鎮守府が、異世界に召喚されました。これより、部隊を展開させます。   作:Red October

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はい、予告しておりましたクリスマス編、投稿でございます!
中央暦1639年のイベントは、これが最後となるでしょう。

ちなみに、タウイタウイだけのイベントだと思ったら、大間違いです。

それでは、中央暦1639年のクリスマス、ごゆっくりお読みくださいませ。季節外れなのはお許しを。



029.1 中央暦1639年のクリスマス

 中央暦1639年12月24日、ロデニウス連合王国。

 そこでは、各地の街並みがいつもより彩り豊かになっていた。

 具体的には、あちらこちらに針に似た細い葉を持つ常緑樹が立てられ(決して植えられたものではない。まあ庭先にそういう木が植えてある家もなくはないが)、そこに様々な飾りが付けられている。魔力によって金色の光を放つモールであったり、赤い包装紙に包まれて金色のリボンを付けられた小さな箱だったり……

 また、赤い包装紙に包まれた箱に、子供用のおもちゃを入れてもらって店を出る者もいた。それ以外に、クワ・タウイのカフェ(このカフェだが、いつの間にやら10号店まで拡大してロデニウス連合王国の各地に分散し、しかも管理運営がタウイタウイ泊地から離れ、民間に委託されていた)では、ウィンドウに並べられたケーキを見比べて、さんざん迷い続ける者もいる。皆、タウイタウイ泊地から伝えられた「クリスマス」なる文化を、自分たちなりにアレンジして楽しんでいるのだ。

 

 

 そしてもちろんだが、その文化の伝承(発祥)の地であるタウイタウイ泊地でも、しっかりとクリスマスイヴの準備が進められていた。

 

 哨戒や当直に当たる(かん)(むす)や妖精はともかくとして、それ以外の手空きの者たちは、総動員でクリスマスイヴのお楽しみの準備を進めている。泊地の建物を(年末ほど徹底的にではないが)大掃除した上で、クリスマスツリーやプレゼント箱(ただの飾りである。中身は入っていない)を並べたり、講堂にテーブルや椅子を運び込んでテーブルクロス等で飾り付けたり、クラッカーやサンタ・トナカイ等のコスプレ衣装の準備、更には暖炉に()べる薪を割ったりするのだ。

 もしこの時、誰でも良いから艦娘を捕まえて、クリスマスイヴの日に最も忙しく立ち働くことになるのは誰か? と聞いたら、異口同音に「()(みや)さんと()()()さん」という答えが返ってくるだろう。何故なら、この2人はいつものスイーツの生産業務に加えて、「クリスマスイヴのご馳走を作る、そしてそれを手伝ってくれる者たちの指揮を執る」という厄介な大仕事があるからだ。

 

 では、そんな"間宮"と"伊良湖"の働きぶりを見てみよう。

 

 

「今年も、ついにこの時期が来ましたね」

 

 中央暦1639年12月24日 午後3時、タウイタウイ泊地の一角のとあるお店。

 そこには、「(かん)()(どころ) 間宮&伊良湖」という看板が出されていた。いつもなら、()(れん)もかかって営業している時間帯である。

 しかし、今日に限ってはそうではない。既に暖簾は降ろされ、店は閉められた状態になっていた。これから、このタウイタウイ泊地に集う全ての艦娘と妖精のために、クリスマスの特別なご馳走を作らなければならないからだ。そのための特別措置なのである。

 そして店の奥の厨房区画では、白い割烹着に身を包み、赤いリボンとピンでロングの茶髪を纏めた艦娘…(きゅう)(りょう)(かん)"間宮"がそう宣言していた。

 

「転移やら戦争やらでゴタゴタしてばかりだったけど、それでもこのシーズンを迎えることができたんですもの。今年のクリスマスは、この世界に来て最初となる、記念すべきものにしたいですね。というわけで伊良湖ちゃん、お手伝い頼むわね」

「はいっ!」

 

 "間宮"がそう言うと、"伊良湖"……"間宮"と同じく白い割烹着を着た黒髪ポニーテールの艦娘も、いい笑顔で元気良く返事をする。

 

「よし。それじゃまずは、献立の確認からやりましょう。今年は何にするの?」

「はい。今年はですね、ロデニウス大陸の穀物なんかを()んでたっぷりの栄養と旨味を付けた七面鳥を、なんと300羽も仕入れたんです。というわけで、メインはローストターキーでいきたいと思います!」

 

 当然だが、クリスマスのご馳走から七面鳥を外すことはできない。

 

「300もあるの!? でもそれって、焼くの大変じゃない?」

 

 あまりに膨大な七面鳥の数に驚く"間宮"。まあ、300羽という数では、無理からぬ話である。

 

「はい。なので、支援艦隊をお願いしました!」

「ああ、誰かが手伝ってくれるってことね?」

「はい! それじゃ、ちょっとお招きしますね」

 

 "伊良湖"はそう言うと、客席のある部屋のほうに向かって「どうぞ、お入りくださーい!」と叫んだ。すると、まず入ってきたのは、星条旗カラーの衣服を纏い、長い金髪をした背の高い艦娘だった。

 

「Hey, マミーヤ! 聞いたわよ、Turkeyをどっさり仕入れたんですってね! Grillするのにhelpが必要そうね。手伝うわ! Enjoyしていきましょ!」

 

 やたらと陽気なノリで話しかけてきた彼女は、戦艦娘の"Iowa(アイオワ)"。太平洋の向こう側、アメリカ生まれの艦娘である。タウイタウイ泊地においては、BBQをやる時の強力な助っ人とされている。21万馬力のハイパワーは伊達ではない。

 続いては、

 

「Well……Iowaに誘われて、お手伝いに来ました。Sweetsの方もお手伝いさせていただきますね」

 

 アメリカ生まれの空母艦娘"Saratoga(サラトガ)"だった。黒地の衣服を着用し、長い茶髪をポニーテールにしている。

 彼女といえばシチメンチョウサンドイッチが有名だが、今回は果たしてどのくらいの大きさのサンドイッチになるやら。

 

「あら、あらあら。300羽とは大変ね。私も手伝うわ」

 

 その後ろに、茶髪のボブカットにカタツムリの角のような()(そう)が目立つ戦艦娘"()()"が、続いて入ってくる。南国とはいえ少し寒いのか、彼女は薄手の長袖を着用していた。

 そして最後は、

 

「七面鳥300羽とは、剛毅だな! しかし、この数を焼くのはさすがに大変だろう?

だが、この()(さし)がいる! 心配するな!」

 

 戦艦娘の"武蔵"である。最新鋭の調理器具と15万馬力のパワーをフル活用し、豪快に、しかし繊細な焼き加減を実現してみせてきた。彼女の焼く七面鳥は好評である。

 

「あら? 大和(やまと)さんと(くし)()ちゃんはいらっしゃらないのですか?」

 

 "大和"と"釧路"がいないのに気付き、"間宮"が"武蔵"に尋ねる。

 

「ああ。姉上は今、会議に出てるんだ。終わり次第駆け付けるそうだがな。あと、釧路は(あか)()に引っ張って行かれるところをちらっと見たぞ。なんでも、でかいクリスマスツリーの電飾やらを手伝わされるそうだ。代わりに砂糖だけ受け取ってきた」

 

 "武蔵"は、店の外を示した。そこには、彼女が引っ張ってきていたらしいリヤカーが、砂糖を山積みにして停められている。

 

「わかりました、ありがとうございます。それでは皆様、お手伝いよろしくお願いします」

 

 "間宮"が頭を下げると、

 

「You're more than welcome!(お安い御用ですよ、の意)」

 

 "Iowa"が右手の親指をグッと上げ、ウインクしてみせる。後の3人も頷いた。

 が、"間宮"から七面鳥の肉の保管場所を教えられて、4人は怪訝な顔をした。"間宮"が指し示したのは、店の外だったからだ。おまけにその方角からは、何やら異様な声が聞こえてくる。

 そして、そこに向かった4人が見たものは。

 

「ったく、クリスマスのご馳走のためとはいえ、なんでこんな役なのよ!?」

 

 悲鳴を上げながら逃げ惑う七面鳥たちを、槍(本来は艤装の一部であるマストなのだが、深海棲艦との近接戦闘用に鋭く尖らせてあったため、槍のようになっていた)を持って追いかけ回す"(むら)(くも)"と、

 

「まともな刃を持ってて、こんな光景に耐えられる奴が俺たちくらいしかいねえんだから、仕方ねえだろ!?」

 

 両手も艤装(日本刀の形をしている)も真っ赤に染め上げながら、七面鳥の羽毛を毟って解体している"(てん)(りゅう)"だったのだ。

 

 もうこれ以上は書くまい。でないとR-15タグがR-18タグを通り越して、Xタグになってしまう。

 なお、会議が終わった後で薙刀(これまた艤装の一部)を持った"(たつ)()"と、本物の日本刀を抜刀した"あきつ丸"が、これに加わった。そしてしばらくの間、「御用であります! 大人しく"ろおすとたあきい"とやらになるであります!」という"あきつ丸"の声が響き渡っていたそうな。

 

 こうして4人は、ドン引きしながらもローストターキーの準備にかかるのだった。

 

 

 一方、間宮の店舗の方では、

 

「間宮さん、伊良湖さん。私もご馳走作り、手伝わせていただきますね」

「あら、(みず)()さん、いらっしゃいませ。ライスコロッケディナー、期待してますよ!」

 

 続いての支援艦隊要員として、水上機母艦の艦娘"瑞穂"がやってきていた。いつもは膝裏まで届く長い黒髪をしているのだが、今回はその黒髪を全て頭に巻き上げ、三角巾で隠している。

 彼女の得意料理は、ライスコロッケ。2年前に出してみてから大好評となり、以後クリスマスパーティーのお供となっていた。

 更に、

 

「Mamiya, Irako, 失礼する。今年は私がスイーツのサポートの番だ、って言われてな。本場のStollen(シュトーレン)Baumkuchen(バウムクッヒェン)*1Sachertorte(ザッハトルテ)の作り方、とくとご覧あれ!」

 

 スイーツ担当と称して、航空母艦の艦娘"Graf(グラーフ) Zeppelin(ツェッペリン)"が入ってきた。お供として、重巡洋艦の艦娘"Prinz(プリンツ) Eugen(オイゲン)"、そして何故か航空母艦の艦娘"()()"も一緒にいる。

 

「甘いもの作りの支援艦隊……ここは譲れません」

 

 "加賀"はやたら気合が入っている。これは、彼女の性格(甘いものに目がない)によるものだ。

 

「ドイツ式のお菓子、名物だって聞いてますよ! 今年はよろしくお願いしますね!」

 

 "間宮"の声に、"Graf Zeppelin"は頷きで応じる。

 え? ザッハトルテを作るのにはチョコレートが必須だろ、その原料となるカカオ豆はどこから持ってきたか、って?

 そりゃあなた、タウイタウイをどこだと思ってるんですか、フィリピンですよ? すぐ近くにカカオ豆の生産国の1つ、インドネシアがあるじゃないですか。そこから手に入れた種があれば、あとはクワ・トイネの大地に植えるだけで終わりである。

 

「さて、サラダなんかもしっかり用意しないとね! まあ、サラダは後でも大丈夫として、ケーキやパンから用意していきましょう!」

「はい!」

 

 "間宮"と"伊良湖"は、"Graf Zeppelin"らと共にパン生地やスポンジケーキの材料作りを開始した。

 

 

 1時間後、午後4時。

 合計すると3万を超えるケーキやらパンやらの生地の成形を終え、さあいざ焼こうとしていた"間宮"と"伊良湖"の元へ、

 

「すみません、会議のため到着遅れました! 戦艦大和、クリスマス支援艦隊に合流します!」

 

 会議の終了と同時に、すっ飛んできた戦艦娘"大和"が加わった。

 

「大和さん、ちょうど良いところに! パン焼くの手伝ってください! あと、ローストビーフの方もお願いします!」

 

 グッドタイミングでの援軍の到着に、"間宮"が一瞬だけ、パン焼き窯から目を離して叫ぶ。

 

「了解しました! 大和の(ほう)(すい)(じょ)フルパワーでいきます! あと、釧路製糖所印の砂糖は届いてますか?」

「はい! 左手のほうに、山積みに!」

「ありがとうございます! アイスクリームとラムネも同時並行で用意しますね!」

「お願いします!」

 

 再び視線をパン焼き窯に戻し、"間宮"は一言だけ叫ぶ。

 その時、生クリームの準備をしていた"加賀"は、ザッハトルテの材料となるチョコレートに静かに伸びる、白い手を見逃さなかった。直ちにボウルを押さえていた左手を離し、その白い手をつねる。

 

「痛っ!」

 

 小さく悲鳴が上がった。

 

「絶対に駄目よ、(あか)()さん」

 

 "加賀"は既に犯人が誰であるかを察していた。そう、"加賀"と共に第一航空戦隊の双璧を成す空母艦娘、"赤城"である。

 

「もう、加賀さんたら。抜け目がないんですから」

 

 "加賀"の後ろにこっそり近寄っていた"赤城"が、小さく頰を膨らませる。

 

「今食べないで、ケーキになった後で食べればもっと美味しいでしょう。会議が終わったのなら、盗み食いなんかしてないで、手伝って」

「はいはい」

 

 渋々といった調子の声で、しかし目をキラキラさせながら手伝いにかかる"赤城"。

 騒々しくも確実に、クリスマスディナーの用意は進められていた。

 

 

 その頃、泊地の講堂の手前にあるちょっとした広場では、高さ12メートルに達する巨大なツリーが立てられ、その周りに駆逐艦の艦娘たちが群がっていた。

 

「明石さーん! この電飾、電球全部付いたわよ!」

「異常なしなのです!」

 

 "(いかずち)"と"(いなずま)"がそう言って、たくさんの電球が付けられたコードを引っ張ってくる。

 

「オッケー! じゃあそれ、あっちに持って行ってー!

釧路ー! これでラストー!」

 

 作業の総指揮を執る"明石"が指示を出し、2人はツリーの根元に電飾を持って行った。そこには妖精が1人待機しており、2人が電飾を渡すと、妖精は木に登っている他の妖精たちと連携して、電飾を木のてっぺんまで器用に持って行った。そして、木のてっぺんにて待機していたのは、

 

「全く……なんでこんな大仕事を私が……」

 

 半ば無理やり"明石"に引っ張ってこられた"釧路"である。さんざん木登りをしたせいで、彼女の髪は乱れ、ところどころに緑色の葉っぱが付いていた。

 彼女はブツブツ言いながら、渡された電飾を取り付けていった。そして最後に、木のてっぺんに大きな黄色い星の電飾を取り付け、苦労しながら木から降りてくる。

 

「よーし! スイッチオン!」

 

 "釧路"が降りたのを確認して、"明石"がスイッチを入れる。すると、クリスマスツリーの電飾に光が入り、赤や黄色、青といった様々な色の光が、木の梢を満たした。

 

「「「わぁ……!」」」

 

 駆逐艦娘たちが一斉に、感動したような声を上げる。

 

「よーし、試運転は合格! 釧路ちゃん、皆、ありがとねー!」

 

 笑顔で叫ぶ"明石"。だがこの時、"釧路"の中ではささやかな復讐劇が組み立てられていた。

 

 

 クリスマスのご馳走の準備が行われていたのは、何も間宮と伊良湖の店だけではない。

 タウイタウイ泊地・空母寮の一角に設けられたお店。そこはいつもなら、「居酒屋 (ほう)(しょう)」として開けられる店であるが、今日に限ってはそうではない。

 

「〜〜♪」

 

 鼻歌を歌っているのは、軽空母艦娘"(ずい)(ほう)"。彼女の手元には、ボウルに入った粘性のある黄色い液体があった。

 明らかに溶き卵…なのだが、そこに(べに)(しょう)()やアオサが見え隠れしている。"瑞鳳"は、「クリスマスっぽい卵焼き」を作ろうとしているのだ。

 また、

 

「クリスマスといえば、シャンパンは外せないよね〜」

「そうそう。ローストターキーにも合いそう」

 

 同じく軽空母艦娘 "(じゅん)(よう)"と"()(とせ)"が、シャンパンの瓶を引っ張り出しながら酒談義をしている。

 

「うむ。だが、日本酒も捨てがたいと思わんか?」

 

 こちらは重巡洋艦艦娘"()()"のセリフ。

 

「そこにワインもー、入れてくださいよー」

 

 アル重……げふげふ……重巡洋艦艦娘"Pola(ポーラ)"は、ワインが飲めたら何でもいいらしい。

 

「皆さん、クリスマスだからって飲みすぎは駄目ですよ」

 

 焼き鳥や枝豆といった定番のつまみを準備しながら一同を嗜めるのは、大らかな雰囲気を漂わせる軽空母艦娘"鳳翔"。

 (のん)()()の艦娘たちも、クリスマスの準備(といいつつ飲む準備だろうが)をしていた。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 そして……午後6時。

 タウイタウイ泊地の講堂には、当直の当番にあたる艦娘を除く全ての仲間が、集合していた。その全員が、コップにいれたシャンメリー(といいつつ、飲兵衛の艦娘たちは誤魔化して、シャンパンを入れている。ただし、彼女たちが入れているのは、実際には「スパークリングワイン」なのだが、彼女たちは気付かずにシャンパンだと称している)を持っている。

 白いテーブルクロスをかけられた丸テーブルがいくつも並べられ、立食パーティー(一応椅子はある)の形式になっていた。各々の丸テーブルには、テーブルの中央をデンと占領して、ローストターキーが乗せられている。また、講堂両脇の壁際には、白のテーブルクロスを掛けられた四角いテーブルが並び、その上に多数のご馳走が並べられている。ケーキ、サラダ、パン、シュトーレン、ソーセージ、ライスコロッケ、卵焼き、何でもありだ。

 その彼女たちの前、演壇の上に紺色の海軍第一種軍装を着用した堺が立ち、シャンメリーを入れたコップを右手に持って話し始める。

 

「傾注! えー諸君、今日はクリスマスなので、かたくるしいことは抜きにしたい。それに諸君も、ご馳走に注意がいっていることだろうしな。ただ1点だけ、言わせてもらいたい。今年は転移をはじめ色々なことがあったが、皆よく頑張ってくれた! お疲れさん!

では全員、シャンメリーの用意はできているな? ……よし。では諸君、我が艦隊とロデニウス連合王国の更なる栄光に、乾杯!」

「「「かんぱーい!」」」

 

 全員が右手に持ったコップを、一斉に上へと突き上げる。そして、中身を一気に飲み干した。

 

「今宵は無礼講だ、節度を守りつつ大いに楽しめ!」

 

 堺のこの挨拶を最後に、全員が分かれて料理に群がり始めた。

 

 

「へいほく、ほんはいは(バクバク)ひぬにもまひて(ムシャムシャ)ほうへいへふね。(ゴクリ)本当に(ガツガツ)ふぁりふぁほうほふぁいはふ」(提督、今回はいつにも増して豪勢ですね。本当にありがとうございます)

「毎度言ってるが、赤城、食い物を口いっぱいに突っ込んだまま喋るなよ、はしたないぞ。まあ、旨いのは認めるが」

 

 相も変わらず、"赤城"は物凄い勢いで食を進めていく。ただ、堺ももう驚きはしない。というのは、堺は大食艦の筆頭格"大和"と"武蔵"を同時に運用しているからだ。

 この2人の資源消費量は凄まじい。『"大和"1人で"赤城"4人分を一度に平らげられる』といえば、どれほどの凄まじさか分かるだろう。

 提督諸氏の中には、この消費量の高さに耐えかねて、大和型を母港の肥やしにしてしまっている者もいるのではあるまいか?

 

「赤城さん、食べすぎです」

「お前が言うな」

 

 "赤城"を窘めようとする"加賀"に、堺は鋭いツッコミを入れた。

 "加賀"はというと、なんと1人で七面鳥を1羽、ぺろりと平らげていたのである。どう見ても、人のことは言えない。

 そこへ、

 

「あら、赤城さん、加賀さん、それに提督も。Merry Christmas! サラ、特製の大きな大きなターキーサラダサンドイッチを作ってみたんです。どうぞ、召し上がれ!」

 

 "Saratoga"が、ちょうど空になっていたテーブルにやってくる。そして、サンドイッチをドサリと音を立てて置いた。……そう、ドサリと。

 

「えっ!?

ちょ、サラトガ? これはいったい……?」

 

 瞬間、堺は目を見開いた。

 

「何って、サンドイッチですよ?」

「いや、そうじゃなくて……」

 

 堺の驚きも、無理からぬことである。

 件の特製ターキーサラダサンドイッチとやらは、なんと一辺80㎝四方の超特大品。厚さも、パンの厚さ1㎝を含めて、なんと8㎝もあった。

 

「サラトガさん? これは、私と加賀さんに対する挑戦状ですか?

よろしい、ならば。加賀さんと私の、一航戦の誇り、お見せします」

 

 "赤城"が椅子を2脚持ってきて、そのうち1つに腰を降ろした。そして、ナイフとフォークを取り上げる。

 

「ここは譲れません」

 

 "加賀"も、席に向かいかけた。

 

(こいつら、マジで全部食う気だ……!)

 

 堺は慌てて、止めに入る。

 

「ま、待て! お前さんたち2人がかりでも、これは流石に厳しくないか!?」

 

 ところがその瞬間、

 

「Hmm……でしたら、ちょうど4人いることですし、四等分していただきましょう」

 

 "Saratoga"がさらりととんでもないことを言い出した。Sara(サラ)だけに。

 

「なるほど、4人でですか。いいですね。ね、加賀さん?」

「異存はありません」

 

 澄まし顔で言う"加賀"。"赤城"も賛成のようだ。

 だが、

 

「……えっ?」

 

 堺には、とんでもない火の粉が降りかかってきた。

 

「え!? 待って!? これ俺も入ってんの!?」

「提督、What are you saying? 当然でしょう?」

 

 "Saratoga"が、「お前は何を言っているんだ」とばかりに首を傾げる。

 

「あー……ゴホン。他のテーブルの様子も見てくるから……」

 

 堺がそう言ってくるりと背を向けた、次の瞬間。

 "加賀"が堺の上衣の襟首をむんずと掴むや、有無を言わせず着席させてしまった。これにより、堺は逃げ道を失ったのである……

 

 

 10分後。

 

「ふう。サラトガさん、ありがとうございました。とても美味しかったわ」

 

 "赤城"が、すっかり空になった皿の横にナイフとフォークを置き、ナプキンで唇の端を拭いながら満面の笑みで"Saratoga"に話しかける。

 

「そうね。できればもう1つ、いただきたいわ」

 

 "加賀"のこの発言、うp主には頭がおかしくなったとしか思えない。四分割してもなお、一辺20㎝四方、厚さ8㎝の特大サンドイッチである。

 

「やった、好評♪」

 

 これには"Saratoga"も満足の体である。その一方で、

 

「ぐふぅ……。もームリ……。というか、お前らよくあんなの平気で食えるな……」

 

 なんとか完食はしたものの、完全にギブアップした様子でテーブルに突っ伏していた堺が、頭だけ上げて恨めしそうな顔をした。

 実は堺、どちらかというと食が細い。普段から少食気味なのである。その堺には、一辺20㎝四方、厚さ8㎝の大きさがあり、ターキーありレタスありトマトありチーズありと、下手なハンバーガーよりデカい特大サンドイッチは、いささか大き過ぎた。

 

「やれやれ。提督、不甲斐ないですよ」

 

 あのサンドイッチをぺろりと平らげておいて、なおも涼しい顔をして、どこからか取ってきたザッハトルテを口に運んでいる"赤城"。堺にはただ、こう考えることしかできなかった。

 

(赤城にしても加賀にしても、あの細いお腹のどこに、あれだけの量を押し込むスペースがあるんだ……? イ◯ルジョーよろしく代謝が早いわけでもないだろうに……)

 

 一方その頃、別のテーブルでは、

 

「七面鳥ですって!? 冗談じゃないわ!」

 

 ターキーを前にして抵抗する"(ずい)(かく)"を、

 

「まま、そう言わずに」

「そうそう。ケーキに七面鳥も、美味しいんだから!」

 

 第二航空戦隊の"(そう)(りゅう)"と"()(りゅう)"が押さえ込んでいた。

 

 

「あの、明石さん」

「うん?」

 

 宴会もたけなわになってきた頃、シュトーレンを味わっていた"明石"は、急に声をかけられて振り向いた。するとそこには、"釧路"が立っている。その手には、まだ栓を抜いていないシャンメリーの瓶があった。

 

「なあに? 釧路ちゃん」

「いえ、同じ工作艦同士ですし、改めて乾杯したいと思いまして」

「嬉しいこと言ってくれるじゃない! そのためにそれ(シャンメリー)、持ってきたんでしょ?」

「はい!」

 

 そう言って、"釧路"は満面の笑みを浮かべ、

 

「今年はお世話になりました! 改めて、ありがとうございました!」

 

 シャンメリーの瓶の栓を……あらかじめ数百回ほどシェイクしてあったその瓶の栓を、引き抜いた。

 ポンッ! と音がして、栓が飛ぶ。

 

 さて、ここで問題。この直後、何が起きたでしょう?

 

 

 答えなど、考えるまでもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バッシャアァァァァッ!

 

 

 瓶から勢いよくシャンメリーが噴き出し、"明石"の全身に降りかかった。

 

「な…な……?」

 

 全身びしょ濡れで困惑する"明石"に、"釧路"は、

 

「さっき、ツリーの飾り付けに無理やり引っ張ってったでしょう? そのお返しですよ」

 

 悪魔めいたウインクを返して見せた。

 これが、"釧路"の企てた“ささやかな復讐”である。

 

 

「うへぇ……流石にちょっと飲み過ぎたかな……」

 

 宴も終わりに近づく頃、あれだけあった料理は、その大半がいずこかに消えていた。

 そんな中、あるテーブルでは軽空母の艦娘"隼鷹"が、少し青い顔をして椅子に腰かけている。その後頭部に、容赦のないハリセンの一撃が振り下ろされた。

 

パコーン!

「あたっ!?」

「はしゃぎすぎよ」

 

 頭を抱えた"隼鷹"に対し、ハリセンを手に後方に忍び寄っていた"()(よう)"が、呆れた声を発する。

 

「あへぇ〜」

「ポーラ! ちゃんと服を着てーっ! 提督もいらっしゃってるんだから!」

 

 上半身の服をほとんど脱いでしまっていた"Pola"を、姉の"Zara(ザラ)"が必死で止めにかかる。他の飲兵衛艦娘たちも大なり小なり、姉妹の世話になっていた。

 一方、演壇の近くでは、駆逐艦の艦娘たちが物凄い列を作って並んでいる。その先頭には、"大和"の姿があった。"大和"はサンタコス姿になっている。

 何をしているのかというと、言うまでもなく……

 

 

 

 

 

「大和さん、こっち2スクープで!」

「3個お願いしたいのです!」

「はいはーい、ちょっと待ってね。はいヴェールヌイちゃん、こちら3個でーす」

Спасибо(スパスィーバ)

 

 駆逐艦の艦娘たちから、"大和"特製アイスをせびられていたのだ。

 こいつら全員、しこたま食べたはずなのに、なんでまだ腹に入るのだろうか? デザートは別腹、とはまことに的を射た言葉である。

 その隣では、

 

「コホン。えー、武蔵。こいつをちょっと開けてくれんか。こいつは、俺からのささやかなクリスマスプレゼントだ」

 

 やっと立ち直った堺が、"武蔵"にプレゼントの包装紙を使って急遽作った、赤い封筒を手渡していた。

 

「む? 相棒よ、この武蔵に直々にプレゼントか? 何だ?」

「まあ、開けてみな」

 

 堺に言われて、"武蔵"は封筒を開いた。そこから出てきたのは、一通の書類。そのタイトルは、「第二次大規模改装命令書」。

 

「……この武蔵が、改二?」

「そうだ。本日付で、武蔵に第二次改装を命じる」

 

 そう、"武蔵"に第二次改装が命令されたのだ。

 

「年が明けてすぐに、加賀の改装が終わる予定だ。それと入れ替わる形で、ドック入りしてもらいたい」

「なるほど。して、これを受けるとどうなるのだ?」

「簡単に言うと、『超大和型戦艦になれる』だな。具体的な数値は話せないから、大まかな説明になるが、主砲の火力強化と、対空装備の充実に、耐久力・装甲・回避・索敵能力の強化。あと5スロット化だ」

「ふむ! なんとも(ごう)()な改装だな! よかろう、改装された暁には、この武蔵の力、存分に見せてやる!」

「ああ。これからもよろしく頼むぞ」

「大丈夫だ。この武蔵に、全て任せておけ!」

 

 思いがけないプレゼントを貰った"武蔵"であった。

 

 こうして、宴会の夜は大盛況のうちに更けていった。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 それから時間が過ぎて、日付が変わる頃、駆逐艦寮。

 皆が寝静まり、廊下には誰もいない。と、そんな廊下に キイ……パタン と軽い音が響いた。そして、第八駆逐隊の"(あさ)(しお)"、"(おお)(しお)"、"(みち)(しお)"、"(あら)(しお)"の部屋からスーッと黒い人影が出てくる。

 人影は足音を立てずに、コソコソと歩いていく。窓の近くを通りがかった時、月光がその人影の顔を照らし出した。戦艦娘の1人"(こん)(ごう)"である。サンタのコスプレ衣装を着ていた。

 

「こちらダイヤ1、エイトへの配達完了。プレゼントを補給して、次に向かいマース」

 

 廊下の暗がりに潜み、周囲を確認しながら無線でどこかに連絡を取る"金剛"。

 すると、無線から"(おお)(よど)"の声が返ってきた。

 

『こちらコマンドー、ダイヤ1了解。くれぐれも見つからないでください』

「ダイヤ1、copy that(了解)」

 

 短く切り返すと、"金剛"は階段へと姿を消した。

 

 

 真夜中だというのに、提督室には煌々と明かりが灯っている。ただし、ドアが閉められてカーテンがかかっているので、廊下には明かりは漏れていない。

 その提督室では、サンタコスを着用した堺が、"大淀"とともにプレゼントの配達指揮を執っていた。

 そこへ、提督室に軽くノックの音が響く。

 

コン、ココン、コンコン。

 

 堺が素早く戸に近付き、鍵穴に向かって声をかけた。

 

「ミンビュラス?」

「ミンブルトニア」

 

 正しい合言葉が返ってきたため、堺が静かに戸を開ける。すると、戦艦娘"()(えい)"が入ってきた。こちらもサンタの格好をしている。

 

「ダイヤ2、サーティーへの配達終わりました。続いてシクスティーワンへ向かいます」

「うむ、ありがとう。任せた」

 

 堺は低い声で返す。

 すると、「61」と数字の振られた袋を探しながら、"比叡"がため息をついた。

 

「全く、何なんですか、あの合言葉は? 覚えにくいったらないんですけど」

「しゃあねえだろ。万が一のためのものなんだから。それにしても、まさか合言葉をハリ◯タの植物から持ってきてるなんて、誰も思うまい」

 

 そう、あの合言葉は繋げると「ミンビュラス・ミンブルトニア」となり、ハリ◯タに登場するある種のサボテン系植物のフルネームになるのである。

 

「まあ、それはそうでしょうけど……」

「比叡、無駄話をしてる暇はないぞ。さっさとしないと寝れないぞ」

「ヒエー!」

 

 悲鳴を上げながらも、目当ての袋を見つけ、それを担いで"比叡"は出て行く。するとここで、"大淀"が無線で交信を開始した。

 

「こちらコマンドー、ダイヤ4応答願う、どうぞ」

 

 と同時に、規定の手順でドアがノックされた。

 

「ミンビュラス?」

「ミンブルトニア」

 

 堺が合言葉を確認し、"金剛"が帰還してきた。

 

「フゥー、だいぶ終わったネ……。あと4つデスネ、ナンバーファイブいってきマス」

「うむ、よろしく頼んだ」

 

 こうして、深夜の極秘ミッション「駆逐艦娘たちにプレゼントを配達せよ!」は、粛々と進められていった。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 ちなみに……プレゼントをもらっていたのは、何もタウイタウイ泊地の駆逐艦娘たちだけではない。

 ロデニウス大陸から幾つもの海を隔てて、はるか21,000㎞も西に離れた地、ムー大陸。

 そこに築かれた幾多の国家のうち、第二文明圏最強の国家、ムー国の情報分析課の部屋では、技術士官のマイラスが興奮を抑えられずに、机の前で跳ねていた。残業中に届けられた荷物が、素晴らしい品物だったのである。

 彼の前にある机には、2枚の書類が広げられている。1枚には航空機が描かれていた。もう1枚は、軍艦を描いているらしいが、何やら複雑な形の絵になっていた。

 そして、そのすぐ隣には、小さな手紙が1枚、広げられていた。

 

『マイラス殿

 

我々が元いた星の世界では、12月24日は特別な日でした。サンタと呼ばれる赤い服を来た老人が、子供たちにプレゼントを配るのです。

それに準え、貴方にこれをお送りいたします。これが、貴国の役に立たんことを、心から願います。

今年もあと少しですね。お身体に気をつけて、よいお年を。

 

中央暦1639年12月11日

ロデニウス連合王国のとある将軍より』

 

 そう、マイラスの手元に届けられたクリスマスプレゼントは、「九六式艦上戦闘機」と「金剛型戦艦」の設計図だった。

 「とある将軍」と素性を隠しているが、マイラスにはこれが誰から送られたものか、すぐ分かった。こんなものを送ることができるのは、転移してきたあの人だけだろう。

 

「これは……! 我が国の技官たちが夢にまで見て、しかし機体強度を確保できそうもなくて苦労している、全金属製の単葉機じゃないか……! それも、我が国の『マリン』のエンジンでも、どうにか形にできそうだ! これは素晴らしい!

しかも、ラ・カサミ級より遥かに強力な戦艦の設計図まで付けてくれるとは……! 今度ロデニウス連合王国に派遣する技官に、テレビ放送の専門家を入れておくことを上に具申しよう……!」

 

 マイラスは欣喜雀躍して、誰もいない分析課の部屋の中を躍り回るのだった。

*1
日本語表記は「バウムクーヘン」だが、ドイツ語の発音では「バウムクッヒェン」が最も近い




【速報】拙作におけるムー、強化される

はい、マイラスにとんでもないプレゼントが届けられました。
マリンのエンジンは星形9気筒、出力600馬力だそうですね。それを見て、「あれ、これ九六式艦上戦闘機のエンジンと同じじゃね?」と思いまして、こうなりました。

あと、加賀の改二についてですが、原設計は以前(018. 参照)に申し上げた通りとなっています。慣熟訓練がありますので、彼女の活躍はもう少し先になります。
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