鎮守府が、異世界に召喚されました。これより、部隊を展開させます。   作:Red October

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お待たせいたしました! ついに魔王対決です。

ちょいと遅くなりましたが、今日はクリスマスですね。私ですか? ぼっちでしたよちくしょうめー!
リア充なんか大っ嫌いだ! バーカ!(総統閣下風に)



087. 魔王(ノスグーラ)vs魔王(ルーデル)

 中央暦1640年12月17日、ミナイサ地区から民間人を救い出した翌日の朝。

 ロデニウス連合王国軍・トーパ王国救援先遣隊の隊員たちやトーパ王国軍の騎士たちが朝食を摂っていたところへ、突如として急を告げる鐘の音がトルメス城の空気を震わせた。次いで、伝令役の騎士が城内を走り回って各部に情報を伝達すると共に、城内の魔王軍対策本部からの緊急魔信が城内に響く。

 

『緊急事態発生! たった今、ミナイサ地区の城門を破って魔王ノスグーラが出現した! 大通りに沿って、このトルメス城に向けて単独で侵攻中!

見張りの報告によれば、ノスグーラの顔は怒りに満ち溢れているとのこと!

総員直ちに戦闘配置に付け! 繰り返す、総員直ちに戦闘配置に付け!』

 

 食事を中断してバタバタと走り出す騎士や、武器庫に保管している九九式小銃を取りに行く狙撃部隊の隊員がいる。そんな中、この緊急放送を聞いてニヤリと笑った者が2人。

 その片割れであるロデニウス連合王国陸軍・第2軍団司令官イフセンが、残っていたパンを胃袋に押し込んで慌しく席を立ちながら口を開く。

 

「どうやら、あの策略は見事に決まったようですな。

流石アーノルド殿、私に書けない手紙を平然と書いてのける! そこにシビれる! あこがれるゥ!」

 

 それに対しもう一人の片割れ、トーパ王国陸軍狙撃部隊「コラー中隊」の隊長アーノルド・ネイランが、口端に引っかかったスープの雫を嘗め取りながら笑った。

 

「何を仰いますか、私にノスグーラを煽るなんてアイデアは思い付けませんでしたよ。イフセン殿、お主も悪よのう!」

「「あっはっは!」」

 

 2人して笑い合うイフセンとアーノルド。お前らいい加減にしろ、と言いたい。

 そして2人とも、茶番はこれでお仕舞いにして、急ぎ持ち場へと向かっていった。

 

「「「うおおおおお!」」」

ドドドドドドド……

 

 馬の走り出す音と、騎士たちの気合の入った声がトルメス城城門の方から聞こえてくる。トーパ王国騎士団の騎兵部隊が城門から討って出ようとしているようだ。

 

「魔王ノスグーラが出現したぞ! 急いでエンジン暖めろ!」

 

 中庭で待機していたロデニウス連合王国軍機甲部隊も、急ぎ戦闘態勢に入った。

 逸早くエンジンを始動させたのは、もちろん戦闘妖精“ミハエル・ヴィットマン”が指揮する「ティーガーI」重戦車である。マイバッハHL230 P45水冷4ストロークV型12気筒ガソリンエンジンが轟音と共に始動し、暖機運転を開始する。それにやや遅れてパンター改やブルムベア改、ハノマーク装甲車もエンジンを始動させる。

 

「トーパ王国軍は、最大の戦力とも言える『王宮戦闘魔導隊』を投入するつもりらしいが、相手が相手だ。何が起きるか分からん。我々が出なければならない可能性も否定できない。

総員、いつでも戦えるようにしておけ!」

 

 妖精ヴィットマンの命令が、無線機を通じて全車輌に伝わった。

 

 

 その頃、ベルンゲンの港に待機しているロデニウス連合王国海軍第13艦隊にも動きがあった。

 トルメス城にいる"大和(やまと)"からの通報によって、ノスグーラの出現は既に艦隊の知るところとなっている。その艦隊のうち、全体的に平べったい形状の1隻の艦…(しょう)(かく)型航空母艦「(ずい)(かく)」の甲板上に、暖機運転を行っている1機の航空機がエレベータに乗せられて迫り上がってきた。その機は、何とも形容し難い独特の逆ガル翼を広げており、両翼と腹の下には特大の爆弾を抱えている。「Ju87C改」であった。

 と、艦橋側面に設置されたドアが内側から開かれ、2人の妖精が飛行甲板に出てくる。2人は駆け足で飛行甲板を走り、あっという間に「Ju87C改」に乗り込んだ。

 

「ついに、魔王がお出ましになったみたいだ。

行くぞガーデルマン! 真に『魔王』を名乗るべきはどちらなのか、勝負を付けてやる!」

 

 操縦席に滑り込んだ妖精……“ハンス・ウルリッヒ・ルーデル”の気合は十分なようだ。

 

 

 魔王ノスグーラが単身で出現した。

 これをノスグーラを倒す好機と捉えたトーパ王国の貴族アボン(騎士爵の爵位持ち)は、200人の部下(何れも騎兵)を引き連れ、トルメス城の城門から出撃したのだ。相手はたったの1体、今なら数で押し潰せる。

 

「我に続けぇーっ!」

「「「おおおおおお!!!」」」

 

 馬の通過によって雪が巻き上げられ、新雪の上に多数の足跡ができる。舞い上がる雪煙に一切頓着することなく、騎兵隊は大通りに単身で出現した魔王ノスグーラ……伝説の勇者達ですら討ち取れなかった存在に向かっていった。

 

 魔王ノスグーラからは、何かドス黒い魔力が目視出来るほど濃く出ている。それは、“オーラのようなもの”となってノスグーラの身体から溢れていた。

 

()()が! その程度で我を倒せると思っているのか、笑止!」

 

 魔王ノスグーラは、トーパ王国騎士団に対して手をかざした。その手の先から、黒い炎が噴き出す。もちろん、ただの炎ではない。()()()()()“地獄の業火”である。

 

「魔界の王の名において命ず。魔界の獄炎の鳳凰よ、我に逆らいし愚かな敵を焼き尽くせ。

魔王炎殺拳奥義、炎殺黒鳳波!」

 

 呪文を唱えるノスグーラ。すると、手の先から噴き出した黒い炎が集まり、形を変え……翼を広げた鳥の形になった。それが、ノスグーラの手から放たれる。

 黒い獄炎で作られた炎の鳥が、騎士団に向かい飛んでいく。

 

「なっ!」

「ぐぁぁぁぁぁぁぁ……!!」

 

 炎の黒鳥は翼を広げつつ、それ自身が大きくなり、放たれた時の倍以上の大きさにまで拡大して騎士団に襲いかかる。

 騎士たちは、1人残らず馬もろとも黒い炎に包まれ、一瞬で消し炭となって吹き飛ばされてしまった。もちろん、誰一人助かっていない。

 

「な……」

 

 城門の上で一部始終を見ていた兵士たちは、ノスグーラの力に愕然とする。伝説には聞いているし、神話で読んだりもしているが、まさに百聞は一見に如かず。見ると聞くとでは、衝撃の度合いが違う。

 人々が呆然としている間に、ノスグーラはさらに魔法を使用していた。

 

「大いなる大地の王よ、その絶大なる力を解放し、我が配下となりし古の魔人を呼び覚ませ。

カイザーゴーレム!」

 

グゴゴゴゴ……

 

 ノスグーラの呪文が唱えられると、不気味な音と共に大地が盛り上がり、岩の塊が現れる。

 そして、人々が見ている間に岩は巨大な人の形を成し、なんと動き始めたではないか。

 

 通常、亜人最強の魔力を有すると言われるエルフ族の中で、最高クラスの魔導士が使役するゴーレムが、高さ2メートルくらいである。がしかし、このゴーレムは17メートルくらいの高さがある。

 岩の体積から言うと、いったい何倍あるのだろうか? そして、そんなものを平然と作り出すとは、ノスグーラの魔力はどれほどのものがあるのだろうか?

 

 トーパ王国兵は、城が迫ってくるかのような圧倒的な大きさを持つ、なす術が無いほどの相手に絶望していた。

 

「通常のゴーレムでさえ、大軍での対応が必要だというのに……。これが……これが魔王の力か! カイザーゴーレムを作り出すなんて……!!」

 

 城壁に登っていた者たちのうち、"大和"を除くトーパ王国軍の兵士たちの誰もが絶望した、その時だった。

 

「どいてくれっ!」

 

 黒いローブを着用し、金環を頭に載せた集団が城壁の上に上がってきたのだ。その数は10名。いずれも耳が縦にピンと尖っており、エルフ族であることを示していた。

 

「あ……あれは!」

 

 この集団を見た、トーパ王国軍の兵士が声を上げる。

 

「王宮戦闘魔導隊か!」

 

 トーパ王国軍が誇る、古の勇者すらも凌駕すると言われた魔導の超エリート部隊、王宮戦闘魔導隊が城壁に現れたのだ。

 本来ならば彼らは王宮直轄の部隊…つまり『国王親衛隊』みたいな立場の部隊であり、こんなところにはまず来ないのだが……今回は相手が相手なので、国王ラドス16世直々の出撃命令が出た形だった。

 

「一撃必殺でいくぞ! 全魔力を集中!! 眼前のゴーレムと魔王をまとめて吹き飛ばすぞ!!」

 

 リーダー格のエルフの男性が指示を飛ばし、王宮戦闘魔導隊の10名の大魔導士は魔法の詠唱を開始する。

 

「舞え風の精霊よ、荒れ狂え大気の王よ!! 我らが魔力を糧としてその大いなる力を以て、眼前の敵を滅せよ!!

 『ライジング・テンペスト』ぉぉっ!!!」

 

 強烈な竜巻がカイザーゴーレムと魔王のいた位置に発生する。それはどうやら砂粒でも含んでいるらしく、大気との摩擦によって発生する強烈な雷を交えた、白い竜巻だった。

 

「「「おおおおお……!!」」」

 

 城壁の上にいた兵たちは、感嘆の声をあげる。

 これが、この凄まじい力こそが、古の勇者を超えたと言われし王宮戦闘魔導隊の、スーパーエリートの力か! と。

 

 荒れ狂っていた竜巻が、次第に弱まっていく。

 その様子を見ていたトーパ王国軍の兵士たちは、自分たちの勝利を信じていた。そんな中、

 

(……駄目、失敗ね)

 

 "大和"だけが、そのことに気付いていた。別に心眼を使ったのではない。ただ、(でん)(たん)上での反応を()()だけである。

 

 

 次第に収まってくる竜巻と雪煙、その中に見える、何か巨大な影……。

 

「な……!? まさか……!」

 

 嫌な予感を抱く兵士たちもいる。そんな中、「コラー中隊」の指揮官アーノルドは直感していた。あれは間違いなく……

 

「隊長。アレ、殺ったと思いますか?」

「いや、全く」

「でしょうな。ハァ……」

 

 竜巻を指差して尋ねてきたユパに、アーノルドは即答した。ユパも同じ意見だったらしく、白い大きな溜め息を吐き出す。

 その言葉通り、竜巻とユパの白い溜め息が晴れた時、そこには“無傷のまま”の魔王ノスグーラとカイザーゴーレムがいた。ゴーレムの表面は黒く焼け焦げているが、どうやらそれ以上の被害はないらしい。

 

「ま……全く効いていないのか!?」

 

 まさかの結果に驚愕するトーパ王国軍の兵士たち。その一方で、10人の大魔導士はいずれも城壁の上に崩れ落ちる。肩で息をしており、完全に魔力は尽きていた。

 魔王ノスグーラは、身体から“目視”できるほどの凄まじい魔力を発している。その色はドス黒く、まさに「地獄のオーラ」という表現がピッタリだった。どうやらその魔力によって、ゴーレムごと自身を覆う巨大な防御結界を張ったらしい。

 

「下種どもが……()(ざか)しいな。行け!」

 

 魔王ノスグーラの指示を受けて、高さ17メートルもあるカイザーゴーレムは、ミナイサ地区南側の城門に向け歩き出す。

 城門が破られた場合、ノスグーラに付き従う大量の魔物が雪崩れ込んでくるだろうことは、誰の目にも明白であった。それに、あのゴーレムの大きさと質量なら、一蹴りで城門は吹き飛ぶだろう。

 もう止める者はいない。

 

 今度こそ誰もが絶望した、その時だった。

 

 ブゥゥゥゥン……

 

 ロデニウス連合王国軍の使役している鋼鉄の魔獣が、咆哮を上げた。

 そしてそれと同時に、戦場には似つかわしくない“妙な音楽”が響き渡った。

 

 

 トーパ王国軍王宮戦闘魔導隊は、魔王ノスグーラと戦って敗れたが、その時間は決して()()ではなかった。彼らが戦っている間に、ロデニウス連合王国軍機甲部隊が出撃準備を整えていたのだ。また、この時間を利用して「空の魔王」もこちらに接近している。

 戦車や装甲車の暖機運転の轟音が響く中、騎士モアは戦車隊に向けて叫んだ。

 

「ロデニウス連合王国軍の皆さん! 一般的なゴーレムは、胸の辺りにコアがあります!! そのコアを破壊できれば、ゴーレムは崩れ落ちます!!」

 

 ありがたい助言だ。

 

「よし、城門を開けてくれ! ここからはこっちの番だ!」

 

 城を守る兵に向けて、妖精“ミハエル・ヴィットマン”がティーガーIの砲塔から身を乗り出して叫ぶ。

 

ギイィィィィィ……

 

 重々しい音と共に城門が開かれ始め、妖精“ミハエル・ヴィットマン”の視界には4階か5階建てのビルの高さほどもある“岩の化け物”が見える。そんな怪物を前にしても、妖精ヴィットマンの口元には不敵な笑みが浮かんでいた。「ティーガーI」の()()だ、一つ派手に暴れてやろうじゃないか。彼はそう考えていたのだ。

 ロデニウス連合王国陸軍の誇る機甲部隊が、戦車隊を先頭にして出撃しようとしている。大口径の榴弾砲を持つ「ブルムベア改」を中心に据え、その前方に「ティーガーI」と「パンター改」が出て、縦一列に並んだ編成だ。「ブルムベア改」の後ろに、「ハノマーク」装甲車が3輌続いている。城門が狭いので1輌ずつしか通れないため、こうなっている。

 城門が開かれていくのを見ながら、妖精“ミハエル・ヴィットマン”が、不意に更に不敵な笑いを浮かべた。

 

「こういう時って、だいたい音楽が似合うもんだろ?

偉大な先人は、ヘリコプターで敵地に突っ込みながら、我がドイツの誇る作曲家ワーグナーの『ワルキューレの騎行』を流したそうじゃないか。ならば、我々もそれに倣ってはいけない、という法はない!

Musik abspielen!(ドイツ語で「音楽を流せ」。「ミュージック、スタート」くらいのノリで捉えて貰えば結構)」

 

 妖精ヴィットマンのその言葉と共に、何時の間にやらスタンバイされていたオーディオが再生される。大音量で「パンツァー・リート(それもよりによって『とある学校のテーマソングver.』)」が流れ始めた。

 

「行くぞ! 戦車、前へ(パンツァー・フォー)!」

 

 城門が完全に開け放たれると同時に、マイバッハエンジンが高らかに唸った。履帯を軋ませつつ、ティーガーIやパンター改の重厚な車体が前進していく。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 岩の巨人カイザーゴーレムの背中に乗り、周囲を見渡しながら、魔王ノスグーラは考えていた。

 

(カイザーゴーレムの作成に成功した……これで、小賢しいヒト族やその他の下種どもも滅することが出来るだろう)

 

 カイザーゴーレムというのは、魔帝様の国(ラヴァーナル帝国)の汎用二足歩行型陸戦兵器を真似て造った兵器である。魔帝様の……莫大な魔力と全能の知恵を持った種族の兵器のレプリカだ。

 いくら人間どもが組織立った攻撃をしてこようとも、ビクともしまい。現に、先ほどエルフどもの高威力魔法攻撃があったが、あの程度では我は倒せないし、カイザーゴーレムも表面が焦げこそしたが傷一つ付いていない。それに対してエルフどもは既に魔力が尽き、倒れ込んでいるようだ。

 カイザーゴーレムならば、一蹴りで人間どもの城門をあっさりと破壊できるだろう。

 

(しかし、レッドオーガやブルーオーガがやられたのは想定外だったな。下種どもの力は、昔に比べ思った以上に増しているのだろうか?)

 

 ノスグーラがそう考えていた時、突如として城門の方向から聞き慣れない音楽らしきものが聞こえてきた。

 

「ん?」

 

 ノスグーラが城門の方を見ると、ちょうど城門が開かれたところだった。

 そして、城門の中から現れたのは……

 

「なっ!? あ……あれは……!?」

 

 城門の中から現れた「それ」は、ノスグーラには見覚えがあった。

 

「あれは……ま……まさか!

た……た、太陽神の……太陽神の使いの鉄龍か!?」

 

 そう、城門の中から出てきた「それ」は、1万年以上も前の戦いで魔王軍を完膚無きまでに叩き潰した、“太陽神の使い”が使役する鉄龍に酷似していたのだ。

 何だかんだ言ってもノスグーラの心には、種族間連合すらあっさりと破った自らの配下を完全に叩きのめしていった“太陽神の使い”に対する()()が刻まれている。その記憶がフラッシュバックし、ノスグーラは激しく狼狽していた。

 

「お……おのれ、下種どもめが! まさか太陽神の使いを……そんな大それたものを召喚していたとは!! 道理でレッドオーガやブルーオーガがやられた訳だ!」

 

 しかし、眼前にいる鉄龍は、ノスグーラの記憶の中にある“太陽神の使い”が使役していた鉄龍よりも大きい。その姿形は洗練さには欠けるものの、逆に重厚さがあり『武器とはかくあるべし』とでも言うかのようである。あの忌々しい爆裂魔法を放つ角も、ノスグーラの知るそれよりも太く長く、見るからに強力そうな代物だった。

 

「チッ! カイザーゴーレムよ!! 眼前の敵を踏み潰せ!!」

 

 ノスグーラの指示を受けて、ゴーレムが動き出す。

 しかし一歩遅かった。

 

ドォン! ドォン!

 

 二手に分かれて接近しつつあった敵の鉄龍が、忌々しい爆裂魔法を使用したのだ。

 

 

「戦闘隊形を展開! ティーガーは右、パンターは左だ! ブルムベアは中央後方に布陣、ハノマークはそのさらに後方から援護射撃!」

 

 戦車隊の指揮を任されている、妖精ヴィットマンが指示を飛ばす。縦一列に並んでいた戦車隊は、先頭に立つ「ティーガーI」が右に、その後ろにいた「パンター改」が左に展開した。その後ろに「ブルムベア改」と「ハノマーク」3輌が控える。

 

「目標、敵の岩ゴーレム! どうせ仰角が足りんから、胸のコアは狙えん。まずは敵の両足を破壊する! 後で『空の魔王』も来てくれるからな!

パンターは敵の右足を狙え! 私のティーガーで奴の左足を破壊する! ブルムベアは仰角一杯、チャンスがあれば奴の胸に叩き込め!」

 

 咽頭マイクを通して指示を出しながら、妖精ヴィットマンは素早く「ティーガーI」の車内を見回した。既に徹甲弾が装填されており、砲手は照準器を覗き込んでいる。

 

Feuer(フォイア)!」

 

 号令一下、ティーガーI重戦車は敵の巨大な岩の化け物に向け、主砲を発射する。第三帝国謹製の野戦高射砲アハトアハト、それを戦車砲に改修した56口径88㎜砲の威力は凄まじい。岩石で作られたゴーレムの左足に徹甲弾が直撃し、これをあっさり貫通した。

 カイザーゴーレムの左足が吹っ飛ばされ、砕けた岩が辺りに飛び散る。そして、バランスを失ったゴーレムは大きな音を立てて地面に右膝を突いた。その直後に、今度はゴーレムの右足がパンター改の砲撃で吹き飛び、ゴーレムは地面に両手を突いて身体を支える羽目になった。

 

「よし、いいぞ! 続いて奴の両腕だ! 畳み込め!」

 

 妖精ヴィットマンが指示を出すが、ノスグーラもただでは置かない。

 

「むん!」

 

 カイザーゴーレムに大量の魔力を流し込む。すると、飛び散っていた岩の破片が独りでに動き出し、ゴーレムへと戻っていくではないか。さらに、路面の石畳を突き破って新たな岩石が現れ、それすらもゴーレムへと吸い寄せられていく。

 

「修復か。なら、修復ペースを上回る攻撃を叩き込むだけだ! 撃て(フォイア)!」

 

 しかし、妖精ヴィットマンもその程度は想定済みだった。そして、指揮下の戦車隊に連続砲撃を命じる。

 

ズドオォォン!

 

 その途端、背後で強烈な砲声が響いた。そして、カイザーゴーレムの両手が粉砕され、岩石片が周囲に大量に飛び散る。「ブルムベア改」が、自慢の150㎜榴弾砲をぶっ放したのだ。

 両腕を失ったカイザーゴーレムだが、既に左足は直っており、右足もほとんど直りかけている。そこへ再び88㎜砲が叩き込まれ、左足が吹き飛んだ。

 

「くそっ、下種どもが!」

 

 一声罵り、ノスグーラは修復のため、さらに大量の魔力をカイザーゴーレムに送り込む。

 

「させるか! 撃て!」

 

 妖精ヴィットマンが叫んだ時、遥か後方でダダダダダダダという軽快な連続音が響いた。そして、ゴーレムの肩のところで魔力を流し込んでいるノスグーラの周囲に、次々と火花が飛び散る。どうやら後方にいる「ハノマーク」装甲車のうち2輌が、機銃掃射でノスグーラの修復作業を妨害し、援護しようとしているらしい。

 

「ありがたいぜ!」

 

 妖精ヴィットマンが叫んだ時だった。

 

 ……()()()が、降ってきたのだ。

 

 

ウウウウウウウウウーーー!!!

 

 

「来たな、全車一斉砲撃! その後後退だ!」

 

 妖精ヴィットマンの指示。急ぎ発砲準備を整える各車輌。

 

「Feuer!」

 

 号令一下、複数の砲門が一斉に火を噴いた。88㎜砲と長砲身75㎜砲の徹甲弾がゴーレムの両足を吹き飛ばし、「ハノマーク」のうち1輌が放った75㎜対戦車砲が直りかけていたゴーレムの左腕を打ち砕く。その直後、左腕の破壊によってできた空間に150㎜榴弾が飛び込み、ゴーレムの腹部に当たって爆発した。

 凄まじい爆風により、一瞬上体を後方に反らせるカイザーゴーレム。そこへ、蒼空からの鉄槌が振り下ろされる……。

 

 

「あれか!」

 

 全速力で「Ju87C改」を飛ばし、やっとのことでトルメス上空までやってきた「空の魔王」、妖精“ハンス・ウルリッヒ・ルーデル”はコクピットから地上を見下ろして叫んだ。

 トルメス城の城門の前で、いくつもの爆発が起きている。その中心にいるのは、怪物じみた岩の巨人だ。その肩に、異様な生物が乗っている。

 

「まずはどうやら、あの巨人をぶっ壊す必要があるな……やるか!」

 

 妖精ルーデルは決断を下した。

 現在の「Ju87C改」の装備は、1発のSC-1000と2発のSC-500。1トン爆弾1発と500㎏爆弾2発、実に2トン分の爆薬である。これだけあれば、十分に敵を仕留められる、と妖精ルーデルは睨んでいた。

 

「行くぞ! 最適降下点……突入!」

 

 妖精ルーデルは操縦桿を左に引き、同時に左のフットバーを踏み込んだ。

 「Ju87C改」の機体が左に傾き、大地に向けてほぼ垂直に突っ込み始める。

 

「…3,800! …3,600! …3,400!」

ウウウウウー……

 

 後部座席に座る妖精“エルンスト・ガーデルマン”が高度の読み上げを開始し、「悪魔のサイレン」が鳴り始める。

 

「…2,600! …2,400! …2,200!」

ウウウウウウウー!

 

 そう、この感覚だ。背中と尻がシートに根付いたような感覚、風を切ってガタガタと振動する風防、そして何よりこのサイレン染みた風切り音!

 妖精ルーデルの口の端が吊り上がる。それは、倒すべき相手を前にした「空の魔王」の獰猛な笑み。

 

「…1,400! …1,200! …1,000!」

ウウウウウウウウウーーー!!!

 

 今回投下するのは、2発の500㎏爆弾だ。1トン爆弾は、ノスグーラに直接止めを刺すために温存しなければならない。従って、妖精ルーデルはいつもより高い高度で投弾し、一旦離脱して高度を稼がなければならない。

 だがそれでも、妖精ルーデルは当てられると信じていた。

 

「…700!」

 

 その時、地上にいる岩の巨人に爆発が連続して起こった。最後に起きた一際大きい爆発により、岩の巨人が一瞬仰け反る。その瞬間、妖精ルーデルの目はゴーレムの胸部にある“色の違う部分”をしっかりと捉えた。あれがゴーレムの弱点に違いない、と妖精ルーデルは直感した。そして今、その胸部が爆撃照準器の真ん中にピタリと収まっている。

 

「600!」

「投下!」

 

 2つの叫び声が重なった。そして、「Ju87C改」の翼下から2発の爆弾が切り離され、地上に向かって落ちていった。

 

 

 ……それはまさに、「奇跡的」と評する以外の言葉が見つからない、ほとんど神がかり的なタイミングであった。

 「ブルムベア改」が放った150㎜弾を腹部に受け、大きく仰け反ったカイザーゴーレム。その胸部に向けて、2発の500㎏爆弾が吸い込まれるように落下する。ノスグーラは慌てて修復にかかったが、ほんの一瞬だけ遅かった。

 

ドガーン! ドガアァァァァァァン……!!

 

 僅かな時間差を置いて落下した500㎏爆弾。1発目がカイザーゴーレムの胸部表面を覆っていた岩の装甲を粉々に粉砕し、続く2発目が修復の暇も与えずに剥き出しになったコアを直撃し、爆発した。

 コアを破壊された岩の化け物は、魔力を失い、大小無数の岩塊と化して崩れ落ちていく。

 

 トーパ王国がどうしようもなかった化け物を、ロデニウス連合王国軍は陸と空の連携を以て、葬り去ってしまったのだ。

 なんということであろうか。

 

「あ、あ……あ……」

 

 城壁の上からそれを見ていた兵士たちは、そのあまりの光景に声が出ない。

 伝説の岩の巨人が音を立てながら、崩れ落ちていく。その光景は、彼らにはどこか“現実離れ”して見えた。

 

ボン!!

 

 その時、崩れ落ちた岩の化け物の後方から、上に向かって飛び出した者がいた。言うまでもなく、魔王ノスグーラだ。50メートルほども飛び上がっているだろうか、とんでもないジャンプ力である。

 

「ん?」

 

 その光景に呆気に取られた妖精ヴィットマンの視線の先で、ノスグーラの手に黒い炎が宿る。

 

「騎士団を全滅させた、あの強力な火炎魔法か!? まずい!!」

 

 妖精ヴィットマンは事態の不味さを悟ったが、相手はティーガーIの主砲最大仰角よりもさらに上にいるため、攻撃が届かない。そんな中、ノスグーラは魔法の詠唱を開始する。

 

「魔界の王の名において命ず。魔界の獄炎の鳳凰……」

(まずい!!!)

 

 妖精ヴィットマンの額に冷や汗が一筋流れた時だった。

 戦場のやや後方、城壁の上で戦闘の模様を眺めていた「コラー中隊」の指揮官アーノルドと、彼の部下にして第三文明圏大戦で多くのパーパルディア兵をヘッドショットした凄腕スナイパー、ハモシ・ユパが動いた。手にしていた九九式小銃を構えたのである。

 

ガチャガチャガチャッ!

 

 3()()の銃が構えられる音が重なった。

 

((3丁?))

 

 疑問を感じた「コラー中隊」の2人が一瞬左を見ると、もう1人、同じように九九式小銃を構える兵士の姿があった。

 鉄帽を被っているが、その下から茶色のロングストレートの髪がはみ出している。また、その肩の下10㎝ほどの辺りには、全く遠慮せずに自身の存在を主張している“膨らみ”が2つ。つまり、この兵士は女性なのだ。その右腕に付けられた部隊章は、狙撃部隊サッキア中隊のものである。

 と、その女性兵が一瞬だけ視線を2人に寄越した。鉄帽の下から、何とも気の強そうな視線が2人をちらっと見据えた。

 

「合わせてよ、2人とも!」

 

 随分と強気な台詞である。ここには彼女から見て上官に当たる者もいるというのに。

 だが、アーノルドは非常時だということで、これを不問にした。そしてユパが、その女性に叫ぶ。

 

「そっちこそな、コル!」

 

 次の瞬間、アーノルド、ユパ、そしてもう1人の女性狙撃兵「コル・クロッカス」は、一斉に手持ちの小銃を発射した。狙いはもちろん、空中にいる魔王ノスグーラである。

 

 魔王ノスグーラに向けて、真っ直ぐに飛んでいく3発の銃弾。ノスグーラはその3発の銃弾を見たものの、攻撃魔法の詠唱を続けた。そんな小さな弾では、自身に傷を付けることなどできない、と判断したのだ。

 ところが。

 

バン! バアァァァッ……!

 

 その3発の銃弾はノスグーラの眼前で炸裂し、強烈な閃光を放った。

 

「ぐぅっ!?」

 

 目を焼かれたノスグーラが、堪らず攻撃魔法の詠唱を中断して両目を両手で隠した瞬間、

 

グオッ……!

 

 突風が吹いた。それによってノスグーラは下方に向けて吹き飛ばされる。そして、重力加速度で加速したよりも速い速度で地面に叩きつけられた。

 そう、アーノルド、ユパ、コルが撃った銃弾は、ただの銃弾ではなかった。トーパ王国軍が魔導技術を活用して開発した特殊弾、「閃光烈風弾」だったのである。これは、はっきり言えば相手の眼前で炸裂させて閃光で目を眩ませると同時に、強い突風を相手にぶつけることで体勢を崩させることを狙う弾である。本来なら狩猟向けの弾なのだが、3人はとっさの判断でこの弾をノスグーラに撃ち、撃墜したのだ。見事な無言の連携ぶりである。

 

「追い討ちをかけるぞ。撃てぇーっ!!」

 

 地面に叩き付けられたノスグーラめがけて、すかさずロデニウス連合王国軍の兵士たちが、ガラント銃を発砲する。

 多人数から発射された多数の弾丸が、ノスグーラに向かって飛んでいく。

 

キンキンキン……!

 

 しかし、金属と硬い物がぶつかったかのような音と共に、弾が弾かれる。ノスグーラは平然と起き上がり、ロデニウス連合王国軍の兵士たちに向けて歩き始める。どうやらライフル銃の銃弾は効いていないらしい。

 

「くそっ、ならこれでどうだ!」

ダダダダダダダダッ!!

 

 ハノマーク装甲車や戦車が装備しているMG34機関銃が、一斉に火を噴いた。だがそれでも、ノスグーラの足は止まらない。機関銃の銃弾の嵐を断ち切るように、こちらに接近してくる。

 

「こ……これでも効かないのか!? 化物め!!」

 

 イフセンが罵った時、咄嗟に1人の兵士が(てき)(だん)(とう)をガラント銃の先に取り付け、擲弾を放った。

 

ドゴン!!

 

 擲弾が命中したその一瞬、ノスグーラは金色の防御シールド魔法を張り、防御体勢を取って攻撃を無効化した。だがその一瞬、彼らはノスグーラの足が止まったのを見逃さない。

 そして、それと同時にサイレンじみた甲高い音が響き始めた。

 

「空の魔王が来るぞ、あと少しだ! 全員、擲弾と手榴弾を使え! パンツァーファウストもありったけ持ってこい!

ここで決めるぞ! 撃てぇぇぇ!」

 

 イフセンの叫びの下、ロデニウス連合王国陸軍・第二軍団の歩兵たちは攻撃方法を切り替えた。約半数がパンツァーファウストを構えて順番にぶっ放し、その間に残り半数は擲弾筒の準備を行う。そしてパンツァーファウスト組が次弾準備に入った隙間を埋めるように、擲弾を次々とノスグーラに命中させる。

 

「休むな、撃て! 奴の目を狙え!」

 

 ハノマーク装甲車や戦車の機銃は、ノスグーラの顔面に銃火を集中させる。少しでもノスグーラの防御魔法を妨害しようという狙いがあった。

 そんな中、「ティーガーⅠ」の車内では、

 

「車長! 1発だけ撃たせて下さい!」

「分かった! だが絶対に当てろよ!」

「任せて下さいよ!」

 

 言うが早いか、砲手妖精がトリガーを引いていた。

 轟音と共に88㎜砲が咆哮し、強力な徹甲弾が飛び出す。それは兵士たちの頭上を飛び越えて、狙い過たずノスグーラに当たったが、ノスグーラは着弾の一瞬、防御シールド魔法を強化した。そのため、88㎜砲弾はノスグーラを倒すには至らなかったが、ノスグーラに強烈な魔力負担を強い、50㎝ばかりも後退させることに成功した。

 そしてその瞬間……「空の魔王」が舞い降りる。

 

ウウウウウウウウウーーー!!!

 

 一層高まったサイレンの音に、慌てて地に伏せる歩兵たち。

 

「止めだ! Auf Wiedersehen(さようなら)!」

 

 別れの挨拶と共に、1トン爆弾を投下する妖精ルーデル。

 

「Feuer!」

 

 そして妖精ヴィットマンの号令一下、戦車隊も一斉に砲撃した。もちろん目標はノスグーラである。

 

ドゴオオオオオオォォォォン……!!!!

 

 オーディオから流れていた「パンツァー・リート」がちょうど途切れると同時に、目を焼きかねない巨大な爆発の閃光が煌めき、圧倒的すぎてかえって無音に聞こえる爆発音が辺りの大気を震わせた。




はい、ついに魔王対決の勃発でした。1トン爆弾が投下されましたが、結果は果たして…!?

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次回予告。

イフセン率いるロデニウス陸軍第二軍団。妖精ヴィットマン率いる機甲部隊。トーパ王国軍の兵士たち。そして「空の魔王」妖精ルーデル閣下。彼らの見舞った一撃の行方は果たして…
次回「決着! 氷山作戦」
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