鎮守府が、異世界に召喚されました。これより、部隊を展開させます。 作:Red October
毎度のことながら、皆様、ご愛読ありがとうございますっ!!!
評価7をくださいましたまーちゃん様
評価9をくださいましたtoshi-tomiyama様
ありがとうございます!!
また、新たにお気に入り登録してくださいました皆様、ありがとうございます!
お読みいただく前にご注意。
今回は、以下の内容を含みます。
・オリジナル設定(ムーゲさんの過去に関して)
・1発ネタ挿入
以上、ご注意願います。
中央暦1640年5月8日、ところはロデニウス連合王国を含む第三文明圏を遠く離れた、第二文明圏の列強ムー国。
首都オタハイトにあるムー国政府庁舎の一角では、緊急会議が行われていた。出席者は、ムー国外務省の幹部クラスと、ムー統括軍の幹部クラスばかりである。
「それは本当なのか?」
ムー国外務省に勤める列強担当部課長オーディグス・リュックが、信じられないといった様子で首を横に振る。
「現在ロデニウス連合王国に観戦武官として派遣されている、軍でも最優秀クラスの技術士官マイラス君が、そのように言っているのだ。あながち嘘ではあるまい」
「それに、ロデニウスの使節が初めて我が国を訪ねてきた時、彼らは飛行機械で飛んできたのだしな。そんな
ムー統括軍の幹部たちは、そのようなことを話した。
彼らは何をしているのかというと、『パーパルディア皇国からムー国民を退避させるかどうか』について緊急会議を開き、話し合っているのだ。
つい昨日、ムー国外務省と統括軍本部に、遥か遠方の第三文明圏外にあるロデニウス大陸から、突然の通信があった。対応してみると、それはロデニウス連合王国にあるムー大使館の連絡回線を使ってのもので、通信を送ってきたのは軍の技術士官マイラス・ルクレール中佐だった。ロデニウス連合王国に“観戦武官”として出かけている者たちのうちの1人である。
通信を取ったオペレーターたちが“いったい何事か”と
訳を聞いてみると、『ロデニウス連合王国軍は、パーパルディア皇国本土に対して
航続距離が3,000㎞もあるのなら、仮にアルタラス島から爆撃機を飛ばしたとしても、パーパルディア-アルタラス間の往復1,000㎞を差し引いても、まだ2,000㎞も余裕がある。そして、パーパルディア皇国の
しかも、だ。ロデニウス連合王国軍の戦闘機は、少なくとも2,000㎞の航続距離を持つとも考えられている。つまり、ロデニウス連合王国軍は“護衛戦闘機を付けた爆撃隊”を送り込める、ということだ。ムー国の戦闘機「マリン」でもワイバーンロードに十分に対抗できるのだから、「マリン」より圧倒的に高い性能を持つロデニウス連合王国軍の戦闘機にかかれば、ワイバーンロードなぞ
付け加えるなら、ロデニウス連合王国はこれだけの性能を、
何より、パーパルディア皇国は(ムー側から見ると、何をトチ狂ったのか、としか思えないが)ロデニウス連合王国に対して殲滅戦を宣言している。それは、ロデニウス連合王国軍は“自国の滅亡を防ぐため”ならば
マイラスはこのように訴え、パーパルディア皇国内にいるムーの民が
パッと聴いた限りでは、何か
これを受けたムー外務省は大慌てとなり、ムー統括軍本部はマイラスに対して『追加の情報収集』を命ずるとともに、外務省にも声をかけて、対応をどうすべきか協議しようとした。その結果、この緊急会議が開かれたのである。
「とはいうが、その情報、本当なのか? まだ状況証拠が揃っただけではないのか?」
更にオーディグスは指摘する。すると、ムー統括軍の幹部たちは一様に苦い顔をした。
「正直言って、まだ『状況証拠が揃っただけ』としか言えないのが現状だ。ロデニウス連合王国軍の幹部クラスから
ただ、この情報がもし
そこで外務省には、パーパルディアに送る脱出船や脱出用の航空便だけでも用意しておいていただけないだろうか? もしも不可能なら、せめてロデニウス連合王国政府に連絡を取って、我が国の民を脱出させるための船便の用意を依頼する、などの準備をしておいて貰えると助かるが」
軍幹部たちは、そのような意見だった。
とはいえ、外務省としても下手に動くわけにもいかない。何か、決定的な証拠があれば……。
「そういうことなら、航空便はラ・カオス型旅客機が何機かありますから、手配しておくことにします。また、使えそうな船便の方もリストアップしておくことにしましょう。できるだけ早期に決定的証拠が入手できることを、切に願います」
「うむ、ユウヒ大使やマイラス君に賭けるしかないのが、何とも歯痒いが……」
そんな会話が交わされ、緊急会議は一時休憩に入った。
◆◇◆◇◆◇◆◇
一方、そのマイラスは情報収集のため、ちょうどタウイタウイ島の桟橋へと降り立ったところだった。彼は何度もこの泊地を訪れているため、守衛の面々とももはや顔馴染みになっている。その守衛がマイラスの顔を見るや、急に話しかけてきた。
「マイラスさん、ちょうど良いところに。実はうちの提督が、マイラスさんに“大事なお話”があると申しておりました。
マイラスは、意表を突かれる格好となった。
「重要な話ですか? 分かりました、ではお願いします」
「承知しました。では、身体検査が終わりましたら、こちらの部屋の前でお待ちください」
そう言うと、守衛は「警備室」と書かれた部屋のドアを開け、中に引っ込んだ。
(どうしたんだ? 大事な話って……)
別の警備員に案内され、身体検査場へと向かいながら、マイラスは突然の直接呼び出しを訝しんでいた。
5分ほど後、マイラスが厳重な身体検査を終え、許可証を貰って部屋から出て来ると、既に先ほどの守衛が待っていた。
「マイラスさん、ちょうど提督のお手が空いているとのことで、今すぐに会っていただける、とのことです。すぐに提督室にお通しして欲しい、とのことなので、到着早々すみませんが、提督室にご案内します」
「はい、お願いします」
マイラスは、守衛に連れられて歩き出す。その時、
ゴオオォォー……
遠く、航空機の轟音が響いた。そして、青空に向かって1機の4発プロペラ機……「B-29改」が飛び立っていく。訓練だろうか。
(あれだな……“噂の新型爆撃機”は)
マイラスは、そんなことを考えていた。
赤レンガ造りの建物が多数建設された、タウイタウイ泊地。耐火性を考慮して赤いレンガで組み上げられた建物が、広い間隔を空けて整然と並んでいる。建物同士の間隔が広いのは、空爆に遭った時に延焼を避けるためである。そんなタウイタウイ泊地の提督室は、泊地中央に建設されたドーム状の屋根を持つ4階建ての建物の最上階にある。
普段は基本的に足を運ばない(運ぶにしても1階にある食堂が精々である)泊地司令部の建物へと案内されたマイラス。電気仕掛けで動く「エレベーター」と呼ばれる、フロア間を手早く移動するための小さな箱型の乗り物に乗せられ、あっという間に最上階に辿り着く。
エレベーターを降りると、建物内の雰囲気ががらりと変わった。どこか、厳粛な感じがする。マイラスは、無意識に背筋を伸ばした。
案内されながら板張りの廊下を歩き、講義室(中で何やら講義が行われていた。ドアの窓からちらっと見えたのだが、黒板にスクリューを付けた細長い物体が描かれていたことから、マイラスは魚雷戦の講義か何からしいと察した)や会議室の間を通って行くと、一つだけドアが開けっ放しになった部屋がある。驚いたことに、そこに「提督室」と札がかかっていた。
てっきり、ドアを閉めて執務が行われているものと思っていただけに、マイラスは驚く。
「提督はいつも、こうやってドアを開けっ放しにしているのですか?」
「ええ。何でも『提督のポリシー』らしいんですよ。“誰に対しても閉ざすドアを、私は持っていないから”とのことです。また、“用事があったらいつでもノックなしに入ってきていい”というふうにも仰っていました。風変わりに聞こえるかもしれませんが、それがうちの提督なのです。流石に、来客中などはドアを閉めるのですが」
マイラスの質問にそう答えた守衛は、開けっ放しになった茶色のドアの前に立つと、ノックもなしにいきなり「提督」と呼びかけた。
(ほ、本当にノックなしで用件を言ってる……)
マイラスは、更に驚く。
「マイラスさんをお連れしました」
「ん、そうか。分かった。お通ししてくれ」
「はっ」
部屋の中と外でそんなやり取りが行われた後、守衛がマイラスの方を振り返った。
「お待たせしました。どうぞ、お入りください」
マイラスは守衛に頭を下げ、提督室に入る。
その部屋を見たマイラスの第一印象は「質素だが、小ざっぱりとしていて、“青い”」というものだった。ドアから見て、部屋の一番奥には青いテーブルクロスをかけた机が置かれ、机の右手には使い古された雰囲気のある棚が2つある。その中には多数の書類が収まっていた。おそらく、これまでに行った作戦の経過報告書や、これから行われる作戦の計画書が、その中に入っているのだろう。
部屋の内部を彩る壁紙も一面の青……どちらかというと群青色である。
部屋の右手には小さな丸いテーブルが置かれ、桃色の花の縁取り飾りを付けた白いテーブルクロスがかけられている。そのテーブルの上には、カップやポットが置かれていた。何かしらの飲み物を用意するためのテーブルと見える。
部屋の左手には、応接用のセットが展開されていた。四角い白テーブルを囲むように青色のソファーが置かれ、板張りの床には青いカーペットが敷かれている。応接セットの背後にある窓からは青い大海原を眺めることができ、青いカーテンが窓の縁に束ねてまとめられていた。
応接セットのすぐそばの壁には、青い海を行く一隻の艦船が描かれたガラス細工の絵があった。パーパルディア皇国を始め、ガラスの技術がある国家ではよく見られる、「ステンドグラス」というものだ。艦船の艦尾部分には、甲板に「ア」という文字が書かれている。艦船の甲板が真っ平らで、砲などが全く置かれていないこと、その艦船の上の空を飛行機械と思しきものが4つ飛んでいることから、おそらく航空母艦を描いているのだろう。
そして、窓を背にして机に座り、何やら仕事をしていたらしい堺が、ちょうど席から立ち上がるところだった。
その彼の隣には、1人の女性が控えている。上半身は黒いインナーの上に白い衣装を纏い、赤茶色の下衣を着用した女性だった。茶色の髪を、奇妙な赤い紐を使ってポニーテールにまとめている。おっとりした感じの雰囲気を纏っていたが……マイラスは、その下に潜む苛烈な戦意の気配を感じ取った。しかも、この感じは以前に出会った"
「お久しぶりですな、マイラス殿。急にお呼び立てしてしまって申し訳ない」
言いながら、堺は困ったように頭を掻く。
「いえいえ堺殿、とんでもないことです。タウイタウイの図書館には素晴らしい書物が多くて、毎日新しいことが分かるので、できるならあそこで生活したいくらいですよ」
「ハハハ、それはそれは。生憎うちは、夜中は閉まってしまいますからな。さ、立ち話も何ですし、こちらへどうぞ」
堺はマイラスにソファーを勧めた後、女性に向かってこう言った。
「
「はい、提督」
イセと呼ばれたその女性は、丁寧な口調で堺に答えている。その雰囲気と「提督」という呼称から、マイラスはこの女性は艦娘だと確信した。しかも、この女性はどうやら古くから堺と付き合いがあるらしい。
紅茶が出され、"伊勢"が引き下がってドアを閉めた後で、堺はソファーに腰を下ろした。
「マイラス殿は、こちらにいらっしゃってから、もう3ヶ月以上経ちますな。如何ですか、我が国は?」
「はい、素晴らしい国だと思っております。
我が国ムーは、これまで“世界で唯一の科学文明国家”として、また世界五列強の2番手として、“世界に誇れる技術”を持とうとしておりました。しかし、貴国、ロデニウス連合王国という優れた科学技術を有する国家と国交を持ち、貴国の書物を読み漁ったり直に見たりすることで、我々の技術も“まだまだだ”と思い知らされました。国へ帰ったら、是非ともここで見たものや得た知識を投入して、我が国の技術を進歩させたいものです」
そう言うと、マイラスはテーブルに置かれた紅茶を手に取り、カップを傾けて一口飲んだ。独特の香りと
「左様でございますか。我々も、貴国ムーの技術、特にテレビ放送関係の技術にはお世話になっております。『一家に一台テレビを普及させる』ということを目標としているようですが、なかなか進んでいないのが現状です。テレビ自体はどうにかなりそうなのですが、いかんせん“放送局”というものがないので……。ムーへお帰りになりましたら、ここで学んだ知識や技術を、是非とも役立ててくださいませ」
堺のこの発言を聞いて、マイラスはカップをソーサーに置いた。
「はい、ムーの技術を更に発展させていこうと思います。ところで、本日は何をお伝えしたいのでしょうか。“重要な話がある”と伺ったのですが」
「おっと、これは失礼しました。ついつい余計なことを聞いてしまいましたね」
ここまで笑顔で喋っていた堺だったが、ここで不意に表情を真面目なものに変えた。
「それではマイラス殿、お話し致します。どうか驚かずにお聞きください」
「はい、何でしょうか?」
マイラスは、気を引き締めた。
「単刀直入に申し上げます。我々ロデニウス連合王国は、パーパルディア皇国本土に対して『戦略爆撃』を行うことを計画しています。戦略爆撃とは、敵国の政治や経済の中枢となっている都市や工場、港、物資の集積所などといった重要な拠点を、“爆撃によって破壊し、その機能を喪失させること”です。
我々ロデニウス連合王国軍は、これまで“パーパルディア皇国の軍人や属領統治機構の職員”にしか危害を加えてきませんでした。しかし、これが実施されれば、"軍とは直接関係のない民間人”も、戦禍に巻き込まれることになります。ここまではよろしいでしょうか?」
「はい。続きをお願いします」
堺にそう言いながら、マイラスはフルスロットルで頭を回転させていた。
やはりロデニウス連合王国軍は、パーパルディア皇国に対して「戦略爆撃」と称する
だが、だとしたら何故、堺はこのことを私に話すのだろうか。これは、ロデニウス連合王国軍にとっては対パーパルディア戦略上の重要な機密情報のはずだ。そんな大事な情報を何故、私などに明かしたのだろうか?
そう考えた時、マイラスは一つの可能性に気付いた。
(もしかして……)
だが、マイラスがそれを考え切る前に、堺が口を開いた。
「そこでマイラス殿、貴方にお願いしたいことがございます。
パーパルディア皇国内にいるムー国民を、パーパルディア国外に脱出させるよう、大使館を通じてムー政府に働きかけていただけないでしょうか?」
(やはりか……!)
堺の話を聞き、マイラスは確信した。
もう疑う余地はない。パーパルディア皇国内にいるムー国の民は
「我々としても、パーパルディア皇国民はともかくとして、『パーパルディア皇国内にいる貴国の民』に危害を加えるわけにはいきません。そして、我々の技術や軍事力をよく知っていらっしゃる貴方ならば、貴国の政府に貴国の民の脱出を働きかける際に、
ムー政府に直接お伝えしたい、とも思うのですが、私も職務があります故、なかなかここを離れる訳にもいかないので、“厚かましいお願い”であることは承知の上で、貴方にお願いしたいと思ったのです。マイラス殿、どうかお願い致します」
堺は、深々と頭を下げた。
マイラスは、慌てて堺に声をかける。
「堺殿、頭を上げてください。承知しました、この情報、確かにムー政府にお伝えいたします。それと堺殿、一つだけお伺いしてもよろしいですか?」
「はい、何でしょう?」
「堺殿、貴方が“対パーパルディア戦争のロデニウス連合王国軍総司令官”であると見做しても良いのでしょうか? ムー政府に伝えるにしても、『ロデニウス連合王国軍の幹部級から“確かな言質”を取った』などの
堺もすぐ、マイラスの言いたいことを理解した。
「パーパルディア皇国との戦争に関しての戦略…特に、パーパルディア皇国本土への侵攻作戦は、私が考えております。ですので、このようにお伝えください。『対パーパルディア戦略を全面的に請け負っているロデニウス軍の参謀長から、確かな言質を取った』と」
「はい、ありがとうございます! では、すぐに大使館の方に伝えて参ります」
マイラスは、素早く出された紅茶を飲み干して退室しようとした。それを見て、堺が声をかける。
「心苦しくはありますが、どうかお願い致します。それと、作戦開始まではあまり時間的猶予がないと思われますので、できる限り早い対応をお願い致します」
「承知しました、その情報もお伝えします。堺殿、ありがとうございました!」
「いえいえ、とんでもない。今度は、できれば時間を取ってゆっくりお話したいものですね」
「同感です。それでは、失礼しました!」
紅茶を飲み終え、マイラスは慌しく退出した。
その1時間後、タクシーを
マイラスが尋ねてみると、ユウヒもロデニウス連合王国外務部に呼び出され、リンスイ外務卿から直々に『パーパルディア皇国内にいるムー国民を、国外に退去させて欲しい。パーパルディア皇国と我が国との戦争に関して、貴国の民が巻き込まれる危険があるので』と伝えられたという。全く同じ情報が、
二人は、この情報を即座にまとめると、通信室へと駆け込むのだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇
ムー国では、一時の休憩を挟んで緊急会議が続けられている。
しかし、決定的証拠を欠いているために議論は平行線を描く状態となっていた。そして、双方が焦りの感情を抱いている。何か、新たな情報は入りはしないか…
その時、バァン! と勢い良くドアが開けられ、息を切らした職員が飛び込んできた。
「はぁ、はぁ……ロデニウス連合王国外務部から、我が国大使館に緊急要請がありました! ……はぁ…パーパルディア皇国内にいる我が国の民を、はぁ、至急国外に脱出させて欲しい、とのことです! ……はぁ…パーパルディアとロデニウスの戦禍に巻き込まれるのを防ぎたいと……はぁ、ロデニウス外務部トップのリンスイ卿が仰ったとのことですっ!
それと…はぁ…、同時にマイラスさんからも新たな情報が! ロデニウス連合王国軍は、パーパルディア皇国本土に対して無差別爆撃を実行するつもりです! 対パーパルディア戦略を請け負っている参謀長クラスの幹部から言質が取れた、とのことです!」
「「「「「!!!」」」」」
この情報を聞くや、ムー統括軍幹部たちとムー外務省の幹部たちは、一斉に動き出した。
「来たか! オーディグス殿、国王陛下に上申をお願いします! 我々は、軍の高速輸送船と手空きの輸送機を動員できないか検討します!」
「分かりました! ではこちらも、すぐ手空きの旅客機を手配します。
おい、第三文明圏周辺にいる我が国の商船や輸送船を全部リストアップしろ! そして、大至急この件を伝えるんだ!」
「承知しました!」
確実な証拠が手に入り、方針が決まれば、行動は早い。
ムー統括軍とムー国外務省は、パーパルディア皇国内にいる自国の民を救うため、行動を開始した。
◆◇◆◇◆◇◆◇
そして、中央暦1640年5月16日。
ロデニウス連合王国軍の手によって、パーパルディア皇国の支配を脱し再独立したアルタラス王国では、今日も国民たちが再建のためせっせと働いている。ムー国が建設したルバイル空港では、ロデニウス陸軍工兵隊による補修工事がほぼ完了し、最後の調整テストが行われていた。
そんなアルタラス王国の王都ル・ブリアスの南部にある港には、完全に港を覆い尽くすほどの大艦隊が集結していた。いずれも、ロデニウス連合王国海軍の艦隊である。
以前「タスフラワー作戦」に動員された艦隊のうち、第1・第2艦隊からの派遣部隊はアルタラス島を撤収して、ロデニウス連合王国本土へと帰投していた。第3・第4艦隊からの派遣部隊はアルタラスに留まり、訓練を兼ねて哨戒任務に就いている。更に、第3艦隊からは新たな戦力が本土を出撃し、アルタラス島とシオス島の防衛任務に就くこととなっていた。
そして第13艦隊の派遣部隊は、新たな艦艇を加えてパーパルディア皇国本土に侵攻する計画を立て、準備に余念がない。航空母艦からは戦闘機や攻撃機が発艦を繰り返して訓練に明け暮れ、戦艦部隊も時折砲を沖合に向けて、砲撃訓練を行っている。兵士たちは皆、いよいよ“対パーパルディア戦争に終止符を打つ時が来た”ことを悟っており、自らもこの戦争の幕引きの一助にならんとして、士気は極めて旺盛であった。
そんな5月16日、アルタラス王国に戻ってきて「トワイライト作戦」及び「チェックメート作戦」の準備をしていた堺は、ル・ブリアスの一角にある広場でとんでもないものを目撃した。
「!? ライアル殿、これはいったい……?」
「おお堺殿、良いところに。先日の実験は大成功に終わりましてな、それで今回はこんなものを用意しました!」
得意そうに言うライアルだが……堺には、いったい何がどうしてこうなったのやら理解ができなかった。
彼の目の前に展開していた光景は、端的に言えば「ほぼ全裸に剥かれた何人もの男たちが、手術台のような台に乗せられて大の字に縛り付けられ、白日の下に晒されている」というものだったのだ。
現代の地球に生きる人々からすると、「何を言っているのか全くわからねー」と思うだろう光景だが、堺が見たものを端的に表現すると、これしか表現が思いつかない。
「ええと、ライアル殿、これはどういう……?」
「見てお分かりになりませんかな? こやつらは皆、パーパルディア皇国のアルタラス統治機構にいた糞共です。これまで、散々やりたい放題やっていたのだから、今度はこっちの番だ、ということでしてな」
「ええ……」
堺は、完全にドン引きしている。
「ちなみに、」
とここで、ライアルは堺に耳打ちするように告げた。
「これは全て、国王陛下の承認をいただいたものです」
「ファッ!?」
堺は最早、絶句するしかできなかった。
(なるべく生きたまま捕縛して引き渡してくれ、って言われたからその通りにしてみたが、こうなるとはな……。そして国王陛下ってまさか……。ひえぇ……あのお嬢さん、結構えげつないこと考えるのね)
堺がそう考えている間に、ライアルは広場の片隅に用意されていた木製の舞台に上がっていた。そして、何事かと集まっていたル・ブリアス市民たちに対して、声を張り上げる。
「お集まりの市民諸君、兵士諸君! 私は先日、アルタラス独立戦の際に捕らえた、パーパルディア皇国統治機構の職員たちについて、ルミエス陛下から『国民が好きに彼らを裁いて良い』というお許しをいただいた! そこで今回、このような場を用意させてもらった。
これまで散々好き放題されてきたのだ、今度はこちらが“それをお返しする”だけだ!」
「「「「「うおおおおおおお!!」」」」」
なんと、ライアルのこの発表を聞いたアルタラス市民たちからは、歓声が上がっている。その一方で、縛られたアルタラス統治機構の元職員たちは、一様に青い顔をしていた。
(うわー……。こりゃ完全に国家公認の
堺はただ、アルタラス統治機構の職員たちを哀れむことくらいしかできなかった。
「それでは、お手本をお見せしよう。こちらに……」
と、ライアルは舞台の上の手術台に乗せられた男を示した。
「ここに、アルタラス統治機構の長官に来て貰っている。“国民がこやつらを好きにして良い”とのことなので、今から私が『手本』をお見せする。使う道具は、これだ!」
ライアルは、棒状の物体を振り
「やり方は簡単だ。これを点灯して……」
言葉とともに、ライアルは起動ボタンを押す。半透明になっていた刃の部分が、青白い光を放った。
「例えばこうして……」
説明しながらライアルは統治機構長官……シュサクの下半身の方に回り込んだ。そして、スタンブレードを大上段に振り被る。
「おい、何をする!? 止めろ、よせ!」
シュサクが視線を動かして必死に叫んだが、その声は何らの影響も及ぼさなかった。
「こうする!」
その声とともに、ライアルは手にしたスタンブレードをシュサクの股間めがけて振り下ろした。情けも容赦も手加減も、全く存在しない。
バチバチバチバチッ!!
「ギャアァァァアァァアアァァァッ!!!」
刀身から青白い電撃が迸り、シュサクは凄まじい悲鳴を上げた。
何が起きたかを察し、堺は思わず自分の股間を押さえる。
(うわっー、えげつねえぇぇぇ! ライアル、よりにもよって……! アレは、起動すると10万ボルトの電流を流せる代物だぞ!? これじゃ、どう足掻いてもアイツのイチモツは使い物にならん……! 体のどこかしらを叩くのだろうとは予想してたが、よりによって“そこ”を叩くか……!)
堺がそんなことを考えている間に、ライアルは説明を終えていた。
「さて……この素晴らしい器具は、残念だがそんなに数がない。よって、1人当たり10回叩いたら、次の者に交代だ! 誰でもよい、10回叩いたら次の人にこれを渡すこと! それ以外に自前で何か道具を持ち込むのであれば、それも良い! さあ、“復讐の楽しみ”を思う存分味わうのだ!」
(うわぁ……。ということは、あの時副長官に行われた実験は、言うなれば「玉潰し」だったんだな……)
広場にそっと背を向けて港の方へと歩きながら、堺はそんなことを考えていた。その彼の背後からは「グワーッ!」「アッーーーー!!!!」という、男たちの凄まじい悲鳴が次々と響いてきていた……
◆◇◆◇◆◇◆◇
その頃、タウイタウイ泊地の講堂では、軽巡洋艦艦娘"
「では、これより発表します。まず、アサマ作戦の遂行に関して、アルタラス臨時泊地へ向かうよう命令が出されたのは…軽巡洋艦"
艦娘たちは真剣な表情で、"大淀"の話を聞いている。
「続いて、アサマ作戦3合目『スターボウブレイク作戦』に参加する方の発表です。戦艦"
続くアサマ作戦4合目『ブレイジングスター作戦』には、『トワイライト作戦』及び『チェックメート作戦』に参加している艦艇から、戦艦"
"大淀"から指名を受けた艦娘たちの反応は様々だ。だが、誰にも共通して言えることとして、“「戦意」と「覚悟」が宿っている”ということが上げられた。
艦娘とは、基本的には「戦うこと、或いは守ること」を
……いや流石に、戦闘を「素敵なパーティー」呼ばわりするような者は少ないが。
「また、アルタラス島とシオス島の防衛任務を発令されている者がいます。航空戦艦"
更に追加で、提督はアワン王国の防衛も決定しています。重巡洋艦"
その他の者は、ロデニウス海軍の他の艦隊と連携して、ロデニウス本国の守備をお願いします。では、以上で解散。出撃を命じられた者は、直ちに出撃の準備にかかってください。なお、補給については別途艦隊が送られるので、気にしなくても結構です」
"大淀"の解散宣言に、敬礼で答える艦娘たち。
こうして「アサマ作戦」の準備は、着々と整っていた。
◆◇◆◇◆◇◆◇
その翌々日、中央暦1640年5月18日。
パーパルディア皇国の皇都エストシラント北西部にある大使館街。その一角にあるムー国大使館では、パーパルディア皇国駐在ムー大使ムーゲが、召喚状を受け取っていた。差出人は、パーパルディア皇国・第1外務局になっている。
「大使閣下、これって……」
「ああ。間違いなく、昨日の一件絡みだな」
召喚状の文面をちらっと見た、大使館職員の1人が言う。ムーゲも文面を見て、すぐにぴんと来ていた。
昨日5月17日、ムー国政府は自国民に対して、『パーパルディア皇国への渡航制限を課す』ことを発表した。また、パーパルディア皇国内にいるムー国民に対して、『パーパルディア皇国からの国外脱出』を命じたことを明らかにしたのだ。今回のパーパルディア皇国からの呼び出しは、おそらくそれが原因だろう。
ムーゲはかつて、神聖ミリシアル帝国との外交を担当したことがあり、それ以外にも多数の国家との外交を担当してきた、超が付くほどのベテラン外交官である。その長い外交官生活の中で、彼はムー統括軍の情報通信部にもコネを作っており、情報通信部が得た情報を教えて貰って、“相手国の文明レベルを推し量るスキル”を身に付けていた。
今回、“パーパルディア皇国がロデニウス連合王国と開戦した”というニュースを聞いた時、ムーゲはさっそくロデニウス連合王国について、情報通信部から情報を得て分析してみた。その結果、彼はとんでもない結論に達したのである。
彼の出した結論は、「ロデニウス連合王国は、国土こそ第三文明圏外に位置しているものの、文明レベルや技術レベルは周辺国どころかパーパルディア皇国のそれをも遥かに凌ぎ、ムーのそれすら上回るほどの物を有している」というものだった。
例えば、ロデニウス連合王国には“200万台もの車がある”という情報がある。ムーゲは基本的に、軍事や技術については畑違いではあるが、「自国の車の保有台数」くらいは把握している。それに照らし合わせて見ると、ロデニウスの技術がムーのそれに匹敵している、という情報は“本当である”と彼は思っていた。
それ以外にも、彼は最近軍の技術士官の中でも期待の新星とされる、マイラスとも懇意にしている。マイラスは、ロデニウス連合王国の技術について色々と話してくれるのだが、残念ながらムーゲは、マイラスの話の内容を全て理解できているとは言い難い。が、それでも、『ロデニウス連合王国の技術がムー国のそれより優れている、我々はそれを積極的に取り込んでいかなければならない』と、マイラスが言おうとしていることくらいは分かっていた。
ムーゲはこれらの情報から、“パーパルディア皇国は、ロデニウス連合王国に
そして昨日、ムー政府から『ムー国民をパーパルディア皇国国外に脱出させよ、そしてそれを確認した後、大使館も一時引き上げよ』という命令を受けた時、ムーゲは“これは至極当然の措置だ”と考えた。
ロデニウス連合王国とパーパルディア皇国との戦争は、局地戦から全面戦争へと移行し、しかも殲滅戦となっている。つまり、ロデニウスかパーパルディアのどちらかの国民が皆殺しになるのである。
ムーゲはとっくに、この戦争の行く末を見切っていた。十中八九、ロデニウス連合王国軍がパーパルディア本土にまで侵攻し、パーパルディア皇国が殲滅される、と踏んでいたのである。それに伴い、“自分自身も含めてパーパルディア国内にいるムーの民が危うい”と彼は思っていた。そのため、昨日政府から通達が来た時、既に彼は全力を上げて、ムー国民を国外脱出させようとしていたのである。
そんな中にあっての、パーパルディア皇国からの呼び出し……もう間違いなく、“ムー国民の国外脱出”に関して
「明日、私が第1外務局に行く。すまんが、それに関して共に来て貰えるか? 補佐を頼みたい」
「大使閣下がそう仰るなら、私もお供します」
こうして、ムー大使ムーゲは職員2名と共に、第1外務局に出頭することとなった。
途中に出てきた堺の提督室の内装描写ですが、「艦これ」の執務室模様替えのページを使って、以下のように家具を揃えていただければ、再現できます。
壁紙→「軍艦色の壁」
床→「ブルーカーペット」
椅子+机→「提督の机」
窓枠+カーテン→「青カーテンの窓」
装飾→「航空母艦ステンドグラス」
家具+棚→「鎮守府お茶会セット」
あと、1発ネタとして仕込んであったのは、「ニンジャスレイヤー」と「くそみそテクニック」でした。
次回予告。
パーパルディア皇国の第1外務局に召喚された、パーパルディア駐在ムー大使ムーゲ。ムーがロデニウス連合王国に加担していると勘違いして、ムーゲに詰め寄るパーパルディアの皇族レミールに対し、彼は、ゆっくりと真実を打ち明ける…
次回「勘違いの皇国」