鎮守府が、異世界に召喚されました。これより、部隊を展開させます。   作:Red October

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評価の上がり下がりが激しい…うーむ、好き放題やってるから仕方ないかな。
評価1をくださいましたスイカマン様、ありがとうございます。

そして、もう少しで良いから文才が欲しい…

タイトルからしてもう嫌な予感がしている方が多いと思いますが…この先一部残酷な描写があります。ご注意ください。
苦手な方はブラウザバックを。下スクロールを持ちまして、お覚悟はよろしいと判断します。
あと、艦○れのちょっとしたネタが隠れています。今回の堺の同伴者にまつわるあるネタですが、彼女が好きなファンの方、すみません。予め謝罪させていただきます。

































お覚悟はよろしくて?
では、ごゆっくり。



032. 皇国の凶行と堺の舌鋒

 中央暦1640年1月21日、フィルアデス大陸 第三文明圏列強パーパルディア皇国 皇都エストシラント。

 ここは、第三文明圏の各都市の中でも最も栄えており、“華の都エストシラント”とまで称される。建物は、地球の建築でいうなら『ルネサンス様式』と表現すべき形状のもの……簡単にいうと、イタリアのローマの街並みのような建物が多く、屋根を茶色っぽい色で、壁を白色で塗った建造物が多い。そして、ローマ風にも見える石畳で舗装された広い道を、多くの馬車や人々が行き交い、交易も盛んに行われている。

 また現在、地理的な要因などによって街の広さを広げられる限界が来てしまったため、その代わりとして繁華街を中心に、建物の高さが高くなりつつある。

 この首都の建物の(けん)(らん)さや人々の行き交いの多さこそが、皇国の繁栄を物語る……と、エストシラントに住まう住民なら言うだろう。

 

 現在、そのエストシラントの通りの1つを、1台の四輪馬車が走っていた。その馬車には、堺と戦艦娘の1人"(きり)(しま)"が乗り込んでいる。

 2人は、パーパルディア皇国の外務局から「外交に関して伝えることがあるので、すぐに来るように」という内容の命令書を受け取り、それに従って呼び出し先に向かっているのだ。馬車は、皇国が迎えに用意したものである。

 ちなみにロデニウス大陸にいたはずの2人が、どうやってこんなに早くフィルアデス大陸まで来たかというと、快速を誇る駆逐艦「(あま)()(かぜ)」を利用したのだ。

 

「急な呼び出しとは、いったい何なのでしょうか、司令?」

 

 馬車の中で、"霧島"が堺に尋ねる。

 

「わからん。ま、国同士の間で伝えたいことができるのは仕方ないが……問題はあの呼び出し方だ。()()()、という表現が気になる。国同士の話し合いに、なんで“命令書”なんだろう?」

「そうですね、私も疑問です。計算しても答えが出てきませんし。

しかし司令、なんで私まで行かなきゃいけなかったんですか? 私、個人的にこの国はいけ好かないのですが」

 

 眉を寄せ、露骨に嫌そうな顔をする"霧島"。

 彼女は去年、フェン王国での軍祭の折に、パーパルディア皇国の国家監察軍のワイバーンロードから攻撃を受けている(022. 波乱の軍祭(前編)参照)。それをまだ、根に持っているのだ。

 

「そう言うな、霧島。気持ちはわかるけどな。俺としては、霧島の計算高さをアテにしたい。いくら何でも、俺も外交にはまだ慣れていないし、何より相手は列強国だしな」

「それを言うなら、私だって外交はずぶの素人ですよ」

「それでも、一人より二人って言うだろう?」

「まあ、それはそうですが……」

「あとアレだ。ボディーガードが欲しかった。噂に聞くところによれば、霧島、お前は意外と……」

 

 その瞬間、"霧島"は堺の口に人差し指を当て、強制的に口を噤ませた。

 

「司令。そこから先は、口に出すのはNGです」

 

 "霧島"の声は冷静だが……纏う雰囲気は阿修羅のそれになっている。

 堺は、うっかり"霧島"の触れて欲しくない部分に触れかけたのだ。

 

「ま、まあ、そういうことだから、よろしく頼む」

「はあ……わかりましたよ」

 

 堺の頼みに、溜め息を吐いて答える"霧島"。同時に人差し指も離してくれた。

 それで話すことが一旦なくなり、2人は沈黙する。

 堺は、馬車の外を見遣る。そこには、エストシラントの建物や活気ぶりが映っていた。しかし……

 

(どうもこの繁栄、無理があるような気がする。なんでだろう?)

 

 堺は、この繁栄に違和感を抱いた。そして、その原因を探して窓の外を見るうちに、あることに気付く。

 

(建物が、完成してないものがある……?)

 

 そう、堺の目には、一部の建物が完成しないまま放置されているように見えたのだ。増築中のものもあるため、ある程度は仕方ないのだが。

 更に、通りをよく見渡すと、奴隷を引き連れた商人が歩いていたり、奴隷らしき女性に対して()()()暴力を振るう男も見られた。

 

(なるほど、そういうことか。多分、国力と見栄の張り方が見合っていないんだ。なんとなくの予想だけど、一国だけでは発展に必要な資源とか労働力が足りなくて、属領から無理やり持ってきてるような感じなのかな?)

 

 堺のこの推測、実は当たりである。

 皇都エストシラントは、確かに繁栄した街だが、ではその繁栄のための金や資源がどこから来ているかというと、()()からなのである。

 属領から税金などの形で富を収奪し、その富で繁栄している街。それが、エストシラントの正体なのである。

 

(聞けば、パーパルディアは属領を恐怖で支配しているとか。その支配体制の限界が、こういう面に現れてるみたいだな)

 

 堺がぼんやり考えていたその時、馬車がガタンと小さく跳ねた。おそらく、道の小石か何かに乗り上げたのだろう。だが、

 

「いてっ!?」

 

 堺の尻には、思った以上の痛みが走った。

 

「どうしました、司令?」

 

 堺の声を聞き付け、"霧島"が尋ねる。

 

「いや、さっきの振動でやけに尻が痛んだんだ。サスペンションとかないのかねぇ?」

「司令、近世程度の国家にそんなの求めるだけ、無駄だと思いますよ」

 

 "霧島"の毒舌も(もっと)もである。

 そんな会話をしているうちに、馬車は荘厳な宮殿の門の前で停車した。

 

「皇宮に着きました。身分を確認いたしますので、少々お待ちください」

 

 皇国からの迎えの使者に言われて、堺と"霧島"は外を眺める。すると、門の前に立っていた衛兵が近付いてきた。

 命令書に同封してあった許可証を見せ、OKをもらって門を潜る。潜った先には、きれいに整備された芝生の庭があった。そこかしこに木が植えられているが、道を挟んで鏡合わせになるように統一されている。

 また、皇宮内の建物は白を基調としており、豪華絢爛な装飾が施された円形の柱によって支えられている。どの柱もピカピカに磨きあげられている。

 これだけ見ても、いろいろなことが分かる。皇国の国力の大きさ、格式の高さ、そして……

 

(なるほど……こりゃ、聞きしに勝る(ごう)(まん)ぶりっぽいな)

 

 皇国の()()()()()()()である。

 これだけゴテゴテと装飾して、それを曇り1つなく磨きあげ、国力を誇示しているとなると、プライドが高い≒傲慢、と考えられるのである。

 

(いろいろな人から話を聞いてきたけど、それを書物の情報と合わせて解釈すると、パーパルディア皇国は列強国とはいえ、五列強のうちの4番手。つまり、国力は列強の中では中の下ってことだ。属領を恐怖で支配しているってことだし、かつてフェンのマグレブさんが言ってた通り、常に舐められまいとしてるんだろうな。そのために取ってる方法が、問題なんだけど)

 

 などと堺が考えていると、馬車はその皇宮の一角にある建物の前で停車した。

 

「着きました。どうぞお降りください」

 

 皇国の使者に案内され、堺と"霧島"は馬車を降りる。

 汚れ1つなく磨きあげられ、赤い(じゅう)(たん)を敷かれた廊下を歩き、美しい庭を横目に見ながら回廊を渡って、2人は重厚な雰囲気を醸し出す両開きの黒い扉の前にたどり着いた。

 使者がドアを少し開け、中にいる人間とやりとりをする。それから、堺と"霧島"のほうを見て、言った。

 

「お待たせいたしました。どうぞ、お入りください」

 

 堺と"霧島"は、使者に頭を下げてから入室した。

 部屋の中は、我々が「応接室」と聞いてイメージするような感じにまとまっていたが、家具に詳しくない堺にも、部屋の中の家具は相当の高級品だというのが見て取れた。本当にいい物は、例え素人であっても「いい物だ」ということがはっきり分かる物なのである。

 そして、それらの家具の1つである、革張りの高級感溢れる肘掛け付きソファーの1つに、20代後半くらいと思しき美しいロングの銀髪の女性が座っていた。細い体型をしており、頭には金の環を()めている。

 彼女はかなり鋭い眼光をしており、その眼光に当たった堺は、一瞬硬直した。"霧島"は慣れた様子で、特に気にする風でもない。

 

 使者に「どうぞ、お座りください」と案内されて、用意されていた椅子に着席する。それを見届けた後、使者は退室した。

 その時堺は、"霧島"が何気ない様子で右手で眼鏡のフレームを持ち、眼鏡の位置を調整するのをちらりと見た。

 カチャンという、重厚な見た目に似つかわしくない軽い音を立てて扉が閉まった後、銀髪の女性が話し始める。

 

「パーパルディア皇国、第1外務局のレミールだ。お前たちロデニウス連合王国に対する外交担当だと思ってもらっていい」

 

 やたらと横柄な話し方で、レミールは自己紹介する。

 

(皇族か? やけに上から目線だが)

 

 堺は少し眉を顰めながら、自己紹介をする。

 

「私は、ロデニウス連合王国より参りました堺と申します。こちらは霧島です」

 

 堺に紹介され、"霧島"が会釈する。

 

「急な要件だと伺ったのですが、いったいどのような要件でございますか?」

 

 堺が尋ねると、レミールは話し始めた。

 

「いや、今日はお前たちに()()()()()を見せようと思ってな。皇帝陛下の御意志でもある」

「それはそれは、いったい何を見せていただけるのでしょう?」

 

 高圧的な声音で話すレミール。

 堺は既に、この女はかなり危険な人間だと読んでいた。パーパルディア皇国のプライドの高さが人の形をしたようなもの、それが、このレミールという女だと。そのため、不用意に刺激しないよう、また礼を失することがないよう、堺はなるべく敬語を使い話す。

 

 堺の質問を受けて、レミールは室内に待機していた使いの者に目を走らせる。

 すると、使いの者は隣室に通じるらしいドアを開け、中に入っていった。ややあって、1メートル四方の水晶体のようなものが、その使いの者に押されて出てきた。その水晶体は、何やら金色の台座に乗っている。

 

「これは、魔導通信を進化させて音声のみならず映像通信もできるようにしたものだ。この映像付き魔導通信を実用化しているのは、我が国と神聖ミリシアル帝国くらいのものだ」

「はあ……」

 

 堺は、気の抜けたような返事を返す。

 

(デカいテレビ電話みたいなもんか)

 

 堺は目の前の装置に、そんな感想を持った。

 しかし、この女レミールの意図が読めない。いったい何をしたいのだろうか。皇国の力を見せつけたいだけだろうか?

 すると、レミールは以下のような台詞を発した。

 

「これを起動する前に、お前たちに()()()()をやろう」

 

 チャンス? 何のことだ?

 堺はちらりと"霧島"を横目で見た。だが、"霧島"の表情にも僅かながら困惑が見え隠れしている。"霧島"にも分からないのだろう。

 そこへ、先ほどデカいテレビ電話の機器を運んできた皇国の使いの者が、日本人からすると少し質の悪い紙を手渡してきた。何かの文章が多数書かれている。

 堺は、それを受け取って読んで、自分の目を疑った。文章には、とんでもない内容が書かれていたのである。

 

[要求書]

・ロデニウス連合王国の王は皇国人とし、皇国から派遣された者を置くこと。

・ロデニウス連合王国内の法律を皇国が監査し、必要に応じて皇国がその内容を変更できるものとすること。

・ロデニウス連合王国軍は、皇国皇軍の指揮下に入ることとし、皇国からの求めに応じて必要な数を必要な所に投入できるようにすること。

・ロデニウス連合王国は、毎年一定数の国民を、奴隷として皇国に差し出すこと。

・ロデニウス連合王国は、今後外交において、皇国の許可なくして他国と国交を結ぶことを禁ずる。

・ロデニウス連合王国は、国内に保有する全ての資源を皇国に開示し、皇国からの求めに応じて必要な資源を必要なだけ、必要な時に皇国に献上すること。

・ロデニウス連合王国は、現在知り得ている魔法技術の全てを皇国に開示すること。

・パーパルディア皇国臣民は、ルディアス皇帝陛下の名において、ロデニウス連合王国民の生殺与奪権を有することとする。

・ロデニウス連……

 

 まだいくつか条項が続いているが、堺はここまで読んで、顔を上げてレミールに尋ねた。

 

「何ですか、これは?」

 

 声はあくまで冷静だが、堺は左手の拳を強く握りしめている。渡された書類を持った右手も、僅かに震えている。

 こんな要求を呑んでいては、もはや独立国ではない。属国どころか植民地状態だ。呑めるわけもない。

 それに対して、レミールは。

 

「皇国の国力を知らぬ者が行う、愚かな抗議だな。

お前たちの国は、あろうことか我が国からの借金を踏み倒そうとしている。皇国の実力を知らぬ、ということはないはずだが、何故そんなことができるのやら」

 

 まさかの一蹴である。

 堺は素早く思考を定め、反論してみた。

 

「間違えないでいただきたく存じます。その借金とやらは、貴国がロウリア王国との間に結んだ契約でしょう。いま我が国の一部となっているロウリア州は、それとは何の関係もございません。よって、借金の契約が成立しえず、借金を返す必要はないどころか、そもそも借金など存在しません」

 

 ここまでの堺の発言を見て、皆様なんとなくお気付きだと思うが、堺の話し方からはだんだん敬語が失われつつある。

 堺はとっくに、この女は地雷女かもしれないと見込んでいた。皇国のプライドを笠に着るだけの女かもしれない、と。

 堺の反論を聞いた途端、レミールはこう言った。

 

「何だと? 皇国からの借金など存在しない? お前たちは、皇国の国力と技術力の高さを分かっているのか?

それに、お前たちは一度、我が国の軍隊を押し返しているが、あれはあくまで弱い軍隊だ。皇軍が相手なら、そう上手くいくとは思わないことだな」

(ダメだこいつ、地雷女だ。性質(タチ)の悪い、話の通じないタイプの奴だな)

 

 堺はついにレミールの評価を定めた。

 ちらりと"霧島"を見ると、彼女の形の良い眉が僅かに震えている。明らかに苛立っている証拠だ。

 

「では問おう、ロデニウス連合王国の使者よ。その命令書に従うのか、それとも国が滅びるのか」

 

 堺はどうすべきか、フルスロットルで頭を回転させる。

 皇国のプライドの高さは散々話に聞いていたが、まさかこんな要求をしてくるとは思わなかった。国交を結んでもいない国に対して、いきなり植民地になれ、と要求するとは……。

 要求書の内容に従うのは論外だ。かといって、いきなり列強と戦争をしても良いなどという指示を受けていない以上、事をなるべく穏便に運ばなければならない。

 となると、レミールの質問に対する答えは、どうしてもこういう所に落ち着くのである。

 

「我々はあくまで、貴国からの呼び出しに応じて来ただけです。この内容の命令書は、とても我が国の政府が受け入れるとは思えませんが、本国に一度報告した上で対応させていただきたく思います」

 

 ところが、堺のこの答えを聞いたとたん、レミールは悪魔のような笑みを浮かべた。

 

「ほっほっほ、やはりそう言うと思ったぞ」

(地雷を踏み抜いたか?)

 

 考える堺、対するレミールの言葉。

 

「やはり、蛮族には教育が必要なようだな。皇帝陛下の仰る通りだ」

 

 "霧島"は、最早苛立ちを隠していない。彼女の眉がピクピクと小刻みに動いているのが、何よりの証拠だ。

 

「哀れなる蛮族の国、ロデニウス連合王国よ。お前たちは皇帝陛下に目を付けられた。しかし、陛下は寛大なお方だ。お前たちに更正の余地があるか、教育の機会を与えて下さった」

 

 堺も"霧島"も、いよいよこれはロクでもないことになってきたと痛感していた。

 

「ほっほっほ……これを見るが良い!」

 

 言い終えるや、レミールはパチンと指を鳴らした。

 すると、先ほど登場した水晶体に、質の悪い映像が映し出される。そこには、首に縄を付けられているらしい人々が映っていたが……堺と"霧島"は、それを見て絶句した。

 

「っ……! これは!?」

「フェン王国のニシノミヤコとかいう街を攻め落とした時に、捕らえた者たちだ。こやつらは、我が国に対する破壊活動を行う可能性があるのでな。スパイの容疑で拘束しているのだ」

 

 首に縄を付けられ、さらに各人がその縄で繋がり、一列に並んでいる100人ばかりの人々が、その画面に映されていた。老若男女の別なく、彼らは首にも両手にも縄をかけられており、皆怯え切った顔をしていた。そして彼らの服装に、堺は見覚えがあった。

 

「……これは、我が国の民ではないか!」

 

 そう、彼らは皆、ロデニウス連合王国の民だったのだ。

 しかもよく見ると、タウイタウイ部隊所属の妖精数人も、その列の中に入っている。

 

「彼らはフェン王国に労働もしくは観光に来ていた、またはそこに居住を認められていただけの、何の罪もない人々だ! それなのに、首に縄をかけるとは……! 断固として、即時釈放を要求します!」

 

 堺は叫んだ。さすがにこれは看過できない。

 しかし、堺のその言葉はレミールの逆鱗に触れた……とまでは言わないまでも、反感を買ったようだ。

 

()()()()、だと? ……蛮族どもが、皇国に要求するだと!? 立場を(わきま)えぬ愚か者め」

 

 そしてレミールは、電話の子機を思わせる形状の通信用の魔法器具を取り出し……とんでもない命令を発した。

 

()()()()

「「なっ!?」」

 

 堺も"霧島"も、思わず椅子から飛び上がった。

 映像の中で、パーパルディア軍の兵士と思しき連中が、剣を引き抜く。

 

ズシャッ! ザシュッ!

 

 列の一番端にいた男性の首に、剣が振るわれ、めり込んだ。跳ね上がった頭部が宙を舞い、真っ赤な鮮血が地面に撒き散らされる。

 

『あなたぁぁぁ! いやぁぁぁぁ!』

 

 映像の中で、男性の隣にいた女性が叫ぶ。夫妻だったのだろう。

 

ズシャッ!

 

 その女性にも、剣が突き立てられた。女性が地に倒れ伏し、動かなくなる。

 

『お母さぁぁぁぁん! いや! やめてぇぇぇ! ズシャッ!』

 

 さらにその隣の小さな女の子にも、容赦なしに剣が突き刺さった。

 兵士たちは、まるで何かしらの作業を行うかのように、1人ずつ処刑していく。

 

「や……やめろ! やめろっ! 今すぐ止めさせるんだ!」

 

 堺は例になく、大声を上げた。

 

「お前たちは、自分たちが何をしているのか分かっているのかっ!」

 

 そう言う間にまた1人、泣き叫ぶ女性が処刑され、首を跳ねられた。

 

「お前たちだと? 蛮族風情が、我々に向かって『お前たち』だと!?」

 

 レミールがそう怒鳴った時、

 

『タウイタウイ泊地万歳! ズシャッ』

 

 ついに、タウイタウイ部隊の妖精が1人、凶刃に倒れた。

 続く者たちも、泣き喚くか、或いは「ロデニウス連合王国万歳!」「タウイタウイ泊地万歳!」と叫ぶかして命を断たれる。タウイタウイ部隊の妖精の最後の生き残りは、「()()()が、地獄へ落ちろ!」と叫んで息絶えた。

 

「蛮族蛮族とさっきから偉そうに言うが、我々からすれば全くの逆だ。()()()()()()野蛮な考え方しかしていない!

我が国の力を見抜けない、いや、見ようとすらしていない。お前たちこそ、野蛮で盲目の、()()()でしかないぞ!」

 

 もう一生分怒鳴ったんじゃないかと思うほど、堺はレミールに怒鳴った。

 "霧島"はというと、堺の様子を見て、一周回って逆に冷静になり、怒りを通り越して驚いている。"霧島"は、艦娘たちの中ではわりと早期にタウイタウイ泊地に着任した艦娘である。従って、堺とともにいる期間も相応に長いのだが、堺がここまでキレる場面は初めて見たのだ。

 最後のロデニウス人が処刑され、映像に映るロデニウス人たち100人は、1人として動かなくなった。

 

「皇帝陛下は何故、このような蛮族にも教育の機会を与えようとするのか……。まあ、良い。

さて、そんな大口を叩けるのもいつまでかな? このニシノミヤコでは、100人のロデニウス人がスパイ容疑にかかった。フェン王国の首都アマノキが陥落した時には、いったい何人のロデニウス人がスパイ容疑にかかるかな? ……止めることのできない自らの無力さを、思い知るが良い。そして、本国が消滅の危機に晒されているということを、よく理解するが良い。

……アマノキが陥落するまでに、どうするか決めておけ。お前たちが決断したその時に、アマノキにいるロデニウス人たちの運命も、そしてロデニウス連合王国の運命も、決するであろう。話は以上だ」

 

 レミールは、話は終わったとばかりに口を閉じた。

 堺は座席から立ち上がると、レミールの目を真っ正面から見据えて宣言した。

 

「私は決してロデニウス連合王国の全権大使ではない。そもそも正式な外交官ですらない。ロデニウス連合王国の軍部から、パーパルディアに行くように言われて来ただけの、少しだけ交渉のできる()()()()()だ。

だがな、これだけははっきり言わせてもらう」

 

 堺の心の中では、怒りの炎が激しく燃え盛っていた。

 

「お前たちの行為には、約4,000万のロデニウス連合王国民全員が、猛烈に怒ることだろう。理由が観光であれ何であれ、ただそこに居合わせただけの何の罪もない人々に縄を掛け、挙げ句に処刑するとは、正気の沙汰ではない。こんなことを平気で実行する()()()()は、すぐにでも滅んで欲しい、と誰しもが思うだろう。

今回の行為に関して、誇りある我がロデニウス連合王国政府は、決して見て見ぬ振りはしない。必ず裁きが下されるだろう。いや、この光景を直に見た私が軍人である以上、寧ろこの私、堺 修一自身の手で、()()()()()を下すことになるだろう。我が国の真の力を知った時のあなた方の顔が見物だな。

それと……今回のこの会談の内容は、しっかり記録されている。それも映像としてな。この場にいなかった他の者たちも、それを見ただけで残虐さを知ることができる。そして、お前たちへの憎しみが、『我が国の全ての軍隊に共有される』のだ。……覚悟しておいたほうが良いでしょう。

いずれ遠からぬうちに、我が国の力の一端をお見せすることになるでしょう。もし我が国と貴国の軍隊が武力衝突すれば、結果がどうなるかはもう決まっていると思いますが、それをどう受け取るかは()()()()()()です。では、あの要求書への対応をどうするか、回答が出ましたら持ってきましょう。まあ、答えはもう予想できていますが。では、失礼します」

 

 それだけ言い残し、堺と"霧島"は退室した。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 夕陽が落ち、空が夜の帳に包まれた頃。

 ロデニウス連合王国に帰るべく、駆逐艦「天津風」に乗艦し、波止場を離れてから大分経った後で、"霧島"は堺に尋ねた。

 

「分かっておられたのですか、司令? 私の眼鏡が……」

「バッカ野郎、俺の下でどれだけ戦ってんだよお前は。お前が(あか)()(ゆう)(ばり)とグルになって、眼鏡を魔改造してることくらい把握してんだよ」

 

 そう、実は"霧島"の眼鏡はビデオカメラになっていたのだ。というより、ビデオカメラの機能を持たされていた、というべきだろう。名探偵コ◯ンもびっくりの高性能メガネである。

 会談が始まる直前、"霧島"は眼鏡の位置を調整するふりをして、眼鏡にセットしたビデオカメラを作動させ、会談の模様を全て録画していたのである。堺は、"霧島"が録画を開始するその瞬間を、決して見逃さなかったのだ。

 

「しかし司令、国交も結んでいない国に対していきなり絶対的(れい)(ぞく)を要求し、そのうえ捕虜としたロデニウス連合王国の民を、外交官の前で公開処刑するとは、完全に私の計算違いでした。こうなってくると……」

「ああ。『よろしい、ならば戦争(クリーク)だ』だな。まさか、あの皇国があそこまで野蛮かつ傲慢だとは想像していなかったよ。道理で我が国と交易し始めた時に、各国の連中が大喜びした訳だ。

ちくしょう、もっと早く気付いておくべきだった。高い授業料を払ったもんだぜ」

「司令、私は司令があそこまで怒ったのに驚きましたよ。司令は割と物静かな方だと思ってましたので」

「俺だって、怒る時は怒る。さーて……次の仕事は決まったぜ。まずあのゲス要求書に対する回答を、あの女に突き付ける。次に、フェン王国に侵攻しているパーパルディアの野蛮人どもを、ロデニウス連合王国の、そしてタウイタウイ泊地の名に賭けて、殲滅してやる。その後でもう1回、あのわからず屋女(レミール)と話してやろうじゃないか」

 

 堺は、これまで誰も見たことのない真っ黒い笑みを顔に浮かべた。

 

「というか司令。その要求文書への回答、司令が考えるんですよね?」

「そりゃあな。俺1人で考えるというより、どうしたって外務部の連中から意見を求められるだろ。だから、俺もきっちり回答書の作成には関与することになるだろうぜ。もちろん、あの要求への回答は全てノーだ。それどころか、あの皇国にこっちが要求する羽目になるだろうよ」

 

 いまや堺の笑みの黒さは、夜の海面より黒くなっているんじゃないかと錯覚するほどのレベルになっていた。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 翌日、中央暦1640年1月22日。

 "霧島"が録画してきた、会談の全てを見せられたロデニウス連合王国政府は、堺を交えての討議の末に、レミールが渡した要求文書への回答を、国書にしたためた。

 また、既に就航していた旅行会社の旅客運送の高速帆船をフル動員し、フェン王国からの国民の総引き上げに着手することを決定。各国への航路に就航していた船のうち、ロデニウス連合王国本土にいた船14隻は、シフトをずらして継続的にフェン王国からの避難民を運べるようにした上で、距離1,500㎞のシャトルランに参加することとなる。

 

 

 これとは別に、堺はタウイタウイ泊地の第13艦隊情報局のリーダー"(あお)()"にも録画映像を手渡し、国内の世論に対するプロパガンダ作戦を開始するよう命令した。どのみちパーパルディア皇国との戦争は避けられないと判断した上で、国内の世論を(あお)り、パーパルディア皇国に対する戦争に関して、国民の意識を統一しようとしたのだ。

 

「これが……!」

 

 出来上がってきた新聞「青葉新報」の紙面を見て、"青葉"は興奮を抑えきれなかった。

 そこには、紙面上の写真に映る人間が、あたかも現実世界に生きる人々のように動いていたのだ。分かりやすい例を上げると、ハリ◯タの「日刊預言者新聞」のようなものである。

 そう、"青葉"は以前から、折角だから新聞発行にも魔法を使ってやろうとして、試行錯誤していたのだ。その結果、ハリ◯タの新聞にそっくりな魔法新聞が出来上がったのである。

 現在"青葉"の前に広げられている青葉新報の中では、現代日本でいう一昔前のブラウン管テレビのような機械に映されている、処刑されるロデニウス人たちの映像を見て、レミールがニヤニヤ笑っている。彼女の左手はあの要求書を、読者の眼前に突き付けるようにして持っていた。記事見出しは「パ皇皇族、我らが同胞(はらから)を処刑」「我らが祖国に絶対隷属を要求」などと書かれている。

 写真はモノクロ印刷だが、伝えたい内容は十分に伝わるだろう。

 

「ふっふっふ、これなら十分いけるでしょう! 提督からの命令だし、青葉、国内世論を煽って煽って煽りまくりますよぉ!」

 

 "青葉"は満面の笑みを浮かべると、「青葉新報」の配達の開始を命令した。




はい…やりました。
この流れは皆様予想できていたと思いますが…

これで、ふだん「働きたくないでござる」性分の堺さんが、再び殺る気モードに突入しました。
それどころか、あんな新聞をばらまいたら、どうなるやら…


次回予告。

レミールによって、自国民をこともあろうに虐殺されたロデニウス連合王国。報告を受け、国王カナタ1世はあることを決意する…
次回「ロデニウス連合王国の決意」

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