鎮守府が、異世界に召喚されました。これより、部隊を展開させます。 作:Red October
はい、まだしばらく更新速度の遅い状態が続きますが、ご容赦願います。
あと、私は艦これのイベントは甲甲甲丙丙で完走いたしました。しかしフレッチャーは手に入らず。無念…
中央暦1640年6月13日 午前8時30分、パーパルディア皇国「聖都」パールネウス。
元パールネウス共和国の首都だったこの街を囲む、二重の城壁。その外側には今、3つの軍隊が展開していた。
1つは、パールネウス北東部に展開している元属領73ヶ国連合軍+リーム王国軍+トーパ王国軍+ロデニウス連合王国陸軍・東方軍集団の大連合部隊。その数は約62,000である。
更に1つは、パールネウスの西に布陣したパンドーラ大魔法公国とマール王国の連合軍。その数は約51,000。
そして今1つは、パールネウスの南に陣取ったロデニウス連合王国陸軍・南方軍集団。その数は何と400,000にも達し、地面を埋め尽くさんばかりに展開している。
傍から見れば、パーパルディア皇国の実質的な臨時首都となったパールネウスは完全に四面楚歌、孤立無援の状態に陥っている。これまで第三文明圏のトップの座に君臨し、世界五列強にも名を連ねていたパーパルディア皇国の面影は、もうどこにもない。
しかも、これまでパーパルディア皇国に隷属させられていた属領が一斉に牙を剥いているところを見ると、これまで侵略・虐殺・圧政・搾取と好き勝手やっていたパーパルディア皇国が、逆襲に遭っているようにも見える。
城壁の上で、携行型野戦用魔導砲を構えているパーパルディア皇国皇軍・パールネウス防衛隊の兵士たち。その顔には、悲壮な決意が見え隠れしている。
それはそうだろう。彼らはこれから、第三文明圏内外の主要国の軍隊を一度にまとめて相手取らなければならない、と言っても過言ではないのだから。
まず、第三文明圏の文明国であるリーム王国、パンドーラ大魔法公国、マール王国の軍隊である。リーム王国軍はこれまでの戦闘で数を減らしているが、その練度は“準列強”の名に恥じぬものがあり、決して侮れない。パンドーラ大魔法公国軍は、非常に高い魔導技術を駆使して戦闘を挑んでくるものと推定されている。彼らの魔導技術は、パーパルディア皇国のそれにも引けを取らないものがあるため、油断はできない。そしてマール王国軍は、ロデニウス連合王国から軍事支援を受けて軍の強化を図ったようだ。どれほど強くなったか分からないため、侮ることはできない。
また、73ヶ国連合軍やトーパ王国軍にしても、アルーニその他でパーパルディア皇国皇軍を撃破するのに貢献している。侮ると痛い目に遭うだろう。
そしてそれよりも何よりも、数においても質においても練度においてもパーパルディア皇国皇軍を圧倒的に凌駕しているのが、ロデニウス連合王国軍である。なんと彼らは、“第三文明圏外に国土を持つ文明圏外国家”でありながら、ムー国のそれよりも性能の高い戦闘機や、島のような大きさを持つ軍艦を幾つも配備している。その軍艦に搭載された大砲は、パーパルディア皇国の魔導砲を遥かにぶっちぎる射程距離・威力・命中精度を併せ持ち、恐ろしい脅威である。また陸上にあっても、彼らは連続発射が可能な銃や、パーパルディア皇国のマスケット銃よりも高い性能を持つ銃を持っており、それによってパーパルディア皇国皇軍は各地で敗走を重ねてきた。
まさに脅威、恐るべき強敵である。そんな強敵と今から戦わなければならないとあって、砲兵たちの中には、“生きて帰れるかどうか怪しい”と考える者、あるいは“既に生還を諦めている”者すらもいた。
市街地の方では、街路の交差点や公園等にバリケード陣地(ただし丸太や家具等を使用した急
そんなバリケード陣地に置いてあった魔信の機械が、一斉に入電のコールを鳴らす。そして壮年くらいの男性の声が聞こえてきた。
『兵士諸君、そして協力して下さっている民間人の皆様。私は皇軍総参謀長のステァリンだ。
城壁上の兵たちからの報告から判断するに、もう間もなく、敵の攻撃が始まるものと思われる』
魔信に耳を傾けていた者たちの表情が、固くなっていく。無理からぬ話である。
『私は諸君ら全軍に指令する。“何としてでも敵を食い止め、皇族の皆様方をお守りせよ”と。
現在、パーパルディア皇国は存亡の危機に立たされている。これを乗り切り、パーパルディア皇国という国家を存続させるためには、皇族の皆様方の存在がどうしても必要だ。よって、何としても皇族の皆様方はお守りしなければならない。
皆の奮闘に期待する!』
魔信から聞こえてきたステァリンの激励に、人々は覚悟を決め、闘志を奮い立たせるのだった。
「ロデニウスの連中、皇族の皆様方を狙ってくるんじゃろか?」
「そうなったら、ロデニウスの奴らなんぞこの剣で斬り捨ててやる!」
あちらこちらで、そんな会話がされていた。
「心配するな!」
皇軍兵士の一人が、市民を励ましている。
「このパールネウスの城門は鉄筋が入れられているから、
その声は、パールネウスの通りに虚しく響いていった。
パールネウス防衛隊と民間人義勇隊が戦闘態勢に入る一方で、相手もまた攻撃の準備を整えていた。
8時43分、男性の声が大きく拡声されて、パールネウスに響いた。
「私はロデニウス連合王国軍・パールネウス攻略部隊司令官ノウだ。
パールネウスを守るパーパルディア皇国皇軍に告ぐ、直ちに武装を解除して降伏せよ。このままでは、血みどろの市街戦となるだろう。民間人の命も多数失われることになるはずだ。
我々は無益な流血は望まない。直ちに武装を解除して降伏せよ。降伏の合図は白旗とする。
2分間だけ待つ。賢明な判断を期待する」
ロデニウス連合王国陸軍・南方軍集団司令官モッツァラ・ノウ将軍はそう呼びかけたのだが、パーパルディア皇国皇軍にこの降伏勧告に応える者はなかった。
「タイムリミットだ。降伏の印は?」
「ありません、司令官殿」
幹部から報告を受けたノウは、「そうか」とだけ呟くと、堺の方を見た。
「では、堺殿」
「ええ。残念ですが、それが彼らの選択です。始めましょう、手加減は要りませんよ」
堺に頷いた後、ノウはさっと右手を振り上げて叫んだ。
「撃てぇーー!!!」
ドドドオオォォォォン!!
ノウの号令一下、戦車第11連隊の九七式中戦車チハや九五式軽戦車ハ号が一斉に砲撃を放つ。それが、開戦のゴングとなった。
バシュバシュバシュ!!
ロデニウス連合王国軍に配備されているハノマーク装甲車が、次々と「WG42」を発射する。青空に白い煙の筋が、幾つも描かれる。
それとほぼ同時に、パールネウス上空に多数の単発レシプロ航空機が姿を現した。もちろん、ロデニウス連合王国海軍第13艦隊から発進した母艦航空隊である。今回もまた、戦闘機に護衛された急降下爆撃隊の出撃であった。
「突撃いぃぃぃぃ!」
「「「「「国王陛下、バンザァァァァァァイ!!!」」」」」
「天皇陛下、バンザァァァァァァイ!」
そして、例によってのバンザイ
ついに、パールネウス攻撃が開始されたのだった。
「敵軍が突撃してきます!」
パールネウス城壁のうち、南に面した城壁の上では、見張りに当たっていた兵士が緊張した声で報告する。
「砲構え!」
指揮官の号令一下、砲兵たちは一斉に携行型野戦用魔導砲を構える。
携行型野戦用魔導砲は、壁上固定砲に比べて威力・射程距離共に劣る。だがそれでも、ないよりは断然良いに決まっている。
(来い……! こいつで吹っ飛ばしてやる!)
砲兵たちは“不退転の決意”を固めていた。
しかし、ロデニウス連合王国軍がそんなことを許すはずもない。パールネウス上空に到達していた航空機が、次々と機体を翻して急降下してくる。
「敵機直上! 急降下ー!!」
誰かが叫び、砲兵たちは一瞬空を見上げて固まった後、「逃げろ!」という命令を受けて慌てて逃げ出す。その命令の声を圧するように、甲高い金属的な叫喚が降ってきた。
もちろん、この金属的な叫喚の正体は、尖った鼻先を持つ急降下爆撃機……「
ヒュウウウウ……ドガアァァァン!!
「彗星」艦上爆撃機から投下された500㎏爆弾が炸裂し、城壁の上に爆発音と爆炎が走る。逃げ遅れた砲兵が爆発と共に吹き飛び、魔導砲の砲弾が誘爆して大爆発が起きる。砲兵たちは何とか一時避難したものの、逃げ遅れた者たちは確実に、吹き飛ぶか黒焦げかの二択となった。
「くそ……よし、今だ! 行け!」
急降下爆撃機が爆弾の投下を終えたのを見て、指揮官が指示を出す。砲兵たちは、砲弾や魔導砲を持って階段を駆け上がり、砲撃位置に付こうとした。
が、それをロデニウス連合王国軍が見逃すはずがない。急降下爆撃機に続いて、零戦や「試製
ダダダダダダダダダダ!!
当然のように機銃掃射が行われる。
城壁に向けて緩降下で迫ってきた零戦のうち、一機の機首に発射炎が閃き、光弾が城壁に突き刺さった。石の粉が宙に舞い上がり、迂闊に城壁上に出てきた砲兵たちが、光弾を浴びてバタバタと倒れる。
零戦は機銃を撃ちっ放しにしたまま、城壁の上を通過していく。1機目が通過した後、続けて2機目、3機目と城壁に舞い降り、機銃を撃ちっ放しにしながら通過していった。パーパルディア皇国皇軍の砲兵たちが、次々と射殺されていく。もちろん、こんな状況下で砲撃などできる訳もない。
砲兵たちが爆撃と機銃掃射で足を止められている間に、ロデニウス連合王国陸軍・南方軍集団は南門に殺到しつつあった。ほぼ同時に、パールネウスの北東からは73ヶ国連合軍やトーパ王国軍と連携したロデニウス連合王国陸軍・東方軍集団が突撃をかけている。そして北西からは、パンドーラ大魔法公国とマール王国の連合軍が地軸を揺らして迫っていた。
それに対するパールネウスからの砲撃はない。砲兵たちは爆撃と機銃掃射の前に、逃げ回るので手一杯なのだ。とても砲撃どころではなかった。
最初にパールネウスの城壁に肉薄し、城門の前に達したのは、ロデニウス連合王国陸軍・南方軍集団だった。他の部隊に先駆けて突撃していたのが功を奏した形だ。
「ふむ……城門は鉄筋入りの木製か。あと、これは……魔法陣か? 何やら不規則な模様が刻んであるな」
南方軍集団の先頭に立って突撃した、戦車第11連隊の隊長…"
「よし、あまりぐずぐずしている時間はない。全車停止、砲撃用意!
妖精池田は、戦車の砲撃によって城門を破ることを決意した。
確かにパールネウスの城門は、木製とはいえ鉄筋を入れてあるため、破城槌では破ることができないだろう。それに防御魔法の魔法陣が仕込んであるため、仮に爆裂魔法を放ったとしても弾かれてしまう。パーパルディア皇国の、炸裂魔法付き魔導砲の砲弾でも弾き返せるだろう。
……だが、徹甲弾が相手なら、どうであろうか?
「各車、砲撃用意よし!」
「全車……撃てぇ!」
ドドドオォォォォン!!!
隊長の号令と共に、戦車が…九七式中戦車チハ19輌、チハ改(新砲塔チハ)20輌、九五式軽戦車ハ号25輌が一斉に砲撃する。発射された砲弾は照準
大きな爆発音が轟き、視界が一面煙で埋め尽くされる。
煙が晴れた先にあったのは……大量の瓦礫と消えた城門、そして四角い大きな穴の開いた城壁だった。
九七式中戦車チハは、弱い弱いと言われがちである。それは何故だろうか。
それは、チハの主砲・18.4口径57㎜砲にだいたいの原因がある。チハの主砲の装甲貫徹力は、45メートルという超至近距離でたった30㎜しかないのだ。これでは、敵の軽戦車や豆戦車ならば相手にできるだろうが、中戦車や重戦車が相手だとかなり厳しい。
だが、今回の相手は「城門」である。鉄筋は入っているが、それでも基本材質は木であるし、砲を撃ってくるわけでもない。ならば、チハでも十分戦える。チハの榴弾の威力は、同クラスの他国の戦車のそれにも決して劣らないからだ。
加えてここには、チハよりも更に高い装甲貫徹力を持つ砲を搭載した九五式軽戦車ハ号、そしてチハ改もいるのだ。チハ改の主砲である48口径47㎜砲の装甲貫徹力は、チハのそれとは比較にならない。
それらの一斉砲撃の前には、パールネウスの城門は無力だったのだ。
「まずい! 城門が破られた! 食い止めろ!」
城壁の上から様子を見ていたパーパルディア軍の兵士が、慌てて駆け降りてくる。だがその前に、
「突撃いぃぃぃぃ!!」
日本軍お得意の「突撃」の号令がかかった。
「「「「「国王陛下、バンザァァァァァァイ!!」」」」」
「天皇陛下、バンザァァァァァァイ!!!」
再び戦車を先頭にして、一斉にパールネウス城門内に雪崩れ込むロデニウス連合王国軍の兵士たち。その先頭に立ちながら、"池田末男"と呼ばれる妖精は本部に通信を送った。
「こちら
その時、プロペラエンジンの轟音がして、双発のプロペラ機が10機ばかり、北の方角に飛んでいった。
「士魂部隊から報告、SA地点突破しました! 予定通りSB地点に向かうとのことです!」
「第0空挺団、上空に到着!」
パールネウスの南にあるロデニウス連合王国軍本部では、伝令兵が慌しく走り、報告が飛び交う。
報告を受けた堺は頷いて、パールネウスとその周辺を描いた地図に目を落とした。そして、SA地点…パールネウス南の2つの城門のうち、外側の城門にバツ印を付ける。
「東方軍集団より報告、EA地点到着、攻撃開始です!」
「パンドーラ-マール連合軍から魔信、『地点WAに爆裂魔法は効かず、これよりロデニウスの新兵器を使用する』とのことです!」
「うむ、了解」
新たに入ってきた報告に、堺は頷いた。そして、腕時計をちらりと見る。
(戦闘開始から4分経過か……。「トロイアン・ホース」作戦発動まであと11分、それまでに出来るだけ敵の注意を分散しなければ……。
さて、マールの連中は、我が軍が貸した九六式150㎜榴弾砲を使うつもりらしいな。ここまで運んでくるのも一苦労だったろうに……故障してなきゃ良いが)
堺が抱いていた危惧は、残念ながら現実のものとなっていた。
「ちくしょう、動け! 動けったら!」
マール王国軍の歩兵が、拳骨で150㎜榴弾砲を殴り付ける。が、榴弾砲はうんともすんとも言わない。ここまでの遠距離を運ぶ間に、どこかが壊れてしまったようだ。
「くそっ、どうする!? 貸して貰ったものを壊したのもさることながら、これじゃ城門を壊せないぞ!?」
焦る幹部たち。その時、1人があることを考え付いた。
「そうだ! おい、こいつの砲弾はどれだけある?」
「砲弾なら、50発ほどあるぞ」
「よし。ならその砲弾、20発くらい集めてみないか?」
「そんなの集めてどうするんだ?」
「決まってるじゃないか! 城門にぶつけて
「なるほど! よし、それで行こう!」
「いや待て! どうせ俺たちの役割は、“一つめの城門を破壊して奴らの注意をこちらに惹き付ける”ことだろ? それなら20発なぞとケチくさいことを言わずに、50発全部発破にしようじゃないか!」
「よーし、ならド派手にやりますか!」
直ちに50発の150㎜砲弾が集められた。そして、それが荷車に山積みにされたまま、城門まで運ばれる。
城門に荷車を押し付けると、歩兵たちは大急ぎで退避していく。一方で、魔導士の1人が「ファイヤーボルト」の発動準備に入る。
「行くぞー! 3、2、1、発破ぁ!」
幹部が号令をかけた途端、稲妻の形をした炎が荷車めがけて飛んでいった。
次の瞬間、大砲をいっぺんに50発くらい撃ったような大音響が響く。爆炎と黒煙が荒れ狂い、砂礫が宙を舞い、焼けた風が兵士たちの顔を叩く。
「うおおっ」
兵士たちの間からは、そんな唸り声が聞こえる。
やがて煙が晴れた時、そこには…大穴の開いた城門があった。口径150㎜の榴弾50発分の火薬は、城門を吹き飛ばすには十分な威力があったのだ。
「よし、成功だ!」
「今だ! 突撃ー!!」
ロデニウス連合王国軍航空隊の上空支援の下、パンドーラ-マール連合軍の兵士たちは、一斉に穴の開いた城門に突撃していく。
同時刻、パールネウス外側の城壁に設けられていた東門が、ロデニウス連合王国陸軍・東方軍集団のハノマーク装甲車から発射された「WG42」の30㎝ロケット弾で崩れ落ちていた。
「こちらパンドーラ-マール連合軍! WA地点突破! 予定通り、陽動作戦に入ります!」
「こちら東方軍集団、EA突破に成功。これよりEBに向かいます! 国王陛下万歳!」
その頃。
パールネウス上空を堂々と飛び越え、パールネウス外側の城壁にある4つの門のうち、北門に近い地帯に接近する双発の航空機が複数あった。
この機体の名は「一式大型陸上輸送機改」。「一式陸上攻撃機」を改修して作られた、20人の兵員を輸送可能な輸送機である。
逆V字型の編隊を組んで空を飛ぶ10機の輸送機。その胴体に描かれた日の丸の部分が、内側から開放された。「一式大型陸上輸送機改」には、胴体後部に描かれた日の丸の部分に、搭乗ハッチがあるのだ。
そこから、何人かの妖精らしい存在が姿を現す。
「よーい!」
「よーい!」
「よーい!」
各機体の中で号令がかかる。一瞬間を空けて、
「降下!」
「降下!」
「降下!」
次の号令がかかった。
「降下」の号令と同時に、妖精たちは1人ずつ順番に、機体から飛び出して地上に向かって落ちていく。と、そんな妖精たちの背中から……正確には妖精たちが背負った背中の鞄から、円形の白い巨大な布が飛び出した。布は傘のように開き、妖精たちはそれにぶら下がってゆっくり降下していく。明らかに空挺降下であった。
そう、更なる囮として北門を破るべく、前回の対ロウリア戦役で出番のなかった空挺部隊に、出撃命令が下ったのだ。
◆◇◆◇◆◇◆◇
一方、パーパルディア皇国皇軍・パールネウス防衛隊司令部は大混乱に陥っていた。
「外側城壁の南門を突破した敵軍は、南街道を物凄い勢いで北上中! 敵は多数の装甲地竜(戦車のことである)を前面に押し出しており、我が軍と民間人による義勇防衛隊は奮戦していますが、防衛線は次々と突破されております!
現在、南の最前線はベルナルト公園まで後退しております!」
「ベルナルト公園だと!? もうそんなところまで来ているのか!?」
南部市街地を守る部隊から寄せられた緊急報告に、全部隊の指揮を執っている皇軍総参謀長ステァリンが、悲鳴じみたコメントを返す。
「申し上げます! 東の外側城門、突破されました!」
「西の外側城門、同じく破られました!」
そこへ、新たな緊急報告が舞い込んでくる。
「何ぃ!? 北は!?」
「北門には、今のところ敵襲はありません!」
「なら、北門守備隊の兵力を割いて、東、西、南に充てろ! 急ぐんだ!」
「はっ!」
部下たちに指示を飛ばしながら、ステァリンは胃が痛くなるような思いをしていた。
(くそっ、何て奴らだ! 防御魔法まで施した城門を、ここまであっさり破ってくるとは……! しかも、装甲地竜まで配備しているとは……!)
彼にとっては、全てが驚きであった。
ロデニウス連合王国軍の強さについては、これまで皇軍が連敗していることから、理解しているつもりだった。だが百聞は一見に如かず、実際に対峙してみると、その強さは噂以上であった。
彼らは皇軍しか持っていないはずの装甲地竜(繰り返すが、これは戦車なのでそもそも生物ではない)を多数投入し、魔導砲(但し魔力は一切使っていないので、ただの大砲である)を放ち、精鋭であるはずのパールネウス防衛隊に大きな損害を与えてきている。恐ろしい戦闘力である。
また、その他の各国軍にしても、なかなかやるようだ。特にマール王国軍の実力については、“完全に侮っていた”としか言い様がない。
頭が痛くなりそうになりながらも、ステァリンは何とか指揮を執っていた。その時、
「参謀長殿! 大変です!」
また幹部の1人が、血相を変えて駆け込んでくる。
「今度は何だ!?」
「北を……! 北の空を見てください!」
幹部に言われ、ステァリンは司令部の北の窓を見て、
「何だ、ありゃあ!?」
目を見開き、驚きの声を発した。
空を飛ぶ航空機から、何か細長い物が複数落ちていく。それらからは白い傘のようなものが開き、着地の衝撃を和らげるような仕掛けになっているらしい。
何が落ちてきているのかをよく見て、ステァリンは更に驚く。
「ひ、人!? まさか、敵が空から降ってきているのか!?
くそっ、なんてことだ! 北門、守備を固めろ! 敵が来るぞ!」
ステァリンは、必死で指示を出し続けていた。
一方、同じ頃のベルナルト公園。
ベルナルト公園は普段、パールネウス市民の憩いの場として使われる場所である。都市化が進む中にあって、そこそこの面積に加えて緑を豊富に残しており、更に小さな子供でも遊べる遊具もあるとあって、幼子を連れた家族やカップルなど、多くの一般市民が利用する場所であった。
今、そこは血みどろの激戦が起きる戦場と化していた。
ドガァン!
「うわあぁぁぁ!」
「ぎゃぁぁぁ!」
九七式中戦車の撃った砲弾が爆発し、バリケードに籠って戦っていた皇軍兵士が空中に吹き飛ばされる。
「この化け物め! これでズタズタにしてやる!」
それを見て憤った義勇隊員の1人が、剣を持ってバリケードから走り出ようとする。
「待てっ!」
バリケードの守備隊長が叫んだ時には、その民間人は既に走り出た後だった。が、その直後。
ダダダダダダダ!!
チハのすぐ傍にいたハノマーク装甲車が、MG34機関銃を発射する。声を上げる暇もなく、その民間人は全身を蜂の巣にされて崩れ落ちる。地面に倒れたその身体は、もうぴくりとも動かない。
「おのれぇぇぇ!」
その民間人の友人だったと思しき男性が、石を投げようとする。しかし、投げようとしてバリケードから身を乗り出したところに攻撃を受け、同じく蜂の巣となった。
ロデニウス連合王国軍には、「軍人はともかく、民間人は手にかけるな。但し、軍と共に行動していたり、武器を持って向かってくる民間人については、その限りではない」という指示が、ノウ(を通して堺)から出ている。このため、ロデニウス連合王国軍の兵士たちは、逃げ回る民間人には手を出さないようにしていた(手を出したのが発覚すると、即座に銃殺刑にされる、という恐怖のせいもあるのだが)。
ついさっきまで生きていた人間が、目の前で死んでいく、という地獄を前にして、大した訓練も受けていない民間人が耐えられるはずもなかった。
「うわあぁぁぁっ!」
「ああああああああ!!」
狂ったような叫び声を上げる者、武器を持ったまま敵軍に向けて闇雲に突っ込む者、
それに加えて、上空を舞うロデニウス連合王国軍の航空機が、地上の獲物を狙う猛禽のように急降下で突っ込み、バリケードに機銃掃射を浴びせ、爆弾をお見舞いする。爆発の度に爆炎が踊り、瓦礫や人体が宙を舞った。
狂気、恐怖、混乱……様々なものが入り交じった場所、それが戦場である。
ベルナルト公園は、今や"阿鼻叫喚の地獄絵図"といった様相を呈していたのである。
しかし、こうした市民たちの犠牲も空しく、ベルナルト公園の防衛線はたった5分で崩壊。戦車第11連隊を先頭にしたロデニウス連合王国陸軍・南方軍集団は破竹の勢いで突撃し、ついにSB地点……つまりパールネウスの2枚目の城壁にまで到達した。
「全車停止! 砲撃用意!」
周囲の警戒をハノマーク装甲車を装備する軽機甲師団に任せ、戦車第11連隊の戦車たちが、砲口を城門に突き付ける。城壁の上では、パーパルディア皇国皇軍の兵士たちが魔導砲を撃とうとするが、たちまち戦闘機の機銃掃射で蹴散らされる。
「撃てっ!」
号令一下、大小合わせて64発の砲弾が城門に突き刺さる。着弾した徹甲弾は木材を粉砕し、防御魔法が込められた魔法陣を爆砕して、鉄筋をへし折り、城門を完全に破壊した。大音響と共に、城門は崩れ落ちていく。
「ようし、突撃だ! 行けぇー!!」
「「「「「国王陛下、バンザァァァァァァイ!!」」」」」
「天皇陛下、バンザァァァァァァイ!!!」
城門を破壊した砲弾の爆煙が風に吹かれて消える前に、南方軍集団は全力突撃にかかっていた。
パーパルディア軍が食い止める暇など、どこにもない。彼らの突撃は、誰にも止められはしない。
同時刻、北門付近に降下したロデニウス連合王国陸軍第13軍団・第0空挺団の妖精100名(全員が人間サイズである)は、戦闘機による上空援護の下、城門に取り付いていた。
「HC-4をセットしろ! 急げ、時間がない!」
隊長が急かし、妖精たちは慌てず急いで正確にHC-4…「ハイパーコンポジション4」をセットしていく。これは、現代でも使われている軍用プラスチック爆薬である「コンポジション4(いわゆるC-4爆薬)」の威力強化型だ。たった1㎏で3.5㎏分のC-4爆薬と同等の威力を持つ代物である。
「設置完了、続いて起爆装置を挿入します!」
「了解、総員退避!」
起爆装置をセットする工兵を除き、妖精たちは一斉に城壁の影に隠れる。爆風から逃れるためだ。
1分ほどして、工兵が逃げ出してくる。
「設置完了しました!」
「了解。カウント5だ、行くぞ! 5、4、3、2、1、発破!」
隊長は号令をかけると、起爆ボタンを押した。
その途端、鼓膜が突き破られそうな爆発音が辺りの空気を震わせる。オレンジ色の光が一瞬強く煌めき、その直後に辺りに茶色の煙が立ち込めた。
その煙が消える前に、妖精たちは一斉に突入する。城門には大きな穴が開いており、彼らはその穴から悠々と侵入していった。
「よし! ここからは作戦通り、二手に分かれて城壁の制圧だ! 『トロイアン・ホース』作戦開始まであと1分。気合入れて行くぞ!」
「「「アイサー!」」」
「士魂部隊から報告、SB地点突破! 皇宮を目指す、とのことです!」
「第0空挺団、NA地点を爆破して侵入に成功! 作戦通りに城壁を制圧する、とのことです!」
ロデニウス連合王国軍本陣にて、報告を受けた堺は「了解」とだけ返事をした。そしてパールネウス外側城壁の門のうち、最後に残っていた北門にバツ印を付ける。
「これだけやれば、パーパルディア軍もてんてこ舞いだろうな。だが残念、我々のこの行動全てが、
さて……」
彼はちらりと腕時計を見た。8時59分56秒。
(……3、2、1)
腕時計の秒針がちょうど12を指したところで、彼は無線機を取ってどこかに連絡を送った。
「提督からあきつ丸へ。『
『こちらあきつ丸、了解であります!』
無線機からは、打てば響くようなタイミングで"あきつ丸"の声が返ってきた。
堺から連絡を受けた"あきつ丸"は、即座に動き出した。
「あきつ丸さん、ご武運を!」
「うむ、ここまでお世話になったであります! お気を付けて!」
これまで世話になったディグロッケの搭乗員たちに礼を返し、彼女は皇宮の中庭の片隅に降り立った。傍から見ると、何もない空間から突然人間が出現したように見える。事情を知らない者が見たら、腰を抜かすであろう。
「さあ、陸戦妖精の皆、出番であります!」
彼女は素早く艤装を展開する。そして、艤装内に収容していた数千人の妖精を、一斉に展開させた。
艤装から出てきた妖精たちは、いつもの小人サイズから一気に人間サイズにまで身長を伸ばすと、MP40を持って分隊ごとに分かれ、宮殿に突入していく。
「狙うはたった2つ! 皇軍司令部と、皇族の連中だけであります! それ以外はサクッと始末するであります!」
"あきつ丸"は、無線で指示を送った。
そう、これが「トロイアン・ホース作戦」の全貌である。
城門の破壊、空挺降下、機銃掃射と、ありとあらゆる行動でパーパルディア軍の目を逸らし、敵の司令部の注意が散漫になった隙を衝いて、陸軍妖精隊で一気に敵心臓部を制圧、皇族を含むパーパルディア皇国上層部を抑えて、早期決着にしようとしたのだ。
敵地の奥深くまで侵攻しているため、ロデニウス連合王国軍は補給が苦しくなっている。故に、“伸び切った補給線が切れてしまう前に決着を付けよう”と、堺はこの作戦をノウ将軍に提案し、二つ返事で認可を得て実行したのであった。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「南側の敵が、内側城門を突破しました! 敵は物凄い勢いで、こちらに向かってきます!」
この一報で、パーパルディア皇国皇軍・パールネウス防衛隊司令部は、混乱と恐怖のどん底に突き落とされた。
「敵の狙いはここだ! 何としてでも食い止めろ!」
ステァリンが声を枯らして叫ぶ。
立て続けに起こる予想外の事態と、あまりにも早い敵の侵攻速度に対する焦り、そして絶対に“皇族の方々をお守りしなければならない”という使命感が、四方八方から彼を精神的に締め上げており、彼の思考は限界寸前となっていた。幕僚たちも、想定外過ぎる事態の発生に対処し切れていない。
その時、皇宮の建物のどこかでダダダダという耳慣れない連続音が響いた。更に複数回、同じような音が鳴る。
「何の音だ?」
ステァリンが呟いた時だった。
バタバタと廊下を走る足音がしたかと思うと、ノックもなしに司令部のドアがバァン! と開かれ、息を切らした皇国兵が1人、駆け込んできた。
「ハァ、ハァ、た、大変です! て、敵が……敵兵が既に、皇宮内に!」
一瞬、ステァリンと幕僚たちの思考がストップした。
「な、何だと!!?」
ステァリンが叫んだ時、司令部に複数の人間が駆け込んできた。見慣れない服装をし、両手に黒いものを構えている。
「動くな! 我々はロデニウス連合王国軍だ!
この部屋は我々が占領した! 全員両手を上げて、床に伏せろ! さもないと、鉛弾ぶちこむぞ!」
駆け込んできたうちの1人が叫び、もう1人が天井に黒いものを向けた。その途端、ダダダダダダダ!と連続音が響き、天井に幾つもの穴が開く。
(まさか、銃か!?
両手で持ち、しかも連続発射できる銃とは……!)
床に伏せながら、ステァリンは衝撃を受けていた。その後頭部に銃が突き付けられる。
部屋にいたパーパルディア軍の人員全員を床に伏せさせたことと、棚などの中に誰も隠れていないことを確認し、分隊長が"あきつ丸"に報告する。
「こちら第5分隊。敵司令部の制圧を完了したであります!」
その頃、
「ここだな」
第1・第2・第3・第4分隊の面々が、とある部屋の一角に立っていた。
これまでの数日間に亘る隠密調査により、パールネウス皇宮の内部構造は全て筒抜けになっている。そして、皇族用の避難場所と、そこに通じる隠し扉の位置さえも筒抜けになっていた。
第1分隊長のハンドサインを受けて、1人が壁にHC-4爆薬をセットする。そして妖精たちがそこから離れると、第1分隊長が起爆スイッチを押した。
ドォン!
鋭い爆発音と共に、壁に穴が開く。その向こう側に、地下へ続く階段が隠されていた。
「突入!」
第2分隊の面々が、ライト付きのMP40を構えて突入する。他の面々がその後を追う。
しばらく地下通路を進むと、木製の扉にぶつかった。
1人がライトで扉を照らし、1人がスタングレネードのピンを抜く。そして扉を少しだけ開けると、スタングレネードを投げ込んで素早く扉を閉めた。
扉の向こう側でバァァン! と鋭い音が弾け、戸板の隙間から光が漏れる。それが収まったタイミングで、全員が扉の中に突入した。
扉の中では、何人かの男女が両手で目を覆うようにして倒れている。子供から大人まで、年齢はバラバラだ。
妖精たちは、それらの人間に片っ端から手錠をかけていく。全員に手錠をかけ、部屋も隅から隅まで確認して、壁板も床も残らず叩いて隠し扉の有無を確認したところで、第1分隊長の妖精が報告を行った。
「こちら第1分隊。作戦通り、パーパルディアの皇族を全員捕らえることに成功した!」
報告を受けた堺は、すぐさま次の命令を出した。
「了解、最終段階に入る。
皇族の方々を、パーパルディア軍の司令部までお連れしろ。そして、皇軍司令官の名でパーパルディア軍の全兵士に戦闘を停止させ、降伏を促すんだ。抵抗を続けるようなら、射殺して構わない。とにかく、パーパルディア軍に戦闘を停止させるんだ。それに合わせて、こちらも攻撃を停止せよ」
「はっ」
伝令係の妖精にそう命じると、堺はノウの元に報告に向かった。
「ノウ司令。我が軍は敵の司令部を抑え、皇族の方々を捕らえることに成功したと連絡が入りました」
「おう、そうか!」
野戦用の椅子に座って指揮を執っていたノウが、報告を受けて立ち上がる。
「これ以上の戦闘は、無駄死にを増やすだけです。我が軍の兵士たちに、戦闘の停止を命じて下さい。向こうにも戦闘停止の手続きを取らせます」
「そうか、分かった。
堺殿、ここまで長かったですな」
「ええ。しかし今、戦闘そのものは終わりました。ここからは、これまた面倒な戦後処理の時間です」
「うむ。卿には色々と助けられた、本当にありがとう。これからもよろしく頼むぞ!」
「いえいえこちらこそ。最後まで気を抜かずにやっていきましょう」
「うむ!」
ノウとの会話を終えると、堺は遠くパールネウスを見遣った。
パールネウスは、あちこちから濛々と黒煙を噴き上げ、まだ遠く銃声や爆発音が聞こえてくる。しかし、その量は先ほどまでよりも確実に減っていた。
「
不意に、堺の口から呟きが漏れる。
「
かつて学校で習った「平家物語」の最初の一節を思い出しながら、堺は呟く。
「世界が変わっても、こいつは真理なのかねぇ……」
遠く、センコの煙のように立ち上る黒煙を眺めて、堺は別のことを考える。
(それにしても、まさか
自身が立てた作戦によって、パーパルディア皇国は完全敗戦に追い込まれたのだ。
いや、もうほぼ滅びたと言うべきであろう。今はまだ辛うじて国としての体裁を保っているパーパルディア皇国であるが、戦後処理の中で確実に滅ぼされるはずだ。事実上、堺が自身の手で滅ぼしたと言うべきである。
(……さて、とっとと面倒な戦後処理を済ませて、タウイタウイに帰らないと。作戦に参加した艦娘たちもそうだが、特に
もちろん、堺が言っているのは「カタストロフ作戦」のことである。戦艦「大和」によるエストシラントへの艦砲射撃によって、エストシラント市民が多数死んだ、と考えられるからだ。
(彼女には悪いことをしたな。帰ったら慰めてやらんと、彼女の心が壊れちまう)
堺がそんなことを考えていた頃、パールネウスにはステァリンの声が魔信によって響いていた。
「全ての軍兵士及び義勇隊の皆様は、直ちに戦闘を停止し、武装解除して降伏せよ。
ロデニウス連合王国軍は既に皇宮全域を占領し、皇族の皆様は一人残らず捕らえられた。これ以上の抵抗は無意味だ。
繰り返す、全ての軍兵士と義勇隊の皆様は、直ちに戦闘を停止し、武装解除して降伏せよ……」
時に、中央暦1640年6月13日 午前9時12分。
パーパルディア皇国の最後の砦パールネウス、陥落。そして、第三文明圏内外の主要国を巻き込んだ大戦争は終結した。
はい、これにてパールネウスは陥落。そしてついに、長きに亘った第三章も完結です。
次回から新章突入となります。しばらく戦後処理ですね。内政や外交のパート多めです…が、もしかするとドンパチがあるかもしれません。
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次回予告。
ついに終結した呂破戦争。国体護持、賠償金、技術獲得、領土拡大…さまざまな思惑が複雑に絡み合った講和会議が、パールネウスにて始まる…
次回「パールネウス講和会議(1)」