鎮守府が、異世界に召喚されました。これより、部隊を展開させます。   作:Red October

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ふぁっ!?

|д゚)ジー(二度見)

Whaaaaaat!?
UA30,000突破、お気に入り300突破、総合評価840ポイント超、そしてついに総合評価第4位獲得だと!?
まさか、ネタのごった煮である拙作がこんなところまで来るとは…!

皆様、ご愛読の程、心より御礼申し上げます!

評価1をくださいました幽霊船様、評価9をくださいました影元様、ちょく1986様、装甲龍皇様、ありがとうございます!!
また、新たにお気に入り登録してくださいました皆様、ありがとうございます!

実習につき更新が遅くなりまして、申し訳ございません。また、今月は期末テストという厄介なモノもございまして、まだまだ更新の遅い時期が続きます。
ですが、諸々の事情により、どうやらハーメルンにおける日本国召喚の二次創作の総合評価上位作で、連載が続いているのは、拙作だけになっているとか…。連載を切らすことなきよう、他作品との兼ね合いやリアルを意識しながらも投稿続けます。今後とも応援よろしくお願いします!

前置きが長くなりましたので、いい加減本編入ります。
ごゆっくりどうぞ!



025. 国際情勢ハ複雑怪奇ナリ

 中央暦1639年10月18日、パーパルディア皇国皇都エストシラント 第3外務局。

 

「何だと!? では、今年は奴隷の差し出しはできぬ、というのか!?」

 

 パーパルディア皇国の外務局職員が、皇国駐在のトーパ王国大使を怒鳴り付ける。

 

「我が国の国民を()(れい)として差し出すのは、もうやめとうございます」

 

 トーパ王国の大使は、冷や汗をかきつつ答える。

 

「ふん! では各種技術の供与を貴国だけ停止させるぞ!?」

 

 またもや怒鳴る、第3外務局の職員。

 パーパルディア皇国は、超旧式の技術を周辺各国に対して供与していた。供与を受けた国は、少しずつ国力が増すのだが、その他の周辺国も同じように国力が増すため、パワーバランスは変わらないし、そもそも皇国の圧倒的優位は揺るがない。

 そんな中で、一国だけ技術供与を停止されればどうなるか。

 

 答えは簡単。

 その国だけ技術発展が立ち遅れ、周辺国との技術格差により国力は衰退する。

 

 そう、パーパルディア皇国は軍事力や恐怖のみならず、技術供与も外交手段の1つとして利用しているのだ。

 

 言うことを聞かなければ最悪の場合、工具や釘といった簡単なものや材料の供与停止までを視野に入れている。

 ここまでされれば、完全に国が立ち行かなくなるはず。

 

 ところが。

 

 パーパルディア皇国の外務局職員がそう言った途端、トーパ王国の駐在大使から、それまでの冷や汗を掻いてオドオドした、気弱そうな表情が消え去った。代わりにそこに不敵な笑みが現れる。

 

「技術、ですか……。ならば、我が国は奴隷を差し出さない。貴国は、我が国への技術供与を停止する。これで如何でしょう?」

 

 これまでのトーパ王国の外交姿勢からは、考えられないほどの強気な態度である。逆に、皇国の外務局職員のほうが面食らった。

 

「我が国は、奴隷を差し出してまで貴国の技術供与を受ける必要があるとは考えていません。なにしろ我が国は……『あの』ロデニウス連合王国と、国交を結んでいるのですから」

 

 最後にフッと笑い、トーパ王国の駐在大使は話を締め括った。

 

 

 そのしばらく後、パーパルディア皇国皇都エストシラントの一角にある大使館に戻ってから、トーパ王国の駐在大使はニヤニヤした笑みを浮かべて秘書に話しかけた。

 

「言ってきてやったよ。奴隷の差し出しはせぬ、皇国からの技術も要らぬ、と」

「どうでしたか?」

「皇国職員の奴、鳩が豆鉄砲でも食らったような顔をしておったわ。皇国職員のあんな顔は初めて見る」

 

 ハッハッハ、と笑う大使。秘書も釣られて笑みを浮かべた。

 

「それはそうでしょう。ロデニウス連合王国の提供してくれる技術のほうが遥かに進んでいる上に、彼らは我が国と対等に付き合い、やれ奴隷の差し出しだの領土の献上だのといった要求は一切しない。皇国などより彼らのほうが、付き合い甲斐があります」

「うむ。しかし、あの武官たちと国王陛下の英断には、感謝してもしきれんな。あの報告がなければ、今年も奴隷を差し出さねばならなかったろうに」

 

 大使は、どこか遠くを見るような目を見せた。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 話は中央暦1639年10月3日まで(さかのぼ)る。

 この日、トーパ王国では、国王を交えた御前会議が行われていた。国の方針を決める、重要な会議である。

 ところがそこへ、数人の武官たちがドアを引き開け、報告書を引っ提げて国王に直訴するという、通常では考えられない出来事が発生したのだ。最低限、ノックして入ってきただけ、まだマシだったが。

 

 いきり立つ大臣らを差し置いて、彼らは国王陛下に跪くと、異口同音に叫んだ。

 

「「「御前会議中に大変失礼します。ですが、陛下に慎んでお願い申し上げます。今すぐロデニウス連合王国と国交開設の手続きを取っていただきたい!」」」

 

 国王ラドス16世はいきり立つ大臣らを抑えて、取り敢えず彼らの話だけでも聞く姿勢を取った。

 話を聞いてみると、彼らは以下のようなことを報告した。

 

 

 彼らは皆、去る9月25日にフェン王国において行われた軍祭に、王国代表として参加していた者たちである。

 そこで、信じ難いものを見たのだ。それは、ロデニウス連合王国の軍の軍船。全長が自国の船の7倍に達する、全面鋼鉄製の巨大な船体に、パーパルディア皇国ですら持っていないであろう巨大な魔導砲。しかもそれをフェン王国が用意した標的船に向けて撃ったところ、たった1回の射撃で命中弾を出し、標的船2隻を同時に跡形もなく吹き飛ばした。その砲撃は極めて正確である上に、発砲炎は火山の噴火かと錯覚するほど強烈なものであった。これだけでも、ロデニウス連合王国がパーパルディア皇国を凌ぐ装備を持つことは、明らかである。

 その直後に、ロデニウス連合王国の陸軍を見たのだが、彼らはパーパルディア皇国の主力兵器を時代遅れの産物だと言い切り、自国の銃のほうが遥かに強力である、と実射を以て示した。異常に早い装填速度に、たった1人で短時間に30発以上の弾をばらまく連射性。しかも狙いが非常に正確で、150メートル離れた目標を正確に撃ち抜いていた。それも、3連続で。

 そして最大のサプライズ。それは、前述の鋼鉄の巨大船3隻が、空の色が変わるほどの攻撃を行い、懲罰攻撃に来たのであろうパーパルディア皇国のワイバーンロード20騎を、いとも容易く叩き落としたことだ。

 あのワイバーンロードが、まるでハエでもすり潰すかのようにあっさり倒された。それも奇襲ではなく、真っ正面から挑んでこれである。

 

「以上のことから、ロデニウス連合王国は少なくとも軍事力において、パーパルディア皇国を凌駕していることは疑いありません! あの技術があれば、パーパルディア皇国を恐れる必要などなくなるでしょう!

陛下、今すぐロデニウス連合王国と国交を開設してくださいますよう、慎んでお願い申し上げます!」

 

 武官たちはそう言って、報告を終わらせた。

 これについては、大臣たちから集団幻覚でも見たのではないか、などと野次が飛んだ。それに対して彼らは皆、嘘だと思うならシオス王国なりガハラ神国なり、どこかの国の外交官にでも聞いて確認してください、と言い切った。

 

 ここまで言われては、どうもただごとではない。あの皇国のワイバーンロードが20騎も正面からやられたなど、信じ難い話が多いが。

 

 ラドス16世は決断を下した。彼らの報告に基づき、ロデニウス連合王国と国交開設の手続きを取る、と。

 

 ロデニウス連合王国と国交開設のため接触する傍ら、各国から情報を集めてみると、各国の外交官たちも皆同じようなことを言っていた。幻を見たとも思えない、よって彼らの報告と意見具申を聞き入れ、他の国でもロデニウス連合王国との国交開設を急いでいる、と。

 

 そして、第三文明圏外の各国がこぞってロデニウス連合王国に接触を図る中、トーパ王国は比較的早期に国交を開設できたのだが、ここからが驚きの連続だった。

 まず彼らは、トーパ王国を「対等の相手」と捉え、トーパ王国とロデニウス連合王国、双方にとって満足の行く外交をしたいと考えている、とはっきり宣言した。その上で、トーパ王国の歴史を記した書物や、トーパ王国の特産品、それから魔法技術をいただきたいということと、見返りとして「例の」銃20丁とそれらの弾(お試しとのことで、サンパチ式とかいう銃15丁とキュウロク式ケイキカンジュウとやらを5丁という、少数配備となるらしい)、書物、インフラその他技術の輸出を検討している、と説明した。

 トーパ王国の技術士官にこれらの物品について聞いてみると、これらはとんでもない高度な技術に基づいて作られており、パーパルディア皇国から提供される技術が足元にも及ばないほど、高い技術の産物だという。

 

 特産品と歴史書と魔法を売るだけで、そんなものが手に入る。

 これほど美味しい話はない。

 

 そこで、ひとまず彼らを信用して、取引をしてみたが……銃の威力は想像を超えていた。

 「世界の壁」の上から、グラメウス大陸を闊歩する魔物たちに向けてこの銃を撃ってみたところ、魔物をあっさり倒してしまったのである。それも、ゴブリンどころかオークまでをも一撃で。まあ、頭を狙ったせいもあるのだろうが。

 それに加えて、いつでも暖かさを提供してくれる、石油とかいう黒い液体を使った暖房器具に、奇妙なガラス製の細長い入れ物に入った、生でも飲める新鮮な水。トーパ王国はフィルアデス大陸の北部にあり、その気候は寒さが厳しい。このため、石油による暖房はありがたかった。

 

 この瞬間、トーパ王国側の腹は決まった。

 

 パーパルディア皇国への奴隷差し出しを一切断り、今後はロデニウス連合王国から技術をもらっていく、と。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 そして国王からの直々の命令として、「パーパルディア皇国に対する奴隷差し出しを停止せよ」と言い渡され、大使はそれを忠実に実行した、というわけだ。

 何せロデニウス連合王国は奴隷の差し出しも要らないし、領土の献上も求めてこない。単に特産品を売って歴史と魔法を教えるだけで、これ以上ないほどの素晴らしい品物を得ることができるのだ。しかもその品物の質は、パーパルディア皇国の技術よりも遥かに高い。わざわざ高い買い物をしなくてもいいのである。

 

「あの銃とやら、私も撃ってみたいものだ」

「おやめになったほうがよろしいでしょう。軍の兵士をやっている私の夫から少しだけ話を聞きましたが、あれは撃った反動がなかなか大きいそうです。肩が外れても知りませんよ」

「ふむ……それもそうか。もう少し小さい銃があれば良いのだがな」

 

 彼らの話は続く。

 

 

 なお、これは何もトーパ王国に限った話ではない。

 あの軍祭以来、パーパルディア皇国の影に怯える第三文明圏外の諸国は、こぞってロデニウス連合王国に外交団を送り、国交開設を図った。また、一部の文明国ですらその噂を又聞きし、国交を求めてくる始末である。

 その結果、ロデニウス連合王国は一気に22もの国と国交を開設することになった。そのため、ロデニウス連合王国の外務部のブラック化が凄まじいことになり、外務部はとんでもない忙しさになったそうだ。

 ちなみに各国は、どれも共通して銃を求めてきたのだが、現在は人手が足りないため、ロデニウス側からの教官の派遣は不完全だ。よって、まだ各国軍は銃を扱いきれるほどにはなっていない。だがそれでも、各国の銃による戦闘理論や技術は、少しずつ進歩していた。

 

(言うまでもないが、それに合わせて各国軍の日本軍化も少しずつ進行している。ロデニウスの教官は銃の使い方を教えると同時に、自国を愛し自国のためならどんな苦しい状況でも任務を果たそうとせよ、と教えた。そこまではいいが、彼らはその“愛国心の示し方の1つ”として、バンザイ突撃を布教してい(きやが)ったのだ。その結果が、この始末である)

 

 このおかげで、第三文明圏内外各国の武官や政治家たちは、連日笑いが止まらなくなっていた。

 

 

 が、パーパルディア皇国は面白くない。

 

 

「最近、やけに蛮国の連中が反抗的だと思わないか?」

 

 中央暦1639年10月19日のパーパルディア皇国第3外務局。今はちょうど昼飯時であり、職員たちは食事をしながら雑談をしていた。

 

「確かに、ここ1ヶ月くらいはそれを顕著に感じるな」

「全くだ。以前は怖がって、要求を全て呑んでいたのにな」

「そうだ、蛮国といえば。私この間、『我々は、あのロデニウス連合王国と国交を結んでいる!』なんて言われたんですよ、シオス王国の大使に」

「なに、お前も!? 実は俺も昨日、トーパ王国の大使から似たようなことを言われたんだよ。あいつ、『皇国の技術は要らない』とまでぬかしていきやがった。その理由が、ロデニウス連合王国と国交を結んでいるから、だと」

 

 とここで、職員の1人が口を挟んだ。

 

「そういえば、ロデニウス連合王国って、前にちらっと名前出てきたような気がするんですけど……いつ出てきましたっけ?」

 

「「「あ!」」」

 

 その瞬間、全員が叫んだ。

 

「そういえばそうだ。いつだったかと思ったら……」

「フェンに向かった監察軍の艦隊を、全滅させていった国じゃないか!」

「ロデニウス連合って、あのロデニウス大陸だろ? ロウリア王国のあった、あの大陸」

「そうそう。あいつら何者なんだ?」

「もしかすると、ワイバーンロードを全滅させたのも、そこかもしれんな」

 

 ここに至って、パーパルディア皇国第3外務局はついにロデニウス連合王国のことを正式に認識し、更なる調査に乗り出すのだった。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 一方、同じ中央暦1639年10月19日、パーパルディア皇国のあるフィルアデス大陸から、西にはるか2万㎞も離れた地、ムー大陸。

 そこに存在する第二文明圏最強の国家、ムー国のムー統括軍情報通信部・情報分析課が置かれた部屋には、異常な静寂が訪れていた。

 情報通信部・情報分析課に回された、幾つもの写真。それを見た情報分析課所属員の全員が、凄まじい衝撃を受けて言葉を失ったのだった。

 

「こ……これは……! なんということだ……!」

 

 情報分析課のトップであるマイラス・ルクレール中佐は、目の前にぶちまけられた多数の写真(フィルムなどではなく、(かん)(ばん)と呼ばれるガラス板に写したもの)を、信じ難い思いで見つめた。

 以前、ロウリア王国に派遣されていた観戦武官リアス・アキリーズ少佐から、クワ・トイネ公国が回転砲塔を持つ軍艦と単葉機を繰り出してきた、と聞いた時、マイラスは簡単には信じられなかった。そこで、リアスに写真機を渡して、敵の兵器を撮影してこいと言ったら、リアスは大量の写真を撮ってきたのだった。今マイラスの前にぶちまけられている乾板は全て、リアスが撮って帰ってきたクワ・トイネ公国……改めロデニウス連合王国の兵器の写真である。

(ロデニウス連合王国の誕生そのものは世界のニュースによって報道済みのため、ムーでもこの新たな国の誕生自体は報道されていた。もっとも興味を示す者などほぼ皆無だったが)

 

 ちなみにそのリアスは、帰りの旅の途中で食中毒を起こしたらしく、ムー本国に帰ってくると同時に寝込んでしまった。そのため、彼に直接話を聞くことはできていない。

 

 マイラスは震える指をどうにか動かし、1枚の乾板を手に取る。そこには、ロウリア王国のピカイア飛行場を襲う、爆弾を抱えた単葉機……零戦62型が写っていた。

 

「これは……間違いない、単葉機だ。ミリシアルしか持っていないと思っていたが……信じられん!」

 

 さらに、別の単葉機……「(りゅう)(せい)」が写った乾板を手に取る。投雷の瞬間を捉えたものだ。

 

「何だ、この異様に細長い爆弾は? ……ん? 後ろのほうに何か付いているな。通常の爆弾の尾翼とは形が違うようだ……。おい、これは何だと思う?」

 

 マイラスは、細長い爆弾(とはいうが、正体は魚雷である)に付いているスクリューと方向舵について、職員たちに意見を求める。

 

「何でしょう? さっぱりわかりませんな…」

「私にもわかりません」

 

 分からない、という意見が多くを占める。その時、

 

「マイラスさん、その下の写真……なんで海が写ってるんですか?」

 

 別の技術士官が、海面の写真(正確には、魚雷の航跡を写した写真)を示した。

 

「それが私にも分からないのだ。リアスの奴、なぜわざわざそんなものを撮ってきたのやら。……ん?」

 

 その時、マイラスの目が何かを捉えた。写真の乾板を入れていた袋から、何かの紙が1枚、はみ出している。マイラスはその紙を広げてみた。

 その紙は、リアスの書いたメモ書きらしい。しかし急いで書いたようで、若干文字が崩れていたが、読めることは読める。

 

『細長い爆弾の写真について。細長い爆弾は投下された後、海に飛び込みました。その後、爆弾が飛び込んだところから、白い線が伸びていき、ロウリアの軍艦に当たって、砲弾が海面に落ちた時のような太い水柱を噴き上げていました。おそらく、水面下を進む爆弾の一種と思われます』

 

「!!! なるほど、そういうことか!」

 

 マイラスは叫んだ。

 

「ということは、この細長い爆弾の後ろに付いているもの、これはスクリューと舵だ!」

 

 全員が「ええっ」と驚いた反応を示す。

 

「水線下に命中して爆発する爆弾……こんなものを喰らったら、爆発による被害もあるが、それ以上に船に大量の海水が流れ込んで、船は転覆、沈没してしまう……!」

 

 マイラスの背筋が、ゾゾッと鳥肌を立てる。

 彼の脳裏には、「もしムー統括軍の艦隊が、この装備を持ったロデニウス連合王国軍と武力衝突したら」というイメージ映像が流れていた。対空砲を撃ち上げるムー艦隊、しかしそれをものともせず突っ込んでくる敵の単葉機。海面にこの細長い爆弾が投下され、ムーの最新鋭戦艦「ラ・カサミ」に2本ばかり命中する。噴き上がる水柱。艦隊決戦に参加する前に、大量の浸水によって転覆し、沈没していく「ラ・カサミ」。

 しかも、その艦隊決戦においてもムー艦隊は劣勢だった。敵戦艦の1発の砲撃で消し飛ばされるムーの小型艦。敵機の攻撃からはなんとか生き延びたものの、敵戦艦の砲撃によって大破炎上、航行不能に陥る「ラ・カサミ」。

 そして、敵軍はついにムー本土に上陸。抵抗するムー陸軍を、単葉機による航空支援と機関銃で蹴散らし、ムーの首都オタハイトに敵軍が雪崩れ込む……

 

 ……悪夢でしかない。だが、本当に起きてしまいそうだ。やたらにリアルな感じのする悪夢である。

 

「な!? デカい! デカすぎるだろ!?

我が国のラ・カサミ級より大きいぞ!」

「小さい軍艦にまで、回転砲塔があるなんて…!」

「全員が、ボルトアクション式の銃を持っている、だと…!? バカな!? クワ・トイネにこんなものがあるのか!?

しかも、個人が携行できる機関銃まであるぞ!」

「何だこれは!? 車か? 車に大砲を載せているのか!?」

 

 他の職員たちも、軍艦や銃や戦車(ムーには戦車の概念はないので、戦車という兵器を知らないのだが)が写った写真を手にして、大騒ぎしている。

 そんな中、マイラスはある写真に目を止めた。

 

「これは?」

 

 船が2隻ほど写っているが、かなり遠かったらしく、ピントが合っていない。ブレたものではあったが、マイラスはあることに気付いた。

 

「ピントがブレてるにしては、この船、やたらと平べったい感じだな。なんでだろう。船の上に、大砲などを置いていないのか?

……ん? 大砲を甲板に乗せない船?」

 

 マイラスは下顎に手を当て、考え込む。最近そんな船をどこかで見た気がする。どこだ?

 少し考えて……思い出した。確か、今ムー海軍がテスト中の、「海の上で『マリン』などの航空機を飛ばすための船」も、こんな構造の設計図を引かれていたはず……!

 

「く、空母だ!!」

 

 この船の正体に気付き、マイラスは思わず大声を上げた。

 マイラスの大声に、全員の目がマイラスを向く。

 

「大変だ! これを見ろ!

クワ・トイネ公国軍、いやロデニウス連合王国軍には、空母があるらしい! 我が国でもまだテスト中だというのに! この写真には、その空母が2隻も写っている!」

 

 あっという間にマイラスの手から、空母らしき船の写真が引ったくられた。

 職員たちが大騒ぎしているのを横目に、マイラスはガクリと椅子にへたりこむ。

 

「信じられん……。ロデニウス連合王国に、回転砲塔を持った軍艦やら空母やら単葉機やらが、本当にあるとは……!」

 

 こうした装備を持つ国は、自国であるムーと、中央世界にある世界最強の国家・神聖ミリシアル帝国だけである、とマイラスは思っていた。だが、その中央世界の装備に匹敵し得る装備を持つ国が、世界の東の第三文明圏、それも文明圏外に出現したのだ。マイラスはものすごいショックを受けた。

 

「道理でロウリア王国が、クワ・トイネ公国に大敗するわけだ。ロウリア王国陸軍の戦闘方法は、基本的に剣と弓だ。だがそれでは、こんな軍隊には勝てない。なにせ機関銃まであるわけだからな。ロウリア軍どころか、我が国のムー統括軍の陸軍最精鋭部隊であっても、こいつらに勝てるか分からんぞ……。海軍と空軍についても、ロウリア王国のボロ負けは最初から確定だったんだ。こんな艦隊と航空機、我が国の正規軍でも勝てやしない。クワ・トイネの戦艦と『ラ・カサミ』で1対1の勝負をしても、『ラ・カサミ』に勝ち目がないことは間違いないのだから……。

クワ・トイネ公国は、どうやってこんなものを手に入れたんだ……?」

 

 力なく呟き、マイラスは思考の海に沈む。

 

(第三文明圏といえば、列強パーパルディア皇国であっても装備は戦列艦だ。だから、文明圏外にあるクワ・トイネ公国は、逆立ちしたってこんなものを手に入れられるはずがなかった。しかし現にクワ・トイネ公国には、神聖ミリシアル帝国のそれに匹敵しうる軍艦と航空機、そして我がムーにもないような兵器がある。よほどの何かがあったとしか思えないな)

 

 と、この時、マイラスの頭に閃くものがあった。それは、ムー国の歴史書。

 実はムーは、元からこの世界に存在していた国ではない。ある日突然、全く別の世界からこの世界に飛ばされてきた、転移国家なのだ。そのことが、事実としてムーの歴史書には書かれている。尤も、他国はこの話を“おとぎ話である”として、信じてくれないのだが。

 

(まさか……転移か? 馬鹿な、まさかそんな……いや、ありえるかもしれんな)

 

 マイラスは俄然、このロデニウス連合王国に興味を抱いた。

 

(もし彼らが接触を図ってきたら、彼らの軍のことを徹底的に調べてやろう……!)

 

 だが、神ならぬマイラスは知る由もなかった。

 

 近く、ムー国はロデニウス連合王国から接触を受けることになることを。

 

「それにしても、最近はヘンな国家が2つも出てきたな……」

 

 マイラスは小さく呟き、机に置かれた別の写真に目を遣る。

 それは、今は亡き列強レイフォル国の首都レイフォリアで撮影されたものだ。そこに、日本人が見たら戦艦大和と間違えそうな艦艇が写っている。

 

 そう、レイフォル国を単艦で滅ぼしたと言われるグラ・バルカス帝国の伝説の戦艦、「グレードアトラスター」である。

 

「こいつといい、ロデニウスの戦艦といい、まずいな……」

 

 マイラスは、特にグラ・バルカス帝国を脅威に感じていた。というのは、ロデニウス大陸は2万㎞も彼方の国家なのに対して、グラ・バルカス帝国は第二文明圏外。つまり、近所なのである。

 

 ムー国は魔導文明が世界の主流となる中で、科学に有用性を見出し、科学や機械工学に力を入れている。

 ついでに他国の情報や兵器類を分析するべく、情報分析課も置かれているのだが……軍人からは「何をやっているのかよく分からない部署」「無意味なことをしている部署」などと言われ、情報に対する理解はよろしくない。

 マイラスはその情報(今回だと写真)から、グラ・バルカス帝国にしてもロデニウス連合王国にしても、ムーよりも科学技術が進んでいるかもしれないと分析していた。

 

 先日ムー国では、より大口径の砲を搭載できるようにすべく、「回転砲塔」という最新式の機構を装備した「ラ・カサミ級戦艦」を配備した。

 これは、その回転砲塔の機構によって、30.5㎝砲というそれまでの戦列艦の主砲とは比べ物にならない威力を持っただけでなく、砲身も長くすることができたため、射程距離・威力・貫徹力・命中精度の4要素の劇的向上を果たすことができた、ムー国の技術の結晶である。

 しかも、「風神の涙」による帆船方式も廃し、石油を燃やして動力を得るようにしている。このおかげで、最大18ノットの高速とそれまでとは一線を画す高い防御力をも両立し、革新的な艦となった。

 気になるそのスペックは、以下の通り。

 

全長 131.7メートル

全幅 23.2メートル

排水量 15,140トン

機関出力 15,000馬力

最高速度 18ノット

武装 30.5㎝主砲連装2基 計4門、15.2㎝副砲単装14基 計14門、その他8㎜対空機銃等

 

 この艦が複数隻あれば、レイフォル国やパーパルディア皇国の戦列艦相手には圧勝できる。それどころか、神聖ミリシアル帝国の軍艦相手にも渡り合えるであろう可能性がある。

 

(ちなみにこれ、対空性能以外は日本でいう戦艦「()(かさ)」と同等クラスのスペックである)

 

 科学機械文明の最先進国ムーは、これらの下位列強(列強というのは、この世界の国家の中でも特に強い国力を持った5つの国のことで、上から順に「神聖ミリシアル帝国」、「ムー国」、「エモール王国」、「パーパルディア皇国」、「レイフォル国」となっている)とは別格の力を有し、神聖ミリシアル帝国に迫る可能性を持った国である。

 

 しかし……

 

 マイラスは頭を()(むし)った。

 今回現れたこの「グレードアトラスター」なる戦艦は、とんでもない大きさになっている。写真を見る限り、全長はざっと260メートル前後、全幅約40メートル、排水量は目測で5万トン以上。そして情報によれば、速力はおよそ30ノットであり、さらに主砲はどう見ても口径38㎝以上ある。もしかすると、口径40㎝オーバーかもしれない。

 これだけの巨体を、30ノットの速度で動かすとなると、機関出力も相当のはずだ。10万馬力を超えるかもしれない。

 

 さらに、主砲は三連装3基、計9門となっており、ラ・カサミ級の倍以上ある。

 ムー国では、砲撃の威力は砲門数の3乗に比例するとされている。その原則に従えば、ラ・カサミ級とグレードアトラスターが戦った場合、ほぼ100%の確率でラ・カサミ級が負ける。奇跡でも起きない限り、叩き潰されるだろう。

 

 ロデニウス連合王国の戦艦も、グレードアトラスターほど大きくはないとはいえ、似たようなものに見える。

 

(これは……写真を見ただけで負けると分かるとはな……。グラ・バルカス帝国にしてもロデニウス連合王国にしても、我が国より50年は進歩した機械文明レベルがあるのじゃないか……?)

 

 マイラスは頭を抱えるのだった。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 一方のロデニウス連合王国では。

 

「いやー、ここはものすごく発展しましたな!」

 

 クワ・トイネ州随一の経済都市マイハークの酒場で、お忍びで外出していた堺が、各国を巡る商人たちと酒を酌み交わしていた。

 

「全くだ。ここが第三文明圏外の国家だとは思えませんな!」

「いやいや、大したことはございませんよ」

 

 酒をかっ食らい大笑いする商人に、堺は少し謙遜した。

 とその時、商人の1人が気になる発言をする。

 

「いやはや、まさかこんな国に来ることができるとは。まるでムー国の一部をちぎり取って、東の端に持ってきたようなものですな!」

 

(ムー国?)

 

 堺の頭は、突然聞こえてきたこの“聞き覚えのある単語”に反応した。

 

 歴史好きである堺は、歴史書を読み漁る趣味がある。その中には、史実を表したものだけでなく、いわゆる「歴史上の伝説」に当たるようなものもある。そうした本の1つから、堺はその名前、「ムー」を知っていた。伝説に名を残す国として。

 

 今から何万年も前の地球には、太平洋上に巨大な大陸があった。南北5,000㎞、東西7,000㎞にも及ぶその巨大な大陸は、「ムー大陸」と呼ばれ、ムーという名の単一国家によって全土を支配されていた。その国は「ラ・ムー」と呼ばれる王を戴く王政国家で、高い文明レベルを以て繁栄を謳歌していた、という。

 しかし、今から1万と2千年前、ムー大陸に地震・津波・火山の噴火といった自然災害が同時多発で発生。結果、ムー大陸は一夜にして太平洋に沈み、ムーもたった一晩で滅びた、という。

 これが、現在の地球で語られる、ムーという国の伝説である。

 

 尤も、現代の進んだ科学技術でこの伝説を調査した結果、太平洋の海底のどこにも大陸があった痕跡は存在しなかった、とされた。また、このムー伝説を本に書いた著者が身分詐称をしていたらしいことが発覚し、ムー大陸関連の資料の信憑性にも疑問符が付けられた。そうしたことから、「ムー大陸」や「ムー」は存在しなかった、というのが現代の学術的見解となっている。

 

 しかし、歴史のifというものは、得てして人の人気を博するもの。堺もまた、このムー大陸伝説に心惹かれる者の1人であった。

 

 いま商人が口にした名は、すさまじいインパクトを以て堺の心に響いた。

 

「失礼ですが、ムーというのはどんな国なのですか?」

 

 堺が尋ねると、商人たちは特に疑問を抱くでもなく、親切に教えてくれた。

 

「おや、お前さん知らないのか? ムーってのは、ここからずっと西、第二文明圏にある列強国だ。神聖ミリシアル帝国に次ぐ、世界2位の国力を持った大国さ。魔法が蔓延るこの世界でたった1つ、“カガク”とやらを重視する国家としても有名だな」

「そうそう。何せコウクウキとかいう“飛行機械”を持ってるくらいだ。ワイバーンや風竜でもないものがどうやって空を飛ぶのか、俺には全く謎だぜ」

 

(カガク!? それって科学ってことでいいんだよな?

それにコウクウキだと!? それって航空機だよな? 飛行機を持つ国か……)

 

 堺は素早く思考した。

 とそこで、商人の1人がビールを呷ってから口を開いた。

 

「そうだ、ムーといえば面白い話がある。彼らの国の歴史書には、ムーは元々この世界にはなかった国だと書かれてるそうだ。どこか、別の世界から転移してきた国家なんだと。ま、古の魔法帝国でもあるまいし、そんなことはないだろうて、はっは!」

「ははは……そりゃ面白いですね」

 

 商人に当たり障りのない返事はしたが、堺の心の中は激しくざわついていた。

 

(元々この世界になかった国家!? どこか別の世界から転移してきた!?

それって、もしかして……)

 

 この時、堺の頭の中で1つの仮説が生まれた。それは、地球において伝説の存在となったムー大陸は、実はこの世界に転移していて、ムー国として繁栄している、というもの。

 突拍子もない仮説だと切り捨てるのは簡単だ。だが、この仮説は妙にしっくりくる。

 

(こりゃあ大変だ。ひょっとしたら、地球から転移した国家としてお仲間ができたことになるぞ)

 

 堺がそう考えていると、ロデニウス特産のビーフジャーキーにがっついた商人が、口の端を拭きながら尋ねてきた。

 

「ところでよ、このロデニウスも変わったもんだ。ムーの車みてぇなもんが街の中を走ってやがる。いったいどこでこんなもんを手に入れたんでぇ?」

 

 この商人、すっかり酔いが回っている。

 

「はは、新しい魔法の1種らしいですよ」

 

 堺はそう答えたが、これは嘘とは言い切れない。

 確かに車は科学の産物であって、魔法の産物とは言えない。そういう意味では、この答えは嘘だ。

 しかし世の中、こうも言うではないか。「十分に発達した科学は、魔法と区別が付かない」と。

 この商人たちにとって、車は「十分に発達した科学」の産物なのだ。であれば、「魔法と区別が付かない」以上、「魔法の産物」と言えるのである。

 

 え? 屁理屈でしかない? ご(もっと)も。

 

 ともかくも、堺のこの答えに商人は納得したようで、それ以上の追及もなかった。

 しかし堺は俄然、このムーという国に興味を抱く。

 

(こりゃあ、第三文明圏の連中以外にも、第二文明圏、それも列強国にも知己ができるかもな。帰ったら外務部のリンスイ卿に聞いてやろう)

 

 心中密かに、そんなことを考える堺であった。

 

 

 ところが、政府庁舎に寄った堺がリンスイにそのことを相談すると、リンスイはとんでもないことを言い出した。

 

「堺殿、貴殿はパーパルディア皇国を野蛮と言い切るだけの心胆の強さと、列強相手でも怯まない毅然とした態度が取れる貴重な人材だ。どうか、ムーと我が国の橋渡しの役を務めてはもらえまいか?」

 

(やっぱりこうなるのかよぉぉ! くそ、余計なことを言うんじゃなかった……仕事が増えちまったよチクショウメー!)

 

 堺は後悔したものの、時既に遅し。

 かくしてロデニウス連合王国は、ムー国との国交開設の準備を開始した。

 

 

 しかもこれだけでは済まず、別の凶報が堺を待ち受けていた。

 泊地に帰ってきた堺を、執務室で待っていた者がいたのだ。航空母艦の艦娘"(あか)()"と"()()"である。2人揃って深刻な顔をしていた。

 

「2人お揃いってことは……例のアレか?」

 

 堺が尋ねると、"加賀"が口を開いた。

 堺は2人に執務室のソファーを示しつつ、"大和"の特製紅茶を用意する。

 

「はい。実験中のアレが、またもマシントラブルを起こしました。名前の複雑な機能……ナントカ言う機能ですが、それの実験中にそのモードが勝手に解除され、姿を露出してしまったのです」

「最悪だな、どこでやらかした?」

 

 流石に、堺も顔色を変えた。

 

「ロデニウス大陸の北方30㎞の海域です。それだけではありません。付近を商船らしき帆船が航行中で」

「それ以上はいい。だいたい察した」

 

 "加賀"の報告を、堺は途中で遮った。"加賀"の声に苦渋が滲んでいるのを感じ取り、"加賀"が辛い思いをしている、と察したのだ。

 実際、"加賀"は出された紅茶に手を付けていない。"赤城"はフツーにカップを傾けているのだが。

 

「同系統の機体がないせいとはいえ、本当に性能把握に難儀するな、アレは。赤城、加賀、失敗したものは仕方がない。原因の究明と、流言の防止だけ徹底してくれ」

 

 するとここで、"赤城"が飲み干したカップを置いて口を開いた。

 

「承知しました。ですが提督、朗報も1つあります」

「何だ?」

「提督もご存じとは思いますが、例の『アレ』は全く異なる形状のものが2種類ほどあります。それぞれを『アレ』のA型、B型としますと、A型は今回露出問題を起こしたものであり、B型は同様の形状の機体を4種類揃えたものです。今回、どうにかB型の方をほぼ解析しました。できたのはB型のうちの、初期型とみられる機体だけですが、一歩前進になります」

 

 これは吉報であった。

 

「やれやれ、初期型とはいえそっちは済んだか。テスト運用はしたんだな?」

「はい。問題なく正常に動作しました」

「よし、ならば露出問題を起こしたほうの『アレ』の機構と、問題なくいったほうの『アレ』の機構を見比べてみよう。何か分かるかもしれん。頼んだぞ!」

「「了解」」

 

 この頃には、"加賀"も既に紅茶を飲み終えていた。

 "赤城"と"加賀"、2人の空母艦娘は揃って敬礼する。

 

「さて……」

 

 2人が退出した後、堺は執務室の机の引き出しに手を伸ばした。"(おお)(よど)"や"大和(やまと)"にすら開ける許可を出したことのない引き出し、その鍵が開かれる。そこから出てきたのは、「マル秘」の印が押された書類。

 

「ロデニウス大陸にとんぼ返りするのは(しゃく)だが……こういうことは、早めに動いた方がいいからな」

 

 呟くと、堺は明日の外出の準備をすべく、ある人物に魔信をかけるのだった。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 翌日、中央曆1639年10月20日、ロウリア州州都 ジン・ハーク。

 しばらくの間に、あのジン・ハーク攻防戦で付けられた爪痕は、ほとんど消えてなくなっていた。

 「WG42」の30㎝ロケット弾でぶち抜かれた城門は再建され、空爆や砲撃で破壊された市街地の建物もすっかり建て直されている。市街地には、以前の活気が戻っていた。ただ、まだ旧王城の一部は再建中になっている上に、ほとんど完膚無きまで破壊された工業都市ビーズルの再建はまだまだなのだが。

 

 その王城の応接室で、ロウリア州の初代州知事にして、優秀なる魔導士の1人であるヤミレイは、ソファーに腰かけていた。もうそろそろ、来客が来るはずである。

 そこへちょうどタイミングよく、コンコンとドアがノックされた。そしてドアが少しだけ開き、役人の1人が顔を覗かせる。

 

「失礼します。ヤミレイ様、お客人がいらっしゃいました」

「そうか、ここへ通しておくれ」

 

 ヤミレイが言うと、役人は「はい」と答えて引っ込んだ。

 入れ違いにドアが開けられ、堺が入ってくる。

 

「ヤミレイ殿、お忙しいところお時間を割いていただいて、ありがとうございます」

 

 丁寧に頭を下げる堺。

 

「これは堺殿。真面にお会いするのは、ロウリア王国の降伏調印式以来ですな。ささ、こちらへどうぞ」

 

 ヤミレイが、堺に自身の向かいのソファーを勧める。

 堺はそれに静かに腰かけた。

 

「さてさて、この私に急にお話があるとは、いったいどうされたのですか?」

 

 単刀直入に、ヤミレイは切り込む。実は昨日、堺が魔信を掛けた相手は他ならぬヤミレイだったのだ。

 

「ヤミレイ殿、貴殿は現在ロウリア州知事として、日々ロウリア州の復興に務めておられますな」

 

 堺はゆっくりと話し出す。

 

「ええ。ついでにパーパルディア皇国の借金の踏み倒しにも、力を注いでいますよ」

「相変わらずやっておられますか」

 

 ヤミレイが軽口を飛ばし、2人の笑い声が響いた。

 

「ですがヤミレイ殿、貴殿は優秀な魔導士でもあるそうですね。そのヤミレイ殿の魔導の腕を見込んで、お願いがございます。私はこの世界に来てからまだ日が浅いですが、その間に幾つも書物を読み漁りました。ヤミレイ殿は、ラヴァーナル帝国という国をご存じですか?」

 

 不意に深刻な口調になる堺。

 

「ええ、もちろん。古の魔法帝国ですな。この国は現在、神罰を恐れて何処かへと逃げ去ったものの、何れまたこの世界に戻ってくる、とされております。かの国の国民全員が、非常に高い魔力を持つことでも知られますな。それがどうかなさいましたか?」

 

 ヤミレイも腰を据え直した。

 

「ええ。その魔法帝国に関して、こういうものを考え付いたのです。これは、いずれ来る対ラヴァーナル帝国戦において、切り札ともなり得るものでしょう。ヤミレイ殿、これが実現可能かどうか、見ていただけますか?」

 

 堺はカバンを開け、書類を取り出した。そしてマル秘の印が押されたそれを、ヤミレイに手渡す。

 ヤミレイはその書類を広げてみて……目が点になった。

 

「堺殿……これは……。できなくはないでしょうが、かなりの技術や資源が必要ですぞ」

「ですから、優秀なる元ロウリア王国の魔導士たちの力を借りにきたのですよ」

 

 ヤミレイは1つため息をついた。

 

「まあ、やってみますが……時間がかかりそうです」

「よろしくお願いいたします」

 

 堺は深々と頭を下げるのだった。




魔帝用の切り札は、何ができるかお楽しみ!
そして神様がチート特典(みたいなもの)でくれた「例のアレ」ってホント何でしょうねー(棒読み)


次回予告。

もともとあった魔法と、日本より流入した科学により、大発展を遂げつつあるロデニウス連合王国。魔法が重視されるこの世界における、列強中唯一の科学文明国家ムー国。この2国は、ついに接触を果たす…
次回「異世界の機械文明列強」

それと、また間章の投稿を考えています。読者の方から増援の打診がありまして…
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