鎮守府が、異世界に召喚されました。これより、部隊を展開させます。   作:Red October

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はい、こちらif編となります。
本筋には関わらない、あくまでifの内容ですので、本回の内容がこれ以降の流れに影響することはありません。
あくまでおまけとしてお楽しみ下さい。

それと、先に申し上げます。
全国の"霧島"ファンの皆様、御免なさい。



039.01 まさかの宣言if 会談での事件

 中央歴1640年1月29日 午前10時、パーパルディア皇国第1外務局。

 その一角にある応接室では、パーパルディア皇国の皇族レミールと、ロデニウス連合王国の対パーパルディア外交担当となっている堺と"霧島"との会談が、開始されようとしていた。

 

「霧島、今回の面談の目的は分かってるよな?」

「司令、それは“愚問”というものです。艦隊の頭脳には、目的の把握くらい朝飯前ですよ」

「うむ。よろしく頼む」

 

 第1外務局の職員が応接室の方を確認している間、堺と"霧島"は小声で素早く言葉を交わし合う。

 

「それと、()()()も忘れないように」

 

 堺は右手を右目の縁まで持っていき、何かを摘んで持ち上げる仕草をしてみせた。"霧島"は無言で頷く。

 そのタイミングで、職員が2人を振り返った。

 

「お待たせいたしました、どうぞお入りください」

 

 案内してくれた職員に頭を下げ、堺と"霧島"は応接室に入った。

 応接室の家具の配置などは、以前と変わっていない。そして、レミールもまた以前と同じロングソファーに腰かけている。なので堺と"霧島"も、以前と同じレミールと向き合える位置の椅子に腰かけることにした。

 

((……ん?))

 

 だが堺も"霧島"も、部屋にいるメンバーが以前と異なることに気付いた。前回は、部屋にいたのは堺と"霧島"とレミールの3人だけだったが、今回はそれに加えて女中が2人いる。1人はポットらしき物体を持ち、もう1人は何も持っていないようだ。

 ついでにいうと、2人ともなかなかの美人である。まあ、宮中に醜女(しこめ)を仕えさせるわけにもいかないだろうが。

 

(VIP待遇ってわけか? だが急に人員が増えたことだし、警戒しとくに越したことはないな)

(会談の場にいる人の数が急に増えてる……。これは、警戒した方がいいですね。司令に万一のことがあってはならない……)

 

 堺も"霧島"も会談を前に、表向きは平静を装いつつも、警戒心を抱くのだった。

 

 一方のレミールとしては、『フェン王国での戦いが終わったら、再度会談を行う』と約束していたとはいえ、「敵」となったロデニウス連合王国のため()()に、わざわざ会談を持たなければならないことが不快だった。局地戦とはいえ、負けるなどとは微塵も思っていなかったことが、尚更不快感を募らせる。

 今回のことで付け上がったロデニウス連合王国の外交官は、更なる要求を皇国に出してくるだろう。それもまた、レミールの(しゃく)の種だ。

 

(全く、()(ざか)しいな)

 

 レミールは、心の内の不快感を押し殺す。

 しかし見方によっては、組織的な事務処理が楽になるとも言える。正式に宣戦布告ができるからだ。

 そして何より、「列強たるパーパルディア皇国が蛮族どもに対して殲滅戦を選択した」という事実が、外交官を通してロデニウス連合王国に伝えられ、ロデニウス連合王国の国民は、恐怖のどん底に叩き落とされるだろう。

 

(まあ、それも良いか……。それに、この2人のうち少なくとも片方は軍人だと言っていたな。それなら、いざとなれば()()()でここで始末すれば良いか。どうせ蛮族だ)

 

 そんなことを考えつつ、レミールは会談に臨む。

 お付きの宮女の2人のうち、何も持っていなかった方が人数分のカップとソーサーを出し、ポットを持っていた方が3人のカップに飲み物を淹れる傍ら、会談が始まる。

 

「既にそちらにも連絡がいっているとは思いますが、予告通り、我が国の優秀なる兵士たちの働きによって、貴国の軍隊はフェン王国から駆逐されました」

 

 会談が開始されると同時に、堺は開口一番にレミールをやり込める。

 

「そこで改めてお伺いします。貴国、パーパルディア皇国は、貴国の民のためにも、前回の会談で我が国が提示した要求の遂行を、考えていただけましたでしょうか?」

 

 堺としては、このレミールという分からず屋女も、今度こそ力の差を理解しただろう、と考えていた。もちろん、要求を拒否される可能性は捨ててはいない。

 致し方のないことだが、口での話し合いが通じない相手に、こちらの言いたいことを確実に伝える方法は1つしかない。すなわち、力尽くでぶん殴り、腕尽くで分からせるのだ。

 

 ロデニウス連合王国からの要求は、概ね以下の通りである。詳しくは、「032. 決断! 対パーパルディア戦突入!」を参照いただきたい。

 

1. フェン王国に対する賠償。

2. ロデニウス人虐殺に関して、ロデニウス連合王国に対する賠償。

3. パーパルディア皇国からの要求の拒否。

4. ロデニウス人虐殺に関与した全ての人間の身柄の引き渡し。

5. パーパルディア皇国からの要求の全てを、拒否することへの承認。

 

 なお、もちろんのことであるが、引き渡しを要求された身柄の中には、レミールのそれも含まれている。というか、ロデニウス人虐殺の実行犯たちはフェン王国で捕縛されるか死ぬかしたため、まだ身柄が渡っていないのはレミール(とルディアス)くらいのものになっているのだが。

 

 堺のこの問いに対しレミールは、

 

「フ……わかりきったことを聞くのだな。断る」

 

 堺の予想に反して、あっさり要求の受諾を拒否した。

 

(やれやれ、元々地雷女だろうとは思ってたが……性根まで腐った地雷女だったかな)

 

 あまりにあっさり要求を拒否された堺。しかし、この程度は一応予想済みだった。何せ相手はプライドの塊なのだから。

 ならば、以前の要求を重ねて伝えるしかない、もしこれで拒否するなら、アルタラスかどこか皇国の領土を削り落とすと脅してやろうか、と堺は思案し口を開く。

 

「そうですか。では、我が国としましては……」

 

 ところが、堺が10分の1も言わない先に、

 

「こちらから伝えることがある」

 

 レミールが、堺の発言を遮るようにして話し始めた。

 

(どうせロクな内容じゃないだろうが……ま、聞くだけ聞くとしよう)

 

 堺は口を閉じ、レミールの話を聞く。

 

「お前たちは我が国の軍隊を破った他、我が国の属国や属領の独立を促す者を保護するなどした。その結果、皇帝陛下の怒りを買いすぎた。自分たちが何をしようとしているか全く理解できていない蛮族は、()()()()()()()()

 

 レミールは、以前よりも一層高圧的な口調で話してくる。

 堺は、素早く"霧島"と視線を交わし合った。これは、いよいよロクでもないことになってきたぞ、と。

 

「お前たちは、列強の力を舐めすぎている。そして、お前たちの国の意志を決定している者たちは、自分たちは安全だと思っているのではないか? 甘いな。その愚かな考え方こそが、皇帝陛下の猛烈な怒りを買うことになり……自らを滅ぼすことに繋がってしまうのだ」

 

 ここまでレミールの話を聞いて、堺は“これは宣戦布告だな”と考えた。

 どうやらパーパルディア皇国は、改めてロデニウス連合王国に宣戦を布告するつもりらしい。

 

 ……しかし。

 

 続くレミールの言葉は、堺の想像の斜め上を行きすぎていた。

 

 

 

 

 

「哀れなるロデニウス連合王国よ。我が国、パーパルディア皇国は、ルディアス皇帝陛下の名において、“お前たちに対して宣戦を布告する”とともに、“ロデニウス連合王国の()()()()()()()()()()”ことを決定した」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……はっ?」

 

 

 堺は自分の耳を疑った。隣で"霧島"も、驚愕と困惑を顔に浮かべている。彼女の形の良い眉が、ハの字のようになっていた。

 

 聞き間違いだろうか? この女、今とんでもないことを口走った気がするのだが。

 全国民を抹殺する? それって()()()()ってことだよな?

 

 堺は気を取り直し、レミールに尋ねる。

 

「宣戦布告は理解できましたが、最後の言葉はどういう意味でしょう? 全国民を抹殺するとか伺いましたが?」

「その言葉の通りだが?」

 

 "霧島"が録画を行っていることを知っている堺は、明らかな証拠を残してやろうと、もう一度言葉を変えてレミールに聞き直す。

 

「貴方方は国を挙げて、我々ロデニウス連合王国に対し、民族浄化を行おうとしているのですか?」

 

 そしてレミールは、決定的とも言える一言を放った。

 

「そうだ。お前たち2人も、国に帰った後で、侵攻してきた我が国の兵士たちによって殺されるだろう。今殺さないのは、私からの()()だ」

(この分からず屋、自分で墓穴を掘りやがったな)

 

 そう考えつつも、堺は怒りのあまり無表情になって、口を開いた。

 

「呆れましたね。自分たちの状況が見えていない…いや、この場合、見ようとすらしていない。そればかりか、虐殺を良しとして民族浄化までしようとするとは。貴方方ほどの()()()が、何故今まで生き永らえてきたのかが不思議です」

 

 そう言いながら堺は席を立ち、ゆっくりとレミールに歩み寄る。

 

「ですが、今度ばっかりは天に見放されましたね」

 

 堺はレミールの目と鼻の先まで歩み寄ると、レミールの前にあったテーブルに、その両手を衝いた。

 そして、決意の色を宿した瞳と、有無を言わせない真剣さを顔に浮かべ、レミールの目を真正面から睨み据える。

 

「ここまで言われたからには、私も本気です。

いいですか? ここがスタートラインです。来年には、パーパルディア皇国という存在は、『歴史書の中』にしかその存在を認められていないでしょう。つまり、来年にはあなた方の国が滅んでいるだろうという予言です。よく覚えておいて下さい」

「ふん、その言葉、死に行く者の戯言として受け取ろう」

 

 レミールも、真っ向から堺を睨み据える。

 "霧島"には、2人の間に激しい火花が飛び散っているのが、はっきりと見えた。

 

 暫し無言で睨み合った後、堺はレミールから目を離し、"霧島"を振り返る。

 

「霧島、行くぞ。これ以上の対話は()()()だ。ここからは、力尽くでぶん殴るまでだ」

「了解しました」

 

 "霧島"には、堺がキレているのが手に取るようにわかった。"霧島"自身としても、腸が煮えくり返るような思いを抱いているだけに、堺が怒るのも当然なのだが。

 とその時、レミールが口を開いた。

 

「そうだ、1つ言い忘れるところだった」

 

 既に"霧島"のほうに歩きかけていた堺は立ち止まり、レミールの方を振り返った。

 

「? 何でしょうか?」

 

 堺が尋ねると、レミールは落ち着いた口調で言った。

 

「私は先ほど、お前たちを今殺さないのは私からの慈悲だ、と言ったろう?」

「ええ、そう伺いました」

 

 確かに、レミールはさっきそう言っていた。

 その瞬間。

 

((!?))

 

 堺と"霧島"、両名の背筋に鳥肌が立った。特に"霧島"の方では、深海棲艦との長年の戦いによって鍛えられた第六感が、激しい警戒警報を鳴らしている。また堺にしても、"霧島"ほど鋭敏ではないかもしれないが、軍人として一通りの危険予知はできた。()()()()()()が激しく反応している。

 

(伏兵か!?)

 

 堺は、レミールを見詰めた。涼しい顔をしているレミール、しかしその方角から、ただならぬ雰囲気が漂っている。堺はそっと、ズボンの尻ポケットに右手を回し始めた。

 一方、"霧島"は気配のみで危険を感じ取っていた。危険信号は2つ。どちらも自身の背後にあって、左右に分かれている。ちょうど、応接室の入り口のドアがある方向だ。

 そういえば、ドアの付近に女中が2人控えていたはず。そして司令の尻ポケットには"ハジキ"が入っている……

 

 両者が静かに見詰め合い探り合う中、レミールが言葉を発した。

 

 

 

 

 

「あれは嘘だ」

 

 

 その瞬間、レミールが座っていたソファーの後ろから、男が1人姿を現した。抜き身の剣を持っている!

 と同時に、ドアのところに控えていた2人の女中が、短剣を持って向かってきた!

 

「ちっ!」

 

 飛び出してきた男は、身のこなしから言って明らかに軍人だ。

 堺は軽く舌打ちし、右手を素早く尻ポケットに突っ込んで、"ハジキ"を取り出した。

 

 

 襲ってくる2人の女中の気配を察し、そちらを向いた"霧島"は、彼女たちが戦闘訓練の基礎の基礎もできていない、()()()()()()()であることを素早く見て取った。

 なら、突発的な事態への対処は難しい!

 

「うりゃあぁーーっ!」

 

 およそ女性らしくないかけ声とともに、"霧島"はさっきまで自身が座っていた椅子をひっ掴み、それを持ち上げると自身の右手に見える女中に向かって投げ付けた。

 まさか椅子を投げられるとは思っておらず、女中は(とっ)()に身を(ひるがえ)して椅子を避ける。これで"霧島"は、2人を一時的に分断することに成功した。

 しかしその時には、既にもう1人の女中が短剣を手に"霧島"に迫っていた。だがこの程度は、"霧島"は把握済み。そして彼女は、()()()()"霧島"のリーチに踏み込んだのだ。

 

 ヒュゴウ、とでも表現すべき音とともに、"霧島"のしなやかな右足が宙を舞った。

 

 

 剣を持ち、堺に斬りかかろうとした男性であったが、堺の方が早かった。

 少し肘を曲げて腕を伸ばし、顔の高さで構えられた堺の右手には"ハジキ"……専用の消音器(サイレンサー)を装着したワルサーP38があったのだ。

 ぷすっという、空気銃でも撃ったような軽い音が、1発だけ応接室に響く。しかし、撃った弾は()()だ。次の瞬間、眉間を正確に撃ち抜かれた男性は膝を折り、うつぶせに床に叩き付けられた。

 男性が床に倒れるのとほぼ同時に、バキィッ! と嫌な音が響き渡る。"霧島"の必殺回し蹴りが、女中の左の下顎にしたたかに命中した音だった。その職業柄、水上スケートばかりやっている艦娘は、基本的に下肢の筋肉は尋常じゃないレベルで鍛えられている。あの様子では、女中の下顎の骨が折れたに違いない。手加減無しの一撃である。

 女中は後ろ向きに吹っ飛び、仰向けに床に崩れ落ちる。"霧島"が、口から泡が噴き出ているのを目の端で確認した時には、椅子を避けたもう1人の女中が"霧島"に斬りかかってきていた。

 しかしそこは"霧島"、しゃがみ込むようにして、突き出された短剣を難なく避ける。そればかりか、短剣を握って無防備に伸ばされた右腕を、両手でしっかり摑んだ。

 と同時に、"霧島"は自身の腰背部を女中の腹部に押し当てる。その直後に、自身の膝のバネの力を解放した。そして、

 

「どりゃあぁぁっ!」

 

 柔道選手もびっくりの美しいフォームで、"霧島"は女中に一本背負いを喰らわせたのだ。かけ声には、突っ込まないであげて欲しい。

 

 両者の身体が、完全に床を離れる。レミールには、宙を舞う様子がスローモーション再生の動画のように見えた。

 次の瞬間、ドスンと大きな音を立て、女中は背中から床に叩き付けられる。床と"霧島"にサンドイッチにされては、鍛えてもいない女中が敵うわけもなく、女中はあっさりと伸びてしまった。

 "霧島"は、その手から短剣を奪い取る。ついでに、回し蹴りで気絶させた方の女中の短剣も取り上げてしまった。完全に返り討ちである。

 "霧島"が2人の女中を武装解除したのを見て、堺はワルサーP38をポケットにしまった。

 

「全く嘆かわしい。列強と虚勢を張っても、しょせんこの程度のモラルしか持ち合わせていないのですか」

 

 さっきからの2人の大立回りで気勢を削がれ、動けなくなっているレミールを見据えて、堺は抑揚のない声で無表情に言った。

 

「まさか、()()とはいえ一国から来た外交員を殺そうとするとは……。貴方方ほどの愚か者とは、正直言って二度と交渉したくないですな」

 

 そう言うなり、堺と"霧島"は席を立ち、退室する。

 ドアのところで堺は振り返り、レミールに最後の一言をかけた。

 

「さっきの殲滅戦の宣言、忘れないでおいてくださいね。来年には焼け野原になったこの街で、()()()()()でその言葉を思い出させてやりますから」

 

 そして堺はレミールの言葉を待たずに、"霧島"を連れて応接室を出た。

 

 

 ロデニウス連合王国の使者2名が退室した後、まだ誰も動く者のいない応接室で、レミールは1人固まっていた。

 蛮族どころか、彼らは非常に強力な戦闘員だった。堺と名乗った男の方は、軍人というより軍属の魔導士に違いない。小さな黒い杖を出して、1発でこちらの兵士を倒していたではないか。

(レミールは、堺が使った小さな黒い物体が()であることに気付いていない)

 それにキリシマとかいうあの女は、お淑やかな奴なのかと思いきや、見た目とは裏腹にとんでもない戦闘力を持っていた。如何に戦闘には素人だったとはいえ、女中2名を一瞬で戦闘不能に追い遣ったのだから。

 

(私は……相手を見誤っていたのか……? まさか、そんな馬鹿な……)

 

 レミールは、それだけ考えるのが精一杯だった。

 

 

 この後、今回の面談に関して"霧島"が撮影していた映像もまた、ロデニウス連合王国外務部の教材として供された。

 ただし"霧島"は、録画モードを()()にしたままあの乱闘をやっていたため、その様子はバッチリ録画されてしまっていた。その結果、外務部の外交官たちの間で「自国のどこかに、正当防衛とはいえ『外交の場で乱闘騒ぎ』をやった女がいる」と噂になり、以後暫く"霧島"は、如何なる交渉の場にも同席しなかったとか。




【悲報】霧島、武闘派と判明

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