鎮守府が、異世界に召喚されました。これより、部隊を展開させます。   作:Red October

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さて、今回ついにタウイタウイに新たな戦力が着任しますよ! 誰が来るかは…ここまで読んでいる方なら予想できているでしょう。



216. 世の中答えのない問題が多いよね、どうやって解決する?

 中央暦1644年2月14日 午前7時30分、ロデニウス大陸北東34㎞沖 タウイタウイ島。

 堺は久方ぶりに、タウイタウイ泊地司令部に帰還していた。といっても一時的なものであり、すぐまた飛び立たねばならないのだが。

 堺がタウイタウイ泊地に戻ってきた目的は主に3つ。それを次々に済ませるべく、堺はまず工廠へと足を運んだ。

 

「あれ、提督! 久しぶりじゃないですか!」

 

 工廠の扉を開けるや否や、工廠の主たる工作艦"明石(あかし)"から挨拶が飛んできた。

 

「おう明石、久々だな。工廠の様子はどうだ……と聞きたいとこだが…」

「どうしました?」

「お前いったん寝ろ」

「えぇーっ!?」

 

 "明石"の目の下には、かなり大きなクマができていたのだ。3徹くらいしていないとできないレベルの奴である。しかも、彼女の目はギンギラギンになっており、完全にラリっていた。

 堺がストレートにぶった切るのも無理はない。

 

「ひどいですよ提督! もうちょっとで新しく発見された金属が解析できそうなのに!! あと、新しい兵器のアイデアも出てきそうなのに!!!」

「そのクマはどーみてもアカン奴だわ! 睡眠不足は良い仕事の天敵だ、とっとと寝て頭を冷やせ! これは命令だ、分かったな!?」

 

 上官権限でゴリ押す堺。

 

「ちぇー、分かりましたよ…」

 

 唇を尖らせ、しぶしぶといった様子の"明石"。

 

「あぁ、すまん。寝る前に、1つ頼みがある」

「何でしょうか?」

「これ、何だと思う?」

 

 堺は、先日ムーの巡洋艦で拾った歯車とネジを差し出した。ひったくるように"明石"が受け取り、目を爛々と輝かせて観察し始める。

 

「んー、開発資材…にしては歯車に妙な模様がありますね。普通の開発資材じゃない気がします」

「鋭いな。で、俺からの依頼なんだが、この開発資材を用いて『建造』を行って欲しい」

「あれ、建造とは珍しいですね?」

 

 この世界に来てからというもの、純粋な開発資材の補給の目処が立たなくなってしまったこと、"釧路"による解析ができたとはいえ手作りの開発資材では艦娘の人格形成にどんな影響が出るか分からないことから、この世界に転移してからのタウイタウイでは建造は全く行われていない。

 

「何かあったんですか?」

「話せば長いんだが…実は、この開発資材は艦娘のコアになることがはっきりしている代物なんだ」

「え!?」

「ムーの方で、深海棲艦の姫モドキと戦うことがあってな。それを倒したらこれを入手したんだ」

「深海の姫クラス!? そっちも興味はありますが……何となく話は分かりました。で、これで艦娘を建造して欲しいと?」

「そうだ。俺の予想だが、全部30の最低値で大丈夫だと思う。やってくれ」

「分かりましたっ!」

 

 堺が「オール30」…最低限の資源量での建造を指示したのには、明確な根拠がある。

 この開発資材は間違いなく"(うね)()"のコアだ。その元となった防護巡洋艦「畝傍」は、全長98メートル、排水量3,600トンの艦艇である。それより全長と排水量の大きい5,500トン級軽巡洋艦の艦娘たちですら、オール30で建造できるのだから、"畝傍"もオール30で建造できると判断したのである。

 これで目的のうち1つは、半分達成したようなものである。

 

「全部30、っと…誰が生まれるかなー♪」

 

 ずいぶん楽しそうに建造装置に資源を投げ込む"明石"。その後ろから、堺はそっと忍び寄った。

 

「これで…スタート!」

 

 忍び寄る気配に全く気付かず、"明石"が建造装置を起動する。

 

「よし、ていとk…!?」

 

 "明石"の歓喜は途中で切れてしまった。というのは、起動した装置の建造所要時間が「00:40:00」を示すのと同時に、堺の右腕がしっかりと"明石"の首筋に食い込んだからである。声も出せないまま5秒ほどで"明石"は意識を失い、堺の腕の中に沈み込んだ。

 堺が仕掛けたのはスリーパー・ホールド…いわゆる裸締めである。頸動脈の血流を阻害して脳を低酸素状態に陥らせるため、綺麗に決まればたった数秒で相手の意識を奪ってしまえるのだ。

 

「すまんな。だがさっきも不服そうだったし、こうでもしなきゃ、お前寝ないだろ」

 

 そう呟くや、堺は工廠の片隅に置かれたタンクベッドに"明石"を投げ込み、睡眠時間を6時間にセットした。

 このタンクベッドはかなり画期的な品物で、「寝だめ」ならぬ「圧縮睡眠」ができる。こいつで6時間寝た場合、丸一日寝たのに等しい回復力を発揮するのだ。丸一日分寝れば大分回復するだろう、と堺は見込んだのである。

 工廠での用事を済ませ、堺が次に向かったのは執務室である。

 

「お帰りなさい、提督!」

「久しぶりね、提督。お帰り」

「ああ、ただいまだ。といっても、すぐまた向こうに戻らなきゃならねーんだけどな」

 

 心なしか嬉しそうな"(おお)(よど)"と"()()"が出迎えてくれた。今日の秘書艦担当は"伊勢"らしい。

 

「え、そうなの? 相撲の1つも取ってくれるかと思ったのに」

「艦娘パワーに勝てるかぁぁ! どうやったってお前しか勝たんだろうが!」

 

 いきなり嗜好を覗かせた"伊勢"に、堺は問答無用でツッコんだ。

 

「とりあえずグ帝勢力はムー大陸から追い出したんだが、まだ奴さんたち降伏してないから、戦争は終わってない。そして、奴さんたちプライドが高いみたいだから、普通の手じゃ勝つのに大きな犠牲を払う羽目になりそうだ。現に我が国もムーもその他の国も、結構な無茶をしてこの戦争を戦ってんだ、そろそろ止めにしないと無理が祟る。

ということで、この戦争を終わらすために必要な戦力を、泊地からムーまで連れていくために戻ってきたんだ」

 

 一息に言った堺は、"大淀"が差し出した紅茶を飲んで言葉を続けた。

 

「まずはその前に、このロデニウス連合王国周辺の状況を把握する必要が…」

 

 と、ここまで言いかけた時、廊下の方からバタバタと足音が近付いてきたかと思うと、ドアがバン!と音を立てて開いた。

 

「司令官、帰ってきたんですね! いい情報ありますよぉ!」

 

 執務室に飛び込んできたのは"(あお)()"である。脇の下に地図らしい丸めた大きな紙を抱え、手には書類の束を持っている。

 

「相変わらずだなオメーは! ちょうど手間が省けた、早速報告してくれ」

「はいっ! では、そこの応接セットを借りますね」

 

 提督執務室の片隅には、黄緑のクッションが敷かれたソファーとテーブル類からなる応接セットがある。艦これの家具でいう「金剛の紅茶セット」だ。そのテーブルに"青葉"は丸めた紙を広げた。

 それは堺の推察通り、大東洋一帯を描いた地図だった。あちこちに赤ペンで印が書かれており、何やら数字や文字も一緒に書かれている。また、あちこちに緑のペンで矢印が書き込まれていた。どうやらロデニウス連合王国軍の進軍ルートを記したものらしい。

 他にも、ロデニウス大陸をでかでかと描いた地図もあった。

 

「まず、ロデニウス連合王国内の状況についてですが、カナタ1世陛下がマスメディアを通じて国民に呼びかけた結果、世論は概ね『グラ・バルカス帝国との停戦・講和やむ無し』という方向にまとまりつつあります」

「呼びかけたっつーと、あれか? 俺が意見具申した《食卓談話》か?」

「まさにそれですね。それを使った他、陛下はグラ・バルカス帝国のスパイによる暗殺の危険も顧みず、各地で遊説を行いました。また、私たち青葉メディアグループが中心となって世論操作を行い、陛下をサポートしました。その結果、国内世論をまとめることに成功したんです」

「よくやるぜ、陛下」

 

 少し前に、カナタ1世(旧クワ・トイネ公国首相カナタのこと。ロデニウス連合王国成立と同時に国王に就任し、在位5年目を迎えようとしている)にはお世継ぎが生まれており、そのことで国内が盛り上がっていた、と堺もちらりと聞いている。あいにくその時、彼は「バグラチオ作戦」最終段階の真っ最中だったため、祝電を送るだけしかできなかったが。

 

「で、グ帝のスパイ網は大丈夫なのか?」

 

 堺がそう尋ねると、"青葉"がドヤ顔で胸を張った。

 

「もちろんです! 我が情報局の情報収集部隊を動員し、軍部や警察と連携して拠点襲撃訓練を重ねて彼らの練度を上げた他、拠点攻撃にも投入しました。国内は既に私たちの庭も同然になっていまして、魔信使おうが無線使おうが高確率で場所を特定し、3日以内には襲撃できますよ!」

「そりゃ頼もしいな。戦果の方は?」

「既に国内のグ帝スパイ拠点のうち、主だった物は粗方潰しました。拠点掃討作戦は今日に至るも継続中で、今ごろここの拠点が情報収集部隊によって蹂躙されているでしょう」

 

 "青葉"が示した先にあるロデニウス大陸地図には、ロウリア州内陸部の山岳地帯に青ペンでバツ印が書かれている。よく見ると黒ペンで丸が書かれており、それを青のバッテンで潰していた。それが地図のあちこちに書かれている。

 

「結構多かったな?」

「仕方ありませんよ、奴らもあちこち場所を変えていたんですから。

ま、それも無駄な足掻きですけどね!」

 

 確かに情報収集部隊が相手では、まずいどころの話ではない。23世紀目前の地球装備で身を固め、肉弾戦闘技術、サバイバル術、爆発物を含む武器の取扱い、果てはラペリングやエアボーン、魔法技術にまで精通した彼女たちは、まさしく地上最強の戦闘部隊なのだ。そんなバケモノを相手にする羽目になったグラ・バルカス帝国の諜報員の皆様には、お気の毒様としか言い様がない。

 

「というわけで、国内は概ね平穏ですね」

「分かった。国外はどうだ?」

「大東洋周辺の主だった戦場は、2つありました。ニューランド島方面と、フィルアデス大陸・リーム方面戦線です。

まずニューランド島方面の戦線についての報告ですが、去年6月、提督がイルネティア島攻略作戦『ユーラヌス作戦』をやっている頃に、グラ・バルカス帝国艦隊がロデニウス本土を攻撃すべく襲来し、我が軍はこれを迎え撃つことになりました。『アルバトロス作戦』による航空漸減邀撃、そして『ペイルカイザー作戦』による艦隊決戦の結果、我が軍はグラ・バルカス艦隊を撃破し、本土攻撃の意図を頓挫せしめて撤退に追い込みました。その後『エクリプスナイパー作戦』により、グ帝残存艦隊をニューランド島にて捕捉、ミリシアルの空中戦艦やムーの重爆部隊との連携によりこれを粉砕しています」

「そこまでは俺も報告書で読んだ。その後は?」

「島内におけるグ帝残存部隊の掃討が主任務になりました。グ帝はどうやら陸上戦力を連れてきていたようで、その一部が残存していたんです。パタジン中将率いる陸軍第4軍団と第13軍団の陸戦隊、それに情報収集部隊2個小隊の戦力を投じ、中央暦1643年9月までに掃討を完了しました。これで南の方は平和になりましたよ」

「OKだ。続いてフィルアデス大陸方面は?」

「こっちも掃討作戦が完了しました。リーム王国の一部陸軍部隊が降伏に同意せず、ゲリラ化して反旗を翻したこともありましたが、こちらも9月末までに掃討完了しています。現在、リーム王国に出征していた第1海兵師団は全て本土に帰還しており、リーム本土の治安維持にあたっていた陸軍第3軍団も順次撤収しつつあります。外務省との調整の結果、今後は新生パールネウス共和国やドーリア共同体と連携し、リーム王国の監視にあたることが決定しています」

「了解した」

 

 堺は頷いた。

 ちなみに、降伏したリーム王国やグルート騎国、チエイズ王国との講和条約については、全部外務省にぶん投げている。まあこれは、堺の専門外なので仕方ない。

 

「ざっくりこんな感じですね」

「ふむ……状況はよく分かった。ありがとな、青葉」

「いえいえ、このくらい情報戦のエキスパートとして当たり前ですよ! では、私はこの辺で!」

「あ、ちょい待ち青葉。こいつをとっとけ」

 

 振り返った"青葉"に、堺は袋を1つ投げて渡した。ガシャガシャと音がする辺り、何かが結構な量入っている。

 

「いつも情報ありがとな。ムー大陸の方で良い菓子を見つけたんだ。ヒノマワリ王国って言ったっけな、そこのお菓子。草加せんべいみたいでなかなか旨かったんで、土産がてら買ってきた」

「わ、ありがとうございます! それじゃ、失礼しました!」

 

 退室する"青葉"を見送り、堺は思考の海に入り始めた。

 

(青葉からの報告をまとめると、ロデニウス国内、そして第三文明圏一帯は概ね平和な状態だということになる。となると、泊地からはそれなりの人数の艦娘を連れていくことができそうだな)

 

 堺にとっては良いニュースだった。

 

(確か、グラ・バルカス帝国の特徴はプライドの高さと……軍の物量の多さ。そして、本土が島国だってことだ。

そして、そろそろ艦娘たちや妖精たちのメンタル面も気になる。でき得る限りこちらの犠牲を最小限に抑え、かつ最短で降伏させなきゃならん。

それに加えて、グ帝本土に侵攻しようと思ったら、まずはムー大陸とグ帝本土の間にあるアストラル大陸を制圧する必要がある。グ帝にとっちゃ内庭だ、多数の陸軍が展開しているだろう)

 

 地理的な話をすると、ムー大陸の西方2,000㎞にアストラル大陸という大陸がある。メタい話をすると、日本国召喚wikiの「第二文明圏」のページに示された地図の左端に、陸地が見切れている。その見切れた陸地がアストラル大陸だ。

 南北約3,000㎞、東西約2,000㎞というこの巨大な大陸は、かつてアストラル王国という国が支配していた。支配といっても、国の技術レベルは文明圏外らしく剣・槍・弓であるから、全域を統治するのは不可能だ。ということで旧列強レイフォル国のように藩王国制を導入し、中央政府にあたるアストラル王権政府から任命されたいわば代官が「公王」として領地を直接支配する、という形を取っていたそうである。国としての性格は好戦的なもので、だからこそこの広大な大陸を一国支配できたとも言える。

 しかし、その好戦的な外交をグラ・バルカス帝国の外交官に対してもやらかしてしまったのが運の尽き、圧倒的な軍事力・技術力を誇るグラ・バルカス帝国に蹂躙され、200年続いた統治がたった4ヶ月で終わりを告げたのである。その後はグラ・バルカス帝国の入植者が相次ぎ、本国向けのプランテーション農園や油田などの資源採掘現場を建設する一方で、原住民は土地を強制的に接収され、それらの施設の建設、もしくは農園やら鉱山やらで奴隷同然にこきつかわれているという。

 そんなアストラル大陸から西にさらに1,000㎞ほど行ったところに、グ帝本土があるのだ。つまり、ムー大陸とグ帝本土は5,000㎞も離れているのである。

 

(となれば、取るべき手段はただ1つ。プライドで飯は食えず、腹が減っては戦はできん……徹底的な通商破壊戦術だ。資源の採取場、武器を含む工業製品の製造工場、それらの輸送ルート、そして軍事拠点はもちろん、新兵の教育拠点に至るまで、全てを根こそぎに破壊して干上がらせる!)

 

 やむを得ざる場合を除いて敵軍との正面決戦はこれを避け、ひたすら通商破壊に徹して相手が干上がるのを待つ、というわけである。

 

(立地によるが、農園に対してはナパーム弾による爆撃、鉱山に対しては通常型爆弾もしくは地中貫通爆弾による爆撃を行う。また、道路や線路、橋に対しても爆撃、工場地帯も爆撃に加えて可能なら艦砲射撃。そして輸送船団と物資の積出港に対しては、うちの艦隊の全力を動員する。内陸部にある重要施設については、抜群の突破力を持つ"ヤマト"にお願いする形になるな)

 

 要するに食糧から工業製品から新兵まで、一切合切の物資補給を断ち切ろうというわけである。

 

(ということで、リーム王国の方もかなり落ち着いたし、ムーに連れていけそうなのは…)

 

 素早く思考を巡らせる堺。

 

(通商破壊ってことで、潜水艦娘たちの出番だ。ただ、ムー大陸の方でちょっと艤装を改修してから実戦って形になる。で、潜水艦の娘たちを総出で連れていくとなると、"(たい)(げい)"も欠かせないな。あとは"Saratoga(サラトガ)"と"Italia(イタリア)"、"Roma(ローマ)"にしよう。巡洋艦や駆逐艦の娘たちは、ロデニウス海軍の人員育成もあるからローテーションがかなりカツカツだ、これ以上は引き抜けん)

 

 後方の防衛のことも、考えておかなければならないのである。

 

(やれやれ、一国の海軍の中でも最も戦略的価値の高い艦隊を預かるってのは難儀な仕事だぜ。地球にいた頃は考えなくてもよかったことまで考えなくちゃならんのよな……)

 

 堺もわりと苦労している身なのである。

 

 

 久しぶりに泊地食堂で昼食のハヤシライスを味わい、ロデニウス連合王国軍総司令部に連絡して作戦方針を確認した後、堺は再び工廠へとやってきた。"明石"が起きている頃だろうと見積もったのである。

 

「建造終わりましたよっ!」

 

 工廠に入るや否や、完全回復して元気いっぱいの"明石"が出迎えてくれた。

 

「よーし、ご開帳といこう!」

 

 新しい艦娘が着任する瞬間というのは、いつも堺にとってわくわくする場面である。

 『残り時間 00:00:00』が表示され、妖精たちがバンザイしている建造ドックに近付き、扉を開ける。そのとたん、中から大量の白煙が噴き出してきた。

 

「おおっと…これだけはいつもと変わらんな」

 

 白煙の量に閉口しながらも、堺は煙の中に目を凝らす。と、煙の中に小柄な人影がちらっと見えた。

 煙が晴れると、そこには見たことのない艦娘の姿があった。身長は150㎝もないくらいで、駆逐艦の艦娘たちより背が低いかもしれない。豊かな黒髪を見事な文金高島田に結い上げ、血のように赤い前櫛を差し、前挿しに白百合、中挿しに青紫のアヤメの花飾りが付いている。服装は、緑の子持ち縞に赤いハイビスカスの花をあしらった薄灰色の振袖に金色の腰帯を巻き、その上から少し末広がりになった赤銅色の袴を履いて、靴はかなり高足の黒い下駄というものだ。青みがかった黒い瞳がこちらを見詰めている。

 着物なので判りづらいが、胸はおそらくそんなにないだろう。言ってみれば子供体型である。それなのに雰囲気は完全に大人びている。ちょっとイケない言い方をするなら「合法ロリ」という奴だろう。

 そして、艤装も特徴的なものだ。2本の煙突を生やした艤装を背負っているのは、他の艦娘にも見られるスタイルだが、そこから3本のマストが扇子の骨のように広がっており、白い帆が巻き付けてある。艤装の煙突の周囲には、15㎝クラスの単装砲が計6基据え付けられていた。そして、両肩の辺りに24㎝単装主砲が装備され、両手にも24㎝単装主砲を拳銃のように持っている。また、両方の腰には錨が付けられていた。

 謎の艦娘は、両手に持っていた主砲を腰の錨に引っかけた。どうやらこの錨、ホルスターも兼ねているらしい。

 

「あちきは防護巡洋艦、畝傍と申しんす。不束者ながら、どうぞよしなに、でござりんす」

 

 かなり古風な…というか、いわゆる「(くるわ)言葉」を使った喋り方である。しかもそれがちょっと舌足らずな感じのロリータボイスで放たれるため、人によっては性癖にストレートに突き刺さるかもしれない。

 名前を聞いて"明石"が目を見開いた。

 

「えっ、防護巡洋艦の畝傍!? 回航中に行方不明になったっていう、あの畝傍ですか!?」

「そうなんだ」

 

 堺は頭を掻きながら説明した。

 

「フランスから日本に回航中に、南シナ海で行方不明になった娘なんだ。しかも、痕跡が全く見つからず、謎の失踪となっている。通説では、台風とかに遭って転覆沈没したとされていたが……どうやら真実はこの世界に転移してしまっていたらしい。びっくりだな。

乗員は転移時に全員死んだみたいだ。無人のまま漂流していたところをムー海軍に発見されて接収、以降ムー海軍で運用されていたらしい。そのうちに酷使が祟って機関故障、しかしムーではスコッチボイラーの修理ができなかったため、ドック入りしたまま放置されて幽霊船と化していたんだ。そのうち彼女の船霊が深海棲艦みたいな形を作り出したようで、俺はそれと戦って何とか勝利、そして彼女を召喚するための開発資材をゲットした、というわけなんだ」

「え…提督、生身でやりあったんですか?」

 

 "明石"が若干青くなった。

 

「そうだけど?」

「ええ……深海棲艦に生身で勝つ人間なんて聞いたことないですよ」

「いや、アイツはあくまで深海棲艦モドキ…のはずだからな?」

 

 本物の深海棲艦だったなら、間違いなく堺の方が負けていただろう。

 とはいうのだが、実はあれはマジモンの深海棲艦である。事情が少々特殊だったために、艦娘無しでも何とか対処できただけであろう。

 

「っと、内輪話はここまで。

畝傍、タウイタウイ泊地にようこそ。俺がこの泊地の提督を務める、堺 修一だ。こちらこそよろしく頼む」

「主さん、よろしうお願い申しんす」

 

 互いに頭を下げる堺と"畝傍"。

 

「そしてこっちが…」

「工作艦、明石です! 艤装の修理、艤装の建造、装備の開発と改修、何でもお任せください!」

「明石様、どうぞよしなに、でありんす」

 

 かくて、タウイタウイ泊地に新たな仲間が加わったのであった。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 中央暦1644年2月17日。

 堺は再びヤマトに乗り込み、一路ムー大陸へと飛び立った。グラ・バルカス帝国を締め上げ、降伏を促す作戦を決行するために。

 ヤマトには堺の他に、潜水艦娘たちと"大鯨"、"Saratoga"、"Italia"、"Roma"も一緒に乗り込んでいる。帝国封鎖作戦に参加することとなったのだ。

 

 ヤマトが飛び立ったその頃、泊地の演習海域では"畝傍"が砲撃演習に取り組んでいた。無言で左手に24㎝単装砲を構え、前方にある的を見据えてトリガーを引く。

 

ドオォンッ!

 

 轟音と共に発射された砲弾は、しかし明後日の方向に落下して水柱を噴き上げた。それを確認し、"畝傍"は右手を主砲へと伸ばす。

 彼女の主砲の砲尾には、ライフル銃のボルトそのものな機構がある。そのボルトハンドルを引いて薬室を開いた後、"畝傍"は砲自体を傾けて空薬莢を捨てた。そして袖から新しい砲弾を1発取り出し、装填してボルトを前方に押し、ボルトハンドルを倒してボルトを回転させ薬室を閉鎖する。これでやっと砲弾の装填が完了し、撃てる状態になったのだ。妖精たちがだいたいのことをやってくれる艦娘たちからすると、信じがたい光景である。しかも、彼女の手つきはかなり素人くさい印象がある。慣れている人が見れば、どこに無駄があるかパパッと分かるだろう。

 ちなみに、彼女のこの主砲の装填機構は当時最新鋭の国産小銃だった「十三年式村田単発銃」のそれによく似ている。どんな銃か分からんという人は、「ゴールデンカムイ」を視聴すればよく分かる。あの作品には村田銃が何度も登場している。

 そんな"畝傍"を採点しているのが、練習巡洋艦の"()(とり)"である。

 

「うーん、これは…」

 

 呟きながら、"香取"は眉をハの字にして眼鏡を押し上げる。

 彼女の目から見ると、正直なところ"畝傍"は問題だらけなのだ。動きが素人くさいのは仕方ないとしても、兵装があまりに原始的だ。35口径24㎝砲の火力自体は、まあ悪い訳ではないのだが、単発撃ち、しかも装填を自力で行わなければならない時点でだいぶ旧式である。さらに、魚雷も35㎝の太さしかない上に単装発射管のみかつ空気式魚雷、そして何より対空兵器装が一切無い、とかなり大変なことになっているのだ。しかも、問題はこれだけではない。

 

(どうしましょう……彼女は、提督さんや皆さんの役に立ちたいという気持ちが強い。それ自体は否定しませんし応援してあげたいんですが、如何せんスペックが追い付いていません。抜本的な改造が必要ですね……)

 

 "香取"は、"畝傍"の問題点をリストアップしておこうと決意した。

 

 

《香取のレポートから抜粋:畝傍の問題点》

・兵装、機関、いずれも旧式にも程がある。

・速力が遅い。

・トップヘビーが強く、復原性が悪い。

・対空兵器がない。

・全体的に防御力が低い。とりわけ垂直装甲が薄い。

・練度も高いとは言えないが、これは今後の鍛練で改善が見込める。

 

(以上を踏まえての意見具申)

畝傍を活躍させるためには、工廠の能力を総動員した魔改造が必要と考える。

 

 

 で、これを読んだ"明石"の反応はお察しの通りである。

 

「魔改造、ですか……香取さんも言ってくれますね! ふふふ…」

 

 レポートを事務室のデスクに置き、両手を組み合わせてワキワキさせ始める。

 

(くし)()ちゃんはもちろん、(ゆう)(ばり)さんとかにも相談して、何なら新しい魔導機関のテストベッドにしても良いなぁ…。主砲も副砲も魚雷も外しちゃって、武装も一新しなきゃ。いっそ対空兵器以外は(ほう)(こう)兵装無しにして、ミサイルオンリーにするのもアリ!

あ、その前にあのタンブル・ホーム構造どうにかしないと。どうしよっかな、今の外板をバイタルパートにする感じで、全長引き伸ばす? それとも両側にアウトリガー繋げて三胴船にしようかな? いやぁ、夢が広がりますねぇ……グヘヘ」

 

 直後、スパーン!という小気味良い音と共に、妖精が振り下ろしたハリセンが"明石"の後頭部に炸裂した。




まさかの、そして予想があった通り、"畝傍"の艦娘化です。
ちなみにビジュアル面にも、しっかりと設定が行われています。

(服装)
・文金高島田…今のところ、この髪型の艦娘は見当たらない。ということで、「オンリーワンの存在」としてこの髪型を選択した。
また、"畝傍"を「古き時代の大和撫子」として設定したため、その象徴としてこの髪型にした。
ついでに言えば、文金高島田は今でも結婚式の髪型として使われる、格式ある整った髪型である。それを使うことで、ぼうぼうに伸ばしていた未達回航姫とは対照的な髪型にしている。
・髪型の装飾品…ユリとアヤメ(アイリス)はフランスの国花。また、前櫛の赤、前挿しの白百合、中挿しの青紫のアヤメで、赤白青、つまりフランス国旗の色にしている。
・振袖+袴…時代的に近い、神風型の娘たちの衣装を参考にした。
・振袖…基調となる薄灰色は軍艦の艦体色。ハイビスカスの柄は、南の方で消息を絶ってしまったことと、せめて沖縄にはたどり着きたかっただろう、という気持ちの描写からである。
・末広がりの袴…艦の下腹が広がる独特の艦型となる、タンブル・ホーム構造の再現。
・かなり高足の下駄…これまたタンブル・ホーム構造と武装の過積載による。重心位置が高く復元性が低いのを、足元が不安定な高足下駄で表現した。
・中破すると、せっかくの文金高島田が崩れてしまう上に、袖が片方弾けてなくなってしまい、本人は全体的に煤にまみれてしまう。24㎝砲弾が誘爆したためである。
・胸も破れてしまい、彼女は涙目で左手で胸元を押さえながら右手で単装砲を「ギャング持ち」…つまり、左に90度倒した持ち方で構える。

(見た目と性格)
・身長150㎝足らず…実艦が全長98メートルと、特型駆逐艦より小柄なことから。
・胸ないっぽい…一般的に艦娘の胸部装甲の厚さは排水量に比例するとされる以上、排水量3,600トンでは仕方ないね。なお伊400型や天龍型、一部駆逐艦娘と見比べるのは禁止。
・青みがかった黒い瞳…これも未達回航姫との対比。
・まさかの廓言葉…大和撫子な美人のイメージが花魁だったのと、今のところ廓言葉を使っている艦娘がいないことから、オンリーワンの存在とすべくこの言葉にした。花魁の職業がアレなだけあってイメージは悪いかもしれないが、実はそっちではなく、「控えめで多芸」というところを主軸に置き、古き良き大和撫子を描き出す方針である。
実際、上級の花魁ともなると舞踊、書道、茶道、華道、雅楽、和歌をはじめ、囲碁・将棋なども含めてあらゆる教養・芸術に精通している。なので、これを現代風にアレンジしながら、甲斐甲斐しく提督を支える娘として設定した。全国の婚活女子ども、ちょっとでも"畝傍"を見習え。仕事から家事から努力せねば、結婚なんぞできん。
なお、戦闘になるとかつて深海棲艦だった頃の武士言葉がちょっと出てくる。如何に大和撫子といえども、戦闘民族の血は抑えきれないらしい。
・艦これアーケードで見てみると、両手に持った24㎝主砲は1発撃つごとに自分で装填している。この時、ボルトを引いてから自分で砲を傾けて空薬莢を捨て、その後振袖の袖から新しい砲弾を出して装填する、という真似をしている。これは、当時最新鋭の国産ライフルだった十三年式村田銃の機構を参考にしている。

(艤装)
・主要な構造物は全て上半身に集められている。これもタンブル・ホーム構造の再現。
・振袖の袖の中に、24㎝砲弾をしまっている。


"畝傍"の普段の言葉遣いは「廓言葉」…いわゆる花魁言葉ですが、「控えめかつ多芸」という古き良き大和撫子イメージと、オンリーワンの存在を目指した結果、こうなりました。
どうしてもあっち方面のイメージが抜けない? ならばダイレクトメッセージでも感想でも、その旨堂々と書いて送ってくるがよろし。もしそっち方面の需要が多いなら……検討します。幸か不孝か、描ける枠組みはありますし。


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次回予告。

主力艦隊が全滅し、ムー大陸方面への外征が不可能になったグラ・バルカス帝国は、軍の立て直しのため防御体制に入る。その一方で、世界各国が呼びかけた和平交渉に関しては、これを黙殺した。帝国がまだ諦めていないことを察した堺は、第13艦隊の戦力を活かした通商破壊作戦の準備を進める…
次回『発動準備:作戦名「ラヴクラフト」』
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