鎮守府が、異世界に召喚されました。これより、部隊を展開させます。   作:Red October

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予告通り、今回から少しの間だけホラー要素強めになりますよ。



213. 冬の怪談! オタハイト軍港の旧ドックの闇

 中央暦1644年2月12日、列強ムー国首都オタハイト ムー統括海軍本部。

 堺は再び、このオタハイトの地を訪れていた。理由は、ムー統括海軍本部長エルネスト・キングス大将との打ち合わせである。未だ相当な数の艦艇を有しているグラ・バルカス帝国海軍が万が一にも襲来した時のことを想定し、ロデニウス海軍第13艦隊とムー統括海軍艦隊の連携による防衛体制の見直しを行っていたのだ。

 

「おや、マイラス殿…どうしたんですか、青い顔して」

 

 打ち合わせが終わった時にはもう昼になっており、ここで昼食にしようと食堂に向かっていた堺は、たまたまマイラスを見つけた。が、その彼は何故か、死人のような青白い顔をしていた。

 

「ああ堺殿」

 

 声にも覇気がない。これは何かあったなと、堺は思った。

 

「ちょうど良かった、1つ愚痴でも聞いていただきたいんですが」

「私で良ければ。どうされました?」

「ここでは何です、場所を変えましょう」

 

 そして案内された、海軍本部に設けられた食堂兼カフェテリアにて。

 

「で、話って何でしょう?」

 

 紅茶で喉を潤した堺に、マイラスはコーヒーカップを持ったまま「さて、何からお話したものか…」と少し迷うような様子を見せた。しばしの後に意を決したらしく、堺に問いかける。

 

「まずは1つ質問をしたいです。堺殿、あなたは幽霊を信じますか?」

「え?」

 

 技術士官の口から出てくるとは想像できなかった言葉に、堺は一瞬返答に詰まった。

 

(幽霊、だと? マイラス殿にしちゃ妙な質問持ってきたな…? どうしたんだ?)

 

 だが、ここで質問の意図を考えても仕方ないと判断し、とりあえず質問に答えることにする。

 

「……非科学的などと断じるのは簡単であるが、私としては幽霊の存在を信じる。それが、私の答えです」

「え、堺殿、幽霊を信じるのですか!?」

「はい」

 

 驚いた様子のマイラスに、堺は即答した。

 堺が歴史好きだというのはさんざん語っているが、歴史書の中にはしばしば言い伝えとか伝説というものが出てくる。有名なものでいえば、「日光東照宮のどこかにあるとされる徳川の埋蔵金」のような冒険心をくすぐられるものから、「お菊井戸」や「バミューダ・トライアングル」といったホラーものまで色々だ。そして堺は、それらの伝説をまずは信じてかかることにしている。

 

『ギリシャ神話のトロイ戦争だって、最初はお伽噺だと思われていたが、調査の結果トロイ遺跡が見つかったじゃないか。

火の無い所に煙は立たぬ、事実無くして伝説無し。言い伝えがあるからには、必ず何かがあったはずである。もしなかったとしても、では何故そんなデマを流したかを探ることで、新しい発見に繋がるだろう』

 

 それが堺の考え方なのである。

 

「幽霊の噂も、そこで何かがあったからこそ発生するものでしょう。ならば何があったかを突き止めるのが、歴史探求者のやり方です」

 

 マイラスにそう話した上で、堺は逆に質問を投げた。

 

「で、マイラス殿がこんな話をしてきたということは、何かあるんですね? その話、詳しく」

「わ、分かりました」

 

 マイラスも観念した様子で話し始めた。

 

「実はですね、このオタハイトの軍港には、幽霊が出ると言われる一角があるんです。私はその一角に行ったことはありませんが、同期や後輩の中には、件の場所に行って奇妙な体験をしたという者が何人かいるんです。明日、どうしてもその一角まで行かないといけなくて……」

 

 前話にてマイラスが落胆した原因は、この「幽霊が出る」区画を点検しろという電話があったためである。

 げんなりした様子のマイラスとは対照的に、堺はかなり興味を引かれている。

 

「その一角とは、どんな所なのですか?」

「簡単に言えば、昔使われていた古いドックです。後輩たちの話では、誰もいないのに音がしたり、うめき声のようなものが聞こえるとか。また、そこには1隻の船が置いてあり、それが幽霊船なんだとか…」

(キタ━(゚∀゚)━!!!)

 

 完全に堺好みの話であった。

 

(おそらく音とかうめき声ってのは、いわゆるラップ音だろうな。ラップ音は幽霊が立てるものともっぱら言われている。何かありそうだな。

そして幽霊船かー。地球じゃメアリー・セレスト号をはじめ有名な奴がいくつかあるな。乗員全員が忽然と姿を消した、もしくは死亡した、って奴だ。

そうじゃなくても、船ってのは幽霊騒動やら黒い噂が多い。ドイツの戦艦シャルンホルストやUB-65潜水艦、我が日本の初代矢矧に伊33……数えればキリがない。今回はどんな話が出てくるかね?)

「私の見解ですが、船ってのは幽霊が出やすいんですよ」

「そうなんですか?」

「ええ、幽霊が出る場所には幾つか共通項があります。分かりやすいのは人死があった場所、もしくは死んだ人が眠っている・かつて死体があった場所ですね。その他にも人が多く出入りしていた、あるいは"夜の営み"が行われていた場所、暗い場所、トンネルを含む地下室、水気がある場所、人間の感情…特に負の感情が発生しやすい場所。この辺りは幽霊が出やすいです。

船はどうでしょうか? かなりの条件を満たしていると思いませんか?」

「確かに。乗組員が多いから人が集まっているし、海に出るし風呂もあるから水気が多い。それに軍艦ともなれば、敵の攻撃で戦死者が出る…」

「それに軍艦って、ものによっては"しごき"などと称する鉄拳制裁が多いですし、何より娯楽がありませんから、鬱屈とした感情がたまりやすいでしょう。そう考えれば…」

「幽霊が出てもおかしくない、ですか……」

 

 納得したようにマイラスが頷いた。

 

「そうです。そちらの幽霊船とは、どんな代物でしょう?」

「噂では古い時代の軍艦らしいです。私もそれくらいしか知りません」

「ふむ……」

(昔の奴か。物によっては、付喪神(つくもがみ)、的なのもあるかな?)

 

 ますます興味をそそられる堺であった。

 

「マイラス殿は確か情報分析課の所属でしょう。資料室に何か情報ソースないですか? 可能なら私も見てみたいです」

「分かりました、では昼食後に資料室に戻りましょう。探してみます」

「お願いします」

 

 それから数時間ほどの間、仕事そっちのけで資料探索に没頭するマイラスと、興味深そうに資料をめくる堺の姿が見られた。さらに、堺は何人かのムー軍人と話をして過ごしていた。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 翌日、2月13日。なお、本来の地球の暦で言えば金曜日にあたる日である。

 

「……ここです……」

 

 極限まで沈み込んだマイラスの声。

 

「おぉう…なかなか雰囲気ありますね」

 

 対する堺の声は、どこか楽しそうだ。

 2人の前にあるのは、ドックを覆っているらしい建物である。だが、壁には一面に錆が浮き、窓ガラスは大概割れ落ちて、建物の周りは割れた舗装の隙間から雑草が伸びている。どう見ても、ほぼ全くと言って良いほど人が来ていない場所である。

 雑草を踏み分け、堺は窓から中を覗き込んだ。中は暗闇に沈んでおり、よく見えない。

 

(ドックというだけあって流石にでかいな。建物は全長にして150メートルくらいか? となると、ドックの全長は最大でも120くらい……戦艦や空母は無理、重巡でもキツいが、軽巡とか駆逐艦、哨戒艇、昔の軍艦だと戦列艦みたいなちっちゃい奴なら入るな)

 

 などと堺が考えている間に、マイラスが鍵を開けていた。

 

「開きましたよ、堺殿。……それでは」

「いや、マイラス殿は入らないんですか?」

「ここではなく、その隣の建物で点検があるので……」

 

 そうは言うが、マイラスの声は少し震えており、耳の辺りまで血色が悪くなっている。その顔にはどこをどう読んでも、「オバケ怖い」としか書かれていなかった。

 

(やれやれ……)

「ふーむ、仕事なら仕方ない。その代わりにマイラス殿」

「何です?」

「夕方になっても私が戻ってなかったら…捜索隊率いて探しに来てくださいよ」

「は!?」

「いやだって、当然でしょう? でないとマイラス殿の首が飛びかねませんよ」

「ぐふぅ!? そ、それは確かに…分かりました」

「くれぐれも、お願いしますね?」

「はい」

 

 釘を差しておいてから、堺は「さて」と呟き、建物を見上げた。

 

「どっから行くかねぇ」

 

 資料室で建物の間取りを見たので、ある程度は構造を覚えている。

 マイラスが完全に見えなくなったのを確認し、堺はチョッと舌打ちの音を立てた。次の瞬間、周囲にミニチュアサイズで潜んでいた「情報収集部隊」の妖精たち12人が、完全装備を整えた人間サイズとなって現れる。そのうち1人が、無言で骨伝導タイプの無線機と89式7.7㎜自動小銃、それに40㎜擲弾発射器を手渡してきた。泊地から持参した、堺の愛銃である。

 もちろんだが、こんな危険なところに対策無しで堺が乗り込む訳がない。きっちりと準備してあったのであった。

 堺は無言で頷きながら無線機と銃を受け取ると、まず無線機を装着する。それから擲弾発射器をピカティニー・レールにセットし、自動小銃に弾倉を装着してコッキングレバーを引く。続いて銃身の先端に付けられたタクティカルライトを点灯し、セレクターレバーを「レ」にセットした。最後にカバー付きの銃剣をポケットに入れる。

 何故拳銃ではなくわざわざ自動小銃や擲弾発射器を持ち出したかといえば、こういう廃墟に付き物のロクデナシ(生きている人間)に対処するためである。ロクデナシって? そりゃアレですよ、ギャングとかヤの付く方々とか。

 実際にはここは軍港なので、そんな方々はいないだろうが、下手をすると素行不良の軍人にぶつかる可能性がある。そうなれば鍛練で鍛えられている分、そっち方面の方々より厄介な相手だ。ならば得物は自動小銃に限る。

 今回はマイラスの目を欺く必要があったため、ガチガチの防弾着はない。せいぜい制服の下に、胸部だけ守る簡易防弾ベストを着たくらいだ。弾倉も銃に装填したものを含めて5つしかないし、擲弾も3発のみである。この広大な建物と複雑な軍艦の中を調べるには、少々心許ない装備である。…その代わりに妖精たちはガチガチに完全装備している。89式7.7㎜銃を装備する全員がピカティニー・レールに40㎜擲弾発射器を装着し、12人のうち3人は89式の代わりにレーザー自動追撃銃を持ってきている辺り、本気ぶりが窺える。

 

「これより突入する。

なお、ここから先は電子機器には頼りきれんものと考えろ。頼れるのは己の身体と心のみだ。

もし本当に幽霊がいたならば……恐怖は押し殺せ。恐怖こそ奴らの糧だ」

 

 堺の静かな言葉に、妖精たちは頷きで応える。

 もし霊障があれば、無線機をはじめとする電子機器が不調を来す可能性がある。心霊スポットで新品の懐中電灯が使えなくなったり、ビデオカメラの電源が急に切れるのはド定番の展開であろう。だからこその警告であった。

 また、建物の錆び具合からして、電気設備も相当の期間放置されているはずだ。もし仮に電気をつけた場合、配線の短絡(ショート)等によって電気火災が発生する可能性が高い。そんな代物、恐ろしすぎて使う気にはなれない。

 よって、頼れる光源はタクティカルライトのみである。もしそれが切れたら、暗視ゴーグルを駆使して切り抜け、最悪の場合は銃身下部に装着した40㎜擲弾銃で外壁を吹っ飛ばして脱出するつもりであった。

 

(3…2…1!)

 

 扉のノブに手をかけ、そっと引っ張る。扉が軋んで開くと同時に、無数の視線と銃口が一斉に中に向けられた。少し時間が経過した後、待ち伏せ無しと判断し、男性1人に女性10人以上という奇妙なパーティが突入する。

 突入したところは、事務所のような感じの部屋だった。カウンターには埃が積もり、その奥にある錆びた鉄製の書類棚は、書類の代わりに埃やらゴミやらクモの巣によって占領されている。どこからどう見ても廃墟であり、人の気配は全くない。

 事務所のクリアリングを終え、一行は奥へと進んでいく。見取り図では事務所の奥に細い通路があり、その途中に更衣室と休憩室があって、突き当たりがドックである。

 タクティカルライトの光が舐めるように、汚れ寂れた通路の壁や床、天井を照らし上げる。床には埃がたまっており、足跡1つない。更衣室と休憩室もクリアリングしたが、一切の家具類が撤去されており、両方とも何もないがらんどうの空間と化していた。

 休憩室をクリアリングしたその直後、どこからかパキッという乾いた音が響いた。堺と妖精たちは反射的に銃を構え、周囲を見回す。だが、それ以上は何も起きなかった。

 通路の先、突き当たりには大きなドアがある。そこに近付いた時、またしてもゴンという結構大きな音がした。しかも、音がしたのは大きなドアの中…つまりドックのある方向からである。

 

「どうやら歓迎ムードみたいだな」

「らしいですね」

 

 軽口を言い合う堺と妖精だが、その目は全く笑っていない。

 ドアを最大限の警戒と共に押し開き、一行は天井の高い広い空間へと進入する。

 

「これか……」

 

 呟く堺の視線の先には、明かり取りの高窓から注ぐ日光にうっすら照らされて、噂どおり1隻の船がドックに収まっていた。全長は100メートルあるかないか、という軍艦としてはかなり小さな船体に、3本のマストと2本の煙突が聳えている。

 

(このマスト、明らかに近現代軍艦のそれとは形が違う。帆を張るために使う奴だ。となると、機帆船タイプか……かなり古い軍艦であることは間違いなさそうだな。

そして、艦体に着いたフジツボみたいな貝の痕跡なんかを見る限り、乾舷は低そうだ)

 

 タクティカルライトの光に浮かび上がるその艦体を見て、堺はそう思った。

 すぐには艦へ突入せず、まずは周囲からクリアリングしていく。堺と妖精たちは複数の班に分かれ、ドックの縁周り、クレーンの操作室、設計図置き場、資材倉庫と次々に確認していった。時々物音が聞こえることを除けば全て異常無しである。ついでにドックの底にも降りてみたが、何も見つからなかった。

 

「支城は全て落としたな。そんじゃ、本丸に乗り込みますかね」

 

 ドックの底から見上げると、盤木に乗せられた艦体が巨大な怪物のように黒々と聳えている。そんな不気味な印象とは裏腹に、何とも気楽そうな口調で堺が言う。

 と、その時、妖精の1人が何かに気付いた様子で口を開いた。

 

「あ、そうだ提督。この軍艦なんですが…喫水線上部の舷側外板を内向きに曲げ、艦体上部を絞ってありますね。これはいわゆる、タンブル・ホーム構造という奴です」

「タンブル・ホーム…なーんか聞き覚えあるな。昔のフランス海軍が好んで使ってた構造だっけ」

「左様です」

 

 説明が少々長くなるが、ご勘弁を。

 タンブル・ホーム構造というのは、簡単に言うと喫水線から上の部分を曲線を使って引き絞る構造のことである。元々は帆船において、マストの横索具類を舷側に固定するために好んで使われていた構造だ。鋼鉄艦の時代になってからは、艦体上方及び構造物の幅を狭くすることで重心位置を下げることを狙って、この構造が用いられている。

 タンブル・ホーム構造を全面的に採用した軍艦は、簡単に言うと艦の下腹が大きく膨らんだ独特の形状になる。アイロンみたいな感じ、とでも言えば良いだろうか。

 この構造は主に昔のフランス海軍が好んで採用していた他、フランスの影響を受けたロシア帝国海軍もこの構造で軍艦を作っている。代表的なのは、フランスの戦艦「シャルル・マルテル」や、ロシア帝国の戦艦「ツェサレーヴィチ」、ボロジノ級戦艦等である。

 

「ってことは、この軍艦はフランスやロシアで建造された奴なのか?」

「さて、そこまでは何とも…。ただ、私の知る限り、ムーの軍艦でタンブル・ホーム構造を採用した奴はかなり珍しいですね」

「言われてみればそうだな。俺もマイラス殿からムーの古い軍艦について教えてもらったが、こんな形の奴はいねーな」

 

 昨日、マイラス許可の元で資料を閲覧した堺は、今はもう退役しているムー軍艦の設計図を幾つか見ることができた。だが、その中にタンブル・ホーム構造の艦艇はいなかったのである。

 これ以上ここで悩んでも仕方ないと判断し、一行はいよいよ軍艦への乗り込みを決断する。まずは乗り込める場所を探しながら、軍艦の艦体をざっと照らしてみた。

 艦首は甲板より一段高くなっており、15㎝級らしい艦首砲が1門、その砲身を覗かせている。艦橋と思しき構造物が艦体前部に設けられているが、その背丈はあまり高くなく、測距儀やレーダーの類も見当たらない。その艦橋のすぐ後ろに2本の煙突が立っており、口径15㎝級らしい単装砲が3門、舷側からこちらを睨んでいる。そして、艦橋脇と第二・第三マストの間には舷側に張り出し部が設けられ、そこに単装主砲が1門ずつ配置されていた。

 

(主砲の口径は大雑把に見て20~28㎝くらいか…? ムー側の資料には「戦闘巡洋艦」って書いてあったが、こりゃ確かに巡洋艦だな)

 

 主砲の口径から値踏みする堺。

 作業用と思われるタラップが、ドックの縁から艦後部にかけられたままになっていた。錆びてはいるが、問題なく渡れる。

 が、渡っていると板がギシギシと軋み、さらに唸り声にも思える音が聞こえてくる。

 

(さすが曰く付き……凄まじいな、まだ船に乗ってすらいないのにこれか)

 

 堺としても背筋に寒いものを覚えずにはいられない。

 とりあえず、一行は何の苦もなく甲板へと降り立った。ところが、降り立ったとたん、

 

ぴしぃ!

 

 何かが裂けるような大きな音が聞こえた。それと同時に、低い声でこう言われたような気がした。

 

《カエレ》

 

 つまり「帰れ」である。堺も妖精たちも、反射的に銃を構えて周辺警戒に入った。

 

「やれやれ、ずいぶん歓迎ムードだな。そして帰れと言われて帰るバカいない、と」

 

 堺がそう呟いた時、どこからかカシャカシャと乾いた音が聞こえてきた。その方角にタクティカルライトの光が向けられ、そこに浮き上がったものに堺はぎょっとした。

 骸骨だった。それも5体もいる。虚ろな眼窩に艶の失せた髪や髭、元は服だっただろう変色したボロきれ。それらを纏った骸骨が5体、カシャカシャと足音を立てながらこちらに向かってきたのだ。しかもその手には、先端の尖った黒い細長い物体を持っている。どれも長さは100㎝前後だ。短槍か何かだろうか。

 

「動くな!」

 

 咄嗟に妖精が警告を発した。が、カシャカシャ音は止まらない。それどころかスピードを上げ、むき出しの歯をカチカチと鳴らしながら近付いてくる。

 

「司令っ!」

「てーっ!」

 

 堺に躊躇はなかった。

 号令が下った瞬間、スタタタッ、スタタタッと軽快な3点バーストの射撃音が連続する。妖精たちが構えた89式7.7㎜自動小銃が火を噴いたのだ。

 骸骨のうち2体が、銃弾をまともに喰らった。ビシビシパキパキという乾いた音と共に、白い骨の欠片が空中に飛び散り、頭蓋骨と言わず大腿骨と言わず骨盤と言わずヒビが入り、風穴が開く。2体はあっという間に甲板に倒れ込んだ。

 

「効いてんのか!?」

「知るか、動かなくなるまで撃て!」

「弾がもったいねーな」

「いや待て、頭部に当てると有効らしいぞ!」

「やれやれ、生きた人間と弱点が変わってなくて良かったぜ」

 

 生きた人間と弱点が同じだと分かれば、対処は早い。数秒と経たずに、残り3体の骸骨も一斉射撃を受けて倒れ伏したのであった。

 

「危ねーな……ずいぶんな挨拶じゃねえか」

 

 骸骨たちの全滅を確認し、堺は苦い顔で呟いた。妖精たちがそれに頷く。と、1人の妖精が床に倒れた骸骨に近付き、黒っぽい細長いものを拾い上げた。それは、骸骨が所持していた短槍のようなものである。いや、よく見るとトリガーがある。短槍ではなく、銃剣を付けたライフル銃だった。

 

「これは……ふむ……」

 

 他の妖精にタクティカルライトで照らしてもらい、その妖精はまず、ライフルの先端に取り付けられた銃剣に注目したらしかった。かつては輝いていただろう錆びたスパイク状の銃剣を丹念に観察し、その後でライフルを構える。ボルトを引いたところで、妖精が目を見開いた。

 

「これは…!?」

 

 そしてためらい無く、妖精は銃のボルト部分に手をかけると、ボルトをあっさり取り外した。慣れた手つきで分解していき、部品を1つずつ確認する。

 その次は何をするかと思うと、妖精は周囲に倒れている骸骨をごそごそとまさぐり始める。程なくポーチのようなものを掴んだ。それを開けてひっくり返すと、妖精の手のひらにチリンチリンと軽い金属音を立てて、何か細長い真鍮色の物体が複数落下した。銃弾の実物だ、と堺は察した。

 

「ふむ…間違いなさそうだな」

 

 何かを確信した様子で妖精が呟いた。

 

「どうした、何か分かったのか?」

 

 堺が尋ねると、妖精は1つ頷いた。

 

「司令、重要なことが分かりました。この軍艦ですが…ムーで建造したものじゃないかもしれません」




堺も語っていましたが、船って幽霊が出やすい場所なんですよね。幽霊船の筆頭格メアリー・セレスト号をはじめとして、古今東西の船において幽霊騒動のエピソードには事欠きません。どうやら今回もその類のようです。
そして、まさかのこの軍艦がムー製じゃない説が登場。だとしたら、いったいどこの艦なのでしょうか?

ちなみに…もしかすると、今の時点でもうこの軍艦の正体が分かってしまっている方もいらっしゃるかもしれませんね。ですが、今はまだ口外しないでいただけますと幸いです。


今はまだ軍艦の最上甲板にいるだけですが、次回は艦内に突入することになるでしょう。果たして、堺たち一行の行手に待ち構えるものは何か…。
次回『闇に溶ける怨嗟、重大なる手がかり』
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