鎮守府が、異世界に召喚されました。これより、部隊を展開させます。   作:Red October

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前話の時点で、既に幽霊船の正体について予想を立てている方が何人も…。皆様頑張って予想してくださってありがとうございますw

今回でも、色々とヒントを出していきますよ。



214. 闇に溶ける怨嗟、重大なる手がかり

「司令、重要なことが分かりました。この軍艦ですが…ムーで建造したものじゃないかもしれません」

「なにっ!?」

 

 堺はひどく驚いた。

 確かにムーの昔の軍艦にタンブル・ホーム構造の艦はいなかった。だが、まさかムー製じゃないとは思わなかったのだ。

 

「どういうことだ!?」

「この銃なんですが…地球製の銃です」

「何だと!? 分かるのか?」

「はい。まず、ムーの昔のライフルはレバーアクション式でしたよね。ですが、このライフルはボルトアクション式です。明らかにムー製ライフルではありません。

そして銃剣と装弾方式と、これを見て分かりました」

 

 言いながら、妖精は銃の装填機構がある辺りを差し示した。錆びていて分かりにくいが、「MLE 1866-74」という文字が見える。

 

「こいつはグラース銃です」

「グラース銃?」

 

 堺は首を傾げた。

 

「グラースM80 モデル1874。つまりは西暦1874年採用のフランスの銃ですね」

「1874年っつーと、日本じゃ明治維新の頃じゃねえか。ずいぶん古い銃だな? ボルトアクション式ライフル銃としても大分古い奴だろ」

 

 すぐにピンときている辺り、堺の歴史好きも大概である。

 

「仰る通り、かなり古い銃です」

「そんなサビッサビなのに、なんで特定できたんだ?」

「は、まずこの銃剣です。銃剣の断面が三角形になっているところからみて、もしやと思いました。それでボルトの部分を観察したところ、単発撃ちでコックオン・オープニング方式を採用していること、実包や薬莢が金属製であること、そしてこの文字で、グラース銃でおよそ間違いないと確信した次第であります」

「詳しいなお前」

「いやあ……銃オタクなもので」

 

 ここで堺は気付いた。

 

「確かさっき、タンブル・ホーム構造はフランス軍艦によくある奴だって話があったな。てことは、この艦はもしかしてフランス製なのか?」

「そこはまだ何とも分かりませんな…」

 

 その時、他の妖精が声を上げた。

 

「む? これもグラース銃なのか? なんかちょっと違うぞ?」

 

 何やらものすごく小さなドラム缶のような、黒っぽい物体を付けた銃がある。

 

「ああ、それもグラース銃なんだが、ちょっとした改良型だな。10発入りの重力弾倉をつけた奴だ」

 

 その時、堺はあることに気付いた。骸骨たちが取り落とした錆びたライフル銃、そのうち1つだけ形が少し違うものがある。

 

「なあ、このノコギリ銃剣着けた奴は何だ? グラース銃じゃないっぽいぞ」

「拝見します」

 

 鋸を思わせるギザギザの歯を2列に並べた銃剣を着けたライフルが1つだけ、落ちていたのだ。それを手に取った妖精の顔が、みるみるうちに驚愕に染まる。

 

「これは、プルーフ・マーク!? なんでこいつがグラース銃ばかりの中に…!?」

「何か分かったか?」

「ノコギリ銃剣着けた奴は珍しいんですよ。それに、トリガーガード下部のレバーの形とプルーフ・マークから、どうやらこの銃を特定できました。

マルティニ・ヘンリー銃です。こいつはグラース銃と同期ですが、フランスではなくイギリスの銃ですよ」

「ん? おいちょっと待て?」

 

 堺は猛烈な違和感を抱いた。

 

「西暦1874年頃となると、イギリスとフランスって犬猿の仲だったはずだ。なんでその2国のライフルが()(えつ)(どう)(しゅう)してんだよ?」

 

 そう、本来なら敵同士に当たる国の銃が揃うなど、戦場でもない限りあり得ないのだ。それが何故、こんな小さな船に乗り合わせているのだろうか?

 

「は、そこのところは何とも…。ただ、マルティニ・ヘンリー銃はかなり広く使われた銃でした。我が日本においても、海軍の制式ライフルとして使われていたほどです」

「海軍の? なんで海軍にこんな本格的なライフルが要るんだ、儀杖用でもあるまいに。それか、海軍陸戦隊用か?」

「半分正解であります。実は、明治時代の日本海軍は一時、海兵隊を保有していたのです。その海兵隊で使っていたのが、このマルティニ・ヘンリー銃でした。海兵隊が解散した後、海軍陸戦隊でも本銃が使われています」

「へぇ、大昔には日本にも海兵隊があったのか」

「はい。ただ、この海兵隊は強襲揚陸用の部隊ではなく、どちらかというと移乗攻撃用の部隊です」

「移乗攻撃っつーと、カリブ海の海賊なんかがやってた…」

「まさにそれですね」

「非現実的な戦術じゃね? …と言いたいとこだけど、あの頃って確か戦術思想間違えたヘンな軍艦あったな。大昔の軍船に見られた衝角と、魚雷発射管を併せ持った奴。サンダー・チャイルド号だっけ」

「歴史書だけじゃなくてSF作品も読むんですか司令」

「おいおい、俺を何だと思ってんだ。それなりにはそういう作品も読むぞ」

 

 軍艦の名前を聞いただけで元ネタが分かったそこの貴方は、きっと読書家でしょう。

 

「まあ良いや。で、フランス製の銃の方が多いこととフランス好みの構造ってことは、この艦はフランス製らしいな…。だが、マルティニ・ヘンリー銃はどっから出てきた? こいつがフランス製の軍艦なら、それに乗ってる乗員は当然フランス人であるはずだ。なんでフランス人が、敵国の銃を持ってる?」

 

 この場で見つかった銃は、グラース銃が4丁とマルティニ・ヘンリー銃が1丁である。

 

「それなんですが…」

 

 妖精の1人が手を挙げた。

 

「この艦を回航しようとしていた…という可能性はないでしょうか?」

「なに?」

「フランスで建造したこの船を、どっか別の国に回航しようとしていた、ということです。例えばそう、我が日本とかに」

「あー」

 

 堺はぽんと手を打った。

 

「回航なら、船の引き渡し先の人間が少数乗り込んでいる…か。あり得るな。

そうなると、イギリス本国に運ぶことはないだろうから、当時イギリスと関係のあったどっかの国に回航していた、と見るべきだ。そして…現時点での可能性としては、回航先は日本であった可能性がある。

よし、ただちにガイコツを再度調べ直そう。どうも、ガイコツの中には身長の低い奴がいた気がする。日本人なら基本的に、フランス人より低身長であるはずだ。

あと、もしガイコツに髪の毛や衣服の切れっぱしが残っていたら、それも有効なデータになるだろう。急いでやろう!」

「「「了解!」」」

 

 ところが、いざ戦利品の調査にかかろうとした瞬間、

 

「伏せろっ!」

 

 妖精の1人が鋭い警告を放った。反射的に堺たちは床に伏せた。

 

(何だいったい!?)

 

 何が何だか分からぬ堺とは対照的に、妖精たちが反撃に出る。スタタタという銃声に、ピシュンピシュンという音が混じり、緑色のレーザーが闇を裂いて飛んだ。レーザー自動追撃銃を撃ったのだ、と堺は察した。

 

「敵ガイコツ排除! …待て、誰もいねぇのに砲が動いてる!」

「ちくしょうポルターガイストか!」

「怯むなっグレポン使えっ!」

 

 グレポンとは(てき)(だん)発射器のことである。

 

「発射!」

 

 ズドン、という重い音と共に40㎜擲弾が飛び出し、1秒後に炸裂した。闇の中に炎の花が咲き、破片のようなものが飛び散る。

 

「1基撃破!」

「まだ1つ動いてる!」

「任せろ」

 

 たった2秒。それが、ポルターガイスト現象の沈静化にかかった時間であった。

 

「やれやれ……手荒い歓迎だぜ本当」

 

 呟く堺の周囲では、妖精たちが警戒にあたる中で2人の妖精が破壊した物体を調べている。

 

「これ、アレかな?」

「ああ。そこの無事な奴を見る限りノルデンフェルトっぽいな」

 

 こちらも何かを掴んだらしい。…が、堺にはそれを尋ねる余裕はなかった。というのは、妖精たちが前方や側方を警戒する中でたまたま彼は後方に目を向けていたのだが、タラップに忍び寄る骸骨兵を見てしまったのだ。

 

「あっ!」

 

 気付くのが少し遅かった。堺が自動小銃を構えると同時に、骸骨兵はタラップを外し落としてしまったのだ。これで堺たち一行は、船から降りられなくなってしまった。

 

「くそっ!」

 

 堺の罵声と自動小銃の発砲音が重なった。堺自身がトリガーを引いたのである。

 歯を震わせてカラカラと笑い声のような音を立てた直後、骸骨兵は額に風穴を開けられて倒れた。

 

「やられた…」

「どうします、司令」

「こうなった以上やむを得ん」

 

 苦虫を噛み潰したような顔で堺は方針を告げた。

 

「当初の予定通り、この艦を探検するしかなさそうだな。それにもしかしたら、幽霊に繋がる何かが見つかるかもしれん。ただでさえ地球で建造された説が濃厚な軍艦だ、何もないとは思えんし」

 

 実際、堺はこれでも結構ワクワクしているのである。

 

「で、さっきちらっと出たノルデンフェルトってのは何だ?」

「ああ、それはノルデンフェルト1インチ機砲のことですよ。イギリス製の機関砲ですね。主に水雷艇を迎え撃つためのものです」

「これまたイギリス製かよ」

 

 ますますおかしなことになってきているようだ。

 その時、別の妖精が声を上げた。

 

「ん? おい、これ見てみろ。ガイコツはこれ使ってなかったぞ」

 

 そこには、ムー製の6.5㎜対空機銃が設置してあった。そのすぐそばに、40㎜擲弾を撃ち込まれてバラバラになったノルデンフェルト1インチ四連装機砲がある。

 

「人相手なら対空機銃の方が早いだろうに、なんでわざわざこんな代物(ノルデンフェルト)撃とうとしたんだ?」

 

 確かにその通りである。どう考えても、人相手なら対空機銃で薙ぎ払う方が早い。何故わざわざノルデンフェルト機砲なんぞ使ったのだろうか?

 

「さて、その辺は何とも分かりかねますな」

 

 一方、先に撃ち倒した骸骨兵を調べていた妖精たちも、新たな発見をしていた。

 

「おい、この襟章…!」

「間違いねーな。黒地に細い金帯一筋、桜1個…旧日本海軍少尉の印だ! 身長も低いし、こりゃ日本人っぽいぞ」

「他はだいたいフランス人だろうか? 身長高めだし」

「そうだな。実包を見る限り、持っていた銃はグラース銃ばかりみたいだ」

「なあ、そっちの対空機銃さ…妙に舷側ぎりぎりにあると思わんか?」

「確かに。水雷艇とかの小型艦対策だとしても、危なっかしすぎるぜ」

「コンタクト! またガイコツどもだ!」

 

 わらわらと骸骨兵が押し寄せてくるが、愚直に突撃してくるだけなのが祟って、"情報収集部隊"の冴えた射撃の前にバタバタと倒されていく。

 

「一通り掃討したら、艦内部へ突入する。何があるか分からんが、タラップを外されてしまった以上前に進むしかない。虎口に飛び込むことになるとは覚悟しているが、状況を切り開くのが先だ」

「「「了解!」」」

 

 こういう状況になっても、妖精たちは最精鋭たるの矜持を捨ててはいない。むしろ、ここからでも生還できる自信がある。

 船の左舷後部から乗り込んだ堺たち一行は、向かってくる骸骨兵を迎え撃ちながら艦橋を目指して移動する。骸骨兵の中には15㎝砲をぶっ放そうとする者までいたが、どれも妖精たちの働きによって未遂に終わった。30体近い骸骨兵を撃ち倒し、一行は艦橋へと突入する。

 

「クリアー!」

 

 艦橋内をうろついていた数体の骸骨兵も、瞬く間に全滅した。そして堺たちは、何かこの艦から脱出する手がかりになるようなものはないかと物色し始める。

 そうやって捜索する傍ら、妖精の1人が堺に声をかけた。

 

「そういえば司令。ここに来る前にこの船について何か調べてないんですか?」

 

 当然の質問である。

 

「あー、それか」

 

 堺は頭を掻いた。

 

「そりゃあ、ある程度は調べてから来てるよ」

「内容教えていただけます?」

「全部話すとちと長いけど?」

「構いません」

「分かった。えーと……」

 

 

 それは前日のことだった。

 昼食後に幽霊船について調べようとした堺とマイラスだったが、幽霊船に繋がるヒントが少なく、手詰まりになってしまった。だがマイラスは、簡単には諦めなかった。

 

「よし、ならここで証人を召喚だ!」

「証人?」

「ええ。肝試しとかであのドックに行った後輩とかを召喚しましょう!」

 

 ということで、マイラスはあちこちに電話をかけ始めた。そして何人か捕まえることに成功したらしい。以下ダイジェストで、証人たちの証言を記録する。

 

《ムー統括軍情報通信部情報分析課所属 カーナ・ツーベルク特務准尉の証言》

「幽霊船の噂? ああ…第4区画ですか。私幽霊苦手だから、あそこ行ったこともないんです。ただ、聞いた噂では、あそこは誰もいないのに不気味な音がするとか、人影が見えたとか…。すみません、行ったことないんで分からないこと多いです」

 

《ムー統括海軍造船技官 リアス・アキリーズ技術少佐の証言》

「あー、俺は行ったことあるっすよ。船にも乗り込みました。そりゃもう怖いの何のって……誰もいないはずなのに物音はしょっちゅう聞こえるし、声っぽいのも……え、何て言われたかって? 覚えてる範囲だと『帰れ』とか『◯ね』『沈め』とかですね。1回だけ、女の笑い声が聞こえた気もします。

何というか、雰囲気全体がおどろおどろしいというか…妙に湿気てて空気が生暖かくどんよりしてるし、あれは誰でもブルッちまいますって。あんま思い出したくないっすよ…」

 

《ムー統括海軍戦艦「ラ・コンゴ」艦長 ラッサン・デヴリン大佐の証言》

「第4区画の旧ドック? …ああ、あの幽霊が出るっていう辺りか。すまん、俺は行ったこともないし、幽霊についちゃ興味もないから特には知らん。

あ、でも待てよ。あの方なら、もしかしたら何か知ってるかもな」

「ラッサン、何かヒントがあるのか?」

「ああ。こういうものは、昔から海軍で働いていた人の方が良い情報を持ってる可能性が高い。ということで、俺のコネを使ってみる」

 

 というわけで、ラッサンからは特に情報は得られなかったが、代わりに何か知っていそうな人を紹介してもらうことになった。

 

《ムー統括海軍第1空母艦隊司令官 レイダー・アクセル中将の証言》

 で、ラッサンがコネを使って召喚したのが、ムー機動部隊司令官の第一人者レイダー提督である。

 

「これはマイラス君…に堺閣下。その節はお世話になりました。

私に聞きたいこととは? ……ああ、あの幽霊船と言われる軍艦か。乗ったことはないが、私が下っ端海兵だった頃はあの船は第一線で戦っていたんだ。それこそかなり活躍してたんだよ。だから、あの船のことはそれなりに知っている。

まず、幽霊船と化しているあの軍艦の名は、『高速戦闘巡洋艦 ラ・ヴィネーヴ』というんだ。姉妹艦はいなかったと思う…もしいたら2隻以上で戦隊を構成していたはずだ。でも、訓練でも実戦でもあの艦は常に1隻だけでいたよ。だからおそらく唯一無二の存在だ。

いつ頃建造されたのか、だって? そうだな、少なくとも20年前には艦隊で運用されていたぞ。……だが待て、言われてみるとあの艦の竣工式が行われた覚えがない、これはおかしいな。

活躍? そりゃもう大いに活躍してたぞ、何せ当時は下手をすると機甲戦列艦なんぞ運用していたくらいだったからな。そんな中にあって強力な24㎝砲を有し、当時の艦艇の中では最も速い18.3ノットの脚を持ったラ・ヴィネーヴは、間違いなく最強クラスの巡洋艦だったんだ。しかも、スクリュー推進機構を持つ一方で、昔ながらの帆走もできた。だから、前線に出れば砲火力と速力を活かして活躍し、後方に回っても新兵の訓練艦や技術参考艦に最適というね…まさに引っ張りだこだったんだよ。

ただな、ラ・ヴィネーヴは乗員の入れ替わりが激しい船でもあった。当時から既に幽霊や幻聴の噂が絶えず、恐怖で動けなくなったり気分が落ち込んだりして降ろされる将兵が後を絶たなかったんだ。そういう意味でも、あの船はつくづく不思議な船だったな。……幻聴の内容か? 私が聞いた限りでは、多かったのは『シンメイを知れ』とかいうものだったらしい。シンメイって何だろうな?」

 

 ようやく堺とマイラスは、有力な情報を掴むことができたのだった。特に幽霊船の名前が分かったのは大きい。

 レイダー提督に丁重に礼を述べた後、堺とマイラスは血眼になって資料室の書棚を上から下までひっくり返し、記録をしらみ潰しに漁って調べた。すると、これまでの不漁が嘘だったかのように、ラ・ヴィネーヴの記録がバンバン出てくる。確かにレイダーの言う通り、相当に活躍していたようだ。

 だが、堺はムー海軍の予算計上記録を調べて不審感を抱いた。

 

「マイラス殿、これ見てください」

「何かありました?」

「えーと、これは昔のムー海軍の予算ですね。これと、ムー海軍のドック使用記録を突き合わせて見てみると、ラ・ヴィネーヴの修理は何度も予算計上されているのに対して、ラ・ヴィネーヴの建造予算が計上されていないんです。予算が計上されてないということは、書類上ラ・ヴィネーヴは建造されていなかったということじゃないですか?」

「確かに…! なのに修理記録はしっかりあると? どういうことでしょう?」

「さっきレイダー閣下は、ラ・ヴィネーヴの竣工式が行われた記憶がないと仰ってましたね? ムーでは新鋭艦が竣工すると必ず式典を行うのですか?」

「ええ、特に戦艦や巡洋艦、その1番艦なら確実に行われています」

「なるほど。その話を信じるならば…ラ・ヴィネーヴはムーで建造された船ではない、という可能性が出てくるでしょう。実際、かつてムー海軍で使われていた軍艦と比べると、ラ・ヴィネーヴは独特の艦形をしています。まるで、新技術の試験艦として作ったか、あるいはどこかで拾った……」

 

 堺がそう言いかけた時、コンコンとノックの音がしたと思うと、ドアが開いて小太りの男性が入ってきた。

 

「失礼する。おや、マイラス君…に堺閣下!? ラ・カサミ改と乗員たちが世話になりました」

「ミニラル大佐!?」

「ああ、ミニラル艦長。お久しぶりです」

 

 戦艦「ラ・カサミ改」艦長、ミニラル・スコット大佐である。これ幸いと、ミニラルからも証言をもらうことにしたのであった。

 

《ムー海軍戦艦「ラ・カサミ改」艦長 ミニラル・スコット大佐の証言》

「ラ・ヴィネーヴ…その名前はずいぶん懐かしいな。私は乗ったことはないが、私の先輩が乗っていたことがある。第一主砲長だったそうだ」

「その先輩はどちらに…!?」

「いや、オタハイト沖海戦で戦死された」

「そうでしたか…」

 

 明らかにマイラスが落ち込んだ。

 ミニラルの言う先輩とは、元ムー首都防衛艦隊司令官アルフレッド・ムレス大将(戦死後二階級特進)である。

 

「しかし、先輩はあの船について色々と教えてくれたよ。どんな内容か、って? ふむ、最も頻繁に言われたのは、やはり幽霊騒動だな。

あのラ・ヴィネーヴという船は、どういうわけか幽霊騒動の絶えない船でな。女性らしき黒い人影を見たとか、声のようなものを毎夜聞かされるとか、海兵に幽霊が混じって訓練を受けていた、なんてものまであったな。おかげで心をやられる乗組員が続出して、しばしば乗員が交代していたよ。先輩はかなり粘った方だったと思う。

まあただ、どんな船でも使っていればガタがくる。ラ・ヴィネーヴもそうだった。砲や外板なんかはどうにでもなったが…エンジンはまずかった。知っての通り我が国はディーゼルエンジンは得意だが、蒸気機関は不得意だった。そしてラ・ヴィネーヴは運悪く、蒸気機関で動く船だった……あとは察しがつくだろう。とうとう軍艦の心臓たる蒸気機関が壊れてしまって修理できず、残念ながら再運用を断念。ラ・ヴィネーヴはそのまま、あのドックごと放置されてしまった、というわけだ。ロデニウス式の蒸気機関に慣れた今ならラ・ヴィネーヴの心臓も直せるだろうが、今やラ・ヴィネーヴより優れた巡洋艦が多数就役しているからわざわざ直す必要がない。ということで放置されたままなのだ。…腫れ物扱い? それもあるかもしれませんな。何せ幽霊騒ぎの絶えない船だったし、不気味がったのもあるでしょう。

そうそう、忘れるところだった…これは信憑性の疑わしい噂として先輩が話していたんだが……実はラ・ヴィネーヴは"拾い物"だったらしい。どこぞの海域で無人艦となって漂流していたのを我が艦隊が発見し、所有権の不明確なることを根拠にしれっと艦隊に組み込んだ…というのが、噂の内容だ。先輩も、真偽も出所も不明の噂だと言っていたがな」

 

 ミニラルが話した最後の噂には、堺とマイラスは思わず顔を見合わせたものだった。

 

((これはまさか…ひょっとしてラ・ヴィネーヴは、ムーで建造された軍艦ではない!?))

 

 2人の考えたことは同じであった。

 

 

「……というわけだ」

「司令、それ先に教えてくださいよ…」

「すまん。先入観のない、現物を見たままの意見が欲しかったんで敢えて黙ってたんだ」

「まあ、はっきりした目的があったんなら良いけどなー」

「次からはできるだけ教えてくださいね」

「正直すまんかった…善処するよ」

 

 何だかんだと話しながらも、捜索は続いている。ちなみに既に艦橋は調べ終わり、今や艦内のあちこちをしらみ潰しに探す形になっていた。だが今のところ、有力な手がかりは何も見つかっていない。

 

「ここらでとりあえず確定したことをまとめると、この船はムーで建造されたものじゃなくて…」

「地球、おそらくフランスで建造された船、ということですね。しかも機帆船ですから、だいたい1,800年代後半に建造されたものでしょう」

「だろうな、軸線上砲塔がなかったし」

「コンタクト!」

 

 接敵の叫びと銃の連射音。そして、向かってきていた骸骨兵がバタバタと倒れた。いずれも錆び付いたグラース銃を持っている。

 

「結構奥深くまで降りてきましたな。そろそろ機関室ではないでしょうか?」

「ああ、確かにそろそろ見つかりそうだ。ところで、骸骨は何体くらい仕留めた?」

「ざっと80体ほどですな」

「随分狩ったなぁ……了解」

 

 現在堺たちが目指しているのは、機関室である。軍艦の頭脳たる艦橋には特に何もなかったため、心臓と言える機関室にはもしかしたら何かあるかもしれない、ということである。

 

「これは…倉庫か?」

「床が煤けてるな。もしかして石炭庫だったのか?」

「ん? おい、あれを見ろ!」

「あれはっ!?」

 

 タクティカルライトの光が照らす先には、半円柱形のカバーがついた妙な筒のような物体が4つ置いてある。知らない人にはさっぱり見当のつかない装置であろうが、堺たちにはすぐ分かった。

 

「魚雷発射管!? 何でこんなとこに!?」

「取り外したんじゃないか? ムーは最近まで魚雷を知らなかったんだ、用途不明の装置と思われて外されていても不思議じゃない」

「そういや、対空機銃の中には明らかに舷側に近すぎるものがあったな。あれは、魚雷発射管を外した後に設置したものだったってことか」

「あー。それなら確かに説明がつくな」

「ってことは、この艦はやっぱり地球製か」

 

 魚雷発射管なんてものを見付けたことから、ますますこの軍艦は地球のものだった説が濃厚となる。というのは、この世界では水中攻撃の手段が衝角(ラム)くらいしか知られていなかったからだ。つまり、魚雷の存在しない世界だったのである。

 

「お、機関…コンタクト!」

 

 ようやく機関室を探し当てたらしい。

 室内には9体もの骸骨がたむろしていたが、1分とかからずに全て制圧されてしまった。

 

「あれ、こいつら武器が違うな?」

「ライフルではなくショベルか…火夫だったのか?」

「あり得るな、この船石炭焚きだったみたいだし」

「機関が円筒形の形をしてる……円缶とか、スコッチボイラーとかいう奴か?」

「こいつが壊れたって話だったな…!?」

 

 その時、堺も妖精たちも、はっきりと感じ取った。

 空気が、明らかに変わったのだ。2月だから寒いのは理解できるが、ここの寒さは今までのそれとは違う。心にまで響くような、こちらの心臓を穿つような、鋭く尖った寒さ。

 言葉を当てはめるとするなら…「殺意」。

 

「司令!」

「何かいるらしいな!」

 

 その瞬間だった。

 

ヨクゾ……ココマデ……。

「「「!!?」」」

 

 地獄の底から聞こえてくるかのような、恐ろしく底冷えした声がはっきりと聞こえた。ノイズがかかったように割れているが、やや甲高く、女性の声であることは間違いない。

 部屋の一番奥にある円缶の陰からぬるりと、そいつは現れた。

 沈んだままだった水死体のように、ブヨブヨと膨張した青白い肌。黒い長髪はぼうぼうに伸び、顔がほとんど隠れてしまっていて、まるでホラー映画の貞子だ。その髪の間から、殺意を湛えた赤い眼光が2つ、こちらを睨み付けている。姿形は人間の女性そのものだが、明らかに生きた人間のそれではない。ぼろ切れのようなものを申し訳程度に身に付けており、胸部の隠すべきところは隠しているが上半身裸体に近い格好だ。

 そして、そいつは異形の物体を纏っていた。下半身にはスカートのように広がった衣服…と見せかけて装甲板による艤装を装着している。鎧の上に薄い衣を纏った感じ、と言えば良いだろうか。背中に生えた3本のマストには帆ではなくイカの触手が絡み付いている。1本目は駆逐艦の艦娘の艤装のように天に向かって屹立し、2本目はその後ろに斜め後方に向けて倒しており、3本目は尻尾のように横方向少し斜め上に突き出ている。また、腰周りに鎖のついた錨をぶら下げていた。そして、両肩の上下に歯をむき出しにした口のような機構を持ち、そこから舌の代わりに大砲の砲身が突き出ている。

 こういうビジュアルの代物を何というのか、堺も妖精たちも知っていた。それは、艦娘にとって、妖精たちにとって、そして堺たち地球人類にとって()()(たい)(てん)の敵。

 

タドリツキマシタネェ…。

 

 声まで"あいつら"そっくりだった。

 

「「「(しん)(かい)(せい)(かん)!?」」」

「ヤバいぞ姫級か!?」

「生身で出会(でくわ)すとか冗談じゃねえ!」

「ふむ、(ふな)(だま)付喪神(つくもがみ)も深海棲艦の姿をしてるのかね」

「「「感心してる場合ですか司令!!」」」

【ソノソッ首……(チョウ)(ダイ)ツカマツル!!】

 

 思いがけない、そして最悪の事態となってしまったのであった。




初っ端から重大なヒントが出ましたね。この幽霊船に関する情報をまとめると、

・地球製、それもフランス製
・機帆船である。(つまり、西暦1,800年代後半くらいの軍艦である)
・速力18.3ノット(余談だが、ラ・カサミ級戦艦より脚が速い)
・機関は円缶である。(いわゆるスコッチボイラー。これまた年代のヒントになる)

ってくらいでしょうか。
そして最後の最後にとんでもない事態が発生。以前(トーパ王国に出征した時)にも深海棲艦めいた相手(実際はただの海魔だった)を相手にしたことはありましたが……前は駆逐艦クラスとかだったのに対して、今回はなんと姫クラスと来ました。最悪の相手です。
さあ、この強敵を相手に、堺と妖精たちはどう対処するのか! そして、この巡洋艦の正体とは…?
次回『霊火よ照らせ、巡洋艦ラ・ヴィネーヴの正体』
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