鎮守府が、異世界に召喚されました。これより、部隊を展開させます。   作:Red October

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な…な、何…だと…!?
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皆様、本当に、本当にありがとうございます!感無量です!!
嬉しさのあまり、一気に書き上げました。

評価7をくださいました特製プリン様
評価9をくださいましたsato905様、天津原桜花様、Malk様
評価10をくださいましたtake8025様
ありがとうございます!!
また、新たにお気に入り登録してくださいました皆様、ありがとうございます!


もしHoi4に日本国召喚modがあったら、拙作のデータで今起きてること。

『戦争目標正当化完了 対象国:パーパルディア皇国 征服の正当化が完了しました』カチッ(OKを押すクリック音)

カチッ『外交活動』選択

カチッ『宣戦布告 パーパルディア皇国に対し、戦争を行います』
カチッ(『送る』を選択する音)←今ココ
野郎、ぶっ殺してやらあぁぁぁぁっ!

はい、初っぱなからネタバレ全開でした。


今回ですが、場面が多いせいもあって、文字数がめちゃくちゃ多いです。その文字数、なんと歴代最高の2万9百字オーバー!
ここまで書いたのは、どの作品でも全く初めてです。よくこんなに書いたなぁ…
というわけで、今回は本当に区切って読んでもらったりして構いません。とにかく長いので、ごゆっくりお読みください。
え? こんなの一口ならぬ一読みサイズ? …さいですか。

あと、今回は史実やら映画やらからネタを拾ってきています。どれだけ発見できますか?



034. 決断! 対パーパルディア戦突入!

 中央暦1640年1月21日午後1時、第二文明圏 列強ムー国。

 パーパルディア皇国が、ロデニウス人100人を虐殺したというニュースは、既に「世界のニュース」を通じてムーにも伝わっていた。ロデニウス連合王国とパーパルディア皇国の間に戦争が(ぼっ)(ぱつ)するのは、ほぼ必定と考えられたため、ムー統括軍司令部は大急ぎで全ての軍幹部を集め、どっちの国に観戦武官を送るべきか、討議し始めた。

 ロデニウス連合王国とパーパルディア皇国、どちらも観戦武官の派遣を要請すれば受け入れてくれるだろう。

 だが、()()()側の国に観戦武官を派遣すると、戦闘に巻き込まれて死ぬ可能性が高くなるため、派遣先は(しん)(ちょう)に決める必要があった。

 かといって、開戦までの時間はあまりない。慎重に、かつ大急ぎで決める必要がある。

 

 いつもなら、派遣先はパーパルディア皇国で決定だろうが……今回は事情が特殊だ。何せ相手は「あの」ロデニウス連合王国である。

 

 そして今、昼食もそこそこに始められたこの会議は、決定を下そうとしていた。

 

「以上のことから、ロデニウス連合王国は我が国ムーよりも高い科学技術と、それを維持できるだけの国力を保有していることは疑いない。パーパルディア皇国の技術では、勝率はほぼ0パーセル(パーセルは、パーセントにあたる単位)と言い切れるであろう。

また、パーパルディア皇国の技術は既に我が国の情報部によって把握済みだが、ロデニウス連合王国の技術は未知数の部分が多く、しかも()()()()だ。これを調べ、技術体系を解明できれば、我が国の進歩に大いに貢献すること確実である。

従って、情報分析課の分析に基づき、観戦武官はロデニウス連合王国に派遣することとする!」

 

 議長の決定に、拍手が起こる。

 

「時間が惜しい、このまま続けて誰を派遣するかも決めてしまおう。

情報分析課のトップであるマイラス・ルクレール君と、かつてロデニウス連合王国の軍艦を見たリアス・アキリーズ君は決定として、せっかくの機会なので彼らの戦術思想を見てきてもらいたい。また、この機に彼らの文化についても、最新情報を仕入れたいとの要望が外務部から寄せられている。

故に、戦術士官のラッサン・デヴリン君をこれに加え、統括軍から3名、外務部から1名、合計4名を派遣することとする! 選ばれた各員は、よろしく頼んだぞ!」

 

 その10分後、人員がはけて空になった会議室で、マイラス、リアス、ラッサンの3人は、旅程その他について説明を受けていた。

 

 ロデニウス大陸とムーとの距離は、約21,000㎞。非常に遠い旅程であり、ムー国の航空機にはこれほどの距離を一気に飛べるだけの航続距離を持つ機体はない。

 よって、ムーの航空機としては最も長大な航続距離を有する輸送機兼旅客機「ラ・カオス」を利用し、世界各国にムー国が建設している空港を中継して、ロデニウス大陸へ向かう。途中の中継空港に降りての給油は3回、合計5日の旅程である。なお、ロデニウス連合王国のタウイタウイ島には、相当に整った設備の空港があるそうなので、最終的にそこへの着陸を予定している。

 フィルアデス大陸を過ぎ、ロデニウス大陸に近付くと、ロデニウス連合王国軍が護衛機を飛ばしてくれるので、旅程の最終局面では彼らのエスコートを受けることになる。

 タウイタウイ島に着陸後、できる限りすぐにフェン島を目指す。しかし、ロデニウス連合王国政府は「現地では既に戦闘が起きている可能性が高い」としており、戦闘の途中からの観戦になる可能性が高い。

 

 解散後、3人は大急ぎで写真機だのメモ帳だの様々な品物を準備し、旅の用意を整えた。

 そして3時間後、彼らは外務部より派遣されることになった文化調査官の女性アイリーン・グレンジャーと合流すると、ムーの誇る旅客機「ラ・カオス」に乗り込み、(はる)か彼方のロデニウス大陸を目指し、大空へと舞い上がるのだった。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 それから5日後、中央暦1640年1月26日、所はフィルアデス大陸 パーパルディア皇国 (こう)()エストシラント、皇宮パラディス城。

 第三文明圏の各地から集められた(正確には()()()()()、と言う方が正しい)富で栄える皇都、その国力の象徴ともいえる皇宮に、主として住まう男、皇帝ルディアス・フォン・エストシラント。

 彼は現在、執務を一時休憩して私室で(くつろ)いでいるところである。その彼の前には、美しい銀髪の女性が1人。申すまでもなく、レミールその人である。ルディアスはレミールと雑談をしているところだった。

 

「レミールよ。この世界のあり方について、そしてこのパーパルディア皇国について、お前はどう思う?」

 

 雑談中のルディアスからの質問である。

 

「はい、陛下。多くの国々がひしめき合う中、我が国パーパルディア皇国は、第三文明圏の頂点に立ち、また世界5列強にも名を連ねています。

多数の属領を統治する方法として、我が国は“恐怖”を利用していますが、これは非常に有効であると思います」

 

 レミールの答えに、ルディアスは頷く。

 

「うむ、その通りだ。恐怖による支配こそが、国力増強のためには必要だ。

神聖ミリシアル帝国やムー国は、近隣の国々と(ゆう)()政策を取っている。そんな()()()()よりも我が国が下に見られているということ自体が、我慢ならん。

我が国は第三文明圏を武力で統一し、大国、いや、()()()として君臨する。そしていずれは第一文明圏、第二文明圏をも支配し、パーパルディア皇国による世界統一を行って、全世界から争いをなくす。それによってもたらされる()()()()こそ、世界の国々の人のためになるのだ。そうは思わぬか? レミールよ」

 

 レミールは、感動に身体が震えるのを感じた。

 陛下はなんと、器の大きい男なのだろうか。

 

「へ、陛下がそれほどまでに世界の民のことをお考えだとは……レミール感激でございます」

 

 レミールは感動のあまり、目に涙を浮かべている。

 

 だが読者諸賢の皆様は、もう分かっているだろう。このルディアスの考え方が、矛盾と間違いに満ちているということを。

 

 実は、神聖ミリシアル帝国にしてもムー国にしても、近隣の国々を武力で制圧・威圧していた時代があったのだ。そして、そのやり方の()()()に気付き、外交を融和政策に切り替えてきた歴史があるのである。しかしルディアスは、そのことに全く気付いていない。

 それに、神聖ミリシアル帝国にしてもムー国にしても、技術レベルは明らかにパーパルディア皇国を超えている。

 神聖ミリシアル帝国は、言うまでもなく非常に高い魔導技術(ただし、古の魔法帝国の遺跡の解析に頼ったものであるので、独自の開発力そのものは低い)を持ち、軍艦1つ取っても地球基準で西暦1930年代レベル(パーパルディア皇国の魔導戦列艦は地球基準で西暦1800年代)のものがある。ムー国にしたって、軍艦の建造技術は西暦1900年代レベル(最新鋭のラ・カサミ級戦艦が日露戦争の時の戦艦()(かさ)レベル)がある。

 パーパルディア皇国の()()()()()()が、そんな近代艦隊に敵うわけがない。よって、パーパルディア皇国による世界統一は、()()()()()()()()と言い切れるだろう。

 更に言うと、恐怖による(さく)(しゅ)をやっておいて何が()()()()だ、図々しい、という話でもある。恐怖の利用は、確かに統治の方法の1つではある。だが、メリット以上にデメリットの目立つ方法だ。恐怖の元となる強大な軍事力が打ち砕かれた時、反乱が発生する危険が大きいのである。

 

 皇帝ルディアスは話を続ける。

 

「そのためには、多くの血も流れるだろう。だが、それは大事を成し遂げるための小事であり、やむを得ない犠牲だ。そして、皇国の障害となる者たちは、排除していかなければならない」

「はい!」

 

 ルディアスの言葉に、レミールは勢いよく頷く。

 現代に生きる我々から見れば、なんと(ごう)(まん)な考え方だ、と言わざるを得ない。

 

「そういえばレミール、フェン王国とロデニウス連合王国についてはどうなっている? そなたの口から聞かせてくれ」

「はい。皇軍はフェン王国の西部の都市、ニシノミヤコを制圧しました。その時に、ロデニウス人を100人ほど捕らえ、ロデニウス連合王国との()()()()()()ました」

 

 ルディアスが疑問を呈する。

 

「役立てた、とは?」

「我が国の要求を伝えたところ、ロデニウス連合王国の外交担当者は曖昧な返事をしました。そこで、捕らえたロデニウス人100人を()()()し、その様子を映像付き魔導通信で中継して、ロデニウス連合王国の外交担当者に見せました」

 

 レミールの報告を聞いて、皇帝ルディアスは顔に薄笑いを浮かべる。

 

「ほう、それはそれは。相手はさぞかし慌てただろう。私の言った通り、教育の機会を与えたのだな。して、ロデニウスの外交担当者の反応は?」

(ばん)(ぞく)らしく、大声を上げていました。いや、あれでは蛮族どころかむしろ猿でしょう。陛下、あのような民は問答無用で滅ぼしたほうが良いと思うのですが、何故わざわざあのような者たちにも、教育の機会を与えるのですか?」

 

 レミールが尋ねると、皇帝ルディアスはゆっくり答えた。

 

「レミール、私は相手がどんな蛮族でも、()()()滅びを回避する機会を与えなければいけないと思っている。それでも気付かぬ愚か者たちであれば、滅してしまえばよい。そう考えているのだ」

「承知しました。陛下、ロデニウス連合王国とはフェン王国の首都アマノキを陥落させ、現地にいるロデニウス人を捕らえた後に再度会談を行う予定です。そこで、皇国からの要求を拒否するようであれば、捕らえたロデニウス人を再度殺処分し、その後本格的に(せん)(めつ)(せん)を実施するか否か、陛下のご判断を仰ぎたいと思います」

「うむ、分かった」

 

 ルディアスがそう言った時だった。

 

ピピピッ、ピピピッ、ピピピッ……

 

 レミールの左腕に装着されているブレスレットが、音とともに淡い緑色の光を放った。どこからか魔信が入っている。

 レミールは()(げん)な顔をする。今日は、この後特に外国の使節と会うような予定はなかったはず……

 レミールは、ルディアスの顔に目を移した。

 

「その魔信は公務だろう? ……今は、公式の場ではない。私的に話をしていただけだ。そこの魔信を使って良いぞ」

「ありがとうございます」

 

 レミールはルディアスに一礼すると、魔信に出た。

 

「レミールだ。何事だ?」

『第1外務局長のエルトです。ロデニウス連合王国の使者が、急遽話をしたいと申し出てきたのですが、如何致しましょうか?』

「分かった。すぐに行くから、待たせておけ」

 

 レミールは魔信を切り、ルディアスに向き直る。

 

「陛下、ちょうど話題に上がっていたロデニウス連合王国が、(きゅう)(きょ)会談をしたいと申し出てきました。教育の成果が出て、陛下の御慈悲に応えるのかもしれません。行って参ります」

「うむ。蛮族とはいえ、国の存亡が賭かって必死なのだろう。アポなしの会談については、許してやれ」

 

 レミールは再度ルディアスに一礼し、部屋を出ていこうとする。が、途中ではっとした表情で振り返った。

 

「陛下、今日は他にご予定がございますか?」

「いや、大きなものは特にないぞ」

「それでは、会談終了後に戻って参ってもよろしいでしょうか?」

「良いぞ」

 

 レミールは満面の笑みを浮かべると、今度こそルディアスの私室を出ていった。

 

 

 その5分後。

 ロデニウス連合王国の使者……(さかい)(かん)(むす)の"(きり)(しま)"は、第1外務局窓口から場所を移し、以前と同じ応接室でレミールと対面していた。もちろん、"霧島"は録画することを忘れていない。

 ゲスな笑みを浮かべながら、レミールは話し始める。

 

「急な来訪だな。まあ、国の存続が()かっているのだから、気持ちは分かるがな。皇国は寛大だ。アポなしではあるが、国の存亡が賭かった者たちだ。今回は許して遣わそう」

 

(やっぱり上から目線だな。()()()を提出した時のあの女の顔が見物だな)

 

 レミールの話を聞きながら、堺は持ってきた国書を入れた(かばん)をそっと()でた。

 

「して、前回皇国が提示した条件について、検討結果を聞かせてもらおうか」

 

 堺は、ゆっくりと話し始めた。

 

「今からお伝えすることは、ロデニウス連合王国政府の正式な決定事項であり、()()()()()()です」

「ほう、やっと皇国の力を理解したのか」

 

(譲歩を引き出そうと交渉に来たか……()(ざか)しい)

 

 レミールが考えていると、

 

「それでは、まずあなた方、パーパルディア皇国のために、以下のことを提案いたします。こちらの国書をご覧ください」

 

 堺は、鞄を開けて国書を取り出し、レミールに手渡した。

 

(さて、ここからが(しょう)(ねん)()だぞ)

 

 堺は心の中で呟く。

 レミールは渡された国書を読んで……目を疑った。そこにはこう書かれていたのだ。

 

 

ロデニウス連合王国政府は、パーパルディア皇国に対し次のことを要求する。

 

1. パーパルディア皇国は、現在フェン王国に展開している軍隊を即時撤収すること。

2. パーパルディア皇国は、フェン王国に対し被害を与えたため、フェン王国政府に対して公式に謝罪し、賠償を行うこと。なお、賠償額については、実被害額の5倍の金額を、金塊に立て替えた上で支払うこととする。

3. パーパルディア皇国は、ロデニウス人の虐殺に関し、罪を認めて正式に謝罪するとともに賠償金を支払うこと。賠償額については、被害者の遺族に対し、被害者1人あたり100,000,000パソ(パソは、パーパルディア皇国における通貨の単位)を金塊に立て替えた上で支払うこととする。

4. パーパルディア皇国は、今回のロデニウス人虐殺に関して、ロデニウス連合王国の法律に基づいて処罰を行うため、本虐殺事件に関与した全ての人間の身柄、及び重要参考人の身柄を、ロデニウス連合王国に引き渡すこと。

5. 先日貴国より手交された要求文書については、ロデニウス連合王国政府はその要求の一切に応じない。パーパルディア皇国は、これを承知すること。

 

最後に、以上の条項全てが守られると確約できない場合、我が国が(しか)るべき措置を取ることを、留意願いたい。

 

 

「!!! 何だこれは!?」

 

 レミールにとっては(せい)(てん)(へき)(れき)であった。

 パーパルディア皇国に屈するのかと思いきや、まさかの()()である。それも、パーパルディア皇国に対し、文明圏外国に頭を下げて謝罪しろ、と。

 

「以上のことが約束できないのであれば、我がロデニウス連合王国政府は"然るべき措置"を取ります。

なお、ロデニウス人虐殺に関してですが、当然ながらレミール殿、貴女も我が国に来ていただくことになりますし、この国の皇帝ルディアスについても、重要参考人として来ていただくことになります。

これは我が国の意志であります。譲歩は一切認めません」

 

 堺は、淡々と言い切った。

 

「……やはり蛮族だな。皇帝陛下の御慈悲が分からぬとは……戦争により、自国を滅したいのか?」

 

 高圧的に(にら)むレミール、対して顔色も変えない堺。

 

「いいえ。我が国は、あくまで()()()に外交を進めたいと思っております。しかし、何の罪もない自国の民を()()()()()()()ような国家に対しては、断固とした対応を取らなければなりません。ただそれだけです」

「蛮族が……無礼な……」

 

 レミールは、憎々しげに言い放つ。

 

「私からすれば、()()()()なのはどっちだ、って話ですがね。それでは、答えなどとっくに予想できていますが、伺いましょう。

貴国、パーパルディア皇国は、その国書に定められた要求に従いますか?」

 

 堺は恐れる様子もなく、レミールに問う。

 

「ふん、何故我が皇国が蛮族ごときの要求に従わねばならぬのだ?」

「よろしいのですか? その国書に示した条件は全て、貴国の民のためです。このままでは、本格的な戦争となるでしょう。我々は、軍事とは直接関係のない貴国の民が戦闘に巻き込まれ、命を落とすことを良しとしません」

「馬鹿だな。お前たちは文明圏外国の中では自信があるのだろうが、文明圏外国と列強との根本的な国力の差というものを、理解できていない。

まあ良い、まだ教育が必要なようだな。フェン王国の首都アマノキを落とした後、そこにいるロデニウス人も殺処分するとしよう。そこで、止められない自分たちの力を思い知ることになるだろう。その時の会談が楽しみだな。スパイ容疑にかかったロデニウス人の処刑、特等席で見せてやるぞ?

お前たちは、皇帝陛下の御意志によって生かされているということを、忘れるな。皇帝陛下がその気になれば、殲滅戦になるぞ。全ての国民が処分されることにすらなるということを、理解しろ」

 

 そう言って、レミールが口を閉ざすと、

 

「……はぁ」

 

 堺は1つため息をついた。

 "霧島"はその瞬間、堺の瞳に決意の色が宿るのを、決して見逃さなかった。

 

(交渉決裂……開戦ね)

 

 "霧島"がそう考えた時、

 

「承知しました、それではこちらもお渡ししておきましょう」

 

 堺はそう言うと、懐から1通の国書を取り出し、それをレミールに手渡した。

 "霧島"はもちろん、その国書が何なのか察している。

 

(あれは……宣戦布告状ね)

 

 そして堺は、レミールにはっきりと言い切る。

 

「先に通告しておきます。ロデニウス連合王国は実力を以て、フェン王国に展開するパーパルディア皇国軍を駆逐します。フェンでの戦いが終わったら、再度会談することにいたしましょう。我が国の意志は堅いということを、ご理解いただきたい。

あと1点、我が国に降伏する場合は、白旗を振ってください。それでは、失礼します」

 

 そう言うと、堺はくるりとレミールに背を向けて、"霧島"とともに退室した。

 

 

中央暦1640年1月26日 午後3時30分、ロデニウス連合王国、パーパルディア皇国に対し宣戦布告。開戦は1月28日。

 

 

「霧島」

 

 15分後、パーパルディア皇国を離れた駆逐艦「(あま)()(かぜ)」の艦上で、堺は"霧島"を呼んだ。

 

「ご命令を、司令。無線機の用意は既にできています」

 

 "霧島"も、何を言われるかは既に察している。自称「艦隊の頭脳」は()()ではない。

 

「ロデニウス大陸とフェン島に宛て、打電せよ。『(アサ)()(ヤマ)(ノボ)レ マルヒトフタハチ(0128)』。繰り返す、『浅間山登レ マルヒトフタハチ』だ」

「『浅間山登レ マルヒトフタハチ』、了解しました」

 

 『浅間山登レ 0128(マルヒトフタハチ)』……そう、「パーパルディア皇国との交渉決裂、これより戦争に突入する。1月28日を期して、ロデニウス連合王国陸軍第1・第13軍団及び海軍第13艦隊は、フェン王国にいるパーパルディア軍と交戦、これを撃滅せよ」という暗号電文だ。

 "霧島"は、この暗号を素早くモールス信号に変換すると、送信電力をフルスケールにして、ロデニウス大陸とフェン島に向けて発信した。

 

 

 その更に10分後。

 タウイタウイ泊地・第13艦隊司令部では、"大和(やまと)"と"(おお)(よど)"、そして"(あお)()"が、真剣な面持ちで無線機と睨めっこしていた。ヘッドホンを装着した"大淀"は手に鉛筆を持ち、聞き取った電文を紙に書いていく。

 彼女の手元には、こんな電文が書き上げられた。

 

「発 霧島、宛 タウイタウイ艦隊全艦及びロデニウス連合王国軍部。浅間山登れ 0128。ヒトゴーヨンナナ(15時47分送信、の意)」

 

「来ましたね」

「ええ」

 

 "大和"と"大淀"は互いに頷き合った。そして、"大淀"が"青葉"に目配せする。

 

「お任せを! 既に青葉新報の準備はできてます!」

 

 素早く"青葉"は、無線室を飛び出していく。

 ほどなく、タウイタウイ泊地全域に空襲警報に似たサイレンが鳴り響き、続いて"大和"の声が無線の波に乗った。

 

「こちらは、秘書艦の大和です。タウイタウイ泊地所属の全艦娘に告げます。ロデニウス連合王国は、たった今パーパルディア皇国に対し、宣戦を布告しました。これより、タウイタウイ泊地は第一種戦時態勢に入ります。繰り返します、ロデニウス連合王国はパーパルディア皇国に、宣戦を布告しました。総員、第一種戦時態勢に移行してください」

 

 そして、16時のロデニウス連合王国の魔信ニュースは、速報を全国民に伝えた。

 

「臨時ニュースを申し上げます。臨時ニュースを申し上げます。

(だい)(ほん)(えい)陸海空軍部発表、本日15時30分、ロデニウス連合王国は大東洋において、パーパルディア皇国と戦闘状態に入れり。繰り返します、ロデニウス連合王国は本日15時30分、パーパルディア皇国に対し宣戦を布告しました。

本件に関連して、連合王国政府及び軍部は、声明を発表しています。それによれば、『本戦争の開戦に至った事由は4つ挙げられる。第1が、今回の虐殺事件に対する抗議。第2が、友邦たるフェン王国の救援。第3が、将来的な自存自衛。そして第4が、大東洋共栄圏に対する脅威の排除である』とのことです……」

 

 以上の内容のニュースが、1時間ごとに繰り返し報じられた。

 このニュースと「青葉新報」により、ロデニウス連合王国の国民全員が、自分たちが真にパーパルディア皇国と戦うことになったのだと理解した。だが、国民たちは何も恐れてはいなかった。何しろこちらには、精強な軍隊もさることながら、“赤い太陽の旗を掲げた艦隊”がいるのだから。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 堺、"霧島"、レミールによる会談が行われ、宣戦布告状が手交される数時間前、フェン王国の首都アマノキには、ロデニウス連合王国・第13艦隊の派遣戦力が到着し、兵士や砲、戦車の揚陸作業を行っていた。

 そのうち、浜辺に接近したラ・フランス型強襲揚陸輸送艦5隻の前には、何人もの兵士が集まっていた。ヒト族もいれば、亜人族もいる。

 彼らの後ろには、20輌の戦車が横一列に並んでいた。「士」のマークが入った九七式中戦車チハ……ではない。黄土色に塗装された中型の戦車。Ⅲ号戦車のM型、ないしN型である。ドイツ戦車らしい、ゴツく武骨なフォルムの車体が、1月の弱い陽の光を反射して、鈍く輝いている。そして、その横に2輌並んだヴィルベルヴィント対空戦車が、一際異彩を放っていた。

 彼らは、出撃の時を待っていた。もうすぐ、フェン王国の市街地への進軍が始まるのだ。そしてそれは、彼らの初めての実戦が近い、ということをも意味している。いやが上にも、緊張感が高まる。

 

「オホン」

 

 その重苦しい緊張感の中、身長は低めながらも立派な体格をした、ドワーフ族の男性……ロデニウス連合王国陸軍・戦車第1連隊の隊長ルメロが、咳払いをして話し始める。

 

「戦車第1連隊、そして第2連隊の兵士諸君。いよいよ、我らが初陣の時が来た。相手は、かのパーパルディア皇国陸軍。地竜リントヴルムもいるだろう。奴らはマスケット銃をこちらに向け、容赦なく撃ってくるだろう」

 

 ルメロは噛んで含めるように、一言一言、ゆっくり話す。

 

「だがそれでも、我々は前に立たなければならない。奴らの銃で、我が軍の歩兵たちを傷付けるわけにはいかないからだ。我々に課せられた任務は、歩兵隊の盾となって、残虐なるパーパルディア皇国のクソ兵士どもから、仲間たちを守ることである。また、強力な砲と機関銃を以て、奴らを撃ち倒すことである。

訓練通りにやれば、きっと大丈夫だ。諸君が最善を尽くし、健闘することを祈る」

 

 兵士たちを落ち着かせるように、ゆっくり話したものの、実はルメロも実戦は初めて。心臓はバクバク鳴っており、緊張感に今にも押し潰されそうだ。

 

「……私からは以上だ。何か質問は?」

 

 そう言うと、ルメロは口を閉じた。誰も彼も、身動き一つしない。沈黙だけがその場を支配し、雰囲気はますます重苦しくなった。1月の寒い風も、その雰囲気を吹き飛ばしてはくれない。

 とその時、最前列にいたエルフ族の若い男性兵士が1人、躊躇いながらもそっと右手を上げた。

 

「そこの、何だ?」

 

 ルメロが指名すると、彼は、恐る恐る、といった調子で口を開いた。

 

「隊長、1つだけ、よろしいでしょうか?」

「いいぞ、話せ」

 

 ルメロが許可すると、彼は「それでは失礼して……」と言い、一旦声を切った。そして、すぅ、と息を吸い込む。

 直後、彼の口から出てきたのは、質問などではなかった。

 

 奇妙な節を付けた文章だった。

 

 

 

風吹き(すさ)ぶ 雪の夜も

 

 

 

 エルフの男性の周囲にいた他の兵士たちが、そいつのほうを見た。

 そして次の瞬間、彼らも口を開いた。

 

 

 

太陽輝く 炎天も

 

 

 

 あっという間に、ルメロと副隊長の前で、兵士たち全員が声を上げ始めた。誰かがザッ、ザッと軍靴で砂浜を踏み鳴らし、全員がそれに従って足踏みを始める。

 

 

 

埃に(まみ)れて 我が意気は天を()

 

 

 

 ここまできて、やっとルメロは思い出した。

 そうだ。これは確か、戦車乗りたちの歌だと言って、日本軍の連中が歌っていたものだ。その名前は……

 

 

 

進めよパンツァー 嵐越え

 

 

 

 ……Panzerlied(パンツァー・リート)

 

 既に1番目を歌い終えたが、兵士たちの口は止まらない。そのまま2番へと進んでいく。

 

 

 

雷鳴(とどろ)き 加速する

 

 

 

 だんだん歌声が大きくなってきた。

 

 

 

我らと共に パンツァー在り

 

 

 

 ここでルメロは、辺りを見渡した。

 

 

 

続けよ戦友 先駆けは我が使命

 

 

 

 ……()()()()()()のは、自分と、隣にいる副隊長だけ。

 

 

 

敵陣深く 突き進む

 

 

 

 2番が終わる直前、ルメロは副隊長の顔を見てただ一言、「歌え」と指示した。

 副隊長は命令通り、兵士たちに合わせて3番の最初から歌い出す。だがその口は、大きくは開いていない。

 

 

 

敵が行く手を (はば)むとも

 

 

 

 歌声が途切れたその一瞬、ルメロは「大きく!」と命じた。

 ヤケを起こしたか、副隊長は大口開けて歌い出す。と同時に兵士たちの声も、一段と大きくなった。

 

 

 

全速力で 進むのみ

 

 

 

 それを確認すると、ルメロ自身も口を開く。

 

 

 

一命を()して 祖国を守り抜く

 

この身果てるも (ほま)れなり

 

 

 

 今や彼らは、心を1つにして歌っていた。

 もう緊張感も何もない。あるのはただ、自分たちにしかできない役目を全力で果たそうとする使命感と、闘争心のみ。

 

 

 

地雷に(ぼう)(るい) 阻むとも

 

にっこり笑って 受け流す

 

死を招く悪魔 大地に潜むとも

 

ただ我が道を 求め()

 

 

 

 ここまで歌った時、ルメロは不意に少し心配になった。

 5番は、自分たちの死を扱った歌詞だ。これから勝たねばならぬというのに、こんな歌詞を歌って大丈夫なのか?

 

 だが、その迷いも一瞬のこと。

 ルメロは、覚悟を決めた。

 

 

 

勝利の女神は 微笑まず

 

故郷(ふるさと)目にする こともない

 

命運は尽きて 我ら貫く魔弾

 

眠れよパンツァー 我が()(ひょう)

 

 

 

 歌い終えた時、そこにはもう緊張はなかった。代わりにあるのは、(たか)ぶる闘志と、連帯感。

 ルメロは命じた。

 

「全員搭乗せよ! 全車、エンジン始動!」

 

 全員が散らばり、銘々の戦車へと向かっていった。

 たちまち、戦車が一斉にエンジンを噴かす。周囲には300馬力の出力を誇る、マイバッハHL 120 TRM 4ストロークⅤ型12気筒ガソリンエンジンの音が唸り轟く。この音の中では、隣の人が大声で叫んだとしても、聞き取るのは難しいだろう。

 車内に据えられた無線機を通して、ルメロの号令が全車輌に伝わる。

 

戦車、前へ(パンツァー・フォー)!」

 

 ルメロの号令一下、戦車は次々と発進し、フェン王国の市街地を目指して進んでいった。

 

 

 一方その頃、フェン王国の王城。

 軍祭の折に、パーパルディア皇国国家監査軍のワイバーン隊の攻撃で、天守閣が炎上したことは記憶に新しい。その天守閣だが、まだ再建工事が終わっておらず、天守閣のてっぺんは修理中で、みっともない姿を晒していた。ただ不幸中の幸い、炎上したのは天辺だけなので、燃えた屋根と最上階、及び消火活動によって損傷した上階区画を除けば、使うことができる。

 その天守閣の使えるフロアの最上階から、剣王シハンは海を見下ろしていた。ロデニウス連合王国から援軍が差し向けられたことと、その援軍が現在首都アマノキの沖に来ていて、上陸作業中であることを聞き、様子を見に来たのだ。

 白地に赤い太陽のマークをかたどった旗を掲げた船が、何隻も並んでいる。そのほとんどが砲を載せており、それらの砲は圧倒的な威容を持って空を睨んでいた。ワイバーン1騎とて通さぬ、という気迫が感じられる。

 そして、それらの砲艦に守られるように、変わった形状の船が5隻、アマノキのすぐ近くまで接近して、殆ど砂浜に乗り上げるような格好になっている。それらの船は、船首をパタリと倒して、渡し板のような格好にしていた。そこからガタガタと音を立てながら出てきた、鋼鉄の鎧を纏っているらしい怪物(Ⅲ号戦車のM型およびN型、ヴィルベルヴィント対空戦車)が、兵士たちとともに市街地に向けて進んでいく。

 さらに沖にも、平べったい妙な船が3隻浮かんでおり、そのうち1隻が小舟を次々と繰り出して、浜辺と海を往復させている。その小舟もまた、船首を倒して渡し板にし、兵士や大砲や怪物(こちらは()(こん)部隊のチハやハ号である)を降ろしていた。

 剣王シハンは、すぐ隣に立つ王宮騎士団長マグレブに話し掛ける。

 

「やはりロデニウス連合王国から来た艦隊は、とんでもないものだな。見よ、あの船から出てきた怪物を。あれと比べれば、パーパルディアの地竜など、可愛いものではないか」

「全く同感でございます。それにしても、このような援軍を受けることができたのは、剣神の導きがあったとしか思えませぬ。……ああっ、あんなものまで!?」

「おおっ……」

 

 2人が見たのは、小舟(大発)から引っ張り出されてきた「九六式150㎜榴弾砲」であった。かつての王宮直轄水軍旗艦「剣神」にも魔導砲が積まれていたし、パーパルディアの戦列艦にも大砲は備えられているが、九六式が相手だと玩具の大砲にしか見えない。そんな巨砲が、合計で4門も小舟から引き出され、砂浜に整列する様は、見る者に凄みを与えてくる。

 その隣には、細長く精悍な雰囲気を纏った砲身を持つ大砲が、4門勢揃いしていた。ドイツの誇る野戦砲の1つ、「88㎜Flak36野戦高射砲(アハトアハト)」である。

 

「あれは……陸上戦闘用の牽引式魔導砲!? 牽引式魔導砲にすら、あんな巨大な砲があるなんて……! パーパルディアに行ったことは何度かありますが、あんな大きな砲は見た事がございません。もしかするとロデニウス連合王国には、パーパルディア皇国の皇軍をも鼻で嗤うほどの力が、本当にあるのかもしれません」

「うむ。つくづく、彼らが味方でよかったと思うわい」

 

 揚陸作業を眺めつつ、2人はそんな会話をしていた。

 

 

 その王城の下、アマノキの街では、すぐ近くにロデニウス連合王国軍、それもあのワイバーンロードを叩き落とした、「太陽の旗の軍」が来ているとの噂が立ち、大勢の見物人が押し掛けていた。彼らは、日本軍の大砲や銃を持った兵隊たち、とりわけ爆走する戦車と、沖合に浮かぶ戦艦……「扶桑(ふそう)」と「(やま)(しろ)」を見て、大騒ぎをしている。

 

「ロデニウスの魔船が来たと聞いて来てみたら、何だあの大きさは! 相変わらずバケモノじみた船だな、ロデニウス連合王国の魔船は!」

「あれなら、パーパルディアの艦隊も一撃で倒せるだろ! これでフェン王国は救われるぞ!」

「列強も、まさかロデニウス連合王国にこんなものがあるとは思わんだろう。今見た自分ですら、信じられん!」

「ありがたや、ありがたや」

 

 中には、手を合わせて拝む者までいる。

 そんな中、命からがらニシノミヤコから避難してきた者たちも、この巨艦を見詰めていた。

 

「何だあれは……。あのパーパルディアの船が、玩具(おもちゃ)の船にしか見えない……! あれならきっと、パーパルディア艦隊を、破ってくれる……!」

 

 絶望や悲しみに満たされていた彼らの心に、一筋の希望が芽生える。

 上陸してきた兵士の中には、こうした見物人に向かって笑顔で手を振る者もおり、それによって群衆はますます熱狂していく。それほどに、彼らはこのロデニウス連合王国からの援軍に期待を賭けていた。

 彼らが見守る中、揚陸作業は続く。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 さて、中央暦1640年1月26日午後7時、パーパルディア皇国皇都エストシラント、第1外務局。

 皇族レミールは、書記官に作らせた報告書に目を通していた。隣では第1外務局長エルトが、堺が最後に手交した国書…宣戦布告状を読んでいる。

 

「まさか、文明圏外の蛮族が我が国に宣戦布告してくるとは……」

 

 思いも寄らぬ事態に、エルトが呟く。まさか、文明圏外国から()()()()()()()()()()とは思わなかったのだ。こんなことは、パーパルディア皇国史上初めてである。

 

「蛮族が、滅亡に向かって突き進む、か」

 

 レミールが後を引き受けた。

 

「トップが馬鹿だと大変ですね。ロデニウス連合王国は、全ての国民が殺される危機にあるということを、全く理解できていないのですから」

 

 エルトはもはや、憐れみすら感じていた。

 皇国は今まで多くの国々を滅してきたが、今回もその1つとなるだろう。

 淡々と処刑される蛮族の姿が、エルトの脳裏に浮かんだその時、コンコンとドアがノックされた。

 

「入りなさい」

 

 エルトが言うと、「失礼します」と声がして、第1外務局の次長ハンスが書類を持って部屋に入ってきた。

 どうしたのか、彼の額には汗が流れている。しかも顔色が悪い。酷く緊張しているように見える。

 

「どうしました?」

 

 エルトが尋ねると、ハンスは答えた。

 

「今回の戦争に関して、観戦武官の派遣の有無を列強各国に聞いて参りました。神聖ミリシアル帝国とエモール王国は、今回も派遣しないとのことです」

「うむ。まあ、いつものことだな。で? ムーはいつ派遣してくるのだ?」

 

 レミールが問う。

 これまでの戦争では、ムーは必ず皇国に観戦武官を送ってきていた。

 するとハンスは、

 

「その……ムーは、皇国への観戦武官の派遣はしない旨を、回答してきました」

 

 と答えた。()()()彼の声が震えているのが、エルトは気になった。

 

「ほう、ムーが派遣してこないとは、珍しいな。戦闘情報の収集癖がなくなったのか?」

 

 レミールが軽口を叩く。

 が、ハンスの顔色は悪化する一方だ。唇はわなわなと震え、何かを言うべきか言わざるべきか迷っているように見える。

 

「……? どうした?」

 

 その異常にやっと気付いたレミールが、質問を投げ掛ける。

 するとハンスは、大分迷った末についに口を開いた。

 

「ムーは……()()()ではなく……。()()()()()()()()()に、観戦武官を派遣したことが……判明致しました…!」

 

 その瞬間、レミールもエルトも一瞬固まった。そして、

 

「「……えっ!!???」」

 

 2人揃って、同じ反応を返した。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 翌日、中央暦1640年1月27日、フェン王国首都アマノキ沖合。

 ロデニウス連合王国海軍第13艦隊・フェン救援部隊は、航空戦艦「扶桑」「山城」、正規空母「(しょう)(かく)」「(ずい)(かく)」、航空巡洋艦「()()」「(ちく)()」、軽巡洋艦「(なが)()」「(さか)()」、駆逐艦「(あさ)(ぐも)」「(やま)(ぐも)」「(しま)(かぜ)」「(はつ)(づき)」という布陣で、フェン王国沖に展開していた。その付近では、駆逐艦「(むら)(くも)」「(いそ)(なみ)」「(くろ)(しお)」「(おや)(しお)」「(あき)(づき)」「(てる)(づき)」の護衛の下、揚陸艦「あきつ丸」とラ・フランス型輸送艦5隻が揚陸作業を続けている。

 

「……いよいよ明日ね」

 

 「違法建築」だの「九竜城」だの「ジャックと豆の木」だの、さんざんな(あだ)()を山ほど付けられるほど、艦橋の見た目(気になった諸君は各自ググるべし。崩壊寸前のジェ◯ガかだるま落としとしか見えない、今にも倒れそうな見た目してるから)に定評のある航空戦艦「扶桑」の艦橋では、艦娘"扶桑"が作戦計画書をチェックしていた。2日以上前に発表された物であるが、"大淀"や"大和"が作戦予定の変更を通達してきていない以上、これで行くということなのだろう。

 

 まず、ディグロッケによる偵察の結果判明した、パーパルディア軍の戦力の全貌。敵を知り、己を知れば百戦危うからず、だ。

 陸軍は、歩兵隊が約4,000人。このうちおよそ3,000人が、現在ワイバーンロード12騎、そして地竜リントヴルムとかいうらしい、何に使うかよく分からない生物32頭を伴い、フェン王国の首都アマノキに接近中、とのことである。堺はこの地竜リントヴルムについて、戦車のようなものではないかと予想を立てていた。更に、牽引式の野戦砲が20門ある、とのことである。

 海軍は、戦列艦211隻、竜母12隻、輸送船101隻、合計324隻。一部艦艇は装甲板を舷側に張っている、とのことである。その性能は速力約12ノット、片舷の砲門数はおよそ50門、射程は2㎞。艦娘たちからすれば、()()でしかない。輸送船は、全てニシノミヤコの海岸付近に集まっており、そこから西へ30㎞ほどのところに、8隻の戦列艦を伴った竜母部隊、そして更に西方30㎞に艦隊主力が展開している。現在、そこから20隻ほどの艦艇が南岸に接近しつつあり、恐らく支援砲撃担当だと思われる。

 そして空軍は、ワイバーンロードという飛竜が陸軍に12騎、それと竜母にいるもの。竜母は、1隻当たり約20騎のワイバーンロードを搭載できると見られているから、合計した航空戦力は20×12+12=252騎となる。堺からは、特に竜母の航空隊はなるべく発進する前に母艦ごと叩け、と命じられていた。

 ちなみにディグロッケは、今も3機がパーパルディア軍の上空に入れ替わり立ち替わり、透明化した状態で張り付いて、最新情報を提供し続けている。

 

 次に、こちらの戦力。これは、まず陸軍が歩兵8,000、初実戦となるⅢ号戦車のM型が10輌、Ⅲ号戦車のN型が8輌、ヴィルベルヴィント対空戦車が2輌、それから「()(こん)部隊」の九七式中戦車チハ39輌と九五式軽戦車ハ号25輌。それと、九六式150㎜榴弾砲4門に、88㎜Flak36野戦高射砲4門、「WG42」が三連装2基。

 海軍は先ほど申し上げた通り。

 そして航空隊は、「翔鶴」の分が「Ju87C改(Rudel Gruppe)」34機、「(ふん)(しき)(けい)(うん)改」21機、「(りゅう)(せい)改」12機、「試製(れっ)(ぷう) 後期型」9機。「瑞鶴」の分が「(きっ)()改」34機、「試製烈風 後期型」24機、「流星改」12機、「流星」6機。それ以外に「山城」の「(ずい)(うん)12型」23機、そして「利根」と「筑摩」の「瑞雲」が合わせて18機。

 戦力比較としては、陸海空いずれにおいても、ロデニウス連合王国軍が勝率95パーセント以上、と計算されている。

 

 そして、作戦概要。

 まず、「翔鶴」の「噴式景雲改」と「瑞鶴」の「橘花改」……この2つはともにジェット機である……の攻撃で、竜母部隊を護衛もろとも全滅させる。この時、航空戦力も可能な限り母艦と一緒に撃破する。

 続いて、「瑞鶴」の「試製烈風 後期型」からなる戦闘機隊を出し、敵地上部隊のワイバーンロードを叩く。もしこの時に、母艦航空隊のワイバーンロードが残っていれば、可能ならそれも撃滅し、制空権を確保する。状況が許せば、敵陸軍にも機銃掃射を浴びせておきたい。

 また、この段階で艦隊を二手に分け、戦艦の「扶桑」と「山城」、軽巡の「長良」と「酒勾」、航空巡洋艦「筑摩」、駆逐艦「叢雲」、「磯波」、「島風」はフェン島を南回りに迂回、フェン島西部沖にいるパーパルディア艦隊に向かう。露払いは「酒勾」、「叢雲」、「磯波」とし、敵の20隻の地上支援艦は、この3隻で叩く。

 もし、この段階以前にムーの観戦武官一行がフェン王国に到着していれば、「酒勾」に乗艦してもらう。もし遅れていれば、「島風」に乗せて、後から艦隊を追いかけてきてもらう。また、「翔鶴」と「瑞鶴」は後方より航空隊を出して艦隊と陸軍を援護し、他の艦は揚陸艦と空母の護衛に()てる。

 次に、ゴトク平野での地上戦。敵地竜の固さが不明だが、Ⅲ号戦車によって砲撃し、これと野戦砲を先に全滅させる。もしⅢ号戦車の砲撃が通らなければ、88㎜砲及び150㎜砲によって叩き潰す。それでも効かなければ、「翔鶴」と「瑞鶴」の航空隊の爆撃で叩く。最終的には、Ⅲ号戦車の機動力と空爆を生かして敵を一ヶ所に集め、纏めて吹き飛ばすことを狙う。同時に士魂部隊は、フェン王国軍とともに密かに迂回ルートを取って、ニシノミヤコへ向かわせる。

 最後に、敵艦隊の主力を戦艦を含む艦隊の砲撃によって全滅させる。同時に、士魂部隊はニシノミヤコ市街地に突入し、残存する敵軍と交戦、これを消耗させてニシノミヤコ奪回の支援とする。そして、ゴトク平野で敵の迎撃に当たった部隊も増援としてニシノミヤコに投入し、フェン王国軍によりニシノミヤコを奪回、パーパルディア軍を殲滅ないし降伏させる。

 

 これが、フェン王国救援作戦……「バンジュール(復讐)作戦」の全貌である。

 そして、その作戦指令書の最後は、とんでもない文言で締め括られていた。

 

[ロデニウス連合王国への降伏の意志表示方法については、提督からパーパルディア皇国の外交担当者に()()()()である。よって、パーパルディア皇国兵の降伏の意志表示については、白旗以外の方法は()()()()()()。もし敵が白旗を掲げてくれば、“捕虜”として人道的に扱うこと。それ以外の意志表示は、全て攻撃の合図と()()し、直ちに攻撃、敵を撃滅することを徹底せよ。

なお、白旗を掲げて投降した後に武器を抜き、騙し討ちを行うような輩も、その生存を一切許さず、躊躇うことなく殺せ。パーパルディア皇国に対し、()()()()()()()()()()()()()()ということを、()()()()()()()()()

 

 普段温厚で争い事を嫌う堺が、ここまで書くとなると、これはよっぽどのことだ。

 どうやら提督は、パーパルディア皇国に深い恨みを抱くと同時に、同国に対して虐殺の責任をきっちり取らせようとしているらしい。

 

『姉様、頑張りましょう!』

 

 無線で、妹の"山城"が励ましてくる。

 

「ええ。それに、提督もいらっしゃることですし」

 

 "扶桑"はそれに応じた。

 パーパルディア皇国から帰る途中の駆逐艦「天津風」は、フェン島に立ち寄って堺を降ろす手筈になっているのだ。そして堺は、そのまま軍の指揮に当たる、というハードワークぶりである。

 

「海は、あんなに青いのに……」

 

 "扶桑"は、この戦いで失われるだろう命の営みを、そしてニシノミヤコで断たれた命の営みを、悼むのだった。

 

 こうして、ロデニウス連合王国とパーパルディア皇国は、いよいよ正面切って軍事衝突しようとしていた。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 その日、1月27日の夕刻、ムーの観戦武官一行を乗せたラ・カオス型旅客機は、いよいよタウイタウイ島の空港(正確には軍用飛行場だが)に着陸しようとしていた。

 片道21,000㎞の、とても長い旅路だった。ワイバーンなどでは絶対にできない旅路だ。

 もうそろそろ、ロデニウス連合王国の護衛が来るはずである。

 

「護衛って言うからには戦闘機だろ……どんな機体が来るんだろう?」

 

 マイラスは興味(しん)(しん)である。

 

「あの戦闘機の仲間が来るんですかね?」

 

 リアスがそれに同調する。

 

「私は、兵器については全く分かりませんが……そんなにすごいのですか?」

 

 アイリーンが首を傾げる。

 

「どうせ大したことはないだろ」

 

 ラッサンは冷めた反応をする。

 

「まあ、それは来たら分かることだな。お、噂をすればちょうどお出ましかな……は!?」

 

 窓の外を眺めていたマイラスの言葉が、途中で途切れた。そして、

 

「な、何だあれは!?」

 

 驚愕の言葉が、マイラスの口から飛び出る。

 

「……え!?」

 

 続いてリアスも驚愕。

 

「いったいどうした……ッ!?」

 

 2人を振り返って……ラッサンも言葉を失った。

 

 ちょうど窓の外に、ロデニウス連合王国の戦闘機と思しき機体が2機、やってきていたのだが……それは、異様な形状をしていた。

 

「プ、プロペラが()()()()()()()()だと!?」

 

 マイラスの言葉が全てを物語る。

 それは、レシプロエンジンを機体後部に取り付け、ついでに主翼も機体後部に持ってくるという、特異な形状をした機体だったのだ。

 そう、「(しん)(でん)改」である。

 

「こ、これがロデニウス連合王国の戦闘機!?」

 

 ラッサンは戦慄する。

 そうこうするうちに、やがて旅客機「ラ・カオス」は、タウイタウイ飛行場に着陸した。

 滑走路は、ジェット機の運用を考慮してコンクリートで舗装された立派なものになっており、その隣の駐機場には「ラ・カオス」より洗練された形状の、太い葉巻のような胴体を持つプロペラ機「一式陸上攻撃機」がずらりと整列している。中にはその一式陸上攻撃機よりやや小柄な機体を持つ、陸上爆撃機「(ぎん)()」も混じっていた。

 

「こりゃ、とんでもない国に来たらしいな……」

 

 駐機場へタキシングされる「ラ・カオス」の中で、マイラスは改めてこの任務の重要性に身震いをした。

 

 飛行場に着陸し、完全に動きを止めた「ラ・カオス」のドアが開く。そこへタラップがかけられた。

 タラップを使い、5日ぶりにまともに大地に足を付けたマイラス、リアス、ラッサン、アイリーンを待っていたのは、長い黒髪をポニーテールに纏め、桃色の花を象った髪飾りを付けた美人の女性だった。

 

「ようこそ、ロデニウス連合王国へ。遥か遠方から、よくお越しくださいました。私は、大和(やまと)と申します。皆様をご案内させていただきます。では、こちらへどうぞ」

 

 案内され、ムーの観戦武官たちは歩きだす。

 マイラスは、この"大和"という女性から、以前に会った"(はる)()"と似た雰囲気を感じた。人当たりがよく、柔らかいが……それでいて、どこか兵器によくある(せい)(かん)さを(はら)んでいる。

 マイラスは、"大和"に話し掛ける。

 

「お初にお目にかかります。私は、ムー国の武官のマイラスと申します。失礼ですが……貴女も艦娘ですか?」

 

 すると、"大和"はにっこり微笑んで答えた。

 

「あら、お分かりになりましたか?」

「以前に、榛名というお名前の方とお会いしたことがございまして、貴女がその方と似たような雰囲気だったもので」

「なるほど……確かに似ているかもしれませんね」

 

 マイラスは、これをチャンスとばかりに探りを入れる。

 

「艦娘といえば、いくつも種類があるのですよね?」

「ええ。様々な種類がありますよ」

「ちなみに、貴女の艦種はどちらで……?」

「私ですか? 戦艦です」

 

(おお、戦艦の方と会えるとは!)

 

 興奮を隠し切れないマイラス。

 

(センカン……? 何のことだろう……?)

 

 「艦娘」という存在を知らないため、考え込むアイリーン。

 

(これが、ロデニウス連合王国の秘密兵器たる「艦娘」……!?)

(噂に聞いた、艦娘とかいうものか!? 普通のヒト種の女性にしか見えんぞ!?)

 

 改めて"大和"を見直し、驚愕するリアスとラッサン。

 更にマイラスは、少しだけ突っ込む。

 

「戦艦ですか! 戦艦といえば、やっぱり火力が欲しいですよね。貴女も、そう思いませんか?」

「え? ええ。でも、どちらかというと防空能力が欲しいかな……

 

 "大和"の最後の呟きを、敢えて聞こえなかったことにして、マイラスは尋ねる。

 

「失礼ながら、貴女の主砲の口径を伺っても?」

「うーん……」

 

 "大和"は一瞬、何と答えたものか考える。

 戦艦大和の主砲が46㎝砲であることは、タウイタウイ泊地では第2級クラスの秘密に指定されていた。泊地と軍の上層部以外には、打ち明けてはならないとされている。よって、これは迂闊には話せない。

 だが、ムー国の使節からの質問に答えないわけにもいかない。

 

 一瞬だけ考え、"大和"は口を開いた。

 

「まあ、“特別な40㎝砲”とだけ、申し上げておきましょう」

 

(((!!!??)))

 

 アイリーン以外の3人を、強烈な衝撃が襲った。

 

(何……だと……!?)

(ほ、砲口径40㎝!?)

(すごく……大きいです……!)

 

 マイラス、ラッサン、リアスは3者3様の感想を抱く。

 

 なに、変なのがいる? ……そんな訳ないでしょう。

 

「それでは、お部屋のほうにご案内します。尤も、フェンに出かけられるお方は、明日は朝早いですので、あまりお荷物をお広げにならないようお願いいたします。30分後にお部屋にお呼びにいきますので、それから夕食にしましょう。お風呂もありますし、今夜はお早めにお休みになってください。

明日は、フェンに出かけられるお方を朝3時45分に飛行場にお連れして、4時の飛行機で飛び立ちます。フェンには朝7時頃に着く予定になります。既に戦闘が始まっている可能性がありますが、そこはご容赦くださいませ」

 

 "大和"の説明を聞いて……マイラスは一瞬、凄まじい疑問を抱いた。慌てて"大和"に質問する。

 

「失礼ですが大和さん、ここからフェンまで3時間で行けるのですか? フェンとここは、1,500㎞ほど離れていたと思うのですが……」

「はい。ですが明日の飛行機は、時速465㎞で飛べますので、3時間ほどで十分到着できますよ」

 

 さらりと答えた"大和"だが、ムーの観戦武官一行はこの答えに、更なる衝撃を受けた。

 

(せ、1,500㎞を3時間!? 時速500㎞近くも出せるのか!)

(うちの「マリン」より速い……!)

(そんな馬鹿な! 我が国の航空機より性能が高いだと!?)

(なんて速いんだろう……)

 

 アイリーンは、もはや考えることを放棄している。

 マイラスはもう1つ、気になったことを聞いてみた。

 

「しかし大和さん、フェンに空港ってあるのですか? 航空機で送ってくださるのはありがたいですが、滑走路がなければどうにもなりませんよ」

 

 そして返ってきた答えに、ムーの観戦武官一行は完全に打ちのめされた。

 

「ご心配は要りませんよ。この機体は()ではなく、()()に着陸致しますから」

 

「「「「……え!?」」」」

 

 ムー国には、水上機の概念がほぼないのだ。そのため誰しもが、てっきり陸に降りるもの、と思っていたのである。

 

(なるほど、いわゆる“水上機”というものか。どんな機体か楽しみだな)

 

 堺から一度、水上機のことを聞いたことがあるマイラスは楽しみに思ったが、あとの3人は完全にショックを受けた。

 

(((もう駄目だ、文化でも技術でも勝てる気がしない……)))

 

 だが、この後出てきた食事は、旅の疲れも技術の差の衝撃も全て忘れるほど、美味なものであった。

 前菜としてシーザーサラダから始まって、「大和ホテル自慢のコンソメスープ」("大和"本人談)、主食たるパンと200g級のビーフステーキ、締めに"大和"ご自慢のアイスクリームという、コース料理である。

 

 尤も、アイリーンのみは「流石(さすが)に多い」という要望が本人から寄せられたため、ステーキではなく魚のムニエルだったが。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 そして……その時は来た。中央暦1640年1月28日午前8時30分。

 フェン島の南東部に展開しているロデニウス連合王国海軍第13艦隊、その後方に位置するのは2隻の平べったい艦。第五航空戦隊の主力、航空母艦「翔鶴」と「瑞鶴」である。両艦とも進路を西に向けて、最大戦速で突っ走っている。

 その甲板上には、多数の航空機が並んでいたが……どれも変わった形状をしていた。

 まずプロペラがない。そして、翼の下部に奇妙な円筒形の機構を、半ば埋め込むようにして設置していた。更に、機体の下には“少し変わった形状の爆弾”を抱えている。

 どちらの艦でも、先頭に立つ機体は、艦首部分の甲板に埋め込まれたカタパルトに載せられていた。

 

 そう、「翔鶴」の甲板に並ぶのは「噴式景雲改」、「瑞鶴」の甲板で待機しているのが「橘花改」。どちらもジェット機である。ただし(れい)(めい)()のジェット機故に、主翼下にエンジンを抱えた格好になっており、速度はかなり速いが、運動性能はレシプロ機に劣る。

 

「さあ、行くわよ瑞鶴!」

 

 航空隊の出撃準備が整った、という報告を受け、空母「翔鶴」の艦橋では、銀色のロングヘアの女性……空母艦娘"翔鶴"が、無線を使って号令をかけていた。

 

『はい! 翔鶴姉!』

 

 無線からは、勝ち気な性格の妹"瑞鶴"の声が返ってくる。

 

「全航空隊、発艦始め!」

『艦首風上! 攻撃隊、発艦、始め!』

 

 2人が同時に命令を下し、航空隊の発艦が始まった。

 

ゴォォォォォォォ……!

 

 カタパルトの上に乗せられた機体のジェットエンジンが、猛烈な音を立てて回転数を上げる。

 次の瞬間、甲板に埋め込まれた油圧式カタパルトが作動し、機体を勢いよく艦の外に投げ飛ばした。投げ飛ばされた機はエンジンを点火し、風を掴んで一気に大空へと舞い上がる。

 2人とも手馴れた様子で発艦作業を進め、20分もしないうちに計55機に及ぶジェット機の発艦が完了した。

 冬の空にネ20エンジンの咆哮を力強く轟かせ、攻撃隊は西の空へと飛び去った。パーパルディア皇国の竜母艦隊を、全て沈めるために。




さーて…ついに開戦した訳です。いよいよ始まりますよ、皆様お待ちかねのドンパチパートが!

あと、今話に入れておいたネタですが、

・前書きの「野郎、ぶっ殺してやらあぁぁぁぁっ!」→映画ネタ。「コマンドー」を参照のこと。なお同作には素晴らしいセリフのネタが山ほどある。是非とも使いたいところ。
・「浅間山登れ 0128」→史実ネタ。真珠湾攻撃に向かう日本の第一航空艦隊に向けて、大本営から送られた暗号電報「新高山(にいたかやま)登れ 1208」が元ネタになっている。
・「臨時ニュースを申し上げます。(中略)大本営陸海空軍部発表、ロデニウス連合王国は(中略)戦闘状態に入れり」→史実ネタ。太平洋戦争の開戦を告げるニュース速報「臨時ニュースを申し上げます。臨時ニュースを申し上げます。大本営陸海軍部発表、帝国陸海軍は本8日未明、西太平洋において米英軍と戦闘状態に入れり」が元ネタである。
・フェン王国でのロデニウス軍戦車兵たちの歌うシーン →映画ネタ。「バルジ大作戦」においてドイツ軍の兵士たちが「パンツァーリート」を歌う、あのシーンがネタである。ついでに言うと、戦車隊の隊長の名前をアナグラムして、「ン」という文字を入れると…
・(すごく…大きいです…!) → や ら な い か  アッーーー!!!!

となっています。


次回予告。

ついにパーパルディア皇国と開戦したロデニウス連合王国。最初の会戦は、空対海の航空戦となった。パーパルディア皇国の誇る竜母艦隊に、ロデニウス連合王国の航空機部隊が襲いかかる…
次回「フェン王国の戦い 序」

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