鎮守府が、異世界に召喚されました。これより、部隊を展開させます。   作:Red October

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今回のタイトルからして、もう嫌な予感がしている皆様もいらっしゃるのではないでしょうか。果たしてどうなるやら。

では、ごゆっくりどうぞ!

P.S. 一悶着起こして欲しいという投票が多かったので、if編投稿しております!



039. まさかの宣言

 中央歴1640年1月28日夕刻(とはいえすっかり陽が落ちている)、パーパルディア皇国皇都エストシラント、皇宮パラディス城 皇帝の間。

 執務中の皇帝ルディアスの下に、皇族のレミールが訪れていた。ルディアスの手にはレミールが手渡した、フェン王国での戦いの結果を記した報告書(ただし第一報なので、完全な詳細情報は記されていない。無理からぬことだが)がある。

 それを読み進めるうちに、ルディアスの手はふるふると震え始めた。明らかに怒っている兆候である。

 ルディアスの目が報告書の最後のページの末尾まで動いたタイミングを見計らって、レミールはルディアスに話しかけた。

 

「以上が、フェン王国での戦いの結果になります。ご覧の通り、皇軍はフェン王国の攻略に失敗しました。そして、ロデニウス連合王国内から、我が国の属領となったアルタラス王国の王族の生き残りであるルミエスが、『アルタラス王国正統政府』の樹立を魔信にて宣言し、また他の属領の独立を促すような発言を流しました。『他の属領の蛮族どもも沸き立っている』との報告が、臣民統治機構より寄せられています」

 

 レミールは一瞬言葉を切り、一息吐いて話を続けた。

 

「このままロデニウス連合王国をのさばらせておけば、皇国に害を()すことは明白です。よって、“ロデニウス連合王国に対する正式な宣戦布告”と、“同国に対する(せん)(めつ)(せん)の宣言”の許可をいただきに参りました。

陛下、ご決断を」

 

 レミールが言うと、皇帝ルディアスは顔を上げ、ゆっくりと話し始めた。

 

「今回の敗北……アルデは(おご)ったか。奴の処遇についても考えねばならぬな。

……だがその前に、まずはこのロデニウス連合王国とかいう、ふざけた蛮族どもについてだ。たかが文明圏外の蛮族ごときに、栄えある皇国が……列強の一角たる我が皇国が、これほどまでに舐められるとはな。私は非常に不愉快だ。ロデニウス連合王国を許すわけにはいかぬ。

レミール、流石(さすが)だな。最初からお前の言う通りだったよ。私が甘かったようだ」

 

 一拍置いて、ルディアスは話を続けた。

 

「やはり、このようなふざけた蛮族は殲滅するに限る。我が皇国に逆らった者がどうなるか、世界に知らしめねばならぬ。……今、皇帝ルディアスの名において、ロデニウス連合王国に対する殲滅戦を許可する!」

「はっ!」

 

 頭を下げるレミール。

 こうして、パーパルディア皇国はロデニウス連合王国に対し、戦争に加えて民族浄化(ジェノサイド)まで行うことを、国家の意志として決定したのだった。

 

 それが、もう二度と後戻りのできない、破滅への一直線コースだとも知らずに。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 翌1月29日午前10時、パーパルディア皇国皇軍司令部。

 皇軍最高司令官アルデは困惑していた。

 ムー国が観戦武官をロデニウス連合王国に送り、そしてフェン王国での戦いで“ロデニウス連合王国側が勝つ”と分析しているらしいと知った時、彼は「ロデニウス連合王国が大軍をフェン王国に送って皇軍に対処した」と考えた。それならば、ムー側の分析も理解できるからである。

 

 しかし昨夕飛び込んできた報告は、彼にとっては完全に想定外のものであり、彼を困惑させるのに十分すぎる威力があった。

 フェン王国での戦いでパーパルディア皇国皇軍は大敗し、海軍も竜騎士団も全滅、陸軍も全将兵が戦死か降伏した、という有り様である。

 

 この損害を各軍ごとに調べてみると、陸軍と竜騎士団の被害は僅少であるが、海軍の被害が大きい。実に、皇国の海上戦力の約3分の1が失われたことになるのだ。

 仮に、文明国が数千隻の戦列艦を揃えて皇軍に襲いかかったとしても、僅かな被害と作戦の少しの遅延が予想されるだけである。決して皇軍の全滅などという結果にはならないはずだ。しかし現実に、パーパルディア艦隊は全滅してしまっている。

 フェン王国での国家監察軍の戦いの結果報告から、ロデニウス連合王国の力を分析していたのだが、どこかの情報が根本的に間違っていたのかもしれない。

 混乱しつつも、彼は部下に指示を出した。

 

「一度、ロデニウス連合王国に関する情報を、全て洗い直せ! 情報源まで特定するんだ!」

「はっ!」

 

 部下が退室した後、アルデは頭を抱えて呟いた。

 

「ムーはいったい、どんな情報を掴んでいるというのだ!? ……まさか!?」

 

 その瞬間、アルデの頭に最悪の想定が浮上した。

 それは、もしかするとムー国がロデニウス連合王国に対し、「これまで決して行わなかった自国の科学技術で開発した兵器の輸出を行った」のかもしれないというものである。だが、この想定は筋が通っている。

 ムー国の兵器が、パーパルディア皇国の兵器より優れている、ということについてはアルデも重々承知していた。ムー国にしてみれば、自国の兵器をロデニウス連合王国に輸出して使わせれば、自国の兵器の性能テストになると同時に、パーパルディア皇国に対する牽制を行うことができる。また、当然のように輸出で儲けることもできる。

 しかも、ムー国がある第二文明圏とここ(第三文明圏)は2万㎞以上も離れているため、ムー本国に被害が出ることはない。このため、ムー国は何らのリスクを負うこともなく、自国産の兵器の性能を試すことができ、輸出で儲け、そしてパーパルディア皇国への牽制ができる、という状態である。ムー国にとっては、一石二鳥ならぬ一石三鳥である。

 

「もし、ムーが兵器を輸出していたとしたら……これはまずい! まずすぎる!」

 

 アルデは、最悪の想定に戦々恐々とするのだった。

 

(実際には、ムー国は兵器の輸出などしておらず、それどころかロデニウス連合王国から武器の輸入をしている状態である。ロデニウス連合王国の方が、ムー国より優れた技術を保有しているのだ。もちろんアルデが知る由もないが)

 

 

 その頃、パーパルディア皇国第1外務局の応接室のうちの1つに、パーパルディア皇国の皇族レミールと、ロデニウス連合王国からの使者・堺と"霧島"の3名が顔を揃えていた。場所も人員もフェン王国での虐殺があった時、そしてロデニウス連合王国がパーパルディア皇国に宣戦を布告した時と全く同じである。

 もちろん、"霧島"は録画を忘れてはいない。

 

 レミールとしては、『フェン王国での戦いが終わったら、再度会談を行う』と約束していたとはいえ、「敵」となったロデニウス連合王国のためだけに、わざわざ会談を持たなければならないことが不快だった。局地戦とはいえ、負けるなどとは()(じん)も思っていなかったことが、尚更不快感を募らせる。

 今回のことで付け上がったロデニウス連合王国の外交官は、更なる要求を皇国に出してくるだろう。それもまた、レミールの(しゃく)の種だ。

 

(全く、()(ざか)しいな)

 

 レミールは、心の内の不快感を押し殺す。

 しかし見方によっては、組織的な事務処理が楽になるとも言える。正式に宣戦布告ができるからだ。

 そして何より、「列強たるパーパルディア皇国が蛮族どもに対して殲滅戦を選択した」という事実が、外交官を通してロデニウス連合王国に伝えられ、ロデニウス連合王国の国民は、恐怖のどん底に叩き落とされるだろう。

 

(まあ、それも良いか)

 

 そんなことを考えつつ、レミールは会談に臨む。

 

「既にそちらにも連絡がいっているとは思いますが、予告通り、我が国の優秀なる兵士たちの働きによって、貴国の軍隊はフェン王国から駆逐されました」

 

 会談が開始されると同時に、堺は開口一番にレミールをやり込める。

 

「そこで改めてお伺いします。貴国、パーパルディア皇国は、貴国の民のためにも、前回の会談で我が国が提示した要求の遂行を、考えていただけましたでしょうか?」

 

 堺としては、このレミールという分からず屋女も、今度こそ力の差を理解しただろう、と考えていた。もちろん、要求を拒否される可能性は捨ててはいない。

 致し方ないことだが、口での話し合いが通じない相手に、こちらの言いたいことを確実に伝える方法は1つしかない。すなわち、力尽くでぶん殴り、腕尽くで分からせるのだ。

 

 ロデニウス連合王国からの要求は、概ね以下の通りである。詳しくは、「032. 決断! 対パーパルディア戦突入!」を参照いただきたい。

 

1. フェン王国に対する賠償。

2. ロデニウス人虐殺に関して、ロデニウス連合王国に対する賠償。

3. パーパルディア皇国からの要求の拒否。

4. ロデニウス人虐殺に関与した全ての人間の身柄の引き渡し。

5. パーパルディア皇国からの要求の全てを、拒否することへの承認。

 

 なお、もちろんのことであるが、引き渡しを要求された身柄の中には、レミールのそれも含まれている。というか、ロデニウス人虐殺の実行犯たちはフェン王国で捕縛されるか死ぬかしたため、まだ身柄が渡っていないのはレミール(とルディアス)くらいのものになっているのだが。

 

 堺のこの問いに対しレミールは、

 

「フ……わかりきったことを聞くのだな。断る」

 

 堺の予想に反して、あっさり要求の受諾を拒否した。

 

(やれやれ、元々地雷女だろうとは思ってたが……性根まで腐った地雷女だったかな)

 

 あまりにあっさり要求を拒否された堺。しかし、この程度は一応予想済みだった。何せ相手は、プライドの塊なのだから。

 ならば、以前の要求を重ねて伝えるしかない。もしこれで拒否するなら、アルタラスかどこか皇国の領土を削り落とすと脅してやろうか、と堺は思案し口を開く。

 

「そうですか。では、我が国としましては……」

 

 ところが、堺が10分の1も言わない先に、

 

「こちらから伝えることがある」

 

 レミールが、堺の発言を遮るようにして話し始めた。

 

(どうせロクな内容じゃないだろうが……ま、聞くだけ聞くとしよう)

 

 堺は口を閉じ、レミールの話を聞く。

 

「お前たちは我が国の軍隊を破った他、我が国の属国や属領の独立を促す者を保護するなどした。その結果、皇帝陛下の怒りを買い過ぎた。自分たちが何をしようとしているか全く理解できていない蛮族は、この世には要らぬ」

 

 レミールは、以前よりも一層高圧的な口調で話してくる。

 堺は、素早く"霧島"と視線を交わし合った。これは、いよいよロクでもないことになってきたぞ、と。

 

「お前たちは、列強の力を舐めすぎている。そして、お前たちの国の意志を決定している者たちは、自分たちは安全だと思っているのではないか? 甘いな。その愚かな考え方こそが、皇帝陛下の猛烈な怒りを買うことになり……自らを滅ぼすことに繋がってしまうのだ」

 

 ここまでレミールの話を聞いて、堺は“これは宣戦布告だな”と考えた。

 どうやらパーパルディア皇国は、改めてロデニウス連合王国に宣戦を布告するつもりらしい。

 

 ……しかし。

 

 続くレミールの言葉は、堺の想像の斜め上を行き過ぎていた。

 

 

 

 

 

「哀れなるロデニウス連合王国よ。我が国、パーパルディア皇国は、ルディアス皇帝陛下の名において、お前たちに対して宣戦を布告するとともに、ロデニウス連合王国の全ての国民を抹殺することを決定した」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……はっ?」

 

 

 堺は自分の耳を疑った。隣で"霧島"も、驚愕と困惑を顔に浮かべている。彼女の形の良い眉が、ハの字のようになっていた。

 

 聞き間違いだろうか? この女、今とんでもないことを口走った気がするのだが。

 全国民を抹殺する? それって民族浄化ってことだよな?

 

 堺は気を取り直し、レミールに尋ねる。

 

「宣戦布告は理解できましたが、最後の言葉はどういう意味でしょう? 全国民を抹殺するとか伺いましたが?」

「その言葉の通りだが?」

 

 "霧島"が録画を行っていることを知っている堺は、明らかな証拠を残してやろうと、もう一度言葉を変えてレミールに聞き直す。

 

「貴方方は国を挙げて、我々ロデニウス連合王国に対し、民族浄化を行おうとしているのですか?」

 

 そしてレミールは、決定的とも言える一言を放った。

 

「そうだ。お前たち2人も、国に帰った後で、侵攻してきた我が国の兵士たちによって殺されるだろう。今殺さないのは、私からの慈悲だ」

(この分からず屋、自分で墓穴を掘りやがったな)

 

 そう考えつつも、堺は怒りの余り無表情になって、口を開いた。

 

「呆れましたね。自分たちの状況が見えていない……いや、この場合、見ようとすらしていない。そればかりか、虐殺を良しとして民族浄化までしようとするとは。貴方(あなた)(がた)ほどの愚か者が、何故今まで生き永らえてきたのかが不思議です」

 

 そう言いながら堺は席を立ち、ゆっくりとレミールに歩み寄る。

 

「ですが、今度ばっかりは天に見放されましたね」

 

 堺はレミールの目と鼻の先まで歩み寄ると、レミールの前にあったテーブルに、その両手を衝いた。

 そして、決意の色を宿した瞳と、有無を言わせない真剣さを顔に浮かべ、レミールの目を真正面から睨み据える。

 

「ここまで言われたからには、私も本気です。

いいですか? ここがスタートラインです。来年には、パーパルディア皇国という存在は、『歴史書の中』にしかその存在を認められていないでしょう。つまり、来年には貴方がたの国が滅んでいるだろうという予言です。よく覚えておいて下さい」

「ふん、その言葉、死に行く者の(ざれ)(ごと)として受け取ろう」

 

 レミールも、真っ向から堺を睨み据える。

 "霧島"には、2人の間に激しい火花が飛び散っているのが、はっきりと見えた。

 

 暫し無言で睨み合った後、堺はレミールから目を離し、"霧島"を振り返る。

 

「霧島、行くぞ。これ以上の対話は無意味だ。ここからは、力尽くでぶん殴るまでだ」

「了解しました」

 

 "霧島"には、堺がキレているのが手に取るようにわかった。"霧島"自身としても、腸が煮えくり返るような思いを抱いているだけに、堺が怒るのも当然なのだが。

 ドアのところで堺は振り返り、レミールに最後の一言を掛けた。

 

「その殲滅戦の宣言、忘れないでおいてくださいね。来年には焼け野原になったこの街で、処刑台の上でその言葉を思い出させてやりますから」

 

 そして堺はレミールの言葉を待たずに、"霧島"を連れて応接室を出た。

 

 

「あれは本気だったのですか、司令?」

 

 その15分後、パーパルディア皇国を離れた駆逐艦「(あま)()(かぜ)」の艦橋で、"霧島"は堺に尋ねていた。

 

「まさか、司令から処刑の可能性を示唆するなんて……」

「半分は冗談。だって、本当にそうなるかどうかはわからんからな。こっちがやられる可能性もあるが……ま、向こうから殲滅戦って言われた以上、俺としても全力であのクソ国(パーパルディア)を叩き潰す算段を立てなくちゃならんのだが」

「では、もう半分は?」

「残りのうち4割は、“覚悟”だ」

 

 堺は、明快に言い切った。

 

「はい? それはどういう意味ですか?」

「俺はあくまで、ロデニウス連合王国軍の一将軍に過ぎん。軍人ってのは、軍司令部からの命令を忠実に遂行しなきゃならんものだ。だからもし、軍務卿ヤヴィン殿や国王陛下から、『あの女を処刑しろ』と言われたら、やらなければならん。俺にどんな感情があろうともな」

 

 堺はその一瞬だけ、少し下を向いて苦悩の表情を浮かべた。

 

「実際には、そういうことは人道的立場で言えば、あんまりやりたくないんだがな。命じられたら、やるだけだよ」

 

 そして堺は、やおら顔を上げた。

 

「さて、まずはこれを軍司令部と政府に報告しなきゃな。フェン王国での被害も把握しなきゃならんし。そして霧島」

「ご命令を、司令」

「さっきの会談、全部録画してたよな?」

「もちろんです」

「よし。ならばその動画、後で(あお)()にも渡してくれないか?」

「見当はついてますが、一応聞きます。司令、何をするつもりですか?」

「なに、ちょっと“プロパガンダ”に使うだけだよ」

「とても嫌な予感がするのですが」

「気にするな」

 

 気にするな、と言いながら、堺の笑みは真っ黒だ。

 

(あーあ。司令、また(ろく)でもないこと考えてる……)

 

 "霧島"は、そうは思ったが口には出さずにおいた。

 

「それと司令。さっきの話……あと1割くらい残っているような気がするのですが」

「気にするな」

 

 "霧島"が最後に気になったことを聞いてみると、堺はそう答えてきた。だが、この質問が投げかけられた途端、堺の全身から発せられるオーラは、一層真っ黒になった。

 

(これは……"本気(マジ)"ですね……!)

 

 "霧島"は、その推測を確かめるのはやめにした。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 同じ中央暦1640年1月29日 午後0時。ところは、神聖ミリシアル帝国の港街カルトアルパス。

 とある酒場には、いつもよりも多くの人々が押しかけていた。何故かというと、今日は週に1回の「世界のニュース」の報道があるからだ。

 酔っ払いたちや慌てて店に駆け込んできた人々、その全ての視線が店の奥の壁際に立てられた平面水晶体に注目する。

 

 世界の最上位列強国である神聖ミリシアル帝国では、放送されているニュースを平面水晶体の受信機を使って映像付きで、それもカラー映像で見ることができる。

 方式はともかくとして、映像付きでニュースを見られるのは、神聖ミリシアル帝国とムー国のみ。そしてミリシアルだけが、カラー映像のニュースを見られるのだ。世界最強の国家なればこそ、成せる技である。

(ちなみにパーパルディア皇国は、やっと白黒映像の映像付き魔信を導入しようかという段階である)

 

 このニュースは、世界各地での出来事のうち主だったものを報道してくれるため、特に貿易や行商、或いは外交を生業とする者たちにとっては、絶対に欠かすことのできない大事な情報源である。

 

 そうこうするうちに、平面水晶体が光を発した。

 

「始まるぞ!!」

 

 誰かが叫ぶ。

 音楽が流れ出し、画面に男性のニュースキャスターの顔が映された。

 

『全世界の皆様、こんにちは。「世界のニュース」の時間です。今週は、第三文明圏から舞い込んだ“信じられないニュース”からお届け致します』

 

 キャスターはここで、手元の原稿に一瞬目を落とした。そして顔を上げ、話し始める。

 

『第三文明圏において、周辺国の侵略を続けていたパーパルディア皇国は、フェン王国の攻略に失敗しました。パーパルディア皇国の遠征軍は、事実上全滅した模様です』

 

 その瞬間、酒場全体がざわついた。

 

『安全保障条約に基づいてフェン王国に派兵していた、ロデニウス連合王国軍部の発表によりますと、パーパルディア皇国軍は陸軍歩兵3,000名以上、軍艦320隻以上、そしてワイバーンロード250騎以上を喪失した模様です。フェン王国とロデニウス連合王国は、共同してパーパルディア軍と戦い、これを撃破しました。

ロデニウス連合王国のある軍幹部は、「我々が発表した数字は、あらゆる角度から戦況を分析した上で弾き出した、確実性の高い数字である。これに対して、フェン王国軍と我が軍の戦死者は合わせて2,600名であり、海軍や空軍には被害は出ていない。我々はパーパルディア軍を相手に、輝かしい圧勝を収めたのである」とコメントしています。今回の敗戦は、第三文明圏のあり方に大きな影響を与えると見られています』

 

 聴衆は皆、信じられないといった様子で、声も立てずに画面を見詰めている。

 

『次のニュースです。第ニ文明圏外国の1つであるグラ・バルカス帝国、通称第八帝国は、神聖ミリシアル帝国政府に対し、先進11ヶ国会議への参加の承認を要求しました。神聖ミリシアル帝国政府はこの要求に対し、検討するとの回答を行っています。

先進11ヶ国会議は、神聖ミリシアル帝国が主体となって開催する、2年に1度の国際会議です。グラ・バルカス帝国は、第二文明圏の列強レイフォル国との戦争に圧勝しており、列強国としての自覚があるために、今回このような要求をしてきたものと見られています。続いてのニュースは……』

 

 その後、魔導士キャンディー氏の化粧品のコマーシャルなどを挟みつつ、30分ほどでニュースは終わった。

 ニュースが終わった途端に、酔っ払いたちは(やかま)しくおしゃべりを始める。

 

「おいおい、聞いたか!?」

「ああ、聞いたぜ! パーパルディア皇国が文明圏外国二国と戦って、こっ(ぴど)く負けたってなぁ!」

 

 今日の酔っ払いたちの話題など1つしかない。“パーパルディア大敗”のニュースである。

 

「しかも、文明圏外の方が圧勝だとよ! 信じられるか?」

「列強が文明圏外国に敗れるとは、とても信じられん」

 

 そんな反応が飛び交う中、

 

「お前さんの言った通りになっちまったな」

「言ったろ? ロデニウス連合王国がヤバいんだって」

 

 いつかの若い金物商人が、商人たちと話し込んでいた。

 

「こりゃあ、お前さんの言ってたこたァほんとのことかもな。俺もいっぺん、機会があればロデニウスまで行ってみようかな」

「それがいいよ。“百聞は一見に如かず”さ」

 

 金物商人はそう言って、ビールをぐいっと呷るのだった。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 そして、中央暦1640年1月29日の午後、ロデニウス連合王国政府は堺と"霧島"による会談の内容を受けて、「18時から緊急記者会見を開き、重大発表を行う」という内容の通達を、「青葉新報」を始めとする各種新聞や魔信ラジオを通じて呼びかけた。

 ムー国との交易により、テレビ(に当たるもの)は、ロデニウス連合王国にも導入されつつあったものの、正式な放送局の設置がまだである上に、何より数が足りない。そこで、九四式六輪自動貨車の荷台に、巨大な水晶スクリーンを載せた宣伝カーみたいなものを王国各地に展開し、少なくとも各州の州都の街頭に設置して、国民が映像を見られるようにした。

 また、この頃になると青葉新報以外に、連合王国内には新たに5つの新聞社ができていた。その新聞社の記者たちも、大急ぎで首都クワ・ロデニウスまでやってきて、記者会見に備えてスタンバイしている。

 

 そして中央暦1640年1月30日の夕方17時55分、ロデニウス連合王国各地では、魔信ラジオに耳を傾ける者や街頭の宣伝カーの水晶画面を凝視する者が溢れ返った。

 18時きっかり、宣伝カーの水晶体スクリーンが光り、そこにロデニウス連合王国国王・カナタ1世の姿が映し出された。

 

カシャカシャカシャッ!

 

 シャッターの音が響き、カナタ1世の顔にフラッシュの白い光が明滅する。

 

『国民の皆様、こんばんは。国王のカナタ1世です。今回は皆様に対し、重大な発表があります。

かの列強パーパルディア皇国が、我が国に対して正式に宣戦を布告し、更に“殲滅戦”を言い渡してきました』

 

 パーパルディア皇国による殲滅戦の宣言。更に、その事実が国王陛下の口から直接発表されたこと。

 この2つの事実により、ロデニウス連合王国の国民は皆、各地で騒然となる。

 

『我々は戦争となった今でも、外交を平和的に進めたい、という姿勢だけは失いたくないと思っています。ですので、戦争となった今でも、パーパルディア皇国との外交の窓口だけは、“一応”準備しておこうと思います。

さて、先ほど申し上げましたが、パーパルディア皇国は我が国に対し、殲滅戦を宣言しました。つまり、私自身も含めて我が国の民を1人残らず虐殺し、民族浄化を行う、と宣言してきたのです』

 

 ここでカナタ1世は、一旦言葉を切った。

 そして、声を大にして続きの台詞を発する。

 

『私は本件に関して、皆様の前で一言、宣言いたします。ロデニウス連合王国政府は、そしてロデニウス連合王国軍部は、全力を以て皆様を守り抜きます!! 私は、そしてロデニウス連合王国政府は、パーパルディア皇国からの殲滅戦の宣言に対し、断固とした対応を取るとともに、持てる力の全てを賭けて、国民の皆様をパーパルディアの民族浄化から守り抜くことを、ここに誓います!』

 

 この宣言により、一時は騒然となった国民たちも落ち着いていく。

 

『私は、軍事面に関して全てを知っているわけではありません。ですが、私自身としてはパーパルディア皇国には絶対に負けないと思っています。そう、あの「太陽の旗の軍」がある限り。この後、ヤヴィン軍務卿からも発表がありますので、詳しいことはそちらで伺っていただきたいですが、フェン王国でパーパルディア軍を全滅させたのも、この「太陽の旗の軍」になります。また、「太陽の旗の軍」の司令官……彼は今、フェン王国で戦闘の事後処理を行っているので、残念ながらここにはいないのですが、彼はパーパルディア皇国軍について「決して侮ってはならない」としながらも、「技術的に考えると、95パーセル(地球流に言い直すと95パーセント)以上の確率で我が軍が勝てる」と発言していたそうです』

 

 このカナタ1世の発言に、特にクワ・トイネ州の各地では国民たちが歓声を上げる。中には例の「太陽の旗」のレプリカを振る者もいた。

 古くからの付き合い故に、彼らは皆知っているのだ。「太陽の旗の軍」の頼もしさを。

 また、ロウリア州を拠点としているロデニウス連合王国第4軍団の兵士たちも、歓声を上げていた。彼らも「太陽の旗の軍」の強さはよく知っている。(もっと)も、「戦闘で一方的に叩き潰される」という経験をしたからこそ知っている側面があるのだが。

 

『ただいまを持ちまして、私はカナタ1世の名において、軍務卿ヤヴィンに命じます。“我が国の民を、財産を、パーパルディア皇国の魔の手から守り抜き、そして我が国の存続のため、可能ならばパーパルディア皇国を殲滅せよ”と!』

 

カシャカシャカシャッ!

 

 激しくフラッシュが()かれる。

 カナタ1世の演説は終わり、ここからは質問タイムへと移っていった。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 さて、ロデニウス連合王国において「殲滅戦」の宣言に関する報道がなされていたその頃、神聖ミリシアル帝国北西部の帝都ルーンポリス。

 同帝国政府の情報部は、かつてないほどの多忙な状態となっていた。

 神聖ミリシアル帝国は、魔導技術を磨くのはもちろんだが、情報についても重要視しており、「情報戦・謀略もまた戦争である。情報戦を制する者は世界を制する」と考えていた。そのため、神聖ミリシアル帝国の情報部は、ムー国の情報通信部とは違ってしっかり認知されており、寧ろ重要な機関だとすら考えられている。

 

 しかし、最近になって急に、ミリシアルの情報分析能力を以てしてもよく理解できない国家が2つ、出現していた。

 1つめは第ニ文明圏外国の1つ、グラ・バルカス帝国。この国は突然、全く突然に歴史の表舞台に姿を現した。

 

 そもそも文明圏に所属する国家と、そうでない国家……つまり文明圏外国家……の間には、“越えられない壁”とも言えるほどの差が存在する。人口然り、国力然り、技術力然り、軍事力然り。故に、文明圏外国は文明国に取り入って、文明圏に入ろうとすることが多い。

 しかし、文明圏内にある国家……「文明国」と呼ばれるが、こうした国々は、基本的に文明圏外国を見下しており、あからさまに「蛮族」などと言うことも少なくない。そして、文明圏外国が文明圏に参加したとしても、"万が一にも文明国の国力や技術力を超えないように”と、文明圏外国に提供する技術を相当に制限している。そして、文明国はその国力の差を背景に、人間(奴隷労働力として)・資源・領土その他様々なものを、文明圏外国から吸い上げる。

 文明国には、技術力の差を利用した、文明力の差による既得権があるのだ。俗に言う、“強者の権利”というやつである。

 

 それ故、文明圏外国の中には力尽くで文明国を倒して、成り上がろうとする国もある。

 しかし、文明圏外国が連携して文明国に攻め込むことは、歴史上いくらでもあったが、それらが成功することは一度としてなかった。

 そんな中、このグラ・バルカス帝国は現れた。

 

 この文明圏外国は、第ニ文明圏外の国家を次々と制圧し併呑した後、第ニ文明圏に接触してきた。

 彼らが最初に接触したのは、ムー大陸の中でも北西の沿岸にあるパルス王国。しかしパルス王国は、彼らの使節団に対して“第ニ文明圏の列強レイフォル国を窓口にしてくれ”と伝えたそうだ。列強レイフォルの国家的性格からして、この判断は正しかった、と言えるだろう。

 しかし、彼らがレイフォルに直接出向いて国交を求めた時には、彼らの使節団は“文明圏外国家は、まずパガンダ王国を通せ”と言われ、窓口ですげなく追い返されている。

 

 そして、レイフォル国の筆頭保護国であるパガンダ王国に、彼らの使節団はやってきた。その時交渉に当たったのは、パガンダ王国の王族の1人だった、という。

 その王族はグラ・バルカス帝国の使節団に対して、「パガンダを通さずにレイフォルに直接交渉に行くなど、礼を知らぬ文明圏外の蛮族が」と罵ったそうな。更に、莫大な額の(わい)()を要求したとか。

 それに対し、グラ・バルカス帝国の使節団に同行していた同国の皇族が、「貴国はその程度の品格しか持ち合わせていないのか」と発言したそうだ。するとパガンダの王族は、"文明圏外の蛮族の外交使節ごときが、列強レイフォルの保護国たるパガンダ王国の王族に対して無礼である”として、グラ・バルカス帝国の皇族を独断で処刑してしまったそうな。

 これがきっかけとなって、激怒したグラ・バルカス帝国は、パガンダ王国に宣戦を布告して強襲し、たった7日でパガンダ王国を滅ぼして圧勝した。更にパガンダ王国を滅ぼしたことで、レイフォルから宣戦を布告されるも、これも僅か5日で滅ぼして圧勝している。しかも彼らは、レイフォル国を「グレードアトラスター」というたった1隻の軍艦で滅ぼしたそうな。

 

 神聖ミリシアル帝国の情報局長アルネウスは、幹部クラスの部下に話しかけていた。

 

「グラ・バルカス帝国について、何か新しいことは分かったか?」

「はい。彼らの戦艦『グレードアトラスター』についてですが、情報分析の結果、この戦艦は我が国の最新鋭魔導戦艦と同等、若しくはそれ以上の性能を有すると見られることが判明しました。それと、彼らの本国や首都の位置については、依然として不明なままです」

「ううむ……」

 

 突然の強国の出現という、これまで全く前例のない事態を前に、アルネウスの頭と胃は悲鳴を上げっぱなしだった。

 

 そしてもう1つ、アルネウスの頭に引っかかっている国がある。その名は、ロデニウス連合王国。この国は、グラ・バルカス帝国とは反対側、第三文明圏外に位置する国家である。

 この国については、アルネウスは当初、特に気にしていなかった。だが、この国を訪れた商人たちが皆、こぞって“不可解なこと”を口にしていたことから、アルネウスも流石に少しは意識するようになった。

 

 曰く、ロデニウス連合王国には、我が国やムー国で見られる車のような乗り物が多数ある。

 曰く、ロデニウス連合王国で使われる船は、帆船ではない。ムー国に行ったことのある商人たちは、“機械動力船に似ている”と話した。

 曰く、ロデニウス連合王国には飛行機械がある。それも、何百何千という数があるらしい。

 曰く、ロデニウス連合王国では釣り鐘が空を飛ぶ。

 

 流石に(こう)(とう)()(けい)な話もあるが、それでも情報局の気を引くことはなかった。情報源が、商人という情報の確実性が怪しい情報源だから、ということもあっただろう。

 

 だが今回、そのロデニウス連合王国は、自らパーパルディア皇国に宣戦を布告し、列強パーパルディア皇国の第三文明圏最強の軍隊を、(かん)()()きまでに叩き潰して見せた。しかも「圧勝」と発表していたことから、おそらく彼らの軍隊の被害は、非常に少なかったものらしい。

 この一件で、ロデニウス連合王国は(にわか)(きゃっ)(こう)を浴び、ミリシアル情報局の認知するところとなった。

 

「ロデニウス連合王国に関する情報を、もっとかき集めろ!」

 

 こうして、神聖ミリシアル帝国情報局長アルネウスは、ロデニウス連合王国を正式に認識し、情報収集を行うよう部下たちに命じるのだった。




【悲報】パ皇、自ら破滅の道を選ぶ

こんなスレッドが立ちそうですね。
果たして、戦争の行く末はどうなってしまうのか…


次回予告。

ついに全面戦争が避けられぬ状態となったロデニウス連合王国とパーパルディア皇国。戦争遂行に際し、堺は"釧路"からある提案を受ける…
次回「"釧路"の本気」
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