鎮守府が、異世界に召喚されました。これより、部隊を展開させます。 作:Red October
そして、前回の最後で堺がマイラスに投げた、「ムーに戦車はあるのか?」という質問の答えが今、明かされる…
「貴国、ムーの陸軍には、“戦車”はあるのですか?」
時に中央暦1640年9月6日のお昼、
“ムー陸軍の機密”に触れる質問ではあるが……答えなければ礼儀に
「戦車ですか? あるにはありますが、非常に数が少なく、“まとまった数”を配備しているのは陸軍首都防衛隊くらいです。
それと、“回転砲塔は持っていません”」
このマイラスの発言から、堺は素早くマイラスの言う“戦車”の姿を想像した。
地球においては、「戦車」という兵器は第一次世界大戦で初めて登場した兵器だ。その頃の主立った戦車をざっと挙げてみると、最も有名なのは“現代の戦車にも通じるレイアウト”を確立し、「現代戦車の母」とも言える傑作「ルノーFT17」だろう。フランス製の2人乗りの戦車だが、“1つの回転砲塔”や“エンジンルームを車体後部に配置し、エンジンルームと戦闘室を装甲板で仕切る”等の、現代戦車にも通じる特徴を
この他の例としては、同じフランスの「サン・シャモン突撃戦車」、ドイツの「A7V突撃戦車」、「菱形戦車」ことイギリスの「マークI 戦車(改良型含む)」、“ゲテモノ”になるとロシア帝国の「ツァーリ・タンク」等を列挙できる。
マイラスの発言から「回転砲塔はない」とのことだから、ルノーFT17という可能性はない。そうなると“他の例に似たもの”となるが……ここで、堺はピンと来た。
ムー国といえば、“「あの面」に堕ちているかもしれない国”だ。複葉爆撃機に「ソードフィッシュ」なんて名前が付いているし。
となると、「ムーの戦車」というのはまさか……
「なるほど……それってこういうものですか?」
堺は1枚の写真を提示した。それは、歴史の教科書にも載っているような有名な写真。イギリスの
「んー……? いや、
しかし、マイラスはそれを否定した。
(違う?)
堺は疑問を抱いた。
“菱形戦車ではない”というのは、正直言って彼には“意外”だった。てっきり、菱形戦車だろうと思っていたのである。
(……あー、そうか)
“菱形戦車が設計された目的”を思い出した堺は、「この世界」の“戦場特性”を考え合わせて納得した。
元々菱形戦車は、塹壕やら鉄条網やらが設けられ、砲弾の着弾痕によって“
それに対して、これまで堺が関わった「この世界」での戦いを振り返ってみると、野戦において鉄条網や塹壕が出てきたことは(堺たちがそういう物を用意したエジェイ会戦やゴトク平野会戦を除いて)ない。鉄条網に関しては、「そういう発想がない」もしくは「思い付いても、それを作る技術がない」と言えるかもしれないが、塹壕は“人の手で地面を掘るだけ”だから作れる筈だ。その塹壕が、何故ないのか?
おそらく、ワイバーンのせいだろう。「この世界」では、大概の国家が“航空戦力として”ワイバーンを持っている。ワイバーンは、飛行速度が航空機より圧倒的に遅く、“遠距離攻撃の手段”が単発撃ちの導力火炎弾しかないため、お世辞にも「航空戦に向いている」とは言えない。だが、導力火炎弾であっても“地上の敵陣地掃討”は可能だ。陣地の天井が、コンクリートや鉄板で覆われていない限り。
つまり、ワイバーンという“低速の対地掃討戦力”があるために、“
となると……あまり「地上走破性」を気にしなくて良い戦車が、ムー国の戦車となるらしい。
「では、ムーの戦車とはこちらでしょうか?」
堺は、新たに2枚の写真を取り出した。一方はサン・シャモン突撃戦車を、もう一方はA7V突撃戦車を写したものだ。
「何故これを……!? とてもそっくりです!」
サン・シャモン突撃戦車の写真を見て、目を見開いて叫ぶマイラス。
(やはりか……)
そう考えながら、堺は口を開いた。
「なるほど、分かりました。ではマイラス殿、“私個人の意見”としてですが、『申し上げたいこと』がございます」
「はい、何でしょうか?」
緊張した面持ちになるマイラス。ムーゲとオーディグスも釣られて姿勢を正す。
その彼らの前で、堺ははっきりと断言した。
「大変申し上げ難いのですが…貴国、ムー国の陸軍ですが、グラ・バルカス帝国陸軍が貴国に侵攻してきた場合、
「「「……え?」」」
この堺の“はっきりした物言い”に、3人のムー人は一瞬ポカンとした。そして、真っ先に思考が追い付いたマイラスが慌てて口を開く。
「な、何故そう言い切れるのですか、堺殿?」
「順を追ってご説明致しましょう。まず、先のマイラス殿の話から察するに、貴国ムーの戦車とやらは、我々がかつて居た世界『地球』における、『第一次世界大戦期の戦車』であると考えられます。それに対して、もしグラ・バルカス帝国陸軍が戦車を持っていれば、“グレードアトラスター級戦艦の配備”から考えるに、『第二次世界大戦期の戦車』である可能性が高いです。第一次世界大戦と第二次世界大戦の間には、約30年の開きがありますから、貴国ムーから見ればグラ・バルカス帝国は“貴国の
ですので、“貴国ムーの陸軍はグラ・バルカス帝国陸軍に勝てない可能性が高い”のです」
「な……!」
衝撃の中、マイラスはどうにか質問を捻り出した。
「で、では、“30年先の技術で造られた戦車”というのは、どのようなものでしょうか?」
「はい。まず、回転砲塔の配備は“当たり前”です。移動速度は、最高で時速30〜40㎞前後、脚の速いものだと時速60㎞以上を出すことも可能です。車体重量は平均して30〜40トン前後ですが、重量50トンを超える物もありますし、希少な例ですが重量100トンオーバーの代物もありました。
主砲は、回転砲塔1門の配備が主流ですが、砲口径は『弱いもの』で40〜50㎜、『平均的なもの』なら75〜90㎜、『強力な重戦車』だと口径100㎜以上の砲を持っています。砲身長は、平均的なものでだいたい40口径前後ですが、より強力なものになると70口径前後の長砲身砲を持っています。
装甲厚については、弱いものでも車体前面20㎜前後、平均的なもので車体前面50〜80㎜、強力な装甲だと厚さ100㎜を超えますね」
「「「………」」」
あまりにも“驚異的な性能”を前に、マイラスですら言葉を失った。
ムー陸軍の戦車「ラ・テックス」は、最高時速8.5㎞、重量23トンと、重量としてはまあまあかもしれないが、
なお、“見た目”は完全にサン・シャモン突撃戦車である。砲性能は「菱形戦車」に近いが。
「そ、そんな……これでは、完全に勝てないではないですか……!」
震える声で、マイラスはようやくその一言を絞り出した。
「
「で、では、貴国の戦車はどのような物なのですか? 一度パレードで見たことはありますが、一瞬だけだったもので……」
「ああ、そういえばあの観兵式にも出ていましたね、我が軍の戦車。良いでしょう、畏まりました。この機会ですから、そちらも見ていただくことにしましょう。ああ、こちらについては、“情報管理”さえちゃんとしていただければ無料で良いですよ。戦車の一部は、この泊地の中を隠れることもなく走っていますから、“普通に見られてしまいます”からね」
かくして、ムー使節団の見学には“オプションサービス”が付くこととなった。
だが……艦体だけでも7層にも分割され、更に防水区画まで含めると1,100前後にも分かれている、まさに「大迷宮」と言っても差し支えない「大和」を、“1日で回り切る”のは不可能だった。
「今日はありがとうございました。とは言っても、まだ明日もあるのですが」
「まあ、この巨艦を“1日で全て見尽くす”のは無理ですよ。それに、新しいものの見すぎであなた方の脳がパンクしても一大事ですし。
こちらこそ、ありがとうございました。本日は我が国自慢のホテルで、ごゆっくりお休みになってくださいませ。明日、またよろしくお願いしますね」
夕焼けが空をオレンジ色に照らす中、タウイタウイ泊地の桟橋で挨拶を交わす堺とオーディグス。本日の「大和」見学は終了である。
この日見たものは、主砲・副砲・高角砲・機銃の外見と艦内の一部、機関室・射撃指揮所・長官公室。昼食の後は
“たった2日”で案内するには、内容がてんこ盛りすぎる気もするが……“時間がない”以上、仕方がない。
(ムーから来た皆様、今日1日だけで頭がパンパンになってなきゃ良いんだが……)
桟橋を離れていく連絡船を見送りながら、堺はそう考えていた。
2時間後、ホテル「ラ・ロデニウス」のスイートルーム。
「………」
「………」
「………」
夕食を摂ったムー使節団一同は、思い思いの場所に腰かけて寛ぎながら、“今日見た物”を思い出していた。
いや、正確に言うと、“寛いでいる”のはムーゲとオーディグスだ。技術士官のマイラスは、机に向かって目を血走らせて、報告書を書いている。今日のうちに“見たものをありったけ書いておかなければ”忘れてしまう。その意識から、彼は恐るべき速度でペンを走らせ続けていた。
改めて判明した大和型戦艦の詳細な性能、特に“主砲周り”は絶対に落としてはならない。マイラスは、46㎝砲の口径、砲身長、発射時初速、仰俯角、射程距離、旋回速度、威力等、“主砲に関するあらゆる性能”を細大漏らさず報告書に書き連ねた。その他にも、機関出力、ボイラーと蒸気タービンの仕組み、舵の配置とスクリューの秘密、艦の居住性向上の意見具申。
カリカリカリ……
マイラスがひたすら手を動かし、報告書の記入欄を真っ黒に染め上げていく横で、ムーゲとオーディグスは2人で話し込んでいた。
「ムーゲ、お前はあの戦艦『大和』をどう考える?」
「敵対した場合は非常に脅威となり、味方になればこれ以上頼もしい艦はないでしょう。私はそう思います。
あの戦艦の46㎝砲にかかれば、我が国のラ・カサミ級戦艦はもちろん、
しかし、これが味方になれば、頼もしいことこの上ありません。堺殿は、『距離30㎞で排水量3万5千トンの敵艦を仕留めることができる』と説明しておりました。“排水量3万5千トン”といいますと、もちろん我が国ではこんな艦は持っておりませんし、神聖ミリシアル帝国海軍でも“持っているかどうか怪しい”巨艦になるでしょう。それほどの艦ですら仕留められる、ということは、あの『大和型戦艦』は、“
「ふむ……」
ムーゲの意見に、難しい顔をして考え込むオーディグス。
「ということは、問題は……」
「はい。“グラ・バルカス帝国が持っているグレードアトラスター級戦艦は、その
オーディグスの言いたいことを察し、ムーゲは苦い顔をしながら発言した。
「勝てるだろうか? ロデニウス連合王国を除いた、“この世界の国家”が……」
「何とも申し上げかねますな……」
2人の外交
『大和型戦艦の対空兵器は、40口径12.7㎝連装高角砲12基と25㎜対空機銃150丁(いずれも下記表-6にその性能を記す)である。下記図-1に示す通り、それらの対空兵器は艦橋周囲に密集しており、ハリネズミの如き様相を呈している。しかし驚くべきなのは、これだけ集めても“敵航空機を
日本のあった世界に於いて、大和型戦艦は2隻存在していたが、2隻とも
大和型戦艦が沈められた時、日本にとっての敵がどのような性能の航空機を使用してきたかは、現時点では不明である。しかし、大和型戦艦ですら敵わなかったことから、相当に“高性能の機体”であることが予想される。本件についてはさらなる調査を要するが、その前に我が海軍艦艇の対空迎撃能力を、大幅に増強することを進言したい。具体的には、先の半年に亘る小官の観戦武官の任務で情報を得た“高角砲”の開発と、より大口径の対空機銃の開発・量産・配備・訓練である。
場合によっては、現在の我が国の外交政策の中心となっている"永世中立"を破棄し、ロデニウス連合王国と同盟してでもグラ・バルカス帝国に挑まなければならない可能性もある。いずれにせよ、我が海軍艦艇の対空迎撃能力の大幅な向上は、緊急の課題であると考える……』
翌日、中央暦1640年9月7日。
オーディグス、ムーゲ、マイラスの3人は再びタウイタウイ泊地を、戦艦「大和」を訪ねていた。「大和」見学2日目である。
今回はまず、「大和」艦尾の艦載機及び
「後部甲板は、広々としておりますな……」
カタパルトと艦載機運搬用の台車、それに台車のレールだけが敷かれた飛行甲板を歩きながら、オーディグスが感想を述べる。
「普通の戦艦なら、もっとごちゃごちゃしているんですけどね。昨日ご案内致しましたが、この艦の主砲はとんでもない破壊力を持ちますから、撃った時の衝撃波で短艇やら艦載機やらが全部壊れてしまうんですよ。なので、艦内に格納せざるを得ず、その結果後部が広々と感じられるだけです」
それに対して、案内役の堺が説明を行う。
「堺殿、短艇はまだ分かるのですが、艦載機とはいったい……? この飛行甲板は、空母のように広々としていませんよ?」
「ああ、搭載しているのは零式水上偵察機、それに零式水上観測機です。全て水上機ですよ」
「ほう、ここに水上機が……!」
水上機がある、と聞いて喜ぶマイラス。彼は一度、「
(どんな機体なんだろう……)
わくわくしながらマイラスが見ていると、艦尾のクレーンが作動して、艦載機らしきものが吊り上げられてきた。なんと“複葉機”である。
「複葉機!? 貴国の機体は、単葉機ばかりだと思っておったのですが……」
「ええ、確かにメインは単葉機です。ですが、複葉機が全くなくなった訳ではなく、ほんの一部ですが複葉機が稼働しています。これはその一種ですね」
マイラスの質問にそう答えると、堺は台車で運び出されてきた艦載機に歩み寄った。
「こちらは零式水上観測機。弾着観測に使う機体です。
弾着観測射撃とは、敵艦の上空に航空機を飛ばし、その航空機から自艦の砲撃の弾着を観測して、報告を自艦に送ります。そして、その報告を元に照準を調整する、という方法です。これをやると、砲側照準だけで照準するよりも照準精度が劇的に向上し、敵艦に砲弾を当て易くなります。
但し、自艦の航空機を“敵艦の真上に飛ばす”のですから、この弾着観測射撃術を行う時には制空権の確保が必須です」
堺の説明を聞きながら、マイラスは以前聞いたラッサンの話を思い出していた。
(なるほど、ラッサンが言ってたのはこれか……。そういえば、昨日の砲撃訓練の時に海の上に航空機らしいものが飛んでいたけど、あれが弾着観測用の機体、つまり今目の前にあるこれだったんだ。
くそー、こうなると分かってたら、ラッサンにも一声かけてたのにな……。せめて写真くらい、お土産に持って帰ってやるか)
堺の説明が一区切りついたタイミングで、マイラスは手を挙げた。
「すみません、この機体を撮影しても良いでしょうか?」
「もちろんです、どうぞお撮りください」
「ありがとうございます!」
(よし、これでラッサンへの土産ができたな!)
興奮を抑え切れぬまま、マイラスは半ば反射的にカメラを構えると、次々とシャッターを切った。正面から、側面から、後面から、やや下方から見上げるようにして……
一通り写真を撮ったところで、マイラスはあることに気付いた。
「ん? この機体、機首に機銃を持っているのですか?」
「はい、お気付きの通りです。この機体は味方の弾着観測を誘導すると共に、敵の弾着観測機を追い払い、あわよくば撃墜することを期待されておりました。そのため、機首に7.7㎜機銃2丁と、後部座席に7.7㎜旋回機銃1丁を装備しています」
「なるほど……ちなみに、この機体の運動性能はどれほどのものですか?」
「そうですね。本機の性能は、最高時速370㎞、実用上昇限度9,400メートル弱、航続距離は1,070㎞です。出力780馬力の、空冷星型14気筒の発動機に支えられた性能ですね」
「えっ、それって……」
マイラスは愕然とした。
この機体は水上機であるため、機体下部にフロートと呼ばれる機構をぶら下げている。こんなものは、“戦闘機同士の空中戦”においては明らかに不要の代物だ。しかも、これがあるせいで機体の空気抵抗が増し、運動性の悪化にも繋がっている筈だ。
だというのにこの機体……信じ難いことに、ムー国の最新鋭戦闘機「マリン」とほぼ同等の性能を持つのだ。そう、空戦において明らかなデッドウェイトでしかないフロートをぶら下げた身で!
「我が国の『マリン』とほぼ同等の性能……?」
「そうなりますね。機会があれば、一度貴国の『マリン』とこれで模擬空戦をやってみたいものです」
堺は笑顔で話しているが、マイラスは背筋に冷たいものが伝うのを感じた。
(勝てるだろうか、これ……? 機動力は明らかに「マリン」が勝っているし、最高速度も「マリン」のほうが少し上だが……相手は
そしてそれ以前に、こんな機構をぶら下げた
そのことを痛感するマイラスであった。
その後、「零式水上観測機」のカタパルトからの発艦パフォーマンスを視察したムー使節団一行は、短艇格納庫を経て第三主砲の弾薬庫にその姿を見せていた。
今日は砲撃訓練はないため、停止している機械を観察するだけであるが、それでもマイラスには、この巨大な砲塔が非常に高い技術を結集して作られた、最高クラスの砲であることがはっきりと伺えた。
「こちらの、白く尖った砲弾が九一式徹甲弾。大和型戦艦の装甲貫徹力を象徴する、重量1,460㎏の砲弾です。実戦の際には、この砲弾を敵艦に向けて発射時初速2,808㎞/hで撃ち出します。これ以外に、あちらに見えます短い赤い砲弾、対空戦闘に用いる三式
弾薬庫のあちこちを指差しながら、堺が解説している。
「ちなみに、この九一式徹甲弾ですが……“特殊な機構”が搭載されています。構造の説明が難しいので、詳細説明は資料のお渡しという形で替えさせていただきますが、『水中弾効果』といって、“砲弾が海面に落下すると一定距離を海面と平行に直進する機能”が搭載されています。もちろん、この水中弾が敵艦に命中すると、魚雷が命中するのと同じように敵艦の水線下を破壊することができます。イメージしづらければ、“魚雷になれる砲弾”とでもお考えください」
「「「………」」」
「戦艦の主砲弾を魚雷のように扱う」という、想像の範疇を超える機構に、3人とも絶句してしまって声もない。
「す、水線下を抉る砲弾だと……」
「まさか、こんなものがあるとは……」
たっぷり30秒ばかりも沈黙した後、オーディグスとムーゲがそっと口にする。
「あ、それと三式焼霰弾についてですが、基本的な用途は対空戦闘用ですが、それだけではありません。“破片や子弾を大量にばら撒く”という点から、面制圧力が高いので対地砲撃にも使えます。実際、エストシラントを砲撃した時には、この砲弾が使われました」
「ということは、堺殿。この赤い砲弾によって、エストシラント市街地は焦土と化した、ということですか?」
「左様でございます」
堺にあっさりと回答され、ムーゲが言葉に詰まった。
(これは……中立地帯となったエストシラントの様子を、船の上から遠目にでも見に行ったほうが良いかもしれんな……)
そう考えるムーゲであった。
「時に堺殿、これらの砲弾の装填には、どのくらいの人員と時間が必要ですか?」
代わってマイラスが質問している。
「はい、まず砲弾の装填は、砲弾と炸薬の装填及び最終過程となる砲の尾栓を閉めるところ以外、人手は要りません。全て機械で自動的に行われます。しかしそれでも、砲塔全体で40人もの人員を必要とします。
また、砲弾の装填にかかる時間は40秒です。“砲弾が非常に重い”ので、これが限界でした」
「え……」
確かに、重い物を人力で運ぶには限界がある。従って、ある程度を機械の力に頼る、というのは何もおかしくない。
しかしそれでも、重量約1.5トンの砲弾の装填に
(これを、我が国も作れるようにならなければ……。俺が、この手で……!)
この若き技術士官は、ムー国の未来を担うべく心を燃やしていた。
そして、兵員食堂で海軍カレーライスによる昼食を摂った後、いよいよマイラスのお待ちかね、
「うわぁ……」
艦橋の一角に設置された電探室に入るや、オーディグスが声を上げた。そこには、何に使うのか分からない大量の機械がごちゃっと固まっている。何人かの人間(妖精だが、人間大のサイズになっているため、ムー使節団の面々は人間だと思っている)が働いており、彼女たち(妖精の見た目は女性なのだ)が見ている画面には“不規則な波線”が動いていた。
「堺殿、この奇妙な波線は何でしょうか?」
画面を覗き見たムーゲが、画面の中で不規則にうごめく波線を見て堺に問う。
「ああ、それは21号対空電探が発した電波の反射波を捉えたものですよ。といっても、この波線を読み取るなんて、私にも到底無理なのですが」
そう、こんな不規則な波線
「ちなみに……」
と堺が言いかけたところで、妖精の1人が堺に何かのアルバムらしきファイルを手渡した。堺はそれを開き、保存されている幾つもの写真のうち1枚を示した。
「敵機を捕捉した時の、波線の動きの一例がこちらになります」
そう言われて、ムー使節団の面々は写真を覗き込んだものの……
(((今のこの画面と、どこが違うんだ?)))
3人の思いが見事にシンクロした。
そう。写真と画面との明確な違いといえば、“波線の一部が少し高くなっている
「ま、こんなものだけ見せられても、どこが違うんだ? ってなりますよね。
しかし、驚くことに熟練者が読むと、このギザギザだけで探知距離や方位はもちろん、敵機の種類、数まで分かってしまうのです。恐ろしいですよね?」
ぶっちゃけすぎる堺の発言に、3人揃って頷いた。とここで、
「堺殿。以前リアスとラッサンが見た画面は、『円形の画面の中を同心円状に光の線が回る』というものだったそうですが、これは違うのですね?」
何かに気付いたように、マイラスが質問した。
「おお、良いところにお気付きになりましたね。
それは、『レーダースコープの表示方式の違い』によるものです。マイラス殿が仰ったのは“PPIスコープ”と言って、……こんな風に、円形の画面の中を光線が回り、捕捉した目標を光点で示すものです。これなら、誰にでも敵の接近が分かりますよね?」
言いながら、堺はアルバムをパラパラとめくって、最後の方のページを示した。そこには、“波線が動く四角い画面”の写真と、“光線が回っている円形の画面”の写真が保存されている。
「それに対して、このレーダー画面は“Aスコープ”という表示方式で、跳ね返ってきた電波の強弱をこの波線で表す物です。まあご覧の通り、読むのには熟練が必要です。正直言って、お世辞にも索敵用レーダー画面として相応しいとは言えません。索敵用レーダーの画面としては、このPPIスコープの方が適切です。射撃用レーダーなら、Aスコープの方が適切ですけどね。
ちなみに、これは
マイラスは無言で頷くしかなかった。
(なるほど、PPIスコープか……。レーダー本体はもちろんだが、表示画面もしっかりしておかなければいけないのだな)
“レーダーに必要な要素”の一端を正しく理解したマイラスであった。
「ところで堺殿、先ほど『これは21号対空電探の表示画面だ』と仰いましたが、そのレーダーの本体はどこにあるのでしょう?」
「ああ、本体自体はこれですよ。あと、これとは別に電波の送受信用の空中線……つまりアンテナがあります。
マイラス殿、昨日の防空指揮所の光景を覚えておいででしょうか? 防空指揮所のすぐ傍にあった測距儀の両腕の上に、“奇妙な金網のようなもの”がありませんでしたか?」
「防空指揮所……奇妙な金網……ああ! ありましたね、そう言えば。あれ、何だろうと思っていたのです」
「その金網こそ、21号電探のアンテナですよ。元々は片方が電波送信用、もう片方が受信用だったのですが、今は改良されて片方のみでも送受信ができるようになっていますよ。
ただ、このアンテナは重いんですよね。あのアンテナ1つだけで、重量が840㎏あるのです。まあ、これでもトン単位の重さがないだけマシなのですが。
ハア、我が国もあの時代にPPIスコープのレーダーがあれば……」
溜め息を吐く堺の横で、マイラスは何だかいたたまれない気持ちになっていた。
「そ、それでは堺殿、もし我が国がこのレーダーを実用化するとすれば、何かお勧めのものはありますか?」
「えーと、私個人の意見ですが、『八木・宇田アンテナ』を空中線に使用した『13号対空電探』を強く勧めます。小型、軽量、高性能と、三拍子揃った良い電探ですよ。しかも作り易いですし」
「ヤギ・ウダアンテナ?」
「はい。かなり簡単な構造なので、基本概念が分かれば貴国でも作ることができるでしょう。
というか、貴国はもう八木・宇田アンテナを実用化していますよ?」
「え? ど、どこで?」
「ほら、テレビ放送に使うアンテナ。太い金属棒に何本か直角に金属棒を並べて、コードを繋いだあのアンテナですよ。あれがそうです」
「な、なんと!? では、我が国でもレーダーは……」
「作ろうと思えば作れるのではないかと思います。ただ、軍事同盟を締結していないので、残念ながらレーダー関係の資料はまだお渡しできません」
「なるほど……誠に残念です」
堺の言葉にマイラスは項垂れた。が、実は彼は項垂れたふりをして“裏口入学”の方法を考え付いていた。
(教えて貰えなくても、「タウイ図書館」で調べりゃ済む話だ……!)
なお、この後図書館に行ったマイラスは、レーダー関係の資料が全部抜き取られているのを知って、床に崩れ落ちる羽目になった。もちろん、これは堺の策である。マイラスの行動を予想した彼は、"
この後、アナログ式コンピュータとも言える
だがそこに、止めの一撃が襲いかかる。
午後4時頃、「大和」を降り、連絡船が着く埠頭へ向かいかけていた4人。鍛練のために設置されている運動場付近を4人が歩いていた、その時だった。運動場と弓道場(空母艦娘たちの鍛練場である)を隔てる植木と垣根の方から、何やらキュラキュラキュラという妙な軋み音と、エンジン音らしき轟音が聞こえてきたのだ。
「「「?」」」
立ち止まり、音のする方に視線を向けるムー人たち。そこへ、とんでもないものが姿を現した。
「な、何だあれは!?」
オーディグスが声を上げる。ムーゲも目を見開いていた。
だが、マイラスは一瞬で直感した。これが、ロデニウスの戦車だ。そしてあれは確か、パレードの先頭を走っていた……!
「おや、あれは……。まさか、戦車は戦車でも、
堺が半ば驚いたように呟く。
彼らの前に姿を現したのは、特異な見た目をした1輌の車らしきものだった。
それは、箱を数段積み重ねたような角張った形状をした、巨大な物体。その巨体は幅の広い灰色の履帯によって支えられていた。
そして、その巨体の天辺には、非常に長い砲身を持つ大砲が装備されている。ムー国の大砲なぞ比較にならないような太さと長さの砲身の先端には、奇妙な切れ込みが入っていた。
巨体を支える幅広の履帯は、縦2列に並んだ巨大な転輪がこれを支えている。
こいつが走る姿には、BGMとしては「パンツァー・リート」がお似合いだろうか。
「これが、貴国の戦車ですか!?」
驚きのあまり声が震えているマイラスに、堺ははっきりと言い切った。
「はい。
VI号戦車E型、通称『ティーガー』。我々がいた世界のとある国の言語で“虎”を意味する名前を冠した、我が国でも最強の戦車です」
そう、ちょうどやってきたのは「ティーガーI」だったのだ。現在のロデニウス連合王国陸軍での最強の戦車にして、地球における第二次世界大戦では連合軍相手に猛威を振るった“鋼鉄の虎”である。
「ええと、この戦車の性能は……重量57トン、最高時速40㎞。56口径88㎜砲を回転砲塔で装備し、その威力は、徹甲弾を使えば距離100メートルで120㎜の装甲を貫くことができます。徹甲弾の種類によっては、2㎞先から84㎜の装甲を貫くことも可能です。また、防御装甲は砲塔前面120㎜、車体前面100㎜、車体側面・後面80㎜です。
ガソリンエンジンなので“攻撃を受けると発火しやすい”という欠点があり、またその重量のため“脚周りの故障”が絶えないのが難点ですが、まず間違いなく我が国最強の戦車です」
走り去っていく「ティーガーⅠ」……その砲塔背面に「231」の番号が書かれていた……を見ながら堺が解説する。その際に、「ティーガーⅠ」の車長妖精が砲塔から身を乗り出して敬礼してきたので、堺は忘れず答礼を行った。
「「「………」」」
規格外。規格外の怪物だ。
それが、マイラスが「ティーガーI」に下した評価であった。ムーゲとオーディグス? もはや思い付く言葉すらないほど驚愕している。
「ええと……堺殿。聞くまでもないとは思いますが、もし我が国の陸軍の戦車とこの『てぃーがー』とやらが戦うと……」
「残念ですが、貴国の戦車の勝ち目は
堺はバッサリと切り捨てた。
まあ、サン・シャモン突撃戦車なんていう第一次世界大戦期の戦車で、“第二次世界大戦を通して世界最強クラス”の呼び声も高いティーガーを倒せる筈もない。
「開けた場所であれば、貴国ムーの戦車がこのティーガーを射程に捉える前に、ティーガーの88㎜砲で返り討ちにされることは確実です。不意を衝いてティーガーの側面を取れたとしても、貴国の戦車の砲で80㎜の装甲を貫くことができますか?」
「………」
不可能である。
先にも書いたが、そもそもムーの戦車が搭載しているのは“榴弾砲”であり、
「で、では仮に、貴国から情報が伝わった新型の砲弾ならどうでしょう? ほら、距離に関わらず一定の威力を発揮できるという……」
「距離に関わらず一定の威力を発揮……ああ、成形炸薬弾のことですね。
うーん、微妙なところですね。ただ、我が国の別の戦車でいうと、18口径57㎜砲から発射された成形炸薬弾の装甲貫徹力が55㎜、とのことですから、ゼロ距離射撃でも難しいのではないでしょうか」
「………」
流石のマイラスも、口を半開きにして固まっている。
まさか、自国の戦車でも敵わない存在があるとは思わなかった。しかも、攻撃力も防御力も機動力も高いときている。こんなのが戦場に姿を現せば、この「てぃーがー」なる戦車は弾薬とガソリンの続く限り単独で無双し、ムー統括陸軍の防衛線は容易に突破され、逆にムー陸軍の攻勢はこの1輌の前に頓挫してしまうだろう。
「これは……防衛戦で非常に効力を発揮しそうですな。厚さ100㎜の重装甲と、どんな相手でも返り討ちにできるこの火力があれば、これ以上頼もしいものもない。まさに『陸に上がった大和』ですね」
「あー……実は、確かに防衛戦でも効力を発揮するのですが、この戦車は元々そういう用途で設計されたのではないのです。寧ろ“攻勢のために作られた戦車”なのです」
マイラスの感想に、堺は頭を掻きながら答える。
「攻勢に?」
「はい。マイラス殿は、『機甲師団』という言葉はご存じですか?」
聞くだけ聞いてみたものの、堺はこの質問に対する答えを既に予期していた。
戦車をまとまった数で運用しているのが首都防衛隊のみ、というマイラスの言葉から察するに、ムー陸軍は戦車を「防衛用兵器」と認識している可能性が高い。その機動力の低さも相俟って、攻勢で使うとは想定されていないのかもしれない、従って機甲師団は知らないだろう、と。
案の定、マイラスは眉をハの字にしている。堺は、彼の頭の上に大きな「?」マークが浮かんでいるのを幻視した。
「すみません堺殿、初耳です。何でしょうか、そのキコウシダンというのは……」
「簡単にご説明致しますと、機甲師団というのは戦車や自走砲を中心戦力とし、随伴する歩兵も自動車や装甲車に搭乗させて機動力を確保した部隊のことです。戦場における素早い展開と、敵防御陣地に対して強烈な一撃を与えることを目的として編成されます。
我々の元いた世界『地球』では、第二次世界大戦においてこの機甲師団が猛威を振るいました。航空戦力による援護を受けての機甲師団の突撃は凄まじい威力を発揮し、たった1ヶ月で全面降伏に追い込まれた列強国もあったほどなのです。ことに、平地が延々と続くような大陸においては、機甲師団は恐ろしい尖兵となるのです。
ただ、この機甲師団という戦術は、戦車が走ることのできるある程度平らな土地や道路網等のインフラが整った地帯で、かつ補給がしっかりしていなければその威力を十全に発揮できません。山岳地帯や森林などでは走行し辛いのに加えて、防御側のゲリラ戦術や肉薄攻撃等によって大損害を出す例も多く見られます。また、戦車の主砲の射界外から爆弾を落としてくる航空戦力は、機甲師団の天敵となります。『地球』においては、たった1人で519輌もの敵戦車を破壊した凄腕の爆撃機パイロットもいるほどですから」
堺の言う「凄腕の爆撃機パイロット」が誰のことかは、今更語るまでもない。
「話が逸れてしまいましたね、すみません。話を元に戻しますと、このティーガー戦車は機甲師団の先頭に立ち、“その重装甲を以て、味方の戦車や歩兵を敵の野戦砲や戦車、自走砲の砲撃から守る”と共に、“強力な火砲で敵の装甲車輌を返り討ちにし、敵陣地を破壊して突破口を形成すること”を目的に設計されたのです。なので、ティーガーはどちらかというと攻撃用の兵器ですよ。
尤も、強力な火力と重装甲が防衛戦にも向いている、というのは否定しません。実際の『地球』の戦争でも、ティーガーは防衛戦でばかり活躍していましたから」
実際、地球においてティーガー戦車が攻勢に投入された例よりも、防衛に投入された例の方が圧倒的に多いのだ。本来の用途からは外れた運用であるが、しかしそこはティーガー。高い防御力を存分に発揮して、ちょっとしたトーチカとして機能すると共に、高い貫徹力を持つ88㎜砲の火力を生かして、攻め寄せる連合軍の戦車をT-34だろうとM4「シャーマン」だろうと片っ端からスクラップに変えていった。
当時の連合軍の数的主力を担ったM4「シャーマン」中戦車やT-34中戦車(76.2㎜砲搭載型)では、ほとんどの場合ティーガーの前面装甲を撃ち抜くことができず、側面や後面でも300メートル等の至近距離に接近しなければ貫通できなかった。それに対してティーガーの88㎜砲は、こうした主力戦車の前面装甲を1㎞先からでも余裕で撃ち抜ける。とんでもない性能差があったのだ。
このため、特にアメリカ軍の戦車乗りたちはティーガー戦車を極度に恐れ、終には"
ん? 今どこからか、「ドイツの科学技術はァァァ世界一ィィィィィィ!」とかいう変な声が聞こえたような……幻聴ですね、分かります。
「率直に申し上げると、あなた方が気にしているグラ・バルカス帝国なる国は、どうやら我が国と同程度の技術力があるようですから、機甲師団を持っていてもおかしくないでしょう」
「なんですと!?
そうなると、このてぃーがー戦車……是非我が国にも導入したいですな」
「いやー、ちょっとどころか
それに、57トンの物体を動かせる強力なエンジンと、この巨体を支えるだけの巨大な履帯を、貴国の力のみで製造できますか? さらに言うと、1㎞先の小さな目標に5回連続で命中させられるだけの正確な照準器も、セットでですよ?」
「………」
マイラスは完全に沈黙した。
今のムー国では、独力ではティーガー戦車は到底造れない。エンジンから車体から大砲から、どれも造れそうもない物ばかりだ。
しかも、大前提として“回転砲塔”を持たなければならない。今のムー統括軍では、海軍の最新鋭艦である「ラ・カサミ級戦艦」でやっと回転砲塔を採用したばかりなのだ。まだまだ回転砲塔の機構は未完成であり、「ラ・コンゴ級戦艦」をはじめあらゆる分野で使えるよう、熟成させなければならない。
「で、では堺殿、回転砲塔が造れないとして、他に装甲と大砲を持った戦闘車輌はないのですか?」
「ありますよ」
「へ?」
てっきり“ない”と言われると思っていたところにまさかの返事を返され、マイラスは一瞬変な声を出した。
「“自走砲”又は“駆逐戦車”というのがございまして、これは『装甲戦闘車輌の車体前面に大砲を固定したもの』です。回転砲塔がないので使い勝手は少々悪いですが、回転砲塔という
例えば……あ、ちょうど来ましたね」
堺が説明しようとした時、車高の低い戦闘車輌が1輌、ティーガーⅠの後からやってきた。
「あれは我が国の自走砲の主力を担う、『Ⅲ号突撃砲』です。48口径75㎜砲を搭載しており、回転砲塔はないですが、車高が低いので隠れ易く、待ち伏せからの奇襲に向いた車輌です。また、75㎜砲も100メートルで80㎜の装甲を貫通できますから、砲火力はなかなかのものですよ。さらに、前面装甲も80㎜ありますから、貴国の戦車と撃ち合ったって負けはしません」
「……す、凄い!」
これなら、ムー国でも何とか造れそうだ。マイラスはそう確信した。
まだ希望はある。何としても、ムーはもっと強くならなければならないのだ!
「他には、自走砲や駆逐戦車とやらにはどんなものがあるのですか?」
「そうですね。地球の場合ですと、75㎜砲の他にも、ティーガーと同じ88㎜砲、100~150㎜の砲を搭載したものがありましたよ。例外中の例外ですが、海軍の爆雷投射器を改造して、戦艦並みの380㎜砲を搭載した怪物もいました」
「え? ……さ、380㎜!?
嘘でしょう!? ラ・カサミ級はおろか、ラ・コンゴ級の主砲より大きいですよ!?」
ラ・カサミ級の主砲の口径は305㎜、ラ・コンゴ級のそれは356㎜。怪物である。
ちなみに、この“380㎜砲を搭載した自走砲の怪物”とは、「シュトゥルムティーガー」のことである。バト○フィー○ドシリーズなんかをやっているプレイヤーの方なら、どんな車輌かお分かりいただけるだろう。ティーガーⅠを改造して造られた自走臼砲で、88㎜回転砲塔を撤去した代わりに前面装甲を厚さ150㎜にして傾斜させ、380㎜ロケット臼砲を装備した、存在感抜群の“鋼鉄の怪物”。厚さ2.5メートルの鉄筋コンクリートすらぶち抜ける、文字通りの火力オバケである。史実では、頑丈さに定評のあるM4「シャーマン」中戦車がこいつの至近弾
「嘘ではありませんよ。少数ですが、そういう車輌がありました。
まあ、その怪物が搭載していたのは『臼砲』と呼ばれる、砲身の短い砲だったんですけどね。なので、戦艦の主砲ほどの貫徹力はありませんよ」
「いやいや、それでも恐ろしいでしょう」
かけ合いをしている堺とマイラスの横で、オーディグスとムーゲはあることを確信した。
((地球……なんて恐ろしいところだ……!))
これを最後に、ムー使節団のタウイタウイ泊地訪問は終了となった。
そしてその夜、ホテル「クワ・ロデニウス」。
「ふう……あれ、オーディグス殿、何を?」
大浴場から上がってきたムーゲが部屋に戻ると、オーディグスがテーブルの前に座ってグラスを傾けていた。テーブルの上にはロデニウスの地酒らしい瓶がある。
「ああ、ムーゲ。我が国とロデニウス、いや日本との差を見せ付けられて、ヤケになったんだ!
何なんだ、あの技術は!? 大和型戦艦といいてぃーがーとやら言う戦車といい、『唯一の科学機械文明国家』だった我が国の誇りがズタズタだ! こんなモン、飲まずにやってられるか!」
(あちゃー……物凄く“くだを巻いてる”な、こりゃ。しょうがない、付き合いますか……)
"已む無し"といった体で、ムーゲはオーディグスに付き合って酒を飲み始めた。
マイラスはというと、くだを巻いているオーディグスなぞ“out of 眼中”と言わんばかりに、夕食の時間も惜しんで報告書と格闘を続けている。いや、流石に夕食を食べていない訳ではないが。
観察した水上機の外見や性能、自国の戦闘機「マリン」との比較。測距儀の基本構造について。また、これに伴うコンピュータの早期導入の意見書。戦艦「大和」の砲弾の種類とその使用用途。
そして何よりも、マイラスが「これは絶対に必要だ」と感じた装備……
『ロデニウス連合王国の傘下にいる日本が保有している「レーダー」という機械は、我が国においても、何としても導入すべき装備であると確信する。
レーダーは、電波によって接近する敵艦船や航空機の存在を遠距離から探知する装備であり、「コンピュータ」なる機械を本体として、電波を送受信するためのアンテナを付属させている。このアンテナについては、我が国のテレビ放送用のアンテナ『ギーダ・アンテナ』を転用できることが判明した。後は「コンピュータ」を開発し、その精度を高めることが必要であると信ずる。
また、レーダーの表示画面には「Aスコープ」と「PPIスコープ」の2つの方式があるが、「PPIスコープ」と呼ばれる方式にすることを強く推奨する。以下に、AスコープとPPIスコープで同じ内容を表示した写真を掲載する。ご覧の通り、PPIスコープの方が分かり易いのは一目瞭然である。
以上のことから、我が国も早急にレーダーを導入するべきであると小官は強く信ずるものである。
また、ロデニウス連合王国陸軍が広く導入している『戦車』、及び『自走砲』と呼ばれる陸戦兵器は脅威である。
たまたまかの国の陸軍において『ティーガー』と呼ばれる最強の戦車を見学することができたが、回転砲塔で56口径88㎜砲という長砲身の大口径砲を搭載し、車体前面100㎜、車体側面・後面80㎜の重装甲による高い防御力を持ち、全長8メートル弱、全幅3.7メートル、全高3メートル、重量57トンの巨体を最高時速40㎞で走らせる強力なガソリンエンジンを持つ。まさに脅威的というべき性能である。
また、自走砲も見学する機会に恵まれたが、見学した『Ⅲ号突撃砲』なる自走砲も、回転砲塔こそないものの主砲は48口径75㎜砲、最大装甲80㎜、最高時速40㎞と、我が国の『ラ・テックス戦車』が全く敵わないほどの高い性能を誇る。全く以て脅威以外の何物でもない。
さらに驚くべきことに、我が国では戦車は“防衛用の兵器”としか捉えられていないが、ロデニウス連合王国はこの戦車や自走砲を“攻勢のための兵器”として使用している。それが、戦車や自走砲を集中的に一つの部隊にまとめ、随伴する歩兵も自動車や装甲車に搭乗させて高い機動力を持たせるようにした、『機甲師団』と呼ばれる部隊である。この部隊は、味方の航空機の援護を受けながら敵陣地に向けて高速で突撃し、装甲を以て敵からの砲撃を弾きながら、自前の砲で敵の野戦砲を沈黙させ、そのまま防衛線を食い破る、という攻撃を行う。この機甲師団は、特に道路環境が整った地域や平原において凄まじい威力を発揮する、とのことであり、周辺国と比較しても舗装された道路網があり、平地も多い我が国は、機甲師団を運用するには適した地であると考えられる。
もし仮にグラ・バルカス帝国陸軍がこの機甲師団を配備していた場合、ロデニウスの戦車や自走砲の性能を考えるに、我が統括陸軍が敵機甲師団を食い止めるのは
場合によっては、先日の報告書にも記した通り、ロデニウス連合王国と軍事同盟を締結してでもこれらの兵器の量産配備に注力すべきである、と小官は愚考するものである』
ここまで書いた後で、マイラスは“ある大事なこと”を思い出した。そして、「タウイ図書館」でコピーした資料を参照しながら、報告書に赤インクでさらに文字を連ねていく。
書いていたのは“大和型戦艦の撃沈に使われた航空機の性能について”だった。レーダーの資料は閲覧できなかったものの、航空機の資料が残っていたのでありがたく頂戴してきたのだ。転んでもタダでは起きぬ、とはこのことである。
『また、大和型戦艦を撃沈した敵の航空機及びそれが装備していた武装について、その詳細性能が判明した。機体は「F6Fヘルキャット艦上戦闘機」「SB2Cヘルダイバー艦上爆撃機」「TBFアヴェンジャー雷撃機」なるものである。それらの性能を下記表-9に記す。
いずれも我がムーにとって“怪物”と言っても過言ではない性能を持った機体であり、また何れも全金属製の単葉機である。さらに、「魚雷」という水中自走爆弾が用いられたことがよく分かる。加えて、特にアヴェンジャー雷撃機は非常に分厚い防弾装甲を有しており、これほどの重装甲の前では我が海軍の標準的な対空機銃・8㎜単装対空機銃は
グラ・バルカス帝国の脅威がある今、我が国も一刻も早くヘルキャットやヘルダイバー、アヴェンジャーのような単葉機と魚雷を実用化・量産し、前線の空母機動部隊及び陸上基地に配備すべきと考える。また、これ等の全金属製単葉機の機体は非常に重く、我が国のラ・コスタ級航空母艦及びラ・ヴァニア級航空母艦での運用は
こうして、二度目のロデニウス連合王国への渡航は、マイラスにとってまたしても実り多きものとなったのである。
はい、ムーには戦車自体はあるにはありましたが、第一次世界大戦レベルのものだったことが発覚。これでは、グラ・バルカス帝国のチハ擬きにだって勝てやしません。
そして、「大和が航空機に沈められた」という情報の裏付けを取り、必死で「航空機こそが脅威である」と主張するマイラス。果たして、グレードアトラスター関連でガタガタになっているムー上層部に受け入れられるのか…?
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次回予告。
一気に時が進んで、中央暦1640年の暮れ。使節団が持ち帰った更なる情報を前に、ムー国はある決断を下そうとする。
そして、第三文明圏には新たなる戦乱の影が…
次回「決断する国、蘇るモノ」