鎮守府が、異世界に召喚されました。これより、部隊を展開させます。   作:Red October

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はい、予告通りに小話投稿です。
文字数少なめ(ほぼ4,000字)なので、少し物足りなく感じるかもしれませんが、ご容赦くださいませ。



003.5. クワ・トイネ公国の新たなるブーム(1)

 日本国海上護衛軍・タウイタウイ泊地が地球からこの世界に転移して1ヶ月。

 タウイタウイ泊地司令部は前世界の作戦行動なんか目じゃないほどの、すさまじい多忙ぶりを見せていた。

 転移直後は「食糧」と「資源」という、艦娘運用を行うにあたっての最大の問題があった。だが「食糧」の問題は、クワ・トイネ公国という、食糧自給率100%オーバーのチート国家との国交で解決。「資源」も隣国のクイラ王国という、国中ちょっと掘ったら原油が(あふ)れ出すような資源チート国家の存在により、ほぼ解決した。まだ石油コンビナートをはじめとする精製施設が完成していないため、しばらくは備蓄でやりくりするしかないが、それも少しの間の(しん)(ぼう)だろう。

 配下の(かん)(むす)たちは、当初こそ多少の混乱があったものの、今はそれも解消し、海峡を挟んでタウイタウイ泊地の反対側に新たに建設されつつある街「クワ・タウイ」において、現地の人々との交流なんかも積極的に行っている。

 そして堺は現在、彼自身が「働きたくないでござる」(しょう)(ぶん)だというのに、ものすごい量の仕事に忙殺されていた。しかも、実質“タダ働き”である。

 

「提督、クイラ王国に建設中の石油コンビナートですが、工事の(しん)(ちょく)は7割程度、というところです。稼働にはもう少しかかります」

 

 タウイタウイ泊地の提督室で、"(おお)(よど)"が堺に報告を行う。彼女の目の下には、若干だが(くま)ができていた。

 

「ああ、ありがとう」

 

 答える堺も、頬がこけている。毎日が激務の連続であるため、痩せてきているのだ。

 唯一の救いは、クワ・トイネの大地で採れた作物は、どれも美味しい上に栄養価が高いこと、そしてそれが大地の草を食べて育った家畜にも適用されている、ということだろう。

 

「提督?」

 

 "大淀"が退室した後、ふいに、"大和(やまと)"が近づいてきた。

 

「特製紅茶なんですが……そろそろ茶葉の残りが厳しくなってきました」

「な……何だと?」

 

 その瞬間、堺は立ち上がった。

 

「それはいかん! 紅茶がなくなったら、俺の唯一の楽しみが……!」

 

 タバコも酒もやらない堺にとり、現在の唯一の楽しみは紅茶なのである。それがなくなったら大変だ。ただでさえ、まだ"()(みや)"の(よう)(かん)の量産態勢ができておらず、大和のアイスも配給待ちだというのに。

 

「な、なんとかして茶葉を調達しないと!」

「ですが提督、どこに売ってるんですか?」

 

 焦りかけた堺だったが、"大和"の一言で沈黙する。

 その通り、この世界……少なくともこのロデニウス大陸には、紅茶というものは存在していないのだ。というか、緑茶も見ていない。

 

「売ってないなら作るしか……! だがどうやって……?」

「提督……」

 

 なおも焦る堺を見て、"大和"があきれた声を出した。

 

「ここをどこだと思ってるんですか? クワ・トイネ公国に土地を借りて、農園を作ったらできるじゃないですか。それに提督、以前にインドの方へ遠征した時、お茶の木の実を調達してきてませんでしたか?」

「え? ……あ、そういえば」

 

 "大和"に言われ、堺は提督机の小引き出しにしまっていたものを思い出した。引き出しを開け、中にあった小さな茶色の物体…お茶の木の実を取り出す。

 

「これを、クワ・トイネ公国の土地に植えるということか……」

「ええ。それで上手くいったら、ついでにサトウキビも植えちゃいましょう!」

 

 "大和"のこの一言が決め手となり、堺は翌日の政治部会でカナタに許可を貰い、クワ・タウイ市街の外れに土地を借りて、お茶の木の実を植えることとなる。

 

 ところが、ここからがクワ・トイネの大地の本領発揮であった。

 

 

 

「おいおい、嘘だろ……」

 

 植えてから1週間後、農園に来てみた堺は、目の前の光景に腰を抜かしそうになった。

 

「植えたのつい1週間前だろ? なんで茶園1つできるレベルまで拡大してるんだよ!?」

 

 堺の目の前には、お茶、お茶、お茶……小規模ながら茶園が1つ、みごとに出来上がっていた。しかもそれだけではない。農園の別の一角には、誰が植えたのかトマトができていたが、既に実が赤くなりかけている。同様に、ナスの紫の花が風に揺れ、キャッサバ(タピオカと言うほうが分かりやすいか)が青々と葉っぱを茂らせていた。

 

「む? 相棒、どうしたんだ?」

 

 そこへ、堺の背後から戦艦娘"()(さし)"が声をかける。彼女はもともと肌が黒いのだが、いまや黒人かと間違えるほど黒くなっていた。どうみても“日焼け”である。

 

「武蔵? こりゃなんだ!? そしてお前の日焼けは……?」

「ん? ああ、演習以外にすることがないので、暇で困っていたところへ、相棒、お前が土地を農園用に借りたと聞いてな。暇潰しにお茶の面倒を見ていたら、あっという間に大きくなっていく。せっかくだから、トマトとナスを植えて、ついでにキャッサバも試してみたら、こうなってしまったのだ」

 

 1週間で茶園1つできるとは、クワ・トイネの大地恐るべし、である。

 

「だが相棒よ、これで紅茶不足は解消できそうだな?」

「ああ。製茶(発酵)が必要だが……その間はなんとか茶葉の残りが保ちそうだ。これほどとは、予想できなかったな……ついでだから、サトウキビとコーヒーもやるか?」

「ああ、鎮守府近くの狭い畑でやるより、はるかにいいだろう。コーヒーは特に利用者が多いしな」

 

 というわけで、この後、許可を得た上で畑が拡張され、サトウキビとコーヒーも植えられた。

 そして当然のように、1週間ほどでコーヒーの結実が始まり、サトウキビは十分に成長して、汁を絞ることができそうなレベルになった。

 

 

 そして、ついに完成したクワ・トイネ産紅茶は、堺を十分満足させる出来映えであり、……収穫した量が多すぎた。

 

「うーん、こりゃさすがに多いな……」

 

 乾燥させられている大量の茶葉を前に、堺が呟く。

 

「ならいっそのこと、クワ・タウイでカフェのメニューとして出しつつ、売ってみるか……?」

「いいんじゃないでしょうか?」

 

 "大淀"もあっさり同意。

 かくして、クワ・タウイの一角に新たな店…艦娘経営のカフェが設置され、紅茶……および、コーヒーと黒砂糖の提供が開始された。

 なお、なんで“黒砂糖”なのかというと、堺はサトウキビ汁の絞り出しと、黒糖の精製には成功したのだが、肝心の白砂糖の精製に失敗してしまったのである。そのため、白砂糖ができるまで、黒砂糖で我慢することになったのだ。

 

 そして開店したカフェだが……初日の客足はまあまあ、という程度だった。

 ところが、2日目に店を開けようとしてやってきた"()()"と"日向(ひゅうが)"は、店の前にずらりと並んだ人々を見て、仰天する羽目になった。初日に提供した黒砂糖が人気を呼び、ついでに紅茶やコーヒーとの取り合わせが良いと、話題になったのである。加えて朝用のメニューとしてサンドイッチやホットドッグを供していたこともあり、クワ・タウイの造船所や石油コンビナート、その他の企業で働く人たちが、折角の機会にと、朝飯を食べに来たのである。

 さらに、ここで食事を摂っていった人が口コミで新たな客を呼び、またリピーターと化して戻ってくるため、客足は日に日に増える一方。

 ついには、カフェ開設から1週間と経たないうちに、2号店をクワ・タウイの街の西部に(きゅう)(きょ)オープンする始末である。

 そしてこの頃になると、わざわざ公都クワ・トイネや経済都市マイハークからやってくる客も出て、さらには紅茶やコーヒーを単独で楽しめないかという要望まで出始めた。

 おい、本当に中世レベルの国家かよ。情報伝達が早すぎるんだが。……まあ、魔信があるしね……

 

 そして…カフェ開設から1ヶ月が経ち、ロウリア王国との戦争が始まる頃には、すでにクワ・トイネ公国全域に紅茶とコーヒー、黒砂糖が出回るようになってしまっていた。

 公国各地では、昼の3時になるとティータイムと称して、紅茶片手にサンドイッチや黒砂糖を楽しむ奥様方が見られたり、労働者たちが朝の眠気覚ましにコーヒーを(すす)る光景が展開したりしている。また同時に、紅茶かコーヒーか? という果てなき論争が勃発することとなった。

 

 え? 家庭用のコーヒーメーカーはどうしたかって? 鎮守府にあったコーヒーメーカー(提督室備え付けの家具)をバラして"(あか)()"と"(ゆう)(ばり)"が構造を研究し、原理を理解した上で、軽油で運用できるようプロトタイプを作って、なんとかテストに合格して量産までこぎつけました。ここまで約1ヶ月。

 

 同時に、畑のほうも凄まじい勢いで拡張され、いまや茶園とサトウキビ畑とその他を合わせると、地球基準で5ヘクタールにも達する土地が畑にされていた。紅茶もコーヒーも、安定して一定量を生産することが可能となっている。

 

 しかし……堺にはまだ、解決しなければいけない課題があった。

 

 それは…タウイタウイ泊地の艦娘たちから、連日矢のように催促が出されている、「いい加減スイーツを食べさせろ」という要望だった!

 

 そもそもスイーツは、基本的に白砂糖を使えなければ作れない。それがなければ、艦娘たち全員に大人気の間宮の羊羮も、特に駆逐艦たちから好評を博している大和のアイスも、作ることができないのだ。

 そして、サトウキビ自体の量産は順調である。ということは。

 

 どうにかして白砂糖を精製できなければ、スイーツ課題はどうにもならないのだ!

 

 しかも、まだテレビが機能していない現状、艦娘たちの娯楽といったら基本的に食事か風呂。特に、甘いものが何よりの楽しみなのだ。

 "大和"によれば、艦娘裏市場(いわゆるタウイタウイ泊地内のブラックマーケット)で流通している「間宮の羊羮」は、値段がとんでもないことになっており、また特に駆逐艦の艦娘たちの間では、「間宮の羊羮」は面倒な日直の任務、掃除当番などを交代する時に使う“(わい)()”として、非常に高い価値を有するようになっている、とのことである。明らかにまずい状況だ。

 そして堺が特に気をつけているのが、艦娘たちの反乱である。それをやられたら、(いっ)(ぱん)(じん)ではなく一般人である堺には、打つ手がないからだ。

 

 つまり……堺にとっての死活問題は、『できるかぎり早期に、白砂糖の安定した精製方法を確立し、艦娘たちにスイーツを供給できるようにする』こと。

 たかが砂糖、されど砂糖。

 

 堺の苦難は、まだ終わらない。




はい、というわけで堺の苦労は続きます。

改めて考えてみると、艦娘ってほんとにチートみたいな存在だと思うんですよ。何せ軍艦を人程度のサイズにできるわけですし。
ただ…反乱されると対処できる自信がない…

という妄想で書いてみました。さあ、白砂糖の開発はできるのか!?

また今後、ちょくちょくこうした小話入れていきたいと思います。
外伝のトーパ王国での魔王との戦いとか、どうしよう…。皆様は如何でしょうか?
どうしても見てみたい! と仰るのであれば、検討させていただきます!
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