鎮守府が、異世界に召喚されました。これより、部隊を展開させます。   作:Red October

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はい、今回は空爆が終わった後の人々の反応の話です。



053. 空爆と、その後

「うう……」

 

 中央暦1640年5月28日午前7時頃、パーパルディア皇国皇都エストシラント北部、皇都防衛隊基地。

 色々なモノが積み上げられたその中に、小さく呻き声が響いた。

 よく見ると、()(れき)が積み重なったその下に、狭いながら空間ができており、そこに1人の女性が倒れていたのだ。形だけみれば、生き埋めになっているとしか見えない。

 パリッとした、黒っぽい衣服を着たその女性は、上衣の左の胸のところに勲章らしきものを2、3個付けていた。それに、その衣服はどう見ても布地がかなり上質のものである。少なくとも、この女性はそこそこの身分にはあるようだ。

 

「はっ!?」

 

 その女性、皇都防衛隊の女性魔信技術士パイは、瓦礫の中で意識を取り戻した。

 周囲は薄暗い。

 

 パイは、自分がいったい何をしていたのか、思い出そうとする。が、その途端、全身が悲鳴を上げるかのように痛みはじめた。

 

「ううっ……」

 

 痛みに微かに呻き、その拍子に彼女は思い出す。

 

(そうだ! 確か、ロデニウス連合王国の飛行機械らしきものが多数飛んできて、それが、何か黒い物をたくさん基地に落として……)

 

 そして彼女は、すっかり思い出した。

 皆が逃げろ逃げろと叫ぶ中で、彼女は少しまごついてしまい、それによって逃げ遅れたのだ。

 皆の叫びに混じって、何やら笛のような甲高い音がだんだん近付いてきた、と思った直後に、猛烈な突風が吹き、炎が上がるのが一瞬見えた。その直後、彼女は吹き飛んできた誰かと正面衝突して、気を失ったのだ。

 意識が飛ぶ寸前に、強烈な爆発音と何かが崩れるような音を聞いたように、彼女には感じられた。

 

 どうやら、ロデニウス連合王国軍が自分のいる建物に対して、空から投下した黒い物を当てたらしい。そのゴタゴタに、自分は巻き込まれたのだ。

 

 周囲を見渡したついでに、彼女の視線は上にも動き…そこで彼女は目を止めた。

 

「! 光!」

 

 僅かにではあるが、上から光が差し込んできている。どうやらそこからなら、この薄暗い空間から出られそうだ。

 パイは、試しに右腕を動かしてみる。痛むことは痛むが、右腕はちゃんと動く。

 

「よかった、骨折なんかはしていないみたい……」

 

 左手、両足と動かして見て、彼女は呟いた。そして少しずつ身体を起こし、光の下まで這っていく。

 悲鳴を上げる身体を引きずるようにして、彼女はどうにか光の下まで辿り着いた。見ると、瓦礫らしきものの隙間から光が差している。

 パイは利き腕である右腕を伸ばし、その瓦礫を押してみた。するとどうだろう、瓦礫は微かに動くではないか。

 ここから、出られるかもしれない!

 

「誰か……助けて!」

 

 パイは隙間に顔を押し当て、出せるだけの声を出してみた。といっても、痛みのせいであまり大きな声は出せなかったが。

 ここは皇都防衛隊の基地だ。ならば、付近に誰かがいるはず。声さえ届けば、誰かが来てくれるはずだ。

 

 しかし、彼女の願いも虚しく、しばらく待っても誰も来なかった。だが、彼女はその程度で失望したりはしない。

 

(そっか、きっと敵の更なる攻撃を警戒して、その迎撃のために皆忙しくしてるんだわ。それなら、ここから自力で、出なくちゃ、ね……!)

 

 考えるが早いか、彼女はすぐに腕で瓦礫を押し始めた。そのため、彼女の思考の最後の部分は途切れ途切れになった。

 

「うぅ……ん……!」

 

 瓦礫らしきものは思ったより重い。だが、パイは出せるだけの力を込めて、瓦礫を押し続ける。

 しばらく押すと、どうにか自分が出られそうな隙間を開くことに成功した。微かに青空が見えている。敵は飛んでいないようだ。

 

「ん……んんん……!!」

 

 パイは、何とかしてその隙間から這い出ようと、体をくねらせる。

 彼女の衣服が瓦礫と擦れあい、摩擦音がして彼女の衣服が所々破れる。

 外に出たら、恥ずかしい視線を浴びるかもしれないが、命に衣服は代えられない。

 

「もう、少し……!」

 

 そしてパイは、まずどうにか瓦礫の外に両手を出した。それを隙間の縁にかけ、ありったけの力を振り絞って身体を引き上げる。

 

「やった……!」

 

 やっとのことで、パイは隙間から抜け出すことに成功した。

 が、その途端に彼女は愕然とした。

 

「うそ……何これ……?」

 

 彼女の眼前に広がっていたのは、皇都防衛隊の基地…ではなく、その残骸だった。

 目に映る限りの全ての建物が完全に破壊され、無数の大小の瓦礫と化して地面に崩れ落ちている。司令部が入っていた豪華な装飾を施された石造りの建物も、さっきまで多数のワイバーンオーバーロードを収容していた竜舎も、リントヴルムのいる竜舎も、滑走路を見渡す管制塔も、どれ一つとして原形を留めていない。

 おまけに、滑走路は人の手が入っていない荒れ地のように、デコボコになっていた。これではとても、ワイバーンオーバーロードの発着などできない。残骸の多くは、煙を上げて燻っていた。

 そして、彼女の他は誰もいなくなっていた。動くものは何一つ見当たらない。

 

「こんな……こんなことが……!」

 

 列強たるパーパルディア皇国陸軍の中でも最強の皇都防衛隊が……圧倒的な制地力を持つ地竜リントヴルムも、牽引式の野戦用魔導砲も、それを運用し他国に圧勝し続けた魔導砲兵団も、マスケット銃を持つ歩兵部隊も、極めて高い制空能力を持つワイバーンオーバーロードでさえも、全てが撃滅され、消滅してしまったのだ。

 それも、たった1日の僅かな間に。

 

 パイは今まで、これほどの大規模破壊をもたらす存在を知らなかった。しかし現に、彼女の目の前には壊滅した皇都防衛隊基地が広がっている。

 それはつまり……"ロデニウス連合王国軍が、皇都防衛隊を遥かに上回る力を有し、凄まじいまでの破壊すら容易にやってのけるのだ"ということを、如実に証明していた。

 

「そんな……そんなっ……!」

 

 魔信技術士パイは、すっかり壊滅した皇都防衛隊の基地を呆然と眺めることしかできなかった。

 

 

 その頃、皇都の中でも高級住宅街に当たる、皇宮パラディス城から見て北の一角。そこに建てられた、パーパルディア皇国政府幹部クラスの面々が住まう数々の豪邸。

 そのうちの1つ、レミール邸では、ロングの銀髪が目立つ若い女性……レミールその人が、自室のベッドに飛び込んだところだった。彼女はうつ伏せにうずくまり、布団を上から被っている。ベッドの外から見れば、芋虫のようにも見える。

 

 レミールは激しく怯えていた。歯の根が合わず、顔は真っ青、肩は震え、心臓はバクバクと早いペースで鼓動し、背中は冷や汗でびっしょり濡れている。

 彼女がこうなった原因は、ついさっき起きた出来事にあった。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 それは少し前、日時にして中央暦1640年5月28日の午前6時過ぎ。

 レミールは、自分が処刑される悪夢を見て目を覚ました。これは誰でもそうだが、悪夢を見た後というものは、得てして気分が悪いものである。

 レミールは気分を変えようと、自室の窓に向かって歩いていった。窓を開け、部屋の換気のついでにバルコニーに出て皇都の朝の景色を見る。

 

 今日の朝は、透き通るような青空がどこまでも広がっている。もう夏ではあるが、この時間はまだ空気が少し涼しく、過ごしやすい。耳を澄ませば、いつもと何ら変わらぬ小鳥たちのさえずりが聞こえてくる。

 

 レミールは両腕を頭の上まで振り上げ、思い切り伸びをした。その直後に、腕を下ろしながら深呼吸をする。気持ちいい。

 今日の皇都の朝も、平和に流れていきそうだ。とても、ロデニウス連合王国が攻撃してくるとは思えない。

 

 レミールは空を見上げる。するとそこには、皇都防衛隊の誇る「世界最強の竜」ワイバーンオーバーロードが、編隊を組んで飛んでいた。警戒飛行中なのだろうその姿は、力強く、誇り高く、そして美しい。

 それを見ていると、やはりパーパルディア皇国は第三文明圏において最強の国家なのだ、ということが実感できる。

 

(考えすぎだったかな)

 

 レミールはふと、そんなことを考えた。

 自分は、ムー大使の言葉を真に受け過ぎていたのかもしれない。

 皇軍最高司令官アルデから話を聞いたが、ワイバーンオーバーロードはこれまでの主力たるワイバーンロードとは比較にならぬ空戦能力を持ち、ムー国の最新鋭戦闘機「マリン」に対しても戦える、とのことだった。例え、ロデニウス連合王国がムーの最新兵器を使用して戦いに来たとしても、戦って撃退できるだろう。

 

(ロデニウス連合王国、か……。ふん、これだけの数のワイバーンオーバーロードが、それも最強クラスの練度を誇る皇都防衛隊が守るこの街に、何ができるというのだ?)

 

 レミールはそう考えていた。

 その時、上空を舞っていた20騎ほどのワイバーンオーバーロード隊が、編隊を保ったまま一斉に向きを変えた。そのまま南の空に飛んで行く。

 

「美しいな。流石だ」

 

 レミールが素直に称賛した時…異変は起こった。

 そのワイバーンオーバーロード隊を追いかけるように、次々と多数のワイバーンオーバーロードが、南に向けて飛んで行くのが見えたのだ。

 

「……えっ? な、何?」

 

 これには、流石のレミールも驚いた。

 訓練…のようにも思われたが、そうではないらしい。ワイバーンオーバーロードの飛び方が、少しおかしかった。脇目も振らず一目散に南へ向かっているような印象を、レミールに与えてきたのだ。

 

「何か、あったのか?」

 

 呟いた時、レミールは妙な音がするのに気付いた。それは決して、ワイバーンの鳴き声や羽音などではない。

 

ブオオオオォォォォン……

 

 全く聞いたことのない、不思議な重低音。

 その時、どこか遠くから、ドオォォン……という爆発音が響いた。同時に、上空を飛ぶワイバーンオーバーロードが、口内に火球を生成し、導力火炎弾として発射する。

 

「え!?」

 

 レミールが、その音とワイバーン隊の行動の意味を図りかねた時。

 

 「それ」は、レミールの視界にその姿を見せた。

 

「な、何だあれは!?」

 

 驚愕のあまり、レミールは叫ぶ。

 それは、ムー国の戦闘機「マリン」など比べ物にならないような、洗練された形状の戦闘機。レミールは知らなかったが、これらは皇都北の基地を攻撃する部隊に随伴してきた、護衛の「一式戦 (はやぶさ) Ⅲ型甲」と、「零式艦戦21型(熟練)」、「零式艦戦52型(熟練)」であった。

 

「うそ……!?」

 

 レミールの目の前で、それらの機体はワイバーンオーバーロードを追い回し、片っ端から撃墜していく。

 ワイバーンオーバーロードは、時速430㎞の最高速度で後ろを取ろうとするが、全く取れない。それもそのはず、これらの戦闘機は時速500㎞は余裕で出せるのである。

 逆に戦闘機は、あっさりとワイバーンオーバーロードの後ろを取り、機銃掃射を浴びせて撃墜し、人肉と竜肉の混成ミンチの塊を次々と製造していた。

 

「こ、皇都防衛隊が……! 最強を誇る皇都防衛隊が、次々とやられている……!? まさかこれが、ロデニウス連合王国の真の力だというのかっ!?」

 

 レミールは、完全にパニックに陥っていた。

 その間にも、ワイバーンオーバーロードは片っ端から撃墜され、血を撒き散らしながら市街地に落下してくる。まだこの辺には落ちていないようだが、市街地の南の方など、相当数が落下しているに違いない。

 

 レミールは、「皇都を守る最強の部隊である皇都防衛隊が、負けるはずがない」という、根拠のない自信を持っていた。しかしそれは、目の前に展開する光景によってバラバラに打ち砕かれる。

 第1外務局へ行かなければならないということは、理解している。今、皇都エストシラントは明らかに攻撃を受けているのだ。

 だがレミールの足はガタガタ震え、全く言うことを聞かない。しかもレミールの背中はびっしょりと、汗に塗れている。それに気付き、レミールはショックを受けた。

 

(まさか! この私が、怯えて震えている……!?)

 

 そこへ、

 

グオオオオオオオン……

 

 別の重低音がして、その戦闘機より遥かに巨大な飛行機械(「一式陸上攻撃機」と「(ぎん)()」である)が、何機もレミールの邸宅の上を通り過ぎていく。

 その巨大な飛行機械に向かおうとするワイバーンオーバーロードはいない。戦闘機に追い回され、自身を守るので必死なのだ。

 

「くっ! 何をする気だ!?」

 

 レミールが見上げていると、その巨大な飛行機械たちは、レミールの頭上を素通りして北に向かっていった。が、その方角には皇都防衛隊基地がある。

 

「まさか、皇都防衛隊の基地を攻撃する気か!?」

 

 レミールが見上げる中、ほとんど何らの抵抗も受けることなく、その巨大飛行機械の群れは基地上空に到達し、そこから黒い何かを大量に投下した。

 

ヒュウウウウウ……

 

 笛の音のような甲高い音が、幾つも響く。レミールの本能は、激しく警戒警報を鳴らした。

 

「ああ……ああ……!」

 

 レミールの口から悲痛な声が漏れる。

 次の瞬間、黒いものが落下した皇都防衛隊基地から、猛烈な炎と黒煙が幾つも連続して噴き上がった。何かの瓦礫らしきものも、一緒に宙に舞い上がる。

 あれでは、おそらく基地にはとんでもない被害が出ているだろう。

 

 もはやレミールは立っておれず、その場に屈み込んだ。

 足も身体も、震えが止まらない。

 

 自分は責任のある立場だ。今すぐにでも、第1外務局へ向かわなければならない。それはレミールも分かっている。

 しかし、ロデニウス連合王国は予告通りに攻撃してきた。それも、皇都防衛隊が最大級の警戒を行う中を「防衛隊の守り」に正面から挑んで、堂々とそれを突破してきたのだ。そして、皇都防衛隊の守りを突破するその姿を、エストシラントの市民たちにまざまざと見せ付けながら、皇都防衛隊基地に攻撃を行った。

 圧倒的すぎる力である。

 

 しかも、だ。これは、「パーパルディア皇国の皇都を火の海に変え」、「パーパルディア皇国本土を戦火に晒す」、その前段階の攻撃でしかない。現に、敵の陸軍が上陸してきた様子はなさそうだ。

 ロデニウス連合王国軍は、そんな前段階だけでこれほどの力を振るうことができる。守りを固めた皇都防衛隊をあっさりと食い破るだけの力を。ならば、“本気の侵攻”が始まった時にはどうなるか、予想もできない。

 

 そして、それら全ての元凶はレミールである。何故ならロデニウス連合王国に対して殲滅戦を宣言したのは、他ならぬレミールその人であるからだ。

 

(ロデニウス連合王国は怒り狂い……血眼になって私を探している……!)

 

 そう考えると、レミールはとても怖くなり、居ても立ってもいられなくなってしまった。そして、震える足を引きずるようにして、自室のベッドへと戻っていった……

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 そして今、午前7時に至る、というわけである。

 ベッドに潜り込んでいるレミールを他所に、市街地は騒然となり、あちこちで人々の怒号や悲鳴が響いていた。

 

「レミール様! レミール様!」

 

 そんな中、レミールの邸宅に配属され、レミールに仕えている女性メイドのうちの1人が、彼女の部屋の戸を叩き、外から呼びかける。

 

「!!」

 

 レミールはハッと我に返った。こんな姿をメイドに見られては堪らない。

 

「レミール様!」

「聞こえているぞ、今行く!」

 

 レミールは、ありったけの精神力を振り絞った。

 そして、震える足をどうにか動かして、できるだけ急いで戸の前まで移動する。

 

「何だ!?」

 

 扉を僅かに開け、彼女は顔だけをドアから出してメイドに尋ねた。

 

「第1外務局から、すぐに来て欲しい、との連絡が入っております」

「分かった。すぐ向かうから少し待て、と伝えろ!」

「はい!」

 

 メイドが引き返していく足音を聞きながら、レミールは着替えを始めた。だが、彼女の頭は大混乱を来たしている。

 ムー大使の話は、少なくとも飛行機械については本当だったのだ。ロデニウス連合王国は、ムー国のそれを遥かに上回る性能を持った戦闘機を投入し、皇都防衛隊の守りを突破して攻撃してきた。でなければ、ワイバーンオーバーロードがあんなにあっさりやられるはずがない。

 こんな強大な相手を前に、今後どうすべきか、という対応は全く思いつけない。

 レミールの思考は、恐怖に固まっていくのだった。

 

 

 一方、皇宮パラディス城では各外務局や皇軍司令部をはじめ、各部署が混沌を極めていた。特に皇軍司令部など、大量の情報が飛び交い、混乱が混乱を生んでいる状態である。

 

「軍港、現在もなお攻撃されています! 被害は甚大の模様!」

「皇都防衛隊基地、通信途絶!」

 

 もうめちゃくちゃである。

 皇軍最高司令官のアルデは、頭を抱えるばかりだ。

 

「できる限り正確な情報を集めろ! 味方の被害と、敵に与えた被害の情報が欲しい!」

 

 アルデは部下に指示を飛ばしたが、どこまで正確な情報を手に入れられるかは分からなかった。

 

(ちくしょう、これじゃ敵はムーよりも強力なんじゃないか!?)

 

 アルデは、そんなことを考えていた。

 皇軍司令部の窓から市街地南側を見れば、海岸線の辺りはもうもうと黒煙が立ち込めて海が見えない。皇都の北側からも同様の黒煙が上がっている。その上を、敵の航空機が乱舞していた。

 

「皇都防衛隊と海軍の被害の把握を、急ぎたいところだな……」

 

 アルデはそう呟いたものの、現状彼にできることは少なかった。

 

「海軍本部の方はどうなっている!?」

「それが、魔信が途絶しております! 呼びかけても応答がありません!」

 

 幹部が冷や汗をびっしょり掻きながら、アルデの疑問に答えた。

 それもそのはず、この時既に海軍本部は妖精ルーデルの爆撃で倒壊しており、海軍総司令官バルス、作戦参謀マータル以下職員一同が総員戦死または行方不明となっていたからだ。だが、アルデたちが知るはずもない。

 

「なんてことだ、海軍本部との連絡も取れないとは! やられていなければ良いが……」

 

 市街地にまで空襲警報のサイレンが鳴り響く中、アルデは大きな不安を抱くのだった。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 そして、中央暦1640年5月28日午前10時。

 “敵機はどうやら全て撤退した”と判断され、エストシラント全域に発令されていた空襲警報は解除された。

 エストシラントの市民たちにとっては、この日は“最悪の朝”となったわけであるが……パーパルディア皇国上層部の悪夢は、ここからだった。

 

 

「な、何だこれは……!」

 

 緊急招集を受け、エストシラント市内の自宅からすっ飛んできた、パーパルディア皇国陸軍予備役少佐ピグマは、皇都防衛隊基地に到着して唖然としていた。

 防衛隊基地はもはや、基地「跡地」と称する方が適切じゃないか、と思うくらい粉々に破壊されている。無事に残っている建造物は一つもなく、地面は真っ黒に焦げたクレーターが幾つも口を開けている。

 滑走路もデコボコにされ、まるで人の手が入っていない畑のようだ。そして、その滑走路の脇には粉砕された建物の石材の破片が散らばり、足の踏み場もないような有様である。有機物の焼けた嫌な臭いが、辺り一帯に立ち籠めていた。

 その上、動く者は誰もいなかった。後から応援として駆け付けた兵士たち以外は、何一つ動く物はない。

 

「これはいったい……!? 『ロデニウス連合王国』とかいう文明圏外国から攻撃を受けた、とは聞いたが、文明圏外の蛮族がこれをやったのか!? しかも、皇都防衛隊基地と港を同時に殲滅したのか!?

とても信じられん……! いったいロデニウスとやらいう蛮族は、どんな力を使ったって言うんだ!」

 

 ピグマは、唖然として叫ぶ他なかった。

 

 

 同時刻、エストシラント市街地東部外縁部。

 

「はぁ、はぁ……」

 

 林間の散歩道の茂みの陰で、一人の男が身を潜め、荒い息を吐いていた。何やら長距離を全力で走ってきたらしく、男の髪はやや乱れている。

 しばしじっとして呼吸を整えると、男は肩に担いでいた鞄を地面にそっと降ろした。そして、鞄の口を広げ始める。そこから出てきたのは、無線機だった。

 男は無線機のアンテナを空に向けて伸ばし、懐からコンパスを取り出して方位を確認した。そのアンテナの先端は、西の方角に向けられている。

 ダイヤルを回して周波数帯を調整すると、男……第二文明圏外国の一国グラ・バルカス帝国の諜報員エンリケスは、無線機のマイクのスイッチを入れた。まず自分に割り振られたコードネームと識別信号を発信し、続いて報告内容をマイクに向かって述べる。

 

「パーパルディア皇国の首都(皇都)エストシラントが、ロデニウス連合王国軍による空襲を受けました。市街地には爆弾の投下はなかったのですが、どうやらロデニウス連合王国軍は、軍港と陸軍基地に大規模攻撃を行ったようです。

空襲に使った機体は、我が国のアンタレスやシリウス、リゲル、そしてベガに似た機体でした。数にすると、ベガに似た機体がおよそ140機、アンタレスとリゲルとシリウスに似た機体を合計すると、およそ600機程度にはなるでしょう。

おそらくロデニウス連合王国軍には、“航空母艦がある”と思われます。技術水準は我が国と同程度くらいはあるかもしれません。引き続き、観察と情報収集を続けます」

 

 エンリケスは、どうにか混乱する思考を纏めながら、“確信を持って言えること”だけを本国に報告していた。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 1時間後 午前11時、皇宮パラディス城内のパーパルディア皇国皇軍司令部。

 皇軍最高司令官アルデは激しく痛む胃を押さえながら、これまでにまとめられた被害の報告を受けていた。

 

「アルデ様。ま、まずは陸軍の被害からご説明致します。

て、敵の爆撃により、……皇都防衛隊の基地は……、……全滅しました……。基地は、もはや"更地"と言い切っていいレベルまで、は、は、破壊し尽くされ……。建造物は…一つも残っていない状態です……! 滑走路もやられ……、ワイバーンオーバーロードの離発着は、か、完全に不可能となっています!」

 

 陸軍の若手幹部の一人が顔中びっしょり冷や汗を掻き、どもりながら説明を行う。

 

「なお、生存者についてですが……。ほとんど無傷で発見された女性一名の他は…、現時点に至るも生存者なし、です……。皇都防衛隊北基地司令のメイガ様をはじめ、全員が……ゆ、行方不明と……なっています。現場のじょ、じょうきゅぉう(状況、と言おうとして噛んだ)から考えるに……、総員……戦死と……か、考えられます。

また、ワイバーン……オーバーロードは……。……ぜ、全騎が、撃墜……されました……。こ、皇都防衛の竜騎士団も、全滅、です……。陸軍からは、い、以上ですっ!」

 

 幹部の説明は、最後までたどたどしいものだった。だが、内容からして当然のことである。

 陸軍でも最強を誇った皇都防衛隊が、一瞬にして基地ごと全滅してしまったのだ。しかも、ワイバーンオーバーロードも全騎が失われている。

 軍事的にも財政的にも大きなダメージを受けたことは確実だ。これを悪夢と言わずして、何と言うのか。

 

「か、海軍の被害も……」

 

 続いて、陸軍幹部の隣にいた海軍の若手幹部が口を開く。

 

「海軍も、想像を絶する被害が、出ております……。

エストシラント軍港は、ドック・沿岸砲台・弾薬庫・通信施設、その他あらゆる施設や設備が破壊され尽くし、『全滅』といっても過言ではない被害を受けました。当分の間……エストシラント軍港は、軍港としての利用は不可能になったと、言えます。復旧には、最低でも1年は見込む必要があるかと……思います。

海軍本部も完全に破壊されており、海軍総司令官のバルス海将、マータル作戦参謀長以下、海軍本部の職員全員が……行方不明のままです。

また、エストシラント軍港に停泊していた皇都直衛艦隊・第1艦隊・第2艦隊は、いずれも全滅に追い込まれました……。これら3艦隊を合わせた艦艇の喪失は、150門級超F(フィシャヌス)級戦列艦2隻、120門級超F級戦列艦9隻、フィシャヌス級100門級戦列艦196隻、フィルアデス級100門級戦列艦97隻、ケブリン級80門級戦列艦20隻、コリーダ級装甲竜母12隻、ネール級竜母38隻、輸送船252隻となっております……。なお、国家監察軍東洋艦隊も全滅しましたが、その被害は計上していません……。

また、これに合わせて2個艦隊のワイバーンロード計500騎も全て失われ、更に艦隊だけで将兵24万人以上、海軍基地の職員も合わせると、約25万人が戦死するか行方不明になったと見られます……。以上、海軍からの報告です……」

 

 アルデの胃が、強烈なパンチを喰らって悲鳴を上げた。

 無理からぬことである。一日のうちのたった数時間の間に、パーパルディア皇国皇軍は"これまでで最大の被害"を受けたのだ。では、その被害についてざっとまとめてみよう。

 

・陸軍皇都防衛隊、基地ごと全滅。基地に備蓄してあった武器弾薬や資源も、残らず灰となった。

・エストシラント軍港、軍港としての機能を喪失。復旧には1年は掛かる。

・第一線級の艦艇ばかりを411隻も喪失。なおこれは戦列艦と竜母のみの数であり、輸送船を含まない。

・ワイバーンロード500騎、ワイバーンオーバーロード800騎の全滅。またこれに伴う皇都上空の制空権の完全喪失。

・以上の物的被害に伴う財政的なダメージ。特に超F級戦列艦の全滅や、フィシャヌス級戦列艦や竜母の同時多数喪失、ワイバーンオーバーロード800騎の全滅は、計り知れないほどのダメージとなっている。

・陸軍・海軍を合わせて、将兵約55万人の戦死(または行方不明)。

・海軍総司令部の機能喪失。

 

 アルデの胃が痛むのも当然である。

 

「なんということだ……。これでは、エストシラントの守りは全滅したも同じではないか……!」

 

 とそこへ、先程の陸軍幹部がおずおずと手を挙げた。

 

「アルデ様。更に悪い知らせがありました……」

「今度は何だ!?」

「我が方が挙げた戦果ですが……。て、敵の飛行機械の撃墜は…現在に至るも、い、一切確認されておりません……! つまり、て、敵は無傷でこれだけの攻撃を、お、行ったと考えられます!」

「何だと!? では、敵の被害はゼロだというのか!! あれだけ大規模な戦力を投入しての迎撃だったのに!?」

「敵の飛竜の墜落個体が確認されていないので、あ、あくまで状況証拠ですが、おそらく仰る通りかと……」

 

 その瞬間、あまりのことにアルデは気を失って倒れた。

 

「ああっ! アルデ様、お気を確かに!」

「衛生兵! 衛生兵ー!」

 

 

 大混乱が続く中、午前11時頃、パーパルディア皇国海軍第3艦隊は道中特に何事もなく、エストシラントに到着した。到着したのだが……

 

「なっ……!?」

 

 第3艦隊司令官・アルカオン提督は、第3艦隊旗艦にして今や皇国に1隻しか存在しなくなった、超F(フィシャヌス)級150門級戦列艦「ディオス」の甲板に立ち、エストシラントを見て息を呑んだ。

 第三文明圏でも最もレベルの高い設備や施設を大規模に保有していたはずのエストシラント軍港は見る影もなく、海軍基地は「瓦礫の堆積場」とでも表現するのが適当という、目も当てられない状態になっている。いったい何を使えばこんなことができるのか、想像も付かない。

 それだけではなく、周囲の海面には板切れや破れた帆、遺体などが山ほど浮いており、そしてエストシラント軍港にいたはずの第1・第2艦隊と皇都直衛艦隊はどこにも見当たらない。おそらくだが、全艦が沈められている。

 

「これだけの破壊を、ロデニウス連合王国軍がやったというのか!? なんという奴らだ!」

 

 アルカオンには、それだけしか言えなかった。

 

 アルカオンは状況確認のため小舟に乗って「ディオス」を離れ、エストシラント軍港の桟橋へと降り立った。

 海軍基地の敷地内に入ってはみたものの、海軍基地はどの建物がどこにあったのか分からなくなるレベルで破壊し尽くされている。地面が深く掘り下げられているから、ドックだったところだけは辛うじて分かったが。

 

「くそ! バルス総司令官閣下やマータル作戦参謀長殿はご無事か……!?」

 

 アルカオンは呟くが、瓦礫だらけになった基地内を動いているのは、行方不明者の捜索にあたっている応援の兵士たちばかりである。バルスやマータルの姿はどこにもない。

 そしてアルカオンはどうにかこうにか、海軍本部の入っていた建物のある辺りまで来たのだが……彼の目の前にあったのは、原型を留めないほどに大破し、瓦礫の山と成り果てた海軍本部施設だった。

 

「なんてことだ……」

 

 アルカオンは立ち尽くし、絶句する他なかった。

 そこへ、海軍の兵士が一人、歩み寄ってくる。

 

「アルカオン提督閣下! ご無事でしたか……!」

「ああ、私は大丈夫だ」

 

 その兵士は敬礼をする。アルカオンも敬礼を返した。そして、アルカオンはその兵士に尋ねる。

 

「バルス総司令官閣下とマータル作戦参謀長殿はどちらにいらっしゃる?」

 

 すると、その兵士は少し言い淀んだ後に意を決し、話した。

 

「バルス総司令官閣下とマータル作戦参謀長殿は……現在でも行方不明のままです。兵士200名態勢で捜索を続けていますが、まだ何の手がかりも見つかっておりません」

「そうか……」

 

 アルカオンの声には、悲痛な印象がありありと感じ取れた。

 

「ですが提督、捜索中にこれが見つかりまして」

 

 兵士は、表紙が半ば黒ずんだ1冊の書類を渡してきた。見る限り、黒ずみはおそらく煤が着いたものであろう。

 

「?」

 

 アルカオンは怪訝な顔をして書類を受け取り、表紙を開いてみて……目を見開いた。

 

「こ、これは……。これはどこで見つけたんだ?」

「はっ、破壊された海軍本部を捜索している時に発見しました」

 

 兵士がアルカオンに手渡した書類は、作戦参謀マータルによって考案された作戦計画書だった。あの猛爆撃の中で奇跡的に焼け残っていたのである。

 

「マータル殿は現在も行方不明……。だが、『皇国の頭脳』と讃えられるマータル殿考案の作戦を記した書類は無事だったか……! これさえあれば、ロデニウス連合王国軍にも勝てるやもしれん!」

 

 アルカオンは、はっきりと言い切った。

 希望が、芽生えたのだ。

 

「エストシラントが空から攻撃を受けた以上、敵艦隊がここに来襲する可能性も極めて高い状態となった。だが、この作戦計画書があればきっと戦える。

敵は私の艦隊が食い止める、皆は引き続きバルス総司令官閣下とマータル作戦参謀長殿の捜索を続けてくれ」

「はっ!」

 

 2人は、また敬礼を交わし合った。

 

 

 第3艦隊旗艦「ディオス」に戻り、艦隊の展開と昼食の準備を命じながらアルカオンは考えた。

 

(あれだけの被害を出せる攻撃を、ロデニウス連合王国軍は“空から行った”、と聞いている。

ワイバーンロードやワイバーンオーバーロードの航続距離からいえば、アルタラス島からエストシラントまでの距離だと、ひとっ飛びはできてもワイバーンがヘトヘトになってしまって、攻撃までは難しい。となると……このエストシラント近海のどこかに、敵の竜母部隊、もしくはそれに類する艦隊がいるはずだ。または、エストシラントへの攻撃を行った部隊を収容し、一旦近海を離脱して第二次攻撃の準備をしているか……。

何にしても、付近に敵艦隊がいる可能性は高い。不意を衝かれることだけは避けたい……)

 

 アルカオンは、手元にある作戦計画書に目を落とす。

 

(マータル殿の作戦計画書が残っていたのはありがたい。

マータル殿。貴殿のお考えになった作戦、使わせていただきます)

「さあ来い、ロデニウス連合王国軍よ。このアルカオン率いる第3艦隊が相手してやる……!」

 

 アルカオンはまだ見ぬロデニウス連合王国軍に対し、敵意を燃やすのだった。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 一方、同じ日の午後3時、ロデニウス連合王国北東部 タウイタウイ島。

 この島は地球から転移した島であり、日本国海上護衛軍のタウイタウイ泊地が築かれていた。そして、海上護衛軍艦娘部隊の運用拠点の一つとなっていたのである。

 そのタウイタウイ泊地の一角には、和風の建築様式で建てられた「茶屋」に似た雰囲気を持つ店があった。入り口にかかった群青色の()(れん)には「(かん)()(どころ)」という文字が白く書かれている。そして店の屋根に設置された看板にも「甘味処 ()(みや)&()()()」と書かれていた。

 そう、この店は"間宮"と"伊良湖"が経営する、艦娘や基地職員たちのためのスイーツ屋なのである。

 

 その「甘味処 間宮&伊良湖」から、男女のペアが一組出てくるところだった。よく見るとこの二人は、ロデニウス連合王国のそれとは異なる衣服を着用している。

 すると、女性の方が男性を見て口を開いた。

 

「あの『アンミツ』とかいうの、凄く美味しかったですね。糖類が多いとされる果物を多用していて、甘いけど決して甘さがしつこくない。我が国にも、あんな甘味を導入したいですね」

「私の言った通りでしょう、アイリーンさん? 私もあの店にはしょっちゅう世話になってるんですよ。色々と調べたり考えたりしないといけないので、頭が疲れてしまうことが多くて」

 

 そう……この真面目そうな顔付きをした女性は、ロデニウス連合王国人ではない。日本人でもない。第二文明圏の列強ムー国から派遣された、文化調査官アイリーン・グレンジャーである。

 そしてこの男性もまた、ムー国人であった。ムー統括軍・情報通信部に所属する技術士官マイラス・ルクレール中佐である。

 

「マイラスさん、今日はありがとうございました。お蔭様で、ロデニウス連合王国における甘いものの出処を突き止められました。ここで顔が通っているマイラスさんのお蔭です」

「いやいやこちらこそ。たまにはこうして、2人で甘いものの賞味、というのもいいものですね」

 

 この二人、一見するとデートをしていたようにしか見えないが、決してデートをしていたのではない。何をしていたのかというと「文化調査」である。

 ロデニウス連合王国における食文化を調べていたアイリーンは、ロデニウス連合王国の各地で甘いものが消費されていることに気付き、その作り方を調べると共に、この甘味がどこからやってきたのか突き止めようとした。そこに、マイラスがタウイタウイ泊地で供されている甘味の情報を提供し、それを聞いたアイリーンが「実際にこの目と舌で調べたい」と言ったのだ。そして、タウイタウイ泊地によく馴染んでいるマイラスがアイリーンをここまで連れて来ていた……というわけであった。

 

 ……何だか、どこからか「リア充爆発しろ」という心の声が聞こえたような気がする……

 

「最初は、“何で軍なんかがスイーツの発祥に関係があるのか”と思っていましたが、今なら納得できますね。ここの軍人たちは"艦娘"と呼ばれる、軍艦の魂を宿した女性ですが、本質的にはヒト族の女性と変わりません。ですから、疲れれば甘いものを欲する、と……」

「ええ。あの艦娘という存在についても、もっと研究したいですね」

 

 そんな会話をしながら2人のムー国人は、ロデニウス本土とタウイタウイを結ぶ連絡船が着く波止場に向かって歩いて行った。

 

 

 波止場でアイリーンと別れた後、更なる情報収集を続けるべく、マイラスは「タウイ図書館」に向かっていた。

 海辺に作られた遊歩道を歩きながら、彼は考え事をしている。

 

(いやー、たまには“女性と何かする”ってのもいいな。この方、恋愛なんぞまともにしたことがなかったが、こうしてみると悪くない。できたら、“あの人”ともこういうことをやってみたいもんだな……)

 

 マイラスが考えていたのは、“ある艦娘”の姿だった。彼の好みをどストライクに直撃した、初めてムーを訪れた艦娘、"(はる)()"である。

 

(あの人は今どこにいるやら……って、何を考えているんだ俺は!?)

 

 うっかり煩悩にさらわれかけていたマイラスは、ぶんぶんと首を横に振って意識を引き戻す。その時、

 

「おや?」

 

 マイラスは、艦隊の出撃に使われる波止場へと向かう一人の長身の艦娘を見た。演習か作戦行動か、とにかく出撃しようとしているらしい。

 白い服に赤いスカートを履き、膝まで届くほどの長い茶髪をポニーテールに纏め、右手に不思議な形の赤い傘を持ったその艦娘に、マイラスは見覚えがあった。

 

(あれは確か……そう、ヤマトさんだ。1月にここに到着した俺たちを案内してくれた人だ。

戦艦の艦娘だって言ってたな、あの人。折角だから、どんな戦艦になるか見届けてやろう)

 

 そう考えたマイラスは立ち止まり、彼女に目を遣った。

 すると、マイラスの見ている前で彼女は艤装を展開する。彼女の身を包んでいた白い光が消えた時には、彼女は戦艦らしい威風堂々たる艤装を装着していた。三連装の巨大な主砲が目立つ。

 

(あれが「特別な40㎝砲」か……)

 

 マイラスが考えていると、"大和"は艤装を展開したまま波止場から海面に飛び降りた。そして、海上でもう一度形態変化を実行する。

 太陽を思わせる眩い光の玉が一頻り閃いた後、光が徐々に弱まっていく。

 

(さて、ご(かい)(ちょう)だ……!)

 

 そう考えるマイラスの前で、光に包まれていた戦艦がその姿を現し…

 

「なっ!!?」

 

 彼は思わず目を見開いた。

 "大和"が展開した“戦艦の姿”、彼はそれを知っていたのだ。正確には、“魔写を見たこと”があった。

 非常に広い艦幅。高層ビルを思わせる、すらっとした高い艦橋。そのてっぺんに載っかった網状の構造物。そして、艦体前方に2基、後方に1基搭載された、巨大な三連装の主砲。

 

 それは、第二文明圏の列強レイフォル国をたった一隻で滅ぼした超大型戦艦、その姿に酷似していた。

 

(グ……グレードアトラスター……!?

何故!? 何故あの艦が、こんなところに!?)

 

 そう、戦艦「大和」は偶然か必然か、グラ・バルカス帝国の誇る超戦艦「グレードアトラスター」に酷似した姿をしていたのである。

 まさか、第三文明圏外のこの地でグレードアトラスター級戦艦に匹敵するような戦艦にお目にかかれるとは思っておらず、マイラスは激しく動揺する。

 

(どういうことだ!? ロデニウス連合王国は、グラ・バルカス帝国と国交があるのか……!? いや、それは怪しい。グラ・バルカス帝国の位置は第二文明圏外だ。だから地理的に考えても、わざわざ世界の反対側の国家と国交している、とは考えにくい。堺殿もロデニウス外務部の人たちも、“第二文明圏で親しい国は我が国ムーくらい”だと言っていたしな。

それに、あの戦艦の名は「ヤマト」であって、「グレードアトラスター」とは命名法則が異なるように思える。そう考えると、「ヤマト」と「グレードアトラスター」との関係性は薄いだろう……。

しかし、なら何故ここまで姿が似ているのか……? 分からん。全くの謎だ。だが、一つだけ確実に言えることがある)

 

 その結論に達した時、マイラスはぞっとした。

 

(ロデニウス連合王国は……いや、正確にはこの“転移した一部だけ”かもしれないが……、この国は、グレードアトラスター級戦艦を建造できるだけの力がある……!)

 

 これは大変な発見だ。

 万が一、ロデニウス連合王国がグラ・バルカス帝国と国交があるのであれば、これは“ムー国にとって由々しき事態”となる可能性がある。しかし、もしあのグレードアトラスターに似た戦艦がロデニウス連合王国国産の戦艦であれば、ムー国はロデニウス連合王国と国交を続けることで、最終的にグレードアトラスター級戦艦を作れるようになるだろう。そうなれば、ムー国にとっては大きな収穫だ。

 

(これでまた一つ、調べなければならんことが増えたな……。まずはタウイ図書館を使って、“軍艦の発展の歴史”を調べてやろう……!)

 

 出港していく戦艦「大和」の後ろ姿を見送りながら、マイラスは"ムー国を揺るがしかねないこの謎の解明”に全力を挙げることを決意する。

 

(俺はこっちで技術的なことと謎の戦艦「ヤマト」の調査に全力をあげる。だからリアス、ラッサン、戦術データの収集は任せたぜ……!)




はい、アサマ作戦1合目「トワイライト作戦」は成功に終わりました。まあ当然ですね。
パイはなんとか生き残れましたが、この後彼女はどうなるやら。
そしてついにマイラスは、「大和」と「グレードアトラスター」がよく似ていることに気付きました。彼の仕事がまた増えたようです…

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次回予告。

ロデニウス連合王国軍は、アサマ作戦2合目「チェックメート作戦」を発動する。一方、アルカオン提督率いるパーパルディア皇国海軍第3艦隊は、皇都を守るべく展開していた。
エストシラント沖に、両者は激突する…!
次回「アサマ作戦2合目 激突!エストシラント沖海戦」
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