鎮守府が、異世界に召喚されました。これより、部隊を展開させます。   作:Red October

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皆様、たくさんの感想ありがとうございます!
姿を現した例のアレ、随分と反響が大きかったように思います。まあ、あんなものが出てきたら当然か…

評価7をくださいましたYutaka様、新たにお気に入り登録してくださいました皆様、ありがとうございます!!
今後とも拙作をよろしくお願い申し上げます!

はい、今回の内容はタイトル通りですね。
ただ、フェン王国はロデニウス連合王国から技術供与を受けているだけ、原作とちょっと違うような…?
それでは、どうぞごゆっくり!



031. フェン王国に戦乱来る

 中央暦1640年1月18日朝8時、パーパルディア皇国皇都エストシラント。

 第3外務局長カイオスは、いつものように出勤してきたところに、別の外務局職員に声をかけられた。その職員は第1外務局に所属しており、「至急第1外務局局長室に出頭せよ」という内容の皇帝からの命令書を携えていた。

 本来であれば、外務局間での人事交流こそあるものの、公的機関である外務局間での出頭命令などあり得ないことである。しかも呼び出されたのは局長クラスだ。よほどの何かがある、としか思えない。

 しかし皇帝陛下の命令(勅命)に逆らうなどできるはずもなく、カイオスは職員の案内に従って第1外務局へとやってきた。

 

 5分ほどかかって移動した後、カイオスは案内の職員と共に、第1外務局長室の扉の前に立つ。そのカイオスの胸の内には、負の感情が宿っていた。豪華な装飾が施された、第1外務局長室の重厚な黒塗り扉は、何度見ても嫌になる。

 元々カイオスは、第1外務局で課長として働いていた。なので、第1外務局の様子は嫌というほど知っている。そして、周囲からは『彼が次期第1外務局長になる』と見られており、事実カイオスもそうなる、と思っていた。

 だが、皇帝ルディアスの判断と采配により、第1外務局長にはカイオスの下で課長補佐をしていたエルトが選ばれ、カイオスは第3外務局長となった。

 カイオス自身は「エルトの外交手腕は自分より上である」と認めていたため、この人選に対しては不満はなかった。だがそこは人間の(さが)、不満はなくとも未練はある。

 

(本来は、私が使う部屋のはずだったんだがな……)

 

 職員が扉を少し開け、中の様子を確認するのを見ながら、カイオスはそんなことを考えていた。職員がOKを出したため、カイオスは部屋へと足を踏み入れる。

 室内には第1外務局長エルト以下、次長ハンス、下位列強担当部長シラン、そして見たことのない美しいロングの銀髪をした、20歳代半ば頃と思しき女性がいた。もはやちょっとした会議のようになっている。

 カイオスは局長室に集まった面々に対し、一礼した。

 

「第3外務局長カイオス、参りました。皇帝陛下からのご命令とは、いったいどういったご用件でのお呼び出しですか?」

「分からぬのか? 身に覚えがないわけではなかろう」

 

 カイオスから見て、右斜め前に座っている銀髪の女性が、毒とトゲのある言葉を発する。しかも、話し方もどことなく高圧的だ。

 

「失礼ですが、どちら様でしょうか?」

 

 カイオスはその女性に質問する。女性はあっさりと返答した。

 

「外務局監査室のレミールだ」

 

 カイオスはもう一度、その女性に頭を下げた。

 外務局監査室というのは、3つある外務局において対応の不手際や不正が発覚した場合に、それの対処にあたる部署である。普段は外部から外務局を監査しており、有事の際には担当者の処分や外交相談役としての参加、場合によっては担当者を交代させた上で、問題への対処を行ったりする。

 このような部署であり、しかもエリート中のエリートが揃う第1外務局ですら監査しなければならないその職務特性上、ここに所属する人員は全て皇族となっている。つまり、今レミールと名乗った銀髪の女性は、皇族だということになる。礼でもしなければ不敬であろう。

 

「して、いったい何のことでございますか?」

 

 相手のご機嫌を損ねまいと、カイオスはゆっくり質問する。立場が上であるせいもあるのだろう、レミールは高圧的な口調で回答してきた。

 

「ロデニウス連合王国の件だ。文明圏外国の外交の担当は、確かに第3外務局だ。つまり、その局長であるカイオス、お前の職務だ。陛下は、ロデニウス連合王国に対して『きっちり教育を行え』と仰ったはずだ。

だというのに、お前の行動は何だ? ロデニウス連合王国は、幾ら国家監察軍を撃退したとはいえ、文明圏外国ではないか。いつものように、皇国の力を背景に威圧するとか、国家監察軍を大量動員して懲罰攻撃するとか、手段はあったろうに、お前は情報収集以外に何もしていないではないか? 列強たる皇国の外交担当のリーダーが、これではな……。

陛下の御意志も遂行できぬとは……情けない限りだ、カイオスよ」

 

 カイオスは額に冷や汗を浮かべつつ、奥歯をギリッと噛み締めた。

 実はカイオスのこの行動は、ロデニウス連合王国に対して臆病になったわけではない。ただ、下手に動けなかったのだ。

 以前にもお話ししたが、カイオスは第3外務局長として働く傍ら、各国を巡る商人たちとの間にもコネを作っている。そのコネをフル活用して、ロデニウス連合王国の情報を探った結果、カイオスはロデニウス連合王国に対してある結論を出していた。

 

 ロデニウス連合王国は、これまでの第三文明圏外国とは訳が違う。かの国は、神聖ミリシアル帝国やムー国にも匹敵しかねない、凄まじいまでの技術を持った国家である。

 

 この結論に行き着いたことはいい。だが、皮肉な結果になってしまったが、カイオスは動くに動けなくなってしまったのである。

 この結論を、皇帝陛下をはじめ皇国上層部に伝えたとしても、受け入れられないだろうし、それどころか自分の頭がおかしくなったと思われるだろう。下手をすれば職権剥奪にもなりかねない。そうなれば、『皇国内で政争を起こし、傾きかけているこの皇国を救う』というカイオスの計画は水泡に帰する。

 では、ロデニウス連合王国に対して武力懲罰を行えるか? というと、その質問にイエスと言い切るだけの度胸は、カイオスにはなかった。現にフェン王国において、国家監察軍はロデニウス連合王国軍と戦って全滅している。その時ぶつかったロデニウス連合王国軍は、全体の一部だけだろう。ということは、ロデニウス連合王国軍は非常に強力らしいということが分かる。国家監察軍を総動員したとしても勝てるか分からないし、もし負けて国家監察軍の全艦隊が全滅でもすれば、それこそクビである。

 

 そこでカイオスは、散々悩んだ末に1つの計画を思い付いた。まず何とかして、ロデニウス連合王国と接触して国交を開き、個人的にでも良いから、彼らとのパイプを構築する。そして皇国上層部には、『ロデニウス連合王国に教育を行った』と報告して誤魔化しながら、ロデニウス連合王国を裏で利用して政争の準備をする……というものである。

 

 しかし、この計画の実行に関しても、カイオスは躊躇(ためら)っていた。

 元々善人である彼にとっては、この計画は皇帝陛下をはじめお世話になった人々を騙すことになる。それが、彼の良心に障ったのである。

 

 そして躊躇っていたところに、これであった。

 

(何も知らない小娘が……。お前は本当にロデニウス連合王国のことを理解しているのか?)

 

 カイオスは、レミールに平伏したような様子を見せながら、腹の中で毒づいた。

 それには委細構わず、レミールは話を続ける。

 

「カイオスよ。今後、ロデニウス連合王国との外交に関しては、第3外務局ではなく第1外務局が担当することとする。外務局鑑査室から私が第1外務局へ出向する、という形を取り、今後は私がロデニウス連合王国と外交を行う。

最後に言っておくがカイオスよ、皇帝陛下の御意志に従って行動できぬ愚か者は、皇国には要らぬ。今回、処分されなかっただけでもありがたく思え。以後、精々気を付けるんだな」

 

 相手が皇族であるため、カイオスは平身低頭するしかないのだが……カイオスの心の中では、怒りが渦を巻いていた。

 

(青二才の小娘ごときが、偉そうに……! そういえば、私が第3外務局に来る前にも、某国との外交に関して皇族の誰かが横槍を入れたそうだが……それはこの女のことじゃないか?)

 

 しかしカイオスは、そうした感情を表面に出すことなく、ただこう言うのみであった。

 

「はっ……承知いたしました」

 

 これがレミールと1対1であったならまだしも、今回は他人が同席しているのだ。

 元カイオスの部下だったエルトはともかく、シランは僅かに笑みを浮かべている。明らかに嘲笑である。

 かくして中央暦1640年1月18日は、カイオスにとっては屈辱的な日となった。第1外務局の幹部連の前で辱められた上に、カイオス自身が計画していたロデニウス連合王国の利用は、叶わぬこととなったのである。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 同日午前10時、フェン王国西部都市ニシノミヤコ。

 パーパルディア皇国と戦争になった場合、この街は最前線となることが予想されていた。パーパルディア皇国はフェン王国から見て西にあるので、もしパーパルディア皇国が侵攻してきた場合、本土西部に上陸すると見られているからだ。そのため、2,000人の武人が常時配属されている。

 また、ニシノミヤコの西方3㎞の沖には、人の住めない小島がある。ここには沖合いを見張る監視所が置かれ、武人2名が常駐していた。

 

 この日の空は青く晴れ渡り、雲もあまりない。季節と相俟って、空の色はやたらと寒々しく感じられる。

 冬ではあるが、身を切るような冷たい風が吹くこともない。穏やかな風であり、まだ過ごしやすい気候である。

 耳に聞こえる音といえば、微かな風の音の他は、波の音と、ちょっとした生活騒音ばかり。至って平和な景色である。

 

 しかし、その平和も終わりを告げる時が来た。

 

 不意に風が吹き止む。

 監視に当たっていた武人の目に、水平線上に浮かぶけし粒のような黒い点がいくつも映る。その黒い点は、徐々に大きくなり…やがて、多数の帆船となった。

 武人の目は、帆船の帆に大きく描かれたパーパルディア皇国の紋章を見て、大きく見開かれる。

 

「つ……つ、ついに来たぞ! パーパルディア皇国軍だ!

狼煙、赤!! 最大警戒の狼煙を上げろ!!!」

 

 2人の武人のうち1人がそう叫び、もう1人の武人が狼煙を用意して点火する。

 一筋の赤い煙が、空に向けて上げられる。赤い狼煙は、"フェン王国に対する外敵からの攻撃”の場合にのみ使用される、最上位の警戒色なのだ。

 

 

「ん!?」

 

 ニシノミヤコ市街地外縁、ニシノミヤコ市街地のすぐ東方にある砦「西城」の監視所で、警備のため街を眺めていた千士長アインは、不意に吹き止んだ風に、不吉なものを感じて振り返った。

 そして彼の目に飛び込んできたのは、沖合いの小島から上がる赤い煙だった。戦いの最中に流れる鮮血のような、不吉な赤色。

 

「あ、あれは……!」

 

 アインは、即座に何が起きたか理解した。

 

(覚悟はしていたが、やはり来たな……列強パーパルディア……!)

 

 アインは腰に提げていた角笛を手に取り、唇に押し当てて思いっ切り吹いた。

 

ピーーーッ、ピーーーッ、ピーーーッ……

 

 警備に当たっていた他の武人たちも、アインの吹いた笛の音を聞くや、即座に表情を引き締めて笛を吹き鳴らす。

 ニシノミヤコ一帯に鳴り渡る角笛の音。それにより、ニシノミヤコに住まうフェンの人々は、何が起こったのかを理解した。

 悲鳴と怒号が市街地に満ち溢れ、人々は我先に東方への脱出を図る。

 

 事態の発生は、笛と狼煙と早馬により「西城」にも伝えられた。

 「西城」では直ちに戦の準備が開始される。多くの武人たちが、ある者は鎌倉時代辺りの武士のような鎧と兜を着て、ある者は戦国時代の足軽のような格好をして、剣を提げ弓を持ち、ニシノミヤコへと向かう。

 その一方で、ニシノミヤコのすぐ西部、海岸付近にある兵士の詰所では、大型の投石機が準備されていた。

 覚悟していたことだが、ついにパーパルディア皇国軍がやってきた。目的はもちろん、このフェン王国の征服だろう。

 彼らが、途轍もなく強いことは理解している。

 

 しかし……タダでは負けない!

 

 フェン王国の武人たちは、覚悟を決めるのだった。

 

 

 一方、パーパルディア皇国フェン攻略軍の総司令官シウスは、自身が座乗している120門級戦列艦「パール」の艦上から、フェン王国のある島を眺めつつ、部下の報告を聞いていた。

 

 自分たちが来たことの意味はフェン王国も理解しているだろう。そして、戦う準備をしているだろう。

 しかし、我々はそれを破り、フェン王国を平らげて皇国の版図の一部とする。

 

 既に、竜母を飛び立ったワイバーンロードからの偵察による報告が入っている。それによれば、ニシノミヤコ東方の砦には兵力があるかもしれないが、少なくともニシノミヤコ市街地及びその周辺には、兵力の展開は確認されていないそうだ。

 海岸付近には詰所があり、投石機があるが……他に目立つものといえば海岸の木製防壁だけだ。

 

「まずは、(きょう)(とう)()を確保したいな……よし、この浜辺にしよう」

 

 シウスは、ニシノミヤコ西方にある浜辺への上陸を決断した。

 

「全軍へ告ぐ。これより我々は、艦隊前方に見える浜辺に上陸し、内陸部を制圧する。まず、戦列艦40隻を前進させ、距離1.5㎞で砲撃し、敵兵の詰所と投石機、及び木製防壁を破壊する。(しか)る後、陸上部隊1,000名を上陸させて浜辺を確保し、橋頭堡とする。ワイバーン隊は内陸の砦を焼き払うべし。それによって敵兵力を減らすとともに、現地民の退路を断つ。

そして、先行上陸させた陸軍に続いて、陸軍本隊を上陸させ、ニシノミヤコを陥落させるのだ。武装して向かってくる者は全て殺せ。ニシノミヤコで住民を捕らえた場合、すぐには処刑せず指揮官に報告せよ。もしかすると外交に利用する場合があるかもしれんからな。

では作戦行動に入れ!」

 

 シウス将軍の指示は魔信に乗って飛び、各艦に伝えられる。

 こうして、パーパルディア皇国はフェン王国に対する武力侵攻を開始した。

 

 

 ニシノミヤコ西部の海岸の沖合いに展開した、パーパルディア皇国の多数の戦列艦。その横腹に、パパパパパパッと白い煙が多数噴き出る。

 

ドドドドドドーン……

 

 続いて腹の底に響くような砲声が轟く。これが、開戦のゴングだ。

 大気を震わせて飛んできた砲弾は、次々と着弾し炸裂する。海岸の防壁は次々と破壊され、海岸付近の兵の詰所は投石機もろとも()(れき)の山に変えられる。砲弾はニシノミヤコの市街地にも容赦なく降り注ぎ、市街地はあちこちで火の手が上がり始めた。そこへ、あとからあとから砲弾が降ってくる。

 

「キャーーー!」

「うわーー!」

「助けてーー!!」

 

 逃げ遅れた人々の悲鳴が市街地に響く。人々はパニックに陥り、必死に逃げようと足を動かす。しかし、そうした声の一部は、新たな砲弾の炸裂とともに聞こえなくなる。

 平和だったニシノミヤコの市街地は、瞬く間に地獄の様相を呈し始めた。

 

 

 20分ばかりも砲撃しただろうか、パーパルディア皇国軍は、いよいよ上陸作戦を開始した。

 皇軍の第1歩兵軍第3小隊・第4分隊長のアルマは、上陸用の手漕ぎの小型船の上から浜辺を眺めていた。

 浜辺にあった木製防壁は、そのほとんど全てが破壊されている。海から見る限り、浜辺にあるのは木の残骸のみ。その先には森があるが、弓ではそこから浜辺には届くまい。

 上陸用の小型船は100(そう)。1艘あたりに10人が乗っている。フェン王国という、文明圏外の蛮国を滅するため、アルマたちはその先頭に立つのだ。

 

 アルマの表情には、余裕が見られる。

 アルタラス王国を滅した時には、地竜の脇を駆け抜けてきたアルタラス王国軍の騎兵を、マスケット銃で撃って倒した。その時は、何物にも代え難い高揚感があったものだった。

 今回も、狙いを定めて指を動かすだけで遠距離から敵を倒すことのできる、皇帝陛下から皇国臣民にいただいたマスケット銃がある。

 

「楽な仕事だなぁ」

 

 アルマは呟く。

 今回も、楽に勝てるだろう。

 皇国全体が「必ず勝つ、しかも殆ど被害を出さずに勝つ」と思っている。

 タウイタウイ泊地艦隊の一航戦に所属する、航空機搭乗員の妖精たちがそれを聞いたら、「教えてやろうか? そういう思い込みを何と言うのか。それは『慢心』だ!」とか言って、7.7㎜機銃か500㎏爆弾辺りを手加減なしに叩き付けるだろうが。

 

 小型船は海岸に接岸し、乗っていた兵士たちが上陸を開始する。特に敵の反撃もなく、1,000人の兵士たち全てが上陸に成功した。

 兵士たちは隊ごとに少しずつ散開し、辺りを見回す。

 その最中、アルマは海岸の砂の色が所々、周囲と少し異なっていることに気付いた。

 

「ん? 何だ?」

 

 アルマが独りごちた、その時だった。

 

ズボッ!!!

 

 色が異なる砂の部分が動いたと思ったら、海岸の砂の色に似た色の兜を被った男たちが、一斉に姿を現したのだ。

 その誰もが、パーパルディア皇国にはない曲がった剣……日本刀を装備している。

 

「!!! フェン王国兵!」

 

 アルマが叫ぶと同時に、

 

「ィヤアァァァァァッ!!!」

 

 気迫の籠った甲高い叫び声を上げ、フェン王国の兵士たちが抜刀して斬りかかってきた。

 アルマは咄嗟にマスケット銃を構える。しかし、フェン王国の兵士たちの行動は素早い上に、マスケット銃の射線付近に味方の兵士がいる。引き金を引けば、同士討ちになる可能性が高く、銃を撃てない。

 

「くそっ!」

 

 アルマは、折角のマスケット銃を撃ちもせぬまま浜に投げ捨て、代わりに腰に差してあった剣を抜く。

 が、その時にはフェン王国兵の1人が、アルマの至近まで接近していた。

 

「フォォォォォォッ!」

 

 フェン王国兵は烈迫の気合いとともに、大上段に構えた日本刀を振り下ろす。

 アルマは、剣を横に構えて刃を受け止める。

 

ガキン!

 

 フェン王国兵の日本刀とアルマの剣がぶつかり、激しい火花が散った。

 が、次の瞬間。

 

「なっ!?」

 

 咄嗟のことであり、剣を受け止めるのに必死だったアルマの注意は、完全に上に逸れていた。

 それに対し、フェン王国兵は最初の一撃が防がれたと見るや、素早く手首を返し、今度は下から斬り掛かったのだ。

 アルマから見て右下の方から、鈍色の一筋の輝きが迫る。もちろん、死を招く死神の鎌の一閃である。それに対して、アルマは素早く剣を下に向けて、刃を受け止めようとする。

 

 ……が、フェン王国兵の動きのほうが少し早かった。

 

ブシャッ、ザシュッ!

 

 フェン王国兵の振るう日本刀は、高速でアルマの身体にその先端を突き立てた。

 右の鳩尾の辺りに埋まった刃は、アルマの身体の臓器を破壊し、下大静脈(下半身に流れた血液を集めて、心臓に送る太い静脈血管)を断ち切りながら上昇。そして、心臓をその鋭い剣尖で切り裂き、肋骨をまとめて叩き折り、左鎖骨の下辺りから飛び出したのであった。

 

「な……か、か……ぐ……そっ……!」

 

 血飛沫と声にならない叫び声を上げ、それを断末魔としてアルマは浜辺に倒れ伏した。もちろん、彼はもう二度とは起き上がれない。そのまま失血であの世に召されるばかりである。

 

 突如として海岸に出現したフェン王国兵は200名。フェン王国軍とパーパルディア皇国軍とのこの戦争での最初の戦闘は、銃の使えない至近距離での斬り合いとなった。

 

 フェン王国軍の幹部たちは、タウイタウイ泊地から拝借した本を読み漁って、パーパルディア皇国軍の艦砲射撃を回避するための策を編み出したのだ。それは、頑丈な建物を築くのではなく、砲弾や爆圧が頭上を通り過ぎるよう、鉄兜を被って地面に埋まる、というものだったのである。

 

 過去にこのような戦法を取られたことはなく、パーパルディア皇国軍は混乱した。

 しかし、パーパルディア皇国軍が1,000対200という数の差を生かして戦ったことで、フェン王国兵たちは次第に数を減らしていき、やがて全滅した。

 パーパルディア皇国軍は400人戦死、というかなり大きな損害を受けたものの、橋頭堡の確保に成功したのだ。

 

 

 一方その頃、市街地を越えた内陸部ではフェン王国軍の砦「西城」が、パーパルディア皇国軍の竜母より飛び立ったワイバーンロード部隊の空襲を受け、大きく炎上していた。

 フェン王国の武人たちは、必死にバリスタで応戦しようとするが、全く歯が立たない。そんな中、

 

「ちくしょう、見てろパーパルディアのクソ野郎ども!」

 

 千士長アインは立ち止まると、以前から鍛練している新たな武器を空に向けた。

 それは、ロデニウス連合王国から供与された「三八式歩兵銃」。彼は、これでワイバーンロードを撃ち倒そうとしているのだ。

 アインは、地上に迫ってきたワイバーンロードの1騎に向けて、照準を定める。すると、そのワイバーンロードはアインに狙いを定めたらしく、口を開けてそこに火球を生成しながらアインに迫ってきた。

 

「正しい姿勢、正しい狙い……」

 

 引き金に指をかけながら、アインは呟く。このセリフは、鍛練の指導にあたったタウイタウイ部隊の兵士より教わったものだ。

 

「月の夜に落ちる雫の如く、静かに引き金を……引く!」

 

 そして、発砲。

 

ズドォン!

 

 銃声が響く。

 次の瞬間、アインに狙われたワイバーンロードの口が、いきなり爆発を起こした。と見る間に、ワイバーンロードは急にバランスを崩し、地面に叩き付けられる。アインの撃った弾は見事にワイバーンロードに命中して、口内に生成されつつあった導力火炎弾を暴発させ、そいつを地面に撃ち落としたのだ。

 ワイバーンロードの機動力を考えれば、奇跡的とすら言える照準である。

 

「ざまあみろ!」

 

 一声罵りながらアインはボルトを引き、空になった(やっ)(きょう)を排出して次の弾を装填する。そして、墜落の衝撃で瀕死になっていた竜騎士の頭部に容赦なく銃弾を撃ち込み、止めを刺した。

 更にアインは空を見上げつつ、次の銃弾を装填して銃口を空に向ける。

 

「見てろ、やられていった仲間たちの仇だ。ただじゃ負けない。何人か道連れにしてやるからな……!」

 

 怒りを視線に込め、アインは再び引き金を引いた。

 

 

 そして、海岸に橋頭堡を確保したパーパルディア軍であったが、そこからニシノミヤコ市街地への進軍は、いきなり足止めされてしまった。というのは、海岸付近の森に潜んでいたフェン王国軍の小部隊から攻撃を受けたからである。しかも、ただの攻撃ではなかった。

 

ズドォン!

「ぐあっ!」

 

 鋭い音が響くと、また1人、パーパルディア軍の兵士が短い絶鳴を発して砂浜に倒れる。彼の胸部には穴が開けられ、そこから空気が漏れる音がしていた。肺をやられたのだろう。

 

「俺は……もう……、だめだ……」

「おい! しっかりしろ!」

 

 その兵士を、他のパーパルディア兵が励まそうとする。が、その兵士は既に目を閉じた後だった。

 

「くそっ! おのれ!」

 

 それを見た別の兵士が、崩れた木製の防壁の残骸から身を乗り出し、前方の森めがけてマスケット銃を構えて撃った。パァン! と乾いた音がして、銃口から多量の白煙が噴き出る。

 次の瞬間、ズドォン! と撃ち返しの音が響いたと思う間もなく、マスケット銃を撃った兵士はもろにヘッドショットされてしまった。声も立てずに、その兵士は糸が切れたように砂浜へ仰向けに崩れ落ちる。

 

「何なんだ、これは!?」

「まさか、銃か!?」

「バカな! ここはフェン王国だぞ!? それに、第三文明圏には我が国以外、銃を作れる国などないはずだ!」

 

 パーパルディア軍の兵士たちは混乱していた。

 何せ、銃声らしき音が響くと同時に、仲間の兵士がバタバタやられていくのである。しかも、敵はどうやら海岸線の先の森に潜んでいるらしいのだが……砂浜から森までは目測で100メートルはある。命中精度を考慮すれば、マスケット銃では射程ギリギリだ。対して、フェン王国軍と思しき敵は、その森の中からこちらに銃撃を浴びせてくる。その銃撃は異様に精度も威力も高く、防壁の残骸から頭だけ出して索敵していた兵が、見事にヘッドショットされるほどの精度の高さがあった。

 また威力にしても、明らかにパーパルディアのマスケット銃より威力が高いようだ。その証拠に、撃たれた兵士の痛がり方や、その兵士の傷の大きさが尋常ではない。

 

「聞いてないぞ! フェン王国ごときが、銃らしき武器を持っているなんて!」

「くそぅ、これじゃあ進むに進めん!」

 

 兵士たちが狼狽えているところへ、幹部が指示を飛ばす。

 

「怯むな! さっきから様子を見ていると、敵はそんなに多くはいないようだ。ここでぐずぐずすることはできん、ある程度の犠牲を覚悟の上で、強行突撃する!

全員突撃せよ!」

 

 軍人たるもの、上官の命令には決して逆らってはならない。命令の不遂行は抗命罪、それに対する罰則は原則として極刑である。

 この命令を受け、パーパルディア軍の兵士たちは、ままよとばかりに前方の森に向けて突撃していった。結果として、20人以上が撃たれて死んだものの、森に潜んでいた敵がたった4人だったのもあって、比較的あっさりと鎮圧に成功した。代償は大きかったが、制圧に成功したのは上出来と言えるだろう。それに……

 

「どういうことだ、これは!?」

「なぜ、フェン王国軍が銃を!?」

「銃に、剣が付いている……?」

 

 敵の武器を鹵獲できたのも、立派な戦果であると言えるだろう。 

 

 

 結局、パーパルディア皇国軍がニシノミヤコを完全に陥落させたのは、攻撃開始から1時間半も経った後のことだった。

 市街地東方の砦を先に焼いておいたことが有利に働いたものの、フェン王国軍の思いがけない戦術やフェン王国軍兵士の捨て身の覚悟、そして何よりフェン王国軍の驚くべき武器の使用によって、思った以上に時間がかかってしまったのである。

 

「な、何だこれは!?」

 

 後からニシノミヤコの浜辺に上陸した、パーパルディア皇国陸軍の将軍にして、フェン攻略陸上部隊指揮官であるベルトランは、部下の1人が持ってきた物を見て、目を見開いた。

 

「これはいったい……!?」

「我々が生け捕ったフェン王国の兵士が、持っていたものであります」

 

 部下も、信じ難い様子でその物体を手渡す。

 それは、パーパルディア皇国軍が鹵獲した、三八式歩兵銃だった。ちなみに、元々持っていたフェン王国の兵士が弾を撃ち切っていたせいで、この銃に弾は入っていない。

 

「これは銃!? いったいなぜ、フェン王国ごときがこんなものを!?」

「分かりません。しかし、現にフェンの兵士がこれを振り回していたのです。また、別の部隊でも同様に、フェンの兵士が銃を撃ってきたという報告が入っております。フェン王国軍が、この武器を持っているのは間違いないでしょう」

 

 ベルトランは、この第三文明圏で銃を運用しているのは自国であるパーパルディア皇国だけだ、と思っていた。

 しかし、剣の国フェンが、まさかの銃を引っ張り出してきたのである。しかも見たところ、パーパルディアのマスケット銃より洗練されたデザインをしている。そしてその銃の先端には、短いながら剣が付けられていた。

 剣の長さそのものは決して長くない。精々短剣サイズだ。しかし、銃そのものの銃身が長いこともあって、これを銃の先端に付ければ即席の槍の完成である。突き刺しても良し、撃っても良しと、便利極まりない武器だった。

 ただ銃身が長いので、敵に懐に飛び込まれると取り回しが悪そうだが。

 

「これは……思ったよりも敵が強力かもしれん。しっかりとした準備をしてから進軍せねばならないな。おい、捕らえた兵士からどうにかして情報を吐かせろ! どこからこの銃を得たのか聞くんだ!」

「はっ!」

 

 ベルトランは、これまでにない嫌な予感を抱くのだった。

 

 

中央暦1640年1月18日、フェン王国西部都市ニシノミヤコ、パーパルディア皇国軍の攻撃により陥落。パーパルディア皇国軍の死者600名。フェン王国の死者、武人・民間人合わせて2,300名。この中には、西城の主であるゴダンも含まれる。

またこれらとは別に、逃げ遅れたフェン人が150名、そしてロデニウス人が100名、パーパルディア皇国軍に生け捕りにされた。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 ニシノミヤコ陥落の2時間後、「ニシノミヤコにおいてロデニウス人100人を捕縛した」という報告をフェン侵攻軍から受けたレミールは、ロデニウス連合王国に対して、第1外務局名義で「すぐにエストシラント第1外務局に外交官を寄越せ」という命令書を出した。

 当然ながら、ロデニウス連合王国外務部の面々は、慌てふためくことになる。何しろ、相手は列強パーパルディア皇国だ。何を言われるか分かったものではない。そして、第三文明圏外の各国は揃ってパーパルディア皇国を恐れており、同国が相手だと平伏外交になる可能性が高かった。

 しかし、そこは近代化と文明開化を実施したロデニウス連合王国。相手が如何なる大国であろうと物怖じしない外交官を、外交交渉の席に欲するようになっていた。だが……このロデニウス連合王国で、パーパルディア皇国を恐れることもなく交渉ができそうな人物といったら、1人しかいないのである。そしてその者の所属は、外務部ではない。軍部である。

 

 ……そう、このパーパルディア皇国からの出頭命令に当たって、交渉役として白羽の矢が立ったのは、堺だったのだ。

 外務部の面々も、堺が外交についてはまだ素人(フェン王国との外交をやったことがあるため、全くの素人ではない)であることを承知の上で、堺を選んだのである。フェン王国に出撃した軍の指揮のため、堺が海外出張の準備をしていたのも、1つの追い風となった。

 

「出頭命令? ……ったく、これからフェン王国に行かなくちゃならんってのに、なんでまた急に、パーパルディアくんだりまで行かなくっちゃいけないんだよ……。ただの寄り道じゃねえか。

しかも、国同士の話し合いで『出頭命令』って、どういうことだよ……?」

 

 軍務卿ヤヴィンから、パーパルディア皇国第1外務局へ出頭するよう命令を伝えられた堺は、溜め息を吐きながら準備にかかるのだった。




はい、ろくでもないことになってきました。もう何となく、先の展開を読んでいる方もいるのではないでしょうか…


次回予告。

パーパルディア皇国からの出頭「命令」。それに応じ、堺は同伴者1名とともにパーパルディア皇国に向かう。そこで2人が見たものとは…
次回「皇国の凶行と堺の舌鋒」
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