鎮守府が、異世界に召喚されました。これより、部隊を展開させます。   作:Red October

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総合評価2,200ポイント突破…だと…!?
毎度お読みくださいまして、本当にありがとうございます!!

評価8をくださいましたamano様、龍二様
評価9をくださいましたSety様、T1001様
評価10をくださいましたPionia様、歴戦レンジャー提督様、ももじゅ~す様
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いよいよアルタラス奪回作戦「タスフラワー作戦」、行動開始です。
今回はほぼ2万文字ありますが…まあ、一口ならぬ一読みサイズでしょう。
ごゆっくりどうぞ!



043. アルタラス島を奪回せよ(前編)

 中央暦1640年4月12日、第三文明圏外 パーパルディア皇国属領アルタラス。

 かつてはアルタラス王国という独立国家であり、シルウトラスをはじめとする魔石鉱山から産出する質の高い魔石の交易によって、第三文明圏外でも随一の国力を誇っていた国。

 ここは今、パーパルディア皇国・属領アルタラス統治機構の支配下に置かれていた。

 とはいうが……そのアルタラス王国の首都であったル・ブリアスでは。

 

「お止めください!! 娘は関係ありません!!」

「何を言うか! お前の娘には反政府組織所属員、つまり皇国への反乱分子の疑いがかかっている! 事実かどうかは、アルタラス統治機構で()()()()調べれば分かることだ!」

 

 アルタラス統治機構の職員が1人、若い女性の手を引っ張り連行しようとしていた。それに対し、娘の父親である壮年の男性が言い返す。

 

「しかし! あなた方統治機構は、このル・ブリアスで若い女性ばかり連れていくではありませんか! しかも、その全員が反乱分子の疑いで処刑されている! 全員が有罪なわけがないでしょう!」

「何だと!? それだけ統治機構の情報収集能力が優秀なだけではないか! どけ!!」

「お止めください!!!」

 

 職員が無理やり娘を連行しようとする。父親は娘を連れて行かれまいと、必死に食い下がる。職員は怒りを込めて、手に持った棍棒を父親の頭に振り下ろした。

 娘の父親は頭から血を流し、気を失って倒れる。

 

「いや、お父さん! いやぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 抵抗も虚しく、娘はアルタラス統治機構に連行された。

 こんな光景が連日ずっと続いている。

 

 今まで統治機構に連行された女性で、生きて帰ってきた者はいない。全員が反乱分子と見做され、処刑されている。

 もちろん、彼女たちが反乱分子()()()()()は明白である。

 

 アルタラスの民の間では、「アルタラス統治機構長官のシュサクが変態で、若い女性ばかりを狙って連行させ、散々もてあそんだ後に“口封じ”として処刑している」という噂が流れていた。

 

 そしてその噂、実は本当だった。

 

 長官がこの始末なので、アルタラス統治機構の職員も、現地のアルタラスの民を相手にやりたい放題。

 彼らは自由に街を歩き、美人を見つけると声をかけ、肉体関係を迫る。美人が関係を拒みそうになると、

 

「ほう、お前の家族は()()()()かもしれないな」

 

 この一言で黙らせ、言いなりにさせる。

 金が欲しければ、金のありそうな家に行き、先の一言で金を出させる。

 その癖、重い税金を取り立てる。

 

 こんなのは、()()でも何でもない。ただの搾取である。だが、これが現在のアルタラスの統治ぶりなのである。

 娘が連行されるのを見たアルタラスの民たちは、“今日もまたか”と溜め息を吐き、職員の姿が曲がり角に消えると、辺りに人がいないか見回してから、ひそひそと話し込む。

 その中から、ぱっとしない服装の男が1人、家々の隙間に姿を消したことに気付いた者は、誰もいなかった。

 

 家々の隙間に姿を消した男の正体は、アルタラスの反パーパルディア皇国地下組織のリーダー、「軍長」ライアルだった。彼は目立たない格好の私服を着て、パーパルディア皇国の重要拠点の見回りと、統治機構の警備の様子を観察していたのだ。そこで、あの光景に出くわしたのである。

 

 ライアルは地下組織のアジトに帰還すると、すぐさま地図を引っ張り出し、今日見たものを記録していく。

 統治機構などの敵拠点の警備の数と配置、それらのデータを過去の記録と比較した結果、現在の敵兵力のおおよその数、街での噂など……

 色々なことを書いていると、あの光景が脳裏に浮かんできた。殴られる男、泣き叫ぶ娘の悲痛な顔……。

 

 ライアルは、今でこそ普通の町人だが、かつてはアルタラス王国軍第1騎士団長だった。そのため、アルタラスの民を思う気持ちや正義感は人一倍強い。

 あの時、娘を命を賭けて救おうか、とも考えた。しかし、アルタラスが独立を果たした後にどうしても、自分のような“指揮を執れる者”が必要となる。それにそもそも、今ここで反パーパルディア組織の存在がバレれば、組織の全員が処刑されてしまう。故に、ここで露見するわけにはいかなかった。

 「大義のため」とはいえ、目の前の光景に見て見ぬふりをしなければならないことは、彼にとっては相当に屈辱的であり、彼の心は泣いていた。

 

 ライアルは思わず、左手の握り拳でテーブルの上をドンと叩いた。

 

「くそっ! 今日も胸糞悪いものを見た。

パーパルディアのクソ野郎共、ただではすまさんぞ! 今に見ておれ……!」

 

 ライアルは、静かに怒る。

 ちょうど彼がテーブルを叩いたタイミングで、同志の1人が部屋に入ってきたところだった。同志はぎょっとして立ち止まる。

 

「どうしました!?」

「今日も、統治機構に連れて行かれる娘を見た。早く、あのクソ野郎ども(統治機構)から国を取り戻したいものだ。ルミエス様は、ロデニウス連合王国との交渉には成功したのだろうか?」

「軍長、それに関してちょっといいニュースがあります。こちらをご覧ください」

 

 同志は、ライアルに紙を1枚渡した。

 

「……これは?」

「ついさっき、ロデニウス大陸の方向から発信された魔信を拾ったものです」

 

 紙には、こう書かれていた。

 

『長い夜にも朝は必ず来る。東方より日はまた昇る。苦しみの夜が長いほど、太陽は強く光り輝く。タスの花が開く時、良運は訪れるだろう』

 

 ライアルは、全身の血が沸騰するのを感じた。

 一見すると、何かの詩のようにしか見えないこの文章。だが、アルタラスの民からすると、この文章は強烈な意味を持つ。

 

 アルタラス王国の歴史において、この言葉を最初に使ったのは、かつてアルタラス王国に侵入した強力な外国軍を撃退した、救国の英雄だとされている。

 そして、文章の最後に出てくる「タス」。これはアルタラス島にのみ自生する珍しい植物で、ちょうど今頃、春の季節に花を咲かせる。花言葉はずばり「幸運、良運」。そして、つぼみを付けてからちょうど1()()()で美しい花を咲かせる、という特徴を持つ。

 

 その“幸運の花”に準えた文章が、現在ルミエス様のいるロデニウス大陸から発信された。ということは、今日よりちょうど1週間後に何かが……おそらくアルタラス王国再独立に関わる何かが起こる、ということだろう。

 祖国を取り戻す、チャンスが近付いている。

 

「各部隊に伝達しろ! 今日より1週間後以降、いつでも戦えるよう準備しろと!」

「はい!」

 

 同志は、通信室にライアルの指令を伝えに行く。

 アルタラス再独立の()()が立ち、強い希望が芽生えた。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 その翌日、4月13日。

 ライアルは、ル・ブリアスの一角に立つ小さな酒場に、バーテンとして立っていた。彼の表向きの仕事は、酒場のバーテンなのである。ちなみに、この酒場は酒の保存倉庫として()()()が設けられており、そこに反パーパルディア組織のアジトの1つがある。

 カランカラン、とドアベルの鳴る音。来客だ。

 

 店に入ってきたのは、ライアルの顔馴染みの商人だった。実はこの商人も反パーパルディア地下組織の構成員である。ただ、彼は地下には(こも)らず、情報収集係としてあちこちを飛び回っている。

 

「いつものを頼む」

「畏まりました」

 

 何でもない普通のやり取りだが、2人の間では大量の情報が飛び交う。それは、視線やちょっとした口元の動きなどで表現される。

 

(無事だったか)

(お前こそ。そっちはどうだ?)

(ちょっと情報持ってきたぞ)

 

 こんな感じである。

 と、そこでライアルは、商人が見慣れぬ人物を連れているのに気付いた。ヒト族の若い男性だ。商人の荷物持ちをしている。

 

「おや、お連れさんですか?」

「ん? ああ、こいつは新米の見習い商人だ。結構使えるヤツだぜ。そいつにも一杯、同じのを頼む」

「畏まりました」

 

 彼らは、ライアルの前のカウンター席に座った。

 "いつもの"……ある種のカクテルを作っていると、商人がゆっくり、カウンターに指を這わせるのが見えた。よく見ると、指で文字を書いている。

 

『奴らの狙いはロデニウス。ここに軍を集めてる』

 

 道理で最近、新顔の皇国兵を街で見るわけだ。ライアルはカクテルを渡す時に、商人に向かって小さくウインクすることで返事を返す。

 それからしばらく商人と()()(やま)話をして、様々な情報のやり取りをした。

 その後会計をしている時に、不意に商人が若い男性を振り返る。

 

「今日は気分が良い。新米、チップをお渡ししな」

 

 新米と呼ばれた男はポケットを探って、ライアルに()()()()を差し出した。チップというからにはお金だが…それは、緑色と黒色の縞模様をした、変わった紙で包まれていた。大きさはそこそこ。

 

「いつもより弾んでおくぜ。じゃ、またな」

 

 商人は愛想良く笑って、男性を連れて店を出ていった。

 

(しかしアイツにしては妙だな。いつもより多いって言ったって、何も紙に包まなくても……)

 

 商人の背中を見送った後、そんなことを考えながら、チップだという緑と黒の縞模様の包み紙を解きかけて……ライアルは気付いた。

 

 それは、“緑と黒の縞模様の紙”ではない。

 緑色の紙に黒い字で、「何か」がびっしり書かれているのだ。それが、黒い模様に見えただけなのだ。

 

(これは……?)

 

 今すぐでも読みたかったが、仕事中なのでそれは無理だ。

 取り敢えず後にしよう、と彼は、お金を管理している引き出しの奥にその包みを放り込んで、仕事を再開した。

 

 

 その夜。

 ライアルを始め、アルタラスの反パーパルディア地下組織のメンバー一同は、衝撃と興奮を覚えていた。彼らの前には、2枚の紙がある。片方は大きな白い紙で、もう片方は小さな緑と黒の縞模様の紙……昼間のチップの包み紙だ。

 チップの包み紙の正体は、アルタラス奪回作戦の計画伝達書を兼ねた暗号手紙だったのだ。()(まん)のために句読点が一切振られておらず、小学1年生の作文よろしくひらがなのみで書かれていた上に、文章のあちこちが逆さまになっていたので、解読には一苦労した。だが、暗号解読班の2時間に亘る努力の末、何とか解読に成功した。その内容が、もう1枚の白い大きな紙に書かれている。

 解読された手紙の内容を、漢字と句読点を交えて書くと、こうだ。

 

『はじめましてのご挨拶がこんな形になり、申し訳ございません。私はロデニウス連合王国・アルタラス奪回部隊の司令官、サカイ シュウイチと申します。先ほどは新米商人として、商人の方の荷物持ちをしておりました。

さて、今回ご連絡させていただいたのは、私が実施する予定のアルタラス奪回作戦について、お教えしようと思ったからです。以下がその作戦の全貌になります。貴官らがパーパルディア皇国に対して反乱を企てていることは、商人の方から伺いました。こちらの情報を、お役立てください。なお私は、本作戦の絶対的な成功を確信しておりますことを、最後に申し添えておきます。

ロデニウス連合王国軍アルタラス奪回部隊司令官 堺 修一』

 

 その後ろに、アルタラス奪回作戦の内容が延々と記されている。それによると、どうやら前段階として、アルタラス島のパーパルディア軍に対し、空と海から徹底的な攻撃をかけ、パーパルディア艦隊とワイバーン部隊を全滅させ、パーパルディア軍の陸軍基地も出来る限り破壊する。しかる後、アルタラス島に兵を揚陸し、生き残っているアルタラス駐留パーパルディア軍を滅ぼす、とのことである。

 この前段階の時には、強力な威力を持つ()()()を何発も撃ち込む予定なので、反パーパルディア組織の構成員にあっては、地上には一切出ないで欲しい、と注意書きが付いている。上陸した時には、パーパルディア軍と間違えて撃つことを避けるため、必ずアルタラス王国の国旗を掲げて欲しい、との注意書きもある。

 また、包み紙の裏側には何かの旗とともに、奇妙な絵がいくつも描かれていた。説明書きによれば、これらはアルタラス奪回部隊が使用する兵器の絵と、アルタラス奪回部隊の目印の旗らしい。そしてそこには、神聖ミリシアル帝国のそれに似た軍艦と、神聖ミリシアル帝国とムー国の航空機なる飛行機械を、ハイブリッドにしたような機械が描かれていた。

 

「これは……すごい! このサカイなる人物が率いる部隊は、パーパルディアにも勝てるんじゃないか!?」

「全くだ。まさかロデニウス連合王国が、ミリシアルやムーのそれに匹敵する装備を持つとは……!」

 

 反パーパルディア組織の全員が、静かに興奮していた。

 この暗号手紙によって、いよいよアルタラス奪回の夢は現実味を増していた。そして、その時もまた近付いていた。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

♪推奨脳内BGM:「宇宙戦艦ヤマト2199」から「永遠に讃えよ我が光」♪

 

 時と場所は変わって、中央暦1640年4月18日、ロデニウス連合王国ロウリア州西部 港湾都市ピカイア。

 そこには、パーパルディア皇国海軍の戦列艦なぞ比較にならないような艦艇が多数、集結していた。輸送艦や揚陸艦が沿岸部に並び、兵士や装備を収容し終えて待機している。その周りを駆逐艦が警戒し、沖合では、戦艦や重巡洋艦がその巨大な船体と強力な主砲を、誇らしげに見せ付けていた。その隣には空母もいる。いずれもロデニウス連合王国の国旗と、赤い太陽の旗を掲げていた。ちなみに、この太陽の旗の掲揚は、特別措置である。

 午前8時きっかり、出港ラッパが鳴り響いた。と同時に、

 

「全艦発進せよ! 目標、アルタラス島!」

 

 艦隊総()(かん)「アイオワ」の艦橋で、堺が一言命じた。

 艦隊は順番に動き出し、遥か北西のアルタラス島に向けて出撃していく。アルタラス島にいるパーパルディア皇国軍を叩き潰し、同島を奪回するため、彼女らは行く。

 その編成は、これまでにない大規模なものとなっていた。

 

 

[動員艦艇一覧]

第1艦隊派遣部隊

アイカ型重巡洋艦「アイカ」「アカネ」

ニジッセイキ型軽巡洋艦「ニジッセイキ」「サンセーキ」

カイジ型駆逐艦「カイジ」「キングデラ」

オウギョク型防空駆逐艦「オウギョク」「カイミレイ」

 

第2艦隊派遣部隊

アイカ型重巡洋艦「アキバエ」「アキヨ」

ニジッセイキ型軽巡洋艦「カオリ」「シュウレイ」

カイジ型駆逐艦「クイーンニーナ」「グローコールマン」

オウギョク型防空駆逐艦「ゴールドフィンガー」「シャイン」

 

第1・第2艦隊連合部隊司令官:モース・ブルーアイ中将(第1艦隊司令、元クワ・トイネ公国海軍第2艦隊司令部付武官)

 

 

第3艦隊派遣部隊

ニジッセイキ型軽巡洋艦「シュウギョク」

カイジ型駆逐艦「ゴルビー」「サニードルチェ」

ウインク型砲艦「オーロラブラック」「オリエンタルスター」「キャンベル・アーリー」「キョホウ」

 

第4艦隊派遣部隊

ニジッセイキ型軽巡洋艦「エチゴ」

カイジ型駆逐艦「サニールージュ」「シエン」

ウインク型砲艦「シギョク」「スチューベン」「タカスミ」「ナガノ」

 

第3・第4艦隊連合部隊司令官:コンテ・パンカーレ中将(第3艦隊司令官、元クワ・トイネ公国海軍第2艦隊司令官)

 

 

第13艦隊派遣部隊

戦艦「(こん)(ごう)」「()(えい)」「(はる)()」「(きり)(しま)」「(なが)()」「()()」「アイオワ」(長門と陸奥とアイオワは改、その他は改二)

正規空母「(そう)(りゅう)」「()(りゅう)」「(しょう)(かく)」「(ずい)(かく)」「(たい)(ほう)」「(うん)(りゅう)」「(あま)()」「(かつら)()」「サラトガ」(翔鶴と瑞鶴は改二甲、蒼龍と飛龍は改二。その他は改

重巡洋艦「(ふる)(たか)」「()()」「(あお)()」「(きぬ)(がさ)」「(みょう)(こう)」「()()」「(あし)(がら)」「()(ぐろ)」(青葉のみ改、その他は改二)

航空巡洋艦「()()」「(ちく)()」(ともに改二)

軽巡洋艦「(なが)()」「(せん)(だい)」「(じん)(つう)」「()()」「(さか)()」(川内と神通と那珂は改二、その他は改)

駆逐艦「(むら)(くも)」「(いそ)(なみ)」「(あや)(なみ)」「(しき)(なみ)」「(あさ)(しお)」「(おお)(しお)」「(みち)(しお)」「(あら)(しお)」「(あさ)(ぐも)」「(やま)(ぐも)」「(あられ)」「(かすみ)」「(かげ)(ろう)」「不知火(しらぬい)」「(くろ)(しお)」「(おや)(しお)」「(はつ)(かぜ)」「(ゆき)(かぜ)」「(あま)()(かぜ)」「(とき)()(かぜ)」「(あき)(ぐも)」「(ゆう)(ぐも)」「(まき)(ぐも)」「(かざ)(ぐも)」「(なが)(なみ)」「(はや)(しも)」「(あさ)(しも)」「(きよ)(しも)」「(しま)(かぜ)」(全員が改造済み。なお一部は改二)

揚陸艦「あきつ丸」「(しん)(しゅう)(まる)」(あきつ丸は改造済み)

指揮官:堺 修一中将

 

第101輸送艦隊

ラ・フランス型戦車輸送艦「ラ・フランス」「バートレッド」「マックス・レッド」「ル・レクチェ」「マルゲリット」「ブランデーワイン」「ゼネラル・レクラーク」「シルバーベル」「デュセス・ダングレーム」「ゴーラム」

サトウニシキ型補給艦「サトウニシキ」「タカサゴ」「ユタカニシキ」「ベニシュウホウ」「ガッサン」「ナンヨウ」「ナポレオン」「コウカニシキ」「ヤマガタ」「ベニテマリ」

 

その他、旧ロデニウス大陸各国海軍の帆船を改造した輸送船50隻、ウインク型砲艦改設計の歩兵輸送艦30隻

 

[動員陸軍兵力一覧]

ロデニウス連合王国陸軍第2軍団 1.0個師団

同第3軍団 1.0個師団

同第4軍団 1.5個師団

合計3.5個師団(4万人)

陸軍歩兵部隊総指揮官:リケッタ・パタジン中将(陸軍第4軍団司令官、元ロウリア王国軍総司令官)

 

第1軍団戦車第2連隊 Ⅲ号戦車N型40輌

第13軍団戦車第11連隊 九七式中戦車チハ39輌(内新砲塔チハ20輌、旧砲塔チハ19輌)、九五式軽戦車ハ号25輌

 

 

 実に、大小合わせて艦艇182隻。またこれとは別に、潜水艦9隻をアルタラス島に先行して派遣し、その母艦たる「(たい)(げい)」も、護衛の駆逐艦「(あき)(づき)」「(てる)(づき)」「(はつ)(づき)」とともに先行派遣されている。この4隻は途中で合流する予定である。このため、タスフラワー作戦に参加する戦力は、戦闘艦・輸送艦・補給艦全て合わせて205隻となる。

 以前、フェン王国に侵攻したパーパルディア皇国艦隊に比べると数は少ないが、単艦ごとの戦闘力は、輸送船や補給艦を除けばパーパルディアの戦列艦よりも高い。そのため陸軍部隊や母艦航空隊も合わせると、総合的な戦闘力はパーパルディア皇国軍よりずっと高い、と言える。

 

 パーパルディア皇国軍()()()に、それも属領アルタラス統治軍に対して、オーバーキルすぎやしないかって?

 確かにその通り。しかし、堺の戦術・戦略ドクトリン第1は、「確実な勝利を得るために、原則として少なくとも敵の6倍の兵力を揃え、補給と整備を完全に行い、戦場に在っては情報伝達を密なものとする」なので、堺はこれでよしとしたのである。消費した資源? クイラ州という、原油が間欠泉になって溢れている上に鉱産資源をバンバン産出する資源チーターがいるから、ちょっとくらいへーきへーき。

 

 艦隊を一目見ようと、朝早くから押しかけていたピカイアの住人たちは、質量ともに凄まじい規模を持つこの艦隊を、期待と希望とを持って見送る。

 その群衆の中、アルタラス王国の王女……本作戦成功の暁には次期女王となるルミエスもまた、出撃する艦隊を見詰めていた。

 彼女は、こんな艦隊にお目にかかったことはない。おそらくだがあの艦隊は、パーパルディア皇国の艦隊を遥かに凌ぐ力を持っている。作戦司令官の堺という人も、「まあ、まず勝てるでしょう」と断言していた。

 だがそれでも、ロデニウス連合王国は()()()()()()()であることに変わりはない。対して、パーパルディア皇国は列強。同じく第三文明圏外国家だった祖国は、パーパルディア皇国にひとたまりもなく捻り潰された。一抹の不安は拭い切れない。

 ルミエスは両手を胸の前で組み、目を閉じて彼らの無事を祈る。

 

(アルタラスの神よ、あの方々をどうかお守りください…)

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 さてその翌日、中央暦1640年4月19日 午前11時、アルタラス島から東南東50㎞の沖合。

 パーパルディア皇国の竜騎士アビスは、相棒のワイバーンロードを飛ばして、アルタラス島南東海域を哨戒飛行していた。

 空は雲がかかっており、空気は少し肌寒い。

 

 島国だったアルタラスは、既に皇国のものとなり、目立った反乱も今のところない。

 祖国たるパーパルディア皇国は、アルタラス島から北へ500㎞ほどのところにある。南は、海を挟んで文明レベルの低い蛮地。そして、アルタラス島から東南東へ600㎞ほどのところに、ロデニウス大陸がある。

 ロデニウス大陸は現在、ロデニウス連合王国によって支配されており、同国は祖国に宣戦を布告しているとのことだった。だが、ロデニウス大陸は文明レベルの低い()()。アルタラスにまで、ロデニウス連合王国の軍が来るとは思えない。

 

 百歩譲って、仮にロデニウス連合王国軍がこのアルタラスに攻めてきたとしても、皇国皇軍どころか属領統治軍にも到底勝てない。

 文明圏外の蛮族ごときが、属領統治軍も含めて“栄えあるパーパルディア皇国皇軍”に勝てるわけがない。皇軍は、ほとんど常にどこかの国と戦争をしているため、軍の配置は平時も戦時もほぼ変わらない。そんな万全の態勢にある皇軍を蛮族が攻撃したところで、蛮族の死体の山ができるだけだ。

 よって、この海は平和であり、今日の任務もいつもと変わりなく、()()()()()終わる。

 アビスは、そう思っていた。

 

 ()()()までは。

 

 何の気なしに下を見下ろした、その時。

 アビスの目は、雲の隙間から見える海面に、多数の白い線が引かれているのを見た。

 

(船の航跡か?)

 

 彼はすぐさまワイバーンの手綱を引き、相棒を急降下させる。

 海面が近づくに従って、それは複数の船の航跡であることがはっきりしてきた。が、問題はそこではない。

 航跡の引かれる方向から見て、多数の船は間違いなくアルタラス島に向かっている。それらの船は、どれもとても大きい。皇国の戦列艦を遥かに凌ぐ大きさだ。さらに、どの船にも巨大な魔導砲が載せられているではないか。

 そしてどの船にもロデニウス連合王国の国旗と、見た事のない赤い太陽を描いた白い旗が掲げられている。

 

「ま……まさか!」

 

 彼は通信用の魔法器具に手をかけ、報告しようとした。……しかし、遅すぎた。

 それらの船のうち、特に巨大な船の1隻がチカッと光り、少し遅れてドン!という音が海上に響く。

 その音が耳に響くとともに、アビスの乗る騎は爆炎に包まれ粉々にされた。同時に、彼の意識は一瞬で消滅した。

 アビスの接近は、各艦の対空レーダーによってとっくに感づかれていたのだ。そして、戦艦「アイオワ」の「5inch連装両用砲Mk.28 mod.2」から発射された近接(VT)信管付き対空砲弾の爆発により、アビスはワイバーンロードごと砕け散ったのである。

 

 

 その5分後。

 アルタラス島南東35㎞の海上を、パーパルディア皇国国家監察軍に所属する戦列艦が5隻、航行していた。30門級の戦列艦が3隻、50門級の戦列艦が2隻。海上哨戒中なのである。

 50門級戦列艦「ヒデル」に乗船している哨戒艦隊司令官にして、「ヒデル」の艦長も兼任しているダースは、首を傾げていた。

 先ほど、付近を哨戒飛行中の竜騎士が何かを言いかけ、その直後に魔信が途絶した。更に魔力反応も消えているそうだ。

 この騎士が消息を絶った場所は、この艦隊の近くである。いやが上にも緊張が高まる。

 

「司令! 水平線上に()()捕捉! こちらに向かって来ます!」

 

 見張りの声に、ダースは水平線の方を見る。微かに黒い点が見える。その数は4。

 すると、その黒い点は一斉に向きを変えた。そして艦隊の遥か前方で、数字の「8」を横に倒したような形の動きを取り始める。「∞」という字の形のような動き、と言う方が分かりやすいか。

 

「何をする気だ?」

 

 初めて見る動きに、ダースは理解に苦しむ。

 騎は尚も、∞の字様運動を続ける。その時、どこからかグオオォォ……という低音と、ヒュルルルルルヒュイーンという甲高い音が、入り交じって聞こえてきた。

 

「何の音だ、これは?」

 

 ダースが呟く間に、音はどんどん大きくなる。

 次の瞬間、ダースの乗る戦列艦「ヒデル」は、他の4隻ともども多数の水柱に包み込まれた。ズズーン! という重々しい水中爆発の音に混じって、明らかにそうした水中爆発音とは異なる爆発音が5つ。そして、巨大な赤い火柱が5本、白い水柱に混じる。

 水柱が収まった時には、戦列艦5隻は影も形も残っていなかった。

 

 

 そう、日本海軍が研究していた、戦艦同士で戦う時の得意戦法、弾着観測によるアウトレンジ射撃である。

 

 まず、「陸奥」と「霧島」、「榛名」から発進した「零式水上観測機」と、「アイオワ」の「OS2U(キングフィッシャー)」により、敵艦の位置情報を送ってもらう。この時、各艦より発進した観測機は、「∞」の文字の交点がちょうど敵艦隊に命中すると計算される位置と高度を示すように飛ぶ。

 そして、これらの機体から送られたデータを全戦艦にリンクし、照準を合わせた後、一斉に砲撃したのである。

 

 これにより、ダースの艦隊はほとんど水平線の向こうから砲撃される形となった。そして、対魔弾鉄鋼式装甲もろくにない戦列艦が、直径35.6㎝以上の大型砲弾を受けて無事に済むはずがなかったのである。まあ、対魔弾鉄鋼式装甲があったところで、結果は同じだろうが。

 こうして、誰に殺られたのか知ることもできずに、ダースたち哨戒艦隊の乗組員は、人知れず艦ごとこの世から消し飛ばされたのだった。

 

 

 さらに1時間後、4月19日の昼12時ジャスト。

 パーパルディア皇国の属領アルタラス統治軍司令官・陸軍中将リージャックは、午前中の職務を済ませ、昼飯は何を食おうか、と考えながら、かつてのアルタラス王国の首都ル・ブリアスの東方に築かれたハイペリオン陸軍基地司令部の屋上に立ち、ル・ブリアスの方を眺めていた。

 基地には、特に問題と見做される報告は入っていない。

(言い換えると、ダースらの哨戒戦列艦隊が消息を絶ったことは、誰も気付いていない)

 

 アルタラス王国を攻めたパーパルディア皇国皇軍は、同国を占領した後、東を攻めるために転進していった(そして、その転進先のフェン王国で全滅に追い込まれている)。アルタラス軍は武装解除されたため、時々発生する反乱を鎮圧するための、属領統治軍だけが残されている。

 ル・ブリアスの港には、戦列艦20隻が停泊しており、またル・ブリアスから東にちょっと行ったところに「ハイペリオン基地」という陸軍の基地が築かれ、兵士2,000名と航空戦力たるワイバーンロードが200騎、配属されている。それ以外に、ル・ブリアスの北約40㎞にも仮設の陸軍基地があり、こちらにも兵士2,000名が配属されている。それに加えて、地竜リントヴルムが20頭。

 それらとは別に、ロデニウス連合王国攻略作戦のため、ここに集結しつつある皇軍が、戦列艦155隻、竜母12隻、輸送船70隻、兵士計70,000人。この数がこの島にいる。だが、まだ集結途中だ。加えてこれらの侵攻艦隊は、ル・ブリアスとは別の港、アルタラス島東部の港にいる。

 

「司令。明日、皇軍から新たに戦列艦20隻と、輸送船15隻が到着します」

 

 ちょうどそこへ、軍幹部の1人が報告に来る。

 

「うむ、そうか。分かった。ところで……」

 

 ちょうどいい話し相手ができた、とリージャックはその幹部に話しかける。

 

「フェン王国を攻めていた我が軍は、ほとんど全滅したそうだな。いったい何があったんだ?」

「分かりません。皇軍が敗北したなど、今でもまだ信じられませぬ。敵は、何千もの『数』で攻撃してきたのではないでしょうか?」

 

 読者諸賢の皆様はもうお分かりのことと思うが、この幹部の推測は完全にハズレだとしか言い様がない。

 

「いや、例え敵が文明国の船団で、数千隻の規模を以て、今回フェンに派遣された皇軍に攻め寄せたとしても、多少の損害と作戦自体の遅延はあり得るが、ここまでの被害が出るとは思えん。今回の戦い、何かがおかしい。まさか……」

 

 リージャックの顔が、悲壮感に包まれる。幹部は次の言葉を待ち、ゴクリと生唾を飲み込んだ。

 そして、続くリージャックの言葉。

 

 

 

 

 

「まさか……ムーか?」

 

 

「そ、そんな!」

 

 リージャックの言葉に、衝撃を受ける幹部。

 ムー国といえば、第二文明圏最強の国家にして、世界五列強の2番手だ。パーパルディア皇国よりも、強大な力を持つ国家である。

 ムー国は、パーパルディア皇国からは非常に遠いので、軍が直接ぶつかる可能性は低い。だが、もしぶつかった場合、非常に強力な相手となる、と分析されている。

 実はそのムー国が、今回の相手であるロデニウス連合王国と国交を結んでおり、観戦武官をロデニウス連合王国に派遣している、という噂が皇軍内に流れている。真偽は定かでないが。

 

「いや、まさかな。第一、ムーからここまで遠過ぎるし、ムーが軍を送り込む可能性は低かろう。何にしても、ここアルタラスは本国からも比較的近く、フェン王国からは遠い。敵がここに来る可能性は低いだろう」

 

 ここで話は途切れ、2人は再び港を見下ろした。

 見る者に威圧感を与える100門級戦列艦5隻と、80門級戦列艦15隻が、誇らしげに停泊している。この20隻は、文明国の船と比べても比類なき力を持つ船ばかりだ。

 

「美しいな」

 

 フィルアデス級100門級戦列艦「スパール」の船体を眺めていたリージャックがそのような感想を口にした時、唐突にそれは起こった。

 

♪推奨脳内BGM:「艦隊これくしょん」から「全艦娘、突撃!」♪

 

 戦列艦「スパール」は、艦体右側面を沖合に向けて停泊している。その「スパール」の右舷に、突然巨大な白い柱が突き立ったのだ。1つ、2つ、3つ。

 

ズズゥゥゥゥゥン……

 

 少し遅れて、鈍い音が響く。

 白い柱は瞬く間に赤い柱に変わり、そして戦列艦「スパール」は大爆発を起こした。「スパール」の巨大な船体が真っ二つにへし折れ、船体を構成する部材の破片と乗組員たちを巻き込んで、あっという間に水面下に没する。

 

「何だ!? 事故か?」

 

 リージャックと軍幹部は驚いた。

 しかしその直後、「スパール」の隣にいた3隻の80門級戦列艦に、3隻同時に白い柱が突き上がる。やっとこの時、彼らはその白い柱が水柱であることを理解した。

 既にその時には、80門級戦列艦は3隻とも赤い火柱を上げて大きく炎上しており、更に別の100門級戦列艦が水柱を受けて真っ二つになっている。これでやっと、リージャックらは何が起きているか理解した。

 

「て……敵襲! 敵襲だ!!」

 

 理解したはいいが、時既に遅し。

 港に停泊していた戦列艦は、陸に近いところにいた数隻の他は全て沈没してしまった。しかも、敵の姿はどこにも()()()()

 当たり前だ。敵であるロデニウス連合王国海軍第13艦隊・潜水艦部隊は、水中から攻撃しているのだから、見えるはずがないのだ。

 しかも、この潜水艦部隊が使ったのは()()()()()。そう、「大威力・高速・長射程・無航跡」という、トンデモ威力のステルス魚雷、酸素魚雷なのである。そりゃあ見えるわけがない。

 

「おい、早く本国に伝達しろ!」

「はっ!」

 

 幹部は、慌てて駆け出していく。

 それを見送るリージャックの耳に、妙な音が聞こえはじめた。それは、ブーンという低い音。

 

「何の音だ?」

 

 呟きながら、リージャックは周囲を見渡して、ぎょっとした。

 青空の一角を真っ黒に染めて、()()の群れが近づいてくる。凄い数だ。おそらく、400は余裕でいるだろう。

 

「ま、まずい! ワイバーン隊、早く上がってくれ……!」

 

 リージャックは祈るように呟く。もう昼飯どころではない。敵襲だ。

 しかし、リージャックのその願いも虚しく、敵機はワイバーンロードより圧倒的に速いスピードでアルタラス島上空に接近し、総攻撃を開始した。

 先頭を切って突っ込むのは「(すい)(せい)」艦上爆撃機。どの機体にも、垂直尾翼に「601」の数字が描かれている。

 その「彗星」が次々と機体を翻して、3,200メートルの高空から港に停まったままの数隻の戦列艦に急降下する。そして、高度500メートルで引き起こしをかけると同時に、抱えてきた500㎏爆弾を投下した。

 避ける暇もなく、残り数隻の80門級や100門級の戦列艦は直撃を受け、全艦が弾薬庫に引火して木っ端微塵に吹き飛ぶ。これで、アルタラス駐留艦隊は1隻残らず沈没した。

 更に残った「彗星」が、今度は基地に500㎏爆弾を叩き付ける。建物が轟音とともに炎上しながら倒壊し、ワイバーン飛行場の滑走路には大穴が開く。その上、飛び立とうとしたワイバーンロードは、飛び立つ前に「試製(れっ)(ぷう) 後期型」の機銃掃射に倒れた。

 続いて、低空に舞い降りた零戦(こちらも垂直尾翼に601の数字がある)と「F6F-3 ヘルキャット」が機銃掃射をかけ、屋外にいたパーパルディア軍兵士を撃ち倒す。果敢にもマスケット銃を空に向け、零戦を狙って撃つ者もいるが、全く抵抗にならない。

 

「くそ! ありゃ飛竜じゃない、飛行機械だ!」

 

 リージャックは建物内に避難しながら、窓の外を見て罵る。

 

「おい通信兵! “未確認の()()()()に攻撃されている”と本国に言え! 急げ!」

「はっ、はい!」

 

 通信室に飛び込んだリージャックは、直ちに通信兵に命令する。

 その間にも敵機は空を飛び回り、皇国の基地の建物は次々と破壊され続けていた。爆弾に混じって機銃掃射が飛び交い、窓ガラスが叩き割られる。

 じきにここにも爆弾が降ってくるだろう。急いで通報して、援軍も求めなければ。

 と、その時。

 

……ゥゥゥゥウウウウウウー!

 

 飛行機械の音や爆発音とは違う、甲高い音が降ってきた。それも、天井の方から。

 

(上?)

 

 リージャックは、窓から身を乗り出して外を見て……気付いた。

 

 建物の上空、翼を広げてまっすぐこちらに急降下してくる飛行機械。そいつは、他の飛行機械と違って脚が突き出ており、また損傷したわけでもないのに、翼が奇妙に折れ曲がっていた。

 

ウウウウウウウウウーーー!!!!

 

 さっきとは別次元のレベルで高まる音。まるで、訓練の時に聞いた、ムー国製のサイレンとかいうもののような音。

 瞬間、リージャックは悟った。()()()()()()()

 

 自分の運命を。

 

「報告完了!」

 

 通信兵が叫ぶ。

 その直後、彼らは「Ju87C改(Rudel Gruppe)」の隊長機が投下した1トン爆弾により、建物ごとこの世から存在を抹消された。

 

 

 一方その頃、アルタラス島東の沿岸部では、集結していたパーパルディア皇国海軍の再建中の第4・第5艦隊が、ロデニウス連合王国艦隊による猛烈な攻撃を受けていた。

 パーパルディア皇国側は戦列艦155隻と竜母12隻。対するロデニウス連合王国側は、第13艦隊・第3戦隊第2小隊の戦艦「比叡」と「霧島」、第6戦隊の重巡洋艦「古鷹」、「加古」、「青葉」、「衣笠」。それと、第1・2・3・4艦隊を合わせた重巡洋艦4隻、軽巡洋艦6隻、駆逐艦12隻、砲艦8隻。

 ただし、実質的に戦っているのは第1・2・3・4艦隊だけで、第13艦隊はサポート程度にしか砲撃していない。何故かというと、第13艦隊は他の艦隊の所属艦艇に“実戦を経験させる”ことで、実戦教育を行おうとしているからだ。だから、わざとサポート程度にしか動いていないのである。

 ちなみに艦隊の上空では、空母「飛龍」の「零式艦戦53型((いわ)(もと)隊)」と「大鳳」の「烈風(601空)」、そしてシオス王国のゴーマ飛行場から駆け付けた「(はやぶさ)」戦闘機隊が、ワイバーンロード隊との間でドッグファイトを繰り広げている。

 

ドガァァァァン!

 

 また1隻、パーパルディア皇国のフィシャヌス級100門級戦列艦が被弾し、見る間に炎の塊と化す。と思う間もなく、その戦列艦は凄まじい火柱を天高く噴き上げ、船体を二つにポッキリ折って、あっという間に海面下に消えた。

 そして空からは、細切れの肉片にされたワイバーンロードが次々と落下してくる。ワイバーンが戦闘機に勝てるはずもなく、パーパルディア軍の被害は拡大する一方だった。

 

「戦列艦テルミナ被弾、爆発轟沈!」

 

 艦隊旗艦の艦橋では、通信士が悲鳴のような報告を上げる。

 

「くそっ! 奴ら何なんだ!? あんなに巨大な軍艦を持つなんて……」

「しかも、射程距離は少なくとも8㎞だ! 我が軍の4倍はあるぞ!」

 

 パーパルディア皇国の兵士たちは、これまでとはあまりにも勝手の違う戦闘に、唖然としていた。

 文明圏外国はもちろん、文明国に対しても、自分たちは有利に戦えている。射程2㎞の魔導砲で、相手の射程に入る前に、一方的に叩く。それだけである。

 

 しかし、今回はどうだ?

 

 こちらの戦列艦隊の魔導砲が全く届かない距離から、敵は砲弾を発射してくる。しかもその砲弾は、戦列艦を一発で撃沈できるだけの威力があり、命中率も100パーセントではないものの圧倒的なまでに高い。敵の練度は明らかに、皇国の主力軍を超えている。

 しかも、こちらは「風神の涙」を全開で使用しているにも関わらず、敵の艦隊に全くついていけない。それはつまり、敵の方がこちらの船よりも速度が速い、ということを意味する。

 

 ロデニウス連合王国という“文明圏外の蛮国ごとき”に、少なくとも攻撃力と速度、それに練度で上回られている。

 それは、パーパルディア皇国軍にとって初めてのことだった。

 

 一方、

 

「うおおおお!」

 

 ロデニウス連合王国第1艦隊の駆逐艦「オウギョク」の艦橋では、歓声が上がっていた。

 

「こんなちっぽけな船だけど! 我々は! あのパーパルディア相手に! 戦えるぞ!」

「ええ。しかも、パーパルディアのほうが押されている! こんな愉快なことがありますか!」

 

 艦長も副長も、興奮していた。

 それはそうだろう、これまで全く勝ち目がないと思っていたパーパルディア皇国軍が、今や面白いように撃沈されて負けているのだから。それも、文明圏外のロデニウス連合王国軍に。

 「オウギョク」自身も、10㎝高角砲の砲門数と連射性に物を言わせて、単独で100門級戦列艦を2隻沈めているし、更に他艦との共同戦果で少なくとも10隻を撃沈破している。

 

「撃て撃て! タウイタウイの連中の厳しい訓練に比べたら、こんなの演習以下だぞ! 1隻残らず沈めてしまえ!」

「はい! 全門、撃ち方続けろ!」

 

 艦長と副長の指令。そして、オウギョクの10㎝連装高角砲4基は火を噴き続ける。

 

 

 戦闘開始から30分後、パーパルディア皇国軍のロデニウス連合王国派遣艦隊のうち、既にアルタラス島に集結していた戦力は、一隻残らず全滅した。ロデニウス連合王国の第1・2・3・4艦隊は、初陣にも関わらずあのパーパルディア艦隊に戦いを挑み、損害ゼロで敵を殲滅するという、輝かしい圧勝を飾ったのだ。

 パーパルディア皇国側にとって唯一の救いといったら、「敵は太陽の旗を掲げたロデニウス連合王国の艦隊である。敵艦は回転砲塔を装備している」と本国に通報できたことだろう。

 

『こちらロデニウス海軍第13艦隊、第三戦隊旗艦比叡。先の戦、見事なり。在アルタラスパ皇軍に対し、これより砲撃を開始する。対空警戒を頼む』

「こちらアイカ、了解」

 

 

パーパルディア皇国・第二次フェン王国派遣艦隊(アルタラスに集結済みのもの)、全滅。

 

 

 ロデニウス連合王国の艦隊は、アルタラス島を包囲するように展開し、その日1日アルタラス島の駐留パーパルディア皇国軍に執拗な空爆と機銃掃射と艦砲射撃を繰り返した。この日だけで、皇国のル・ブリアス東方基地は全滅し、陸軍中将リージャック以下約1,800名が戦死。また、ル・ブリアスの北方40㎞の位置にある陸軍基地も壊滅し、約1,650名が戦死した。その他、アルタラス統治機構の建物にも小規模ながら爆撃が行われ、職員70名余りが死亡、負傷者も多数出てしまっていた。

 更に、陸上基地のワイバーンロード隊200騎も、竜母のワイバーンロード隊も根こそぎ全滅し、リントヴルムのいた竜舎も友永隊の800㎏爆弾で完全に破壊され、リントヴルムも全滅に追い込まれていた。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 一方、海を挟んだパーパルディア皇国本国、皇都エストシラントでは。

 

「なっ、何だと!?」

 

 皇軍最高司令官アルデが、飛び込んできた報告に度肝を抜かれていた。

 

『敵性飛行機械がアルタラス島を襲撃。国籍不明』

 

 これがまず第一報。これに続いて、

 

『敵大艦隊、アルタラス島に襲来。敵はロデニウス連合王国軍と認む』

『ロデニウス連合王国派遣艦隊、全滅。敵の砲の射程は我が軍の4倍、威力は戦列艦を一撃で沈める程度。なお敵艦は、回転砲塔を装備していると見られる』

 

 以上が、これまでに入ってきた報告である。現地では今も、戦闘が続いているようだ。ちなみに受信時刻は13時30分。

 この時、アルデは考えた。

 報告には、「飛行機械が襲ってきた」とある。そして、軍艦が回転砲塔を装備しているとも。

 パーパルディア皇国が把握している限り、飛行機械や回転砲塔を持つ軍艦を作れるのは世界五列強のツートップ、神聖ミリシアル帝国とムー国だけだ。

 そして、パーパルディア皇国が把握している限り、ロデニウス連合王国と国交を結んでいるのはムー国だけである。

 

 ということは…ロデニウス連合王国は、列強ムー国から軍事支援を受けている可能性が()()()ある。

 しかもムー国は、これまで一切やってこなかった「自国の武器の輸出」までしているらしい。

 

 つまり……この可能性が当たっていれば、アルタラス島攻撃のために、ロデニウス連合王国が用いている兵器はムー国製のものである、ということになる。

 

 アルデは以前に見た、各国の兵器の資料(もちろん極秘資料)を思い出す。そこに載っていたのは、ムーの最新鋭戦艦ラ・カサミ級だ。そのスペックが以下の通り。

 

全長 131.7メートル

全幅 23.2メートル

排水量 15,140トン

速力 18ノット

武装 30.5㎝連装主砲2基4門、15㎝単装副砲14門他

 

 パーパルディア皇国の常識から言うと、はっきり言って()()()()。これが、ラ・カサミ級に対するアルデの認識である。

 パーパルディア皇国の船では、例えフィシャヌス級100門級戦列艦であっても勝ち目がない。特に主砲の破壊力は想像を絶する。パーパルディア皇国の戦列艦には、これほどの巨大砲は載せられないし、それにパーパルディア皇国の戦列艦は最大速力12ノットだから、絶対に追い付けない。

 戦闘機にしたって脅威だ。ムーの最新鋭戦闘機「マリン」は、最高時速380㎞の速度に加えて、ワイバーンロードすら上回る機動性を持つ。数に差があるならともかく、同数だと航空戦力でも勝ち目が薄い。現在少しずつ配備が始まっている新型の飛竜なら、話は別だが。

 

「ちくしょう! ムーめ、なんでロデニウス連合王国なんかに肩入れを……!」

 

 アルデは、頭を抱え込んだ。

 

 ……実際には、ムーはロデニウス連合王国と国交こそ結んでいるが、従来通り兵器の輸出はしていない。全ては、日本国海上護衛軍タウイタウイ泊地艦隊が原因である。

 なので、ムー国にしてみればとんだとばっちりである。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 その頃、アルタラス島西方350㎞の海上を、1隻の帆船が北上していた。しかし、その船脚は遅く、よく見ると何やら白煙を噴いている。不調を起こしているのは間違いない。

 船の全長はおよそ130メートルもあろうか。木造帆船としては非常に大きい。また船の甲板には、マストと船体右後方に申し訳程度に付けられたブリッジ以外に、構造物が見当たらなかった。

 

 この船の名は、竜母ヴェロニア。パーパルディア皇国の最新鋭竜母にして、ワイバーンロードの改良種「ワイバーンオーバーロード」を飛ばすための母艦である。まだ試験中だが。

 

 ワイバーンは長年、この世界において空の覇者とされていた。それはパーパルディア皇国にあっても例外ではなく、そのワイバーンを改良して、生殖能力を喪失した(一代限りである)代わりに空戦能力を高めた、ワイバーンロードを使用している。

 しかし近年、ムーが「コウクウキ」なる飛行機械を前線に投入したことで、ワイバーンロードの優位性が失われつつあった。そして今回、ムーが「マリン」という新型機を登場させたことで、ワイバーンロードの優位の喪失は決定的となる。マリンは最高時速380㎞とワイバーンロード(最高時速350㎞)より足が速く、またワイバーンロードを上回る機動性に、ワイバーンロードの鱗を貫通する「機銃」で武装していたのだ。

 

 この状況を打開すべく、パーパルディア皇国はその高い魔法技術を駆使して、ワイバーンロードの品種改良に乗り出し……何とかこれを成功させた。

 それにより産み出されたのが、ワイバーンオーバーロード。最高時速430㎞で飛び、ワイバーンロードを超える機動性を持つ。これがあれば、マリンにも対抗できる、とされていた。ただし攻撃方法は、やっぱり火炎放射か導力火炎弾である。

 加えて、このワイバーンオーバーロードには大きな欠点がある。

 まず、生み育てるのに大変な手間とコストがかかる。ワイバーンオーバーロードは、強力なワイバーンロードを産む親竜を厳選し、その卵を新開発の強化魔法陣の上で孵化させなければならないのだ。

 この魔法陣の維持に多大な魔石を要するのと、ワイバーンロードを産む親竜そのものを用意するコストもあるため、何とワイバーンロードの3倍もの費用がかかる。これは、流石に列強パーパルディア皇国といえども、出費が重い。

 しかも、ワイバーンオーバーロードからは生殖能力が完全に失われているので、この方法以外でワイバーンオーバーロードを量産するのは不可能である。

 

 次に、離陸に必要な滑走距離の問題がある。

 ワイバーンオーバーロードは、通常のワイバーンやワイバーンロードよりも長い滑走距離が必要となる。このため、80メートル級の通常竜母では滑走距離が足りないのだ。故に、わざわざヴェロニアを建造せざるを得なくなったのである。

 ついでに言うと、このヴェロニアにも凄まじい建造コストがかかっている。ただでさえデカいのに加えて、これまでの竜母よりも多数の魔石を使用している(具体的には4倍も使用している。半分は船の速度発揮用、もう半分はワイバーンオーバーロードの発艦用)ため、その製造コストも維持コストも馬鹿にならないのだ。

 

 そして、そうまでして造ったヴェロニアだが、試験航行中に不具合が発生。何らかの要因で魔力回路が暴走し、ついに爆発事故を起こしてしまったのである。このため、白煙を噴きながらも航行し、本国へ戻ろうとしているのだ。

 

「くそっ!」

 

 そのヴェロニアの甲板上では、竜騎士デニスが地団駄を踏んでいる。

 

「何でいい時に……! せっかく俺の竜で敵を蹴散らそうと思ったのに……!」

「爆発事故じゃ仕方ない。俺だって悔しいんだ、今は我慢しろ」

 

 同僚のジオが、デニスを宥める。

 少し前に軍司令部から、「飛行機械がアルタラス島を襲っている。ヴェロニアは直ちにワイバーンオーバーロードを出し、迎撃を行え」という指令があった。そこで、ヴェロニアは発艦態勢を取った。ワイバーンオーバーロードの初陣である。

 ところが、いよいよ発艦開始、と思ったその瞬間に、突然魔力回路が暴走して爆発し、不調が発生。報告を受けた上層部は、これ以上の事故を防ぐため、としてヴェロニアに作戦行動の即時中止と本国への帰還を命じた。このため、ワイバーンオーバーロードの出撃も不可能となったのである。竜騎士たちの憤懣やる方無しであった。

 何せこうしている間にも、アルタラス島にいる友軍は、敵の()()()()から攻撃を受けているのだ。つまり相手は、神聖ミリシアル帝国軍かムー統括軍、またはその支援を受けた国の軍である可能性が高い。一刻も早く、救援しなければ。

 だが、上層部からの作戦中止命令とあっては、どうしようもなかった。

 

 

 かくして、アルタラス島に駐留するパーパルディア皇国属領アルタラス統治軍は、大きな損害を出したこの悪夢のような1日を終えようとしていたのである。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 同日午後7時、シオス王国 ゴーマ飛行場。

 この地には、ロデニウス連合王国軍の航空隊が展開している。といっても、既に陽が沈んだ後であるため、訓練飛行も終わっている。

 そんな中、水平線ぎりぎりをオレンジ色に染める夕日の最後の輝きを背景に、滑走路へと向かう一群の機体の姿があった。

 夕闇の中で目を凝らすと、それらの機体は鼻先が妙に尖っているのが見える。更に胴体下部には、サイズの大きい爆弾を抱えていた。

 こんな真似ができる機体は1つしかない。液冷エンジンを持つ旧日本海軍の艦上爆撃機「彗星」である。

 

「諸君、ついに我々にも実戦の機会が来た」

 

 滑走路に並ぶ36機の「彗星」のうち、先頭に立つ隊長機の中では、この部隊の隊長妖精が通信で訓辞を行っていた。

 

「今回は、敵に航空戦力なしとはいえ、護衛戦闘機なしでの夜間空襲となる。危険な任務だ。だがそれでも、我々はやり遂げねばならん。()()()()でないのが幸いだな」

 

 無線からは、何人かの部下の失笑が聞こえてくる。

 

「さて、おしゃべりはここまでだ。行くぞ諸君。絶対に()()()()()()じゃないか!」

 

 そう言って、隊長妖精は薄紅色のマフラーを締め直した。

 

「目標、アルタラス島・パーパルディア軍基地。()(よう)部隊、全機出撃!」

 

 隊長妖精…"()()() (ただし)"と仲間内で呼ばれるその妖精の指揮の下、「芙蓉部隊」に所属する36機の「彗星一二型甲」は、アツタ三二型エンジンの咆哮を轟かせ、暗くなった空へと舞い上がった。




はい、というわけでロデニウス連合王国軍は現在、アルタラス島の海上封鎖に成功し、同島周辺の制空権・制海権ともに掌握しています。まあ、戦列艦ごときで第二次大戦頃の軍艦に勝てるわけがありませんよね。

そして、シュトゥーカ(ルーデル隊)に続いて2つ目の拙作オリジナル航空隊が登場。史実ではこの「芙蓉部隊」は彗星艦上爆撃機を使い、「一億総特攻」の状態となっていた末期日本軍の中では数少ない、通常爆撃で戦果を上げていた航空隊です。「艦これ」には実装されていません。運営さん、基地航空隊も夜間艦上航空攻撃も実装されたし、そろそろ夜間基地空襲も実装してくれてもいいのよ…?


次回予告。

ロデニウス連合王国軍によって、アルタラス島に駐留するパーパルディア皇国・属領アルタラス統治軍は甚大な被害を受けた。しかし、それもあくまで前半戦。夜明けとともにロデニウス連合王国陸軍による、陸上作戦が開始される…
次回「アルタラス島を奪回せよ(後編)」

それと、先にお伝えしておきます。次回投稿にあたって「パスワード」の準備をしておいてください。
久しぶりの陸上での大規模攻勢です。ド派手にやりますよ!

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