鎮守府が、異世界に召喚されました。これより、部隊を展開させます。   作:Red October

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令和最初の日には間に合わなかった…
今回は世界各国の様子の話です。



058. 世界の反応

 中央暦1640年6月2日 午後0時30分、神聖ミリシアル帝国南方 港街カルトアルパス。

 とある酒場では、いつものように酔っ払いたちが話をしていた。その話題は、つい先ほど「世界のニュース」で発表された、“第三文明圏の壮絶な戦い”である。

 

「聞いたかおい!? 第三文明圏の列強パーパルディア皇国の主力艦隊が、ロデニウス連合王国の艦隊と激突して、こてんぱんにやられちまったらしいぞ!!」

 

 酔っ払いたちの話す声は大きい。驚愕しているのだ。

 そりゃあ、ロデニウス連合王国側が“あれほどの大戦果”を挙げた……逆にいえば、パーパルディア皇国側が“とんでもない大損害”を(こうむ)った……のであれば、驚くのも無理はない。

 

「ああ、聞いた。全く信じられん話だな。

しかもだぞ? あいつら空から攻撃して、皇都防衛隊を全滅させちまったらしいじゃねえか? 飛行機械か何使ったか知らねえけど、よくそんなことができるな!?」

「歴史上、文明圏外国家が列強の、それも“主力となる部隊”を叩き潰すなんて、これまで一度もなかったぞ。あのグラ・バルカス帝国だって、レイフォルの艦隊で正面切って倒したのは40隻程度。だが、こっちはその4倍はいるぞ!?」

「ああ。しかも、パーパルディア皇国海軍といえば、“第三文明圏最強”を誇った艦隊だ。それを悉く破るなんてな」

 

 ここで、ビールを呷った商人の一人が、口元を手の甲で拭いながら話題を変える。

 

「しかしよ、ロデニウス連合王国は皇都への攻撃に、飛行機械を使ったらしいじゃねえか。あいつらの後ろには、ムーがいるんじゃねえのか?」

「いや、どうも違うようなんだ」

 

 別の商人が、骨付き肉に手を伸ばしながら口を出した。

 

「ロデニウス連合王国が投入した飛行機械は、ムーのそれよりも性能が高かったようなんだ。パーパルディア皇国もワイバーンの新型を投入したんだが、手も足も出せずに全部やられた、って聞いたぜ」

「何だと!?」

「ワイバーンの“新型”ってことは、ワイバーンロードよりも性能は上だろうな。もしかするとムーの『マリン』より強力かもしれん。それすら歯が立たないとは……」

 

 このような会話があちこちで交わされ、場は騒然となっていた。

 

「ロデニウス連合王国……あいつらは本当に何者なんだ? 陸でも海でも空でもパーパルディア軍に勝つとか、パーパルディアの属領を攻め落とすとか、信じられんことばっかり起こしていく……。

それにしても、パーパルディア皇国はいったい、どうなってしまうんだろうな」

「パーパルディア()()殲滅戦を宣言しているからなぁ。殲滅されるか、良くて属領を根こそぎ取られ、相当数の国民が奴隷にされる、とかだろうな」

「首都にまで攻撃を許したんじゃ、パーパルディア皇国ももうオシマイだな。この戦争が終わった後の第三文明圏は、ロデニウス連合王国と大東洋共栄圏を中心に回るようになるだろう。しかもロデニウス連合王国は、おそらくパーパルディア皇国に代わって列強入りするはずだ。そうなれば、世界にすら影響を与えるようになる。

商売のやり方を、ちょっと考え直さないとな……」

「ああ。それに加えて、俺はさっさとパソ通貨(パソは、パーパルディア皇国の通貨単位)をロデン通貨(ロデニウス連合王国の通貨単位)にでも替えてこよう。もうパソ通貨の暴落も確実だからな。ここの為替(かわせ)市場ってどこだっけ?」

「為替市場なら、ここを出て左へ真っ直ぐ5ブロックくらい行った先だよ。ついでだから、俺も一緒に行こう」

 

 酔っ払いたちは、そんな話を続けていた。

 

 

 同時に神聖ミリシアル帝国の別の場所でも、この戦いについての報道に関して、話をしている者たちがいた。

 神聖ミリシアル帝国の帝都ルーンポリス。そこは、“世界最大にして最強の大国の首都”であるため、「世界の中心」とも言われる。昼間は世界各国から訪れた多くの人々が通りを行き交い、行商の声も活発に響く。また夜になっても、光魔法を使った街灯が市街地のあちこちに設置されているため、夜でも明るい光が満ちており、人々の往来もほとんど絶えることがない。そのため、この都市は「眠らない()()」とも称されていた。

 この都市には当然、政府の主要機関が集まっている。帝国皇帝の住まう宮殿アルビオン城を始め、外務省、帝国情報局などの機関が集中しているのだ。

 その帝国情報局では、情報局長アルネウスが部下の一人ライドルカから報告書を提出され、それを読んで考え込んでいた。

 

 ライドルカの報告書の内容は、「世界のニュース」にて発表された報道についてである。第三文明圏の覇者、列強パーパルディア皇国の主力海軍が全力出撃を行ったにも関わらず、ロデニウス連合王国という文明圏外国の一部の海軍戦力に完膚無きまでに叩き潰された。また、パーパルディア皇国の皇都エストシラントを守っていた皇都防衛隊は、ロデニウス連合王国軍の空からの攻撃を防ぎ切れずに殲滅された、という。

 

 ロデニウス連合王国は、少なくとも「列強」と認めても差し支えないレベルの国力や軍事力、技術力を持っている。これは間違いないようだ。

 ちょっと前に、西の第二文明圏で列強の末席にあったレイフォル国が、「グラ・バルカス帝国」なる文明圏外国家に滅ぼされたと思っていたら、今度は世界の反対側、第三文明圏でこれである。西からのみならず東からも「新たな列強国候補」が現れたことに、アルネウスは頭を痛めていた。

 

「ライドルカ。お前は、この『ロデニウス連合王国』という国家をどう見る?」

 

 アルネウスはまず、報告書を提出してきた情報局員ライドルカに意見を求めた。

 

「少なくとも軍事技術については、"決して侮ることはできない”と考えます。

世界のニュースによれば、彼らは飛行機械を保有していると見られますし、またムー国のそれを凌ぐ大型の軍艦も配備しているようです。情報元が商人なので情報の確度は怪しいですが、もしかすると彼らの軍艦は“我が国の魔導艦に匹敵するかもしれない性能を有する”と思われる、とか。

また、どうやら彼らは『フィルアデス大陸に生息する地竜』とは()()()、鎧を着た怪物を使役しているそうで、この鎧はパーパルディア皇国の魔導砲を弾くだけの防御力があるとか。しかも、どうやらこの怪物はその身に魔導砲を装備していて、我が国の魔導車のような速度で走りながら砲を撃ち、しかも次弾装填が早い、等という情報を聞いています。“非常に脅威である”と私は思います。

あの国はまだ未知数なことが多過ぎますが、“第三文明圏外国だから"といって、決して『侮ってはならない』と思います。でなければ、()()()()()()()()()()()()()を演じることになるやもしれません。外交には、“ムーを相手にする時”のような細心の注意を払うべきだと思います」

 

 ライドルカは、そのような意見を述べた。同じ意見を持っていたアルネウスは、それに頷く。

 

「うむ、そうだな。

ロデニウス連合王国の技術や規模については分からないことが多いが、グラ・バルカス帝国ともども決して侮ってはいかんだろう。

おそらくだが、この戦争でパーパルディア皇国は、列強の座から転がり落ちるはずだ。それどころか、パーパルディア側から殲滅戦が宣言されているから、パーパルディア皇国が滅びることになるだろう。そうなれば、第三文明圏は激動状態になる可能性もある。ロデニウス率いる大東洋共栄圏が、『第三文明圏の代わり』になってもおかしくない。

ところで、パーパルディアにいた我が国の民はどうなった? 我が国の海軍が急ぎ脱出船団を向かわせ、航空機もゲルニカ35型を飛ばして空港に向かわせた、と聞いたが」

「は、エストシラントにいた民は、現在我が国の大使館もしくは空港に一時避難している、とのことです。また、航空機については、早い便なら今日にもパーパルディア皇国内の我が国の空港に着陸するようです。ただ、海軍が向かわせた船団が無事にパーパルディアの沿岸に到着できるかは不透明だ、とのことです」

「そうか……ロデニウス側が、『空港や大使館は()()()()()()である』と明言してくれたことが、不幸中の幸いとなったな」

 

 世界各国に対して「パーパルディア皇国からの国外退去」を要請した際、堺の意見具申を受け入れたロデニウス連合王国政府は、「各国の大使館及び舗装された空港は、如何なる攻撃にも晒されない『非戦地帯』とする」と発表していた。これは、もし“逃げ遅れた第三国の国民”がいれば、その者たちの「最終自衛策」として使って欲しい、と思ったからである。

 結果として、神聖ミリシアル帝国の国民は、帝国政府の情報収集能力が()()()()()()()ためにエストシラント空爆に遭遇し、慌てて大使館に逃げ込む羽目になったのだった。

 

「やれやれ……」

 

 アルネウスはため息を一つ吐いて、言葉を続けた。

 

「プライドの高い政治家様と外交官たちを説得するのは、心が折れそうな仕事だが……我が国の国益を考えれば、やるしかない。ロデニウス連合王国を“無闇に刺激しない”よう、上申しておこう。また、国交の開設を前提にした外交使節団の派遣についても意見具申しよう。

使節団を派遣する時にはライドルカ、お前もロデニウスに行ってもらうぞ」

「はっ」

 

 神聖ミリシアル帝国情報局の、ロデニウス連合王国に関する調査はその後も続くのだった。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 同時刻、フェン王国の首都アマノキでは。

 

「その話、真か?」

 

 再建成ったフェン王城天守閣最上階の自室で、現フェン国王である「剣王」シハンが、剣豪モトムから報告を受けていた。彼の目は見開かれ、驚きを隠し切れない様子だ。

 

「真にございます。ロデニウス連合王国は、パーパルディア皇国海軍の主力艦隊を、ほとんど()()に追いやりました。更に、陸上にあっても皇都防衛隊を殲滅し、大きな被害を与えている(よし)にございます」

 

 モトムの声も、どこか弾んでいる。

 

「と、いうことは……」

「はい。パーパルディア皇国が我が国に再度侵攻するのは、ほとんど不可能にございます。まだ"完全に安全が確保された”とは言えないでしょうが、ロデニウスから派遣された海軍戦力もここを守っております故、もう皇国による()()()()()はないでしょう。我が国は救われました。

またこの損害によって、パーパルディア皇国は属領統治軍を撤収し、皇都防衛に当たらせているそうで、それに便乗して各属領で反乱が発生しているようです。ロデニウス連合王国が直接手を下さなくとも、パーパルディア皇国は属領の反乱によって()()()()ことになるでしょう」

「そうか。うむ、報告ご苦労であった。下がってよいぞ」

「はっ。では、失礼します」

 

 モトムは退室した。

 シハンは最上階のテラスに出て、空を見上げる。この日の空は雲一つなく、夏の到来をはっきりと告げる青空がどこまでも広がっていた。

 

 当初、パーパルディア皇国から領土の献上を求められ、フェン王国はこれを断った。これは、非常に“勇気の要る決断”だった。

 しかしフェン王国は、古くから続く歴史と由緒ある()()()。如何に相手が列強といえど、()()になるわけにはいかなかった。

 

 パーパルディア皇国から国家監察軍が派遣され、フェン王国の王宮直轄水軍はこれを迎え撃った。

 しかし、()()の国力の差もさることながら、技術に関しても絶望的なまでの差が開いており、王宮直轄水軍は一太刀も浴びせられぬまま、全滅してしまった。

 剣王シハンが思っていた以上に、文明圏外国と列強国との差は大きく、本来ならばフェン王国はパーパルディア皇国に蹂躙されているはずだった。

 

 しかし。

 暗いかと思われた未来に、その闇を打ち払う太陽の光が差し込んだ。

 

 ロデニウス連合王国。この国は“太陽を象徴する旗”を掲げた艦隊や軍隊を動員し、国家監察軍を撃破し、パーパルディア皇国の主力艦隊や精強な陸軍すらも撃滅した。信じられないことである。

 

「我が国は助かった……。だが……これからは、ロデニウス連合王国とは上手くやってゆかねばならぬな……」

 

 剣王シハンは、フェン王国が助かったことに安堵すると共に、今後ロデニウス連合王国との外交にはより一層の注意が必要だな、と考えるのだった。そして、

 

(パーパルディア皇国への宣戦布告……『実際に』我が国が戦力を送れるわけではないが、“経済封鎖”には一役買っておかねばな)

 

 シハンは、少し前に大東洋共栄圏の参加各国に対してロデニウス連合王国から要請のあった「パーパルディア皇国に対する宣戦布告」に関して、そのように考えてもいた。

 

 実はロデニウス連合王国は、5月29日の時点で大東洋共栄圏参加各国に対し、「パーパルディア皇国への宣戦布告」を要請していたのである。その理由は、「経済封鎖」にあった。

 宣戦布告が行われれば、宣戦布告した国と宣戦布告された国は「戦争状態」に入る。当然ながら、両国間の国交はその一切がストップする。

 そう、この「両国の()()()()()が途絶える」という点が重要である。国交が途絶えるということは、当然だが各国を巡る国際商人たちも、“宣戦布告し合った国家”には容易に立ち入れなくなるし、出国も難しくなる。それに付け加えて、下手に接近すると交戦国から「敵対の可能性あり」と見做され、最悪の場合、実弾発砲でそのまま「海底送り」にされる可能性が出てくる。そんなところへ好き好んで行きたがる商人が、果たしているものだろうか。

 

 通常、“文明圏外国()列強国()宣戦布告する”など、正気の沙汰ではない。普通に考えれば、文明圏外国に「滅ぼされたい願望」でもあるのか、としか思えない行動である。

 しかし、そこは大東洋共栄圏。もし宣戦布告すれば、ロデニウス連合王国は更なる支援を行ってくれるだろう。それを機に、自国の軍隊の更なる強化を行うことも夢ではない。

 現にフェン王国だって、王国軍への三八式歩兵銃の配備が進んでいるし、海上防衛のための艦隊も送って貰っている。更に言うと、ロデニウス連合王国はパーパルディア皇国攻撃のために飛行場を建設しているが、戦後にはこれが()()()()()()利用できるかもしれない。そうなれば、フェン王国は“飛行場をタダで手に入れられる”ことになる。これは大きい。

 そのように考えたシハンは、ロデニウス連合王国と共にパーパルディア皇国と戦う決意を固めていた。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 フェン王国では比較的のんびりした時間が流れる一方で、凄まじいほどに目まぐるしく状況が変わっていたのが、パーパルディア皇国である。

 

「トーパ王国、ネーツ公国、双方が我が国に宣戦布告しました!」

「アワン王国も、宣戦布告を通達しています!」

「フェン王国、宣戦布告を通達した模様!」

 

 第3外務局には、第三文明圏外の諸外国から宣戦布告が次々と通達され、職員たちがバタバタと走り回っていた。

 

(やはりか……! おそらく、ロデニウス連合王国が主宰している大東洋共栄圏の筋だろう)

 

 第3外務局長カイオスは、職員たちから次々と挙げられる報告を聞き、考える。

 

(となれば、このままでは、このパーパルディア皇国は滅ぼされてしまう……。まずい、非常にまずいぞ!)

 

 カイオスはこれまでにない危機感を感じていた。

 

 

 一方、第2外務局にも宣戦布告状が一通舞い込んでいた。それは、第三文明圏の中でも最も西方にある半島国家、マール王国から出されたものである。

 

「何だと?」

 

 第2外務局長リウスは、局長室に飛び込んできた部下から報告を受け驚愕する。

 

「マール王国()()()が、我が国に? ったく、面倒な!」

 

 いくら列強パーパルディア皇国であっても、“文明国の軍と戦う”となると、相応の準備が必要となる。しかもこれは、パーパルディア皇国の「平時」であってもそうなのだ。

 ましてや今のパーパルディア皇国は、ロデニウス連合王国という文明圏外国改め、「上位列強国」を相手に全面戦争中である。そちらに兵力を集中させなければならない、という時に、これであった。

 

「皇軍最高司令官のアルデ殿に、軍を動かせないか聞いてくる。他の職員たちに、“お前たちはここに残って、他国が新たな動きをしないか監視しておれ”と伝えろ!」

「はっ!」

 

 

 そして当のアルデは、自らの執務室で頭を抱えていた。ロデニウス連合王国に対してどう戦うべきか、てんで思い付かないのである。

 

 アルデが最初にロデニウス大陸に関する情報を得たのは、中央暦1639年5月の半ば頃だった。それは、ロデニウス大陸において最大の勢力を誇っていたロウリア王国が、クワ・トイネ公国とクイラ王国の連合軍に完敗し、降伏した、というものだった。

 だが、アルデはこの情報と、その少し後に入ってきた「ロデニウス連合王国誕生」の報について、全くといっていいほど気にしていなかった。

 「文明圏外国」なぞ、取るに足らない存在である。第三文明圏の弱小文明国でも勝てる。まして、第三文明圏の列強国・パーパルディア皇国が相手をした場合、あっさりと滅することができよう。

 “文明圏外国同士の戦いの顛末とその後の出来事”は、全く分析されることなくアルデの脳裏から消えた。

 

 その次にロデニウス連合王国を意識したのは、同年9月25日、フェン王国で行われた軍祭の折に、自国の国家監察軍のワイバーンロード隊と戦列艦隊が、ロデニウス連合王国軍によって全滅した、という報告を受けた時だった。

 国家監察軍は、ワイバーンロード隊はともかくとして、戦列艦隊は旧式の戦列艦を装備した弱兵ばかりであり、数も少ない。そのためアルデは、ロデニウス連合王国軍は"性能差を覆すほどの量”を以て国家監察軍に対応したのか、と考えた。だがそれでも、相手が国家監察軍とはいえ、パーパルディア皇国が一時的にでも押し返されたことは、彼にとっては驚くべきことだった。

 

 そして、その後のことは読者の皆様もご存じの通りだ。

 中央暦1640年1月中旬、フェン王国に侵攻したパーパルディア皇国皇軍は、ニシノミヤコにおいてロデニウス人100人を捕縛し、レミールの命令によってこれを全員処刑した。その結果、ロデニウス連合王国は激怒し、パーパルディア皇国に宣戦を布告して1月28日に開戦。ロデニウス連合王国軍と戦ったパーパルディア皇国皇軍は、全滅寸前レベルの大損害を出して大敗した。

 これに怒り狂ったパーパルディア皇国は、「皇帝ルディアス・フォン・エストシラントの名で」ロデニウス連合王国に殲滅戦を宣言。しかしロデニウス連合王国は猛然と抵抗し、4月には皇国の属領だったアルタラスが、ロデニウス連合王国軍の攻撃で陥落した。

 そして今、なんとロデニウス連合王国軍は皇都エストシラントを空から攻撃し、皇都防衛隊を基地ごと殲滅し、海軍の3個主力艦隊も港ごと破壊した。更に、皇都を守るべく展開した第3艦隊200隻を、僅か50隻ほどの艦隊で攻撃して殲滅している。恐ろしいほどの戦力である。

 

 アルデも、皇国第1外務局がムー大使との間で行った会談の記録は読ませて貰っている。そこには、ムー大使の語った「ロデニウス連合王国の真の姿」が、克明に現れていた。

 

『ロデニウス連合王国は、列強ムー国すら超えるほどの科学技術を持った、強大な国家である。その軍事力や技術力はムー国を凌いでおり、もしかすると“神聖ミリシアル帝国よりも高い技術”を有しているかもしれない』

 

 まさかと思っていた。だが、皇都防衛隊を殲滅したロデニウス連合王国軍の戦闘機を見る限り、事実だろう。

 更に、アルデの脳裏を自身の過去の発言が過る。

 

『国家監察軍と第3外務局は、()()()()であります』

 

 それは、かつての帝前会議において、カイオスに堂々と言い放った台詞だった。だがそれは今、特大のブーメランとなって返ってきている。

 どうしようもない屈辱だった。

 

(ロデニウス連合王国を……大きく見誤った!)

 

 彼は、思わず握り拳で執務机の上をドンと叩いた。その音は、静まり返った執務室に虚しく響いた。

 文明圏外の蛮族が「列強国に勝つ」など、歴史上一度としてなかった(アルデは、グラ・バルカス帝国の情報はまともに得ていない)。あるはずがない、そしてあってはならないことであった。

 

 だが、そこにあるのは「パーパルディア皇国の皇軍が、ロデニウス連合王国という文明圏外国の軍に敗れた」という事実のみ。

 

 皇都にいた海軍の艦隊は、いずれも最新型の対魔弾鉄鋼式装甲を装備した戦列艦を主力として構成されており、竜母艦隊にしても最新鋭の装甲竜母を含む、主力を担うに相応しい堂々たる布陣だった。また、皇都防衛隊はムーの最新型戦闘機「マリン」にも引けを取らない戦闘力を持つ最強の飛竜、ワイバーンオーバーロードを装備して戦闘に臨んだ。この投入戦力は間違いなく、皇国の史上最大の動員戦力であり、世界的に見ても非常に巨大な戦力であることは間違いなかった。

 しかし、ロデニウス連合王国の軍艦一隻の撃沈、航空機一機の撃墜すらもできず、彼らの被害はゼロ……そう、()()である。しかも彼らは、皇都防衛隊を空から攻撃して基地ごと殲滅し、同様にして海軍の主力艦隊3個(正確には2個主力艦隊+皇都直衛艦隊である)も軍港ごと全滅に追いやった。そして第3艦隊を、4分の1程度の数の艦隊で正面から撃砕し、殲滅していった。

 

 アルデは、思い知ったのだ。ロデニウス連合王国軍は、自国の最強の軍隊を以てしても敵わないほどの()()()()()である、と。

 

 皇帝陛下の前では虚勢を張ったものの、どうやって戦うべきかを思い付けない。アルデは、失意のどん底に沈んでいた。

 そこへ、

 

コンコン!

 

 ノックの音が響いた。誰かが、執務室に入ろうとしている。

 

「入れ!」

 

 アルデは入室許可を出した。また、軍の方から悪い知らせが上がってきたのだろう、と思ったのだ。

 ところが、ドアを開けて入ってきたのは、第3外務局の制服を身に纏った職員の一人だった。

 

「外務局の職員が、こんなところに何の用だ?」

「はっ、アルデ様。本件は『外交上の問題』であると同時に『軍事にも関わる件』である、と思いまして報告に上がりました。

現在、トーパ王国やネーツ公国、フェン王国、シオス王国、アワン王国といった第三文明圏外の各国が、()()()我が国に宣戦を布告しております。現時点で我が国に宣戦布告した第三文明圏外国は、判明している限りでも10ヶ国以上に上ります。局長のカイオス様は、現在宣戦布告してきた国は、“ロデニウス連合王国が主宰する『大東洋共栄圏』の参加国”と見て、調査を進めています」

「なっ、何だと?」

 

 アルデは、目を見開いた。

 まさか"の文明圏外国からの()()()()()()"である。まあ、文明圏外国の軍など取るに足らぬ存在なので、パーパルディア皇国皇軍にしてみれば大した相手ではないのだが、それでもこのような事態になったことは、アルデにとっては驚きだった。

 そこへ、別の職員……と思いきや、リウスが飛び込んでくる。こちらは当然のように、第2外務局の制服を身に着けていた。

 

「アルデ殿! 第三文明圏のマール王国が、我が国に宣戦布告しました!

討伐のため皇軍の派遣をお願いしたい!」

 

 更に、軍の幹部の一人が血相を変えて飛び込んでくる。

 

「報告します!

属領のクーズ、マルタ、アルークにて、蛮族共による反乱が発生! 彼らの攻撃により、この三属領の統治機構は陥落しました! 更に現在、15の属領でも同様の反乱が発生しており、各属領の統治機構は劣勢です!」

 

「何だと!? 全く、次から次へと!」

 

 胃が捻れるような感覚を何とか我慢し、アルデは怒りの声を上げた。

 そして、連続して報告されたこれらの事態に対処しようとして……突然部屋に飛び込んできた4人目の人間に邪魔された。軍服を身に纏ったその女性の報告の声は、ほとんど悲鳴に近かった。

 

「で……デュロが! デュロが、ロデニウス連合王国軍の総攻撃を受けて壊滅しました!  陸軍デュロ防衛隊は壊滅的被害を受け、海軍第6・第7艦隊、そして国家監察軍東洋艦隊は全滅! そればかりか、敵は陸上兵力を揚陸し、デュロを完全に占領してしまいました!」

「……は?」

 

 この報告に、アルデの脳が一瞬フリーズした。そして、

 

「な……何だとおぉぉっ!?」

 

 アルデの絶叫が、執務室に()(だま)した。

 

 

 その一方、パーパルディア皇国皇帝ルディアスは、“第三文明圏最強の国家にして世界五列強の一角”でもある自国を、これほどまでに追い込んだとんでもない国・ロデニウス連合王国について、相談役のルパーサと話し合いをしていた。

 ルパーサは、パーパルディア皇国の政治に関して非常に強い権限を持ち、非常に高い外交能力と豊富な知識で以て皇国の政治を支え続けてきた、縁の下の力持ちである。そして、優れた先見性も持ち合わせていた。

 

「ふむ。ではお主は、ロデニウス連合王国が皇都防衛隊に対して行ったような攻撃を、()()()()()()に対して行うことはない、と考えているのだな?」

 

 ルディアスの質問に、頷くルパーサ。

 

「はい。いくらロデニウス連合王国から『警告』があったとはいえ、皇都には各国の国民や商人が多数おります。

過去の戦いの様子から考えますと、ロデニウス連合王国は、これまで軍事拠点に対してしか攻撃を加えてきていません。どうやら軍人が相手ならともかく、“一般市民にまで危害を加えるのは忍びない”と思っておるようですな。それが証拠に、我が国に対するロデニウスからの要求は、『侵攻に対する公式の賠償と謝罪』、そして『関係者の引き渡し』のみでございます」

「そうか……では、余も危ないのか?」

 

 ルディアスの問いに、ルパーサは難しい顔をして答えた。

 

「陛下は、当初は虐殺の事後報告を受けただけでしたので、ロデニウスに召喚されて尋問を受けることはあっても、『逮捕されて処罰される』ということはない……と思うておりました。しかし、陛下の名でロデニウス連合王国に殲滅戦を宣言した以上、『陛下の御身にも危険が及ぶ可能性』は否定できませぬ。

それと、レミール様についてですが、あの方はもうどうしようもないでしょう。ロデニウス連合王国国民の処刑命令を、()()()()()()()()()で出した上に、殲滅戦の宣言も()()()()()()()ですからな」

「うむぅ……止むを得んか」

 

 普段、泰然として皇帝らしい表情しか見せないルディアスはこの時初めて、苦虫を噛み潰したような表情を見せた。

 

「では、今回の属領の反乱についてはどう見る?」

「属領ですから、元々統治軍が抑えていた場所ですな。蜂起したとしても、各属領の前身となった国家の軍は既に解体し、武装も解除されておりますから、仮に属領同士で連合して皇国に宣戦布告してきたとしても、武器も統率能力もありません。

皇国の街が陥落する、なんてことはないでしょう」

「ふむ、"反乱は脅威ではない”と申すか」

「はい。ただ、今の我が国は、ロデニウス連合王国との戦争によって軍事力を消耗しております故、これらの属領を取り返すだけの力はありません。ですので、来年度の税収は下落することになりそうですな」

「ううむ……」

 

 ルディアスは考え込む。ルパーサは続けた。

 

「いずれにせよ、こちらから打って出るのではなく、亀のように固まっていれば、我が国が落ちることはありますまい。

ああ、あと陸軍基地は今後分散させる必要がありますな。この戦争が終わった時に、我が国が残っていれば、の話ですが」

 

 皇帝たちの考察は、その後も続けられた。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 さて一方、こちらは第二文明圏の列強ムー国。首都オタハイトにあるムー統括軍本部では、軍の幹部たちが顔を揃え、緊急会議を開いていた。

 

「その話、真か?」

 

 ある幹部が意見する。

 

「マイラス君が言っているのだ。彼が見間違えるなんてことはないと思うが」

「うっ……まあ、それは確かにそうか。しかし、なんてことだ……」

 

 指摘を受けた幹部は、呆然とした様子で呟いた。

 

「ロデニウス連合王国が、グレードアトラスター級戦艦に匹敵する巨艦を有しているとは……」

 

 そう、これはロデニウス連合王国が「グレードアトラスター級戦艦」に()()()()戦艦を保有していたことが発覚した、という件に対する会議だった。

 

 現在、ロデニウス連合王国はパーパルディア皇国と全面戦争をしている。それに関連して、ムー国はロデニウス連合王国に観戦武官を派遣していた。戦争に関するムー国の“情報収集癖”はいつものことだが、今回はそれ以外の思惑があった。

 情報分析課からの報告によれば、ロデニウス連合王国は、“自国よりも高い科学技術”を有する。兵器然り、インフラ然り。ムー国は、それらの技術に関する情報を集めて、自国の技術発展に繋げようとしているのだ。

 ただでさえ「グラ・バルカス帝国」なる謎の国家が台頭してきており、しかもその国が科学技術を有する国家とあって、ムー国はこの国を()()と見做し、それに対抗できる力を持とうとしているのだ。

 その点ロデニウス連合王国(正確には、そのうちの一部分、日本から転移した島)は、格好の手本であった。戦艦は古いものであっても、ムー国の新鋭艦「ラ・カサミ級戦艦」をも凌駕する性能があり、巡洋艦でも「ラ・カサミ」より長い艦体を有している。その上、「駆逐艦」という小型艦であっても、「魚雷」と呼ばれる水中自走爆弾によって船底に大穴を開け、戦艦を沈められる可能性がある。更にその魚雷を主兵装とする「潜水艦」なる、自発的に海に潜る艦まであるときている。しかも、これら全てが科学技術の産物であるというから、とんでもないものである。

 

「ただ、マイラス君からの報告では、この戦艦は『ヤマト型』と呼ばれる、かつて日本が保有していた戦艦だそうだ。よって、『グレードアトラスターとの関係性は薄いと見られる』……とのことだが、油断はできん。マイラス君曰く、“あまりにもそっくりだった”のだそうだ。もしかすると、ロデニウス連合王国とグラ・バルカス帝国との間に、何らかの関係がある可能性は否定し切れない。それを知ってもらいたくて、この会議を召集したのだ。

私としては、これは“ロデニウス連合王国に質問して、事の真偽を確かめるべき”だと思うが……皆はどうか?」

 

 ある幹部が提案したこの意見に、出席者全員が賛成の意を示した。

 

「よし、それでは第三文明圏の戦争と、マイラス君の調査が終わり次第、本件についてロデニウスに確認を取る……という方向で行こう。以上、解散!」

 

 こうしてムー国は、この謎の戦艦「ヤマト」について、ロデニウス連合王国(と、転移した日本)に尋ねることを決定した。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 そして、第二文明圏から西に離れた地、グラ・バルカス帝国本土。

 帝国軍情報局に充てられた部屋は薄暗く、モールス信号に似た不規則な甲高い音が鳴り響いている。その部屋から、情報局職員の一人であるナグアノが出てきた。

 手に何かの紙を持ち、ナグアノは隣の部屋に向かう。そして、茶色に塗装されたドアをノックした。

 

「入れ」

 

 中から声がして、ナグアノは「失礼します」と声を掛けてからドアを開ける。

 その部屋は、壁紙も家具も茶色を基調とした色で統一されており、格式があるように感じられる部屋だった。そして、机に向かって仕事をしていたのは、ナグアノの上司であるバミダルである。

 

「パーパルディア皇国に派遣された諜報員エンリケスから、緊急の通報がありました」

 

 ナグアノは、手に持っていた紙…中間報告書をバミダルに提出しながら続きを話す。

 

「今、パーパルディア皇国と全面戦争をしているロデニウス連合王国が、()()()を投入してパーパルディアの首都を攻撃したそうです。しかもその航空機は、“我が国のアンタレスやシリウスによく似た機体だった"と」

「何だと?」

 

 報告書を読み進めていたバミダルの眉が、微かに動く。

 

「我が国の、アンタレスやシリウスに似た形状の機体だと?」

「はい。それに加えて、ベガ型双発水平爆撃機に似た機体も、多数見受けられたそうです」

「本当か?

エンリケスに限って、見間違えるなんてことはないはずだが……。エンリケスには、調査を続けるよう命じろ。あと、この情報からロデニウス連合王国の戦力を推定しろ」

「はい」

 

 こうして、グラ・バルカス帝国にも世界の反対側の国家である、ロデニウス連合王国の情報が伝わった。

 果たして、これがどのような効果をもたらすのか、それを知る者は、まだ誰もいない。




ミリシアルの情報収集は相変わらずのガバガバでした。その結果、ミリシアル国民がこぞって非戦地帯に避難する羽目に…


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次回予告。

着々と進行するアサマ作戦。徹底的な攻撃の前に、パーパルディア皇国は追い詰められていく。そして、ロデニウス連合王国軍がデュロに続く攻撃のターゲットとしたのは、パーパルディア皇国西部にある港湾都市レノダだった…
次回「アサマ作戦4合目 レノダ攻撃」

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