鎮守府が、異世界に召喚されました。これより、部隊を展開させます。 作:Red October
◯ンジャンドラム。
◯DFのかんしゃく玉。
おやすみベアー。
このどれか1つでも大好きだという者は、ここに残れ。アンポンタン…
なんで誰も出ていかないんだよチクショウメー!
中央暦1640年8月7日、ロデニウス連合王国 タウイタウイ島。
第13艦隊が拠点を置くこの島は、東西に細長い島である。そして、島東端の南にタウイタウイ泊地……第13艦隊の拠点がある。
その第13艦隊を支える“最も重要な施設”は何であるか? それは二つある。一つは、
第13艦隊の各艦娘の艤装の管理から、新装備の開発、不要になった装備の廃棄、新たな艦娘の建造、改造した艤装等の性能試験……粗方の“艦娘の艤装や装備が絡むこと”は、全てこの工廠が担っている。工廠は「タウイタウイ泊地最大の縁の下の力持ち」と言っても過言ではなく、決して欠くことのできない存在であった。
そんな工廠であるが……新兵器の開発を行うということは、つまり新兵器開発の参考となる
海岸線の敵要塞を破壊するために“巨大ボビン型自走爆薬”を開発しようとした某国の如く、宇宙人を駆逐するのに“遊び道具”を
それは、このタウイタウイ工廠においても例外ではなかった……
工廠が入っている建物の二階。そこは専ら、新兵器開発のための研究会議に使用されるフロアである。
その会議室に何人かの艦娘が集まっていた。その面子は、まず工廠にいる(というか、工廠
そして
「皆さんお集まりですね? ではこれより、会議を始めます」
全員が着席したのを受けて、桃色の髪が目立つ工作艦の艦娘"明石"が起立し、厳かに宣言した。
「第1回、酸素魚雷に関する検討会議!」
「「「「「応!」」」」」
そう、彼女たちは「新型の酸素魚雷」の開発、または「既存の酸素魚雷の改良」を狙っていたのである。……現在第13艦隊に配備されている主力魚雷・「九三式酸素魚雷」でも十分な性能があるというのに、この上まだ開発ないし改良しようとしているのだ。
これを変態と言わずして、何と言うのか。
実は、そもそもこの魚雷バカぶりは「旧日本海軍から続く伝統」だ、ということを説明しておこう。
建軍以来、大日本帝国海軍は数多の条件を列強諸国から突き付けられてきた。そのいい例は、ワシントン海軍軍縮条約やロンドン海軍軍縮条約であろう。
また、日本はアメリカのように膨大な量の資源が国内にある訳でもなく、イギリスのように資源を搾り取れる植民地を多数持っている訳でもなかった。要は“貧乏軍隊”だったのだ。
しかしその中で、“アメリカやイギリスの海軍にも負けないような強さ”を求められた。求められて
答えは簡単。なるべく資源を消費せずに済む「エコな」兵器を使えば良いのである。
そこで海軍が目を付けたのが、“魚雷”という兵器であった。
魚雷は、「命中すると船の喫水線下に大穴を開ける」という特性上、命中さえすれば絶大な威力を発揮する。その気になれば、装甲を持たせることができず、砲も豆鉄砲しか積めないような小型艦でも、戦艦を仕留めることができるのだ。これは魅力的と言えた。
また魚雷は、弾頭さえ模擬の物に差し換えれば容易に訓練ができるし、発射装置も小型艦に搭載できる程度の小さなもので良い。そして大砲のように、訓練するだけで発射装置が消耗することもない。要するに低コストで比較的容易に練度を上げられる。これは理想的な兵器と言えた。
かくして日本海軍は、ひたすら“魚雷の開発”と“魚雷を搭載して戦う”駆逐艦や巡洋艦の建造に、その持てる力を注ぎ込むことになった。戦艦のような“主力艦の保有数”を制限された以上、“補助艦艇”としか看做されない小型艦に戦艦を葬ることができる兵器を持たせる必要がある。そのため、日本海軍は様々なタイプの駆逐艦を開発し、魚雷を使った戦術を研究した。
まず作り上げた駆逐艦は「
だが、日本海軍はこれでは満足できなかった。折しもワシントン海軍軍縮条約が締結されたこともあり、日本海軍の中では「軍縮条約に制限のない巡洋艦や駆逐艦で、強力な艦を建造して、欧米列強に対抗するしかない」という考え方が強まった。
その結晶として生まれたのが、
特型駆逐艦の登場は、全世界に衝撃を与えた。アメリカが日本に「特型駆逐艦50隻なら、我が国の駆逐艦300隻と交換しよう」と提案したという笑い話が残るほどである。それほどまでに、この駆逐艦は各国に凄まじい衝撃を与えたのだった。
またこの駆逐艦は、日本海軍がこの後設計する駆逐艦の基本ともなった。実際に、日本海軍が特型駆逐艦以降に建造した駆逐艦を見て貰うと、その傾向がよく分かるだろう。
駆逐艦の建造と並行して、日本海軍は駆逐艦に搭載する魚雷の開発にも取り組んだ。
その当時から、「酸素魚雷」という兵器はどこの列強国でも構想されていた。当時の魚雷の推進剤(燃料の燃焼に使われる気体)に使われていたのは、酸素……を含む空気。これを圧縮し、魚雷内のタンクに詰め込んでいた。
ただ、この“空気で走る魚雷”には欠点があった。
皆様もご存知の通り、大気の成分は窒素約78%・酸素約21%・その他諸々約1%。これらのうち窒素は、燃焼反応で消費されないばかりか、排ガスのような格好で魚雷の後尾から排出される。その窒素メインの空気が、海中で白い泡の線となり、魚雷特有の線状の航跡を生み出すのだ。この白い線状の航跡が目立つのである。これは、魚雷における
だが、もし用いる空気を圧縮空気ではなく純酸素にできれば、燃焼反応によってできる二酸化炭素は海水に溶けやすいから、航跡が
しかし、どの国も成功しなかった。“純酸素の扱い”が難しすぎたのである。
列強各国が次々と酸素魚雷の開発を諦め、あのアメリカですら撤退を余儀なくされた。そんな中、唯一日本だけが酸素魚雷の開発を成功させた。これは、発射直後は通常の空気を使用し、徐々に酸素の濃度を高めていって最終的に純度100%の酸素を使用する、という方式を採ったことによる。
太平洋戦争において実戦使用された酸素魚雷は、長射程・超高速・大威力・無航跡というチート性能を以て、主にアメリカ海軍の艦艇相手に猛威を振るい、アメリカ海軍の兵士たちはこの魚雷を「
最終的に太平洋戦争が
そして余談ながら、旧日本海軍はついに“頭のネジがぶっ飛んだのではないか”と思える艦を作り出した。「5,500トン型巡洋艦」(5,500トン前後の排水量を持つ軽巡洋艦の一連のシリーズのことである)の初期型である「
魚雷バカここに極まれり。
なお、ここまで散々述べたことで旧日本海軍がどれだけ魚雷バカだったのかがよくお分かりいただけたと思うが……実は海上自衛隊も魚雷バカである。海自が魚雷の整備に費やす年間予算は、他国の軍のそれの
それほど高性能の魚雷である酸素魚雷だが……なんと彼女たち、これほどの高性能魚雷ですら満足できなくなったのだ。そして改良しようとしていたのである。大日本帝国海軍以来の魚雷バカぶりは、伊達ではなかった。
「まずは、“現在使われている酸素魚雷の欠点”を教えていただこうと思います! なので、今回は“酸素魚雷の専門家”といっても過言ではない、重雷装巡洋艦の三人にお越しいただきました!
それでは皆様、ご意見をお願いします!」
"明石"がそう言って着席すると、雷巡の三人が立ち上がった。
「九三式酸素魚雷って、硬くて、冷たくて……素敵なのよね〜」
真っ先に口を開いたのは、白いセーラー服を着用したセミロングの茶髪の艦娘である。
重雷装巡洋艦娘の"大井"なのだが……発言内容は、部外者が聞いたらドン引き間違いなしである。だが、酸素魚雷を人一倍
「でも、そんな素敵な酸素魚雷にも、ちょっと無視できない欠点があるのよねぇ……」
"大井"の発言を、片目に眼帯を装着して黒いマントを羽織った艦娘…"大井"の妹"木曾"が引き継いだ。
「まずはやはり、“誤爆率が高い”ことだな。というより、信管の調定機能が要らないように感じられる。あんなのがあるせいで、魚雷連管の妖精たちが信管を過敏に設定しちまって、目標に当たる
彼女の発言した内容である「誤爆率の高さ」こそ、“酸素魚雷最大の欠点”である。これは、現場で魚雷の信管を調定できるようにしてしまったことが原因であった。技術者たちは「これほど高性能の魚雷がせっかく敵艦に命中したのに爆発しなかった」というようなことが起きては不味いと考え、信管の調定機能を持たせたのだ。しかし、現場で魚雷の信管調定を行う連管員たちが、技術者たちと同じ恐れを抱いた結果、酸素魚雷の信管を極めて鋭敏に設定して発射する、ということがよくあった。そのため、かなり鋭敏に調定された信管が波に当たった程度で反応して起爆、結果として“敵艦に命中する
「それと後は、発射した後ちょっとの間は航跡が見えちゃうことかなー。できれば、航跡は
のんびりしたような口調で話すのは、二人の姉である"北上"。"大井"とお揃いの白いセーラー服と、お下げにした黒髪が目立つ艦娘である。
「という訳で、問題としては“信管調整機能による誤爆率の高さ”と、“少しの間だけ残る航跡”が、考えられるかなー?」
同じくのんびりした声で、酸素魚雷の問題点をまとめる"北上"。"大井"と"木曾"も、うんうんと頷いている。
「なるほど、ありがとうございました。現在の酸素魚雷の問題点としては、“信管の調定機能が要るかどうか”ということと、それに付随する“早爆率の高さ”、そして“発射後数百メートルは残る雷跡”。この三点ということでよろしいでしょうか?」
"明石"が確認すると、雷巡艦娘三人は頷いた。
「では皆様方、意見をお願いします!」
"明石"の発言に、真っ先に手を挙げたのは灰色の髪を持つ艦娘であった。軽巡洋艦娘"夕張"である。
「魚雷の雷跡についてですが、これを消そうと考えると、魚雷タンク内の推進剤を
「ウチみたいに、合成風力全開でー……って訳には行かんのやね」
"夕張"の発言に、関西弁が特徴の軽空母艦娘"龍驤"が応じた。
「はい。まあ魚雷の誤爆率については、信管の調定機能を外した状態にすれば、少しマシになると思いますけど……」
「問題は、“どうやって酸素の吹き付け量を調整するか”ということになるかも?」
"秋津洲"が"夕張"にツッコミを入れた。
「そうです。そこをどうするかが課題です」
「「「うむむむむ…」」」
"夕張"の言葉に、全員が考え込んだ。
タンク内の気体を“純酸素のみ”にすれば良い。それは誰でも考え付く。しかし、純酸素のみにすると、特に燃焼を開始した時(つまり発射直後)の酸素供給量の調整が難しいのだ。旧海軍もその問題で行き詰まり、最終的に「最初は圧縮空気を使用し、徐々に酸素の濃度を増やす」という方法で解決している。
だが、最初から純酸素のみを使用するというのであれば、そんな
「最初はエンジンに吹き付ける酸素の量を少なくして、その後徐々に酸素の量を増やしていく、ってことができれば良いんだけどねー」
「そんな器用なことができたら、最初から困ってないですよ!」
"北上"のコメントは、"明石"によってブッた切られた。
「うーん、何かないのか? さっき龍驤が合成風力とか何とか言ってたけど、例えば、タンク内に小型のファンを設置して、それの回転数を調節して酸素の供給量を調整する、とか」
「それが難しいんですよね。ファンを回すのであれば、
"木曾"の提案に"明石"が難色を示したその時。
これまで一切コメントせずに考えていた"釧路"の脳裏を、何かが掠めた。
……合成風力……風力……風?
一定方向に、一定の強さの風を吹かせる?
そんな
その瞬間、"釧路"の脳裏を“一隻の帆船”がよぎった。今年1月にフェン沖海戦で降伏し、タウイタウイ泊地に鹵獲曳航されてきた、パーパルディア皇国の戦列艦である。その艦は現在もタウイタウイの港に留められており、まだ「対魔弾鉄鋼式装甲」とやらいう装甲板の解析と魔導砲の撃発回路の解析が済んでいないものの、それ以外は粗方解析が済んでいる。
確か、その戦列艦の推進方式は……!
「あれだ!」
突然大声を上げた"釧路"に、出席者の面々がぎょっとする。
「く、釧路ちゃん、何か考え付いたの?」
「あれです! 『風神の涙』を使えば良いんですよ!」
"釧路"の言葉に、"明石"がはっとした。
「た、確かに……『風神の涙』なら……!」
「何だ、その『風神の涙』って?」
疑問を呈した"木曾"に、"釧路"が説明した。
「『風神の涙』というのは、魔法具の一種なんです。使用すると、込められた魔力が尽きるまで『ある一定の方向に一定の強さの風を吹かせることができる』という道具です。
この第三文明圏周辺では、我が国以外では蒸気タービンやらボイラーやらの推進方式が認知されておらず、この『風神の涙』を装備した帆船が一般的なんです。例えばアルタラス王国やパーパルディア皇国は、自国海軍の主力艦である戦列艦に、この魔法具を搭載して航行させていましたし、我が国でも民間の高速旅客帆船がこれを搭載しています。
これを小型化してタンク付近に設置すれば、スペースを取ることなくファンと同じ機能を持たせることができますから、後は『風神の涙』の出力を調整できるようにしたり、それが無理でもエンジンへの吸入口の大きさを調整したりできれば、圧縮空気を用いない
「へぇ、そんな道具があるのか。魔法も満更捨てたもんでもないな」
"木曾"が感心したようなコメントを返す。
「よし。なら、取り敢えずそれでいきましょう! まず、信管の調定機能は廃止することを検討。そして『風神の涙』で酸素の供給量を制御することで、空気を用いない純酸素魚雷を目指す。これで良いですか?」
出された案を"明石"がまとめると、雷巡艦娘三人も同意とばかりに頷いた。
「んじゃ、それでお願いねー」
「分かりました! 何か進展があったらお知らせしますね!」
その発言を最後に、雷巡艦娘三人は退室した。
「よし。それじゃあ改良のために、どこから研究するか考えますか!」
「ほんなら、ウチと秋津洲ちゃんで『風神の涙』とやらの風力について研究するわ。風力測定なら、ウチはしょっちゅうやっとるから慣れとるし」
「任せて欲しいかも!」
"秋津洲"が(物理的に)低い胸を張ると、"夕張"も口を開く。
「それじゃあ、私は魚雷のエンジンへの酸素供給の調整と、信管の調定機能廃止の試みについて研究するわ。また工廠の測定機材借りるかもしれないから、その時はお願いね」
「もちろん! それじゃ、こっちは『風神の涙』を上手く組み込むための魔導工学の研究に入りますね。釧路ちゃん、サポートお願いね」
「もはやこれも、
かくして、
「明石さん大変です! 研究予算の申請が提督に却下されました!」
「ファッ!?」
……寸前で、「予算」という名の暗礁に乗り上げた。
どうしたのかというと、要約すれば「酸素魚雷を改良して、完全無航跡の酸素魚雷を作るから予算くれ」という申請書を"釧路"が"明石"の指示で書き、提督たる堺の元に持って行ったのであるが、
「却下する」
この一言を突き付けられたのだ。
「ど、どうしてですか提督! 酸素魚雷の改良ですよ! 誤爆率の低下、射程延長、更なる高速化、威力増大、良いこと尽くめなんですよ! それに魔法や魔導の研究にもなりますし!」
力説する"釧路"であったが、
「いや釧路、気持ちは分かる。だがな……予算に余裕がないんだ」
苦虫を噛み潰したような顔で、堺はそう言い切った。
艦隊司令の仕事はいくつもある。その一例が、“自分の艦隊で使う予算の獲得”だ。
軍隊は多数の人間が集まる、いわば会社のようなもの。当然ながら人件費がかかる、兵士に渡す武器を製造する金がかかる。海軍ともなれば、軍艦の建造から建造した軍艦の維持、空母を持つ場合は航空機の配備など、どれもこれも多額の金がかかるものだ。
ロデニウス連合王国は、大東洋共栄圏各国との取引やら交易等によって、第三文明圏とその周辺では豊かな国家の一つに変貌している。だが、国家の全てを賄い切れるほど裕福という訳ではなく、あちこちの部署が『我こそ1ロデンでも多くの予算を獲得せん』として、熾烈な争いを繰り広げているのだ。ムー国に倣って急ピッチで国内体制の近代化を進めている以上、どこの部署も予算が不足していたのである。それはロデニウス連合王国軍においても例外ではなかった。
ロデニウス軍の陸軍・海軍・空軍・海兵隊・空挺隊の五軍は、普段はかなり仲良くして連携しているのだが、“予算のこと”となると一変。月1回の予算配分会議では、毎度毎度凄まじい対立を展開する。どの軍も予算が足りず、1ロデンでも多くの予算を欲しがっているからだ。
まず陸軍は、武器の更新期に入ったことで、これまでより高価な兵器を多数揃えることが必要となった。新たにMBTに指定されたIV号戦車は、Ⅲ号戦車より高性能であるものの、その分製造コストや維持コストが高くなっている。新たに制式採用されたパンター改の製造&維持費用も馬鹿にならない。ましてティーガーIともなれば、予算配分に明らかな悪影響を及ぼすほどの高いコストがかかってしまう。それに銃や大砲も決して安くはなかった。そして、少ない予算を5つの軍団が取り合う訳であるから、その争いの凄まじさは推して知るべし。
次に海軍であるが、陸軍に負けず劣らず5つの艦隊司令官同士が凄まじい対立具合を見せている。これは、新たな艦の建造(特に建造計画が進んでいるロデニウス国産の戦艦)に高コストがかかっていること等が要因だ。
あまりに対立が激化したため、海軍大臣ノウカの一存で、“全艦隊に
第13艦隊は多数の戦艦と空母を揃え、ロデニウス海軍の中では間違いなく“最強の艦隊”を擁しているのだが、その分その維持にかかるコストはかなりの額に上る(ただし、どちらかというと燃料代ではなく、人件費と
というわけで、堺のみ不平を抱えたままなのであった。
空軍も、なるべく多くのワイバーンロードを保有しなければならないため、予算獲得欲求は尋常ではない。それに加えて、先日計画決定されたアマオウ型竜母。あれの建造コストが、結構
また海兵隊にしても空挺隊にしても、予算の欲しさは他の三軍にも劣らない。特に海兵隊は戦車を保有したりしなければならないからだ。
空挺隊に関しては、今はMP40で訓練を行っているものの、MP40では有効射程が短すぎる。かといって、重たいM40GRG ガラント銃を持ち込む訳にも行かない。そこで現在、MP40と同レベルの連発性を持ちつつも、300メートル近い有効射程を持つ新型の突撃銃の開発が進んでいる。開発完了して配備が開始されれば、空挺隊と海兵隊を中心に配備され、後に三軍にも拡大される予定であった。この新型銃の開発コストも馬鹿にできないのである。
という訳で、どの軍のどの部隊も、予算に関しては誰にも一歩を譲ろうとしないのである。
あまりにも予算の奪い合いが激しいため、予算獲得を半ば諦めていた"あきつ丸"の提案を堺が採用したことにより、第13軍団と第13艦隊は予算獲得競争から手を引き、最低限度の予算のみ獲得することにした。その代わり、この両部隊は“独自の方法”で足りない予算を補填しようとした。
そう……ロデニウス第13軍団と第13艦隊は、『日本の所属であることを生かした方法による予算獲得』を狙ったのだ。その考えの結果が、“日本のアニメ等を利用したイベントの企画”である。先のガル◯ンタイアップイベントも、実は予算獲得のためだったのだ。貧乏軍隊の悲しさである。
これ以外にも、青葉メディアグループと協同し、他国に対して日本の番組を提供する代わりに一定の「娯楽料」を頂き、それの一部がタウイタウイ泊地に還元されて第13艦隊と第13軍団に振り分けられる、という仕組みも取っている。1ロデンでも予算が欲しいのは、青葉メディアグループも変わらないからである。
そして今月の第13艦隊の予算は、既に逼迫した状態となっていた。
戦艦「
こんな状況下では、もう余分に捻出する予算がない。そのため堺は、止む無く"釧路"の計画書を
「すまんが、今月はもう無理だ。予算に余裕がない。取り敢えず来月まで待ってくれ」
「そんなぁ〜」
がっかりする"釧路"であったが、金がないのでは仕方がなかった。
かくて予算が認められず、酸素魚雷改良の研究は(書類上は)一時的にストップを余儀無くされたのである。
だが、そんなことで諦めるほど
「ウチのポケットマネーやけど、ちょっと投資するで!」
「私のだって、使って欲しいかも!」
そう……彼女たちはこれまでに貯め込んだ自分たちの給料からちょっと支出してでも、研究を進めようとしたのだ。
クワ・タウイ建造工廠やロデニウス大陸各地の海軍拠点への技術指導のため、しょっちゅう外出する"釧路"が、ロデニウス大陸西部沿岸最大の拠点・ピカイア軍港へ技術指導に行ったついでに、ロウリア州州都ジン・ハークの市場に立ち寄って、皆から集めたポケットマネーで「風神の涙」を購入。それを元に、"龍驤"と"秋津洲"が風力と魔力の測定に取り組んだ。
魔法なんて初めて弄るものである。彼女たちは真剣そのものの様子で「風神の涙」や測定器と睨めっこしている。
「うーん、最大魔力で回したらこんだけの風を起こせるんやね。でも流石に、魔力全開での運転はキツいわー」
「ちょっと落とすかも?」
「せやね、んなら次はこれの7割にしよか。流し込んだ空気の量とかどないなった?」
「ええっと……これが数値かも!」
「どれどれ……十分やね。んなら7割試すわ、測定器リセットしてー!」
「かも!」
この光景だけ見れば、特におかしなところもない普通の測定風景である。……二人共二徹しており、目の下に濃いクマができている他、目がギンギラギンになっていることを除けば。
彼女たちもまた、十分に
そして翌月、中央暦1640年9月。
予算申請が可決され、やっと研究予算を貰えた彼女たちは、いよいよ本格的な研究に取りかかった。まず、酸素魚雷の“信管調定機能の必要性”を判定するため、信管調定機能を持たせた従来の魚雷と機能を廃止した魚雷とを使って、魚雷射撃試験場で何度も発射実験を行った。この時は実験責任艦として"夕張"が選ばれ、"北上"、"大井"と"木曾"が射撃試験を行った。その間に、"龍驤"と"秋津洲"が「風神の涙」の性能把握を行い、"明石"と"釧路"は昼夜を分かたず独自の魔導回路の研究に取り組んだ。この時の工作艦二人は、日に2、3時間しか寝ないというエジソンもびっくりのレベルまで睡眠時間を削り、三度の飯より実験に明け暮れたそうである。
翌10月に実験の結果をまとめたところ、「調定機能は無くても良い」と結論が出され、酸素魚雷の信管調定機能は廃止された。それと時を同じくして、彼女たちはいよいよ魔導回路を完成させ、酸素供給量を調整する試験を開始したのである。実験は困難を極め、彼女たちは何本もの酸素魚雷を実験中に爆発させて使い物にならなくしてしまった。しかし、最終的にはどうにか「完全無航跡の酸素魚雷」をモノにしたのであった。
報告を受けた堺は、中央暦1640年11月半ばにこの魚雷を視察し、その性能の優秀さに驚いて二つ返事で制式採用の許可を出した。その結果、この「風神の涙」を利用して完全無航跡を達成しつつ、信管調定機能を廃止した酸素魚雷は「40式魔導酸素魚雷」と名付けられて採用され、翌年から生産ラインが設置されて、第13艦隊を含む各艦隊の艦艇に装備された。その後もさらに「40式魔導酸素魚雷」の小型化に取り組んだ彼女たちは、年明け後すぐに潜水艦用の比較的小型の魔導酸素魚雷を開発し、こちらは「41式魔導酸素魚雷」の名で潜水艦用魚雷として採用された。
しかし、マッドエンジニアどもはこれでも飽き足らなかった。というのは、確かに以前と比べて、「40式魔導酸素魚雷」の誤爆率は大幅に減少したものの、それでもまだ、体感的には誤爆率が少し高い、と感じられたからである。ところがそこへ、“耳寄りな情報”が飛び込んできた。『魚雷の弾頭の形状を工夫することによって、誤爆率を減らすことができる』というのである。しかも、その先進国は「あの」イタリアである、と。
そこで彼女たちはイタリア海軍の駆逐艦娘"
魔導工学を組み込んだこれらの魚雷が威力を発揮する日は、いつか……?
そして、これだけの性能の酸素魚雷を作ってもなお、マッドエンジニアどもの魚雷欲は
少し遠い将来、中央暦1642年の時点で、彼女たちはもう“新たな魚雷の構想”の実現にかかっていた。その案は二つ。
第一は、接触信管ではなく磁気信管を装備した酸素魚雷。そして第二は、「海神の魔靴」を弾頭付近に装備し、マイクロ人工海流を生み出すことで海水の抵抗を減らして雷速の大幅な向上を狙った、言うなれば“スーパーキャビテーション酸素魚雷”である。
……魚雷バカ、ここに極まれり。
前話に引き続き、一言。
何やってんだお前ら。…いいぞもっとやれ。
拙作をお読みくださいまして、本当にありがとうございます!
評価7をくださいました屑霧島様
評価9をくださいましたRhino_18E様
ありがとうございます!!
また、新たにお気に入り登録してくださいました皆様、ありがとうございます!
次回予告。
半年間の観戦武官の任を終え、ムーへの帰国の途に就いたマイラス、リアス、ラッサン、アイリーン。帰国した4人を、それぞれの任務が待ち受けていた…
次回「あれから半年…」