鎮守府が、異世界に召喚されました。これより、部隊を展開させます。 作:Red October
中央暦1644年4月25日 午前8時20分、グラ・バルカス帝国本土中西部 ムスペル兵器研究所。
ここは、グラ・バルカス帝国軍にとって極めて重要な施設である。というのも、帝国軍で使用される兵器の開発の中心がこの研究所だからである。敷地面積約75平方キロメートル、しかも火力発電所まで併設されていた。内陸部の研究所であるため魚雷の開発には流石に関わっていないが、魚雷に用いる爆薬の開発や陸軍用の火砲、戦車、銃火器、戦闘機などの開発を手広くやっている。
当然ながらこの研究所の存在は秘匿されており、ここに来るには最寄りの陸軍駐屯地から出ている物資輸送列車に乗るか、駐屯地から出ている道路を走るしかない。研究所の周辺は厳重に警備されており、近付いた者は問答無用で射殺される。また、対空砲陣地も多数ある他、対空レーダーも設置されている。
帝国を取り巻く戦況が厳しいものになりつつあることは、この研究所にも知れ渡っている。そして最近、帝王グラ・ルークスから直々にこう命令されていた。「新しく見つかった鉱石を用いて新兵器を開発せよ。それを以て戦況を押し返せ」と。
命令と共に届けられた鉱石とやらであるが、基礎研究の結果、次のようなことが判明した。
・鉱石に含まれている鉱物に中性子を衝突させると、全く異なる2種類の物質に変化する。この時、周囲に高熱が産み出されることから、かなりのエネルギーが放出されていると推測される。
・この反応を「核分裂」と名付ける。その上で、核分裂反応を連続して引き起こせば、火薬の燃焼とは比較にならない莫大な威力を持つ爆弾を製造できると考えられる。
・鉱石に含まれていた物質を「ウルトラニウム」と名付け、その濃度を高めて爆弾実用レベルに持っていけるよう手を尽くす。
何となく察した方もいらっしゃると思うが、彼らグ帝人が"ウルトラニウム"と名付けた物質の正体は、地球でいうところのウランである。要するに、原子爆弾を作ろうとしているのだ。
一応、ウルトラニウム爆弾の仕様は大雑把ながら決まっており、
・なるべく大型の爆弾にすることが望ましい。従って、爆弾の大きさはグティマウンに搭載できる程度のものとする。
となっている。まあ、グティマウン自体の爆弾積載量はとんでもないものがあるから、ウルトラニウム爆弾は爆弾そのものの大きさにさえ注意しておけば十分作れそうである。
……と言いたいところなのだが、ムスペル兵器研究所の技術者一同の懸命の努力にも関わらず、現在のところウルトラニウム爆弾は影も形も存在しない。その理由はずばり、
「まだ濃度7.1%だと!?」
朝っぱらから研究所に響く、所長オズワルド・ウォーレン技術大佐の怒鳴り声の通り、"ウラン濃度の不足"である。
ちなみにだが、地球では核兵器として運用するためのウランの濃度は90%以上が望ましいとされている。到底届いていないと一目で分かる。
「何故そんなに濃縮が進まんのだ!?」
蛇に睨まれた蛙よろしく恐縮しきりの技術主任ハドリー・スコーラス技術中佐が、震え声で答えた。
「い、今の我が国の技術では、これが精一杯なのであります。申し訳ございませんが悪しからず…」
ウランの濃縮方法は幾つかあるが、この研究所で用いられているのは、地球では「ガス拡散法」と呼ばれるものである。ウラン鉱石を溶かし、六フッ化ウランとして気化させた後に、コンプレッサーで圧縮しながら気室内の隔壁を通して"濾過する"ようにすることで、ウラン濃度を高めるという方法である。
ただ、見ての通りまだるっこしい方法である。まず、"濾過"してウラン濃縮したとしても、たった1.003倍しか濃くならない。これで濃度90%を目指すとなると、気の遠くなるような時間が必要になることが容易に分かるだろう。さらに言えば、この方法でウランを濃縮するとなると、消費電力も膨大なものになる。このためこの研究所には火力発電所が併設してあるのだが、その発電量=燃料消費量も馬鹿にならない。栓をしていない学校のプールに給水するようなもので、発電したそばから湯水のごとく電力=燃料が消費されていくのである。
止めに、ロデニウス軍の通商破壊作戦によって、その貴重な燃料もなかなか入ってこないと来ている。グ帝の核兵器製造は前途多難どころの騒ぎではなかった。
「現在、ウルトラニウム濃縮機構…技術者陣ではカスケードと呼んでいますが、それの増設工事を行っています。上手く接続されれば、ウルトラニウムの濃縮も少しは早くなるはずです」
オズワルドが血走った目を向ける。
「どれくらい早くなる!?」
「ええと…今の濃縮速度の1.2倍にはなります…」
「遅い! 遅すぎるっ!!」
オズワルドの怒声にハドリーは肩をすくめて縮こまった。
「もう少し早くならんのか!」
「い、今の技術ではこれが限界であります…」
「ぐぬぬ…仕方ないか。その代わり、工事は必ず成功させろ!」
「は、はい!」
ウラン濃縮の遅さも問題だが、実はもう1つ問題がある。それは…
「ただ…」
「何だ!?」
「工事関係者やウルトラニウム関連技術者に、体調不良者が多数…」
「そんなもの根性で何とかしろ!!」
オズワルドの雷が落ちた。
「で、ですが、全身のだるさや頭痛を訴える者、吐く者が…」
「どうにかしろ!! ウルトラニウム濃縮が最優先だ!!」
パワハラ上司そのものである。
「は、はい…」
「分かったらさっさと行け!!」
青い顔をして退出していくハドリー。気の毒なものである。
ウラン関連で体調不良と聞いてピンと来ている方もいるだろう。倦怠感、頭痛、嘔吐などの職員の体調不良の正体は、急性放射線症候群の初期症状である。
実はこの研究所、前話にて堺と"ヤマト"が「遮蔽ザルじゃん」「ザルどころか無いに等しいですね」と評した通り、放射線遮蔽が全くと言って良いほど為されていない。そのためウラン濃縮炉は放射線を撒き散らしており、職員が片端から被曝していたのだ。症状が出ている時点で1グレイくらいは被曝している。
研究所には当然医務室はあるのだが、メディカルスタッフは吐き気止めや解熱薬を処方するばかりで根本的な対応を間違えている。このため一向に体調不良者が減らず、医師以下一同が首を傾げる一方で医務室の対応能力は飽和しつつある。まあ放射線なんて目に見えるものではないから、パッと見ただけでは的確な対処は難しい……放射線というものの性質を知識として知っていない限り。
無知は罪である。
ハドリーが退出した後、オズワルドはため息を吐いた。
「ったく、何故こうも上手く行かないんだ…我が国は世界に敵無しの最強国家のはずなのに…!」
実は前線に立たない一般市民や後方勤務の軍人の中には、未だに自国のことを世界最強だと思っている人間がいる。彼もその1人である。
「今日は確か…帝王府から視察が来る日だってのに…!」
と呟きながら時計を見ると、あと5分でその視察が来る。
「いかん、そろそろ移動しないと…」
執務机に置いてあったコップの水を呷って喉を潤し、同時に心を少しでも落ち着けて、オズワルドは執務室を出た。
午前8時30分、研究所前のロータリーに1台の自動車が止まった。黒塗りのボディであり、なかなか高級そうに見える。さすが帝王府、というべきだろう。
その自動車の後部ドアが開き、1人の男が降りて来た。
「これはこれはオルダイカ様、このような辺境の地へようこそ」
型通りの敬礼をしながら挨拶するオズワルド。
そう、視察に来たのは帝王府副長官のオルダイカ・ヤルブであった。
「うむ、苦しゅうない。帝国軍で使われる優秀な兵器の多くは、この研究所で産み出されているからな。こちらこそ、礼を述べたい」
オルダイカもどこか恭しげな口調で挨拶を返す。
「では早速、案内を頼む」
「はっ。では、こちらへどうぞ」
連れ立って歩き出す2人。
帝国を取り巻く戦況の悪化は、帝王府が最も痛感していた。何せ帝都を攻撃されたばかりなのである。
そこで帝王府は、何とかしてこの状況を打開すべく、八方手を尽くした。鹵獲した敵の魚雷の解析、戦闘機の量産、念のため本土決戦に向けた準備…等々。その1つとして、「新兵器の開発」…はっきり言えばウルトラニウム爆弾もとい核兵器の開発を優先研究に指定して推し進めた。その進捗状況を確認しようと、オルダイカを視察に寄越したということである。
なお、オルダイカはカルスライン社の役員エルチルゴと癒着している。そのため核兵器の開発が最優先になるという決定はオルダイカを通じてエルチルゴも知ったのだが、カルスライン社の兵器量産に回される金が少なくなると知って、エルチルゴは落胆していたものである。
オズワルドはまず、開発中の新兵器の性能と、ウラン濃縮の方法について説明を行った。それに30分ほど使った後、いよいよ濃縮炉の見学である。
「すごい兵器を作ろうとしていることはよく分かった。どんな風に使っているのか、楽しみだ!」
「はっ、存分にご覧になって下さい」
満更でもなさそうなオズワルド。
しかし、その予定が瞬時にぶち壊されるとは、この時の2人は全く予想していなかった。
オズワルドとオルダイカが濃縮炉へ向かっているのと同時刻、グラ・バルカス帝国本土上空 高度7万フィート。
グラ・バルカス帝国の今の技術では絶対に到達できないほど高い空を、1隻の巨大な船が悠然と進んでいた。後部から一筋の黄色い炎を吐いて進む。全体に大和型戦艦に酷似した形状をしていた。
「現在、降下開始地点に到達しました。作戦開始まであと3分です」
「OK、ここまでは順調そのものだな。こっからが大変だぞ、突入ルート・離脱ルートを最終チェックしとけ」
「既に完了してますよ」
「各部の戦闘配置は?」
「完了しました。波動砲もいつでも使えます」
「よし」
その巨艦、宇宙戦艦ヤマトの第一艦橋にて、堺と"ヤマト"が作戦前の最後の確認を行っていた。
「例の"お届け物"は?」
「第三艦橋後部ハッチにスタンバイしてあります」
「オッケー、全準備完了だな!」
グラ・バルカス帝国本土内陸部にあるウラン濃縮施設の破壊作戦…「戦略作戦ラヴクラフト第096号 シャイガイ」発動まで、あと2分。
不意に"ヤマト"が、堺に質問を放った。
「提督。こんな時にこんな質問をするのも何ですが…」
「ん、何だ?」
「ちょっと大事な質問です。
提督にとって、空って何色ですか?」
「何だ藪から棒に…」
訝しみながらも、堺は頭を捻った。
「普通に真っ黒だろ」
「それ、
「いや、俺の心の空の色だよ。ったく、ロクでもない仕事ばっかり増えやがるから…」
いつもの、堺のめんどくさがり発動である。「ブラック企業」とかのニュアンスを混ぜたらしい。
「じゃあ他の色の時もあると?」
「そりゃな。他の時だと、例えば鉛色かね」
「曇ってるじゃないですか……」
「いや、厳密には鉛色じゃないな。ちょっと赤みが混じってる」
「それはどうしてです?」
「夕方だから」
「夕焼けってことですね。ちょっとロマンチック?」
「いや、
「ロマンの欠片もなかった!」
夕暮れ時のことを「黄昏時」と言うのである。それに引っかけての堺の返答であった。
ちなみに「ラグナロク」とは、北欧神話における「世界の終わり」を意味する言葉である。本来の正しい意味は「世界の終末」とかなのだが、一般的には「神々の黄昏」という誤訳が広まってしまっている。
「晴れてる時もあるんだが、今は大概曇りだな」
「疲れてますね提督」
「そりゃお前、疲れない訳ねーだろ。武器持って向かってくる相手とはいえ、人の命奪った金で飯食ってんだぞ。メンタルに来る」
「
「しねぇよ! ってかそれしくじったら発狂待った無しじゃねえか!」
「SAN値直葬」
「ならねぇよ!? 空の色スカーレット固定になるじゃん!」
作戦開始まで、残り1分を切った。
「そう言うお前はどうなんだよ」
「私は…ダークブルーでしょうか」
「ダークブルー? えらく暗い色合いだな…お前もメンタル来てねえか?」
「来ているとは思いますよ。ただ…前のあれに比べたらマシですね」
「前のあれ?」
「エストシラント」
「バリバリ根に持ってるじゃねえか…あれはマジですまなかったよ」
パーパルディア皇国との戦争の最中、堺の命令で皇都エストシラントに46㎝砲で艦砲射撃を浴びせた時のこと(「062. エストシラントを朱に染めて」参照)を言っているのである。
「ただ、今回はそれが免疫になってるみたいですけどね」
「正直そんな感情に免疫持たないでほしいんだがなぁ…」
堺が頭を掻いたところで、作戦開始20秒前である。
「まあ、今回もやむを得ないってことで…」
「こちらの国民の被害を防ぐためですからね…」
「先に悪魔の産物に手ぇ出したのは向こうだ、こうなる覚悟は当然できてたんだろう。
……シャイガイ作戦発動! 一気に行くぞ!」
「はい! ダウントリム75度、大気圏突入開始!」
ここに作戦は始まった。
「総員衝撃に備え!」
「非常弁全閉鎖! 薬室へエネルギー注入開始…波動砲、発射用意!」
水平飛行していた「ヤマト」が、艦首を大きく下向けた。目の前に巨大な青い星が現れ、それがみるみる大きくなる。そして艦体がガタガタと震動し始めた。大気との間で摩擦が起きているのだ。
「現在高度65,000……計算上では地表到達まであと2分!」
「オーケー、このまま突っ込め!」
重力に引っ張られ、「ヤマト」の巨大な艦体がどんどん加速する。エンジンをほとんど回していないのに、第一艦橋の窓に映る一面の青がぐんぐん迫ってくる。やがてその只中に、ぽつんと島が見え始めた。
「現在高度32,000、グ帝軍のものと思しきレーダー波を探知。波形から推して対空索敵レーダーと思われます!」
「了解。地表まであと1分です、艦体引き起こせ! 下部スラスター起動、減速かけて下さい!」
「了解っ!」
航海長妖精が操舵レバーを引き、懸命に操作している。その間にも、パーパーパーパーパー……という、あの独特のエネルギー充填音が高まっていく。
「波動砲のエネルギーは!?」
「薬室内、エネルギー充填94パーセント!」
「あと少しですね。
そろそろ敵さんがこちらに気付く頃です、無線傍受続けて。異常あれば報告せよ!」
「はっ!」
もうだいぶ地表が近くなり、ちょっと前まで平面的な点にしか見えなかった島…グラ・バルカス帝国本土も、今や山地や谷が立体的に見えている。
「高度1,000フィート!」
「艦底部スラスター全開!」
「艦長、発射ポイントから左に2度ズレてます!」
「針路修正急いで!」
「エネルギー充填120パーセント! 波動砲発射準備良し!」
「敵施設より無線電波の発信を探知! 電波強度極めて強い! コンピュータ解析の結果、G暗号と判明しました! このまま解析します!」
「お願いします!」
地形調査の結果から、近くにあるちょっとした谷に入り込み、両側の崖にロケットアンカーを打ち込んで艦体を固定、そのまま発射する作戦計画になっている。
「発射ポイントに到達しました!」
「両舷、ロケットアンカー撃て!」
鎖を引きずって錨が飛び出し、「ヤマト」の両側の崖に撃ち込まれる。そのすぐ後に余分な鎖が巻き取られ、ぴんと張る。これで艦体が固定された。
「ターゲットスコープ、オープン! 電影クロスゲージ、明度9!」
「敵通信文の解析に成功。『我ムスペル兵器研究所。敵襲を受く、直ちに救援求む。敵はロデニウス軍の飛行戦艦と思われる』! 繰り返し発信されています!」
「基地や王城には有線電話できるはずだ。わざわざ無線使ったってことは、おそらく付近の戦闘機なんかを呼び寄せるつもりだな。
急げ、ぐずぐずしてるとわんさと押し寄せてくるぞ!」
「放射線量計測完了。目標、敵施設ウラン濃縮炉、照準固定!
波動砲発射10秒前、総員対ショック対閃光防御!」
いつもの如く、第一艦橋内にいる全員が黒いゴーグルを着用する。波動砲発射時の閃光はあまりに強烈なため、このゴーグルを着けていないと失明確定なのだ。
「5、4、3、2、1!」
「
「発射!!」
引き金が、引かれた。
「「て、敵襲だとぉっ!?」」
濃縮炉案内中に突然鳴り響いた警報に、オズワルドもオルダイカも仰天して飛び上がった。
「お、おい、どういうことだ!? ここは帝国本土、それも中央部に近いところだぞ!? こんなところに敵襲なんて、あり得ない…誤報ではないのか!?」
オルダイカが動転している。オズワルドにも信じがたかった。
だがそこに、スピーカーから焦った声が飛び出してくる。
『こちら第一監視哨! 対空レーダーに感、高度6,000! 位置は…当研究所の直上ですっ!!』
敵はまさかの真上、であった。
「な!?」
「直上だと!?」
もう頭を押さえられてしまっている。しかも、報告はまだ続いていた。
『敵反応、数は1、大きさ…非常に大きい! これは…戦艦クラスの大きさと思われます!』
「「な、何いぃぃぃ!?」」
オズワルドとオルダイカは完全に度肝を抜かれてしまった。
「せ、戦艦サイズだと…ま、まさか、あいつか!?」
真っ青になりながらオルダイカが叫ぶ。
「あいつ、とは?」
「帝都を攻撃した、ロデニウスの飛行戦艦だ! 私は見たんだ、グレードアトラスター級戦艦に似た軍艦が空を飛び、帝都の基地を木っ端微塵に粉砕するのを!!」
オズワルドも今度こそ理解した。ヤバい敵が迫っている、と。
あの新年の帝都空襲の折、オルダイカは帝王府に来ており、そこでヤマトの姿を見たのだ。その時の恐怖がフラッシュバックしているのである。
「奴め、どうしてこの基地が分かったんだ!」
「オルダイカ殿、ここは危険です! 地下に避難所を設けてありますので、こちらへ!」
「あ、ああ!」
オルダイカの手を引っ張り、オズワルドは地下室へと走り出す。
万が一の場合に備えて、この研究所には地下に避難所があった。そりゃまあ、爆発物や危険物を扱っているのだから、火災でもあった時に避難できるようにしておくものである。
廊下を走る2人を追いかけるように、けたたましく警報が鳴る。
『空襲警報! 空襲警報!
敵はロデニウスの飛行戦艦と思われる! 総員至急戦闘配置につけ!! 非戦闘員は直ちに地下室に避難せよ!!』
「大丈夫なんだろうな、ここの地下室は!? 相手は戦艦だぞ!」
「建物の土台を活用して頑丈に掘ってありますから、きっと耐えられます!」
2人して転がるように階段を駆け下り、どうかこうか避難所にたどり着いた。分厚い鋼鉄のドアを押し開き、息を切らしながら避難所に飛び込む。職員や研究者たちも続々と避難してきた。
「くそっ、まさかここを狙ってくるとは…奴ら、なんでこの場所が分かったんだ?」
歯軋りしながらオズワルドが呟く。
「お、俺たちどうなるんだ…」
「分からん、何とも言えないな…」
「な、なあ。今朝医務室に担ぎ込まれた奴、避難できたんだろうか?」
「信じるしかねぇよ…」
豆電球の頼りない灯りの下、職員たちもみんな不安そうだ。
「敵戦艦なんか、早く叩き落としてくれよ…」
祈るような気持ちでオズワルドが呟いた、その時だった。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!!
いきなり、轟音と共に地面が大揺れに揺れ、豆電球が激しく明滅した。避難所にいた職員たちの悲鳴が響く。転倒したりした者もいるらしい。
「くそっ撃ってきたか!」
オズワルドが叫んだ、その時。
「え…?」
オズワルドは見た。地下室の壁から、急に青白い光が溢れ出すのを。
次の瞬間、辺り一面が眩い青い閃光に包まれると同時に、耳を塞いでも聴覚全てを奪い尽くすほどの轟音が響いた。職員たちの悲鳴も、何も聞こえなくなった。
「うわああぁぁっ!!」
絶叫するオズワルドだが、その声さえも聞こえない。
その時、視界の端にオルダイカの姿が見えた。恐怖で顔は固まり、救いを求めるようにこちらに手を伸ばしている。しかし信じられないことに、その身体が、まるで紙が破れるようにちぎれていく。
直後、オルダイカの顔さえもびりびりに破れたかと思うと、彼の身体は溶けるようにして吹き飛ばされ、見えなくなってしまった。
(嫌だ! 死にたく、な…)
粉微塵に吹き飛んでしまったオルダイカ。それが自分も辿る運命だと気付く前に、オズワルドの意識は無くなった。
発射された波動砲はまず、研究所から少し離れた地面に着弾。そして地面を削りながら突き進み、まっすぐに研究所の濃縮炉を直撃した。この時、波動砲のビームは地面を大きく削り取っており、結果として避難所になっていた地下室を、オズワルドやオルダイカ、その他職員一同ごと飲み込んだのである。
波動砲の直撃を受けたウラン濃縮炉は、あっという間もなく青い閃光に飲み込まれ、溶けるように崩れて消えてしまった。この際に、研究所にあった他の施設も巻き込まれた。
濃縮炉に併設されていた兵器工場が青白い閃光に照らし出され、次の瞬間には建屋も作業台も、工具も製造中だった銃も、全てが木っ端微塵に粉砕された。
職員の食堂が破壊され、テーブルも椅子も食器も全て微粒子に還元されて消えた。その隣にあった資料室も飲み込まれ、これまでの研究成果やこれからの研究の計画が、全て無に帰してしまった。
大急ぎで迎撃の準備中だった対空砲陣地が、人員もろとも青白い閃光の中に消え去った。
膨大な波動エネルギーは、その進路上にある全てを粉砕しながら突き進む。やがて青い光がすっかり見えなくなった時には、研究所の一部がごっそり消えて無くなり、それどころか波動砲の射線がそのまま新しい谷間のようになって残っていた。黒々と焼けた土が剥き出しになり、一直線に深々と抉られた地面が、その砲撃の威力を物語る。
「波動砲発射完了!」
波動砲を撃った張本人・ヤマトの艦橋では、素早く報告が飛び交った。
「放射線量はどうなった!?」
「計測した放射線量…急激に減少! 現在量1,000マイクロシーベルト、なおも減少中!」
「ふむ、これならおそらく…」
「ええ。濃縮炉はおそらく完全に破壊できたでしょう」
堺も"ヤマト"も、満足そうに頷いた。
「あとは残留放射線だけかな? 原子爆弾が完成してどっかに保管されてないことを願うばかりだな」
「では、あとは残った施設を…」
「ああ。徹底的にやっちまえ!」
「了解! 主砲、副砲、三式弾装填。ミサイル発射管全門開け!」
「万一に備えて放射能除去装置は…」
「コスモクリーナーDはとっくにスタンバイ済ですよ」
「よし。そんじゃ、どでかい花火上げてやっか!」
「はいっ!」
戦略作戦ラヴクラフト第096号「シャイガイ」作戦。その骨子は以下の通りである。
まず、宇宙空間に近い高空まで上昇、そこからグ帝本土上空に侵入した後、一気に急降下してウラン濃縮施設まで肉薄する。この動きが弾道ミサイルに似ており、また1分で戦闘態勢を整えて駆け付けてくるように見えることから、前話にて堺は作戦方針を「ミニットマン」と表現していた。
次に、急降下中に波動砲にエネルギーを充填し、敵側が戦闘態勢を整える前に波動砲を撃ち込んで濃縮炉をウランごと消し飛ばす。これで、現在濃縮中のウランを濃縮炉ごと失わせ、原子爆弾の製造を強制的に中止させる。ただ、波動砲のビームはそこまで太い訳ではないので、おそらく濃縮炉以外の施設は大半が残ったままになると思われる。
そこで最後に、実体砲弾とミサイルをありったけ叩き込んで、残った施設を全て破壊する。その後は、近くの飛行場や軍基地、道路、橋、線路などをショックカノン等で破壊しながら帝都へ向かい、帝都上空で手紙をばら撒いて即離脱する。これが「シャイガイ」作戦の全貌である。
錨を抜き、研究所上空へと進出する「ヤマト」。研究所の上で左旋回し始め、主砲と副砲を左に回転させて砲口を施設に向ける。まるでAC-130「ガンシップ」のように。
「撃ち方はじめー!」
"ヤマト"の号令一下、艦体前部の三連装主砲2基と三連装副砲1基が一斉に発砲する。同時に、艦首部分の六連装発射管、艦中央部の両舷八連装発射管、そして「煙突SAM」から、計30発のミサイルが飛び出す。
最初に9発の砲弾が着弾した。それらは施設の天井や壁を突き破り、1階の床まで到達して止まった。直後、
カチッ、カチッ、カチン。
遅延信管が作動、起爆した。
強烈な爆圧を受けて施設の天井がぐわっと盛り上がり、次いで大量の破片を散らして爆散する。窓ガラスが一斉に割れて散弾のように飛び散り、壁が大量の埃を舞わせて崩れ落ちる。
爆風が設計室を吹き飛ばし、室内に広げられていた無数の設計図が何の役にも立たない紙クズに変換されて燃え落ちた。
無人の休憩室が爆炎に包まれ、普段なら職員たちが座ったり寝転んだりして休むソファが4つに叩き壊される。
通信室が破壊され、高い電波出力を誇った最新式の無線機が一文の価値もないスクラップに変換される。ついでとばかりに通信用のアンテナも打ち倒され、力無く大地に倒れた。
施設の周囲では、戦闘員たちが急いで高射砲や対空機銃を「ヤマト」に向けようとしていたが、そこに30発のミサイルが次々と着弾。対空陣地は片端から破壊され、1発の砲弾も撃たぬまま沈黙させられていった。
防御陣地を喪失したムスペル兵器研究所に、一切遠慮の無い砲撃が浴びせられる。遅延信管を搭載した「三式弾」の他に、対空サーモバリック砲弾の「四三式弾」までもが撃ち込まれ、全てを焼き払う炎の烈風が吹き荒れた。
「放射線量に変化はあるか?」
地上で荒れ狂う炎を、第一艦橋のモニターで監視しながら堺が尋ねる。
「現状、平均して150マイクロシーベルト前後で推移中です」
技師長妖精が答えた。
「ふむ、じゃあ今のところ原爆にぶち当たってはないな」
「そのように判断して良いでしょう。もしかすると、爆弾はまだ作られていなかったかもしれませんね」
「そう願いたいもんだが…世の中希望的観測は当たらず、悲観的予測は嫌になるほど当たる。爆弾はあるものと仮定して、とにかく全力でここを叩こう。ここ以外にウラン濃縮施設は確認されていないから、ここが潰れれば核兵器は製造できない。ここさえ潰せば、あとはどっかに隠された在庫を叩くだけで済む」
「そうですね」
「そして、在庫がありそうな場所はだいたい決まっている、と」
"ヤマト"が口を挟んだ。
「ああ。グ帝に強力なロケット兵器が無いことが、青葉情報局の分析で判明している。となると十中八九、核兵器は航空機に搭載される爆弾となる。
連中の場合、B-36みたいな六発爆撃機持ってるから、それに搭載するのが一番早い。となれば、この巨人機を運用できる飛行場の近くにあると見て良い」
「では飛行場と、その爆撃機の製造工場を潰してしまえば良いですね」
「その通り。兵器の運用プラットフォームも製造工場も全て潰して、おまけに通商破壊でガソリン供給も締め上げて、一切飛び立たせないようにする。それが一番効果的だよ」
その時、レーダー手妖精が緊迫した声を上げた。
「コスモレーダーに感。敵機接近、数10。速度200ノット(約370㎞/h)。反応の大きさと速度からすると、零戦モドキと思われます」
「来たな。波動エネルギーは回復したか?」
「はい。ショックカノンも撃てますよ」
「よし。波動防壁、展開用意。パルスレーザー砲も準備しとけ。敵機が来たらそれで迎撃する」
「了解!」
また神風特攻を喰らう可能性はあるが、波動防壁とパルスレーザー砲があればほぼ確実に阻止できる。堺はそう見込んでいた。
果たして堺の見込みは正しかった。接近してきた敵機…「アンタレス」は、胴体下に250㎏と思しき爆弾を抱えており、さらに「ヤマト」の真横から真一文字に突っ込んできたことから、明らかに特攻機であった。だが、「ヤマト」右舷中央に向かって突っ込んできたのが仇となり、パルスレーザー砲の織りなす弾幕の暴風雨に絡め取られて全滅。「ヤマト」には何らの被害も出なかった。
その後も何度か敵機が飛来してきたが、ほぼ何もできずにバタバタと叩き落とされるばかり。そんな中で、
「撃ち方止め!」
号令が下され、堺はモニター越しに戦果確認を行おうとして、
「…こりゃ戦果確認要らんレベルだな」
「ですね」
"ヤマト"も同意した。
モニター内では敵施設は火山の噴火もかくやという量の黒煙を噴き上げており、レーダー探査で確認しても建造物らしい反応は1つもない。完全破壊に成功したと確信してよかった。
「よし、現刻を以て『シャイガイ作戦』前段は完了と認定する! 後段作戦に移行する、行動開始!」
「はい!」
追い縋ろうとする敵機をあっさり振り切り、全長265メートルの巨体は帝都ラグナに一直線に向かっていった。
ということで、グラ・バルカス帝国本土に位置するウラン濃縮施設破壊作戦でした。
ちなみに、堺たちは意図していませんでしたが、しれっとアニメやゲームの名言使ってましたね。その正体はこちら。
・提督にとって、空って何色ですか?:「空が何色かっての あんたには大事なことかい?」という台詞。エスコン7のストーリーの初っ端にこの台詞が出てくる。
・
・作戦名「シャイガイ」:SCP-096 シャイガイ。
爆弾が完成する前に叩けて良かったですね。
次回、「戦略作戦ラヴクラフト096号 シャイガイ」後半戦です。
UAが156万超…2025年も拙作をご愛読くださり、ありがとうございました! 来年もどうかよろしくお願い致します!
評価3をくださいました瑪瑙モドキ様、ありがとうございます! また、新たにお気に入り登録してくださいました皆様、ありがとうございます!
次回予告。
ウラン濃縮施設の破壊に成功し、核兵器の製造を阻止した堺。だが、まだ作戦は道半ば。後段作戦、手紙配達が残っている。
そしてこの手紙配達作戦を実施しようとして、堺はあることを思いつく……
次回『ラヴクラフト⑦ アメとムチ…というには凶悪すぎる一撃』