鎮守府が、異世界に召喚されました。これより、部隊を展開させます。 作:Red October
拙作が、ついに総合評価1,100ポイント超を獲得した…?しかも、UA40,000突破、お気に入り登録数400突破、だと…?
ひゃっほぅぅぅ!最高だぜぇぇぇ!
皆様、毎度ありがとうございます!
評価8をくださいましたTOMOさん様、評価9をくださいましたタイコ様、評価10をくださいましたFPL8EXD様、ありがとうございます!!
また、新たにお気に入り登録してくださいました皆様、ありがとうございます!ついでに評価をポチッと押していただけるとありがたく存じます。
今回で第二章「異世界に風波立つ」は最終話となります。とは言いますが拙作が完結するわけではないのでご安心を!
また、中央暦1639年の出来事も、暦としてはこれが最後となります。ただし、中央暦1639年の出来事全てをお届けできた訳ではありません。
間章の投稿を行って、中央暦1639年の出来事を全てお届けした後に、いよいよ第三章に、そして中央暦1640年に突入していきます。今後ともよろしくお願いします!
それでは、ごゆっくりどうぞ!
中央暦1639年12月24日、ロデニウス連合王国クワ・トイネ州 タウイタウイ島。
地球ならクリスマスイブに当たり、世界各国の人々がツリーを飾ったり、七面鳥を焼いたり、プレゼントを用意したりして楽しむ日である。それは、このタウイタウイ泊地においても同じだ。
タウイタウイ泊地では、駆逐艦の艦娘たちがクリスマスツリーを引っ張り出し、それに飾りを付けたり、プレゼント箱を包装してツリーの根元に置いたり、靴下を暖炉にぶら下げたりしている。また、「
そんなタウイタウイ泊地の艦隊司令部の一角では、クリスマスとは全く無縁な会議が行われていた。出席者は、タウイタウイ艦隊の司令官である堺をはじめとして、秘書艦筆頭の"
“代表者たち”というのは、具体的には“各艦種の中で1番目と2番目に着任した”メンバーだ。駆逐艦娘なら、最古参となる"
タウイタウイ泊地における会議の規模としては、非常に大きなものである。これ以上に規模の大きい会議といったら、せいぜい
「それでは、これより会議を始めます」
"大淀"の開会の言葉とともに、会議が始められる。
最初に口を開いたのは、当然のように堺だった。
「諸君ももう、報告書なり青葉新報なりで情報を得ていると思うが、去る9月25日、フェン王国において行われた軍祭で、我が艦隊はパーパルディア皇国軍から
堺はいつになく重々しい口調で、ゆっくり言葉を紡ぐ。
「これを以て俺は、パーパルディア皇国という国を、極めて危険で
そこで、青葉に集めてもらった情報をここで皆と共有し、おそらく将来の
では青葉、情報を頼む。皆も、質問等あればどんどんしてくれ。情報が足りないところは、俺も補足する」
堺はそう言って、口を閉ざした。
入れ替わりに"青葉"が立ち上がり、話し始める。こちらは、いつも通りのどこか軽い話し方だ。
「第13艦隊情報局トップの青葉です。今回我々が収集し分析した、パーパルディア皇国の情報を発表したいと思います。まずは、皆さんの前の資料を確認してください」
会議室のテーブルの各人の前には、そこそこの厚さの書類が置かれていた。表題は「パーパルディア皇国 その力についての分析」となっている。
「まず始めに、提督が話した『パーパルディア皇国』という国の地理について、お話したいと思います。資料の2ページ目を見てください。
パーパルディア皇国は、我がロデニウス連合王国から見ておおよそ北西の方向、直線距離にして約1,100㎞の位置にある、フィルアデス大陸の南方に位置する国家です。人口は約7,000万人。国土面積は約7,700,000㎢と、地球でいうならオーストラリアと同程度です。ただし、この国土面積は推測である上に、本国だけではなく属領の面積を含みます。
属領については後で説明しますね。それと国名から分かる通り、政治形態は皇帝を頂点とする帝政国家です」
"青葉"はここで一旦口を切り、一息ついた。
「次に、国力についてです。各地の商人たちや我が国の外務部、情報部からの情報を統合・分析しますと、パーパルディア皇国は、少なくともフィルアデス大陸とその周辺に位置する国家の中では、間違いなく最強の国家であると考えられます。
商人たちによれば、同国の首都…皇都エストシラントと呼ばれるそうですが、そこは第三文明圏で最も栄華を極めた都市であることは間違いないようです。質問した商人たちは皆、同じ内容を話しておりましたので、その通りなのでしょう。
このことからパーパルディア皇国の経済力が、そしてこの情報と人口の多さから、パーパルディア皇国の軍事力の高さが窺えます。人口が多いというのは、その分兵員数の多さに繋がりますので。では次は、パーパルディア皇国の海軍力についてです」
ここで"伊勢"が手を挙げた。
「はい伊勢さん、何でしょう?」と"青葉"。
「発表ありがとう。1つ聞きたいのだけど、栄えているといってもどの程度栄えているのかよく分からないわ。写真か何かない?」
「質問ありがとうございます。資料の3ページを見ていただけますか?」
"青葉"に言われて、"伊勢"は資料をぱらりとめくった。少しぼやけているが、写真が載せられている。
「それが、彼らの首都を写した写真……正確には魔法を使って撮っているそうで、魔写と呼ばれるのですが、それを貼り付けました」
"青葉"が説明する。
「うーん、ちょっとぼやけてるからよく分からないけど……これ、建物は地球でいうヨーロッパ風って理解していいの?」
「多分良いと思いますよ。情報科が送ったスパイからは、イタリアのローマを彷彿とさせる建築が多かった、と報告が寄せられています」
この瞬間、ゴン! というなんともいえない音が、会議室に響いた。"加古"が寝ているのに気付いた"摩耶"が、
「っっ………!」
「失礼したぜ。話を続けてくれ」
涙目で頭を抱える"加古"の横で、"摩耶"が涼しい顔をして言う。
これには流石に、"青葉"以下一同がドン引きした。
「は、はい、了解しました」
若干引き
その瞬間、"加古"の右隣に座っていた"龍田"は、"摩耶"が"加古"に素早く耳打ちするのを聞き逃さなかった。
『次寝たら、
途端にさっと顔色を変える"加古"。
(うふふ、相変わらずね)
"龍田"がそう思っている間に、"青葉"は説明を再開していた。
「パーパルディア皇国海軍についてですが、外務部や商人たちからの情報、そして以前の軍祭の折に撮影された写真を分析した限りでは、主力艦は『戦列艦』と思われます。資料の10ページをご覧ください。そこに、地球における戦列艦の説明を載せています」
さらさらと、あちこちでページをめくる音がする。
「戦列艦がどんな船かについてはまあ、泊地での座学の時間にも出てきたはずなので、時間短縮のため説明を省略します。分からない方は、各自資料の10ページを参照してください。これに照らして考えると、パーパルディア皇国海軍の主力は戦列艦で間違いないでしょう。
ただ、商人たちの情報と、分析科からスパイを放って調査した結果、とんでもないことが分かりました。資料の12ページを見てください」
全員が1枚ページをめくる。そこには、スパイがエストシラントにて撮影した戦列艦が写っていた。遠目なので、決して大きく写ってはいないのだが……よく見なくても、船体が黒光りしている。それも明らかに塗装によるものではなく、金属質の光沢だ。
「ご覧のように、戦列艦ですが装甲板が側面に張られているようです。地球では、実用に耐える十分な速度を発揮し得なかったため、装甲戦列艦は作られなかったのですが、この世界では作られ、前線運用されています。おそらく何らかの魔法によって、速力を確保していると思われます。
その速力はおよそ12ノット。最大で15ノット程度と見られます」
この時、堺が手を挙げた。
「今の青葉の報告に関して、少し補足する。
諸君は、以前に我が国に亡命してきたアルタラス王国のルミエス王女のことは知っていると思う。俺はその彼女から、『風神の涙』なる魔法具の存在を教えてもらったことがある。これは、風魔法を封じ込めた魔石を精製したもので、これがあれば魔力が続く限り、常に一定の風を特定の方向に吹かせることができるそうだ。おそらくパーパルディアの戦列艦は、これに類する魔法具を搭載していると見られる。
実際、これだけの巨体と質量を持つ帆船が12ノットもの速力で走るのは、現実的に考えて無理だ。何らかの魔法を使用していると考えるべきで、それがこの『風神の涙』、もしくはそれに類する魔法具だろう。以上、補足だ」
「司令官、ありがとうございます」
"青葉"が頭を下げる。
「ということで、パーパルディア海軍の主力は装甲化の有無を問わず、戦列艦であると言えます。それ以外に『竜母』という船を複数所有しているようです。それらしき船を捉えた写真を、資料の13ページに載せました」
そのページには、巨大な帆船が写っていた。甲板にはマストと、船体右後方に申し訳程度に突き出たブリッジらしき構造物はあるものの、それ以外の構造物が見当たらない。よく見ると、甲板の上に人間とワイバーンが乗っていた。
「この写真の艦が竜母だと仮定しますと、竜母は全長約80メートル。戦列艦が全長約50〜60メートルとされていますので、二回りほど大きいことになります。
また、竜母という名前から、我が国の空軍にもあるワイバーンを、洋上で飛ばすための船と見られます。要するに
ここで手が上がった。
「はい瑞鳳さん、どうぞ」
"青葉"が指名し、軽空母艦娘"瑞鳳"が起立した。
「そのワイバーンという、竜? を搭載してるのが竜母って船みたいだけど、何機搭載できるの?」
搭載数を気にするのは、流石空母艦娘というべきだろう。
「すみません、そこははっきり把握できているわけではありません。ですが、船体の大きさとワイバーンの大きさの比率から考えると、ざっと20機が限界と思われます」
「竜母の速度は?」
「12ノット程度と見られます」
「あと、発艦方法ってどうなってるのかしら?
これ帆船よね? だとしたら、帆を張ったままだとその帆が発艦の邪魔になる、と思うんだけど」
「そこも調査不足ですね。ただ、スパイが見た範囲では、竜母は帆を畳んだ状態で……つまり停止した状態でワイバーンを飛ばすようです」
「分かりました、ありがとう」
疑問を解決したか、"瑞鳳"は着席した。
「以上のことから、パーパルディア海軍の戦力は竜母を中心とした機動部隊、戦列艦を主力とする砲戦部隊、及び通常型の帆船よりなる輸送艦隊の3つに分かれると推察されます。
問題なのはその
また、それ以外に『国家監察軍』なる独立部隊を有しており、こちらにも戦列艦や竜母が配備されています。これら全てを合わせた数は、優に1,000隻を超えるでしょう」
"青葉"が発表したこの数に、
「ふえぇっ!?」
"名取"が悲鳴を上げた。
「Oh……数
"金剛"も、呆れたような声を上げる。
「これは……時代遅れの艦が相手とはいえ、慢心しては駄目ですね。全力でいかないと」
下顎に手を当てながら"赤城"がコメントし、
「よーし、任せろ! 怖いなら、アタシの後ろに隠れてな!」
"摩耶"が闘志を燃やす。
「ただ、赤城さんが言った通り、この艦隊ははっきり言って
写真や資料をご覧になると分かりますが、戦列艦は不必要なほど多数の大砲を舷側に並べています。これは、大砲の命中率が低いのを数で補おうとしているからです」
「『下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる』ってことでちね」
"青葉"が話を続けると、"伊58"がコメントした。
「ゴーヤさんの言う通りです。そして、これだけの数の大砲を載せるとなると、砲弾も相応の数を載せないといけませんから…」
「マッチ1本火事の元、だクマ」
今度は"球磨"のコメントである。
「それって、1発でも私たちの砲弾が当たったら、ドカーンといっちゃわない?」
「誘爆して、あっという間に沈みそうデース」
"伊勢"と"金剛"が言葉を交わす。
「それに加えて、彼らの砲は射程距離が2㎞しかありません。しかも、戦列艦を使う辺り、地球の歴史から考えると、回転砲塔という機構を持たないようです。
また、いくら装甲板が張ってあっても、基本構造は木造の帆船です。1対1なら、私たちの艦隊の
ここで"青葉"は一息入れる。
そこへ、"敷波"が手を挙げた。
「はい敷波さん」
「その戦列艦なんだけど、水雷防御ってあるの?」
"敷波"の質問は、言うなればパーパルディア皇国の戦列艦に魚雷が通用するのか、ということだ。
魚雷を主要な対艦兵装としている、駆逐艦娘らしい質問といえるだろう。
「すみません、そこは私も分かりません。提督、何かご存じないですか?」
"青葉"に言われて、堺は立ち上がる。
「俺もはっきり分かっているわけではない。ただ、以前にこの世界の列強2番手に数えられるムー国の技術士官から、魚雷についていろいろ聞かれたことがある。何故そんなものを聞くのか不思議に思って聞いてみたら、ムーには魚雷はないんだそうだ。その技術士官曰く、“こんな兵器は見たことも聞いたこともない”と。
パーパルディアより技術体系の進んだムーでこの始末だから、おそらく魚雷という兵器そのものがこの世界にないと思われる。よって、水雷防御はないだろう。
ただ戦列艦だから、おそらく喫水は浅いはずだ。魚雷を使うのであれば、深度を浅めに設定して、信管が鋭敏な酸素魚雷は使わずに、敢えて空気式魚雷を使った方がいいだろうな」
「おけ。ありがとー」
疑問を解決し、"敷波"が着席する。
ちなみに、何故酸素魚雷を使わないのかというと、酸素魚雷は信管が非常に鋭敏で、水深の浅いところを航走させた場合、波に当たった
それに加えて、木造船を破壊するためだけに酸素魚雷を使うというのは、威力がオーバーキル過ぎる上にコストパフォーマンスが
いくらなんでも、木造船相手にそんな高級品をほいほいと使うわけにはいかない。
"青葉"は、説明を再開した。
「最後は属領についてですね。パーパルディア皇国は非常にプライドが高く、各国に対して武力や国力の圧倒的な差を背景に、奴隷の献上や領土の割譲を要求し、断ると問答無用で軍を送り込み、武力征服する、という外交をこの10年来続けているそうです。
また、属領に対しては恐怖政治を敷いているとの情報を、スパイから得ました。聞けば、パーパルディア皇国には計73もの属領があり、その全てに恐怖政治と搾取を行っているとか。情報収集・分析科では、それらの属領から搾取した資源を元に外征を行い、相手を征服してさらに資源を搾取し、それをまた戦争に投入する…という循環を続けていると分析しています。
私からは以上です。続いてはあきつ丸さん、パーパルディア皇国の陸軍について、分析結果の発表をお願いします!」
そう言うと、"青葉"が着席した。
「すまんあきつ丸、その前に少し補足させてくれ」
"あきつ丸"が立とうとするのを口と手で制し、堺は口を開いた。
「恐怖政治か。確かに統治の方法の1つだが、デメリットが大きいな。全部で73の属領に恐怖政治と搾取をやってるんだろ? こりゃ、パーパルディアの属領の人たちは恨み骨髄だろうな。恐怖政治の原動力となる恐怖、その提供元は軍隊のはずだ。それを壊滅させたら、あっさり反乱が起きそうだな。
以上、恐怖政治の弱点の説明だ。あきつ丸、頼む」
堺はコメントを終えた。
代わって、"あきつ丸"が立ち上がる。
「それでは、私のほうから『ぱーぱるでぃあ』とやらいう国の陸軍の規模や兵装について、発表するであります。
まず先に申し上げておきますと、かの国はどうやら陸軍国であるようです。かの国の陸軍兵力は、歩兵・騎兵合わせて200万を超えると見られ、また『魔導砲』なる野戦砲を有するようです。歩兵の武器についてですが、銃を所持しているとの報告が、陸軍が送った間諜から寄せられています」
"あきつ丸"がここまで話すと、何人かが頷いた。
「それ以外に、『地竜りんとゔるむ』という生物を使役しているそうです。これは、間諜からの報告では象くらいの大きさの生物で、翼はなく4本足で歩き、全身を鉛のような色を持つ鱗で覆っています。そして攻撃手段としては、口から火炎放射を吐くそうです。ただ、移動する速度はどれだけ速くても自転車に及ばないだろう、とのことでした」
「火炎放射を行う、生きた歩兵戦車みたいなもんかな?」
堺が呟いた。
「おそらく、提督殿の仰る通りでしょう。また、同間諜からの報告では、この竜の鱗は固く弓は通さない、とのことでした。この辺の国の遠距離兵器といったら弓が主流ですから、他国の軍にとっては十分な脅威なのでしょう」
ここで"吹雪"が手を挙げた。
「すみません、そのリントヴルムという生物に砲は通るのでしょうか?」
「そこはわかっていないであります。通るだろうとは思いますが、正確なところは不明であります」
(こりゃ、パーパルディア陸軍の地竜と戦う時は、いろいろ持って行って試さなきゃならんかもな。銃や大砲は通じるのか? 大砲は我が軍のどんな砲なら通用するか? とか)
"吹雪"と"あきつ丸"のやりとりを聞きながら、堺はそんなことを考えた。
「ですが、1点を除けば心配は無用であります。
先ほど、かの国の歩兵は銃を持っていると申し上げましたが、これはフリントロック式マスケット銃と呼ばれるものです。要は火打石銃で、火縄銃と同世代の銃ですな。ですので、有効射程距離は150メートルもなく、命中精度もかなり低いと見られます。
そのため、かの国の陸軍の戦闘方法は、戦列歩兵が集団となって、接近する目標に対して一斉射撃する、というものになるでしょう。我が軍の戦車や野戦砲や機関銃なら、容易に殲滅できるであります」
"あきつ丸"は胸を張る。
「心配な1点というのは、かの国の野戦砲です。かの国の野戦砲は射程距離がおよそ2㎞あり、これは我が軍の野戦砲よりやや劣る程度の性能です。しかも、その砲弾は『炸裂魔法』なるものが付与されていて、飛んできて着弾すると爆発する砲弾のようです。これの爆発による危害半径や装甲貫徹力が分からないことが、心配の種であります。
私からは以上であります」
"あきつ丸"が報告を終えると、堺が補足した。
「えー諸君、パーパルディア皇国の陸軍が持つ野戦砲についてだが……射程と威力はともかくとして、命中精度と連射性について補足事項だ。
もしかすると彼らの砲には、駐退機が付いていないかもしれない。もしそうならラッキーだ。というのは、駐退機がない砲は発射時の反動で砲自体が大きく動いてしまい、その場に留まってくれないから、短時間の間に多数を撃つという運用は不可能なのだ。それに加えて、撃つ度にいちいち砲が動いてしまうから、弾着観測要員を置いて撃ったとしても、動いた砲を元の場所まで戻すという作業が必要になるから、狙いもなかなか付け辛い。なので、1発でも撃たれたらすぐに発射源を特定して制圧し、無駄に撃たせない状況を作ることが必要になるだろう」
「提督殿、補足説明ありがたいであります」
"あきつ丸"の説明が終わる。最後は"鳳翔"の番だ。
「鳳翔から、ぱーぱるでぃあ皇国軍の航空戦力について説明します。
ぱーぱるでぃあ皇国は、その主要な航空戦力として『わいばーんろーど』という、我が国空軍のわいばーんの改良型を運用しています。この改良型は時速約350㎞で飛べるなど、わいばーんとは隔絶した運動性能を持ちます。ただし、攻撃方法はわいばーんと同じ、単発撃ちの導力火炎弾か導力火炎放射となっています。
配備数は、皇国全体で1,000頭に達すると見られ、またそれとは別に通常型のわいばーんも所有しているようです。全機合わせると、その数は1,500にも達するでしょう」
"鳳翔"はゆっくり、落ち着いた口調で話す。
「この『わいばーんろーど』を我が国の空軍で相手した場合、1対1だとわいばーんでは絶対に歯が立ちません。こちらのわいばーんは最高時速235㎞なのに対して、わいばーんろーどは最高時速350㎞と見られているからです。
よって、わいばーんで相手をする場合は、最低4対1くらいに持ち込み、数の優位を生かすか、奇襲で仕留めるしかありません。逆に言えば、空軍ではわいばーんろーどに勝ち目がないので、ろでにうす大陸に接近される前に、これを全滅させる必要があります」
この報告に、堺と"霧島"、"鳥海"を除く全員が落胆した。
「しかし、これは『空軍が相手をした場合』の話です。航空隊なら話は別となります。
空中戦の実施を想定した機体の場合、最も
この時、"赤城"がすっと手を挙げた。
「質問があります。そのワイバーンロードとやら、私たちの機体の機銃は通るのでしょうか? 数の差と機体性能から考えると、最低でも隼や
鋭い質問である。
「それは……」
なんと答えたものか、と迷いながら"鳳翔"が口を開いた時だった。
「そこは俺が答えよう」
堺が割り込んできたのである。
「先日、俺はムー国に行った時に、同国の最新鋭の戦艦を見てきた。その戦艦は、言ってみれば我が国の『
このことから考えると、断定はできないが7.7㎜機銃でも通るだろう。12.7㎜なら、
「なるほど、では九六式艦上戦闘機や水上機、零戦でも戦えると思われる、ということですね。提督、ありがとうございます」
堺の答えに納得し、"赤城"は着席する。
「ということで、零戦の7.7㎜機銃などでも倒せそうですね。なので、攻撃能力と空戦性能はこちらが有利ですから、あとはどうやって数の差を覆すか、ということですね。具体的には、各軍の防空能力と、搭乗員の練度次第となります。報告は以上です」
そう言って、"鳳翔"は静かに着席した。
「と、いうわけだ。以上、皆の報告をまとめると、」
報告をまとめるため、堺が口を開く。
「パーパルディア皇国は、技術はこちらに遠く及んでいない。しかし、数は向こうのほうが確実に上だ。海軍だけ見ても、ロデニウス連合王国の軍艦は全艦合わせてせいぜい300なのに対して、相手は1,000を超える訳だからな。この数の差は
よって、ここは技術の差の他に、練度でどうにかするしかない。開戦まであまり時間はないだろうが、各員気を引き締めて、練度向上に努めてくれ。
新年早々開戦とならないことを切に願うばかりだ。もし開戦となれば、我々はおそらく最前線に投入されるだろう。諸君の健闘に期待する」
堺のこの言葉を最後に、会議は散会した。
なお、この会議における議事録("大淀"の手になる)は、ロデニウス連合王国政府の軍部と外務部にもしっかり提出され、政府関係者の全員が改めて周知するところとなる。
ちなみにこの後、タウイタウイ泊地の総員はしっかりクリスマスパーティーを楽しんだ。
◆◇◆◇◆◇◆◇
一方のパーパルディア皇国。この国もまた、ロデニウス連合王国に関して情報を集めていた。
第3外務局の局長カイオス以下、職員一同の努力によって、ロデニウス連合王国の情報はかなり集まってきている。
・まず、ロデニウス連合王国の国旗は、現在第二文明圏で他国侵略を繰り返している「第八帝国」……グラ・バルカス帝国の国旗とは全く異なる。また、グラ・バルカス帝国は第二文明圏外にある国で、パーパルディア皇国とは2万㎞以上も離れている。そのため、同国の軍がここまでわざわざ出張ってきたとは考えにくい。
従って、フェン王国に向かった国家監察軍を撃破したのは、十中八九ロデニウス連合王国である、と言えるだろう。
・ただし、本当にグラ・バルカス帝国と関係がない、と言い切ることはできない。そもそもパーパルディア皇国が持っているグラ・バルカス帝国に関する情報が少なすぎるのだ。
というのは、グラ・バルカス帝国の「グレードアトラスター」なる戦艦がレイフォル国の首都レイフォリアをたった1隻で壊滅させた際に、当時のパーパルディア皇国のレイフォル駐在大使及び大使館職員が行方不明(時間が経っていることを考えれば実質死亡したとみなさなければならない)になってしまっているからだ。情報源が断たれてしまったのである。
このため、カイオスの目から見ても、エルト率いる第1外務局が混乱しているのがはっきりと分かる。
・フェン王国への攻撃に参加した国家監察軍のワイバーンロードが、何者かの攻撃によって全騎未帰還となっている。どうやったのかは不明。
ただ、皇国のワイバーンロードを20騎も撃墜し、艦隊を全滅させることができる者が文明圏外にそうそういるとは思えないため、第3外務局ではワイバーンロードを未帰還にした者も、艦隊を全滅させた者もロデニウス連合王国軍であると見ている。
・ロデニウス連合王国軍が、魔導砲を所有しているのは確実とみられる。ただし、その大きさや射程・命中精度について、フェン攻撃に向かった艦隊を指揮した提督が「我が国の魔導砲より圧倒的に大きく、射程も4倍以上あり、そしてほとんど命中率100パーセントではないかと思われるほどの正確な砲撃をしてくる」という
・同提督の報告によれば、ロデニウス連合王国の軍艦に搭載されている砲は、多くても10門程度だとみられる、とのこと。おそらく単艦での質は高いのだろうが、10門程度では100門級戦列艦の数の暴力を覆せるとは思えない。
よって、皇国の戦列艦との間に差が存在するとはどうしても考え辛い。
・ワイバーンの使役も確実とみられる。ただ、この国のワイバーンは周辺国のそれとは異なるようである。
・魔導砲の命中率が「100パーセントに迫るほど」と報告された件について、皇国の頭脳集団である先進兵器開発研究所、通称「兵研」に問い合わせたところ、「命中率100パーセントの砲は、100年先の
・ロデニウス連合王国の前身となったロウリア王国と、クワ・トイネ公国との戦いに関して、国家戦略局のヴァルハルという人物が、荒唐無稽な内容の報告書を提出している。彼について問い合わせてみると、医師が彼を「精神疾患を患っている」と診断していたことが分かった。従って、この報告書は信用に値しないと考える。
なお、そのヴァルハルは現在、精神病院に放り込まれているそうである。
・ロデニウス連合王国の経済規模については、相応のものがあると思われる。しかし、ロデニウス大陸の特産品の種類や質から考えると、現在皇国の属領となっているアルタラス王国には及ばないであろう。
・ロデニウス連合王国は最近、「大東洋共栄圏」なるものを発足させたらしい。参加各国に対しては交易にかかる関税を安くし、文明圏外国同士の交流の促進を図っているようだ。
以上のことから、パーパルディア皇国の第3外務局は、ロデニウス連合王国について「軍事力は文明圏外国としては高いが、アルタラスには及ばない。いくら高くても、第三文明圏の文明国並である」と判断し、以下のように結論付けた。
1. 舐めてはいけないが、パーパルディア皇国が恐れるほどでもない。
2. これ以上ロデニウス連合王国が軍事力を強化する前に、叩くのが得策と思われる。
もちろん読者諸賢の皆様は、この結論が大いに間違っているということを分かっているだろう。
実際には、ロデニウス連合王国は少なくとも軍事力においてはムー国をぶっちぎり、神聖ミリシアル帝国にすら匹敵しうるものを持つ。寧ろ一部においては神聖ミリシアル帝国
いくら連合したとはいえ、元を辿れば元々この世界に存在していた文明圏外国。それがいくら集まったところで、所詮蛮国は蛮国である。
それが、パーパルディア皇国の考え方であった。
片や相手を「絶対に侮れない強敵」として、あらゆる方面から徹底的に分析し、磐石の態勢を取ろうとするロデニウス連合王国。
片や相手を「文明圏外の蛮国」と軽視し、まともな情報の精査すら行わずに、勝てる相手だと考えるパーパルディア皇国。
両国の関係は、そして中央暦1640年はどうなるのか、それは神のみぞ知ることである…
◆◇◆◇◆◇◆◇
パーパルディア皇国第3外務局長室では、局長を務めるカイオスが書類をチェックしていた。上層部に提出する、ロデニウス連合王国に関する調査結果報告書だ。カイオスは承認の印を捺し、机の引き出しにそれをしまい込む。そのついでに、引き出しから別の書類を引っ張り出した。
それは、情報元が各国の商人であるために、確度の怪しい情報として報告書には記載せずにおいた、ロデニウス連合王国の情報である。そこには、こんな内容が記されていた。
・ロデニウス連合王国は、魔導砲を装備した大型の軍船を多数有している。それは非常に大きく、商人たちの中には、この軍船は神聖ミリシアル帝国やムー国のそれにも匹敵する、と見ている者もいる。
・ロデニウス連合王国内には、いくつか見たこともない材質を持つ白い材料で建てられた建物がある。また、道路は石のような、しかし石ではないもので継ぎ目なく舗装され、その上をミリシアルやムーの車という、内燃機関装置に似た見た目の物が多数動いている。
・ロデニウス連合王国には、ムーの飛行機械に似たものが多数ある。
・ロデニウス連合王国では、釣り鐘が空を飛ぶらしい。
流石に荒唐無稽だと感じられるものもあるが…カイオスは、これらを概ね事実だろうと考えていた。だとすれば、ロデニウス連合王国はとんでもない国力を持った国だということになる。
(これなら、私の計画の遂行に利用できるだろう。今のままでは、このパーパルディア皇国は確実に立ち行かなくなってしまう。私が何とかして国政の主導権を握り、改善しなければ……)
第3外務局長として働く一方、実はカイオスは、憂国の士でもあった。彼はこの第3外務局長になる前は、第1外務局の課長クラスの幹部として働いており、列強から文明圏外国まで、様々な国の情報を得ている。また、その傍らで商人たちともコネを持ち、彼らからも色々な情報を得ていた。その中には、パーパルディア皇国が属領とした国々も含まれている。
故に、カイオスは知っていたのだ。現在パーパルディア皇国の属領となっている国々では、パーパルディア皇国の急速な発展を支えるために、武力の差を後ろ盾にして恐怖政治と搾取が行われており、属領では皇国に対する怨嗟の声が溢れていることを。だが、パーパルディア皇国内でこの問題に気付いているのは、カイオスくらいのものであり、他の政府高官や皇族は問題にすらしていない。
そこでカイオスが計画したのが、国内で権力争いを起こし、自身が国政の主導権を握ることだった。今のような、属領や属国の疲弊を度外視した急成長を続けていれば、必ず祖国パーパルディア皇国が傾くということを理解していたためである。そのための材料の1つとして、彼はこのロデニウス連合王国を利用しようと考えていた。
(これらの情報は、上層部に出したところで信用されず、却下されるだろう。それなら、私のところで使うほうがずっと有効的だ)
それが、カイオスの考えであった。
改めて思う。原作でもこっちでも、相手を舐めすぎだろパーパルディア皇国…。
まあ、原作や他国が転移した二次創作ならともかく、拙作においてはもともとこの世界にあった文明圏外国が連合しているだけ(プラスアルファはあるが)だから、パーパルディアとしては余計に慢心しやすいだろうと判断して、こういう形としました。
ついでに言えば、ロデニウス連合王国はパーパルディア皇国とは国交を開設していません。
拙作においては、"あきつ丸"と"鳳翔"は「外来語(横文字)は苦手」と設定しています。そのため、彼女たちの発音のたどたどしさを「ぱーぱるでぃあ」だの「わいばーん」だののような形で、カタカナ表記するところをひらがなで書く、というふうに表現しました。また、"あきつ丸"は「パーパルディア皇国」と言わずに「かの国」と表現することで、外来語発音を避けようとしています。
なお、ついでにいうと"長門"も外来語が苦手です。
あと、摩耶様の踵落としを是非とも見てみたい、あるいは食らってみたいなどと考えた人、後で工廠裏。
次回予告。
第三文明圏に覇たらんとしている、同文明圏唯一の列強、パーパルディア皇国。中央暦1640年初頭、この皇国は新たな版図を獲得せんと、さらなる武力侵攻を図る…
次回「パーパルディアの矛先」
p.s. 間章は019.1の直後の部分に投稿することになるでしょう。また、タウイタウイにおけるクリスマスパーティーの描写が欲しいとお思いの方は、感想欄かダイレクトメッセージで遠慮なく仰ってください。ご意見が多ければ、書くかどうか検討させていただきます。