鎮守府が、異世界に召喚されました。これより、部隊を展開させます。   作:Red October

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はい、お待たせいたしました! 慰労パーティ、開催です!

前話の時点で、何やら不穏なモノの用意がされていましたが、その正体は…



073. 慰労パーティ、そして……

 中央暦1640年7月18日 午前11時55分、ロデニウス連合王国 タウイタウイ島。

 タウイタウイ泊地の講堂には、多数のテーブルがテーブルクロスをかけて並べられ、その上にはクリスマスもびっくりの大量のご馳走が乗っている。クリスマスではないので流石にターキーの丸焼きはないが、ライスコロッケ、ソーセージ、ハンバーガー、ローストビーフ、ボルシチ、ターキーサラダサンドイッチ、そしてアイスクリームやシュトーレンを始めとするスイーツ類と、豊富な種類が揃っている。

 そう、パーパルディア皇国との戦争の勝利を記念しての、ロデニウス海軍第13艦隊独自の慰労パーティが開会されようとしているのだ。

 出席する艦娘たちと妖精たちは、既に講堂に集合を完了しており、コップに入れたコカ◯ーラ("Iowa(アイオワ)"からの技術提供による。なお、一部艦娘は炭酸が苦手であるため、オレンジジュースで代替)を手にしている。ちなみに妖精たちのうち、アルタラス島のルバイル基地から出撃してエストシラント空襲に参加した者たちは、全員が黄色の錨のような飾りの付いた黒地のシャツと長ズボンを着用していた。"大和(やまと)"、"(あか)()"そして"(くし)()"の手になるものらしいが、いったいどうやってこれだけの数を用意したのだろうか……?

 演壇中央には、海軍第2種軍装に当たる白い軍服を着用した堺が立ち、その脇に特別ゲストとして招待されたムー国観戦武官一行が控えている。堺による開会宣言が出されるのを、一同は今か今かと待っていた。

 12時ジャスト、堺がマイクを手にして口を開く。

 

「総員、傾注!

この度、我々はパーパルディア皇国との戦争を大勝利に終わらせることができた。これも全て、私の命に従ってよく戦ってくれた諸君のお陰だ。祝宴に入る前に、2、3言いたいことがあるので、楽しむのは少しだけ待って貰いたい。

まずは悲しい知らせだ。デュロを攻撃した際、一式陸上攻撃機1機がパーパルディア軍の対空砲で撃墜され、搭乗員全員の戦死が確認された。実に悲しむべきことだ。そこで、この開会宣言が終わり次第、1分間の(もく)(とう)を以て彼らの冥福を祈りたいと思う。

続いて2つめ、今回の祝宴にはゲストの方が4人、遥か西方のムーという国から来て下さっている。国家の代表として我が国を訪問して下さっている方々だ、敬意を表して積極的に交流するように! あと、彼らのうち3人は軍人であり、我が国の軍事技術や戦術を学びに来ていらっしゃる。色々と聞かれることもあると思うが、禁則事項に触れない程度の情報交換は大いに結構だ。禁則事項にだけは気を付けて貰いたい。

では、ムーの皆様、自己紹介をお願い致します」

 

 堺からマイクを手渡され、一番最初に口を開いたのはマイラスだった。

 

「ご紹介に預かりました、ムー国から参りましたマイラス・ルクレールと申します。軍の技術士官で、ここにはロデニウス連合王国の、そして日本国の優れた技術を学びに来ています。

我々がこちらに滞在できる期間もあと僅かですが、学べることは精一杯学んで国に帰りたいと思っておりますので、今日はよろしくお願い致します!」

 

 マイラスが自己紹介を終えると、居並ぶ艦娘たちや妖精たちが一斉に拍手を行った。もちろん堺も拍手している。

 以下、ムーの観戦武官一同は次々と自己紹介を行っていった。

 

「ムー国から参りました、観戦武官のリアス・アキリーズです。マイラス先輩とは、軍の士官学校以来の間柄です。私の専門は造船関係で、非常に巨大な軍艦を建造できる貴国の造船技術にはとても興味があります。今日はよろしくお願い致します!」

「ムー国の観戦武官、ラッサン・デヴリンと申します。海軍の戦術士官で、砲術を専門にしています。貴国のレーダーという電子機器を使った射撃方法と、弾着観測射撃術に大きな関心を寄せております。色々と学ばせていただきたいと思います故、よろしくお願いします!」

「ムー国から参りました、アイリーン・グレンジャーと申します。私は軍人ではなく、ムー国外務省から派遣されました文化調査官です。特に貴国のスイーツに興味があります。今日はお招きいただきありがとうございます、よろしくお願いします!」

 

 4人が順番に自己紹介を行っている間、堺はマイラスの視線が妙に行ったり来たりしているのに気付いた。まるで何かを探しているようだ。

 

(?)

 

 疑問に思った堺がマイラスの視線を見ていると、あちこち動いていたマイラスの視線が“ある一点”でぴたりと止まった。そして、マイラスの表情が少し緩んだのを、堺は見逃さなかった。

 堺は素早くマイラスの視線の先をたどり……彼が()()見ているのか理解した。そして、そっとニヤニヤ笑いを噛み殺す。

 

(なるほどね。もしや、うちの"(はる)()"に惚れ込んだか? マイラス殿)

 

 そう。マイラスの視線の先にいたのは、()()()ムーを訪問した戦艦娘"榛名"である。提督の皆様ならご存知であろうが、"榛名"はかなりの美人であるし、提督に尽くしてくるタイプの艦娘である。そのため、“榛名スキーの提督”は多いであろう。

 

(まあ、マイラス殿もあの年だしな。気持ちは分かるぜ)

 

 などと堺が考えているうちに、ムー国観戦武官一同の自己紹介が終わった。アイリーンからマイクを返却され、堺は再び口を開く。

 

「えー、ムーの観戦武官の皆様、自己紹介ありがとうございました。

最後に1つ、俺から言わせて貰いたい。本当に、お疲れ様だった! 以上だ」

 

 相変わらず、“2秒スピーチ”ぶりが遺憾なく発揮されている。というか今の場合、堺が口を開いた時間は1秒もないかもしれない。

 

「それでは、戦死した基地航空隊搭乗員妖精たちの冥福を祈り、今から1分間の黙祷を捧げる。黙祷!」

 

 堺も、戦闘報告書には目を通している。それによれば、「一式陸上攻撃機」はデュロから放たれた“対空機銃によるものと見られる小口径弾の攻撃”を受け、右主翼エンジンに被弾。結果、エンジンを破壊され、主翼インテグラルタンクの燃料に引火して、火だるまになりながらデュロ市街地に落ちていった、という。

 死を避けられぬと悟った搭乗員妖精たち、その心境は如何ばかりだっただろうか……

 

「黙祷終わり!」

 

 1分後、堺は号令をかけた。

 

「さて諸君、お待たせした。ここからは、お楽しみの時間だ。全員、コップを持て! ムーの皆様も、お飲み物の準備はよろしいですか?」

 

 堺が振り返ると、ちょうど"大和"がムーの観戦武官一同にドリンクを渡しているところだった。

 

「よし。では諸君、パーパルディア皇国との戦争の勝利を祝して、乾杯!

「「「かんぱーい!」」」

 

 堺の音頭に合わせて、全員が手にしたコップを上へと突き上げた。そして、◯ーラをぐいっと一気に飲み干す。

 

「無礼講だ! 節度を守りつつ、大いに楽しめ!」

 

 堺のその号令と共に、慰労パーティはスタートした。

 

 

「何だ、これは……?」

 

 ラッサンが目を付けたのは、皿に盛り付けられたパンだった。()()()()()()なのだが…そこに、チョコレートのようにも見える“黒っぽいジャムらしきもの”が塗ってある。

 

「初めて見るな、こんなの……ちょっと試してみるか……」

 

 何の気なしにラッサンはその食パンを取り、口に運ぼうとした。そこへ、何とか"Saratoga(サラトガ)"の攻撃を(かわ)し、ターキーサラダサンドで轟沈する運命を回避した堺がやってきて、目を見開く。

 

「ラッサン殿! いけません、それは……!」

 

 時既に遅く、ラッサンは食パンを()(しゃく)した後だった。

 と、ラッサンの顔が見る間にしかめられ、顔色がどんどん悪くなっていく。

 

「いかん! ラッサン殿、これを!」

 

 堺はとっさに、持っていたラムネをラッサンに渡した。()()()()を感じて、慌ててラムネを飲むラッサン。

 

「ちくしょう、誰だ!? マーマイトなんぞ用意しやがったのは!?」

 

 思わず叫んだが、堺は犯人が誰であるか分かっていた。

 マーマイトといえば、発祥の地はイギリスだ。そしてタウイタウイ泊地に所属するイギリス艦娘は、1人しかいない。

 

("Warspite(ウォースパイト)"、貴様だな……! 1週間の紅茶禁止令に処してやる……! まあ、これがサルミアッキやシュールストレミングでなかっただけ、()()()()か)

 

 犯人に確信を持った堺の隣で、ラッサンはまだ青い顔をしていた。

 

「大丈夫ですか、ラッサン殿?」

「え、ええ、何とか。助かりました……」

「申し訳ない、うちの艦娘の1人がロクでもないものを用意していたようです。お口直しを」

「は、はい」

 

 メシマズ国家が産み出した産物の1つ、マーマイト。うっかりそれを口にし、危うく()()()()()ラッサンであった。

 

 

「えぇ……何これ……」

 

 テーブルに並べられた数々のケーキを見て、絶句するアイリーン。

 いや、ケーキの形がおかしいのではない。問題はケーキの「色」と「大きさ」である。()()()なカップケーキや()()サイズのケーキ、果ては毒々しさすら感じる()()()()()()()ケーキ。

 アイリーンの知るケーキとは、あまりにもかけ離れた色合いと大きさである。

 

「これ、本当にケーキなの……?」

 

 もちろんケーキである。ただし、()()()()()()

 そう、"Iowa"渾身の作品であった。

 

「……あ! これはもしかして揚げパン?」

 

 そんな中、アイリーンが目を留めたのは茶色い球体状の食べ物である。パッと見ると揚げパンかサーターアンダギー(沖縄のドーナツ)に見える、茶色い球体。

 

(~♪)

 

 アイリーンは、素早くその茶色い球体を手に取り、咀嚼して……卒倒しかかったところを"()()"に助けられた。

 

「大丈夫?」

「え、ええ、何とか……」

 

 何とか意識を取り戻したアイリーンは、心の中で悲鳴を上げた。

 

(まさか、パンじゃなくて()()()だったなんて……!)

 

 そう、アイリーンが口にしてしまったのは、米国が産んだ()()()()()としか思えない食品、「揚げバター」であった。文字通り、“バターを油で揚げる”という、日本人からすると“何をトチ狂ったのか?”としか思えないゲテモノ食品である。当然、カロリー量は推して知るべし。

 地球由来のゲテモノ食品の犠牲者第2号となったアイリーンであった。もちろん第1号は、うっかりマーマイトを食べてしまったラッサンである。

 

 

 その一方。

 

「これは……うん、なかなかいけるね!」

「はわわ、気に入ってくれたみたいでよかったのです」

 

 リアスが、人生初のボルシチを食していた。もちろんこれは、"Βерный(ヴェールヌイ)"と第六駆逐隊の面々の力作である。

 

「これって、何が入ってるんだい?」

「トマトとタマネギ、それに牛肉、ニンジン、キャベツよ。この赤いスープはトマト汁の色もあるけど、ビートっていう野菜の汁の色が濃いのよ!」

「へぇー。これ、ムーにも導入できないかな?」

「うーん、“ビートを栽培できるか”が問題になるんじゃない?」

 

 第六駆逐隊の"(いなずま)"、"(あかつき)"、"(いかずち)"とボルシチ談義に耽るリアスであった。ちなみに、"Βерный"は所用で席を外している。

 

 

「ん?」

 

 ラッサンの命を救った後、会場の様子見を兼ねて、あちこちのテーブルから摘み食いしながら会場を回っていた堺は、異様なものを見た。それは、テーブルの陰に隠れるようにしてしゃがみ、何かを見ている3人の艦娘である。

 

「お前ら何やってんだ?」

「しっ、静かに。司令もこちらにしゃがんでください」

 

 堺の問いかけに、しゃがんでいた3人のうちの1人、"()(えい)"が慌てて「しーっ」というジェスチャーをして見せる。その横で"(きり)(しま)"が堺にしゃがむよう頼んだ。堺は言われるがまま、テーブルの陰にしゃがむ。

 

「いったいどうした?」

「アレを見てくだサイ」

「あれ? ……あー、なるほどね」

 

 "(こん)(ごう)"に言われた堺は、彼女が指差した方向を見て…全てを悟った。

 視線の先にいたのは、ピッツァを片手に談笑する"榛名"とマイラス。定めし旧交を温めている、といったところだろう。

 

「まさか、榛名に春到来ですカ?」

「"はる"な、だけに?」

「司令、ギャグが寒いです……今ので3度くらい気温が下がりましたよ」

「大して変わらねーじゃん」

 

 姉妹愛の強い金剛型姉妹のことである、妹の色恋沙汰は格好のスキャンダルなのだろう。

 

(ま、どうなるかはのんびり見物させていただくことにしよう)

 

 既にケッコン済の堺、高みの見物である。

 その時、スピーカーから"大和"の声が流れ出した。

 

『あ、あ、マイクテスト、マイクテスト。皆様、お待たせ致しました。慰労パーティをさらに盛り上げるために用意しておりました特別企画、【艦娘有志によるコンサート】をここに開催致します!』

「む、何だと? こんな企画を考えてたのか、大和は?」

 

 放送を聞いた堺が呟く。

 

『では、ここからは泊地広報課のトップである私、(あお)()がアナウンスを務めさせていただきます!

最初のプログラムは、おっと、これは珍しい組み合わせですね! (あか)()さんと(しょう)(かく)さんによる、「暁の水平線に」です!』

 

 アナウンスの声が、"大和"から"青葉"に切り替わる。

 降ろされていた幕がさっと開けられると、演壇は既に即席のステージに改装されており、マイクを手にした"赤城"と"翔鶴"がスタンバイしていた。

 

「あ、マイラスさん、すみません。少し所用がありますので、失礼してもよろしいですか?」

「ええ、構いませんよ」

 

 放送が流れた途端、"榛名"も移動し始める。

 

「さて、私たちも行くデース!」

「「はい、お姉様!」」

 

 "金剛"、"比叡"、"霧島"までもが動き出した。

 

「ん、お前らも何か歌うのか?」

「Yes! 私たちの活躍、見せてあげるネー!」

 

 堺にサムズアップで答えつつ、3人はそそくさとステージ脇に姿を消した。

 

「あいつら、いったい何を……ああ、あれか」

 

 ちょうど"(なが)()"が貼り出したプログラムを見て、堺は呟いた。そこには、こう書かれていたのだ。

 

『コンサートプログラム

1. 暁の水平線に(赤城・翔鶴)

2. カチューシャ(Βерный・吹雪(ふぶき))

3. 華の二水戦((せん)(だい)(じん)(つう)()())

4. 進め!金剛型高速戦艦姉妹(金剛・比叡・榛名・霧島)

(中間休憩)

5. ()()岬(加賀)

6. 鎮守府の朝(暁・Βерный・雷・電)

7. 恋の2-4-11(那珂・バックダンサー川内・神通)』

 

 その頃、ムーの観戦武官マイラス、リアス、ラッサンは、ステージに登場した"赤城"と"翔鶴"を見ながら会話をしていた。

 

「ここにいる女性たちって、全員『艦娘』なのか?」

「全員じゃないけど、大概はそうらしいな。だとしたら、この“日本国の艦隊()()”で戦力規模は最低でも数個艦隊分、最大だと“一国家の全艦隊を超える位の数”があるぞ」

「しかもそれが全部艦娘なんでしょう? ハーレムにしか見えないっすね」

 

 爆弾を放り込んだリアスに、マイラスとラッサンが揃って首を横に振る。

 

「いやいや、それはないだろ。ここを束ねてるのは、()()堺殿だぞ? “仕事上の同僚ないし部下”ということはあっても、()()ということはないだろ」

「だな、俺もそう思う」

「そうですかー……でも、これだけ美人ばっかりで誰にも手を出さないとか、堺殿が“(ぼく)(ねん)(じん)”という可能性も……」

「「うぐっ……」」

 

 リアスの指摘に言葉を詰まらせる2人。そして陰ながら思いっ切りディスられる堺。

 でもまあ確かに、愛人はいませんが、妻カッコカリ(カッコガチ?)ならいるんですよね、これが……これを知った時、彼らはどんな反応をするだろうか。

 

 

「「♪Βыходила на берег Κатюша, Ηа высокий берег на крутой♪」」

 

 プログラムが進み、舞台ではコスプレ衣装を着用した"Βерный"と"吹雪"が歌っている。何のコスプレ衣装かはお察しください。なお"Βерный"が金髪の方、"吹雪"が黒髪の方である。特に"吹雪"は「声帯にいる妖精さん」繋がりであった。

 先ほど"Βерный"が席を外していたのは、このコスプレ衣装を着て出演の準備をするためである。

 ちなみに、2人が歌っている時に、背後のスクリーンに“何輌ものT-34中戦車と1輌のKV-2、1輌のIS-2が雪煙を立てながらひた走る映像”が流れていたことをここに付記しておく。

 

((りゅう)(ちょう)なロシア語だな……流石2人)

 

 などと堺が考えていると、後ろから肩を叩く者があった。堺が振り返ると、移動工廠艦娘の"釧路"がそっと耳打ちしてくる。

 

「大和さんと()(さし)さんが、提督をお呼びです。少し手伝って欲しいことがあるので、講堂の舞台裏までおいでください、と」

「舞台裏? ……了解」

 

 何事だろうか。ステージに飾る大道具の輸送手伝いのような、力仕事だろうか?

 訝しみながらも、堺はそっと会場を抜け出すと、舞台裏へと足を伸ばした。

 で、"釧路"はというと、

 

(まさか、ロシア語に堪能らしい方がもう1人いたとは……あの“謎の文書”の解読が(はかど)るかもしれませんね!)

 

 謎の文書、つまりグラ・バルカス帝国語の文書解読ができそうな艦娘がもう1人いたことに気付いて、ほくそ笑んでいた。

 

 

 さらにプログラムが進み、川内型軽巡洋艦娘3人の歌が佳境に入った頃には、マイラスがそわそわし始めていた。

 

「マイラス先輩、何であんなそわそわしてるんですかね?」

「さあ? 誰かの出演でも待っているように見えるが……」

 

 ひそひそと話し合うリアスとラッサン。アイリーンはというと、ドイツ艦娘たちとスイーツ談義で盛り上がっている。ついでに"Graf(グラーフ) Zeppelin(ツェッペリン)"にバウムクーヘンとザッハトルテをご馳走になっていた。

 そうこうするうちに、プログラムが4番へと進んでいく。……ここで察しの良い皆様は、もうお気付きになりましたね? そう、4番といえば……

 

「なるほど……“そういうこと”ですか。そういえば、記録では“我が国を最初に訪れた艦娘の方”は、榛名殿でしたね。マイラス先輩、その時に案内したんでしたっけ?」

「ああ。で、あの表情ってことは……惚れてんな、ありゃ」

「間違いないっすね」

 

 ステージで歌う"榛名"を見詰めるマイラスの(ほう)け顔を見て、リアスとラッサンは確信していた。

 

 

 さて、マイラスが"榛名"に骨抜きになっている一方、裏方では、

 

「離せ! はーなーせったら! ちくしょう、何でこんなことしなきゃなんねえんだ!? 俺は着ねえぞ!」

 

 何があったのか、床に押さえ付けられた堺が、じたばたと抵抗していた。

 

「うるさいぞ、相棒よ! これはもう決まったことだ。諦めて受け入れろ!」

 

 その堺を上から押さえ付けているのが、日焼けしたような褐色の肌と目立つ銀髪を持つ大柄の艦娘、大和型戦艦2番艦の艦娘"武蔵"である。女子に組み伏せられるとか、()()()にとってはロマンを感じたりするかもしれないが、堺にはそれどころではない。

 その"武蔵"だが、服装がいつも着ている服とは異なる。普段は“サラシの上から黒い衣装を羽織っているだけ”なのだが、今は“黒い長袖の上着”をきっちりと着こなし、さらに下もミニスカートではなく“白の長ズボン”を履いている。そして頭の上には“白い提督帽”が載っていた。

 そう、彼女は、既に“例のコスプレ衣装のうちの一組”を着用しているのだ。

 

「こんな結末、認められるかよー! いいから離しやがれ!」

 

 なおも堺は抵抗しているが、()()勝負になっていない。というのは、"武蔵"は機関出力15万馬力のうち少しだけ…正確には“100馬力位の力”を出して堺を押さえているからだ。

 ()()100馬力でも、人間の筋力とは出力が桁違いなのである。堺が敵う筈がない。

 

「諦めろ! それが貴様の運命だ、相棒よ!」

「んなこと言ったって……! 大和! テメーもグルか!」

 

 押さえ付けられたまま、堺は恨めしげな視線を"大和"に向ける。ついっ、と視線を逸らす"大和"。完全に黒である。

 なお、既に"大和"もコスプレ衣装を着用していた。ただしその衣装が、“黄色を基調とした黒い錨らしきマークを入れたボディースーツ”であるので、見た目がもう()()()()()になっている。

 

「提督。残念ですが、諦めてください」

 

 感情が抜けたように冷たい"大和"の声に、堺は全てを悟った。

 

「ちくしょうめー!」

 

 なおも抵抗するも、力及ばず。

 かくて大和型2人、合わせて30万馬力のパワーにより、堺は無理矢理コスプレ衣装に着替えさせられてしまった…

 

 前半のプログラムが終了し、5分ほどの休憩に入っている間に、リアスとラッサンは各々が艦娘たちと親交を深めていた。

 どうやらリアスは、比較的「小さい」子たち……そう、駆逐艦の艦娘たちが好みらしい。こらそこ! ロリコンとか言わない!

 一方のラッサンは、戦艦娘たちによく話しかけていた。どうやら“弾着観測射撃術”のことを聞き出そうとしているようだ。今しも彼は、"()()"と"日向(ひゅうが)"に弾着観測射撃について教えを乞うている。そのついでとばかりに、"日向"に「(ずい)(うん)教」に勧誘されていた。

 マイラスは……もはや“語るまでもない”だろう。そしてアイリーンは、米国艦娘たちとも交流していたのだが、“スイーツに関する彼女たちの感性”に戸惑っていた。

 

 

『さてさて、休憩が終わりまして、いよいよ後半のプログラムに入ります! 後半プログラムの最初は、加賀さんの独唱で「加賀岬」……って、ややっ?』

 

 さっとカーテンが開かれたステージを見て、"青葉"が戸惑いの声を上げた。ステージがすっかり様変わりしていたのである。それも、“おかしな感じ”に。

 「加賀岬」はどちらかというと演歌風の雰囲気の曲であるから、浜辺の絵が登場したりしていれば、"青葉"のアナウンスもおかしくならなかったかもしれない。だが、ステージにあったのは、整然と並んだ多数の機械らしき大道具であり、天井には巨大な斜めスクリーンがかかっていたのだ。見るからに“どこかの戦艦の艦橋”とでもいうべき飾り付けであり、決して演歌風の雰囲気ではない。

 

『これはいったいどういうことでしょう? 何故ステージがこんなことに`…』

 

 他の艦娘たちやムーの一行も、ステージに注目する。

 

『おや、何か曲が聞こえてきましたね』

 

 確かにステージには、フルートやクラリネット等の木管楽器、ハープやバイオリン等の弦楽器辺りが生み出すような響きを持つ曲が流れ出している。

 "青葉"のアナウンスが一区切り付くと同時に、ステージに1人の艦娘が姿を現した。“例のコスプレ衣装”を身に付けた"大和"である。

 

『やや、大和さん? でも確か、大和さんの出演プログラムなんて……』

 

 "青葉"のアナウンスを遮るように、"大和"は高い声で歌い出した。歌といっても、曲に合わせて「ア」の発音をするだけなのだが。

 比較的短い時間ではあったが、"大和"が歌い終わると拍手が上がった。ステージの照明が暗くなり、"大和"の顔が見えなくなる。

 

『えー、大和さんありがとうございました。しかし、大和さんのコスプレ、どこかで見たことあるような……』

 

 "青葉"はそうアナウンスしたが、未だ曲は終わっていなかった。いきなり音量と曲調が切り替わって、弦楽器と金管楽器が激しく鳴り出したのである。

 

『え、まだ終わってない? ……おぉっと、ここで新たな情報が入りました! お伝え致します!』

 

 "青葉"の声に、艦娘たちが何事かと聞き入る。

 

『えー、新たに入った情報によりますと、これは皆さんを驚かすための【サプライズプログラム】だとか! 道理でプログラムになかった訳ですね。

改めてお伝え致します、曲名は「宇宙戦艦ヤ◯ト」! 歌ってくださるのは、大和さんと、武蔵さんと……し、司令官!?』

 

 まさかのキャスティングに、多くの艦娘たちが目を見開く。それと同時に、トランペットやトロンボーンの音色をフル活用した、勇壮な曲が流れ出した。「宇宙戦艦ヤ◯ト」の前奏だ。

 前奏が流れている間に、ステージに更に2人の人影が登場する。照明が暗いので顔はよく見えないが、コスプレ衣装の形だけは何とか区別できた。

 

『そうか、見覚えがあると思ったら、大和さんのコスプレは(もり)さんのコスプレだったんですね! そして、あれは……身長から考えて、(おき)()艦長コスプレの人は武蔵さん!? ということは、隣の()(だい)さんコスプレの人は、まさか……!』

 

 その瞬間、前奏が終わると同時に照明が明るくなり、3人の顔が明らかになった。途端、一部の艦娘たちが噴き出す。

 そう、ステージに登場した3人が着ていたコスプレにして、前話にて"大和"が作成していたコスプレは、それぞれ「沖田 (じゅう)(ぞう)」「古代 (すすむ)」「森 (ゆき)」のコスプレ衣装だったのだ。そして、"武蔵"が沖田艦長のコスを、"大和"が森 雪のコスを着ている。では残りの古代コスを着たのは誰かというと、言うまでもなく堺 修一その人であった。

 そして、ステージに並んでいた大道具の数々は全て"釧路"の手になるものであり、“ヤ◯トの第一艦橋を模した飾り”になるよう設計されていたのである。

 

「「「さらばー◯◯よー、旅立ーつ◯はー、うちゅうー戦艦ー、ヤー、◯ー、トー♪」」」

 

 3人の歌が始まると同時に、会場には大爆笑が起こった。

 

 

 結局、「ヤ◯ト」はフルバージョンで歌われた。つまり、1~2番ではなく、1~4番まで全て歌われたのである。

 3人が退場したときには、会場からは大きな拍手が沸き起こると同時に、再び大爆笑の渦が会場を包み込み、大きな盛り上がりを見せたのだった。

 ちなみにこの後、堺はしばらく会場に戻って来なかった。

 そりゃあそうだろう、戻れば冷やかされるのは間違いない。ほとぼりが冷めるのを待ってから戻っても、遅くはないだろう。

 

「何だありゃあ……」

 

 サプライズプログラムが終わった後の会場、まだ爆笑の渦が収まらない中で、マイラスは呆然とした様子で呟いた。

 

「さっきから堺殿の姿が見えないと思ったら、あれに駆り出されていたんだな。気の毒に……」

 

 ラッサンが密かに堺を哀れむ。

 

「何ですかね、さっきの『宇宙戦艦ヤ◯ト』って。もしかして、テレビ番組か何かでしょうか?」

 

 リアス、なかなか鋭い。

 

「テレビ番組でしたら、導入できれば我が国でも放送できそうですね」

 

 アイリーンがそう言った途端、

 

「よし、ならそこはマイラスとアイリーンに調べて貰うとするか。もしかしたら図書館に電子媒体とかあるかもしれんしな」

 

 ラッサンがとんでもないことを言い出した。

 

「良いっすね、それ。先輩、よろしくお願いします!」

「「えぇー……」」

 

 まさかの提案に、マイラスとアイリーンは揃って溜め息を吐いた。 

 

 

 この後も、パーティはかなりの盛り上がりを見せ、特に「恋の2-4-11」では即席とはいえなかなか本格的なステージセットが組み上げられ、「艦隊のアイドル」の本領が発揮された。

 また、記念撮影もOKとされたため、ムー観戦武官一同は色々と写真を撮りまくった。アイリーンの撮った写真は、だいたいスイーツを撮影したものが多いが、それ以外の3人の写真は、艦娘たちと一緒に撮ったものが過半を占めた。……そして()1()()、“ある1人の戦艦娘とのツーショット写真”が多かったことは、今更語るまでもない。

 そして、半ば国際交流パーティと化していた慰労パーティは、大盛況を以て終わりを迎えるのだった。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「やれやれ……これで当分の間、艦娘たちから冷やかされまくるのは間違いないな……」

 

 午後10時、タウイタウイ泊地司令部。

 全ての業務を終えた堺が、泊地の指揮権限を当直艦娘に委譲して執務室から出てきた。何だかげんなりとした様子で、私室へと廊下を歩いていく。

 残念なことに堺の読みは外れ、あのプログラムから大分経ってから会場に戻ったにも関わらず、堺は多数の艦娘の噴き出しそうな表情と物言いたげな視線に晒された。ムー観戦武官一同からもそっと視線を逸らされるレベルであり、ここまでくると重症である。

 そして、パーティが終了した後で、堺は早速"()()"を筆頭とする艦娘たちから散々冷やかされたのだった。この後しばらくは、泊地内の話題は()()()()()()で持ち切りになるだろう。

 堺にしてみれば、とんだ事態である。

 

 言うまでもないが、彼の私室には"大和"がいる。何のためにって? もちろん、()()()()()()()()()()である。宿泊者1名様、()()()()()()()()()()()のVIP待遇であった。

 

「いやー……しかし、最後のアレには驚いたな」

 

 堺は呟く。

 何があったのかというと、それは夕方のことだった。慰労パーティ終了後、通常勤務に戻ったタウイタウイ泊地にて、用事のため「タウイ図書館」に出かけていた堺は、図書館にてマイラスと出くわしたのだ。マイラスは、()()()()()図書館に籠って調べものをしていたのである。

 そのマイラスに、堺はこう言われてしまったのだった。

 

 

 

 

「堺殿。厚かましいお願いであることは承知の上ですが、お願いします。どうか……

 

 

 

 

 

どうか、榛名殿と付き合わせてくださいっ!」

 

「……は?」

 

 

 

 

 

 そして部屋に戻ると、更なる驚報が届いていた。

 

 

『大東洋国際軍事裁判 開廷の案内

 

裁判長 堺 修一(任命者:カナタ1世陛下)』

 

 

「何じゃこりゃあああぁぁぁぁぁぁっ!!!」




はい、前話の最後で"大和"が用意していたコスプレの正体は、「宇宙戦艦ヤ◯ト」から「沖田 十三艦長」「古代 進」「森 雪」のコスプレ衣装でした。そしてまさかのキャスティングでした。
無理やり駆り出された堺…南無。

あと、基地航空隊の妖精さんたちが着ていたコスプレ衣装は、「ヤ◯ト」航空隊のコスチュームです。


お気に入り1,600件到達、総合評価5,700ポイント突破ですと!?
本当に、本当にありがとうございます!!!


評価8をくださいました赤かぶ執務官様
評価9をくださいました古原司様、重桜様、逃避正常様、ironkongss様、中Ⅱ瓶様、やがみ0821様
ありがとうございます!!
また、新たにお気に入り登録してくださいました皆様、ありがとうございます!


次回予告。

戦争が終わり、通常運転に戻りつつあるタウイタウイ泊地、そしてロデニウス連合王国軍。パーパルディア皇国という大国との戦争が終わったのを契機として、彼らは軍制改革に着手する…
次回「改革、ロデニウス連合王国軍」

P.S. 8月30日から「艦これ」の夏季限定イベントがスタートします。それに伴い、更新速度の低下が予想されますことを、ここに報告いたします。何卒ご理解のほど願います。
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