鎮守府が、異世界に召喚されました。これより、部隊を展開させます。   作:Red October

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はい、いよいよロデニウス連合王国の対パーパルディア戦略が動きだします。



041. 反撃の用意

 中央暦1640年2月15日、ロデニウス連合王国クワ・トイネ州 タウイタウイ島。

 

「ふーむ……」

 

 第13艦隊司令部では、机に並べた何枚もの写真を前にして、堺が唸っていた。

 

「こりゃあ、もしかするとアルタラスはあっさり取り返せるかもな……」

 

 堺が見ているのは、アルタラス島内を撮影した航空写真だった。ディグロッケを装備した独立第1飛行隊が、何日もの間撮影したものである。

 

「まず、こいつらがアルタラスの旧王都ル・ブリアス付近の基地を撮った分か……」

 

 呟きながら、堺は写真のうち何枚かを手に取り、それをまとめて机の上に置く。

 

「んで、こっちはその北にある基地で……」

 

 また何枚かの写真がグループ分けされる。

 

「最後に、艦隊か。2つあるみてぇだが」

 

 最後のグループになった写真には、海と帆船ばかりが写っていた。

 

 分析の結果、アルタラスに駐在しているパーパルディア皇国軍……属領統治軍というそうだが、その兵力は主に4つに大別される。

 まず1点目、アルタラス島の旧王都ル・ブリアスの東側、市街地から少し離れたところに、ワイバーンロードを運用する飛行場が建設されており、その付近に建物が複数存在する。この全てが、パーパルディア皇国軍の基地であろう。

 続いて2点目、ル・ブリアスの北方40㎞の位置に、陸軍の基地が存在する。ただしこちらには、ワイバーンロードの飛行場はない。

 3点目として、ル・ブリアスの港に停泊している戦列艦隊が挙げられる。その数は20数隻。船体の大きさから考えて、大抵は80門か100門級の戦列艦であろう。

 そして4点目、それとは別にアルタラス島東部の港に展開中の艦隊が挙げられる。こちらは、少しずつだがその数を増しつつある、とのことだった。現在はまだ20隻程度だが、複数の輸送船と、1隻だけだが竜母が含まれていることから、侵攻のための兵力であることは確実だった。ただ、その侵攻先については不明である。

 

 ちなみに、パーパルディア皇国の戦力は全て以上の4点に固まっており、ル・ブリアス東側の基地にしても1㎞は離れていることから、幸運なことに人口密集地に基地はない。

 

「北の基地はともかくとして、東の基地なら艦砲射撃で耕せるな……」

 

 堺は呟く。

 ル・ブリアス自体が港湾都市であることからしても、1点目として挙げた東側の基地は十分に艦砲の射程内に入っている。ただ、2点目に列挙した北の基地には、流石に砲撃が届かない。

 最大射程42㎞を誇る46㎝砲を持つ、大和(やまと)型戦艦でも連れて行けば、話は別であるが。

 

「だがなぁ……大和型の投入は、流石にコストパフォーマンスが悪いな。エストシラントの砲撃でもするんなら、話は別かもしれんが」

 

 ぶつぶつ言いながらも、堺は更に頭を回転させる。

 パーパルディア皇国軍が、兵力の極端な集中運用をしているのは好都合だ。これなら、手段を問わず皇国軍を撃滅すれば、あとは“アルタラス王国国民自身の手”で、祖国を取り戻すことができるのではないだろうか?

 

「んー……そんなに甘くはねェかな。……ん?」

 

 その時、陸軍の基地を見ていた堺は、“別の施設”があるのに気付いた。

 それは何かの飛行場らしかったが……パーパルディア陸軍のそれは()の飛行場なのに対して、こちらは明らかに土とは異なる黒っぽい色をしている上に、白線が引かれている。まるで、舗装でもされたかのようだ。

 

(舗装? で、しかも滑走路? となるとこれ……ムーかミリシアルの空港か?)

 

 その瞬間、堺はあることを考え付いた。そして席を立つと、魔信の通信機を取り上げる。

 

(ちょっと外務部に聞いてみるか。ムーが空港をアルタラスに築いていないかどうか、ってことと、もしあるならどこに築いたか、が知りたい。あの空港がもし利用できるなら、もしかするとパーパルディアへの戦略爆撃にも使えるかもしれんし)

 

 そんなことを考えている間に、外務部に魔信が繋がった。

 

「ロデニウス海軍第13艦隊司令の堺です。少々お願いしたいことがあるのですが……」

 

 堺は、外務部とのやり取りを開始するのだった。

 

 

 一方その頃、クワ・トイネ州の一角には、主に国外からの観光客向けに建設された一軒の豪華なホテルがあった。それは、全体的に見てLの字の形をした4階建ての建物で、建築様式としては現代日本では滅多にお目にかかれない「アールデコ調」の建築となっている。ただし、完全なアールデコ調ではなく、畳などの和風様式が混じっているので、()()アールデコ調である。

 このホテルの名は「ラ・ロデニウス」。ロデニウス戦争(クワ・トイネ公国・クイラ王国とロウリア王国との戦争)終結後の中央暦1639年7月上旬に起工し、およそ半年後に竣工、クリスマスを目前にした中央暦1639年12月半ばから営業開始された、豪華ホテルである。

 もしこの「ラ・ロデニウス」を現代日本に生きる廃墟マニアの面々が見たら、きっと歓喜することだろう。

 

 『マヤカンが蘇った』と。

 

 

 マヤカン……そう、「摩耶観光ホテル」である。

 それは、西暦1929年に営業を開始し、しかし時代の流れと自然災害に翻弄され、二度に亘る閉鎖と復活を経て、今や廃墟となって兵庫県神戸市・摩耶山の一角に立つ荒れ果てたホテル。しかし、現代日本では珍しいアールデコ調の建物の美しさから「廃墟の女王」とすら称されるホテル跡である。

 

 

 そのマヤカンそっくりのホテル「ラ・ロデニウス」のある洋風の一室で、ムー国の観戦武官マイラスとラッサンは、先のフェン王国での戦いと、リアスとアイリーンが集めていたロデニウス連合王国の情報について、話し合いをしていた。

 ちなみにリアスもアイリーンも、この場にはいない。リアスはクイラ州の戦車演習場の見学に行っているし、アイリーンは文化調査のためクワ・タウイを訪れている。

 

「マイラス、お前はこのロデニウス連合王国をどう見る?」

 

 まずは、ラッサンがマイラスに質問した。

 マイラスは机に向かって座り、これまでに見た物や考えたことを片っ端からノートに記録していたところだったが、一度その手を止め、ベッドに腰かけているラッサンを振り返る。

 

「技術に関しては、大枠でいえば我が国のそれに似た部分が多数ある。ただ、この国の技術の方が明らかに上だな。

前に乗った『(サカ)()』という船。あれだけを見ても、この国の軍艦の方が優れているのがよく分かる」

 

 マイラスは目を輝かせながら、意見を述べ始める。

 「酒匂」に乗り込み観戦を行うことで、ロデニウス連合王国の力を計り知る。それが、この2人の任務だったが、彼らは揃ってかつてないほどの大きな衝撃を受けていた。

 まず、ロデニウス連合王国の造船技術の高さは、明らかにムー国のそれを超えている。何せ巡洋艦がムー国の最新鋭戦艦より大きいのだ。そして、一度ムー国の港で見たロデニウス連合王国の戦艦「(ハル)()」は、ムー国のラ・カサミ級戦艦を遥かに超える性能と大きさを持っていた。

 それ以外に、ムー国の第一級総合技将の資格を持つマイラスですら見たことも聞いたこともない、「魚雷」という兵器を使用していた。これは、"当てるのが運頼みになる"という欠点はあるものの、命中すれば凄まじい威力を発揮する。複数本を命中させれば、「小型艦が戦艦を撃沈する」なんていうお伽話のような話が、現実のものとなる。

 

 タウイタウイ泊地で閲覧した本によれば、この魚雷を主兵装とする「潜水艦」なる船もあるらしい。自発的に海に潜り、敵艦に密かに忍び寄って魚雷を命中させ、撃沈に至らしめる船。

 そんなものが敵に回ったらどうすればいいのか、マイラスにも想像が付かない。

 しかも同書籍によれば、それ以外に「誘導弾(ミサイル)」だとか「電磁投擲砲(レールガン)」だとかの考えたことすらない兵器も、タウイタウイ泊地が転移する前の世界にはあったらしい。魚雷も、こちらを追尾するものがあるとか。

 

 だが潜水艦はともかくとして、水上艦はよく見ると、ラ・カサミ級のそれに似た基礎技術が使われている。回転砲塔もちゃんとあったし、機関だってどうやら石油か石炭を燃やすようだ。それに彼らも、何隻もの空母を持っているし、「マリン」のエンジンは、タウイタウイから設計図を供与された「九六式艦上戦闘機」のそれとほぼ同じ性能だった。これらのことから考えると、どうやらムーの兵器が取るべき方向性は、間違っていないらしい。

 

 ……問題は、ムー国からすると全く新しい世代の軍艦となる「コンゴウ型戦艦」ですら、ロデニウス連合王国軍においてはかなり()()戦艦であり、ムー国にとっては画期的な戦闘機である「九六式艦上戦闘機」に至っては、ロデニウス連合王国では練習機としてすらも使われていない()()()だということだが。

 

「潜水艦という兵器や、それの接近を探知する方法については、どうすればいいのか想像も付かない。だが、水上艦や大砲・空母・航空機、そして銃については、ロデニウス連合王国は我々ムーのお手本みたいなものだ。

ムーが今後、どのように技術を発展させるべきか、この国が教えてくれると思う」

「そうか。俺は、あの“水雷戦闘”という戦闘方法に驚いている。砲弾が雨霰と飛んでくる中を、距離数百メートルまで接近して魚雷をばら撒く、なんて戦法は初めて聞いた。

あんな頭のネジがどこか吹っ飛んでるんじゃないかと思えるような攻撃を、()()()1()()として平気で行うなんて、俺からすれば正気の沙汰とは思えない」

 

 一呼吸おいて、ラッサンは話を続けた。

 

「はっきり言って、我が国の海軍の艦隊は、パーパルディア皇国の艦隊なら、容易に蹴散らすことができる。だが、ロデニウス連合王国の艦隊を相手にした場合、水上砲戦においてはパーパルディア艦隊よりは多少健闘できるかもしれないが、最終的に負けることになるだろう、と思ってる。

航空戦では、機体性能が違いすぎて勝てる要素が全くない。陸戦でも、あの"戦車"という兵器にどう対処すればいいのか、思い付かん。

今の我々が、ロデニウス連合王国に与え得るダメージといったら、ロデニウスに値段の高い兵器を使わせて、()()()なダメージを与えるくらいだろう」

 

 マイラスも、それに同調した。

 

「全くだ。それに、あの人たちが元々いた世界の技術は、更に()()()()()()になっている。戦闘機が音速を超えるだとか、誘導弾という自動でこちらを追尾する弾があるとか、宇宙空間という星の上の世界から監視する方法だとか、電気と磁気の力で砲弾を発射するレールガンなる代物があるとか。そう、あの人たちがいた世界は、大概の国家が“(いにしえ)の魔法帝国レベルの技術”を持っているんだ。

そんなところから転移した、となると、あの人たちは実は百戦錬磨の強者なのかもしれん。我が国や神聖ミリシアル帝国どころか、古の魔法帝国でも()()()()()()()()()()()()から来てるんだから」

 

 そして2人のムー人は、「「はぁ……」」と2人して溜め息を吐いた。室内がなんともいえない重い雰囲気に包まれる。

 

「しかしだ、ラッサン」

 

 不意に、マイラスが口を開いた。

 

「今回のこの訪問、かなり収穫が多いぞ。兵器が進むべき方向性が見えた。しかもロデニウス連合王国の技術は、我々より少し先を行っているが、我々にも決して真似のできないような代物じゃない。レールガンとか、音速超えの戦闘機は無理だがな。

あの技術を導入し国産品に反映させることができれば、我が国は神聖ミリシアル帝国並みに強くなれるだろう。長期的には、ミリシアルも超えられるかもしれん」

「うん、俺もそう思う。ちなみにグラ・バルカス帝国はどうだ?」

 

 ラッサンが聞くと、マイラスは少し眉を(しか)めた。

 

「分からん。あの国に関しては、まだ情報が少なすぎる。我々やロデニウスと同じ科学文明国家だってことは分かるがな。

ただ、彼らの戦艦グレードアトラスターを見るに、どうやらムーとは50年くらいの技術の開きがあるらしい。それに相手も日進月歩、進化していくだろう。ただ、ロデニウスから技術を導入すれば、その差も埋められるかもしれん」

「そうか……」

 

 マイラスとラッサンの考察は、その後も続けられるのだった。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 少し時が経って、中央暦1640年2月17日午前、ロデニウス連合王国首都クワ・ロデニウス(クワ・トイネ州にある。元々はクワ・トイネ公国の公都クワ・トイネだった都市である)。

 その大使館街の一角にあるムー国大使館を、外務卿のリンスイと堺が連れ立って訪れていた。2人に応対するのは、ロデニウス駐在ムー大使、ユウヒである。

 

「これはこれはリンスイ殿。私が、ロデニウス駐在大使のユウヒです。本日はよろしくお願いします。ところで、そちらの御仁はどなた様でいらっしゃいますか?」

 

 ユウヒの顔には、少し緊張が見られる。

 

「申し遅れました、私は堺と申します。ロデニウス海軍の一艦隊の司令を務めております。よろしくお願い申し上げます」

 

 堺は、丁寧に頭を下げた。

 

「軍人でいらっしゃいましたか、これは失礼しました。それで、本日はどのようなご要件でございますか?」

 

 ユウヒは、少し動揺しているようだ。

 緊張したり、動揺したりするのも無理もない。相手は“自国より強力な技術を持つ”とされる国家である。何を言われるか、分かったものではない。

 

「本日は、ロデニウス連合王国政府から貴国にお願いがございまして、それをお伝えしに参りました」

 

 リンスイは、ゆっくりと話し出す。

 

「何でしょうか?」

 

 更に緊張した様子を見せるユウヒ。

 リンスイは堺をちらっと見て、「あれを」と指示した。堺はすぐに持ってきた鞄を開き、そこから写真を引っ張り出す。その間リンスイは、ユウヒに話を続けていた。

 

「貴国ムーは“世界各地に空港を作っている”と、聞き及んでいます。対外政策の一環だそうですね。そこでお願いなのですが……」

 

 このタイミングで、堺は目的の写真を取り出して、それを机の上に置いた。A4サイズに拡大された、1枚の写真である。

 

「旧アルタラス王国内にあるこの空港について、使用許可をいただきたいのです。それと、この空港がどの程度の荷重に耐えられるのか、その強度限界を伺いたく存じます」

 

 リンスイは、丁寧な口調で説明を行った。そのせいもあってか、ユウヒの表情に少しずつ余裕が戻ってきている。

 

「なっ!? なんと精巧な写真……! これは、航空写真ですか?」

「ええ。堺殿が保有している航空隊に、撮影していただきました」

 

 この時、ユウヒは密かに考えた。

 ユウヒも、一時期だが軍にいたことがあり、そして“外交官として働く者の常識”として、パーパルディア皇国の軍事技術は知っている。()()()()()()()()であれば、パーパルディア皇国領の上空に侵入し、写真を撮影するなど不可能だ。そもそも、文明圏外国だと写真すら知らないことも多い。

 しかしロデニウス連合王国は、ムー人が見てもびっくりするほどの“精巧な航空写真”を撮影してきている。しかも、これを撮った場所はアルタラスであり、パーパルディア領内……ロデニウス側からすると()()である。そんなところで、これほど精巧な写真を撮れるということは、よほどの技術力があると見て間違いない。

 やはり、「ロデニウス連合王国は、パーパルディア皇国どころかムー国をも凌ぐ力を持つ」というムー政府の見解は、正しかったのだろう。

 

「それは真ですか!? いやはや、これほど精巧な航空写真を、敵地の上空で撮影できるとは。貴国はやはり、とんでもない力をお持ちのようですな。我が国でも、こんな精巧な航空写真は撮影できるとは思えません」

 

 ユウヒは相好をすっかり崩した。どうやら彼の緊張は解けたらしい。

 

「この空港は、我々が『ルバイル空港』と呼んでいる空港で、確かに我が国が造ったものです。申し訳ありませんが、細かい仕様はすぐには分かりかねますので、本国に問い合わせる必要があります。それまでお待ちいただけませんか?」

 

 リンスイはこれに対し、「ええ、構いませんよ」と返答した。

 

「ありがとうございます。貴方(あなた)(がた)もご存じだと思いますが、アルタラス王国には、シルウトラスをはじめとした大規模魔石鉱山があります。そこで産出される魔石輸送のため、我が国にはこのルバイル空港に大型の輸送機を発着させる計画がありました。ですのでこのルバイル空港は、それらの大型機の離発着に耐えるよう、相当強く造られていたはずだ、と思います」

「なるほど。では、ある程度重い機体の発着にも耐え得る、ということですか?」

 

 こちらは、堺の質問である。

 

「左様でございます。ちなみに、この空港の所有権についての話になるのですが、お話が少々長くなりますが、よろしいでしょうか?」

 

 ユウヒのこの発言に、リンスイと堺は一瞬、視線を交わし合った。(これは、期待が持てるかもしれない)という合図である。

 それから、リンスイはユウヒに笑顔で返事をした。

 

「ええ、構いませんとも。どうぞ仰ってください」

 

 この返事に、ユウヒも笑顔を浮かべた。

 

「ありがとうございます。

我が国が飛行場を作る場合、まず土地の使用許可と飛行場の建設許可を、“土地を所有する国家”からいただいてから、飛行場を建設します。そして、その飛行場の所有権は“我が国ではなく、飛行場を築いた土地を持つ国家のもの”になります。つまり、アルタラス領内の空港であれば、“アルタラス王国の所有物”となります。

ただ、パーパルディア皇国がアルタラス王国を攻めた際、パーパルディア側から我が国に事前通告がありまして、我が国はそれに基づいて、アルタラス王国内の人員を退避させました。なので現在、アルタラス内にムー国の人員はおりません。また、アルタラス王国が滅亡したことで、この“ルバイル空港の所有権”は『宙に浮いた状態』となっております。今回の場合ですと、飛行場を利用したいのであれば、我が国ムーではなく“アルタラス王国の許可”を得る必要がありますが、アルタラス王国の滅亡により、許可を出せる者がいない状態ですね。

また、飛行場の所有権を有する国家から“許可を得た”のであれば、ムー国は飛行場が“他国に利用されること”については、口出しは致しません。

話をまとめますと、我が国としては、“アルタラス領内にあるルバイル空港を貴国が使用すること”に対して、基本的に()()()()()()()ということです。改造してもらっても構いません、どうぞご自由にお使いください」

 

 なんと、あっさり飛行場の使用許可が得られてしまった。しかも、改造しても良いとまで言われている。

 この説明に、リンスイは少し驚いた様子を見せ、堺は明るい笑顔を浮かべた。そして堺が口を開く。

 

「そのお言葉だけでも、大変ありがたいです。パーパルディア皇国との戦争に関連して、貴国の飛行場を軍事目的で使用する可能性があると、思っておりまして」

「なるほど。そういえば、貴国も飛行機械をお持ちでしたな」

「左様でございます。それと、シオス王国内にある空港についても、“アルタラスのものと同様である”と考えてよろしいでしょうか?」

「シオス王国と仰いますと、ゴーマ空港ですね。ええ、こちらも同じです。シオス王国政府の許可を得れば、ご自由に使っていただいて結構です」

 

 堺は、今や満面の笑みを浮かべていた。

 

「いやはや、ありがとうございます。感謝の極みです。そうだ、“貴国にお伝えすること”がありました」

「伝えたいこと? 何でしょうか?」

「実は今、ロデニウス連合王国では軍上層部で協議が続いておりまして、貴国への“軍事技術の輸出制限の緩和”を検討しております。具体的には、“機関銃と戦車の輸出”を認めるかどうか、というところです」

「何ですと!? それはそれは。是非とも良い方向になることを願っております。そうだ、我が国の技術士官の方から伝言がありましたよ。『全金属製単葉機と軍艦の設計図、ありがたく思います。我が国としては、貴国にテレビ放送の技術を輸出することを検討しております』だそうです」

 

 これには、流石の堺も驚いた。

 

「テレビ放送ですか!? それは非常にありがたいですね。我が国では、まだミリシアルのニュースを映像付きで見ることができませんのでね。是非とも映像通信の技術が欲しい、と思っていたところです。我々と貴国、お互いに得のある取引をしたいものですな!」

 

 こうして、会談は円満かつ順調に終了した。

 

 

 その2日後、リンスイは今度は単身でシオス王国の大使館を訪ね、シオス王国大使と会談を行った。ゴーマ空港の使用許可を得るためである。

 リンスイが話を持ち出したところ、シオス王国は大使を経由して二つ返事で使用許可を出してくれた。シオス王国としても、大東洋共栄圏関係で世話になっているロデニウス連合王国からの要請を、無下に却下する訳にはいかないようだ。

 

 こうして堺は、戦略爆撃の拠点となり得るポイントを、あっさり得てしまったのである。

 ただ堺は、アルタラスの空港については、"「アルタラス王国正統政府」からも……実質的にはルミエスからも、許可を取っておいた方が良いな"と判断していた。そこで堺は、ロデニウス連合王国の外務部に対し、「ルミエスからルバイル空港の使用許可を得て欲しい」と、要請を行った。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 中央暦1640年2月25日朝、ロデニウス連合王国首都クワ・ロデニウス。

 連合王国軍総司令部では、軍務卿ヤヴィンが執務室の椅子に座っていた。本来なら、各軍の上げた報告書を読んでいるはずの時間帯であるが、今日に限ってはそうではない。先約があるのだ。

 もう間もなく、彼が来るだろう……とヤヴィンが考えていた時、コンコンとドアがノックされた。

 

「失礼します。海軍第13艦隊司令の堺です」

「おう、来たか! 入りたまえ」

 

 そう、堺が面会を予約していたのだ。

 ドアが静かに開けられ、堺が「失礼します」と声を掛けてから入ってくる。ヤヴィンは堺に、応接セットのソファーを勧めた。

 ヤヴィンお付きの従兵が紅茶を淹れる傍ら、堺とヤヴィンの話が始まる。

 

「ヤヴィン殿、本日は朝早くから面会していただいて、ありがとうございます」

 

 面会の冒頭、堺は丁重に頭を下げる。

 

「いやいや堺殿、お気になさいますな。朝早くから御苦労である。何か、大事な話があるのであろう?」

 

 ヤヴィンは、軍の総司令官としての貫禄を見せながら、堺に質問した。

 

「ええ。まずは、こちらの書類をご覧ください。大急ぎで作りましたので、見辛ければ申し訳ないのですが」

 

 堺は、鞄から書類を取り出し、それをヤヴィンに差し出す。ヤヴィンはそれを受け取って、まず表紙を見てみた。

 そこそこの分厚さがあるその書類の表題は、「対パーパルディア皇国戦 その戦略について」となっている。

 

「既にヤヴィン殿もお聞きになっていると思いますが、過日我が国はパーパルディア皇国から殲滅戦を宣言されました。これにより、我々はパーパルディアによる民族浄化の危機に晒されているわけでございます。

しかし、これは裏を返せば、こちらとしても手加減をしなくても良くなった、ということです。それは、殲滅戦が宣言された以上、我がロデニウス連合王国とパーパルディア皇国、どちらにも相手から殲滅される可能性が浮上したからです。ここまでは、よろしいですか?」

「うむ。それで?」

「そこで私は、僭越ながら“パーパルディア皇国を倒す”戦略、そしてその前段階となる作戦を考えました。一度見ていただけませんか? そちらの書類に書いてありますが」

 

 言われてヤヴィンは、書類の表紙をめくった。そこには、パーパルディア皇国の現在の予想保持戦力、ディグロッケを有する独立第1飛行隊によって調べられた、パーパルディア皇国本土の基地や都市の分布の様子、そして自軍の戦力が詳細に弾き出されている。

 

「本戦いの最終的な目標は、戦争での勝利? これは、どういうことだ?」

「はい、確かに我々は殲滅戦を宣言されました。しかし私は、軍人が相手ならともかく、“民間人を無差別に殺す”ことに関しては、(いささ)か気が引けます。なので、このように書かせていただきました。

また、ここでいう“勝利”というのは、具体的にはパーパルディア皇国の()()、または“継戦意志の喪失”を意味します。なので、パーパルディア皇国本土への上陸侵攻も検討しています」

 

 いくら殲滅戦を宣言された身とはいえ、堺は流石に“民間人は極力手にかけたくない”と思っていた。その思考が、この書類の文面に表れている。

 ヤヴィンは、眉をしかめながら言った。

 

「つまり、憎きパーパルディアといえども()()()は殺したくない、ということか? なんとも()()ように聞こえるがな。それで、戦略としてはどうするのだ?」

「はい。色々な状況をシミュレーションしてみたのですが、やはり最も良い戦略は、現在パーパルディアの手に落ちているアルタラス島を奪回し、そこを拠点としてパーパルディア皇国本土を攻撃することですね」

「ほう、それは何故だ?」

「理由は4つあります。

1つ目は、陸軍の大規模部隊を駐留させる前線拠点を築く場所が、"アルタラス以外に相応しい場所がない”ことですね。パーパルディア皇国への本土侵攻を行うには、大規模な陸軍部隊が必要です。場合によっては、その陸軍をフィルアデス大陸の奥深くまで侵攻させることが必要となるでしょう。となると、どうしても前線基地が必要になります。

パーパルディアに近い所に国土を持つ国を調べてみると、アワン王国、フェン王国、シオス王国といくつかありますが、『大規模な兵力の駐留』が行えるだけの広い土地がそれらの国にあるかと問われると、どれも“否”と答えざるを得ません。“アルタラス島が最も適している”のです。これが1つ目の理由です」

「なるほど。どうしても陸軍の力が必要になると思われるので、その拠点となる広い土地が要る、ということだな」

「はい。続いて2つ目は、“航空隊の拠点の適地の有無”です。パーパルディア皇国は、人口7千万人を数える大国です。となると、パーパルディア皇国を早期に降伏させるには、同国の継戦能力を奪うと共に、同国の国民の世論に訴えて、厭戦気分を煽るのが最も手早いです。

まず、パーパルディア皇国の継戦能力を奪う方法として、私は『戦略爆撃』という方法を考えました。これは、我が航空隊が擁している航空機のうち、多数の爆弾を搭載できる機体を投入して、敵国の都市や工業地帯・港・軍の基地などを無差別に焼き払う、というものです」

「ちょっと待ってくれ。この計画書にメモを取っても良いか? 聴きなれぬ単語が出てきてな。センリャクバクゲキだと?」

「構いませんよ、どうぞお取りください。『戦略爆撃』と書きます。航空機による爆撃なのですが、その対象となるのは、特に政治や経済の中枢となる都市や、武器の生産を行う工業地帯・軍の基地・港・軍の補給物資の集積所、その他諸々です。敵の継戦能力を奪うことが目的となります」

「ふむ。そうなると、エストシラントも戦略爆撃とやらのターゲットになるということか?」

「そうですね。エストシラントはパーパルディア皇国の首都なので、政治の中枢と言えます。それと同時に、同都市は"第三文明圏の富が最も集まる場所"ともされます。『金のあるところ人と商売あり』なので、エストシラントは経済の中枢とも言えるでしょう。よって、戦略爆撃の重要なターゲットです。

ただし、あの都市はワイバーンの飛行場を持つ陸軍基地によって守られているので、まずはその陸軍基地を破壊することになるでしょう。そして、迎撃能力を奪った後でゆっくり()()()()、というわけです」

「なるほど。では、パーパルディアの東部沿岸にあるデュロも狙い目だな?」

「はい。あそこは工業の中心ですからね。ただ偵察の結果、デュロにも基地がある、ということが判明しています。これを破壊した後か、若しくは基地の破壊と同時並行で、工場地帯を焼く必要があると考えます」

 

 ここでヤヴィンは、疑問を抱いた。

 

「待て。エストシラントは、基地を破壊した後で焼くのではなかったか? なぜ、デュロは基地と同時に工場を焼くことになるんだ?」

「それは、デュロという都市の特異性に理由があります。デュロは工業都市なので、パーパルディア軍が使う武器やその弾薬は、ここで製造されているでしょう。これを先に破壊すれば、パーパルディア軍は武器の供給が行えなくなりますので、継戦能力を()()奪うことになります。そちらの方が効果が大きいので、デュロに住まう人に被害を与えるのは、後でも良いでしょう。

また、デュロに住まう民間人といったら、工員が大半と考えられます。しかしエストシラントは、民間人が多数居住しているでしょう。そう考えますと、『民衆の世論に影響を与える』という観点からも、パフォーマンスが必要になる、と思います」

「パフォーマンス?」

「はい。『我々は、貴様らの軍が厳重に警戒している都市であっても、容易に攻撃できるのだ。そして、我々を迎え撃つ貴様らの軍隊は、もういないのだぞ』というメッセージを持たせ、パーパルディアの世論に絶望を与えるためのものです」

「……何というか、それは“別の意味”で徹底していないか?」

()()()()()はしていないので、何も問題ありません。また、私がかつていた世界には、『恋と戦は路を選ばず』ということわざがありまして、これは恋愛と戦争においてはあらゆることが正当化される、という意味です。なので、全てOKです」

「強引だなぁ……」

 

 ヤヴィンは、呆れたように呟いた。

 

「話が大分逸れてしまいましたので、すみませんが元に戻しますね。要は、戦略爆撃を行うためには大型の航空機を多数投入する必要があり、そのための拠点が必要になる、という話です。また、パーパルディア皇国の国民の世論に訴えて、厭戦気分を煽る手段として、空からのビラ散布を検討しています。こちらにも航空機が必要になりますので、その点からも航空基地が必要です」

「なるほど。それは分かったが、どうやって航空基地を手に入れるのだ?」

「はい、それについてなんですが、先日外務部のリンスイ卿と共に交渉した末に、アルタラス島内のムーの空港を改造して、航空基地として使う許可を得ました。また、シオス王国にあるムーの空港についても同じく、改造の許可を得ております。よって、この2つを使います」

「ほう。では、基地とする場所は確保されているのだな」

「左様でございます。ただ、改造工事が必要になるでしょう。何分2つとも民間向けのもので、軍事運用を想定していないそうなので」

「ま、そこは仕方ないな」

「そうですね。以上が、理由の2つ目です。

3つ目は、港の水深ですね。アルタラスは、『魔導戦列艦』という大型艦を多数運用していたので、水深についてはある程度期待が持てます。しかしその他の国については、水深が分かっていません。なので、時間短縮のためアルタラスを利用したいと思います。これが3つ目です」

「水深か。確かに、我が国の港も掘り返したもんな」

 

 ロデニウス大陸のマイハーク軍港などは、水深と岩のアーチの制約のため、小型艦しか寄港できない。これは仕方ないとしても、港に適した地のいくつかが水深が浅い、ということが発覚していた。そこで、タウイタウイ艦隊は「(くし)()」を投入し、港湾設備の整備のついでに、港を浚渫して水深を深くする工事を行ったものである。

 

「はい。そして4つ目、今後のことです。

現在進行中の『対魔帝戦の切り札』の開発に当たり、アルタラス王国産の純度の高い魔石、もしくはそれの加工品が必要になるでしょう。その魔石あるいは魔法具の取引に関して、他国より有利な条件で商品を得たいからです。いくらなんでも、自国の奪回に尽力した国家に対して、悪いようにはしないでしょう」

「戦争が終わった後を見据えてのこと、というわけだな。分かったぞ」

「ご理解いただき、ありがとうございます。まとめますと、陸軍と航空隊の拠点の確保、港の水深、そして将来を考えて、アルタラスからパーパルディア本土に向かう、という戦略でいきたい、ということであります」

 

 堺のこの説明を受けて、ヤヴィンは壁にかけられた第三文明圏内外の世界地図をちらりと見た。その目が、ロデニウス大陸からアルタラス島へ動き、そこからエストシラントに向かって動いていく。

 

「アルタラスからパーパルディアへ、か。できるか? 堺殿」

「“兵士の練度”次第ですね。兵器に使われる技術としては、陸軍・海軍・航空隊を含む空軍、いずれにおいても圧倒的にこちらが優勢です。しかし、兵器はあくまで“道具”であって、それを使うのは“人間”です。なので、使い手も鍛えなければなりません。

そういう意味において、作戦や戦略の成否は兵士の練度次第であると考えます」

「なるほど。して、アルタラス島奪回作戦はどのようにやるのだ?」

「それについてなんですが、資料をもう少しめくっていただいてよろしいですか? そちらに記載しております」

「ん? どれどれ……」

 

 ヤヴィンは、さらさらと資料をめくってみた。3ページほどめくった先に、「アルタラス島奪回作戦案」と書かれた項目がある。

 

「アルタラス島の、現在における敵戦力の分散についてですが、おおまかに分けて4箇所に集中しています。

1つ目が、ル・ブリアス東方1㎞の地点にある陸上基地。ここには、ワイバーンロードの飛行場もあります。2つ目が、ル・ブリアス北方40㎞の位置にある陸上基地。こちらには、飛行場はありません。3つ目が、ル・ブリアスの港にいる戦列艦隊。そして4つ目が、アルタラス東方に集結中の艦隊です。こちらには輸送船や竜母が含まれており、我が国もしくはフェン王国侵攻のための艦隊と推定されます」

「なるほど。これだけか?」

「はい、敵戦力はこの4箇所に集中しています。具体的な敵戦力の予想数ですが、パーパルディア皇国軍の陸上の歩兵戦力は、2つの基地を合わせておよそ5千人程度と推定されています。それ以外に、飛行場の面積から考えますと約200騎のワイバーンロードが配備されているでしょう。リントヴルムがいるかどうかは不明ですが、いるとみていいと思います。

パーパルディアの海軍は、まずル・ブリアスの港に停泊している艦がおよそ25隻。うち5隻は船体の大きさから考えて、50門以下の大砲しか持たない旧式の戦列艦でしょう。残り20隻は80門級ないし100門級の戦列艦と見られます。また、アルタラス東方にいる敵艦隊については、戦列艦はいずれも80門級ないし100門級の戦列艦と推定されます。また、こちらには竜母が1隻いるので、およそ20のワイバーンロードがいるでしょう」

 

 ここまで一気に説明した堺は、紅茶で一息入れた。

 

「それに対し、我が軍が投入する海上戦力として考えているのは、第1・第2艦隊からそれぞれ重巡洋艦2隻、軽巡洋艦2隻、駆逐艦4隻。第3・第4艦隊からそれぞれ軽巡洋艦1隻、駆逐艦2隻、砲艦4隻。第13艦隊から戦艦7隻、大型空母9隻、重巡洋艦10隻、軽巡洋艦5隻、駆逐艦30隻以上、その他潜水艦9隻、潜水艦に補給を行う潜水母艦が1隻、揚陸艦2隻、それと艦隊への洋上補給を行う補給艦が10隻。それ以外に戦車揚陸艦10隻、旧軍の帆船を改造した輸送船と、ウインク型砲艦を改設計した高速揚陸艦を合わせて80隻投入するつもりです。

陸上戦力のうち歩兵戦力としては、陸軍第2軍団、第3軍団、第4軍団から合計3.5個師団、約4万人を投入します。また第13軍団から戦車第11連隊を、第1軍団から戦車第2連隊のⅢ号戦車N型を40輌規模で投入することを予定します。両部隊を合わせた戦車の数は、100輌を超えるものとなります。

航空戦力は、空母から発進する母艦航空隊だけでおよそ600〜700機。これに戦艦や巡洋艦から発進する多用途水上機『(ずい)(うん)』も加わります」

「おお、これで陸軍の実戦経験を済ませた部隊も増えるということだな。それに加えて、海軍も全艦隊が初陣か」

「はい。それで、具体的な作戦の流れですが、まず哨戒に当たっているワイバーンロードや戦列艦を撃破しつつ、水上艦隊でアルタラス島に接近します。この時の陣立てとしては、輸送船を中心に輪形陣を敷いた艦隊を後方に配置し、そこには戦艦4隻、重巡洋艦4隻を中心とする戦力を配置して、輸送船を守ります。その前方に空母を擁する高速機動部隊を置き、こちらは足の速い戦艦3隻を中心とする戦力で守ります。第1・2・3・4の各艦隊から派遣された艦も、こちらに配備しようと思います。

また、潜水艦は足が遅いので、この艦隊に先行してアルタラスに向かわせ、ル・ブリアス沖に潜伏させておきます。潜水母艦も、防空駆逐艦3隻で守らせて付近の海域に待機させます」

 

 堺はまた、紅茶を一口飲んだ。

 

「そして、アルタラス島に接近次第、空母より発艦させた航空隊でアルタラス島に第一次空襲を加え、パーパルディア皇国の陸軍基地を攻撃します。この時は制空権を確保するため、ワイバーンロードの飛行場があるル・ブリアス東側の基地を優先して攻撃します。これと同時に、潜ませた潜水艦隊をル・ブリアス港に接近させ、魚雷攻撃にてパーパルディア皇国のアルタラス駐留艦隊を全滅させます。

次に、第二次空襲でパーパルディアの陸軍基地を2つとも叩き、できる限りの被害を負わせます。これと同時に、水上砲戦部隊を分離してアルタラスに向かわせ、アルタラス東方にいる艦隊に砲雷撃戦を挑み、これを叩き潰して全滅させます。この海戦には、第1・2・3・4の艦隊から派遣された艦を中心戦力としてあて、第13艦隊はサポートに回ります。空襲については、時間が許せば第三次、第四次と仕掛けることになるでしょう。シオス王国の基地に展開させた基地航空隊からも、空襲を加えようと思います。またル・ブリアス東方の基地には、第13艦隊から艦砲射撃を浴びせて叩き潰します。

その後、輸送船や揚陸艦から陸上部隊を上陸させ、残存のパーパルディア皇国軍をアルタラス統治機構とともに全滅させる、という流れになります。

本作戦の勝率は、99パーセント以上と計算されます。総司令、如何でしょうか」

 

 ヤヴィンは堺の話を聞きながら、作戦計画書にメモを取っていた。堺がちらっと見ると、計画書に付けた地図に新たに矢印が幾つか書き込まれ、「1」とか「2」と数字が付けられている。おそらく攻撃目標の順番を書き込んだのだろう。

 

「うむ……良い作戦だ。これ、そのまま採用しても良いか?」

「構いませんよ。ただ、アルタラス奪回作戦は“作戦名”がまだ決まっていません。また、アルタラス奪回が終わった後のことになるので、今はただの机上の空論なのですが、パーパルディア皇国本土への侵攻計画も、仮称『アサマ作戦』の名で立てています。こちらはアルタラス奪回が終わった後で、詳しくお話することになろうかと思います」

「分かった。いや、ありがとう。堺殿、貴官はやはり優秀な方だ」

「いえいえ、私はただ、自分にできることを全力で考え、実行しているだけですよ。それでは、私はこれにて失礼します」

「あ、待て! 待ってくれ」

「? 何でしょう?」

 

 退室しようとする堺を呼び止め、ヤヴィンはニヤリと笑った。

 

「この作戦の目的は『アルタラス島の奪回』だろう? なら、アルタラス王国人に意見を聞いてみるのが得策だとは思わんか?」

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 翌2月26日、ロデニウス連合王国政府庁舎、外務部のある建物の一角にある応接室にて。

 

「なるほど……」

 

 ロングの黒髪が美しい若い女性……アルタラス王国の王女ルミエスが、ヤヴィンからの説明を受けて呟いた。ルミエスの隣には、例のごとく女騎士リルセイドが控えている。

 

「つまり、アルタラスのパーパルディア皇国軍を撃破し、我が国を足がかりとしてパーパルディア皇国に侵攻する、ということですね」

「左様でございます。パーパルディア皇国軍は、我々が叩き潰します。そこでルミエス殿に、2つお願いがあります。1つ目は、アルタラス領内にあるムーの空港を、我が軍の基地として利用する許可をいただきたい、ということです。そして2つ目は、アルタラス王国産の魔石及びその加工品について、我が国に優先的に売っていただきたい、ということです。以上2点がお願いになります」

 

 ヤヴィンがルミエスに、ロデニウス連合王国からの要請を伝える。

 アルタラス島にあるムーの空港を利用することができれば、「一式陸上攻撃機」の行動半径を考えると、デュロには届かなくともエストシラントをはじめとする皇国南部は、十分に戦略爆撃の作戦行動圏内に入る。現在量産中の「B-29」が前線で運用され始めれば、パーパルディア皇国のどこへでも爆撃が可能となるだろう。

 

「ムーの空港を利用できるのであれば、パーパルディア皇国の皇都エストシラントはもちろんですが、現在配備中の新型爆撃機を使えば、パーパルディア全域が我が軍の攻撃圏内に入ります」

 

 堺が、横から説明を添えた。

 目を瞑って一時考えたのち、ルミエスは目を開けた。

 

「分かりました。我が国が再び独立することができるのであれば、貴国が我が国にあるムーの空港を利用することを許可いたします。基地を造っていただいても構いません。また魔石の取引の件も承知しました。

ですが、我が国の奪回作戦の成功率については、大丈夫なのでしょうか? 私には、それが気懸かりです」

 

 ルミエスがそう言うと、堺がその質問に答えた。

 

「そのことでしたらルミエス様、心配はご無用です。我が軍の軍部の試算では、アルタラス奪回作戦の成功率は99%以上と計算されています。まあ、まず勝てるでしょう」

 

 ルミエスの目から見れば、この時の堺の目には、惚れ惚れするほどの自信が見られた。

 ついにルミエスは不安を押し込み、口を開く。

 

「……分かりました。皆様に、祝福のタスが花開かんことを」

 

 ルミエスはつい、“祖国での幸運を祈る時の言葉”を口にした。

 

「……? タス? 何でしょうか、それは?」

 

 しかし残念なことに、転移してきた身である堺には「タス」という植物は分からなかった。

 すると、これまで黙っていたリルセイドが、ルミエスの代わりに説明してくれる。

 

「“タス”というのは、私たちの祖国アルタラスにのみ自生する、珍しい植物なのです。美しい花を咲かせるんですよ。花言葉は『幸運、良運』です。ですので我が国では、相手の幸運を祈りたい時に“タスの花に幸運を祈る”のです」

「なるほど、左様でございましたか」

 

 堺はリルセイドの説明に納得すると、ヤヴィンの方を向いた。

 

「総司令、アルタラス奪回作戦の名称についてですが、その名称をたった今考えました。

私のいた世界では、花を意味する単語として『フラワー』というものがあります。それとタスを繋ぎ合わせ、『タスの花(タスフラワー)作戦』としては如何でしょう?」

「タスフラワーか。よし、それでいこう。堺殿、卿をタスフラワー作戦の総指揮官に任命する。

本作戦には我がロデニウス連合王国の名誉と、アルタラス王国の運命がかかっている。くれぐれも、よろしく頼んだぞ!」

「はっ! 必ずや、吉報を持って参りましょう」

 

 ヤヴィンに、見事な敬礼で応える堺。

 こうして、アルタラス王国奪回作戦「タスフラワー作戦」は、正式に採用された。




ロデニウス連合王国のホテルをマヤカンにしたのには理由があります。
ロデニウスの現地民の皆さんにも、できるだけ多く建築について学んでもらいたい→しかし、現代日本に多様な建築様式が入った建物などそうそうない→そうだ、マヤカンなら… ということです。

え? それ以外の理由? …うp主がちょっとした廃墟マニアなだけです。


次回予告。

アルタラス奪回作戦「タスフラワー作戦」の実行が決定された。その作戦遂行のため、ロデニウス連合王国軍は出撃準備を開始する…
次回「新たなる戦いの序曲」

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