鎮守府が、異世界に召喚されました。これより、部隊を展開させます。   作:Red October

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私は以前、中央暦1639年のイベントはクリスマスパーティーで最後だと言ったな?




あれは嘘だ。







すみません、ガル◯ン見てたら書きたくなって、勢いで書いてしまいました。



024.5 戦車隊紅白戦…あの演習で何があったのか

 中央暦1639年9月29日、ロデニウス連合王国クイラ州、クワ・トイネ州との州境を成す山岳地帯付近。

 私は、履帯を履き大砲を持つ全金属製の車輌……戦車の上で双眼鏡を目に当て、周囲を見張っていた。

 私の前方500メートル程のところには、白く塗られたⅢ号戦車N型……つまり敵軍の戦車が、こちらに横腹を見せて止まっている。その上では、乗員が砲塔上ハッチから身を乗り出し、こちらに背を向けて拳を振り上げていた。

 

「車長、即席シュルツェンの設置、完了しました」

 

 そこへ、車外で作業をしていた砲手と装填手が、声を掛けてくる。この2人はヒト族の女性のように見えるが、決してヒト族ではなく、「妖精」である。

 

「そうか、ありがとう。ところで……」

 

 私は、敵チームのⅢ号戦車を指し示した。

 

「あれをどう思う?」

「は?」

 

 砲手は砲塔上に攀じ登って、私の直ぐ右に在るハッチを開けながら、其方を見る。その目には、「呆れ」とでも表現すべき感情が多分に含まれていた。

 

「やれやれ、油断のしすぎですな」

 

 そう言いながら、砲手は自身の身体をハッチの中へ押し込む。私も続いて車内に入った。

 そこへ、通信手(こちらも妖精)が報告してくる。

 

「車長。たった今、うちのチームの隊長のⅣ号と、護衛に当たっていたⅢ号がやられました。これで、紅組で残ってるのは私たちだけです」

 

 同時に、敵チームのⅢ号戦車の上で、搭乗員が両手を上げて「万歳」の動作をした。こちらに背中を向けているため、表情は窺えない。

 

「わかった。敵は、どの戦車が何輌残っている?」

「ティーガーが1輌、Ⅳ号G型が2輌、Ⅲ号N型が1輌。それと、日本のチハ改(九七式中戦車のうち、砲を48口径47㎜砲に交換したタイプ)1輌とハ号(九五式軽戦車)2輌です」

 

 私の質問に、通信手は明快に答える。

 

(少し厄介だな。だが、やれない相手じゃない)

 

 私は、そんな感想を持った。

 砲手は既に主砲を旋回させて、砲口をピタリと相手のⅢ号に合わせ、狙いを付けている。

 

「ふん、もう勝ったと思ってるな」

 

 砲手はTZF9b照準機を覗き、トリガーに指を掛けながら言う。

 

「そうらしい」

 

 砲手に返しながら、私は軍帽を被り直した。

 そして、静かに言う。

 

「では教育してやるか。目標、Ⅲ号戦車N型。撃て(フォイア)

Feuer(フォイア)!」

 

 命令を復唱し、砲手がトリガーを引く。

 

ズドォン!

 

 私たちの乗る戦車……Ⅵ号戦車E型、通称「ティーガーⅠ」の誇る56口径88㎜砲が(ほう)(こう)し、砲弾を撃ち出す。

 完全に油断し切った様子のまま、Ⅲ号戦車は左側面に直撃弾を受けた。右向きに弾き飛ばされるように移動し、横転する。シュパッ!という、空砲めいた軽い音がした。

 

《白組、Ⅲ号N型、行動不能!》

 

 通信手が聞いている無線機には、そんな判定アナウンスが入る。

 

「行くぞ。ティーガー231号、前進(パンツァーフォー)!」

 

 私は号令を掛け、自身のティーガーⅠを前進させるのだった。

 

 

 おっと、自己紹介が遅れたな。

 私はただのしがない「妖精」と呼ばれる存在だ。何やら「前世の記憶」とでも呼ぶのが適当なのか、よく分からない記憶を持っているが。

 その「前世の記憶」では、どうやら私は“とある国の戦車乗り”だったようだ。それも、かなりの凄腕だったらしい。

 「自分の記憶なのに、らしい、という表現は不適切なんじゃないか」って? まあ、それは確かにそうかもしれない。だが、前世の記憶はどうしても『どこか他人事のよう』に感じられてしまうのだ。だから、“らしい”という表現なのだ。

 

 ともかくも物心付いた時には、私は既にこの世界に「妖精」という形で生を受けていた。

 だが、この世界でやるべき私の仕事が戦車乗り。それも、前世で乗っていた戦車と全く同じ車種かつ全く同じ車体番号なのは、そして仲間の妖精たちから“ミハエル・ヴィットマン”という、「前世と同じ名」で呼ばれているのは、果たして単なる偶然なのか、それとも何かの因果なのか……

 

 

 まあ、そんなことは今はよろしい。何故って、今は“演習中”なのだ。目の前の仕事をしなければならない。

 今の演習は、午前中の訓練の最後のプログラムである紅白戦。10対10の(せん)(めつ)戦だ。殲滅戦とは、どちらか片方のチームが全滅するまで終わらない試合形式である。ちなみに、フィールドはクイラ州の演習場なので、砂漠地帯である。

 で、今の状況だが……

 

紅組(私たちの組だ) 残存1輌

白組 残存6輌

 

 圧倒的不利ではないか、我が組は。

 何と6対1である。それも、相手はティーガー1輌を含むのだ。“普通に考えれば”、この時点で負け確定の試合である。

 

 だが……私はそうは思っていない。寧ろ、ここからでも逆転は可能だ、と考えている。

 

 さて、今のところ私たちの乗るティーガーⅠが撃破した相手の戦車の数は……1輌である。隠しようもなく、さっき撃破した1輌だけである。

 いや待て、誤解するな。決してサボっていたのではない。何をしていたのかというと、「戦う準備」である。

 

 

 演習が始まってすぐに私が命じたのは、「シュルツェン」の用意だった。シュルツェンとは、戦車の側面に張り付ける薄い鉄板等の、追加防御装甲のことだ。鉄板でなくとも、コンクリートブロック、戦車の履帯、工具箱でも何でも良い。とにかく、“こちらの防御力を上げてくれるもの”が欲しかったのだ。

 なお余談だが、連合軍の戦車乗りたちは、戦場に放棄された我が軍のティーガーの履帯を好んで()()がし、自分たちの戦車に張り付けてシュルツェンにしていたそうだ。全く失敬な。

 

 紅組の隊長が私たちに命じた役割「遊撃手兼狙撃手」の立場を最大限に利用して、私たちは戦う前に大急ぎで準備をした。

 まず山地(といっても枯れ木の多い赤茶けた山である)に潜伏した。そして乗員を二手に分け、2人は近くにあった小さな水場で赤茶色の泥を作り、車体に塗り付けて即席の迷彩を作った。と同時に、残り3人はそこら辺に転がっていた倒木や立ち枯れた木を切り倒し、丸太を4本作った。この丸太をティーガーⅠの側面に2本ずつ取り付け、即席のシュルツェンとするのだ。

 私たちが4本の丸太を引きずって帰ってきた時には、泥を塗り終えた2人は予備の履帯を引っ張り出そうとして悪戦苦闘していた。この予備の履帯も、シュルツェンにするのだが……如何せん、ティーガーⅠの履帯が重いのである。

 

 まず、予備の履帯を取り出して、ティーガーⅠの車体前面下部に張り付ける。ティーガーⅠの車体前面下部は“弱点”なので、そこをカバーするためだ。

 そして、車体前面下部をカバーした後は、丸太を2本ずつ側面に縛り付ける。これで、弱点を覆う即席シュルツェンの完成だ。車体後部? エンジンがあるので()(かつ)に弄れないし、それに撃たれなければどうということはない。

 

 ……で、こうして私たちが戦いの準備をしている間に、残りの仲間が全滅していた……という訳であった。

 

 だが、私たち1輌でも“できること”はある。

 

 仲間たちの仇……取ってみせる。

 

 

 私たちの乗るティーガーⅠ重戦車は、敵の隊長車が展開していると見られる砂漠地帯に向けて、山を下ろうと前進していく。両側はちょっとした高地になっていた。

 その時、ティーガーの行く手に、カラカラと軽い音を立てて石ころが落下してきた。

 

「ん?」

 

 私は少し上を見上げる。すると、右側の崖の上からこちらに向けて走ってくる影が3つあった。

 

(この突撃のしかたは……日本(ヤーパン)の連中だな。()(こん)部隊といったか)

 

 私は、操縦手の肩に右足を置きながら指示を飛ばす。

 

「速度このまま、私の合図で全速。その後すぐ、右に超信地旋回」

「ヤヴォール」

 

 操縦手は一言だけ答えた。砲手は既にトリガーに指をかけている。

 もう一度見上げると、敵戦車3輌はもうそこまで来ていた。私は、その砲口をじっと見詰め……鋭敏に気配を察知した。そして、操縦手(紹介が遅れたが、こちらも妖精である)の右肩をそっと蹴る。その途端、操縦手は“左右の操縦レバー”を目一杯押し倒した。

 いきなりエンジンが()え、ティーガーIは弾かれたように加速する。その直後、さっきまでティーガーIがいた位置に3つの土煙が上がった。敵戦車の砲撃だ。当たっていたら、もしかすると白旗判定を取られていたかもしれない。

 砲弾を回避した直後、操縦手は左右の履帯を逆回転させ、見事な超信地旋回を決めた。覗き窓から見える景色が目まぐるしく変わる。と見る間に、突撃してきた九五式軽戦車のうち1輌が視界に入ってきた。

 九五式軽戦車が、照準器のレティクルにピタリと重なった瞬間、砲手が問答無用でトリガーを引く。ゼロ距離で放たれた徹甲弾が外れる筈もなく、九五式軽戦車は側面を穿たれ、派手な金属音と共に横転して白旗を揚げた。その側面が大きく凹んでいる。

 

「突撃!」

 

 装填手が、素早く徹甲弾を装填するのをちらっとだけ見て、私は鋭く命じる。操縦手は見事にそれに応え、ちょっと大き目の敵戦車……確かチハ-カイとかいったと思う……に正面から突撃した。

 普通に考えれば、“正面からの突撃”なんて無茶にも程がある。相手に近付けば近付くほど、相手の砲撃威力が上がるからだ。遠距離では貫通されない砲撃も、近距離なら貫通される可能性が出てくる。

 しかし、私は知っている。チハ-カイの48口径47㎜砲の貫徹力は、幾ら高くても80㎜前後の装甲を貫ける程度であると。なら、側面や後面を晒さなければ貫徹される心配はない。

 

 ティーガーの全速突撃を見たチハ-カイは、慌てて砲撃を放ってきた。だが、その砲弾はガキン! という耳障りな音だけを残して、明後日の方向に弾かれる。

 ティーガーⅠの本領発揮だ。ティーガーⅠの前面装甲は、砲塔120㎜、車体100㎜。チハ-カイの砲撃なんぞに抜かれる道理がない。

 チハ-カイの砲撃を弾いたその勢いのまま、ティーガーⅠはチハ-カイに正面から体当たりを喰らわせた。物凄い金属音と共に、チハ-カイの車体が大きく動き、こちらを睨み付けていた砲口がズレる。その間に、砲手は砲塔を右に旋回させ、もう1輌の九五式軽戦車に狙いを定める。しかし同時に、相手の九五式もこちらに照準を合わせていた。

 発砲はほぼ同時だった。だが、操縦手は私の意図をよく理解してくれていた。こちらの発砲からほんの1テンポだけ遅れて、ティーガーⅠの車体を僅かに旋回させてくれたのだ。敵の砲弾に対して、こちらの車体右側面が斜めになるように。

 果たして九五式軽戦車が放った37㎜徹甲弾は、ティーガーⅠの右側面に貼られていた丸太のシュルツェンを破壊したところでその威力を失い、車体右側面の装甲にぶつかって、ギン! という金属音と僅かな擦過痕だけを残すに留まった。その一方、ティーガーⅠが発射した徹甲弾は、九五式軽戦車のほぼ正面からまともに突入した。

 けたたましい金属音を立て、バラバラにちぎられた履帯をばら撒きながら、九五式軽戦車は勢い良く後ろ向きに突き飛ばされていく。そして、ガシャン! と大きな音を立てて岩に激突し、そこで止まった。

 シュパッ! という空砲めいた白旗の射出音を聴くまでもなく、相手が行動不能になったのは確かだ。そのため、私は九五式には一切構わず、残っているチハ-カイの撃破と、周囲からの奇襲にだけ注意を向けた。

 最後に残されたチハ-カイが88㎜の徹甲弾で貫かれ、白旗を揚げたのは、それから間もなくのことだった。

 

《白組、九五式2輌、新砲塔チハ、行動不能!》

 

 流れるように立て続けに相手を倒したため、判定アナウンスは3輌分を纏めて放送してきた。

 これで相手チームは残り3輌。そのうち1輌は私たちと同じティーガーⅠであるため、決して油断はできない。だが、“勝てるビジョン”は十分に見えた。

 

「さあ……この演習に終止符を打つとしよう! 戦車、前へ(パンツァー・フォー)

 

 私は号令をかけ、それに応えるように高らかにエンジンを唸らせ、ティーガーⅠは山の斜面を降りていった。

 

 

 私の予想通り、白組の隊長車であるⅣ号G型は、山を降りたところの砂漠にいた。その横に相手のティーガーⅠが控えている。現在の相手チームとの距離は、目測で300メートルというところか。

 だが、もう1輌の相手のⅣ号G型が見当たらない。

 

(どこに行った?

士魂部隊は、こちらの位置を報告している筈。なら、残りの戦力を全て集結させ、数の差でこちらを倒しにくるのが“上策”ってことくらい、分かっている筈だ。何故ここにいない?

まさか……待ち伏せ?)

 

 その時、砲塔から身を乗り出していた私の視界の左の隅で、何かがキラッと光った。

 

「!」

 

 反射的に、操縦手の背骨の上を左足で蹴る。「止まれ」の合図だ。急なことだったので、つい左足に力が入ってしまった。同時に砲手の左肩を右足で蹴り、「左に敵戦車」と合図を送る。

 操縦手が急ブレーキをかけ、私の身体が前のめりになった瞬間、ティーガーⅠの目の前の地面が弾けた。明らかに砲撃である。待ち伏せていた相手チームの、もう1輌のⅣ号戦車G型の仕業だった。

 

「アンブッシュとはやるな!」

 

 なかなか考えた作戦だ。だが……

 

「だが詰めが甘いっ!」

 

 失敗するとは思っていなかったらしく、相手はその場で棒立ちになったままだ。どうやら「失敗した場合」の行動を考えていなかったらしい。

 (でん)(こう)(せっ)()(はや)(わざ)で照準を合わせた砲手が、返礼の88㎜砲弾を浴びせた。避ける暇もなく、待ち伏せていたⅣ号は前面装甲を貫かれ、その場で擱挫して動かなくなる。シュパッ! という白旗の射出音がした。

 

《白組、Ⅳ号G型、行動不能!》 

 

 これで残る白組の戦車は、ティーガーIと隊長車であるIV号戦車G型のみ。

 すぐさま私は、「戦車前進」の号令をかけた。元々、平地での撃ち合いは得意だ。敵との距離を少し詰めて、確実な撃破を狙いたい。

 少しずつ相手チームとの距離を詰めていく。その間に相手チームが砲撃してくるが、操縦手は的確にティーガーⅠを動かし、相手の砲弾全てを躱し、あるいは装甲で弾く。そして、この間に相手の動きを観察していると、どうやら相手の練度が読めてきた。トウシロだ。

 距離約200メートルまで詰めたところで、私たちの乗る紅組のティーガーIが、急旋回をかけながら反時計回りに接近していく。その時、相手のティーガーIが動きを止め、狙いを定めると発砲した。こちらのティーガーI、その側面の弾薬庫を狙ったものだ。

 狙い違わず、砲弾は紅組のティーガーIの左側面を捉えた。

 そして、金属片ではなく木片が散らばった。

 

 そう。戦闘前に私の指示によって左右の側面に装備されていた、丸太を使った即席のシュルツェン。それが、見事に効果を発揮したのだ。“一度しか使えない”シュルツェンだが、役に立ったと言えるだろう。

 

 いい仕事をした2本の丸太がその役目を終え、砂の上に転がった時には、こちらのティーガーIは既に白組のティーガーIの前面に回り込み……その砲口は、照準を完了していた。

 白組のティーガーIは未だ次弾装填が完了していないのか、その場をほとんど動いていない。

 

「なあ、あのティーガーをどう思う?」

 

 私は、砲手に問う。照準器を覗いたまま、砲手は私の“希望する通りの返事”を簡潔に返してくれた。

 

「ただのカカシですな」

 

 その直後トリガーが引かれ、こちらのティーガーIの88㎜砲が咆哮する。発射された徹甲弾は、見事に相手のティーガーIの“車体前面下部”を撃ち抜いた。

 ゲームの“ナントカthunder”や“World of ナンチャラ”をやっている人ならご存じのことと思うが、ティーガーシリーズの(というか大概の戦車の)車体前面下部は弱点なのだ。ここは装甲厚が薄くなっている上に、ここを撃ち抜かれれば変速機が故障し、そのまま操縦手も含めた全乗員が戦死したりして、最悪の場合行動不能となる。まして今の、「貫通と判断された時点で即白旗」というルールでは、こちらは致命的な弱点部位となる。そして私の意図をよく理解していた砲手は、見事にそこを撃ち抜き、貫通判定を喰らわせたのだ。

 もし仮に、白組のティーガーIが車体前面下部に予備の履帯等を貼って即席のシュルツェンとするか、あるいは回避行動を取っていれば、結果は違ったかもしれない。だが残念なことに、白組のティーガーIはそんな即席シュルツェンは準備しておらず、回避行動もほとんど取らなかったのだ。そのため、熟練した砲手であるティーガー231号車の砲手には、このティーガーは“文字通りの”「ただのカカシ」にしか見えなかったのである。

 

《白組、ティーガーⅠ、行動不能!》

 

 一撃で仕留められたティーガーIが無念そうに白旗を揚げた時には、紅組のティーガーIは最後の仕上げにかかっている。最後に残された、相手の隊長車を倒すのだ。

 相手の隊長車は連続して砲撃を浴びせてきたが、焦っているのか自暴自棄(ヤケクソ)なのか、照準がズレており、私の乗るティーガーⅠの操縦手の腕なら、それらを回避することくらい造作も無かった。

 そっちがそれほど見苦しい砲撃をしてくるなら、こっちは1発で決めてやる。私はそう決めていた。そして砲手も、私の意図をしっかり理解していた。では、少しばかりリスクがあるが、『大技』で終わらせてやることにしよう。

 何度目かの相手の砲撃を躱した瞬間、操縦手の肩を足で蹴って「全速前進」の指示を出す。弾かれたように加速するティーガーⅠ。互いの車体左側面をぶつけるような格好で、相手のⅣ号と擦れ違ったのは一瞬。

 そして、擦れ違った直後に超信地旋回でスピンターンを決めながらドリフト。正面にピタリと捉えた、相手の車体後面。そこに、88㎜徹甲弾がほぼゼロ距離で叩き込まれた。

 

 ……そして、突き出される白旗。

 

《白組、Ⅳ号G型、行動不能! 試合終了!》

《ただいまの結果、紅組、残存車輌1! 白組、残存車輌0! よって、紅組の勝利!》

 

 紅組の勝利である。決して、後ろに(大本営発表)等と付いたりはしない。“完全勝利”である。

 

「やれやれ、我々が勝って終わったか」

 

 勝負が着いたことで、私はようやくほっと一息吐く。更に、そこで私はティーガーⅠの車内気温が“とんでもないこと”になっているのに気付いた。「砂漠」などという高温地帯でエンジンを思い切りぶん回したせいで、ティーガーⅠの車内は良く言えば5人用サウナ、悪く言えばデカい“灼熱の棺桶”なのだ。

 慌てて砲塔上部ハッチを開け、外気を取り入れる。まあ、外の気温も似たようなものだが、少しでも風が欲しい。例えそれが“砂嵐”であっても。

 ハッチを全開にし、懐からタオルを取り出して汗を拭っていると、装填手が汗塗れながらも、満面の笑みでこちらを振り返った。

 

「しかし車長殿、今回の演習は中々楽しかったですよ。砂漠で戦車、というのも悪くありませんな。かのロンメル将軍指揮下の兵士たちも、アフリカ戦線でこんな風に戦っていたのでしょうな?」

「ああ、きっとな」

 

 私がそう答えていると、今度は操縦手が口を開いた。この妖精はちょうど、車体のハッチを開けているところである。

 

「そうそう。それに、あの『一連のセリフ』も久し振りに聞けましたしね」

「何だ、『一連のセリフ』って?」

 

 そこへ、砲手席に座ったまま水筒の水をちびちびと飲んでいた砲手が尋ねた。

 何で水筒の水をがぶ飲みしないのかって? 砂漠に於いては、水筒の水の残量は「自分の余命」と同義であるからだ。人間、食糧が無くても“ある程度は生きていられる”が、水が無くなったその瞬間に遠からぬ死が確定する。よって砂漠地帯において、水はとても大事にしなければならない。

 なお、これはかの有名な機甲師団の名戦術戦略家、エルヴィン・ロンメルが言っていることである。

 

「砲手殿の『ふん、もう勝ったと思ってるな』からの、車長殿の『そうらしい、では教育してやるか』ですよ」

「一連のセリフって、それかよ!」

 

 砲手の鋭いツッコミが入った。

 

「全くですよ。それに、そのセリフを言った途端にこの無双ぶり。時と場所は違えど、『あの戦い』そのまんまの流れじゃないですか」

 

 無線機の点検をしていた通信手までもが、会話に加わってくる。

 なお、通信手のいう『あの戦い』とは、私の「前世の記憶」に残る数々の戦いの中でも特に輝かしい戦果を挙げた「ヴィレル・ボカージュの戦い」のことである。話せば長いので詳細は省くが。

 してみると、どうやら今私と共にティーガーⅠに乗っているのは、「ヴィレル・ボカージュの戦い」の時の乗員たちらしい。どうも“ティーガーの扱いに慣れている”と思ったら、そういうことだったのだ。

 

(何の因果かは知らないが、せっかくこうして生まれて、またコイツ(ティーガー)に乗れるんだ。ならば、楽しまねばな)

 

 わいわいと騒ぐ乗員たちを見ながら、私はそんなことを考えていた。

 

 

 午前中の訓練が終了し、訓練を行っていた部隊は1時間の昼休憩に入った。昼食の時間であるが……“砂漠での実戦を想定した訓練”であるため、当然のように食事は携帯食糧(レーション)である。

 休憩を命じられた兵士たちは、思い思いに自分たちの乗る戦車の付近(なるべく日陰)に集まってレーションの容器の蓋を開けたり、水筒から水を飲んだりし始めたが、ティーガー231号車の搭乗員……つまり私たちはそうではなかった。解散を命じられるや、まずは戦車の応急点検だ。履帯や転輪・駆動輪・エンジン周りを素早くチェックし、エンジングリルに被さった砂粒や、転輪・駆動輪に噛み込んだ砂粒を小さな(ほうき)のような器具ではたき落とす。ティーガーIはその重量故に、脚周りには特に注意しなければならないのだ。ちょっとのごみや埃が故障へと繋がり、それは即ち、『戦場における戦死』とほぼ同義なのである。

 応急点検と軽い掃除が終わった後、私たちもようやく食事にかかった。

 

「おや、これは……何だか懐かしいですな」

 

 「野戦糧食22号 砂漠地帯向け」と書かれたレーションの蓋を開け、食事の内容を見た砲手が呟いた。釣られて、私も献立を見て……砲手の言わんとする所を理解する。

 本日のレーションの献立は、二つに切った食パン1枚、塩胡椒をまぶしたソーセージ2本、丸ごと蒸かしたジャガイモ1個、ビーフジャーキー1本、キャベツの塩漬け、ドライフルーツ。そしてドライフルーツの横に、ピーナツバターとイチゴ(に似たロデニウス特産の果物)のジャムが添えてある。食パンに塗って食え、ということだろう。

 食パンとそのトッピング、ビーフジャーキー、ドライフルーツはともかくとして、砲手はソーセージとジャガイモ、キャベツの塩漬けに懐かしさを感じたのだ。無理もない、ソーセージとジャガイモといえば、前世で私たちが所属していた国家“ドイツ”では標準的な食べ物であるし、キャベツの塩漬けは「ザワークラウト」を連想させずにはおかない。食事の内容にどこか“ドイツっぽさ”を感じたのであろう。私もそうである。

 まあ、私たちの感慨は置いておいて、今回の献立は、“携帯食糧”としてはなかなか栄養バランスの取れた内容ではなかろうか。汗を掻くことを考慮してか、ソーセージも塩胡椒たっぷりになっているし。

(ジャガイモは家庭科でいう5群、炭水化物メインの食べ物じゃないか、って? ジャガイモに含まれる豊富なビタミンを舐めるなよ。

あと「蒸かしたジャガイモ」の下りで、「芋女」の渾名を冠せられた巨人殺しの女性剣士を思い出した人は、5時間ぶっ通しで走ってくること。もちろん夕飯抜きで。)

 

 他の兵士たちが容器からパンやソーセージを取り出し、そのまま齧っている中で、元ドイツ出身の私たちは(おそらく彼等にとって)思いがけない行動に出た。まずソーセージを掴み出すや、それをティーガーIの“エンジン部分の天板”にひょいと乗せたのだ。その途端、ジューという音がして湯気が立ち昇り始める。

 続いて私たちは食パンにピーナツバターとジャムを手早く塗り付けると、それもエンジングリルに乗せてしまった。何をしているのかというと、言うまでもなくパンとソーセージを“焼いている”のだ。

 砂漠等という“灼熱の過酷な環境下”で散々エンジンをぶん回したお蔭で、ティーガーに限らず戦車のエンジン部分の天板は、太陽の熱と地表からの熱、それにエンジンの放射熱が合わさって、「即席のホットプレート」になっている。私たちはそれを利用したのだ。どうせ食べるなら、冷えた飯より加熱して温かくなった飯の方が良いに決まっている。

 

 パンとソーセージが焼けるのを待つ間に、私たちは残りのおかずを腹の中に掻き込む。但し、訓練の一環として食事は飲み込むようにして食べていたが、水だけは例外で、まるで高級酒でも飲むかのように、舌で転がすようにしながら飲んでいる。砂漠では水は非常に貴重であり、水を高級酒並みに味わうような習慣を身に着けておかなければ、生きていられないのだ。かの「砂漠の狐」エルヴィン・ロンメルもそうしていたものである。よって、“砂漠でパスタを()でる”なぞという余裕は全くない。時間的にも水的にも。

 そのうち、パンとソーセージがこんがり焼き上がってくる。いい感じにきつね色になった食パンと、綺麗な焦げ目が付き油が滴っているソーセージを手にした私たち、そこへ砲手が一同に目配せする。そして私たちは、パンとソーセージを空に向けて突き上げながら、一斉に叫んだ。

 

「「「「「上手に焼けましたー!」」」」」

 

 実に気の合う連中であった。

 パンとソーセージを大急ぎで食べ、戦闘糧食の容器を片付けてしまうと、私たちはすぐに戦車の本格的な点検、そして必要なら応急修理にかかる。ティーガーIは故障が多く、頻繁に点検しておかなければあっという間に壊れてしまうからだ。しかも、一度壊れると重過ぎて、その場から全く動かせなくなってしまう。なので、故障・放棄して敵に鹵獲されないためにも、絶対に小まめな点検と修理が必要だった。

 

(んー、この音……ちょっと()()っているな。それと、パンとソーセージの焼ける時間から考えるに、天板の温度が思ったより高いみたいだ。ラジエーターが不調を起こしてんのか……帰ったら、整備の連中に一言お願いしとこう)

 

 ティーガーIのエンジン音を聞きながら、私はそう考えていた。

 

 

 ともかくも、何の運命の巡り合わせかは分からないが、如何なる形であれ私は確かにここにいる。そしてかつての仲間たちがいる、かつて私が愛用していた戦車まである。

 

 ならば今度は、前世以上に楽しみたいものだ。




これで本当の本当に、中央暦1639年のイベントは全て終了です。

あと、今回はネタ多めです。史実ネタはもちろん、女子高生が戦車に乗る某アニメ、筋肉ムキムキマッチョマンの変態(?)が第三次大戦を起こす(マテ)某映画、そしてCMの最後のシーンでインパクトを残した国民的狩りゲーム。どれだけ見つけられましたか?
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