鎮守府が、異世界に召喚されました。これより、部隊を展開させます。   作:Red October

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なんと、総合評価2,400ポイント突破!
皆様、ご愛読本当にありがとうございます!

評価7をくださいました紅林満様
評価8をくださいましためぐ・はまー様、L/71 Pzgr40様
評価9をくださいましたICBM様、u5様、Fallout 錬金パパ様
評価10をくださいましたЯ-G.ray様、mega2様
ありがとうございます!!
また、新たにお気に入り登録してくださいました皆様、ありがとうございます!

はい、予告通りルミエス嬢の臨時記者会見の様子です。
あと、またもやネタ入りになってしまいました。ちくしょうめー!
ですので、お読みいただく際はご注意ください。



045. 臨時記者会見

 中央暦1640年4月21日 午後5時29分、アルタラス王国 王都ル・ブリアス。

 夕方のオレンジ色の陽光の中、市街地各所にはまだ戦闘の爪痕がはっきりと残っており、戦闘のコラテラルダメージによって発生した道路の瓦礫はあらかた撤去されたものの、流石に壁の崩れた建物や割れた窓はどうにもならず、戦闘の激しさを生々しく伝えていた。

 そんなル・ブリアス市街地のとある街道の交差点では、何人もの人間が立ち入り禁止区域ギリギリのところで集まっていた。大柄の成人男性ドワーフ2人が肩に担いでいる2台の魔導カメラを前に、美人エルフの女性キャスターが緊張した様子でマイクを持ち、立ち入り禁止のテープを背にして立っている。どう見ても、テレビ放送を行おうとしている光景である。

 テープの向こう側には、三八式歩兵銃を持ったロデニウス連合王国軍の兵士が等間隔に並んで何人も立っており、厳重な警戒を敷いていた。そのうち一人は知ってか知らずか、路面に落ちたパーパルディア皇国の赤い国旗を踏み付けている。

 と、そのカメラの後方で待機していたヒト族の男性が、丸めた書類を持った右手を振り上げた。彼の左手首には、ムー製のねじまき式腕時計が着けられている。その腕時計がちょうど午後5時30分を指していた。

 

「5、4、3、2、………!」

 

 男性がカウントダウンを叫び、その直後に書類を持った右手を振り下ろした。それを見て、女性キャスターが話し始める。

 

「こちらは、現在のアルタラス王国の首都ル・ブリアスの様子です。ご覧ください、何人もの武装した兵士が警戒に当たっています。アルタラス王国を取り戻したルミエス政権の発表によれば、“ロデニウス連合王国軍の兵士たちに警備をお願いしている”とのことですが、彼らは皆ロデニウス連合王国軍の兵士たちなのでしょうか、厳重な警戒です」

 

 ここでキャスターは、兵士たちの奥、右手に見える建物を指差した。

 

「あちらの建物をご覧ください」

 

 カメラが同建物を大写しにする。

 それは普通の一軒家なのだが、よく見なくても壁に大穴が開いている。ちなみにこれは、Ⅲ号戦車の砲撃によって開けられた穴である。

 

「何があったのでしょうか、大きな穴が開いています。これが戦闘によって発生した被害なのでしょうか。この街でどれほど激しい戦闘があったか、ご想像いただけると思います。そして、その奥に見えているアルタラス王国の国旗を掲げられた屋根が、」

 

 ここでカメラは、その旗を掲げられた屋根を映し出す。

 

「パーパルディア皇国・アルタラス統治機構が入っていた建物になります。現在、同建物は完全に占領され、アルタラス王国正統政府とロデニウス連合王国軍の管理下に置かれているものと見られます」

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 同時刻、神聖ミリシアル帝国南端 港街カルトアルパス。

 いつもなら、夕方6時頃からしか開けられない酒場が、今日に限って夕方5時に開けられる等の“非常措置”が取られた街では、どの酒場にも大勢の客が押しかけ、席に座ったり立ったりして、テレビ放送用の平面水晶体を食い入るように見詰めていた。早くから席を取ることができていた者たちは、ビールのジョッキや冷めていく飯のことも忘れて、テレビ放送に見入っている。

 

『昨日午前10時、第三文明圏外のアルタラス王国は、第三文明圏の列強パーパルディア皇国の支配を脱し、再独立を宣言しました。同国はルミエス氏を女王に戴く王政国家として再建される模様です。

なお、ルミエス政権の発表によると、“アルタラス王国はロデニウス連合王国の軍事支援によってパーパルディア皇国の支配を脱した”とのことであり、ロデニウス連合王国軍の攻撃によって、アルタラス島に駐留していたパーパルディア軍は全滅したものとみられます』

 

 キャスターのナレーションと共に、映像は再度アルタラス王国の王都となったル・ブリアスの市街地を始め、アルタラス島の各所を映していく。ル・ブリアス市街地の交差点に立ち警備に当たる兵士(もちろんロデニウス連合王国軍の兵士である)、戦車の砲撃で穴を開けられた建物、廃墟と化したパーパルディア軍の基地……

 と画面はここで、アルタラス人へのインタビューの映像に切り替わった。

 

『一昨日、昨日と、怖くて怖くて外にも出られませんでしたよ』

 

 画面の中では、マイクを向けられた女性が、青白い顔で質問に答えていた。

 

『一昨日のお昼に、赤い丸を描いた羽ばたかない翼を持つ()()()()()()()()()()()が、パーパルディア軍の基地に向けて沢山飛んでいって……。それで、ドーン、ドーンと凄い音がして、パーパルディア軍の基地は炎と煙で何も見えなくて…』

 

 画面が切り替わり、今度は男性が映った。

 

『私の家は高台にあるんですが、家から港を見ると、パーパルディアの戦列艦より大きな船が何隻も来ていて、パーパルディアの戦列艦を()()()()()()()()()で攻撃していました。たった一発で、パーパルディアの戦列艦が2つになって、沈んでいったんです。信じられませんでしたよ』

 

 今度は、ル・ブリアスで家具の販売店をやっているというエルフ族の男性が、インタビューに答えている。

 

『昨日は、朝から恐ろしい戦闘が、私の店の前の通りでありました。朝早くにパーパルディア軍の兵士たちが私の店をこじ開け、家具を勝手に持ち出して道路に無造作に置いたんです。パーパルディア軍の兵士たちはそれに隠れながら戦っていました。ところが、パーパルディア軍の兵士たちが持つ“長い魔法の杖のようなもの”が、パーンという音を出して煙を噴くよりも早く、パーパルディア軍と戦っている軍の兵士が“魔法の杖”を地面に立てて、バババババババッと凄い音を立てるんです。その途端、パーパルディアの兵士たちがバタバタ死んでいって、そして後退するパーパルディア軍を追いかける兵士たちが、大声を上げて叫びながら走っていく……次は私が殺されるのかと思って、家具の影に身体を押し込むようにして隠れ、震えていましたよ』

 

 また画面が切り替わり、ル・ブリアスの郊外で生活しているアルタラス人たちの様子を映しながら、キャスターがナレーションを入れた。

 

『また、アルタラス王国政府は、かつてパーパルディア皇国・アルタラス統治機構が入っていた建物の魔写を公開しました。こちらがその魔写になります』

 

 ナレーションの後、画面が切り替わった。そこには、太陽の光の下でアルタラス王国の国旗を掲げられた、統治機構の建物が映されている。そしてその周囲には、多数の兵士が展開していた。皆ハンコで押したように、同じ服装をして同じ銃を持っている。

 

『この様子から、パーパルディア皇国・アルタラス統治機構は、完全に制圧されていると見られます』

 

 そして、カメラはスタジオへと切り替わった。スタジオ内のキャスターを務める、エルフ族の男性が画面に映る。

 

『それではここで、アルタラス王国がパーパルディア皇国に宣戦を布告されてからの流れを、時系列でご紹介します。こちらのフリップをご覧ください』

 

 カメラは、キャスターが取り出したフリップを拡大して写した。そこには年表が書かれている。そこに書かれた出来事を時系列順に並べると、こうだ。

 

・1639年11月19日 パーパルディア皇国、アルタラス王国に宣戦布告

・1639年11月28日 パーパルディア皇国、アルタラス王国占領を世界に公表

・以後、アルタラス王国はパーパルディア皇国の支配を受ける

・中央暦1640年1月28日 アルタラス王国王女ルミエス、ロデニウス連合王国にて「アルタラス王国正統政府」の樹立を宣言

・4月18日 この日の昼から翌日明け方にかけて、アルタラス王国正統政府に味方するロデニウス連合王国軍が、断続的にアルタラス島内のパーパルディア軍を攻撃。攻撃には軍船とワイバーンが使われたとみられる

・4月19日 早朝、ロデニウス連合王国陸軍がアルタラス島に強襲上陸。パーパルディア軍を掃討し、アルタラス統治機構を制圧

・同日午前10時 アルタラス王国、再独立を宣言

 

『ご覧のように、アルタラス王国は昨年11月末にパーパルディア皇国に占領され、以後4ヶ月以上に亘るパーパルディア皇国の支配を受けた後、昨日再独立を果たしました。パーパルディア皇国の属領が再独立したのは、今回が初めてのケースとなります。この事件が、第三文明圏の今後のあり方にどう影響するのか、注目されています』

 

 フリップを指し示しながら、キャスターが解説を行う。と、ここでカメラが切り替わり、男性キャスターの他にもう1人、別の人間が映った。

 

『それではここからは、神聖ミリシアル帝国大学教授であるタイガー氏をお招きして、お送りしたいと思います。タイガーさん、本日はよろしくお願いします』

『よろしくお願いします』

 

 キャスターに挨拶をしたのは、映像に映ったもう1人の人間…50代前半頃くらいの、髪が3分の1ほど白くなり掛けた男性だった。画面下部に「タイガー氏 神聖ミリシアル帝国大学教授 軍事専門家」と紹介テロップが表示される。

 

『タイガーさん、“元々のアルタラス王国の軍事力”は、どの程度だったのでしょうか?』

『はい。アルタラス王国は、原始的ながら魔導砲を装備した魔導戦列艦を多数保有し、独自の兵器として「風神の矢」という特殊なバリスタの弾を開発するなど、第三文明圏外国としては突出した高い軍事力を保有していました。その軍事力は、第三文明圏にある文明国の軍と比較しても、遜色ないほどの力があった、とされています』

『そんなに強力だったのですか? しかし、“第三文明圏最強”とも言われるパーパルディア皇国の戦列艦隊には勝てなかった、と』

『はい。アルタラス王国の戦列艦に搭載された砲は、射程距離が1㎞ほどで、球形砲弾を発射するものです。それに対して、パーパルディア皇国の戦列艦の砲は、射程2㎞。しかも、砲弾に炸裂魔法が付与されていて、威力も高くなっています』

『なるほど。パーパルディア皇国の技術が優れていた、ということですね』

『その通りです。また、アルタラス王国の竜騎士団は、通常型のワイバーンを装備していたのに対して、パーパルディア皇国の竜騎士団はワイバーンロードを装備しています。陸軍にしても、アルタラス王国軍は剣と弓が中心なのに対して、パーパルディア軍はマスケット銃を装備しています。この“技術の差”により、アルタラスは敗れた、と見ていいでしょう』

『よく分かりました。しかし今回、アルタラス王国正統政府の要請を受けたロデニウス連合王国軍は、その「第三文明圏最強」とも言われるパーパルディア軍を全滅させ、アルタラス王国再独立に大きく寄与したようです。タイガーさん、ロデニウス連合王国の軍事力や技術力に関しては、如何お考えですか?』

『はい。これに関しては、私もかなり驚いています。ロデニウス連合王国は、第三文明圏外のロデニウス大陸にあった国家が連合してできた新国家で、建国からまだ一年も経っていない新興国です。そんな国家が、どうやってパーパルディア皇国の軍隊を全滅させたのかは、私にもよく分かっていません』

『なんと、タイガーさんもご存じないのですか? ロデニウス連合王国の軍には、謎が多そうですね』

『はい。ただ、先ほどの映像やインタビューで幾つか推測できることがあります。先ほどの映像の一部を出していただいてもよろしいでしょうか?』

 

 タイガー氏のこの発言には、画面を見詰めていた酔っ払いたちもきょとんとした。彼はいったい、何を言いたいのだろうか。

 

『ええと、こちらでよろしいでしょうか?』

 

 キャスターは、冒頭の中継映像の一部を切り出した魔写を、拡大して写したフリップを取り出した。カメラがそれを大写しにする。

 

『はい、ありがとうございます。こちらの映像の、この部分。兵士が持っている武器をご覧ください』

 

 画面の中でタイガー氏は、兵士が持っている金属製の棒状の物体(三八式歩兵銃のことである)を指差す。

 

『こちらですね。これは何でしょうか? 剣ではないようですが』

『はい。あくまで私の推測ですが、これは「銃」であると考えられます』

『銃ですか!? すると、ロデニウス連合王国軍は、パーパルディア軍と同等レベルの技術を有している、ということでしょうか!?』

『その通りです。しかも、先ほどのインタビューの中で、「バババババババッと連続した音を立てる武器が使われ、それによってパーパルディア軍の兵士がバタバタ倒された」という話もありました。これも、おそらく銃の一種でしょう。そうすると、信じられないことになりますが、ロデニウス連合王国は「短時間に多数の弾を撃てる銃を実用化している」のではないか、と考えられます。もしかすると、ムー国が持っているような()()()を実用化しているのかもしれません』

『何ですと!? そんなものが……。それでは、ロデニウス連合王国の技術はパーパルディア皇国の技術を()()()()()、ということになるのでしょうか?』

 

 このタイガー氏とキャスターのやり取りを聞いて、酔っ払いたちがざわついた。

 

「おいおいマジかよ……」

「銃なんか持ってるのか、ロデニウス連合王国は……」

「しーっ! 聞こえねぇ!」

 

『信じられないことですが、そうではないかと推測されますね。

この他にも、インタビューの話に戻りますが、「パーパルディア皇国の戦列艦を一撃で真っ二つにして沈めていた」という話をした方がいましたね。こちらに関してですが、パーパルディア皇国の戦列艦を一撃で沈められるのは、ラ・カサミ級戦艦を始めとするムー国の艦艇や、神聖ミリシアル帝国の魔導艦くらいのものです。つまり、この話が本当だとすれば、ロデニウス連合王国の軍艦は少なくとも“ムー国レベルのもの”であると言えるでしょう』

 

 タイガー氏のこの説明に、キャスターは目を見開く。

 

『何と……。それでは、ロデニウス連合王国の艦艇には、上位列強クラスの技術が使われているということですか!?』

『私はそう思います。加えてインタビューの中には、「羽ばたかない空を飛ぶ物がパーパルディア軍の基地を攻撃していた」という話もありました。この話が正しいのであれば、ロデニウス連合王国は航空機を持っているかもしれない、ということも窺えます』

『ロデニウス連合王国は、航空機も持っている可能性がある、ということですね!? 驚きました、第三文明圏外国にそのような技術があるとは……。ロデニウス連合王国は、決して侮れる国ではなさそうですね。タイガーさん、本日はありがとうございました』

『ありがとうございました』

 

 カメラの向きが変わり、キャスターのみが画面に映る。

 

『時刻は午後5時57分になるところです。コマーシャルの後に、現地からの中継映像をお届けします』

 

 この後画面はコマーシャルに変わり、キャンディー氏の新開発の美肌魔法液パックの宣伝などが行われた。

 一時して、画面が再びスタジオに変わる。

 

『午後6時になりました。それではここで、現地の様子を見てみましょうか。レポーターのエリーナさん』

 

 画面が切り替わり、どこかの城のホールと思しき場所が映し出された。手前に演台、奥には玉座があり、玉座の背後にはアルタラス王国の国旗が天井から吊るされている。

 アルタラス王国の国旗が掲げられた演台の前には、ムーの放送局やロデニウス連合王国の放送局のテレビカメラが並び、各国から飛んできた大勢の新聞記者がメモ帳とペンを用意しているのを背景に、ハイエルフ族の美人キャスターが解説に入る。

 よく見ると、そのホールは(事前に掃除されたのだろうが)壁に汚れが薄っすら残っていたり、床のタイルにひび割れがあったりと、少し荒廃した感じがある。どうやら、しばらく使われていなかったらしい。

 

『こちらはルミエス氏の記者会見の舞台となっている、アルタラス王国の王城アテノール城のホールです。パーパルディア皇国の占領以降、ほとんど使われていなかった、とのことで、少し荒廃している様子でした。ルミエス氏は、ここで臨時記者会見を開きます。この記者会見では、アルタラス王国の再独立が正式に宣言され、旧アルタラス王国の王族であるルミエス氏が、王位に就くことも正式に宣言されるものとみられます』

 

 エリーナがここまで言った時、タイミングよくホールの奥のドアが開かれた。そして、アルタラス王国独特の民族衣装を身に纏ったルミエス王女が姿を現す。その傍らには、アルタラス王国の国旗を持ったライアルが控えていた。

 

カシャカシャカシャッ!!!

 

 ムーやミリシアル、ロデニウスといったカメラを持っている記者たち(ちゃっかり"青葉"も紛れ込んでいる)が一斉にカメラのシャッターを切り、白い光が点滅する中を、ルミエスとライアルは演台に向かって歩んでいく。

 

『ただいまルミエス王女が姿を現しました。アルタラスの民族衣装に身を包み、静かに演台へと歩いていきます。心なしか、彼女は少し緊張しているように見えます』

 

 エリーナが、そんなアナウンスを入れる。

 ロデニウス連合王国軍工兵隊が突貫で工事を行ったおかげで、このホールには音響系のスピーカーやら何やらが簡易的ながら設置されていた。ルミエスは演台に立ち、突貫工事のおかげで取り付けられたマイクを前にして口を開く。

 

『皆様、こんばんは。私はアルタラス王国の王女にして、新生アルタラス王国の女王となりました、ルミエスです』

 

 彼女が話し始めると、フラッシュの明滅は消え、シャッター音も静かになった。

 

『最初に、私はアルタラスの民の皆様に謝らなければならないと思います。私は、今は亡き父であるターラ14世の采配により、パーパルディア皇国との開戦の前に、商船を装った船で祖国アルタラスを脱出し、ロデニウス大陸へ向かったのです。父は、パーパルディアとの国力の差を考えれば、アルタラスの敗北は免れないと見ていました。そこで、王族が根絶やしにされてしまうのを防ぐため、私をロデニウスに脱出させたのです。

結果として、私は今ここにいますが、パーパルディア皇国に占領されてから4ヶ月以上もの間、アルタラス王国の国民の皆様には大変辛い思いをさせてしまいました。まずは、そのことを国民の皆様に謝罪したいと思います』

 

 ここまで言って、ルミエスは頭を下げた。カチャリと微かな音を立て、彼女の衣服と装飾品が擦れ合う音がする。このルミエスの姿に向けて、フラッシュがまばらに焚かれた。

 ちなみに、このルミエスの謝罪を聞いて、涙を流すアルタラス人が各地で見られたとか。

 

『さて、私は今日ここに宣言致します。本日を以て、アルタラス王国は、正式にパーパルディア皇国から独立します。そして、この私ルミエスを中心とした、新生アルタラス王国として甦ります!』

 

カシャカシャカシャッ!!!

 

 大量のフラッシュが一斉に焚かれ、一面が真っ白になる。それが収まるのを待ち、ルミエスは口を開いた。

 

『我が国にとって課題は山積しています。パーパルディア皇国の横暴によって被った損害の回復、破壊された建物の建て直し、閣僚の選定、アルタラス王国軍の再建、外交のこと……様々です。ですが、力不足は承知の上で精一杯取り組んで参りたいと思います。国民の皆様には、ご理解とご協力の程お願い申し上げます』

 

 ルミエスはまた頭を下げた。それに向かって三度フラッシュの嵐が起こる。

 

『最後に、私の祖国アルタラスを取り戻すのに力を貸してくださった、ロデニウス連合王国の皆様に御礼申し上げます。彼らの力無くしては、祖国の奪還など不可能だった、と言えるでしょう。しかし彼らは、パーパルディア皇国軍を正面から打ち破り、祖国奪回に力を尽くしてくれたのです』

 

 ここでルミエスは、声を張り上げた。

 

『今、パーパルディアの圧政に苦しんでいる人々よ! 今回、アルタラス王国はパーパルディア皇国の支配を脱し、再独立することができました。パーパルディア皇国軍は確かに強い、しかし決して無敵というわけではありません!

あくまで私の推測ですが、皆様の祖国が戻ってくる日は、そう遠くないのではないか、と思います。文明圏外国であるロデニウス連合王国に二度続けて敗北し、しかも属領の独立を許してしまったことから、パーパルディア皇国の支配体制には陰りが出ていると言えます。皆様の祖国が戻ってくる日も、そう遠くないかもしれない。皆様には、このことを頭に入れておいていただきたく思います!』

 

カシャカシャカシャッ!!!

 

 またもやフラッシュの嵐。

 ルミエスの演説はここで終わり、質問タイムに入った。

 

『トーパ王国新聞です。このアルタラス王国は、パーパルディア皇国から近いところに国土を持つ島国です。当然パーパルディア軍は、艦隊を派遣して再侵攻を行う可能性がありますが、それにはどう対処なさるおつもりでしょうか?』

 

 真っ先に質問を投げかけたのは、トーパ王国の新聞記者である。

 

『はい。先のパーパルディア皇国との戦いによって、アルタラス王国海軍は全滅しています。従って、今のアルタラス王国軍では海上の自衛は行えません。ですので、今はロデニウス連合王国海軍に協力していただき、自国の安全を図りたいと思います』

『そのロデニウス連合王国海軍ですが、どれほどの強さがあるのでしょうか?』

 

 記者は鋭く切り込んできた。が、ルミエスはこれをさらりと(かわ)す。

 

『私は、軍事については畑違いですので、申し訳ございませんがその質問にはお答えできかねます。ただ、今回のパーパルディア軍との戦闘で、ロデニウス連合王国海軍はそれを打ち破ったことから、“彼らの海軍は相当に強い”と、私は考えています』

 

 旧アルタラス王国時代、亡き父であるターラ14世の下で外交に当たっていた、彼女のトークスキルは伊達ではない。

 続いて、別の新聞記者が手を挙げた。

 

『どうも、ロデニウス連合王国の新聞「(あお)()新報」です。ルミエスさんは、アルタラス王国においては外交に携わっていた、と伺ったのですが、これは事実でしょうか?』

 

 もちろん、今質問しているのが"青葉"であることは言うまでもない。

 

『はい、事実です』

『それでは、今後アルタラス王国の外交をどのようにしていくか、現時点でのお考えをお聞かせください』

『はい。アルタラス王国は独立を一時失ったため、周辺の第三文明圏外国との国交も途絶えております。よって、周辺国家との国交の再度の開設を急ぎたいと思います。また、アルタラス王国正統政府が締結した、ロデニウス連合王国との国交は、そのまま続けて参ります。このロデニウス連合王国との国交には、安全保障条約が含まれております。ロデニウス連合王国海軍が我が国の防衛に当たるのも、これが理由になります。

そして、ロデニウス連合王国は「大東洋共栄圏」という、経済・外交・軍事・情報分野で参加各国が協力し合う連合体を主宰している、と伺っておりますので、我が国もこれに参加したい、と考えております。既にロデニウス連合王国には、大東洋共栄圏への参加申請を提出しており、審議待ちの状態です。できる限り速やかな、各国との国交回復を急ぎたいと思います』

『ありがとうございました!』

 

 そう言って"青葉"は質問を終えた。

 

『ムー国のマイカル新聞です。魔石の取引につきましてお伺いします……』

 

 その後もルミエスに向けて様々な質問が行われた後、最後に新生アルタラス王国陸軍総司令官に就任したライアルが、アルタラス王国の再独立と新生アルタラス王国陸軍創設に対する祝辞を述べて、記者会見は終了した。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 もちろん、この記者会見の様子は世界各地で報道され、あちこちに大きな波紋を呼んだ。

 

 

「アルタラス王国再独立……! パーパルディアから、属領が独立したんだ……! 今回はアルタラスが独立したが、見てろ、次は俺たちの番だ……!」

 

 クーズを始めとするパーパルディア皇国の属領では、クーズの青年ハキなどの属領の住民たちが希望を抱く。その一方で、パーパルディア皇国の各属領統治機構の職員たちは、漠然とした不安感を抱くのだった。

 

 

「ロデニウス連合王国軍が、パーパルディアの実質的な領土(属領)に攻め込んで、これを削り落とした、だと……?」

「つ……強い! ロデニウス連合王国軍は、間違いなく強いぞ!」

「彼らを味方につければ、我々も生き残っていけそうだ……!」

 

 パーパルディア皇国の周囲に領土を持つ、第三文明圏内外の各国でも、同様に希望が芽生えていた。

 

 

 そして、ロデニウス連合王国のダイタル陸軍基地からは、ムー統括軍の軍服に身を包んだ1人の男性……ムー国観戦武官の1人であるリアスが、焦った様子で出てきた。

 

「これはヤバい……! 早くマイラス先輩に、これを伝えないと……!」

 

 いつものようにロデニウス連合王国軍に関するデータ集めをしていて、彼らの陸軍爆撃隊の訓練を視察していたリアスは、ある可能性に気付いたのだ。

 ロデニウス連合王国軍の解説によれば、現在の彼らの中型爆撃機の航続距離は、およそ2,500〜3,000㎞。それに対して、ロデニウス大陸からパーパルディア皇国の本土までは、片道1,100㎞だ。今の段階でも、パーパルディア皇国本土への空爆は十分できる。

 しかし、ロデニウス連合王国軍はこれまで、パーパルディア本土に対する爆撃は行っていない。リアスがこの理由を尋ねてみたところ、「もしパーパルディア上空で機体が損傷した場合、不時着できる飛行場がありません。それでは最悪の場合、機体と搭乗員が失われることになります。それを避けるため、これまで我が軍はパーパルディア皇国に対する爆撃を行っていませんでした」とのことだった。

 だが……今回ロデニウス連合王国が奪取したアルタラス島には、ムー国の空港がある。ロデニウス連合王国はその空港を改造して、爆撃機の中継基地兼出撃拠点とするつもりらしい。そうなれば、アルタラス島からパーパルディア皇国までの距離が500㎞しかないことから考えても、十分に爆撃が行える。

 しかもそれだけではなく、シオス王国にあるムー国の空港も飛行場として使用し、更にフェン王国にも野戦飛行場を築いているという。地図で確認した限りでは、シオス王国とパーパルディア皇国の距離は約500㎞、フェン王国とパーパルディア皇国との距離に至っては、たった210㎞しかない。

 パーパルディア皇国本土に対して、ロデニウス連合王国軍が空爆を計画しているのは、もはや明らかだ。

 

(もし空爆が行われれば、パーパルディア皇国にいる我が国の民に被害が出る可能性がある……! それだけは、何としても避けなければ!)

 

 ホテル「ラ・ロデニウス」に向かう輸送業者を探しながら、リアスは使命感に駆られていた。

 

 

 で、当のパーパルディア皇国。

 

「………」

 

 第1外務局の局長室では、部屋の主たる第1外務局長エルト、外務局次長ハンス、皇軍最高司令官アルデ、皇族レミールの4人が、夕食を摂りながら記者会見をぶっ続けで視聴していた。その放送が終わると同時に、レミールの手指が震え出す。

 

(((あっ、これヤバいやつだ)))

 

 それを見たエルトとハンスとアルデがそんな思いを抱いた瞬間、

 

「いったいどういうことだぁーっ!!!」

 

 3人の予想通り、レミールの癇癪が大爆発を起こした。

 レミールの怒鳴り声が耳にガンガン響いたため、エルト、ハンス、アルデは慌てて耳を塞ぐ。

 

「我が皇国よりも()()()()()()()の技術が優れている!? バカを言うな!!」

 

 レミールの怒鳴り声は壁を震わせて、第1外務局の事務室や外務局監査室にまで伝わっていた。

 外務局監査室では、皇族の女性の何人かが飛び上がり、それ以外の者もピクッと肩を震わせる。事務局でも、一瞬残業していた者たちの手が止まった。

 

「我が皇国がこれまで勝ち続けたのは、他国とは隔絶した技術があったからだろう!」

 

 壁越しに、レミールの怒鳴り声が響く。

 

「それが、文明圏外の蛮族の方が優れた技術を有する、だと?」

 

 第1外務局の事務室では、気の弱い女性職員の1人がメソメソ泣き始めた。ちなみに、彼女は以前にも泣いていた者である(「いくつもの決断」参照)。

 

「ふざけるのも大概にするがいい!」

 

 彼女のすすり泣きを塗り潰すように、レミールの怒鳴り声が一際大きく響いた。

 

「何故ロデニウス連合王国という()()()()()()()()が、栄光ある我が皇国に勝てるのだ!?」

 

 第1外務局長室にはレミールの怒声が響き、家具類がガタガタ、ビリビリと震える。

 エルトは片耳を手で押さえ、次長ハンスも顔をしかめている。アルデは最初こそ驚いて耳を塞いだものの、それ以降は泰然たる様子である。

 そんな3人に構わず、レミールは怒鳴る。

 

「さては、奴らムーから支援を受けているな!? それなら分かるぞ! くそ、ムーなんか大っ嫌いだ!」

 

 このタイミングで、ロデニウス連合王国にいるムー国の観戦武官一同と、エストシラントの大使館街にいるパーパルディア皇国駐在ムー大使ムーゲが、全員揃って大きなくしゃみをしたことは言うまでもない。

 パーパルディア皇国の第1外務局局長室では、アルデがレミールに同調している。

 

「ええ、回転砲塔を持つ軍艦や飛行機械など、ロデニウス単独では作れないでしょうし!」

 

 残念ながら、ムー国はとんだ言いがかりを付けられることが確定したようだ。

 実際には、この回転砲塔を持つ軍艦も飛行機械も、ロデニウス連合王国が単独で開発・生産した(というより、その傘下にいる日本国海上護衛軍・タウイタウイ泊地部隊が生産した)ものなので、ムー国は()()()()()()()()()。それどころか、ムー国がロデニウスの()()戦闘機(九六式艦上戦闘機のことである)や軍艦(金剛型戦艦)の技術供与を受けているような状態である。

 だが、神ならぬレミールとアルデが知るはずもない。

 

「全く、大っ嫌いだ! 我々の邪魔をするなよ、バーカ!」

「仰る通りです。我々の覇業に口を出さないで欲しいですな!」

 

 アルデの同調に、レミールは調子に乗ったようだ。

 

「幾ら本国から距離があるからって、代理戦争とは小癪な奴だ!」

 

 そう言うなり、レミールは手に持っていたフォーク(夕食の名残である)を床に叩き付けた。普通なら金属質の音がするところであるが、第1外務局局長室の床には一面に(じゅう)(たん)が敷かれていたため、フォークは音を立てずに床に転がる。

 

「ちくしょうめぇ!」

 

 白目を赤く血走らせ、こめかみにミミズが這ってるんじゃないか、と思うほど見事な血管を浮かせながら、レミールは叫ぶ。

 

「ロデニウス連合王国ごときが単独でそんな兵器を作れるとか、うぉっ!? て感じで絶対あり得ないわ!!」

 

 レミールさんには申し訳ないんですが、あるんですよねこれが……。

 まあ、これまでパーパルディア皇国は、圧倒的に優れた技術と軍事力を背景に、第三文明圏に君臨してきたわけであるから、レミールの「パーパルディア皇国=第三文明圏最強」という認識が覆らないのも致し方ないのだが。

 

「ムーが支援しているなら、この連敗の説明も、ロデニウスの連中が自信満々に宣戦布告したことの説明も付く! ムーの兵器が優れているのは、赤子でも分かるようなことなのだからな!」

 

 第1外務局の事務室では、レミールの怒声を聞いてメソメソやりだした女性職員を、他の女性職員がどうにかして宥めようと躍起になっている。それには委細構わず、レミールは声を張り上げた。

 

「It's 判断力足らんかった! 軍の連中もムーの兵器の性能は知っているだろう、お前にしてもステァリンにしても!」

 

 レミールに睨まれ、アルデは無言で頷いた。

 怒鳴り続けて息が切れてしまい、レミールは肩で息をしながら椅子に座る。

 

「まさかロデニウスに……ムーが支援をしているとはな……。ムー大使を召還しろ……私が真意を確かめてやる……」

 

 息が切れたままではあるが、レミールは絞り出すようにして話した。そして、彼女は一度口を閉ざし、どこか虚空を見上げる。

 

「気に食わん奴らだ……」

 

 レミールのこの発言は、ムー国に向けられたものか、それともロデニウス連合王国に向けられたものか。

 

「特にロデニウスの外交官の、目に刺さるような! おっぱいぷるーんぷるん!」

 

 "霧島"は、どれだけレミールの恨みの対象になっているのだろうか?

 ここで、艦○れにおける任務達成時のSE「ンデロリーン♪」が脳内再生された者は、素直に手を挙げなさい。

 

「ムーの支援を後ろ楯にして、ムーの兵器を使って攻めてくるロデニウスの蛮族めが!」

 

 レミールの悪口雑言は、留まるところを知らないらしい。

 そして何度も申し上げているが、実際にはムー国はロデニウス連合王国に対しては国交こそあるものの、軍事支援など一切行っていない。むしろその逆、ムー国()ロデニウス()()支援を受けている状態である。

 

「上位列強の支援があるからといって、いい気になるなよ! 皇国本土まで来てみろ、精鋭陸軍や海軍の実力を思い知らせてやる! シバタさん、貴様もそう思うだろう!?」

 

 レミールのこの発言に、エルトとアルデは顔を見合わせた。

 

「シバタさんって誰です?」

「いや知らん」

 

 エルトの小声での質問に、アルデは首を横に振る。

 

 ともかくこうして、パーパルディア皇国の勘違いとムーへの誤解は深まっていくのだった。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 さて、ロデニウス連合王国やパーパルディア皇国があるフィルアデス大陸とその周辺から随分と離れたところにある第二文明圏。

 その中心となっているムー大陸の西部には、かつて「レイフォル国」と呼ばれた列強国があった。

 その旧レイフォル領においても、小さな動きがあった。

 

 レイフォル領の一角に築かれた空港、その滑走路では1機の小型飛行機がプロペラを回している。と、その飛行機は走り出し、暫く走った後にふわりと宙に浮き上がった。

 その飛行機の中で1人の男が、カバンから資料を取り出して読んでいる。男は30代前半程度とみられ、口元の立派なカイゼル髭が目立っていた。

 

「『パーパルディア皇国に潜入し、ロデニウス連合王国について調査せよ』か……。やれやれ、()はどうしてあんな遠方の国家を気にしているんだ?」

 

 資料を読み進めつつ、男は独りごちる。

 

「……ま、上からの命令だし、“ちょっとした海外休暇”と考えますかね。どーせ、大したことはないだろう。我が国……栄光あるグラ・バルカス帝国に敵う者なぞ、この世界にはほとんどいやしないんだから……」

 

 その男、グラ・バルカス帝国情報局に所属する諜報員エンリケスは、今度の任務は退屈なものになろう、と踏んでいた。




【速報】レミール閣下はムーの関与疑惑でお怒りのようです

はい、今回も閣下シリーズネタ投入と相成りました。投稿が遅くなったのも、このネタを使うかどうか迷ったのと、このネタは文字数が多くなるのでその調整に手間取ったからです。前書きの「ちくしょうめー!」で既に察していた方もいらっしゃったでしょう。
あと、閣下シリーズの流れについては、前の時(「いくつもの決断」)とほぼ同じにしてありますので、今回は説明を省きます。

それ以外にも、今回は若干エタり気味になりまして、更新が遅くなりました。お待ちくださっていた方、すみません。


次回予告。

見事タスフラワー作戦を成功裏に収め、アルタラス王国を解放したロデニウス連合王国。新アルタラス女王となったルミエスが国家再建に奔走する傍ら、堺は本格的にパーパルディア皇国本土侵攻作戦を考える…
次回「立案、『アサマ作戦』」

p.s. 以前に取った、呂破戦争の結末に関するアンケートですが…パ皇滅亡派が多すぎて大草原不可避でした。皆様そんなにパーパルディア絶対許早苗なのでしょうか?
では、希望通りにいきたいと思いますが…本当によろしいんですね?手加減はないですよ?

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