鎮守府が、異世界に召喚されました。これより、部隊を展開させます。   作:Red October

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「なぁにこれぇ」←現在のうp主の感想

評価者数がついに50になったはいいのですが、総合評価の浮き沈みが激しい上に、平均評価はついに7.00を下回ってる…。どうやら総合評価760ポイント前後で推移しているようですが…
低評価が無言で付けられているので、どうしてこうなったか理由が分からないから、対処がしづらい…。ただ、作風を大幅に変えるようなことはできかねます。

評価7をくださいました茜。様、ありがとうございます!
また、新たにお気に入り登録してくださいました皆様も、ありがとうございます!

はい、今回は軍祭の後編。前回の時点で特大のフラグが立った訳ですが、果たしてどうなるやら。

それでは、ごゆっくりどうぞ!


023. 波乱の軍祭(後編)

 中央暦1639年9月25日、フェン王国首都アマノキ、軍祭の会場。

 ロデニウス連合王国海軍は……いや、その配下の日本国海上護衛軍・タウイタウイ泊地部隊は、列強パーパルディア皇国のものとみられるワイバーンロード部隊20騎を、あっさりと殲滅してのけた。それも、フェン王国が主催する軍祭において、第三文明圏外の各国の武官が見ている前で。

 

「何だあの船は!? あんなにあっさり、ワイバーンロードを叩き落とすなんて……」

「しかも相手はパーパルディア皇国だ。あいつらのワイバーンロードがこんなに多数落とされたなんて、聞いたことがない!」

「ロデニウス連合王国は、そこまで強力な力を持っているのか!?」

 

 この戦闘模様を見ていた各国の武官たちは、口々に語り合う。

 ロデニウス連合王国が示した力。列強パーパルディア皇国のワイバーンロード部隊を、正面切って迎え撃ち、一瞬で(せん)(めつ)してのけるだけの力。

 各国の武官たちは、本国に報告する内容を大急ぎで考え始めた。……できるならロデニウス連合王国と国交を開設し、あのすさまじい力を少しでも分けてもらうべきだ、という意見も付けて。

 

 

 同じ頃、フェン王国の首都アマノキでは、「(ちょう)(かい)」に乗艦してこっそり軍祭を訪れていた堺と、ロデニウス連合王国の外交官のうち2人が上陸し、フェン王城の来賓室で待機していた。

 来賓室も、謁見室同様シンプルな造りとなっている。しかし、そこで待機している堺たちの表情は固い。

 一同に茶が出された後、しばらくして王宮騎士団長マグレブが現れた。

 

「ロデニウス連合王国の皆様、このたびはフェン王国に不意討ちを掛けてきた狼藉者どもを、真に見事な武技で退治してくださり、誠にありがとうございます」

 

 マグレブは深く頭を下げる。

 

「いえ、我々は貴国への攻撃を撃退したわけではありません。我々に降りかかった火の粉を払っただけですよ」

 

 対して堺は謙遜(牽制)する。

 

「こちらに伺うまでに、何人かの外国の武官の方に話を伺いました。彼らは全員口を揃えて、先のワイバーンロード部隊はパーパルディア皇国の軍だと断言しましたが、間違いないのですか?」

 

 穏やかな、しかし苛立ちを隠さぬ口調で聞く堺。

 

「はい。おそらくは本国の軍ではなく、国家監察軍と呼ばれる部隊のものでしょう」

「国家監察軍? 本国の正規軍ではなくて?」

「はい、いわば諸外国に“嫌がらせ”で攻撃を行う軍隊です。皇国には文明圏外国家との外交を行う専門部署があり、そこの指揮下に入っている軍隊です」

「なるほど……しかし、これほどとは思いませんでした。まさか、軍祭の場で大っぴらに攻撃してくるとは……パーパルディア皇国とは、そんなに()()なのですか?」

「いえ、野蛮というよりプライドが高いのです。これは、列強と名の付く国ならどこでもそうなのですが、パーパルディア皇国はその中でも特にプライドが高い。他国に舐められまいと常に高圧的なのです」

「よくわかりました。ありがとうございます」

「しかし驚きましたな。列強がどのようなものか、ご存じないとは……。貴官は、外交には慣れていないのですか?」

 

 マグレブに聞かれて、堺は困ったように頭を掻いた。

 

「ええ、外交任務を命ぜられたのは初めてでして、慣れていないのですよ」

「左様でしたか。しかし堺殿、貴方は不思議なお方だ。外交は初めてだというのに、非常に堂々としていらっしゃる。緊張しているような風もない。しかも我々が恐れている列強パーパルディア皇国のことを、野蛮な国と仰る。つくづく不思議です。何かあったのですか?」

「まあ、いろいろとございまして」

 

 実際、いろいろとあったというのは間違いではない。ただ、転移のことを話したとしても、とても信じてもらえるとは思えないので、堺はそれは言わずにおいた。

 「いろいろ」という言葉だけで、相手にも何かしら事情があるのだと察し、マグレブはそれ以上は聞かないことにする。

 

「ともかくも、初心者外交官である私の仕事は、これで終了となるでしょう。まあ、私の本業は軍人ですので、パーパルディアが貴国に侵攻でもしてくれば、またお会いするかもしれません」

「承知しました。ならば、最後に1つ申し上げましょう。あなた方が相手をし、一瞬で蹴散らした軍の所属先である、パーパルディア皇国についてです。先ほども申し上げましたが、列強というのは総じてプライドが高いです。中でもパーパルディア皇国は、特にプライドが高い。

かつて皇国のワイバーンロードを撃墜した国が、この近辺にありました。その国は、ワイバーンに乗る竜騎士を不意打ちで狙い、殺したのです。その国は後にパーパルディア皇国に攻め滅ぼされ、国民は()(れい)として売られるか、殺されるかしました。さらに、その国の王族は親戚縁者まで含めて一族郎党皆殺しにされ、遺体を城下に(さら)されるという()き目を見ました。

このようにパーパルディア皇国は、非常にプライドが高いということを、くれぐれもお忘れなきようお願いいたします」

 

 堺は自分の心胆が寒くなるのを感じた。同時に、“パーパルディア皇国=野蛮かつ危険極まりない国 ”という認識を、一層自分の中で固める。

 

「ありがとうございました。では……」

 

 堺たちが退室しようとした、その時。

 急にノックもなしに襖が開けられ、武士が1人、部屋に入ってきた。その顔は青く、恐怖に固まっている。手には強く握り締められ、クシャクシャになった紙があった。

 

(手紙か?)

 

 堺が考えていると、その武士はマグレブに何事か囁いた。武士の唇の動きを見ていた堺は、辛うじて「パーパルディア」「全滅」という単語を読み取る。

 

(フェンの軍が、パーパルディアにやられて全滅したって知らせか? 陸軍が上陸してきてるなら、今頃こんな祭やってる場合じゃないし、それにこの国にはワイバーンがいないから、フェン空軍も存在しない。となると……おそらく海軍がやられたな)

 

 堺は、マグレブの顔色がさっと変わったのを見て、自分の推測が当たったらしいと直感した。

 

「何かあったのですか?」

 

 堺が尋ねると、青い顔のままマグレブは答えた。

 

「はい。我が王宮の直轄水軍が、パーパルディア皇国・国家監察軍の艦隊と戦い、全滅した模様です。辛うじて伝書鳩が届きました」

 

 そう言うや、マグレブは何かを期待するような視線を堺に送る。

 堺は嘆息した。自分の直感が当たったことを知ると同時に、また厄介事に巻き込まれたな、と感じたのだ。

 

「わかりました……まだ正式な国交を結んでないとはいえ、毒食らわば皿までです。やりましょう。

パーパルディア艦隊を叩き潰せばいいのですね?」

 

 堺が問うと、マグレブの顔色は明るくなった。図星らしい。

 こうなっては仕方がないと、堺はまず情報を集めることにする。

 

「それで、パーパルディア艦隊はどこに?」

「伝書には、我が国の西方約50㎞と書かれています」

「敵の数は? あと、どっちから来ていますか?」

「22隻だそうです。西より進行中です」

「そいつらは帆船ですか? あと、目印か何かありますか?」

「はい。ただ、魔導砲を装備しています。遠距離から攻撃してくるので気を付けてください。

目印ですが、帆を見ればわかります。尻尾を交差させて口から火を噴いている、2頭の4足歩行の竜が描かれていますから」

 

(魔導砲……ってことは砲艦か。帆船で砲艦となると、考えられるのは地球基準だと、早ければ大航海時代くらい、遅いと18世紀頃。戦列艦って奴かもな)

 

 素早く堺は思考した。

 

「失礼ですが、敵の魔導砲とやらはどのくらい弾が飛ぶのですか?」

 

 堺が聞くと、マグレブは一瞬答えに詰まった。

 

「我が国のトップシークレットなので……」

「では迎撃はしてほしいが、敵の情報は教えない、ということですか?」

 

 ムシのいい話ですね、とでも言おうとして堺が詰め寄った途端、マグレブの表情が変わった。苦虫を噛み潰したような顔で、話し始める。

 

「わかりました、お教えします。交戦した水軍からの最期の報告によれば、砲の射程はおよそ2㎞。我が国の魔導砲の倍です」

(勝ち確定)

 

 堺はすぐさま結論を出した。勝ち確定…つまり自軍の勝利が確定したということである。

 当たり前だ。今回軍祭に参加している艦隊は、性能が最も低い吹雪型駆逐艦でも、5㎞以上の有効射程がある。しかも相手は帆船だ、回転砲塔を持っているとはとても思えない。

 加えて、今回の軍祭に参加している艦は、いずれもスペックは低いが練度の高い手練ればかり。特に"吹雪"は泊地の初期艦である。

 

「ありがとうございます」

 

 マグレブに手短にお礼を言うや、堺はすぐポータブルの無線機を引っ張り出した。

 本来ならば、今回は堺は指揮を執らず傍観者に徹して、"(きり)(しま)"たちに現場を任せるつもりだった。だが、警告なしで攻撃を受け、死者が出ている、となれば話は別だ。こういう時は、提督が指揮を()って事態に対処するとともに、責任を被らなければならない。堺はそう考えている。

 

「こちら堺、提督より霧島に命ずる。西の方角より、先のワイバーン部隊の仲間が、水上艦を伴って接近中。直ちに球磨と11駆を差し向けよ。敵は、大砲を持った22隻の帆船。帆に、尻尾を交差させた2頭の4足動物が口から火を噴いている紋章がある、それで敵を判別せよ。繰り返す、敵は、大砲を持った、22隻の、帆船だ。目印は、帆に、描かれた、尻尾が交差している、口から火を噴く、2頭の、4足動物。

提督権限で実弾発砲を命ずる。ただし、もったいないので魚雷は使うな。砲撃のみで敵を撃沈せよ。1隻たりとも生かして帰すな、どうぞ」

『霧島より司令、了解』

 

 さっと命令を伝達した堺は、ポータブルの無線機をしまいながら、ちらりとマグレブを見た。マグレブはやけにニヤニヤしている。

 

「ありがとうございます。あの巨艦が相手であれば、パーパルディア皇国の船など、10分と保ちますまい!」

 

 したり顔のマグレブに、堺は頭を()きながら返す。

 

「あー、今回はあの巨艦は1隻も使いませんよ、動かす燃料と撃つ弾がもったいないので。今回は、沖合に待機している小型艦のみで迎撃します」

「何ですと?」

 

 驚くマグレブ。堺はにっこり笑うと、話を続けた。

 

「心配要りませんよ。小型艦といっても、搭載している砲は口径127㎜。それに、有効射程は少なくとも5㎞はあります。それと、パーパルディアの船の速度ってだいたいどのくらいですか?」

「それも機密で……」

「情報」

 

 堺は、有無を言わさず畳み掛けた。

 

「わ、わかりました。パーパルディアの船ですが、どうやら何かしらの魔法を使っているようで、非常に速いです。およそ12ノットと見積もられています」

「12? ()()()12ノットですか?

余裕ですね。我が国の小型艦は、30ノットは出せます。なので、我が艦隊は奴らに追い付かれることなく、遠距離から一方的に叩きのめせるでしょう」

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 その1時間後。

 パーパルディア皇国の国家監察軍東洋艦隊・フェン王国派遣艦隊22隻は、フェン王国の首都アマノキを目指し、西へ進んでいた。現在、フェン王国の島まであと25㎞ほどのところまで接近している。

 

 当初の計画としては、まずワイバーンロード2個飛行隊を以て、フェン王国の首都アマノキに航空攻撃を掛け、軍祭に来ている各国武官に皇国の力を再認識させる。その後戦列艦から射程2㎞の魔導砲の砲撃を放ち、アマノキを焼き払うことでフェン王国への懲罰攻撃とし、それとともに各国に対して、パーパルディア皇国に逆らうとどうなるか見せつける、というつもりだった。

 

 ところがワイバーンロード部隊は、『アマノキの港に巨大船を発見、これより攻撃する』という魔信を発したあと、『敵巨大船、我が方に迎撃』という報告を最後に、魔導通信が途絶してしまった。よって、全滅したと考えられる。

 

 フェン王国は、そこまで強力な力を持ったのだろうか?

 

 国家監察軍東洋艦隊・フェン王国派遣艦隊司令・提督ポクトアールは、念のためフェン王国の王宮直轄水軍と対峙した時、列強の艦隊を相手にするくらいの心構えで挑んだ。

 しかしやはり蛮族は蛮族で、奴らの船は手漕ぎの帆船というものだった。1発だけ魔導砲を撃ってきたが、監察軍からすると、文明圏内外で使われている旧式の砲であり、艦隊に届いてすらいなかった。対して、ポクトアール率いるフェン王国派遣艦隊は、射程2㎞の魔導砲の砲撃でフェン艦隊13隻を全滅させ、しかも味方の被害はゼロである。

 

「考えすぎだったか……?」

 

 ポクトアールがそんなことを考えていた、その時だった。

 

「提督! 前方1時の方向に艦影らしきもの視認!

数は…3! いや、5に増えました!」

 

 マストに登っていた見張りが、叫び声を上げた。

 ポクトアールは急いでその方角を見る。

 

「なっ……何だ、アレは!?」

 

 ポクトアールはそう呟いた。

 見える影は、動いているから船なのだろうが…大きい。常識から考えても、桁違いの大きさがあった。自軍の80門級戦列艦より大きいかもしれない。

 

「大きいな……フェンの艦とは思えん。不味いぞ。全艦、戦闘配備につけ!」

 

 ポクトアールは急いで各艦に命令する。船の中が(ひと)(しき)り、騒がしくなった。

 そうするうちにも、船はどんどんこちらに近づいてくる。

 

(想定よりも早い!)

 

 不意にポクトアールは、大変なことに気付いた。

 

「ま、まさか……我が方の船より速いのか!?」

 

 近づくうちに、敵は5隻ともその形状をはっきりさせていた。現時点では、こちらと敵とは10㎞ほどの距離がある。

 

「提督、如何(いかが)いたしますか?」

 

 部下に問われ、ポクトアールは一瞬考える。

 

 第3外務局長カイオスの命令は、各国の武官の前でフェン王国に懲罰的攻撃を行い、皇国の力を知らしめるとともに各国に恐怖を植え付けること。その際、妨害の可能性となる軍は全て排除するよう、命じられている。

 今目の前にいる艦隊は、パーパルディア皇国の船、もしくはその同盟国などの船ではないことは確実だ。自国の民間船でもなさそうである。おそらく、軍祭に来ているどこかの国の軍の船だろう。

 数は5隻。22対5なので、数ではこちらが勝る。

 よく見ると敵船は巨大な大砲を持っていた。しかし、1隻あたり多くて10門というところだ。対するこちらは、30門級戦列艦が10隻に、50門級戦列艦が10隻。そして2隻だけだが80門級戦列艦もいる。勝てない訳がない。

 しかも、だ。列強の魔導砲の射程は2㎞。対して、列強以外の文明国で使われている魔導砲は、せいぜい1㎞程度しか弾が飛ばない。その上、そうした砲の弾はだいたい球形砲弾であり、炸裂しないことが多いので、脅威にはならない。

 要するに、文明国や文明圏外国が列強に敵うはずがないのだ。

 

 ただ、そのはずなのだが……あれほど大きな砲を持つ船を、ポクトアールは知らなかった。

 なんだか、嫌な予感がする。

 

 部下が、全艦の戦闘配備が完了したと報告に来た。

 

「いつも通りの方法でいこう。全艦、全速前進! 距離2㎞で順次回頭、魔導砲の全力射撃で敵艦を沈めろ!」

 

 ポクトアールは、定石ともいえる方法でこの状況に対抗しようとした。全ての帆船に据えられた「風神の涙」(魔法で風を発生させる魔石の1つ。これがあれば、帆船は風向に関係なく常に最大の速度で航行できる)が輝き、速力を最大の12ノットまで上げて、敵艦隊に一直線に向かっていく。

 と、そこで、敵艦の巨大砲が動き出す。先頭に立つ敵艦の砲が回転し……砲口がこちらを向いた。

 

「!!!!! まさか、この距離で届くというのか!? まだ8㎞も離れているのだぞ!?」

 

 ポクトアールが叫んだ瞬間、敵艦がパッと光り輝いた。

 

 

『「発(ふぶ)()、宛司令官。敵艦隊発見。位置、アマノキより9時の方向25㎞。数は22隻、多数の小型砲を舷側に積んだ帆船部隊。目印を確認。我これより攻撃す」打電完了です!』

 

 軽巡洋艦「()()」の艦橋に、無線で"吹雪"が報告を入れた。

 

「敵速12ノット、距離ハチマル(8,000メートル)!」

「装填よし、照準よし、右舷砲戦ヨーイよし!」

 

 "吹雪"の報告に前後して、妖精が報告を入れる。

 

「一一駆各艦、砲戦用意よし!」

 

 その報告を聞き、梯形陣を組んで進むタウイ艦隊の先頭に立つ軽巡洋艦「球磨」の中で、半袖の白いセーラー服にショートパンツを着用した、茶色のアホ毛が目立つ艦娘"球磨"が号令をかけた。

 

「砲撃戦、開始するクマ!」

「了解。撃ちぃ方始め!」

 

 砲術長妖精が"球磨"の命令を復唱した直後、「球磨」の艦体前方に据えられた1、2、3番主砲……「14㎝単装砲」が一斉に砲弾をぶっ放した。しかしこれは命中せず、敵艦隊前方に巨大な水柱を3本立てただけに終わる。

 

『撃ち方始め! いっけー!』

 

 続いて"吹雪"。改二になって配備された新装備、高射装置と連動させた「10㎝連装高角砲」による砲撃だ。

 着弾と同時に、敵艦のうち1隻がすさまじい火柱を噴き上げ、真っ二つに折れて沈没する。木造船ごときが10㎝高角砲弾の直撃に耐えられる訳がない。

 

『狙いよし、撃ち方始め』

 

 これは"(しら)(ゆき)"の台詞。艦体前方の「10㎝連装高角砲」1基のみでの射撃だったが、こちらも見事に命中させ、敵艦1隻を吹き飛ばす。爆発音が大気を震わせ、焼けた破片やら何やらが空中に舞い上がった。

 

『当たれっ……!』

 

 続くのは"(はつ)(ゆき)"。しかし残念ながら命中せず。でも、掠りはしたようだ。敵船の1隻の至近に水柱が立つと、その敵船が目に見えて速度を落とす。

 

『喰らえっ! ()(ゆき)スペシャル!』

 

 最後は"深雪"。こちらは見事に直撃弾を出した。木造の帆船が1隻、轟音とともに炎に包まれる。次の瞬間には、砲弾が誘爆したか次々と爆発を起こして、戦列艦は全身火だるまと化した。

 

「初弾命中とはさすがクマ。でも、球磨だって負けないクマ」

 

 "球磨"は呟くと、敵艦隊中央の大型艦に主砲の照準を合わせた。

 

「舐めるなクマー!」

 

 砲撃する。3発の14㎝砲弾は……今度こそ目標を捉えた。

 

 

「敵艦、発砲!」

 

 見張りが絶叫する。

 

「な、何!?」

 

 ポクトアールが叫ぶのと、艦隊前方の海面に巨大な水柱が3本立つのとが同時だった。

 着弾によって生じた水柱は、パーパルディア皇国の魔導砲のそれを、はるかに凌ぐ太さと高さを兼ね備えている。それだけでも、敵の魔導砲はとんでもない性能を持っていることがはっきりと分かった。

 

「な……なんという威力だ! しかも、この距離から届くのか!?」

 

 ポクトアールは息を飲む。各艦の艦長も、参謀も、一般兵たちも、この水柱を見て衝撃を覚えた。

 こちらよりも速い船足に、こちらの魔導砲以上の威力と射程を持つ大砲。これでは完全なアウトレンジ攻撃になってしまう。

 だが、第3外務局長カイオスの命令は絶対である。列強の軍が戦わずして引き返すなど、(ごん)()(どう)(だん)。国家反逆にも等しいことである。もし国家反逆と認定されれば、一族郎党全員が処刑されるであろう。職務を放棄するわけにはいかない。

 幸いにして、数ではこちらが勝る。数にものを言わせようと、パーパルディア艦隊は敵艦隊に進路を向ける。

 そこへ、新たな敵砲弾の飛翔音が迫った。直後、ドガアァァァァァン! という激しい炸裂音が鼓膜を突く。

 

「戦列艦パオス、被弾!」

 

 見張りが叫ぶ。ポクトアールは思わず前方左側を見て…見てしまった。真っ二つに折れ、艦尾を高々と空に突き上げて沈んでいく50門級戦列艦パオスを。

 

「なっ!?」

 

 ポクトアール以下、全員が仰天する。

 

「報告を訂正、戦列艦パオス轟沈! ……ああっ!」

 

 見張りの報告も、悲鳴と化していた。

 

「戦列艦ガリアス被弾、轟沈!」

 

 今度は、パオスの隣にいた50門級戦列艦の1隻が、木っ端微塵に吹き飛ばされる。

 悲劇はまだ終わらない。続いて30門級戦列艦のマミズが砲撃を受けた。直撃はしなかったが、船体のすぐ至近に水柱が上がった、と思った直後にマミズがよろめき、その速度が目に見えて落ちる。

 

「戦列艦マミズに至近弾! 浸水多量により、航行不能!」

 

 見張りが絶叫じみた報告を入れる。

 さらに、マミズのすぐ近くを航走していた30門級戦列艦が、いきなり巨大な火の玉と化した。瞬きするほどの暇の間に、その戦列艦は大爆発を起こす。戦えなくなったのは明白だ。

 

「戦列艦クマシロ被弾! 大破、大火災発生!」

 

 まさかのことが、眼前で起きていた。

 列強たるパーパルディア皇国の国家監察軍が、手も足も出ない。しかも、敵は信じ難いほどの精度で砲撃してきている。

 海には波があり、それによって船は揺られるものだ。自分も揺れるし、敵も揺れる。そのため、大砲はなかなか当たるものではない。当たらないから、「下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる」の考え方で、80門とか100門といった多数の大砲を舷側に並べた戦列艦が存在するのだ。

 それなのに、敵はその常識をあっさり(くつがえ)し、とんでもなく正確な狙いで砲撃してくる。

 

 敵の先頭の艦が再度発砲した。発砲炎が3つ。

 次の瞬間、艦隊中央にいた80門級戦列艦の舷側に、巨大な穴が3つ開いた。と思った時には、戦列艦は耳を劈く轟音とともに、船体を2つにポッキリ折って、あっという間に水面下に没した。乗組員が避難する暇などなかっただろう。

 

「せ、戦列艦ケブリン被弾、轟沈っ!!」

 

 ポクトアール以下一同は、この報告で完全に絶望した。

 この艦隊最強の船である80門級戦列艦ですら歯が立たないとなると、もう打つ手がない。

 そこへ、他の艦から魔信が届いた。

 

『戦列艦クラより旗艦へ。敵艦はロデニウス連合王国! 繰り返す、敵はロデニウス連合王国の船だ!』

「何!? それは本当か?」

 

 ポクトアールは魔信で問い返した。

 

『間違いない! あの旗はロデニウス連合王、ぎゃあああ!』

 

 悲鳴とともに魔信が切れた。同時に30門級戦列艦の1隻が、火の玉と化して砕け散る。

 

「くそ! ならば、死ぬのはこの情報だけでも本国に伝えてからにしてやる!

通信士、本国に打信急げ! 『我が艦隊劣勢、敵砲撃により轟沈相次ぐ。敵はロデニウス連合王国』と!」

「了解しました!」

 

 通信士は急いで魔信を送り始める。

 その間にも、艦隊は1発の砲弾も撃てぬまま、どんどん数を減らしていた。気付けばもう10隻も残っていない。

 

「打信完了!」

 

 通信士が叫ぶのと、敵先頭艦の砲撃がポクトアールの乗艦に命中するのとが同時だった。

 激しい衝撃が船体を揺さぶり、吹き飛ばされたポクトアールは、頭をマストにぶつけて意識を失った。

 

 

 戦闘開始からわずか10分ほどで、帆船部隊は全艦が沈没した。最初に「初雪」の砲撃で至近弾を受けた船も、最終的に弾薬庫にでも引火したか、勝手に大爆発を起こして沈没した。できれば敵の兵器を研究して、戦力比較や今後の作戦検討に使うデータを集めるため、()()して帰ろうと思ったのだが。

 

「作戦終了。戦闘用具収めクマ」

 

 "球磨"は無線で各艦に指示する。

 

『終わりましたね。お疲れ様でした、球磨さん。でも、敵って何だったんでしょう?』

 

 "吹雪"が聞いてきた。

 

「提督によれば、あいつらの仲間の攻撃で、霧島が被弾して死者が出たらしいクマ。これはそれの“弔い合戦”じゃないかクマ?」

 

 "球磨"は、堺から伝え聞いた話をする。

 

『ええっ!? で、でも、宣戦布告は……』

「そんなのなかったんじゃないかクマ? 野蛮な奴らもいたもんだクマ」

 

 この会話をパーパルディア皇国の本土に住まう住人が聞いたら、激おこ間違いなしだろう。列強たる自国のことを野蛮とぬかしたのだから。だが"球磨"たちに言わせれば、逆である。

 

「ま、任務は終わったクマ。敵に警戒しつつ、生存者を収容して帰投するクマ!」

 

 5隻は、後始末に取りかかった。

 

 

 "球磨"から、敵艦隊を撃滅したと報告を聞き、まだアマノキにいた堺は、マグレブに話した。

 

「仰る通り、パーパルディア皇国の艦隊と思しき連中を、全滅させましたよ」

「ありがとうございます。これで一先ず、フェン王国は救われました」

 

 マグレブは深々と頭を下げた。

 その一方、未だ続いている軍祭では、各国の武官たちが放心状態となっていた。

 

「なんだあいつらは!? 列強パーパルディア皇国のワイバーンロードを、あっさり叩き落とすなんて……」

「なんと恐ろしい。常軌を逸している!」

「銃の性能も、パーパルディアのそれより圧倒的に高かったぞ!」

「ロデニウス連合王国は、そんな力を手に入れたのか!?」

 

 どうにかして政治家やら軍部やらを説得し、ロデニウス連合王国と国交を開設させ、あのすさまじい力を手に入れなければ。そうすれば、パーパルディアからの理不尽な要求を断り、攻め込んできたパーパルディアの軍に対しても戦えるだろう。

 各国の武官たちは皆、同じことを考えていた。

 

 ロデニウス連合王国はこの後、多数の国家と国交を開設することになる。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 フェン王国の西方210㎞、フィルアデス大陸。そこに位置する第三文明圏の列強、パーパルディア皇国。

 その第3外務局長カイオスは報告を聞き、脳の血管が切れるんじゃないかと思うほど、激怒していた。

 

 事の始まりは、フェン王国に対する領土割譲要求だった。

 フェン王国の領土のうち、縦横20㎞の森林地帯の割譲を要求したのだが、フェン王国はこれを拒否した。

 そこで第2案として準備していた同土地の498年間の租借、という案を提示したのだが、フェン王国はこれも丁重に断った。フェン王国とパーパルディア皇国、()()()利があるにも関わらず、だ。

 

 その結果、「フェン王国は、皇国を舐めている」という意見が第3外務局内で主流となり、国家監察軍による懲罰的攻撃が決定された。

 元々パーパルディア皇国は文明圏内に5ヶ国、文明圏外に67ヶ国、計72ヶ国の属領を持ち、それらを恐怖で支配している。他国への恐怖の(たが)が外れては困るし、何より“自分たちは列強である”というプライドが、文明圏外の蛮国から舐められた、という事実を受け入れない。

 こうした事情もあり、パーパルディア皇国第3外務局は、フェン王国への懲罰的攻撃を決定した。

 

 しかし、結果は(さん)(たん)たるものに終わった。

 先行して攻撃したワイバーンロード部隊は、「敵が、我が方を迎撃してきた」という報告を最後に、連絡を絶った。その後何度も呼びかけたが全く応答がなく、従って全滅した、と判定された。

 これについては当初、ガハラ神国の風竜騎士団が参戦したのではないか、と考えられたが、そうであればそのような報告が来るはずだ。結論としては、「原因不明」ということになる。

 

 この時点で、カイオスは既に怒り心頭という様子であった。

 次に入ってきた報告、

 

「国家監察軍東洋艦隊、フェン王国の艦隊と激突。フェン王国艦隊を一方的に撃破」

 

 これは良い。文明圏外国相手なら、()()のことだ。

 最大の問題は、その次の報告だった。

 

「国家監察軍東洋艦隊、ロデニウス連合王国の艦隊と激突。国家監察軍東洋艦隊、全滅」

 

 この報告が入った瞬間、第3外務局に激震が走った。

 まさかの全滅である。生還した船はゼロ、当然のように帰還した人員もゼロ。何が起こったのかすら分からない。

 現地で指揮をしていた提督からは、「敵は魔導砲を搭載している」という報告が寄せられている。ただ同時に、「敵艦は我が方の戦列艦より大きく、速度も速い。また、敵の魔導砲は威力・射程・命中精度のいずれも、我が方を凌駕している」というあり得ないことを報告しているため、情報の確度は怪しい。

 

 しかし、皇国の名に泥を塗った者がいるのは事実だ。そして、その相手の名前も分かっている。

 ロデニウス連合王国。それは、ロデニウス大陸にあったロウリア王国が同大陸のクイラ王国とクワ・トイネ公国に敗戦した後に、この3国その他が連合してできた新たな国家だ。文明圏外国家に舐められては、たまったものではない。

 第3外務局は、敵を知るために情報収集を開始した。

 

 こうして、誕生したばかりのロデニウス連合王国はいきなり「国際情勢」という名の激動の大海原に放り出された。

 この国が飲み込まれるのか、それとも足掻き抜いて生き残るのか。それを知る者は、まだ誰もいない。




というわけで、パーパルディア皇国の国家監察軍には全滅していただきました。
原作では、「護衛艦の正確な砲撃に物を言わせ、敵帆船の半数のマストをへし折って航行不能にして撤退させる」という流れでしたが、まあ、第二次大戦級の軍艦がそんな神エイミングをできるわけがないですので…やむなく「全滅」としました。

次回予告。

とんでもない大波乱を巻き起こしていった軍祭。それが終わり、艦隊はロデニウス連合王国へと帰還した。その頃、ロデニウス連合王国の陸軍は、新式銃の性能テストを行っていた…
次回「軍祭が終わって」

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