鎮守府が、異世界に召喚されました。これより、部隊を展開させます。   作:Red October

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はい、今回はちょっとしたギャグ回(?)です。
あと、ちょっと技術回でもある…?



076. ロデニウスと周辺のサブカル白書

 中央暦1640年8月2日、ロデニウス連合王国 タウイタウイ島。

 既に西の空に茜が差し、日没が近づきつつある。だがそんな中にあっても、第13艦隊及び第13軍団は士気高く訓練を続けていた。哨戒に当たる駆逐隊の艦娘たちも、油断することなく海に、空に、警戒の目を向けている。

 

「夜戦だぁぁぁぁ!!」

「かわう……(せん)(だい)五月蝿(うるさ)い!」

 

 別の意味で騒がしい人もいるが。

 

 そんな中、唯一といってもいい静かな場所が「タウイ図書館」だ。

 図書館というその特性上、静粛が求められるこの部屋だけは比較的静けさを保っている。しかし、併設されたAV室(注意しておくが、これはaudio visualの頭文字である。決して大人向けのアレなビデオではない)はその限りではなかった。2人の人間が、食い入るように画面に見入っている。

 その画面の中では、あるアニメが流れていた。かなり昔の日本のアニメにして、「日本アニメの金字塔」といっても過言ではない名作である。

 

『◯ミラス星並びに偉大なる地球に、栄光あれ!』

 

 画面の中で行われていた通信が途切れた。

 

『◯メルの船は自爆するつもりだ。艦底部の乗組員は上部に避難せよ、急げ!』

 

 すぐさま艦長を務める、白髭が目立つ男性が艦内放送を入れ、乗組員たちが一斉に逃げ出す。隔壁が閉じられ、誰もが避難を急いでいた。

 その時、戦艦……の艦底にへばり付いていた白い円盤が、突如として閃光を放ち、大爆発を起こした。

 

「「「うわぁーっ!!」」」

 

 逃げ遅れた乗組員たちが吹き飛ばされ、一帯が炎に包まれる。画面いっぱいに黒煙と炎が映し出され、何も見えなくなった。

 

 ……やがて、その煙の中から1隻の戦艦が飛び出してきた。さっき自爆攻撃を受けた船…「宇宙戦艦ヤ◯ト」だ。その艦底部には、自爆した白い円盤の残骸がこびり付いていた……

 

 そう、これは日本アニメ界が誇る名作の1つ、「宇宙戦艦ヤ◯ト」の初代作品である。そのうちの第22話「決戦!!◯色星団の攻防戦!!」最大の山場が終わったところだった。

 

 さて、この日本が誇るアニメ「宇宙戦艦ヤ◯ト」を見ていたのは誰かというと、語るまでもなくムー国人のマイラスとアイリーンである。

 以前の対パーパルディア皇国戦争戦勝記念慰労パーティで「宇宙戦艦ヤ◯ト」なるものの存在を知ったムーの観戦武官一同は、「これもロデニウス、いや日本の文化」と捉えた。そして、マイラスとアイリーンを動員して調査を行ったのだ。

 その結果、「タウイ図書館」に映像媒体が残されているのが発見され、マイラスとアイリーンは「調査者の特権として、この映像の中身を確認する必要がある」との名目で映像を視聴していた。していたのであるが……いつの間にやら目的が変わっていた。

 

「……手に汗を握る戦いでした……」

 

 アイリーンは純粋に「アニメ作品」として楽しむ方向にシフトしてしまっていた。マイラスはというと、

 

(あのドリルミサイルとやらいう兵器は、我が国の技術では再現はちょっと無理だな……。戦闘空母も、主砲の弾薬庫と艦載機格納庫に取られる容積の関係で再現は厳しい……。

だが、それよりもっ!)

 

 マイラスは、さっき登場した“三段甲板の空母”を思い出す。

 

(あの三段空母なら、いけるかもしれない……! 1隻だけでラ・ヴァニア級空母3隻分の搭載数を持つ空母……こりゃ使えるんじゃないか!?)

 

 技術的考察に()まり込んでいるマイラスであった。

 

 

 そう、マイラスは「ムーの軍事技術発展のヒント」として、ヤ◯トを観ていたのである。作品としても純粋に楽しめたのだが、それ以上に技術的なヒントが多かったのだ。

 

(しかし驚いたな……こんなアニメ作品に誘導魔光弾やらレーダー、更には「コア魔法」まで出てくるとは……)

 

 マイラスは思い返す。

 このヤ◯トを見始めた途端、マイラスはいきなりとんでもない兵器を見せ付けられてしまったのだ。「コア魔法」こと、惑星外から落下してくる()()()()()()「遊星爆弾」である。名前は全く異なるが、1発で都市1つを消し飛ばすその所業は、まさに伝承に伝わる古の魔法帝国の禁忌「コア魔法」に酷似していた。その他にも「ミサイル」という名称ではあるが、しっかり誘導魔光弾が登場している。どうやらかつて日本(タウイタウイ)が存在していた星「地球」では、こんな兵器の存在は()()()()だったようだ。まあ、以前に見た航空フォーラムの資料などから見ても明らかであるが……。

 マイラスはそれらの兵器の中から、ムーの兵器開発に使えそうなアイデアを必死で探し回っていたのだ。今のムーには、グラ・バルカス帝国という脅威が迫っている。かの国の最大の戦艦と見られるグレードアトラスター級戦艦についても、ここの資料のお蔭でかなり詳細な性能を掴むことができた。

 ならば、グラ・バルカス帝国の兵器に対抗できるよう、()()()()()()()参考になるものを集めたい。その一心で、マイラスは細かいところまで画面を見詰め…そしてとうとう、やっと1つ見つけた。……「ヤ◯ト」のアニメで出てきた技術のレベルがすごすぎて、1つだけしか見つからなかったが。

 

(戦車に装甲を搭載するのは当たり前……だが、その装甲を垂直ではなく斜めにすることができれば、見かけ上の防御力を上げることができる……! ちょうどこの前の軍事パレードにも、そんな戦車が1輌いたしな!)

 

 マイラスがやっと見つけたこれは、地球では「傾斜装甲」として知られるものである。早いところでは既に西暦1930年代に実用化されていた。戦車オタクなら「FCM36」といえば分かるだろう。ピラミッドみたいな面白い見た目をした、フランスの軽戦車である。

 そんなにマニアじゃない! という方でも、ソ連のT-34なら分かるだろう。FCM36より少し遅れて、西暦1940年代に登場した戦車であるが、傾斜装甲を全面的に採用した結果、正面から見ても側面から見ても台形にしか見えない車体が特徴である。傾斜装甲を採用した結果、見かけ上の防御力の強化、当時としては十二分すぎる76.2㎜砲の火力、機動力の高さによって、このT-34中戦車は性能バランスの良い高性能戦車として累計5万輌以上も量産され(参考までに、物量(米帝)プレイを以て知られるアメリカ合衆国のM4シャーマン中戦車でも、生産台数は全タイプ合わせて4万輌である。戦いは数だよ兄貴!)、ドイツの機甲師団を震撼させた傑作であった。ypaaaaaaaaaa!!!

 

 とそれはさておき、実はマイラスはこのアニメ1本(と、軍事パレードでちらっと見たパンター戦車)()()で傾斜装甲に気付いたのである。こんなアニメ1本と、ちらっと見ただけのワンシーンのみで気付くとは、「ムー国稀代の最優秀若手技術士官」の評価は伊達ではなかったというべきだろう。

 

(装甲板を斜めに倒すくらいなら、我が国にもできそうだ。

ただ、問題は“金属板を斜めに固定する方法”が我が国にはないことだ……! どうする? 装甲板は金属だけど、斜めに固定しなければならないから、ビス打ちなんて手は使えない……接着剤なんて不安定なもの使える訳もないしな。

……待てよ? もしかして、装甲板の端をわざと溶かしたままにして、金属を溶かしたままくっつけ合わせて固定することができれば、いけるか?)

 

 鋭い。そう評価するべきだろう。

 ノーヒントで「溶接」というアイデアに行き着くとは、流石マイラス。

 

(仮にこの案で行くとして、問題はどうやって金属板の一部だけ溶かしてくっつけ合わせるかだ。何か、そういうことに使える魔法具みたいなのなかったっけ……?)

 

 ムーの未来のため、頭脳をフル回転させるマイラスであった。

 

(それか、いっそこのロデニウスと同盟して、ここの戦車を導入することができれば……!)

 

 マイラスも、ロデニウス連合王国軍が戦車を持っているのは知っている。軍事パレードで見たからだ。

 特に先頭を走っていた見るからに重厚そうな車体と長砲身の主砲を持つ大型の戦車(ティーガーIのことを言っている)は、マイラスの印象に深く残っている。

 

(あんな戦車があれば、あの技術を解析して量産できるはず……! ただ、これは“技術”じゃなくて"外交"の問題なんだよな……)

 

 そう、外交においてはマイラスは“門外漢”なのだ。そこが最大の問題である。

 

(本国に帰国するまで、もうあまり時間がない。せめて情報収集だけでもしておくか。ここの図書館で金属加工関係の本があった書架、どこだっけな……?)

 

 宇宙葬のシーンが画面に映り、少し涙しているアイリーンの隣で、マイラスは必死に考えていた。

 

 

 今、ロデニウス連合王国では、タウイタウイ泊地から流入したサブカルチャーがかなりの流行を見せている。とはいっても、西暦2199年の日本からみれば“大昔”のサブカルチャーなのだが。

 ただ、サブカルチャーといっても、民間レベルでも手が届くのは読み物……つまり本が中心である。また、活版印刷術が使える大手新聞社のような…それこそ「(あお)()新報」のような新聞社くらいならともかく、民間の書店では“1冊ずつ書き下ろす”という手段しかないため、紙芝居やら本の読み聞かせ等くらいしか手がない。

 しかし、紙芝居のような代物でも十分なところもあった。日本で流行っていた小説……その中にはいわゆる「ライトノベル」という分野のものもある……は「青葉新報」を始めとする新聞社や、吟遊詩人の口伝、紙芝居等の方法で流行しつつある。げに恐ろしきは浸透圧であろう。

 

 そしてなんと、この流行の一翼を“軍”が担っている。意外に思う人もいるかもしれない。

 だが現に、日本を守る組織である自衛隊だってその傾向があるではないか。海上自衛隊の自衛官募集ポスターなんかに、はい◯りネタが入っていることもあるし、護衛艦に艦娘が入り込んでいることだってあるのだ。有名所は「あたご」とか「はるさめ」とか。他に「かが」も、探照灯による発光信号通信パフォーマンスで「頭にきました」と打電し(やがっ)たことがある。完全に確信犯である。いいぞもっとやれ。

 

 とまあそういう訳で、軍がサブカルに(あやか)ることは何も珍しい話ではない……とうp主は思いたい。

 

 そして本日は、普段は絶対に公開されないダイタル基地が一般公開され、前回の(がい)(せん)パレードに参加した一部の部隊がなんとハノマーク装甲車を公開して試乗キャンペーンを行っていた。Ⅲ号戦車N型も展示されている他、迫撃砲による砲撃訓練が見学を許可されている。

 

 だが……一番の目玉イベントはそこではなかった。

 

 基地の食堂は、普段は軍の兵士たちが利用しているのであるが、今回は一般客の利用する“即席シアター”と化していた。"青葉"が主導しているタウイタウイ泊地放送局「青葉放送局」……新聞である「青葉新報」を含む青葉メディアグループの傘下組織の一つである……の特別出張所である。

 で、何が放送されているのかというと……

 

 

 スクリーンに映されているのは、遊園地であった。そしてそこで、激しい砲撃戦が行われている。

 戦っているのは、3輌の戦車。小豆色に塗装されたⅣ号戦車H型、サンドイエローのティーガーⅠ、そしてグレーっぽい色に塗装されたセンチュリオン巡航戦車である。

 そして今、ティーガーⅠが発射した空砲に押され、Ⅳ号戦車が急加速でセンチュリオンに正面から突撃、敵の砲撃で履帯を切られながらも、ゼロ距離砲撃でセンチュリオンを仕留めたところだった。

 

『センチュリオン、Ⅳ号、行動不能!

 

…集計結果が出ました! 大学選抜チーム、残存車輌ゼロ! ◯洗◯子学園、残存車輌1! よって、◯洗◯子学園の勝利!

 

「「「おおおおおおお!!」」」

 

 スクリーンの中と外から、大きな歓声が上がった。

 

「凄い……!」

「あんな戦法があるのか……!」

 

 観客たちは大騒ぎである。

 映画の上映が終了した直後、大きな声でアナウンスが響いた。

 

「さあ皆様、ここで運試しのお時間です!

今からくじをお配りしますので、お一人様一つ限りで引いて下さい!

二等賞が当たったお方は、先程の映画で最後まで生き残っておりました黄土色の戦車、ティーガーⅠを間近でご覧いただけます! そして一等賞が当たったお方は、なんと! あの小豆色の戦車、Ⅳ号戦車に乗っていただくことができます!」

「「「「「うおおおおおぉぉ!!!」」」」」

 

 会場を揺るがすほどの歓声と一緒に、観客たちは一斉にくじ係に群がる。我こそ一等賞を手に入れんと、皆が自らの運に賭けていた。残念ながら二等賞は5枚、一等賞は2枚しかないので、凄まじい競争率なのであるが……

 

 

 そう、陸軍が大昔の日本のアニメとコラボした「ガル◯ンタイアップイベント」を実施していたのだ。なんとⅣ号H型、それも映画に登場したものと全く同じ塗装を施した車輌に乗ることができる、という(触れ込みであるが、実際には全員が乗れる訳ではない。詐欺にも聞こえるが、ま、古今東西どこにでもある話である)驚異のイベントである。

 

 え? いつの間にガル◯ンなんか放送していたんだ、って? 中央暦1640年6月の下旬頃から…つまりパーパルディア皇国との武力衝突が終わった辺りからである。ちなみに、この放送のせいでロデニウス国内におけるテレビの購入が促進されたことは言うまでもない。

 

 そして、それとは別の盛り上がりを見せていたのが、基地航空隊の滑走路である。

 

『それではこれより、2種類の航空機が離陸します!

ただいまより発進しますのは、海軍基地航空隊の戦闘機、零式艦上戦闘機21型です! 白いカラーリングとすっきりした機体が素敵ですね!』

 

 アナウンスの下、「栄」発動機を全開にした零戦が走り出す。やがて機体が浮き上がり、零戦は青い空に飛び立った。

 

『さあ、続いて発進するのは、我が陸軍が誇る最新鋭戦闘機、「F-86D改 セイバードッグ」! 大迫力の発進をお楽しみください!』

 

 そのアナウンスと共に滑走路に出てきたのは、(やじり)のような尖った形の灰色の戦闘機だった。ついに陸軍は、まだ採用されて1ヶ月ほどしか経たない最新鋭戦闘機、「F-86D改」の配備を開始したのだ。主に戦略航空軍に配備され、「B-29改」の護衛としての運用が予定されている。

 尚、何でF-86D「改」なのかというと、原型となった「F-86D セイバードッグ」が()()で運用する機体なのに対し、この機は機首にブローニング12.7㎜機銃4丁を搭載した上、着艦フックを装備して()()()として使えるようにしているからである。

 

キュイイイイィィ……ゴオオオオオオオッ!!!

 

 ジェットエンジン特有の(ほう)(こう)。さっきのレシプロエンジンの音とは比較にならない大音響に、観客がどよめく。

 次の瞬間、短距離走の選手もびっくりの速度で駆け出した「F-86D改」は、轟音によって大気を揺さぶった後、滑走路を蹴飛ばすようにして急角度で空へと舞い上がる。そして次元の違う速力であっという間に零戦を追い抜き、空の彼方へと消えた。

 

「す、すげぇ……!」

「あんな機体があるのか……!」

「これなら、パーパルディア皇国にも勝てる筈だ! ロデニウス万歳!」

 

 観客たちは大はしゃぎである。

 

『さあ、ここからは海軍航空隊の面々が素晴らしい編隊飛行を見せてくださいます! 皆様空にご注目ください!』

 

 アナウンスが聞こえ、それと同時に空母「()()」航空隊の「(れっ)(ぷう)一一型」5機が、ブルーインパルス顔負けの展示飛行を見せ始めた……

 

 

 これだけではなく、ムーからテレビ放送の技術が入ってきたため、ロデニウス連合王国はようやく本格的なテレビ放送を開始したのだ。「世界のニュース」も見ることができるようにしたし、さらにはタウイ図書館にあった本を使ってカラー放送を行うための研究も進んでいる。放送の旗頭となったのは、当然のように「青葉放送局」であった。

 

 ロデニウス連合王国は今日も平和です。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 ロデニウス連合王国……いや、日本のサブカルチャーは、何もロデニウス本土()()に影響していたのではない。ロデニウス連合王国が主宰する、大東洋共栄圏にも波及していたのだ。

 その最たる例は、意外にもフェン王国であった。

 

 

 とある平日の12時40分頃。

 フェン王国の首都アマノキの中央広場には、老若男女問わず大勢の人間が集まっていた。どれも皆フェン王国の住民たちだ。

 彼らの前には、「青葉放送局」のロゴマークを付けた、大型魔導スクリーンを載せたトラックが1台停まっている。選挙の宣伝カーみたいなものだ。集まっていた人々の視線は、そのスクリーンに向けられている。ちょうど1つの番組が、クライマックスに突入しようとしているのだ。

 では、どんな内容が放送されているのかというと……

 

 

 スクリーンの中では、3人ほどの人間が食事……いや、どちらかというと小規模の祝宴、ないし酒盛りか……をしている。3人のうち2人は刀を腰に差した武士の出で立ちであり、あとの1人はどちらかというと町人、もしくは商人といった様相であった。

 

『此度は世話になったな』

『いえいえ、これも勘定奉行であらせられる、相模守様のお蔭でございます。

そうそう、こちらをお渡ししなければ』

 

 武士の1人の言葉にそう応えて、商人は何かの木箱を差し出した。

 

『相模守様の大好きな、山吹色のお菓子でございます。お納めくださいませ』

『おお、これはこれは』

 

 木箱の中には、大量の山吹色のお菓子…つまり金色の小判がぎっしり詰められていた。

 

『それにしても、抜け荷の品を使って大儲け、というのは上手い手を考えたものでごさいますなぁ。お蔭様でこの木戸国屋、ますます繁盛するのは確実かと』

 

 その時、部屋の外から声が響いた。

 

《その小判が、貴様らの地獄への旅賃だ》

 

「何っ?」

 

 商人が不安そうに見回す中、武士の2人が抜け目なく刀に手をかけながら、障子を開け放つ。そこには、庭先に立つ1人の凛々しい武士の姿があった。

 

「何奴!」

 

 相模守と呼ばれた武士が誰何するも、乱入してきた武士はそれに答えることなく台詞を続けた。

 

『勘定奉行、伊南相模守治信。幕府の財政を預かるその立場を悪用し、私腹を肥やしたその罪状、明白であるぞ』

「何ぃ? 何者だ貴様!」

 

 勘定奉行、こと伊南相模守治信がもう一度尋ねると、その武士ははっきりと言い切った。

 

『愚か者め。余の顔を見忘れたか』

「何、()だと?」

 

 伊南がその男の顔を見た瞬間、カーン! という効果音と一緒に謁見の時に見た男の顔がフラッシュバックした。

 

「う、上様!」

 

 伊南がそう叫ぶや、3人は慌てて庭に出てきた。そして地面に両膝と両手を衝き、頭を下げる。

 

『勘定奉行、伊南相模守治信。その方、そこなる木戸国屋と結託し、抜け荷をして私腹を肥やしたばかりか、江戸の街の町人たちを苦しめたこと、断じて許し難し。潔く腹を切れ!』

 

 上様こと、将軍にそう言われた伊南は、ついに開き直った。

 

「もはやこれまでじゃ……者ども、出合え! 出合えーぃ!」

 

 あちこちで障子や襖を開ける音がして、大勢の侍が飛び出してきた。そして、将軍を囲むように立ち塞がる。

 

「此奴は、上様の名を騙る不届き者じゃ! 斬れ斬れ! 斬り捨てぃ!」

 

 一斉に侍は刀を抜き放った。それに対し、将軍は表情一つ変えずに刀を抜く。そしてカチャリと音を立て、刃を半回転させた。峰打ちの形である。

 次の瞬間、一が多を蹂躙する無双劇が始まった。将軍に斬りかかった侍たちは、しかし絶望的なまでの剣の腕の差で斬りかかるそばから峰打ちで倒されていく。さらにそこに、将軍直属の忍び(御庭番)までもが乱入し、伊南の配下の侍を片っ端から斬り倒していた。

 あっという間に侍たちはその数を減らし、ついに残るは伊南と側役の武士1人のみとなった。木戸国屋の主人? 乱戦の中、どさくさに紛れて御庭番に斬られている。

 

「うおぉっ!」

「てやぁっ!」

 

 かけ声と共に斬りかかってきた2人の剣を一刀の下に弾き飛ばした将軍は、ただ一言、命じた。

 

『成敗!』

 

 その直後、丸腰にされていた2人は短刀(脇差)を抜く暇もなく、御庭番の一撃を受けて砂利の上に倒れ伏した。それを確認した将軍は、キンという甲高い金属音と共に、刀を鞘にしまい込む……

 

 

 そう。フェン王国では、タウイタウイ泊地から流入した時代劇ものの番組が、大流行を起こしていたのだ。特に「◯れん坊将軍」等の勧善懲悪ものが凄まじい流行を見せている他、「風◯火山」なんかも大人気だ。

 近いうちには「るろうに◯心」の公開が予定されている。こちらは剣(正確には刀だが)による戦いが主テーマであるせいもあって、かなりの流行が見込まれていた。

 なお、こうした番組の中で登場した“剣筋”を何とかして体得しようと、大人から子供まで必死で剣を練習しているのは別の話である。

 

「今日も面白かったではないか? のう、マグレブ?」

「はっ、真に面白うございました」

 

 午後1時頃、アマノキ郊外のフェン王城。

 丁度お忍びの散歩から帰還した「剣王」シハンが、王宮騎士団長マグレブに話しかけていた。実はシハンも、こっそり◯れん坊将軍を見ていたのだ。

 

「あのような劇があるとはな……今度、我が国でも“あれに似たもの”を撮影してみるか?」

「ええぇっ!?」

 

 マグレブ、不覚にもすっとんきょうな声を上げてしまった。

 

「や、やるにしても、主演は誰が……まさか、剣王様がなさるのではないですよね?」

「ん? やるつもりだったが?」

「「「えええええっ!?」」」

 

 マグレブのみならず、その近くに控えていた武士たちも驚いた。彼らには一生の不覚である。

 

 ここで「いや何やってんだフェン王国」とツッコミを入れたくなった人は挙手。

 

 

 これだけではなく、信じ難いことにパンドーラ大魔法公国でも流行っている映像作品がある。あろうことか、「魔法少女」系の作品……つまり◯ど◯ギだとか「私、能力は◯×値でって言ったよね!」だとかの作品が流行っていたのである。「青葉放送局」の出張サービスを利用したのであった。

 「何やってんだお前ら」とツッコミが入るかもしれないが、何もアニメ作品として純粋に楽しんでいる()()ではない。そんなので済ませるほど、彼らは甘くない。

 

「どうやったら、あれだけの数のマスケット銃を一気に展開できるんだ? しかも多分、あれパーパルディアが使っているような魔導マスケット銃だよな? んー、じゃあまずはマスケット銃の再現からか……」

「時間操作の魔法だと!? これ……どうやったら再現できる!?」

 

 そう……彼らもまた、マイラスと同じパターンに陥っていた。新しい魔法のヒントを得ようとして、こうした作品を見ているのである。それも一般市民だけならともかく、軍の精鋭魔導士たちが寄って集って、()()()()()()アニメ作品を見ているのだ。

 端から見れば「何やってんだお前ら」と、ツッコミを入れたくなること請け合いな光景である。だが、自国の魔導技術を強化できるチャンスであるならば、彼らはなりふり構ってはいられなかったのだ。

 これまで魔導技術を独占していたばかりか、自国を「魔導技術を開発させるための奴隷」の如く扱っていたパーパルディア皇国から、大量の魔導技術を得る……彼らなりの表現をすれば「取り返す」……ことはできたが、“効率が良くない”と感じられる部分もあるにはある。

 それに、パンドーラ大魔法公国が参加している「大東洋共栄圏」。それの主宰国・ロデニウス連合王国は、どうやら「古の魔法帝国が復活した時に使うための切り札」を独自に研究しているらしく、パンドーラ大魔法公国にも多額の資金と引き換えに支援を求めている。

 ならば、「第三文明圏最強の魔導国家」のプライドに賭けて、魔導技術についてはロデニウスにも負けない力を保持し、“魔導技術の手本”たらなければならない。そのためなら、彼等は多少の労力など惜しまなかったのである。

 

 

 そして魔導技術といえば、ロデニウス側も負けてはいなかった。

 

「できた……できたぞ……!」

 

 クワ・タウイ造船工廠の設計局では、この何日間にも亘る徹夜上等のハードワークのせいで血走った目になっている何人もの造船技官が、1枚の設計図を前にしてうわごとのように呟いていた。そこには、航空母艦と思われる平べったい形の船が描かれている。しかし飛行甲板には「風神の涙」が埋め込まれ、複雑な紋様の魔法陣が描かれるなど、明らかに空母とは異なる部分が見受けられた。

 

 そう……タウイタウイ泊地から航空母艦の設計図の提供を受けて、ロデニウス連合王国海軍と空軍が共同で研究していた独自の「竜母」の設計図が、やっと出来上がったのである。

 その性能がこちらであった。

 

 

艦級「アマオウ型航竜母艦」

 

全長 205メートル

最大幅 20メートル

喫水 6.5メートル

排水量 11,200トン

飛行甲板 長さ180メートル、幅23メートル、エレベーター2基

機関出力 52,000馬力

最大速力 28ノット

航続距離 18ノットにて7,800海里

武装 八九式12.7㎝連装高角砲4基、エリコン20㎜対空機銃20丁

搭載可能頭数 ワイバーン52頭、ワイバーンロード40頭、ワイバーンオーバーロード24頭、風竜15頭

 

 

 性能モデルとしたのは、(しょう)(ほう)型空母である。

 

 “航空母艦の常識”からいうと、第二次世界大戦当時の小型空母としては至って普通である。だが、“竜母の常識”からいえば「ぶっ壊れ」という表現すら(なま)(ぬる)()()()()()だ。

 まず、全長200メートル超という時点で常識外れもいいところ。竜母の中ではかなり先進的な技術で作られていたパーパルディア皇国の竜母ですら、全長80メートルだというのに、アマオウ型竜母はその2倍以上の大きさである。しかもワイバーンロードの搭載数は、パーパルディア皇国の竜母が20頭で限界なのに対して40頭、こちらも倍である。

(しかも、実はこの搭載数、格納庫にかなりの余裕を見込んだ上での数である。無理をすれば、アマオウ型竜母は50頭くらいのワイバーンロードを何とか搭載できる)

 そればかりでなく、パーパルディア皇国の竜母はどれだけ頑張っても12ノットの速力が限界なのに、こちらはその倍以上の速度をあっさりと出せる。これは、風を動力源とする帆船方式を廃し、代わりにロ号艦本式缶を使って重油で走ることの他に、艦底部に「海神の魔靴」なる魔法具を搭載したためだ。なお、魔力がもったいないので普段は「海神の魔靴」は使用しない。それでも、26ノットの速力は確保できている。

 そればかりでなく、パーパルディア皇国の竜母は搭載数に性能ガン振りしているため、武装なんてものは無きに等しい(対空用のバリスタくらいしかない)のだが、アマオウ型竜母は回転砲塔付き12.7㎝連装砲を両舷に4基搭載している。これは、威力・射程・命中率いずれも戦列艦の艦砲を大きく上回る性能だ。マギカライヒ共同体の機甲戦列艦が相手でも、返り討ちにできてしまう。更に、ムー国のラ・カサミ級戦艦が対空兵装として装備している8㎜単装対空機銃を上回る威力を持つ、エリコン20㎜単装対空機銃を所狭しと並べ、その上12.7㎝連装高角砲には、VT信管搭載弾を装備させているのだ。個艦防空能力も、竜相手なら十二分である。

 最大の特徴は、その発艦方法だ。パーパルディア皇国の竜母に限らず、各国が保有している竜母は全て帆船である。そのため、ワイバーンを発艦させる時には広げた帆が邪魔になるので、帆を降ろす……つまり停船する必要がある。だが、アマオウ型竜母はロ号艦本式缶で動力を得ており、真っ平らな甲板には帆を張るためのマストなんてものは全く存在しないので、ワイバーンの発艦時に停船する必要はない。それどころか、28ノットの全速で……とは言わないまでも、ある程度の速力で航行した状態でのワイバーン発艦が基本である。しかも、これまで各国が使っていた竜母に比べて、ワイバーンの発艦に必要な風力を、缶の速力による合成風力で肩代わりできるようになったため、甲板に埋める「風神の涙」の数を大きく減らし、魔力消費によるコストを大幅にカットすることに成功した。“高性能の癖に運用がローコスト”という、反則もいいところな性能である。

 聞くところによれば、第二文明圏の準列強国マギカライヒ共同体も、半機械式の竜母を持っているという。だが、その半機械式竜母は、いうなれば“黒船を無理矢理竜母にした”ような外見であり、性能的には機械式竜母と帆船型竜母のどっちつかずになってしまっているそうだ。その竜母とアマオウ型竜母とは、もはや比べるべくもないだろう。

 その上、厚さ5㎜とかなり薄いが、RHA(均質圧延鋼装甲)装甲板まで飛行甲板に張って、“装甲竜母”にしてしまっている。風竜の圧縮空気弾ならともかく、ワイバーンロードの導力火炎弾程度では発艦能力は失われない。

 なお、甲板に埋めた「風神の涙」を魔力全開で使用し、かつ「海神の魔靴」まで全力で使用して、28ノットの全速力で風上に向かって突進すれば、理論的には“風竜の発艦”もこなせてしまう。“風竜を飛ばせる竜母”なんて、誰も聞いたことがない。現時点で世界各国が……第二文明圏のニグラート連合やマギカライヒ共同体、第一文明圏のトルキア王国などが配備している木造帆船型竜母が裸足で逃げ出すような性能を、アマオウ型竜母が持っていることは明白である。いや、かつての列強国・パーパルディア皇国やレイフォル国が装備している竜母でも、ここまでの性能ではない。

 

 長々と述べてきたことをまとめると、アマオウ型竜母は各国の木造帆船型竜母を一瞬で時代遅れの旧式艦にできるほどの、“エポックメイキングな竜母”である。この竜母が量産され、まとまった数の竜母機動部隊として運用され始めた暁には、ロデニウスの竜母機動部隊こそ()()()()()竜母機動部隊となるだろう。

 

「『風神の涙』や『海神の魔靴』はどこから調達するんだ? 我が国も精製技術を高めてはいるが、あまり高性能なものはできないぞ」

「そこは外国に頼るしかないだろう。『風神の涙』なら、アルタラス王国で産出する魔石は純度が高いし、そのアルタラスは新生パールネウス共和国から精製技術を貰ってるんだろう? それなら、『風神の涙』を大量発注すればアルタラスの産業回復・外貨獲得で一石二鳥になるじゃないか。

『海神の魔靴』はパンドーラ頼りだ。悔しいが、今の我が国では魔石精製技術においてパンドーラに勝てない。ここは彼らの技術を素直に認めるべきだろう」

「ああ。だが我々だって負けっ放しじゃいられない。いつの日か、彼らの技術を追い抜いてやろう!」

 

 ロデニウスの技術者たちも、“大東洋共栄圏の平和を守るリーダーたらん”とするために、魔導技術を磨こうと必死なのであった。




自分でやっておいて何ですが、フェン王国とパンドーラ大魔法公国の人々に一言物申したい。

「何やってんだお前ら。…いいぞもっとやれ。」

そしてついに半機械式竜母の設計図が完成。量産はこれからですが、第13艦隊の建造工廠とか使ったら、あっという間にできてしまいそう…もし完成すれば、トンデモ性能でもって一瞬で次世代竜母のスタンダードになりそうですね。
更にはF-86D改の配備もスタート。まだまだ配備数は少ないですが、「エルペシオ3」すらも凌駕するその性能が輝く日は近い…?


総合評価がついに6,000ポイント突破ですと…!?
毎度のことで恐縮ですが、皆様本当にご愛読ありがとうございます!!!
評価5をくださいましたTFTRDH様
評価8をくださいましたはる猫様
評価9をくださいましたせるじゅ様、そらのすけ様
評価10をくださいましたスカイキッド21様、red sann様、紀伊型護衛艦1番艦紀伊様
ありがとうございます!!
また、新たにお気に入り登録してくださいました皆様、ありがとうございます!


次回予告。

戦争が終わり、完全に平常状態に戻ったロデニウス連合王国。列強パーパルディア皇国を下したことで列強入りもあり得ると見込んだ彼らは、様々な分野における人材育成や近代化を急いでいた…
次回「ロデニウスのとある日」

P.S. 大規模な戦争も戦後処理含めて全て終わりましたし、そろそろ間章の投稿を考えています。
今回の間章の主役となるのは、これまであまり出番のなかったムー国外務省の調査官アイリーン嬢!彼女の目に、ロデニウス連合王国という東の端の国家はどのように映っていたのか…それを描いていきたいと思います!
あと、物語の進行が遅くて本当にすみません…。今年中には中央暦1640年の出来事を終わらせてしまいたいですが、できるかなぁ…魔王戦の他にも幾つかイベントが予定されておりますので…。
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