鎮守府が、異世界に召喚されました。これより、部隊を展開させます。 作:Red October
皆様、ご愛読本当にありがとうございます!
評価3をくださいました花が咲いたよ様
評価10をくださいました名もなき原子力空母様
ありがとうございます!!
また、新たにお気に入り登録してくださいました皆様、ありがとうございます!
今回もまた、特大のネタ入りです。予めご了承のうえご注意ください。
中央暦1640年1月28日午後1時55分、ロデニウス連合王国クワ・トイネ州北東34㎞の沖合、タウイタウイ島 タウイタウイ泊地。
第13艦隊司令部では軽巡洋艦娘"
「見学者が来るの?」
「はい。見学者は、以前に我が国に亡命してきたアルタラス王国のルミエス王女と、その護衛のリルセイドさんの2人です。既に船でこちらに向かっている、とのことです」
「それはまた急な話ね。何があったの?」
「ヤヴィン軍務卿によれば、どうやらうちの艦隊と陸軍・航空隊に、『アルタラスを奪還できるだけの力があるか見極めたがっている』とのことでした。現在、提督はパーパルディア皇国への侵攻作戦に当たり、その前段階として『アルタラス島の奪回』を企てています。また、リンスイ外務卿からその話がルミエス王女に伝えられた、とのことです。それに関連してのことでしょう」
「ふーん……分かったわ。で、私に2人を案内しろってことね?」
「そうです。お願いできますか?」
「私の出番ね……いいわ、やってあげる!」
「お願いします」
頭を下げる"大淀"。いくら泊地の書記艦といえども、先輩方には頭が上がらない。
こうして、ルミエスとリルセイドの案内が決まった。
その5分後、14時ジャスト。
輸送船やクワ・タウイへの渡し船の発着所となっている桟橋に、ルミエスとリルセイドは降り立った。
今朝方ルミエスは、ロデニウス連合王国の外務部のトップであるリンスイ卿から「アルタラス王国正統政府の樹立」の提案を受けていた。それに関してルミエスは、リルセイド以下数十人のアルタラス人(いずれも、あの脱出船に乗り込んでいた者たちである)と相談した。その結果、樹立を宣言するにしてもしないにしても、まずは「太陽の旗の軍」の強さを知ってからでも遅くはない、という結論に達したのである。
そこでルミエスは、自ら太陽の旗の軍を見てくると言い出し、リルセイドがそれを護衛する格好となったのである。
2人は検問所で許可証を見せ、身体検査の後にOKを貰って泊地に入る。入ってすぐの所に「アルタラス王国ご一行様」と書かれた紙を持って、1人の女性が立っていた。
茶髪の少し癖のあるボブカットのヘアに、中々の高身長。流石に1月であるせいもあって、長袖を着込んでいる。だが、その上からでもかなりのプロポーションを誇っていることが、ルミエスとリルセイドにも見て取れた。黄緑色の瞳……これは世界的にもなかなかお目にかかれない珍しい色である……が、優しく2人を見詰めている。
「ようこそ、タウイタウイ泊地へ。私は陸奥よ、貴女方を案内するわ。よろしくね」
「アルタラス王国の王女ルミエスです。こちらは…」
「ルミエス様を護衛しております、騎士のリルセイドと申します。以後お見知り置きを」
3者3様の自己紹介が行われる。
「さて……まずは、ここまでの長旅お疲れ様でした。来訪の目的は伺っているわ。私たちの力が見たいのよね?」
「ありがとうございます。はい、その通りです」
"陸奥"の質問に、リルセイドが答える。
「それじゃあまずは……この時間帯だと、ちょうど演習から艦隊が帰ってきてる頃ね。軍港の方へ行ってみましょう。こちらです」
"陸奥"は2人を引き連れ、タウイタウイ軍港へと向かった。
軍港に着いてみると一瞬遅く、演習に出ていた艦隊は既に帰投して、“人形形態”に戻ってしまっていた。が、"陸奥"は代わりに、新たに出撃していく艦隊を、ルミエスとリルセイドに見せることができた。
出撃しようとしているのは4隻。連装主砲を3つ有する小型の艦艇が3隻、煙突から濛々たる黒煙を上げ、港の外へと出ていく。その3隻の灰色の艦体側面には、それぞれ「キブフ」「モシツハ」「キユラシ」という白い文字が描かれていた。駆逐艦「
そしてその3隻の先頭に立つのは、非常に貫禄のある特徴的な艦橋を持ち、連装主砲4基の他に、艦上に所狭しと25㎜対空機銃を搭載した大型艦。フェン王国の軍祭にも参加したタウイ一の対空番長、「
彼女たちは、ロデニウス連合王国海軍航空隊との対空戦闘演習に、出撃していくところなのだ。
「これが、ロデニウスの『太陽の旗の軍』の船ですか!?」
「な、なんて大きい……!」
ルミエスもリルセイドも、完全に圧倒されている。
「ええ。まあ、あれでも一部だけなのよ」
「ここには、どれだけの数の軍艦があるのですか?」
"陸奥"のコメントに、ルミエスが質問する。
「私も、全部の数を正確に把握している訳ではないけれど、全部合わせると200隻はあるわね」
「あ、あんな艦が200隻も……」
ルミエスは驚愕する。代わって、リルセイドが質問した。
「あの船に積まれていた、多数の鉄の筒のようなもの…あれって魔導砲でございますか?」
「うーん、魔法は一切使っていないわよ。大砲ではあるけどね」
「ま、魔法を一切使っていない!?」
「ええ。あれは科学の産物。言ってみれば、ムーの軍艦と同じものよ」
「あの列強国の……!」
ムーという名前が出てきたことに、リルセイドは驚きを隠せない。あの艦は全て、ムー国のものと同じようなものなのか?
ということは、ロデニウス連合王国はムー国の支援を受けている?
「陸奥さん、どうやって200隻もの軍艦をムーから入手したのですか?」
リルセイドはてっきり、これらの艦全てをムー国から買ったものと思い込んだ。そのため、"陸奥"の答えを聞いた時には、開いた口が塞がらなくなってしまった。
「え? あれは買ったものではないわよ。ここで作ったの。私たちが、ね」
(嘘……!? こんなのを200隻も、この国は自力で作ったって言うの……!?)
ひょっとしたらこの国、ムー国よりも凄いんじゃなかろうか。
そんなことを、2人が考え始めた時だった。
「あら、ちょうどいい所に。ラッキーね、お2人とも。あれを見て」
"陸奥"が何かを指差した。その方向を見て、ルミエスもリルセイドも目を離せなくなってしまう。
3人の左側の島影から、巨大な艦艇がその姿を現しつつあった。距離は遠いが、それでも艦体が桁外れに大きいことがはっきりと分かる。その甲板の上には巨大な大砲が前後に設置され、誇らしげに水平線を睨んでいた。そして、艦体中央には王都ル・ブリアスのアテノール城より高いんじゃないか、と思えるほどの高い艦橋が
全長263メートル。最大幅38メートル。基準排水量65,000トン、満載時排水量72,800トン。速力27ノット。武装として九四式45口径46㎝三連装砲を3基搭載し、それ以外に60口径15.5㎝三連装副砲2基、その他多数の高角砲・機銃を搭載した、現在に至るも世界最大のレコードを保持し続けている戦艦。その名は、「
それが今、ルミエスとリルセイドの前にその雄姿を見せ付けていた。
“強大な兵器”ではあるが、それと同時に“美しい船”でもある。それが、ルミエスとリルセイドの第一印象だった。
「あ、あれは何ですか……!? 船ですか!?」
リルセイドは、言葉を失いかけている。
「あ、あれも軍艦ですか!?」
ルミエスが驚いて"陸奥"に尋ねると、
「ええ。あれは、私たちの艦隊の中でも間違いなく最強の軍艦、大和型戦艦よ。大きいでしょ」
"陸奥"は、全速航行中の戦艦「大和」を眺めながら答えた。その口調は、どこか誇らしげだ。
「陸奥さん、あの船はどのくらいの大きさがあるんですか?」
ルミエスの質問に対し、"陸奥"の答えは。
「機密にされてる部分もあるから、正確には言えないけれど、全長は200メートル以上。幅は30メートルはあるわ」
「「!!」」
ルミエスもリルセイドも、そろって驚嘆した。
アルタラス王国の魔導戦列艦は、いくら大きくても全長40〜50メートル。しかしあの船は200メートル以上と、4倍以上の大きさがある。
「では、こちらの船の大砲は、どのくらい弾を飛ばせるのですか?」
「射程距離ね。ここの艦隊なら、どの艦でも10㎞なら十分当てられるわ。大きい艦だと、更に遠くまで砲弾を飛ばせるわね」
"陸奥"はさらりと答えたが、2人にとっては衝撃でしかない。
アルタラス王国の魔導砲の射程は1㎞、「風神の矢」を使ったバリスタでも2㎞だ。だがここにいる艦は、その全てが10㎞先の敵に砲撃できる、ときている。明らかなアウトレンジである。
「ええと陸奥さん、パーパルディア皇国の魔導砲の射程は……」
「私は、2㎞だと聞いているわよ」
もはや絶句するしかない。砲の射程だけ見ても、明らかにこの国はパーパルディア皇国より優れた技術を持つことが分かる。
とその時、ルミエスの耳は奇妙な音を捉えた。それは聞いたことのない、ブーンという重低音。
「この音は?」
その音は、上から聞こえてくる。ルミエスとリルセイドは、揃って上を見上げた。
すると、"陸奥"を含めた3人の頭上を、両の翼に赤い円を描いたものが幾つも飛んでいく。ワイバーンとは全く異なる形をしており、羽ばたいていない。代わりに、その鼻先で何かが高速回転していた。美しい編隊を組んでおり、乗り手の練度は確かだ。
「陸奥さん、あれがこの国のワイバーンですか?」
「ワイバーン? いいえ、あれはそもそも生き物ではないわ。あれは航空機。一番近いのは、ムーの飛行機械ね」
ここでも、ルミエスとリルセイドは驚かされた。まさかの飛行機械登場である。
「この国では、ワイバーンを装備した空軍とは別に、陸軍と海軍がそれぞれ航空隊を保有しているの」
「陸奥さん、あれの速度は何㎞くらい出るのですか?」
リルセイドが質問する。
「だいたい時速500㎞よ。遅くても時速380㎞は出るし、速い機体なら時速600㎞を超えるんじゃないかしら」
ルミエスとリルセイドは、もう驚きのあまり声が出ない。
アルタラス王国のワイバーンが最高時速235㎞なのに、彼らのコウクウキとやらはその倍以上の速度で飛べるのだ。ここまでくると、パーパルディア皇国が運用している
「あ、あれも全て、自国で開発して生産したものですか?」
「ええ。全部国産品よ」
この時、ルミエスとリルセイドは確信した。
間違いない。この国、ロデニウス連合王国は、パーパルディア皇国よりも高い技術を持っている。おそらくだが、今度のパーパルディア皇国との戦争で、ロデニウス連合王国が負けることはないだろう。
(これなら……)
ルミエスが考えていた時、"陸奥"が腕時計をちらりと見て言った。
「あら、そろそろ15時ね。ちょうどいいわ、そろそろ航空隊が着陸してくる頃ね。ちょっと飛行場まで行って、間近で航空機を見ていきましょう。
それとお2人とも、初めて見るものばかりで驚いてばかりでしょう? ちょっとリラックスしていただきたいの。いいお店があるから、飛行場を見たら案内するわ。ついてきてもらえるかしら?」
そして20分後、飛行場での見学を済ませた後に、敷地内を5分ほど歩いて3人が向かった先にあったのは……「
◆◇◆◇◆◇◆◇
「これは……凄いものを見ましたね、ルミエス様」
「そうね。それに、あの『あいすくりーむ』とかいうのも美味しかったし」
15時55分、クワ・タウイへと戻る連絡船の中で、ルミエスとリルセイドの2名は船の甲板に立ち、遠ざかって行くタウイタウイ島を眺めていた。
1時間以上も艦隊や航空隊を見学した後、移動中に陸戦隊の訓練の様子を(ちらりとだが)見てから、"間宮"と"伊良湖"の店で甘味をご馳走になって、戻ってきたのであるが……ルミエスは、今回の見学で決断を下した。それは、今朝方この国のリンスイ外務卿から出された提案を受け入れる、ということ。即ち、アルタラス王国正統政府樹立の宣言を行うこと。
「リルセイド」
ルミエスは、不意にリルセイドに声を掛けた。
「はい、ルミエス様」
「この『太陽の旗の軍』がある限り、ロデニウス連合王国はパーパルディア皇国に負けることはないでしょう。
……決めたわ、私。このロデニウス連合王国を信じて……アルタラス王国正統政府の樹立を宣言し、そしてパーパルディア皇国と全力で戦う!」
「ルミエス様がそう仰るなら、私も最後までお供いたします」
ルミエスに
こうしてルミエスは、一度は逃がされたパーパルディア皇国との戦いに、自らの意志によって参加することを決めたのだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇
その日の午後5時15分頃、パーパルディア皇国皇都エストシラント、皇宮パラディス城。
第1外務局の局長室では、今後のロデニウス連合王国に対する措置について、皇軍最高司令官アルデを交えて話し合いが持たれていた。出席者はアルデの他に、この部屋の主である第1外務局長エルトと、皇族の女性レミールである。
通常であれば、たかが文明圏外の蛮国1つごときに、軍司令官であるアルデはともかくとして、皇族であるレミールや外務局長、それも第1外務局長が介入するなどあり得ない。介入するとしても、第3外務局の幹部クラスが精々である。
だが今回の件は、皇帝ルディアスの関心も高く、それに比例するように皇国幹部の関心も高くなっている。万が一にも失敗があってはならなかった。故に、このような異例の状態となったのである。
ささやかながら、戦勝の宴(パーパルディア皇国のどの幹部もそうなのだが、この3人も自分たちが100パーセント勝つと信じて疑っていなかった)の用意をし、ワイングラスに注ぐ酒の瓶を持ち出しながら、エルトが発言する。
「もう皇国陸軍の主力によって、フェン王国の首都アマノキは陥ちているでしょう。そろそろ報告が入るはずです。レミール様、本当に現地のロデニウス連合王国民は殺処分してもよろしいのですか?」
エルトのこの質問に、レミールは右手にグラスを持ち、それを左右に振るように動かしながら答える。
「良い。今度は、もっと多くのロデニウス人を捕らえられるだろう。今回の蛮族には、徹底した教育が必要なようだ。前回はロデニウス人を楽に殺しすぎた。
アルデよ、今度はロデニウス人がもう少し苦しむように配慮しろ」
「はっ、心得ました」
レミールの命令に、アルデは敬礼で答える。
「で、その後のことだが……」
レミールが話している途中で、コンコンというノックの音がレミールの話を遮った。
「入りなさい」
エルトがドアの外に向かって声を掛ける。すると、「失礼します」と声がして、第1外務局次長ハンスが入室してきた。今は1月、つまり冬だというのに彼は汗を掻いており、顔色が優れない。
「どうしました?」
エルトが尋ねると、ハンスはレミールとアルデに一礼してから、持って来た5枚程度のページの文書をエルトに差し出した。その文書には「緊急調査報告書」なるタイトルが振られている。
「第二文明圏の列強ムー国が、フェン王国での戦いに際してロデニウス連合王国に観戦武官を派遣した件について、ムー大使に行った事実確認と、ムー国の意図について調査した結果の報告書になります」
ムー国が観戦武官をロデニウス連合王国に派遣したことは、既に第1外務局の知るところとなっていた。
だが、第1外務局はムー国の真意を計りかねていたのである。「もしかすると、ロデニウスにはムーが注目するほどの新しい魔法があるのではないか、それを見るためにムーはロデニウスに観戦武官を派遣したのではないか」といった意見も出るほどだった。
しかし、そうであるならば疑問が残る。両方の国家に派遣することもできただろうに、何故ムー国はパーパルディア皇国に観戦武官を派遣しなかったのか?
それが不思議だったため、第1外務局は調査を行っていたのである。
ハンスは、調査の結果出された結論について、口頭でエルトに報告した。
「け、結論から申し上げますと……ムーは、“フェン王国の戦いではロデニウス連合王国が勝つ”と、判断しています!」
「「「なにっ!?」」」
エルトのみならず、アルデもレミールも叫んだ。
「ハンス! どういうことだ!?」
レミールが、ハンスを問い詰める。
「ムーは……自らの情報収集と分析の結果、ろ、ロデニウス連合王国が勝つと、は、判断しているらしいのです」
レミールの勢いに押され、ハンスの答えは若干
この“まさかの調査結果”に、局長室には沈黙が満ちる。さっきまでの戦勝の雰囲気はまだ残ってはいたものの、確実に薄まっていた。
「まさか……」
沈黙の中、発言したのはアルデ。
「これは仮説ですが、もしかするとロデニウス連合王国は、元々我が国と戦争をする気だったのではないでしょうか? そして今回、何らかの方法で我が国がフェン王国と戦争をすると知り、10万人規模の軍隊と数千隻の軍船をフェン王国に送り込んだのかもしれません。
第3外務局からの報告では、ロデニウス連合王国には砲艦があるとされています。そして文明レベルは、第三文明圏内の文明国並みであり、文明圏外としては突出して高いともされています。我が国より技術が劣るとはいえ、数千もの軍船が相手では、今回のフェン派遣軍にはちと荷が重いかもしれませんな。魔導砲の弾が足りなくなりそうです。
また陸軍にしても、今回の派遣兵力が4,000名である以上、敵が4万以上の大軍を投入してくると荷が重くなるでしょう。ですが、今回の司令官はかのシウス将軍にベルトラン将軍です。援軍が必要であれば要請してくるでしょう。援軍の艦隊も用意しておくことにいたします。
しかし……こうなると、ムーは何か情報を掴んでいたようですな」
アルデは一旦言葉を切った。そのタイミングで、エルトがアルデに質問する。
「アルデ様、もしそうだったとして、皇軍は負けるのですか?」
アルデはこの質問に、にっこり笑って答えた。
「エルト様、ご心配には及びませんよ。
私が申し上げたのは、このまま継続して戦うと砲弾が足りなくなるかもしれないという心配です。数千もの船が、電撃的侵攻を行うのは不可能でございます。
我が方が被害を受けることはございません。何より、我が軍の『風神の涙』の質は世界一でございます(実際、パーパルディア皇国の魔法に関する技術は高く、「風神の涙」の質はかけ値なしに世界一とされていた)。船が出せる速度は我が方が圧倒的に速いので、我が方に被害は全く出ないでしょう。
私の考えが正しければ、フェン王国を落とすのに多少の遅れは出るでしょうが、作戦は成功間違いなしです。後で私がシウス将軍に確認し、必要なら援軍を送りましょう。フェン王国は我が国から近いので、敵が一気に攻めてきていたとしても、弾薬が尽きる前に補給や援軍を送れるでしょう。我が方に被害が出ることはございません故、ご安心召されよ」
このアルデの発言により、局長室には安堵の雰囲気が流れる。
「もしそうだとすると……ロデニウスか……蛮族め!」
レミールが吐き捨てるように言った時、またドアがノックされた。
「入りなさい」
「失礼します!」
エルトの声に応じて入室してきたのは、第1外務局の若手幹部の1人だった。冬だというのに、顔中大汗を掻いている。エルトは、それが気になった。
「何事だ!?」
レミールが高圧的な声で問うと、幹部は直立不動で書類を顔の前に持ち上げた。その手が酷く震えている。
「フェン王国の攻略に関して、現地より報告が入りました!」
レミール、アルデ、エルトの待望の知らせが来たのだ。
「おお、そうか。申してみよ」
アルデが上機嫌で言うが、
「ふぇ、フェン王国に派遣されていた皇軍は……皇軍は……」
幹部は、やけに吃っていた。声も震えている。
「どうした! はっきり言え!!」
レミールが怒鳴り付けると、幹部は意を決したか、ついに話した。
「皇国海軍は、戦列艦隊、竜母艦隊、揚陸艦隊、補給艦隊、全ての艦が撃沈され、全滅しましたっ!!」
「な、何だと!?」
アルデが大声を上げる。エルトもレミールもハンスも、目を見開いていた。
幹部は報告を続ける。
「それだけではなく、皇国陸軍主力はアマノキを前にして全滅! ニシノミヤコの残存部隊は、フェン王国・ロデニウス連合王国連合軍に降伏しました!!
皇国の……大敗ですっ!!!」
「「「「!!!!!」」」」
第1外務局長室を凄まじい激震が襲った。あまりの報告に、局長室にいる誰もが声も出ない。
異様な静寂の中、エルトが持っていた「緊急調査報告書」が、エルトの手から床に滑り落ちて、パサリと軽い音を立てた。
「な……何ですって!?」
それを合図としたように、第1外務局長エルトは激しく
「皇国が、負けた……? それも、全滅レベルの大敗……?」
第1外務局次長ハンスが、おろおろする。
「全滅だと!?
ば、馬鹿な! 何かの間違いではないのか!?」
皇軍最高司令官アルデは取り乱しながらも、誤報ではないか、と指摘する。
その時、
パリン!!
ガラスの割れる鋭い音が室内に響いた。室内にいる全員が、その音源の方を見る。
そこには額に青筋を浮かべ、目を真っ赤に血走らせた女性が1人、握り拳を震わせて立っていた。日本人が見たら、の○太のママよろしく今にも頭から蒸気が噴き出し、鬼のツノが飛び出すのではないか、と思えるような形相をしている。
言うまでもなくそれは、皇族の若い女性レミールその人である。さっきのガラスの割れる音は、レミールが手に持っていたグラスを床に叩き付けた音であった。
「いったいどういうことだぁっ!」
次の瞬間、レミールの
「栄えある皇国の皇軍が、蛮族に敗れただとぉっ!? ふざけるな!」
レミールがあまりに大きな声で怒鳴ったため、その声は局長室の壁を貫通して、隣の外務局監査室や外務局の事務局にまで壁をビリビリと震わせて伝わっていた。何人かがビクッと肩を竦ませ、全員が作業の手を止めて“今のは一体何だ”と辺りを見回す。それに委細構わず、レミールは怒鳴り続ける。
「私も侵攻計画を見たぞ、あれだけの戦力ならフェンなどあっさり滅せたはずだ!」(壁越しなので小さく聞こえているだけです)
元々レミールは高圧的な喋り方をするが、今はその声量と怒気が合わさって、一層高圧的に聞こえる。そしてコワイ!
「それが、文明圏外の蛮族どもに敗れただと!?」(壁越しなので小さく以下略)
事務局の方では、気の弱い女性職員の1人がついにメソメソやり始めた。
「アルデ! キ、サ、マ、何をやっていたぁッ!」(壁越しry)
一際大きく、レミールの怒声が響いた。
第1外務局の局長室では、室内一杯にレミールの声が反響して、耳がおかしくなりそうな状態になっている。室内の家具は1つ残らず、細かく震えていた。そんな中、レミールはアルデを睨み付けて叫んだ。
「戦いで相手の戦力を分析し損ねたな、貴様!」
流石に息が続かず、レミールは一旦言葉を切った。しかしその間に、彼女はアルデの近くにあった机に歩み寄り、そこに置かれていたもう1つのグラス(これは、エルトが戦勝の酒を飲もうとして取っていたものである)に右手を伸ばしながら、左手で机の上をドンと叩く。そして息を吸うや、アルデを怒鳴り付ける。
「それでも栄えある皇軍の最高司令官か! 見損なったぞ! 敵の正確な分析もできない無能なんか大っ嫌いだ!」
アルデは、背中と額一杯に冷や汗を流しながらも、必死にレミールに謝る。
「もも、申し訳ございません! ま、まさか、皇軍が敗れるなど予想もしな……」
折角のアルデの弁明だが、レミールには言い訳にしか聞こえなかったようだ。レミールは、目を真っ赤に血走らせて怒鳴る。
「言い訳は大っ嫌いだ! 敗れるとは何事だ、バーカ!!」
アルデは縮こまりながら、やっとのことで、という様子で付け加えた。
「ぐ、軍を再編して、ば、万全を期しますので……」
「それくらいのことは当然だろう! 何故最初からやっていなかったァ!」
そう叫ぶや、レミールは手に持ったグラスを、今度は壁に叩き付けた。パリン! という鋭い音とともに、グラスは粉微塵に砕ける。
その残響が完全に消え去らないうちに、レミールは有らん限りの力を振り絞って叫んだ。
「ちくしょうめぇ!」
そして息を吸い、レミールは続ける。
「艦隊300隻超、陸軍将兵4,000名、250騎以上のワイバーンロードは、フェン王国軍を蹴散らすなど造作もない、大戦力だったはずだ!」
この頃になると、外務局長室の隣の外務局監査室では、何人かの皇族の女性が抱き合ってガタガタと震えていた。彼女たちは、レミールがここまでキレた場面を見たことがなかったのだ。
「フェンどころか、ロデニウスもそのまま攻め落とせる戦力ではなかったのか! そして皇国が敗れることの意味を、貴様も分かっているだろう、アルデぇっ!」(壁越しry)
一方の事務局では、気の弱い女性職員の啜り泣きが続いていた。別の女性職員が肩に手を置き、なんとか慰めようとしている。
ちなみにレミールはこの時机を叩いたらしく、ドン、ドン、と2回、音が響いてきていた。壁越しでも机を叩く音が聞こえるとか、レミールの怒りの力恐るべし。
第1外務局の局長室では、レミールが壁際に追い詰められたアルデに、指を突き付けて怒鳴っていた。血管がはっきり見えるほど見開かれたその目は、ギロリとアルデを睨み据えている。
「貴様の判断力が足らんかったんだ! 皇軍最高司令官の職をすげ替えてやろうか、参謀長のステァリンにでも!」
流石に怒鳴り続けて息が切れ、レミールは肩で息をしながら、エルトの椅子に座り込んだ。と同時に、アルデはそのままズルズルと壁を滑り落ちるようにして床にへたり込む。
レミールのあまりの怒り様に、エルトもハンスも幹部も、声が出なくなっていた。
「おのれぇ、蛮族めぇ……」
息が切れてもレミールは罵る力を失っていなかったようだ。
「もう許さん……絶対に許さんぞぉ……。ロデニウスとかいう蛮人めぇ……」
実際には、ロデニウス連合王国は文明圏外国の皮を被った上位列強国(少なくとも軍事面において)なのだが、この事実をレミールが知るはずがない。
「何だあのロデニウスの女外交官は……」
いつの間にやら、レミールの怒りの対象がシフトしている。
「蛮族の女の癖して、目に刺さるような! おっぱいぷるーんぷるん!」
ここまでくると、完全に八つ当たりでしかない。
なお、レミールも結構“豊満”なので他人のことは言えないのだが、それを言うと確実に逆鱗に触れることになるだろうから、黙っておこう。
「列強たるパーパルディア皇国がここまでコケにされたことは、絶対に許さんぞ!」
フェン王国での戦いで、局地戦だったとはいえ“パーパルディア皇国が敗れた”ということは、すぐに各国の知るところとなるだろう。この世界には魔信なんてものがあるし、ロデニウス連合王国やフェン王国は、嬉々としてこのニュースを発表するだろうからだ。
しかも、今回敗れたのは皇軍。そう、国家監察軍などではなく正規軍である。その第三文明圏における最強の軍隊が、完膚無きまでに叩き潰され、完敗したのだ。
73もの属領(それ以外に属国も1つある)を抱え、その全てを軍事力と技術の差による恐怖で支配しているパーパルディア皇国が、局地戦とはいえ文明圏外国に敗れた、ということの意味と危険性は、レミールもよく分かっていた。
恐怖で従属国を支配している場合、宗主国が弱い姿を見せると、絶対にロクなことにならない。恐怖支配の明確な欠点である。
「こうなったら
エルト! アルデ! 陛下に許可をもらいに行ってくる。殲滅戦の準備をしておけ!!」
そう言って、レミールが退室しようとした時だった。
いきなりノックもなしに局長室の扉が開かれ、別の幹部が慌てた様子で駆け込んできたのだ。
「何事だ!?」とレミール。
「エルト様、レミール様、アルデ様! 一大事にございます。すぐに、こちらにいらっしゃってください!」
半ば無理やり幹部に引っ張られ、3人が連れてこられたのは第1外務局の事務局。そこには、大勢の職員が集まっている。よく見ると、彼らは魔信の機械の前に集まっていた。
「この魔信を聞いてください!」
幹部に言われて、3人は魔信を聞き……驚愕することとなった。
◆◇◆◇◆◇◆◇
同時刻、アルタラス島 旧王都ル・ブリアス。
列強パーパルディア皇国の支配下に置かれてしまったアルタラス。旧アルタラス王国の民は何とか1日1日を過ごしていたが、パーパルディア皇国による搾取と圧政に苦しんでいた。
そんな中にあって、パーパルディア皇国アルタラス統治機構に反感を持ち、地下に潜って反パーパルディアの抵抗組織に入る者も、少なからずいた。
しかし、パーパルディア皇国の属領統治軍との力の差は、如何ともしがたいどころか絶望的すぎるレベルである。それに、たとえ属領統治軍を駆逐できたとしても、すぐに本国からあまりにも強すぎる皇軍がやってくる。
反パーパルディアの地下組織は、勝ち目のない戦いに突入してしまっていた。しかし、だからといって止めるわけにもいかない。
反パーパルディアの地下組織のリーダー、「軍長」ライアルは皇国の属領統治軍の動きを把握しながらも、有効な手立てが打てずにいた。
せめて王族の誰かが生きていれば、その方を長として動くことで、組織内の結束を高め、民の賛同も得られるだろう。しかし、国王陛下は戦死され、その他の王族の方々は処刑されるか、戦闘中に行方不明になってしまっている。おそらく誰1人生き残ってはいないだろう。
「ちくしょう! どうすればいい!」
未来を考え、ストレスを抱えたライアルが、やるせなさに少しばかり怒鳴った時、いきなりバン! とドアが開かれた。
「軍長! 軍長!」
各国の魔信を傍受していた同志の1人が、血相を変えて部屋に駆け込んでくる。
(ノックもなしとは、失礼な奴だな)
とライアルは一瞬考えたが、
「すぐ通信室に来てください! 大変です!」
どうも同志の様子がただごとではない。
「いったい何だ!?」
「いいから早く! 早く!」
同志に引っ張られるようにしてライアルが通信室に来てみると、既に何人もの同志が部屋に集まっていた。皆一様に肩が震えている。そして、彼らの前の魔法通信具のうち、受信具が緑色に光っている。
その受信具から、声が聞こえてきていた。
『……であり、我が国は現在、パーパルディア皇国によって占領され、圧政を敷かれている状態です。この横暴を許すわけにはいきません』
若い女性の声だったが……ライアルにはどこかで聞き覚えのある声だった。
(はて、どこで聞いた?)
ライアルが思い出そうとしたその時、とんでもない名前が飛び出してきた。
『よって、私、アルタラス王国の王女ルミエスは、ロデニウス連合王国内において「アルタラス王国正統政府」の樹立を宣言いたします』
!!!
「る、ルミエス様!? い、生きておられむがっ!?」
突如受信具から飛び出してきた名乗りに、ライアルは全身を雷に打たれたかのような衝撃を受け、思わず大声で叫んでしまった。しかし、すぐに同志に口を塞がれる。
「しーっ! しーっ! 聞こえない!」
同志に言われて、ライアルは慌てて口を閉じる。
その間にも、ルミエスは魔信にて話し続ける。
『現在、我々アルタラス王国正統政府は、ロデニウス連合王国政府と話し合い、安全保障条約まで含めた国交の開設に向けての調整を行っています。
パーパルディア皇国は、直ちにアルタラス島から撤収しなさい。そうすれば、無益な殺生は致しません。
アルタラスの民よ! 私の声が聞こえているなら、「その時」に向けて準備をしてください! 私は、我が国の民なら誰でも分かるような方法で、「その時」をお知らせしようと思います。
そして現在、パーパルディア皇国の圧政によって苦しんでいる国の方々にも、お知らせすることがあります。本日、フェン王国を攻めていたパーパルディア軍は、フェン王国とロデニウス連合王国の連合軍に大敗し、フェン王国から撤退を強いられています。
パーパルディア軍は確かに強い、しかし決して無敵ではありません! もしかすると、皆様にも「その時」が来るかもしれません。今は現状を耐え忍び、「その時」に備えていただきたいと思います!』
ここでルミエスの音声は終了し、男性のニュースキャスターの声に変わった。
『アルタラス王国の王女ルミエス氏はこのように述べ、アルタラス王国正統政府の樹立を宣言しました。
本件に関連して、第三文明圏外国の1つであるロデニウス連合王国は、アルタラス王国正統政府を承認し、安全保障条約の締結に向けて協議を進めていく方針を明らかにするとともに、各国にもアルタラス王国正統政府の承認を働き掛けていく意向を表明しています』
「おい、これはいったい何だ!?」
我慢し切れなくなったライアルが尋ねると、同志の1人が答えた。
「第三文明圏の、マール王国の魔信ニュースを傍受したものです!」
ここで再び、ニュースキャスターが話し出した。
『今、新たなニュースが入りました。先ほどのルミエス氏の発言にあった、“フェン王国での戦い”に関するニュースです。
フェン王国での戦いで、パーパルディア皇国軍はロデニウス-フェン2ヶ国連合軍に大敗したようです。……え!?
編集さん、この数字は本当ですか? ……失礼致しました。
同戦いにおいて、パーパルディア皇国軍は300隻以上の艦艇と200騎以上のワイバーンロードを喪失し、戦死者は少なくとも3,000名を超えるほどの損害を出して敗北したと、ロデニウス連合王国軍部が発表しました。取材に応じたロデニウス連合王国軍の幹部は「パーパルディア軍は、少なくとも海軍の艦艇とワイバーンロードは全滅し、陸軍もその大半が戦死したことは確実である。我々はパーパルディア軍を相手に、輝かしい圧勝を収めたのである」とコメントしています。
変わって、次のニュースです。魔導士キャンディー氏は、美肌に関する……』
ここで同志が受信具を操作し、スイッチを切ったので、魔信は聞こえなくなった。
一同沈黙しているが……よく見ると、皆顔が笑った状態で震えている。ライアルも例外ではない。
「あのパーパルディア軍が……フェン王国で全滅寸前まで叩き潰されて大敗しただと!」
「ルミエス様が……生きておられたんだ!」
「よし、『その時』が来るまでなんとしても頑張り抜くぞ!」
彼らの希望が芽生えたのだ。
地下組織の士気は、かつてないほどに高まっていた。
◆◇◆◇◆◇◆◇
所変わって、フィルアデス大陸・パーパルディア皇国の属領クーズ。
そこに住まう者たちは、そのほぼ全員が絶望と失意のどん底にあった。
クーズは元々、「クーズ王国」という独立国だった。そして中規模の魔石鉱山を国内に有し、当時は「豊かさと繁栄の象徴」とまで謳われ、そしてリーム王国にも引けを取らない軍事力を持った中規模の文明国だった。
しかし20年前に、クーズ王国はパーパルディア皇国による侵攻を受けて陥落し、属領にされてしまった。
それから20年、皇国の搾取は凄まじいものであり、結果として嘗ての繁栄ぶりは今や見る影もなく、人々は貧困と皇国の統治機構職員による搾取やら暴力・犯罪、更にそれらから抜け出せない絶望に喘いでいた。
そのクーズの魔石鉱山にも陽が暮れて、鉱夫として働かされていた者たちが鉱山から引き上げてきた。その中には、25歳の青年ハキが混じっていた。
強制労働でくたくたになり、力の入らない腕で重いピッケルを引き
ハキの家は、名のある騎士の家柄だった、と聞かされていた。ハキが5歳の時、父は戦場に出て、パーパルディア皇国皇軍と戦った、とも。
しかし、列強たる皇国の皇軍は圧倒的に強く、父は戦死し、クーズ王国は陥落した。
国が落ちた後の混乱の中で、母は皇軍の兵に連れていかれた。そして、ハキ自身は鉱山に連行され、今まで鉱夫として働かされてきたのである。
当初、ハキが抱いていた皇国への反感は、成長してパーパルディア皇国の圧倒的な国力と軍事力を知るに連れて消えていった。代わりに絶望が頭をもたげ、そして今では「何故クーズ王国は、負けると分かっていた戦いを始めることを選択したのか」などと考えるようになっていた。
ハキは他の労働者とともに薄汚い作業所に戻され、夕食となった。今日も相変わらず、野菜くずのような食事しか出されない。
皇国の連中は、もっと旨いものを食べているというのに。
椅子に座ってようやく一息吐いた時、ハキの目に魔信ニュースの受信機(ただしディスプレイはなく、音声しか受信できない)が飛び込んできた。それを別の鉱夫が弄って、スイッチを入れようとしている。
(そういえば……)
ふと、ハキは思い出した。
先日のニュースで、パーパルディア皇国が東の島国・フェン王国を攻めようとしている、といったニュースを聞いた。更にその戦いに、ロデニウス連合王国という、別の文明圏外国が介入したとも聞いていた。
その時、ハキも含めた旧クーズ王国の住民たちは、また不幸な国が2つ増える、と思っていた。先にフェン王国がやられ、その後ロデニウス連合王国もやられるだろう、と。
そして、そうした者たちの一部はこうしたニュースに絶望感を募らせ、いっそ自ら命を断とうか、とも考えていた。
ハキが意識を現実に引き戻した時、ちょうどニュースが始まった。
『……本日は、驚きのニュースからお届けします』
ハキは、この言葉には少しだけ興味を抱いたものの、すぐに無関心に戻って食事を食べようとした。
が、その手は続くキャスターの台詞で、完全に停止した。
『第三文明圏外のフェン王国に侵攻していたパーパルディア皇国軍は、フェン-ロデニウス2ヶ国連合軍と交戦し、これに大敗して兵力のほとんどを失いました』
「……!?」
ハキの思考と動作が、一瞬止まる。周囲でも、人々が一斉に動きを止めた。
次の瞬間、ハキも含めてその場にいた全員の視線が、魔信の受信機に注がれた。
『今回の戦いで、パーパルディア皇国はフェン王国に出征した兵力のうち、陸軍およそ3,000人が戦死し、ワイバーンロード250騎以上を失い、更に海軍の艦隊320隻全てを喪失した、とロデニウス連合王国軍部が発表しました。
取材に応じたロデニウス連合王国軍の幹部は、「パーパルディア軍は、少なくとも海軍の艦艇とワイバーンロードは全滅し、陸軍もその大半が戦死したことは確実である。我々はパーパルディア軍を相手に、輝かしい圧勝を収めたのである」とコメントしています。また、同幹部からの情報によれば、ロデニウス連合王国軍の戦死者は、現時点に至るまで確認されていない、とのことです。
次のニュースです。アルタラス王国の元王女ルミエス氏は……』
「な、何だ!? この気持ちは!!」
ハキは、涙が止まらなくなっていた。
パーパルディア皇国の皇軍が……あの“第三文明圏最強”とも言える軍隊が、文明圏外国2ヶ国の軍に叩き潰され、大敗した。
しかも、フェン王国の被害はともかくとして、ロデニウス連合王国軍の被害は少なかったようだ。
決して勝てぬと思っていた軍隊を、文明圏外国が退けたのだ。二国合わせてどれほどの被害が出たかは分からないが、彼らはパーパルディア軍を叩き潰し、輝かしい勝利を得たのだ。
ハキをはじめ、ニュースを聞いた旧クーズ王国の人々の心には、生きる力と希望が蘇ってきていた。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「何だ! 今の魔信は!!」
魔信ニュースが終わった後、パーパルディア皇国の第1外務局事務局には、レミールの怒声が響き渡った。ロデニウス連合王国による発表は、パーパルディア皇国でも傍受されていたのである。
レミールの怒声を皮切りに、局内には怒号が飛び交い、修羅場が顕現する。
属領が「正統政府の樹立」を宣言した。しかも、他の属領の独立を唆すような発言まで流している。その発信源は、もちろんロデニウス連合王国だ。
これは、パーパルディア皇国の基盤すら揺るがしかねない由々しき事態である。
「殲滅だ! やはり、ロデニウス連合王国は殲滅するより他にない! 皇帝陛下に進言してくる!」
そう言うなり、レミールは事務局を飛び出していく。
エルトやアルデ以下、第1外務局の幹部たちは言葉を交わしあった。
「これは……レミール様が取り付けにいった、殲滅戦の許可については、結果は考えるまでもないな。皇帝陛下は殲滅戦を選択なさるだろう」
「ロデニウスとやらも、馬鹿なことをしたものだ。列強の真の恐ろしさを、思い知ることになるだろうな」
その時、窓口勤務の職員が血相を変えて飛び込んできた。
「今度は何ですか!?」
エルトが問うと、その職員は直立不動で報告した。
「ロデニウス連合王国の外交官が、我が国の担当者と会談をしたい、と連絡してきました! 担当者とは以前に約束を交わしており、その事前連絡だ、とのことです!」
これには、事務局にいた者達全員が、互いに顔を見合わせるのだった。
【速報】レミール閣下は相当カッカしているようです
はい、拙作におけるレミールには、ブチギレたあまり総統閣下になっていただきました。某チートUSA召喚ではレミールの怒り様がゴ○ラに例えられていて、その表現が絶妙に上手かったので、うちでもそういう表現ができないものかと検討した結果、こうなりました。
総統閣下原作にはだいぶ忠実に従ったつもりです。何せここを書くためだけに、ツ○ヤからDVD借りてくるまでやりましたので。
流れとしては、レミールの初っぱなの発言「いったいどういうことだぁっ!」が、部屋にいつものメンバーしかいなくなって、ドアがバタンと閉まった直後の総統閣下の癇癪、続く閣下の空耳「鯛が食べたい!」を含む文章が、レミールの「栄えある皇国~敗れただとぉっ!?」になります。
直後の閣下空耳「ボルシッチ」がレミールの「ふざけるな!」、ここで閣下の原作では場面が変わって、部屋の外になりますね。ここで閣下は3文くらい怒鳴っていますが、レミールの壁越し発言もそれに対応させています。
で、再び閣下が大写しになった直後の閣下の怒鳴りが、レミールの「戦いで~損ねたな、貴様!」、からの閣下が立ち上がって「あ痛たたたハフン」がレミールの「見損なったぞ!」、そして「大っ嫌いだ!」。
それから、原作ではブルクドルフが閣下に言い返す場面1回目が、アルデの「もも、申し訳ございません! 以下略」。
続く閣下の空耳「西鉄? 大っ嫌いだ! 腹ぁ痛いわいバーカ!」がレミールの「言い訳は大っ嫌いだ! 敗れるとは何事だ、バーカ!」。
そしてブルクドルフの言い返し2回目がアルデの謝罪2回目、からの鉛筆の代わりにグラスを叩きつけて「ちくしょうめぇ!」。
続く閣下の「スマブラか!?」「うぉっ!」の空耳が入った文が、レミールの「艦隊300隻超、~だったはずだ!」。
そして閣下の部屋の外の描写と、第1外務局長室外の描写がリンクして、閣下の空耳「It's 判断力足らんかったー」がレミールの「貴様の判断力が足らんかったんだ!」、からの「スターリン」ならぬ「ステァリン」までそのまま。
そしてこの後、閣下が文章を5つに短く切っていたので、ここはレミールに短文5つ喋らせます。
そして、閣下の空耳「目に刺さるニャン!」がレミールの「目に刺さるような!」、からの皆様待望の「おっぱいぷるーんぷるん!」。
そこから流れそのまま、そして閣下の空耳「柴田さん」を含む文章がレミールの「こうなったら、殲滅してやる!(以下略)」で最後となります。
これ書くの大変だったんですよね…。総統閣下の原作の流れにできるだけ忠実に従い、主要な空耳を落とすことなくきっちり集め、しかしできるだけ違和感がないように、無理なくレミールにあてはめる必要があったので、本当に難儀させられました。
そして、以前に閣下ネタを使った時に、読者の方から「閣下ネタ使うなら、なんとかして4大空耳全部入れて欲しかった」との感想を頂いたので、今回はついにやってやりました。4大空耳「大っ嫌いだ!」、「バーカ!」、「ちくしょうめぇ!」、「おっぱいぷるーんぷるん!」が一堂に介した訳でございます。
そういえば、総統閣下シリーズの原作である映画「ヒトラー 最期の12日間」でアドルフ・ヒトラー役を演じていた俳優の方が先日お亡くなりになったそうですね。俳優の方のご冥福を、心よりお祈り申し上げます。
あと、さりげなくニンジャスレイヤーネタが入っていたのに気付いた人は挙手。
次回予告。
パーパルディア皇国に対して輝かしい圧勝を収めたロデニウス連合王国。事前の予約に従い、堺は"霧島"とともにレミールとの会談に臨む。そこで告げられたことは…
次回「まさかの宣言」
P.S. 次回に関してですが、アンケートを入れております。お題は、「次回 まさかの宣言 で、一悶着あったほうが良いか?」です。
「是非とも一悶着起こしてくれ!」か、「別に要らないと思うよ」のどちらかに、是非ともご投票よろしくお願いします。感想で仰ってくださっても結構ですよ!
もし「是非とも一悶着起こしてくれ!」が多いのであれば、次回の投稿はif編付きとなります。とはいっても、そんなに流れが大きく変わるわけではないですし、本筋はif編なしのほうですので、あくまで「おまけ」になります。
Q. 次回「まさかの宣言」では、一悶着あったほうが良いか?
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是非とも一悶着起こしてくれ!
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別に要らないと思うよ