鎮守府が、異世界に召喚されました。これより、部隊を展開させます。   作:Red October

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お待たせいたしました…。
なおイベントですが、現在E2甲第二ゲージラスダンです。重巡姫マジ要らなさすぎィ!



074. 改革、ロデニウス連合王国軍

 少し時を(さかのぼ)り、中央暦1640年7月10日、ロデニウス連合王国。

 北東部にある要衝の港街クワ・タウイは、祝賀ムードに包まれていた。パーパルディア皇国との戦争に勝ったのもそうだが、フィルアデス大陸方面に出撃していた艦隊が最終的にこのクワ・タウイに帰ってくるのだ。クワ・タウイを母港としている第3艦隊、そしてクワ・タウイの北東34㎞に浮かぶタウイタウイ島に拠点を置く第13艦隊が、観艦式の後にこの街に来る手筈なのである。市内のあちこちに戦勝を記念する飾りが付けられ、人々は何かあれば「万歳」を叫び合い、全ての人々が熱に浮かされたように喜び合っていた。

 

 ただし、“ある一角”を除いて。

 

 そう。このクワ・タウイには、強制収容所が設置されており、そこだけは戦勝ムードとは懸け離れ、何というか、“悲壮感を伴った重苦しい雰囲気”が満ちていたのだ。まあ、ここに収監されているのが捕虜になったパーパルディア人ばかりなので、無理もないのだが。

 強制収容所にも、新聞くらいは回ってくるし、魔信ラジオでニュースも聞くことができる。捕虜になった人々はそれを通じて、祖国たるパーパルディア皇国が敗戦に向かっているのを強く感じていた。そしてとうとうパーパルディア皇国が降伏し、ロデニウス連合王国と講和条約を締結して、多額の賠償金やら領土の大幅縮小(専ら属領独立のせいであるが)、国号廃止、皇族家断絶、その他様々の条件を課せられた、というニュースが入ってきたのである。

 既に覚悟はできていたとはいえ、「負けた」というニュースが流れてきた時には、多くの捕虜たちが涙を流し、一部の者は人目も憚らずに号泣した。良い年をした男たちが、まるでいきなり殴られた子供のようにわあわあと泣いていたものである。

 

 そんな捕虜たちはこの日、グラウンドに全員整列させられていた。“あるお知らせ”があったためである。

 

「諸君も知っての通り、パーパルディア皇国との戦争は終わった。従って、もはや諸君をここに収監しておく理由はなくなった。また、新生パールネウス共和国政府との取り決めにより、我々は諸君を新生パールネウス共和国に帰国させなければならない。

よって、諸君らを数回に分けて我々が用意する船に乗せ、新生パールネウス共和国まで移送する。つまり、諸君には帰国していただく、という訳だ。まだ船の都合がついていないため、第一陣の帰国がいつになるかは不透明だが、近日中に帰国第一陣のメンバーと帰国の日取りを発表し、その後残った者も順次帰国して貰う。今のうちに帰国の準備を済ませておくように」

 

 つまり、帰国できることになったのである。

 祖国敗れたりとはいえ、命を永らえて帰国できることになった捕虜6,857名の多くは、素直に喜んでいた。

 捕虜になってこの収容所に入れられた時、“捕虜としての権利”の説明は一通り受けていたものの、とても信じることができず、いつ処刑されるのかとビクビクしていた者も多かったのだ。それが、生きて祖国に帰れると知って皆安堵していたのである。

 

 パーパルディア海軍の第4・5艦隊の司令官を務め、ニシノミヤコ沖で乗艦を沈められて捕虜となっていたシウスは、フェン王国の攻略のため出撃してからのことを、一人思い返していた。

 

 フェン王国との戦いの最中、ロデニウス連合王国が宣戦布告してきたと聞いた時、シウスは当初この国を“東南方の()()”だと思っていた。いや、シウスだけでなく、皇国軍人の誰もがそう思っていただろう。

 だからこそシウスは、“小魚でも食する”かのような()()()()()()でロデニウスの艦隊に向かったのだ。

 

 しかし、ロデニウス連合王国は小魚どころか、リヴァイアサンにも匹敵し得る“怪物”だった。

 世界でも最も国力・技術力・軍事力いずれも優れているとされる五大列強国。そのうち、“第三文明圏唯一の列強”にして“第三文明圏最強の国家”と謳われたパーパルディア皇国が、“()()手も足も出ないほどの力”を、ロデニウス連合王国は持っていたのだ。

 

 正直なところ、収容所に収監された最初のうちは、シウスは拷問を受けた末に殺されるものとしか思っていなかった。しかし、結果として見れば捕虜としては過ぎた扱いを受けた。

 パーパルディア皇国で“強制収容所”といえば、建物は小屋が精々であり、酷い場合は“野晒し”ということもあった。もちろんベッドやら個室なんてある筈もないし、食事も野菜クズみたいなものしか出されない。逆に豊富に揃っている物といったら、“捕虜を拷問するための道具”くらいだ。

 しかし、この収容所はそうではなかった。労役の義務はあるし、時折尋問もあるが、捕虜1人1人に小さいながらも個室が与えられるし、軍艦によくあるハンモックとはいえ布団の付いたベッドもあるし、食事は栄養バランスの整ったものが3食きちんと出てくる。尋問にしても、言いたくないことは言わなくても構わないし、無理に吐かされることもない。これは本当に収容所なのかと聞きたくなるほどである。

 

 ここで働く警吏の1人に聞いてみたら、「真に列強たるもの、捕虜の扱いも人道的でなければならない。我々はそう考えている」とのことであった。こうなると、パーパルディア皇国での捕虜に対する振る舞いが恥ずかしくなるレベルである。

 

「やっと帰れますね、シウス殿」

 

 長らく収容されていた竜騎士レクマイアが、シウスに話しかけてくる。その声は明るい。

 

「そうだな……。しかし……私は帰り辛いよ。これだけの大敗、どの面下げて国に帰れば良いのか……」

「何を仰るのですか、シウス殿。今や祖国は、戦争によって多くの人材を失い、特に軍の指揮を執ることができる実戦経験者が少ないのですよ。将軍のような方がいなければ、軍の再建などできません!」

「それはそうだが、今や祖国は海への出口を失って、海軍も国家監察軍もない。私の出る幕があるかどうか……」

「それは確かにそうです……ですが、いつか祖国に海軍や水軍が復活した時、その指揮を執れる者が必要かと存じます」

 

 シウスとレクマイアが話をしていると、そこへ収容所の看守がやってきた。

 

「シウスさんに、レクマイアさん。あなた方には、フェン王国での邦人虐殺事件の容疑と、フェン王国軍祭に於ける邦人殺害事件の容疑がそれぞれかかっております。関与が否定され、裁判で無罪と認められれば帰れますが、それまではもう少しだけこちらにいていただきます」

「「なっ!?」」

 

 2人は揃って目を見開いた。

 

「で、では、監察軍艦隊司令だったポクトアール殿はどうなるのですか?」

「ポクトアールさんにつきましては、“無罪放免”となります。理由としては、監察軍艦隊による攻撃では邦人の死者が出ていないことと、頭部外傷による記憶等への影響が心配されたためです」

「そんな……」

 

 同じ監察軍所属なのにこの扱いの差である。がっくりと肩を落とすレクマイアであった。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 少し時が経って、中央暦1640年7月18日。

 タウイタウイ泊地で第13艦隊独自の慰労パーティが開かれ、堺が無理やりコスプレを着せられて「宇宙戦艦ヤ◯ト」を歌わされている頃、ロデニウス連合王国軍司令部では軍務卿ヤヴィン、陸軍大臣ハンキ、海軍大臣ノウカ、空軍大臣アルデバランの4人が会議を開いていた。

 

「今回集まってもらったのは他でもない、実戦を経験したことで明らかとなった“我が軍の課題”についてだ」

 

 重々しい口調でヤヴィンが口火を切る。

 

「今回、我が軍はあの列強パーパルディア皇国の軍隊を完膚無きまでに打ち破り、パーパルディア皇国との戦争に大勝した。だが、同時に様々な課題が明るみに出たことだろう。

今回は、前線に立った指揮官たちの報告書を読んで戦況を振り返ったり、今後我が軍がどうあるべきなのかを議論したい。活発な意見交換を望む」

 

 ヤヴィンがそう言って着席すると、真っ先にハンキが挙手した。

 

「では、まずは私から説明致します。

今回、実戦において明らかとなった課題の中でも最も大きな物は、『前線への補給が途絶えかけたこと』です。

これまで我が軍は、『パーパルディア皇国軍がロデニウス大陸に攻め込んできた時に、どうやって敵を迎え撃つか』ということを戦略の主眼において、作戦を立てていました。しかし、蓋を開けてみれば『我が軍がフィルアデス大陸、パーパルディア皇国本土の奥深くまで攻め込む』という、“想定とは真逆の現象”が起きました。このせいだとは思いますが、『ロデニウス本土から中継点のアルタラスやシオスへ、そこからフィルアデス大陸の前線に物資を送る』という形で補給線が非常に長くなり、その維持に要した苦労は並大抵ではありませんでした。また、前線での物資の使用量、特に銃弾と砲弾・車輌の燃料の消費が想定よりも遥かに多く、生産が需要に追い付かなかったことも大きく響きました」

 

 ハンキは噛んで含めるように、一言一言をゆっくりと発音した。

 

「最終的には我が陸軍の圧倒的な力と堺殿の知略が物を言い、補給が尽きる前にパーパルディア皇国を撃破できましたが、堺殿の作戦が失敗するか、今少し戦闘が長引いていれば、我が陸軍は補給物資が尽きて動けなくなり、パーパルディア軍に返り討ちにされて全滅していた可能性もありました。そうなれば、我が軍は多数の兵員と我が軍でも最優秀の指揮官を失うことになっていたばかりか、敵に我が軍の武器を()(かく)され、使用されていた可能性もあった訳です。つまり、一歩間違えていれば“()()()敗北し、殲滅されていた”でしょう」

 

 ハンキがそう言うと、ノウカとアルデバランの顔が青ざめた。ヤヴィンも顔色こそ変えなかったが、口や目元が引き()っている。

 

「以上のことから、“補給と(へい)(たん)を専門的に担う部隊”の新設を希望します。堺殿のところから借りた兵法書にも『腹が減っては戦はできぬ』とありますれば、これは“喫緊の課題”かと存じます」

 

 ハンキのこの提言は、至極尤もであると言えるだろう。

 

「なるほど、補給と兵站を専門的に担う部隊を設立する必要を認める、ということだな」

「左様でございます」

 

 ハンキに確認しながら、ヤヴィンがメモを取る。

 

「それともう三つ、提案があります。まずはこちらをご覧ください」

 

 そう言うと、ハンキは一冊の本を取り出してテーブルの上に置いた。それには「第二次世界大戦期の各国軍」とタイトルが付いている。もちろん、「タウイ図書館」で拝借したものだ。

 

「これは堺殿が元いた世界の、“()()()世界各国の軍隊”のことを記した本だそうです。大昔といっても、ムー国の軍隊すら超える強力な軍ばかりです。そのうち……」

 

 と言いながら、ハンキはページをパラパラとめくって、あるページを開いて皆に見せた。それは、アメリカ合衆国軍を紹介したページである。

 

「この、『アメリカ合衆国』なる国の軍隊には、『海兵隊』という軍隊があります。これは、敵地への強襲上陸や海岸線周辺の制地権の確保と維持、小規模の離島への上陸作戦等を主任務とする部隊です。これの新設を提案します。

我が軍は多くの場所でパーパルディア軍と戦いました。それらのうち、敵の数が少なかったアルタラスや、艦砲射撃によって敵の注意が逸れていたエストシラントでは、陸軍の損害は少なくて済みましたが、デュロへの強襲上陸の際には決して少なくない犠牲が出てしまいました。また、レノダへ上陸したパンドーラ-マール連合軍にも相応の犠牲が出た、と聞き及んでいます。こうしたことから、海岸線周辺等における“強襲上陸作戦を専門的に遂行する部隊”の必要性が認められました。故に、海兵隊の新設を提案致します。

また、“専門的な空挺部隊”の設置も有効と認めます。タウイタウイ泊地陸戦隊空挺部隊は、パールネウス攻略戦で多大な威力を発揮しました。故に、空挺部隊の必要性も認められます。

最後に、陸上基地を駆使しての大型爆撃機による、戦略爆撃を専門的に行う部隊の新設です。戦略爆撃は、デュロ、エストシラント、レノダ、パールネウスと各方面で大きな威力を発揮しました。しかも、『B-29改』とやらいう爆撃機は高度1万メートルにまで上がることができる、とのことです。ワイバーンはもちろん、風竜やミリシアルの天の浮舟であっても、こんな高度には上がれないでしょう。敵の迎撃が届かないところから、一方的に相手を叩く……特に敵の後方兵站拠点を叩くには非常に有効でしょう。これにより、戦略爆撃隊の新設を提案します。

まとめますと、第一に補給と兵站を担う部隊の新設。第二に海兵隊の新設。第三に空挺部隊の新設。第四に戦略爆撃隊の新設。以上を陸軍から提唱します。私からは以上です」

 

 ハンキが着席すると、続いてアルデバランが挙手し、発言権を得て話し始めた。

 

「我が空軍としては、“ワイバーンロードの入手”を強く希望します。

我が国はパーパルディア皇国を破りました。おそらく、“列強たるに相応しい”と見做されることでしょう。然るに我が空軍の装備はワイバーン、と列強国どころか文明国にすら劣ります。この状態は、一刻も早く改善する必要があるかと存じます」

 

 すると、ノウカが手を挙げた。

 

「空の守りなら、戦闘機があるのではないか?

我が国の……といってもタウイタウイから供出して貰ったものだが、戦闘機はワイバーンロード相手にも優位に戦えることが実戦で証明された。わざわざワイバーンロードを持つ意味はないと思うが?」

 

 それに対し、アルデバランは真っ向から反論した。

 

「いえ、確かに戦闘機はありますが、“真に列強国たらん”とする者、どの軍の装備も相応に揃えなければならないでしょう。

それに、ワイバーンロード開発の研究は、我が国の魔法・魔導技術の発展に一役買ってくれると思います」

「ううむ、そこまで言われると反論し辛いな」

 

 ヤヴィンが口を挟んだ。

 

「分かった。軍務卿の権限で、空軍のワイバーンロード開発を認めよう」

「は、ありがとうございます!」

 

 ヤヴィンに深々と頭を下げた後、アルデバランは再度口を開いた。

 

「それともう一点、折角ワイバーンロードを手に入れるのですから、平行して竜母の建造を提案します。こちらも、我が国の魔導技術の発展に役立ってくれるでしょう」

 

 アルデバランが着席すると、ノウカが手を挙げた。

 

「今アルデバラン殿が仰った竜母建造についてですが、我が海軍は空軍に協力する用意があります。竜母は、魔導技術のみならず我が国の造船技術や工業技術の向上においても、役に立つことは間違いありません。

既に海軍造船部では、タウイタウイ泊地から空母の設計図の提供を受け、それを元に竜母の設計を始めております。完成すれば、“()()()()帆船型ではない機械動力型竜母”となる予定です」

「ほう、どんな性能になるんだ?」

 

 ヤヴィンが疑問を呈した。

 

「まだ設計が確定し切っておりませんので概算になりますが、最高速力は28から30ノット弱、搭載数はワイバーンロードで35から50騎、しかも“全速力で()()()()()()の発艦”も可能な上、ワイバーンや航空機から身を守るために12.7㎝連装高角砲と25㎜対空機銃を搭載します。この12.7㎝連装高角砲は、戦列艦程度の相手なら返り討ちにできます」

「何だと!? 竜母なのに、戦列艦を圧倒できるのか!?」

 

 アルデバランが驚いて叫ぶ。ヤヴィンも目を丸くしていた。

 

「はい。それも、パーパルディア皇国の装甲戦列艦はもちろん、マギカライヒ共同体が配備しているという機甲戦列艦が相手でも圧倒できる計算です。

(もっと)も、まだ設計途中ですから、最終的にどうなるかは不確定ですが」

 

 それでも、恐ろしい性能である。

 捕虜になっていたパーパルディア兵を尋問して集めた情報によれば、パーパルディア皇国の竜母は最高速力12ノット。最大で20騎のワイバーンロードを収容できるが、ワイバーンの発着艦時には()()する必要があるそうだ。これは、竜母が帆船であり、広げた帆がワイバーンロードの発着艦の邪魔になるからだ、という。

 だが、今計画中の竜母は、28ノットという世界的に見てもかなりの高速となるだろう速力を叩き出し、しかも()()()()()でもワイバーンロードを発進させることができる。さらに、ワイバーンロードの搭載数はパーパルディアの竜母の倍以上。そして、自衛用の大砲ですら、戦列艦なら返り討ちにできる。

 結論としては、「ぶっ壊れ」とでもいうべき高性能艦である。この竜母が量産され、配備された暁には、各国海軍が保有している木造帆船型竜母など、一瞬で“時代遅れ”にしてしまえるだろう。

 

「なんて高性能な艦なんだ……これは完成が楽しみだな。引き続き、開発を頼む」

「は。我々海軍と空軍の名誉に賭けて、成功させてみせます」

 

 それに続けて、ノウカは海軍からの報告を行った。

 

「海軍としては、国産の戦艦の建造を予定しております。現時点では日本の金剛型戦艦をコピー生産する方向で、計画をまとめています。また、国産の潜水艦の建造も予定していますが、現時点では難航しております。何せ“()()()()海に潜る船”なんて、全く経験がありませんので。更なる研究を急ぎたいと思います」

 

 それが、海軍からの報告だった。

 

「なるほど……皆の意見は分かった。

だがな、私は一つ“深刻な問題”があると考えている」

 

 意見が揃ったところで、ヤヴィンが口を開いた。

 

「今回の戦争……我が国にとっては“全く経験のない戦争”となった。何しろ、相手が列強国だった上に、前線で戦う将兵はもちろん、銃後の国民までが志願して軍に入ったり、あるいは石油を使う自動車の使用を自重したり、戦時国債を購入したりして、戦争に協力してくれた。堺殿の本にあった言葉を借りれば、“総力戦”というそうだな。

そんな大戦争をした訳だが……軍に入った志願兵の数が多すぎて、国内の物資生産に悪影響が出た上に、兵士に払う給料の総額が馬鹿にならず、財政にも大きく影響している、と財務部から苦情が出ている。

そこで、“軍縮”を実施しようと思うのだ。つまり、今軍にいる兵士の数を大きく減らし、『予備役』扱いにして工業や農業に回すか、一部はハンキ殿が提案した『海兵隊』や『空挺部隊』に編入させようと思うのだ。どうだろうか?」

「言われてみれば、確かに陸軍は兵士の数が多すぎて、財源の確保が苦しいです。何せ163万人もいますからね。いささか多すぎます」

 

 ハンキが真っ先に頷くと、ノウカとアルデバランも同調する。

 

「海軍は、軍艦の建造ペースが人材供給に全く追い付いていません。配備先の艦が決まっていない兵を大量生産しているような状態です。これはまずいと考えます」

「空軍も同じです。ワイバーンの個体確保が全く追い付かない」

「やはりそうか……となると、軍事費を抑えるためにも、ある程度の軍備縮小は必要だろう」

 

 ヤヴィンは、自身の判断の正しさに確信を持った。

 

 

 その後、堺も交えて話し合った結果、中央暦1640年7月20日、ロデニウス連合王国軍の兵器開発や軍備縮小について以下のような方針が決定された。

 

[陸軍に関する内規]

1. 兵士の予備役編入を実施し、常備兵力を現有兵力である163万人から40万人にまで削減する。ただし、それらのうち一部は海兵隊及び空挺隊に回す。

2. 第13軍団において実戦運用試験を行った結果、性能優秀と認められた「M40GRG ガラント銃」を、第2世代主力小銃として各軍団に配備する。三八式歩兵銃や九九式小銃は、九七式狙撃銃またはその後継機として生産し、あるいは大東洋共栄圏参加国向けに廉価で販売する。

3. 陸軍の主力戦車をⅣ号戦車H型に更新し、それと共に火力支援車輌としてⅢ号突撃砲F型を、精鋭部隊にはパンター改を配備する。また、本土防衛部隊と第13軍団を始めとする最精鋭機甲部隊には、ティーガーⅠ重戦車を配備する。これまでの主力であるⅢ号戦車は、訓練部隊や武装警察、あるいは海兵隊向けの装備とし、また大東洋共栄圏参加国向けに廉価で販売する。

4. 陸軍戦略航空軍を編成し、爆撃機として「B-29改」を制式採用する。護衛戦闘機には、暫定的に一式戦闘機「(はやぶさ)」Ⅲ型甲を採用する。

 

[海軍に関する内規]

1. 空軍と協同で、半機械式竜母を建造する。

2. 国産の戦艦、及び潜水艦の建造に着手する。

3. 正式に「第一一航空艦隊」として基地航空隊を制定する。装備機は一式陸上攻撃機、並びに零式艦上戦闘機21型及び52型とする。精鋭部隊のみ「(ぎん)()」を配備する。

4. 兵士の予備役編入を実施し、常備兵力を現有兵力である53万人から45万人に削減する。予備役のうち一部は、海兵隊に回す。

 

[空軍に関する内規]

1. ワイバーンロードの開発と配備を実施する。

2. 海軍と協同で、半機械式竜母を建造する。

3. 常備兵力を30万人から20万人に削減し、10万人は空挺隊に回す。

 

[軍全体に関する内規]

1. 海軍第13艦隊司令官に匹敵する力量を持つ指揮官・参謀を育成する。

2. 新部門として「軍情報部」を設置する。これは、国家情報部と連携しての各国の情報収集の他に、各国に対する諜報、防諜、情報分析、暗号解析等をその職務とする。

3. 新部隊として「海兵隊」を設置する。これは、水際の制地権確保と維持、敵前強襲上陸、小規模の離島への攻略作戦の遂行をその任務とする。現時点での兵数は30万人と設定する。

4. 新部隊として「空挺隊」を設置する。これは、敵地への空挺降下による奇襲等をその任務とする。現時点では兵員規模を12万人とする。

5. 各軍ごとに補給部隊を設置し、補給と兵站に留意する。

 

[兵器開発に関する内規]

1. 先日タウイタウイ泊地において開発された「F-86D改 セイバードッグ」の制式採用を目指す。制式採用されれば、一部の母艦航空隊や陸軍戦略航空軍の護衛戦闘機として採用する。

2. 上記「F-86D改」の配備に伴い、新型兵器の開発を急ぐ。

3. MP40を元に、StG44の開発を目指す。将来的には、さらに強力なアサルトライフルの開発に繋げる。

4. とある妖精の「熱い願い」を受け入れ、A-10に当たる対地襲撃機を開発する。

5. 使い捨てでない歩兵携行型対戦車兵器……例えばパイアット、RPG-7等……を開発する。

6. 主力小銃に後付けで装着できるグレネードランチャーを開発する。

7. 科学式の演算装置……はっきり言えばコンピュータ……の開発を急ぐ。

 

 

 また、その話し合いの席上で、これとは別に堺が“とんでもないこと”を言い出した。

 

「実はですね、うちの泊地から“恐ろしい物”が掘り出されまして」

「ほう、何が出てきたんだ?」

 

 尋ねるヤヴィンに、堺はこう言った。

 

「まあ……“原始的な()()()()()”、というところですな」

「「「「な!?」」」」

 

 ヤヴィンは思わず目を見開いた。他の軍大臣たちも、開いた口が塞がらない。

 無理もない。誘導魔光弾といえば、古の魔法帝国もとい「ラヴァーナル帝国」が使用していた恐怖の兵器だ。目標を追尾し、絶対に外れることがないという、悪夢のような兵器。

 そんなものがあるというのか!?

 

「ゆ、誘導魔光弾だと!? それは……!」

 

 何とか気を取り直したヤヴィンが、堺に叫んだ。

 

「はい、古の魔法帝国の兵器です。尤も、うちのは“科学技術で作られた兵器”なので、古の魔法帝国のそれとは()()です」

「なんと……“科学の力”でも誘導魔光弾が作れるのか……」

 

 ヤヴィンはすっかり驚いてしまった。

 

「ただし、ただしです。私は先ほど『原始的な』ものだ、と申し上げました。泊地で見つかったものは、あまり誘導性能は高くないのです。その代わり炸薬量は多いので、“強烈な爆発と爆風によって周囲のものを吹き飛ばす”、というような格好の兵器になります。速度も時速600㎞を出せますから、大抵の方法では撃墜されますまい。

これを陸軍戦略航空軍に配備し、地上に設置した大型の発射台を以て発射し敵に撃ち込む、または大型の爆撃機に搭載して空中にて発射、敵陣に撃ち込む、という運用になります」

 

 堺は平気な顔をしているが、ヤヴィンたちは心穏やかではない。何せ“古の魔法帝国”という名前()()でも肝が冷えるのに、それに関連するような代物が見つかったのだ。“科学の力による開発品”であるとはいえ、どうしてもその名前を意識してしまう。

 

 

 なお、どうやって誘導弾なんてものが見つかったのかというと、それはこの前日、7月19日のことだった。倉庫の備品整理に当たっていた"釧路"が、とんでもないものを見つけた、と堺を呼び出したのである。

 何事かとやってきた堺の前に並べられたのは、“2つの物体”だった。1つは、“小型の航空機のような見た目”をしているが、コクピットがどこにも見当たらない。エンジンは1基装備されているが、垂直尾翼の付け根にある上になんと()()()()()()()()である。そして水平尾翼もなかった。

 もう1つは、白と黒のツートンカラーで塗装された、4枚の尾翼を持つ細長く尖った物体で、誰が見ても「ミサイル」または「ロケット」と評する形状をしていた。

 それらを見て、堺はこう言った。

 

「これはまた、“どえらい代物”を発見したな……。航空機扱いの巡航ミサイルに、砲弾扱いの弾道ミサイルかよ……」

 

 そう、新たに発見された物体は、“ナチス・ドイツにて開発された世界初の誘導兵器”だった。「航空機扱いの巡航ミサイル」がフィーゼラーFi103こと「V-1飛行爆弾」、「砲弾扱いの弾道ミサイル」が「V-2ロケット」である。V-1は時速644㎞、V-2に至っては超音速で飛行する凄まじい兵器だった。

 V-1は飛行中にブンブンという独特の音を発するため、ロンドン市民に与えた心理的影響は大きかったと言われる。また、V-2は何の前触れもなく超音速で飛来し、かつ有効な迎撃手段がなかったため、これまた各国の一般人、特にロンドン市民に多大な恐怖を与えた、という。

 しかし、特にV-2の誘導性能は、誤差が7から17㎞にも及ぶという、“()()誘導兵器”にあるまじき誤差の大きさである。精密誘導兵器としては、失格レベルであった。

 とはいえ、“弾道ミサイルの原型”となったV-2ロケットが手に入ったのは大きい。古の魔法帝国は、将来「この世界に復活する」というような内容を記した不壊の石板をこの世界に残している以上、復活するのはまず間違いないと考えられる。その時に今以上に高性能な誘導兵器があれば、これほど心強い物もない。

 

「釧路、こいつを元にしてミサイルのような誘導兵器を製造するか、もしくはこいつの性能アップはできるか?」

「うーん、パッと見ただけですから何とも言えませんが、できるかと思います」

「頼んで良いか?」

「お任せを」

 

 流石"釧路"、俺たちにできないことを平然とやってのける! そこに痺れる、憧れるゥ!

 

「それと、例の無線機と暗号、解読できたのか?」

「はい。言語解析には少し手間取りましたが、ヴェールヌイちゃんに手伝って貰って解けました」

「何でヴェールヌイなんだ?」

「相手の言語がロシア語に似てる、とのことで……」

「あー……なるほどね」

 

 堺の言う「例の無線機と暗号」というのは、エストシラントで取得した“ポータブルの無線機と暗号書と思われる書類”のことである。

 

「詳細はお部屋の方で」

「分かった」

 

 そして2種類の誘導兵器をしまった後、堺は提督室で"釧路"から報告を聞いていた。

 

「まず、暗号書の方ですが、ヴェールヌイちゃんに手伝って貰った結果、言語パターンや文法がロシア語に類似していることが分かりました。そこで、ロシア語と仮定した上で暗号解読した結果、暗号の規則性が旧日本海軍の『D暗号』に酷似していることが分かりました。もちろん、既に解読済みです。

解析した結果、この無線機と書類の持ち主の名前はエンリケス、所属は『グラ・バルカス帝国情報局』であることが判明しました。おそらく、グラ・バルカス帝国の諜報員でしょう」

「そいつが、パーパルディア皇国に潜入していたと?」

「はい。パーパルディア皇国と、我が国の軍事力を探っていた……という可能性が高いと思います」

「ということは、少なくとも我が国の戦闘機については、そいつに見られた可能性が高いな」

 

 堺は「アサマ作戦」の1合目「トワイライト作戦」として行われたエストシラントへの空襲を思い出しながら言った。

 

「はい。ただ……こちらの軍艦については、諜報員に見られたかどうかは不明ですね。パーパルディア皇国の沿岸部に展開した艦のうち、陸地からの目視圏内に進入した艦は『大和(やまと)』だけですし」

「その大和も、夜中に接近してエストシラントに砲弾叩き込んだだけだからなぁ。発砲炎のフラッシュで姿が見えるとはいえ、一瞬だけじゃ難しいものがあるな」

「はい。しかし、“物事は常に最悪のケースを想定して動く”べきです。つまり、大和の存在が相手方に知られた、という想定で動くべきです」

「うむ」

 

 堺は頷いた。そしてやおら口を開く。

 

「実はな、俺も個人的な伝を使って商人たちから情報を得ている。その結果、現在第二文明圏の西側に新たな国家が現れ、第二文明圏内外を荒らし回っていること、そしてその国家の名が『グラ・バルカス帝国』であることを掴んだ。同一国家と見て間違いないだろう。つまり、グラ・バルカス帝国はその本土をムー大陸西側に持っている、と見るのが良いだろうな」

「はい。しかも、こんなポータブルの無線機を生産することができる、“科学技術文明国家”であると」

「ああ。しかも、どうやらグラ・バルカス帝国は、第二文明圏西側沿岸部にあった世界五列強の5番手レイフォルを、“超大型の軍艦1隻で滅ぼした”らしい。この世界のことだから、話が盛られている可能性はあるし、超大型というのもどのくらいの大きさなのかわからないが…最悪の場合、大和型戦艦またはモンタナ級戦艦くらいの超弩級戦艦である可能性がある。俺も引き続き情報収集に当たるが、釧路もさらなる解析を進めてくれ」

「承知しました」

 

 ビシッと敬礼する"釧路"。

 こうして堺は、ついに謎の国家「グラ・バルカス帝国」の存在を掴んだのだった。しかも、"釧路"の手によってグラ・バルカス帝国の言語や暗号が解析されてしまっている。

 グラ・バルカス帝国の明日はどっちだ……?

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 そして、こうしてロデニウス連合王国軍が軍制改革に踏み切っている間にも、罪人たちの取り調べと裁判が着々と進んでいた。

 もちろん、堺も裁判長として可能な限り裁判に出席し、検察側として参加している軍務卿ヤヴィンや、弁護人である元パーパルディア皇国皇軍総参謀長ステァリンの弁護を聞いたりしていた。被告人尋問も行っている。

 

 時は迫る。戦争犯罪人としてロデニウス連合王国に抑留されているパーパルディア人たちの運命を決める時が。




はい、軍の近代化に踏み切ったロデニウス連合王国でした。そして補給を大事にするようになりました。
まあ、腹が減っては戦はできぬ、とはよく言いますしね。

そしてグラ・バルカス帝国の存在を堺が知りました。と同時に、グラ・バルカス帝国は軍事用暗号の一部を解読された…というか、暗号規則を破られてしまった…。
暗号を破られることほど恐ろしいことはありません。日本が太平洋戦争で負けたのも、理由の1つがアメリカに暗号を解読されていたためですしね。

更には、世界初のドイツ製の誘導兵器が登場。誘導性能はお察しレベルですが。


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次回予告。

パーパルディア皇国との戦争に関して、ロデニウス連合王国に残された最後の仕事。それは、戦争犯罪人と認定されたパーパルディア人たちを裁くことである。
そして、判決を下す時が来る…
次回「大東洋国際軍事裁判」



P.S. こっそりうpしたつもりなのに、なんでうpした直後に感想が付くんですか…
という訳でうpしました。ナニとは言いませんが。

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