鎮守府が、異世界に召喚されました。これより、部隊を展開させます。   作:Red October

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ムー外務省の文化調査官アイリーンさんですが、本来はパ皇戦編が終わった辺りで間章を描き、その際に登場させるつもりでした。ただ、それまで出番が全くないというのもどうかと思いまして、前回ちょい役ですが登場していただきました。
そして皆さんマイラスへの殺意高いですねー(棒読み)

はい、今回はエストシラント沖海戦編です。



054. アサマ作戦2合目 激突! エストシラント沖海戦

 マイラスが戦艦「大和(やまと)」を目撃する2時間前、中央暦1640年5月28日 午後1時、エストシラント南方100㎞の海域。

 ロデニウス連合王国海軍・第13艦隊から派遣された水上打撃艦隊約50隻は、戦闘態勢を取って北上しつつあった。空母は後退し、代わって戦艦や重巡洋艦が前方に出てくる。明らかに艦隊決戦を挑む布陣である。

 その艦隊の先頭には、非常に巨大な戦艦が一隻いた。艦体は細長く、三連装の主砲を計3基、艦体前方に2基、後方に1基載せている。そして、艦体中央の艦橋の周囲には、(おびただ)しい数の両用砲や四連装の機銃、単装機銃その他をところ狭しと並べていた。

 アイオワ級戦艦1番艦「アイオワ」。アメリカ合衆国海軍が完成させた最後の型の戦艦のネームシップである。空母機動部隊の護衛に当たることのできる33ノットの俊足と16インチ三連装砲の高火力、そして十分な防御力・防空能力・索敵能力を持つ、米海軍戦艦の最終形にして集大成であった。

 その「アイオワ」の周囲には第八駆逐隊の(あさ)(しお)型駆逐艦が4隻展開し、やや後方には(なが)()型戦艦「長門」「()()」の2隻の戦艦が展開している。それを囲むように、(ふる)(たか)型重巡洋艦4隻と多数の軽巡洋艦・駆逐艦が展開し、全体的に見て楔形の陣形を組んでいた。更に後方には(こん)(ごう)型戦艦「金剛」「()(えい)」「(はる)()」「(きり)(しま)」の4隻と(みょう)(こう)型重巡洋艦「妙高」「()()」「(あし)(がら)」「()(ぐろ)」の4隻、それに(あき)(づき)型防空駆逐艦などに守られて空母10隻が航行している。

 

「エストシラントまでの現在の距離は?」

 

 艦隊旗艦「アイオワ」のCICでは、指揮官席に座った堺が妖精の1人に尋ねていた。

 

「現在、エストシラントまでの距離100㎞。艦隊の速度は20ノットですから、このまま進めば夕方5時にはエストシラントに到着できます」

 

 妖精は、きびきびと報告する。

 

「そうか、分かった。レーダーはどうだ? 反応はあるか?」

 

 堺は続いて、電測を担当する妖精に呼びかけた。

 

「現時点で対空レーダーに感なし。対水上レーダーもオールグリーンです」

「ふむ、了解」

 

 報告を聞き、堺は少し考え込んだ。

 

(先の空襲で、エストシラント軍港に展開していた敵艦隊は一隻残らず撃沈した、と聞いているが、どうやらそれは本当らしいな。だが、この辺にいるパーパルディア艦隊は、港にいた奴で全てだったのだろうか? まだ艦隊がいる可能性は捨てきれんな)

 

 空母艦隊を束ねる"()()"からの電報では、エストシラントの港にいる艦隊は全滅、となっていた。しかし、堺には心に引っかかっていることがあった。

 開戦前に見積もられていた“パーパルディア皇国の保有する艦艇の総数”は、正規軍・国家監察軍を合わせて1,000隻以上。輸送艦を抜きにし、戦列艦と竜母の撃沈数のみで考えると、フェン王国で撃沈したのが223隻、アルタラス王国で沈めたのが170隻、そして今回のエストシラント空襲で沈めたのがおよそ300〜400隻と見られている。となると、沈めた敵艦を合計した数は最大でも804隻となり、あと200隻ほど残っている計算になる。

 しかも、これはあくまで“パーパルディア皇国が開戦以降軍艦の建造をしていなかった場合”の話だ。パーパルディア皇国も馬鹿ではない、沈められた艦の補充は必ず行っているだろう。

 となると、どう考えても“200隻以上の軍艦”がどこかに残っている。あるいは300隻を超えるかもしれない。それらの艦艇が、これ以上ロデニウス連合王国も含めて世界各国に被害を及ぼす前に、全て沈めてしまわなければ。そして、それらの艦艇を生み出しているパーパルディア皇国各地の造船所も叩かなければならない。

 

 エストシラント軍港は、パーパルディア艦隊を撃滅するついでに破壊し、その機能を失わせた。だが、少なくともあと二箇所、皇国の東部沿岸にある工業都市デュロと、皇国西岸にある港湾都市レノダが残っている。この2つも、潰さなければならなかった。

 

(全く……仕事だけは多いな)

 

 堺がそう考えた時、二つの報告が同時に上がった。

 

「キングフィッシャー1号機より入電! 『エストシラント南方50㎞の海域に、パーパルディア皇国艦隊が展開中! 数は目算で150程度、各艦1㎞ほど離れての巨大な長方形の陣形を構築、明らかにこちらを迎撃する構え』とのこと!」

「対空レーダーに感! 艦隊前方、距離30㎞、数は1(ヒト)!」

 

 通信長妖精とレーダー担当妖精が報告してきたのである。

 

「やれやれ、やっぱり艦隊がいたか。あと、竜母もいそうだな、こりゃ」

 

 堺は呟くと、指示を飛ばした。

 

「今対空レーダーに引っかかったのは、おそらく敵の偵察ワイバーンだ。こちらが発見された可能性がある。

偵察機を帰投させろ。全艦、対空戦闘用意! バレたからには仕方ない、全艦、速力を26ノットまで上げろ。一気に敵艦隊との距離を詰め、砲撃によって敵を撃滅する!

それと、空母機動部隊に戦闘機による上空援護機を要請しろ。200機もいれば十分だ」

「Okay! 総員、対空戦闘用意!」

 

 "Iowa"が、堺の命令を復唱する。

 「アイオワ」艦内に、対空戦闘配置を意味するブザー音が鳴り響き、妖精たちが一斉に持ち場へと走り出した。

 

「さて、」

 

 堺は、不意に後ろを振り返る。

 

「この『アイオワ』の戦闘情報室(CIC)は如何ですか? リアス殿、ラッサン殿」

 

 堺が振り向いた先には、CIC後方の壁際に2人のムー国人……ムー国の観戦武官リアスとラッサンがいた。そう、今回はこの2人が観戦武官として、「アイオワ」に乗艦していたのである。

 

「正直言って、かなり驚いています」

 

 2人のうち、リアスが堺の質問に答えた。

 

「まさか、艦の指揮を艦橋ではなく、こうした別の部署で執っているとは思いませんでした。我が国では、“艦の指揮所は艦橋にあるもの”と相場が決まっているような状態なので」

「なるほど。確かに、我が国の軍艦でも艦の指揮所が艦橋にあるものが多いですね。このCICを導入している軍艦は、まだ少数派です。今後は、新たに建造する軍艦にはこのCICを幅広く取り入れたいですね」

 

 更にリアスが、堺に問いかける。

 

「それとすみません、先ほど仰っていた"れーだー"というのは何ですか?」

「レーダーですね。はい、簡単に言えば空中や海上にある物体に電波を飛ばして当て、跳ね返ってきた電波を検知して相手との距離や方位を測定するものです。これがあれば、敵に対して先手を取りやすくなるので、非常に便利な物ですよ」

「電波で敵を探るのですか?」

「左様でございます」

 

 リアスは、堺の説明に驚いた表情を見せた。

 

「そのレーダー、我が国も導入できないでしょうか?」

「うーん、その点については私からは何とも申し上げかねますね。ムーへの技術提供が緩和されれば、このレーダーも提供できるのではないでしょうか」

「なるほど、ありがとうございます」

 

 ここで堺に聞いても仕方ないと判断し、リアスは口を閉ざした。

 その隣では、ラッサンが興奮を抑え切れなくなっている。

 

「さて、いよいよ戦闘開始だ。どんな戦術を見せてくれるのか……楽しみだな!」

 

 ラッサンが呟くのが、リアスにもはっきり聞こえた。

 

 

 パーパルディア皇国海軍第3艦隊に所属する竜騎士ラカミは、偵察飛行中に水平線上に微かに艦影らしきものを見た。

 

「? あれは……?」

 

 彼は、その艦影らしきものに向かって近付いていく。

 やがて、その艦影らしきものははっきりとした艦影に変わった。が、その大きさが尋常ではない。ラカミは、これほど巨大な艦を見たことはなかった。いや、一度だけある。神聖ミリシアル帝国の艦隊を遠目に見た時だ。

 今ラカミが見ている艦隊の艦は、その神聖ミリシアル帝国の艦並みに大きい。そして微かにではあるが、ロデニウス連合王国の国旗が翻っているのが見えた。

 

「敵……!」

 

 ラカミは即座に味方に連絡を取った。

 

「こちら竜騎士ラカミ! エストシラントに接近するロデニウス連合王国の艦隊を発見! 数は少なくとも50、とてつもなくデカい! どうか警戒を」

 

 ラカミの言葉は、途中で途切れた。

 戦艦「アイオワ」が発射した、5インチ連装両用砲のVT信管付き対空砲弾が炸裂し、ラカミの命をワイバーンロードの命ごと吹き飛ばしたのだった。

 

 

 同時刻、エストシラント南方50㎞の沖合。

 そこには、海にひしめく大艦隊……パーパルディア皇国海軍第3艦隊に所属する戦列艦が展開していた。

 戦列艦同士の間は1㎞も開いており、長方形の巨大な陣形を構築している。途轍もなく広い「面」に、艦隊が展開しているのだ。

 この面の中に敵艦が侵入してきた場合は、複数の艦が同時に攻撃を行える仕掛けになっている。もし敵艦がパーパルディア皇国艦隊と同数かつ同質であれば各個撃破できるし、敵艦の質が高かった場合……それこそムー国のラ・カサミ級戦艦などが相手だった場合でも、大量の数の戦列艦を同時にぶつけることで物量を以て相手を押し潰すことができよう。“通常のパーパルディア皇国海軍”であれば、決して行わない戦法である。

 この布陣は、パーパルディア皇国海軍が“敵から被害を受けること”を前提とし、しかし敵を数で圧倒するものである。敵が長射程砲を持っていたとしても、確実に敵にダメージを与え得る布陣である。

 

 第三文明圏において、量でも質でも他国を凌駕し続けていたパーパルディア皇国皇軍にとって、この陣形は“極めて屈辱的”といえた。

 しかし、もうなりふり構ってはいられない。それほどまでに敵、ロデニウス連合王国軍は強いのだ。決して侮ってはならない。

 

 この陣形の中央には、他の戦列艦より一回り巨大な戦列艦がいた。第3艦隊旗艦「ディオス」である。この艦は、今やパーパルディア皇国にたった1隻しか存在しなくなった超F級(超フィシャヌス級、の意)戦列艦であった。

 その「ディオス」に乗艦している第3艦隊司令官・提督アルカオンは、「ディオス」の艦首部分に立ち南の海を見詰めていた。

 

 ロデニウス連合王国軍は空から攻撃を加え、皇国の皇都防衛隊の基地を爆撃して破壊。更に、エストシラント軍港の機能を喪失させ、軍港に展開していた皇国海軍第1艦隊、第2艦隊、そして皇都直衛艦隊をも殲滅していった。

 間違いなく、彼らは止めを刺しに来るだろう。すなわち、上陸部隊とそれを援護する水上艦隊を差し向け、エストシラントを狙ってくるだろう。アルカオンには、そんな確信があった。だからこそ、作戦参謀マータルが遺した作戦計画書に従って陣形を組み上げたのだ。

 アルカオンの右脇には、先ほどエストシラント軍港で手渡された書類……マータルの作戦計画書があった。そこに、この陣形が記されていたのだ。「ラ・カサミ級が相手でも戦える陣形」という触れ込みにアルカオンは感銘を受け、その計画を元に陣形を作ったのだった。そして、いつもより多くのワイバーンロードを索敵に出している。

 

「ロデニウス連合王国……来るなら来い! このアルカオン率いる第3艦隊が相手してやる!」

 

 小さく呟き、アルカオンが決意を新たにした時、兵士が一人駆け寄ってきて報告した。

 

「竜騎士ラカミより報告、エストシラント南方100㎞の海域でロデニウス連合王国艦隊を発見! 数は少なくとも50! なお、ラカミは報告の半ばで魔信が途絶、撃墜された模様!」

「ほう、見つけたか!」

 

 アルカオンは、すぐさま決断を下した。

 

「竜母艦隊に連絡、ワイバーンロード隊を発進させよ! 目標はロデニウス連合王国艦隊! あと1時間もすれば海戦だ、発進を急がせろ! 海と空から同時に攻撃する!」

「はっ!」

 

 兵士は艦橋へと駆け出していく。

 アルカオンは、右脇に挟んだ作戦計画書をちらりと見て呟く。

 

「バルス司令官閣下、マータル参謀長殿…見ていてください。エストシラントは、この私アルカオン率いる第3艦隊が守ります……!」

 

 そしてアルカオンは、更なる命令を出した。

 

「艦隊前進! 全艦戦闘配置に付け! 隊列を崩すなよ、最大戦速で敵に向かえ!」

 

 味方が命令に従って動き出したのを確認し、アルカオンは艦隊前方の海を睨み付けた。

 

「海と空からの大規模同時攻撃……歴史上、今回のような我が軍の大規模攻撃を受けた者はいない。ロデニウス連合王国よ、貴様にこれが耐えられるか?」

 

 アルカオンの呟きは誰にも聞かれぬまま、海風に乗って流れていった。

 

 

 だが、もう脅威がすぐそこ……具体的には艦隊の真下……まで近付いていたのには、アルカオンを含めて誰も気付かなかった。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 アルカオンの命令を受けて、エストシラント南方25㎞の海域……第3艦隊の戦列艦隊の25㎞後方に待機していた竜母艦隊では、艦隊司令バーンが命令を下した。

 

「ワイバーン隊、全騎発進! 戦列艦隊と攻撃のタイミングを合わせ、敵であるロデニウス連合王国艦隊を、殲滅する!」

 

 バーンの号令一下、艦隊旗艦「ワーグナー」を始めとする21隻の竜母から、次々とワイバーンロードが青空に飛び立った。その竜母のうち1隻は、周囲の竜母に比べて二回り以上大きい。そう、この大型竜母は、ワイバーンオーバーロードを洋上で運用するための竜母「ヴェロニア」なのである。

 アルタラス島の戦いの際に不調を起こし、本国に帰還して修理を受けていたこの竜母は、第3艦隊に配備されて遠洋航海演習を行っていたのだ。そして、その演習から艦隊と共に帰投しようとした矢先に、エストシラント軍港壊滅の報を受け、そして今ここにいるのである。

 

『よっしゃあ! 今度こそ……今度こそ、俺の竜で敵を撃滅してやる!』

『ああ、(たかぶ)るぜ!』

 

 ワイバーンオーバーロードの()(づな)()りながら、竜騎士のデニスとジオが魔信で言葉を交わし合う。

 ワイバーンロード400騎、ワイバーンオーバーロード20騎からなる混成編隊は、竜母から上空へと舞い上がり、攻撃準備にかかるのだった。その姿は力強く、誇らしく、……しかし、どこか儚げな印象が拭えなかった。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 1時間後。

 ロデニウス連合王国の水上打撃艦隊は、第四警戒航行序列を組んで北上していた。先頭に立つのは、堺が乗り込む戦艦「アイオワ」と、重巡洋艦「(あお)()」「(きぬ)(がさ)」、それに()()()型軽巡洋艦「(さか)()」と駆逐艦4隻。そのすぐ後方に、戦艦「長門」と「陸奥」、重巡洋艦「古鷹」「()()」、そしてそれらを駆逐艦がぐるりと取り囲んで守る艦隊が続いていた。

 

「対空レーダーに感! 敵機大編隊接近中! 艦隊正面、距離20㎞、数は約400!」

「対水上レーダーに反応、敵艦隊捕捉。12時の方向、距離約15㎞、数はざっと200」

 

 「アイオワ」のCICに次々と報告が上げられる。

 

「海と空から同時に来る気か。面倒な……」

 

 堺は呟いた。

 

「脅威度が高いのはワイバーンの方だ、全艦、配置そのまま! 主砲には敵艦隊との戦闘に備えて通常砲弾を装填しておけ! 敵ワイバーンが10㎞まで近付いた時点で対空戦闘開始、VT信管も遠慮なくぶちかましてやれ! 一騎たりとも討ち漏らすなよ!」

「「「アイアイサー!!」」」

 

 「アイオワ」のCICに詰めている、妖精たちの士気は旺盛だ。

 

「これで、この戦争の趨勢が決まる……。Admiral! 私の火力、見せてあげるわ!」

 

 艦長を務める戦艦娘"Iowa"も、戦意は十分のようだ。

 

「ああ、期待してるぞ!」

 

 堺がサムズアップで応えた時、

 

「後方より、友軍戦闘機隊!」

 

 見張員が報告を入れてきた。

 

「来たか。全機突撃! “こっちの対空砲の射程に入られる前に、できるだけ多く落とせ”と伝えろ」

「了解しました!」

 

 通信長妖精は堺の命令を、正確に戦闘機隊に伝達する。

 かくして、パーパルディア皇国とロデニウス連合王国との戦争の帰趨を決定付けた戦い……「エストシラント沖海戦」の火蓋は切って落とされた。

 

 

『見えたぞ、あれだ!』

 

 パーパルディア皇国第3艦隊竜騎士団のうち一人が声を上げる。

 見ると、第3艦隊の前方15㎞ほどの水平線辺りに、幾つもの巨大な艦艇が見える。その大きさは、これまで見たことがない。しかも、脚が尋常ではなく速いようだ。そのため、竜騎士たちの緊張感は頂点に達する。

 あの艦隊が、どれほどの力を持っているかは分からない。だがそれでも、自分たちはあれと戦うしかない。パーパルディア皇国を守るために。

 竜騎士団長ダイロスは覚悟を決め、味方に魔信で指示を飛ばす。

 

「全軍突撃! ロデニウス連合王国軍を滅せよ!」

『『『うおおおおおぉぉ!』』』

 

 魔信からは、部下たちの力強い声が返ってくる。

 自分たちは“第三文明圏最強の竜騎士団”だ。自分自身を信じ、彼らは敵艦隊へと向かう。

 そんな中、敵艦隊からも飛竜が殺到してきた。物凄い数だ、おそらく200か300くらいはいる。

 

「敵艦隊にダメージを与えることを優先する! 全騎密集隊形! あの飛竜の群れを突破するぞ!」

 

 ダイロスの号令一下、パーパルディア皇国第3艦隊竜騎士団と、ロデニウス連合王国海軍の空母部隊から飛び立った混成戦闘機隊が激突した。

 しかし、

 

『ぐああっ!』

『やーらーれーたー!』

『くそっ、何なんだ敵の飛竜は! 足が速過ぎる! ワイバーンオーバーロードより速い!』

 

 初っ端から魔信は大混乱である。パーパルディア皇国の竜騎士団は次々と撃墜され、その数を減らしていたのだ。逆に、竜騎士団は敵飛竜に何発もの導力火炎弾を発射したものの、1発も当たっていない。

 まあ、至極当然の話である。ワイバーンオーバーロードでも最高速度は時速430㎞。対してロデニウス連合王国軍の戦闘機は、幾ら遅くても時速500㎞は出せる。性能の差が違いすぎるのである。

 

「くそ……!」

 

 ギリッ…とダイロスは奥歯を噛み締めた。

 

 

 実質的な航空戦の時間は、十数分程度であった。だがその間に、パーパルディア皇国の竜騎士団は420騎から216騎にまで減らされた。ワイバーンオーバーロードも撃墜され、現時点では13騎しか残っていない。

 だが、敵機は不意に向きを変え、一斉に竜騎士団から離れていった。

 

「いったい何だ、この敵の動きは?」

 

 ダイロスが敵の動きに不審感を抱いた時。

 

 空の地獄が、幕を開けた。

 

 

「敵機、残存およそ220。なおも本艦隊に接近中、距離10㎞」

 

 レーダー担当妖精から報告を受け、堺は新たな指示を出した。

 

「現時刻を以て、戦闘機隊に空域を離脱させよ。艦隊全艦、対空戦闘始め。全兵装使用自由(オールガンズフリー)

「はっ! 全艦に告ぐ、対空戦闘始め。全兵装使用自由(オールガンズフリー)

 

 堺の指示は、電波を介して全艦艇に伝えられる。

 

(ちょっとばかり被弾のリスクがある戦い方だが……ま、リスクを恐れては何もできん。それに、今のところ活躍しているのは母艦航空隊ばかりだ。水上打撃艦隊にも、美味しいところを残してやらんとな)

 

 堺がそんなことを考えていた時、

 

「まだまだ battleship の時代は終わらないわ。見てなさい……Fire!」

 

 "Iowa"がノリノリで指示を出した。その直後、

 

ドン!ドン!ドン!

 

 「アイオワ」が片舷に5基装備している「5inch連装両用砲 Mk.28 mod.2」が火を噴く。VT信管付きの砲弾を撃ち始めたのだ。

 ほぼ同時に「長門」が、「陸奥」が、4隻の古鷹型重巡洋艦が、そして軽巡洋艦や駆逐艦が、一斉に対空砲火を上げ始めた。

 

『ビッグセブンの力、侮るなよ!』

()()()()りね……撃てー!』

『さあ、片っ端からやっちゃうよ!』

『敵はまだ、こちらに気付いていないよ?』

『ほら、もう一発!』

『それ! どーん!』

『あーもう、バカばっかり!』

 

 無線からは、各々の艦娘たちのかけ声が聞こえてきた。

 

 

『ぐあっ!』

『ちくしょう、相棒がやられた! うわあぁぁぁぁ……』

 

 魔信の方は混乱のるつぼと化し、空は阿鼻叫喚の様相を呈していた。

 パーパルディア皇国竜騎士団216騎は、ロデニウス連合王国艦隊めがけて突進するも、敵が撃ち上げる凄まじい対空弾幕に次々と絡め取られ、ミンチにされて撃墜される。ワイバーンロードだろうとワイバーンオーバーロードだろうと、区別はない。

 

「ジオ! くっそ!」

 

 ワイバーンオーバーロードを駆る竜騎士デニスは、同僚のジオが対空弾幕に引っかかり、火だるまになって墜落するのを目撃してしまった。彼は瞳から溢れる涙を風圧によって吹き飛ばし、前方を睨み据える。

 さっきから見ていると、どうやら敵の砲弾はこちらを感知する機能が付いているらしい。さっきから敵は何発も対空砲火を撃ち上げているが、その全てがこちらの近くで爆発しているのだ。

 

(なら、ここは敢えて海面スレスレに飛んでみるか……!)

 

 デニスは手綱を引き、相棒を降下させる。そして、海面に接触しそうな高度を保って、敵艦隊に接近していった。するとどうだろう、相手の砲弾は自分よりずっと手前で炸裂するようになったではないか。

 

「よし! これならいける!」

 

 デニスは自信を取り戻す。デニスの動きを見て、ワイバーンロードに乗った竜騎士も何騎か、それに続いていた。

 一方、まごついて出遅れた者たちは次々とロデニウス連合王国艦隊の対空砲火に引っかかり、撃墜され続けている。もう、100騎残っているかも怪しいレベルだ。

 だが、その犠牲は決して無駄ではなかった。敵との距離は、あと約2㎞にまで縮まっている。

 

「もう少しだ、気を抜くな!」

 

 ダイロスが号令した時だった。

 

 彼らは、ロデニウス連合王国軍艦隊の最終防空ラインに突入した。

 

 次の瞬間、敵艦隊の先頭に立つ超巨大軍艦から、大量の光弾が連続して放たれた。後続する敵艦も、これまでに倍する量の対空弾幕を撃ち上げてくる。

 そう、彼らはロデニウス連合王国艦隊から見て距離2㎞の地点に……ロデニウス連合王国軍の対空機銃の射程に入ったのだ。そのため、高角砲の射撃に加えて各艦に据えられた多数の25㎜機銃が、戦艦「アイオワ」のエリコン20㎜機銃とボフォース40㎜機関砲が、一斉に撃ち方を始めたのだ。

 空の色が変わるほどの猛烈な弾幕が、パーパルディア皇国第3艦隊竜騎士団に襲いかかる。

 

『ちくしょう、敵の攻撃が苛烈すぎる! こんなの、どうやって避けていけばいいんだよ!』

『くそっ! くそぉぉぉぉぉ!』

 

 魔信には、悲鳴と怒号が飛び交う。そんな中、

 

「くぅっ……! なんと苛烈な……!」

 

 竜騎士デニスは、海面スレスレを飛びながら歯軋りした。

 敵の細かい弾幕は次々と、デニスの乗るワイバーンオーバーロードを掠めていく。パシパシパシッと音を立て、海面に幾つもの細かい飛沫が上がる。

 デニスの後ろについてきていたワイバーンロード隊は、この苛烈な対空弾幕に絡め取られて全騎が撃墜されてしまい、現在デニスはたった一騎で飛んでいる状態になっている。

 しかし、彼の幸運も長くは続かなかった。

 

「がはっ!」

 

 ロデニウス艦隊まであと1㎞の地点まで来たところで、ついにデニスは幸運に見放された。「アイオワ」のエリコン20㎜機銃に被弾し、右の上肢を肩の付け根からごっそり持っていかれてしまったのである。

 同時に、彼の乗るワイバーンオーバーロードも25㎜機銃弾に被弾し、血を空中に撒き散らし始めた。

 

(ここまでか……)

 

 痛みと大量の失血によって霞む意識の中、デニスの脳裏に浮かんだのは、先に逝った戦友への謝罪だった。戦友の分まで戦果を挙げることができなかったことに対する謝罪である。

 

(ジオ……すまん)

 

 次の瞬間、機銃弾としては大口径の40㎜弾がデニスの顔面を直撃し、彼の頭部はザクロのように砕け散った。そして、同じく頭部を吹っ飛ばされたワイバーンオーバーロードの亡骸が、頭部を失ったデニスの身体と共に海面に叩き付けられるまで、ものの3秒とかからなかった。

 

 

 竜騎士団長ダイロスは、まだ生き残ってはいたものの、凄まじい悲劇を目の当たりにしていた。

 竜騎士団は、各々が時速300㎞以上の高速で…通常型のワイバーンの最高速度・時速235㎞を遥かに超える速度で飛んでいるにも関わらず、敵艦隊との距離が酷く遠く感じられる。当然、導力火炎弾の射程まではほど遠い。

 そうやって自分たちが飛んでいる間にも、敵艦隊は猛烈な対空弾幕を放ち、片っ端から竜騎士を撃墜していくのだ。

 

「おのれぇ!! バケモノどもめぇぇぇぇぇ!!!」

 

 ダイロスは、思わず叫んだ。

 

 なんということであろうか。

 自分たちは、第三文明圏最強を誇るパーパルディア皇国皇軍、それも花形の竜騎士団だ。“一度飛び立てば七つの軍を滅せる”とも言われ、恐れられた最強の竜騎士団の一翼を担っている。

 そんな竜騎士団の竜騎士たちが今、ロデニウス連合王国軍の攻撃によって次々と撃墜されていく。それこそ蝿でも叩き落とすかのように。

 幾多の戦場を共に飛んだ戦友が、過酷な訓練を支え合って凌いできた仲間が、あるいは幼い頃からの親友が、彼らの人生や努力の全てを嘲笑うかのように、あっさりと倒されていく。彼らの命が虚しく、空に散って逝く。

 そして、バラバラにされた彼らの肉体と血液が、雨のように次々と海面に落下していた。

 気が付けば、空を飛んでいるのは彼一人だけ。

 それらの光景を見て、ダイロスは戦場の不条理に(ふん)(がい)して叫んだ。

 

「ちくしょおぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」

 

 彼の怒りは、どこへ向ければよかったのか。天は、その答えを出してはくれなかった。

 次の瞬間、ダイロスは戦艦「長門」が放った「12.7㎝連装高角砲」の近接(VT)信管弾の爆発に呑まれ、木っ端微塵に吹き飛ばされた。

 

 

「敵飛竜(ワイバーン)隊、全滅。対空レーダーに感なし」

 

 「アイオワ」のCICでは、対空レーダー担当妖精が光点のなくなったPPIスコープを見て、報告を上げた。

 

「全艦、対空戦闘配置解除!

続いて対水上戦闘用意! 目標、前方のパーパルディア皇国戦列艦隊!」

 

 堺は鋭く命じた。その命令は電波に乗って艦隊の全艦に飛び、戦闘ラッパが吹き鳴らされる。乗員妖精たちは一斉に各々の持ち場へと走り出した。

 

「敵艦隊の方位と距離は?」

「前方、12時の方向、距離13㎞です、sir!」

 

 堺の質問に、対水上レーダーを担当する妖精が返答する。

 

「OK、各艦に伝達しろ。距離10㎞で砲戦開始、と。あと、各艦は被害箇所を報告せよ、と」

「アイアイサー!」

 

 堺の命令に答え、通信長妖精が高速でモールス打鍵器を叩き始める。

 

「各員、戦闘配置急げ! 敵は待ってはくれないぞ!」

 

 戦術長妖精が艦内通話を使い、乗組員の妖精たちを急かす。その甲斐あってか、3分後に

 

「総員、戦闘配置よし!」

 

 「アイオワ」の戦闘配置が整った。

 

「第六戦隊各艦、戦闘配置よし!」

「長門、陸奥、配置よし!」

「各艦より報告。被害なし、とのことです!」

 

 前後して、各艦艇も次々と戦闘配置を整える。

 

「敵の配置が広いな。これより、艦隊を三手に分ける。左翼部隊は長門が指揮を執り、右翼は陸奥が指揮を執れ。中央部隊は私が指揮を執る!

それと、空母部隊に対艦攻撃機を要請しろ。撃ち漏らしがあっては不味い」

「アイサー!」

 

 堺が次の指示を出し、通信長妖精がそれに従って、命令を伝達する。

 

「敵艦隊、距離約10㎞!」

 

 そしてついに、敵が有効射程圏内に入った。

 

「全艦砲撃始め! 敵艦隊を殲滅せよ!」

 

 状況を確認し、堺は高らかに指示を飛ばす。

 

「さあ、私の火力、見せてあげるわ。Open fire!」

 

 "Iowa"がさっと左手を振り上げ、叫んだ。

 その直後、

 

ズドオオオオオォォン!!!

 

 「アイオワ」の艦体前方に設置された2基の「16inch三連装砲 Mk.7」が、砲声を轟かせて巨大な発砲炎を閃かせた。それに続いて戦艦の「長門」と「陸奥」が、4隻の古鷹型重巡洋艦が、軽巡洋艦や駆逐艦が、各個に砲撃を開始する。

 ついに、戦いの舞台は海上での砲戦に移行した。

 

 

 同時刻、パーパルディア皇国第3艦隊の先鋒を務めるフィルアデス級100門級戦列艦「アディス」では。

 

「敵艦、発砲!」

 

 マストに登っている見張りが叫んだ。

 ロデニウス連合王国の軍艦は、まだこちらとの距離が10㎞も離れているにも関わらず発砲した。その意図を図りかね、「アディス」の艦長と副長は言葉を交わす。

 

「奴ら、こんな遠距離で発砲したぞ。どういうことだ? ()(かく)のつもりか?」

「分かりませぬ。敵の砲が我が方のそれより長射程だったとしても、距離があまりにも離れすぎています」

 

 だがその時、彼らの鼓膜をヒュルルルルルヒュイーン……という甲高い音が震わせた。しかも、音はだんだん大きくなってくる。

 

 とてつもなく嫌な予感がする。そして、これまでに感じたことのない、はっきりとした死の予感もする。

 

「念のため回避行動を取るぞ! 面舵一杯!」

 

 艦長は、そう命令した。

 戦列艦「アディス」は船体をゆっくりと動かし、重々しい動きで右に進路を変え始める。

 

 ……しかし、全ては遅すぎた。

 

ドグアァァァァァン!!!

 

 激しい爆発音。その音が何なのか理解する前に、「アディス」艦長も副長も地獄の果てまで吹っ飛ばされた。

 戦艦「陸奥」が発射した41㎝の巨弾の直撃と、それによって引き起こされた砲弾の誘爆により、戦列艦「アディス」はほんの一瞬でこの世から消え去ってしまったのである。

 

 

 そして、第3艦隊旗艦「ディオス」の艦橋では、

 

「り、竜騎士団全滅……! 敵艦隊に、被害なし……!」

 

 悲痛な声で報告が上げられた。更に、

 

「戦列艦アディス轟沈! て、敵の攻撃は砲撃によるものです! その射程は10㎞以上! しかも、たった一回の砲撃で命中弾を出しています!」

 

 とんでもない報告が寄せられた。

 

「な……なな、何だと!? 敵の砲の射程が、じ、10㎞以上だと!? しかも、初弾から命中だと!!?」

「射程10㎞だと!? バカな! 我が方の5倍はあるではないか!」

「しかも、たった一発で当てるだと!? 動目標に対する命中率が、我が方の100倍もあるのか!?」

 

 第3艦隊の幕僚たちは、大混乱に陥った。

 

「敵の砲は、たったの一発でこちらの戦列艦を沈めていった……。しかも、命中率も尋常じゃない。敵の砲戦能力は、こちらの認識以上に高いのかもしれない!」

 

 誰かが放ったこの一言で、幕僚たちはいよいよ“自分たちが置かれている状況が絶望的である"と理解し始めた。

 敵であるロデニウス連合王国の艦艇は、自軍の戦列艦よりも遥かに強力である。それはつまり、戦列艦で戦うには敵があまりにも強大で、性能差が数の差で覆し切れないほどであるということを意味していた。しかも、自分たちを空から援護するはずの竜騎士団は全滅し、竜騎士一人たりとも残っていない。

 もうなす術はなく、勝利のビジョンは全く見えない。歴戦の獅子と渾名される第3艦隊司令官アルカオン提督ですら、額に汗を浮かべて沈黙している。

 

「戦列艦マルタス、レジール、カミオ、ターラス轟沈! 更に2隻、いえ5隻轟沈! 沈む艦が多すぎて数え切れません!」

 

 あまりにも戦列艦の轟沈のペースが早すぎて、魔信士さえも現状報告を放棄してしまった。

 

 皇国の頭脳と言われたマータルの考えた作戦も、ムー国のラ・カサミ級戦艦が相手ならば、効果があっただろう。

 しかし実際には、ロデニウス連合王国の軍艦はそのラ・カサミ級戦艦が足元にも及ばないほどの、非常に高い戦闘力を持っていたのだ。百発百中とは言わないものの幾ら低くても5割はある命中率と、戦列艦を一撃で轟沈に至らしめる威力とを兼ね備えた砲撃ができるなど、反則もいいところではないか。

 マータルの考えた作戦は全くの無意味となった。しかし、時間も敵の攻撃も止まってはくれず、パーパルディア皇国の戦列艦は恐ろしいほどの速度で立て続けに沈められていく。

 

 しかも、悲劇はこれだけでは済まなかった。

 

「て、提督!」

 

 不意に、魔信士が絶叫した。

 

「竜母艦隊が……!」

 

 

「何っ!? 我が艦隊の竜騎士団が、“敵に一撃も与えられぬまま全滅”だと!? 馬鹿な……!」

 

 戦場海域の後方に展開する第3艦隊の竜母艦隊。その旗艦であるコリーダ級装甲竜母「ワーグナー」の艦橋には、ドン! という机を叩く音と共に、艦隊司令バーンの怒りの声が響いた。

 

「司令、こうなれば本土にワイバーンの応援を要請するしかありません。しかも、第3艦隊の戦列艦隊は既に戦闘を開始しています。急いでワイバーンロードを補充しましょう!」

 

 竜母艦隊の軍師アモルが、バーンに意見具申した。

 

「おお、そうだな。魔信士、急ぎ本土に連絡を……」

 

 バーンの言葉は途中で消えた。

 「ワーグナー」の左前方を航行しているネール級竜母「アービス」の艦体左側面に、突如として太い水柱が2本突き立ったのだ。ズズーン! という鈍い音が()()に響く。

 直後、竜母「アービス」はその艦体を二つにポッキリ折って、あっという間に海中へと引き込まれてしまう。

 

「竜母アービス、轟沈!」

 

 魔信士が、悲鳴のような報告を行った。

 

「な…何ぃ!? 何が、何が起こった!?」

 

 軍師アモルが、激しく狼狽(うろた)える。

 その直後、今度は艦隊右翼を航行中のコリーダ級装甲竜母のネームシップ「コリーダ」が、右側面に4本もの水柱を突き立てられ、木っ端微塵にされた。

 

 

 何が起きていたのかというと、簡単なことである。

 パーパルディア皇国竜母艦隊の周囲には、竜母艦隊を見詰める目が9対もあったのだ。ただし、水中から覗いていたのである。

 そう、ロデニウス連合王国海軍第13艦隊の潜水艦が、パーパルディア皇国第3艦隊の真下をすり抜け、後方にいた竜母艦隊を狙って魚雷を撃ったのだった。

 

『やったのね! 敵空母1隻撃沈なのね!』

『イク、あれは"竜"母であって"空"母ではないでちよ。そしてゴーヤも星1つでちね』

 

 無線を使って、"伊19"と"伊58"がやりとりをしている。さっき竜母「アービス」を撃沈したのは、イクこと"伊19"が発射した「九五式魚雷」……必殺の酸素魚雷だった。そしてゴーヤこと"伊58"も「九五式魚雷」を発射し、竜母「コリーダ」を海底送りにしたのである。

 

『魚雷1番から4番まで装填! さあ、戦果を挙げてらっしゃい!』

『発射管開け……。1番、2番……用意……てぇー!』

『んっふふー、イヨの攻撃いっちゃうよ! いっけぇー!』

『1番2番、発射管用意! てー!』

 

 続いて"伊168"が、"伊13"が、"伊14"が、"伊26"が魚雷を発射する。たちまち8隻の竜母が魚雷を受けて燃え盛り、海面に没していく。

 竜母艦隊の異変に気付いた護衛の戦列艦5隻が、慌てて踵を返そうとするが、

 

『Feuer!』

『敵艦、発見! さあいきます、てー!』

『やっちゃうからね!』

 

 "伊8"の、"呂500"の、"伊401"の雷撃を受けて、あっという間に海底送りにされる。

 海面下の狙撃手(サイレントハンター)たちは、"呂500"から伝えられたドイツ海軍潜水艦隊の「群狼戦術(ウルフ・パック)」を以て、パーパルディア皇国の誇る竜母艦隊を次々と海底に葬りつつあった。

 

 

「竜母ガルガーン轟沈! 竜母セイレーン轟沈!」

 

 竜母「ワーグナー」の艦橋には、魔信士の悲鳴のような報告が続いていた。

 敵から攻撃を受けているらしいことだけは分かるが、何が起きているのか全く分からない。敵の姿すらも見えない。これほど恐ろしいことが他にあるだろうか。

 

「な、何なんだ! いったい、何が起きている!? 敵はどこにいるんだ!?」

 

 完全に混乱している軍師アモル。

 その時、ズズーン!! という鈍い音が響いた。そして、竜母艦隊の中でも最大の竜母「ヴェロニア」の舷側に、左右合わせて8本もの白い水柱が突き上がる。

 

「り、竜母ヴェロニア、被弾!」

 

 「ワーグナー」のマストに登っていた見張りが叫ぶ。

 その瞬間、水柱に包まれた「ヴェロニア」がいた位置に凄まじい大爆発が発生した。真っ黒に焦げた木片が大量に空に向かって噴き上げられ、キノコを思わせる形状の爆炎が発生する。見張りの目には、真っ二つに折れる「ヴェロニア」が微かに見えた。

 

「ヴェロニア、爆発轟沈!」

「くっ……!」

 

 爆発した「ヴェロニア」を見て、バーンが歯軋りした時だった。

 バーンの目は、「ワーグナー」に向けて海面下を突進する青白い影のようなものを、一瞬だけ視界に捉えた。

 

「何だ、今のは……?」

 

 バーンは呟いた。

 その直後、竜母「ワーグナー」は右舷に、「伊13」が放った3本もの酸素魚雷を受け、大爆発を起こして轟沈。竜母艦隊司令バーンも、軍師アモルも、脱出の暇もなく海中に呑み込まれ、「ワーグナー」と運命を共にした。

 その1分後、竜母艦隊最後の竜母が撃沈され、パーパルディア皇国海軍第3艦隊・竜母艦隊は文字通り全滅した。

 

 

「竜母艦隊、正体不明の攻撃を受け全滅! 護衛の戦列艦5隻も、(ことごと)く沈められました!」

「くっ……!」

 

 魔信士からの信じ難い報告に、提督アルカオンの顔が歪む。

 敵の砲撃は、その威力も命中率も恐ろしく高い。しかも、射程距離は10㎞は余裕である。

 パーパルディア皇国の魔導砲の射程は2㎞。敵艦隊を射程距離に収めようと思ったら、「風神の涙」を全開にして12ノットの全速で航行したとしても、20分はかかる。敵との相対速度を利用すれば、この時間はもう少し短くなるかもしれないが……戦場において過度の期待はすべきでない。

 だがよく見ると、不幸中の幸い、敵の砲弾は大きい故に重いらしい。そのため、一発撃った後の装填はあまり早くないようだ。

 

「……やるしかない」

 

 アルカオンは覚悟を決めた。

 そもそも、栄えあるパーパルディア皇国の主力艦隊の一角を成す第3艦隊が、皇都の目と鼻の先の海域において後退することや、戦力を残したまま降伏することなど許されるはずがない。

 選択肢など、最初から存在しないのである。

 

「全艦、侵攻してきたロデニウス艦隊に突撃せよ! 我が皇国の意地を見せてやれ!」

 

 アルカオンの命令は魔信によって、全ての戦列艦に伝えられた。

 各戦列艦に備えられた、「風神の涙」という風を発生させる魔法具(これは、風魔法を起こす魔石を精錬し、純度を高めた大型の魔石である)が光り輝き、戦列艦は魔法で発生させた風を帆一杯に受けて、出し得る最大の速度でロデニウス連合王国艦隊に向かう。

 しかし、その間にも味方の戦列艦は次々と沈められていく。

 

 上空からこの様子を見た者には、面のように広く展開したパーパルディア皇国第3艦隊に突き刺さる、3本の鉄杭が見えたことだろう。もちろんこの3本の鉄杭は、ロデニウス連合王国艦隊である。

 ロデニウス連合王国艦隊の半径10㎞圏内に入ったパーパルディア皇国の戦列艦は片っ端から撃沈され、海面には戦列艦の木材の破片や破れた帆が散乱する。それらはまるで、傾きつつあるパーパルディア皇国の栄光の残滓のよう。

 しかし、それらの浮遊物はすぐにロデニウス連合王国艦隊が起こした引き波に翻弄され、海面に消えていく。

 

 今やパーパルディア皇国第3艦隊は、50隻ほどしか残っていない。アルカオンを始め、第3艦隊の幕僚たちは絶望に包まれていた。

 そんな中、

 

「前方、敵超大型艦接近! 距離、約10㎞!」

 

 「ディオス」の見張りが絶叫する。

 パーパルディア皇国第3艦隊旗艦「ディオス」と、ロデニウス連合王国・パーパルディア攻略艦隊旗艦「アイオワ」が、正面切って激突しようとしていた。

 

 

「前方に敵戦列艦1隻接近。距離10.3㎞」

『航海艦橋よりCIC。前方の敵艦は一回り大きい』

 

 戦艦「アイオワ」のCICには、2つの報告がほぼ同時に寄せられた。

 

「そうか。なら、そいつが旗艦だろうな」

 

 堺は、素早く決断した。

 

「アイオワ、敵の旗艦を捉えた。撃沈せよ」

「Okay! 第1・第2主砲、装填急いで」

「とっくにできてますよ!」

 

 堺の命令を受け、"Iowa"が嬉々として指示を出す。

 

「装填よし、レーダー測的よし。照準よし! 主砲、砲撃用意よし!」

 

 砲術長妖精が叫んだ直後、

 

「見てなさい……Fire!」

 

 "Iowa"が号令をかけた。

 

「ファイア!」

 

 砲術長妖精が復唱し、トリガーを引く。

 

ドオォォォォォォン!!!!

 

 「アイオワ」の2基の16インチ三連装砲が、轟音と共に“必殺の砲弾”を撃ち出した。

 

 

 パーパルディア皇国海軍第3艦隊旗艦・150門級戦列艦「ディオス」の正面に、ロデニウス連合王国艦隊の超大型艦が正対しようとしていた。

 

「提督、進路を左に変え、ロデニウス艦隊との距離を取ることを具申します! 旗艦が統率能力を失うのは危険です!!」

 

 幕僚の1人が、アルカオン提督に意見を述べる。しかし、

 

「ならん! 進路そのまま! 皇国主力艦隊の旗艦が退いてはならん!!」

 

 アルカオンは、これを拒絶した。

 

「し、しかし!!」

 

 幕僚は必死で食い下がろうとする。そこへ、見張りが絶叫する。

 

「敵艦、砲を本艦に向けました!」

「提督! 進路変更を! お早く!!」

「ならん!!!」

 

 幕僚からの再度の意見具申に、アルカオンは吼えるようにこれを拒絶した。

 その時、

 

「敵艦発砲!!!!」

 

 見張りが絶叫した。幕僚たちが一様に緊張する。

 

「敵砲撃来るぞ! 取り舵一杯!!」

 

 アルカオンに代わって、「ディオス」艦長が叫んだ。

 操舵員が目一杯舵輪を回し、「ディオス」はもどかしくなるほどゆっくりと、その巨体を左へ回す。

 

 しかし、「ディオス」の転舵が完了するよりも、16インチ砲弾が到達するほうが早かった。

 

ズズゥゥゥゥゥゥゥゥゥン!!!!

グワアァァン!!

 

 2つの音が同時に響いた。

 戦艦「アイオワ」が発射した16インチ砲弾6発のうち2発が、「ディオス」の右舷艦首に命中。対魔弾鉄鋼式装甲をあっさり貫通して艦内に飛び込んだ砲弾は、運動エネルギーによって弾薬庫を破壊し……魔導砲の砲弾を誘爆させたのだ。

 戦列艦は、現代の艦艇からすると不必要なほど大量の砲弾を詰め込んでいる。そんな中で爆発が発生すればどうなるか。

 答えは簡単、「マッチ一本火事の元」である。

 

 ある砲弾の爆発に巻き込まれた別の砲弾が誘爆し、それが艦全体で連鎖的に発生する。たちまち巨大な炎が発生し、そしてその炎は戦列艦の木造部分を破壊し焼き尽くしながら、特に天井の方に向かって伸びていく。

 そして、ついに炎は最上甲板を突き破って空へと伸び上がり、巨大な火柱となった。

 

 

パーパルディア皇国海軍第3艦隊旗艦「ディオス」、戦艦「アイオワ」の16インチ主砲弾の直撃を受け、弾薬庫が誘爆し、艦体が真っ二つにへし折れて轟沈。第3艦隊司令官アルカオン提督以下、第3艦隊幕僚総員戦死。

 

 

 「ディオス」が撃沈された時点で、残り20隻になっていたパーパルディア皇国海軍第3艦隊……特に艦列の端の方にいた戦列艦は、戦意を失って逃走を図った。

 だがそこは堺、そうなることを見越して、後方にいる空母機動部隊から攻撃隊を発進させておいたのだ。その攻撃隊が、「ディオス」の轟沈から約5分後に戦場海域の空に到着し、残存しているパーパルディア皇国の戦列艦に対して急降下爆撃を仕掛けていった。ちなみに、この攻撃隊には航空巡洋艦「()()」「(ちく)()」から発進した多用途水上爆撃機「(ずい)(うん)」も混じっている。

 その航空攻撃により、パーパルディア皇国海軍第3艦隊は一隻残らず沈められ、全滅。これによってパーパルディア皇国は、皇都エストシラント上空の制空権に続いて制海権も喪失したのである。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 その翌日、中央暦1640年5月29日午前9時、パーパルディア皇国皇都エストシラント 皇宮パラディス城。

 この年の始めに帝前会議を行った会議室において、パーパルディア皇国首脳部による大規模な会議が行われようとしていた。

 出席者は、皇国の皇帝ルディアス・フォン・エストシラントを筆頭に、皇族の代表者5名(レミール含む)、各外務局の局長、農務局長、国家戦略局長、臣民統治機構長官、皇軍最高司令官、経済担当局長などであり、その他各局の幹部クラスの者がサポートを行う。

 

「それではこれより、緊急帝前会議を始めます」

 

 司会進行係が開会の挨拶をするが、その声は重く沈んでいる。出席者たちの顔も、一様に暗い。

 それもそのはず、軍事に直接関係のない者も話は聞いていた、または自分の目で直接見ていたからだ。ロデニウス連合王国軍がエストシラントを攻撃し、皇都防衛隊基地に深手を負わせ、更に軍港にも凄まじい被害を出させたのを。

 

 今、パーパルディア皇国の運命を左右する重要な会議が始められた。




はい、パーパルディア皇国の第3艦隊は原作同様に全滅です。
原作では、第1・第2艦隊は50隻ばかりが生き残って逃亡していましたが、拙作においては出港前に沈められたため、この両艦隊も全滅しております。そう考えると、拙作におけるパ皇の被害は、原作よりも大きいですね。

評価7をくださいましたEF-2000様、bucker様
評価8をくださいましたリョウ23様
評価9をくださいましたL田深愚様、マンサク様、影元様
ありがとうございます!!
また、新たにお気に入り登録してくださいました皆様、ありがとうございます!


次回予告。

ロデニウス連合王国軍による空襲と、それに伴う皇都防衛隊の全滅、海軍3個艦隊の全滅、エストシラント軍港と皇都防衛隊基地の壊滅。そして、第3艦隊の全滅。
立て続けに凄まじい被害を受けたパーパルディア皇国では、上層部で緊急の会議が開かれる…
次回「緊急帝前会議」

P.S. 活動報告にてお知らせがあります。以前に「描くかどうか迷っている」と皆様にお伝えしていた「辺境の魔王」編についてどうするか、結論が出ましたので、そちらに記しております。こちらのほうもご一読いただけますと幸いです。
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