鎮守府が、異世界に召喚されました。これより、部隊を展開させます。   作:Red October

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今回は、パーパルディア皇国の元属領73ヶ国が結成した連合軍の話です。



061. アルーニ攻勢

 中央暦1640年6月5日 午前8時。

 その日、パーパルディア皇国の首都エストシラント北方500㎞の位置にある街アルーニは、建設以来初めて戦火に晒された……

 

 アルーニは、パーパルディア皇国がまだ「パールネウス共和国」と名乗っていた頃に、首都だった「聖都」パールネウスを守るための、“共和国の北部の要衝”として建設された街だった。北部からの敵の侵入に備えるための防衛拠点として、またパールネウス共和国軍が北部の征伐に向かう時の前線拠点として、重要な役割を担ったものである。結局、アルーニが防衛の前線になることはなかったのだが。

 北部の戦線が押し上げられ、パールネウス共和国がパーパルディア皇国と名前を変えた後も、このアルーニは重要な拠点と見做され続けた。その名残で、アルーニには皇国陸軍三大基地のうち一つが設置されている(残りはデュロとエストシラントにあったが、共に壊滅した)。

 

 だが今回、パーパルディア皇国の属領にされていた73ヶ国が一斉に武装蜂起したことで、パーパルディア皇国の実質的な国境線は、かつてのパールネウス共和国の国境線にまで後退してしまっていた。過去のパーパルディア皇国の努力は、その全てが徒労に終わったのである。

 そしてそれに伴い、アルーニは数十年以上ぶりに、前線に近い街へと変化したのだった。

 パーパルディア皇国に叛旗を翻した属領73ヶ国。アルーニの街からほど近いところに、それらの属領の一つである「カース」があったのだ。しかも、この73ヶ国の旧属領は『73ヶ国連合』を結成し、パーパルディア皇国に宣戦を布告。ロデニウス連合王国や他の諸外国と共に、パーパルディア皇国と事を構える姿勢を見せてきたのだった。

 

 そのアルーニの街のすぐ傍にある皇国陸軍三大基地、アルーニ基地司令部では、慌しく兵士が行き交い、そのすぐ外ではひっきりなしに武器を持った歩兵が、基地のすぐ外に向かって駆け出していく。

 魔信からは、悲鳴のような報告が次々と上げられていた。

 

『第1防衛ライン、東側は被害甚大! 奴ら、何か変なものを使ってきてるぞ!』

『敵の数が多すぎる! 総数は明らかに3万を超えている! 対応ができん! 大至急、援軍を要請する!』

 

 この魔信に、魔導通信士の一人が対応していた。

 

「スタフ司令! 敵は3万を超える大軍の模様! 我が軍は奮戦すれども劣勢です! 前線の部隊は、援軍を要請しています!」

「分かった。竜騎士21騎を派遣しろ!」

 

 アルーニ基地司令官を務めるパーパルディア皇国陸軍大将スタフは、ただ一言命じた。

 

「え!? よろしいのですか!? それをやってしまうと、基地を守る竜騎士がいなくなってしまいますが……」

「構わん! なあに、敵に竜騎士は一人たりともいない。敵をここまで()()()()()()()()済む話だ!」

「は! 承知致しました」

 

 すぐに魔導通信士は、魔信に呼びかけた。

 

「こちら司令部、了解した! これより、竜騎士21騎を派遣する。到着まで今少し耐えてくれ!」

『助かる! 頼みました!』

 

 前線の魔導通信士が繋げているのだろう魔信からは、安堵の声が聞こえてきた。

 あっちこっちから魔信による報告が入ってくるのを聞き、時に指令を出しながら、スタフは戦況を見守っていた。

 

 

 ここで、どうしてこうなったのかを説明するために、時間を少し(さかのぼ)らせていただこう。

 最初に異変が確認されたのは、この日の朝方だった。哨戒飛行に当たっていたアルーニ基地所属の竜騎士が、旧属領カース内にあるパーパルディア皇国の聖地の一つである「ウェットの丘」付近に、3万を超える武装した歩兵や騎兵が集まっているのを発見したのだ。この集団はパーパルディア皇国皇軍兵士が装備している武器や防具とは異なる装備を持っており、掲げていた旗も属領にされる前の独立国家が掲げていた国旗だったことから、明確に皇国の敵だと判定された。

 たった一夜の間に、どうやって3万もの兵を集めたのかは全く不明である。だが、敵であることは確実であり、パーパルディア皇国・アルーニ基地に駐屯するパーパルディア陸軍は、この軍勢を叩くべし、と結論付けた。

 当初は、この軍勢に対して竜騎士団を使った空からの攻撃が検討された。だが、このウェットの丘が聖地であることに鑑み、パーパルディア皇国皇軍はこの集団を平野部で迎え撃つこととした。

 

 昨晩から雨が降っていたが、それは小雨にはなったもののまだ降り止んではいない。そして、空はどんよりと曇り、雲は低く垂れ込めている。

 しとしとと降る小雨と、湿って柔らかくなった地面は、パーパルディア皇国皇軍兵士の体力を奪い、士気を低下させるには十分だった。

 

 アルーニの街の北部にある名もない平野部に展開したパーパルディア皇国皇軍は、兵士約5,000名。

 前方に地竜リントヴルムを配置し、そのすぐ後方にマスケット銃を装備した歩兵隊がずらりと並ぶ。更にその後ろには魔導砲兵団が整列し、6門の魔導砲がその砲口を、敵が来るであろう方向に向けている。

 この布陣は、これまでの幾多の戦いで常勝無敗を誇った布陣である。現在でも、“ロデニウス連合王国軍以外の軍”に破られたことはない。

 そのため、アルーニ守備隊前衛部隊長リスカは絶対の自信を見せていた。

 

「隊長、蛮族が幾ら集まったところで()()()()()です。()(ごう)の衆に栄えある皇軍が敗れるはずもありません。奴らはなぜ、このような単純なことが理解できないのでしょうか?」

 

 側近の一人がリスカに話しかけた。リスカは、敵が来るだろう方向を見据えながら答える。

 

「第三文明圏外国であるロデニウス連合王国が、局地戦で我が軍に勝利したからな。おそらく自分たちにも勝てる、と思っているのだろう。哀れな奴らだ」

 

 その間にも雨は降り、リスカの身体は濡れ冷える。

 これまでの偵察の結果をまとめると、敵はもう間も無く攻撃を開始するだろう。

 リスカがそう考えた時だった。

 

ドンドンドンドン!

 

 遠くの方から、太鼓の音が聞こえてきたのだ。続いて、

 

ヤアァァァァ!!!

 

 平野部の静けさを破り、気合の入った声が響く。見ると、予想した通りに敵集団が向かってきていた。

 敵集団は騎馬隊を先頭に出していたが、どういう訳かその左方に30名ほどの歩兵が随伴している。騎馬隊の後方に歩兵部隊が続いているようだ。だが、隊列が乱れている。おそらく練度が低いのに加えて、各国の寄せ集めであるため、連携が上手く取れていないのだろう。

 

「やれやれ、その程度で皇国陸軍を破れると思っているのか!」

 

 呟き、リスカはさっと右手を振り上げて叫んだ。

 

「撃てぇー!」

 

 次の瞬間、アルーニ基地から運ばれて展開していた6門の魔導砲が、一斉にパパパパパパッと白い煙を噴いた。

 

ドドドドドドーン……

 

 腹の底に響くような砲声が鳴り響く。その砲声はまさに、戦闘開始のゴングであった。

 

 

 パーパルディア皇国に対抗すべく組織された73ヶ国連合軍は、一斉にパーパルディア皇国皇軍に押し寄せる。その景色はまるで黒い雪崩のよう。

 その雪崩の中に皇軍が撃った魔導砲の砲弾が落下し、爆発が発生して何人もの歩兵が吹き飛ぶ。が、皇軍の砲撃の密度が粗いせいで、73ヶ国連合軍の進撃は止まらない。

 とここで、73ヶ国連合軍の方に動きがあった。騎馬隊と共に先頭に立って攻め込んできていた歩兵30名ほどが、パーパルディア皇国皇軍前方250メートルのところで一斉に立ち止まったのだ。

 

「何をする気だ……ん?」

 

 リスカが呟いた時、この30人ほどの歩兵の後ろに旗が翻った。が、その旗はトーパ王国の国旗だったのだ。

 

「あの旗はトーパ王国の? それじゃ、トーパ王国軍が蛮族共を支援してるのか? ま、どんな国だろうと()()()()()だがな」

 

 リスカが言ったその時、トーパ王国兵たちは信じがたい行動に出た。彼らのうち20人ほどが横一線に並び、何か金属製の筒のようなものを目に当てたのだ。

 

「!? あれは、まさか銃!?」

 

 トーパ王国兵の行動の意味に気付いたリスカが思わず叫んだ時、

 

ダダダダン!!

 

 トーパ王国兵の構えた銃が、一斉に火を噴いた。距離が離れているせいもあるが、リスカらの耳に届く銃声は決して大きくはなく、その銃口から噴き出る煙の量は、パーパルディア軍のマスケット銃よりも()()()()()()

 

「バカめ、あの距離で銃弾なぞ届かんぞ!」

 

 だが、リスカはトーパ王国兵たちを(あざけ)った。

 現在のトーパ王国兵たちとパーパルディア軍との距離は、およそ250メートル。パーパルディア軍のマスケット銃の射程距離はいくら遠くても150メートルが限界であり、従ってトーパ王国兵たちの撃った銃は絶対に届かない。リスカはそう考えたのだ。

 

 だが次の瞬間、

 

グオオオオオ……!

 

 いきなり一頭の地竜が悲鳴を上げ、地面に倒れ込んだ。その額には穴が開き、血が流れている。

 更に別の地竜が何頭か、同じように断末魔の悲鳴を残して、地響きと共に地面に倒れた。

 

「何だと!? まさか、()()()()()のか!? そんな馬鹿な!」

 

 リスカは、顔面蒼白になりながら叫んだ。

 

 当然だ。トーパ王国兵たちが使っているのは、ロデニウス連合王国製の三八式歩兵銃である。有効射程距離460メートルを誇り、ボルトアクション式故の高い精度を持つ三八式歩兵銃にかかれば、250メートル先の地竜を撃ち抜くくらいは造作も無い。加えて、これを操作しているのは「あの」トーパ王国軍である。

 トーパ王国軍といえば、有名なのは“弓撃部隊”だ。トーパ王国の弓撃部隊はクロスボウを装備しており、非常に高い練度を持つ。その技量は、上手い者なら“50メートル先にいる鳥を正確に射抜ける”ほどの高さを誇る。このため、この弓撃部隊は他国からも一目置かれていた。

 実は、以前にフェン王国で行われた軍祭にもこの弓撃部隊は参加しており、他国の軍にその強さを見せ付けるはずだった。しかし、「ロデニウス連合王国陸軍のデモンストレーション」により、インパクトを()(さら)われてしまったのだ。

 あの日以来、トーパ王国はロデニウス製の武器の導入に非常に熱心になり、今やトーパ王国軍の主力部隊……にまでは波及していないが、少なくともトーパ王国軍弓撃部隊の兵装は三八式歩兵銃となっている。そして、元々弓撃部隊にいた者たちは、銃の操作の飲み込みが早く、元来の優れたスナイピング技術もあって、優秀な狙撃部隊となっていた。

 

 今パーパルディア皇国皇軍と戦っているのは、そうした元トーパ王国軍弓撃部隊、現トーパ王国軍狙撃部隊のうちの1つ「コラー中隊」なのである。僅か32人の小部隊ではあるが、九六式軽機関銃3丁に三八式歩兵銃29丁を装備する、多国籍連合軍の中でも“最強クラスの部隊”だった。

 

 コラー中隊の兵士たちは、地竜を狙って更に銃を撃ち続ける。それらの弾のうち何発かは、地竜ではなく皇軍兵士に命中し、銃弾を浴びた歩兵は短い絶叫を発して泥の中に倒れていく。

 

「な、仲間が次々と倒れていくぞ! どうなってやがる!? まさか、銃の弾がここまで届いてるってのか!?」

 

 皇軍兵士たちは(ろう)(ばい)する。

 思わぬ攻撃によって狼狽し、混乱を来したパーパルディア皇国皇軍はその隊列を乱し始め、隊長リスカは基地に対して“竜騎士による航空支援”の要請を行ったのだった。

 

 しかし、まだ悲劇は終わらない。

 アウトレンジからの射撃により、パーパルディア皇国陸軍が誇る地竜は、瞬く間に全滅してしまった。更に、疎らなパーパルディア軍の砲撃の中、別の敵歩兵が出てくる。

 そいつらは良くみると魔導士らしかった。何か植木鉢のような形状の巨大な物体を、複数人数で抱えて運んできて地面に置き、少し離れて物体に向かって手を伸ばす。

 

「何がしたいんだ? あんなことをしたってなんにもなら……ッ!?」

 

 リスカの言葉は、途中で途切れた。

 その敵の方向から、急に風が吹いてきたのだ。どうやら風魔法を使用しているらしい。

 その風に乗って、嗅いだことのない()()()()がするな、とリスカが思ったその瞬間。

 

「……!?」

「げほっ、げほっ!」

「はあっ、はあっ……!」

 

 パーパルディア軍兵士たちは、急に口と鼻を押さえて苦しみ出したのだ。咳が止まらなくなる者、呼吸が苦しくなる者、様々である。何が起こっているのか、さっぱり分からない。

 

「げほ、な、何だこれは……!? げほげほっ!」

 

 自身も咳が止まらなくなりながら、リスカは怖気を震うのだった。

 

 

 一方、73ヶ国連合軍側では、パーパルディア軍の兵士たちが苦しんでいるのを遠望しながら、二人の男が話をしていた。

 

「ほっほっほ、やはり“これ”は絶大な効果があるようですな。この作戦は上手くいくでしょう」

 

 戦場に似つかわしくない、気味の悪い笑い声を上げているのは、リーム王国軍の連絡将校カルマである。それに対し、73ヶ国連合軍司令官である元属領カース出身の軍人、ミーゴが尋ねる。

 

「しかし、このままでは必ず、皇国の誇るワイバーンロード竜騎士団が出てくるでしょう。それに対抗する術を、我が73ヶ国連合軍は持ちませんが、本当に大丈夫ですか?」

 

 ミーゴの質問に、カルマは事も無げに答えた。

 

「ええ。ここは、パーパルディア皇国にとって前線から遠ざかって久しい場所です。いくら竜騎士団が配備されていたとしても、多くて20騎前後でしょう。その程度の数ならば、我がリーム王国竜騎士団でも対応可能だと思います。我が国は、この戦いに100騎の竜騎士団を投入する用意がありますので」

「それは助かります。ですが、よろしいのですか? リーム王国は、第三文明圏文明国の中では強力な国でいらっしゃいますが、相手は“列強パーパルディア皇国”ですぞ?」

 

 ミーゴの重ねての質問にも、カルマは薄気味悪い笑いを顔に浮かべて答えた。

 

「それはそうですが、フン。どの途、パーパルディア皇国は列強の座から滑り落ちることになります。今のうちにロデニウス連合王国にゴマを摺っておいた方が、外交としては“良策”でしょう」

 

 ここで一旦言葉を切り、徐にカルマはまた口を開いた。

 

「それにしても、『たかが自然の産物を、これほど恐ろしい兵器に転用できる』という情報を知っているとは……全く、ロデニウス連合王国とは恐ろしい国だな」

 

 

 そう、先ほどパーパルディア軍を苦しめたモノの正体は、「火山地帯には付き物の物質」だったのである。その名は、『硫黄』。

 リーム王国は、アワン王国との取引の中で、たまたまロデニウス連合王国から流れ込んできた兵器の本を見付け、それを解読してそこから知識を得た。そして、パーパルディア皇国と自国との国境地帯にある火山地帯から、危険を冒して硫黄を採取し、本によって得た知識を元に“硫黄を原料とする新兵器”を編み出したのだ。それは、高濃度の亜硫酸ガス。

 

 つまり、リーム王国が投入し、今パーパルディア軍を苦しめているのは、『毒ガス兵器』なのである。

 

 

 地球では第一次世界大戦の折に大々的に軍事使用された毒ガス、それが今、パーパルディア軍を追い詰めていた。

 風に乗って流れる亜硫酸ガスは、パーパルディア軍兵士を歩兵といわず騎兵といわず砲兵といわず苦しめ、砲兵隊は砲撃どころではなくなる。

 砲撃が止んだその一瞬を衝き、73ヶ国連合軍の兵士たちは盾を構えて一気に前進、パーパルディア軍との距離を詰める。

 なお、73ヶ国連合軍の兵士たちや馬は、リーム王国軍魔導士による毒ガス散布が始まると同時に、「あぶく頭の呪文」という呪文をかけて貰って、全員が“金魚鉢を逆さにして頭から被ったような格好”になっていた。見た目は不恰好だが、これが防毒マスクとしての機能を十分に発揮していたのである。

 前進する彼らの頭上を、トーパ王国軍狙撃部隊が撃った弾が飛んでいき、パーパルディア軍の歩兵が頭部を撃ち抜かれて崩れ落ちる。

 

 まともに魔導砲の砲弾も飛ばない中、盾を装備した歩兵隊を先頭にして、雪崩のようにパーパルディア軍に迫っていく73ヶ国連合軍は、ついにおよそ100メートルまで距離を詰めた。

 パーパルディア皇国陸軍歩兵が持つ主力兵器、マスケット銃の射程に入ったのだ。

 

「かっ……構えー!! ゲホッ」

 

 咳き込みながらも、隊長リスカが号令をかける。

 毒ガス攻撃で苦しみながらも、数十人が銃を構えた。それに遅れて、必死で銃を構えようとする者もいる。毒ガス攻撃という、「これまで全く経験したことのない攻撃」を受けていてもなお、機敏に銃を構える、あるいは構えようとするその行動は、パーパルディア軍兵士の高い練度を窺わせた。

 

「撃てーっ!」

 

 号令一下、

 

パパパパパパパーン

 

 構えられた数十丁のマスケット銃が、一斉に銃口から多量の白煙を噴いた。

 銃口から噴き出る多量の白煙は、見た目の派手さから言うと、一見して現代の銃よりも強力そうに見えなくもない。“煙による心理的効果”は大きいのである。

 (もっと)も、これは"何も知らない人が見れば”の話であり、知識がある者は、この多量の煙は無駄が多いからこそ上がる、ただの「こけおどし」だとすぐ見破れるのだが。

 

 皇国陸軍歩兵が発射したマスケット銃の銃弾は、73ヶ国連合軍に向かって殺到する。最初にその弾を受けることになるのは、盾を持った歩兵だ。

 

「ゲホ……バカめ、矢除けの盾なんぞあっさり貫通するわ! ゴホッ」

 

 リスカは、未だ流されている毒ガスに咳き込みながらそう呟いた。が、しかし、

 

カン! カン! カカッ!

 

 金属的な音が響くだけで、連合軍に倒れる兵士はいない。

 

「何だと!?」

 

 リスカは、目を見開いた。

 

 実はこの盾も、リーム王国が製作した新兵器である。「外敵からの攻撃に備えて、王城の守備を強化するため」として、ロデニウス連合王国からニクロムの金属板を購入し、それを鉄板の両面に貼り付けて持ち手を付け、最後にその表面に「防御呪文」をかけた、簡易的な複合装甲の盾であった。

 それが今、73ヶ国連合軍歩兵隊をパーパルディア皇国陸軍のマスケット銃の弾から守っていた。

 

 “列強国の主力兵器”を新型の盾で防ぐことが可能だ、と実証されたことで、73ヶ国連合軍の士気は大きく向上する。

 

「パーパルディア軍を踏み潰せ! その伸び切った(はな)(ぱしら)をへし折ってやれ!」

「「「「「うおおおおおおおお!!」」」」」

 

 現場指揮官の号令に、歩兵たちは気合の入ったかけ声で答える。人数の多さもあって、そのかけ声は天地すら揺るがすか、と感じられた。

 彼らの士気が最高潮に達し、73ヶ国連合軍が焦るパーパルディア皇国陸軍に襲いかかろうとする。

 

 その瞬間だった。

 

ギュオオオオオオーン!!!

 

 本能的な恐怖を煽る、猛獣の(ほう)(こう)が空に響き渡った。そしてパーパルディア皇国陸軍の背後の方角から、人が乗った大型の飛竜が20騎ほど向かってくる。

 空を見上げ、それを見たパーパルディア皇国の兵士たちが、一斉に安堵と歓喜の声を上げた。

 

「友軍だ! 竜騎士団が来てくれたぞ!!」

 

 逆に、73ヶ国連合軍の兵士たちは、その動きが一瞬止まった。続いて、各員がその場を離れようとする。

 だが、彼らに逃げる隙を与えず、上空で散開したパーパルディア皇国が誇る空の覇者、ワイバーンロード竜騎士団21騎は、慌ててその場を離れようとする73ヶ国連合軍の兵士たちに向けて、頭、首、胴体を一直線にしながら急降下を仕掛ける。上空までは亜硫酸ガスは届いておらず、竜騎士たちは自分の思う通りに動くことができていた。

 ワイバーンロードは口の中に炎を(たぎ)らせると、通常型ワイバーンのそれと比べて高威力の導力火炎弾を次々と発射する。紅い流星を思わせる火炎弾が次々と地面に降り注ぎ、直撃を受けた連合軍兵士たちは一瞬で焼き尽くされていく。

 空からの攻撃に対抗する術を持たない連合軍の兵士たちは隊列を乱し、泡を食って一目散に逃げ出そうとしていた。

 それを見て、73ヶ国連合軍司令官ミーゴは焦る。

 

「くっ! やっぱり出てきたか、ワイバーンロード……! このままでは、我々は敗北してしまいます! リーム王国竜騎士団の到着はまだですか!?」

 

 焦って早口になるミーゴに対し、カルマの答えは泰然たるものだった。

 

「焦らずとも良いですよ。もう間もなく到着するでしょう」

「本当ですか? しかし……噂には聞いたことがありますが、彼らは魔力探知レーダーを使ってワイバーンなどの接近を感知できるのでしょう? その割には、皇国の竜騎士たちに奇妙な動きはありません。まるで、空には“自分たち以外の竜騎士が存在しない”かのように動いて戦っています。本当に、リーム王国竜騎士団は来ているのですか?」

 

 するとカルマは、ミーゴに“小学1年生の子に算数でも教えるかのような口調”で話しかけた。

 

「では、何故我が国が、皇国との戦いにこの地を選んだと思いますか?」

 

「……?」

 

 ミーゴには、分からなかった。

 

「分からないでしょうね。……ここは、聖地ウェットです。この地は、大地から膨大な魔力が溢れ出ております。そのせいで、彼らの魔力探知レーダーは役に立たなくなっているのです。

基本的に、高魔力が放出されている地域では、魔力探知レーダーは()()()()なのですよ。

そして彼らは、我々に竜騎士は1人たりともいないと知っている。いや、“そう思い込んでいる”のです。だから彼らは、あんな風に動けるのですよ。

我が軍が、彼らの度肝を抜いてやります……!」

 

 そう言いながら、カルマは曇り空を見上げる。そして、辺りを見回していたが、急にある一点を指差しながら叫んだ。

 

「ほら、来ましたよ!」

 

 カルマが指しているのは、北の空だった。ミーゴがその方向を見ると、そこには分厚い雲が低く垂れ込めているだけだった。

 と思う間もなく、その雲の中から多数のワイバーンが急降下をしながら飛び出してきた。その数は100騎。どの騎も既に導力火炎弾の発射態勢に入っており、発射寸前の状態である。

 

「上空! 敵襲だ!」

 

 パーパルディア皇国竜騎士団は、地上にいる73ヶ国連合軍への攻撃に集中していた。その竜騎士のうち何人かが、たまたま上から来る敵の姿を発見する。

 

「何っ!?」

 

 竜騎士団長が状況を把握するのと、リーム王国竜騎士団が導力火炎弾を一斉に発射するのとが同時だった。

 

「回避!」

 

 団長は、叫ぶと同時に回避行動を取る。上空の敵に気付いた者たちは回避が間に合ったが、地上の敵しか見ていなかった者たちにとっては、この攻撃は“完全な奇襲”となった。

 導力火炎弾の嵐がパーパルディア皇国竜騎士団を襲う。この奇襲の一撃は成功し、12騎ものパーパルディア軍竜騎士が火だるまとなって墜落していった。

 

 しかし、“導力火炎弾100発に対して12騎撃墜”ということでお察しの通り、多数の外れ弾が発生している。では、その外れ弾はどうなるか?

 答えは簡単。重力に従って地面に落下するだけである。だが、その地面には73ヶ国連合軍の兵士が多数いる。では、何が起きるか?

 

 もちろん、誤射(フレンドリーファイア)である。

 

「ぎゃあああああ!!」

「グワーッ! サヨナラ!」

「あ"っ、あ"っ、あ"あ"あ"あ"あ"あ"っ!!!」

 

 あまりにも多数の導力火炎弾が同時に地面に落下したため、落下地点では盛大な爆発が起きる。そして閃光と爆発音の中で、火に焼かれた不運な兵士たちの断末魔が響き渡る。

 

「ああ!! 我が軍の歩兵が……! あなた方は、何ということを……!」

 

 ミーゴは、焼かれていく多数の味方を見て、噛み付くような表情でカルマを睨み付けた。カルマはというと、それに動じる風もない。

 

狼狽(うろた)えることはありません、12騎ものワイバーンロードを屠っているのです。我々の竜騎士団がいなければ、あなた方の全滅は免れなかったでしょう。戦争には、()()()犠牲は付き物です」

「ぐっ……! 貴様……!」

 

 ミーゴは苦々しげにカルマを睨みつけた。

 

「何ですか、その顔は? むしろ協力しているだけ、ありがたいと思ってくださらないと困りますよ」

 

 いちいち神経を逆撫でするようなことを言うカルマであった。

 

 

 そんな会話が地上で交わされている間にも、空中では激しい戦闘が続いていた。

 何とか奇襲の一撃を回避することができた9騎のうち、竜騎士団長が態勢の立て直しを図りながら、魔信を使って司令部に報告を行っている。

 

「司令部! 司令部! 我々は、敵のワイバーン竜騎士団から奇襲を受けている! 敵の数はおよそ100、我が方の被害は甚大! 現在9騎で対応中!」

『何だと!? どこの竜騎士団だ!?』

「待ってくれ……」

 

 1騎の敵ワイバーンを撃墜しながら、団長は敵の竜騎士が来ている鎧や軍服を確認して、報告を続ける。

 

「竜騎士の軍服を確認した! 敵は、リーム王国竜騎士団だ!」

『何!?』

 

 団長の持つ魔信からは、スタフの驚いた声が聞こえる。

 

『敵は、リーム王国軍で間違いないのか?』

「間違いない! くそ、数が多すぎる!」

 

 そう言うなり、団長は魔信を切った。お喋りをしている余裕が無くなったのだ。

 数という「量」で敵を圧倒するリーム王国竜騎士団。それに対して、ワイバーンロードの「質」で敵を凌駕するパーパルディア皇国竜騎士団。

 竜と竜が、空で激しく絡み合う。

 

『発射! ……くそっ、また避けられた! 奴らなんてスピードしてんだ!』

『危ない! 敵が後ろにいるぞ!』

『駄目だ、振り切れん! ぐあああああ!』

 

 パーパルディア皇国軍のワイバーンロードは、リーム王国の竜騎士が放つ導力火炎弾を、その圧倒的な運動性能で以て回避し、逆にリーム王国の竜騎士を返り討ちにして撃墜していく。リーム王国の竜騎士たちは、次々と撃墜されていった。

 しかし、いくら質では上といえど、100対9という“数の差”は如何ともしがたく、火炎弾を回避したところでその動きを先読みして放たれていた別の火炎弾に被弾したりして、パーパルディア皇国の竜騎士もその数を減らしていく。

 

 そして……先に殲滅されたのは、パーパルディア皇国竜騎士団だった。

 しかし、リーム王国竜騎士団の被害も凄まじく、100騎いた竜騎士団は、戦いが終わった時にはその数を半分にまで減らしてしまっていた。皇国竜騎士団がどれほど激しく抵抗したか、よく分かるだろう。

 

「お……おのれ! おのれっ! たったの9騎に100騎でかかって、50騎もやられてしまうとは!」

 

 カルマは、あまりに大きな損害を出した味方の竜騎士団を見て、悪態を吐くのだった。

 

 

 これにより、パーパルディア皇国皇軍は上空支援を失った。

 だが、空中戦が起きている間に毒ガスはすっかり風に流れて消え、何とかパーパルディア皇国陸軍兵士たちも戦えるようになった。

 

「くそ、敵が態勢を立て直しやがったか……! どうする……」

 

 このままでは、皇国軍の魔導砲によって、味方に多数の被害が出てしまう。

 ミーゴが次の手を考えようとした、その時だった。

 

ヒュルルルルル……

 

 不意に、奇妙な音が響いたかと思うと、大気を切り裂いて白い煙を放つ何かが、どこからともなく飛んできた。

 

ドドーン!!

 

 それは、パーパルディア軍の後方にいる砲兵隊に向けて落下し、爆発する。パーパルディア軍兵士が何人も吹き飛ばされ、魔導砲が破壊されて地面に転がるのが見えた。

 

「何だ、今の?」

 

 ミーゴが呟いた時だった。

 

 

 

 

 

「「「「「国王陛下、バンザァァァァァァァァァイ!!!」」」」」

 

 

 

 いきなり、大きな叫び声が上がる。何人もの人間が一斉に上げる、雄叫びだった。

 そして、先端に剣を装着した銃を持った多数の兵士が、丘の向こうから姿を現す。それと同時に、何やら細長い胴体と奇妙な足回りを持つ怪物も10()ばかり現れた。

 その兵士たちが振りかざした旗を見て、ミーゴは目を見開く。

 

「あれは……ロデニウス連合王国軍!」

 

 そう、デュロから出撃してきたロデニウス連合王国軍・東方軍集団6万人が、このタイミングでアルーニ攻勢に加わったのだ。

 

ダダダダダダダダ!!

 

 ロデニウス連合王国軍が繰り出したハノマーク装甲車(これがミーゴの言う「細長い胴体と奇妙な足回りを持つ怪物」である)が、MG34機関銃を乱射しながらパーパルディア軍めがけて突撃する。

 更に、上空に姿を現した20機以上の零戦52型が、パーパルディア軍に急降下して機銃掃射を浴びせていった。追加で、急降下した「(すい)(せい)」艦上爆撃機が500㎏爆弾を投下する。

 

「突撃ぃぃぃぃぃ!」

「皆殺しだぁぁぁぁぁー!!」

「進めー! 叩きのめせ!」

「うおおおおおおおおおお!!!」

「殺せぇぇぇぇぇぇぇぇ!」

 

 そしてロデニウス連合王国軍の歩兵たちも、思い思いのセリフを叫びながらバンザイ突撃(チャージ)をかます。

 

「な、何なんだ、これは!?」

 

 驚くカルマを横目で見つつ、ミーゴは魔信で指示を飛ばす。

 

「心強い援軍だ! ロデニウス連合王国軍が来てくれたぞ! 全軍突撃! 今こそパーパルディア軍を破る時だ!」

「「「おおおおおおおお!!!」」」

 

 ロデニウス連合王国軍に負けじと、73ヶ国連合軍の兵士たちも一斉にパーパルディア軍に躍りかかった。戦場の後方にいたリーム王国陸軍も、それに混じる。

 元々数は5,000対3万と、73ヶ国連合軍が上である。そこへリーム王国竜騎士団と母艦航空隊による上空援護と、ロデニウス連合王国軍6万の地上支援が加わったことで、戦局は一気に傾いた。

 

「緊急事態発生! 緊急事態発生! 敵に増援が加わった! およそ6万のロデニウス連合王国軍だ! 直ちに救援を……」

 

 魔信で報告を送りかけたまま、パーパルディア皇国皇軍アルーニ守備隊・前衛守備隊長リスカは、「彗星」艦上爆撃機の7.7㎜機銃で頭部を撃ち抜かれ、絶命した。

 彼が戦死してからほどなく、圧倒的な戦力差で押し切られた前衛守備隊は全滅。パーパルディア皇国の兵士たちは、誰一人生き残れなかった。

 

 

 その1時間後。

 ロデニウス連合王国軍と合流した73ヶ国連合軍は、パーパルディア皇国陸軍が築いていた複数の防衛ラインを難無く突破し、ついにアルーニ基地に総攻撃をかけていた。

 

ドドーン! ドカーンドカーンドカーン!!!

 

 パーパルディア軍の魔導砲が火を噴き、それに対抗するかのように、ロデニウス連合王国軍のハノマーク装甲車が装備した、「WG42」の30㎝ロケット弾が炸裂する。その隙間を縫うようにして、ロデニウス連合王国軍が発射した八九式重擲弾筒の榴弾が放物線を描いて落下する。

 

ダダダダダダダダダダ!!

 

 パーパルディア軍のマスケット銃の発砲音を塗り潰すように、ロデニウス連合王国軍の機関銃が銃弾を撃ち出す。

 

「突撃いぃぃぃぃ!!」

「ばんざぁぁぁぁぁぁい!!!!」

 

 そして、パーパルディア軍の迎撃を物ともせずに、73ヶ国連合軍とロデニウス連合王国軍は、黒い津波となってアルーニ基地を呑み込んでいく。

 最後まで抵抗し続けたアルーニ基地司令部も、40分に亘る攻防戦の末に、遂に陥落した。

 もうどうにもならない、と悟ったアルーニ基地司令官・スタフは、降伏を拒否してマスケット銃で自決。指揮を引き継いだ副司令官が、正式にこの連合軍に降伏した。かくて、アルーニ基地は陥落したのである。

 パーパルディア皇国皇軍の戦闘による死傷者は、この一日だけで実に15万にも達してしまっていた。73ヶ国連合軍はおよそ2,200名の戦死者と5,000名以上の負傷者を出し、リーム王国軍も竜騎士50騎の他、戦闘に参加した陸軍に1,300人近い戦死者を出している。ロデニウス連合王国軍は、最も激しい抵抗を受けたものの、ハノマーク1輌全損の他は戦死者950名、負傷者2,860名の被害に留まった。“ハノマーク装甲車による防御”と、“マスケット銃の連続射撃を許さない素早い突撃”が功を奏した形である。

 

 アルーニ基地が降伏した10分後には、多国籍(73ヶ国)連合軍は降伏を拒否してアルーニ市街地に逃げ込んだパーパルディア皇国軍を追うような格好で、アルーニに到達。逃げ遅れていたアルーニ市民を巻き込む形となった壮絶な市街戦の末に、中央暦1640年6月5日午後0時22分、アルーニは陥落してしまった。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 同日午後2時、皇都エストシラント皇宮パラディス城内、皇軍司令部。

 刻一刻と悪化する戦況を前に、皇軍最高司令官アルデは痛む腹を抱えて地図と睨めっこしていた。

 

 エストシラント空襲に始まり、皇都防衛隊と皇都直衛艦隊と海軍2個主力艦隊の全滅、エストシラント軍港の壊滅、続いて海軍第3艦隊の全滅。それをルミエスが公表したことによる全属領の一斉武装蜂起と、各国からの宣戦布告。更に、デュロもロデニウス連合王国軍の攻撃によって全滅し、そればかりか上陸を許してしまった。

 そして2日前、今度は皇国北西にある港湾都市レノダが陥落。相手はパンドーラ大魔法公国とマール王国の連合陸上軍、そしてそれを上空から支援するロデニウス連合王国軍だった。

 

 この2週間ほどの間に、パーパルディア皇国を取り巻く状況は、悪化の一途を辿り続けている。敗北、全滅、陥落。それらの凶報を前に、アルデの胃は既に限界寸前となっていた。

 そこへ、

 

ガンガンガン!!

 

 執務室のドアが強く叩かれる音がする。

 

「ああ……またか……今度はいったい何だ……入れ!」

 

 アルデは、このようにドアが叩かれた時にどんな報告が舞い込んでくるか知っていた。おそらく、またどこかで緊急事態が起きたのだろう。

 このようにドアが叩かれるのは、これで何度目か。

 アルデは、どうにか悲鳴を上げっ放しの胃を押さえ、ドアを叩いた者を室内に入れる。

 

 飛び込んできたのは、軍の幹部の一人だった。例によって息を切らし、顔は真っ青になっている。

 

「報告します!

一大事にございます。我が国の北方の要衝アルーニが陥落しました!! 相手は73ヶ国連合軍と、ロデニウス連合王国軍です!」

 

 アルデは、胃の腑から胃液が喉に向かってジャンプしてくるような感覚に襲われた。

 アルデは一瞬気を失いかけながらも、気力を振り絞って意識を引き戻し、幹部に叫ぶ。

 

「何だと!? アルーニが……!? 敵はもう、そんなところまで!?」

「どうやらそのようです。しかも、詳細は不明ですが、73ヶ国連合軍は新兵器を投入してきたようです。

最初にアルーニに攻め込んできたのは、73ヶ国連合軍とトーパ王国軍だけでした。我が軍はワイバーンロード竜騎士団の投入によって一時優勢に立ちましたが、ワイバーン100騎の竜騎士団から奇襲を受け、我が軍の竜騎士団は全滅に追い込まれた模様です。その敵の竜騎士団は“リーム王国の正規軍である”と報告がありました!」

「な……何ぃ!?」

 

 アルデは、怒りと驚きが入り混じったような表情をして幹部に質問する。

 

「リーム王国だと!? あの、我が国の北東に位置する文明国のリームか?」

「左様でございます」

 

 握り拳で執務机をドンと叩きながら、アルデは罵った。

 

「くそっ! リーム王国宣戦布告の報は、こちらに届いてないぞ! 宣戦布告もなしに参戦してくるとは、あのハイエナ共め!

では、反乱軍は文明国の武器を使用しているというのか!?」

「はい、おそらくそうでしょう。

竜騎士団を失っても、なお我が軍は抵抗を続けていましたが、そこにロデニウス連合王国軍6万が参戦し、更にロデニウス軍の飛行機械が上空援護に入ったことで我が軍は瞬く間に劣勢、ついに敗北に追い込まれました。アルーニ基地司令官のスタフ将軍は、自決しております」

「なんてことだ……“旧パールネウス共和国領”までが陥落するとは……」

 

 また一つ、アルデの胃にストレスがかかったようだ。




【悲報】パーパルディア皇国、第三文明圏内外の全国家と戦う羽目になる

はい、ついに第三文明圏とその周辺の国家全てが、パーパルディア皇国と戦争に入りました。
とは言っても、書類上開戦しただけで、武力衝突はしていない国もそこそこいるんですけどね。


UA16万突破、お気に入り登録1,100件突破、総合評価3,900ポイント突破だと!?
本当にありがとうございます!

評価8をくださいましたよこうし様、momotaro様
評価9をくださいましたRudbeckia様、木偶の坊様
評価10をくださいました七誌様、sum様、ロスこめ様
ありがとうございます!!
また、新たにお気に入り登録してくださいました皆様、ありがとうございます!


次回予告。

完全に斜陽化した列強パーパルディア皇国。皇都エストシラントを赤い夕日が照らし出した後、もう一度、皇都は赤く染まった…
次回「エストシラントを朱に染めて」

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