鎮守府が、異世界に召喚されました。これより、部隊を展開させます。   作:Red October

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日本国召還のwikiを見てみたら、第三文明圏のページにめっちゃカッコいい地図が付けられててビックリ。拙作におけるあの地図では、「Japan(日本国)」が消えている代わりに、「Radenius Continent(ロデニウス大陸)」が1つにまとめられていて、国名が「United Kingdom of Radenius(ロデニウス連合王国)」となっており、そしてロデニウス大陸の北東沖に「Tawi-tawi island(タウイタウイ島)」が追加されてるんだろうな…と妄想する今日この頃。

さて、今回はついにデュロ戦、開始です。
平成も今日で最後ですので、平成のラスト更新になるよう、大急ぎで書き上げました。



057. アサマ作戦3合目 デュロ攻撃(2)

 中央暦1640年6月2日、パーパルディア皇国東部沿岸部 工業都市デュロ。

 そこでは、持ち場に付いた兵士たちが緊張感を漂わせていた。マスケット銃を持った歩兵が綺麗な隊列を作って並び、魔導砲の引き金に指をかけた砲手が、硬い表情で遠くの海を見詰める。

 デュロ防衛隊陸軍基地も緊張感に包まれ、何か一つ刺激があれば一気に爆発しそうな様子だ。

 そのデュロ基地司令部に緊急報告が飛び込んできたのは、6月2日の午前8時30分のことだった。

 

『こちら第11竜騎隊第1飛行隊! 第2中隊が飛行機械からの攻撃を受け、全滅! “ロデニウス連合王国軍の来寇”と思われる!』

 

 この一報が入るや、直ちに基地は動き出した。

 

「全竜騎隊、発進! 準備の整った隊から順次発進し、敵を滅せよ! 絶対に、このデュロに近寄らせるな!」

 

 デュロ基地司令官ストリームが命令を下す。

 ワイバーンロードに乗った竜騎士たちが続々と空へ舞い上がり、職員は慌しく持ち場へと走り、兵士たちによって魔導砲の発射準備が整えられていった。

 

 

 これより数分前、デュロ南東100㎞沖合の空を10騎のワイバーンロードが飛行していた。第11竜騎隊第1飛行隊第2中隊所属の10騎のワイバーンロード隊である。

 

『こちら第1飛行隊本隊、各隊応答せよ』

 

 魔信から、飛行隊長の声が聞こえた。

 

『こちら第1中隊、異常なし』

 

 第1中隊長に続いて報告を行おうとした第2中隊を率いる竜騎士イルゼンはその時、視界に空を飛ぶ黒点を捉えた。10ほどの黒点がこちらへ接近してくる。

 

「こちら第2中隊、飛行物体発見。数およそ10。位置はデュロ南東100㎞の沖合、高度500。飛行物体は南方から接近中」

『何だと?』

 

 イルゼンの報告に、飛行隊長が声を上げる。

 

『第2中隊は、そのまま飛行隊物体と接触せよ。敵であれば、報告の上撃墜せよ。第1中隊は現在の空域に留まり、次の指示を待て』

『了解』

「了解」

 

 魔信で命令の受諾を伝えると、イルゼンは部下の9騎の竜騎士と共に進路を変え、飛行物体の確認に向かう。

 少し飛ぶと、飛行物体の姿が朧に見えてきた。が、

 

「なっ!?」

 

 イルゼンは、目を見開いた。

 まず、その飛行物体は羽ばたいていない。代わりに、飛行物体の鼻先では何かが高速回転していた。

 次に、その飛行物体からは翼を羽ばたかせるバサバサという規則的な音ではなく、ブーンという奇妙な音が長く聞こえてくる。まるで、ムー国の戦闘機「マリン」のプロペラのような音だ。

 

(やはり、飛行機械か……!)

 

 イルゼンは、確信に近い推測を持った。

 

『こちら第2中隊、続報を伝える。飛行物体は飛行機械である可能性大! ロデニウス連合王国軍と思われる!』

 

 イルゼンが魔信にそう言った時、8機(10機だと思われたのは8機だった)の飛行物体は急にその進路を変え、一直線に第2中隊に迫ってきた。

 

『第2中隊、これより会敵。敵を迎撃する!』

 

 それだけ言うと、イルゼンは魔信を切った。そして、相棒の()(づな)を握り直す。

 

「全騎、俺に続け! 導力火炎弾用意!」

 

 イルゼンが部下たちに手で合図を送る。部下たちは各々が反応し、相棒に合図を送った。

 10騎のワイバーンロードの口内に炎が満ち、導力火炎弾の発射用意が行われる。

 

 だが、その時。

 

タタタタタタタタタ!

 

 突進してきた飛行物体が、連続で鼻先を細かく光らせた。連続音が鼓膜を震わせる。

 

『ぐあっ!』

『ぐふぅ!』

『……!?』

 

 途端に、部下たちのうち6人が血飛沫を上げた。そして、魔信に彼らの悲鳴が聞こえる。

 次の瞬間、血飛沫を上げた部下たちはあっという間にその速度を落とした。そして、ある者は鞍から滑り落ち、ある者は竜と共に、またある者は竜を殺されて悲鳴を上げながら、等しく海面に墜落する。

 

「嘘だろ……!」

 

 イルゼンは一瞬、あまりにもあっさりと屠られた部下たちを見て愕然とした。

 

 そして、その一瞬が命取りとなった。

 

 次の瞬間、イルゼンはロデニウス連合王国海軍の空母「()(とせ)」を飛び立った零戦52型のうち1機の機銃掃射を浴び、ワイバーンロードと共にあの世送りにされたのである。

 

 

 この空中戦が、デュロを巡る戦いの始まりとなった。

 

 

「司令! ストリーム司令!」

 

 哨戒に出ていた第11竜騎隊第1飛行隊第2中隊が全滅したとの報告が入り、騒然となったデュロ基地司令部に、パーパルディア皇国陸軍中将・ブレムが駆け込んできた。

 

「む、どうした?」

 

 基地司令官を務める、パーパルディア皇国陸軍大将ストリームが応じる。

 

「報告は聞きました。ついにロデニウス連合王国軍が来たようですね」

「うむ、とうとう来たな」

「そこで“お願い”があって参りました。この後おそらく、ロデニウス連合王国軍は更なる攻撃を掛けてくるでしょう。そこで、“対空魔光砲の使用許可”をいただきたく存じます。司令、ご決断を」

「………」

 

 ストリームは考えながら、頼み込んできたブレムの顔を見た。彼の顔には必死さが滲み出ている。本気でお願いしに来たようだ。

 

(対空魔光砲……あれは、“デュロ防衛隊最大の切り札”だ。最初から戦闘に使用して、むざむざと破壊されるわけにはいかんが……)

 

 ストリームは、素早く頭を回転させる。

 

(だが、“ロデニウス連合王国に対しても有効な兵器がある”と示せば、奴らにとって牽制になるはずだ。そう考えれば、このタイミングでの使用は決して間違ってはいない。それに敵の撃墜でもできれば、それこそ兵士たちの士気向上にはもってこいだろうし)

 

 2秒の後、ストリームは決断を下した。

 

「分かった。対空魔光砲の使用を許可する」

「ありがとうございます!」

 

 勢いよく頭を下げるブレム。

 

「だが、対空魔光砲は使用する前に魔力を充填する必要があるぞ? 魔力の充填はできているのか?」

「司令、その点はご安心を。既に魔力の充填を行っております。満タンまでの充填はできていませんが……」

「満タンまでできていない? 何故だ?」

 

 ストリームは、ブレムに尋ねた。

 ストリームは、対空魔光砲の使用には魔力の充填が必要であることを知っていた。そこへブレムが使用許可を求めてきたため、彼は“確認のつもり”で魔力の充填ができているのか尋ねたのだ。ところが、返ってきた答えは「魔力を満タンにできていない」だった。

 

「実は、どうやら我が国の魔導エンジンの性能では、魔力の充填が追い付かないようなのです。エンジンを全開で回したのですが、思うように充填が進行しなくて……。ミリシアルの技術者は、『魔力充填はすぐ終わる』と言っていたのに……」

 

 困ったように、眉をハの字に寄せるブレム。

 

「何だと?」

 

 ストリームにとっても、これは完全に想定外であった。

 

 実は、魔導砲は「2種類」ある。単発撃ちしかできないものは「魔導砲」、連射ができるものが「魔光砲」と呼ばれるのである。

 魔導砲は第三文明圏外国のような、技術水準の低い国でも開発することができるのだが、魔光砲は開発に必要な技術水準が高く、現状この兵器を実用化できているのは中央世界…「第一文明圏」のみである。

 魔光砲はその名前を聞く限り、“レーザーを発射する光学兵器”のように見える……が、実はちゃんと()()を発射している。魔導成形砲弾を爆発魔法によって“連続して発射している”のである。

 砲弾自体は、「パーパルディア皇国の技術水準」でもどうにか作れるのだが、パーパルディア皇国には“爆発魔法の制御”が難しく、「魔法の術式回路」もあまりに複雑で、解析にも難儀する代物であった。また“爆発魔法の魔力消費量”も半端ではなかったのだ。そのため、複製も解析も困難を極めていたのである。

 

「どうやら神聖ミリシアル帝国の魔導エンジンは、我が国のそれより段違いに高い性能を持つらしいな。流石は“世界最強の国家”だ。と、それは置いておいて、どうするのだ!?」

「この際、止むを得ません。このまま使用します」

 

 ブレムは、覚悟を決めた眼差しを見せてきた。

 

「分かった、そこまで言うなら、一つやってみよ」

「はっ! では、失礼します!」

 

 ブレムは退室していった。その間にもロデニウス連合王国軍の爆撃隊が、戦闘機の護衛を受けてワイバーンロードを蹴散らしながら、デュロ上空へと接近しつつあった。

 

 

『見えたぞ、デュロだ!』

 

 部下の機体から報告を受け、「一式陸上攻撃機 二四丁型」に乗り込んでいた和装を身にまとった妖精……仲間からは"()(なか)()(ろう)"と呼ばれるその妖精は、窓の外を見やった。

 群青色の海と青い空の狭間では空中戦が発生しており、飛竜(ワイバーンロード)と戦闘機「(はやぶさ)」が激しいドッグファイトを繰り広げている。だが、速度差や機動力の差によって戦闘機の方が優勢に戦いを進めていた。まあ、護衛戦闘機隊にはエースがいる(「隼」を装備した飛行第54戦隊と飛行第64戦隊。特に64戦隊はいわゆる「()(とう)隼戦闘隊」である)し、当然であろう。

 その空中戦が起きている空の先に、緑と茶色の斑模様になった陸地が見え、そして明らかに人工物が密集した地点がある。妖精は、手に持った航空地図と景色とを突き合わせ、この人工物の密集地こそが、今回の爆撃目標である「デュロ」だと断定した。

 

「全機、攻撃態勢! 爆弾槽開け!」

 

 和装の妖精が命じると同時に、電信員を務める別の妖精が、全航空機に向けて「トツレ連送」を送り始める。これは、モールス信号で「トツレ」と連続して送信するもので、「全機突撃隊形作レ」という意味である。

 「一式陸攻(野中隊)」18機を含む総勢72機の「一式陸上攻撃機」は、デュロ上空に侵入して爆撃を行うため、逆V字の隊形を形作り始めた。「千歳」「千代田」から発進した22機の「(すい)(せい)」艦上爆撃機が、零戦隊の援護を伴ってこれに続く。

 

 

「敵騎多数接近!」

 

 空を見張っていた兵士が叫び声を上げる。その方角を見ると、空の一角が真っ黒に染まるほど多数の敵がこちらに向かってきていた。ブオオオオオン……という、耳慣れない音が響いてくる。

 

「対空魔光砲、発射準備急げ!」

 

 指揮に当たる士官が命令し、パーパルディア皇国陸軍の兵士たちは、大急ぎで対空魔光砲を回して砲身に仰角をかける。

 

「照準合わせろ! 発射はもう少しだけ待て!」

「魔導エンジンと魔光砲の接続を解除しろ! 発射に備えるんだ!」

 

 慣れない対空魔光砲の操作に少しだけ手間取りつつも、発射準備はつつがなく進められた。

 そして、発射準備が完了すると同時に、敵が射程に入る。

 

「対空魔光砲、発射準備よし!」

 

 指揮を執る士官は、素早く兵士たちと砲の状態を確認した。

 砲手は照準器を覗きながら引き金に指をかけている。別の兵士たちは3人がかりで帯のように繋げられた弾薬帯を支え、連射に備えていた。

 対空魔光砲は、魔力が十分とは言えないながらも充填され、口径20㎜の細長い砲身を空に向けている。パーパルディア皇国の魔導砲よりも細長いその砲身は、一見すると頼りなく見える。パーパルディア皇国の魔導砲の口径の大きさを「水道管」に例えるなら、対空魔光砲は差し詰め「針金」といったところだ。だが、空を飛ぶ物を迎撃するには“これが一番有効らしい”のであるから、世の中分からないものである。

 

(果たして吉と出るか……?)

 

 一抹の不安を抱きつつも、士官は鋭く命じた。

 

「対空魔光砲、撃てーーっ!」

「発射!」

 

 砲手が士官の命令を復唱し、引き金を引いた。その途端、砲口に赤い魔法陣が浮き上がり、魔光砲全体が赤い光を発する。そして、

 

ダダダダダダダダダ!!

 

 パーパルディア皇国の魔導砲よりも遥かに小さい、しかしパーパルディア皇国の魔導砲より圧倒的に速い連射速度で砲弾が発射され始めた。何発もの口径20㎜の砲弾が、赤い尾を引いて空に昇っていく。

 

 

『全機、最終爆撃進路に進入!』

 

 72機の「一式陸上攻撃機」は、爆弾倉のハッチを開いて爆撃針路に進入していた。爆撃目標はパーパルディア皇国陸軍基地である。

 既にデュロ市街地上空に侵入していた攻撃隊は、今やデュロ基地を目の前にしていた。

 

「全機突撃せよ!」

 

 "野中五郎"と呼ばれる和装の妖精が命令を下し、「全軍突撃セヨ」を意味するト連送(モールス信号で「ト」を連続送信すること)が送られる。

 妖精が、眼下1,000メートルに広がるデュロの基地を見下ろした、その時だった。

 

「?」

 

 妖精は首を傾げる。

 デュロ基地のある一角が、赤く光り輝いているのだ。

 

(何だ、あの光は?)

 

 彼がそう考えた、その時だった。

 いきなり、“()()()()()()連続した赤い小さな光”が攻撃隊に向かって飛んできたのだ。その光の発射源は、赤く光っているポイントである。

 

「なっ!?」

 

 妖精は、思わず目を見開いた。

 

「対空機銃だと!?」

 

 そう、爆撃隊を襲ったのは、対空機銃によるものと思われる弾幕だった。まさか、こんなところで対空機銃による迎撃があるとは思ってもおらず、爆撃隊の面々に衝撃が走る。

 その間に赤い光の束は、「一式陸攻(野中隊)」に後続していた第2飛行隊第1中隊の陸攻隊に迫っていた。と見る間に、第1中隊6番機の右主翼に真っ赤な火線が突き刺さる。

 次の瞬間、ドオオン……と鈍い爆発音が響いた。第1中隊6番機の右主翼とエンジンから、炎が噴き上がる。

 

『こちら第2飛行隊1中隊6番機! やられた、被弾炎上!』

 

 6番機の機長妖精の悲鳴染みた報告が無線に入る。運悪く6番機は、主翼内インテグラルタンクに被弾してしまったのだ。しかも、20㎜対空魔光砲弾のうち一発はエンジンを貫いている。

 

『右エンジンをやられた! くそっ、エンジン出力低下! 爆弾を投棄しろ、急げ!』

『こちら1中隊1番、6番機大丈夫か!?』

『大丈夫じゃない、大問題だ! 右の揚力が弱まっている!』

 

 無線でのやり取りを聞くに、どうやら状況は不味いらしい。

 と、炎上するその機体から4発の250㎏爆弾が投棄された。黒い塊が4つ、吸い込まれるように市街地に落下していく。だが、その後を追いかけるようにして、炎上する「一式陸上攻撃機一一型」も、隊から落伍しつつ高度を下げていく。

 投棄された250㎏爆弾であるが、信管はしっかりと作動した。4発の爆弾が家並みに吸い込まれると、一瞬遅れて爆炎が4つ閃く。

 

『駄目だ、機体を維持できない! メーデー! メーデー!』

 

 無線から聞こえたのは、機長の悲鳴だった。

 炎上した「一式陸上攻撃機」は、そのまま高度を下げていく。どう見ても、もう墜落は免れなかった。最後の苦肉の策として、機長はデュロ市街地を縦横に区切る道路のどれかに、機体を強行着陸させようとしたが……バランスを失った機体の制御は難しすぎた。

 「一式陸上攻撃機」は、デュロ市街地北区画の一角に向かって墜落していく。そして、家並みに消えると同時に、その一帯に白い光が走った。

 次の瞬間、黒煙に包まれた真っ赤な炎が火球となって上空に噴き上がる。

 

「くそ!」

 

 和装の妖精(野中五郎)は歯軋りした。たった今、仲間が7人死んだのだ。

(「一式陸上攻撃機」は7人乗りの機体である。それが1機撃墜されたということは、単純計算して7人の命が失われたということになる)

 その時、彼の乗る機体のやや下方を複座の単発単葉機が3機、高速で飛び過ぎていった。その鼻先は尖っており、液冷エンジンを搭載していることを窺わせる。

 

『千代田第1彗星小隊、突撃せよ! ()()()()()()()()()をぶっ潰せ!』

 

 怒りに満ちた声が無線に入る。

 いつの間にか、敵の対空機銃の射撃が止んでいた。だが、明るい赤い光を放っていたため、どこから撃たれたのかははっきりわかっている。その地点に向けて、「千代田」から発進した3機の「彗星」は猛然と急降下していった。

 

 

「や……」

 

 対空魔光砲に取り付いていたパーパルディア皇国陸軍の兵士たちは、“その光景”を目に焼き付けた。

 空に向かって飛んでいく何発もの赤い弾。それに、敵のうち一騎が接触した。

 敵は右の翼を大きく炎上させ、腹から黒いものを4つ投下する。市街地に落下したそれは爆発したところを見るに、おそらく爆弾か砲弾のような爆発物だったのだろう。

 そして、敵は炎上したまま市街地に落下していった。落下地点と思しき場所から、多量の黒煙と巨大な火球が噴き上がる。遠く爆発音も聞こえた。

 

 つまり……“対空魔光砲は見事に敵を()()()()”のだ。

 

「やったぞおぉぉぉ!」

 

 士官が声を上げる。

 

「「「うおおおおおおおおおお!!!」」」

 

 周囲にいた兵士たちも、歓声を上げた。

 

「よし、この勢いでどんどん敵を撃つ……」

 

 撃墜しろ、と言おうとして、士官は固まった。

 士官の目の前で、対空魔光砲はその動きを止めたのだ。

 

「ど、どうした? 故障か?」

 

 士官が叫ぶと、

 

「いえ、魔力切れです!」

 

 砲手からは、まさかの答えが返ってきた。

 

「何だと!? “毎分350発をオーバーヒートするまで連射できる”んじゃなかったのか!?」

「それが、どうやら燃費が思ったより良くないようです!」

 

 残念なことに、パーパルディア皇国の非力な魔導エンジンでは魔力の充填は思ったよりもできておらず、しかもこの対空魔光砲の燃費も悪かったようだ。

 更にいうと、実はこの対空魔光砲が発揮した性能自体も低くなっている。今回の砲撃では“毎分200発の発射レート”であり、20秒も経たずに魔力切れになったのだが、本来であれば「毎分350発のレートで射撃が可能」で、しかもオーバーヒートするまで撃ち続けられるのである。

 魔光砲の運用に求められる「技術水準」が、パーパルディア皇国の技術レベルより()()()()のである。残念。

 

「敵機、こちらに接近!」

 

 兵士の叫びに、慌てて士官は上空を見る。すると、比較的小型の飛行機械が3機、導力火炎弾を発射しようとしているワイバーンのように急降下で突っ込んできていた。その機体からは、()()()()()()がオーラとなって滲み出ている

 

「退避! 退避ー!」

 

 士官が慌てて命令を下し、兵士たちは何とかして対空魔光砲から離れようとする。

 その時、上空に迫った敵機が何か黒い物を投下した。

 

ヒュウウウウ……

 

 それは、風切り音を立てながらぐんぐん地上へと迫り、そして、

 

ドガアァァン!

 

 爆発した。

 その直後、噴き上がったオレンジ系の色の爆炎が、一瞬後には黄色に、更に緑、青、紫といった様々な色を呈し、色取り取りの派手な爆発が発生する。ついでに、逃げ遅れた兵士たちが吹き飛ばされた。

 3回の爆発が連続して発生し、その炎が収まった時には……対空魔光砲は完全に破壊され、どこからどう見ても使い物にならなくなっていた。

 

「くそ、破壊されたか……!」

 

 対空魔光砲の残骸を見て、士官が歯軋りする。

 その時、

 

ヒュウウウヒュウヒュウウウウウウ……

 

 いくつもの、笛のような甲高い音が響き渡った。

 

「!?」

 

 士官の顔が青ざめる。

 

「まさか……! 総員退避! 急げ!」

 

 しかし、士官が命令を出した時には遅かった。

 

ドドドドドドドドドガアァァァァン!!!

 

 数十発もの250㎏爆弾が、同時多発的に着弾する。「一式陸上攻撃機」の大編隊が、一斉に爆弾を投下したのだ。

 その爆炎に呑み込まれ、士官も兵士たちも悉く戦死した。

 

 

 一方その頃、デュロ東方22㎞の海上でも、戦いが発生していた。

 戦っているのは2つの戦力。一方はパーパルディア皇国海軍第6艦隊に所属する戦列艦55隻と、国家監察軍東洋艦隊の戦列艦30隻を合わせた、合計85隻の戦列艦隊。もう一方はロデニウス連合王国海軍第2艦隊所属のアイカ型重巡洋艦1隻とニジッセイキ型軽巡洋艦1隻、そして第13艦隊のビスマルク級戦艦1隻と(しら)(つゆ)型駆逐艦1隻の計4隻である。

 第13艦隊の防空巡洋艦「()()」と駆逐艦「(むら)(さめ)」、第2艦隊のオウギョク型防空駆逐艦「シャイン」、3隻のカイジ型駆逐艦、アイカ型重巡洋艦「アキヨ」は空母部隊と輸送船部隊の護衛に回っているため、こうなっているのである。

 

 そして、海戦の推移についてであるが……“一方的”と言ってもいい状態だった。

 パーパルディア皇国海軍が押されていたのである。既に約30隻が沈められ、海の藻屑と化していた。

 

ドガアン!

 

 海上に爆発音が響いた。そして、パーパルディア皇国皇軍のフィシャヌス級100門級戦列艦が壮大な火柱を噴き上げ、船体を真っ二つにへし折って轟沈する。戦艦「ビスマルク」の「15㎝連装副砲」で撃たれたのだ。

 

「てえーっ!」

 

 第2艦隊司令官ルーシャン・ドハム提督の号令一下、「アキバエ」の20.3㎝連装砲が(ほう)(こう)する。発射された砲弾は、照準過たずフィルアデス級100門級戦列艦の周囲に降り注いだ。

 

ズズーン!!!

ドゴオォォン……

 

 4本の水柱が天高く立ち昇り、それに混じって重々しい爆発音が響く。

 水柱が崩れ落ちた時、そこに戦列艦の姿はなかった。海面に浮いた板切れや帆の切れ端だけが、そこに戦列艦が存在したことを物語っている。

 更に、ケブリン級80門級戦列艦が2隻、まとめて木っ端微塵にされる。ニジッセイキ型軽巡洋艦「カオリ」の、14㎝砲弾の直撃を食らったのだ。

 

 

 そして、国家監察軍東洋艦隊を相手に、()()()1()()で大立ち回りを演じている駆逐艦がいる。

 

()()見取(みど)りっぽい?」

 

 小柄な船体に搭載された3基の「12.7㎝連装砲B型改二」を振り回し、砲身が焼け付くんじゃないか、と思えるほど派手な砲撃を繰り返しているのは、白露型駆逐艦「(ゆう)(だち)」である。国家監察軍をたった1隻で封じ込めにかかっているのだ。

 34ノットの最大戦速で突っ走りながら「夕立」は砲撃を行う。その直撃を受けた戦列艦は、片っ端から爆発して海の底へと沈んでいく。

 

「さあ、素敵なパーティしましょ!」

 

 その艦橋に立つ艦娘"夕立"は、クリーム色の長い髪を振り乱し、緋色の瞳に戦意を宿しながら歌うように一言呟いた。その途端、右舷を向いていた「夕立」の2基の四連装魚雷発射管から、九〇式魚雷8本がばら撒かれる。

 海面に白い航跡を残しながら、30ノットの速力でパーパルディア艦隊に突進する魚雷。そのうち1本が、トクサ級戦列艦の1隻に吸い込まれていった。と思う間もなく、ズズーンと鈍い音がして白い水柱が太く高く立ち昇る。その水柱は一瞬後には赤い炎の柱に変わり、トクサ級戦列艦は真っ二つとなって没した。同様にして、3隻が魚雷の餌食となる。

 

「何なんだあの敵は! 圧倒的に足が速くて、攻撃が全然当てられん!」

「しかも、向こうの砲撃は嫌になるほど正確だぞ! あれだけの速度で走っているのに!」

「この……このバケモノめぇぇぇ!!」

 

 パーパルディア皇国の国家監察軍の兵士たちは、怨嗟の声を上げながら乗艦を撃沈され、海へと投げ出されていく。尤も、大概の者は乗艦の爆発と同時に粉微塵に消し飛ばされているのだが。

 単艦で大暴れする「夕立」は、まさにその二つ名通りの「ソロモンの悪夢」を、パーパルディア皇国国家監察軍艦隊に見せ付けていたのだった。

 

 

「くそっ……駄目だ、相手が強すぎる……」

 

 パーパルディア皇国海軍東部方面司令官ルトスは、座乗するフィシャヌス級100門級戦列艦「ヘルダート」の艦橋でため息を吐いた。

 敵であるロデニウス連合王国軍艦隊のうち、第6艦隊と直接砲火を交えているのは僅か3隻。しかしその3隻は、いずれもパーパルディア皇国の戦列艦より圧倒的に強力であった。しかも、ムー国の「ラ・カサミ級戦艦」を遥かに上回る超大型艦(ビスマルク級戦艦のことである)が、その中に含まれている。

 彼の推測は当たっていたのだ。つまり、ロデニウス連合王国軍は“ムー以上の兵器”を繰り出してきたのである。

 こうしている間にも、パーパルディア皇国戦列艦隊はアウトレンジから一方的に叩かれ、次々と沈められていた。第6艦隊は、もう30隻残っているかどうか、というところである。国家監察軍東洋艦隊に至っては、たった1隻の小型艦に完膚無きまでに叩きのめされ、両手で数えられる程度の艦しか残っていなかった。

 

「全艦突撃! 何としてでも、敵を射程に捉えよ!」

 

 絶望しつつもルトスが指示を出し、残り28隻の第6艦隊はロデニウス連合王国艦隊めがけて必死の突撃を図る。しかしドハムも"Bismarck"も、その手は想定済みだった。

 

「撃って撃って撃ちまくれ! 敵を近付けさせるな!」

「艦隊戦か……腕が鳴るわね!」

 

 2人は揃って、パーパルディア艦隊を叩きのめすよう指令を出した。

 

ズドオオオオオオオオン!!!!

 

 「ビスマルク」の艦体に据えられた4基の「38㎝連装砲改」が轟音と共に砲口から火を噴き、砲弾を発射する。それと同時に「アキバエ」も、パーパルディア艦隊に主砲の一斉射を浴びせた。

 この両艦の一斉射だけで、新たに6隻が海底に葬られる。そこへ、ダメ押しとばかりに「カオリ」からも14㎝単装主砲の斉射が浴びせられ、一挙に2隻が沈められた。

 次々と数を減らすパーパルディア皇国艦隊。敵に一太刀たりとも浴びせることができぬまま、第6艦隊は全滅しようとしていた。

 

「くっ、あと少し、あと少しなのに……!」

 

 敵艦との距離が縮まる様子がなく、歯噛みするルトス。

 その時、ケブリン級80門級戦列艦の1隻が全く別の方角から砲撃を受け、轟沈した。

 

「!?」

 

 その方角に目をやった彼が見たのは、第6艦隊に砲口を向ける小型の艦。そのマストには赤い太陽を描いた白い旗(旭日旗)と、ロデニウス連合王国の国旗が翻っている。

 

「お待たせっぽーい!」

 

 そう、国家監察軍東洋艦隊を()()()殲滅した「夕立」が、第6艦隊の行く手を塞ごうとしていたのだ。

 

「なんてことだ……国家監察軍艦隊は、もう全滅してしまった、というのか……」

 

 ルトスは、万策尽きたことを悟った。

 繰り返し「全艦突撃」の指示を飛ばしながら、彼は密かに考えていた。

 

(もう、ここは駄目だ……だが、哨戒のワイバーンが飛び立った後に、艦隊を出港させておいたのは幸いだったようだな。サクシードよ、後は任せたぞ……!)

 

 「敵艦発砲!」という見張員の悲鳴じみた報告を聞きながら、ルトスはそう考えた。

 次の瞬間、彼の乗艦・フィシャヌス級100門級戦列艦「ヘルダート」は、38㎝砲弾の直撃を受けて、粉微塵に消し飛んだ。

 

 

 ルトスが戦死してからおよそ3分後、ロデニウス連合王国海軍・「スターボウブレイク作戦」遂行艦隊旗艦「アキバエ」の艦橋に、「敵艦隊全滅」の報告が上げられた。

 前後して、爆撃隊による水平爆撃も完了した、との報告が入る。

 

「よし。輸送船団へ連絡しろ、『陸軍歩兵揚陸用意』と」

「はっ」

 

 ドハムは、デュロへの揚陸作戦の開始準備を命じる。

 その時、通信長が別の報告を上げた。

 

「第13艦隊『摩耶』から入電! 『敵ワイバーン多数、高速で接近中。数およそ100、11時の方向、距離50㎞』」

()()ワイバーンがいたのか。だが、これまでのワイバーンの撃墜数から考えて、そろそろ払底する頃合いだな。全艦対空戦闘用意! 輸送船団を守れ!」

 

 直ちに、第2艦隊は対空戦闘の準備を開始した。

 

 

 パーパルディア皇国陸軍デュロ防衛隊所属・竜騎士団長ガウスは、99騎の部下を率いてロデニウス連合王国艦隊を目指していた。

 

「おのれ、ロデニウス連合王国め! 見ておれよ……」

 

 ガウスの口から、怒りの言葉が漏れる。

 先ほど基地から魔信による連絡があり、基地の滑走路は完全に破壊されて(でこ)(ぼこ)になってしまったことが分かっていた。よって、もう着陸はできないか困難である。ならば、死ぬにしてもせめて敵を道連れにしてやろう、とガウスは考えていた。

 現在自身が率いている99騎の部下、これがデュロ防衛隊竜騎士団最後の生き残りである。他の竜騎士たちは、軒並み戦死してしまっていた。

 

『前方、敵機! その向こうに敵の艦隊がいます!』

 

 部下の一人から報告を受け、ガウスは前方を見る。

 前方の空には、黒いゴマ粒を撒き散らしたように敵機が展開していた。それより少し遠く、海の上に白い航跡が幾つも見えている。

 

「全騎突撃せよ! 奴らに目に物見せてやれ!」

 

 ガウスは指示を出し、部下を率いて真っ直ぐにロデニウス連合王国艦隊を目指す。

 程無く、接近してきた敵の航空機と接触し、空中戦が始まった。が、

 

『くそっ、後ろに付かれた! 振り切れない……!』

『ぐあああああ!』

『くそっ! また避けられた! 奴ら、何てスピードしてんだ!』

 

 魔信からは、部下の悲鳴しか聞こえてこなくなった。

 敵の航空機……零戦52型は、最高時速565㎞に達するスピードと優れた運動性、そして連射の利く機首7.7㎜機銃2丁と一撃必殺の主翼20㎜機銃2丁をフル活用して、ワイバーンロードを片っ端から撃墜していく。敵の数は20機前後しかいないのだが、戦力差は圧倒的だった。

 多くの部下を撃墜され、残り僅か48騎にまで減らされた頃、ようやく敵機は離れていった。入れ替わりに、敵艦隊が対空砲火を撃ち上げる。が、

 

「何だこれは……!」

 

 ガウスは絶句した。

 敵の弾幕は、これまでにガウスが見たことがないほど強烈なものであったのだ。敵の撃った砲弾は空中、それもガウスら竜騎士の付近で爆発し、破片によって騎士や飛竜を次々と傷付ける。

 

『ごふっ!?』

『おい、相棒! しっかりしろ! うわあぁぁ……』

 

 またも次々とやられていく部下たち、まだ導力火炎弾の射程にはほど遠い。なおも接近すると、なんと敵の弾幕は倍以上の密度となった。

 ガウスは知る由もなかったが、竜騎士団はロデニウス連合王国艦隊の最終防空ラインに突入していたのである。そのため、高角砲に加えて対空機銃も一斉に撃ち方を開始したのだった。

 どうあがいても、これは敵艦隊への接近すらできない。

 

「おのれ……おのれえぇぇぇぇぇ!」

 

 叫んだ直後、ガウスは輸送船の一隻が放った25㎜対空機銃によって撃墜され、海へと散った。

 

 

『電測より艦橋、対空電探に感なし』

『見張りより艦橋、敵ワイバーン全騎撃墜。目視圏内に敵影なし』

 

 ロデニウス連合王国海軍連合艦隊旗艦「アキバエ」艦橋に、連続して報告が寄せられた。

 

「やれやれ、やっと終わったか。ようやくこれで、揚陸とその前段階の砲撃に移れそうだな」

 

 ドハムはそう呟くと、作戦計画書に従って次の段階への移行を指示した。

 

 

『連合艦隊旗艦アキバエよりビスマルクへ。“上陸前の対地砲撃”を実施せよ』

「こちらBismarck、了解したわ」

 

 戦艦「ビスマルク」の艦橋では、ドハムの命令を受けて"Bismarck"が指示を飛ばしている。

 

「目標、パーパルディア皇国デュロ陸軍基地。主砲三式弾装填、左砲戦用意!」

「Jawohl! 主砲、対地砲撃用意! 弾種三式弾! 左90度!」

 

 砲撃戦の準備が着実に進められる。甲板要員は大急ぎで艦内に退避し、「ビスマルク」に載せられた4基の「38㎝連装砲改」が回転する。長大な砲身に仰角がかかり、その砲口はデュロ市街地に向けられた。

 

「全主砲、砲撃用意よし」

 

 4分後、砲撃用意が整った。

 "Bismarck"はさっと右手を振り上げ、ただ一言命じる。

 

Feuer(撃て)!」

 

 次の瞬間、

 

ズドオオオオオオオオン!!!!

 

 砲声が大気を揺さぶり、強烈な衝撃が艦体を震わせる。砲撃が始まったのだ。

 しかも、ビスマルク級戦艦の主砲は世界各国の戦艦の主砲の中ではダントツの速射性を誇る。パーパルディア皇国陸軍にとっては、強烈無比の威力を持つ砲弾が、早いペースで飛んでくるのだ。

 大口径の砲弾が次々とデュロ基地に、そしてデュロ市街地に降り注ぎ始めた。

 ついでとばかりに、「アキバエ」と「アキヨ」、そして「カオリ」は沿岸砲台を狙って砲撃を行い、それに合わせて「千歳」と「千代田」の爆撃隊が急降下爆撃を仕掛ける。沿岸砲台は、射程距離外の位置にいる敵艦から次々と破壊されていき、弾薬庫が爆発して噴火かと錯覚するような爆炎を噴き上げる。その上を艦上爆撃機「彗星」が乱舞していた。

 

 20分ほどの砲撃で、「ビスマルク」は主砲と副砲、全砲門合わせて400発に達する砲弾を叩き込んだ。

 この砲撃だけで、パーパルディア皇国陸軍デュロ防衛隊は、合わせて2万人が死傷。基地司令官ストリームも、砲撃により戦死した。そしてデュロ防衛隊が駐屯していた、パーパルディア皇国三大陸軍基地の一つ・デュロ基地は、その機能を失った。

 そしてブレムが指揮する、残存のパーパルディア皇国兵たちと、上陸してきたクワルク・サムダ将軍率いるロデニウス連合王国陸軍との間で、激しい市街戦が発生。しかし、最初からパーパルディア皇国陸軍は押されっぱなしだった。

 市街地の各所に展開し、通りを塞ぐように防衛線を築いたり、建物の上部からの狙撃を狙ったパーパルディア皇国陸軍に対し、ロデニウス連合王国軍は50輌動員したハノマーク装甲車を先頭に市街地に突入。道路に展開するパーパルディア皇国陸軍の戦列歩兵を、マスケット銃の射程外からMG34機関銃で薙ぎ払い、パンツァーファウストで建物の壁をぶち抜くなどして建物を一軒一軒制圧し、建物に潜んだパーパルディア皇国兵をMP40で射殺する。場合によっては、ハノマーク装甲車に外付けされたWG42(30㎝ロケット弾)を発射して、建物を破壊していく。

 マスケット銃を装備した戦列歩兵(地球基準で18世紀レベルの軍隊)では、ボルトアクション式ライフル銃や機関銃を装備した軍隊(地球基準で1940年代レベルの軍隊)に敵うわけがなかったのである。

 

 陸上戦闘開始から僅か30分で、パーパルディア皇国はデュロの東側、つまり工場地帯と造船所を失った。更に約1時間後には、市街地からも撤退を余儀なくされ、戦場はついにデュロ基地へと移った。

 「一式陸上攻撃機」を中心とする爆撃隊の水平爆撃によって、パーパルディア皇国デュロ防衛隊は既に火砲の大半を失っており、ハノマーク装甲車を中心とする軽機甲師団7個師団(約8万4千名)の津波に対抗し得る戦力はなかった。

 

 

時に、中央暦1640年6月2日 午前11時42分。

パーパルディア皇国東部沿岸部の要衝、工業都市デュロ陥落。

デュロに駐屯していたパーパルディア皇国皇軍は、デュロ基地司令官ストリーム・皇国陸軍将軍ブレム・皇国海軍東部方面司令官ルトス・竜騎士団長ガウスなど主要幹部が根こそぎ戦死し、合計で22万6千名に達する死傷者を出した。また、デュロに駐留していた国家監察軍東洋艦隊及び皇国海軍第6艦隊も全滅した。

一方、ロデニウス連合王国海軍は艦艇に被害なし、陸軍の死傷者は2,240名。それ以外に、フェン王国を出撃した「一式陸上攻撃機」が1機、対空機銃(パーパルディア皇国陸軍が投入した、イクシオン20㎜対空魔光砲のこと)により撃墜され、搭乗員7名が戦死。

 

 そしてこれにより、また一つパーパルディア皇国皇軍最高司令官アルデの胃に、穴を開ける案件ができたのだった。

 しかも、デュロという“皇軍最大の後方補給拠点”を失ったことで、皇軍への武器や弾薬類の補給が()()()になってしまったのである。パーパルディア皇国皇軍の大幅弱体化が決定した瞬間であった。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 時が少し経って、中央暦1640年6月2日 午後0時、パーパルディア皇国属領クーズ。

 反パーパルディア皇国の秘密組織である「クーズ王国再建軍」参謀長イキアは、同志の拠点の一つを目指して歩きながら、考えごとに(ふけ)っていた。

 

(やはりハキの奴、何も分かっちゃいない……!)

 

 彼が何を考えているのか、というと、「クーズ王国再建軍」リーダーであるハキの“短絡的な判断”に対する不満である。

 数時間前、「属領統治軍がクーズから撤収している」という情報を伝えた彼に対し、ハキは()()()で“皇国に対する武装蜂起”を決意した。

 イキアから見ると、ハキのこの判断は「属領統治軍が撤収した」という情報を「ロデニウス連合王国軍の攻撃によって全滅した、パーパルディア皇国皇都防衛隊を立て直すため」と“()()()解釈しただけ”のようにしか見えない。しかもこの皇都防衛隊の全滅も、イキアにとっては「不確かな情報」でしかなかった。武装蜂起を決意するには、"判断材料の量も質も弱い”と考えられたのである。

 

 当然だが、武装蜂起は人同士の命を賭けた争いであり、決して遊びなどではない。

 そして、これに参加する者にはそれぞれの家族がいる。友もいる。人によっては、恋人がいるかもしれない。武装蜂起への参加によってこうした人々に迷惑がかからないとも限らないのだ。もちろんだが、“命を賭けられるだけの理由”も必要である。

 

 武装蜂起して皇国属領統治機構を制圧し、一時的に統治権を取り戻したとしても、皇国が皇軍を送ってくるようなことがあれば、すぐにまた祖国は蹂躙され、自分たちは皆殺しとなるだろう。皇国が戦争に大敗するようなことでもあれば、話は別だが。

 

 イキアは、武装蜂起決行を意味する暗号を同志たちに流す前に、“一つの試み”としてある同志の組織を説得すべく、とある建物の前に来ていた。それは、「クーズ王国再建軍」広報組織が入っている建物である。表向きは家具屋に偽装されていた。

 彼は壁に似せて作られた隠し扉の前に立つと、ある一定のリズムで扉を叩いた。すると、すぐに同志が隠し扉を開く。彼は、広報組織の中心的部署・通信室に招かれた。

 薄暗い通信室の中では、何人かの同志が動いている。ある者は「クーズ王国再建軍の一斉決起の決定」を伝える文章を考え、ある者は決起を告げる暗号魔信を考えていた。そこへ、通信室長がイキアに話しかける。

 

「蜂起ですか……一時的な勝機はあるかもしれませんが、その後はどうなるのでしょうか? もし皇軍が戻ってきたら、我々の皆殺しは避けられませんよ」

 

 通信室長は、イキアと同じ懸念を示した。同志のうち何人かも、同意するように頷く。やはり、判断材料が少な過ぎるのだ。

 イキアは何と答えるべきか悩み、暫し沈黙する。そして口を開こうとした、その時だった。

 

「同志、ちょっとこれを聞いてください! 第一文明圏向けの魔信放送を聞いていたら、臨時ニュースが入ってきました!」

 

 魔信の受信機を操作していた同志が声を上げる。室内の注目が、一斉に受信機に向けられた。

 同志は全員が放送を聞くことができるように、魔信のボリュームを上げる。

 

『……の途中ですが、臨時ニュースをお伝えします。

アルタラス王国現女王ルミエス氏は、「ロデニウス連合王国とパーパルディア皇国との戦争に関しての重大発表」を行うため、緊急記者会見を開く、とのことです。大変申し訳ありませんが、ただ今から放送を切り替え、ルミエス氏の緊急記者会見の模様をお届けします』

 

 男性の声で、番組の切り替えが告げられた。

 番組を切り替えてまでの発表、となると、とても重大な内容らしい。

 「クーズ王国再建軍」の面々が注目する中、女性の声が…ルミエス女王の声が流れ始める。

 

『全世界の皆様、こんにちは。アルタラス王国女王・ルミエスです』

 

 イキアらが聞いていたのは音声魔導通信のみだったが、ムーやミリシアルのような“映像魔導通信”を実用化している国の放送では、壇上に上がったルミエスが、気品溢れる様子で一礼する様が、テレビカメラに捉えられていた。

 

『今から行う発表は、ロデニウス連合王国から了解を得たものです』

 

 この一言に、イキアらは最大限の注意を魔信に向けた。

 ロデニウス連合王国といえば、今パーパルディア皇国と全面戦争をしている国である。その国が了解した発表となると、これは「この戦争に関わる重大発表」である可能性がある。

 

『先日5月29日、我が国アルタラス王国北方、パーパルディア皇国の皇都エストシラント南方海域にて、ロデニウス連合王国とパーパルディア皇国の大規模海戦が行われました』

 

 イキアたちは、思わず身を前に乗り出した。

 少し前に、パーパルディア皇国皇都防衛隊がロデニウス連合王国軍によって全滅したらしい、という不確かな情報が得られたばかりである。それに関するであろう“初の()()()()からの発表”なのだ。注目も集まる、というものである。

 イキアたちの注目をよそに、ルミエスは話を続ける。

 

『この海戦に、ロデニウス連合王国は海軍1個艦隊から約50隻の戦力を投入し、一方のパーパルディア皇国は海軍1個艦隊200隻を投入しました』

 

 今や、全世界の人々がこの放送に注目していた。

 噂程度に聞いていた事象が、一国の王によって明らかにされようとしているのである。各国のマスコミ関係者たちは必死にメモを取りながら、彼女の次の言葉を待った。

 

『結果を先に申し上げますと、この海戦はロデニウス連合王国の大勝利に終わりました。

ロデニウス連合王国海軍の被害は()()です。一隻たりとも沈んだ船はなく、一人の戦死者も出ておりません。一方、パーパルディア皇国海軍は全滅し、200隻は一隻残らず海底へと姿を消しました』

 

 この“まさかの事態”に、記者会見の会場はざわついた。その一方でイキアらのような、魔信の前でニュースを聞いていた者たちも息を呑んでいる。

 

『また、ロデニウス連合王国軍はエストシラントに対して空からの攻撃を実行。皇都防衛隊を基地ごと全滅させ、皇国の2個主力艦隊と皇都直衛艦隊も全滅させています。これにより、パーパルディア皇国の海軍主力は“ほとんど全滅した”と言えます』

 

「なんてことだ……」

「本当に、皇国にこれだけの被害を与えていたのか……」

 

 「クーズ王国再建軍」広報組織アジトの通信室では、誰かが呟いた。

 

『今回の攻撃により、パーパルディア皇国の皇都防衛態勢には、大穴が開いてしまいました。そこでその穴を埋めるべく、皇国は“各属領から統治軍を撤収させている”そうです』

 

 ここで一瞬、ルミエスは言葉を切った。

 そして、声を大にして続きを述べる。

 

『パーパルディア皇国の圧政に苦しんできた人々よ! 今が動く時です!

今、皆様が一斉に行動すれば、皆様は祖国を取り戻すことができるでしょう! そしてパーパルディア皇国に、それを止める力はありません!

今こそ、皆様の祖国を! 自由と平和、そして誇りに満ちた祖国を、パーパルディア皇国から取り戻そうではありませんか!!』

 

 ルミエスは、また一瞬だけ言葉を切った。

 

『今回の戦いの結果だけを見たとしても、パーパルディア皇国軍よりも“ロデニウス連合王国軍の方が強い”ことは明らかです!

しかもパーパルディア皇国は、首都上空にまでロデニウス連合王国軍の侵入を許しております。パーパルディア皇国は、ロデニウス連合王国には()()()()()()()でしょう。

今こそが、パーパルディア皇国の傲慢な統治体制を終わらせる時なのです!』

 

 ルミエスは、更に声を大にして続けた。

 

『我々も、ロデニウス連合王国と共に戦うのです! そして悪魔のような国、パーパルディア皇国を、倒そうではありませんか!!

皆様が行動し、“祖国を取り戻すという行為を行うことそのもの”が、“この戦争の行方を左右する”と言っても、過言ではありません。

かくいう我が国、アルタラス王国も、ロデニウス連合王国に味方しております。先程ロデニウス連合王国軍はエストシラントを空から攻撃した、と申しましたが、その際には我が国の基地が拠点として使われております。“ロデニウス連合王国を陰ながら支援すること”もまた、ロデニウス連合王国と共に戦っている、と言えるでしょう。

戦うのです! 今なら、()()()パーパルディア皇国を打ち破ることができます!!

今なら勝てる。そしてパーパルディア皇国は、少なくとも“列強の座”から転げ落ちることになるでしょう。

動くべき時は、今なのです!!!』

 

 ルミエスがそう言って話を終えた後、会見場に詰めていた記者たちが、一斉に質問を開始した。

 

 同志の一人が魔信を切る。ルミエスの緊急記者会見の放送は聞こえなくなった。

 通信室はしばしの間、沈黙に満たされる。さっきの放送があまりにもあんまりな内容であるため、全員が衝撃を受けているのだ。

 

 あの情報……「ロデニウス連合王国軍の攻撃で皇都防衛隊が全滅した」という情報は、()()()()()のだ。どうやらロデニウス連合王国は、とんでもない力を持っているらしい。それこそ、第三文明圏に冠たる列強、パーパルディア皇国の軍を、打ち破れるほどの力を。

 

「……分かりました。やりましょう」

 

 ついに通信室長も、ハキの方針に理解を示した。

 「クーズ王国再建軍」の武装蜂起が、決定した瞬間だった。

 

 その後、「クーズ王国再建軍」は午後1時に"一斉蜂起"を意味する暗号電を打ち、その2時間後の午後3時に一斉に決起。ハキ率いる2,000人の軍勢が、パーパルディア皇国属領クーズ統治機構に襲いかかった。

 統治機構側は、職員に武器を持たせて(といっても棍棒や(むち)が関の山であるが)応戦した。だが、以前にも述べたように統治機構の職員は、“実戦に関しては全くの素人”である。どっかの兵士のいう「口だけは達者なトウシロばかり」「ただのカカシ」なのである。それに対して、クーズ王国再建軍には元軍人もおり、戦意も高かった。

 加えて統治機構側は職員400名、対してクーズ王国再建軍は2,000名。数の差が違いすぎたのである。

 

 結局、統治機構はあっさりと陥落し、職員たちは逃げ出すか、逃げ遅れた者は“筆舌に尽くしがたい私刑(リンチ)”に遭った。

 クーズは、20年の時を経て独立を取り戻したのである。

 

 更に、クーズでの武装蜂起とほぼ時を同じくして、パーパルディア皇国の別の属領マルタとアルークでも、武装蜂起が発生。双方の統治機構も陥落した。

 

 そして、こうした情報が草の根ネットワーク(基本的に口コミ)で伝わっていき、他の属領でも武装蜂起が発生することとなる。




原作ではBP-3C1機を小破させるに留まった対空魔光砲ですが、今回はなんと「敵1機撃墜」という大戦果(ただしパ皇基準)を挙げました。魔力切れになった直後に一瞬で返り討ちにされましたが…

令和になってからの初更新がいつになるかは、正直まだ不透明です。急ぎ次話を準備しておりますが、明日に間に合うかどうかは分かりません。
とりあえず、仕事を急ぎます。


評価8をくださいましたけむり様
評価9をくださいましたハンニバル・バルカ様
ありがとうございます!!
また、新たにお気に入り登録してくださいました皆様、ありがとうございます!


次回予告。

列強パーパルディア皇国を相手に、大戦果を重ねて破竹の快進撃を続けるロデニウス連合王国軍。その様子を見ていた、世界各国の反応は…
次回「世界の反応」

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