鎮守府が、異世界に召喚されました。これより、部隊を展開させます。   作:Red October

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皆様、本当にご愛読ありがとうございます!

評価8をくださいましたセルド様
評価9をくださいましたヘスティア様、笑う男様、ヒャーッハー様、ゆうems10様、ベータ2様、アリストAgain様
評価10をくださいましたゼロギアス様
ありがとうございます!!
また、新たにお気に入り登録してくださいました皆様、ありがとうございます!

はい、今回はゴトク平野での陸戦がメインです。それに付随する形で空戦と海戦も、一応あるのですが…。

ドンパチパートは少なくともあと1話分あります。結果? まあ、想像しつつお待ちくださいませ。

それでは、フェン王国の戦い第二部、ごゆっくりどうぞ!



036. フェン王国の戦い 破

 第五航空戦隊からジェット機部隊が出撃する少し前、中央暦1640年1月28日 午前7時ちょっと過ぎ、フェン王国首都アマノキ付近の浜辺。

 両主翼の翼端と胴体に、でかでかと赤い円を描いた1機の水上機が、アマノキの浜辺に着水しようとしていた。いや、胴体部分がフロートを兼ねているから、“水上機”というより“飛行艇”という表現が正しい。

 その機体は、一度見たら忘れられないような、独特の形状をしている。4発のプロペラエンジンを備えた、左右に伸びる主翼は細長い。そして胴体はやたらと細くスリムなのに、正面から見るととんでもなく背高のっぽに見えるのだ。これは、アスペクト比(詳細は各自ググれ)を大きめにしつつ、高い速度と長い航続距離を両立しようとした結果である。

 

 この機体の名は、「()(しき)(おお)(がた)()(こう)(てい)」。()()水上機メーカーと名高い航空機製造会社「川西航空機」により生み出された、当時としては間違いなく世界一レベルの性能を誇った飛行艇だ。「二式大艇(だいてい)」とも呼ばれる機体である。

 

 「二式大艇」は激しい水飛沫を跳ね上げながら、フェン王国の海に着水した。そして、ゆっくりと速度を落としていき、ついには停止する。

 しばらくすると、軽巡洋艦「(さか)()」から出された(ない)()(てい)が、「二式大艇」に接近してきた。そして10分後には、「二式大艇」から降りてきた2人の男性…ムー国の観戦武官マイラスとラッサンを乗せ、母艦である「酒匂」に引き返していく。

 

「あれがロデニウス連合王国の水上機か! 高速を発揮するための強力なエンジン、運動性確保のために空気力学的に洗練された機体、離水時に発生する波に対処する工夫、強力な防空火器……いやー、いろいろと勉強になったもんだ!」

 

 朝早くから飛行艇に乗せられて来たというのに、マイラスはやたらとテンションが高い。当時としては突出した性能を持っていた飛行艇に乗せられただけに、技術屋の血が騒いでいるのだ。

 その隣では、ラッサンが何やら青い顔をしている。運動をした後でもないのに呼吸は乱れ、口元を片手で押さえている。どうもただごとではない。

 と、突然ラッサンの喉仏が、下から上に大きく動いた。と見るや、彼はいきなり顔を内火艇の外に突き出し、

 

「うっ、おげぇぇぇ!」

 

 胃の中の内容物を…胃液だの食物だの様々なものが混ざったそれを、思い切り海面にぶち撒ける。完全に酔っていた。といっても、酒に酔ったのではない。

 実は彼、「二式大艇」が着水した際に機内を襲った強烈な揺れによって、一種の船酔いを起こしてしまったのである。彼は決して乗り物には弱くないのだが、激しい縦揺れには慣れていなかったのだ。

 酔ってしまったものは仕方がないのだが、昨晩のフルコース料理の思い出も、観戦への期待も、ムーの威信もへったくれもあったものではない。

 

「ラッサン、大丈夫か? まだ酔ってるのか?」

 

 マイラスが、平気な顔をして話し掛ける。しかしラッサンには、それに答えを返す余裕は全くない。弱々しく首を縦に振るだけである。

 

「しっかりしてくれよ……おお、あれがロデニウス連合王国の艦隊か!

全く、いつもバケモノみたいな大きさしてるな!」

 

 水上にはっきり見えてきた艦影を視認し、マイラスはまたも興奮する。ラッサンは、というと、また魚に餌をやっていた。

 

「しかしあれ、大丈夫か? 今にも倒れそうな艦橋だが……」

 

 マイラスが見ていたのは「違法建築」と名高い、戦艦「()(そう)」の艦橋だった。主砲である「試製41㎝三連装砲」も目を引くが……それ以上に、艦橋のインパクトが大きい。今にも倒壊しそうな格好なのだ。

 

「なんか……最初はまともだったけど、後から後から色々付け足したらこうなった、みたいな見た目してるな」

 

 マイラスは何の気なしに呟いたが、実はこの推測、当たりである。

 日本初の国産超弩級戦艦として建造された「扶桑」は、当初は至極まともな艦橋だった。だが、その後の近代化改修で、やれ射撃指揮所だ、やれ見張り所だと、色々増設していく間に艦橋がどんどん高くなっていった。そして極め付けに、艦橋のすぐ後ろに設置した第3砲塔を、主砲の砲身が前を向くようにしてしまったから、さあ大変。

 ただでさえ色々と積み上げた上に、主砲の砲身をぶつけないように艦橋基部を抉り取ったものだから、艦橋基部が細くなってしまって、「狭い土台の上に高層ビルをおっ建てた」ようになってしまった。しかも、元からそうなるよう設計していたのではなく、後から無理やり増設して乗せた格好なのだ。そのため、「崩壊寸前のジェ◯ガかだるま落とし」としか言い様のない艦橋が、出来上がってしまったのである。

 

「よくあんなヤバいもの作ったな……。しかも、それが倒壊せずに保たれているんだろうな。物凄い建築技術だな。それにしても、今にもドンガラガッシャーンといきそう……砲弾が1発当たったら、一気に倒れそうだな」

 

 自身の右を通り過ぎていく「扶桑」の艦橋を眺めながら、技術的考察に耽るマイラス。

 

「お二方、前方に見えて参りました艦が、今回乗艦していただく軽巡洋艦『酒匂』になります。我が国が誇る最新鋭型の軽巡洋艦でございます。

申し訳ございませんが、これから外洋に出ますので、少し揺れるかもしれません。ご注意願います」

 

 内火艇に乗り込んでいる案内役の妖精が、2人に告げる。

 

「おお、新鋭艦に乗せてくださるのですか! お心遣い、ありがとうございます!」

 

 返事を返し、マイラスは呟く。

 

「できるなら、戦艦か空母に乗りたかったが、贅沢は言えんか。それにしても、巡洋艦とはいえ最新鋭艦にわざわざ乗せてくれるんだ。どんな船なのか、しっかり見てやろう!」

 

 マイラスが決意を心に満たしたその時、

 

「ゲェーッ!」

 

 耳障りな音が聞こえた。またもやラッサンが魚に餌をやっているらしい。

 

「ラッサン、そろそろ船に乗るんだから、シャキッとしてくれ……。あと、ムーの代表としてみっともないから、早く全部吐いちまってくれ」

 

 そんな2人を乗せて、内火艇は「酒匂」へと近付いていった。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 同日午前9時、ロデニウス連合王国 首都クワ・ロデニウス。

 ロデニウス連合王国に亡命している、今は亡きアルタラス王国の王女ルミエスは、ロデニウス連合王国の外務部から“話がしたい”との呼び出しを受け、連合王国政府庁舎を訪れていた。

 案内の職員に従って建物の中を歩き、来賓室に案内される。ドアを開くと、そこにはロデニウス連合王国の外務卿(日本国でいう外務大臣)、リンスイが待っていた。リンスイは彼女に一礼する。

 

「どうぞ、こちらにおかけください」

 

 案内の職員に従い、ルミエスはふかふかのソファーに腰かける。

 案内の職員が紅茶を淹れる傍ら、会談は開始された。

 

「ロデニウス連合王国の外務卿、リンスイと申します。以前に一度お会いしましたね。本日はよろしくお願いします」

「アルタラス王国の王女ルミエスです。こちらこそ、よろしくお願いします。私にご用件とは、いったいどのようなお話でしょうか?」

 

 自己紹介の後にルミエスが問うと、リンスイは口を開いた。

 

「先日、パーパルディア皇国が我が国の民100人を虐殺した、という件はご存じですか?」

「はい、聞き及んでいます。ロデニウス連合王国の方々のご冥福をお祈りいたします」

 

 ルミエスは両手を組み合わせて胸に当て、目を瞑った。正直言って、非常に美しい。

 

「その件に関連して、我が国はパーパルディア皇国に対して、宣戦を布告しました。開戦は今日になっていますから、フェン王国の方ではもう我が軍の兵士たちが、パーパルディア軍と戦っているでしょう」

 

 リンスイのこの言葉に、ルミエスの目が一瞬見開かれる。

 ルミエスもニュースを聞いたり、ここで発行されている新聞(青葉新報)を見たりして、ロデニウス連合王国がパーパルディア皇国に宣戦を布告したらしい、というのは知っていた。だが、どこか現実感がなかったのだ。今まで、文明圏外国がパーパルディア皇国に宣戦布告することなど、なかったのだから。

 しかし今、リンスイの口から直接言われたことで、本当に宣戦布告があったのだ、ということが、現実感を伴って分かったのだ。

 

「そこで、我々から提案です。我が軍がフェン王国からパーパルディア軍を追い払った後で結構ですので、ルミエス殿、貴殿をリーダーとして『アルタラス王国正統政府』の樹立を宣言していただけないでしょうか?

もちろん我が国はこれを承認しますし、全力を以て支援を行うとともに、大東洋共栄圏の参加各国を含め、我が国と国交を結んでいる全ての国家に対して、これを承認するよう働きかけます」

 

 ルミエスの顔に、驚きの表情が浮かぶ。まさか、こんなことを提案されるとは思っていなかったのだ。

 

「そ、それは……」

 

 ルミエスは、辛うじて言葉を紡ぐ。

 

「それは、私にとっては願ってもなく、大変ありがたいお話です。ですが、その……それをしてしまうと、列強パーパルディア皇国は黙っていないと思います」

 

 ルミエスは、アルタラス王国では外交の場に同席させてもらうことも何度かあった。また、王族としての教育は一通り受けている。それ故、ルミエスはパーパルディア皇国の国家としての仕組みなども理解していた。

 

「パーパルディア皇国は、『属領の反乱を促す』という、自国の基盤を揺るがしかねない事態にも繋がる、と考えるでしょう。ロデニウス連合王国に殲滅戦を仕掛けてくることも、十分に考えられます。そうなれば、あなた方の国を不幸にしてしまうかもしれません。それでも、本当によろしいのですか?」

 

 アルタラス王国は、第三文明圏外の国としては突出して高い軍事力を有していた。そして、パーパルディア皇国を仮想敵と定め、研究していた。にも関わらず、パーパルディア皇国に惨敗を喫してしまったのだ。

 ルミエス自身、このロデニウス連合王国は強いだろう、ということは理解している。だがやはり、相手が列強であることを考えると、どうしても“恐怖心”というものが頭をもたげてきてしまうのだ。

 ルミエスのこの質問に対し、リンスイは紅茶で喉を潤した後でこう答えた。

 

「はい。我がロデニウス連合王国政府は、パーパルディア皇国と全面戦争になることに関しては、全く恐れておりません。何しろ我が国には、あの『太陽の旗の軍』がありますので」

 

 「太陽の旗の軍」……つまりロデニウス海軍第13艦隊となっている日本国海上護衛軍・タウイタウイ泊地艦隊については、ルミエスも知っていた。亡命の際に、臨検してきた艦を見たときの驚きは、今でも忘れていない。そしてマイハーク軍港に船を停めた時、そこで目の当たりにした超大型の軍艦(とはいうが、この時2人が見たのは実は()()型軽巡洋艦なので、そんなに大きい船ではない)には、護衛のリルセイドともども圧倒されたものだった。

 

「それと、これはまだぼんやりとしか定まっていない事項なので、本当にそうなる、という保証は致しかねますが……」

「?」

「我が国の軍部の考えにもよりますが、『太陽の旗の軍』の司令官は、もしかするとパーパルディア皇国を解体し、場合によっては滅ぼしてしまうかもしれません」

「!!?」

 

 ルミエスには、これこそ衝撃でしかなかった。

 あのパーパルディア皇国を解体し、滅ぼす。

 そんなことができるとは、夢にも思っていなかった。

 

「そ、そんなことが……そんなことができるのですか!?」

「あの司令官は、『できるかできないかで言えば、できます。ご命令とあらば、彼の国を滅ぼせ、と言われても遂行してみせますよ』と言っていましたが。現に、ロウリア王国を破ったのも彼ですし、ホラではないでしょう」

「まさか、そんな……」

「それに加えて、彼はどうやらアルタラス王国を奪還し、そこからパーパルディア本土に攻め込むつもりのようです。うちの軍務卿(ヤヴィン)が言っていましたよ、『もしパーパルディアを滅ぼすなら、まずはアルタラスを奪還して、拠点としてからになるだろう、と太陽の旗の軍の司令官が言っていた』と」

「………」

 

 ルミエスはもはや、驚きのあまり言葉を失っていた。

 列強国を解体し、場合によっては滅亡させる。そんな大きな、歴史を動かすようなことが、本当にできるのか。

 

「というわけですので、アルタラス王国正統政府の樹立の宣言の件、考えておいていただけないでしょうか? お決まりになりましたら、いつでも仰ってください」

 

 リンスイのこの言葉を最後に、会談は終了した。ちなみにルミエスは驚きっぱなしで、紅茶に手を付けるのは完全に忘れていた。

 連合王国政府庁舎の寮に宛てがわれた、自らの部屋に戻りながら、ルミエスは熟考する。

 

(一度、リルセイドや他の皆さんとも相談してみよう。それと……この件のカギになるのは、多分あの、「太陽の旗の軍」でしょう。あの軍をもう少し、この目で見ておいた方がいいかもしれない……)

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 一方、同じ頃のフェン王国。

 進路上のフェン王国の村落などを次々と滅し、略奪・虐殺・強姦などと好き放題やりながら進撃してきた、パーパルディア皇国陸軍2,800名は、ゴトク平野に侵入し、部隊を再編成していた。敵の攻撃に備えての布陣を取り、地竜リントヴルムを前面に押し出しつつ、その後ろにマスケット銃を持った歩兵隊と、炸裂砲弾を放つ野戦用魔導砲を装備した砲兵隊が展開している。また、偵察要員のワイバーンロード12騎が、飛行準備を始めた。

 

「ゴトク平野まで来たか……。ここを抜ければ、フェンはもう落ちたも同然だな!」

 

 陸軍の司令官・将軍ベルトランは、傍らに立つ陸戦策士ヨウシに話し掛ける。

 

「はい……。ここからは、我が陸軍の本領が発揮されます。得意な布陣になった皇国陸軍は……これまで一度も負けたことがありません。それに……今回は、20隻の戦列艦が支援砲撃に加わります。

アルタラス王国では……7倍の戦力差を覆し……我が国が圧勝致しました。アルタラス王国は……文明圏外国としては突出して強かった……にも関わらず、我が国が圧勝したのです。あの銃を持つフェン王国であっても……いや、ロデニウス連合王国も参戦してくるかもしれませんが……それでも、アルタラスには及びますまい」

 

 かなりボソボソとした話し方が特徴のヨウシだが、それでも頭脳は確かだ。

 

 あの銃を使用してきたフェン王国、そしてなんと史上初めてパーパルディア皇国に宣戦を布告した文明圏外国、ロデニウス連合王国。彼らの力は未知数だ。強いかもしれないし、弱いかもしれない。

 しかし皇国軍は強い! これは、紛れもない事実である(本人たちの知らぬところで「であった」になっているが)。

 ベルトランは、人知れず不安を押し殺した。

 

 

 一方、

 

「斥候より報告。パーパルディア陸軍がゴトク平野に侵入し、陣形展開中! 偵察からの報告通り、陸軍歩兵3,000、地竜32頭、ワイバーンロード12! 野戦砲20門の装備を認める!」

「偵察より報告。南方沿岸部に戦列艦20隻接近!」

 

 アマノキの手前に防衛ラインを張って展開した、ロデニウス連合王国軍とフェン王国軍の防衛部隊には、斥候からの緊急報告が舞い込んでいた。

 

「来たな、全軍戦闘配置に付け!」

 

 堺が号令を発し、全員が緊張に包まれる。

 その中でも、特に「三八式歩兵銃」を装備した、フェン王国軍の兵士たちは緊張の色が濃い。彼らは自国を救うため、志願して「独立遊撃部隊」という形で参加していた。

 

「フェン王国の興廃、この一戦にあり。各員一層奮励努力せよ」

 

 堺から無線が飛ぶ。

 ちなみにこの文章、どこかで聞いた覚えがある方もいると思う。それもそのはず、これはある旗が意味する文章とほぼ同じなのだ。

 

 皆様は、「Z旗」という旗の存在を聞いたことはあるだろうか? この旗は文字通り、アルファベットのZを示すもので、現在では「私は曳き船が欲しい」とか「私は投網中である」という意味で掲げられる。

 だが海戦においては、この旗は「皇国の興廃、この一戦に在り。各員一層奮励努力せよ」という意味を持つのだ。この意味を持ってZ旗が掲げられた最初の戦いは、日露戦争における『日本海海戦』だったと言われる。

 

 それになぞらえた電文が今、飛ばされたのだ。

 ロデニウス連合王国とフェン王国、両国の兵士たちは開戦の時を今や遅しと、手ぐすね引いて待ち構えていた。

 

 

 30分後、パーパルディア皇国陸軍の部隊は、布陣の調整を完了した。部隊後方には、ワイバーンロード12騎が展開し、進撃命令を待っている。命令が出ると同時に飛び立ち、進路上の索敵を開始するつもりなのだ。というのも、このゴトク平野では、死に物狂いになったフェン王国軍が突撃してくることが予想されているからである。

 

 パーパルディア皇国陸軍の司令官・ベルトラン将軍は、展開を完了した味方の布陣を一渡り眺めた後、南の海上に視線を向けた。そこには、支援砲撃のためにやってきた皇国の誇る戦列艦20隻が、その姿を見せつつある。

 自国の誇る最強の戦列艦隊の勇姿を見ると、自信が沸いてくる。どんな戦いでも絶対に勝てる、という自信が。

 ベルトランの顔に、嫌らしい笑みが浮かぶ。

 

「フ……これで、如何なる戦力が相手になろうとも、敗けるはずがない!」

 

 そして一呼吸おいて、彼は指示を出した。

 

「よし、進撃するぞ! ワイバーンロード隊は空に上がれ!」

 

 指示を受けたワイバーンロード12騎が、上空に舞い上がらんと順次走り出す。陸軍部隊は地竜リントヴルムを前面に押し出し始めた。

 このリントヴルムという生物は、フィルアデス大陸にしか生息しない魔法生物である。体長6メートル前後、体高3メートル前後と、象のような大きさの巨体を持ち、口からは導力火炎放射を吐くなど、攻撃方法はワイバーンとほぼ同じ(ただしリントヴルムは、導力火炎弾は撃たない)だ。しかしこいつは、鎧のような硬い鱗で全身を覆っており、その鱗は弓を弾き返すなど、ワイバーンロード並みの高い防御力を持つ(ただしワイバーンロードもリントヴルムも、バリスタが直撃するとやられてしまう)。その代わり移動速度は遅く、最大でも人の歩行速度と同程度の速度しか出ない。

 このため、こいつはある一定の土地を確保して維持するのに向いており、この地竜の飼育と使役に成功したことが、パーパルディア皇国が列強へとのし上がった最大の要因である。

 

「首都アマノキを陥としたら、そこの人間はやりたいようにしていい!

ただし、ロデニウス人は捕らえて俺のところに引っ張ってこい!」

 

 あのロデニウス人虐殺事件の後、皇国陸軍は本国の方から「アマノキにいるロデニウス人は捕らえておくように」という指示を受けていたのだ。また処刑するつもりなのだろう。

 

「「「ウオオオオオオォォ!」」」

 

 この指示に、様々な想像をし、士気を揚げる皇国陸軍の兵士たち。

 現代に生きる我々からすれば、野蛮なやり方と言う他ない。

 

「今回も……皇国が勝つ!」

 

 空に舞い上がりつつあるワイバーンロード隊を見上げ、ベルトランが叫んだ、その時だった!

 

 空の一角がキラリ、と光った。太陽の光ではない。

 

「ん?」

 

 不審に思ったベルトランが、その方角を見上げた、その時。

 その光った方の空から、10騎以上の飛竜が急降下してきたのだ。それは、まっしぐらにワイバーンロード隊めがけて突っ込んでいく。

 

「敵襲ー! 空から来るぞ!」

 

 ベルトランは叫んだが、遅過ぎた。

 散開しようとするワイバーンロード、しかしその前に敵飛竜が動いた。導力火炎弾を発射……するのではなく、代わりにチカチカと連続で翼を光らせる。

 次の瞬間、10騎ものワイバーンロードが一気にやられた。焼け焦げるのではなく、襲ってきた敵飛竜…艦上戦闘機「試製(れっ)(ぷう) 後期型」の20㎜機銃の掃射を受け、竜騎士も竜もまとめてミンチにされ、墜落して地面に叩き付けられる。

 

ビシャッ! ビシャッ!

 

 血を撒き散らして降ってきたミンチの塊は、地上に落ちると同時に落下の衝撃によって潰れ、水気を含んだ鈍い嫌な音を立てる。赤い液体が地面に撒き散らされ、引き裂かれた肉体から内臓がはみ出る。

 

「う、うえっ!」

 

 兵士たちの中には、それを見て吐き気を催す者も出る。

 

 生き残った2騎のワイバーンロードは、反転して敵飛竜を追撃し、仲間の仇を討とうとした。

 しかし、ワイバーンロードの最高速度は時速350㎞。対して「試製烈風 後期型」は時速574㎞にも及ぶ最高速度を出せる。加えて数にも大差がついており、どう足掻いても勝ち目はなかった。

 ワイバーンロード2騎は瞬く間に撃墜され、パーパルディア皇国陸軍は、上空支援兼索敵要員を全て失ってしまう。

 

「くそっ、何てやつだ!」

 

 ベルトランが叫んだ時だった。

 

ドガアァァァァン!

 

 今度は、南の方から爆発音が響く。

 そちらを見たベルトランの目に飛び込んできたのは……火柱を高く高く噴き上げ、真っ二つに折れて轟沈する味方の戦列艦。そして、望遠鏡がなくともはっきり見える、敵の超大型艦だった。

 自分の遠近感がおかしくなったのかと思ったが、そうではないらしい。

 

「なっ、何だアレは!?」

 

 ベルトランはすぐさま望遠鏡を手に取り、それを目に当てる。

 戦列艦すら上回るその巨体の艦には、マストに2種類の旗が(ひるがえ)っていた。1つは見たことのない、白地に赤で太陽を描いた旗。もう1つは、ロデニウス連合王国の国旗。

 

「!? あれは、ロデニウス連合王国の!?」

 

 ベルトランが驚いていると、突如としてその艦の前方から発砲煙が立つのが見えた。見れば、そこには巨大な砲があるではないか。

 

「ま、まさか、魔導砲!?」

 

 ベルトランが驚いている間に、味方の戦列艦がなんと4隻、まとめて沈められた。

 

「!!!!!」

 

 信じられない光景である。

 味方が……第三文明圏最強の戦列艦が、1発の砲撃もできぬまま、敵艦の砲撃によって片っ端から沈められてゆく。

 

「そ、そんな馬鹿な!」

 

 しかも、敵の砲撃はかなりの命中精度だ。百発百中ではないにせよ、信じられないほどの精度で命中させていく。

 そして5分もしないうちに、支援砲撃を行うはずだった戦列艦隊20隻は、その全艦が海の藻屑と消えてしまった。

 

 

 パーパルディア皇国の戦列艦隊を叩き潰したのは、ロデニウス連合王国海軍第13艦隊に所属する新鋭クラスの()()()型軽巡洋艦、その4番艦「酒匂」だった。ベルトランは「酒匂」に目を奪われ過ぎていたが、「酒匂」は駆逐艦の「(むら)(くも)」、「(いそ)(なみ)」とともに砲撃を行い、敵艦を撃沈したのである。

 

 ムー国の観戦武官マイラスとラッサンは、「酒匂」の艦橋から戦闘の様子を眺めていた。

 正直なところ、マイラスはかなり驚いている。まずこの「酒匂」という艦、巡洋艦でありながら全長約174メートル。ムー国の最新鋭戦艦「ラ・カサミ」が全長131メートル弱だから、この巡洋艦は自国の最新鋭戦艦よりデカい、ということになる。これだけでも怪物そのものだ。

 艦幅は、流石戦艦なだけあって「ラ・カサミ」の方が大きい。巨砲を積まなければならないから当然だが。

 

 砲は、艦全体に設置された主砲の砲門数と口径を比べてみると、砲門数は「ラ・カサミ」の負けであった。「ラ・カサミ」が4門、対してこの巡洋艦は6門である。

 だが、砲口径なら「ラ・カサミ」が上だ。この巡洋艦の主砲は、「ラ・カサミ」の副砲程度の口径しかない。

 

 速度は明らかに「ラ・カサミ」の完敗だ。「ラ・カサミ」は最大18ノットの速力なのに対して、「酒匂」は低く見積もっても25ノットは余裕で出ている。

 

 マイラスはこの「酒匂」という艦について、全体的に(きゃ)(しゃ)な印象を持った。

 機械動力船であるため、パーパルディア皇国の戦列艦に追い付かれることはないだろうが、この華奢な姿では、もしかすると戦列艦隊に捕捉されて砲撃を受けた時に、被害が出るかもしれない。マイラスは、そう思っていた。

 

 しかし、ロデニウス連合王国の新鋭の巡洋艦は、指揮下の駆逐艦2隻とともに果敢にパーパルディア艦隊に挑み、一方的な展開を見せて、短時間でこれを殲滅してしまった。しかも、パーパルディア皇国の戦列艦には、1発の砲撃も許していない。

 ロデニウス連合王国の艦隊は、凄まじい射程距離と高い速射性、命中率を両立していた。

 マイラスの見る限り、おそらく命中率は練度によって補っているのだろうが……それ以外の何かがあるようにも、マイラスには感じられた。また、「酒匂」の主砲は6秒くらいに1発の割で砲撃を放っていた。これは、「ラ・カサミ」の副砲の速射性能より高い。

 どうやらこの高い速射性、長い有効射程、命中率を補う「何か」による技術力と、乗員の練度の高さの組み合わせが、ロデニウス連合王国海軍の強さの秘密らしい。

 

「なあラッサン、楽しみになってこないか?」

 

 マイラスは、すぐ隣に立つラッサンに話し掛ける。

 

「何がだ?」

「この国の強さだよ」

「ああ、それか。確かに楽しみになってきてるぞ、俺も」

 

 ラッサンは、完全に酔いから回復したことを示すように、はっきりした口調で答える。

 

「これなら、おそらくロデニウス連合王国は負けないだろう。軍部の見方は正しかったことになるな。しかも……こいつら、まだ本気を出していないだろう? まだ戦艦を出していないのが、何よりの証拠だ」

「ああ。あの戦艦の砲撃がどんなものか、楽しみだよ」

 

 マイラスとラッサンは、(パーパルディア軍には悪いが)この先の光景を楽しみにしていた。

 

「ぴゅーっ、やったぁ♪」

 

 彼らの後ろでは、艦娘の"酒匂"が喜んでいる。

 

(あの艦娘という存在も、調べてみたいものだな。あれが我が国でも作れるなら、それはすごいことになる。艦娘の中身がいったいどうなってるのか、本当に興味深い)

 

 マイラスは、そんな思考に(ふけ)るのだった。

 

 そこへ、ゆっくりとだが戦艦を含む主力が追い付いてくる。「酒匂」らはこの後、戦艦2隻を含む主力艦隊と合流して、パーパルディア艦隊主力を殲滅するつもりなのだ。

 

 

 パーパルディア皇国陸軍の兵士たちは、ベルトランも含めて絶望していた。

 あっという間に、索敵兼上空直掩のワイバーンロード隊は失われ、しかも支援砲撃の戦列艦隊すら全滅した。そして今、敵の巨艦が彼らの視界に映っている。

 それは、陸から見てもはっきり分かるほどの巨大な魔導砲を装備していた。

 

「何だ、あれは……」

「て、敵はあんな巨大な船を……」

 

 兵士たちの士気は、だだ下がりである。

 

「怯むな! 我々はまだ支援を失っただけに過ぎん! 地竜も魔導砲もまだ残っている! 負けはせん、落ち着け!」

 

 ベルトランは声を上げ、兵士たちを叱咤激励する。

 敵の巨艦は、こちらを素通りしていくのだが……敵が向かう方角には、皇国海軍の主力艦隊が展開している。おそらく、敵は皇国海軍の艦隊と戦うつもりだろう。

 

(勝ってくれよ、シウス司令……!)

 

 ベルトランは、そう願わずにはいられなかった。

 すると、

 

「将軍!」

 

 隊の前方にいた兵士が、走り込んできて(ひざまず)いた。

 

「報告します! 我が部隊の前方に敵軍発見! 距離およそ1㎞、陣地を構築して展開しているようです!」

「そうか! よし」

 

 ベルトランは、決断を下す。

 

「全軍前進! 砲兵隊は魔導砲を準備しろ!」

 

 その横から、陸戦策士ヨウシが話しかける。

 

「ベルトラン様、周囲を……ご覧下さい」

「ん?」

 

 ヨウシの意見を聞きながら、ベルトランは周囲を見渡した。

 

「我々の……すぐ右は……森になっています。正面の敵を叩くのは……もちろんですが……、右側からの奇襲にも……注意すべきです」

 

 確かにヨウシの言う通り、右側は森林になっている。敵がそこに兵を潜ませておき、パーパルディア軍の側面を衝くことも十分あり得る。

 

「流石だな、ヨウシ。右翼の兵は右の森林に警戒しろ!」

 

 ベルトランは、指示を飛ばしていく。

 

「全員、地竜の後ろに固まれ! 奴らも決死の覚悟で向かってくるはずだ、油断するな!」

 

 ベルトランの指示を受け、前面に出ている地竜の後ろに兵士たちが次々と集まっていく。

 だが、実はこの指示は大いに間違っていたのだ。

 

「撃てぇ!」

 

 号令が発せられた。……ベルトランの口からではなく、敵陣の方から。

 次の瞬間、砲火が浴びせられた。

 

 

「撃てぇ!」

 

 堺が指示を発した瞬間、展開していた「九六式150㎜榴弾砲」4門と、「88㎜Flak36野戦高射砲」4門が火を噴いた。

 150㎜の巨弾が、リントヴルムを叩き潰す。高初速の88㎜弾が、リントヴルムの口内に飛び込んで身体を深々と抉り、リントヴルムの(でん)()を突き抜けて飛び出し、密集している歩兵の中に飛び込んで炸裂する。

 

グオオオオオオ!

 

 88㎜弾で身体を貫かれたリントヴルムが、聞くに堪えない断末魔の声を上げ、その巨体が地響きとともに倒れる。何人かのパーパルディア軍歩兵がそれに巻き込まれ、踏み潰されて圧死した。

 150㎜の榴弾を受けたリントヴルムは、もはや断末魔を上げる暇すらない。着弾の衝撃と爆発によって、顔と脳の半分が吹き飛ばされ、即座に生命活動を強制終了させられてしまう。魂を失った巨大な抜け殻が倒れ、またも数人が圧死する。

 そして、

 

「うわあぁぁ!」

「ぎゃあああ!」

 

 88㎜砲弾の着弾によって、10人ばかりのパーパルディア兵がまとめて吹き飛び、空中に舞い上がる。生き残った者には、空中から赤い液体がしこたま浴びせられた。中にはちぎれて吹き飛んできた腕や足が顔面に当たり、気絶して倒れこむ者もいる。

 もちろん、吹き飛ばされた者たちは全員、あの世送りであった。

 

「戦車隊、前進!」

 

 第1射の着弾を見て、堺はすぐ指示を飛ばす。

 

戦車、前へ(パンツァー・フォー)!」

 

 すぐさまルメロが命令を下す。すると、塹壕のすぐ手前で迷彩のシートを被り、姿を隠していた10輌のⅢ号戦車M型が、シートを突き破って前進を開始した。

 

 

「何だ! 何が起こっている!」

 

 一方のパーパルディア軍は、突然地竜が8頭まとめて倒されたことで、ちょっとした混乱が生じていた。

 

「おそらく、敵の魔導砲だと思われます!」

「馬鹿な!? ここは文明圏外だぞ!? 奴らが(けん)(いん)式魔導砲を持っているわけがない!」

 

 幹部たちは皆慌てている。ベルトランもさすがに焦りを隠しきれなかった。そこへ、

 

「!! 何かが10騎向かってきます!」

 

 目の良い兵士の1人が叫んだ。

 ベルトランはそちらに注目する。すると、敵陣の方から微かに土煙が上がり、ツノの生えた奇妙な生物が10頭、横一列に並んでこちらに近づいてきていた。

 その速度は、リントヴルムよりも圧倒的に速い。

 

「何だアレは!?」

 

 ベルトランは、その生物(実際には戦車なので、生物ですらないが)のことをよく理解できない。

 奇妙な生物の接近を見た地竜のうち何頭かは、導力火炎放射の準備に入った。地竜の口の中に、炎がちろちろと揺らめく。

 その時、接近してきた生物が一斉に動きを止め、直後にそのツノが一斉に火を噴いた。と同時に、ドォン! という鋭い音が空気を震わせる。

 

 

停止(ハールト)撃て(フォイア)!」

 

 ルメロの号令一下、一列横隊に並んだ10輌のⅢ号戦車M型は動きを止め、車体の動揺が収まると同時に、主砲を発射する。

 事前の無線での遣り取りに従って、各々の車輌が目標とする地竜を決めていたため、狙いの重複は一切ない。しかも、相手の地竜は非常に大きい上にのろまなため、行進間射撃の練習を重ねてきた戦車第1連隊には、地竜を狙って当てるのは朝飯前だった。

 60口径50㎜砲から発射された徹甲弾は、全弾がそれぞれ狙った地竜に命中。その硬い鱗を容易に貫通して体内を引き裂き、臓器を破壊し骨を砕きながら炸裂した。

 身体の中をミンチにされた地竜が、耳を塞ぎたくなるほどの断末魔の咆哮を上げ、即死して動かなくなる。

 

「次弾装填急げ!」

 

 ルメロは、各車に号令した。

 

 

 一方、パーパルディア軍では、

 

「ちっ! 爆裂魔法……いや、魔導砲か!」

 

 ベルトランが、敵の怪物(戦車なので生物ではありません)の攻撃を察していた。

 

「牽引式魔導砲を出せ! あの化け物を仕留めるんだ!」

 

 ベルトランの命令により、直ちに魔導砲がスタンバイされる。砲兵たちが必死に重い砲を引っ張り、前面に持ってきた。

 その間に、敵の怪物が2発目の砲撃を加える。

 

「もう撃ってきた!? くそっ、装填が早い!」

 

 ベルトランの叫びは、地竜の断末魔によって掻き消された。今度は8頭の地竜が砲撃を受け、絶叫を放って倒れ伏す。勿論即死である。

 

「砲撃準備よし!」

「真ん中にいる奴に集中砲火! 撃てーっ!」

 

 ベルトランは、咄嗟に目に入った怪物を攻撃するよう、指令を出す。

 皇国の兵士たちが引っ張ってきた魔導砲のうち、砲撃が間に合った12門がパパパパパパッと一斉に白い煙を吐き出した。

 

ドドドドドドーン……

 

 直後、腹の底に響くような砲声が鼓膜を打つ。

 しかし、牽引式魔導砲は決して命中率は高くはない。放たれた12発の砲弾は、その大半が敵の怪物の手前か奥に着弾し、爆発して地面を削り、土砂と煙を撒き散らす。

 だがその中にあっても、観測に当たった兵士の目は、奇跡的に2発が敵の怪物に命中し、爆発の閃光が閃くのを確かに見た。

 

「敵怪物に2発命中!」

 

 この報告に、ベルトラン以下のパーパルディア軍幹部の面々が沸き立つ。

 

「フハハハハ!

調子に乗りおって! 他の怪物も片付けろ!」

 

 ベルトランが指示を出したその時……煙が晴れ、信じ難いものが彼らの目に飛び込んできた。

 

 さっき、確かに砲弾が着弾した敵の怪物。それは、その皮膚に焼け焦げたような跡はあったものの、ほとんど形を変えずにその場に留まっていたのだ。

 

「ま……まさか、効いていないのか!?」

「そんな、そんなバカな!」

 

 幹部たちが叫んだその時、その怪物の左右に展開していた怪物たちがそいつの前に出て、一斉砲撃を浴びせてきた。これにより、残り7頭になってしまっていた地竜が全て倒され、パーパルディア軍の地竜は全滅してしまう。

 

 だが実は、今の砲撃は確かにⅢ号戦車に被害を与えていたのだ。

 

『2号車、2発被弾! 左前方より破断音、履帯損傷の可能性あり!』

 

 2号車から報告を受け、ルメロは決断する。

 

「了解、私の1号車と4号車で前を塞ぐ! 2号車は直ちに履帯を点検、必要なら修理しろ!」

『2号車、了解!』

 

 これによって、2号車の左右にいた1号車と4号車が前進し、2号車を守るような形を取った。その後ろで、2号車は大急ぎで履帯の点検にかかる。

 

「敵地竜、全滅!」

 

 3号車から報告を受け、ルメロは次の指示を飛ばした。

 

「第1連隊は、砲弾を榴弾に切り替えろ! 砲兵隊とともに敵の魔導砲を破壊する!

第2連隊は突撃開始! 敵を後方から包囲して1箇所に集めろ!」

 

 すぐさま、戦車第1連隊のⅢ号戦車M型9輌(2号車は履帯修理につき行動不能)は次の行動に移る。

 その彼らの頭上を、砲声と共に口径150㎜の榴弾が飛び越えていった。

 

 

「馬鹿な……魔導砲が効かないだと!?」

 

 ベルトランは、恐怖心から叫んでいた。

 城門すら一撃で破壊できる、パーパルディア皇国陸軍の切り札といえる牽引式魔導砲。これが着弾して壊れない物体を、彼は知らなかったのだ。敵……おそらくロデニウス連合王国軍が出してきたのであろう怪物は、あっという間に味方の地竜を全滅させ、なおもこちらに砲火を浴びせてきている。今度は魔導砲に狙いを定めたらしく、砲兵隊を狙ってきていた。その後方から敵の砲兵隊も砲火を浴びせてくる。

 敵の砲撃により、魔導砲は次々と破壊されていく。

 魔導砲が効かない。その事実は、ベルトランたちに、今の自分たちにあの怪物を倒す力がない、ということを理解させるに十分だった。

 

「どうする……?」

 

 ベルトランは自問する。その脳裏に浮かんだのは「降伏」の二文字。

 

「いや……いや、それはできん!」

 

 彼は小さく呟く。

 皇帝陛下の関心が高いこの一戦、降伏すれば一族がどんな目に遭うやら分かったものではない。

 

「やるしかない……!」

 

 ベルトランは、戦うことを決意した。

 ところがその途端、

 

ドガアン!

 

 部隊の後方で、爆発が起こる。

 

「今度は何だ!?」

 

 後ろを振り返ったベルトランの目に飛び込んできたのは、最悪の光景だった。

 なんと、あの怪物の仲間が部隊後方に姿を現し、味方に砲撃を加えてきたのだ。部隊の右後方、森の中から5体が出現。更に左後方の丘の影からも5体が接近していた。それらのうち2体は明らかに異なる形状をしており、魔導砲ではない何かを持っている。

 

ババババババババババッ!

 

 その2体は、奇妙な音とともに物凄い魔導の弾幕を放ち、片っ端からパーパルディア軍の兵士を撃ち倒していく。

 

「うわぁ! 後ろからも化け物がきたぞ!」

「こいつら何匹いやがるんだ!」

 

 後方にいた兵士たちは、怪物にやられまいと前方へ駆け出す。しかし、皇軍の頭は10体の怪物によって抑えられている。

 それが意味するものは、ただ1つ。

 

 ……兵士たちが、一箇所に密集したということである。

 

「ベルトラン様! ベルトラン様っ!」

 

 陸戦策士ヨウシはそれに気付き、必死にベルトランに呼び掛ける。

 

「どうした、ヨウシ!?」

「早急なる降伏を進言致します! 我々は、一箇所に追い込まれています!」

「何だと!?」

「我々は追い込まれているのです! ご覧ください、兵が無意識のうちに一箇所に固まっております! 敵は止めを刺すつもりです!!

我々は地竜も、ワイバーンロードも、支援艦隊も全て失っております。砲兵隊も、砲の大半を破壊され、戦意を喪失しました。

もはや、我々に勝つ術は残されておりません! 全滅する前に、早く降伏を!」

 

 しかし、ベルトランは首を横に振る。

 

「しかし、我々はロデニウス人を処刑した当事者だぞ。降伏しても、(なぶ)り殺しに遭うだけだと思うが」

 

 ヨウシは必死で叫ぶ。彼は普段の喋り方とは、全く異なる大声を上げていた。

 

「ですが、このままでは皆死にまする。全員が死ぬよりも、少しでも多くの者が生き残る手段を、どうかお選びくださいませ!!」

 

 ほんの少しの逡巡の後、

 

「……分かった」

 

 ベルトランは、ついに降伏を決断した。

 

「降伏の旗を掲げよ!」

 

 ベルトランの号令が伝わるや、パーパルディア皇国陸軍の兵士たちは隊旗を逆さまにして左に回し始め、自国における降伏の合図を送り始めた。その頃には、2,800を数えたパーパルディア皇国兵は、もう300人も生き残っていなかった。

 

 

 フェン王国とロデニウス連合王国の連合軍は、パーパルディア軍を追い詰めていた。

 既に彼らは、地竜もワイバーンロードも支援艦隊も全て失い、魔導砲もあと2門しか残っていない。そして、当初の計画通り敵を一箇所に追い込むことに成功していた。

 あとは、一斉砲火を浴びせるのみ。

 

『砲兵隊、砲撃準備よし!』

『WG42、いつでも撃てます! 照準よし!』

『こちらルメロ、戦車隊全車、砲撃用意よし』

 

 各所から連絡を受けた堺が、右手を振り上げ、砲撃命令を出そうとした、その時だった。

 

「何だ?」

 

 堺は呟く。

 敵の兵士たちは、旗を逆さまに持ってそれを左に振り回し始めたのだ。

 

「くそ、何の合図だ?」

 

 双眼鏡でよく見ると、敵は武器を地面に置いて、必死の様子で旗を振り回している。おそらくは降伏だろう。

 

 しかし……

 

(残念だったな。どうやらあのクソ女(レミール)の奴、こっちが通達した降伏の方法を現場に伝えていなかったらしいな。そしてフェン王国の民やアマノキにいるロデニウス人の命を考えれば、情状酌量をしている余裕はない。

俺は……白旗以外の降伏の合図は認めないと、確かに伝えたからな!)

 

 堺は一瞬目を固く閉じると、目を見開いて右手をさっと振り下ろしながら、マイクに向かって叫んだ。

 

「撃てぇー!!!」

 

 次の瞬間、

 

ズドドドドドドドオォォォン!!!

 

 Ⅲ号戦車が、ヴィルベルヴィント対空戦車が、九六式150㎜榴弾砲が、88㎜野戦高射砲が、一斉に攻撃を行う。一拍遅れて、大空に白い煙の軌跡を引いて、「WG42」の30㎝ロケット弾が飛んできた。

 レミールが、皇軍が負けることなど絶対にあり得ないと信じて、ロデニウス式の降伏の合図(白旗の掲揚)を現場の軍隊に伝えていなかったこと、そして堺と"(きり)(しま)"にパーパルディア皇国における降伏の合図を意図して伝えていなかったこと。それが仇となり、パーパルディア軍は降伏の合図を送ったにも関わらず、全力射撃を浴びる羽目に陥ったのである。

 ちなみに、何故堺と"霧島"にパーパルディア皇国における降伏の合図を伝えなかったかというと、「ロデニウス連合王国軍の降伏を認めないことにしたから」である。言い換えると、レミールは最初からロデニウス連合王国人を皆殺しにするつもりだったのだ。

 皮肉極まりないことに、それが裏目に出たのだった。それも、最悪の形で。

 

 着弾した砲弾は次々と炸裂し、パーパルディア軍の兵士たちはバラバラに吹き飛ばされていく。その様子を、両目にしっかりと焼き付けながら、堺は1人思うのだった。

 

(すまないが……恨むなら、降伏の合図を諸君らに通達しなかった上層部を、恨んでくれ……)

 

 一方、その爆発の中心点では、

 

「そ、そんな! 降伏したのに……!」

 

 陸戦策士ヨウシの姿と声が、30㎝ロケット弾の爆発の閃光と音の中に掻き消えていく。

 

「おのれぇぇ! 蛮族めぇぇぇ!!」

 

 その(じゅ)()を最期の言葉として、パーパルディア皇国陸軍の将軍にしてフェン攻略陸軍司令官ベルトランは、150㎜榴弾の爆発によって木っ端微塵に吹き飛ばされ、絶命した。

 かくして、パーパルディア皇国陸軍・フェン王国攻略軍主力2,800名は、一兵残らず戦死したのである。

 

 

 その頃、フェン王国の西方、ニシノミヤコの沖合。

 パーパルディア皇国艦隊の旗艦・120門級戦列艦「パール」の艦上で、フェン攻略海軍司令官シウスは考え込んでいた。

 フェン王国を滅するために派遣された皇軍。これだけの戦力なら、本来であればフェン王国などあっさり攻め落とせるはずだった。現に、ニシノミヤコはあっさり陥落している。

 

 事態が変わったのは、皇族レミールの命令によって、ロデニウス人100人を処刑してからだった。

 ロデニウス連合王国が、宣戦を布告した後からである。

 

 先ほど、竜母艦隊の確認に向かった戦列艦4隻から連絡があった。それによれば、皇国の誇る竜母艦隊は全滅していた、とのことである。

 そう、壊滅や壊滅的被害ではなく、全滅。

 

 母艦を失い、ニシノミヤコに強行着陸したバルオスに話を聞けば、彼らの飛竜はワイバーンロードの全速を以てしても、全く追いつけないほどの速度を出していたとか。信じ難い話だが、おそらく事実だろう。

 そして何よりも懸念すべきことがある。そろそろ魔信の不感地帯から出るはずの陸軍主力とも、その砲撃支援に向かった戦列艦隊とも、連絡が途絶してしまっているのだ。

 

(まさか……全滅か!?)

 

 そんなはずはない、とシウスは思いたかった。だが、現に竜母艦隊は彼らの手によって全滅させられている。

 と、その時、

 

「将軍! 艦隊の右前方に艦影視認! 総数約10隻、国籍不明!」

 

 見張りが叫んだのだ。

 シウスは直感で、これは敵艦隊だと感じた。

 

「来やがったか! 全艦、戦闘配備に付け!」

 

 シウスは直ちに、全艦艇に戦闘配備を発令する。

 

(まだ、数においては我々が圧倒的に有利だ! 負けはせん!)

 

 シウスは、気合を入れ直す。

 フェン王国での戦いは今や、ファイナルラウンドに突入しようとしていたのであった。




はい、というわけで、陸・海・空いずれにおいてもロデニウス連合王国軍の圧勝でした。まあ、こうなりますよね…

今回は、ネタはZ旗の史実ネタくらいですかね。あと、前回解説し忘れたのですが、ジェット機部隊が攻撃を開始した時の隊長のセリフ「痛いのをぶっ喰らわせてやれ!」は、映画「バトルシップ」のネタです。
(小説の)更新の停止は避けられない。あの作品も完結したし、これだって完結する。みんないつか更新停止する。だが今日じゃない!

あと、マイラスとラッサンは「酒匂」の艦内を見学していたため、ジェット機の発艦場面は見ていません。


次回予告。

ゴトク平野で大敗を喫し、文字通り全滅したパーパルディア皇国陸軍主力部隊。勢いに乗ったロデニウス連合王国軍は、フェン王国軍とともにニシノミヤコへ向かう。一方で、ロデニウス連合王国海軍は、正面切ってパーパルディア艦隊に決戦を挑んでいた…
次回「フェン王国の戦い 急」

p.s. 以前にお話した「クリスマス編」ですが、次回投稿時に同時に投稿いたします。タイトルナンバーは029.1 なので、「029. それぞれの分析 ーロデニウスとパーパルディアー」の直後に入ります。そちらのほうもお読みいただければ幸いです。
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