鎮守府が、異世界に召喚されました。これより、部隊を展開させます。 作:Red October
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『人民の、人民による、………(続きを打ち込んでください)』
当然、「人民のための政治」と打ち込めましたよね?
では本編をどうぞ。
中央暦1644年4月25日(グラ・バルカス帝国の暦で言うと新帝国暦381年1月24日) 午前10時頃、グラ・バルカス帝国本土中東部某所。
この地にはグラ・バルカス帝国軍の飛行場…それも、あの超重爆撃機「グティマウン」を運用可能な巨大な飛行場があるため、普段なら空を飛ぶのは帝国軍機ばかりである。しかし今は、その空を異形の物体が飛び、何なら地上の飛行場に向けて大砲を撃ち下ろしていた。
飛行物体から砲撃、と聞くと、AC-130を連想する方もいるだろう。だが今、この飛行場に振り下ろされているのは、48㎝三連装ショックカノン3基、20㎝三連装ショックカノン2基、その他ミサイル多数という、AC-130が裸足で逃げ出す超火力であった。
「撃ち方止め!」
飛行場を見下ろして砲撃を加えていた巨艦の艦橋に、女性の命令が響く。
「戦果確認してください! と言っても、建物が残っているか怪しいですけど」
「レーダー探査中ですが、今のところ建物らしい反応はありません」
その報告に、若い男性のコメントが混じった。
「そりゃそうだろ。更地にするつもりで撃ったんだし」
命令を出していた女性は、この巨艦「宇宙戦艦ヤマト」の艦長たる"ヤマト"、そしてコメントした若い男性は彼女の上官たるロデニウス連合王国海軍第13艦隊司令官"
グラ・バルカス帝国本土にあったウラン濃縮施設…彼らは知らなかったが、その施設は帝国側では「ムスペル兵器研究所」と呼ばれる重要施設だった…を波動砲できれいさっぱり吹き飛ばした帰り道に、行き掛けの駄賃とばかりにグラ・バルカス帝国の飛行場や道路、橋、線路などを破壊していた。この飛行場も、帝都へ向かう道すがら目に着いたから+核兵器があるかもしれないから、という理由で跡形も無いレベルで耕されたのである。
「放射線量は?」
「計測してますが、線量上昇認められず。自然環境の正常範囲内の数値に留まっています」
「地下室まで全部掘り返す勢いで撃ったからなぁ…となるとここも空振りか。奴らいったいどこに核兵器を隠したんだか」
核兵器がある、という前提で動いている堺だが、残念ながらグ帝製核兵器は砲弾1発たりとも存在していない。ウラン濃縮という基礎段階だったところを、波動砲で研究資料&技術者&濃縮施設ごと吹っ飛ばしたからだ。
まあ、最悪の事態を想定して行動する、というのは軍人として正しい姿勢である。
「仕方ない。攻撃終了、帝都へ行くぞ。お届け物だ」
「はい!」
波動エンジンの轟音を響かせ、もはや建物の痕跡さえ残っていない飛行場を後にするヤマト。その周囲を、グラ・バルカス帝国軍の「アンタレス」戦闘機が何機も飛び回っている。さながら、熊に巣を壊されて激怒しているスズメバチの群れのようだ。
だが、たとえ体当たりを仕掛けようとも、熊の毛皮より遥かに分厚いヤマトの防空網には全く通用しない。しかも、波動エンジンを点火した途端、速力の差であっという間に地平線の彼方まで逃げられてしまうのである。
グラ・バルカス帝国軍の必死の追撃を物ともせず、一直線に帝都へ向かうヤマトの第一艦橋にて、堺は"ヤマト"と共に行動方針を確認していた。
「このままの速度・針路で飛行を続ければ、あと20分で敵帝都に到達します」
「よし、そろそろ手紙の梱包解かせておくか。今回はちょっとした荷物もあるんだ、きっちり全部届けてやりたい」
そう言った瞬間、堺はふとあることを思いついた。
「なあヤマト。艦前部の主砲と副砲なんだが、実体砲弾ってあとどれくらい残ってる?」
「実体砲弾ですか?」
急に何を尋ねてくるのかと不思議そうにしながらも、"ヤマト"は手元のタブレット端末をちらっと確認した。
「ええと、四三式弾、及び三式実体砲弾のどちらも、各砲座30発は残ってますよ」
「よっしゃ、なら1つ破壊してもらいたい目標がある」
堺の顔を見て、"ヤマト"がちょっと引くような仕草を見せた。
「…提督、今ご自身がものすごく悪い顔をしているのに気付いてますか? とても嫌な予感がするんですけど」
「だろうな、だって俺は今、とんでもなく悪いこと考えてるから」
かつてパーパルディア皇国のレミールと会談した時ばりに真っ黒な笑みを浮かべ、堺は思いついたことを述べた。
「破壊してほしい目標ってのは…」
同日午前10時30分、グラ・バルカス帝国 帝都ラグナ。
本日は休日なので、グラ・バルカス帝国を代表する軍需系企業であるド・デカテオン社に勤めるエンジニア、マーク・デルフィーノは、家で妻キャサリン・デルフィーノと過ごしていた。と言っても、必ずしもゆっくりできていた訳ではない。
グラ・バルカス帝国暦の正月…つまり中央暦1644年4月2日…にロデニウス軍による大規模空襲を受け、さらに追加でロデニウス軍の飛行戦艦により帝都の空を侵犯されて以来、帝都ラグナでは大慌てで防空体制の見直しや消火訓練が行われるようになった。このため、帝都に住まう一般市民も消火訓練やら穴掘り(防空壕の建造)やら、動員されるようになったのである。そしてそういうことは休日に行われるものであるため、マークも休日は忙しいことがあるのである。(尤も、デルフィーノ家は既に庭に防空壕を掘ってあるため、その分の労働は無いのだが)
「今日は昼1時から防空訓練が入ってるわ」
「やれやれ、またか」
カレンダーをちらっと見て予定を伝えたキャサリンに、マークは肩をすくめた。
「防空壕に駆け込む練習とか、バケツとか持って消火訓練ってことか?」
「そうね」
「あれだけの破壊力を持つ敵が相手なのに、意味あるのかね」
「そういうことは言っちゃダメよ」
マークの口に人差し指を当てるキャサリン。
「言っちゃダメなのは分かるんだが…ダメといえば、マキは大丈夫なのか…」
「確かにね…不安はあるけど、でもあんな手紙を書けるくらいだから、きっと大丈夫よ」
「空襲ついでに手紙を配達できるくらい、ロデニウス軍は余裕があるようだしな…。あの娘もまあ大丈夫か」
マークとキャサリンの娘マキ・デルフィーノは、看護師としての実践経験を積みたいと言って、ムー大陸に渡って野戦病院の看護師として働いていた。だが、その最中に異世界連合軍の反攻を受けて病院が占領されてしまい、マキは異世界勢に身柄を押さえられてしまった。
これだけ言えば、マキは敵の捕虜になってさまったと受け取られてもおかしくない。だがそうではなく、マキは今や"食客"としてロデニウス連合王国軍に迎えられ、望み通りに実践経験をたっぷりと積んでいる。しかも、帝国一の医学校でも学べないような新しい知識や技術というおまけ付きだ。
正月のロデニウス軍の空襲時に、敵が多数の手紙を投下してきたのだが、その中にマキからの手紙が混じっていた。それによってマキの息災を知ったマークとキャサリンは、今でもマキは無事だと信じている。
「ちょっとお茶にしましょうか」
「そうだな、そうしよう。茶葉を取ってくるよ、お湯を頼む」
「ええ」
空気が和んだその瞬間、それをぶち壊しにするようにけたたましい空襲警報のサイレンが鳴り響いた。
「空襲警報!? 訓練かしら?」
「お茶は後だ。防空壕へ行くぞ!」
キャサリンの手を引っ張り庭へ飛び出すマーク。倉庫を兼ねて掘ってあった防空壕へと速やかに駆け込んだ。
「この時間から防空訓練なんて…予定が早まったのかしら? それとも抜き打ち?」
キャサリンがそう呟いているが、もともと軍にいたマークは、心臓をじわじわと掴み上げられるような冷たい感覚を感じていた。こういう感覚は、これから敵が襲来する時にしか感じられないものである。現場にいた軍人にしか分からない感覚だろう。
「いや…多分、本物だ」
「え?」
キャサリンが一瞬固まった。
外からは避難しようとする人々の喧騒が聞こえてくる。
「本物? …本当に敵襲なの?」
「ああ、この感覚はきっとそうだ。それに…聴き覚えのある音が聞こえてきたぞ」
マークの耳には、人々の喧騒に混じってゴゴゴゴゴ…という重低音が聞こえていた。
「聴き覚えのある音?」
「ああ。この音はきっと…あの飛行戦艦だ」
「え!?」
驚く間に、キャサリンにもその音が聴こえるようになっていた。
「あ、確かに何か聴こえるわ!」
「奴め、帝都の軍港や軍需工場、飛行場は大概潰したはずだが、まだ何かあるというのか…?」
そう言いながら、マークは防空壕から既に身体を出している。危険は承知だ。
「ちょっと、危ないわよ!」
「いや、ロデニウス軍は市街地にまでは攻撃してきたことが無い。きっと大丈夫だろう」
なんて言っていたその時、重低音は極大に達した。同時に、空を見上げていたマークの視界に"それ"は見えた。
「来た!」
「あ、あれが…」
航空機としてはとてつもない巨体。それに、存在感も帝国軍の航空機とは比べ物にならない。戦艦が飛んでいるという認識も、あながち間違いではないだろう。
その巨艦はラグナ上空に到達すると、艦底部から青白い炎のようなものを噴き出しながら動きを止めた。空中に戦艦が浮かぶという、グラ・バルカス帝国人からするととても非常識的な光景ができあがる。
すると、その巨艦から男性の声が聴こえてきた。どうやら拡声器か何かで放送しているらしい。
『あー、あー、グラ・バルカス帝国帝都に住まう方々…皇帝から一般市民まで全員に告げます。
私たちはロデニウス連合王国軍です。単刀直入に言いますが、速やかなる無条件降伏を勧告致します』
降伏勧告である。と言っても、もはや降伏要求どころか命令だな…とマークは思った。
「ちょ、あなた、これ!」
キャサリンがラジオをつけている。そのラジオからも、全く同じ男性の音声が流れていた。
「おい、この時間帯、この周波数帯ではニュース放送をやってるはずだが…まさか、電波を乗っ取ったのか!? だとしたら…」
無理やり電波をジャックしているのだとすれば、敵の技術力はとんでもないものがある。いよいよもって勝てる相手ではない…とマークは思った。
その間にも相手の声は流れ続けている。
『繰り返します。我々はロデニウス連合王国軍です。グラ・バルカス帝国帝都に住まう全員に対し、速やかな無条件降伏の受諾を勧告いたします。
と言っても、皆様がそう簡単に降伏を決めてくださるとも思えません。そこで1つ余興を催したいと思います』
マークも、キャサリンも見た。"余興"という言葉と同時に、戦艦の巨大な大砲が重厚な質感を伴って回転し始めたのを。
戦艦らしく重厚で、しかし戦艦らしからぬ滑らかさですんなりと回転した大砲が、ある方向を向いてぴたりと止まった。その砲口が向けられた先は…
「え、あの方向は…!」
「お、王城!?」
マークとキャサリンが叫ぶ。その直後、あの男性の声が冷たく響いた。
『やれ』
ドドドオォォォンッ!!!
戦艦の大砲から巨大な発射炎が迸る。
砲声に振り返ったマークとキャサリンの視線の先、赤く光る砲弾が一飛びし…ニヴルズ城に直撃した。
「「あぁっ!!」」
砲弾が爆発し、ニヴルズ城の建物が崩れ落ちる。
「破壊してほしい目標ってのは、敵の王城なんだ。これまでの帝都攻撃の際に、マッピングは済んでるだろ?」
半分予想できていた堺の答えに、"ヤマト"はため息を吐いた。
「一応ですが、狙う理由を伺っても?」
「そりゃもちろん、これ以上の犠牲を避けるためだよ」
「確かに、私たちもこれ以上被害を受けたくないですし」
すると堺は首を横に振った。
「違う違う、敵味方どっちもだよ。どっちもの被害を減らしたい」
「どっちも、ですか」
「そう。あれでも奴らの技術力は優秀な方だ、来る対ラヴァーナル帝国戦でアテにできる可能性はある。これ以上人材や国力を浪費するのは、ラヴァーナル帝国を有利にするのと変わりない。故に多少の非常手段を使ってでも、そろそろ決着に持ち込む必要がある」
「仰りたいことは分からなくもないですが…」
堺としても、これ以上の戦争は御免こうむりたいのである。
「ならなんでわざわざ王城なんですか? 軍事拠点や物資の積出港を破壊して干上がらせるのでも良いのでは?」
「んーとね」
堺は生徒の質問に答える先生のような口調で話し始めた。
「グラ・バルカス帝国は国名の通り帝政国家だ。それも、王権神授説じゃないけど国民の中には皇帝一族を現人神のように崇めている傾向があるし、実際強大な権力を持ってる。ここまでは分かるよな?」
「ええ、捕虜から情報を収集した限りでもそうなってますね。それに、前にちらっと仰ってましたね、皇帝を神みたいに盲信する外交官がいた、って」
「お、よく覚えてたな」
この外交官というのは、今はロデニウス軍の捕虜になっているダラスのことである。
あの外交官の他にも、捕虜になったグラ・バルカス帝国人の中には、自国の皇帝かどれだけ偉大な存在なのか、聞いてもいないのにぺらぺらと喋る輩もいたのである。
「その皇帝一族の住まいにして政務の場が、王城だ。王城ってのは歴史的に、王家の権力、あるいは時の施政者の権力の象徴になってきたものだ。それを破壊されたとなると、権力者の凋落あるいは全否定……言い換えれば自国より敵の方が強いという何よりの証明になる。そりゃそうだろ、王城ってのは国の一番安全なとこに築かれるんだから」
まるで作家が新しい物語の構想でも語るかのような楽しそうな顔で、ひどく悪どいことをしれっと述べる堺。
「確かに。…では、帝国のどこにいても安全は確保できないと知らしめ、同時に我々は貴方たちより圧倒的に強いのだと宣言するために王城を砲撃すると?」
「うーん、むしろ皇帝一族から一般市民までの戦意と心をバッキリへし折ってやるのが目的だよ。神のように信じるもの…言い換えれば拠り所がある限り、人は何度でも立ち上がれる。逆に拠り所が無くなると、無力でちっぽけな存在に成り下がってしまう。
やられたら嫌なところを徹底的に衝くのが、戦争の常道だよ」
そして止めを刺しにかかる堺。
「それに考えてみりゃ、軍事基地は国土を守るために必要な拠点だけど、
「そうですね」
「つまり、軍事基地は平民の家と変わらんって訳だ。
権力者ってのは、一般市民の家が燃えても眉1つ動かしゃしないよ。けどね、政府関係の建物が吹っ飛ばされると血の気を失うもんなのさ。
そして、殊にグラ・バルカス帝国にはこの戦法は有効に働くと俺は踏んでる。
狙うのは、権力の頂点と、最下層。真上と、真下……くくく、脆いもんよの」
堺、どうあっても王城を吹き飛ばす気まんまんである。
高速戦闘艦隊を率いる愛妻家の金髪提督と、青肌金髪の黒マント羽織った男がちらっと見えた? 気のせいでしょう。
「そういう訳で、…王城の中には使用人のような一般市民もいると思うが…全責任は俺が取る。やれ」
「承知しました」
かくて王城破壊という目標が定められ、実行されたのであった。
王城ニヴルズ城が破壊されていくのを、マークとキャサリンは呆然と見守っていた。いや、見守る以外に何もできなかった。
あっという間にニヴルズ城はその形を失っていく。城壁が吹き飛ばされ、建物が崩れ落ち、火が回って松明のように燃え始める。
敵戦艦はただただ機械的に砲弾を放ち続ける。砲声が響く度に、城が夥しい石の破片と化していく。
最後まで残っていた塔に、敵戦艦から放たれた青白い光線が命中し塔は積み木のように崩れ落ちていく。そして、あの荘厳なニヴルズ城は瓦礫の山と変わり果ててしまった。
城が崩れ落ちる轟音が聞こえなくなったタイミングを見計らい、敵戦艦から再び勧告、という名の要求が突き付けられる。
『以上で余興を終了致します。
グラ・バルカス帝国の皆様に重ねて勧告します。早急なる無条件降伏を。
これで我々の実力の程は分かったでしょう。それに、空軍が動ける白昼に堂々と帝都に侵入できているのですから、もうそちらには制空権が無いのだということが、よく理解できたのではないかと思います。
また、我が艦隊は貴国本土の近海まで侵入、展開しています。やろうと思えば、いつでもどこでも思うがままに、空襲なり艦砲射撃なり仕掛けられます。植民地からの物資が入って来なくなって、皆様も胃袋が苦しくなっているのではありませんか? よく考えてください、帝王の御威光とやらが皆様の胃袋を満たしてくれますか? その辺りをしっかりとお考えいただき、必要なら革命でも何でもして、我々と交渉を持つよう取り計らうのがよろしいと愚考します。
あ、そうそう、最後にお届け物があるんでした。我が国本土やムー大陸諸国で捕虜となり身を留め置かれている貴国の軍人や一般市民の方から、何とかして家族や親戚や恋人に手紙を届けて欲しいとお願いされたので、持ってきたんです。今から空中投下しますので…皆様にはご迷惑をおかけしますが、どうか宛先に届けていただけますと幸いです。』
そして、敵戦艦は帝都上空を低速で堂々と横断しながら、その艦底部から手紙や小包を大量にばら撒いた。帝都防衛隊が盛んに高射砲を撃ちまくっていたが、敵戦艦の周囲に張られた青い膜のようなものに受け止められており、損傷を与えた様子が全く無い。逆に戦艦からの反撃によって、永遠の沈黙を強いられていく。
対空砲火の飛び交う中、再建成った飛行場から飛んできた航空部隊が敵戦艦への攻撃に入ったが、こちらも敵戦艦の青い膜に阻まれて、投下した爆弾や撃ち込んだ機銃弾は何らの有効打も与えていないように見える。それどころか、攻撃進入と同時に敵戦艦の猛烈な対空砲火に絡め取られて撃墜される機体が多発した。地上からマークとキャサリンが見上げていた限り、少なく見ても8割方は投弾前に墜とされている。
手紙や小包を投下し終えた敵戦艦は、エンジンに点火したらしく雷鳴のごとき轟音を響かせ、後部から3筋の炎を吐き出しながら、追い縋る「アンタレス」や「アルコル」を軽々と振り切って飛び去っていった。
敵戦艦が飛び去った後、ラグナは全域で深刻な混乱が生じた。崩れ落ちたニヴルズ城を見て悲嘆に暮れる者、帝王一族の身柄を案ずる者、敵から突き付けられた絶望的な現実に心折れて膝をつく者、家に閉じこもって震える者、半狂乱になって家族からの手紙ないし小包を探す者、各々好き勝手に動いている。
マークとキャサリンは、己が家の周囲に落下した手紙や小包を一通り回収した後、家に戻って宛先を確かめていた。もし近所の人に宛てられた手紙があったら、届けようと考えて。そして、落下してきた手紙の中に娘マキ・デルフィーノが書いた物が無いかと探して。
果たして、3通はばら撒かれたマキの手紙は無事に両親に届くのか。それはまだ、誰にも分からない。
「ラピュタからブルーリーフへ、こちらラピュタ。
『こちらブルーリーフ、《ラピュタ》確認、パスコードをリクエスト。"おそらの死んだ世界から"?』
「"お送りしますお気楽ナンバー"」
『はい、認証完了です司令官! 良い情報ありますよぉ!』
「その前にクレームだ。何だあのパスコード、ふざけてんのか?」
『しょうがないじゃないですか! グ帝側の不正アクセスを排除しようとして頭捻った結果、地球の名言類持ってきて勘合貿易方式で合わせれば良いって思ったんですから!』
「じゃあ何だ、あれでもまだマシなのか!?」
『マシなほうですよ! コードブック見たら分かるでしょう!』
「逆ギレしてんじゃねえよ! …はあ、もう良いや。んで、作戦経過報告書の提出と、こっちが知りたい情報についてなんだが」
『戦闘詳報はいつも通りの方法でお願いしますね。そして欲しい情報って何ですか?』
「報告書を見てもらえば分かるが、グ帝がウラン濃縮してやがった。目的はおそらく核兵器の製造だろう」
『ヤバいじゃないですか!』
「波動砲で濃縮プラント消し飛ばしたから問題無い。それに、プラントはその1箇所しかないみたいだし」
『どういうことですか?』
「報告書に書いたが、奴らどうも放射線の基礎知識がないらしい。プラントから2㎞離れて0.1mSv観測できるくらい、放射線遮蔽がザルだったんだよ」
『…それ、遮蔽してなくないです?』
「やっぱ遮蔽無しなのか…ヤマトもおんなじこと言ってたな。そんだけ遮蔽がガバガバで、なおかつ異常な放射線量観測した場所がその1つしかなかったんで、おそらくウラン濃縮はここでしかやってないんじゃないかって訳だ」
『なるほど、筋は通りますね。でも司令官、地下プラントがあるって可能性もありますから、注意してくださいね』
「もちろん、俺もその可能性を危惧してる。それに、既に核兵器が製造されちまってる可能性もあるしな。引き続き捜索・破壊していく。
そこでなんだが…将来ラヴァーナル帝国と戦うに備えて、グ帝の連中に放射線について教える必要がある。特に医療技術者が欲しい。幸いこっちに看護師が1人いる、あいつはまだ若いから知識の吸収は早いはずだ」
『なるほど教育ですね。ということは、基礎的な知識になるものと、被曝症状とかについての情報が欲しいってことですか?』
「そうだ。何か良いの無いかと思ってな」
『では、地球であった事例を出しましょう。とりあえず広島と長崎は必須、それから福島とチェルノブイリ、スリーマイルですね』
「うーん、それも良いんだが、もうちょい……こう、一般人が身近に感じられそうな奴ないか?」
『あ、それでしたらむしろゴイアニアとかサムットプラカーン、リア、キシュテムとかですかね。特にゴイアニアとサムットプラカーンは、放射線治療機器の管理不徹底から発生した事故ですし』
「良いのあるじゃねえか。じゃあ頼んだよ」
『分かりました、データ送ります! あと、ロデニウス大陸にいる捕虜の皆さんにも教育した方が良いですか?』
「おう、そっちは任せた。1人でも知ってる奴がいた方が良い」
『了解ですっ! じゃあこっちはやっておきますね。
堺たちは意図していませんでしたが、しれっとアニメやゲームの名言使ってましたね。その正体はこちら。
・権力者は (中略) 政府関係の建物が吹っ飛ばされると血の気を失う:これは、「高速戦闘艦隊を率いる愛妻家の金髪提督」つまりウォルフガング・ミッターマイヤーの発言。
・真上と真下、脆いもんよの:「青肌金髪の黒マント羽織った男」つまりデスラー総統の発言。
・パスコード「おそらの死んだ世界から」→「お送りしますお気楽ナンバー」:武装組織「死んだ世界戦線」の線歌から一部抜粋。たぶん分かる人にしか分からないネタ…と思われる。
"ブルーリーフ"こと青葉情報局が設定したパスコードは、グ帝側の不正アクセスを防ぐために、地球絡みのありとあらゆる文物からネタが取られています。以下にパスコードの一例を載せますが、さて貴方はいくつ答えられますか?
① "天才とは、1%のひらめきと"→?
② "1つの民族、1つの"→?
③ "鳥の空音ははかるとも"→?
④ "駆逐してやる この世から"→?
⑤ "神よ、我に自由を、"→?
⑥ "奴はとんでもないものを盗んでいきました"→?
⑦ "おそらく奴は常日頃からこんな練習もしていたんだろう"→?
⑧ "呼吸をするように"→?
また、引っ張り出そうとしていた放射線絡みの事例は、
・広島、長崎→言うまでもなく原子爆弾の被害。
・福島、チェルノブイリ、スリーマイル→原発事故。
・ゴイアニア、サムットプラカーン、リア→被曝事故。ゴイアニアはブラジル、サムットプラカーンはタイ、リアとキシュテムはロシア。
です。
UAが157万を突破……ご愛読ありがとうございます。2026年も拙作をどうかよろしくお願い申し上げます!
次回予告。
グラ・バルカス帝国内における核開発とされる事象を、捕虜たちに対して知らせることにしたタウイタウイ泊地上層部。自国がやらかそうとしていた"悪魔の所業"を知らされた彼らが示す反応とは…?
一方、王城そのものを破壊されたグラ・バルカス帝国上層部と一般市民の反応は…
次回『ラヴクラフト⑧ 決断』