鎮守府が、異世界に召喚されました。これより、部隊を展開させます。   作:Red October

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深夜に失礼、「鎮守府異世界」第40話、抜錨します!



040. "釧路"の本気

 中央暦1640年2月6日。

 フェン王国での戦闘の事後処理がようやく一段落し、堺は報告のため、一旦ロデニウス連合王国へと帰還した。

 

 戦闘終結後、改めてニシノミヤコ市街地を捜索し、ロデニウス連合王国から来ていた観光客など合わせて103人の行方を捜したのだが、見つかったのは遺体ばかり。当時、ニシノミヤコにいたフェン王国人からも聞き取りをしたりして、様々な情報を突き合わせて調査した結果、最終的に“行方不明のロデニウス人103人は、パーパルディア皇国軍の攻撃によって死亡した”と結論付けられた。非常に残念なことだが、致し方ない。

 また、フェン王国の首都アマノキにいた約1,200人のロデニウス人たちを脱出させる傍らで、フェン王国の戦いで捕虜となったパーパルディア皇国の軍人たち……海軍のシウス将軍・陸軍のクメール将軍以下、陸海軍合わせた将兵およそ650名は、脱出船とは別便でロデニウス連合王国に移送された。一旦クワ・タウイの強制収容所に収容し、処遇は後ほど考えることになりそうである。

 

「以上、フェン王国での戦いとその事後処理の中間報告になります。最終的な報告は、後日とさせていただきます」

 

 ロデニウス連合王国軍司令部にて、堺は軍務卿チェスター・ヤヴィン、陸軍大臣コルビー・ハンキ、海軍大臣ゴーダ・ノウカを前にして、報告を終えた。

 

「それとハンキ殿、勝手ながら陸軍第1軍団の歩兵と戦車部隊をお借りしてしまい、申し訳ありませんでした」

 

 堺は、ハンキに頭を下げる。

 

「いや、堺殿、お気になさるな。確かに、(けい)の行動は褒められたものではなかった。だが、結果的にフェン王国を救うことに成功したのだろう? ならば結果オーライではないか」

 

 ハンキは、慌てて堺に言葉を掛けた。

 

「いえ、戦力を動かしたのは事実ですし、明らかに越権行為に当たるでしょう。ですので、来月の給料については、2割を自主返額致します」

 

 だが堺は、自身の中で既に“今回のことは越権行為に当たる”と、はっきり認識していた。到底許される行動ではない、と。

 ハンキは、尚も食い下がろうとしたが、

 

「まあハンキ殿、彼があのように言ってるんだ。それに、越権に当たるのは事実だろう? なら、彼の方が筋が通っている」

「そうそう、信賞必罰は鉄則ですぞ」

 

 ヤヴィンとノウカに嗜められ、ついに折れた。

 

「さて堺殿、卿が直接言われた身であるから、明確に認識しているとは思うが、撮影記録は見せてもらったぞ。パーパルディア皇国は我が国に対して、はっきり殲滅戦を宣言したな。勝てると思うかね、堺殿?」

 

 話題を変え、ヤヴィンは堺に尋ねる。

 

「はっ、殲滅戦の件は肝に銘じております。勝てるか、とのご質問に対する返答は、“勝てる”、ですな。

ただし、こちらが優れているのは、“兵器の質”です。それを操る“兵士の練度”がどうなるかで、本戦争の勝敗は決まると思います。いかに最新兵器といえど、使いこなせなければ宝の持ち腐れですから。

それに、パーパルディア軍の兵士は、明らかにこちらより数が多い。技術的には相手の方が遅れているとはいえ、絶対に侮ってはなりません。このことを、よく理解しておいていただきたく思います」

 

 堺は、明確に言い切った。

 

「うむ、承知した。幸い、こちらでも卿のところ(タウイタウイ泊地)の銃や軍艦、戦闘機を装備した部隊が増えている。あれがあれば、パーパルディア軍にも簡単には負けまい。

ハンキ、ノウカ、くれぐれも訓練を怠ることのないように頼む」

「「は!」」

 

 ヤヴィンの声に、ハンキとノウカは揃って敬礼する。

 

「では堺殿、ご苦労であった。これからもしっかり頼むぞ」

「はっ。では、失礼します」

 

 堺は退室した。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 そのしばらく後。

 

「お帰りなさい。お疲れ様でした、司令官!」

「ああ、ありがとう」

 

 何日かぶりにタウイタウイ泊地に戻ってきた堺を、駆逐艦娘の1人である"吹雪(ふぶき)"が出迎えていた。

 

「あ、そうそう。(あか)()さんが司令官を呼んでましたよ。飛行場の方で“見せたい物がある”って」

「見せたい物? 飛行場でか?」

「はい。なので、1回行ってきていただけませんか? お荷物は、お部屋の方へ運んでおきます」

「ふむ……そこまでいうなら、分かった。行ってこよう」

 

 いったい何を見せたいのか、と(いぶか)しみながら、堺は飛行場へと向かった。

 

 飛行場に来てみると、何人かの艦娘が格納庫の前に集まっている。何やら騒いでいるようだ。

 

(ずい)(ほう)? (りゅう)(じょう)? それに()()まで? いったいどうしたんだ?」

「おお提督、帰ってきよったんか。お疲れやね。(くし)()ちゃんがどえらいモンこしらえてくれてな」

 

 堺の質問に答えたのは、軽空母艦娘"龍驤"だった。"龍驤"は、格納庫の方を指し示す。

 

「どえらいモン? 何を作ったって……」

 

 言いかけた堺の声は、途中で止まった。

 格納庫に鎮座していたのは、「一式陸上攻撃機」すら遥かに凌ぐ存在感を放つ巨大な航空機。非常に長い主翼には、計4発のプロペラエンジンが付いていた。見るからに、頑丈そうな機体である。そして、機体正面のコクピットの窓の配置は、一種独特なものになっていた。

 そこにあったのは、第二次世界大戦時の米国の重爆撃機にして、日本人なら一度は名前を聞いたことがあるであろう機体。日本全国の各都市を、空襲で火の海に変えた悪名高き機体……「ボーイングB-29 スーパーフォートレス」だったのである。

 

「B-29!? 何故こんな機体が!?」

 

 堺が驚いて叫ぶと、

 

「あ、提督。お帰りになっていたのですね」

 

 B-29の陰から、"赤城"が姿を現した。"釧路"も一緒にいる。

 

「ええっとですね、釧路さんがうちの兵器開発要項を見て、“B-29くらいなら作れる”って言い出しまして」

「で、3日くらいで試作機を完成させちゃいました。これが、その試作機なんですよ」

 

 "赤城"が困ったように頰を掻きながら説明すると、その後を"釧路"が引き受けた。

 

「作った!? これを3日でか!? 飛べるのか?」

「それは、これからテストします。まあ、多分成功するでしょう」

 

 堺の質問に、"釧路"はあっけらかんとした返事を返した。

 

「ですが今日は、テストパイロットとなる陸上攻撃機乗りの妖精たちの手が空いていないので、今日のテスト飛行は無理です。明日の午後1時からなら空いている、とのことなので、そこで行います。

それと提督、急なお願いで申し訳ありませんが、明日の午前9時に手空きの艦娘の皆さんを、講堂に集めていただけないでしょうか? “発表したいもの”があります」

「発表したい?」

「はい。独自に開発していた、“ある種の高角砲弾”なのですが…」

「高角砲弾ね…。なんとなく察しが付いたわ。分かった、手配しよう」

「ありがとうございます」

 

 "釧路"は、深々と頭を下げるのだった。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 翌2月7日 午前9時、タウイタウイ泊地講堂。

 急遽集められた艦娘たちを前に、演壇に立つ堺はこう話した。

 

「えー、朝から急に呼び出してしまってすまない。だが、釧路から“大事な話がある”とのことで、今回は皆に集まってもらった。何でも、“新たな砲弾を開発したので、それを皆に発表したい”とのことだ。心して聞くように!

では釧路、よろしく頼む」

「はい!」

 

 堺が演壇から降りると、代わって"釧路"が演壇に立った。その傍らに、2人の妖精が何やら木箱を持って控えている。

 

「それでは私、釧路から新たな砲弾…正確には、“砲弾に使用する新たな信管”について、発表したいと思います。

まずはその前に、1つ質問です。お集まりの皆様の中で、『八九式12.7㎝連装高角砲』を装備している方は、どのくらいいらっしゃいますか?」

 

 いきなりの"釧路"の質問に、何人もの艦娘たちが手を挙げた。しかし、彼女らの顔には一様に疑問符が浮かんでいる。

 

「ふむふむ……ありがとうございます、たくさんいらっしゃいますね。それでは、『九八式10㎝連装高角砲』、いわゆる“長10㎝高角砲”を装備している方は?」

 

 こちらには、(あき)(づき)型駆逐艦をはじめとする、一部艦娘たちが手を挙げた。

 

「はい、ありがとうございます。先ほどの質問の結果を見ると、皆様は八九式12.7㎝連装高角砲か、九八式10㎝連装高角砲のどちらかを、必ずと言っていいくらいの確率で装備しているようですね」

 

 "釧路"は一旦言葉を切ると、妖精たちが持っていた木箱の中を探って、何かを取り出した。それは、“何かの弾頭”のようにも見える物体だった。

 

「今回私が開発したのは、八九式12.7㎝連装高角砲と、九八式10㎝連装高角砲の砲弾に取り付ける、V()T()()()になります!」

 

「「「「「!!!!!」」」」」

 

 "釧路"が宣言したその瞬間、講堂を凄まじい激震が襲った。

 

「Oh! Magic fuseね!」

 

 戦艦娘の"Iowa(アイオワ)"が叫び、

 

「近接信管か! アタシの防空能力がますます高まるじゃねえか! よーし、(みなぎ)ってきたぜ!」

 

 "()()"が気合いを入れる。その一方で、緊張した表情を浮かべる者もいる。"(しょう)(かく)"、"(ずい)(かく)"、"(たい)(ほう)"、"()(よう)"、"(じゅん)(よう)"といった空母艦娘の面々だ。

 何故彼女たちが緊張するのか。それは、()()に答えがある。

 

 VT信管。それは、簡単にいうとレーダーを備えた信管である。日本では近接信管と呼ばれ、また米国では「マジック・ヒューズ(Magic fuse)」と呼ばれることもあった。

 この信管を装備した砲弾は、なんと航空機が砲弾の近くに来るとレーダー波の反射に反応して信管が作動し、砲弾が炸裂するようになっているのだ。航空機乗りにしてみれば、当たれば死亡確定、砲弾が機体を掠めただけでも炸裂してしまい、その破片や爆風によって機体にダメージを受け被撃墜に至ることもある、という悪魔のような砲弾である。

 

 第二次世界大戦において、このVT信管を装備した砲弾を運用したのは、アメリカ軍だった。西暦1944年のマリアナ沖海戦において、このVT信管付き砲弾が実戦投入され、日本軍機を片っ端から撃墜した……とよく言われている(最近の調査では、どうもこの説は違うらしい、と主張されるようになっている)。

 だが、何にしてもこの砲弾の登場によって、元々航空機搭乗員の練度の低下が著しかった日本軍航空隊は、ますます"通常の攻撃方法”ではアメリカ軍にダメージを与えるのが難しくなった。そしてついに日本軍は、マリアナ沖海戦の後のレイテ沖海戦以降、“カミカゼ・アタック(特攻)を主流戦法とするようになっていったのである……。

 

 そして、"翔鶴"、"瑞鶴"、"大鳳"、"飛鷹"、"隼鷹"といった空母艦娘が緊張した訳についてであるが、彼女たちは皆マリアナ沖海戦に参加し、VT信管やら敵の防空戦闘機やらによって、母艦航空隊壊滅の憂き目を見た者たちだったのだ。そのため、因縁深き存在ともいえるVT信管を"釧路"が持ち出してきたことで、一瞬硬直したのである。

 

「ぶいてぃー信管? 加賀さん、これは……?」

「赤城さん、ごめんなさい。私にも分からないわ」

 

 "赤城"と"加賀"が小声で会話を交わす。この両名はマリアナ沖海戦の2年も前にあったミッドウェイ海戦で沈んでしまったため、こんな大戦後期に登場した兵器などは知らないのである。何せ「(れっ)(ぷう)? いえ、知らない子ですね」とか「(りゅう)(せい)? 九七式艦攻とは違うのですか?」などという人たちなのだから。

 

「という訳で、皆様にもこのVT信管を装備した砲弾を使って、戦っていただきたいと思います!」

 

 "釧路"が叫んだ時、艦娘たちの中から手が挙がった。

 「はい(なが)()さん」と"釧路"。そう、手を挙げたのは戦艦娘の"長門"だったのだ。

 

「それを付けた砲弾を運用すると、どういうことが起きるのだ?」

「そうですね。これを使うと、対空戦闘の成績が大幅に向上します! 具体的には、高角砲の命中率が少なくとも、今の15〜20倍になるでしょう」

「な、なんだと!?」

 

 "釧路"の説明に、"長門"は驚きの表情を浮かべた。他の艦娘たちも一瞬ざわつく。

 

「もう少しイメージし易く説明すると、皆さんはアイオワさんは知っていますよね。彼女の持っている『5インチ連装両用砲』には、このVT信管弾が使われています。つまり、皆さんが張る対空弾幕が、アイオワさんのそれのように強烈なものになる、ということです!」

 

 "釧路"のこの説明に、今度こそ艦娘たちが歓声を上げた。

 

「よーし、漲ってきたぜ! 対空戦なら任せろ!」

 

 自信満々の様子で、"摩耶"が声を上げる。“防空戦闘ならタウイタウイの艦娘の中で右に出る者なし”とまで言われる彼女のこの発言には、かなりの頼もしさがある。

 

「これ以外に、九六式25㎜機銃用のVT信管もご用意しました! 皆さんに、是非試していただきたく思います!」

 

 歓声の中、"釧路"が更に声を張り上げる。

 喧騒の中、堺は考えていた。

 

(近接信管……ついに登場したか。それにしても、着任から1年と経っていないのに、近接信管やらB-29やらを、いともあっさり開発してしまうとは……。釧路……お前の持つ技術はいったい、どれほどの量があるというのだ……?)

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 少し時間が経って、午後2時。

 

「あ、あんな高度まで上がれるなんて……」

 

 「これ絶対に首が痛くなるだろ」と堺が思うほど、長時間空を見上げ続けていた"吹雪"が呟いた。その視線は、既に水平線付近まで下がっている。

 視線の先には、着陸しようとしているB-29の姿があった。

 

「流石だな、B-29。“超空の要塞”と呼ばれるだけはある。何せ、成層圏まで上がれるような機体だしな」

 

 堺が、"吹雪"にコメントする。

 

「ええと司令官、成層圏って高度に直すと……」

「およそ1万メートルだな」

「えぇ……」

 

 絶句してしまう"吹雪"。その横で、

 

「加賀さん、あの機体を落とそうと思ったら…」

「あの機体は、零戦の20㎜機銃でも通用するかどうか、という防弾装備を持っているわ。30㎜機銃があった方がいいわね。五航戦の子たちのジェット機のように」

 

 "赤城"と"加賀"が、ひそひそと話していた。

 

「B-29か……飛んでいる間は確かに脅威だな。あんな高度、我々の戦闘機じゃあ発動機が音を上げてしまう。上がることはできても、それだけで精一杯だ。戦うなんてとてもできやしない……。

お前らならどうする?」

 

 B-29を眺めていた戦闘機乗りの妖精たちの中で、仲間から"(いわ)(もと) (てつ)(ぞう)"と呼ばれる妖精が声をかけた。こんな機体を目の当たりにし、また前世の記憶を引き継ぐ者もいるだけに、B-29への対応をどうするのか、誰も考え付かない。

 そんな中、涼しげな顔をした妖精が1人、発言した。その手には空になった牛乳ビンがある。

 

「なに、簡単なことじゃないか。奴が爆撃してきたら、その後を追いかけていって、奴が着陸したところに爆弾を放り込めば済むだろう?」

 

 こんな発言ができるのは、ただ1人しかいない。シュトゥーカ乗りの魔王"ハンス・ウルリッヒ・ルーデル"その人である。

 余談だが史実におけるこの人は、300機ものアメリカ軍のB-17から空襲された時、空襲が終わった後すぐに出撃してB-17を追いかけ、B-17がソ連軍基地に着陸したところを襲撃して、大損害を負わせてやったことがある。なにこのリアルチート。

 

「いや……それができるのは、お前だけだろ」

「なんて奴だ。B-17の絨毯爆撃を生き延びて、それに飽き足らず逆襲までした奴は、流石に言うことが違う……」

 

 妖精ルーデルの持ち出したあんまりな提案に、他の妖精は絶句して声も出ない。

 

「ふむ。着陸すれば無力、って訳か! それか、発進する前に殺るか、だな」

「それが良い。ド派手な花火になるだろうし」

 

 そんな妖精たちを余所に、妖精岩本と妖精ルーデルは“対B-29戦法談義”で盛り上がっていた。

 そうこうするうちに、着陸してきたB-29が、一同の前で停止する。

 

「提督、如何ですか?」

 

 機体から降りてきた"釧路"が、手を振りながら堺に尋ねてきた。

 

「上々だ。流石だな、釧路。これは、今すぐでも承認の印をつける自信あるわ」

 

 堺も、サムズアップを返しながら答えた。

 

「分かりました! テストパイロットになってくれた妖精さんたちも、評価は申し分ないとのことで…提督と軍部の承認があれば、すぐ量産体制を確立します!」

 

 満面の笑みを浮かべる"釧路"。

 かくして、ついにロデニウス連合王国軍は念願の「戦略爆撃が行える重爆撃機の開発」に成功したのだった。あとは、量産と訓練あるのみである。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 その一方、"釧路"は別の仕事にも首を突っ込んでいた。

 

「釧路さん……これ、できますか?」

「どれ?」

 

 中央暦1640年2月9日、ロデニウス連合王国クワ・トイネ州の造船都市クワ・タウイ 陸軍兵器設計局。

 陸軍のある設計技師の妖精が、"釧路"の下に“ある案件”を持ち込んでいた。彼が広げた書類には、ある戦車の設計図が描かれている。それは、現在のロデニウス連合王国陸軍のMBT(Main Battle Tank、主力戦車のこと)である、Ⅲ号戦車の代替となることを期待された戦車であった。

 

「堺殿からの要求レベルが、べらぼうに高くて。35トン程度の重量で、ティーガーⅠ並みの攻撃力と、Ⅳ号戦車G型を超える防御力と、パンター戦車クラスの機動性を兼ね備えさせろ、ってものですから……もはや、この手を使うしかない、と判断しました。

ですが、“チタンの製錬は非常に難しい”とのことで、釧路さんに頼るしかない、と思いまして。あと、こいつのエンジンについても同様です」

 

 そこに描かれていた戦車の設計図は、これまでのロデニウス連合王国陸軍の戦車とは、全く異なるシルエットを有していた。

 まず、全体的に見て台形のような格好になっている。これは、この新型戦車が全面的に“傾斜装甲”を採用しているためだ。

 そして、幅広の履帯に支えられた車体の上には、“蒲鉾のような形状の防盾”を装備した、長砲身の主砲を持つ砲塔が乗っかっていた。

 

 この戦車に付けられた仮呼称は……「パンター改」。

 

 以前の「アレ」の調査の際(「028. 新たなる共同体の誕生」参照)に、不審な砲を発見した堺が、自身の目で確かめて見たのだ。その結果、この砲がパンター戦車の物だと分かったのである。しかも、「あご」状の出っ張りを装備した、パンターG型の砲塔だったのだ。

 そこで堺は、このパンター戦車の砲塔を使った「Ⅲ号戦車の代替となる主力戦車」の開発を、陸軍兵器設計局に命じた。何しろ、今のロデニウス連合王国軍の戦車ときたら、チハにハ号、Ⅲ号、Ⅳ号と、どれも“防御力に不安がある”ものばかりなのである。その点、ティーガーⅠは強力ではあるのだが、重量がべらぼうに重く、現時点では他国への輸送ができないことと、エンジン及び足回りの機械的信頼性が低いことから主力戦車とはなり得ず、むしろ“決戦兵器”または“防御兵器”として使うことになる、と見做されていた。そのため、“高い防御力を持つ主力戦車”がない状態にあったのだ。

 これが、Ⅲ号戦車を“第1世代主力戦車”、Ⅳ号戦車を"第2世代主力戦車"とすると、“第3世代主力戦車”の開発が命じられた経緯であった。

 

 しかし、これには大きな問題があった。史実における、パンター戦車の重量は45トン。対して堺が要求した新型戦車の重量は35トンと、10トンも軽くなってしまっている。10トンも軽くした上で、パンターレベルのスペックを持たせるには、無理があった。

 

 そこで妖精が考え付いたのは、「装甲を1枚のRHA(均質圧延鋼装甲)とするのではなく、2枚のそこそこの厚さのRHAでチタン装甲とセラミックをサンドイッチにする」というものだった。チタンは、密度が鋼鉄のおよそ半分で、対弾性は鋼鉄とおよそ同等とされる。言い換えると、チタン装甲を採用すれば“オリジナルのパンター戦車と同等の防御力を確保しながら、重量を軽くすることができる”のである。妖精は、これに目を付けたのだった。

 ただ、チタン金属自体はクイラ州で産出するものの、その加工は容易なことではない。そのため妖精は、チタンの加工を"釧路"に手伝ってもらおう、と考えたのだ。

 

 ちなみにだが、2種類以上の材質を積層させた装甲は「複合装甲」と呼ばれ、現代の戦車にも使われている技術である。

 

「チタンね。確かに加工難易度は高いけど、私に掛かれば十分できるわよ。手伝うわ」

「ありがとうございます!」

 

 "釧路"の言葉に、妖精は深々と頭を下げた。

 複合装甲に必要なチタンの加工を「できる」とさらりと言ってしまうとか、釧路さんマジ有能である。

 

「でもね、タダではやらないわよ。()(みや)(よう)(かん)100本くれるなら引き受けるわ」

「鬼がいたーーー!!!」

 

 その直後、まさかの要求に設計技師妖精は頭を抱えることになった。が、"釧路"以外にチタンの加工を真面に行える者がいるはずもなく、やむ無く彼はこの条件を呑む羽目になる。

 

 ちなみに、このパンター改のカタログスペックは、以下の通りである。

 

全長 8.66m

車体長 6.87m

全幅 3.27m

全高 2.85m

重量 34.7トン

懸架方式 ダブルトーションバー方式

速度 最高時速64㎞(整地)、最高時速38㎞(不整地)、後退時最高時速10㎞

行動距離 220~300㎞

武装 70口径75㎜ KwK42L/70(主砲)、MG34機関銃2丁

砲塔装甲 前面110㎜傾斜11゜、側・後面45㎜傾斜25゜

車体装甲 前面80㎜傾斜55゜(外側から順にRHA20㎜、セラミック装甲20㎜、チタン装甲20㎜、RHA20㎜)、側面40㎜傾斜40゜(外側から順にRHA10㎜、チタン装甲20㎜、RHA10㎜)、後面40㎜傾斜30゜(外側から順にRHA10㎜、チタン装甲20㎜、RHA10㎜)

エンジン マイバッハHL230P30 水冷4ストロークV型12気筒ガソリン(改)、出力848hp

乗員 5名

 

 それはまさに、ロデニウス連合王国陸軍戦車の“新たな時代の幕開け”であった。

 

 

 かくして、ロデニウス連合王国は"釧路"の技術提供を受けて軍備を拡張し、パーパルディア皇国との全面戦争に備えんとしていたのである。




はい、"釧路"もパーパルディアの蛮行と殲滅戦宣言を受けてヤル気になりました。その意志は明確に口に出してはいませんが、彼女の行動を見ていただければ、なんとなくでもお分かりいただけるかと思います。


次回予告。

対パーパルディア皇国の戦争に関し、勝利への戦略を立てる堺。それは、アルタラス王国正統政府やシオス王国、ムー国までもを巻き込んだ大規模なものとなる…
次回「反撃の用意」

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