鎮守府が、異世界に召喚されました。これより、部隊を展開させます。   作:Red October

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はい、予告通り、ロデニウス連合王国が決意を見せてきました。
そして、前回仕掛けられたプロパガンダ作戦の結果は如何に…?

では、ごゆっくりどうぞ!



033. ロデニウス連合王国の決意

 中央暦1640年1月23日午前8時55分、ロデニウス連合王国クワ・トイネ州 王国首都クワ・ロデニウス。

 そこでは、現国王カナタ1世をはじめとする連合王国政府首脳部による、緊急記者会見が開かれようとしていた。

 

「まもなく、陛下がご登壇なされます」

 

 魔信ラジオからは、キャスターのアナウンスが流れる。

 フェン王国において、パーパルディア皇国軍が同国上層部(正確にはレミール)の命により、ロデニウス人100人を“処刑”の名の下に()()した1月21日の事件は、「(あお)()新報」をはじめとする各新聞や魔信ニュースによって、既にロデニウス連合王国全国民の知るところとなっていた。

 国内の世論は激しく(ふっ)(とう)しており、『今すぐパーパルディア皇国と開戦し、“太陽の旗の軍”の強さを思い知らせるべきだ』という開戦論から、『国王陛下がどうなさるか、様子を見よう』という()(より)()論、『相手が列強パーパルディア皇国だし、ここは見逃すべきだ』という非戦論まで、あらゆる意見が乱れ飛んでいる。民間でも軍でも、寄ると触るとその話ばかりだ。……しかし、どうも開戦論が多いように思われる。

 それのみならず、その情報は大東洋共栄圏の情報通信網などを通じて、ロデニウス連合王国と国交を有している各国にも伝わっている。既にトーパ王国やネーツ公国、シオス王国などからは、各国の国王直々に哀悼の意が表明されていた。

 

 普通に考えれば、戦争開始待ったなしの案件なのだが……相手はパーパルディア皇国である。多くの文明圏外国家であれば、国力の差を鑑みて、国民100名の犠牲には目を瞑ることになっていただろう。

 

 しかし…今回はいささか事情が異なる。

 何せ今回の当事国は、ロデニウス連合王国なのだ。日本国(の一部)と国交を持ち(本当に国交と言い切っていいかは疑問符が付くが、交流があるのは間違いない)、文明開化を行って、軍事力に関してはムー国もびっくりの近代国家へと生まれ変わった国家である。

 

 おそらくパーパルディア皇国は、ロデニウス連合王国の軍事力を見誤ったのだろう。

 

 ロデニウス連合王国に設置された各国の大使館では、大使をはじめ手空きの職員たちが、(かた)()を飲んで魔信ラジオを見詰めている。また王国の各地でも、仕事の配置に着いたまま魔信ニュースに耳を傾ける者や、家事の手を止めてラジオを弄る者、会見が始まる前になんとかして子供を泣き止ませようと努力する主婦などの光景が見られた。

 タウイタウイ泊地も例外ではない。"(おお)(よど)"が泊地施設内の放送回線をオープンにして魔信ラジオと接続したため、哨戒に当たる者たち以外は全員、ニュースの始まりを待っている状態である。

 

 午前9時きっかり、国王カナタ1世が演壇に立った。黒い喪服を着ており、その顔は険しく笑みなど微塵も見られない。

 

カシャッ! カシャッ!

 

 新聞社各社が導入したムー国製のカメラが、シャッターを切りフラッシュを焚く。その中に混じって"青葉"も、立派な日本製一眼レフのカメラを構えていた。ついでに"青葉"は、ポケットの中に録音しっ放しにしたレコーダーを押し込み、尚且つペンとメモ帳もしっかり用意する徹底ぶりを見せている。

 この頃になると、連合王国内には青葉新報以外にも、新たに5つの新聞社ができていた。ロデニウス連合王国には6つの州があるため、それに合わせて各州に1つずつ新聞社があるのだ。その新聞社の記者たちも、大急ぎで首都クワ・ロデニウスまでやってきて、記者会見に参加していた。

 

「国民の皆様、おはようございます。ロデニウス連合王国国王、カナタ1世です」

 

 カナタ1世が話し出すと、記者たちのフラッシュは止み、記者会見の会場はしーんと静まり返った。まるで、国王陛下のお言葉を、一言も聴き漏らすまいとするように。

 これは何も会場だけに限った話ではない。ロデニウス連合王国全域で、この状態になっているのだ。

 

「皆様も、もう何らかの形で伺っておいでだと思いますが、去る1月21日、フェン王国の都市ニシノミヤコが、パーパルディア皇国軍の攻撃によって陥落しました。ここにおいて、逃げ遅れた我が国の国民100人が、皇国軍に捕らえられました。また、これとは別に外務部からの報告では、まだ103人の邦人の無事が確認できていない、とのことです」

 

 カナタ1世は静かな声で、マイクに語りかけるように、ゆっくり話していく。

 

「我が国はその件に関して、緊急に外交員を派遣しました。すると、パーパルディア皇国はあろうことか、捕らえた我が国の民を人質に、パーパルディア皇国への絶対的な隷属を要求してきたのです。

そして、外交員がすぐに100人の我が国の民を釈放するよう要求すると、彼らは釈放するどころか、信じられないことに、()()()()()()()()()()で、我が国の民100人を処刑したのです」

 

 ここまで言うと、カナタ1世は一旦言葉を切った。そして、胸の前で両手を組み、目を閉じて静かに告げる。

 

「本件に関して、まずは亡くなられた愛すべき我が国の国民の皆様に、哀悼の意を捧げます」

 

 再びフラッシュの嵐が起きる。今の所今日の夕刊は、この写真がトップページを賑わせることになるのだろう。

 

「そして私たちは、この蛮行に目を瞑ってはなりません」

 

 言いながら、カナタ1世は目を開けると、ドン! と両手を演台に衝き、はっきりした声で宣言する。

 

「今回の虐殺事件の()()()、並びに()()()には、必ず罪を償ってもらいます!!」

 

 三度フラッシュの嵐(と言っても、新聞社6社分なのでそんなに多くないのだが)。夕刊のトップページを飾るのは、さっきの祈りの写真とこれと、どちらになるだろうか。

 その光に照らされながら、カナタ1世は更に言葉を紡ぐ。

 

「このままパーパルディア皇国軍を放置すれば、彼らはやがてフェン王国の首都アマノキを攻め落とすでしょう。そうなれば、アマノキにいる約3,000人のロデニウス人が、今回の虐殺と同じ運命に遭うことになる、と分析されています。

我がロデニウス連合王国政府は、"国民の皆様をお守りする”ということに関して、非常に重い責任があります。そして、我が国の同盟国たるフェン王国は、他国であるからといって、決して放置してよいものではありません」

 

 ここでカナタ1世は、一瞬だけ言葉を切った。

 

「我が国としては、外交をはじめ、あらゆる物事を平和的に進めていきたい、と強く願っております。

しかし、話を聞こうとせず、それどころか何の罪もない民を平然と虐殺するような()()()()に対しては、断固とした対応を取らなければなりません!」

 

 右手の握り拳を、顔の辺りまで持ってきて力説するカナタ1世。またも記者たちは、その姿をカメラの乾板に焼き付ける。

 

「我が国と、同盟国たるフェン王国は、両国間の安全保障条約に照らして、互いに協力し合い、()()()()()()()()()をフェン王国から駆逐することで、意見が一致致しました。

現在、政府はもう一度パーパルディア皇国に外交員を送り、今回の虐殺事件に関して責任を取るよう、要求する準備を進めています。もし彼らが要求を呑まなければ、私は、国王カナタ1世の名においてパーパルディア皇国に宣戦を布告するとともに、ロデニウス連合王国軍部に対して命じることになるでしょう。“フェン王国にいるパーパルディア皇国軍を全力を以て撃滅せよ”と!」

 

カシャカシャカシャッ!!

 

 記者たちのカメラが次々とシャッター音を立て、フラッシュが激しく明滅する。

 カナタ1世の演説が終わり、記者たちはカナタ1世や閣僚たち……特に、軍務卿ヤヴィンに対して、多数の質問を投げかけるのだった。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 このニュースは瞬く間に各国にも伝えられ、波紋を呼んだ。

 

 例えば、第三文明圏外の中でも北方に位置し、フィルアデス大陸とグラメウス大陸を結ぶ地峡にある、半島国家トーパ王国。その首都である、人口10万人の都市ベルンゲンでは。

 

「号外! ごうがーい! ロデニウス連合王国が、パーパルディア皇国に対して宣戦布告とも取れる宣言を出したよー!」

 

 ロデニウス連合王国に倣って、トーパ王国でも新聞の発行が開始されていたのだ。新聞屋が声を上げながら、その号外を街頭で配っていた。

 街を行く人々はその声に驚き、我先にと号外を求めて新聞屋に群がる。号外を受け取った者は人の群れからどうにか抜け出すと、やっとのことで手に入れた号外を広げた。そこへ、出遅れて買い損なった者がまた集まって、押し合いへし合いしながら覗き込もうとする。

 

『パーパルディア皇国、ロデニウス人を虐殺』

『ロデニウス連合とパーパルディア、武力衝突か』

 

 見出しに驚いて目を丸くしながらも、人々はこれをタネに話し始める。

 

「おい、どっちが勝つと思う?」

「そりゃあお前、ロデニウス連合王国だろう。新聞でも見ただろう? こないだ海軍の連中が手に入れた新鋭艦を。あれ、ロデニウス連合王国で建造された艦らしいぜ」

「『トルメキア』のことか! あれなら確かに強そうだもんな」

 

 トーパ王国には、「世界の扉」と呼ばれる巨大な壁がある。これは、グラメウス大陸を闊歩する魔物からフィルアデス大陸を守るために、遥か昔に作られたものだ。トーパ王国は、この「世界の扉」と自国の軍を以て、第三文明圏を守ると自負している国家である。

 このため、トーパ王国政府は新兵器の導入には熱心だった。剣と槍、そして弓という旧来の兵器だけでグラメウス大陸の魔物に対抗するのは不安がある、として、ロデニウス連合王国から三八式歩兵銃や九六式軽機関銃を導入し、更に少数ながら九〇式野砲も導入していた。ロデニウス連合王国から野戦砲を購入したのは、トーパ王国が初である。

 そして、大東洋共栄圏への参加とほぼ同時に、トーパ王国はロデニウス連合王国に対して軍艦を1隻発注した。自国の技術向上と海軍力の増強を検討したのである。といっても、トーパ王国の懐事情故に購入できたのは、最も安価なウインク型砲艦だったのだが。

 その際、ロデニウス連合王国側はあるサービスを施した。再設計により主砲を75㎜単装高射砲ではなく、88㎜単装高射砲に換装して売却したのである。しかも、『冬は海が凍ることが多く、海軍や漁船の動きが取れないことが多いから、できるならどうにかしてほしい』というトーパ王国側の願いを受け、その艦首部分に高熱魔法を発生させる魔法具を設置。更に、艦首の硬度をオリジナルより強化して、砕氷機能を持たせてしまったのである。そして中央暦1639年12月25日、このカスタマイズされたウインク型砲艦は正式に引き渡され、トーパ王国に到着した。

 トーパ王国軍部は、それまでの国産の木造帆船とは一線を画する戦闘力を持ったこの軍艦をいたく気に入り、直ちに自国の「世界の扉」のすぐ近くにある城塞都市トルメスにちなんで「トルメキア」と名付け、国民に大々的に公表したのだった。国民たちは、それを聞いて知っていたのである。

 

「あんな船は、パーパルディアでもそうそう作れまいよ」

「しかし、相手は世界の国々の中でも上位の国家、それも列強国だからなぁ。商人たちの噂を聞いたが、パーパルディア皇国がアルタラス王国を攻め滅ぼした時には、パーパルディア皇国にはほとんど被害が出なかったらしい」

「俺は、全面戦争ならパーパルディアが有利だと思うな」

 

 彼らの間では、まだ()()()()()()()()()()()にも拘わらず、ロデニウス連合王国とパーパルディア皇国は戦争をする、という状況は避けられぬものと認識されていた。

 

「しかしよ、この新聞を見る限り、どうやら局地的な戦闘になりそうだな。フェン王国から駆逐すると言っているだけなんだろ?」

「今は、な。だが相手はあの“プライドの塊”、列強パーパルディア皇国だ。もしロデニウス連合王国がフェンでの戦いに勝ったとして、果たしてそこで終わりになるだろうか?」

「いや、ないな。確実に全面戦争に突入するはずだ。だが……俺はロデニウス連合王国が勝つと思うぞ。

俺の友人が軍にいるんだが、最近そいつはロデニウス製の銃を上から支給されたんだそうだ。彼曰く、こんな便利な武器は使ったことがない、と。

彼は弓撃部隊にいて、それまで彼が使っていたのはクロスボウだったんだが、そのクロスボウの4倍以上の射程ととんでもない正確さがある武器だそうだ。しかも、どこを撃っても相手を最低でも動けなくさせられるし、上手く狙えば一撃で相手を仕留められるんだってな。それも200メートル先からだぜ? 信じられるか?」

「こっちにそんな便利な武器を輸出できるくらいだから、ロデニウス本国じゃあこうした武器をバンバン生産して配備してるんだろうな。もしかすると、新たな武器もあるかもしれんぞ」

 

 大東洋共栄圏にも参加し、ロデニウス連合王国の力を一部でも知っているトーパ王国では、ロデニウス連合王国が優勢ではないかという意見が多かった。ちなみにこれは市民たちの間での話で、軍の兵士たちは口を揃えて『ロデニウス連合王国が勝つだろう』と言ったとか。

 

 

 なお、これはトーパ王国に限った話ではない。シオス王国やネーツ公国など、大東洋共栄圏に参加した国々の間では、ロデニウス連合王国が優勢、という意見が多かったのである。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 同時刻、パーパルディア皇国属領アルタラス 旧王都ル・ブリアス。

 パーパルディア皇国に併呑され、属領にされてしまったアルタラス王国であるが、しかし、パーパルディア皇国もアルタラス王国の()()を掌握できたわけではなかった。少人数ではあるが、アルタラス人たちによる反パーパルディアグループが結成されて、地下に潜んでいたのである。

 そんな地下組織の一角には、通信室が設けられ、第三国の魔信ラジオが傍受されていた。通信機を操作している構成員の1人が、その傍受した魔信内容を紙に書き留め、通信室を出て行く。彼が向かった先には、「軍長」と呼ばれるこの地下組織のリーダーがいるのだ。

 

「軍長。第三文明圏のマール王国経由で、面白い魔信を傍受しました」

 

 報告しながら、構成員は紙を軍長に渡す。軍長…元アルタラス王国軍第1騎士団長ライアルは、紙に目を通す。

 

「どうやら文明圏外の2ヶ国が、パーパルディア皇国と武力衝突するようですね。軍長はこの衝突、どっちが勝つと思いますか?」

 

 同志に聞かれ、ライアルは一つ息をついて話し始めた。

 

「ふう……文明圏外国なんだろ? それなら、2ヶ国集まったところで、パーパルディア皇国が圧勝するだけじゃないか? 我が国は文明圏外国ではあったが、武力や国力ならそこらの文明国にも引けは取らなかった。しかし、パーパルディア皇国には手も足も出ず、滅ぼされてしまったのだぞ……。まあ、あの皇国に少しでもダメージを与えてくれれば良いが……どうせ皇国の版図が2ヶ国分広がるだけだろう?」

「軍長は、ロデニウス連合王国という国家をこ存じですか?」

「いや、知らん」

「私はこの戦い、面白いことになるのではないかと思っています。この王国は、クワ・トイネ公国がロウリア王国に大勝した後に、それらの国が連合してできた国家です。ロデニウス大陸の小国でしかなかったクワ・トイネがロウリアに勝つなど、普通に考えれば天地が引っ繰り返ってもあり得ません。しかし現にそれが起きた。私は、クワ・トイネにはよほどの何かがあったと思っています」

「ロウリアを破ったのか? そりゃ確かにすごいが、パーパルディア皇国は別格だぞ? まあ勝利は不可能だろう」

 

 アルタラス王国の反パーパルディア地下組織では、この宣言に関心や希望を持つ者は、この同志1人以外はほとんどいなかった。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 所変わって、第一文明圏列強・神聖ミリシアル帝国、その南端にある港町カルトアルパス。

 神聖ミリシアル帝国は、この世界の住人誰もが認める世界最強の国家であり、カルトアルパスはその交易拠点となっていた。この世界の中央にある拠点にして、世界最強国家の港町であるだけに、商人をはじめ多くの人々が集まっている。

 そんなカルトアルパスのとある酒場では、酔っ払った商人たちが情報交換をしていた。

 

「第三文明圏で魔石の商売をしている商人から聞いたんだが、列強パーパルディア皇国が、第三文明圏外の2ヶ国を相手に戦争をするらしいぞ」

「また2つの国が滅び、パーパルディア皇国の版図が2ヶ国分広がるのか」

「しかし、最近のパーパルディア皇国は滅茶苦茶だぜ。こないだアルタラス王国を滅ぼしたばっかりなのに、もう次の戦争かよ。しかもこのところずっと、そんなことばっかりしてやがる。パーパルディアが戦争をしていない時期なんかないんじゃないかってくらいだ。第三文明圏の統一でもする気かね」

「パーパルディア皇国は列強とはいえ、その序列は中の下ってところだ。この神聖ミリシアル帝国や、第二文明圏のムー国と比べたら、国力は低い。それだってのによくやるぜ、ほんと。世界の主導権でも握りたいのか?」

 

 ここで、商人の1人がビール(ただし炭酸は強力ではない。ロデニウス連合王国がまだミリシアルと国交を結んでいないため、強炭酸ビールは伝わっていないのだ)を(あお)って言う。

 

「しかしその2ヶ国も勇敢だな。国民のほとんどが不幸になると分かっているはずだ。それなのに屈しないなんてな。どこの国だ?」

「剣の国フェンと、ロデニウス連合王国だそうだ」

 

 その瞬間、

 

「なに? ロデニウス連合王国だと?

あーあ、こりゃパーパルディア皇国軍は大ダメージ間違いないだろうぜ。下手すりゃ負けるかもしれん」

 

 30代半ばくらいのまだ若い商人が、そんなことを言い出した。

 

「何だと? どういうことだ?」

 

 他の商人たちが食い付く。彼は、ちょうど通りかかったウェイターにビールのお代りを注文してから、話し始めた。

 

「俺は第三文明圏の方で、金属製品の商いをしてるんだ。あれはそう、去年の9月の終わりだったな。皆さんも、フェン王国に軍祭があるのは知ってるだろ?」

「ああ、聞いたことがあるな」

「俺も知ってる。"第三文明圏外国の軍の見せ合い”だっけか?」

 

 何人かが反応する。金物商人は話を続けた。

 

「そう、その軍の見せ合いの祭さ。俺は去年の軍祭の時、たまたまフェン王国にいたんだ。フェン王国の首都アマノキでちょうどひと商売終えて、さあ港へ行こうとした時に、何かが爆発したような大きな音が海のほうから聞こえた。そこで、急いで港に行ってみたんだが、そこですげえのを見ちまったんだ。

それはな、このミリシアルの軍艦と同じくらいデカい軍艦だ。信じられるか? そんなもんが第三文明圏外にあるなんてよ。だがな、幻なんかじゃなかったんだ」

「は? 第三文明圏外にミリシアル並みの大きさの軍艦? お前、幻でも見たんじゃねえの?」

「1隻だけなら、そうだと思う。だがな、同じようなやつが3隻もいたんじゃ、流石に幻とは思えなかった。しかも、その軍艦は皆ロデニウス連合王国の国旗を掲げていたんだ」

 

 この時、ビールのお代りが届いた。金物商人はそれをぐいっと呷り、喉を潤してから再び口を開く。

 

「俺は驚きのあまり動くのも忘れて、海の方を見ていた。するとそこへ、ロデニウス連合王国の陸軍の連中がやってきて、デモンストレーションを始めたんだが……信じられんだろうが、ロデニウスの連中は皆、銃を持っていたんだぜ!」

「銃だって!? それじゃ、少なくともパーパルディアとは同格くらいじゃねえか!?」

「おいおい嘘だろ? ロデニウスが銃を?」

 

 他の商人たちが驚きの声を上げる。

 

「だろ? しかもそれだけじゃない、ロデニウス軍の隊長は、パーパルディアの銃を時代遅れの産物だと言い切り、自分たちの銃の方が優れていると主張したんだ。そして、どっから手に入れたのか知らんけど、パーパルディアの銃を持ち出してきて、ロデニウスの銃と撃ち比べをやり出したんだ」

 

 もちろんこれはパーパルディアの銃ではなく、かつての日本で使われていた銃……のコピー品なのだが、一介の商人がそんなことを知る由もない。

 

「何だって!? そいつら、どこからそんなもん手に入れたんだ!?」

「俺が知るわけねえだろ。で、その撃ち比べの結果だが……素人の俺にもわかったよ。ロデニウスの銃の方がよっぽど優れてるってな。

その撃ち比べは、200メートルくらい離れたところにある3つの的を撃ち抜けるか、ってものだった。パーパルディアの銃は3発撃って1発しか当たんなかった。だが、ロデニウスの銃は全部命中したんだ。しかも、パーパルディアの銃は3発撃つのにたっぷり1分はかかったが、ロデニウスの銃は3発撃つのに10秒もかかってなかったんだぜ!」

「はあ!? 何だその性能差は!? ロデニウスがほんとにそんな銃持ってんのかよ!?」

「全くだ。それじゃ、下手するとムーの銃でもロデニウスの銃に勝てねえぞ?」

「驚くのはそれだけじゃない。そいつらは別の銃も出してきたんだが、これまたとんでもないやつなんだ。ズダダダダダダダ! って感じで、1秒に5発くらい連続して撃てるんだ。しかも、ちゃーんと的に命中している。撃ち終わった時には、的は3つとも木っ端微塵だったぜ」

「バケモノすぎるだろロデニウスの銃!? 1秒に5発連続発射とか、どんな銃だよそれ!?」

「おいおいマジかよ。そんな銃が千も万も出てきたら、各国の軍はあっという間に全滅じゃねえか」

「そして、まだあるんだ。祭の最中に、パーパルディア軍のワイバーンロード……多分国家監察軍だと思うが、そいつらが20騎くらい襲ってきたんだ。そしたら、ロデニウスの軍艦3隻は、ものすごい音と一緒に、空の色が煙で真っ黒になるくらいの攻撃を行って、そのワイバーンロードを全部撃ち落としたんだよ! あれには俺も開いた口が塞がらなかったぜ」

「何なんだそりゃ!? ロデニウス連合王国ってそんなに強いのかよ!?」

「正直バケモノすぎるぜ。ワイバーンロード20騎を船で叩き落とすかぁ……」

「信じられねえな。だがよ、今度のそいつらの相手は正規軍だろ? それなら、どうなるか分からんと思うけどな?」

 

 酒場では、「ロデニウス連合王国が意外な力を持っているらしいが、それでもパーパルディア皇国が勝つだろう」という意見が多くを占めていた。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 そして、フェン王国の首都アマノキでは。

 

「………」

 

 剣王シハンが、モトムから渡された書面に目を通していた。そこには、ロデニウス連合王国がフェン王国との安全保障条約に基づき、フェン王国に援軍を派遣し、場合によりパーパルディア皇国に宣戦布告した上で軍事行動を取る、というような内容が書かれていた。

 書面から顔を上げた時、剣王シハンはこれまでにない上機嫌になっていた。

 

「よし! よし!!」

 

 その顔には、満面の笑みが浮かんでいる。

 

 フェン王国単独では、国力の差を考えればパーパルディア皇国に敗戦するのは明白であった。だが、“あの”ロデニウス連合王国が、対列強戦に参戦する腹を固めたらしいのである。

 

 そう、かつてパーパルディア皇国の国家監察軍を叩き潰したあの「太陽の旗の軍」が、またやってくる。今度は、パーパルディア皇国の正規軍と戦うために来るのだ。

 

 以前の軍祭の折に、ロデニウス連合王国陸軍の隊長は、パーパルディア皇国の主力兵器であるマスケット銃を、200年遅れの骨董品だと言い切り、我々の銃の方が性能が優れている、と実射を以て示した。

 3発発射するのに1分もかかるパーパルディアの銃に対して、3発撃つのに10秒とかからないロデニウスの銃。しかも、ロデニウスの銃は極めて精度が高く、150メートル先の的を3つ連続で撃ち抜いて見せた。パーパルディアの銃では、辛うじて1発を当てるのがやっとだった、というのに。

 現在この三八式なる銃は、フェン王国軍にも「銃剣道」という形で導入され、フェン王国の武人のうち2~3割がこれを所有している。三八式歩兵銃は、これまでにフェン王国が導入したどの武器よりも高いので、まだまだ全面採用はできていない。だがそれでも、少しずつ使い始める者が増えていた。

 それに続いて、機関銃の登場だ。これは更に凄かった。30発くらいの弾を、5秒ほどの間に連続で射撃して見せた。しかも、150メートル先の的にもしっかり命中させ、粉々に吹き飛ばす、というトンデモ性能である。あんな銃があれば、パーパルディア皇国軍にも対抗が可能であることはまず間違いない。ちなみに、フェン王国軍もこれの導入を検討しているのだが、いささかお値段が張るので、正式導入は見送られている。

 そして、あの軍艦。あれは本当に凄まじい性能があった。フェン王国が用意した標的船を、たった一撃で消滅させるほどの威力を持つ、巨大な魔導砲。ワイバーンロードの火炎弾を受けても、平気な様子で行動できるだけの強靭さ。そして、そのワイバーンロードを返り討ちにできるほどの、強烈な対空攻撃の嵐。あれだけの性能の軍艦は、パーパルディア軍であっても持っていないだろう。

 仮にあの軍艦を購入するとしたら、フェン王国の歳入だと3年分くらいがいっぺんに吹っ飛ぶことになりそうなので、こちらも導入はできないが。

 

 しかも、大東洋共栄圏に参加した後で、供与可能な武器のカタログを見て驚いたのだが、なんとロデニウス連合王国軍は、それ以外のものも持っていたのだ。

 それは、地面に置かなくても両手で持てる機関銃と、拳銃という小さな銃、それと航空機。

 隣国ガハラ神国に生息する風竜のおかげで、フェン王国にはワイバーンがおらず、従ってフェン王国の空の守りは極めて貧弱であった。しかし航空機を導入できれば、風竜に怯えることもなく、フェン王国の空を守ることができる。

 尤もこの航空機、フェン王国の懐事情からするとかなーりお高い代物(軍艦ほどではないが)なので、導入するのは全く以て簡単ではない。それに加えて運用するためには、どうやら「滑走路」という、相応の長さの平坦な土地が必要になるらしい。これの建設も必要である。加えて、運用するのは人間である以上、乗り手の訓練も必要になるのだ。

 なので、航空機は手に入れたからといって今すぐでも使える…というものではなく、そして導入自体が簡単なことではないということが、なかなかに頭の痛いところではある。だが、もし導入できれば、かなりの戦力になるはずだ。

 シハンは将来的には、“フェン王国にも小規模で良いから航空機を導入したい”と考えている。

 

 何にしても、あのロデニウス連合王国がこの戦争に介入してくるらしいのだ。これでフェン王国は救われた。

 

「モトムよ」

「はっ」

 

 シハンは、書類を渡してきたモトムに命じた。

 

「我が国の武人たちや民間人たち、全ての民に伝えるのだ! “ロデニウス連合王国に、全面的に協力せよ”と! 王宮騎士団長マグレブにも伝えるのだ!」

「御意!」

 

 かくして、フェン王国はロデニウス連合王国軍を迎え入れ、パーパルディア皇国皇軍と戦う準備に入るのだった。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 その一方、ロデニウス連合王国内で堺の仕掛けたプロパガンダ作戦は、ある意味において見事に成功していた。

 

「我々の同胞を殺したパーパルディアを許すな!」

「植民地要求反対! 我々は断固戦うぞ!」

 

 首都クワ・ロデニウスでは、何人もの人々が小型の看板を持ち、ロデニウス連合王国の国旗を掲げてデモ行進をしていた。看板には『パーパルディア許すまじ』『鬼畜パ皇に鉄槌を!』などと書かれている。ロデニウス連合王国政府に対する、“開戦要求デモ”であった。

 なお、看板の一部には、例のレミールによる処刑の様子を報道した「青葉新報」が貼り付けられ、レミールの顔に向かって剣が振りかざされる絵が描かれたものがあった。それだけを見ても、ロデニウス連合王国民がこの処刑にどれだけ激怒したかということ、そして堺と"青葉"による新聞を使ったプロパガンダ作戦がどれほどの効果を上げたかということが、よくお分かりいただけるだろう。

 

 また、"青葉"が堺の密命を受けて作成していた種々のポスターが、ロデニウス連合王国軍部にデザインを認められて大量印刷され、王国各地にばら撒かれて街頭に貼り出された。その結果、ロウリア州やエスメラ州では、徴兵ポスターを見た多くの若者がこぞって徴兵センターに押し掛ける、という事態が発生。同州に幾つかあった徴兵センターは、その全てが軍への入隊を希望した若者で溢れかえる、という次第となった。

 ちなみにこの徴兵ポスターは、まず陸軍のものが『我々は君の入隊を待っている!』とデカデカと書いて、その下に正面を向いた陸軍大臣ハンキがこちらを指差している格好になっている。その下に小さく、『入隊申請は、最寄りの徴兵センターへ』と書いて住所と地図が載せられていた。

 海軍は、海を疾走するアイカ型重巡洋艦の姿が背景にされており、『海軍兵徴募』と一番上に大きく書いて、下のほうに『募集要項の配布、入隊申請は徴兵センターへどうぞ』と書かれている。

 最も勇ましいのが空軍と航空隊で、『来れ若鳥たちよ!』『空を舞え、祖国を守れ!』などと書いて、ワイバーンに乗った竜騎士、もしくは青空を飛ぶ「(はやぶさ)」(海軍航空隊は零戦)を見上げるドワーフ族の若い男性、という構図になっていた。

 これ以外にも、クイラ州やアルカノ州では、先行して売り出されていた戦時国債1万枚が、たった半日ほどで完売する、という前代未聞の事態に。明らかに、戦時国債の購入を勧める街頭ポスターの効果が出ていた。

 ちなみにそのポスターのデザインは、『衣服ではなく、戦時国債の購入を!』という標語の下に、エルフ族の女性が値札の付いた衣服ではなく、ポスター右端から伸びている大きな手(この手は途中で見切れている)から戦時国債を受け取り、それに代金を払おうとしている絵だった。

 まだ開戦してもいないのに「戦時」国債とはこれ如何に。……というところであるが、堺はこうなるのを予想して、先に戦時国債を発行しておくよう、財務部に打診していたのだ。

 発行しておけば、仮に戦争になったとすれば(十中八九開戦は避けられないと堺は予想していたが)それによって、早くから戦争のための費用を確保できる。仮に戦争回避になったとしても、いざ別のタイミングで別の国家と開戦した時に、どの程度の財源が確保できそうか、今回をテストケースとして測ることができる。だから、どう転んでも損にはならないと。

 

 

 かくして、ロデニウス連合王国内ではパーパルディア皇国との開戦を主張する世論が、その勢いを増していたのであった。

 

 

 そして堺は再び"(きり)(しま)"とともに、パーパルディア皇国の皇都エストシラントへと向かう。前回出された要求書への回答と、ロデニウス連合王国からの要求を伝えるため。そして……もしパーパルディア皇国が要求を拒絶したならば、宣戦布告状を叩き付けるため。

 ちなみに、堺は出立前に、外務部のリンスイ(きょう)にきっちりと宣告しておいた。「今回のパーパルディア皇国のことについては、自分が責任を持ってやらせてもらう。その代わり、できる限りもう二度と、こんな外交案件を押し付けないで欲しい。軍部の仕事と外交が重なると、自分にとってはハードすぎる仕事になってしまうから」と。




はい、ほぼ開戦待ったなしの状態となりました。まあ、そうなるな。

次回でいよいよどうなるかが決定します…が、申し訳ありませんが、今回は次回予告はパスさせていただきます。というのは、次回のタイトルがそのまんま進路を決めてしまうものになっておりまして、完全にネタバレでしかないので…
たいへん申し訳ありませんが、結果がどうなるかは、次回の投稿をお待ちくださいませ!

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