鎮守府が、異世界に召喚されました。これより、部隊を展開させます。 作:Red October
皆様、ありがとうございます!モチベーションになります…頑張って書いていきます!
改めて申し上げますが、うp主はWeb版の原作しか見ておりません。そのため、小説やコミックのほうを見ていらっしゃる皆様は、違和感を持たれることもあると思いますが、どうかご了承願います。
今回はドンパチなしです。
中央暦1639年4月21日 午前8時、ロウリア王国 ワイバーン運用部隊本陣。
『こちらワイバーン隊! 味方はもう10騎も残ってない! なんだあの敵の攻撃は!? う、うわぁぁぁ』
恐怖の叫びとともに魔信が切れ、それっきり何も聞こえてこなくなった。それを聞いていたオペレーターたちも、ワイバーン運用部隊司令も、全員が真っ青になっている。
出撃したワイバーン隊350騎。これは、クワ・トイネ公国のワイバーンに対し、質はともかく数では圧勝していた。絶対に勝てる自信があった。だからこそ司令は、350騎すべてをもっての全力出撃を命じたのだ。
かくして出撃したワイバーン隊は、歴史に残る輝かしい戦果を上げて、帰投してくるはずだった。
しかし、現場で彼らを待ち受けていたのは、予想だにせぬ
声の聞こえなくなった通信用魔法器具を前に、全員が声も出なくなっていた。最悪の想定が、彼らの脳裏にちらつく。
まさか……全滅?
ロデニウス大陸の歴史において、ワイバーンは最強の生物である。しかし、それゆえに貴重であり、数を揃えるのは難しく、また費用が高くつく。
今回用意できたワイバーン500騎。そのうち150騎程度は、ロウリア王国軍が自力で揃えたものだが、残りの350騎は、パーパルディア皇国からの軍事援助を受けた結果、揃えられたものである。それも、この数に達するのに6年かかった。
圧倒的な戦力であり、必ず大勝できるはずだった。
しかし現に、あのような通信が入っている以上、ワイバーン隊は想像できないような敵の攻撃に晒され、……考えたくないが……全滅に追い込まれた可能性が高い。10騎も残ってないと、言っていたではないか。
ロウリア王に、なんと報告すればよいのか、分からない。
(1騎でもいい。頼む、帰ってきてくれ…!)
部隊司令は、
……しかし現実は非情であり、太陽が落ちるころになっても、ワイバーンは1騎たりとも帰還しなかった。
ワイバーン運用部隊司令は、かつてないほど沈んだ気持ちのまま、ロウリア王に報告を行うこととなる。
◆◇◆◇◆◇◆◇
日付変わって、中央暦1639年4月23日 午前9時、ところはクワ・トイネ公国の公都クワ・トイネ。
いつもの政治部会の会議室には、いつも通りのメンバー+堺が集まり、着席していた。そして彼らの前に、特別参考人として呼び出されたブルーアイが立ち、報告を行っている。着席しているメンバーの前には、一昨日の海戦の結果や、ブルーアイの観戦記録、現在のロウリア軍の様子、今後の敵の予想進路と作戦計画などを記した資料が配布されていた。
「……以上が、私の見たすべてです」
ブルーアイが、報告を終える。
「では、何かね? 日本国の艦隊は、たった20隻で4,400隻もの敵艦隊に挑み、単独でおよそ3,000隻を沈めて撃退したというのか? それに加えて、ワイバーン300騎以上の空襲も、30機程度の上空援護のみで切り抜け、それどころか敵ワイバーンを全騎撃墜したと? それも、
軍務卿ヤヴィンが、信じられないといった様子で首を横に振る。
「はい。私の見た限り、そうです」
「報告書には、人的被害ゼロとある。戦死者が1人も出なかったのか!? そして、我が海軍の第2艦隊には、出番はなかったのか!?」
「はい。少なくとも、私が見た限り、いませんでした。それどころか、負傷した者もいないのではないでしょうか。第2艦隊の出番ですが、全くといっていいほどありませんでした」
「何だと!? 堺殿、これは本当なのか? 観戦武官である彼が、この場で嘘をつくとは思えないが、いかんせん戦果が大きすぎて、どうにも実感が持てないのだ」
ヤヴィン卿に話を振られた堺は、なんでもない、しごく当たり前のことだと言うように、
「そうですね。私は、この報告書をまとめるにあたり、艦長たち全員から話を聞いています。その話と、ブルーアイ殿の報告は一致しており、嘘ということはないでしょう。現に我が部隊からは、あの海戦で
実は堺は、作戦終了の報告を"
つまり、あのロデニウス沖海戦で、“大淀”率いるタウイタウイ艦隊は、実に3,000隻以上の敵艦を撃沈したということだ。ロウリア軍が被った損害は、およそ12~13万人程度の戦死、軍船3,000隻以上の撃沈、ワイバーン300騎以上の喪失、というところだろう。
対して、タウイタウイ艦隊および母艦航空隊には、1人の死傷者も出ていない。艦艇の被弾さえ、ゼロである。
損害ゼロで、この戦果。圧倒的ではないか、タウイタウイ艦隊は。だが堺には、
「なんと……では事実だということか?」
「100パーセント、事実だと言えるでしょう」
堺はバッサリと言い切った。
「バカな……まさかそんな……」
言葉を失うヤヴィン。まあ、ロデニウス大陸の常識でこれを事実だと考えるのが無茶なので、この反応もむべなるかな、というところだろう。
「まあ、とりあえずはこれで一勝、ということだろう」
場をまとめるかのように、首相カナタが発言した。
「海上からの侵攻は防げたわけだ。敵にはまだ、1,000隻程度の船が残っているようだが、ここまでやられたんだ、そう簡単には海上からは攻めてこなくなるだろう。そうだろう、堺殿?」
「はい。仮にまた来たとしても、我が部隊には、今回戦った艦と同じかまたは、それ以上の力を持つ艦が、あと180隻はいますので、ロウリア艦隊は絶対に通れはしません。
また、次に攻めてきたならば、ロウリアの領海まで追いかけてでも、全艦を海の
堺のこの発言には、さすがのカナタもドン引きした。
「お、おお、そうか……頼りになるな。それでヤヴィン卿、敵の陸軍のほうの動きはどうだ?」
完全に骨抜きになっていた感のあったヤヴィンだが、カナタの言葉を聞くや、すぐに気を取り直した。
「偵察飛行した竜騎士やスパイからの報告によると、現在ロウリア軍はギムの街を中心に、陣地の構築と物資の調達を行っているようです。海からの攻撃が失敗したので、
「そうか。これで、こちらも兵力を揃える時間は稼げたわけだ。それで堺殿、次はどうするのだ?」
「はい。まずその前に、許可をいただいて建設したダイタル平原の基地ですが、ほとんど完成しており、あと少しというところです。今日中には、すべての工事が終わるでしょう。兵力も、ほとんど集結を完了しています。
それで、このあとどうするかですが、大筋としては、エジェイにいるクワ・トイネ公国西部方面師団と連携して、エジェイまでわざと敵を進出させ、敵が出してくるであろう先遣隊をまず叩きます。しかる後、敵本隊に対して空から攻撃をかけ、敵を陣地ごと擊砕。その後歩兵隊を戦車とともに前進させ、ギムを解放します。そしてそのままロウリア軍残存部隊を国境から追い落とす、という次第であります。尤も、
既に堺の頭の中では、勝利へのビジョンが明確に描き出されていた。
◆◇◆◇◆◇◆◇
その14時間後、中央暦1639年4月23日 午後11時、ロウリア王国王都ジン・ハーク ハーク城。
第34代ロウリア王国大王、ハーク・ロウリア34世は、ベッドの中で震えていた。その原因は、海軍とワイバーン運用部隊から寄せられた報告にある。
2日前のロデニウス沖海戦において、ロウリア軍はクワ・トイネ軍に大敗し、軍船3,400隻を失ったのだ。それと同時に、精鋭のワイバーン隊350騎も、1騎残らず未帰還となった。
しかも、敵に与えた損害は確認されていない。ほぼ無傷とみていいレベルである。
その報告だが、
まず、敵のワイバーンである。それは、こちらのワイバーンを越える大きさを持ち、それでいて我が方のワイバーンを凌ぐ速度と運動性能を持ち合わせる。そして導力火炎弾の代わりに、目に見えない小さな“何か”を高速で連続発射する攻撃や、海面に“何か”を投下してこちらの軍船を一撃で真っ二つにする攻撃、黒い塊を投下してこちらの軍船を一撃で火だるまにし、沈没に至らしめる攻撃を実施してきた、という。
何か、って何だ? 火炎弾ではないのか? しかも、目にも止まらぬ速さのものを、連続で発射するなんてことが、本当にできるのか?
次に、相手の軍船だ。遠目には、鉄でできているように見えたという。鉄は重く、水に沈むものだ。それを浮かべるなんてことができるのか!?
そして、それにも関わらず非常に大きく、我が方の軍船の4倍以上の大きさのものが2隻、その他それより小さいのが15隻以上いたという。その小さいのですら、軍船の2倍くらいはあるとのこと。それが帆を持たないくせに、我が方の軍船よりも圧倒的に速いスピードで、海面を疾走する、と報告にはある。
そんな馬鹿な!? 大きければ、移動速度はどうしても遅くなるのが自然だ。帆もなしで、どうやってそんな速度を出す? 魔法を使ったのだろうか? だとしても、高速の発揮は難しいはずだ。
また、4倍以上も大きい船には、船体中央に“城”が建っていたという。城を船に乗せる!? そんな馬鹿なことができるはずがない!
とどめに、その敵艦の攻撃方法だ。ものすごく大きな音と煙と光を放って、一撃でこちらの軍船を
これらが魔導だとすれば、どれほどの魔力が必要になるか、想像もつかない。敵の全員が、たいへんな魔力を持った魔導士なのだろうか?
そういえば、神話にその名を残している古の魔法帝国は、国民全員が誰にも真似のできない、強大な魔力を持っていたという。もしやそれがこの近海に復活し、我々はその軍隊と戦っているのだろうか?
ロウリア王国は、昔からとにかく人口だけは多かった(人口3,800万人。ロデニウス大陸の三国の中では、ぶっちぎり1位の数であり、“人口だけ”なら列強にも匹敵するとまで言われるほどの多さである)が、装備の質は、お世辞にも高いとは言えなかった。
それが今回、パーパルディア皇国の援助を得たことで、6年という時間がかかったものの、質はそこそこながら圧倒的な数を揃えることができた。
しかしこうなってくると、こちらの兵器が通用しない可能性が出てきてしまった。尤も、海戦や空戦は、装備の“質”がものをいう面も多いので、一概には言えない。だが純粋な“数”がものをいう陸上戦なら、あるいは……
いろいろな思考が頭に渦巻き、王はその日、眠れない夜を過ごす羽目になった。
◆◇◆◇◆◇◆◇
ところ変わって、中央暦1639年4月24日 午前10時、フィルアデス大陸 第三文明圏列強 パーパルディア皇国 国家戦略局。
昼間だというのに、その部屋は明かりが落とされたように薄暗かった。その薄暗がりの中で、ガラス玉がオレンジ色に輝いている。これは、ガラス玉に込められた光の精霊の力によるものだ。
その光に影を投じて、話し込む男が2人。
「この報告書をもう読んだか? ヴァルハルが送ってきた観戦報告をまとめたものなんだが」
片方は、声の調子から言って、そこそこの地位にはある者のようだ。
「いや、まだです。読ませていただきます」
こちらは、まだ若い男の声。
オレンジ色の光を横切り、手から手へ、何枚かの書類が渡される。
「ヴァルハルさんといえば、確かロウリア王国に行ってる武官のはずですが……ッ!? な、なんですかこれは!?」
「読んだか? そうだ、6年かけて支援したロウリア王国の艦隊が、あっという間に蹴散らされたそうだ。それも、クワ・トイネ公国ごときに」
「そんな馬鹿な!? あの程度の国に、我が国が支援した艦隊が負けるはずが……! いくら文明圏から離れていて、戦闘方法の野蛮なロウリア王国といえど、たった20隻に4,400隻が大敗しますか? おとぎ話にもなりませんよ」
「ああ。しかも、我が国のそれより巨大な大砲があり、軍船を一撃で木っ端微塵にしていったともある。しかも、命中精度はかなりのものだと」
「大砲なんてものが!? ……ヴァルハルさん、確か向こうでの生活が長かったですよね? 頭がおかしくなってしまって、幻覚でも見るようになったのでは?」
「そうかもしれん、今度交代させてやるとしよう。だが、大砲か……命中率は高くないはずだが」
「ええ。それに、我が国の100門級戦列艦フィシャヌスが、仮にロウリアと戦ったら、沈められることはありませんよ。射程2㎞の砲撃で、弾がなくならない限り、一方的にロウリア軍の船を撃沈できます。クワ・トイネなんていう蛮族の国家も、ようやく大砲を作れるようになったと考えるべきなのかもしれませんね」
射程2㎞の大砲が常識であるなど、日本軍妖精たちが聞いたら鼻で嗤うだろう。自軍のオンボロ牽引式野戦砲である、八八式75㎜野戦高射砲や九四式37㎜速射砲の方が、有効射程が長いのだから。
「ところで、まさかロウリアが負けることはあるまいな? 我が国の、資源獲得の国家戦略に支障が出る」
実は、パーパルディア皇国の国家戦略局が、ロウリア王国を支援していたのには「理由」がある。それが、ロウリア王国の豊富な人口(皇国からすれば、奴隷の山が築けるので有用とみなされた)と、クワ・トイネの大地(もちろん食料確保の農地とするため)だ。
ロウリア王国に支援を行う代わりに、事実上の属国とすることで労働力を獲得し(もちろん扱いは奴隷そのもの)、さらにそのロウリアにクワ・トイネを征服させることで、直接手を下すことなく人的資源と食料生産地帯を手に入れる。パーパルディア皇国国家戦略局は、これを狙っていたのだ。
ただこれは、国家戦略局が、「皇帝の許可も得ずに勝手にやっていること」なのが玉に瑕である。すでに巨額の費用がかかっており、もしロウリアが負けたら、これが明るみに出てしまうのだ。当然、首が飛ぶのは避けられない。
「大丈夫だと思います。海戦や空戦はともかくとして、陸上戦では動員兵力が純粋に物を言います。ロウリアは、人口
「今回の件は、いったん極秘事項として扱い、他言無用とする。報告内容があまりに荒唐無稽だからな。真偽を確かめるまでは、皇帝陛下にも報告しない。それと、万一に備えて書類の破棄などの、証拠隠滅の用意をしておけ。いいな?」
「承知しました」
男たちの密談は終わった。
◆◇◆◇◆◇◆◇
それと全く時を同じくして、パーパルディア皇国から2万㎞以上も離れた西方。
第二文明圏の列強、ムー国においても、似たような光景が展開していた。
「馬鹿な!? クワ・トイネが航空機、それも単葉機を繰り出してきただと!?」
無線電話機に向かって怒鳴っているのは、ムー国の技術士官にして情報分析官を務めるマイラスである。彼の所属は、ムー統括軍の情報通信部・情報分析課。
『しかし、あれは確かに航空機、それも単葉機でした!』
電話の相手……ロウリア王国に行っている観戦武官リアスも、必死に怒鳴り返す。
「クワ・トイネの軍艦は?」
『はい。それなんですが、その軍艦はラ・カサミよりも巨大な船体と大砲を持ち、しかもラ・カサミより高速のようでした! しかも、回転砲塔持ちです!』
「そんなことがあるはずがないだろ!? 幻でも見たんじゃないのか!」
『幻が10隻以上も見えるわけがないでしょう!』
リアスも必死だ。ここで信じてもらえなければ、この驚異は今後、絶対に伝わらない……そう思い、なんとかしてわからせようとしていた。
「まあ……報告書には書けないだろうが、わかった。だが私としても、簡単には信じるわけにはいかん。写真機はそっちにあるか?」
『いえ、持ってきていません』
「写真機は極力持っていけと言っているのに……まあ、いい。すぐに本国から送らせよう。どんな些細なものでもいい、写真を頼む。できたら鮮明なのがありがたいが」
『わかりました、撮ってきます。それでは』
通話は終了した。
「東の果ての小国家が、回転砲塔を持つ戦艦を持っているだと? ……本当だろうか?」
マイラスは一人、つぶやく。
普通に考えれば、ありえない話だ。だが、
(クワ・トイネ公国、か。これは一度、自分の目で見てみる必要があるかもしれん)
マイラスは、このことを自分の胸に一旦しまいこみ、次の仕事にかかるのだった。
今回の本文は7,000文字なので、前回の約半分なのですが…皆様、読みにくかったりしますか?
読みにくい!という方がいらっしゃいましたら、遠慮なく感想欄にコメントお願いします。
できれば投票やお気に入り登録、感想投稿などして貰えると、大変ありがたいです。
今後とも拙作を、どうかよろしくお願い申し上げます!
次回予告。
海の戦いが終わった頃、クワ・トイネ西部を必死に移動するエルフたちの一群があった。そこに襲いかかるロウリア軍騎兵隊。その時、あの音が鳴り響く…
次回「エルフと騎兵と悪魔のサイレン」