鎮守府が、異世界に召喚されました。これより、部隊を展開させます。 作:Red October
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前回、上げてなかったネタがありますので、ここで解説します。
ロデニウス軍の作戦名「バンジュール」ですが、実はこれは「海底二万里」から持ってきています。同作品に登場した、遥か昔のフランスの沈没軍艦(おそらく74門級戦列艦)の名前ですね。
さて、いよいよお待ちかねのドンパチパートです。(フェン)島がドンパチ賑やかになるぜぇ…!
中央暦1640年1月28日午前9時、フェン王国 ニシノミヤコ西方30㎞の沖合。
そこには、合計20隻にもなる帆船が、綺麗な隊列を作って浮かんでいた。それらのうち8隻は、舷側に大量の大砲を並べている。いわゆる「戦列艦」と呼ばれる軍艦の一種だ。
そして、残り12隻には大砲は全くない。しかもその甲板は真っ平らで、マストと右舷艦尾の艦橋らしきもの以外の構造物が見当たらない。だが、甲板をよく観察すると、甲板の一部に縦横15メートルほどの正方形が、薄っすら描かれている。まるでその部分だけ、甲板に開いた穴を上から塞いだようだ。
これら12隻の船は、洋上でワイバーンを運用するための「竜母」と呼ばれる船である。要は、ワイバーンやワイバーンロードを海上で飛ばすための「航空母艦」なのだ。そしてもちろん、薄っすら描かれた正方形は、ワイバーンロードを格納庫や甲板に移すためのエレベーターである。
竜母は、全長80メートル程度という巨体を持つ。これは、ワイバーンロードを搭載するスペースを確保するためである。このため、竜母は戦列艦に比べて二周りほど大きい。
パーパルディア皇国は、他国とは隔絶した圧倒的な技術を持つからこそ、こうした大型戦列艦や竜母を建造し、また運用することができる。実際、第三文明圏において竜母を建造し運用している国は、パーパルディア皇国のみである。ただし第一・第二文明圏には、竜母を運用している国が幾つかあるのだが。
その見る者に圧倒的な存在感をもたらす竜母艦隊を、艦橋(とは言うが、艦尾に設置されたガラス窓のある四角い構造物という表現がより適切である)から眺め、竜母「キース」に乗り込んでいる竜母艦隊副司令アルモスは、満足そうに頷く。
「竜騎士長!」
「はっ!」
そしてアルモスは、すぐ隣に立つ竜騎士長に話しかける。
「皇軍は強い!」
「存じております。」
「何故、強いと思う?」
「他国とは隔絶した総合力があるから、です。」
「その通りだ! だが、圧倒的な強さを誇るのは、戦列艦隊の存在はもちろんのことだが、この竜母艦隊があるからこそ、強いのだ! 竜母艦隊があれば、どんな戦列艦の大砲よりもアウトレンジから攻撃できる。
竜騎士長、空を制する者こそが、最終的に海も陸も制する。私はそう思うのだ」
「はっ! 先進的なお考えであります!」
「うむ! パーパルディア皇国皇軍が、今までの海戦で無敵を誇り続けてきたのは、この竜母艦隊があったからこそだ! この竜母艦隊がある限り、パーパルディア皇国は覇道を突き進むであろう!」
「全く以て、仰る通りであります!」
ちなみに、竜騎士長はアルモスの話が長く、面倒臭く感じてきているため、適当に調子を合わせているだけである。
「そして見よ!」
アルモスは大仰に両手を広げ、「キース」のすぐ隣を航行している1隻の竜母を示した。
「この竜母艦隊の旗艦にして、最新鋭の竜母ミールを!! ……素晴らしい。艦は大きく、機能美に満ちているではないか!」
そこには、従来の竜母とは異なる、パーパルディア皇国流に表現するなら「装甲竜母」となる船がいた。
通常、竜母という船はワイバーンロードを搭載するための格納庫を作る必要があるので、どうしても船体が大きく、
しかし、パーパルディア皇国は諦めず、その高い魔導技術をフル活用して、できるだけ軽く且つ強力な防御力を持つ、新型の対魔弾鉄鋼式装甲を開発することに成功したのだ。その新型の対魔弾鉄鋼式装甲をふんだんに使用して作られたのが、アルモスのいう竜母「ミール」なのである。
「ミール」は、この装甲によって砲弾への耐性を持たされており、大きく、強く、そして美しい竜母へと仕上がっていた。
タウイタウイ泊地艦隊の母艦航空隊の妖精たちが聞いたら、「舷側だけじゃ足りん、飛行甲板がお留守になってるぜwww」とか言いながら、嬉々として爆弾を急降下爆撃で叩き付けるだろうが。
ほとんど"耳ちくわ"の様相を呈している竜騎士長にお構い無しに、アルモスが「ミール」の素晴らしさをくどくどと語っていると、突然、
ウウゥゥゥーーー!!!
竜母艦隊の前方に展開している戦列艦から、警戒音が響いてきた。それは、ムー国で開発されたものを輸入した、サイレンとかいう警報装置である。
「何だ!?」
折角のお喋りを中断され、アルモスがやや不機嫌そうに呟く。
『こちら戦列艦フィシャヌス! 艦隊前方より敵
「なっ、何だと!?」
アルモスは驚いた。ここはフェン王国であり、隣国ガハラ神国に生息する風竜の影響で、ワイバーンはいない。そのため、まさか敵がワイバーンを出してくるとは思っていなかったのだ。
よく見ると、艦隊前方の水平線あたりの空に、黒い点が複数見える。黒いゴマ粒を撒き散らしたかのようだ。
「上空援護のワイバーンは、大至急敵騎を迎撃せよ! 上がれるワイバーンも急いで上がれ!」
竜母艦隊司令が、魔信で指示を飛ばす。
艦隊の上空にスタンバイしていたワイバーンロード5騎が、前方の敵飛竜に向かっていく。竜母の艦上は、一気に騒がしくなった。
しかし、現在パーパルディア皇国の竜母艦隊に接近しつつあるこの影は、
「目標を視認。全機突撃せよ! 安全装置外せ!」
「翔鶴」の噴式攻撃隊の隊長が叫び、「トトツートト」のモールス信号が連続して送られる。「ト連送」……つまり、「全軍突撃セヨ」の意味を持つ、攻撃開始の合図だ。
ゴオオオオオォォ!
翼の下部に埋め込まれた、「噴式景雲改」のネ20エンジン、そして「橘花改」のネ20改エンジンが、力強く高らかに咆哮する。
黎明期のジェット機故に、運動性能が不足しているが、一撃離脱を仕掛けるなら速度は十分。時速600㎞超の高速で、55機のジェット機はパーパルディア艦隊に向けて突撃する。
上空直掩のワイバーンロード5騎が迫り、火炎弾を撃ってくるが、速度の差があり過ぎて、当たるどころか掠りもしない。そして、ワイバーンロードの約2倍の速度で、敵の上空直衛をあっという間に突破し、高度700メートルを保って、55機は突っ込んでいく。
敵の竜母からは、ぱらぱらとワイバーンロードが発進しつつあった。5、6騎ほども飛び立っているだろうか。
だが、これ以上飛び立たせはしない。
「距離ヒトマル!」
敵との距離を1,000メートルまで詰めたところで、
「痛いのをぶっ喰らわせてやれ!」
隊長が命じた。
「投下ァ!」
「喰らえー!」
それを合図に、各機が一斉に腹に抱えた爆弾を投下する。それも、ただの爆弾ではない。無線誘導爆弾…つまり
55発の対艦ミサイル「イ号一型乙無線誘導爆弾改」……諸事情あって、一部艦娘からは「エロ爆弾改」などという不名誉極まりない渾名で呼ばれるそれが、母機の意志が乗り移ったかのごとき速度で、パーパルディア艦隊に迫る。
「上空直掩隊、迎撃に失敗! 敵騎が速すぎる!」
上空にいたワイバーンロードから、竜騎士の悲鳴が魔信に乗って入ってきた。
「な、何ぃ!? は、速すぎるだろ!?」
艦尾キャビンから甲板に飛び出して、空を眺めていたアルモスは、高速で近付いてくる敵飛竜隊を見て慌てる。すると、
「あっ、何か投下したぞ!」
敵の飛竜が、一斉に何かを落とす。
凄まじい高速で突っ込んできた「それ」のうちの1発が、さっきまでアルモスが自慢していた、パーパルディア皇国の最新鋭竜母「ミール」に、真正面から突入した。
ドガアァァァァァン!
目を焦がさんばかりの爆炎、鼓膜が破れそうなほどの大音響。「イ号一型乙無線誘導爆弾改」が「ミール」に命中し、300㎏タ弾の威力を全て解き放ったのだ。
このたった一撃で、「ミール」のマストは根元から吹き飛び、甲板はちぎり飛ばされ、艦体全体が炎に包まれる。対魔弾鉄鋼式装甲により黒光りしていた「ミール」の艦体は、あっという間もなく赤い炎の塊に変化した。
そこへダメ押しとばかりに、もう1発誘導爆弾が叩き込まれる。それは、爆風と炎と衝撃によって脆くなっていた「ミール」の艦体を突き破って艦底部で炸裂し、
パーパルディア皇国の誇る最新鋭竜母「ミール」は、たった2発でほぼ完全に破壊され、アルモスの目の前で真っ二つとなって海面下に没した。
ここまで30秒とかかっていない。
「な……な、何だ!? 何が起きているんだ!?」
見たことのない、それでいて一撃必殺級の威力を持つ攻撃に、酷く狼狽するアルモス。
しかし、時は止まってはくれない。先ほど投下されたエロ爆弾改は、まだ50発以上あるのだ。
ドゴォォォォォォォァァァンッ!!!
続いて艦隊前方で、さっきの「ミール」のそれよりも眩い閃光が閃いた。直後、「ミール」の爆発に倍する大音響が耳を
「ああっ!」
「キース」のマストに登っていた見張りが叫んだ。
「戦列艦フィシャヌス、轟沈っ!」
「!!!!!」
アルモスの全身を、凄まじい衝撃が走り抜ける。
戦列艦「フィシャヌス」。それは、パーパルディア皇国の誇る100門級戦列艦、その後期型のネームシップだった。
前級となる「フィルアデス級100門級戦列艦」と異なり、フィシャヌス級からは対魔弾鉄鋼式装甲が、艦体側面を一面に覆うように張り付けられている。これにより、フィシャヌス級はフィルアデス級由来の高い攻撃力を引き継ぐと同時に、フィルアデス級より高い防御力と生存性を獲得したのだ。
そして、戦列艦「フィシャヌス」はつい先月、対魔弾鉄鋼式装甲を最新鋭のものに張り直す近代化改修を受けたばかりだった。その近代化した状態での初陣で、たった1発の攻撃により、100門級戦列艦「フィシャヌス」は弾薬庫に引火して
アルモスが絶望する暇もなく、無線誘導爆弾は次々と降り注ぎ、竜母といわず戦列艦といわず、片っ端から破壊し、竜骨をへし折り、砲弾を誘爆させて海底送りにしていく。
「竜母ガーナム轟沈! 竜母マサーラ轟沈ッ!!」
「キース」の見張り員の報告は、最早絶叫と化していた。
しかも、この爆弾はよく見ると、
が、アルモスは絶望しきっており、気付いていない。
「馬鹿な! 最強の、皇国の竜母艦隊が、こんな……馬鹿なぁぁぁぁっ!」
もう味方の竜母艦隊…ついさっきまで、パーパルディア皇国の力を見せ付ける雄姿を誇っていた艦隊は、戦列艦も竜母もまとめて全滅し、「キース」1隻しか残っていない。
アルモスの絶望の叫びに、
「この艦に向かってくるぞ!」
見張り員の絶叫が重なった。
「うわあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
その絶叫が、アルモスの、そして竜母「キース」乗組員一同の、最期の言葉となった。
直後、竜母艦隊最後の生き残り「キース」は、3発もの「イ号一型乙無線誘導爆弾改」の直撃を喰らい、乗組員やワイバーンロードもろとも木っ端微塵に吹き飛んで、消滅した。
『トラ・トラ・トラ(作戦成功、の暗号)。敵竜母艦隊、全艦撃沈しました』
爆弾を投下した後、上空を高速で旋回していた「瑞鶴」航空隊員妖精の1人が報告する。
ロデニウス連合王国海軍第13艦隊・第五航空戦隊のジェット機部隊は、竜母・戦列艦合わせて20隻を、悉く魚の棲み
「よし、長居は無用。引き上げるぞ!」
隊長が命令を下すと、
『え? 敵の
隊員の1人が尋ねた。
「いや、あれは俺たちの獲物じゃない。ジェット機は速度は速いが、運動性が低いから、低空での格闘戦には向かない。そして多分、奴らの特技は格闘戦だ。わざわざ付き合う必要はない。それに、後続の連中のための獲物も、残しておかねばならんしな」
『そういうことなら、了解しました』
隊員は納得したようだ。
「よし、全機俺に続け! 母艦に帰投する!」
隊長の命令に従い、55機の攻撃隊は1機の損害も出すことなく、母艦に向けて帰投していった。
「くそっ!」
ジェット機部隊が去った空で、パーパルディア皇国の竜騎士小隊長バルオスは
彼は、竜母艦隊の上空で警戒に当たっていた5騎のうちの1人である。竜母に急接近する敵
船に吸い込まれていったそれは、命中と同時に大爆発し、船を木っ端微塵に吹き飛ばしていく。結果、最強を誇った皇国の竜母艦隊は、会敵からたった3分という
彼は、その様子をまざまざと見せ付けられた後、引き上げようとする敵飛竜に一矢報いんとしたのである。だが、相手の速度が速すぎて、一撃も与えられなかったのだ。その結果が、さっきの悪態である。
「これでは、帰る場所がない……!」
結局、彼は部下を率いて、ニシノミヤコに着陸することに決めた。ちなみに部下は、どうにか発艦が間に合った6騎を含め、11騎になっている。竜母艦隊のワイバーンロード隊は、バルオスを含めて12騎が最後の生き残りとなったのだ。
着陸した後は、どうにかして滑走路にできそうな長い道、もしくは広い所を見付けておかなければならない。でなければ、離陸できなくなる。
「おのれ、ロデニウス連合王国軍め! 今に見てろ……復讐してやる!」
バルオスは、自らの母艦を全滅させていったロデニウス連合王国軍に憎しみを燃やす。
◆◇◆◇◆◇◆◇
その頃、ニシノミヤコの西方60㎞の沖合。
そこには、海を埋め尽くすような数の帆船が集結し、綺麗な隊列を整えていた。パーパルディア皇国の第4・第5艦隊を統合した、フェン王国攻略艦隊である。
その旗艦である大型の戦列艦……パーパルディア皇国の持てる技術を全て注ぎ込んで作られた、120門級超F級戦列艦「パール」(超F級、というのは超フィシャヌス級の意味である。我々の世界には「超ド級」という表現があるが、これはもともと「超ドレッドノート級」の意味で、ドレッドノート級戦艦を超える性能を持つ強力な戦艦、という意味だった。超F級はそれと同じ種類の表現である。戦艦ドレッドノートが何故こんな名前を残したかは、各自ググるべし)。
その甲板で、艦隊司令官シウスは東の海を見詰めていた。その額は、びっしょりと汗に塗れている。
つい先ほど、この艦隊から見て30㎞東方に展開している竜母艦隊から「敵騎来襲」の魔信が寄せられた。その後、東の海で猛烈な爆発が連続して発生し、皇国の竜母艦隊20隻(護衛の戦列艦8隻を含む)との魔信が、全く通じなくなっている。しかも、爆発の回数はおよそ40〜50回。明らかに、竜母艦隊の倍以上の数がある。
ということは……竜母艦隊は全艦が撃沈され、全滅した可能性がある。
非常に短時間で、20隻もの列強国の艦隊が音信不通となる原因は、シウスには全く分からない。
確認のため、4隻の戦列艦を竜母艦隊が展開していた海域に向かわせたが……果たしてどうなっているのか。
(もしも、竜母艦隊が全滅していたら……)
それは、シウスにとって最悪の想定だった。
既に艦隊は戦闘態勢に入っており、更に陸軍の支援砲撃のための戦列艦隊20隻も出発した。
今更、後には引けない。
(そういえば……)
シウスはあるものを思い出した。それは、軍祭の折にこのフェン王国に懲罰攻撃のため出撃した、国家監察軍東洋艦隊司令官による最後の電文。
『敵は、我が軍よりも巨大な艦を持ち、それを我が艦隊より速い速度で走らせる。そして彼らの魔導砲は我々のそれよりも大きく、信じ難い命中率を持つ』
シウスはこの報告電文を読んだ時、一笑に付したものだった。
しかし、これはまさか……本当に?
シウスの思考は、答えの出ぬままぐるぐると駆け巡った。
◆◇◆◇◆◇◆◇
さて、こちらはフェン王国に展開中のパーパルディア皇国陸軍。
ニシノミヤコを拠点化した彼らは、ついにフェン王国の首都アマノキに向けて進軍を開始していた。その数約2,800名。更に、皇国の誇る生物兵器たる
しかし、それらの陸軍を束ねる将軍ベルトランの顔は優れない。彼の心には、フェン王国軍が使ってきたあの武器が、ずっと引っ掛かっていた。
(あの形状は……間違いなく
そう。彼が気にしているのは、ニシノミヤコにおいて「フェン王国軍が使っていた銃」……「三八式歩兵銃」である。
捕虜にしたフェン王国人は思った以上に口が固く、結局ベルトランは、この銃をどこから得たのかということを、進軍開始前に知ることができなかったのだ。
明らかにあの銃は、皇国陸軍が使っているマスケット銃よりも洗練された形状をしており、それがベルトランには一層不気味に感じられる。
更に、この進軍の途中で既に2回、フェン王国軍の小規模部隊と交戦した。どちらにも勝利したのだが…その時戦ったフェン王国軍はまた、あの銃を持ち出してきたのである。
パーパルディア軍はその銃を全て鹵獲し、そのうち1丁は今ベルトランの手元にあるのだが……
(火打ち石も、弾を込めるための棒もない。なのに、しっかり引き金がある。どうやって撃っていたのだ!?)
兵士たちに話を聞いても、要領を得ない答えが返ってくるばかり。しかし、話をまとめてみるとどうやらこの銃は、5発ほどを比較的早いスパンで撃てるらしい。このせいでパーパルディア皇国陸軍は、既に40人にも及ぶ兵士を戦列から失っていた。
銃身後部の右側に付いている奇妙なレバーのような機構が、どうやらその秘訣らしいのだが、どんなメカニズムなのかさっぱり分からない。
(フェン王国が
ふと、ベルトランはそんなことを考えた。
今回パーパルディア軍は、ニシノミヤコにおいてレミールの命令により、ロデニウス人100人を殺処分している。その結果、ロデニウス連合王国はパーパルディア皇国に対して、宣戦布告をしてきていた。
普通に考えれば、相手は文明圏外の蛮族でしかなく、あっさりと滅することができる。……彼らが、列強から支援を受けたりしていなければ。
ベルトランには、それが気懸かりだった。
(この戦いに勝って帰ったら、先進兵器開発研究所にこの銃を渡して、性能について問い合わせてやろう)
ベルトランは、そんなことを考えていた。
部隊は、昼頃にはゴトク平野に達するだろう。そこではフェン王国軍が、必死になって突撃してくるだろうが、そこを抜ければアマノキは目の前だ。
ここで、ベルトランに死亡フラグが立ったと思った人は、素直に手を挙げるべし。
その頃、アマノキ郊外のゴトク平野では、ロデニウス連合王国陸軍が戦闘態勢を取って展開しつつあった。
フェン王国の首都アマノキのすぐ西には、ゴトク平野と呼ばれる平野がある。平野なのだが、土中の栄養分が乏しいため、作物は育たない。それに加えてこの土地は水の吸収が良く、降った雨が大地の下層の方まで一気に流れ落ちてしまうため、水の確保も難しい。
よって、この平野には木が生えず、短い雑草が生えるのみの草原となっていた。
その平野の土を、冬だというのに汗塗れになったロデニウス連合王国陸軍の兵士たちが掘り起こし、細長い土の溝を作っていた。その深さは深く、人1人が溝の底に立つと、辛うじて顔だけが土の上に出る程度の深さだった。
そう、彼らは
また、塹壕掘りの際に掘り返された土は積み上げられ、
なぜこんな、首都アマノキのすぐ近くという
それは、フェン王国の地理とロデニウス連合王国軍の性質が原因である。
自らを文明国と自認しているロデニウス連合王国軍は、堺の提案を受け入れ、なるべくフェン王国に被害が出ない形でパーパルディア軍を討とうとしていた。そうなると、どうしても迎撃に使える場所は自ずと限られてくる。できるだけ人家のない場所で、かつ敵の全軍が入れるような広い場所、そして敵が通ることが間違いない場所。
その条件にかけた結果、このゴトク平野が最適解となったのだ。故にロデニウス連合王国軍はここに展開し、パーパルディア軍を迎え撃たんとしているのである。
「良いか! フェン王国の興廃、そして我が国の民の明暗は、この一戦にあり! 各員、一層奮励努力せよ! パーパルディア軍を滅ぼせ!」
パーパルディア皇国に宣戦布告状を叩き付け、その足でフェン王国に駆け付けた堺が命令を飛ばす。碌すっぽ休息もしていないのに、堺はやけにやる気満々だった。いや、この場合「
ロデニウス連合王国軍は、戦闘態勢を整えつつあった。
◆◇◆◇◆◇◆◇
一方、海を隔てて210㎞以上も離れた地、フィルアデス大陸のパーパルディア皇国。
その皇都エストシラントでは、第1外務局の職員ニソールが、エストシラント北西部の大使館街の一角に設置された、ムー国の大使館を訪れていた。もちろん、アポを取った上での訪問である。
彼に対応したのは、パーパルディア駐在ムー大使、ムーゲだった。
「アポありとはいえ、随分と急な会談ですな。いったいどうされたのですか?」
ムーゲはニソールに尋ねる。
「急な申し出ですみません。少々お伺いしたいことがございまして、訪問させていただきました。
現在、我がパーパルディア皇国はフェン王国と戦争状態にあり、また同時にロデニウス連合王国とも戦争状態にあります。これは、貴方もご存じかと思います」
ニソールはゆっくり、話していく。
「はい、存じております。また、貴国パーパルディア皇国は、フェン王国に滞在していたロデニウス人100人を、国家の意思を以て殺し、それがロデニウス連合王国の宣戦布告に繋がった、とも聞き及んでいます。
この戦い、我が国ムーは強い関心を持って注視しております」
それに対し、ムーゲも当たり障りのない返事を返す。
大使館における話し合いとは、まさに相手の腹の探り合い。悪く言えば騙し合いなのだ。
「仰る通りでございます。そして今回、貴国は観戦武官をロデニウス連合王国に派遣した、と伺いましたので、本日はその真意の確認に伺いました」
以前にもお話ししたと思うが、ムー国は戦争に関して情報収集癖があり、何か戦争があるとなると、必ず当事国に観戦武官を派遣してくる。それも、勝つだろう方の国家に派遣するのだ。
今回、ムー国はパーパルディア皇国に観戦武官を派遣するのかと思いきや、そうではなくロデニウス連合王国に観戦武官を派遣していた。パーパルディア皇国上層部は、その真意を確かめようとしたのだ。
「我が国は、観戦武官をロデニウス連合王国に派遣しました。これは、間違いありません」
ムーゲは、はっきりと言い切った。
事前に情報を受けてはいたものの、ムー国の大使がそう言い切ったことで、ニソールはあの情報は嘘ではなかったと思い知らされる。これは、ニソールにとっては衝撃でしかなかった。
一呼吸おいて、ニソールは口を開く。
「その理由をお伺いしてもよろしいでしょうか?」
「私は軍人ではありませんので、詳しいことは分かりかねます。ですが、我が国のムー統括軍の方で
ニソールの切り込みに、ムーゲは難なくこれを躱す。
「これまでの戦争で、貴国は勝つ方の国にしか観戦武官を派遣してきませんでした。今回、ロデニウス連合王国に観戦武官を派遣したということは、我が国が本戦争に負けると分析してのことでしょうか?」
ニソールは、一番気にしていたことを尋ねた。
するとムーゲは、
「その事に関しては守秘命令が出ていますので、私の口から申し上げることはできかねます。ただ、ムーは貴国に敵対する意志はない、ということはご理解ください」
さらりと対応してみせた。まあ、命令が出ているのでは仕方あるまい。
「分かりました、ありがとうございます」
ニソールは頭を下げる。
彼は心中密かに、ムーがパーパルディアに敵対してくることを恐れていた。彼は、ムーが自国より遥かに強いということを、しっかりと認識していたからである。
すると、
「それでは逆に、私の方からも、1つお伺いしてよろしいでしょうか?」
ムーゲが、逆に質問してきた。
「はい、何でしょう?」
「単刀直入にお伺いします。貴国パーパルディア皇国は、何故ロデニウス連合王国に
(!?)
ニソールは不意を衝かれ、一瞬言葉に詰まった。
「私も詳しくは伺っていないのですが、国力の差を考えて勝てると判断したから、ではないでしょうか」
「左様ですか」
ムーゲは一言言ったあと、頷いた。
次のムーゲの言葉を待ちかね、ニソールはゴクリと生唾を飲み込む。
「それでは、ここからの発言はムー大使としてではなく、私個人の感想として申し上げたいのですが、よろしいですか?」
「はい」
いったい何を言われるのだろうか。
すると……ムーゲはとんでもないことを言い出した。
「貴方の発言を考慮するに、『パーパルディア皇国はロデニウス連合王国を分析し、勝てるという判断を下した』からこそ、今回ロデニウス人の虐殺という挙に出て、ロデニウス連合王国の逆鱗を叩き割った……と、私は考えています。
しかし、我が国が分析した結果……ムー国はとても、
先ほど申し上げたように、これは私個人の意見ですが、私は貴国の勇気に敬意を払いたいと思います」
「……な!!?」
ニソールを、激しい驚愕が襲った。
ムーゲのこの発言を最後に、会談は終了した。
(なんということだ! ムーは……まさか……ロデニウス連合王国が我が国に勝つと思っているのか!?)
大使館を出て通りを歩くニソールの背中には、嫌な冷や汗が滝のように伝う。
(これは不味い……早く帰局して、早急に報告書を作成しなければ!)
嫌な予感と焦りから、ニソールの足取りはとても早くなった。
◆◇◆◇◆◇◆◇
そして、そのフィルアデス大陸から1,100㎞も離れた地・ロデニウス大陸北東34㎞の地点に位置するタウイタウイ島では。
「宣戦布告……。しかもその理由の1つが、ロデニウス人の虐殺への抗議ですか……」
タウイタウイ泊地・艦艇工廠では、"
「外交員、つまり提督の前で公開処刑とは、何と
湯気の立つコーヒーを飲みながら、"釧路"は呟いた。
「であれば……ここからは恐らく、パーパルディア皇国との全面的な武力衝突が続くでしょう。ならば、今こそこの
新聞を机の上に放り出し、"釧路"は机の引き出しを開けて1つの書類を取り出した。そこに記されていた表題は、「戦略爆撃を任務とする重爆撃機の開発に関する要項」。
読者の皆様は、「016. 戦の終わり、苦難の始まり」にて策定された、ロデニウス連合王国軍の軍備増強計画について覚えているだろうか。
その中に「戦略爆撃機(目標はB-29、妥協点としてB-17またはランカスター)を開発する」というものがあったが、実はこれはかなり難航していた。機体を作るための材料の確保もさることながら、エンジンの性能が不足しており、史実通りのスペックを再現できなくなっていたのだ。そのため、この計画は暗礁に乗り上げ、一時停止されてしまっていた。
だが、"釧路"にとっては、この計画はどうだろうか?
(B-29ね……。確かに、戦略爆撃機としては申し分ないわね。それに、運用の実績も十分あるみたい)
そう、"釧路"にとっては、材料、いや原料さえあれば、B-29の開発は造作もないことなのである。
少し考えた末に、"釧路"は妖精を1人、艤装の中から呼び出した。
「フェン王国での戦いが終わって、提督がお戻りになるまでに、このB-29、試作で1機作るわよ。明石さんや
妖精はビシッと敬礼すると、すぐさま退室していった。
同時刻、クワ・タウイ近郊の演習場では、
「よっしゃーーー!!!」
戦車の設計に当たっていた技官妖精が、歓声とともに拳を突き上げ、ガッツポーズをしていた。
彼の前では、1輌の自走砲が演習場を動き回っている。それは、Ⅳ号戦車の車体を利用し、回転砲塔を持たない代わりに、強力な九六式150㎜榴弾砲を搭載していた。
まだ名称は与えられていない。しかし、見た目はどことなくⅣ号突撃戦車「ブルムベア」に似ている。
その自走榴弾砲は、彼の狙った通りの動きをしてみせたのだ。それも、途中でエンジントラブルを起こしたりすることもなく、スムーズに動いてくれた。
「これなら、認められて正式採用されそうだ! 苦労した甲斐があったもんだぜ……!」
そう叫んだ後、その妖精は下顎に手を当てて、こう考えた。
("釧路"さんからアドバイスもらったのも、追い風になったかな。後で
はい、初っぱなの航空戦はロデニウス連合王国軍の圧勝でした。まあ当然ですよね…
さて、ドンパチパートはまだ始まったばかり。むしろこれからが本番です!
次回予告。
ゴトク平野にまで進出したパーパルディア皇国陸軍。それに対して、ゴトク平野に防衛線を敷いたフェン-ロデニウス連合軍。
両軍は、ゴトク平野の大地に、海に、空に激突する…!
次回「フェン王国の戦い 破」