鎮守府が、異世界に召喚されました。これより、部隊を展開させます。   作:Red October

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さて、いよいよロデニウス連合王国から、パーパルディア皇国に対して要求が突き付けられる時が来ました。どんな要求なのかは、本編にお進みのうえご確認ください。

あと、今回独自設定が入っております。



070. パールネウス講和会議(3)

 中央暦1640年6月20日 午後1時、パーパルディア皇国「聖都」パールネウス。

 そこでは、最初はただの「列強 対 文明圏外国」の戦争としてスタートし、最終的に第三文明圏内外の主要国全てを巻き込む大戦争となった、「第三文明圏大戦」とでも呼称すべき戦争の講和会議が行われていた。

 午前から始められたこの会議では、既に領土の問題に関しては大方ケリが付いている。そして今、戦勝国の中でも中心国といえるロデニウス連合王国から、敗戦国たるパーパルディア皇国に対して、要求が突き付けられようとしていた。

 

「それではこれより、要求文書を読み上げます。

本件文書に記す通り、ロデニウス連合王国はパーパルディア皇国に対し、以下のことを要求する」

 

 起立して文書を読み上げているのは、長袖の白い軍服を着用した、30代にも届いていないような見た目の若い男。

 ロデニウス連合王国海軍第13艦隊司令官・堺 修一その人である。

 

(俺も、この要求の最終チェックをやらされたが……こんだけの要求を、果たして相手が呑むだろうか? まあ、呑まなければ今度こそ(せん)(めつ)(せん)になりそうだが……)

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 ここで、少しばかり時を(さかのぼ)る。

 まだ、パールネウス攻略戦がようやく始まったばかりの頃、中央暦1640年6月10日。所はロデニウス連合王国本土。

 既にエストシラントも陥落し、対パーパルディア戦争も最後の段階であり、しかも“自国の勝利は間違いない”ということで、ロデニウス連合王国上層部は早くも戦後のことを考え始めていた。より正確には、パーパルディア皇国に対して何を要求するかを。

 そこで、パーパルディア皇国に対する要求事項を考えるべく、国王カナタ1世を中心に、外務部のトップ・リンスイ卿、ロデニウス連合王国軍総司令官・ヤヴィン軍務卿、各軍大臣(陸軍大臣ハンキ、海軍大臣ノウカ、空軍大臣アルデバラン)、各州の州知事、その他各部の幹部クラスが集まって御前会議が開かれていた。

 

「パーパルディア皇国に対して要求する内容についてだが……皆はどう思う? 忌憚なく意見を述べて貰いたい」

 

 そう言ってカナタ1世が会議の開会を宣言すると、真っ先にリンスイが挙手し、意見を述べた。

 

「皆様は、1月にパーパルディア皇国から手交された要求文書について覚えておいででしょうか? その要求文書と、我が国がパーパルディア皇国に宣戦布告する際に突き付けた要求文書とを重ね合わせ、以下の要求をしたいと思います」

 

 そう言って、リンスイは複数の要求を並べた。

 

「なるほど…あれを転用するというのか」

「は。パーパルディア皇国がこれまで他国に対して散々やってきたことをそのまま投げ返す、という訳でございます」

 

 カナタ1世のコメントに、そう答えてリンスイが着席すると、続いて軍務卿ヤヴィンが立ち上がった。

 

「私を含めたロデニウス連合王国軍部からは、このような提案をしてはどうか? という提議がありまして、我々軍上層部は満場一致でこれを可決しました。

内容としましては、『パーパルディア皇国の軍備制限』であります。内容については、このように致しました」

 

 得意そうな笑みを浮かべながら、ヤヴィンは提案書を提出した。それに目を通したカナタ1世以下の面々が、苦笑いを浮かべる。

 

「これは……随分と削減するのだな」

「これは当然のことかと存じます、陛下。

これまでパーパルディア皇国は、自国の軍事力と技術力にモノを言わせて、周辺の各国を次々と征服していました。その()()である軍事力を減らすのは、我が国に対する反攻の意志を挫く上でも必要、と考えます」

「ふむ、なるほど……いや、待て。パーパルディアが新しい技術を開発し、それを軍事転用する可能性もあるのではないか?」

「もちろん、それも禁止です。パーパルディア皇国がこれを破れば、直ちに滅ぼしにかかるだけであります」

 

 ヤヴィン、容赦がない。

 

「だが、いくら何でもやりすぎではあるまいか? かなりの数の兵が軍をクビになる、と思うが」

「むしろそれが()()()です。“自衛のみ可能”な程度に、軍事力を抑え込むことを狙っておりますので」

 

 その他にも、経済部から「パーパルディア皇国を大東洋共栄圏に参加させるべきだ」という意見が寄せられた。名目上は「パーパルディア皇国の復興支援」である……が、真の目的は「パーパルディア皇国の監視」である。

 ロデニウス連合王国では、大東洋共栄圏に参加した各国には「共栄圏管理局」を設置することとしている。これは、大東洋共栄圏による情報交換や各種技術提供サービス、軍事教練支援といったサービスが適切に提供されているかの監視、各国の情勢の観察を目的とする役所である。

 これをパーパルディア皇国に設置すれば、皇国の監視ができる。そう考えての提案だった。

 また、財務部が「今回の戦争における各種の出費を、全てパーパルディア皇国持ちにする」という案を出した。そしてこれは、満場一致での賛成可決となった。

 いくら何でも、戦費を自腹にするという訳には行かない。何せロデニウス連合王国の歳入のうち、結構な額が戦費に取られているのだから。ならば、それを回収するには敗戦国に押し付ける方が良い。敗戦国が軍事力を蓄えるのを妨げる因子にもなるし。

 

 と、ここまで案が出揃ったところで、カナタ1世がどこか気の毒そうな表情で意見を述べ始めた。

 

「実は私も、こんな要求案を持っていたのだが……大丈夫だろうか?」

 

 そして提示された案に、出席者全員の目が点になった。

 

「えぇと……これは……良いのか?」

「た、確かに……向こうから殲滅戦を宣言してきた以上、こう考えることもできるが……」

 

 互いに顔を見合せ、ヒソヒソと小声で相談し合う出席者たち。

 

「容赦がないですな、陛下も……これでは、相手にしてみれば国体護持もへったくれもあったものではないでしょう」

 

 ヤヴィンも、呆れたような声を上げる。

 

「殲滅戦を宣言されていた以上、これくらいは妥当かもしれない。まあ、“国家としての形が残る”だけ、十分な温情だと思うが……」

 

 このカナタ1世の鶴の一声で、提案の可決が決定した。

 

「さて。パーパルディア皇国に対する要求は、これらにしたいと思うが……諸君の意見は?」

「いえ、私からは何もございません」

「私も、陛下に賛成致します」

 

 かくして、パーパルディア皇国に対する「戦勝国としての要求」が決まったのであった。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

(これを定めるには、恐らくカナタ陛下も含めた多くの人々が関わったはず。彼らの苦労に、そしてこの戦争で傷付き死んでいった多くの将兵に報いるためにも、絶対にこれらの要求を呑ませなければ……!)

 

 そう考えながら、堺は一つ一つ要求を読み上げる。

 

「一つ、パーパルディア皇国ないしそれに代わる国家は、国交を有する、またはこれから開設する全ての国家に対し、自国と対等の存在であると認め、治外法権その他の不平等条約を要求してはならない。また、既に不平等条約を認めさせている国家に対しては、これを完全に撤廃すること」

 

 のっけから意外な要求が飛び出してきたことで、各国の代表たちがざわつき始める。

 

「一つ、パーパルディア皇国ないしそれに代わる国家は、ロデニウス連合王国と国交を開設すると共に、大東洋共栄圏に参加すること。

 

一つ、パーパルディア皇国ないしそれに代わる国家の軍備について、以下の如く制限する。

まず陸軍は、歩兵25万人・騎兵5万人を上限とし、マスケット銃の配備は20万丁までとする。魔導砲及び大砲の配備は、これを一切認めない。

次に、海軍は海への出口が無くなり保有する理由が無くなったため、廃止とする。

次に、空軍はワイバーンロード100騎と、ワイバーンロードを産む親竜のみ配備を許可する。ワイバーンオーバーロードは、これを配備してはならない。

また国家監察軍は、これを廃止すること。

 

一つ、パーパルディア皇国ないしそれに代わる国家が新たな技術を開発する時は、ロデニウス連合王国の認可を得た上でこれを実施すること。また、新たに開発した技術の軍事転用は、これを禁止する。

 

一つ、パーパルディア皇国ないしそれに代わる国家は、ロデニウス連合王国の求めるところに応じて、農林業、水産業、鉱業、工業、魔導、軍事、その他あらゆる分野における全ての技術を開示すること。

 

一つ、パーパルディア皇国ないしそれに代わる国家は、元第3外務局職員カスト氏の身柄を、アルタラス王国に引き渡すこと。

 

一つ、パーパルディア皇国ないしそれに代わる国家は、ロデニウス連合王国に対し賠償金を支払うこと。請求額については、以下に定める通りである。

フェン王国における虐殺事件の犠牲者遺族に対する賠償金 100×100,000,000=10,000,000,000(100億)ロデン

戦費(軍艦の燃料弾薬費、戦死傷者年金その他) 合計15,000,000,000(150億)ロデン

総合計 25,000,000,000(250億)ロデン

なお、現金による支払ができない場合は、地下資源の採掘権をロデニウス連合王国に認める等の方法でも良い。為替レートについては、1ロデン=1パソで固定とする。支払期限は中央暦1690年12月31日とする。

 

一つ、パーパルディア皇国ないしそれに代わる国家は、中央暦1640年1月の戦闘でフェン王国に被害を与えたため、フェン王国に対して公式に謝罪し、賠償金を支払うこと。賠償金の総額は20,000,000,000(200億)パソであり、これを金に立て替えて支払うこととする。支払期限は中央暦1690年12月31日とする。

 

一つ、ロデニウス連合王国は、此度の戦争において発生した捕虜である6,857名のパーパルディア人を、パーパルディア皇国ないしそれに代わる国家に責任を持って返還する。パーパルディア皇国ないしそれに代わる国家は、これを受け入れること。

 

一つ、『パーパルディア皇国』という国号を廃止し、この国名を名乗ってはならない。

 

一つ、パーパルディア皇国皇族家は()()()()とする。

 

パーパルディア皇国ないしそれに代わる国家は、上記の項目全てを、神に誓って実行すること。

最後に、上記の要求全てを承諾できない場合、もしくは上記事項の内1つでも遵守する意志無しと認められた場合、我が国が然るべき措置を取ることを、留意願いたい。

 

 

我が国からパーパルディア皇国に対する要求は、以上です」

 

 言い終わった堺は、ゆっくりと腰を降ろした。

 各国代表たちのざわつきは、今やどよめきに変わっている。何しろ堂々と「パーパルディア皇国という国号の廃止」と「パーパルディア皇国皇族家の断絶」を要求したのだ。

 

(((え、えげつない……! 戦勝国、しかも相手から殲滅戦を宣言されていたとはいえ、ここまで要求するとは……!)))

 

 それが、各国代表たちが共通して思ったことだった。

 

「ちょ、ちょっとお待ちください!」

 

 そんな中、慌てて立ち上がった者がいる。パーパルディア皇国・皇軍総参謀長ステァリンだ。

 

「国号の廃止に、エストシラント公爵家の断絶ですと!? そんな条件は、とても受け入れられません!

何故そこまでする必要があるのですか!?」

 

 ステァリンの必死の叫びに、堺は事も無げに切り返した。

 

「これは異なことを。我々は、貴国の側から殲滅戦を宣言されたのですよ。殲滅戦を宣言するのであれば、こうなる覚悟もあったのでしょう?

それに本来であれば、貴国は()()()()()()、このような会議が開かれることすらもなかった筈です。然るに貴国は、国家としての形は残されているではないですか。殲滅戦を宣言した貴国には、国家としての形が残るというのは“十分な慈悲”に当たるでしょうし、そのような主張をする()()は無いと考えます。

それと、エストシラント公爵家……でしたか? それの断絶を要求した理由は、エストシラント公爵家が()()()()()()()()()()()()()()()()であるからです。我々にとっては、我々の皆殺しを宣言してくる()()()()()でしかありません。それを排除するのは()()()()()だと思いますが?」

 

 堺が言い返すと、ステァリンは何かを言おうとするかのように口をパクパクさせ、しかし何も言わなかった。いや、「言わなかった」のではなく、「言えなかった」のだろう。

 ちなみに、ステァリンの横に座るグリーゼ・フォン・エストシラントは、腕組みをし目を瞑って沈黙したままだ。

 

「し、しかし……国土を1パーセント未満にまで削られ、凄まじい額の賠償金まで要求され、その上皇族の断絶を要求するとは……」

「戦勝国として当然の権利を発動したまでです。それに、貴国もこれに類することを何度もやっていたと思うのですが?」

「皇族の断絶とは言いますが、皇族の方の中には幼いお方もいらっしゃいます。そのお方は……」

「幼子であろうと、例外は一切認めません」

 

 押し問答を重ねるも、全て堺に切って捨てられ、ついにステァリンは絶句した。

 

(((うわぁ……これは、ロデニウスだけは絶対に敵に回さないようにしよう……)))

 

 各国の代表たちの多くは、完全にドン引きである。

 その時、若干嗄れているが、よく響く太い声が上がった。これまで黙っていたグリーゼだ。

 

「1つ、お伺いしたい。エストシラントにいた他の皇族の方々は、どうなったのだ?」

 

 この質問には、堺が答えた。

 

「レミールにつきましては、こちらで身柄を確保しております。ルディアスや他の皇族の方については、我が軍によるエストシラント攻撃の際に死亡したことが確認されております。遺体の保存はできておりませんが、証拠として写真を残しておりますので、必要ならば後でお見せ致します」

「そうか……レミールについてはどうなるのだ?」

「まだはっきりとは方針が定まっておりませんが、まずは我が国の法律で裁くことになるでしょう。フェン王国において我が国の国民を100人殺害した、大量殺人の犯人として。その後、下された判決に従って刑に服することになると考えます」

 

 そこまで言った時、堺はふと、嫌な予感を抱いた。

 今のロデニウス連合王国において、最も理性的な判断ができると思われるのは自分だけ。そして、レミールと直接顔を合わせたのも自分だけである。

 ということは…裁判ともなれば、堺はレミールの弁護人をやらされる可能性がある。そうでなくとも、裁判における堺の役割は、かなり重要なものが充てられるだろう。

 

(これ、絶対に面倒臭いことになるやつだ……)

 

 堺は、気分が重くなるのを感じた。

 

「ふむ……承知した。

貴国が提示した要求については、今すぐには返事はできかねる。検討させていただきたいので、少し時間を頂戴したいが、よろしいか?」

 

 グリーゼのこの質問には、リンスイが答えた。

 

「我々は構いません。ですが、なるべくお早めにお願い致します」

「承知した。検討の時間をいただけること、感謝する」

 

 グリーゼは深々と頭を下げた。

 このロデニウス連合王国からの要求の提示を最後に、この日の講和会議は一旦終了となった。それと時を同じくして、パールネウス市街地における降伏を拒否したパーパルディア皇国皇軍兵士や一部の市民たちと、ロデニウス連合王国軍との戦闘も、パーパルディア皇国兵と市民たちの全滅によって決着が着いていた。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 その頃、中央世界(第一文明圏)列強 神聖ミリシアル帝国 帝都ルーンポリス。

 ミリシエント大陸南部に国土を有するこの国は、他の国とは隔絶した栄え方と、非常に高度な発展を遂げていることから、世界の人々は「世界の中心」と言う意味を込めて、この国が存在するミリシエント大陸一帯を「中央世界」と呼んでいる。神聖ミリシアル帝国は、自他共に認める“世界最強の国家”である。

 

 神聖ミリシアル帝国は、世界でも最も高度な魔導技術、巨大な国家形態を支える高度な政治体系、高い魔導技術に裏打ちされた物資の量産システム、それらを運営する「人間」を育てる優秀な学問体系などの要素が重なり合っており、強大な国力を持つに至っている。その国力の大きさは、他の文明国や文明圏外国はもちろん、パーパルディア皇国のような他の列強国ですら比較にならないほどである。

 こうした技術の高さの理由として、ミリシエント大陸のあちこちに残された「古の魔法帝国」ことラヴァーナル帝国の遺跡の存在が挙げられる。神聖ミリシアル帝国は、これらの遺跡やそこに残された遺品の数々を解析し、それを自国の技術に取り込んでいるのだ。そのため、他国に比して高い技術を持つのである。

 ただ、「古の魔法帝国の技術の解析&取り込み」というやり方は、良く言えば国の発展に役立っているのだが、悪く言えばただの()()()()()()である。しかも、古の魔法帝国の技術がミリシアルにとって“あまりに高度”であるため、「何故このような形になっているのか」が()()()()()()()コピーしている、という場合も多い。そのため、神聖ミリシアル帝国の技術、特に軍事技術は地球を基準にして考えると、(いびつ)な発展をしている。

 その最たる例が、神聖ミリシアル帝国空軍の主力戦闘機「エルペシオ2」であろう。この機体、ジェット機でありながら零戦未満の速度しか出せないのだ。それだけでも、どれほど歪な発展であるかが分かるだろう。

(ここで、「エルペシオ『2』? 『3』じゃなくて?」と思った方もいらっしゃるかもしれないが、現時点では「エルペシオ3」はまだテスト中である)

 

 そんな神聖ミリシアル帝国の首都である帝都ルーンポリスには、ミリシアル皇帝の住まうアルビオン城を始めとして、帝国政府の中枢がある。当然、外務省もある。

 その外務省の建物の一室にて、2人の男が向かい合って話をしていた。1人は、神聖ミリシアル帝国と各国との外交を担う外交官のトップたる「外務省統括官」リアージュ。もう1人は、帝国情報局局長アルネウスである。

 

「しかし、まさか第三文明圏唯一の列強・パーパルディア皇国が、完全敗北を喫するとはな……しかも相手は、()()()()()()だ。

何があったのやら……未だに信じられん」

 

 アルネウスが黙って聞き役に徹する中、リアージュは一息入れて話を続けた。

 

「パーパルディア皇国の軍は、我が国の優秀な魔導艦隊や陸軍を以てすれば、吹けば飛ぶような弱兵だ。しかしそれでも、第三文明圏の技術水準から見れば、第三文明圏の他の国とは一線を画する軍事力だった。

それが、文明圏外国の軍隊に完膚無きまでに叩き潰されるとはな……。ロデニウス連合王国…あの国にいったい何があったんだ?」

 

 リアージュが言い終えたところで、アルネウスはここが口の挟み所、とばかりに口を開いた。

 

「情報局では、ロデニウス連合王国について調査を行っていますが、何分にもかの国に行ったことがあるのが商人のみという状態ですので、情報収集の進展が捗々しくありません。

そこで、私としましては、ロデニウス連合王国に対する早期使節団の派遣を提案致します。情報を集めるにしても、まずは国交の開設からとするのが筋でありましょう」

 

 するとリアージュは、一つ溜め息を吐いた。

 

「アルネウス君。情報局長という君の立場を考えれば、ロデニウス連合王国の情報を集めたいという、君の気持ちは分かる。

だが、我が国は世界最強の国家、栄光ある神聖ミリシアル帝国だぞ? その我が国が、国交開設のため()()に、使節団の派遣を相手に打診するというのか? しかも、文明国ですらない国に?」

 

 どうやら、リアージュは“神聖ミリシアル帝国の面子”を気にしているようだ。

 しかし、アルネウスにはその程度は予想済みであった。そこでアルネウスは、用意してきた別の案を提示することにした。

 

「リアージュ様。今後、ロデニウス連合王国は第三文明圏に対して大きな影響を与えることは間違いないと思われます。パーパルディア皇国のように……。そうなれば、もはや“列強”と言っても差し支えはないでしょう。

それに、ロデニウス連合王国は『大東洋共栄圏』という共同体を主宰して、大東洋周辺とフィルアデス大陸の沿岸部に国土を持つ国家を次々と引き込み、パーパルディア皇国のそれより優れていると思われる自国の技術を、分け与えているとか。これが第三文明圏に与える影響は、計り知れません。いや、大東洋共栄圏が第三文明圏に成り代わる可能性すら、否定できません。

そこで提案なのですが、我が国が主催している『先進11ヶ国会議』にロデニウス連合王国を呼ぶ、というのは如何でしょうか? パールネウスで行われている講和会議の内容次第ではありますが、パーパルディア皇国はおそらく列強失格となるでしょう。そこで、パーパルディア皇国の代わりにロデニウス連合王国を呼ぶ、という訳でございます。

そして、“先進11ヶ国会議に向けて準備すべき事柄の指導”という名目の下、国交樹立の目的も含めて使節団をロデニウスに派遣するのです。これならば如何でしょうか?」

「ふむ……」

 

 アルネウスの提案を聞いて、リアージュは顎に手を当てて考え込んだ。ややあって、リアージュは口を開く。

 

「なるほど。それならば、ペクラス外務大臣殿や外交官の連中、議員の皆様も納得するかもしれん。

外務省の方で検討してみよう。行けそうなら、議員の連中に根回しをしてみる」

「よろしくお願い致します」

 

 アルネウスはリアージュに、深々と頭を下げた。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 そして、ロデニウス連合王国本土の北東沖34㎞に浮かぶ、タウイタウイ島。

 この島に築かれたロデニウス海軍第13艦隊の拠点にして、ロデニウス海軍最大の拠点・タウイタウイ泊地では、今日も艦娘たちや妖精たちが演習や訓練に励んでいる。

 そんなタウイタウイ泊地を歩く、異様な一団があった。拳銃で武装した、物々しい雰囲気を醸し出す数人の女性たち。それに囲まれて歩く、ツインテールにした銀髪とよく日焼けした肌が目立つ大柄の女性が1人と、手錠をかけられた色白の、ロングの銀髪が目立つ細身の女性が1人。

 日焼け肌の大柄の女性は、艤装の改装工事中のため暇を持てあましている"()(さし)"、そして手錠をかけられた女性はレミールである。

 

 何をしているのかと言うと、彼女らはレミールに「現実」を見せようとしているのだ。

 この戦争において、パーパルディア皇国には勝ち目などなかったのだという()()を。

 

 波止場に到着した一行の前には、泊地防衛艦隊の主力を担う戦艦のうちの1隻、クイーン・エリザベス級戦艦「ウォースパイト」が停泊していた。地球では第一次世界大戦の頃に建造された、超弩級戦艦の1隻だ。(こん)(ごう)型戦艦と同世代レベルのバb……失礼、おばあt……でもない、オールドレディであるが、その強さは戦列艦とは比較にならないし、ムー国の「ラ・カサミ級戦艦」でも勝負にならない。それほどの強さを持つ戦艦である。

 その隣に、帆船が1隻停泊していた。ただし、マストをへし折られているため、パッと見は帆船に見えない。そして、舷側には多数の大砲が並べられている。

 それを見て、レミールは目を丸くした。

 

「あれは……我が国のフィシャヌス級!?」

 

 レミールがつい呟いた言葉に、"武蔵"が頷いた。

 

「あの帆船……シラントという名前だそうだな。アンタのいた国じゃあ最新鋭の軍艦だったようだが、我々にとっては()()()()()()()()でしかない。要するに、パーパルディア皇国に勝ち目なぞなかったんだよ」

「何でフィシャヌス級がここにある!?」

「1月のフェン王国での戦いの時に、我が軍に降伏した艦だ。あの艦以外の艦艇は、全て海底に消えていったと聞いているぞ。なお、その時の我が軍の被害はゼロだ。力の差は歴然だな」

 

 そう、停泊していた帆船は、中央暦1640年1月28日にフェン王国沖にて生起した「第二次フェン沖海戦」において、唯一ロデニウス連合王国海軍に降伏したフィシャヌス級100門級戦列艦「シラント」だった。降伏した後、()()されてこのタウイタウイ泊地まで曳航されていたのである。

 その「シラント」だが、舷側の装甲板の一部が剥ぎ取られ、木材が剥き出しにされている。更に、大砲(魔導砲のこと)が何門か無くなっていた。これは、ロデニウス海軍の造船技術者たちや魔導士たち、及び第13艦隊のマッドエンジニア共によって「研究のため」として剥ぎ取られたものである。

 

「で、隣のあの艦は?」

 

 レミールは、ウォースパイトを指差した。

 

「そっちは我が軍の()()()()()の戦艦だ。古いといっても、全長196メートル・全幅27メートル・排水量3万2千トン・速力23ノット・主砲として38㎝連装砲を4基装備した、強力な戦艦だ。ムーの『ラ・カサミ級戦艦』が相手でも、勝てる。当然、貴国の戦列艦が相手なら、()()()圧勝だ。要するに、貴国の海軍に勝ち目などなかったのだよ」

 

 そう話す"武蔵"の口調には、勝ち誇ったものがある。

 その時、

 

キュラキュラキュラ……

 

 轟音を上げて、彼女らの後ろを通過するものがあった。それは、家を思わせるサンドイエローの巨体に、貫徹力の高い88ミリ砲を装備した怪物……もとい、Ⅵ号戦車「ティーガーⅠ」である。

 

「これは?」

「戦車という、車の一種だ。最大100ミリの装甲を有し、口径88ミリの砲を装備している。この間、貴国のあの戦列艦から分捕った大砲で射撃試験をしてみたが、装甲が凹みすらしなかったぞ」

 

 レミールはもはや絶句するしかない。

 フィシャヌス級戦列艦を()()で仕留められる戦艦に、戦列艦の魔導砲ですら破壊できない車。まさに化け物である。道理で、ロデニウス連合王国が勝つ訳である。

 

(我が国は……とんでもない相手に喧嘩を売っていたのだな……)

 

 レミールは、現実を思い知らされるのだった。

 

 

 その頃、泊地の工廠の一室では、「マッドエンジニア」の1人である"(くし)()"が、書類の束を前にして考えこんでいた。

 

「うーん……無線機の仕組みはすんなり解読できたけど、暗号はそうはいかないわね……」

 

 彼女は呟く。

 そう、彼女は堺から「エストシラント市街地で拾ったポータブルの無線機」と暗号書らしき書類を渡され、それらの解読を命じられたのだ。そして、ちょうど暇を持てあましていた彼女は、それを二つ返事で引き受けたのである。

 しかし、メカには強い彼女も、外国語の解読は難しかった。

 

「外国語はどうも苦手なのよね……何かヒントでもあれば良いんだけど……」

 

 ぶつぶつと呟く彼女。その時、部屋のドアがノックされた。

 

「はーい」

 

 彼女が返事をすると、扉が開いて4人の少女たちが幾つもの箱を持って入ってきた。いずれも背丈は低く、着用している服がセーラー服であるせいもあって、中学生にしか見えない。だがもちろん、彼女たちも艦娘である。

 

「釧路さん。頼まれてた資源、持ってきたわよ!」

 

 少女たちのリーダー的ポジションにある艦娘…特Ⅲ型駆逐艦のネームシップ艦娘"(あかつき)"が、(物理的に)低い胸を張る。その後ろには、"Βерный(ヴェールヌイ)"、"(いかずち)"、"(いなずま)"が並んでいる。

 そう、第六駆逐隊の面々であった。

 

「あ、ありがとう! ところで……」

 

 あまり当てにはできないと思いつつも、一つ試してみようと考え、"釧路"は4人にあるものを見せる。

 

「これ、読めそう?」

 

 "釧路"が見せたのは、無線機に描いてあった何かの企業のロゴマークと思しき文字列だった。

 

「うーん……ごめんなさい、全然分かんないわ」

「はわわ、全然見たことない文字なのです」

 

 "雷"と"電"は即座にギブアップした。

 

「一人前のレディーにも、これは分からないわ……」

 

 残念ながら"暁"もギブアップである。

 

(ま、しょーがないかな。頑張って自力で解読しないと……)

 

 "釧路"がそう思った、その時だった!

 

「……カ、ル、ス、ラ、イン?」

 

 意外なところから、声が上がった。

 

「え!?」

 

 "釧路"は慌てて、声の主…"Βерный"に話しかける。

 

「ヴェールヌイちゃん、これ読めるの!?」

「いや、読めるって訳じゃないけど、何だかロシア語に似てるな、って……」

 

 何たる偶然だろうか。

 

「だったら、これは読めそう!?」

 

 降って沸いたチャンスを無駄にすまいと、"釧路"は"Βерный"に書類を渡した。

 

「んー……」

 

 "Βерный"は書類に目を落とす。ややあって、彼女は顔を上げるとこう言った。

 

「完全なロシア語って訳じゃない。けど、ロシア語だと仮定すれば、読めなくはないよ」

 

(キタ━(゚∀゚)━!!!!!)

 

 "釧路"は即決した。

 

「よし! ヴェールヌイちゃんお願い。これ、全部読んできて!

もちろん、タダでとは言わないわ。全部読んでくれたら、()(みや)(よう)(かん)4本あげる!」

「乗った」

 

 "Βерный"はグッと右手の親指を上げた。




はい、今回の独自設定は、「グラ・バルカス帝国の言語ロシア語に似ている」というものでした。
意外なところから、解読のヒントを発見した"釧路"。グ帝の暗号が破られるのも時間の問題か…?


総合評価が、5,300ポイントを超えた、だと…!?
本当にありがとうございます!!感無量です!!

評価6をくださいました化けチャン様
評価8をくださいました武力ロボ様
評価9をくださいました鳥、、、様、波音四季様、IT.exe様、X兵隊元帥(曹長)様、exe.hf様
ありがとうございます!!
また、新たにお気に入り登録してくださいました皆様、ありがとうございます!


次回予告。

ロデニウス連合王国から伝えられた要求。それに対し、パーパルディア皇国の皇族をはじめとする上層部が下した決断とは…?
そして、ロデニウス本国を含め、世界各地で新たな動きが…
次回「パールネウス講和会議(4)」

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