狙っていたグラ・バルカス帝国軍の狙撃兵は、まさか自分が狙われているなんて思っていなかったらしい。スコープを覗いて狙いを定めていたところに、音を置き去りにして25㎜弾が飛来してきたため、撃たれたことに気付く前に頭部と顔を粉微塵に吹っ飛ばされてしまった。これでは戦死したことにも気付けなかっただろう。
「クリア。次、さっきのハ号タンク。ワンオクロック、280ヤード」
「コピー。ハ号タンク、ワンオクロック、280」
呟きながら狙撃手がボルトを引く。銃弾にしては信じがたいほど大きい空薬莢が、ごろりと吐き出された。鈍い音と共に空薬莢が転がった時には、新たな弾が銃身内に送り込まれている。
ハ号タンク…グラ・バルカス帝国軍の主力戦車の1種である「2号軽戦車シェイファーⅡ」に、強烈な一撃の狙いが定められる。
「風は変わらず、西の4メートルだ。レティクルゼロ。
戦車にとって致命の一撃とは、何であろうか? 筆者は2つあると考える。1つは、戦車の心臓たるエンジンの破壊。もう1つは…
「ゼロ、レディ…OK」
「ファイア」
ズドン!
…主砲弾薬庫の誘爆。
狙い澄まして放たれた25㎜弾は、見事にシェイファー軽戦車の正面装甲を貫き、車内で炸裂して主砲の弾薬庫を誘爆させた。砲塔上ハッチから派手な火柱を噴き上げ、小さな車体が力尽きたように動かなくなる。
「よし、移動する」
「ラジャー」
闇に紛れて、"情報収集部隊"の狙撃兵たちは移動しにかかるのだった。
もちろんだが、痛撃を受ける形となったグラ・バルカス帝国軍の将兵たちは阿鼻叫喚である。
「ああっ、戦車が!」
「なんてこった! 対戦車ライフルの狙撃かクソッ!」
「愚痴ってる場合か、来るぞ!」
頼みの綱のシェイファーⅡ軽戦車も、敵が撃ったらしい対戦車ライフルの一撃で破壊されてしまった。兵士たちは各々手持ちのSRC38(Kar98kに似たボルトアクション式ライフル)やAM39(九九式に似た軽機関銃)を使い、向かってくるレイフォル人の反乱軍に向けて撃ちまくる。
次々と飛来する銃弾に、レイフォル人のうち何人かが被弾して倒れ、他の人々は素早く物陰や建物の中に飛び込む。
「よし、足止めした! すぐにてっ…」
だが次の瞬間、
ヴオオオオオオ!!
工作機械の駆動音のような音が響いた、と思った時には、グラ・バルカス帝国の兵士たちは銃弾のブリザードに見舞われていた。
建物の中に潜んだ"情報収集部隊"の妖精が、「91式7.7㎜軽機関銃
「ぐあ!」
「ぎゃああっ!」
「足…俺の足が! た、助け…」
あらゆる悲鳴を飲み込むように、電動ノコギリにも似たミーダーの駆動音が死の狂想曲を奏で続けた。
また、グラ・バルカス帝国軍の別の部隊は、撤退しようとしたは良いものの現地人と"情報収集部隊"の巧妙な伏撃に遭い、まごついているうちに…
「せ、戦車だ!」
「な、何だアイツは! 我が軍のハウンドより大きいぞ!」
「あの斜め装甲…間違いない、ハンテルだ! ロデニウス軍の戦車だぞ!」
防衛線を突破してレイフォリア市街地になだれ込んだロデニウス陸軍主力に、追い付かれてしまったのである。もちろん、こうなったグラ・バルカス帝国軍部隊は、かなりの損害を出してほうほうの体で逃げるか、降伏するより他になかった。
「奴ら、引いていきますが…これで良いんですかい?」
撤退するグラ・バルカス帝国軍を見送ったレイフォル人の1人がそう尋ねる。それに対して、妖精はニヤリと笑って答えた。
「ああ、問題無いよ。…ほんの少し命が長らえただけだから」
一方、ロデニウス軍に降伏したメンバーの中には、
「ううぅ、なんでこんなことに…確かに軍人だし銃を取っていた時期もあったけどさ、数年もしたら腕なんてもう落ちてるっての…。それなのに、なんで俺まで前線に引っ張り出されなきゃならないんだ…」
情報技官のナグアノも含まれていたのであった。
あっちこっちから飛び込む急報に胃の痛みを感じつつも、ファンターレは必死に指揮を執っていた。
「市街地に展開していた部隊は、順次撤収してきています。しかし、敵の待ち伏せに遭って大損害を受けた部隊もある模様!」
「逃げられた奴らだけでも受け入れろ!
こうなったら、ここを枕に討ち死にする覚悟で戦ってやる! 帝国の威光を示せ!」
ファンターレは叫びながら、基地の正門や昼間の空襲で発生した残骸を利用しての陣地構築を手伝っている。それを見て他の将兵たちも、必死に作業に加わった。
擲弾筒と呼ばれる小型の迫撃砲や軽機関銃が据え付けられ、奇跡的に生き残っていた野戦砲が引っ張り出される。その野戦砲の後ろに、ありったけの砲弾が積み上げられる。
作業を手伝う将兵には、頭や腕に血の滲んだ包帯を巻いた者や、汚れた軍服を着た者が少なくないという、見るからに痛々しい格好になっている。昼間の空襲などで負傷し、しかし人員不足のため休ませる訳にもいかず、引っ張り出されてしまった者たちである。
陣地を構築している間にも、市街地から撤退してきた兵士たちが三々五々集まってくる。中には武器を捨てて着の身着のまま脱出してきた者もいる。手ぶらで合流した者たちには武器が渡されたが、残念ながら小銃や手榴弾の数ですら足りず、やむ無く拳銃のみ支給、それも無くなると白兵戦用のサーベルでも無いよりマシと渡されるほどの惨状であった。
そうこうしているうちに、闇に閉ざされた通りの向こうに敵部隊らしき影がちらちら見え始めた。
「く、来るぞ!」
「まだだ! 引き付けてから撃て!」
兵士たちの声には、隠しようもない焦りの感情が見える。
射撃開始のタイミングを測っていた時、ファンターレの耳に妙な音が届き始めた。
ゴオオオオ…
「何だ、この音は?」
それは、帝都ラグナの高速鉄道の走行音を線路ぎりぎりで聞いた時のような轟音。
聞いていると、その音はだんだん大きくなってくる。それと同時に、ヒュルルルルル…という甲高い音も聞こえてきた。
もはやこの音が何なのか、ファンターレも兵士たちも気付いていた。
「砲撃だ!」
「伏せろ!」
叫びが闇を裂いて飛び交った次の瞬間、
ズドオォォォォン!!
耳が潰れそうなほどの轟音と共に、大地を揺るがす凄まじい震動が伝わり、視界が大きく揺れ動いた。砲弾が落下したのだ。
しかし、震動の激しさと炸裂音の大きさがおかしい。帝国陸軍の155㎜重カノン砲の弾着でも到底比較にならないほど、凄まじいのだ。それは、もっと大きな口径の大砲による砲撃であることを如実に物語っていた。
これが何を意味するか、分からないファンターレではなかった。
「か、艦砲射撃…!」
敵国の艦隊がレイフォリア沖合、それも下手をすると10㎞前後という至近距離に現れた。それしかない。
弾着の数がかなり多い。敵はおそらく、相当な数の艦艇を送り込んできているに違いない。
しかも、弾着の震動の大きさから考えて、敵艦隊には明らかに複数の戦艦が含まれている。
戦艦はただ1隻だけで、空を埋め尽くすほどの数の爆撃機による航空攻撃や、地上にずらりと並べた重カノン砲の一斉砲撃と同等以上の投射火力を持つ。それが複数隻いるのだ。
複数の戦艦による艦砲射撃の投射火力は、陸軍の砲兵部隊をどれだけかき集めてもあっという間に上回られてしまう。その恐ろしさを知っているファンターレは、身体の震えを抑えきれなかった。
しかも、基地に兵力が集結したこのタイミングで、艦隊による艦砲射撃が降ってくるとなると……
(これは罠だ! 敵はこちらの兵力を敢えて1か所に集めさせ、そこを艦砲射撃で拠点ごと吹き飛ばすつもりだ!!)
戦慄と共にその答えに行き着いたファンターレの判断は早かった。
「全員に命令! 直ちに基地を放棄して脱出、ダイジェネラ山要塞の友軍と合流せよ!
これは敵の罠だ! 敵はわざとこちらの兵力を1か所に集めさせ、艦砲射撃でまとめて吹き飛ばすつもりだったのだ!
我々は敵の罠に掛かってしまった! 直ちに脱出せよ! 繰り返す、直ちに脱出せよ!!」
しかし、ファンターレのこの命令は現場に致命的な混乱をもたらしてしまった。
ただでさえ、敗戦に次ぐ敗戦と艦砲射撃で浮き足立っている兵士が多い。それでも何とか基地司令たるファンターレの命令に従って迎撃拠点を構築したのに、ここにきてそれをひっくり返されたのである。混乱も起きるというものである。
「脱出してダイジェネラに向かえだと!?」
「どうやって行くんだ! 車輌もないのに!」
「敵が目の前に迫ってるぞ、撃て!」
「っ、また来た! 伏せろぉ!」
報告と命令と怒号と悲鳴が交錯し、もうぐちゃぐちゃである。それら全てを塗り潰すように甲高い飛来音が落下し、直後に大音響と共に大地が砕け爆炎が迸る。兵士たちが次々と吹き飛ばされていく。当然、戦艦の大口径砲弾の弾着による震動の前では、まともに走れるものではない。
「そ、そんな……」
現場の混乱ぶり、そしてあまりに容赦のない敵の攻撃に唖然とするファンターレ。そこに新たな砲弾の飛来音が降ってくる。
「ああ、あ……嫌だ…嫌だ、死にたくない!」
ファンターレの眼前を様々な人の顔が流れていく。
優しかった母、厳しくも愛情を持って育ててくれた父、脳天気だった妹、そして学生時代の友人達。美しい女性との恋、そして結婚。どんな時も支えてくれた妻と、可愛い3人の子供達。
それから、生まれてから今までの思い出が、次々と浮かんでは消えて行く。
「死にたくな…」
次の瞬間、全ての光景を掻き消すほど明るい青白い光が、ファンターレの眼前に出現した。
視界が一面の青に染まる。耳が急に遠くなる。全身の皮膚に銃剣を何本も突き刺したような凄まじい痛みが走る。さらに、身体の穴という穴から何かが高速で体内に入りこみ、恐ろしい勢いで身体を飲み込んでいく…
「があぁぁ……!」
今までに感じたことのない激痛に悲鳴を上げかけたのが、ファンターレの最後の記憶だった。
「凄まじいな」
ラルス・フィルマイナを砲撃中のロデニウス連合王国海軍第13艦隊、第14.2任務群"シルヴァーブレイズ"。その旗艦たる戦艦「
敵基地や軍港には、味方の艦艇から放たれた主砲弾が次々と落下、炸裂している。
戦艦の主砲からは通常弾や「三式弾」が。
重巡洋艦の主砲からは対空サーモバリック砲弾たる「四三式弾」が。
そして軽巡洋艦と駆逐艦からは、通常型の主砲弾と「WG42」の30㎝ロケット弾が。
それらは容赦なく敵基地を破壊し、焼き尽くしていく。
「通信長、敵基地からの無線はどうだ?」
堺の質問に、妖精が答える。
「は、まだ発信されています」
「ということは、まだ生きてる奴がいるな。
遠慮は要らん、撃て! ここで全てを一掃せよ!」
無慈悲なことは百も承知で、堺は命令を下した。
「長門」の10門の41㎝砲が真っ先に火を噴く。続いてその妹の「
その後から凄まじい砲声が続く。「
敵の軍港に接近した3隻の重雷装巡洋艦、その艦上がオレンジ色の炎で凄絶なまでに彩られる。被弾したのではなく、「WG42」を一斉射撃したのだ。夜目にも鮮やかなオレンジ色の炎を吐いて、ロケット弾が放物線を描いて敵軍港へと落下していく。
砲の発射音、そして命中時の猛烈な爆発、耳をつんざく轟音がレイフォリアを包み込んだ。
「す……すごい! 凄すぎるっ!!!」
「あれが、ロデニウスの魔導砲なのか!? なんて威力だ!」
「いや、我が国の砲は魔導技術を使っていませんから、魔導砲ではありませんよ。ムーの軍艦のものと同じ、科学技術製の大砲です」
「なんと!? では、科学技術の大砲でもここまでの威力を出せるのか!」
「科学技術も捨てたもんじゃないな…」
反乱を起こしたレイフォル人たちが、このものすごい光景を見て興奮している。
面積の広いグラ・バルカス帝国の大基地が燃える。
爆発の轟音は耳だけでなく身体で感じるほどで、燃えさかる火炎は夜空を焦がし、大量の黒煙は星どころか月の光すら遮ってしまう。
猛烈な爆発、いや、消滅していると言った方が正しいのかもしれない。そう思える程に凄まじい攻撃が、グラ・バルカス帝国の基地に浴びせられていた。
もうかなりの被害が出ているはずだが、ロデニウス艦隊はそれでも射撃を止めようとしない。
結局ラルス・フィルマイナ基地は、3時間にも渡って砲弾の雨を降らせられるのであった。
3時間後。
「敵基地からの電波発信、完全に沈黙。新たな電波の発信はありません」
報告を受けて、堺はこれで効果十分と判断した。
「よし、撃ち方止め! 現時刻を以て砲撃を終了する!
全艦直ちに集合。補給を済ませ、最後の敵拠点を叩く!」
この3時間の砲撃で、艦娘たちは砲弾をあらかた撃ち尽くしてしまっている。急ぎ補給を行う必要があった。
「最後の目標がでかいんだよな…」
堺の狙いはただ1つ、最後に残ったグラ・バルカス帝国の拠点たるダイジェネラ山要塞である。
「さっきは撃たなかったからな…赤城、加賀、今度は思う存分撃って良いぞ。今のうちに砲身に通電しとけ」
『分かりました! この赤城にお任せください!』
『加賀了解。流石に気分が高揚します』
一航戦の2人から、打てば響くように良い返事が返ってくる。
(要塞攻略のためエモール王国が援軍を派遣するって聞いてるが、何を寄越すのか教えてくれてないな。いったい何を送ってくるのやら。
万が一エモールの援軍と、ムー大陸南部から飛ばした戦略爆撃隊の新兵器で要塞を殺りきれなかった時は……あまり使いたくはないが、後方にスタンバイさせてる"あれ"を使うしかない。射線に注意しないといけないが、大陸1個を瞬時に吹き飛ばし星1つ破壊することすら可能なあの砲なら、山1つごとき楽々だ。
ひとまずはこれで終わり、ってところかな。後は外務省の方々にちょっと頑張ってもらうとしよう)
堺はそう考えていた。
やっとこさ、レイフォリアを巡る攻防戦、そしてムー大陸での総反攻作戦『バグラチオ作戦』も終盤。夏休みシーズン突入までに描き上げて、そしていい加減にグラ・バルカス帝国との戦いも終わりにしたい…!
新たにお気に入り登録してくださいました皆様、ありがとうございます!!
次回予告。
ついにラルス・フィルマイナ基地も全滅してしまい、グラ・バルカス帝国に残されたムー大陸の拠点はダイジェネラ山要塞だけになってしまった。要塞を枕に最後の抵抗を試みるグラ・バルカス帝国軍と、止めを刺そうとする世界連合軍。いよいよレイフォリアを巡る攻防戦も終幕に差し掛かる…
次回「『解放者たち』終幕 要塞vs弾雨」