鎮守府が、異世界に召喚されました。これより、部隊を展開させます。 作:Red October
暑い日が続いておりますね…皆様はお元気ですか? 私はどうにかこうにか、といったところです。
今回もネタ入りになっています。見る人が見ればすぐ分かるでしょう。
中央暦1644年4月14日、第二文明圏外西側 ルロケージュイアン島。
この島は、第二文明圏外西側と呼ばれる世界の中でも東寄りに位置する島である。距離で言うならば、第二文明圏のあるムー大陸から見て南南西5,900㎞の位置にある。島は南北6㎞東西39㎞とかなり小さく、大まかに言えば北に向かって弓なりに曲がった形状をしている。尤も、文明圏で流通している大概の世界地図にはノミのように小さな点でしか描かれないから、文明圏の住人では詳細な形状を知らない人の方が多い。
この島は元々1つの国が独立して統治しており、文明圏外国でありながらその特産品によって多少名を知られていた。その特産品とは、「天使の実」と呼ばれる赤い木の実である。これを寝る前に1粒食べれば、素晴らしい夢を見てすっきり起きることができる……とされているが、残念なことに夢の内容は起きると同時に忘れてしまう。そのため結構な眉唾物だと思っている人も多い。
ちなみにこの「天使の実」、なんと旧パーパルディア皇国の皇族レミールがその存在を知っていた。世界の反対側でもその存在が知られているとなると、この実がなかなか有名な特産品であることが容易に窺い知れよう。ちなみに堺は、この実を何度か服用している。
第二文明圏外国家の例に漏れず、この島もグラ・バルカス帝国によって占領されている。現在ではグラ・バルカス帝国が西方世界に陸上兵力や艦隊を派遣する際の補給拠点として、また西方の植民地で産出した資源を帝国本土へ運ぶための中継補給拠点として使われている。
弓なりの形をした島の南部には良港にできるモナーレ湾があり、グラ・バルカス帝国はここに港を築いて軍事拠点兼補給拠点としていた。また、島の中央部の密林を切り開いて2,500メートルの滑走路を持つ立派な飛行場を築き、これも軍事拠点として運用している。
ルロケージュイアン島はグラ・バルカス帝国軍にとっては「後方拠点」であり、しかもグラ・バルカス帝国から見て西方世界は自国より圧倒的に遅れた技術しか持たない「蛮族」の国家ばかりであった。そのため、この島に駐屯する部隊の任務は「拠点防衛」と「反乱の鎮圧」になってはいたが、この島にまで到達し得る敵などいないと思われていたことから、事実上の休養地扱いになっていた。
4月14日 午前5時12分、ルロケージュイアン島中央部にあるグラ・バルカス帝国軍飛行場「クルドル基地」では、哨戒飛行の第一直に任ぜられた「アンタレス07式艦上戦闘機」1個小隊4機が発進しようとしていた。
「ったく、朝早くから眠いったらない……こんなとこ襲ってくる敵なんていないでしょうに」
パイロットの1人であるアシュリー・マヌエル伍長は、大欠伸をしながらも操縦桿を握り発進の順番を待つ。彼女は小隊の4番機を受け持っているため、先任士官3人が飛び立つまで待たねばならない。
「まあ命令だから、やることはやりますけどね…っと!」
管制室から発進命令を受け取り、続いて誘導員が旗を振ったのを確認し、彼女はブレーキを解除してスロットル・レバーを押し込む。「アンタレス」の機体が少しずつ滑走を始め、速度計の針がぐるぐると右回転する。
時速120ノットで尾輪が宙に浮いた。そして時速150ノットに達したところで、アシュリーは操縦桿を引く。「アンタレス」がふわりと浮き上がり、島の森林の緑が下方に吹っ飛んでいった。これからしばらくは上昇していくため、白み始めた空しか見えない。
(眠いのは事実だけど……ま、日の出を一番早く見られるのだけは役得ね。まるで、アタシと帝国の行く末を照らし出す栄光を先取りして浴びているみたい)
アシュリーはそう考えている。
高度3,000メートルまで上がったところで、「アンタレス」4機は編隊を組み、島の上空を旋回し始める。旋回と言っても、島の外の海まで出て、燃料が続く限り時計回りに何度も周回するだけだ。
このため、グラ・バルカス軍人の中には「遊覧飛行」とか抜かす口の悪い者もいる。実際は何もない海の上を飛ぶだけなので、遊覧できるような景色でもない。たまに漁業中の現地人の帆船がいる他は、空と海ばかりで景色が変わらないので、20分もすれば退屈になる。
アシュリーにとっては、今日はまだマシな方だった。日の出のおかげで、リアルタイムに空の色が変わる瞬間を見られるのだから。
「綺麗……」
東の水平線の辺りがだんだん白くなってきたと思うと、巨大な白い光の玉がその上端を覗かせる。それと同時に、頭上を覆っていた闇が、潮が引くようにすーっと消えていく。
この光景だけは、何度見ても飽きない。
「やっぱ素敵ねー…ん?」
その時、目の良い彼女は気付いた。朝焼けを背負うようにして、何かが複数空を飛び、こちらに近付いてきている。海面付近の低空だ。まだ距離が遠く、ゴマ粒のような黒い点にしか見えないが、だんだん大きくなってきている。
(あれ…何か、アレの後ろ光ってない?)
アシュリーがそう思った、その時だった。
黒点たちは突如、一斉に上昇に移ったのだ。同時に、その黒点たちが後部から矢のような白い光を曳いているのがはっきりと見えた。
「な!? 速っ!?」
黒点たちはみるみる大きくなり、見たこともない姿をした航空機へと変わった。そして一部の機の主翼下から、何か小さな物体が白煙を噴いて飛び出す。
「隊長! 未確認航空機が…!」
アシュリーが無線機のプレストークボタンを押して叫ぶのと、白煙を噴く小さな矢が隊長機に突き刺さって爆発するのと同時だった。
「!!」
隊長機は瞬時にバラバラに砕け散り、一文の価値もない無数のスクラップと化して落下していく。
「ヤバい!」
本能で危険を察し、アシュリーは風防を開けて飛び降りた。
その直後、すぐ近くに落雷したかのような轟音と、激しい突風が彼女を襲う。
「うわぁっ!?」
吹き飛ばされ、空中でぐるぐると回転しながらも、アシュリーは必死で体勢を立て直して背負った鞄から伸びる紐を引いた。鞄が開き、中からパラシュートが飛び出す。ガバッと音を立ててパラシュートが広がった瞬間、両肩を何かに挟まれたような鋭い痛みが襲うと同時に、落下速度が急激に弱まる。
激しい痛みに、アシュリーの顔が顰められ、唇の間から苦鳴が漏れる。だが、ひとまず助かった。
「危なかった…あとちょっと遅かったら……」
間一髪で虎口を逃れ、彼女は安堵のため息を漏らす。その上を、
ゴオオォォ…!
聞いたことのない爆音を響かせて、見慣れぬ機影が通過する。
投げナイフのように尖った銀色一色の機体形状。後ろに向かって斜めに生えた主翼。後部からは1本の炎を噴き出し、雷のような轟音をがなり立てて、「アンタレス」とは比較にならない高速で飛ぶ。
そして上空には「アンタレス」の姿は既に無く、代わりについさっきまで「アンタレス」がいた位置に計4つの火球が出現していた。火の着いた破片がバラバラと落下している。
「嘘……あの一瞬だけで、全滅!?」
信じがたい光景に、アシュリーの歯がガチガチと音を立てて震える。
「何なの……あの敵機…!」
唖然としたまま、パラシュートに揺られることしかできないアシュリーだった。
ルロケージュイアン島の近海に突如として現れ、グラ・バルカス帝国の誇るアンタレス戦闘機4機を瞬時に屠ったのは、ロデニウス連合王国軍が採用している艦上ジェット戦闘機「F-86D改 セイバードッグ」だった。零戦程度の性能しかない「アンタレス」が、「AIM-9L サイドワインダー」空対空ミサイルから逃げられる道理がなかったのである。
ルロケージュイアン島に展開するグラ・バルカス帝国軍への攻撃作戦として、ロデニウス海軍第13艦隊は『戦略作戦ラヴクラフト』の第003号作戦『ヨグ=ソトース』と同004号『ニャルラトホテプ』を発動し、攻撃に当たる任務部隊として"ディープインパクト"と"オルフェーヴル"を派遣した。"ディープインパクト"が飛行場への攻撃を担当し、"オルフェーヴル"が軍港を守備艦隊ごと壊滅させる予定である。
その"ディープインパクト"第一次攻撃隊の先鋒として突入した"赤城"のセイバードッグ隊から、無線が飛ぶ。
『こちらアサシン1、敵哨戒機の全滅を確認、敵地上空に敵機無し! 総員派手にやってこい!』
後続の航空部隊も一斉に応える。
『アーチャー1了解! ワイルド・ウィーゼルは俺たちに任せろ。アーチャー隊、全機続け!』
『ライダー1、了解した。露払いは頼んだ、滑走路や付帯設備は私らでやる! ロックンロール!!』
『こちらセイバー1。最終仕上げは俺たちに任せろ。草薙の剣、ダーインスレイヴ、クラレント、デュランダル、エクスカリバー、ルクナバード、何でもあるぜ!』
『アーチャー1からセイバー1、お前それ爆弾に名前付けただけだろ!』
『やかましい!
"オルフェーヴル"の第一次攻撃隊からも無線が入る。
『こちらキャスター1。予定通り、軍港施設と燃料タンク群は私たちでやるわ。見てなさい…
『ランサー1から各機、これより軍港及びその周辺にいる敵艦に対して
『バーサーカー隊、取りこぼしはあっしらで片しやすぜ! レッツ・パーリィィィぃぃ!』
どこぞの杯でも巡って争っていそうな台詞の数々と共に、攻撃隊は突入を開始した。高度100メートル未満というかなりの低空を飛んでいた航空機たちのうち、ロケット弾や爆弾を抱えたものが順次高空へと登り、魚雷を抱えた攻撃機とその護衛はそのまま低空を突き進む。これは実は、レーダーを避けるための欺瞞である。対空レーダーに引っかかるのを避けるため、島より100浬も手前で飛行高度を100メートルより下に落としたのだ。
この世界の現地国家には、そもそもレーダーの概念すらない国も多かったため、この世界でいう第二文明圏外西側の植民地に配備されたグラ・バルカス帝国軍は、最低限の上空哨戒をするくらいで敵探知の大半をレーダーに頼っていた。その穴を衝かれた格好である。
時速1,138㎞の全速力で「F-86D改 セイバードッグ」が島の上空へと進入する。上空に上がっていた敵戦闘機は撃墜したが、まだ地上には戦闘機が残っているし滑走路も無事だ。まずはそれを真っ先に叩き潰し、制空権を獲得しなければならない。スピードが命であり、圧倒的な速度を出せる上に対地ロケット弾を持つセイバードッグ改はこの任務に最適なのだ。
「ん…これは…?」
対空レーダーのスコープに突然映り込んだ多数の輝点を見てオペレーターが首を傾げた時には、もう遅い。
『アーチャー1、
ノリノリらしいアーチャー1の通信。
直後、「セイバードッグ改」の下腹から飛び出したロケット弾が高速で対空砲陣地に突進し、突き刺さってその威力を解放した。高射砲が薙ぎ倒され、直後に即応弾に引火して陣地ごと木っ端微塵に吹き飛ぶ。
それをきっかけにして、まさに無限の剣製の如く、無数のロケット弾が驟雨のように降り注いだ。
爆発音で基地の兵員たちがはっとなった時には、もはや全てが手遅れであった。飛来したロケット弾が高射砲の砲座を撃ち抜き、対空機銃が瞬時に破壊される。滑走路に着弾したロケット弾によって滑走路表面のアスファルトがささくれ、砕けた石くれと石粉が宙を舞う。エプロンに並んでいた「アンタレス」戦闘機や「シリウス」艦上爆撃機が、暖機運転を監督していた整備員や慌てて走り寄ってきていた搭乗員と共に吹き飛ばされる。
ドゴオォォォンッ!!!
鼓膜を劈くような凄まじい爆発音が響き、真っ赤な火球が太陽にも負けんとばかりに大きく広がって空へと昇っていく。ロケット弾のうち数発が航空燃料タンクを直撃し、貯蔵されていたガソリンがいっぺんに誘爆したのだ。爆発に伴う衝撃波が逃げ遅れた兵員を薙ぎ倒し、雲にも届けという勢いで大量の黒煙が噴き上がる。本来はライダー隊が狙う設備のはずだが、アーチャー隊は勢い余ってロケット弾をぶち込んだらしい。
虫取り網を連想させる形状のレーダーアンテナにも、1機の「F-86D改 セイバードッグ」が機首を向けた。そのまま時速1,138㎞の高速で突進し、下腹からロケット弾をぶちまける。
アンテナ塔周辺の対空砲が応戦する暇もなく、殺到したロケット弾は次々とアンテナ塔の根元に命中。次の瞬間にはアンテナ塔を構成する鉄の金属パイプが捻じ曲がり、アンテナの重量を支えられなくなった塔があっという間に地上に崩れ落ちる。
まさに電光石火。自国の常識では想像もできない航空電撃戦に、グラ・バルカス帝国軍は完全に後手に回っている。
先制攻撃を仕掛けたアーチャー隊は、ロケット弾を使い果たしてもまだ手を緩めていない。地上を走り、戦闘機あるいは対空陣地に向かう人の姿を見つけるや、容赦無しに12.7㎜機銃で掃射している。雷神の鉄槌かと錯覚するほど猛烈な攻撃の前に、グラ・バルカス帝国軍の兵士たちは迂闊に地上を走ることすらできない有様だ。
その間に、ライダー隊の「AD-1 スカイレイダー」が順番に機体を翻して急降下に移る。その下腹と主翼下には、合計3発の500㎏爆弾と8発のロケット弾! …手加減などどこにも存在しないことがよく分かる。
日本軍機とは異なる野太いエンジン音を響かせ、眼下に広がる飛行場に向けて
『投下ぁ!』
ライダー1の掛け声と共に、最初の500㎏爆弾が投下される。それが見事に滑走路のど真ん中に命中し、炎と黒煙を伴って夥しい数のアスファルト片が噴き上がった。
続けて2番機、3番機と順番に投弾し、みるみるうちに飛行場は黒煙に覆われていく。無傷で残っていた掩体壕に500㎏爆弾が叩きつけられ、屋根に開けられた穴から黒煙が湧き出す。その真下では、直撃を受けたベガ型双発爆撃機が一文の価値もないスクラップにされていた。
飛行場に隣接する司令部施設にも、容赦無く爆弾が振舞われる。2階建の司令部施設は合計4発もの500㎏爆弾を浴びて破壊し尽くされてしまった。
ライダー隊の最後の1機は、司令部から少し離れたところにあるパイロットたちの宿舎を狙…おうとして気付いた。攻撃を受ける司令部から逃げ出したらしい人間が何人か、地面に飛び込むような様子を見せている。よく見ると、その辺りは地面に階段が掘られているように見えた。
これを防空壕だと判断した妖精は、躊躇なく目標を変更する。人間が地面に消える様子を見て、壕のおおよその位置に見当をつけると、半ば当てずっぽうに500㎏爆弾を放り投げた。
投下された火薬と鉄の塊は、司令部脇の一見すると何もない地面に落下した。が、そこにはちょうど防空壕があり、司令部施設から逃げ出した基地司令や幕僚、その他一般兵など数十人が避難していた。爆弾は、防空壕の屋根に被せられた土に突き刺さり、そのまま少し進んで、壕の天井を補強していた丸太とコンクリートの層まで到達してから信管が作動、起爆した。
防空壕はワイバーンの空襲に耐えることを前提にして掘られていた(これは、周辺に航空機や爆弾、航空母艦に類する船を運用する国がなかったせいである)。そのため、導力火炎弾を防げれば良いという考えから、コンクリートで補強されているといってもコンクリートの厚みは薄かった。その天井は爆風を完全には防ぎきれず、砕けたコンクリートや丸太の破片、そして土砂が壕内にどっとぶちまけられた。そして当然のように、中にいた人々は生き埋めにされることとなった。
爆弾1発を投下したライダー隊の「AD-1 スカイレイダー」は、主翼下の爆弾を抱えたまま飛び去っていく…と思いきや、ある程度距離を取ってから旋回し、再び飛行場への爆撃針路に乗った。そして先頭の機から順番に急降下し、残った爆弾を次々とお見舞いする。爆弾を使い果たすと、再び旋回して飛行場へと舞い戻り、ロケット弾による掃射を行った。
これは、「メリーゴーラウンド戦法」と呼ばれる攻撃方法だった。複数発の爆弾を搭載できる爆撃機によって行う攻撃方法で、目標上空でメリーゴーラウンドのゴンドラのように旋回しながら、複数回に渡って爆弾を叩きつけるというものである。本来は陸軍で使われる中型以上の爆撃機を以て行う戦法なのだが、単発機としては頭抜けた搭載量を誇るスカイレイダーなればこそ、為せる技である。
爆弾もロケット弾もすっかり使い果たしたライダー隊が離脱にかかる。それと入れ替わるようにして、800㎏爆弾2発を抱えたセイバー隊の「流星改」が緩降下で突っ込んでくる。
『セイバー各機、攻撃用意……投下っ!』
『おらぁ、草薙の剣だ! 建物全部薙ぎ払っちまえ!』
『輝ける火薬の奔流、受けるが良い!
『こいつはただのクラレントじゃないぜ! 受けてみよ、クラレント・ブラッドアーサー!』
『魔剣ダーインスレイヴに斬られて、ただで済むと思うなよ!』
『受け取れ、ルクナバードだ!』
銘々が名付けた爆弾を投下していく。飛行場一帯に爆炎が広がった。
最後の爆弾が爆発し、それを尻目に攻撃隊が離脱にかかった時には、グラ・バルカス帝国軍クルドル基地に無事な建造物は1つも無かった。司令部施設や兵員宿舎などは怪物に食いちぎられたように大きく崩壊しており、航空燃料タンク群は火山の噴火かと錯覚するような炎と黒煙を上げて燃え盛っている。滑走路も
「な、何だこれは…」
「アンタレスもベガも、1機も残ってない…」
「我が軍の基地が、これほどの被害を受けるとは…!」
防空壕に逃げ込んで命拾いしたグラ・バルカス帝国軍の将兵は、破壊し尽くされた基地を愕然と見つめることしかできなかった。
クルドル基地が攻撃を受けているその頃、モレーナ軍港や周辺にいたグラ・バルカス帝国海軍本国艦隊第65地方隊や、軍港に停泊中の輸送船団も、苛烈な攻撃を受けていた。
第65地方隊は、オリオン級戦艦「プロプス」を旗艦として、戦艦1隻、正規空母1隻、小型空母1隻、重巡洋艦1隻、軽巡洋艦3隻、駆逐艦12隻で構成されている。このうち軽巡洋艦1隻と駆逐艦4隻が軍港の外に出て洋上警戒任務にあたっており、その他の艦艇は軍港に停泊していた。しかも、一部の艦はドック入りしていたり、機関の火を落としてすらいたのである。そこに、"オルフェーヴル"の攻撃隊が暴れ込んだという訳であった。
先頭切って突入を開始したのは、キャスター隊のAD-1 スカイレイダーである。ドックやクレーン、倉庫街等の施設の真上で機体を翻し、鮮やかなまでの急降下に入る。ダイブブレーキが展開され、金属質の甲高い音が響き始めた。
『投下!』
『喰らぇい!』
ろくな対空射撃もない中を、獲物を狙う猛禽のように突っ込んだ「スカイレイダー」が爆弾を投下する。こちらは持ってきた3発の爆弾を一度にまとめて投下していた。
倉庫街に爆炎が広がる。降ってきた爆弾は薄い倉庫の屋根をあっさりと突き破り、収められた荷物の一部を破壊し、倉庫の床に当たってから炸裂した。炸裂の瞬間、倉庫内にあった木箱や樽などの容器が飛散する破片と爆風によって破壊され、中に入っていた軍需物資は次々とゴミ同然の代物に変えられていった。
別の一弾が命中した倉庫には、袋詰めされた小麦粉が収められていた。屋根を突き破って飛び込んだ爆弾が山と積まれた小麦の袋に命中する。袋が切り裂かれ、ぱっと白い粉が宙を舞った。
その直後、信管の起動と共に炎が広がり、同時に爆弾の破片に切り裂かれた袋から更に多量の小麦粉が舞い散る。そこに炎が燃え移る。炎が新たな炎を呼び、爆弾の炸裂によって生まれた炎は、やがて巨大な火炎となって倉庫1棟を紅蓮の懐に包み込んだ。
それと同時に、反対側の倉庫で大爆発が起きる。貯蔵されていた弾薬が、別の爆弾の命中と炸裂によって引火誘爆したのだ。爆発は倉庫1つを跡形もなく吹き飛ばすのみならず、周囲の他の倉庫をも倒壊させたり、壁や屋根を大きく損壊させるに至った。
この時になってようやくグラ・バルカス帝国軍が反撃を開始した。目一杯の仰角をかけられた高射砲が火を噴き、対空機銃が盛んに曳光弾を撃ち出す。それらの対空砲を操作する兵員は、誰も彼もが焦燥と怒りに顔を歪め、視線だけで敵機を落としてやるとばかりに空を睨みつけている。
当然ながら視線だけで撃墜されるはずもなく、また慌てて撃ち始めただけに照準が合いきっていない。それに、随行してきた戦闘機隊が低空で機銃掃射を見舞い、兵員を次々と殺傷して対空砲火を封じていく。機銃座の中には、戦闘機に目標を変更して撃ちまくるものもあった。
地上を掃討していた「烈風二二型」のうち1機が、もろに対空機銃の射撃を喰らった。エンジンカウリングがズタズタに引き裂かれ、3枚のプロペラの翅が吹っ飛び、パイロット妖精が激痛を感じる暇もなく即死する。コントロールを失った「烈風二二型」は石のように落下した。
グラ・バルカス帝国軍の将兵が、やった、と歓声を上げる前に、墜落した烈風は無傷の倉庫に突入して爆発した。これによって、挙げたはずの戦果と損害が釣り合わなくなるという皮肉な結果になった。そして、戦闘機を撃墜した機銃座には、スカイレイダーによるロケット弾一斉射という苛烈な報復が叩き返された。
その頃には、軍港併設の重油タンク群が猛烈な炎と黒煙を上げて火の海に沈んでおり、護衛空母が入渠していたドックは空母ごと爆撃で叩き潰されていた。
そして軍港内の艦隊錨地では、
『ランサー隊、突撃せよ!』
隊長妖精の音声通信と共に
軍港内には、戦艦と正規空母を含む艦隊、そして輸送船団が停泊している。これらのうち、軍艦を叩くのがランサー隊の任務だ。その後、輸送船を含む生き残りをバーサーカー隊が攻撃する手筈である。
「おのれぇ、機関の火を落としている時に攻撃してくるとは!!
撃ちまくれ! あの不遜な奴らを1機残らず叩き落とせ!!」
オリオン級戦艦「プロプス」の艦橋では、第65地方隊司令アンドリュー・マローン准将が怒りに顔を歪めながら口角泡を飛ばして命令を出している。それに対し、装甲空母「大鳳」から発進した「天山(六〇一空)」を率いるランサー1の妖精は、敵戦艦を照準器に捉えながらニヤリと笑った。
「セイバー隊が派手にやってんだし、俺たちも一口乗ろうじゃねえか。
全機へ、投下の合図がいつもとちょっと違うが、合わせろよ!」
『『『了解!』』』
敵戦艦やその周囲にいる駆逐艦が必死に対空砲を撃ってくるが、高度10メートル前後という海面すれすれの低空でランサー隊が突進していく。
「その
狙うは、敵戦艦の中央部からやや後方にかけて。目印になるのは煙突だ。
軍艦にとって心臓となるのが機関…正確には、石炭や重油を燃やして水を蒸発させ、高温の蒸気を生み出すボイラー(缶)と、その蒸気を吹き付けることで回転するでかい羽根車…タービンである。タービンを回すことで回転力を生じ、それでスクリューを回したり(つまり船を加減速させたり)、発電したりするのである。
その心臓部を、ひとまとめに破壊しようというのだ。
そして、ボイラーで重油や石炭を燃やせば当然のように黒煙が出る。その黒煙の排出口が煙突である以上、煙突の近くを狙えば機関部に損傷を与えられる可能性が高いというわけである。
「
動かない敵戦艦に向けて突進したランサー隊は、距離800メートルで一斉に魚雷を投下した。そして海面すれすれの高度を保ったまま、敵戦艦の上を飛び抜けていく。
バックミラーで敵戦艦をちらりと確認し、ランサー1は呟いた。
「防ぎたければ
その直後、敵戦艦の左舷中央部から後部にかけて、次々と4本の水柱が上がった。と思った時、強烈な紅蓮の光が「天山(六〇一空)」の風防を照らし、やや遅れて風防ガラスがビリビリと激しく震えた。
4本目の魚雷が第四砲塔の真下に突き刺さり、爆発のエネルギーが主砲弾火薬庫にまで及んだことで、100発単位の砲弾や装薬がいっぺんに誘爆し、「プロプス」の艦体を真っ二つに引き裂いた瞬間だった。
ランサー1こと「大鳳」艦攻隊長の攻撃を皮切りに、ランサー隊がグラ・バルカス帝国船に対して雷撃を敢行。続いてバーサーカー隊のスカイレイダーが後詰として、残っている船や地上施設に対して急降下爆撃・雷撃を実施した。その結果、
『こちらランサー1。ランサー各機、攻撃終了。敵戦艦1隻、巡洋艦3隻他撃沈確実だ。ただ、正規空母がギリギリ生き残ってるかもしれねぇ。あと、魚雷の数が足りないんで輸送船にはあんま手出しできてない。報告は以上だ』
『バーサーカー1、こっちでも確認しやした。輸送船はまだそれなりにいますし、敵正規空母はギリギリ浮いてますな。どうしやす?』
敵空母……翔鶴型空母によく似た姿をしているペガスス級空母「セイファート」は、魚雷本を喰らって傾斜しながらも、まだ航行していた。それに、輸送船もまだ10隻くらい残っている。
そこへキャスター1が割り込んだ。
『キャスター1、問題無いわ。だって、あと1個飛行隊残ってるから』
『おいキャスター1、そりゃどういうこったい? まだ攻撃隊残ってんのか?』
『当然よランサー1。だってあの機体、脚が遅いんだもの』
『脚が遅い?』
疑問に思ったのも一瞬だけで、次の瞬間にはランサー1は理解してしまった。
『あー、魔王親衛隊か!』
『やべーのが残ってやしたな…』
その時、無線のレシーバーに"その声"が飛び込んできた。
『こちらシューベルト
その無線と共に戦闘空域に入ってきたのは、なんと固定脚というノスタルジックな単発機である。それが30機。
但し、この部隊に限っては使用機体が古いからといって侮ってはならない。中身は全艦爆乗りの尊敬と畏怖を一身に集めるトップエース。
親衛隊を引き連れて
ただでさえ脚の遅い「Ju87C改」に、1トン爆弾1発+500㎏爆弾2発(ルーデル本人は別装備)という過積載も良いところの重装備で来たため、戦場突入がすっかり遅くなってしまっていた。しかし、"主役は遅れて来る"とはまさにこのことである!
『おう来たか、魔王閣下ドノ!』
『大概あっしらで食い尽くしちまいやした。しかし、まだ残ってますぜ!』
『ほう、何が残っているのかね?』
『正規空母1隻に輸送船多数でして、へい』
『…良かろう』
ニヤリと嗤う妖精ルーデルの顔を、誰もが想像した。
『シューベルト
残りは2機1組で輸送船を狙え、
シュトゥーカ隊、突入を開始せよ!』
『『『ヤヴォール、ヘァ コマンダン!!』』』
Jumo211エンジンの咆哮が高まり、「Ju87C改」が編隊を解いた。各々狙いを定め、敵船に近付いていく。
軍港内からはまだ対空砲が撃ち上げられているが、その規模は大幅に減少していた。艦が沈められたり着底したり、それでなくとも爆撃によって破壊された対空砲が多い。その上に残った対空砲も、船が雷撃を受けて浸水・傾斜したことで照準精度を著しく落としているのである。
そのか細い対空砲火を易々と突き抜け、ルーデル隊は目標上空に達した。
「目標、敵正規空母! 行くぞガーデルマン!」
『あいよ!』
妖精ルーデルの乗るシュトゥーカが、真っ先にくるりと反転した。そのまま機首を逆落としに急降下に入る。
「ダイブブレーキ展開確認、降下角度88度、機体に異常無し」
『高度3,800! ……3,600! …3,400!』
ダイブブレーキが大気を裂き、特徴的なサイレンのような甲高い風切り音が鳴り始めた。
敵空母は舷側から高射砲を撃ち上げてくるが、照準が狂っているのか掠りもしない。
ウウウウウウ…
『3,000! 2,800! 2,600!』
「ふむ、敵はショーカク型か。相手にとって不足無しだ…目標、艦後部。照準固定」
ウウウウウウー!
強烈なGがのしかかり、座席に身体が縫い付けられる。しかし、妖精ルーデルはそんなものに痛痒すら感じていない。むしろその口元には、笑みさえ浮かんでいる。
高度が1,600を切った辺りで敵空母が対空機銃を撃ってきた。しかし、これもまた正確な射撃とは言い難い。むしろ妖精ルーデルからしてみれば、隙間だらけである。
『1,200! 1,000!』
激しく高鳴る"悪魔のサイレン"。
その時、敵空母が面舵を切り始めた。回避運動を取っているのだが、魚雷によって浸水しているせいだろう、その速度は遅い。妖精ルーデルから見れば、ナメクジが這っているのと変わりない。
敵空母の必死の回避運動に対し、妖精ルーデルは余裕綽々で照準を修正し、
『400! さんび』
「投下!」
高度300メートルを切る寸前に爆弾を投下した。そのまま力いっぱい操縦桿を引き、機体の立て直しにかかる。
ルーデルが母艦から持ってきた得物は、60㎏爆弾2発に1.8トン対戦艦用徹甲爆弾が1発。それを戦艦より装甲の薄い空母に向けて落としているのだから、威力過剰も甚だしい。
3発の爆弾は見事に全弾命中した。このうち、命中の衝撃で作動する信管をセットしてあった60㎏爆弾は命中と同時に炸裂して対空機銃の操作兵員たちを殺傷した。そして遅延信管を付けていた1.8トン爆弾は、飛行甲板どころか格納甲板すらぶち抜き、艦深部の缶室にまで達した。
天井を突き破って突入し、床に転がった大きな黒い塊を見て、機関士たちは口々に逃げろと叫んだ。が、それを実行する前に猛烈な爆炎が襲いかかり、機関士たちを缶ごと吹き飛ばしてしまった。
1.8トン爆弾が機関室で炸裂した直後、ルーデル隊2番機が投下した1トン爆弾が「セイファート」の艦橋を爆砕し、艦長以下艦首脳部要員を悉くあの世送りにした。そして3番機、4番機が投下した2発の1トン爆弾と4発の500㎏爆弾は、「セイファート」の右舷に至近弾となって落下、盛大に水柱を噴き上げた。
一見すると、3番機と4番機がへまをして外したように見えるが、実はこれはわざと至近弾にしたのである。その狙いは、爆圧によって押し退けられた海水を無理やり空母の艦内にねじ込むこと。こうすることで水圧を急激に増加させて隔壁を破り、浸水を亢進させて空母を転覆させるつもりなのだ。
果たしてルーデル直率小隊が離脱にかかった直後、「セイファート」は大量の黒煙を噴き上げながら急速に右へと傾き始めた。一度は食い止められていた海水が、隔壁を突き破って溢れ出し、みるみるうちに艦内を席巻していく。艦橋をやられて指揮系統が全滅したことで混乱していた乗員たちは、急激に傾斜する艦体に仰天し、勝手に脱出を始める有様であった。
「よし、撃沈確実だな」
一足先に離脱にかかっていた妖精ルーデルは、ほぼ横倒しになった敵空母を見て満足そうに呟く。その頃には残存していた輸送船も、シュトゥーカ隊の爆撃を受けて次々と炎上していた。
今やルロケージュイアン島に無事なグラ・バルカス帝国船は1隻もなく、無数の黒煙が墓標のように立ち昇っている。
ちなみに、モレーナ湾の片隅にはグラ・バルカス帝国軍に追いやられた現地民の帆走漁船などが停泊していたが、こちらには全く何の被害も発生していない。情け容赦無く全艦が叩き沈められたグラ・バルカス帝国側と比べると、鮮やかなまでに対照的であった。
以上、離島強襲作戦編でした。
六〇一空メイン、それにルーデル隊が攻撃に参加しているということは、今回の作戦に参加した艦娘の顔ぶれがなんとなく透けて見えますね…。
そして今回使ったネタは、F○Oメインにニンジャが少々でした。
UAがいつの間にか152万を超えている……ご愛読ありがとうございます!
評価8をくださいました元SEALs隊員様
評価9をくださいました熾天使セラフィム様、空気の破壊者様、海兵様
評価10をくださいましたshinohibi様、@ファイブズ様
ありがとうございます!!
また、新たにお気に入り登録してくださいました皆様、ありがとうございます!
次回予告。
港湾攻撃に離島強襲、これらの攻撃の目的は、グラ・バルカス帝国本土と植民地を結ぶ物資等の輸送ルートを遮断することにある。そして通商破壊といえば、史実の地球で猛威を振るったのは仮装巡洋艦や駆逐艦などの水上艦艇、そして…潜水艦。魚雷という牙を研いだ水面下の狩人たちが、静かに動き出す…!
次回『ラヴクラフト④ 潜水艦通商破壊作戦』