鎮守府が、異世界に召喚されました。これより、部隊を展開させます。 作:Red October
中央暦1644年2月1日 午後2時45分、グラ・バルカス帝国領レイフォル州 ダイジェネラ山要塞。
今や異世界連合軍と対峙する最前線拠点と化したこの要塞であるが、山1つくり貫いて要塞化しただけあって防御力は高い。山肌の全周に渡って設置された榴弾砲や高射砲、対空機銃などは全て、半地下式の部屋数に置かれており、砲門は茶色や緑に塗装された三重の防火扉で守られている。これは、敵がワイバーンの火炎弾などで森林を焼く戦術を取った場合に備えてのものだ。
また、内部には地下水脈がある他、食糧や砲弾も大量に備蓄されており、長期に渡る籠城戦が可能である。これだけ見ても、攻めるに難く守るに易いことが察せられよう。
では、この要塞に詰めているグラ・バルカス帝国軍将兵については、どうだろうか。彼らは確かに、練度自体は高い方である。しかしながら、彼らの士気は最底辺まで落ち込んでいた。その理由は……
「ラルス・フィルマイナ基地、返答ありません……」
極限まで沈み込んだ声で、通信担当の士官が報告する。
「そうか……あれだけの爆発音だ。おそらく艦砲射撃を受けたのだろう。壊滅した、と見なすべきだろうな」
陸軍大佐ランボール・フーリマンは、沈痛な面持ちでそう言った。
ついに、あの巨大な統合基地ラルス・フィルマイナまでもが壊滅してしまった。これでもう、グラ・バルカス帝国に残されたムー大陸の拠点はこのダイジェネラ山要塞しかない。
グラ・バルカス帝国は、5年ほど前に旧レイフォル国を陥落させて以降、ムー大陸における植民地を拡大させ続けてきた。これは、帝国と現地国家群との間に越えられない壁ほどの技術力・軍事力の差があったからである。
だが、前年5月末の第二次バルチスタ沖大海戦が、全てを変えた。敵となったロデニウス連合王国軍はあろうことか、帝国の誇るアンタレス07式艦上戦闘機を超える性能の戦闘機や、グレードアトラスター級戦艦を投入し、帝国海軍を打ち破った。そして勝利の余勢を駆って、ムー大陸への補給拠点となっていたパガンダ島・イルネティア島を攻め落としてしまった。
それ以降、ムー大陸に展開するグラ・バルカス帝国軍は完全に劣勢に陥り、現地国家群の総反撃に敗退に次ぐ敗退を重ねた。そして今や、ここまで追い詰められているのである。
こうした戦況の悪化に加えて、ダイジェネラ山要塞は現在「軽微だが深刻な被害」を受けていた。
いったい何を言っているんだ、と思うかもしれない。軽微だが深刻、と一言で矛盾しているのだから。だが、この要塞が受けた被害を示すのにこれ以上適切な表現はない。
その被害の内容とは……
「ところで、この忌々しい悪臭はまだ収まらんのか!?」
「は、敵への対応の合間を縫って床や壁の表面を削ったり、当時着ていた衣服を全て捨てたりしたのですが、どうにも収まる気配がなく……」
悪臭である。それも、炎天下で腐敗&濃縮した下水を消防用ポンプとホースでぶちまけたが如き、とてつもない規模&酷さの悪臭だ。
2日前、ダイジェネラ山要塞は敵の歩兵による攻撃を受けた。だが、その内容はというと「換気口やトーチカの銃眼に缶詰を投げ込まれる」というものだった。
缶詰には手榴弾がくくりつけられており、投げ込まれた後に爆発したのだが、そんなものでは要塞はびくともしない、せいぜい数人が飛び散った破片で傷付けられ、機銃のごく一部が使えなくなったというくらいだ。
ところが、真の被害はその後に襲ってきた。缶詰から発せられたと思われる悪臭が要塞内全域に充満し、その結果としてグラ・バルカス帝国軍の将兵は要塞にいる限りこの悪臭で呼吸器を
さらに悪いことにこの悪臭、壁や床を少々削ろうが何をしようがなかなか取れない。特に換気口に投げ込まれた缶詰に関しては、2月の寒さも手伝って、掃除にかかろうとした部隊を1分で敗走せしめたものまであった。
そのため、この悪臭は丸2日に渡って将兵を苦しめ続け、戦意をどん底まで落としめ行動パフォーマンスを極限まで悪化させているのである。
こんな状況で戦えるのか、という疑問も
ちなみに、この缶詰の正体はトーパ王国謹製の魚の切り身の塩漬け「ミール・ストレングス」である。この缶詰、塩分濃度が低いために発酵を止めることができず、切り身が缶の中でどんどん腐っていくのである。そして発酵の際に発生するガスが、とんでもない悪臭を放つのだ。
この話を聞いて、地球のとある北欧の国で作られている缶詰を思い浮かべた貴方は、決して間違っていない。
その頃、グラ・バルカス帝国陸軍二等兵のディーエム・ゲルマエストは、要塞の頂上付近に設けられた監視塔で見張りをしていた。
この監視塔勤務は、要塞の外に出る形になるため、本来ならば比較的嫌われる勤務のはずである。しかし、この任務に立候補しようとする兵士が後を断たないという珍しい事態が起きていた。その理由は無論、監視塔にいる間はあの忌々しい悪臭に悩まなくて済むからである。
もちろん危険な任務ではある。というのは、敵が既にこの監視塔の存在を察知しているらしく、監視任務に当たっていた同僚の兵士が2人、頭を撃ち抜かれて戦死したからだ。敵が狙撃兵を配置したらしい。
しかし、狙撃の危険を犯しても外に出ようという兵士が多いのだから、あの悪臭がどれほどのものか想像できるというものである。
そんなディーエムは、東の空に黒いシミのようなものを見つけた。
「何だありゃ?」
空に現れた黒いシミは、徐々に空を覆い尽くしていく。
ディーエムは双眼鏡を手に取り、シミを注視した。
「……動いている?」
微かに上下運動しているように見えるシミ……やがてそれは竜の形を成し、騎士達のうっすらとした輪郭が見える。
その横には、羽ばたかない物が飛んでいた。
「竜騎士と航空機? え……まさかそんな……そんなばかな、ありえねぇ!」
見間違いではないかと思い、もう一度双眼鏡で確認する。それが紛れもない事実だと認識した瞬間、ディーエムは真っ青になった。
「何て数……信じられん数だ!!!」
すぐに大声で報告する。
「敵襲!! 敵襲ぅ!!
ワイバーン及び航空機多数接近、信じられないほどとんでもない数です!!」
慌て切ったディーエムの報告を聞き、上官が監視塔に上がってきた。
「どうしたっ!!」
空を指し示すディーエムの指は、ガタガタ震えていた。その方向を見ると、黒い雲が近づいてきていた。
いや、上官が一瞬雲と思った物は、小刻みに揺れている。そして、聞き覚えのあるブーンという、レシプロエンジンの轟音がだんだん近付いてきている。
「これは……な……何だこの数は! し……信じられん!」
ディーエムからひったくるようにして受け取った双眼鏡でそれを確認し、上官は血色を欠いた顔をそのままに司令部に見たままを報告した。
「ワイバーンと航空機が、とてつもない数を以て近づいてきています!!」
『具体的な数を言わんかっ!そんな曖昧な報告では分からぬわ!』
「も、目測でも3,000はいると思われます!!」
『馬鹿な、航空機はともかくワイバーンの航続距離は短い。航続距離内に、そんな数を運用できる基地があるわけがない!
滑走路だけでもとんでもない数が要るぞ!!この短期間で多数の基地を築くのは不可能なはずだ!』
報告を聞いたランボール大佐以下の司令部も、あまりの数に焦りだす。
ワイバーンは多飯喰らいで、運用には相当のコストがかかる。
さらに、離着陸に長大な滑走路が必要な個体が多く、その整備も必要だ。
そんな数、彼等に準備出来るはずもなく、さらに同時攻撃など出来るはずも無かった。
「いったいどうやって……」
やり方を考える暇も無い。敵が目前に迫っているのは事実である。
ウゥゥゥーーー!!
グラ・バルカス帝国の常識では考えにくいほどのワイバーンの物量が迫ってくる中、要塞には空襲警報のサイレンが鳴り響く。兵士たちが一斉に走り回り、配置について迎撃の態勢を取る。
そんな中、ディーエムが更なる追加報告を挙げてきた。
「敵ワイバーン群後方に、大型の四発機編隊を発見! 中高度程度の飛行高度です…ロデニウス軍の「スーパーフォートレス」と思われます!」
『スーパーフォートレスだと?』
ロデニウス軍が使う超大型爆撃機、「B-29改 スーパーフォートレス」。その恐ろしさは、グ帝将兵にもよく知られていた。「アンタレス」がまともに飛べず、高射砲弾も届かない高空から爆弾の雨を降らせ、瞬く間に辺り一帯を焼き尽くしてしまう恐怖の爆弾魔。
だが、この爆撃機は面制圧型の無差別爆撃しか行わず、要塞のような定点拠点への爆撃には使われて来なかった。その爆撃機が、何故か投入されてきたのである。
(いったい、どういうことだ?)
ランボール以下の要塞司令部の面々が疑問を抱く間にも、戦況は刻々と変化していく。
まず、飛来してきた多数のワイバーンとレシプロ航空機は、対空砲の射程圏外を旋回しながら山を囲むように展開した。
要塞は、とんでもない数のワイバーンと航空機に包囲される。絶え間なく聞こえるレシプロエンジンの轟音と、それに混じって時折聞こえるワイバーンの鳴き声が、終末を予感させ、兵達の恐怖を加速させた。
「くそ、来るなら来い!」
対空砲の照準を覗く兵士が、悪態を吐きながらワイバーンを睨み付ける。その顔は悪鬼のごとくしかめられているが、これは残念ながら闘志のせいなどではなく、缶詰の悪臭のせいである。
そんな折、ディーエムはまたしてもとんでもないものを見てしまった。
「あ……あれはっ!」
敵の大型爆撃機に気を取られかけていたが、南の方からゴゴゴゴ…という奇妙な音が聞こえてきたのだ。
その方角を見ると、そこには信じがたい光景があった。なんと金属製の巨大なリングのようなものが空を飛び、こちらに向かってきていたのである。その巨大なリングが何なのか、知らないディーエムではなかった。
「こちら監視塔! 南から巨大な飛行物体接近! あれは…パル・キマイラとかいう、ミリシアル国の空中戦艦です! 数は1、距離10㎞前後!」
とてつもなく厄介な敵が出てきたものである。しかも、それだけではなかった。
「さらに、パル・キマイラの周囲に小型の機影多数! あれは……間違いない、ロデニウスの"空の魔王"ですっ!!」
なんと、あの"空の魔王"が混じっていたのだ。「アンタレス」よりやや大きい程度の機体に、「ベガ」を遥かに超える量の爆弾と凄まじい威力の機関砲を抱えて突進してくる、恐るべき火力の権化。しかも異常に頑丈で、対空機銃ではなかなか墜ちないという、恐怖の機体である。
「なんてことだ、空の魔王まで出してきやがった!」
「ちきしょう、奴ら本気でこの要塞を潰そうってのか!」
「やれるもんならやってみろ!」
報告を聞いた司令部の面々が口々に叫んだ時、
ズドオォォォォン!!!
轟音と共に、要塞が大揺れに揺れた。
「な、何だ!?」
驚愕の叫びに重ねるようにして、爆発音が響き要塞がまた揺れる。
「何事だ!?」
ランボールが叫んだ時、報告が上がってきた。
『こちら第15トーチカ! 要塞西方の海上にロデニウス軍の艦隊が接近中! 戦艦5隻、空母1隻を基幹とする大艦隊!
先の衝撃は、ロデニウス軍の空母から発射された大砲によるものです!』
「……は?」
全く意味が分からなかった。
さっきの衝撃の大きさから考えて、要塞に命中したのは明らかに戦艦砲レベルの大口径砲。それを空母が撃ってきた、とはどういうことだろうか?
『こちら提督、砲撃を開始せよ』
「了解」
無線機から響いた若い男性の声に応じ、白い弓道着に青い袴という出で立ちの女性…空母艦娘"
「目標、敵要塞」
声は淡々としているようだが、その実彼女は内心の興奮を抑え込んでいる。そのことに気付いているのは、付き従う妖精たちの中でも特に付き合いの長い者だけだ。
「艦首軸線砲、発射」
「はっ! レールガン発射!」
カチリと音を立て、トリガーが引かれる。次の瞬間、
シュイイィィン……ドオオオォォォッ!!
波動砲でも撃ったかのような青白い閃光が煌めいた。と思った時には、ダイジェネラ山から巨大な土煙が噴き上がり、ついで黒煙と炎が沸き出す。
このタウイタウイ泊地に着任している"加賀"の改二形態は、その艤装の艦首部分に凄まじい装備を持たされている。それが、45口径41㎝単装艦首軸線電磁投擲砲。分かりやすく言えば、長門型戦艦の主砲の弾を発射するレールガンだ。ヤマトの波動砲よろしく、艦首部分に固定する形で設置されている。
恐るべきはその発射時初速だ。なんとマッハ10に達するという、とんでもない速力である。そして"にぶんのいち えむぶいじじょう"ということで、この砲から放たれた41㎝砲弾は莫大な運動エネルギー=破滅的と言っても良い凄まじい威力を持つ。
ロデニウス艦隊は、要塞から約10㎞離れた位置から砲撃を開始したのだが、発射されたレールガンの初弾はその距離をたった3秒でひとっとびし、要塞に命中した。
ダイジェネラ山要塞の第13トーチカに詰めていた兵士たちは、不運であった。というのもその場所に、41㎝レールガン弾が当たったからである。目にも止まらぬ高速で飛び込んだ砲弾の前には、土とコンクリートで補強された壁と三重の防火扉などブリキ板以下でしかなかった。容易に壁をぶち抜いた砲弾と、砲弾から放たれた衝撃波によって、彼らは一瞬で身体を切り刻まれ、直後に誘爆した砲弾や装薬によって消し飛んだ。その隣の第14トーチカも、ほぼ同じ運命に見舞われた。
砲撃の瞬間を見てしまった第15トーチカは、砲台長を務める軍曹が必死で報告を叫んだ。その傍らで、砲を操る兵士たちは皆、真っ青な顔で破壊されたトーチカの方を見ていた。しかし、それが彼らの運命を決してしまった。彼らが気付いた時には、彼らの運命は毒蛇のごとくに白い煙の線を引いて突っ込んでくる鏃のような物体となって目の前に迫っていたのだった。
レールガン弾が弾着・炸裂し要塞が大きく揺れた時には、ロデニウス艦隊は順次砲撃を開始していた。
「全主砲、斉射! てーっ!!」
"
『
続けて"
『この
さらに、"武蔵"自慢の51㎝砲が轟然と咆哮する。
『さぁ、新しい私の火力、存分に見せてあげるわ。Fire! Fire!』
そして"
『加賀さんにも負けません。主砲、全門斉射!』
最後に、「
このタウイタウイの"赤城"は、改二になった際になんと艦種を「戦艦空母」に変更されている。彼女を戦艦空母たらしめるものが、4基の「45口径35.6㎝三連装KSK砲」だ。ざっくり言えば、"赤城"はショックカノンを持っているのである。この砲の威力は尋常のものではない。
また、"Iowa"の持つトマホーク巡航ミサイルは、敵の砲台トーチカの偽装を見破って正確にこれを破壊できる優れものだ。活用しない手はない。
そこで、強固な防御力を誇る要塞に対して、まず"加賀"のレールガンを撃ち込み、表面の土ごと防御壁をぶち抜いて穴を開ける。次に、"赤城"のKSK砲とトマホーク巡航ミサイルで追加の穴を開ける、もしくは開けた穴を広げる。最後に、そこにありったけの「四三式弾」を戦艦や重巡洋艦の主砲で叩き込み、焼き尽くす。そういう容赦のない戦法を、堺は選択したのであった。
というわけで、ロデニウス艦隊の戦艦や巡洋艦の艦娘たちは、主砲に装填した「四三式弾」をつるべ撃ちしている。
「航空部隊、突撃を開始しました! 続いて、ミリシアルの空中戦艦も参戦の模様!」
主砲発射の狂奏に紛れて、通信長妖精が報告する。
「よし…特にB-29改が持ってる新型爆弾と、第12戦略航空爆撃団が持ってきたロケット兵器は期待が高い。上手く穴を開けてくれることを期待しよう」
堺は1つ頷いた。
レイフォリアを解放しグラ・バルカス帝国勢力をムー大陸から消滅させるために世界連合軍が編み出した作戦…
まず、要塞を四方から包囲する形を見せる。要塞から見て西側はロデニウス海軍第13艦隊が、南側はパル・キマイラが、東側はロデニウス陸軍第12戦略航空爆撃団を中心とする航空部隊が、北側は第二文明圏の竜騎士団とロデニウス第13艦隊の母艦航空隊が固め、要塞の注意を四方に引き付ける。
次に、ロデニウス第13艦隊の砲撃を合図に、航空部隊が四方から一斉に攻撃を開始。導力火炎弾、魔導砲、爆弾、ロケット弾、弾道ロケット等あらゆる方法を用いてとにかく要塞を叩く。
第3段階として、「B-29改」から新型の超大型爆弾「グランドスラム改」を投下し、さらにパル・キマイラ搭載の超大型魔導爆弾「ジビル」を要塞に叩き付ける。これだけやれば、要塞を破壊できるのではないかと見積もられていた。
もしこれで足りなければ、第4段階としてエモール王国が援軍に寄越した戦力を投入する。それでも足りない場合は……堺はこの存在を他国には黙っていたが、最後の手段を使うつもりだ。
一斉に突撃していく航空部隊に向けて、要塞から対空砲火が放たれる。まさに空に向かって逆さ向きに降る光の雨、もしくはシャワーだ。
そのシャワーに捕まったワイバーンが力なく墜落し、航空機が黒煙の尾を引いて墜ちていく。対空砲火の中に白い落下傘が花開く時もある。犠牲は次々と現れていった。
しかし、いくら要塞側が奮戦しようとも、そもそも数が違いすぎる。仲間の犠牲を乗り越え、航空部隊は要塞に殺到した。
ワイバーンたちが一斉に
ワイバーンや航空機より先に、神聖ミリシアル帝国の空中戦艦「パル・キマイラ」の魔導砲が火を噴いた。パル・キマイラやその周囲にいるロデニウス軍の航空機「A-10B改 サンダーボルトⅡ」を狙っていた対空砲めがけ、15㎝三連装魔導砲の弾が降り注ぐ。
敵戦艦が発砲するのを見て、要塞の対空砲座は急いで防火扉を閉ざしにかかったのだが、もう遅かった。
ミリシアルが運用するパル・キマイラには、魔導電磁レーダーの他に魔力探知レーダーが装備されており、これによって生体魔力反応を探知できる。本来ヒトそのものが持つ生体魔力は弱いのだが、対空砲ともなると砲手や装填手など複数人数が集まって運用されるため、そういった兵員たちを「魔力集団」として探知できた。そこに向かって魔導砲を撃ち込んだのである。しかもパル・キマイラ側からは撃ち下ろす形になるため、命中率が高い。
流れ星のごとく降り注ぐ青い砲弾が防火扉を突き破ってトーチカ内に飛び込み、兵員を殺傷し砲座を破壊する。ほとんど為す術なく、ダイジェネラ山要塞南側の対空砲火は次々と沈黙を強いられていった。
「ミリシアルの奴らに負けるな、俺たちも行くぞ!」
そして妖精ルーデル率いるサンダーボルト隊も、黙ってはいない。
このサンダーボルトⅡは、後方を飛ぶロデニウス軍初のAWACSたる「KJ-1改」の支援を受けており、大急ぎで試作されたデータリンクシステムによって高い連携能力を有しているのだ。その状態で、あのべらぼうな対地火力を叩き込めるのである。
「喰らえぇぇぇ!!」
ヴオオオオオオ!!
妖精ルーデルの雄叫びに負けじと、機首の30㎜七連装機関砲が唸りを上げる。
防火扉はその名前の通り、炎を防ぐためのものである。残念ながら装甲の効果はないに等しいため、砲弾はおろか高い貫徹力を持つ機関砲弾でも防げない。三重の防火扉はトタン板同然にぶち抜かれ、ハチの巣にされた砲座から対空砲が力無く崩れ落ちる。兵員たちはというと、どこにも姿が見えなかった。その代わりに兵員たちがいた場所には大量の赤い液体がぶちまけられ、一瞬で吐き気を催すほどきつい鉄の臭いが立ち込めている。
艦隊やパル・キマイラに続けとばかり、突っ込んできたワイバーンたちが一斉に導力火炎弾を放ち、航空機が爆弾を投下する。レイフォリアの市民たちにしてみれば、まるで火の雨が降り注いでいるかのように見えた。
ドンッ!
ガアアァァァン!!
鈍い衝突音や爆発音と共に、要塞が火に包まれる。
ロデニウス軍の航空機が抱えてきたのは、通常型の500㎏爆弾だ。それを使い、まずは要塞に少しでも穴を開けようというわけである。だが、山に対して500㎏爆弾では、堺の懸念通り威力不足だった。まあ、この程度は堺も想定済みである。
「報告します。重爆部隊、戦場上空に到着! 爆撃を開始しました!」
通信長妖精からの報告に、堺は1つ頷いた。
「さて、第三段階突入だ。風穴開けてやるから覚悟しとけよ…!」
堺がそう呟いた頃、ダイジェネラ山要塞は大揺れに揺れていた。
相変わらずロデニウス艦隊は艦砲射撃を繰り返しており、特に"赤城"と"加賀"が放つ砲撃は凄まじい威力を誇っている。これによって要塞西側のトーチカに大きな被害が出ていた。
また、南側ではミリシアルの空中戦艦が大暴れしており、高所から撃ち下ろされる魔導砲弾は次々と防火扉を貫通して砲を破壊している。
東側や北側の被害はまだマシであるが、それでも山の斜面はひどいことになっていた。雨のごとく着弾する導力火炎弾により、次々と木が焼けて森林火災が起きている。粘性の炎の中で時折閃光が走り、500㎏爆弾炸裂の爆炎が踊る。
その時、それまでとは比べ物にならないほど強烈な爆発が、要塞の東側斜面を中心に複数発生した。土と砂と黒煙の混じったどす黒い火柱が上がり、それに混じって焼けた木の黒い欠片や板のようなものが飛び上がる。もちろん、この板のようなものというのは、吹き飛ばされた防火扉だ。
どうしたのかというと、要塞の東方300㎞ほどの位置に展開したロデニウス陸軍第12戦略航空爆撃団が、「要塞に大穴を開けられるくらい強力な兵器」としてRV-2ロケットをありったけ撃ちまくっているのだ。この弾道ロケットは、成層圏から超音速で降ってくることもあって、着弾すると地面を直径10メートル前後、深さ4メートルにもわたって削ってしまうほどの大威力を誇っている。なので、要塞に対して有効な兵器たり得ると考えられ、動員されたのだ。
これだけではなく、第12戦略航空爆撃団はRV-1ロケットも発射しまくっている。少しでも足しにしようという発想であった。
そんな要塞の上空に接近してきた「B-29改 スーパーフォートレス」が、爆弾槽を開き爆弾を投下する。その爆弾だが……既に要塞内に引っ込んでいたディーエムとその上官をはじめ、当初は誰も気付いていなかったのだが、たった1発しか投下されていない。しかし、その1発が異様に大きかった。
ヒュウウウウ…という甲高い爆弾の落下音が大きくなってくる。その音を気にしてトーチカの銃眼から外を見た兵士は、降ってくる爆弾を見て目を見開いた。
「あれ……?」
何か大きくね、と言おうとした時には遅かった。降ってきた爆弾はあっさりトーチカの天蓋をぶち抜いて炸裂、彼は疑問を解決する暇も与えられずに粉微塵に吹き飛ばされてしまった。
「B-29改 スーパーフォートレス」が投下したのは、ロデニウス軍の試作型地中貫通爆弾「グランドスラム改」である。重量8トンにも達する、凄まじい威力を持つ爆弾だ。弾頭のトーペックス炸薬の量を減らした代わりに高度測定のための電気式レーダーと魔力探知式のパッシブレーダーを装備しており、探知した目標に向かって突っ込んでいくため、威力低下と引き換えに命中率を向上させてある。なお、単純に魔力の高いところに対して突っ込んでいくのではなく、なんと"魔力波動の周波数"を特定して突っ込んでいくという特徴を持っているため、大出力魔導エンジンを持つパル・キマイラに向かわずに真っ直ぐ生体魔力反応の多い要塞のトーチカへと向かっていくのである。
投下された「グランドスラム改」は、投下直後は電気式レーダーのみを作動させ、地面へと一直線に向かっていく。高度4,000メートルに達したところで魔力探知レーダーを起動、シーカーに捉えた目標に向けて突っ込んでいく。そして照準過たず防火扉を突き破ってトーチカに着弾、その威力を解放した。
爆弾が着弾する度、要塞は大きく揺れた。活動を活発化させた活火山を思わせる地震めいた揺れが、グラ・バルカス帝国陸軍の将兵を襲った。
「何だ!? 何が起きている!?」
ランボールのその疑問を、マグニチュード6の大地震もかくやという大揺れとそれに続く爆発音がぶった切った。「加賀」の発射した41㎝レールキャノン弾が直撃し、要塞に風穴を開けたのだ。
『こちら第17トーチカ! 敵艦隊の艦砲射撃極めて熾烈! うち、敵空母の1隻がとんでもない威力の艦首軸線砲を撃っていますっ!』
『第112対空陣地から緊急報告! 敵「スーパーフォートレス」、超大型爆弾を複数投下! 落下してきた爆弾がトーチカを叩き潰しています!』
『要塞東側の斜面に大規模な森林火災が発生中! 並びに、ロデニウス軍の"空の魔王"によって対空陣地が次々と沈黙!』
『こちら第44対空陣地! ミリシアル国の空中戦艦が砲撃を中止して要塞直上に移動! あっ、何かを投下した! 繰り返す、何かを投下(爆発音と共に中断)』
あっちからもこっちからも、絶望的な報告しか上がってこない。
「怯むなっ! この要塞は難攻不落だ!
各員は要塞の防御力を信じて戦え!」
そう指示を飛ばすランボールの顔は汗にまみれ、表情には隠しようもない焦燥感が滲んでいる。
(くそ、これは想定外だった…まさか要塞に穴を開けられるほどの超大型爆弾に艦砲射撃とは…! まあ、換気はできるかもしれんが…)
グラ・バルカス帝国が保有する航空機用爆弾は、どれだけ大きくても800㎏程度である。その爆弾を以てしても、ダイジェネラ山要塞の防御は破れないとして設計されていたのだ。
ところが、敵機が投下した爆弾は、その防御を一撃で打ち砕いた。しかも、着弾の度に地震のような揺れが発生しているというではないか。
それにもましてランボールが驚いたのは、敵艦の艦砲射撃だった。要塞の防御をぶち抜くだけでも驚きなのに、なんとその砲撃は空母から放たれたというではないか。いったい何をどうしたらそんな高威力の大砲を空母に搭載できるのか、訳が分からない。
(我々は…敵に回してはいけない相手を敵に回してしまったのか?)
着弾の衝撃に揺れる要塞の中で、ランボールはそう自問した。
「やれやれ、やっぱムズいか」
戦艦「長門」CICにてLSD(Large Screen Display)に表示された敵要塞の画像を眺めつつ、堺はそう呟いた。
味方の攻撃は次々と着弾し、特に「アイオワ」から発射されたトマホーク巡航ミサイルや、「グランドスラム改」、「RV-2ロケット」、さらにはミリシアルの空中戦艦パル・キマイラが投下した超大型爆弾等によって、要塞のトーチカは壊滅的打撃を被っていた。
とはいえ、堺はこれでも足りないと思っていた。何せ相手は山である、ちょっとやそっとの火薬では完全破壊は到底できまい。
その証拠に、敵要塞に再攻撃をかけるべく接近したワイバーン隊に向けて、要塞から対空砲火が噴き上がっている。まだ要塞の機能が生きている証だ。
「しょうがねぇ、アレ使う準備しとくか」
そう呟き、堺は無線機を手に取った。
「こちら堺。錠前が固すぎてピッキングじゃ足りん気がする。マスターキーを
もちろんだが、"マスターキー"というのは…
『こちらヤマト、マスターキー
回路開け、非常弁全閉鎖! 強制注入機作動! 発射弁開け……波動砲用意!』
…波動砲のことである。
もうそれ"開ける"どころか"叩き壊す"じゃねえか、というツッコミは甘んじてお受けします。
「ただ、そろそろエモール王国からの増援が来る。波動砲を使うかどうかは、増援の仕事ぶりを見てから決定するから、準備だけ頼む」
『はい!』
一方、各国連合ワイバーン隊を率いるニグラート連合第3飛龍隊隊長ダール・ニルバスターは、かなり焦っていた。
(くそ、思ったより燃えない! 要塞もまだ生きている…このままでは倒しきれんぞ!)
もう幾多もの攻撃を叩き込んでいるのだが、まだ要塞からの攻撃が弱くなったような様子がない。相変わらず対空砲を激しく放っており、各国のワイバーンやロデニウス軍の航空機の被害が増え続けているのだ。
また1機、ロデニウス軍の航空機が炎に包まれ、黒煙の尾を引いて墜ちていく。さらにワイバーンが1騎、爆炎に包まれた。
「あぁっ! デルカー!!」
やられたのはダールの後輩だったのだ。新入りに近い若い竜騎士で、若さ故に少し無茶をする傾向があったが、明るくハキハキした性格だった。少し前に子供が生まれたと喜んでいたのに…。
「くそっ! どうすりゃ良いんだ…!」
一旦後輩のことを頭から追い出し、ダールは必死に考える。
要塞は一面炎に包まれているが、どうにもまだ火力が足りない。ロデニウス軍の艦隊、航空隊、そしてミリシアルの空中戦艦までもが攻撃を行っているが、それでもまだ火力不足の気がする。
グラ・バルカス帝国の大部隊をここで消滅させなければ、レイフォリアを解放することはできない。この作戦に世界の…各国の運命がかかっているといっても過言でもなかった。
「だめだ…これではっ!」
その時突然、魔信から声が聞こえた。
『ふむ、貴様らにしてはここまで良くやったな、後は我が敵を消滅させてしんぜよう。
お前たちは下がれ』
脳に直接響くような声が魔信から聞こえる。
次の瞬間、ダールがワイバーンに命令を出す前に、震え上がったワイバーンが一目散に逃げ出す。
「お……おい!!!」
ダールの指示を全く受け付けず、ワイバーンは全力で羽ばたきながら急降下する。
制御が全く出来ない。死しても進むほどに訓練されたワイバーンが、本能的に逃げているのだ。いったい、何が起きたというのか。
その時、東の方角から羽ばたきの音が聞こえてきた。それも、ワイバーンの羽音などより遥かに重々しい音だ。
ダールがそちらを見ると、ワイバーンよりも遙かに大きい……頭から尻尾までの長さが1,000メートルにもなろうかと思われる巨大な龍が羽ばたいていた。その姿は黒く、目は鋭い輝きを発する。
その巨大な龍を鷹と例えるならば、ワイバーンは蚊にしか見えない。それほどの大きさの差があった。
「あ……あれはっ!! 馬鹿な! もしかして極みの雷炎龍か!?
そんな……三龍の一人が出てきたというのかっ!!」
魔信の鳴る音がし、またあの声が響く。
『我は誇り高き竜人族、エモール三龍が一人、イヴァンである。竜王ワグドラーンの御心により、戦場に遣わされた。
お前たちは良く戦った。そして運が良い。
インフィドラグーンの力の片鱗をその目に焼き付けろ』
その場にいた全ての竜騎士は驚愕し、極みの雷炎龍の戦いが見られることに感謝した。
この世界に伝わる神話には、かつて龍神たちの治める国「インフィドラグーン」があったと記されている。そのインフィドラグーンは多数の龍を使役しており、あの古の魔法帝国…ラヴァーナル帝国と対立していた。そして古の魔法帝国との激しい戦争、龍魔大戦を戦ったのである。
かつての龍神の軍は、大量の極みの雷炎龍を使役したと伝えられている。インフィドラグーンは高い技術を持っていたものの、魔帝と龍神の戦いは、主に魔法技術対圧倒的なる龍の身体能力の戦いだったとも伝えられている。
最終的には魔帝のコア魔法によってインフィドラグーンの都市が消滅し、インフィドラグーンは敗れ、国民だった竜人族は各地に散った。その竜人族が再び集まって出来た国、列強エモール王国。
エモールでは極希に古龍を操る超天才が生まれる。その中でも特に能力の特化した者が、亜神龍である「極みの雷炎龍」を操ることができる。
列強エモールには、亜神龍を操れる竜人が3人いた。彼らは「三龍」と呼ばれ、その圧倒的なる力故に本土防衛任務以外、国外で戦う事を禁止されていた。
しかし、エモールの竜王ワグドラーンの指示により、三龍の内の一人が戦場に現れたのだった。
まるで海が割れるかのように、イヴァンの前にいたワイバーン達が割れる。
多くの竜騎士達はワイバーンが操作不能状態に陥っており、極みの雷炎龍から逃げるように飛んでいた。ついでに、パル・キマイラも砲爆撃を中止して退避し始めている。
「何だありゃ……神話で読んだ、神龍とか亜神龍っていう連中の類いか? ミラ何とかより強力そうじゃねえか。
提督より総員、攻撃中止! 撃ち方止め! 航空隊は全機退避せよ!」
無線で堺の指示が飛び、生き残っていた母艦航空隊の「流星」や戦闘機が反転して撤退を開始する。陸軍の「B-29改」は、投弾を終えて一足先に帰投してしまっていた。
ところで、堺はいったい何の名前を出そうとしたのだろうか。黒い龍で「ミラ」……分かる方には分かるでしょう。
「フフフ……あれがグラ・バルカス帝国の要塞か……小さきものよ。
科学だったか、所詮人間のお遊びの領域を出ることはできない。
下等生物め……龍魔大戦の時に出現した我らの真の力を思い知るが良い」
イヴァンは、前方の要塞を睨み付ける。
「エモールを見くびったお前たちの罪、死をもって償え」
巨大な龍は空中に静止し、口を大きく開ける。
光弾が口の前に出現し、あやしく太陽のように光り輝いて雷が弾を包む。魔力によって雷を操る雷炎龍の力が、凝縮されているのだ。何億ボルトにも達する電力でできた弾は、内部の空気流を活発化させる。
強大な粘性発熱が起こり、分子は原子に分解、そして原子から電子が飛び出してプラズマ化する。それを強大な電磁力でコア部分に固定し、恐ろしいほどのエネルギーを秘めた球ができあがった。
超高熱の巨大な光弾。雷と魔力によって閉じ込められた空気はさらに超圧縮された。
「喰らうが良い……雷神龍のブレスを!」
グラ・バルカス帝国ダイジェネラ山要塞総司令部は、「とてつもなく巨大な竜が接近中」という情報を聞いて蜂の巣をつついたような騒ぎになっていた。
「大きい! 大きすぎます!
全長が1,000メートルはあると思われます!」
「対空砲は何をしている!?」
「対空砲を使用するには防火扉を開ける必要があります! ご決断を!!」
外は広範囲にわたって森林火災が起きており、巨大竜の接近と共に迎撃していた対空砲は次々と防火扉を閉鎖して格納している。
三重の防火扉を開けば攻撃は可能だが、防火扉を開くと、要塞内の大量の酸素を失い、最悪森林火災によって発生した一酸化炭素が要塞に入ってくる可能性すらある。猛毒である一酸化炭素が入ってくることだけは避けたい。
しかし、あれほどの大きさの龍が仮に山に降りて暴れると、防火扉を破壊してしまう可能性もあった。
だが…既に要塞は、ロデニウス軍の攻撃で穴を開けられている。ならば、ここは……
「付近は火に包まれているが、ロデニウス軍機の爆弾で穴を開けられている以上、今さら防火扉を閉めたところで意味はない。
各砲台は、各個にあの巨大龍を攻撃せよ!」
ランボールたち司令部の面々は決断する。
グオォォォォォオッォオォォ!!!
その判断を嘲笑うかのように、エモールの龍が大きな咆哮をあげる。街全体が震えたほどの音量だった。
レイフォリアの市民達は町中に響き渡るその声にパニックに陥った。家の窓を閉める者、巨大な龍を見上げて震える者。そして、その戦いを目に焼き付けようと、恐怖を押し殺して目を見開く者。
レイフォリアの民達は望む、望まないに関わらず、歴史に残るであろう戦いを体験する。
キイィィィィィィン…!
光弾のエネルギーは付近の空気を振るわせ、甲高い音が鳴り響く。
それに対して、命令を受けたダイジェネラ山要塞の各トーチカは、さっき閉めたばかりの防火扉を慌てて開こうとしていた。だが、既に2枚以上の扉を閉めていたところも多く、すぐには攻撃態勢に入れない。
一触即発の状況の中、巨大な龍はついに光弾を発射した。雷を纏った光弾は、その大きさに見合わぬ高速で飛び、一瞬で山にぶつかった。
ガアァァァン!!
魔法によるエネルギーが解放され、雷が山を包んだ。まさに雷の嵐である。
解放された高温高圧のプラズマは渦を巻きながら上へと向かう。
ゴォォォォォォガアァァァァァン!
雷と、猛烈な炎の竜巻が発生した。
山を包み込むほどの火炎竜巻が発生し、火災によって岩山と化しつつあった山の森は一瞬で消失した。そしてあまりのエネルギー量を前に、岩石は固体を保っていられずに表層部が液体化した。
「ああっ!!」
様子を見ていたレイフォリア住民の誰かが悲鳴を上げる。
山は煙に覆われて見えなくなっていたが、しばらくして煙が晴れてくると徐々に山の姿が明らかになった。
表面が溶岩となった山だったものが姿を現す。
「な……なんと……」
「うおぉぉ…魔法でこんなことができるのか…!」
絶句するレイフォリアの住民たち。
ダイジェネラ山要塞が誇る三重の防火扉は、そもそも扉の周りの岩が溶けたため、全く意味を成さなかった。
要塞内部の空気は一瞬で外部に排出され、急激な気圧の変化をもたらす。中にいた人間はこの圧力変動に耐えられず、肺がつぶれた。だが、ここで気を失った者はまだ幸運だっただろう。
流れてくる液体岩石……気を失わなかった者達は、激痛に苛まれる自身の身体が溶岩に溶けて無くなっていくのを見ながら死ぬことになったのだから。
ダイジェネラ要塞にいたグラ・バルカス帝国の将兵は、その大多数が苦しみながら死んでいった。やがて、山自体がその形を保っていられなくなり、轟音と煙を上げて崩壊していく。
要塞深部の司令部にあって指揮を執っていたランボール他の面々も、崩れた山の下敷きとなり溶岩の中で生きたまま火刑に処されたのだった。
「エモールにこんな力があったとはな…」
戦艦「長門」CICにて、食い入るようにLSDの映像を見詰めながら、堺はひとりごちた。
「ああ。古の魔法帝国とやらと戦うにあたり、強力な仲間として一定の期待は持てるな」
"長門"がコメントしたが、その口調にはどこか棘が混じっていた。それに気付かぬ堺ではない。
「あの国プライド高いからなァ……扱いを間違えるとヤバい。とりあえず陛下の名で謝意込みの祝電を申し上げるよう、外務省に注文付けておくか。俺からの意見具申なら、そうそう無視もできんだろうて」
味方は1人でも多い方が良い。そう考えた堺の発言であった。
こういう風に自分から意見具申なんざするから余計な外交事に巻き込まれるんじゃねーのか、というツッコミは無しである。
「ともあれ、マスターキーは使わずに済んだな。
こちら堺。そっちでも捉えてると思うが、エモールの龍が要塞を落とした。マスターキーは要らなくなっちまったよ」
『こちらヤマト、映像記録をちゃんと残していますよ。波動砲発射止め、発射フェイズ解除!』
かくして、ムー大陸におけるグラ・バルカス帝国最後の拠点だったダイジェネラ山要塞は陥落。そして、ムー大陸からグラ・バルカス帝国の勢力圏が排除されたのだった。
世界連合軍がグラ・バルカス帝国をムー大陸から叩き出したとういニュースは世界を駆け回り、多くの人々に希望を与えることとなる。
というわけで、ついに「解放者たち作戦」も「バグラチオ作戦」も終了。ムー大陸のグラ・バルカス帝国軍は、司令部を失って組織的な抵抗が不可能となりました。あとは掃討戦になるだけでしょう。
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次回予告。
グラ・バルカス帝国はムー大陸における拠点を全て失い、同時に連合軍の総反撃「バグラチオ作戦」も目標を達成して終了となった。戦いの最前線となったレイフォリア、それよりやや後方のムー国、そしてそこから遠く離れたロデニウス連合王国や神聖ミリシアル帝国、グラ・バルカス帝国本土。様々な地で、様々なイベントが起きていた…
次回「解放の後にーー戦場と銃後のあれこれ」