鎮守府が、異世界に召喚されました。これより、部隊を展開させます。 作:Red October
そろそろ折り返し地点に突入ですね。
中央暦1640年6月3日 午前7時頃、ロデニウス連合王国クワ・トイネ州 クワ・タウイ市郊外。
そこに建設されたロデニウス連合王国の強制収容所の食堂で、パーパルディア皇国国家監察軍所属・特A級竜騎士レクマイアは、朝食を摂りながら新聞を読んでいた。この新聞は、捕虜たちに対して不定期ながら提供されるものである。
ロデニウス連合王国とパーパルディア皇国との戦争が始まったことで、結果的に皇国に帰れなくなってしまい、長らく収容されているレクマイアは、今やロデニウスで発行されている新聞も苦もなく読めるようになっているのだ。
と、不意にレクマイアの食事の手が完全に止まった。そして、スプーンを持つレクマイアの手はガタガタと震え、彼の顔は真っ青になる。
「こ……これは……! なんてことだ……!」
顔面蒼白になったレクマイアが、呟いた時だった。
「おお、レクマイア殿。新聞を読んでいるのか? どんな内容が書いてあるのだ?」
食事を乗せたトレーを持って、パーパルディア皇国海軍の将軍シウスがやってきた。その隣にはパーパルディア皇国陸軍の将軍クメールと、元ロウリア王国国王ハーク・ロウリア34世の姿もある。
「シウス将軍、そしてクメール将軍、ハーク・ロウリア殿。驚かずにお聞き願います」
「うむ」
頷きながら、シウスはレクマイアの隣の席に腰を下ろした。クメールとハーク・ロウリア34世もそれに続く。
レクマイアは心を落ち着かせるため、水を一口飲んでから口を開いた。
「ロデニウス連合王国が以前、アルタラスを奪回したことは、皆様覚えていらっしゃると思います。
今回彼らは、そのアルタラスを前線基地として、皇都エストシラントに対して攻撃を行いました!」
「「な……何だと!?」」
シウスとクメールが、見事にハモった。
「そんな馬鹿な! 皇都といえば、『皇都防衛隊』がいるはずだ! 防衛隊の戦力は、並の軍隊の比ではないぞ!」
「陛下は、ルディアス皇帝陛下は御無事か!?」
2人が必死になってレクマイアに問うその隣で、ハーク・ロウリア34世は、パンを口に入れながら考えていた。
(やはり、やりおったか……! “飛行機械を実用化している”というから、少なくともムー国レベルの力はあると思っていたが……)
その間に、レクマイアは二人の質問に答えていた。
「はい。我が国の皇都防衛隊は、その航空戦力としてテスト中だった『ワイバーンオーバーロード』を実用化、量産して対応しました。また、エストシラント軍港に停泊していた第1・第2艦隊と皇都直衛艦隊を動員して、海上の守りを固めておりました」
「ワイバーンオーバーロードを実用化したのか……! して、結果はどうなったのだ?」
クメールの質問に、レクマイアは一呼吸置いてから答えた。
「……ロデニウス連合王国の飛行機械の前に、ワイバーンオーバーロードは
「な……」
クメールが目を見開き、言葉を失った。シウスも、開いた口が塞がらなくなっている。
ハーク・ロウリア34世もこれには驚いた。パーパルディア皇国の
「また、第1・第2艦隊と皇都直衛艦隊はロデニウス連合王国軍による空からの攻撃の前に全滅し、エストシラント軍港も破壊されて機能を喪失致しました」
「なんてことだ……」
説明を再開したレクマイアに対し、シウスは思うように動かない口を動かし、やっとのことでそれだけ言った。
「空からの攻撃が終わった後、当時皇国西方沖にいた第3艦隊200隻がエストシラントに急行し、皇都防衛に当たりました。そして、侵攻してきたロデニウス連合王国の水上艦隊約50隻と戦ったのですが……この第3艦隊も悉く全滅致しました」
シウスとクメールは、二人とも声を失っている。そして、彼らの周囲の雰囲気は完全に“お通夜ムード”になっていた。
「エストシラント市街地と皇宮パラディス城は、攻撃対象になっていなかったようですので、皇帝陛下は御無事であると思います。ですが、どうやら撃墜されたワイバーンオーバーロードが次々と市街地に墜落したために、市街地や一般市民にも被害が出ているようです」
予想を超えるあまりの被害に、レクマイア、シウス、クメールは、三人揃って悲痛な雰囲気を醸し出している。
いや、ハーク・ロウリア34世が周囲を見回すと、食堂はどこもかしこも似たような"お通夜ムード"になっている。収監されている他のパーパルディア皇国軍兵士たちも皆、新聞を前にして暗く沈んでいるのだ。
(気の毒に……だが、無理からぬことだ。私が彼らの立場であってもそうなるだろうし)
元一国の主は、パーパルディア皇国の兵士たちを、心中密かに哀れむのだった。
一方、クワ・ロデニウスにあるロデニウス連合王国軍司令部では、軍務卿ヤヴィンが陸軍大臣ハンキと海軍大臣ノウカから報告を聞いていた。
「では、デュロ攻撃も成功に終わったのか?」
「はい。第2艦隊・第13艦隊の連合部隊は、デュロに駐留していたパーパルディア艦隊を殲滅し、パーパルディア皇国東部沿岸部の制海権を確保しました。また、デュロの皇国陸軍基地にも爆撃隊が水平爆撃をかけ、敵の迎撃によって爆撃機を一機失いましたが、爆撃は成功しました。デュロの基地は、もう使えますまい」
ノウカが報告すると、続いてハンキが口を開く。
「海軍によって航空爆撃と艦砲射撃が行われた後、サムダ将軍率いる陸軍第3軍団の7個師団、約8万人が上陸し、デュロ市街地とデュロ基地を完全制圧しました。『スターボウブレイク作戦』は、成功と言えるでしょう。現在、デュロ防衛に当たる約2万名を残し、6万名はパールネウスに向かって進撃する準備を進めています」
「おう、そうか。了解した」
ヤヴィンは、満足げに頷いた。
「ということは……作戦計画書によれば、次はレノダ攻撃だな?」
「は。『アサマ作戦』4合目、海軍第13艦隊がパンドーラ大魔法公国軍とマール王国軍の連合軍を支援し、海と空からレノダを叩く『ブレイジングスター作戦』になります」
「それと、最終作戦となる『ラグナロク作戦』についてですが、これに参加する陸軍部隊は順次アルタラスへの集結を完了しており、あと2割ほどの兵力がまだアルタラスに到着していない状態です。完全集結には、最大であと半日ほど要すると推測されます」
二人の大臣は揃って報告を上げる。
「うむ。抜かりない準備を頼むぞ」
「「はっ。では、失礼します」」
シンクロ率の高い返事をし、二人は退室した。
ヤヴィンは、軍司令部の執務室の窓から一人静かに街を見下ろす。戦時下だというのに、市街地の喧騒はいつもと変わらない。道路の往来も、いささか兵士の行き来が多い程度で、ほとんど平時と変わりなく見える。
(それだけ、我が国が“余裕のある戦争”をしている、ということだろうか。堺殿は「国民総動員で戦線に出ないといけないような状態では、“負け確定”です」と言っていたが……。
今頃はパーパルディア皇国が、“国民総動員で戦うような状態”になっているのだろうな)
そしてヤヴィンは遠く、北西の方角を……フィルアデス大陸のある方角を見詰めた。
(
◆◇◆◇◆◇◆◇
その頃、パーパルディア皇国西部沿岸部にある、港湾都市レノダ。
その西方15㎞の沖合では、後に「レノダ沖海戦」と呼称される、海上戦闘が発生していた。
交戦勢力は、一方はパーパルディア皇国国家監察軍西洋艦隊。トクサ級30門級戦列艦やレントル級50門級戦列艦、そしてケブリン級80門級戦列艦を合わせて36隻の艦隊である。
もう一方は、マール王立海軍……マール王国の海軍であった。マール王国は、海を挟んでパーパルディア皇国西方にある半島国家で、第三文明圏にある国家の一つである。
普通に考えれば、文明国 対 列強国の戦闘であるから、この海戦は列強国であるパーパルディア皇国艦隊が圧勝する
……が、実際にはパーパルディア艦隊が劣勢に陥っていた。
ドガアァァァァン……
30門級戦列艦の一隻が、大きな火柱を噴き上げて轟沈する。
「戦列艦トクサ轟沈! ああ、せっかく動態保存されていた、“我が国初の戦列艦”が……」
国家監察軍西洋艦隊旗艦・戦列艦「レントル」では、マストに登っていた見張りの悲痛な報告の声が響く。
同艦の艦橋では、パーパルディア皇国国家監察軍・西洋艦隊司令が、舌打ちをしながら叫んだ。
「何故だ! 何故、列強国たる我がパーパルディアの艦隊が、文明国ごときに押されているのだ!?」
彼の怒りを伴った疑問も、尤もであった。
普通に考えれば、いくら“弱兵の国家監察軍”とはいえ、腐ってもパーパルディア皇国皇軍である。炸裂式魔法を付与した砲弾を発射できる射程2㎞の魔導砲を装備しており、文明国の戦列艦程度の相手なら、一方的に撃破できる。
では、何故今パーパルディア艦隊は押されているのか。
答えは簡単。
マール王国軍が、パーパルディア皇国の魔導戦列艦より強力な艦を出してきただけ、の話である。
「なんと、噂には聞いていたが、これならロデニウス連合王国の強さも理解できるな。ロデニウス連合王国軍が打ち立てたあの凄まじい戦果は、全て事実だったのだろうな」
マール王立海軍・第2艦隊司令官コーディは、艦隊前方で発生している戦闘の模様を見詰めながら呟いた。
彼が今乗っている船は、マール王立海軍が標準装備している60門級の魔導戦列艦である。ただし、搭載されている魔導砲は射程が1㎞しかなく、また発射する砲弾は球形砲弾であり、炸裂しないことが多い。そのため、パーパルディア皇国軍が相手だと、例え相手が国家監察軍であっても苦戦は必至、それどころか“敗北も現実的なレベル”である。
しかし今回、パーパルディア皇国侵攻作戦に参加した艦艇には、マール王立海軍が何とか入手した最新鋭の艦艇が(合計してたった4隻だけだが)含まれていた。軍上層部曰く、「購入する際に、『今回導入する艦艇はどれも小さい船だ』と説明された」らしいが……
(アレの、どこが小さいんだ……
コーディは、呆れたような視線を前方に向けた。
コーディ率いるマール王立海軍の主力艦隊……戦列艦58隻、輸送船80隻からなる“パーパルディア皇国侵攻艦隊”の前方では、「第一水上打撃部隊」と名付けられたマール王立海軍の小艦隊が、パーパルディア皇国国家監察軍西洋艦隊と戦っている。
「第一水上打撃部隊」の戦力は、マール王立海軍の新鋭艦「ガーラ級戦闘艦」が1隻と「エトナ級戦闘艦」が3隻の計4隻。だが、そのたった4隻の前にパーパルディア艦隊は大損害を出し、次々と戦列艦を沈められていた。つい先ほど、戦列艦「トクサ」を撃沈したのも、エトナ級戦闘艦の2番艦「ヴェスヴィオ」である。
4隻は煙突から濛々と黒煙を噴き上げ、20ノット近い速度で海上を疾走しながら、88㎜砲や127㎜砲をパーパルディア艦隊めがけてぶっ放していた。
ここで、察しの良い読者諸賢の皆様はもうお気付きになったことだろう。
そう、この「エトナ級戦闘艦」も「ガーラ級戦闘艦」も、マール王立海軍が建造した艦艇ではない。では、どこの国で作られた船か、というと言うまでもなく、ロデニウス連合王国である。
マール王国はこの数年来、パーパルディア皇国から強い圧力を受けていた。また、「自国の軍ではパーパルディア皇国軍に立ち向かうのは難しい」と判断しており、パーパルディア皇国を"強い脅威"だと捉えていた。そこに飛び込んできた情報が、ロデニウス連合王国が結成した「大東洋共栄圏」だったのである。
中央暦1639年12月1日に結成されたばかりのこの共栄圏に、マール王国はすぐさま参加の申請を行った。そして審議により参加が認められ、同年12月19日、マール王国は大東洋共栄圏に加盟した。
共栄圏に参加したマール王国は、即座に軍の強化に乗り出した。特に躍起になったのが、“マール王立海軍の強化”だった。
マール王国は半島国家であり、従ってパーパルディア皇国軍がマール王国を占領しようと思った場合には、「2つのルート」を取ってくることが想定されていた。1つは、パンドーラ大魔法公国を経由して陸路で攻め込むルート。もう1つは、海を渡って直接マール王国本土に上陸するルートである。
陸路は、軍の進撃に時間がかかることや補給線の確保に難があることなどから、マール王国はもしパーパルディア皇国軍が侵攻してきた場合、“海から来る可能性が高い”と判断していた。故に“マール王立海軍の強化”を優先したのである。
しかし、大東洋共栄圏参加各国に配布された商品カタログを見て、マール王国軍上層部はびっくり仰天する羽目になった。ロデニウス連合王国製の軍艦は、どれもパーパルディア皇国艦隊に正面切って対抗可能、それどころかむしろ圧倒できる性能ではあったのだが、お値段が非常に高かったのである。
マール王立海軍は当初、アイカ型重巡洋艦の購入を申請してきたのだが、これには当然のように軍の経理部が猛反対した。アイカ型の購入代金はおそろしく高く、1隻でも購入するとマール王国軍の予算1年分が一気に吹き飛ぶ計算になったのである。到底、こんな高い買い物はできなかった。
そこで、「どうせ買うなら、例え弱小の軍艦であったとしても安価な軍艦を多数購入して、全体的な数を増やすべきではないか」という意見が出された。これは、“マール王立海軍が保有するどの軍艦”よりも、“ロデニウス連合王国製の軍艦”の方が「遥かに強力な艦」だったからである。例え最安価かつ最弱スペックのウインク型砲艦であっても、「パーパルディア皇国の戦列艦を凌駕する性能」があるなら、まずは数を揃えて運用しよう、ということになったのだった。
また、ロデニウス連合王国がマール王国を「第三文明圏と西方諸国を繋ぐ玄関口」と位置付け、優先的に港湾設備の建設や整備を行ったり、そのノウハウを伝えたりしてくれたことも追い風となった。
かくして、マール王立海軍は大東洋共栄圏の参加特典である「兵器購入時の割引サービス」をフル活用して、ロデニウス連合王国から改ウインク型砲艦(ウインク型砲艦の75㎜単装主砲を88㎜単装主砲に換装したもの)5隻とカイジ型駆逐艦3隻を購入した。そして、あまりの戦闘力の高さからこれらの軍艦を気に入り、改ウインク型を「エトナ級戦闘艦」、カイジ型駆逐艦を「ガーラ級戦闘艦」と改称して運用していた。
そして今回、マール王立海軍はガーラ級戦闘艦のネームシップ「ガーラ」と、エトナ級戦闘艦の「エトナ」「ヴェスヴィオ」「キラウェア」を、対パーパルディア戦争に実戦投入したのである。投入された4隻はロデニウス連合王国の触れ込み通り、パーパルディア皇国国家監察軍艦隊を圧倒していた。
「これならいけそうだ。第一水上打撃部隊のユーリ司令も頑張っているな」
コーディが満足そうに頷いた時、2つの報告が同時に上がった。
「本艦隊の左に魔法船団発見! 距離およそ3㎞、パンドーラ大魔法公国軍です!」
「前方、敵飛竜隊接近! パーパルディア皇国のワイバーンロード隊と認める!」
「ちっ、ワイバーンを出してきやがったか!」
マール王立海軍第一水上打撃部隊旗艦「ガーラ」艦橋にて、第一水上打撃部隊司令のユーリは舌打ちをした。
マール王立海軍の主力である戦列艦や輸送船は、いずれも木造船である。そのため、火炎系の攻撃には非常に脆弱だ。あのワイバーンロード隊を、味方の艦隊に近づけさせる訳にはいかない。
だが…見る限り、敵のワイバーンロードは100騎はいる。果たして4隻だけで食い止められるだろうか。
「全艦、対空戦闘用意! あのワイバーンを味方に近付けさせるな!」
心配ではあったが、ユーリは怯みはしなかった。
ロデニウス連合王国の技術者たちの説明では、「この艦隊の全ての艦が対空戦闘を意識して作られている」とのことだった。それも、ワイバーンロードどころか飛行機械の相手ができる程度の戦闘力がある、と。
ならば、艦の性能を信じて戦うだけだ。
「陣形はこのまま! 合図と共に攻撃開始せよ!」
「ガーラ」の艦体前方に搭載された12.7㎝連装砲1基が、砲身に仰角をかけ空を睨む。ほぼ同時に、3隻のエトナ級戦闘艦も主砲を空に向ける。
「対空戦闘始め!」
ドドドオォォォン!!!
ユーリの号令一下、4隻の艦艇は対空砲火を撃ち上げる。
次の瞬間、空中に黒い煙の花が咲いた。ワイバーンロードが2騎、対空砲火に捕まって撃墜される。
「おお……!」
ユーリは目を見開いた。
現在の自分の艦隊と、ワイバーンロードとの距離は5㎞程度。その距離でワイバーンロードを撃墜するとは、かなりの性能だ。ロデニウスの技術者たちの話は正しかったのだ。
「撃ち方続けろ! 味方を守れ!」
4隻の戦闘艦は、ほとんど7秒置きに砲撃を放つ。ワイバーンロードは1騎また1騎と墜ちていくものの、元々の数の多さのせいでなかなか減らない。
敵との距離は見る間に縮まり、ついにはあと1㎞まで迫ってきた。
「対空機銃、撃ち方始め!」
ここでついに、ユーリは対空機銃の投入を決断した。
ダダダダダダダン!
各艦備え付けの25㎜対空機銃が、銃身に目一杯の仰角を掛け、敵ワイバーンを迎え撃つ。それに対して、ワイバーンロードの何騎かは導力火炎弾を発射してきた。
「ガーラ」に殺到する導力火炎弾、そのうち2発が「ガーラ」に命中する。「ガーラ」の甲板の一部に火が点き、燃え始めた。
「消火活動急げ!」
「くそっ、あのワイバーンを逃がすな!」
お返しとばかりに25㎜機銃が射撃を浴びせ、曳光弾がワイバーンロードに突き刺さる。ワイバーンロードは空中に血を撒き散らし、肉片をばら撒きながら海に墜落した。
4隻合わせて30騎ほどのワイバーンロードを撃墜したものの、敵は怯むことなく向かってくる。そしてついに、一部のワイバーンロードが、味方主力艦隊の方に向かい始めた。
「あっ! くそ、突破された!」
あの高威力の導力火炎弾が味方の船に命中すれば、相当の被害が出てしまう。
ユーリは即座に、後部主砲と機銃による対空戦闘の開始を発令した。「ガーラ」艦体後部の連装主砲2基が火を噴き、あっという間にワイバーンロード3騎が消し飛ぶ。
しかし、友軍の犠牲をものともせず、パーパルディア皇国のワイバーンロードは、艦隊に向かっていく。マール王立海軍の艦艇は、必死でバリスタを空に向け矢を放っているが、全く当たっていない。
ユーリの願いも虚しくなりそうだ。
(くそ……!)
ユーリが歯噛みする中、ワイバーンロードは味方の戦列艦に向けて急降下しながら、大口を開けた。その口内に炎の塊が生成される。
導力火炎弾の発射態勢に入ったワイバーンロードは、そのまま艦隊に向かって急降下していき……
火炎弾を発射する寸前、突然ミンチ肉と化して弾け飛んだ。
「は?」
ユーリが一瞬唖然とした時、ブオオオオオン……という野太い音が鼓膜を揺さぶった。そして、何か巨大な羽ばたかない飛竜が空を飛び、彼の視界を横切る。
それは、ビール樽のような太い胴体から羽ばたかない翼を生やした、黒い飛竜(?)だった。胴体と片方の翼には、白い星のマークが大きく描かれている。鼻先には、何やら高速回転する物体が付いており、そこからブオオオオオン……という野太い音がしていた。
ユーリが見ていると、同じ形の飛竜(?)が何頭も現れた。そしてそれらの飛竜(?)は、パーパルディア皇国のワイバーンロードを追い回し、片っ端から後ろを取って撃墜する。しかも、攻撃方法は導力火炎弾ではなく、翼の中ほどをチカチカと細かく光らせるものだった。同時にダダダダダという連続音も立てている。すると、ワイバーンロードは身体を引き裂かれ、血を噴き上げながらガクンと首を項垂れて、海に向かって墜ちていくのである。
「何だ、あれは……?」
ユーリは、ロデニウス連合王国海軍第13艦隊の空母「サラトガ」から飛び立ち、戦闘に参加してきた「F6F-3 ヘルキャット」艦上戦闘機を見て、そう呟いた。
その時、
「司令! 司令!」
マスト上の、見張り台に登っていた見張り員が絶叫する。
「本艦隊の右方向、距離10㎞の地点に超大型艦出現! とんでもないデカブツです!」
「何!?」
ユーリは、慌てて右舷の海に目をやる。すると、
「何だありゃあ……っ!?」
そこには、「城を海に浮かべました」と説明されても納得できるような、途轍もなく巨大な船がいた。しかも、こちらに向かって近付いてきている。
ほぼ同時に、前方からパーパルディア皇国艦隊が迫ってきた。今度の艦隊は、1隻1隻が大きい。おそらく、皇軍主力艦隊だろう。
「あれだけの数に、あの巨大な奴か……前門の虎後門の狼、ってやつだな」
「司令、それを言うなら絶体絶命でしょう」
半ば思考を放棄したユーリと艦長がそんな言葉を交わした時、超大型艦がパッと閃光を発した。どうやら砲撃してきたらしい。
(これまでか……)
ユーリが覚悟を決めた時、ヒュルルルルルヒュイーン……という甲高い音が空気を震わせ……
パーパルディア皇国の戦列艦が2隻まとめて、木っ端微塵に吹き飛んだ。と同時に、パーパルディア艦隊の周囲に非常に太く高い水柱が、何本も聳え立つ。
「……え?」
事態をよく理解できないままユーリが呟いた時、「ガーラ」の通信機を弄っていた通信員が声を上げた。
「む? ……司令、あの超大型艦から通信です!」
「何? あのデカい奴から?」
「はい。司令を呼び出していますので、代わっていただけますか?」
「う、うむ」
そして、通信機のヘッドフォンに耳を押し当てたユーリに届けられた通信は、以下のようなものだった。
『こちらロデニウス連合王国海軍第13艦隊、旗艦アイオワ。我、これより貴艦隊を援護し、パーパルディア軍を滅ぼさんとす。繰り返す、我々は貴官らの味方だ。応援に来たぞ!』
「全艦突撃せよ!」
「ブレイジングスター作戦」遂行のため、空母「
30ノットまで加速し、「アイオワ」は波を切り裂いて前進する。その横を「利根」と「初月」が追い抜いていった。
『その艦、貰ったぁ!』
無線に"利根"のかけ声が入る。すると、「利根」から飛び立った水上機が編隊を組んで、パーパルディア艦隊に向けて突っ込んだ。
「利根」から発進した多用途水上爆撃機「
それに飽き足らず、「瑞雲」隊は機首を引き上げて一度空域を離れ、高度を稼いでからもう一度戻ってくると、戦列艦めがけて20㎜機銃の掃射を浴びせた。機銃掃射に晒され、戦列艦は次々と壊れていく。中には20㎜機銃弾で弾薬庫を誘爆させることに成功する機体もあった。更に「行き掛けの駄賃」とばかりに、機体後部の13㎜旋回機銃も火を噴いている。
そして、
『まだまだ、
『そこだ、撃て!』
容赦の無い砲撃が、パーパルディア艦隊に浴びせられる。
フィシャヌス級100門級戦列艦が20.3㎝砲弾で爆砕され、10㎝砲弾を喰らったレントル級50門級戦列艦は、一撃で真っ二つにされる。その上、
「Open fire!」
"Iowa"が、必殺の16インチ砲をぶっ放していった。
ズドドオオオオォォォン!!!
16インチ三連装砲が全力の咆哮を上げ、戦列艦を跡形も無く消滅させる。5インチ連装両用砲がVT信管付き対空砲弾を撃ち上げ、ワイバーンロードを混成ミンチの塊に変える。そして40㎜と20㎜の機銃弾が光弾の嵐となって乱れ飛び、ワイバーンロードをズタズタに引き裂いていった。
戦闘開始から約1時間後、パーパルディア皇国第8艦隊と国家監察軍西洋艦隊は、ロデニウス・マール・パンドーラ連合軍の猛攻の前に悉く全滅。その上、合計して300騎以上のワイバーンロードが対空砲火で叩き落とされ、海の藻屑と消えた。
パーパルディア皇国は、レノダの空と海の守りを失ったのである。
しかも、ほとんど時を同じくして、アルタラスを飛び立った爆撃隊が到着した。
「レノダ上空に、爆撃隊到着!」
通信長妖精から報告を受け、堺は次の指示を発した。
「グッドタイミングだな……爆撃開始せよ。レノダを石器時代に戻してやれ!」
堺のその号令と共に、四発のレシプロエンジンを備えた大型の機体が多数、レノダ上空に侵入していった。
「全機、安全装置外せ! 投弾用意!」
爆撃隊の隊長を務める、エルフ族の男性イズメルが指示を出す。その指示は、電波に乗って全ての機体に伝達された。
四発のレシプロエンジンを備えた、超大型の機体…「B-29改 スーパーフォートレス」の大編隊は今、零戦隊の援護を受けて高度2,500メートルの低空から、レノダ上空へと侵入していく。この爆撃機は、名前からしてお察しの通り、第二次世界大戦において米軍が投入し、日本の各地の都市を火の海にした有名な(悪名高い、というほうが適切か)機体「ボーイングB-29」の改設計型である。
原型は「B-29」そのままに、爆弾搭載量も「B-29」とほぼ同じであり、しかしエンジン周りに改良が加えられていた。元の「B-29」では、エンジン周りにマグネシウム合金を多用し過ぎたのと、エンジンカウルをギリギリまで絞ったせいでエンジンの排熱が上手くいかず、エンジンからの出火が多発していた。そこで、「B-29改」ではエンジンの材料として、耐熱性・軽量さに優れたチタン合金を採用し、エンジンのフェアリングを5㎜拡大して、エンジン後端のナセル部分から排熱を行えるようにしてあった。
"
今回、「B-29改」が搭載しているのは250㎏爆弾。しかし、その量が尋常ではない。なんと「B-29改」1機に付き、36発もの250㎏爆弾を搭載しているのである。
そして、今作戦に参加している「B-29改」は180機。ということは、投下される予定の爆薬の量は、以下のようになる。
250×36×180=1,620,000(kg)
もう考えたくもない。恐るべし、1,620トンにも達する量の爆薬である。これを250㎏爆弾に換算すると、6,480発。まさに250㎏爆弾の雨である。
こんなものを受けたら、小都市一つくらいなら丸ごと更地になるのではあるまいか?
「あと少しだ……3、2、1、投下!」
隊長の号令がかかる。その直後、「B-29改」が一斉に大量の黒い物体を投下する。
レノダに向かって落下するそれは、戦艦「アイオワ」の艦橋やCICから見ればゴマ粒のようにも見える。もちろん、断じてゴマ粒などではない。全て250㎏爆弾である。
ヒュウウウウウ……ドドドドドドーン……
笛を思わせる甲高い風切り音の多重奏を奏でながら、250㎏爆弾はレノダの市街地に雨霰と落下し、次々と炸裂する。高度2,500メートルという比較的低空からの爆撃だったとはいえ、爆撃隊の働きぶりはなかなかのものだった。
実は「ブレイジングスター作戦」を発動する際に、堺は爆撃隊に対して次のように命じたのだ。
『レノダは、パーパルディア皇国にとって造船の中心であると同時に、“デュロに次ぐ補給拠点”である。従って、ここは絶対にその機能を喪失せしめる必要がある。
諸君が為すべき仕事は、実に簡単なことだ。造船所・市街地・工場地帯・陸軍基地、どこでも良いから爆弾をありったけ落とせ。市街地に爆弾が落下して、一般市民に死傷者が出ようとも構わん。とにもかくにも、“レノダのあらゆる物を破壊し尽くすくらいの意気込み”で、攻撃を行って欲しい』
どうやら、爆撃隊はその命令を忠実に遂行しているようだ。
「爆撃隊の連中、初陣だってのに随分と大胆だな。だが、そう来なくっちゃ面白くない。
さて諸君、爆撃隊の連中があれだけ頑張っているのだから、我々ももう一仕事しなければならん。爆撃隊が引き上げにかかると同時に、レノダ市街地を砲撃せよ。弾種は三式弾、ありったけ叩き込め! マール王国とパンドーラ大魔法公国の連中が上陸する前に、徹底的に“地ならし”してやるんだ!」
そして堺は、パーパルディア皇国民に対してもはや“容赦もへったくれもなくなった命令”を発した。
爆撃隊による攻撃が終わると同時に、「アイオワ」の16インチ三連装砲が一斉に火を噴き、5インチ両用砲も砲弾を撃ち出す。「利根」も「初月」もレノダ市街地に向けて発砲した。
バババババババッ……ドドドドドドドドーン!!!
市街地上空で炸裂した「三式弾」が、黄金色の流星群となってレノダ市街地に降り注ぐ。
次の瞬間、辛うじて空爆を免れて残っていた石造りの建物が爆砕され、新たな炎が立ち上った。ドックには10㎝砲弾が直撃し、建造中だった竜母が木っ端微塵にされる。
「撃て撃て! もう主砲の内身のライフリングが
「初月」の艦橋で、砲術長妖精が号令を発し、8門の10㎝砲が、その連射能力に物を言わせて砲弾を撃ち出す。
パパパパパッ……ドドドドドーン……
そこにマール王立海軍の戦列艦隊も加わって、射程1㎞の魔導砲をレノダに向けて撃ち始める。更に、空母「加賀」「大鳳」「サラトガ」から発進した攻撃隊が加わり、レノダ市街地や陸軍基地に、更なる爆撃と機銃掃射を見舞う。
「何なんだ、あの艦は……」
砲撃の指示を出しながら、コーディは呆れたような視線を「アイオワ」に向けた。
「ロデニウスの連中が、“うちに売った艦はどれも小さいものだ”って説明していたらしいが、この艦を見りゃ納得できるわ……。デカ過ぎるだろ、アレ……城を海に浮かべた、って言われても納得できる大きさじゃねえか……」
コーディはもはや、呆れすぎて達観の域に達している。
先ほどの「B-29改」の
結果、ロデニウス連合王国艦隊とマール王国艦隊は、嫌というほどレノダに艦砲射撃と爆撃を叩き込み、レノダの造船能力と工業能力を
たっぷり1時間にも及ぶ艦砲射撃の後、ついにパンドーラ大魔法公国軍とマール王国陸軍合わせて6万人が上陸。1時間ほどの戦闘で、レノダは陥落した。
残存のパーパルディア皇国陸軍は最後の抵抗を見せ、一時は連合軍の進撃を食い止める活躍を見せた。しかし、ロデニウス連合王国の母艦航空隊(と艦砲射撃)に抗する手段はなく、機銃掃射と爆撃と支援砲撃の前に瞬く間に総崩れとなり、敗走するに至ったのだった。
中央暦1640年6月3日 午前11時55分、パーパルディア皇国西部沿岸部の港湾都市レノダ、陥落。
それと前後して、パンドーラ大魔法公国とマール王国は、共にパーパルディア皇国に宣戦を布告し、皇国西部に攻め込んだのだった。また同時に、ロデニウス連合王国によるアサマ作戦4合目「ブレイジングスター作戦」も成功した。
これでまた一歩、パーパルディア皇国は追い詰められたのである。
というわけで、レノダは壊滅の上陥落しました。
拙作において、ここまで徹底的な攻撃があっただろうか…
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次回予告。
ロデニウス連合王国軍の快進撃が続く一方、デュロに駐留していたパーパルディア皇国海軍第7艦隊は、国家監察軍東洋艦隊と合同でロデニウス本土への攻撃を画策。そんな彼らの前に、奇妙な島が現れる…
次回「皇国軍と幻の島」