鎮守府が、異世界に召喚されました。これより、部隊を展開させます。 作:Red October
そして、とある大陸にて何やら不穏な動きが…
中央暦1640年6月20日 午後8時、パーパルディア皇国「聖都」パールネウス皇宮。
講和会議1日目が終了し、各国の代表者たちは夕食を済ませ、それぞれに割り当てられた部屋に移動し休憩している。そのうち、ロデニウス連合王国の代表に割り当てられた部屋では、ロデニウス連合王国の代表たちが話し合っていた。
「初日としては、まあまあよかったのではないか?」
講和会議の議長を務めている外務卿リンスイが、いかにも一仕事やり切った、というような満足げな笑みを浮かべて言う。
「ええ。我が国からの要求は、しっかりと先方に伝えましたから」
ロデニウス全権大使の1人ヤゴウも、大きく頷く。とここで、もう1人のロデニウス全権大使メツサルが疑問を呈した。
「あれ、そういえば堺殿はどちらに? 彼にも尽力してもらったのだし、礼を言いたかったのだが」
「彼は軍の仕事があるのでな。既に軍の本陣に移動して、軍事の事後処理に当たっている」
リンスイが、メツサルの疑問に答えた。
「そうでしたか……というか、彼は忙しすぎるのでは?」
「ああ。だから以前、彼に釘を刺されたよ。“できれば、もう二度とこんな外交の面倒事には巻き込まないで欲しい”と」
実際、堺の仕事は忙しすぎるだろう。軍の参謀長として進軍ルートを設定したり、作戦立案・軍規管理等の仕事に加えて、補給管理、パールネウスの治安維持、自身の率いる第13艦隊と母艦航空隊の損耗の把握、艦娘たちのメンタルケア、果ては嫁との夜戦(意味深)に至るまで、全てが彼の仕事なのだから。これに加えて外交まで任されたのでは、彼の心身が保たない。
「まあ、止むを得ませんな。彼は、我が国でも段違いに優れた力を持つ軍人です。軍事方面で、その力を発揮していただかなければ」
「しかしそうなると、“彼のような考え方ができる外交官”を育てるのが、我が国の外務部にとっては急務ですね。我が国には、彼のような外交官が……特に“列強国が相手でも物怖じしない外交官”が少なすぎる」
メツサルとヤゴウが話しているのを聞いて、リンスイも自国の外交官の育成を急がなければならないことを強く感じていた。
今のロデニウス連合王国外務部には、列強国相手にも堂々と外交ができるような人材が少なすぎる、というより「いない」に等しい。
しかもロデニウス連合王国は、これまで世界五列強の一角を占めていたパーパルディア皇国を、
そういった場合に備えて、列強国相手にも堂々としていられる外交官を、早期に育成する必要がある。
「ヤゴウの言う通りだ。我が国には、列強相手でも物怖じしない外交官がいない。これを早く育成することが、外務部にとっての急務だ。急いで取りかからなければ」
リンスイは意見を述べた。
「不幸中の幸いにして、堺殿がパーパルディア皇国との外交交渉の様子を撮影し、映像記録として残してくれている。それを教材に使おう。
列強相手でも外交ができる人材は、そう簡単に育つものではない。そんな中にあって、映像による教材があるのはありがたいことだ」
今回のパーパルディア皇国との遣り合いの中で、リンスイは改めて優秀な外交官を育てなければならない、と感じていた。
一方、ロデニウス連合王国軍本陣では、南方軍集団の指揮を執っていたモッツァラ・ノウ将軍と、東方軍集団を率いていたクワルク・サムダ将軍が、ちょっとした祝杯を上げていた。祝杯といっても、“保存食の干し肉をつまみにビール1本のみ”なので、本当に細やかなものである。
「サムダ殿、此度はお疲れ様でした。デュロ制圧後、速やかにパールネウスまで進軍してきた手腕、お見事です」
「ああ、いやいや。あれは、トーパ王国軍コラー中隊の皆さんのおかげでもあるのですよ。元々猟師だった方が多いらしくて、適切な進撃ルートをその場で設定するのが上手いんです。戦闘においても、我々でも舌を巻くような見事な技量がありまして。特に1人、夜間に100メートル先の敵兵の頭部を一発で撃ち抜くような方がいまして……」
「夜間に!? いや、そりゃ凄いな。我々にも、そんなことができる兵士がいるかどうか……」
「ええ、是非見習いたいものです。ノウ将軍こそ、40万もの大軍を統率してエストシラントからパールネウスまでいらっしゃった手腕、お見事でした。大変でしたでしょう、これだけの大軍を統率するのは」
「ああ。特に軍規の管理には苦労したよ」
ノウは、ビールを瓶からラッパ飲みして話を続けた。
「第13軍団の兵士たちと憲兵隊には、感謝してもし切れん。彼らが『パーパルディア皇国民に対して虐殺・略奪・監禁・強姦その他あらゆる犯罪行為を働いた者は、事実確認が取れ次第、即刻銃殺刑とする』と周知徹底してくれなかったら、我が軍は“パーパルディア皇国軍と何ら変わらない乱暴な軍隊”と見做されるところだった」
「ええ。戦場では古今東西、勝利した側の国家の兵士が、敗戦国の国民に略奪やら強姦やらやりたい放題やるのが常識でしたからね。
ですが、“真に列強たらんとするもの、自国の軍の軍規はきちんと管理し、如何なる戦場にあっても無関係の民間人に対する暴行は一切慎む”。それができてこそ、“真の文明国にして列強たるに相応しい国の軍隊のあるべき姿”です」
「おお!」
ノウは思わず、パチパチと手を叩いた。
「サムダ殿、格好いいことを言うではないか!」
するとサムダは、頭を掻きながら一言付け加えた。
「いえ、これ“堺殿の受け売り”なんですよね……」
折角の格好良さが台無しであった。
で、その堺は第13艦隊によるフィルアデス大陸周辺の哨戒シフト編成、第13軍団の管理等に忙殺され、祝杯どころではなくなっていた。
そして、パーパルディア皇宮の建物のうち、皇族と一部上層部のみが使用を許されている建物の一角。
こちらでは、パーパルディア皇国の皇族たち、即ちエストシラント公爵家の者たちと、皇軍総参謀長ステァリンを始めとする上層部生き残りの面々が会合を行っていた。
会合の議題は、本日の講和会議において内定されかけている領土についての報告と、各国から伝えられた要求の整理。だが、会合はかなり紛糾していた。
まず、パーパルディア皇国に残される領土からして大問題である。というのも、パーパルディア皇国に残される領土は、旧パールネウス共和国領の僅か10パーセントにも満たないからだ。そんなほんの少しの領土に、1,500万人ものパーパルディア人を住まわせることは、困難という言葉が生温く感じられるほどの苛烈さだ。
しかも、旧パールネウス共和国領で農業用地として使われていた土地は極めて少ない。その雀の涙ほどの土地で獲れる作物では、1,500万の胃袋を満たすのは到底無理だ。
そしてこれまで驕り、列強国はともかくその他の国に対して、決して譲ることのなかったパーパルディア皇国が、こんな屈辱的な内容を受け入れるのは、パーパルディア人のプライドの高さから考えても、とても難しかったのだった。
また、各国からの要求の方も領土に負けず劣らず大問題である。
属領の一斉独立の承認が行われれば、パーパルディア皇国は国家を支える第一次産業と第二次産業の中心を失ってしまう。つまり、政府としては税収が極端に落ちてしまい、やっていけるかどうかも怪しくなる。
また、奴隷の解放についても問題だった。奴隷解放を認めれば、奴隷を中心労働力としているパーパルディア皇国の第一次・第二次産業は、余計に立ち行かなくなるからだ。
更に、「皇国が保有する全ての技術の開示」と「技術の新開発は、ロデニウス連合王国の承認を得てからにすること」という要求は、『指定供与制限技術目録』を完全に無視した要求であり、軍備制限を呑めば多くの軍の兵士が職を失うことになる。しかも、これまで失業者に「職を与え」ていた属領統治機構も壊滅状態のため、失業者の増加はパーパルディア皇国にとって更なる打撃になり得る。ただでさえ皇国の経済の中心だったエストシラントが壊滅し、莫大な額の賠償金を課せられかけているというのに。
そして最大の問題となったのは、ロデニウス連合王国からの要求に連ねられた「パーパルディア皇国という国号の廃止」と「エストシラント公爵家の断絶」だった。
国体護持すらも認めない、という強硬な要求。しかも、ロデニウス側は「呑まなければ然るべき措置を取る」とはっきり通告していた。その「然るべき措置」の内容は、想像に難くない。もしパーパルディア皇国がこの要求を呑まなければ、今度こそロデニウス側から
パーパルディア皇国人のプライドから考えれば、絶対に受け入れられない要求内容。しかし、拒否すれば今度こそパーパルディア皇国は滅ぼされるだろう。
という訳で、会合では出席者たちが「受け入れる」派と「受け入れない」派の真っ二つに分かれ、激論を戦わせていたのである。
「受け入れる」派はステァリンを中心として理性的な判断ができる面々が顔を揃え、一方の「受け入れない」派は皇族たちが中心となっていた。それはそうだろう、要求を受け入れてしまえば皇族たちは処刑を免れないのだから。皇族たちにとっては死活問題である。
「こんな要求はとても受け入れられない! 我々は栄光あるパーパルディア皇国、その皇族だぞ! 行く行くは世界を統べる国家となるのだ! こんなところで殺されて堪るか!」
20代半ばくらいのまだ若い皇族…実はルディアスの弟である…が強硬に主張する。
「何を仰るのですか! 受け入れなければ、我々は今度こそロデニウス連合王国軍によって皆殺しにされるのですよ! そうなれば、エストシラント公爵家も何もあったものではありません!」
ステァリンが、真っ向からそれに反論する。
「そんなことを言って、どうせ貴様らが生き残りたいだけだろうが!」
「落ち着きなさい! 貴方だけの問題ではないのですよ!」
会合は完全に過熱していた。
頭に血が昇っている若手男性皇族たちは、皇族教育として学んだ『帝王学』の内容に基づいて、“世界を統べるべきパーパルディア皇国の皇族が、こんな屈辱的な内容の要求には従えるものではない”と主張した。それに対し、皇族の中でもまだ理性的な判断ができる者、あるいは皇族と血の繋がりのない上層部メンバーは、「自らの保身」というところも考慮しながら、“パーパルディア皇国という存在を完全に絶やす訳にはいかない。それならば、皇族が犠牲になってでも子孫に種を残すべきだ”と力説する。
双方一歩も譲らず、議論が平行線を辿る中、皇族の中でも最年長の男性、グリーゼ・フォン・エストシラントは、どちらの肩を持つでもなく必死に考えていた。
正直言って、グリーゼ自身はもう十分生きたと思っていた。また、皇位継承権争いに敗れて皇帝にこそなれなかったが、だからこそ各外務局や属領統治機構の様子等を見て回って、国家としてのパーパルディア皇国の限界にも気付いていた。グリーゼにしてみれば、「来るべきものが来た」というだけの認識しかなかったのである。
そしてグリーゼは、口に出してこそいなかったものの、胸の内では「皇族を犠牲にして国を救うべきである」という結論に達していた。この要求を呑めば、確かに今のパーパルディア皇国は滅ぶ。だが、“子孫に希望を繋げること”はできる。皇族の感情だけで、国はおろか子孫の種まで滅ぼすようなことは、避けなければならないだろう……
発言のタイミングを見計らっていたグリーゼは、「受け入れない」派の中心となっている皇族の若い男性たちが激昂しかけたタイミングで、「双方静まれ!」と一喝した。そして注目を集めたところで、話し始める。
「今は皇族がどうのと言っている場合ではない。パーパルディア皇国の国難なのだ。そんな時に、感情論を語っている余裕はない。
この国に生きる人々の子々孫々のためにも、
実を言うとの、儂は皇国の現状に限界を感じていたんじゃ。皇位継承争いに敗れはしたが、そのおかげで、もっと広い視点から物を見ることができた。その結果、帝王学で習うようなことと皇国の現状とが、あまりにもずれていることに気付いたのじゃ。自国を発展させるには、恐怖という方法では駄目だ、ということにものぅ。
儂にとっては、此度の敗戦は来るべきものが来た、としか思えん。遅かれ早かれ、何らかの形で皇国には限界が来ていたはずじゃ。それが今だった、というだけじゃの。
ならば、『儂らのなすべきこと』は、“子孫の安寧のために自らの命を使うこと”じゃ。それが、儂らが“これまでやってきたことの罪を償う”最大の方法でもある。
感情で動いてはならん、今は理性的に考えて行動するのじゃ。良いかの」
言い終わったグリーゼが改めて周囲を見渡すと、皇族の若い男性たちは皆、男泣きに泣いていた。実のところ、彼らも分かっていたのだ。国家存続の危機を回避し、何の罪もない多くの国民を守るには、自分たちの命を犠牲にするしかないということを。
「では、各国の要求、特にロデニウス連合王国からの要求は全て受け入れる。これでよろしいかの?」
グリーゼの確認の問いに、反対する者はいなかった。
その後、数日間にわたる調整の話し合いを経て、6月25日、ついにパールネウス講和条約が定められた。その内容は、以下の通りである。
1. パーパルディア皇国ないしそれに代わる国家は、73ヶ国の属領、及び属国の全ての独立を承認すること。また、これに合わせてこれまで属領及び属国とされていた国家に対し、非道な行いの全てについて公式に謝罪すること。
2. パーパルディア皇国ないしそれに代わる国家は、全ての奴隷に対して公式に謝罪を行い、彼らを彼らの祖国に帰還させること。その際の旅費及び旅路の安全は、パーパルディア皇国ないしそれに代わる国家がこれを保証すること。
3. パーパルディア皇国ないしそれに代わる国家は、国交を有する、または今後国交を開設する全ての国家を、自国と対等の存在として尊重し、治外法権その他の不平等条約を要求してはならない。また、既に不平等条約を締結している国家に対しては、これを撤廃すること。
4. パーパルディア皇国ないしそれに代わる国家の領土は、パールネウス市を中心として半径100㎞の円内のみとする。
5. 上記項目に伴い、エストシラント市は永世中立地帯とする。
6. パーパルディア皇国ないしそれに代わる国家の軍備について、以下の通りに制限する。
第一項 陸軍の兵力は歩兵25万人・騎兵5万人までとし、マスケット銃の配備は25万丁までとする。魔導砲はパールネウスの防衛目的でのみ配備を認める。歩兵が携行可能な野戦用魔導砲、及び大砲については配備を認めない。
第二項 海軍については、パーパルディア皇国ないしそれに代わる国家と海岸線との接点がなくなったため、これを廃止する。
第三項 空軍は、ワイバーンロード200騎と、ワイバーンロードを産む親竜のみ配備を認める。ワイバーンオーバーロード及び飛行機械は、これを配備してはならない。
第四項 魔導士を始めとする魔術師は、5万人まで配属を認める。
第五項 国家監察軍は、これを廃止する。
7. パーパルディア皇国ないしそれに代わる国家は、農林水産業、工業、鉱業、魔導、軍事、その他あらゆる分野における技術を、第三文明圏内外各国の求めるところに応じて開示すること。
8. パーパルディア皇国ないしそれに代わる国家が、産業分野の種類を問わず新たな技術を開発する時は、ロデニウス連合王国の認可を得た上でこれを実施すること。また、新たに開発した技術の軍事転用は、これを禁止する。
9. パーパルディア皇国ないしそれに代わる国家は、ロデニウス連合王国と国交を開設すると共に、大東洋共栄圏に参加すること。
10. パーパルディア皇国ないしそれに代わる国家は、元第3外務局職員カスト氏の身柄を、アルタラス王国に引き渡すこと。
11. パーパルディア皇国ないしそれに代わる国家は、ロデニウス連合王国に対し賠償金25,000,000,000ロデンを現金で支払うこと。なお、現金による支払ができない場合は、地下資源の採掘権をロデニウス連合王国に認める等の方法でも良い。この場合、採掘はロデニウス連合王国主導で行う。為替レートについては、1パソ=1ロデンで固定とする。支払期限は中央暦1690年12月31日とする。
12. パーパルディア皇国ないしそれに代わる国家は、中央暦1640年1月の戦闘に於いてフェン王国に対し被害を与えたため、フェン王国に対して公式に謝罪し、賠償金を支払うこと。支払総額は20,000,000,000パソとし、これを金に立て替えて支払うこととする。支払期限は中央暦1690年12月31日とする。
13. ロデニウス連合王国は、本件戦争において発生したパーパルディア皇国人捕虜6,857名の身柄を、責任を持ってパーパルディア皇国ないしそれに代わる国家に返還する。パーパルディア皇国ないしそれに代わる国家は、これを承認すること。
14. 「パーパルディア皇国」という国号を廃止し、以後この国名を名乗ってはならない。
15. 中央暦1640年6月30日を以て、エストシラント公爵家は断絶処分とする。ただしレミール・フォン・エストシラントはその限りでなく、中央暦1640年1月のフェン王国におけるロデニウス人虐殺事件の主犯として、ロデニウス連合王国本土に於いて裁判にかけられ、その後同裁判にて決定された刑罰に服するものとする。
パーパルディア皇国ないしそれに代わる国家は、上記の項目全てを神に誓って実行すること。
最後に、上記の項目全てを承諾できない場合、もしくは本講和条約発効後に上記項目の1つでも遵守する意志なしとロデニウス連合王国政府が認めた場合、ロデニウス連合王国はパーパルディア皇国ないしそれに代わる国家に対し、然るべき措置を取る。パーパルディア皇国ないしそれに代わる国家は、これを承知すること。
この講和条約はパールネウス皇宮にて手交され、3日後からの発効が決められた。
これにより、第三文明圏全体を巻き込んだ大戦争……ムー国呼称「第三文明圏大戦」は、名実共に終結。パーパルディア皇国は完全に敗北した、と認められた。
この講和条約が「世界のニュース」にて発表された時、世界の人々は驚きを以てこれを迎え、パーパルディア皇国
この条約が発効した後、ロデニウス連合王国軍は順次撤収にかかった。その指揮を執るため、堺はまたも多忙な日々を過ごす羽目になった。
しかし堺は、「本土に戻った時に、全艦娘が揃って楽しめるように」と、タウイタウイ泊地にいる"
そして、ロデニウス連合王国最大の新聞「
『確かに、我が国の軍は“強い”と証明された。あのパーパルディア皇国軍を打ち破ったのだから。しかし、我々は“軍事力の使い方”を誤ってはならない。我々の軍事力は、“平和を守るためにのみ使う”べきであって、他国の侵略に用いてはならないのだ。
とある先人が、こんな言葉を残している。「百年兵を養いたるは、ただ平和を守るためである」と。我々は、この偉大な先人の言葉に
我々が願うものは、“大東洋共栄圏・第三文明圏及びその周辺の秩序の維持と安寧”、そして何よりも「平和」である。しかし、平和を守るためには、“相応の軍事力”が必要である。“自国民や周辺国を十分に守り抜けるだけの力”が必要なのだ。
我々の軍事力は、その“平和を乱す者が現れた場合”にのみ、“平和を守るためだけに行使されるべき”なのだ。決して他国の侵略に用いてはならない。それでは「パーパルディア皇国の二の舞」でしかない。
世界の平和を願うが故に、どこよりも強大な軍事力を持つ。賢明なる国民諸君がこのロジックを理解してくれることを、弊社社員一同は心から願うばかりである。
(文責:ソロモン)』
また、カストは直ちにアルタラス王国にその身柄を移送され、ルミエス女王の意向により“とんでもない刑”に処せられた。
なんと、王都ル・ブリアスの中央広場のど真ん中に檻に入れられて放置され、その檻の横にはアルタラス王国がパーパルディア皇国に蹂躙される経緯を記した立て札が立てられた。そして立て札の末尾には「国民が彼を好きにして良い」と書かれ、その結果、彼は復讐に燃えるアルタラス人たちによって、数日間かけて嬲り殺しにされたのである。
そして中央暦1640年6月30日、グリーゼを含むエストシラント公爵家の面々は、毒の入ったワインを仰いで自決。エストシラント公爵家は途絶えた。
また同時に「パーパルディア皇国」という国号が廃止され、「新生パールネウス共和国」という国号に変更。パーパルディア皇国は、共和制国家として再出発したのだった。
またこの日を境に、第三文明圏内外各国は新生パールネウス共和国に対して、各種技術の開示を要求し始めた。
まずロデニウス連合王国が、対魔弾鉄鋼式装甲に使われる防御魔法についての技術とワイバーンロードの作成方法、そして竜母の設計図を見せることを要求した。戦闘機を始めとした飛行機械があるロデニウス連合王国軍に、ワイバーンロードなぞ不要に思えるかもしれないが、“ロデニウスが文明国入りした”というアピールや空軍の戦力増強のため、ワイバーンロードの技術を要求せざるを得なかったのである。また、竜母についてはあくまで設計図を見るだけで、船そのものの建造方法までは要求しなかった。これは、各国が使っているような木造帆船型の竜母ではなく、第13艦隊の空母を参考にした半機械式竜母の建造を狙っていたため、“竜母の設計思想”を見ておくに留めたのである。
この他に主立ったものとしては、パンドーラ大魔法公国が各種の魔法技術を要求した。第三文明圏随一の魔導技術を持ち、それを生かしてロデニウス連合王国と付き合っていこう、というメルデ学連長の思惑があったためである(パンドーラは、パーパルディア皇国に宣戦布告すると同時に、パーパルディアの言いなりになっていた前学連長を追放し、反パーパルディア派の筆頭だったメルデ次長を次期学連長にしたのである)。
マール王国は主に建築に関する技術を要求した。この機に建築技術をより優れたものにし、ちょうど計画されている王都拡張計画に生かそうとしたのである。
最も大量の技術を要求したのがリーム王国で、歩兵が携行可能な野戦用魔導砲やら装甲戦列艦やら竜母やら炸裂式砲弾を発射可能な魔導砲の製造技術、リントヴルムやワイバーンロード・ワイバーンオーバーロードの育成法、マスケット銃の製造方法を始めとする“軍事関連の技術”をパーパルディア皇国から得ていた。そればかりか、リーム王国は特に規定がなかったのをいいことに、旧パーパルディアの技術者を何人も自国に連行したのである。このニュースを聞き付けたロデニウス連合王国は、新生パールネウス共和国と共に外交ルートでリーム王国に抗議しつつ、「要注意国家」としてリーム王国をマークし始めたのだった。
エストシラント公爵家が断絶したその日、皇軍の魔信技術士パイは、戦闘の爪痕が生々しく残るパールネウス陸軍基地で職務に勤しんでいた。
ちなみに職務とは、軍の事務処理である。パイの専門である通信とは全く異なるが、人手が足りない以上仕方ない。
パールネウス陸軍基地は、特に外縁部がロデニウス連合王国軍の直接砲撃に晒されたため、激しく破損した箇所が多い。また、飛行場は急降下爆撃(主にルーデル隊のせい)によって大穴が幾つも開けられ、ワイバーンの離発着は到底不可能な状態だ。それらの埋め戻しは、まだ終わっていない。
「ロデニウス連合王国、か……とんでもない国と戦争をしたものね。
今の皇国は、多額の賠償金を課せられ、領土は削られ、軍備も制限されて、かつての姿は見る影もない……でも、皇国は再出発し……また繁栄する!」
パイは、パールネウス共和国の再興を夢見ていた。
その時、部屋のドアを開けて軍服を着た男性が入ってくる。
「すまんが、このデータを書類にまとめて貰えるか」
「はい、いいですよ! シルガイアさん」
パイはその男性から書類を受け取る。
そう、その男性こそ、かつてエストシラント海軍本部で臨時掃除夫をしていたシルガイアである。あのエストシラント空襲の後、パーパルディア皇国軍は将官クラスの幹部を含む多数の兵士を失ったため、退役軍人に召集をかけていた。シルガイアもそれに従い、パールネウス陸軍基地に配属されていたのだが、あの戦いを辛くも生き延びていたのである。
◆◇◆◇◆◇◆◇
その頃、いずことも知れぬ場所にある、とある険しい山。
名前もないその山の頂上付近に、蠢く一つの影があった。
その影は、パッと見は“ヒト族の男性”……に見えるが、決してヒト族などではあり得ない。その影の背中に生えた“一対の翼”が、そのことを如実に物語っていた。
「ちぃ、下等生物共めが……無駄に高度な結界なんぞ作りおって。面倒ったらない……だが、あと少し、あと少しで……」
ぶつぶつと何事かを呟きながら、そいつは作業を続けている。
そいつは、ヒト族……の亜種に当たる「有翼人」であった。見てくれは文字通り、“背中に翼の生えた人間”である。ただし翼は左右で色が異なり、片方は白、片方は黒であった。
こいつの名は、ダクシルド・ブランマール。南方の文明圏外世界にある巨大な大陸「ブランシェル大陸」を一極支配している大国、「アニュンリール皇国」の役人である。
「よし、これで……」
ダクシルドが呟いたその時、彼の周囲に大量の土煙が舞った。土煙は次第に渦を巻き始め、竜巻のような形となる。その中から、黒い光が溢れ出してきた。
「上手くいったか。次は……」
ダクシルドは、傍らに置かれた“妙な機械のようなもの”を操作した。そして、その機械から一本だけ突き出た棒状のもの……現代日本に生きる我々が見たら、CDラジカセのアンテナにも見えるそれを、渦に向ける。
渦が収まった時、そこには生物とも思えぬ異様なモノが鎮座していた。
身長は3.5メートルほど。身体形状は人間に似るが、全身に黒い体毛が生え、頭部に角が生えたその姿は、どう見ても人間ではない。
「ようやく復活したか……魔王ノスグーラよ」
ダクシルドは、封印が解除されて復活したそいつ……魔王ノスグーラに話しかける。
魔王ノスグーラ。それは、古の魔法帝国……もといラヴァーナル帝国が作り出した“生物兵器”である。その役目は、「古の魔法帝国が復活した後もこの世界を支配するため、この世界の住人を、魔法帝国にとって無力な存在のままにしておく」ことである。
「……忌々しい下等生物の勇者共め、我をこんな結界なぞに封印しおって……」
復活したノスグーラの第一声がこれである。
ノスグーラは、かつて「勇者パーティー」と呼ばれるこの世界の住人たちが派遣した精鋭討伐隊と戦い、敗れて封印されていたのだ。その結界は、時間の経過と共に緩んできており、それを破ったのがダクシルドだったのだ。
「……ん? お前は誰だ」
ノスグーラに問われ、ダクシルドは胸を張った。
「聞け、ノスグーラよ。我が名はダクシルド。貴様は、この我が復活させたのだ。
我はお前の創造神たる、古の魔法帝国に住まう種族……光翼人の末裔ぞ。我に忠誠を誓え」
実は、ダクシルドも含めたアニュンリール皇国の種族は、全て有翼人である。そして、この有翼人というのは、古の魔法帝国ことラヴァーナル帝国に住まう種族であった「光翼人」の血を引く種族なのである。
ダクシルドのこの言葉に対し、魔王ノスグーラは、最初は泡を食ったように黙りこんだ。だが、それも一瞬のこと。
「クク……フフフ、ハーッハッハッハッハ!!」
ノスグーラは、人をバカにしたような高笑いをした。
「なっ!?」
忠誠を誓われるか、感謝されこそすれ、笑われるなどとは微塵も思っていなかったダクシルドは狼狽する。
ノスグーラはひとしきり笑った後、
「その辺の
ダクシルドを一蹴した。
「何だと?」
「貴様が、魔帝様の末裔だと? 光翼人種様の? “その程度の魔力”でか? フン、片腹痛いわ!
確かに、その辺の連中と比べれば魔力は高いようだが、魔帝様の人々の魔力に比べれば足元にも及ばん! それに、翼も実体化しているではないか。
教えてやろう。光翼人様の翼はな、“光でできている”のだ。一見すると鳥などが有する翼に似ているが、中身は違う。光翼人様が魔法を行使する時、“溢れる魔力の奔流”が背中から迸り、それが光を放って翼のように見えるのだ。故に“光翼人”と呼ばれるのだよ。そして、光翼人で翼が実体化するのはな、“死に際の老人”だけだ。
貴様のその翼……どうやら魔力が弱体化しすぎたらしいな。“光翼人様の血が薄くなりすぎた”のだろう。
もし魔帝様が復活なされたら、こう仰るだろう。『貴様たちのような、魔力が薄くなりすぎた者たちは、その辺の下種と変わりない』とな。
我を復活させたこと、そして光翼人様の血が1パーセントでも混じっていることに免じて、“貴様の無礼”は許してやろう。さあ、我の気が変わらぬうちに、とっとと立ち去るがよい」
「なっ……」
絶句したが、ダクシルドに選択の余地はなかった。
山を降りながら、ダクシルドは考えていた。
(くそっ……感謝されるならともかく、あんなに罵倒してくるとは……! 魔帝様の直系の子孫たる有翼人の、この俺を……! しかも、魔族制御装置も全く歯が立たなかった……)
実は、ダクシルドがここに来た目的の一つは「新開発された、魔族制御装置の効果測定実験のため」であった。その魔族制御装置こそ、さっきダクシルドの隣に置かれていた、アンテナらしき機構を有する妙な機械である。
それが、魔王ノスグーラに通用するかどうか、試してみたのだが…全くといっていいほど通用しなかった。
(くそ……くそっ、ちくしょうめぇぇぇぇっ!)
ダクシルドのプライドは、ズタズタにされていた。
はい、グラメウス大陸にて魔王ノスグーラが復活。トーパ王国への侵攻フラグが立ちました。
そしてパーパルディア皇国は形式的には滅亡。「新生パールネウス共和国」としての再出発と相成りました。
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本当にありがとうございます!!
評価6をくださいましたデジタル放浪者様、大魔王パエリア最強厨様
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評価9をくださいましたkasaphkkk様
評価10をくださいましたmomotaro様、Manaita様
ありがとうございます!!
また、新たにお気に入り登録してくださいました皆様、ありがとうございます!
次回予告。
名実ともに終結した対パーパルディア戦争。フィルアデス大陸を順次撤収したロデニウス連合王国陸軍・海軍の各部隊は、本土へと帰還する。そこで彼らを待っていたのは、勝利の歓呼に沸く国民だった…
次回「凱旋する部隊」