鎮守府が、異世界に召喚されました。これより、部隊を展開させます。   作:Red October

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今回のタイトルについてですが…「幻の島」という部分には、ある「特別なルビ」が付けられています。何か分かりますか?



060. 皇国軍と幻の島

 中央暦1640年6月4日、フェン王国南方1,000㎞の沖合。

 雲の他は島影一つ見えないその海を、何隻もの帆船が帆を張って、南へ航行していた。それらの船のうち、1隻を除くどれもが、舷側に15門以上の大砲を並べている。

 海賊船かと思いきや、そうではない。そのことは、船の帆を見ればよく分かる。どの帆船の帆にも、「尻尾を長く伸ばして交差させた、口から火を噴いている2頭の4足歩行の竜の紋章」が描かれていたのだ。

 

 そう、パーパルディア皇国の紋章である。

 

 デュロを出港した、パーパルディア皇国海軍・第7艦隊の主力に、国家監察軍東洋艦隊を合わせた、総数46隻の混成艦隊。たった1隻混じっている竜母を除けば、いずれも魔導戦列艦である。

 彼らは、パーパルディア皇国に戦力を送ったために、手薄になっているであろうロデニウス連合王国本土を、直接叩くために航行しているのである。

 

 何故、フェン王国南方1,000㎞にまでパーパルディア艦隊が進軍しているのか、というと、これはルトスの戦術眼にその理由がある。

 中央暦1640年6月2日の早朝、ロデニウス連合王国軍がデュロに攻撃を開始する前、ルトスはワイバーンロード哨戒部隊の発進を確認した後、サクシードに対して『第7艦隊と国家監察軍艦隊の一部を率いて、ロデニウス連合王国本土を奇襲攻撃せよ』と命じた。ルトスは、「今なら、ロデニウス連合王国軍の注意がエストシラントをはじめとした皇国南部に向いている」と判断し、その隙を衝こうとしたのだ。

 こうして、パーパルディア皇国海軍第7艦隊と国家監察軍東洋艦隊の混成部隊が、ロデニウス連合王国本土を目指して極秘裏に出撃したのである。

 なお、ディクロッケを擁する独立第1飛行隊をはじめとしたロデニウス連合王国軍の注意は、ルトスの見込み通り皇国南部や西部に向けられていた。そのため、この艦隊の出撃は、まだロデニウス連合王国軍に探知されていない。

 

 「主力艦隊が留守になっている隙を衝いて、別動隊を回して攻撃する」。この発想“自体”は決して悪くない。……相手がロデニウス連合王国、そしてその傘下にいる日本国でなければ。

 

 実は、ロデニウス連合王国本土は確かに手薄にはなったものの、まだ相当数の艦艇が残っている。

 戦艦を例に取ると、クイーン・エリザベス級戦艦「ウォースパイト」、ヴィットリオ・ヴェネト級戦艦「リットリオ」「ローマ」、()(そう)型航空戦艦「扶桑」「(やま)(しろ)」の5隻が残っている(大和(やまと)型戦艦「()(さし)」もいるが、改装中のため動けない)。

 空母にしても「(ほう)(しょう)」、「(りゅう)(じょう)」、「(しょう)(ほう)」、「(ずい)(ほう)」、「(りゅう)(ほう)」、「(じゅん)(よう)」、「()(よう)」といった艦が残っている。

 重巡洋艦は()(がみ)型4隻の他にアイカ型(ロデニウス版高雄型)が勢揃いし、軽巡洋艦は(てん)(りゅう)型から(おお)(よど)型、更にはニジッセイキ型(ロデニウス版川内型)まで選り取り見取り。

 駆逐艦は、もう数えるのが面倒くさくなるほど多数が残っている。

 

 しかもこれだけではなく、「一式陸上攻撃機」や「(はやぶさ)」、零戦を装備した基地航空隊、水上爆撃機「(ずい)(うん)」を装備する水上機部隊も健在である。ついでにいえば、ロデニウス連合王国空軍のワイバーンもいる。

 

 結論として、「これ(戦列艦)これ(ワイバーンロード)でどうやって戦えば良いんだ!?」という話である。

 

 

 この艦隊の旗艦を務めるフィシャヌス級100門級戦列艦「ムーライト」の甲板では、この艦隊の指揮官にして「ムーライト」艦長も兼任するサクシードが、緊張した面持ちで進行方向の海面を見詰めていた。

 皇国海軍東部方面司令官ルトスの言によれば、『ロデニウス連合王国は列強ムー国の兵器を導入し、使用しているだろう』とのことである。しかし、いくら兵器の性能に差があるとはいえ、皇国の艦隊を破るには"ムー国の主力部隊級”の戦力が必要になる。また、『ムー国の工業生産力全てを注いだとしても、これだけの戦力を短期間に用意できるとは思えない』と、ルトスは話していた。

 つまり……

 

(ルトス司令が仰っていた通り、奴らは"ムー以上の戦力”を出してくるやもしれんな。まさか、“列強もしくは列強に匹敵する力を持った国”との戦争になるとは……)

 

 彼はため息を吐く。

 だが、ロデニウス連合王国の経済規模から考えると、そうそう何隻も強力な船を用意することはできないはずだ。

 であれば……主力が留守になっている今なら、ロデニウス連合王国は手薄になっているはずだ。もしかすると、ムー国の兵器も出てこないかもしれない。それなら、勝機がある。

 

(見ておれよ、ロデニウス連合王国! 今にあっと驚かせてやる! そしてその時が、貴様らの破滅の時だ!)

 

 サクシードがそう考えていた時だった。

 

「左前方に島を発見!」

 

 戦列艦「ムーライト」のマストに登っていた見張りが叫んだ。

 サクシードは望遠鏡を手に取り、ピントを合わせる。水平線の近くに、何やら灰色の島影が見えた。高い木でも立っているのだろうか、島の中央部には何か高い物が1本、にゅっと立っている。

 

「艦長、島への上陸のための上空偵察を具申します」

 

 そこへ、「ムーライト」の副長が伝声管を用いて、艦橋から意見具申してきた。艦橋と言っても、艦尾に設置されたキャビンなのだが。

 

「我が艦隊は大急ぎで出港したこともあり、砲弾は十分にありますが、食糧や水は十全とは言えません。この辺の気候が暖かいせいもあって、特にワイバーンロードの水の消費が半端ではない量になっています。このままでは、水不足に陥るやもしれません。よって、あの島をワイバーンロードで偵察し、特に水があれば上陸、これを採取することを具申します。水があるだけでも助かりますので」

「ううむ……」

 

 サクシードは考え込む。

 確かに水不足はまずい。人間、食糧がなくてもある程度は生きていられるが、水がなくなれば一日生きられるかどうかが怪しくなる。

 

「分かった、ここは敵地に近い場所だが、やむを得んな。魔信を使って、チークにワイバーンロードを出すよう命じろ」

「はっ」

 

 副長は、すぐにサクシードの命令を遂行する。

 

「魔信士、竜母『チーク』に通信! 『ワイバーンロードを出し、艦隊左前方の島を探索、水資源を捜索せよ』!」

「了解!」

 

 直ちに、命令が伝達され始める。

 その光景を横目に見ながら、サクシードはもう一度島を眺めた。さっきよりも少し大きくなっている。艦隊が島に近づいている証だ。そして、それに伴って何か高いものが一本突っ立っているのも、はっきり見えるようになってきた。あれが木なら、相応の量の水資源がありそうだ。

 その一本突っ立ったものの左隣には、灰色の岩山のようなものが黒い煙を出しているのも見えてきた。活火山でもあるのだろうか。

 サクシードの頭上を、一騎のワイバーンロードが飛んでいく。島の様子を偵察に向かったのだ。

 

 それから少し後、艦隊は更に島に近付く。すると、島には小山が3つあるのが、ぼんやり見えてきた。

 

 しかし……

 

「んー……?」

 

 サクシードは、島と手に持った地図を見比べ、怪訝な顔をした。

 

 こんなところに、島なんてあったっけ?

 もしや、暑さによる幻覚だろうか?

 

 サクシードがそう考えた、その時だった。

 伝声管から、絶叫が飛び出してきたのだ。

 

「探索ワイバーンロードから緊急報告! 『前方の影は島に(あら)ず! ロデニウス連合王国の国旗を掲げた敵艦! 信じられない大き』ここで魔信途絶、撃墜された模様!」

 

「!!?」

 

 サクシードは、急いでもう一度島を見た。

 

(そんなバカな!? 船があんなに大きい訳がないだろう!?)

 

 サクシードがそう考えた、その時。

 島にある、こんもり盛り上がった3つの小山が、いきなりパッと光った。

 

(まさか……砲撃!?)

 

 サクシードは一瞬考えた。しかしすぐに、“それはあり得ない”と却下する。

 そもそも魔導砲の射程は、2㎞しかない。ムー国の「ラ・カサミ級戦艦」の主砲はもっと射程があるようだが、それでもこんな距離で撃って当たるものではないはずだ。何せ、自分の艦隊とその島は、15㎞は離れているのだから。

 その時、サクシードの耳は奇妙な音を捉えた。それは、グオオオオオ……としか表現のしようのない重低音。聞いたことのない音だ。

 

「何だ、この音は?」

 

 サクシードが呟いている間に、その重低音はだんだん大きくなってきた。それと一緒に、ヒュルルルルルヒュイーン……という、これまた聞いたことのない甲高い音も聞こえてくる。

 

(これは……まさか……!)

 

 サクシードは、嫌な予感を感じた。

 

 

 が、遅すぎた。

 

 

 次の瞬間、音が消えると同時に、

 

ズズズゥゥゥゥゥゥゥン!!!

 

 皇宮パラディス城の城壁くらいの高さがあるんじゃないか、と思うほどの太く高い水柱が、4本立ち昇った。それと同時にその水柱の根元で、竜母「チーク」が木っ端微塵に叩き潰される。その隣にいた50門級戦列艦「パタール」も、いきなり真っ赤な火球に包まれるようにして大爆発を起こした。爆発音が鼓膜を震わせる。どう見ても、搭載した砲弾に誘爆したのは間違いない。

 竜母「チーク」と戦列艦「パタール」、両艦はあっという間もなく姿を消してしまう。

 

「なっ!? 砲撃だと!?

バカな!!! そんなはずが……!!」

 

 サクシードは叫ぶ。

 これで、あの影は島ではなく、敵の軍艦であることがはっきりした。しかし、その敵艦は島としか思えないほどの巨大な艦体に、巨大な魔導砲を装備しているらしい。何せ、15㎞先から自分の艦隊に砲撃をぶち当て、竜母と戦列艦を1隻ずつ、一撃で破壊するだけのことをやったのだ。

 しかも、状況からして初弾命中である。つまり、敵はそれだけの威力と射程に加えて、パーパルディア皇国皇軍正規兵すら遥かに凌ぐ、とんでもなく高い練度をも持っている、ということになる。

 

 サクシードは、ルトスの推測が当たったことを悟った。

 つまり……列強ムー国の兵器を超える、“とんでもない性能を持った怪物”が出現したのだ。

 

「全艦に告ぐ! あれは島じゃない、敵だ!

全速前進! 攻撃するぞ!」

 

 サクシードが魔信にそう叫んだ時、島……いや、敵艦の砲らしき構造物がもう一度、光を放った。

 

 

「5、4、3、だんちゃーく、今っ!」

 

 何やら“機械類がごちゃごちゃと乱立している”ような印象を受ける、殺風景な鉛色の部屋の中に、観測員の報告が響いた。

 直後、その部屋の窓から見える水平線の彼方に、水柱が複数立ち昇る。そして、それに火柱が1本混じる。

 

「初弾命中!」

 

 砲術長が、弾んだ声で報告を上げる。

 

「各諸元そのまま、次より斉射!」

 

 その部屋の中心に立つ、無骨な部屋には似つかわしくない美しい女性が、凛とした声で言った。

 その女性は、白を基調とする衣服を上半身に纏い、赤いスカートを履いている。黒い靴下は左右で長さが異なっており、左の方が長さが長い。そして、その左の靴下には、白文字で「非理法権天」と書かれていた。焦げ茶色の髪をポニーテールにまとめているが、その長さは長く、腰を通りすぎて大腿にまで達している。

 全体的に見て、「大和撫子」という単語をそのまま体現したような、美しい印象を与える女性だった。

 

「一斉撃ち方! 弾種通常弾、装填急げ!」

「甲板要員、退避完了しています」

「敵針路160度、速力12ノット、2時半の方向、距離ヒトゴーマル(15,000メートル。つまり15㎞)」

 

 次々と報告が上げられる。

 

「装填よし! 照準よし! 射撃用意よし!」

「撃ち方用意!」

 

 全ての準備が整ったところで、砲術長を務める女性…いや、妖精が叫んだ。

 

ジジーッ、ジジーッ、ジジーーッ

 

 奇妙なブザーが3回、艦内に鳴り響く。

 

「てぇ!」

 

 そのブザーが鳴り止んだ直後、砲術長が命令した。

 

ジジーーーーー

 

 またブザーが鳴る。しかも今度は長い。

 そのブザーを聞きながら、美しい女性……大和型戦艦1番艦の艦娘"大和"は、ただ一言、命じた。

 

「全主砲、薙ぎ払え!」

 

 次の瞬間、

 

ドオオオオオォォォォォォンッ!!!

 

 ブザーが止まると同時に、鼓膜を突き破らんばかりの轟音が……いや、轟音という表現では収まり切らない爆発的な音響が、周囲の音の全てを圧した。

 艦の前後に合計3つ据え付けられた、小山のような物体……戦艦「大和」の主砲たる3基の「46㎝三連装砲」が、一斉射撃を放ったのだ。発砲の衝撃で艦体がびりびりと震え、強烈な反動がかかって艦体が僅かに左へ傾く。

 主砲のすぐ下の海面は、46㎝砲発射の衝撃波によって波が叩き消され、細かい水飛沫が跳ね上がって真っ白になった。発射された46㎝砲弾……今現在に至るも“船に積まれた砲の中では最大のもの”とされるその砲の弾が、大気を引き裂いて飛翔し、敵艦隊にまっしぐらに突っ込んでいく。

 

「これは、幸運でしたね……」

 

 主砲発射の衝撃と轟音の残響が未だ艦を震わせる中、"大和"は独りごちた。

 

「まさか、提督から命ぜられた極秘任務の最中に、ロデニウス大陸に進路を取っているパーパルディア艦隊と遭遇するとは……。おそらく彼らの狙いは、“手薄になったロデニウス連合王国の本土を奇襲すること”だったのでしょう。

しかし、私と出会ったのが最大の不運でしたね。あなた方には……今この瞬間、この海に消えていただきます!」

 

 "大和"がそう言い切った時、

 

「装填よし!」

「照準よし! 射撃用意よし!」

 

 報告が上がった。いつの間にか、40秒が経過していたらしい。

(史実における大和型戦艦の46㎝砲は、確かにこれ以上ないほどの破滅的な威力を誇る。だが、その分砲弾がとても重いので、1発撃った後で次の弾を込め、発射できる態勢を取るには、どうしても40秒はかかってしまうのである。これは、艦娘となっても同じであった)

 

「撃ち方用意!」

 

ジジーッ、ジジーッ、ジジーーッ

 

 警告のブザー音が鳴る。

 第1斉射の弾着を待つことなく、「大和」は今、第2斉射を放とうとしている。

 

「てぇ!」

 

ジジーーーーー

 

 主砲発射ブザーが響き渡る中、"大和"は再び叫ぶ。

 

「そうか……それなら、やるしかないわね!」

 

ドオオオオオォォォォォォンッ!!!

 

 その"大和"の思いを代弁するかのように、合計9門の46㎝砲が全力の咆哮をあげる。

 それに紛れるようにして、観測員を務める妖精が叫んだ。

 

「5、4、3、だんちゃーく、今っ!」

 

 

「全艦突撃! 何としてでも、あの敵艦との距離を詰めろ! 敵の砲は、我が方の7倍以上の射程と、凄まじい威力を併せ持つ。このままでは、我々は全滅してしまう!

距離を詰め、全力砲撃を以てあの敵艦を倒すんだ! 急げ!」

 

 冷静さを失った様子で、サクシードは全艦に号令をかける。その間にも、敵艦がパッと光を放つのが見えた。

 そこへ、ヒュルルルルルヒュイーン……という音が降ってくる。今やサクシードも副長も、その他の一般兵たちも、この音の正体が何であるか、理解していた。

 

 それは、敵の巨弾が落下する音。そして、死神の鎌の風切り音。

 

「全艦取り舵! 回避うん……」

 

 サクシードが言い終える前に、9発の巨弾が空から降り注いだ。

 

ズズゥゥン! ドガアアアアァァァン!!

 

 5本の太い水柱が立ち昇る。それと同時に、「ムーライト」のすぐ後方を走っていた、フィシャヌス級100門級戦列艦「エスト」が爆砕された。

 フィシャヌス級100門級戦列艦「エスト」は、同級の戦列艦「シラント」と共に建造された艦で、2隻の名前を合わせると「エストシラント」となり、今のパーパルディア皇国皇都の名前になるように名付けられていた。半年以上前の第二次フェン沖海戦で「シラント」が沈められて(実際には沈んではおらず、鹵獲されている)以降も、戦い続けてきた「エスト」だが、ついに天運に見放されたのだ。戦艦「大和」の46㎝砲弾は、「エスト」の対魔弾鉄鋼式装甲をいとも容易く貫通し、弾薬庫を吹き飛ばして「エスト」を粉微塵に粉砕し、轟沈に至らしめた。

 同様に、ケブリン級80門級戦列艦やトクサ級30門級戦列艦、そしてフィルアデス級100門級戦列艦が次々と仕留められる。中には、敵弾が降った時の水中爆発の衝撃に煽られ、転覆してしまう艦もあった。

 たった2回の敵の砲撃だけで、既にサクシードの艦隊は、7隻もの艦を戦列から失っている。ぐずぐずしていれば、全滅は免れない。何とかして敵艦との距離を2㎞まで詰め、我が軍が誇る炸裂式魔法が施された魔導砲弾を喰らわせてやらなければ。

 

「全艦突撃! とにかく走れ! 走り続けるんだ!」

 

 サクシードは、必死の形相で指示を飛ばす。

 しかしサクシードの指示も空しく、敵艦は連続して砲弾を浴びせ、味方は片っ端から沈められていく。全速で走った末、敵艦との距離は7㎞まで詰められたが、この間に味方は多数がやられ、もう20隻しか残っていなかった。

 

 

「敵艦隊、残存艦は約20隻。距離ナナマル(7,000メートル)まで接近」

 

 戦艦「大和」の艦橋で、観測員妖精が報告を上げる。

 それを受けて、"大和"は考えた。

 

「主砲の弾がもったいないですね。そろそろ砲撃を切り替えましょう。副砲、高角砲、撃ち方用意はできていますか?」

「はい、全門命令あり次第、いつでも撃てます」

 

 "大和"の質問に、戦術長妖精が答える。

 

「分かりました、主砲撃ち方止め。ここからは、副砲と高角砲で敵を叩きます。各砲、各個に迎撃してください」

「了解。主砲撃ち方止め! 1、2番副砲、右舷高角砲、全門各個撃ち方!」

 

 ここで、"大和"は「攻撃の切り替え」を決断した。

 主砲である「46㎝三連装砲」は沈黙し、代わって「15.5㎝三連装副砲」2基と、「12.7㎝連装高角砲」6基による攻撃を開始したのである。先ほどより砲弾は小さくなったが、その分手数はかなり多い。そして木造船相手なら、12.7㎝砲でも威力は十分だ。

 死の弾幕が、パーパルディア艦隊に襲いかかった。

 

 

「戦列艦グリール轟沈! 戦列艦ライサー轟沈!」

「国家監察軍東洋艦隊、全滅!」

 

 パーパルディア皇国艦隊旗艦・フィシャヌス級100門級戦列艦「ムーライト」の艦橋には、魔信に乗って後から後から凶報が舞い込む。

 敵艦は弾切れになったか、あの巨砲は撃ってこなくなったものの、代わりに小口径の砲を使って弾幕の嵐を浴びせてきていた。こちらも戦列艦には一撃必殺級の威力を叩き出しており、味方の戦列艦は次々と沈められていった。しかも、まだ距離が6㎞もあるため、パーパルディア艦隊は1発の砲撃もできていない。

 あれだけいた味方はあっという間に減らされ、もう「ムーライト」以下2隻しか残っていなかった。そして、

 

「全砲門、てぇー!」

 

 "大和"の号令一下、右舷に指向された戦艦「大和」の15.5㎝砲6門と、12.7㎝砲12門が、一斉砲撃を放つ。その砲弾はパーパルディア艦隊に殺到し、旗艦「ムーライト」の対魔弾鉄鋼式装甲すら容易に貫通した。そして。

 

 砲弾の信管は正常に作動し、パーパルディア艦隊の戦列艦に命中した砲弾は炸裂する。その過程で、炸裂した砲弾の破片と爆発炎は、戦列艦に山と積まれていた炸裂式魔法が施された砲弾を傷付け、引火誘爆させた。

 

 一度爆発が起きれば、後は連鎖だ。戦列艦に不必要なほど大量に積まれた砲弾は今、“戦列艦から放たれる武器”としてではなく、“戦列艦を破壊する凶器”として暴れ回る。

 爆炎は、巨大な火の玉となり、船体の木造部分、つまり脆弱な箇所を破壊していき、やがて甲板をぶち抜いて空へと抜け、凄まじい轟音を轟かせた。

 

 洋上に巨大な火の玉が、3つ現れる。その爆発炎に赤く照らし出されながら、1隻の超巨大戦艦がその海域に佇んでいた。

 

「敵艦隊、全滅しました。水上、空中とも新たな敵影無し」

 

 戦艦「大和」の艦橋に、報告が上げられる。

 「大和」は今、パーパルディア皇国艦隊46隻を、たった1隻で全滅に追いやったのだ。

 

「戦闘終了。戦闘用具収め! 直ちに生存者を収容してください。30分の救助作業の後、現海域より離脱、作戦行動に復帰します。機関停止、錨下せ!」

 

 凛とした声で、"大和"はきびきびと指令を出す。

 

「は!

総員に告ぐ、撃ち方止め! 戦闘用具収め! 短艇下せ、生存者を収容する!」

 

 「大和」は、その巨体を完全に停止させると、カッターを下ろしてパーパルディア軍の将兵たちを救助し始めた。

 

 しかし、最終的に救助できたパーパルディア皇国の将兵は、旗艦「ムーライト」に乗り込んでいたという、ハーゲルトと名乗る水兵1人だけ。聞けば、どうやら新人だそうだ。

 その他の生存者は、誰一人として見つけることができなかった。海に放り出された後で、全く見当違いの方向へ泳いでいってしまったために見つけられなかった、という可能性もないではなかったが……最も現実的な事象の可能性としては、「乗艦していた戦列艦の爆発轟沈によって、船と一緒に吹き飛んでしまった」である。状況証拠でしかないが、それが最もあり得るのだ。

 その結果、当初の予定通り30分間だけ救助作業を行った後、戦艦「大和」は錨を揚げ、海域を離脱して北北西に針路を取り、16ノットの速力で航行していった。

 

 

 後日、タウイタウイ泊地の書記艦"大淀"の記録には、以下の項目が書き加えられた。

 

[大東洋海戦(暫定名称)]

事象の種類: 海戦

発生日時: 中央暦1640年6月4日 15時40分頃

発生場所: フェン王国南方1,000㎞の海域

交戦勢力: パーパルディア皇国海軍 第7艦隊

概要: 極秘任務を帯びて単独出撃中だった戦艦「大和」が、フェン王国南方1,000㎞の沖合において戦列艦45隻、竜母1隻から成るパーパルディア皇国海軍艦隊と遭遇。「大和」は砲撃により敵艦隊を殲滅し、更に敵竜母より発進したワイバーンロード1騎を撃墜。パーパルディア艦隊相手に圧勝する。

なお、パーパルディア艦隊の目的は「主力の出撃によって手薄になったロデニウス連合王国本土を奇襲すること」だった(これは、同艦隊唯一の生存者とみられる兵士を尋問した結果、得られた情報である)。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 第7艦隊が人知れず全滅した頃、パーパルディア皇国皇都エストシラント北方、皇都防衛隊臨時基地。

 そこには、全滅した精鋭の皇都防衛隊に代わって皇都の守りに就くことになった属領統治軍が、簡易基地を設営していた。基地といっても、野営用の簡易的なテントが立ち並んでいるだけであり、ワイバーン用の飛行場もない。基地というにはあまりにも貧相である。

 そのうち、とあるテントの中では、兵士が話をしていた。

 

「十兵長! 皇都防衛隊の基地があった所は、もうご覧になりましたか?」

 

 「十兵長」と呼ばれた男は、下顎に生えた白い長い髭を撫でながら答えた。

 

「いや、まだ見ていないが……どうした?」

 

 兵士は、興奮したような早口で話す。

 

「私、先ほど見てきたのですが……大量の爆発があり、途轍もない爆風が吹き荒れた跡だ、ということがはっきり分かりました。

十兵長、私にはどうもこの戦いは、“皇国が滅亡に向かっている”ように思えます」

 

 十兵長は、少し目を丸くした。

 

皇帝陛下の命(勅命)に疑問を持つ、というのか? 陛下は、ここに野営して皇都を守るよう、我々にお命じになったはずだが?」

「いえ、決してそのようなことは……」

 

 そうは言うが、兵士は何やら迷っている様子だ。何かを言うべきか、言わざるべきか、迷っているように見える。

 少しした後、兵士は意を決したと見えて口を開いた。

 

「いえ。十兵長を信じ、本音でお話しします。

私のような一般兵の間では、今回の戦争に関して動揺が走り、不安と疑念が募っています。相手の戦力を碌に分析することもなく、自らの考えを押し通したい。ただそれだけのために、兵士が、仲間が多数死んでいるのではないか、と……。

私たちは、『皇国の臣民を守るため』なら、命を捨てる覚悟はできています。ですが、流石に無駄死にをすることは認められません! 我々にだって、家族がいるのですから……。

今回の戦争、敵と我々とを比較すると、戦死率は圧倒的に我々の方が高いようです。『いったい、“上の考え”はどうなっているのか』……皆、疑問に感じているのです」

 

 兵士がそう言い終わると、やおら十兵長は口を開いた。

 

「ふむ……よくぞ本音で話してくれた。では、こちらも本音で話そう。

今、皇帝陛下は()()()しておられるらしい。第3外務局長のカイオス様は知っているか?」

「お名前だけなら存じておりますが、会ったことはございません」

「うむ。今、カイオス様は独自に革命を計画しておられるようだ。『このままでは、皇国が滅んでしまう』とお考えのようだ。

そこでの、時が来たら、私と共にカイオス様の指揮下に入って貰いたい。皇国を救わねばならぬでな」

 

 兵士は目を丸くしながら、やっとのことでこれだけを言った。

 

「そ……それは……、それは、真ですか?」

「うむ。おお、今無理に決めろとは言わぬぞ。よく考えてからで良い、返事を聞かせてくれ」

「……分かりました」

 

 実は、パーパルディア軍の間では既に不安が蔓延していた。皇国皇軍が負った甚大な被害、上層部の何かを隠しているかのような物言い…兵は皆、疑心暗鬼に陥り、上層部に対する不安や疑念が尽きなかった。

 

 それに目を付けたのが、第3外務局長カイオスである。彼は、こうした不安や疑念を持った兵たちと接触し、密かにクーデター計画を進めていた。

 彼の計画は、大雑把に説明すると「武装した兵士を駆使してクーデターを引き起こし、まず皇帝ルディアス以下の皇国上層部の主要メンバーを拘束して無力化。その後今回の戦争の原因となったレミールを逮捕し、自分が皇国の実権を握った上で、ロデニウス連合王国に全面降伏する」というものである。また、ロデニウス側にも協力を要請して、他国に対しても停戦を呼びかけるつもりであった。

 なおカイオスは、これまでのロデニウス連合王国軍の戦闘方法から、「ロデニウス連合王国は、軍の兵士はともかくとして、“一般市民にまで殺傷を行うのは望まない”」と判断していた。そして彼は、「市民にまで殺傷をしたがらないのは、ロデニウス連合王国軍上層部、あるいは政府上層部に“理性的な判断”のできる者がいるからである」と判断し、であれば“自分が無条件降伏しても、受け入れて貰えるのではないか”と考えていた。

 その結果が、このクーデター計画である。

 

 

 そして、そのカイオスのクーデターにおいて“ターゲットの一人”とされている皇軍最高司令官アルデは、自らの執務室で完全に絶望していた。

 彼の前には、報告書の山が机の上に積み上げられている。その内容をざっとまとめると、以下のようになる。

 

・工業都市デュロ陥落。しかも、ロデニウス連合王国軍に上陸占領を許してしまったため、工場そのものはまだ残っているが、奪回はほぼ不可能。

・上記に伴う、皇軍への補給能力の全面的喪失。

・港湾都市レノダ壊滅。しかも、敵航空機の無差別爆撃と艦砲射撃によって、市街地も基地も造船所も根こそぎ破壊された。その上敵軍が上陸、侵攻したことで、レノダは完全に占領されている。今の皇軍の戦力を考えれば、奪回作戦の遂行は不可能と言える。

・マール王国が宣戦布告し、レノダを占領。また、皇国の属国だったパンドーラ大魔法公国が裏切り、マール王国と共に宣戦布告して、レノダを占領した。現在、この2ヶ国連合軍はパールネウスを目指しているもの、と見られる。

・レノダ陥落により、海軍の新たな艦艇の建造は全面的に不可能となった。皇国海軍は全滅したといえる。

・属領は、以前陥落したクーズ、マルタ、アルークの他に新たに32ヶ国の統治機構が陥落。また、反乱の火は更に燃え広がり、残りの属領でも一斉に武装蜂起が発生した。これにより、既に独立したアルタラスを除けば、72の属領全てがパーパルディア皇国に対して反旗を(ひるがえ)し、その支配下から離れた。

・そればかりか、こうした属領は互いに連携し、アルタラスを含めて「73ヶ国連合軍」を結成、パーパルディア皇国に宣戦布告した。各属領の位置から考えて、おそらくアルーニが最前線になると思われる。

・そのついでとばかりに、他の第三文明圏の内外に国土を持つ国家が、一斉にパーパルディア皇国に宣戦布告。これにより、パーパルディア皇国は書類上、"()()()()()()()()()()()()()を相手に戦争をする”という状態に陥った。

 

・以上の情報をまとめると、パーパルディア皇国は第三文明圏の元属領・文明国(ただしリーム王国除く)・文明圏外国全てを合わせて、約100ヶ国から一斉に宣戦布告されている。この100ヶ国には当然のように、ロデニウス連合王国という“上位(超か?)列強国”が含まれる。

・しかも、パーパルディア皇国本土の制空権・制海権は、ほぼ完全にロデニウス連合王国に奪取されており、経済封鎖が発動した状態である。

 

 

 最悪である。

 如何に列強パーパルディア皇国と言えど、100対1は流石に数が多すぎる。しかも、“パーパルディア皇国より弱い国家ばかりで100ヶ国”ならともかく、この中には「ロデニウス連合王国」という、少なくとも“神聖ミリシアル帝国級”の列強国、下手をすると超列強国が含まれる。そして、ロデニウス連合王国の支援によって下手な文明国より強くなった第三文明圏外国も、幾つか含まれる。

 それに対して、第三文明圏最強を誇ったパーパルディア皇国皇軍は、既に壊滅的な被害を受けている。陸軍では、200万人いた軍隊のうち、約半数が死傷によって戦闘不能となっているし、地竜リントヴルムについてはほぼ全滅した。海軍についてはほとんど全滅であり、残されているのは皇軍・国家監察軍合わせても、僅かに50隻程度の戦列艦と片手で数えられる数の竜母のみ。これでは、対外侵攻どころか国内の防衛すら覚束ない。

 加えて、竜騎士団にも壊滅的被害が出ている。今の皇軍でまとまった数の竜騎士団をまともに装備している部隊といったら、パールネウス防衛隊だけ、という有り様だ。

 しかも、武器の補充もほぼ不可能である。

 

 こんな惨憺たる状態で、敵ばかりは多いのだ。しかも、“パーパルディア皇国より強力な敵”を少なくとも一国含んでいる。

 これを絶望と言わずして、何というのか。

 

 周囲が敵ばかりで味方が一人もいない状態を「()(めん)()()」というが、これほどこの言葉がぴったり当てはまる状態が、またとあるだろうか。

 

(何故だ……どうしてこんなことに……。ロデニウス連合王国を……完全に見誤ったというのか……)

 

 もはやどうしようもなくなった事態を前に、アルデはただ絶望するばかりだった。

 それでも彼は、皇軍総参謀長ステァリンをパールネウスに派遣する等して、迎撃の準備だけは進めさせていた。




はい、「幻の島」と書いて「戦艦大和」と読む、でした。
まさか、島(みたいな戦艦)が出てくるなんて思いませんよね。
それにしても、「大和」はなんであんなところを単独で航行していたんでしょうねー(棒読み)


総合評価3,600ポイント突破…だと…!?
本当にありがとうございます!!!

評価7をくださいましたりすなー様
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評価10をくださいましたまぁ、そのうち決めます様
ありがとうございます!!
また、新たにお気に入り登録してくださいました皆様、ありがとうございます!


次回予告。

ロデニウス連合王国軍がパーパルディア皇国軍を次々と撃破していく一方、属領では反乱が続く。そしてついに、彼らは「73ヵ国連合軍」を結成、パーパルディア皇国に宣戦を布告して、攻撃を開始。そのターゲットにされたのは、皇国の北方の街アルーニだった。
次回「アルーニ攻勢」
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