鎮守府が、異世界に召喚されました。これより、部隊を展開させます。 作:Red October
前回登場した"畝傍"にも、さっそく何やら改造が行われそうな雰囲気ですよ…?
中央暦1644年3月15日、第三文明圏外東側 ロデニウス大陸北東34㎞沖 タウイタウイ島。
タウイタウイ泊地工廠は、案件によっては24時間フル稼働していることもある施設である。最近はグラ・バルカス帝国との戦争で使うための新兵器の開発や、ロデニウス大陸で産出した新たな魔導金属の解析などの巨大案件か重なったため、かなり忙しく稼働していた。
そんな工廠の会議室に、何人かの艦娘が集まっている。集まっているのは工廠の主たる"
「全員揃ったんで、これより会議を始めます!」
妙にテンション高く"明石"が宣言する。
「会議の議題は以下の通り! 一、新しく見つかった魔導金属の解析結果について報告! 二、新兵器の開発状況及び今後開発すべき兵器についての検討! 三、畝傍ちゃんを含む艦娘たちの艤装の現代化改修案! そして四、提督にプレゼントする新型艦について!
では早速議題1から、釧路ちゃんデータ見えてるー?」
泊地の備品である丸められるTVの中で、"釧路"が頷いた。
『はい見えてます。なるほどなるほど、新しい魔導金属は《ヒヒイロカネ》と称し、オリハルコンに次ぐ高い魔力伝導性と十分な強度並びに加工精度、そしてロデニウス大陸だけで腐るほどの埋蔵量がありそうだ、と…』
「そうなんだよー! これあったら魔導艦も十分作れると思うよ!」
やたらにハイテンションな"明石"である。
「機関にも使える耐熱性もあるわね。その分、加工難度が高いのが欠点だけど」
"夕張"が情報を付け足す。
この世界に転移し、そして"釧路"が着任してからというもの、"明石"率いる工廠組が心血を注いで研究しているのが、魔導関連の技術である。当たり前だ、地球には存在しなかった未知の塊なのだから。
魔導関連研究は現在複数の派閥に分かれており、"明石"は主に魔導金属の研究、"釧路"は魔法の発動術式の解析と科学への応用を研究テーマとし、"龍驤"は魔法発動の方法に興味を持って(本人曰く「魔法と陰陽道と何がちゃうのか気になんねん。解析したらウチもすごい魔法使えるかもわからんし!」とのことである)、"木曾"は「世界最強の魔導魚雷の極致」とか「世界最強の誘導弾」を目指して、"夕張"は主に
「ってことで、今後ロデニウスで魔導艦を建造するなら、このヒヒイロカネを使うのが得策だと思うわ」
「おー、こりゃ良いな。ちなみに魔導艦って何だ? 魔法金属使ってたら魔導艦なのか?」
"木曾"の質問には"夕張"が答えた。
「簡単に言えば、魔導エンジンを搭載し魔法を動力として使う軍艦のことですね。旧パーパルディアの魔導戦列艦なんかも一応魔導艦に入ります」
「…あれエンジンあるか?」
「い、一応数えられますよ。あれは『風神の涙』を使って魔法で風を起こし、それを帆に受けて航行する代物なので…」
「なーんか違う気がすんだが」
厳密に言えば、エンジンのない戦列艦は「魔導艦」とは言えないであろう。
「これで議題1番はだいたい終了ですね」
逸れ始めた話を"明石"がまとめた。
「続いて議題2番、新兵器の開発状況と今後開発すべき兵器について! まず釧路ちゃん、お願いね!」
この手のことは真っ先に専門家に割り振るのが定石である。
『はい、まず航空機から行きましょうか。艦上偵察機は彩雲のアップデートを完了し、これまで運用していた
さらに、艦上戦闘機もアップデートを完了し、全機が「
ざっくり説明すると、「彩雲」はもともと最高時速609㎞のものを使用していた(史実でいう彩雲一一型である)が、これにターボチャージャーを取り付けて高高度飛行性能を高め、最高時速を695㎞まで引っ張り上げた機体を作ることができたのだ。これを「彩雲二二型」として、ロデニウス海軍第13艦隊は採用した。
「烈風」については、最高時速624㎞をマークした機体を「烈風一一型」と称して艦上戦闘機にしていたのだが、エンジン性能を上げると同時に少し大型化した機体を「烈風二二型」として新たに採用したのだ。
『また、艦上攻撃機や艦上爆撃機についてですが、精鋭部隊を除いては艦攻も艦爆も「
ここでいう精鋭部隊というのは、主にネームド妖精たちを配属した航空隊である。たとえば601空とか931空、あるいは
『1つだけ、やたら古い機体を使っている隊がありますけど、あれはねぇ……』
何とも言えない微妙な顔をする"釧路"。
「何使ってんだ、そのやたら古い機体って」
『Ju87C改、いわゆるシュトゥーカです』
「あー……」
「あいつらかいな!」
「あそこはねー…」
納得すると同時にこれまた微妙な表情を浮かべる一同。
「アレは別モンやろ」
「だよな。あんな旧式機でどうやってあんな戦果出してんだか分からん」
「もはや悪魔ですよね…」
「古いことは決して悪いことではない、ということでありんせんか?」
「いや戦争してるんだよ!? アップデートしていかないと負けちゃうの!」
"畝傍"はちょっと感覚がズレているようである…。
『あと1つ。一航戦と五航戦の方に手伝ってもらって、「流星」を新型艦攻に換装しました!』
「何作ったの?」
『AD-1スカイレイダーです!』
「おおっ!」
"明石"が目を輝かせる。
「搭載量3トン…!」
『そうです。魚雷2本抱えても平気な、モンスターマシンができましたよ!』
何だか爆薬入りの便器やキッチンセット、果ては浴槽まで抱えそうな機体である。
『で、新兵器の開発についてなんですが、一番重要なのはやはり誘導弾、そして高性能レーダーですね。特に対空誘導弾の配備が急務です』
今のロデニウス海軍第13艦隊に配備されている対空誘導弾は、携帯型である「FIM-92A スティンガー」しかない。スタンダードシリーズのような艦対空誘導弾が必要である。
……そもそも誘導弾自体を配備している国家自体がこの世界にほとんどない、という事情はさておき。
「艦対空誘導弾は、今工廠で研究してるよ。VLSと一緒にね」
"明石"が情報を付け足した。
『分かりました、ではこの戦争が終わったら一気に進めていきましょう』
「だね!」
特大フラグが立ったような気がするが突っ込んではいけない。
「あとは対潜魚雷だな。とりあえず有線誘導の奴を研究中だ」
「私は砲をやってるよ。速射砲の形はだんだんできてきた」
「ウチは航空機やね。今は…何やったかな、ファントムとかいうのを作ろうとしてるで」
どえらい魔改造が進行しているような気がする…。
「議題2番はこんなもんかな。で、議題3番について木曾ちゃんから何か案があるんだっけ?」
"明石"の質問に、"木曾"が頷いて口を開いた。
「その、前の会議で『短魚雷を活かした雷撃特化艦』ってアイデアが出たの覚えてるか?」
「ありましたね」
出席者一同がうんうんと頷く。
「ただ、やっぱりそれは無しかなって、
はっきりと言い切った"木曾"に、"明石"がやや落ち込んだ。しかし、話はそこで終わりではなかったのである。
「けど、そこで発想を切り替えた。同じ対艦戦闘に特化させるなら……魚雷よりむしろ誘導弾じゃないか、ってな」
"木曾"がそう言った途端に"明石"の目が輝きを取り戻した。
「なるほど、つまり重雷装巡洋艦ならぬ重ミサイル巡洋艦として戦えるようになりたい、と!?」
「まあそういうことだな。しかも、水上目標ならばどんな敵にでも対応できるようにしたい。何かアイデアないか?」
真っ先に"釧路"が発言した。
『では、これでどうでしょう?
CIWS機関砲を除いて、武装は全てミサイルかロケット弾。対地、対空、対艦、対潜全てミサイルとロケットで対応するのです。対地はVLS対応のトマホーク系列、対空はスタンダード系列とスパロー系列、対潜はアスロックもしくは対潜ロケット砲で良いかと思います。
メインで使う対艦ミサイルは「P-1000 ヴルカーン」。これは全長12メートル、直径1メートル、重量約10トン、炸薬量はTNTで500㎏、飛翔速度マッハ2.4、射程700㎞以上の怪物で、「10万トン級原子力空母を撃沈する」ために開発された超大型対艦ミサイルです。少々古いミサイルなのでロフテッド軌道とかで飛ばすのは難がありますが、命中さえすれば大概の軍艦に致命傷を負わせられるデカブツです。
このP-1000ないしはその改良型の発射機を、1164型巡洋艦よろしく舷側にずらっと並べます。酸素魚雷の発射管と入れ換える形ですね』
1164型というのは、スラヴァ級ミサイル巡洋艦のことである。
スラヴァ級巡洋艦の画像を調べると、艦橋の両脇にぶっとい管のようなものが片側だけで8本も並べられているのが目につく。このぶっとい管から発射されるのが、P-1000である。
『10万トン級原子力空母だろうと沈められるミサイルです。たとえラヴァーナル帝国が持つという海上要塞パルカオンであっても、直撃すれば無事ではすみません。このデカブツをありったけ搭載し、味方の攻撃で相手の防空能力が飽和し護衛艦をあらかた沈めたところに、主力艦を葬る一撃必殺兵器として叩き込もう、という発想です。
どうでしょう、なかなかにイカした改造案だと思いますが?』
超脳筋発想である。
というか、これをやられた相手は堪ったものではないだろう。
「どれくらい搭載できるんだ?」
『えーと、北上さんの艤装を参考にして、P-1000の発射機の大きさから考えると……おそらく連装発射機を最大で片舷6基。両舷合わせて12基も装備できます。発射機1基につき4発のミサイルが入るので…』
「48発か」
"木曾"の目がキラリと光った。それだけあれば十分、と言いたげだ。
実際、"北上"、"大井"、"木曾"の3人にこの改造を施した場合、48×3=144発ものP-1000を発射できる。ミサイルが大きすぎて戦場での次発装填ができないのが難点だが、それは魚雷も同じことである(実のところ魚雷バカだった日本海軍が次発装填装置なんてものを装備していただけで、同時期のアメリカやイギリスの駆逐艦はそんな変態機構持っていない)。魚雷と同じような運用をしながら、魚雷を上回る威力の一撃を有効に叩き込めるとなれば、味方にとっては頼りになるだろう。最大で140隻以上もの主力艦をいっぺんに沈められるなど、敵にとっては悪夢でしかないが。
他にも次々と案が出てくる。
「対艦ミサイルをP-700にして、VLSで全部運用できるようにするのはどうかな?」
「いや、海上要塞とかいう化け物っぽい奴の存在考えたら、やっぱりP-1000持ちたいよなぁ。原子力空母沈められる威力は魅力だぜ」
「
「それにそんなぎょうさんのVLSどこに設置する気や…」
「一応、艦橋前の主砲2基と後部の主砲も撤去すればスペース確保できますね。あとは、機関換装のついでに煙突取っ払うとか…?」
「アスロックで対潜するなら、爆雷投下軌条も要らなくなるわね!」
「えらい大工事やな」
こういう案を話し合う時は全員真剣な表情をしているが、皆揃って楽しそうでもある。
「そうそう、そのついでに畝傍ちゃんの改造案もまとめたいなって」
「あちきでござりんすか?」
ここに来て、蚊帳の外状態だった"畝傍"に急にスポットライトが当たった。
「
両手をワキワキさせる"明石"に、若干引く"畝傍"。
「どんな案が出てんだ?」
"木曾"の質問にはまず"夕張"が答えた。
「私から1つ。かなりの魔改造になりますよ。
私の案は、三胴船案です。元々畝傍ちゃんの艤装は、タンブル・ホーム構造のためにトップヘビーがひどいので、左右に大きなアウトリガーを取り付け、インディペンデンス級沿海域戦闘艦よろしく三胴船にしよう、というものです。兵装は木曾さんの改造案と同じく、ミサイル主体。ただ、木曾さんが大物食い狙いなのに対して、畝傍ちゃんのは敵の護衛艦を撃沈したり大型主力艦の火器管制レーダーを潰すことを目標にします。そのためハープーン系の対艦ミサイルをVLSに詰めてアウトリガーに山ほど搭載し、ミサイル飽和攻撃プラットホームとして運用します! どうでしょうか?」
"明石"がちょっと難しい顔をした。
「ものすごい魔改造ね。ムーのラ・カサミ改もびっくりするレベルだわ。
ただ、三胴船にしようとすると、工期が長くなる上に改造コストが高くつくのよね……」
ただでさえ提督が工廠で使う資金の調達に苦労していることを、"明石"は知っているのである。
「かというてトップヘビーはどないかせなアカンし、難儀なもんやね。装甲板に魔術回路書き込んで、魔導艦としては使われへんの?」
これは"龍驤"の意見。
「機関の換装はもちろんやりますよ。その際に、新型魔導機関のテストベッドになってもらうのも良いですね!」
「速力が30ノットは要る、と聞いた時には気が遠くなったでありんす…」
今の"畝傍"の最高速度は18.3ノットなのである。"
「バルジ使えねーのか?」
「バルジね、それは確かに1つの案ね。少なくとも三胴船にするよりは色々と安上がりでしょうし」
とここで、"釧路"が発言した。
『その、畝傍さんのタンブル・ホーム構造なんですが、どうにかしてステルス性に繋げられません?』
「「「え?」」」
一同が呆気に取られた。当の"畝傍"はステルスそのものの概念を知らないので、宇宙空間をバックにした猫のような顔をしている。
『ズムウォルト級駆逐艦という艦は、ステルス性獲得のためタンブル・ホーム構造使ってるんですよ。その設計思想を活かし、機関を交換してマストを全撤去、VLSを艦体の外板に直に張り付けた上で大型バルジで安定性を確保すれば、どうにかできるかもしれないと思います。
ただこの場合、VLSが斜めに傾くので、ミサイルは斜めに発射されることになります。なので注意が必要ですね』
VLSは「垂直」発射システムの略称であるが、何も全部のミサイルを垂直に撃ち上げる訳ではないのである。
『これでしたら、もう少し工期とコストを抑えられると思うのですが』
「なるほど、これは良さそうね。第二案として採用するわ! いえ、むしろ第一案より採用率高いかも! それにバルジ組み合わせて安定性上げたら良さそうね」
「その場合、武装はどうすんだ?」
「やっぱりミサイル主体?」
『そうですね、機関砲を除いてミサイル主体かと。ただ、イージスシステムや対地ミサイルまでは詰め込む余裕がないかもしれません。データリンクだけ整備しといて、対艦、対空、対潜の各ミサイルを搭載しまくります。あと、場合によっては一撃必殺の艦首軸線砲なんてのもありかもしれません』
「「「おおぅ…」」」
艦首軸線砲には一同ドン引きである。
「
"龍驤"の台詞が全員の総意である。
「もうちょい工夫してみるわね。あと、そうなると畝傍ちゃんの艤装に書き込む魔法陣も研究しないと…」
「よっしゃ、魔法陣ならウチに任しとき!
「なら俺は、釧路さんに相談しながらミサイルの高性能化目指すか」
「それなら私は主砲周りとレーダー周りかな。これからの砲のトレンドは対空戦闘だよ!」
方向性は違えど、より強く、より戦えるようになりたい、という熱意を全員が持って動いているのである。こういう方々がいるからこそ、第13艦隊は戦えるのである。
「最後に議題4番行くよ!」
「提督にプレゼントする新型艦、やったっけ?」
「そう。これは釧路ちゃんの意見を元に私が仮設計図引いたものなんだけど…」
どこからか丸めた青い紙を引っ張り出し、"明石"がそれをテーブルに広げる。全員の目がそれに釘付けになった。
そこには、フラットな最上甲板を持った姿の艦艇が描かれていた。艦首甲板にはカタパルトがあり、しかもアングルド・デッキまで備えてある辺り、空母のように見える。だが…
「後部にウェルドックあんのか? どっちかといえば強襲揚陸艦的な奴じゃねえか?」
"木曾"が的確なツッコミをしてくれる。
「そうなの、この艦は今の提督の戦い方を元に『泊地から遠く離れた地でも鎮守府機能を維持できる』ことを目標に、艦娘の出撃・帰還用のウェルドックを設けて『洋上の鎮守府』となることを目指した艦。あと、万が一タウイタウイ泊地が機能不全に陥った時に備えて、E-4ナイトウォッチのような役割を果たすことも期待してるの」
「なるほど…ちゅうことは、鎮守府機能が最優先なんやね?」
「そう、だから武装はVLSとCIWS機関砲で自衛できる程度に抑えてる。その代わりに、鎮守府機能と居住機能は最優先だし、自衛手段としての航空機運用能力も頑張ってるよ!」
「ほーん…ちなみに艦載機は何載せるん?」
「これですね」
そう言って"明石"が示した機体に、全員が青くなった。
「おい、これのどこが『自衛用』だ?」
「何だかよく分かりんせんが、すごい機体かとは思うでありんす…」
「カタパルトにアングルド・デッキあるから、使うのはジェット機だとは思ってたけど、これは…」
「どこが自衛やねんっ! フツーに相手制圧できるやん!」
『まあまあ、鎮守府と艦隊の制空権を守るのは大事ですし』
「だからってこりゃやりすぎだろう…」
どうやらとんでもない機体だったらしい…。
「将来的には、ロデニウス海軍の他の艦隊の艦艇を近代化して、21世紀地球クラスの艦隊を目指すって話も出てるの。そのテストベッドとして、この艦を建造したいってのもあるのよね。
というわけで、この艦を建造する時は建造コスト度外視! 新技術もバンバン投入して、戦術情報処理システムも最新イージスシステムとかをガンガン使っていくよ! あと、レーダーなんだけどさ…ヤマトさんの全天球レーダー、あれ使いたいなーって」
コスト度外視とはいえ、とんでもないことになりそうである…。
会議はその後も続くのであった。
◆◇◆◇◆◇◆◇
タウイタウイ泊地工廠で遠い未来を志向した大規模な計画が進行する一方、タウイタウイ島を西に2万㎞以上も離れたパガンダ島では、より近い未来を志向したより攻撃的な計画が策定されていた。
中央暦1644年3月25日、ムー大陸西方500㎞沖 パガンダ島。
「総員傾注。作戦計画概要を説明する」
パガンダ軍港に応急設置された講堂に艦娘たちを集め、どこかで聞いたような台詞と共に提督たる堺が説明を開始する。集まっているのは、もともとムー派遣部隊に選ばれていた総勢132人に加えて、"ヤマト"、"
「我々は中央暦1643年、つまり去年の2月以来、グラ・バルカス帝国と戦ってきた。そしてそのことごとくに勝利を得た。これも偏に、皆の健闘あって得られたものである。俺としては皆には感謝の念を禁じ得ない。ここまで本当にありがとう」
頭を下げた後、堺は説明を再開した。
「さて、そのグラ・バルカス帝国だが、主力艦隊のほぼ全てを失ってなお、彼らはまだ諦めていない。現に我が国やムー国その他各国の外務省が和平もしくは停戦に向けた外交交渉をさんざん打診しているが、彼らはこれらを一顧だにしていないらしく、黙殺を決め込んでいる。それも、3月31日までに返答無き場合はさらなる攻撃を実施する、と警告しているにも関わらず、だ。
さて、皆の中には2月のレイフォリア攻略作戦以降、休む暇もなく新たな訓練を課されてしまい辟易すると共に、いったい何をするつもりなのか疑問に思っている人もいると思う。それを今から説明する」
あの山…確かダイジェネラ山といったか…の要塞を攻略した後、第13艦隊ムー派遣部隊の艦娘たちは全員がパガンダ島への集結を命じられている。艤装の修理や母艦航空隊の補充、それらに重なる休憩が終わった後には、軍港そのものもを仮想敵として猛訓練が課せられていた。そのことから、真珠湾攻撃もかくやの敵重要拠点攻撃になるのではないかと予想している者もいる。
「4月1日午前0時を回ってなお、帝国から何のリアクションもなかった場合、第13艦隊は直ちに作戦行動に入る。今回は久々に大規模作戦だ。
戦略作戦『ラヴクラフト』。それが、今回発動する作戦だ。内容は大雑把に言うと、徹底的な通商破壊作戦。グラ・バルカス帝国の本土は小さな島国だ。地図で言うとここになる」
言いながら堺はプロジェクターを操作し、ステージ背後の白壁に地図を写し出す。そしてレーザーポインターで本土を示した。地図の縮尺のせいもあるが、かなり小さな島がポイントされる。
そこから縮尺が拡大され、本土の全貌が見えるくらいの大きさになった。
「面積はざっと250万㎢で、これはアルゼンチンよりやや大きい程度のものだ。この大きさでは、我々が撃破した数の主力艦隊と陸軍部隊、それに数多くの国民を支えるのは、どう考えても無理だ。
ということで、グラ・バルカス帝国は国家を支える資源の多くを輸入に頼っているものと考えられる。現に独立第一飛行隊による強行偵察でも、多数の輸送船が本土と植民地らしき他の島ないし大陸の間を往復している様子が確認できている。
この輸送船団、並びに物資の積出港と物資を生産する工場や鉱山、農園等の施設並びに各種軍事施設、そしてそれらの間を連絡する道路や橋、線路などが、我々の攻撃目標となる。要するに、奴らの補給を根絶やしにし、腹ペコにして干上がらせて講和させようって魂胆だ」
非常に悪辣という他ない。
「そして、それらの手始めになる『呼び声作戦』として、ここ」
レーザーポインターが地図のある一点を指す。そこには大規模な港を併設した大都市があった。
「ここを叩く。航空写真を見てもらうと分かるが、ここには王城のような施設がある。また、無線電波のやり取りが多いことと、その暗号通信の解読結果から、ここに敵軍の総司令部があることが確定している。つまり…ここはラグナという都市で、敵の首都なんだ。第一撃として、その首都にご挨拶をぶちかます」
初っ端に敵国の首都を叩き、グラ・バルカス帝国の皇帝一族から一般市民まで恐怖に陥れようというのである。つまりはパーパルディア皇国相手にやった「アサマ作戦1合目 トワイライト作戦」の焼き直しである。
「しかも、捕虜から得た情報によれば、グラ・バルカス帝国とこの世界の暦にはズレがあり、この世界の暦でいうと4月2日がグラ・バルカス帝国における新年だそうだ。その4月2日に攻撃をかければ、奴らのメンタルに余計にダメージを喰らわせられるだろう。もちろんだが、この攻撃は日の出と同時に敵首都に殴り込む形で行う」
鬼畜の所業としか言い様がない。
「この首都攻撃は、ムー派遣部隊全軍を以て行う。その後は各任務部隊ごとに分散し、各目標に対して航空攻撃、艦砲射撃、そして魚雷による攻撃を行ってもらう。任務部隊の編成と攻撃目標は都度指示するが、任務部隊の編成は事実上固定だと思ってくれ。
で、ここからが重要なんだが…作戦後の任務部隊の補給及び航空隊の補充、艤装の修理についてだ。敵の勢力圏下での作戦行動になるため、泊地のような固定した拠点を用意できない。そこで、釧路とヤマトの2人を移動拠点として運用する。この2人なら、飛行どころか宇宙空間航行が可能なんで機動力は高い。それに2人とも高性能な艦内工廠及び補給設備を持ち、さらに居住能力も備えているから、移動拠点として申し分ない。故に、2人にはこの作戦の期間中、一時的に鎮守府としての役割を果たしてもらう」
堺もよく分かっていた。今回の作戦はこの戦争を終わらせるためには極めて重要なものであり、なおかつ敵の勢力圏に長期間留まって敵の重要目標を攻撃し続けなければならない今次作戦は、極めて厳しいものだということを。
だからこそ堺は、やれるだけのことは全てやった。港湾襲撃訓練や対空戦闘訓練はしつこいくらいに何度も実施したし、ナパーム弾も材料ごとありったけ用意した。艦載機は、戦闘機を「烈風一一型」から「烈風二二型」へ更新し、艦攻と艦爆は一部の精鋭部隊を除いて装備機を「流星」で統一し、機種転換の間に合った最精鋭部隊は「AD-1 スカイレイダー」を装備して習熟訓練を繰り返した。攻撃目標の種類と規模、駐屯兵力の多さ等から重要度を判定し、目標の立地に合わせて攻撃手段を策定、任務部隊を編成した。合わせて敵輸送船団の航路と規模も偵察情報を元に詳らかにし、潜水艦の艦娘たちに目標を割り振った。おまけに、潜水艦の艦娘たちの艤装の改修も完了させた。
あとは実行あるのみ…と堺は考えている。
「ああ、ヤマトにはすまんが、この『ラヴクラフト』作戦遂行中に限り、俺はヤマトで指揮を執る。今回は味方があっちこっちに展開する関係で、味方の状況を把握し一元的に指揮を執るとなると、よっぽど優れた艦隊司令部施設でないと無理だ。この作戦の総指揮を執るに満足な艦隊司令部施設は、ヤマトにしかない。
また、ヤマトは火力、防御力、機動力いずれも比類無いレベルでぶっ飛んでいるため、敵地内陸部に存在する拠点を叩く任務をも複数課せられている。なので本当に申し訳ないが、ヤマトには大きな負担をかけてしまう」
すまなそうな顔をする堺を、"ヤマト"の涼やかな瞳が見つめ返した。
「提督、私を誰だと思っておいでですか? 私はタウイタウイ最強の戦艦ですよ? 多少のことなど、困難でも何でもありません」
なお堺には黙っているが、"ヤマト"はこれらの負担を全てツケにしているつもりである。ツケということはつまり、どこかで返還を要求することになるわけだが…いつ返還を請求するか、そしてどんな手段を以て支払ってもらうかはお察しください。
その後質疑応答を行った後、作戦説明を終える前に堺は「あること」を説明しておかねばならないと思った。
「そうだ、最後に重要事項の説明がある。あと一息で済むから、皆心して聞いてほしい。
今回の作戦では、我々はグラ・バルカス帝国の勢力圏の奥深くまで斬り込むことになる。当然敵も迎え撃ってくるだろう。だが…その際に、敵が"あること"をやりかねない、と俺は懸念している。それは何だか分かるか?」
艦娘たちも妖精たちも、首を傾げている。…が、よく観察すると、いくつか目を見開いたりした顔が見えた。「まさか…」とでも言おうとしているかのようだ。
「気付いた奴もいるらしいな。そう、俺が懸念しているのは…これだ」
堺はスタンバイさせていた映像を再生した。画質の荒いカラー映像、空に向かって激しい対空砲火が撃ち上げられる。その中を1機の航空機が突っ込んできて……映像の撮影者が乗っていたらしい軍艦に激突、爆発した。
「……!!」
艦娘たち、妖精たちの間に大きな動揺が走る。そんな中で今度はやや引き気味にした映像の中に航空機が映し出され、航空母艦に体当たりした。大きな爆炎が発生し、空母が黒煙に包まれる。
「そう、これだ。神風特別攻撃隊。いや、神風に限らず、『桜花』や『回天』、『海龍』、『震洋』などの手段も考えられる。
俺が懸念しているのは、劣勢に陥ったグラ・バルカス帝国が特攻をやってくるのではないか、ということだ」
堺がそう言った直後、群衆の中から声が上がった。
「神風だぁ!? 提督、お前マジで言ってんのか!?」
怒声にも似た声を張り上げたのは"
「冗談でこんなことは言わん」
堺は冷静に返事した。
「グラ・バルカス帝国はかつての日本と同じく、帝政を採用している。そして捕虜の証言や押収した初等教育機関の教科書などから考える限り、国民の愛国心はかなり高いと見られる。それらの事情から、俺はグラ・バルカス帝国が特攻戦術を使ってきたとしても何もおかしくないと判断した。
もちろん、俺の懸念が杞憂に終わってくれればそれで良い。だが俺たちは戦争をしているんだ。戦いは常識に囚われてはならない、となればかつての日本人が思いついたことくらい、グラ・バルカス帝国人にだって考えられるだろう。違うか?」
「そういうことか……道理でヤケに徹底的な対空戦闘演習をさせてくると思ったぜ…クソっ!」
「頼むぜ、摩耶。特攻をやられた時には大きな衝撃を受けることになると思う、それをなるべく軽減するためにも、俺はこの説明をしたんだ。それに、対空戦闘演習の相手となった航空機のAIにも、特攻プログラムを仕込んであったんだ。
いざやられた時に、対空砲の照準を鈍らせるなよ? もし躊躇ったら…死ぬのは俺たちだ」
「んなこた分かってらぁ! まだ受け止めきれちゃいねぇが……ああちくしょう、やるっきゃねえ、やってやるぜ! アタシが止めずに誰が止めるってんだ!」
"摩耶"は無理やり飲み込もうとしているようだ。口調が上官に対するものとは思えないくらい乱暴になっているが、堺は気にしないことにした。
「そういうわけで、もしもグラ・バルカス帝国の航空機や潜水艦を捕捉し、特攻の可能性ありと判断された時は…ためらうな、撃て。撃たなければ、諸君の命が奪われる。どこぞのマンガじゃねえが、負ければ死ぬ、勝てば生きる、戦わなければ勝てないんだ。絶対にためらうな、航空機なら海面に叩きつけられるかバラバラになるまで撃て。潜水艦なら乗員の遺体と圧壊音を確認するまで、何発でも爆雷とヘッジホッグを叩き込め。
最も重要なことなので再三申し置く……敵に特攻の予兆あらば、敵が死ぬまで撃て、ためらうな。ちょっとでもためらえば仲間が死ぬ。最後まで絶対に油断するな、確実に落とせ。良いな?」
静まりかえった講堂に、堺の声だけが冷たく響いた。
そして、第13艦隊の中で既に行動を開始している艦娘もいるのである。
「副長、確か任務はグラ・バルカス帝国本土及び周辺海域における偵察と通商破壊…で合ってる?」
「Ja、そのように命令が出ています」
鳥1羽も見えない大海原、波を切って進むのはUボートIXC型潜水艦「
現在の"呂500"の艤装には、吸音タイルがあちこちに貼られた他シュノーケルが装備され、さらになんと新型機関としてAIP(非大気依存推進)機関のはしりである間接式ヴァルター機関を装備されている。
「偵察と通商破壊、か…。うーん…」
下顎に手を当ててやや下を向き、何やら考え込む"呂500"。方針を考えているらしい。
しばらくして顔を上げた彼女だが、それを見た副長妖精はぎょっとした。彼女の顔は、明らかに「悪巧み」をした時の、黒い笑みを浮かべた顔だったからだ。
「せっかくだから、ここで一丁大きな仕事をしてみようかって」
「ほう、大きい仕事ですか。どうします?」
「できたら、軍艦と輸送船を同時に狙ってみたいって」
「ふむ、すると
副長妖精の問いに"呂500"は首を横に振る。そしてどこか遠くを見る目で話し始めた。
「偉大なUボートの艦長さんには、単身スカパー・フローに潜入して戦艦を沈めた方がいますって。その他にも白昼堂々ドーバー港を襲ったり、リヴァプール港に浮上砲撃を見舞った方もいますって。
なら、ろーちゃんにもできないことはないって!」
既に彼女の表情はどこか狂気めいたものを孕んでいる。
ここまでくると、付き合いの長い副長妖精には彼女の考えがおよそ読めていた。それは、これまで彼女が考えついたことの中でも最も奇想天外で…そして、自殺行為に限りなく近いものだった。
「いや待ってください艦長! アンタ死ぬ気ですか!?」
猛烈に嫌な予感を抱いた副長妖精は、慌てて"呂500"を止めにかかる。しかし。
「自殺願望がある訳ではないですって。これはろーちゃんのこれまでの経験に基づくカンですって!」
「……はぁ…
彼女の決意が固いことを察し、副長妖精は何も言わないことにした。こうなれば一蓮托生、最後まで悪あがきしてみるか、と開き直ったのである。
そして"呂500"は、副長妖精が懸念した通りの命令を下した。
「前進原速!
目標、グラ・バルカス帝国
「「「「「えええええええーーっ!!!??」」」」」
あまりにも想像を超えた命令に、「呂500」乗組の妖精たちは揃ってサイレントハンターらしからぬ悲鳴を上げた。
ラヴクラフトって名前を使う時点で、もう何となく語録は察しがついているでしょう。
そしてなんと、敵国の首都にたった1隻で殴り込もうとしているろーちゃん……果たして上手くやれるでしょうか?
ちなみに、ろーちゃんの言う「偉大なUボートの艦長さん」たちは、以下の通りです。ろーちゃん、いつの間にニコ動見てたの?
・単身スカパー・フローに潜入して戦艦を沈めた方:U-47艦長ギュンター・プリーン氏
・白昼堂々ドーバー港を襲った方:U-765艦長如月千早氏
・リヴァプール港に浮上砲撃を見舞った方:U-124艦長海鼠氏
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次回予告。
グラ・バルカス帝国との戦争を終わらせるべく、ついに「戦略作戦ラヴクラフト」の発動を決定した堺提督。その初撃として攻撃目標に選ばれたのは、グラ・バルカス帝国の帝都ラグナだった。第13艦隊の主力を成す大規模機動部隊に先駆けて、サイレントハンターがその牙を剥く!
次回『ラグナの惨劇、ゲーニッツの悪夢』