鎮守府が、異世界に召喚されました。これより、部隊を展開させます。   作:Red October

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今回はデュロ攻撃…の戦闘前日談になります。




056. アサマ作戦3合目 デュロ攻撃(1)

 ハキが反乱を決意するその1日前、中央暦1640年6月1日、パーパルディア皇国東部沿岸部 工業都市デュロ。

 この都市は、パーパルディア皇国の工業の中心を担う大都市である。沿岸部には造船所が建設されており、戦列艦や竜母の建造を行っている。また、この造船所をはじめとして都市東部には工場が密集する工場地帯があった。この工場地帯は、パーパルディア皇国皇軍で使われている魔導砲やマスケット銃、それらの弾薬、兵士や馬、地竜に着せる防具といった武器類から、皇国の一般市民の生活で使われる家具や衣服、日用品に至るまで、あらゆる工業製品が作られる、まさに“パーパルディア皇国の工業力の要”である。

 また、こうした工場を運営し、製品や武器を製造するに当たっては、当然ながら多数の人手が必要となる。なので、デュロという街の北部と南部にはこうした人々のための居住区が整備されていた。ここに住まう者たちは、パーパルディア皇国国民だけではない。パーパルディア皇国は、こうした人手を補うために、他国からの出稼ぎ労働者も多数受け入れていた。そのため、デュロ北部がパーパルディア皇国民居住区、南部が出稼ぎ労働者のための居住区、という格好で“住み分け”が行われていたのである。

 また、デュロ市街地から西にちょっと行ったところには、パーパルディア皇国陸軍三大基地の1つ「デュロ防衛隊陸軍基地」が建設され、ワイバーンロード250騎の他25万人規模の陸軍兵力も配備されている。また、デュロの港には戦列艦や竜母を含む100隻以上の規模の艦隊も配備されていた。これは、パーパルディア皇国海軍の第6・第7艦隊である。

 

 ちなみに、何故デュロがここまで多数の兵力を擁しているのか、というと、デュロが“パーパルディア皇国にとって重要な兵站拠点”であるだけでなく、“北方からの異民族の侵入を食い止めるための防衛拠点”としての役割も持たされているからである。

 

 そのデュロ西部にある、パーパルディア皇国陸軍デュロ防衛隊基地では、幹部定例会が開かれていた。これは、デュロに駐屯するパーパルディア皇国皇軍・陸海軍と竜騎士団長などの幹部クラスが集まって行う会議のことである。

 主立った出席者は、以下の通りである。

 

・デュロ基地司令官 ストリーム

・デュロ基地陸軍将軍 ブレム

・皇国海軍東部方面司令官 ルトス

・デュロ基地竜騎士団長 ガウス

 

 その他、副官クラスの幹部がサポートに入っている。

 

「ではこれより、幹部定例会を行う」

 

 司会進行役を兼ねた、デュロ基地司令官ストリームが最初に発言する。彼は口元に豊かな髭を備え、どこかの大会社の社長を思わせる雰囲気をまとった、老年期に片足を突っ込みかけた男性である。

 

「会議の議題は、“ロデニウス連合王国との戦争について"だ。まずは私から報告事項があるので、皆心して聞いて欲しい」

 

 この発言に、他の出席者たちは自然と背筋を正す。

 

「ロデニウス連合王国軍の攻撃により、皇都が被害を受けた」

「えっ」

 

 ストリームの発言に、40代後半くらいの見た目の男性であるブレムが声を上げた。他の参加者も目を見開いている。

 

「皇帝陛下は御無事であるが……、市街地にも少なからず被害があり、皇都防衛隊は基地ごと全滅し、エストシラント軍港に停泊していた艦隊も全滅した。また、軍港そのものも壊滅的被害を受け、機能を喪失した。

更に、エストシラントを守るように展開していた海軍第3艦隊は、ロデニウス連合王国海軍の艦隊と戦い、全滅を遂げた」

「なんと……」

 

 ブレムは、完全に驚愕していた。

 

「まさか、いきなり皇都を攻撃するとは……」

「まあ、地理的に考えればあり得ない話ではない。エストシラントやこのデュロ、レノダなどの我が国の拠点と、ロデニウス連合王国本土との距離を比較してみると、“エストシラントが敵に最も近い”からな」

 

 ブレムに説明し、ストリームは改めて参加者の面々を見渡した。

 

「しかし今回の件で、いよいよロデニウス連合王国軍による皇国本土への攻撃が開始されたことが確認された。そして、“はっきり言えること”が一つある。いつになるかは分からないが、遠からぬうちに彼らは必ず、このデュロを攻撃してくる」

「「「……!」」」

 

 ストリームのこの発言に、ルトス、ブレム、ガウスの3人が小さく目を見開く。

 

「何故そう言えるか? それは、このデュロが“皇国皇軍の兵器を多数製造している”からだ。いわば、デュロは()()()()だ。どれほど精強な軍隊でも、補給が続かなくなっては戦えない。補給線を狙うのは、“戦の常道”だ。敵であるロデニウス連合王国軍も、そのことは重々承知しているはずだ。となれば……ここデュロは、間違いなく狙われる」

 

 ストリームはゆっくり説明を行った。それを聞き、他の出席者の面々も小さく頷く。

 

「今回の幹部定例会は、それを見越したものだ。しかも相手は、“皇都防衛隊を()()()()破るほどの強敵”だ。このデュロを守るためにどんな手が打てるか、どんな作戦で当たれば良いか、皆の意見を聞きたい。忌憚のない意見を求める」

 

 ストリームがそう言うと、まず海軍東部方面司令官・ルトスが手を挙げた。

 

「ではまず、私の考えをお聞き願いたい。エストシラントへの攻撃では、“敵は空から攻撃を行った”と聞き及んでいる。おそらくだが、飛行機械が使われたと見ていいだろう。

そして、ワイバーンロードやムーの『マリン』の航続距離を考えるに、奴らの本土やその他の国から直接飛んできたとは考えにくい。となると……敵はおそらく、我が軍の竜母に相当する艦艇を保有しているはずだ。そして、このデュロを攻撃する際にも、それを持ち込んでくる可能性がある。

ならば、索敵に当たるワイバーンの数を増やし、更に国家監察軍東洋艦隊のうち、デュロに駐屯している艦隊も使って、できる限り早期に敵を発見し、先手を打てるようにするべき、と考えられる。つまり、敵の竜母の甲板に導力火炎弾を撃ち込み、敵の竜母を先に無力化すべきと考える。如何だろうか?」

「うむ、一理あるな」

 

 ストリームは、ルトスの意見に同意した。その上で疑問を呈する。

 

「だがそれでは、哨戒に割く兵力が多すぎて、『デュロ防衛』がままならなくなるのではないか? 如何に国家監察軍とはいえ、戦力は戦力だ。索敵は確かに重要ではあるが、いたずらに兵力を割きすぎるべきではないだろう」

「それに、我が竜騎士団を使うにしても、帰投したワイバーンの疲労を抜かねばならん。そうでなければ、全力の発揮はできないぞ」

 

 竜騎士団長ガウスがそれに同意した。髪をさっぱりとした短髪にまとめた、気の強そうな印象を与える30代後半くらいの男性である。

 

「実は私も、それについて悩んでいるところです」

 

 ここでルトスは、苦虫を噛み潰したような顔をした。

 

「うーむ、では敢えて北側の哨戒を減らし、その分を東部や南部の哨戒に持ってくる、としたらどうだろうか。これなら、既存の哨戒シフトを転用することができるし、竜騎士団の方にも大きな負担は出ないと思うが、どうだろうか?」

「それならば、確かに負担も少ないですね。私は賛成です」

 

 ストリームが提案を出すと、ガウスが即座に賛成する。

 

「私も異存はありません」

 

 ルトスがコメントし、ブレムも頷いた。

 

「では、それでいこう。ガウス殿、細かいシフトの変更は任せた」

「はっ」

 

 ガウスが返事をした時、ブレムが手を上げた。

 

「では続いて、私から意見具申です。敵が飛行機械だというのであれば、“アレ”、使えないでしょうか。確かここにあったはずですが」

「アレ、とは?」

 

 ストリームが尋ねると、ブレムは答えた。

 

()()()()()です」

 

 その瞬間、ストリームの目が見開かれた。

 

「アレか! だがアレは、我が国でも検証用の1基しかない代物だぞ。しかも、魔術回路が余りにも複雑で、解析すら遅々として進まず、複製など夢のまた夢だ。そんな貴重品を投入するのか?」

「皇都が攻撃されるなど、はっきり申し上げて()()()()です。この際、場合によっては対空魔光砲の投入も止むを得まい、と考えますが、如何でしょうか」

「うーむ……」

 

 ストリームは考え込む。他の幹部たちも思案顔だ。

 

 ブレムの言う「対空魔光砲」とは、「イクシオン20㎜対空魔光砲」のことである。これは、研究のため神聖ミリシアル帝国から()()して手に入れた物なのだが、魔術回路があまりにも複雑であり、パーパルディア皇国はこれの複製どころか、解析にも四苦八苦していた。

 ちなみに神聖ミリシアル帝国からすると、この対空魔光砲は“型落ちのオンボロ品”である。

 

「なるほど……では“切り札”という形で、投入できるようにしておこう」

「承知しました」

 

 一礼し、着席するブレム。

 するとまた、ルトスが手を挙げた。

 

「司令、もう1つ付け加えたいことがございます」

「む、何だ? 申してみよ」

 

 ストリームが許可すると、ルトスはゆっくりと話し出した。

 

「今回の相手であるロデニウス連合王国軍は、ムー国の兵器を使用していると見られています。ですが、兵器の性能に差があるとはいえ、我が皇国の誇る海軍の主力を撃滅するには“()()()()()()()()()()の戦力”が必要になるでしょう。そして、幾らムー国とはいえ、そこまで大規模な兵器の輸出は行えないでしょう。そう考えますと、相手は“ムー国以上の兵器”を投入してくる可能性がある、と考えます」

「それは、私も同意見です」

 

 ブレムが、ルトスに同調する。

 

「ロデニウス連合王国軍は、我が国でも“()()といっていいほどの実力を持つ皇都防衛隊に正面から挑み、これを打ち破る”という()()()()()()()()をしでかしていきました。これほどの相手を、『蛮族蛮族』と侮っていることのほうが(こっ)(けい)だ、と思います。

司令は如何お考えでしょうか?」

「私もそう思いますな。幾らムー国の支援があったとしても、我が国のワイバーンロードに勝てるムー国の戦闘機は『マリン』だけであり、しかもその『マリン』はムー国にとっても()()()()です。ロデニウス連合王国に、そこまで多くは輸出されていないでしょう。

しかし、ロデニウス連合王国はワイバーンロードより優れた性能を持つ『ワイバーンオーバーロード』を装備する皇都防衛隊を破り、空から攻撃を行った。よほどの兵器を持っている、としか思えません」

 

 ガウスも、同じ意見を述べた。

 ストリームは少しだけ考え、口を開く。

 

「ううむ、諸君が全員“同じ意見”なのであれば、私もそうだろうと思う。

だが、“ムー以上の兵器”となると、何かあるか? ムー以上の兵器を持つ国といえば、神聖ミリシアル帝国と(いにしえ)の魔法帝国だけだぞ?」

 

 ストリームがそう言うと、途端に幹部たちは苦い顔をした。

 実際「ではどんな兵器を敵が使ってくるか、予想してみろ」と言われると、考え辛いのである。

 

「まさか、誘導魔光弾を使ってはきますまい」

 

 まず、口火を切ったのはガウスだった。

 

「また、飛行機械を使ってくるようですが、ミリシアルの『天の浮舟』は使ってはこないでしょう。ロデニウス連合王国はミリシアルとは国交がないようですから」

「ふむ、それは確かにそうだな。となると、飛行機械はムー製のものである可能性が大か」

 

 ストリームは、ガウスの意見にコメントする。

 

 なお、実際にはロデニウス連合王国軍の航空機の一部は、神聖ミリシアル帝国の「天の浮舟」を上回る性能を有している。

 具体例としては「(きっ)()(かい)」と「(ふん)(しき)(けい)(うん)(かい)」が挙げられるだろう。どちらも、時速700㎞を超える速度を叩き出せる上に、どちらも「()()()()()」なのである。

 神聖ミリシアル帝国の天の浮舟のうち、制空戦闘機型である最新鋭機「エルペシオ3」が、最高時速530㎞(しかもこれは()()()()()()()の機体である)であることを考えれば、場合により"明らかな()()()()()()()”となる爆弾を抱えて制空戦を戦うことになる戦闘「爆撃」機であるにも関わらず、“エルペシオより()()で飛べる”この2機の方が“性能が上”である、と言えるだろう。

 また、読者諸賢の皆様はフェン王国での戦いの時に登場した「ディグロッケ」の存在を忘れてはいまい。あの機は最高時速1,200㎞と、音速一歩手前の速度を発揮することが可能である。

 ドイツの科学技術は世界一イィィィ!!!

 

 また、それ以外に()()()()()であっても、「エルペシオ3」より足の速い機体がある。零戦52型で最高時速565㎞、「(れっ)(ぷう)一一型」だと最高時速624㎞にも達するのだ。しかもこうした機体は、「エルペシオ3」よりも旋回性能も加速性能も高い。

 「世界最強」の国家にあるはずの()()()()がこの始末。「世界最強」とは()()でしかないのだろうか?

 

 更に言うと、日本の転移元の星である「地球」に存在する国家は、その多くがとんでもない装備を保有している。誘導魔光弾もといミサイルの存在は当たり前、そのミサイルを軍艦の主砲で迎撃できたり、口径115㎜級の主砲を有する戦車がゴロゴロしていたり、飛行機械は音速を超える速度で飛び、「潜水艦」というサイレントハンターはいるし、挙げ句に古の魔法帝国の切り札「コア魔法」もとい核兵器も山ほどある。

 どの国家も、“古の魔法帝国ですら敵わない”ほどの大戦力を有しているという、もはや「魔境」とすら言えるほどの星、それが地球なのである。頭おかしい(確信)

 

「むむ。では実際に考えてみろ、と言われますと、難しいですな。ですが、心構えとしては『神聖ミリシアル帝国を相手にする』くらいのものが必要、かと存じます」

 

 苦い顔をしながら、ブレムが答える。

 その後も、次々と意見が飛び出すのだった。

 

 

 結局、この幹部定例会では、

 

・哨戒に当たるワイバーンロードを増やし、できる限り先手を取れるようにする。

・デュロに駐屯する、国家監察軍東洋艦隊を“哨戒艦隊”として投入し、敵接近の際に迅速に通報を行えるようにする。

・陸軍、海軍共に“常時厳戒態勢”に入る。

・切り札として、対空魔光砲を準備する。

 

 と、いうような内容が決定された。

 

 

 会議が終わった後、艦隊司令部へと戻る道すがら、ルトスは考えていた。

 

(“皇都を攻撃した”ということは、ロデニウス連合王国軍の主力は皇都の方にいるはず……。また、ロデニウス軍司令部の注意も、そちらに向いているはずだ。

となると、ロデニウス連合王国の本土は手薄になっているに違いない。こちらから別働隊を出し、“手薄になった奴らの本土を叩く”という手も取れそうだな。

だが、この作戦を実行する、となると、私はその立場上ここから動けない。となると、ここは……)

 

 歩きながら、ルトスは思考を巡らせていた。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 その翌日、中央暦1640年6月2日 午前8時50分。

 フェン王国北方400㎞の海域を、50隻ほどの艦隊が白い航跡を曳いて北上していた。どの艦もロデニウス連合王国の国旗を掲げ、一部の艦は赤い太陽を描いた白い旗(旭日旗)も一緒に掲げている。

 パッと見た限りでは輸送船が多い。しかし軍艦が全くいないのか、というとそうではない。むしろ、非常に巨大な軍艦が一隻含まれていた。

 ロデニウス連合王国海軍第2艦隊、及び第13艦隊の連合部隊として構成された、「スターボウブレイク作戦」遂行艦隊である。その陣容は、ビスマルク級戦艦1隻、()(とせ)型航空母艦2隻、(たか)()型重巡洋艦1隻、アイカ型重巡洋艦(ただし見た目は高雄型重巡洋艦そのまんま)2隻、ニジッセイキ型軽巡洋艦(同じく見た目は(せん)(だい)型軽巡洋艦)1隻、駆逐艦6隻、強襲揚陸艦「(しん)(しゅう)(まる)」、その他輸送船36隻である。

 

 この連合部隊の司令官を務める、ロデニウス連合王国海軍第2艦隊司令官ルーシャン・ドハム提督は、乗艦となったアイカ型重巡洋艦3番艦「アキバエ」の艦橋から、進行する艦隊の陣容を見渡していた。

 彼は元々クイラ王国で、第1艦隊司令官を務めていた身である。当時彼が率いていたのは、バリスタを装備した木造帆船20隻の艦隊だった。

 しかし、今や彼が率いている艦隊は“全くの別物”になっている。大砲があるし、魚雷もあるし、船脚は圧倒的に早いし、ワイバーンロード相手にも対空戦闘が行える。天地がひっくり返ったんじゃないか、とすら思えるほどの“劇的ビフォーアフター”である。

 

「この艦隊を率いて私が出る戦いとしては、初の実戦か……」

 

 ドハムは呟く。

 

「上手く戦えるか、と問われると自信はないが……今回は、()()第13艦隊がサポートに付いてくれる。大船に乗ったつもりでいけばいいだろう。さあ、派手に仕事をしようじゃないか!」

 

 ドハムは、自分自身に言い聞かせるように、独り言を呟くのだった。

 

 

 一方、第13艦隊の方では、

 

『こちらBismarck(ビスマルク)()()、そっちから見て、第2艦隊の連中はどうなのよ?』

 

 艦隊()(かん)を務める艦娘"Bismarck"が、第13艦隊でも最古参クラスの艦娘である"摩耶"に、第2艦隊の練度について尋ねていた。

 

「んー……」

 

 "摩耶"は、自身が座乗している艦「摩耶」の艦橋から外を見やって、返答する。

 

「アタシの目から見たら、()()()()だな。艦の進路が、ちょっとフラフラしている。赤黒の調整(加減速)も(つたな)いし、進路変更の際の艦隊行動も遅れ気味だ。だが、以前に比べたら見違えるようだぜ。実戦には、十分耐え得るだろ」

『やっぱり? ま、そんなもんよね』

 

 どうやら、"Bismarck"と"摩耶"の見解は一致したらしい。

 

「さてビスマルク、この辺の海は奴らのワイバーンの推定索敵行動圏内だ。気ぃ抜くなよ」

 

 自身より格上の戦艦娘が相手でも、"摩耶"は一向に物怖じしない。

 

『分かってるわよ。摩耶、対空戦闘は任せたわ』

「任されたぜ。千歳と()()()の航空隊も合わせたら、奴らには指1本触れさせねえよ。()2()()()()()()

 

 "摩耶"の口元に、不敵な笑みが浮かぶ。

 「ビスマルク」は対空戦闘能力が比較的低く、また(あき)(づき)型の面々は「トワイライト作戦」「チェックメート作戦」に駆り出されてしまっている。というわけで、この連合部隊の対空戦闘は、「千歳」「千代田」の航空隊と、“タウイ一の対空番長”こと「摩耶」に一任されているのだ。

 第2艦隊からもオウギョク(ロデニウス版秋月)型防空駆逐艦1隻が投入されているのだが、練度を考えるとあてにできるとは言い難い。よって、“この艦隊で()()()()()()()()”は「摩耶」なのである。

 

『頼もしいわね』

「ヘッ、このくらいでなきゃ対空戦闘なんぞ務まんねぇよ。それに、奴らは時速350㎞しか出ない鈍足だしな。アタシにしたら、止まってる的を撃つようなもんだぜ」

 

 頼もしすぎる"摩耶"のセリフである。と、その時、

 

「っと……早速来たか?」

 

 「摩耶」の艦橋にいた電測担当妖精が、"摩耶"の肩を小突いたのだ。そして、「13号対空電探改」の画面を示す。

 「13号対空電探改」の画面は「Aスコープ」方式であり、オシロスコープのような“不規則な波線が動いているだけ”のようにしか見えない。一般人が見ると、とても読めた代物ではないのだが、"摩耶"は既に熟練者の域にある者である。彼女はこの不規則な波線の動きから、敵の姿を完全に把握していた。

 

「こちら摩耶、連合艦隊各艦に告ぐ。13号対空電探に感あり。12時方向、距離150㎞、数は約10。ワイバーンロードと見られる」

『こちらビスマルク、了解。第13艦隊全艦、対空戦闘配置に付け!』

 

 "摩耶"からの報告を受け、"Bismarck"は戦闘配置を決断した。

 

『千歳、千代田。そろそろ、味方の爆撃隊が艦隊の上空を通過するわ。こちらも攻撃隊を出しましょう。水平爆撃は爆撃隊に任せて、急降下爆撃隊をお願いするわ。あと、直掩の零戦隊も発進させなさい。直掩隊のうち8機を敵ワイバーン攻撃に向かわせて』

『了解。艦載機の皆さん、やっちゃってください!』

『攻撃隊、発艦開始よ!』

 

 "Bismarck"の指示を受けて、"千歳"と"千代田"が攻撃隊並びに直掩機の発進準備を開始する。

 

『こちら第2艦隊司令部。全艦、対空戦闘配置に付け』

 

 "摩耶"の警告を受けて、ドハム提督率いる第2艦隊も戦闘配置を発令したようだ。

 

「両舷対空戦闘用意!」

Jawohl(ヤヴォール)! 両舷対空戦闘用意!」

 

 "Bismarck"の命令を戦術長妖精が復唱し、命令は電話回線を使って、あっという間に艦内各所に伝達される。

 

『てめえら、対空戦闘だ! 気合い入れてけよ!』

 

 無線から、"摩耶"の勇ましいかけ声が聞こえてくる。得意の対空戦闘を前にして、戦意は十分のようだ。

 それに、これほど自信に満ち溢れた声が聞けるとなると、頼り甲斐もある、というものである。第13艦隊の面々は、対空戦闘となると誰もが"摩耶"を頼りにしていた。堺ですら、彼女には全幅の信頼を置いているほどである。

 

『さあ、(むら)(さめ)のちょっといいとこ、見せたげる☆』

『ソロモンの悪夢、見せてあげる!』

 

 「ビスマルク」の後方を進む駆逐艦からは、艦長を務める"村雨"のどこか()()()()聞こえる声が聞こえてくる。今頃艦橋では、"村雨"はウインクでもしているのだろう。この色香に囚われた者は、彼女の容赦ない猛攻に晒され、海の底へ沈むことを運命付けられるだろう。

 一方、「ビスマルク」の前方からはバトルジャンキー丸出しの声が聞こえる。これは「ソロモンの悪夢」こと"(ゆう)(だち)"のものだ。

 "夕立"の場合は、"彼女に見つかったその瞬間に()()()()()()()()()"といっても過言ではない。何せ史実では、圧倒的多数の敵艦を相手に大暴れし、至近距離でガンガン殴り合って、ハンモックを()()()()()にしてでも戦おうとし、そして敵と共に海の底へ消えていった、という武勇伝を残す駆逐艦なのだ。彼女の瞳に宿る緋色の狂光を見たが最後、生きては戻れないだろう。

 

「む? こちら摩耶、各艦へ告ぐ。後方から多数の飛行物体が接近中。6時の方向、距離120㎞、数は……およそ150! この時間なら多分、フェン王国を出撃した基地航空隊だな」

『連合艦隊各艦へ。こちらBismarck、後方から接近する飛行物体は味方である可能性大。各艦発砲には注意されたし、どうぞ』

 

 "Bismarck"が、無線で警告を発する。

 この「スターボウブレイク作戦」には、水上艦隊の他に基地航空隊が動員されている。これは、元々シオス王国のゴーマ基地に展開していた隊だ。ゴーマ基地を発進しエストシラント空爆に参加した後、フェン王国のカエデ基地に着陸して、同基地に展開したものである。

 

 十数分後、後方から接近する飛行物体が、連合艦隊の目視圏内に入ってきた。

 

『こちら見張り、後方から接近する飛行物体の集団は、味方の爆撃隊と判明』

 

 どうやら、作戦通りに味方の爆撃隊が到着したようだ。

 

『こちら第2艦隊司令ドハム』

 

 そこへ、連合艦隊旗艦「アキバエ」から無線が入る。

 

『爆撃隊の到着を確認した。スターボウブレイク作戦、行動開始せよ!』

『『『了解!』』』

 

 無線からは、各艦の艦長や艦娘たちの応答の声が聞こえる。"摩耶"も「了解」と返電した。

 こうして、アサマ作戦の3合目「スターボウブレイク作戦」は発動したのである。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 その頃、ロデニウス連合王国本土の北東部34㎞の沖合に浮かぶタウイタウイ島。

 第13艦隊司令部では、泊地の管理全権を堺から委任されている軽巡洋艦艦娘"(おお)(よど)"が、作戦指令書が入った円筒形の容器を手に持って、時計と睨めっこしていた。何をしているのかというと、時刻を待っているのだ。

 彼女が手にしている容器……それには、開封日時を指定したロックがかかっていた。それが、あと少しでロックが外れそうなのである。

 と、容器から微かにカチャッという音がした。

 

(開封されましたね)

 

 "大淀"は、容器の蓋に手をかける。すると、これまでどれだけの力を入れても開かなかった容器の蓋が、あっさりと開いた。

 その中からは、作戦指令書が出てくる。その表題は「カタストロフ作戦」となっていた。

 周囲に誰もいないことを確認してから、指令書を開き、中に書かれた文面に目を走らせる"大淀"。その目が、次第に見開かれていく。

 全てを読み終わった時、彼女は“全てを悟った”とでも表現すべき表情をしていた。

 

「これは……幾ら上からの命令とはいえ、提督が()()()()()を立てていらっしゃったとは……」

 

 だが、命じられた作戦は間違いなく遂行されねばならない。

 "大淀"はもう一度作戦指令書を読み返し、「出撃戦力」と書かれた項目に記された内容を確認すると、提督室を出て通信室へと向かった。そして館内放送用の通信マイクを取り上げ、ブザーを鳴らしてから放送を入れる。

 

『通達です。今から名前を呼ばれた艦娘は、至急提督室に出頭して下さい。……』

 

 

 その2時間後、タウイタウイ泊地から一隻の軍艦が、ひっそりと出港した。その軍艦は一旦針路を南に取って、タウイタウイ泊地の外に出ると、針路を東に変えて前進していく。

 そして、タウイタウイ島の外縁部まで来たところで、針路を今度は北に変更し、静かにタウイタウイ島から遠ざかっていった。




デュロ編は長くなりそうでしたので、誠に勝手ながら分割してお届けさせていただくことに致しました。ご了承願います…


総合評価3,300ポイント突破…本当にありがとうございます!感謝です!

評価5をくださいましたまだらぎ様
評価7をくださいましたムロン様、ただの浅井様
評価10をくださいました武御雷参型様、アサルトヘイム様、vabralt様
ありがとうございます!!
また、新たにお気に入り登録してくださいました皆様、ありがとうございます!


次回予告。

基地航空隊と連携し、砲爆撃の後に陸軍の揚陸を以てデュロ制圧を目指すロデニウス連合王国軍。それに対し、パーパルディア皇国・デュロ防衛隊は、対空魔光砲まで投入して、迎撃を試みる…
次回「アサマ作戦3合目 デュロ攻撃(2)」

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