鎮守府が、異世界に召喚されました。これより、部隊を展開させます。   作:Red October

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更新が遅くなりまして、申し訳ございません!
ちなみにイベントは、E3甲第二ゲージのラストダンスで完全に行き詰まりました。ほっぽ妹と取り巻きの陸上連中ウザすぎるだろ…


065. アサマ作戦6合目 パールネウス攻撃(1)

 中央暦1640年6月10日午前7時55分、パーパルディア皇国 「聖都」パールネウス。

 パールネウスは、エストシラントの北方300㎞、アルーニの南方200㎞の位置にある、二重の城壁に囲まれた中規模の都市である(この「中規模」というのは“パーパルディア皇国基準”での話であり、他国から見れば大都市である)。

 この都市は、パーパルディア皇国がまだ「パールネウス共和国」と名乗る文明国のうちの一国だった頃の首都である。そして、この街でエストシラント公爵家は生まれ、国号を「パーパルディア皇国」と変えることを宣言した地でもあった。その為、国号が「パーパルディア皇国」になり、首都がエストシラントに移った後も、この街は「聖都パールネウス」と呼ばれ、特別視されていた。

 “元一国の首都”だっただけあって、その防御力は高い。都市を囲む二重の城壁は、高さが30メートルにも達しており、壁の上には魔導砲が配置されている。また、大規模な陸軍基地(ただしこれは、昔の“パールネウス共和国軍基準”である。今のパーパルディア皇国皇軍基準で見ると中規模基地)を近郊に擁し、10万人の守備隊兵力を揃える他、ワイバーンオーバーロードを装備する竜騎士団300騎を擁する等しており、エストシラントの防衛兵力には及ばないものの相当な兵力を防衛に充てている。

 まさに“鉄壁の要塞”である。

 

 そのパールネウスであるが、いつもと情景が異なっていた。

 いつもなら、出勤する人々の雑踏や話し声、店を開けた売り子の声が通りに飛び交い、市内の公園にはそぞろ歩きをするカップルや親子連れが一組や二組はいるものであるが、それらの姿はない。店もほとんどが閉め切ったままになっていた。

 その代わりに、物々しい雰囲気を纏った兵士たちがあちこちにいる。揃いの防具を着て、マスケット銃や持ち運び可能な野戦用魔導砲を装備した兵士たちが通りを移動したり、持ち込んだ道具を使ってバリケードを作ったりしているのだ。一部の市民も、それを手伝っている。

 いつもとは違う、まるで戦争にでもなるかのような物々しさがそこにあった。いや、もう戦争になっているのだが。

 

 午前8時。市街地全体に、不吉なものを思わせるサイレンの音が鳴り響いた。空襲警報である。

 市街地に出て、軍を手伝っていた市民たちが手を止めて不安そうに空を見上げ、一部の市民は慌てて逃げ出していく。そんな中、サイレンの音に混じってグオオオオオン…という重々しい重低音が響き始めた。

 空を見上げると、青い空の只中にインクを零したような黒い点が幾つも見える。グオオオオオオン……という耳慣れない音と共に、それは徐々に大きくなっていった。やがてそれは、羽ばたかない巨大な翼を持ち、何やら高速回転する物体を4つ付けた“異形の飛竜”へと姿を変えた。そして、パールネウスの市街地上空に侵入してくる。

 そう、これは断じてワイバーンなどではない。アルタラス島のルバイル基地を飛び立った、ロデニウス連合王国空軍の「B-29改 スーパーフォートレス」重爆撃機60機の編隊である。「殲滅戦」の宣言のお返しだ、とばかりにパーパルディア皇国各地の都市に爆弾の雨を降らせていたこの機体が、ついにパールネウス上空にその姿を現したのだ。

 パールネウス陸軍基地からは、パーパルディア皇国の誇る“世界最強の飛竜”「ワイバーンオーバーロード」が次々と緊急発進(スクランブル)し、「B-29改」に向かっていく。しかし、ある程度の高度まで上昇したところで上昇を止め、狂ったように飛び回り始めたのだ。しかもその高度は、「B-29改」の飛行高度よりも下方である。

 それもそのはずで、この時「B-29改」が飛んでいたのは、高度5,500メートルの高空である。ワイバーンオーバーロードは、確かに飛行速度・旋回能力・導力火炎弾の威力、いずれもワイバーンロードより強化されているが、悲しいかな原型がワイバーンなので、実用上昇限度はワイバーンやその改良型たるワイバーンロードより上がったものの、それでも高度4,500メートルが限界なのである。「B-29改」の飛行高度までは上がれない。

 ワイバーンオーバーロード隊は、上空で何度も旋回を繰り返す。それは、"あと少しなのに絶対に敵に手が届かない状況”に悔しさを表しているように見えた。

 それに対し、悠々とパールネウス上空に侵入した60機の「B-29改」は、上空から黒い物を多数投下した。黒い物はヒュウウウウウ……という笛のような音を立てながら、パールネウス市街地に向けて落下していく。「B-29改」が1機当たり36発搭載してきた、250㎏爆弾の“風切り音の多重奏”であった。

 

ヒュウウウウウ……ドドドドドドドーン!!!

 

 250㎏爆弾が市街地に吸い込まれると、その一帯に炎が走り、爆発音が響いて黒煙が噴き上がる。建物が木っ端微塵に爆砕され、爆発に巻き込まれた人々が上空高く放り上げられた。もちろんだが、上空に放り上げられた人々の命はない。

 「B-29改」が投下した爆弾は、家並みを次々と破壊していく。そんな爆弾のうち何発かが、道路に築かれたバリケード陣地に向けて落下してくる。

 

「逃げろっ!」

 

 指揮官が号令し、兵士たちが慌てて逃げ出す。その直後、無人になったバリケードに爆弾が落下し、炸裂した。

 

ドオォォォン!!

 

 落下した爆弾の爆発により、野戦用魔導砲の砲弾が誘爆して一気に吹き飛ぶ。爆炎に巻き込まれた兵士が1人、一瞬で蒸発した。

 城壁の上では、対空戦闘の訓練を積んだ魔導士たちが「ファイヤーボルト」等を空に向けて撃っているが、悲しくなるほど当たらない。

 ほとんど何らの迎撃も受けずに、2,160発もの250㎏爆弾を落とした「B-29改」の編隊は、パールネウスの上空から悠々と立ち去っていった。

 今回の空襲では城壁に被害はなかったが、市街地にはかなりの被害が出ている。

 

 

 更にその3時間後、昼時にも60機の「B-29改」が飛来。掠りもしない対空砲火(ただの魔法であるこれを対空砲火と言えるかはともかくとして)を尻目に、ワイバーンオーバーロードも及ばない高空から、爆弾を投下して悠々と撤収。一部の機体は、パールネウス陸軍基地を狙って投弾した。

 この空襲により、パールネウス防衛隊は更なるダメージを受けてしまう。特に、落下した爆弾のうち数発が飛行場を直撃し、ワイバーンオーバーロードの発着が当面不可能となってしまったのは大きな損害だった。

 

 二度に亘る空襲で、人的・物的・精神的に大きなダメージを受けた、パーパルディア皇国皇軍パールネウス防衛隊。それでも、まだ9万を超える人員が戦闘可能な状態だった。

 そのパールネウス防衛隊司令部に「敵陸軍接近」の報が飛び込んだのは、午後1時のことである。アルーニを攻め落として以降、南下を続けてきた元属領73ヶ国連合軍+リーム王国軍+トーパ王国軍+ロデニウス連合王国軍の大連合部隊が、ついにパールネウスに到達したのだった。

 

「やっと着いたか、パールネウス……!」

 

 大連合部隊の本陣にて息巻いているのは、リーム王国軍の将軍カルマである。

 アルーニ攻勢でもその後の戦闘でも、今のところリーム王国軍はロデニウス連合王国軍に“美味しいところ”を持って行かれっぱなしだ。今のうちにロデニウス連合王国に恩を売っておきたいカルマとしては、この状況は我慢ならないものであった。故に彼は、このパールネウス攻撃で手柄を立て、ロデニウス連合王国軍に恩を売りつけようとしていたのである。

 現在、大連合部隊の本陣には73ヶ国連合軍・リーム王国軍・トーパ王国軍・ロデニウス連合王国軍の各指揮官たちが集まって、作戦会議を開こうとしているところである。

 

「ではこれより、大連合部隊の戦術会議を行います。本会議の議題は、『パールネウス攻略について』です」

 

 司会進行を兼ねた73ヶ国連合軍の指揮官、ミーゴが開会の言葉を発する。

 

「まず、推測される敵兵力についてです。

ロデニウス連合王国軍が掴んだ情報によれば、パールネウスには中規模の陸軍基地があり、配備兵力は約10万と見られる、とのことです。また飛行場が併設されており、ワイバーンロードもしくはワイバーンの新型がおよそ300ほど配備されていると見られる、とのことです」

 

 ミーゴのこの説明に、カルマが苦い顔をした。

 幾らパーパルディア皇国が弱っているとはいっても、やはり数が多い。

 

「また、パールネウスの市街地は二重の城壁で囲まれており、当然ながら城壁の上には魔導砲が配備されています。しかも、この魔導砲は皇国海軍の戦列艦に搭載されているものと同じく、射程2㎞を誇る代物です。砲を扱う兵も合わせると、パールネウスの守備兵力は15ないし20万となるでしょう。

防御力は非常に高く、これを攻め落とすのは容易ではない、と考えられます」

 

 流石に一国の元首都だっただけあって、防御力は隔絶している。アルーニなどとは比べ物にならない。

 

「では次に、こちらの兵力についてです。まず、我が73ヶ国連合軍は歩兵のみで2,742名。装備もまちまちで、練度もお世辞にも高いとは言えません。加えて、出自が元軍の兵士だった者などはまだ良いのですが、農民上がりという兵も多く、彼らにはかなりの疲労が見られます。遺憾ながら、現時点では大規模攻勢に加わるのは困難と見られます。

では次に、リーム王国軍の方に報告をお願いします」

 

 ミーゴが話を終えると、カルマが立ち上がった。

 

「我がリーム王国軍は、歩兵・騎兵合わせて15,800名、総員意気軒昂です。パールネウスを攻撃するのであれば、是非とも先陣を務めたいという者も多くございます。練度に関しては十分ですな。以上です」

「ありがとうございます。それでは続いてトーパ王国軍の方、報告をお願いします」

 

 ミーゴに言われて立ち上がったのは、少し痩せ型のひょろっとした男だった。一見頼り無さそうに見える。

 立ち上がった男は、その外見からは不釣り合いなほどしっかりした声で話し始めた。彼の名前はアーノルド・ネイラン。

 

「我がトーパ王国軍コラー中隊は、中隊規模でしかないので人数は32名しかおりません。ですがアルーニ攻勢以来、ここまで誰一人として脱落しておりません。練度・士気については十分でしょう。

装備も申し分ありませんが、そろそろ弾薬の補給が乏しくなってきております。聞けば、ロデニウス連合王国の武器は我々と同じだとか。可能ならばで結構ですので、少しばかり融通して頂けると感謝の極みです。弾薬さえあれば、我々は戦えますので。こちらからは以上です」

 

 そしていよいよ、ロデニウス連合王国軍の番となった。

 

「ロデニウス連合王国軍司令官のサムダです。我が軍は人数57,400名、装備は申し分なく、士気・練度とも良好です。

補給に関しては空輸その他の手段がありますので、我々には心配はございません。トーパ王国の皆様に融通する銃弾も、十分ございます」

 

 これを聞いて、アーノルドが相好を崩した。

 

「あと、こちらからお一つご連絡がございます。現在、我が国の軍がパーパルディア皇国南部に上陸し、エストシラントを占領しました。現在は、このパールネウスに向けて北上を続けています。ですが、到着には最長であと5日ほど見込む必要があると思われます。以上、ご連絡です」

 

 この報告に、各軍の代表者たちがざわつく。

 

「エストシラントを、陥とした、だと……?」

「強さが桁違いすぎる……」

 

 特に、元属領73ヶ国連合軍の代表者たちのざわつきが大きい。

 属領にされていた国々の人々にとっては、パーパルディア皇国は圧倒的な武力を持つ“恐怖の象徴”であった。その首都ともなれば、非常に大規模かつ精強な軍隊が守っていたはずだ。

 エストシラントを占領したとなると、ロデニウス連合王国軍はその精強な大軍を破った、ということになる。列強国の軍隊でもない限り、成し得ないようなことを彼らはやってのけたのだ。その強さは段違い、と言い切れる。

 

「そこで、このパールネウスを攻めるに当たり、全軍で作戦を共有しておきたい、と思いましてこの会議を召集させていただきました。

エストシラントが陥落した今、パールネウスを陥落させれば、パーパルディア皇国も今度こそ滅亡を免れないでしょう。皆様には、忌憚のない意見を望みます」

 

 ミーゴがそう言うと、真っ先にサムダが手を挙げた。

 

「それでは、まずは私からご意見を申し上げます。

はっきり申し上げて、この面子ではパールネウスを落とすのは難しいと思います。基地にいる陸軍約10万はどうにかなると思いますが、城壁に守られた都市を攻めるのが骨ですな。今の我々でも難しいところがあります。援軍を待つべきか、と存じます」

 

 サムダのこの意見に、カルマが反論する。

 

「何を仰るのですか、サムダ殿。エストシラントが陥落したことで、敵は士気をガタ落ちさせているでしょう。ここは一気に攻め落とすべきではありませんか!」

「いえ、“手負いの獣ほど狂暴になる”とはよく言う話です。いくらパーパルディアが弱っているとはいえ、腐っても列強です。決して侮ることはできますまい。

それに敵は、城壁の上という“高所”を押さえており、そこから射程2㎞の魔導砲を撃てます。これは、敵にとって大きなアドバンテージです。これを何とかしない限り、我々は下手に動くことができないでしょう。

以上のことから、私は今は積極的な攻勢は取らずに兵糧攻めに徹し、援軍を待つべきと考えます。エストシラントを攻め落とした我が国の軍40万以上がこちらに向かっておりますので、彼らが到着してから攻めても遅くはないでしょう」

「分かってないですな、サムダ殿」

 

 しかし、カルマはしつこく食い下がる。

 

「パーパルディア皇国はもはや孤立無援であり、エストシラントもデュロもレノダも失って、今や風前の灯です。一気()(せい)にパールネウスを攻撃し、この国を滅ぼすべきだ、と考えます」

「いや、カルマ殿。性急に過ぎるものでもないだろう」

 

 とここで、アーノルドが口を挟んだ。

 

「確かにロデニウス連合王国は強い。だが、その強力な軍の指揮官であるサムダ殿が、“パールネウス攻略は難しい”と仰っているのだ。

実際私も、あの城壁をどのようにして攻略すべきか、途方に暮れている。あの城壁の上にある魔導砲を何とかしなければ、攻めるにも攻められん。援軍を待って戦うべきだろう」

「これは、アーノルド殿までもがそのような消極的なご意見とは思いませんでした。まさか、ここまで消極的な意見が揃うとは……アルーニを攻め落とした時の勇猛さはどこへ行ったのやら」

 

 いちいち神経を逆撫でするようなカルマの発言に、アーノルドの片眉が釣り上がる。

 

「ふむ……では、そう仰るカルマ殿の率いるリーム王国の軍でしたら、パールネウス攻略も叶いますかな?」

 

 しかし自身の感情を抑え、アーノルドは逆にカルマにカマをかけた。

 

「もちろんです。我が軍だけででも攻め落としてみせましょう」

 

 自信満々に言うカルマであるが、サムダにしてもアーノルドにしても、既にリーム王国軍による攻撃の結果を見切っていた。

 

((これ、絶対にしくじって多数の人死にを出す奴だ))

 

「承知しました。では、パールネウス陸軍基地攻撃の第一陣はリーム王国軍に務めていただくことに致しましょう。トーパ王国軍とロデニウス連合王国軍、そして我々は、後方から支援させていただきます」

 

 三人の意見をミーゴがまとめた。

 

 

 会議が済んだ後、自軍の陣の方へ戻りながら、サムダがアーノルドに話しかける。

 

「あのリーム王国軍のカルマ殿……やけに功を焦っているように見えました。どうしたんでしょう?」

「さて、それは私にも分かりかねます。ですが、これだけは間違いなく言えます。次の第一次攻勢は、貴国の軍が支援しなければ必ず失敗するでしょう」

 

 アーノルドは事も無げに答えた。

 

「でしょうな。敵であるパーパルディア皇国陸軍は、数が減ったとはいえ持ち運び可能な野戦用魔導砲を保有していますし、マスケット銃を配備した歩兵隊も健在です。それだけでも、決して侮れる敵ではありません。

また、仮にこの敵を破り、基地を攻め落としたとしても、あの城壁に囲まれた都市を落とすのは、生易しいことではありません。あの壁の上の魔導砲さえ、どうにかできれば良いのですが」

 

 言いながら、サムダはパールネウスを囲む城壁を忌々しげに見上げる。

 

「まあ、まずは何にしても陸軍基地を落とさなければなりませんね。城壁をどうするかは、その後から考えても遅くはないと思います」

「ですな」

 

 アーノルドは、大きく頷いた。

 

 

 その2時間後、大連合部隊とパールネウスを守るパーパルディア皇国陸軍・パールネウス防衛隊はついに激突した。

 今更描写するようなこともないので、端折(はしょ)って書かせていただくが、結果を先に言うと、この戦闘は大連合部隊の敗北に終わっている。……但し、「ロデニウス連合王国軍の支援がなければ、大連合部隊には更なる被害が出ていた」という注釈が付くが。

 

 戦闘の序盤は、はっきりいって無様極まりないものであった。功を焦ったカルマの指揮の下、リーム王国軍が取った戦術は「毒ガスを浴びせてからの突撃」という、アルーニ攻勢の時と同じものである。これにより、敵を無力化しながら(じゅう)(りん)することを狙ったのだ。

 しかし今度は、アルーニの時のようには行かなかった。パーパルディア皇国陸軍パールネウス防衛隊は、毒ガス攻撃に苦しみながらも、計200門にも達する野戦用魔導砲で一斉反撃。更にアルーニでのことが“戦訓”として伝わっていたのか、歩兵たちは湿らせた布を使った簡易的なマスクをして毒ガスをある程度防ぎつつ、マスケット銃の一斉射撃で突撃するリーム王国軍を迎撃した。結果、リーム王国軍はなんと死傷者9,600人以上にものぼる大被害を受け、特に騎兵隊は壊滅状態に陥った。

 リーム王国軍の苦戦を見たサムダは、独断で作戦を変更。後方の守りを歩兵隊に任せ、自らはハノマーク装甲車を装備する軽機甲部隊を率いて前線へ突撃。パーパルディア軍の陣形めがけて、一部のハノマークが装備している「WG42」を叩き込ませた。そしてパーパルディア軍が怯んだ隙に、他のハノマークが最前線に飛び出し、混乱するリーム王国軍を囲んで敵の砲撃を防ぎ止めつつ、機関銃で敵を牽制しながら撤退したのである。

 功を焦ったリーム王国軍の、無様という他ない完敗であった。

 

 

「だから、ここを攻めるのは容易ではない、と申し上げたでしょうに」

 

 6月10日夕刻、再び大連合部隊本陣。

 サムダが冷ややかな声でそう言うと、頭部に砲弾の破片で怪我を負ったカルマが、血染めの布を巻いた姿で恨めしげな視線をサムダに浴びせた。あれだけの大敗北を喫した手前、まともに言い返す言葉がないようだ。

 

「リーム王国軍がまともに動けなくなった今、最も頼りになるのは貴国の軍隊ですな。どうします?」

 

 サムダにそう尋ねてきたのは、アーノルドだった。彼もカルマに冷たい視線を投げかけている。

 

「そうですね……」

 

 サムダは少し考えてから、これまで沈黙していたミーゴに視線を向けた。

 

「ミーゴ殿、73ヶ国連合軍の士気と疲労はどうですか?」

「ああ、皆すっかり元気になったよ。戦意も十分だ。貴国の軍が分けてくれた、旨い食料のおかげですな」

「我が国には『困った時は助け合い』という言葉がありまして、それを実践しただけですよ。さて、あの基地をどうやって攻略するかですが……第一次攻撃の際、敵のワイバーンが出てきませんでしたよね?」

「む? 言われてみれば、確かに見た覚えがないな」

「そう言えば、空には飛竜一頭見当たりませんでしたね。異なことだ」

 

 サムダに問われて、ミーゴとアーノルドは顔を見合わせた。そして、昼の戦闘を振り返って各々見たものを述べる。

 

「いったいどういうことでしょうか、サムダ殿?」

 

 ミーゴがサムダに尋ねる。

 

「はい、あくまで私の推測ですが……敵は、ワイバーンを()()()()()()()()()()()()()のではないでしょうか。

我が軍の作戦計画では、我々がここに到着する前に、アルタラスから発進した爆撃機部隊が、パールネウスを爆撃することになっています。もしかすると、その爆撃によって滑走路をやられ、ワイバーンを飛ばせなくなったのではないか、と思われます。彼らも滅ぼされまいと必死ですから、使えるものは何でも使ってくるでしょう。まして主要な航空戦力であるワイバーンの投入を躊躇(ためら)う理由など、考えられません。

以上のことから、おそらく敵の飛行場が使用不能になっているが故に、ワイバーンが出てこなかった、と考えます」

 

 サムダは、はっきりと言い切った。

 

「確かに、“ワイバーンの投入がない戦闘”など考えられんな」

 

 ミーゴも賛成する。

 

「となりますと、敵が飛行場を運用できないでいる間に基地を叩くのが得策ですな。もしやサムダ殿、夜襲ですか?」

 

 ワイバーン関連の話題についていけなかったアーノルド(彼の出身国であるトーパ王国は、その寒冷すぎる気候故に変温動物であるワイバーンが生息していないので、彼はワイバーンを書物の知識としてしか知らないのだ)が、やっと意見を出した。

 

「ええ、今夜にも叩きましょう。数から考えても、主力は我々が担うことになろうかと思います。

夜襲の作戦ですが、まずはその前に、トーパ王国軍の皆様の射撃の腕は如何なものでしょうか? アーノルド殿」

「射撃の腕でしたら、信用して貰っていいですよ。猟師上がりの者が多いので、精度は確かです。何せ、300メートル先の人間の頭くらいの大きさの目標を、一発で撃ち抜けるような兵士もいますからね。あと、夜間の長距離移動や気配を消しての接近、何でもござれです」

 

 アーノルドは、ドンと胸を叩いた。

 

「それは心強いですな」

 

 サムダが素直に賞賛していると、ミーゴも負けじと口を開く。

 

「我々も、ほとんど近接兵器しか持っておりませんが、弓を持った猟師上がりの人もおりますし、ある程度の潜伏は可能です」

「承知しました。それでは、こうすることに致しましょう……」

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 その日の夜、パーパルディア皇国陸軍パールネウス防衛隊基地。

 昼間攻め寄せてきた敵連合部隊を撃退したパールネウス防衛隊ではあったが、そこに戦勝ムードはない。最後に行われたロデニウス連合王国軍の攻撃が、あまりにも強力すぎたためだ。

 敵の先頭に立つ集団……旗等からリーム王国軍と察せられた……は、皇国陸軍の魔導砲及びマスケット銃の一斉射撃で、あっさり蹴散らされた。敵はまたも何かの“瘴気らしきもの”を使用してきたが、皇国陸軍の兵士たちは湿らせた布で口と鼻を覆ってこれに対処した。アルーニで敵が使ったものと同じ瘴気かどうかは不明だが、ともかくもこれで被害を抑えられた。

 ところが、いよいよリーム王国軍の殲滅にかかろうとした途端、戦場の遥か後方からロデニウス連合王国軍が“何か”を撃ってきたのだ。それは白い煙を発する魔導砲らしきもの(「WG42」のことである)で、着弾すると皇国の魔導砲弾よりも広い範囲を爆炎で焼き、兵士たちを吹き飛ばし魔導砲を破壊した。その砲撃でこちらが怯んだ隙に、彼らは脚の速い地竜(ハノマーク装甲車のこと)を多数動員して、それでリーム王国軍を守りつつ撤退していったのだ。その手並みは非常に鮮やかなものであり、皇国陸軍が追撃を行う暇すらも与えなかった。

 

 このため、パールネウス防衛隊は油断することなく警戒を続けていた。敵が夜襲を仕掛けてくる可能性も捨て切れないからだ。

 

 果たして日付の変わる頃、いきなり防衛隊基地のど真ん中で爆発が発生。その直後、北の方向からかなりの数の軍勢が襲ってきた。

 寝込みを襲われたパールネウス防衛隊は、狼狽しながらも迎撃に当たった。しかし、敵は騎兵でも発揮できないような速度であっという間に防衛線を食い破り、基地内にまで侵入。1時間ほどで基地は制圧されてしまった。

 敵の追撃に対し、逃げの一手しか打てなくなったパーパルディア皇国陸軍パールネウス防衛隊だが、その撤退も楽な道ではなかった。まず暗いので、まともに足元も目の前も見えない。歩くことすらままならず、かといって松明を持つ訳にもいかない。明かりを点ければ、たちどころにロデニウス連合王国軍の銃で蜂の巣にされるからだ。

 しかも、敵は撤退路にも伏兵を潜ませており、撤退中のパーパルディア皇国兵は次々と討たれた。ある者は出会い頭に銃で撃たれ、ある者は地面すれすれに張られたロープらしきもので転んだところを首を絞められ、またある者は闇の中だというのに正確に頭部を銃で撃ち抜かれた。他にも、暗闇の中で方角を見失って敵と遭遇、やられた者もいた。

 最終的に、およそ10万いたパールネウス防衛隊基地の戦闘員の中で、生きてパールネウスにたどり着けたのは48,000弱である。残りは、戦闘中か撤退中に戦死したり捕虜になったりした。

 こうしてパールネウス防衛隊基地は陥落し、大連合部隊はいよいよパールネウス攻略に取りかかることとなったのである。

 

 

「お見事でしたな、サムダ殿」

「全くです。まさか、農民上がりの我々があそこまで戦えるとは……」

 

 夜が明けて、6月11日の朝。

 大連合部隊の本陣では、ミーゴとアーノルドが揃ってサムダの手腕を讃えていた。

 

「いやいや、私は大したことはしておりません。むしろ皆様の勇気と手腕を讃えたいですよ、無茶な依頼だったというのに」

 

 実は、昨晩の作戦の全貌はこうであった。

 まずロデニウス連合王国軍は、トーパ王国軍と73ヶ国連合軍を別動隊としてハノマーク装甲車で敵の撤退路まで送り、茂み等に潜ませた。その上で、ロデニウス連合王国軍とリーム王国軍の連合部隊(ただし、侵攻速度の関係から事実上ロデニウス連合王国軍単独での攻撃となっていた)でパールネウス基地に夜襲をかけ、圧倒的な力でパールネウス防衛隊を撃破。そして、パールネウスに向けて遁走するパーパルディア皇国兵に、待ち伏せたトーパ王国軍と73ヶ国連合軍で追撃をかけたのだ。

 それが見事に図に当たり、彼らはパーパルディア皇国皇軍に大きなダメージを喰らわせて、撤退に追いやったのであった。

 

「トーパ王国の皆様は、猟師としてのカンが鋭かったですね。困難な夜間の行軍も難なくこなしておりましたし。

73ヶ国連合軍の皆様も、我々も舌を巻くほどの体力をお持ちで……。しかも、植物のツルをロープにして敵を転倒させる等、地形の利用がお見事でした」

 

 73ヶ国連合軍、トーパ王国軍共に士気は天を衝かんばかりの状態であった。自分たちも活躍し、戦果を挙げることができたのだから。

 

「パールネウスは、はっきり言ってかなり手強いです。ですが、必ず手はあります。どうやって攻略するか、共に考えましょう!」

「是非とも!」

「異存はありませんな」

 

 サムダの意見にミーゴが速攻で頷き、アーノルドも好意的な意見を寄せる。

 さて、リーム王国軍の方はどうか、と言うと…

 

(くそっ、我々が正面から攻めて失敗したのに、同じ手で成功しやがって……! 見てろ、次こそは、手柄を立ててやるからな……!)

 

 リーム王国軍の将校カルマが、暗い戦意を燃やしていた。そして、他のリーム王国軍将兵たちも、次こそは良いところを見せてやろう、と考えていたのであった……

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 さて、パールネウスに対して攻撃が行われている頃、タウイタウイ泊地。

 主力艦隊が軒並みフィルアデス大陸方面に出撃していったため、タウイタウイ泊地はいつもよりも静かな状態が続いている。しかし、工廠に限ってはそうではなく、喧しい機械の動作音が響いていた。"(あか)()"と"(くし)()"が常駐しているからである。

 そんなタウイタウイ工廠の一室、"釧路"に割り当てられた部屋では、"釧路"が机に向かって何かの設計図を描いているところだった。形状から考えて、どうやら航空機の設計図らしい。

 

「あとは、ここをこうして……よし、こんな感じかな」

 

 一言呟き、"釧路"はペンを机に置いた。そして、大きく伸びをする。

 

「ふう……。それにしても、提督さんが"あれ"を設計してくれていて助かりました……。これで、この機体を売り込めますね……! インパクト絶大でしょうし!」

 

 呟くと、彼女は「剣犬計画(けんけんけいかく、とお読みください)」と題されたファイルに、その設計図を閉じた。そして席を立つ。

 

「さて、ちょっと休憩して、紅茶でも飲もうかな……」

 

 そんなことを呟きながら、"釧路"は部屋を出ていった。

 

 

 彼女の言う「剣犬計画」。それは、“ある航空機の開発プロジェクト”であった。提督である堺が遠征している間に、図面だけでも完成させようとしたものである。

 彼女が引いていた設計図には、後退翼を持った航空機が描かれていた。その鼻先は犬の鼻のように尖っていて、4門の機銃が設置されている。そして何より、プロペラがなかった。

 

 その設計図には、こうタイトルが付けられていたのである。

 

 「F-86D改」と。

 

 

 そう、これは、かつて地球で使われていた(れい)(めい)()のジェット戦闘機「F-86D セイバードッグ」の改良型の開発計画だったのである。

 つまり、(セイバー)(ドッグ)という訳であった。




はい、パールネウス基地は陥落しました。ですが、皇軍総参謀長ステァリンは既にパールネウス市内の軍指令部に移っておりましたので、まだ健在です。
着々と追い詰められておりますが…

そしてジェット機開発のフラグが建築されました。運用可能な艦艇は…あるといえばありますね、翔鶴型改二甲とか…


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次回予告。

ついに始まった、パールネウス攻撃。しかし、パールネウスは堅固な城壁に守られた要塞都市である。それに対する、各国連合軍の策は…
次回「アサマ作戦6合目 パールネウス攻撃(2)」
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