鎮守府が、異世界に召喚されました。これより、部隊を展開させます。 作:Red October
私も、負ける訳にはいかない…!
評価9をくださいました鬼武者様、ありがとうございます!
また、新たにお気に入り登録してくださいました皆様、ありがとうございます。
はい、予告通りにロデニウス連合王国とムー国の接触回となります。
中央暦1639年11月12日、この世界の西方ムー大陸、第二文明圏列強ムー国。
空は広々と晴れ渡っているが、日中の日差しはだんだん弱くなってきており、そろそろ冬の気配が迫りつつある。風もどことなく寒くなり、そろそろ秋物の衣服では寒さを凌ぎづらくなって、
そんな晩秋の気候の中、ムー統括軍情報通信部・情報分析課のトップにして、ムーの技術士官であるマイラス・ルクレール中佐は、ムー国東部沿岸の商業都市マイカルにあるアイナンク空港を訪れていた。
列強ムー国には、民間空港が存在する。利用コストの問題で富裕層以外はまだ利用できないし、また晴天の昼間にしか飛行機を飛ばせないが、それでもしっかりした空港である。
マイラスの知る限り、民間空港なんてものを持つのは、自国であるムー国と神聖ミリシアル帝国だけだ。これもまた、自国が上位列強である証である。
なんで、軍人であるマイラスがこんなところにいるのか? それは、直々に指名されて呼び出しを受けたためである。それも軍本部を経由して、外務省から呼び出されたのだった。
なんで外務省がわざわざ呼び出してきたのか、彼には全く分からない。しかも呼び出した場所は空港であり、ますます謎だ。
しかし軍本部からの命令は絶対であるため、彼は困惑しながらも命令に従い、ムーの科学技術の賜物の1つである「自動車」と呼ばれる内燃機関装置に乗って、アイナンク空港に来ていた。
控え室のソファーに腰かけ、待たされること20分。カチャッという小さな音を立てて、控え室の扉が開かれた。
部屋に入ってきたのは、軍服を着た1人の男。その後ろに、さっぱりした外交用の礼服を着た男が2人、続いている。この2人はおそらく外交官だろう。
「ご紹介します。彼が、技術士官のマイラス君です」
軍服を着た男が、外交用礼服の2人の男にマイラスを紹介する。マイラスは慌ててソファーから立ち上がった。
「我が軍一の技術士官であり、この若さにして第一級総合技将の資格を持っています」
「はじめまして。ご紹介に預かりました、技術士官のマイラス・ルクレール中佐です」
マイラスはにっこり笑って、外交官らしき男たちに挨拶する。
「かけたまえ」
軍服男に言われて、マイラスは再びソファーに腰かける。すると、残り3人も着席した。
外交官の一人が口を開く。
「何と説明しようか……今回君を呼び出したのは他でもない、君にしかできない仕事だ。こんなことは初めてだが……我が国に接触してきた、正体不明の国の技術を探ってもらいたいのだ」
「第八帝国のことですか?」
“正体不明の国家”と聞いてマイラスがすぐ思い付いたのは、第八帝国もといグラ・バルカス帝国である。この国は、第二文明圏の西方にある文明圏外国家と言われるが、列強レイフォルをたった1隻の戦艦で滅ぼしたとされており、「危険な国」と判断されていた。マイラス率いる情報分析課が、最優先で分析している国家でもある。
ところが、その国かと思いきや、
「いや違う」
もう一人の外交官が話し出した。
「あの国は“西”にあるだろう? 今回のお客は、“東”から来たのだ」
(東?)
マイラスは一瞬考える。
確かに第八帝国とは思えない。第八帝国なら、西岸に堂々と乗り込んでくればいいだけである。そっちの方が近いから、コストが安く済むだろう。
(とすると、いったいどこだ……? ……もしかして!)
心当たりがあった。
グラ・バルカス帝国とは別に一国だけ、マイラスらムー統括軍の情報分析課が気にしている国がある。リアスから大量の写真を送られて以降、彼らの心にずっと引っかかっている、東の端の小さな国家。
しかし、その国の名前である「クワ・トイネ公国」は、今は使われていない。先日この情報分析課に回された報告によれば、彼の国はロデニウス大陸の他の国と連合して、1つの国家となったからだ。今のその国の名前は……
「間違っていたらすみませんが、もしかしてその国、『ロデニウス連合王国』と名乗りませんでしたか?」
マイラスが尋ねると、外交官たちが目を見開いた。
「知っていたのか? そうだ、彼らはそう名乗った」
(ついに来たか! ロデニウス連合王国……!)
やはりマイラスの予想通り、ロデニウス連合王国だった。
以前から気にしていた国と交わる機会が、ついに訪れた。マイラスの心は踊る。
「去る11月5日、我が国の東の海上に1隻の船が現れた。海軍が臨検したところ、同船にはロデニウス連合王国の特使が乗っていて、我が国と新たに国交を開設したいと言ってきたんだ。我が国と国交を開きたいという国は珍しくはないが……問題は、彼らが乗ってきた船だ。帆船ではないのだよ」
(もしかして……機械動力船か?)
2番目に口を開いた外交官の説明を聞きながらそう考え、マイラスは返事をする。
「帆船ではない? すると魔導船ですか? 第三文明圏では魔導船が一般的ですが」
「いや。我々も最初、そう考えた。しかし、その船に魔力探知機をかけてみたが、反応は出なかったのだ。どうやら機械動力船らしい」
「まさか、第三文明圏に機械動力船があるとは……」
「驚くのはまだ早い。ムーの技術的優位性を示すために、このアイナンク空港を会談の待ち合わせ場所に指定したら、彼らは飛行許可を願い出てきたんだ」
最初に発言した外交官が、後を継いだ。
「当初は、“外交官がワイバーンで来るのか、なんと現場主義な国なんだ”と、話題を浚った。ところが、いざ飛行許可を出してみたら、彼らはワイバーンではなく、なんと飛行機械で飛んできたのだよ」
「!!!」
(やはりそうか! リアスの報告は本当だったのだな!)
外交官の説明に驚いたふりをしながら、マイラスは確信した。
もはや疑う余地はない。彼らにも飛行機械があるのだ。
ロデニウス連合王国の特使と会うのが、ますます楽しみになってきた、とマイラスは感じていた。
「その飛行機械なんだが、我々の戦闘機よりも大きい。どうやら、我々のラ・カオス型旅客機に似ている。しかも、大型なのに、我が国の『マリン』に少し劣る程度とかなりの早足だ。試しに、空戦をしたら勝てるかどうか、空軍のパイロットに聞いてみたが、おそらく勝てるだろうが怪しい、との答えだった。だが……彼らの飛行機械は、どうも我々のとは少し違うような気がする。
そこでマイラス君、君の出番というわけだ」
ここでようやく、マイラスは外交官たちが何を言いたいのか勘付いた。
「私に、このムー国を彼らに案内して、我々の技術を見せるとともに彼らの技術について探りを入れろ、ということですか?」
「察しが良くて助かる。我々は外交のことは分かっても、技術はまるで畑違いだからな。君でなければ務まらん。
会談は5日後に予定されている。今回、我が国を訪れたロデニウス連合王国の使節は2名だ。君には、その2名を我が国に案内し、我が国の技術を見せるとともに彼らの技術を探ってもらいたい」
「分かりました」
用件を伝え終えたらしく、外交官たちは席を立ち、軍服男とともに退室しようとする。
マイラスは、自分の技術者魂が震えるのを感じた。もちろん恐れではない。興奮によるもので、言うなれば武者震いだ。未知の飛行機械とは、どんなものだろうか。
と、立ち上がりかけていた外交官たちが、何かを思い出したらしくマイラスに向き直った。
「そうそう、危うく忘れるところだった。件の彼らの飛行機械だが、今この飛行場の東側に置いてある。まずはそれを見ておいてくれたまえ」
それだけ言うと、外交官たちは今度こそ退室した。
その5分後、空港東側。
「何だこりゃ……!?」
マイラスは、目の前にある「ロデニウス連合王国の飛行機械」とやらを見て、立ち尽くしていた。
彼らの飛行機械は自国のラ・カオス型旅客機よりちょっと小さい程度の大きさで、左右の主翼に1つずつプロペラ付エンジンを備えた双発機だ。だがエンジンは、「ラ・カオス」のそれに比べて大きく見える。それだけ高い性能なのか、それともエンジン出力の低さ故に、わざわざ大きなエンジンを積んだのかは、マイラスには分からなかった。だが、ロデニウス大陸からはるばる2万㎞以上も飛んで、ここまで来たのは事実である。
機体の形状については、明らかに「ラ・カオス」の負けであるのが見て取れた。彼らの飛行機械は、胴体が葉巻のように太いものの、全体がすっきりとした形状になっていて、空気抵抗が少なそうに見える。設計の段階で高度な計算が行われたのであろうことが、はっきり窺えた。「ラ・カオス」でも、ここまで洗練されてはいない。
加えて防御機銃らしきものが機体のあちこちにあるのだが、特に機体尾部にある機銃は明らかに巨大である。目測では、おそらく20㎜機銃だろう。ムーの爆撃機や戦闘機にも機銃はあるが、せいぜい10㎜程度なので、機銃の威力でも負けていることになる。
(防空用の機銃があるってことは、これは間違いなく軍用機だ。輸送機か、それとも爆撃機か……?
しかしまずいな、これは。我が国の航空機より形状が洗練されている。それはつまり、空気力学が発達している証だから、それだけ彼らの方が航空機関連の技術が高い、ってことだ。それに、こいつは単葉機だ。リアスの言う通り、彼らの戦闘機も単葉機である可能性が、現実的になってきたぞ)
マイラスは、ロデニウス連合王国の特使が乗ってきた機体……「一式陸上攻撃機 二二型甲」を見て、冷や汗を掻いていた。
さらに5分後、マイラスはロデニウス連合王国の特使が待機している空港内の応接室に向かっていた。
自国のそれより優れているかもしれない機体を見せられた以上、彼の足取りは重い。
ムー国にはまだ、高さ100メートルを超える高層ビルや時速380㎞の最新鋭戦闘機と練度の高いパイロット、そして最新鋭戦艦ラ・カサミ級がある。
だが……リアスに見せられた写真から考える限り、もしかするとこれらの分野でも負けるかもしれない。
(どうなることやら……)
とにかく自らの意を決し、マイラスは応接室の部屋のドアをノックする。
コンコン
「はい」
中から落ち着いた声がする。マイラスはドアを開けて……ちょっと驚いた。
中にいたのはヒト族の男性1人と、ヒト族の女性1人だったのだ。
てっきり、外交官は男性だとばかり思っていたため、マイラスは少し意表を衝かれる。
「はじめまして、私はマイラスと申します。今回の会談までの5日間、ムーをご案内いたします。よろしくお願いします」
言いながら、マイラスは右手を差し出す。すると相手の男性も右手を差し出してきた。
「はじめまして、私は
2人は握手を交わす。
(いい人そうだな)
マイラスと堺は、互いにそんな印象を抱いた。
「こちらは、私とともにロデニウス連合王国より参りました、私の部下のハルナです」
堺に紹介され、"榛名"(もちろん艦娘。ただし今は人形形態であり、艤装は展開していない)は頭を下げてお辞儀をする。
「紹介に預かりました榛名です。よろしくお願いします」
(2人揃っていい人じゃないか。しかも……正直このハルナって人、割と好みどストライクなんだが……)
マイラスにとっては、まさかの事態であった。
手際の良いことで、ロデニウス連合王国の使者は、既に出発の用意を整えていた。
「それでは、長旅でお疲れでございましょうから、本日はこの後ホテルにお連れします。具体的なムーのご案内は、明日からにいたします。まずはその前に、少しお見せしたいものがありますので、ついてきて下さい」
マイラスは空港を出る前に、堺と"榛名"にある物を見せようと考えていた。
向かった先は、航空機の格納庫。扉を開けると、そこには1機の複葉飛行機が格納されていた。
青のストライプが入った白塗りの機体で、機首にプロペラエンジンを1発備えている。その横には2基の7.92㎜機銃が備えられていた。車輪は固定式だが、空気抵抗を減らせるようカバーをかけられている。どれもピカピカに磨かれており、大事に整備されていることが素人目にも分かる。
ムー国の誇る最新鋭戦闘機「マリン」である。最高時速380㎞と、ワイバーンロードすら凌ぐ機動性を併せ持った機体で、ムー国の技術の結晶だった。
「この鉄竜は、我が国では航空機と呼んでいる飛行機械の1つで、我が国の最新鋭戦闘機『マリン』です。ワイバーンロードよりも早い、時速380㎞の最高速度を出し、前部に機銃……ええと、火薬の爆発で金属の弾を飛ばす武器ですね、それを付けており、1人で運用できます。メリットとしてはコストの良さと余計な手間のカットですね。ワイバーンロードのように大量の糞の始末に悩むこともありませんし、非稼働時に大量の食料を消費することもありませんし、ストレスで飛べなくなることもない。そして空戦能力もワイバーンロードより上です」
(どうだ?)
マイラスは「マリン」を紹介しながら、相手2人の反応を見る。すると、
「どうだい榛名、こりゃあ歴史を感じさせるもんじゃないか? 複葉機で、しかも固定脚。我が国にも、こんな機体が主力だった時代があったもんだ」
堺が目を輝かせ、「マリン」を見つめる。歴史を感じているのだ。
(主力「だった」、だと!? まさか、もう時代遅れになって使われていないのか!?)
マイラスが驚いていると、
「ええ。でも提督、うちでも複葉機、まだ動いてるじゃないですか」
"榛名"が、堺にツッコミを入れた。
「ありゃ水上機だ、陸上機とは違う。これはこれで味があるじゃないか」
もちろん堺の言う複葉機は、「零式水上観測機」と「Ro.43 水上偵察機」、及び「Ro.44 水上戦闘機」である。
この男が「提督」という軍人の職名の1つで呼ばれたことには気付かぬまま、マイラスは堺に話しかけた。
「失礼ですが、複葉機の他にどういった機体がありますか? 単葉機というのもあるようで、神聖ミリシアル帝国はそういうものを運用している、と聞いたことがありますが」
すると堺は、困ったように頭を掻きながら言った。
「私の国では、複葉機はほとんどなくなってしまいまして、もう陸上で運用する機体は、単葉機ばかりなのですよ。3種類だけ複葉機が残っているのですが、それらは水上機といって、
「ほう、海面から発進する機体ですか。それは興味深い。一度見てみたいものですな。それに、単葉機はそんなにも多いものなのですか?」
マイラスは、密かに探りを入れる。
「ええ、私の国で運用している機体は、ざっと1,800機ばかりいるのですが、さっき申し上げた複葉機は、そのうち100機ほどなのです。残りは全て単葉機ですよ」
(なんてことだ! 我が国の航空機全部を掻き集めたより、ちょっと少ない程度の数じゃないか!
しかも、そのほぼ全部が単葉機だと!?)
マイラスは心底驚いた。
現在ムーで運用されている機体は、新旧合わせてだいたい2,000機ちょっと。旅客機である「ラ・カオス」を除けば、全てが複葉機だ。
そして現在、ムー統括軍は「新型機を開発して、航空機の製造コストを今より安くすると共に、少なくとも今の複葉機と同程度の運動性能と早い最高時速、450㎞を合わせ持った機体を持つ」事を目標として単葉機を開発しようとしているが、難航している。
しかしロデニウス連合王国は、既に1,500機を超える単葉機を配備している。航空機産業に関しては、彼らの方が先を行っているようだ。
「失礼を承知でお尋ねしますが、その単葉機はどれほどの速度が出るのですか?」
マイラスが尋ねると、堺と"榛名"は一瞬顔を見合わせた。
「これ、言っちゃっていいのでしょうか?」
「ま、まあ、古い機体なら問題ないだろ」
少しだけ小声で囁き合った後、堺がマイラスに向き直った。
「えーと、古い機体になりますが……爆撃機で時速約380㎞ですね」
堺が上げたデータは、「九七式艦上攻撃機(三号)」のデータである。この機体は本当は雷撃機なのだが、「魚雷」と言ったとしても通じるかどうかわからなかったので、堺は「爆撃機」と表現したのだ。まあ、「九七式艦上攻撃機」も800㎏爆弾を抱えられるから、あながち嘘ではない。
それを聞いて、マイラスは驚愕した。
(何……だと……!? ロデニウス連合王国の旧式の爆撃機で、我が国の誇る最新鋭戦闘機「マリン」とほぼ同等の速度……!?)
戦闘機と爆撃機では、当然だが求められる役割が異なる。
戦闘機は、“敵の戦闘機を相手取り、これを撃墜する”のが仕事だ。同時に“味方の爆撃機を守る”役割も求められる。そのため、敵の戦闘機のそれを上回る、できるだけ高い機動性と速い最高速度が大事なのだ(ただし、これは第二次世界大戦の頃の常識である。現代の戦闘機の役割は若干異なるので、お間違えなきようお願い申し上げます)。それと、相手を確実に仕留められる大口径の機銃。
一方爆撃機は、できるだけ多くの爆弾を積み、敵にそれを投下することを仕事とする。そのため、重視されるのは搭載量……つまり、どれだけ大きい、又はたくさんの爆弾を積めるか、ということであり、速度は二の次にされることが多い。
その「速度を重視しない爆撃機」ですら、自国の最新鋭戦闘機「マリン」と同程度の速度を持つ、ということは、マイラスにとって衝撃でしかなかった。しかも、このスペックは古い機体のものだという。もしそうなら、今のロデニウス連合王国の爆撃機は確実にそれより速いはずだ。となると、「マリン」の脚でも追い付けない。
加えて、爆撃機でこの有様なら、さらに速い速度を求められる戦闘機の速度は……!
「で、では戦闘機だと、どのくらいの脚の速さなのですか?」
「ざっと時速500㎞くらいですかね」
【悲報】「マリン」、いろんな意味でロデニウス連合王国の戦闘機に完敗
そんなスレッドが、マイラスの脳裏に立った。
……って、何だ今の?
「ははは……それはすごい。国交が開設された暁には、古い機体で良いので是非とも見てみたいものですな。では、ホテルにご案内しますので、こちらへどうぞ」
格納庫の外へ2人を連れて行き、顔を引き
すると、3人の頭上を数機の複葉機が編隊を組んで飛んでいった。編隊の姿は美しく、搭乗員の練度の高さを窺わせる。
「あれは?」
「ああ、あれは我が国でも最も成功したとされる爆撃機です。足は遅いのですが、かなり安定して飛んでくれますし、布張りなので燃えても手袋で叩き消せばいいし、なかなか墜落せず、被弾に強い、といういい機体です」
堺の質問に、自慢気に語るマイラス。
だが堺は、思い出してしまった。自分の知っている機体の中に、そんな特徴を持つ機体で、かつ第二次大戦でも使用され続けたものがあったことを。
それは確か、ヨーロッパの某紅茶好きの国の飛行機で……
「すみません、あの機体の名前は何と言うのですか?」
「ああ、あの機体の名前は『ソードフィッシュ』ですよ」
マイラスの答えを聞いたその瞬間、堺は(やっぱり)と思った。どうも既視感があるな、と思ったらそういうことだったのである。
と同時に、堺はムーの兵器に関して、ある深刻な懸念を抱くのだった。
(この国、まさか“あの面”に堕ちやしないだろうな?)
マイラスは、空港の外へ2人を連れて行く。そこに、ロデニウス連合王国の特使を送迎するための自動車が、止められているのだ。
この自動車もまた、ムーの技術の結晶である。石油を使用した内燃機関を積んで、時速80㎞で地上を走ることのできる、驚異的な乗り物である。神聖ミリシアル帝国以外の国の人々は、これに乗ると必ずあっと驚くものである。
ところが、2人は自動車を見ても特に驚く様子もなく、すんなり後部座席に座り込んだ。そして、自動車が走り出しても、特に驚いた様子はない。
(まさか…!? あの写真の通りか?)
以前リアスが送ってきた写真にあった車(正確には九四式六輪自動貨車)を思い出しながら、マイラスは質問する。
「ロデニウス連合王国にも、車があるのですか?」
「はい、ございますよ。大陸全体で、ざっと200万台くらいでしょうか、それが走っています。性能はちょうどこの車みたいなものですよ」
堺は、事も無げに答えた。
(やはりそうか……! ロデニウス連合王国は、かなりの機械文明大国らしいな!)
リアスの写真は嘘ではなかったと、マイラスは確信した。ちなみにその隣では、送迎のドライバーが驚きのあまり、開いた口が塞がらなくなっていた。
それからしばらく走ってムー国の高級ホテルに着いた一行は、チェックインを済ませた。
「明日は、我が国の歴史と海軍の一部をご案内します。本日はごゆっくり、お寛ぎくださいませ」
ロデニウス連合王国の使節にそう告げて、ホテルを後にしたマイラスは、これはいよいよ大変なことになったと確信した。
(200万台もの車があり、我が国のそれらより高性能の戦闘機や爆撃機をも持つ……ロデニウス連合王国、侮りがたし! 明日は、海軍を見せるついでに、ロデニウス連合王国の海軍力を探ってやろう……!)
◆◇◆◇◆◇◆◇
翌日、中央暦1639年10月29日。
マイラスと堺、"榛名"の3名は、ムー国の歴史資料館を訪れていた。
「では、我が国の歴史についてご説明いたします。まず、各国にはなかなか信じてもらえませんが、我が国のご先祖様は、この星の住人ではありません」
「え!?」
「はい?」
マイラスの説明に、堺と"榛名"はともに驚いた様子を見せる。
「今から時を遡ること1万2千年前に、"大陸大転移"という現象が起き、我が国ムーは大陸ごとこの星に転移してきたのです。このことは、当時王政だった政府の公式記録として残されています。そして、我々のご先祖様がどこから転移したのか、ということですが……」
マイラスはそう言いながら、球体の器具を2人に見せた。
「この星です」
「……えっ!?」
「て、提督、これって……!」
堺と"榛名"は、驚きを隠せなかった。無理もない、マイラスが取り出したその球体の器具は、地球儀だったのだ。
まさか、こんなところで地球儀にお目にかかるとは! ということは、ムーが元々いた星って、まさか……!
しかしマイラスは、「2人のロデニウス人は、世界が丸いのだということを初めて知って驚いた」と勘違いし、話を続ける。
ちなみにこの世界の住人は、基本的に大地は平らなものだと考えているのだ。
「ご覧の通り、前世界は丸かったのです。この世界も、水平線の位置から考えると、前世界の星の2倍ほどの大きさがあるようですが、丸いはずです。前世界での我が国の位置は……」
マイラスが、前世界での自国の位置を指そうとした時、
「地球だ!!!」
叫んだ堺が、マイラスの手からいきなり地球儀を引ったくった。そして、くるくると回して確かめ始める。
「こりゃあ……この大陸配置は、紛れもなく地球だぞ。しかしこの地球儀、何か変だな。ん? この地球儀、傾いていない……? そうか、地軸がおかしいんだな。しかし、これは間違いなく地球だ。
おや? こんなところに南極大陸がある。いったいなんで?」
呟きながら、堺は大西洋上の一点を指差した。そこには、現代の地球でいう南極大陸が浮かんでいる。しかしそこには、全く別の名前が刻まれていた。
「おや、何か国名みたいなものが書いてあるな。なになに……『アトランティス』?
なるほど! それじゃ、伝説のアトランティス大陸は本当にあったということか! ということは、ムーもか!?」
堺は地球儀をくるりと回して、太平洋を自分の顔の前に持ってくる。
「うわー、本当にあった! ムーって書いてある! それじゃ、ムー伝説も本当だったのか!」
マイラスが持っていた地球儀には、太平洋上に「ムー」と名前の振られた巨大な大陸があった。
(何やらロデニウス人が大陸を指差して驚いているな。説明してやるか)
マイラスは、地球儀をくるりと回すと、地球儀にある南極大陸(ただし大西洋にある)を示し、説明し始める。
「この大陸はアトランティス大陸と言いまして、アトランティス帝国という国が全土を統治しています。前世界では、我がムーと世界を二分して覇権を争った国でした。ムーがいなくなった今は、この星の全てを統治しているでしょう。ちなみに、我が国ムーの位置はここです。そして……」
言いながらマイラスは地球儀を回し、太平洋に浮かぶムー大陸を示した。そしてムー大陸を指したその指を、地球儀上で北北東にやや動かし、大陸のそばに4つの大きな島があるポイントを示す。
「この4つの島は、ヤムートという国が統治していまして、同国は我が国一の友好国だったそうです。転移した後でアトランティスに呑み込まれたでしょうが……」
「すみません、ちょっとよろしいですか?」
その時、堺が手を上げた。
「はい、何でしょう?」
「興味深い歴史を教えていただき、ありがとうございます。そしてマイラス殿、お礼に貴方にお教えしましょう。ロデニウス連合王国の最大の秘密を」
にっこりと笑う堺。
マイラスは直感した。ここで今、ロデニウス連合王国が何故こんな装備を持つに至ったかが、分かるかもしれない!
「提督、いいんですか!?」
"榛名"が声を上げるが、
「いいだろ、榛名。これは間違いなく、“運命的な出会い”だ。それに、ムーのことを教えてもらうばかりでこちらの情報を開示しない、というのは失礼に当たる」
そう言って"榛名"を宥め、堺は口を開く。
「マイラス殿、おかしいとは思いませんか? いくらロデニウス連合王国といったって、所詮は“第三文明圏から外れた外地”。そんな国が、航空機やら車やらを持つなんて、どう考えても変でしょう?」
「確かにそうですな。しかし、貴国はそれをお持ちなのでしょう?」
「ええ。何故そんなものがあるのか、それを今からお話します。
……“貴国と同じ”なんですよ。ロデニウス連合王国……正確には旧クワ・トイネ公国に、ある国の一部が転移してきたのです。貴国と同じように」
「な!?」
今度はマイラスが驚く番だった。仮説の1つとして転移を考えていたが、まさか本当に転移していたとは!
「ど、どちらから転移なさったのです?」
マイラスの質問に、堺が指差したのは……
「この国です。ちょうど貴方が“ヤムート”とお呼びになった国ですよ」
日本だった。
「えっ!?」
「私も榛名も、このヤムートという国……現在はいろいろと名前を変え、日本という名前になっていますが、そこから転移してきました。証拠をお見せしましょう」
そう言うと堺はバッグを探って、世界地図を取り出した。
「これが、私たちが元いた世界の地図です。どうぞご覧になってください」
マイラスは堺の手から地図を受け取り、広げる。
そこには、アトランティス大陸が南極に移り、そしてムー大陸がなくなった地球の世界地図があった。
「な!? これは……この地球儀とほぼ同じ!?」
「はい。ちなみに、貴方がアトランティスと呼んだ大陸は、この下、南極大陸になってしまったようです。恐らくアトランティス帝国は気候の激変に対応できず、滅びてしまったのでしょう。地軸も、貴国が転移したその時にずれたのかもしれませんね。
私たちのいた世界では、アトランティスの名前が伝説の中に出てきます。そして、1万2千年前に一夜にして大陸ごと大海原に沈んだ国があり、その名はムーである、という伝説も残っていますよ。ムー大陸があったとされる位置は、ここです」
堺が指したのは、マイラスの地球儀におけるムー国の位置とそっくり同じ場所だった。
「は、はは、これは……まさかの歴史的発見ですね。私個人としては、貴国とは仲良くしたいものです。まさか、そんなことがあったとは……後ですぐ、上に報告しておきます」
その後、堺とマイラスは自国や世界の歴史談義でかなり盛り上がり、すっかり仲良くなるのだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇
ムー大陸の突然の転移と、それに伴う大混乱。周辺国との軋轢。魔法文明に対するムー文明の劣勢。その中で見出した、科学技術の有効性。再発展と周辺国との関係改善。そして、世界2位の列強国へ。
ムー国がいなくなった後の地球の歴史。その中での
マイラスと堺は延々二時間ほども、互いの国の歴史談義で語り合い続けた。そして、"榛名"の指摘ですっかりスケジュールが狂ったのに気付いた三人は、大慌てで昼食を済ませると、ムーの海軍基地へと足を伸ばした。
ロデニウス連合王国に対して、列強ムーの誇る海軍力を見せ付けなければならない。
……だが、マイラスの頭裏にはリアスの送った写真があった。あれほどの巨大戦艦が本当にあるとすれば、果たして……
港にはちょうど、ムー海軍期待の最新鋭戦艦「ラ・カサミ」が停泊していた。
「あれが、戦艦ラ・カサミです。我がムーの誇る最新鋭艦ですよ」
マイラスが説明すると、
「戦艦か! やっぱり戦艦はいいな、男のロマンだ。この形は、かつて見た
どうだい榛名、お前さんのご先祖だ」
堺が戦艦は男のロマンと言い出し……え?
ま、まさか、ロデニウス連合王国は本当に戦艦を持っている!?
そして、ハルナに向かって、「ラ・カサミ」が「ご先祖」だと言った。これはいったい!?
取り敢えず、マイラスは探りを入れる。
「ロデニウス連合王国にも、戦艦があるのですか?」
「はい、ありますよ。ざっと15隻ばかりでしょうか」
堺はさらりと言ったが、マイラスには凄まじい衝撃であった。
(なんてことだ! ロデニウス連合王国に、15隻もの戦艦がある? 写真で見た、あのバケモノみたいな巨大艦が15隻!?
……い、いや、まだそうと決まったわけじゃない。戦列艦のことを戦艦と言ってるかもしれんし)
マイラスは、さらに質問する。
「失礼ですが、ロデニウス連合王国の戦艦はどのようなものでしょう?」
すると、堺は「うーん」と唸った後で、ぼそりと呟いた。
「……見てもらったほうが早いかな」
……え?
この男、今何と言った? 見てもらう? ここに現物を持ってきているのか? しかし、それらしいものはどこにも見えない……
マイラスが戦艦とやらを探していると、
「マイラス殿、すみません」
堺が話しかけてきた。
「は、はい?」
「先ほどの宣言に誤りがありました。貴方には、ロデニウス連合王国の秘密のツートップをお教えします」
は?
堺が何を言いたいのか分からず、マイラスは首を傾げた。
「榛名」
すると堺が、"榛名"を振り返る。
「あれ、見せてやれ。提督命令だ」
「……分かりました」
ん? 提督? 提督って軍の指揮官の呼称だよな? どういうことだ?
この時初めて、マイラスは違和感を持った。
すると、目の前で"榛名"と呼ばれた女性が白い光に包まれる。その光が収まった時、"榛名"の姿は一変していた。
体格そのものには変化はない。しかし服装は、マイラスが今まで見たことのない白い衣装に変化しており、また明らかに大砲らしい鋼色の物体が、腰に付けられていた。その鋼鉄製らしい物体は、全体的に見るとどことなく船のような形に見える。
「堺殿、これは!?」
「これが、我が国のトップシークレット2つ目。この榛名は、純粋なヒトではありません。『艦娘』と呼ばれる、人であると同時に軍艦である存在なのです」
「え? え!?」
マイラスは、完全に話についていけなくなった。
「軍艦の魂を宿したヒト族の女性。一言でまとめると、この説明になります。それではすみませんが、あちらの埠頭をお借りしますね。ご覧いただきましょう、戦艦榛名の勇姿を」
堺が合図すると、"榛名"はラ・カサミがいる埠頭の隣にある、空いている埠頭へと歩いていった。そして、何のためらいもなく海に飛び込もうとする。
「えっ!? ちょっ!?」
困惑するマイラス。しかし沈むかと思いきや、"榛名"は2本の足で海面にしっかり立った。そして、またもや"榛名"の姿が白い光に包まれ……光が消えた後には巨大な戦艦が姿を現した。
全長131メートル弱の戦艦「ラ・カサミ」を凌ぐ、全長222メートルの巨体に、天にも届くかと錯覚するほどの高い艦橋。そして、「ラ・カサミ」の30.5㎝連装砲がおもちゃに見えるほどのインパクトを誇る、4基の四一式35.6㎝連装砲。マストにはしっかり、ロデニウス連合王国の国旗と旭日旗が翻っていた。
艦体前部には、奇妙な白と黒の不規則な模様が描かれている。
「こ、これが……これが、ロデニウス連合王国の戦艦ですか!?」
マイラスは辛うじて、それだけを口にした。
「はい。あ、先に申し上げますが、『榛名』はかなり古い戦艦です。従って、性能は足は早いですが、他はそれほど強力ではありませんよ。それと、彼女の祖先となった戦艦『三笠』は、我が国では約300年前に使われた戦艦で……」
せっかくの堺の説明は、半分もマイラスの耳に入っていない。
(こんな戦艦が15隻も……! これでは、我が海軍にも勝ち目がない!
しかも、こんなものを1人の女性の中に隠すなんて……! これでは、我が海軍の完敗だ……!!)
それが、マイラスの確信したことだった。
ちなみに、「榛名」のこの姿はムー海軍の他の兵士たちにもバッチリ見られており、「ロデニウス連合王国という第三文明圏外の国が、『ラ・カサミ』より優れた戦艦を持つ」として、多大な驚きを以て迎えられた。
ちなみにこの後、マイラスは堺に「乗ってみますか?」と聞かれて、二つ返事で同意した。ついでに、「榛名」を覗きに来たムー海軍の兵士たちも乗せて貰えることになり、あっという間に「榛名」は凄まじい評判を獲得するのだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇
そして、明日はいよいよ会談だという日のお昼に、マイラスは堺や"榛名"から得た情報を報告書にまとめ、軍部に提出した。
大量の単葉機に、15隻もの超大型戦艦、それに大小合わせて20隻を超える空母、潜水艦という自ら海に潜る船に、海中を進行し船の下腹に大穴を開ける水中自走爆弾「魚雷」。さらには「戦車」という
何より特筆すべきは、それほどの超大型戦艦や空母、駆逐艦に至るまでを1人1人の女性の中に収納しているという事実。それは「艦娘」と呼称されており、ヒト族の女性の身体の中に軍艦の魂が宿ったとされる存在、との説明を受けた、と報告書には記してあった。
(残りの日の間に、すっかり堺と意気投合したマイラスは、リアスが撮った写真のことを堺に伝え、それを見せて話をしていた。そこから得た情報も、この報告書には書かれている)
そして、ロデニウス連合王国の高い技術力の秘密である、「転移」があったということと、その転移によって、かつてのムーの友好国たる「ヤムート」改め、「日本」の一部がこの世界にやってきた、ということ。それから、ムーがいなくなった後の地球の発展ぶり。
どれも傍から見れば、とても受け入れられるものではない内容だった。
しかし敵対してくるわけではないし、もしかすると高い技術が手に入るチャンス。
グラ・バルカス帝国の脅威があるこの状況下にあって、友好的であるロデニウス連合王国を拒否する理由は、ムー国にはなかった。
そして中央暦1639年11月2日、ムー国とロデニウス連合王国は、正式に国交を開設し交易を開始したのである。
ムー国にフラグが1つ立ちました。
さすがに紅茶はキメないと思いますが…どうなることやら。
ちなみに、これは裏設定になるのですが、時間がない時に手早く食事をするとなると、便利なのはファーストフードですよね。で、ムーの海軍を案内してもらう直前に、堺と榛名とマイラスの3人は、ムーのファーストフードを利用したのですが…その献立が、紙に包まれた白身魚とある種のイモのフライだったとか…
そういえば、某チートUSAが召喚された作品でも、ムーは見事に英国面まっしぐらでしたし、他にもムーが英国面堕ちした作品があるとかないとか。どうやら日本国召喚の二次創作の作者の皆様は、ムーを英国面堕ちさせるのがお好きらしい…
なお、榛名は改二仕様ですので、ダズル迷彩を塗っています。船体前部の奇妙な塗装はそれですね。
次回予告。
第三文明圏に覇たらんとしている帝政列強・パーパルディア皇国。同国は、文明圏外の国をまた1つ、毒牙にかけんとしていた…
次回「激動のアルタラス島」