鎮守府が、異世界に召喚されました。これより、部隊を展開させます。   作:Red October

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年末で学校も実習もないので、連続投稿です!
前回は1トン爆弾の投下と戦車隊の一斉砲撃で終わりましたが、魔王対決の行方は果たして…?



088. 決着!「氷山作戦(オペレーション・アイスバーグ)

ドゴオオオオオオォォォォン…!!!!

 

 中央暦1640年12月17日、トーパ王国北部の城塞都市トルメス。その大通りに、凄まじい閃光と爆煙と共に、鼓膜を突き破らんばかりの強烈な爆発音が響いた。

 多数の魔物を率いてグラメウス大陸から侵攻してきた魔王ノスグーラに対して、妖精“ミハエル・ヴィットマン”率いるロデニウス連合王国陸軍機甲部隊と、「空の魔王」こと妖精“ハンス・ウルリッヒ・ルーデル”の1トン爆弾による同時攻撃が炸裂したところだった。

 

「やったか?」

 

 機甲部隊の先頭に立つティーガーI重戦車、その砲塔上ハッチを開けて上体を出したまま、妖精ヴィットマンが呟く。

 

「「「おおおおお……!!」」」

 

 トーパ王国軍の兵士たちは、この凄まじい爆発に驚愕する。そして今度こそ、魔王ノスグーラを倒せたものと確信していた。

 その時、

 

「!?」

 

 城壁の上で戦況を見ていた1人の女性……大和(やまと)型戦艦1番艦の艦娘"大和"の背筋に、強烈な()()が走った。

 地球から転移した艦娘たちは、つい少し前まで(しん)(かい)(せい)(かん)とドンパチやっていた身だ。また、先日の深海棲艦モドキの出現(正確にはこの世界に生息する「海魔」と呼ばれる魔物だったようだが)によって、地球にいた頃の“第六感”が戻ってきていた。その"大和"の第六感が、激しい(けい)(しょう)を鳴らしている。

 

(討伐失敗……!? まさか……!)

 

 それに気付いた時、彼女は己の意識を切り替えた。最悪、自分の秘密……「戦艦になれる」を暴露してでも、味方を救う必要があるかもしれない……。

 

 

 一方、大通りの方では前線で戦っていたロデニウス連合王国軍の兵士たちと機甲部隊の面々が、爆煙が晴れるのを見詰めていた。そして空からも、妖精ルーデルがこれを見詰めている。

 そんな中、次第に煙が晴れていき……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこにあったのは、()()姿を変えていない魔王ノスグーラだった。もちろん生きている。

 そしてノスグーラは、当然のように怒りのオーラをガンガン放っていた。

 

 

「何っ!?」

 

 歴戦の妖精“ミハエル・ヴィットマン”も、これには流石に驚いた。

 

「しくじった……!」

「んなことは後回しだ! 急いで母艦に帰って補給するぞ!」

 

 そして空では、愕然とした妖精ルーデルが、後部座席に座る相棒の妖精“エルンスト・ガーデルマン”に怒鳴り付けられている。

 

 実は、ルーデルが投下した1トン爆弾と戦車隊の砲撃が殺到する寸前、魔王ノスグーラは防御魔法…「物理防御魔法」を()()()で発動したのだ。この「物理防御魔法」とは、土と魔素を混合して作った“物理的な盾”を自身の周囲に展開する魔法である。かつての時代に、ノスグーラはこれを10枚同時に無詠唱で展開して、「太陽神の使い」の魔導船の爆裂魔法を防ぎ切ったこともあった。ノスグーラはその魔法を使い、ギリギリで全ての攻撃を受け切ったのである。

 

「まずい! ティーガー全速前進だ、急げ! 味方の歩兵が撤退するまで、これを援護する!」

 

 珍しく焦った様子で妖精ヴィットマンが指示を飛ばす。そうでなくとも、既にノスグーラが放つ怒りのオーラが“可視化”するレベルになっているのだ。

 さっきあれだけの攻撃を浴びせたのだ。怒髪天を衝く勢いで怒っているのは間違いない。

 

「総員退却! 退却しろ!」

「全速前進だ、早くしろ!」

 

 車内に戻ってきた妖精ヴィットマンが、ペリスコープを覗いたまま怒鳴る。歩兵隊は既にイフセンの指揮下で撤退を開始していた。

 だが、一足遅かった。

 

「魔界の王の名において命ず! 魔界の獄炎の鳳凰よ、我に逆らいし愚かなる敵を焼き尽くせ!

魔王炎殺拳奥義、炎殺黒鳳波!!」

 

 魔王ノスグーラの呪文詠唱の方が早かったのだ。さっき喰らった強烈な攻撃、カイザーゴーレムが喰らった分、レッドオーガとブルーオーガの仇、そして全滅が発覚した別働隊の仇。全ての怒りを籠め、ノスグーラは一撃を放った。

 一目散に逃げ出す歩兵たちとティーガーⅠに向けて、巨大な黒い炎の鳥が飛び出す……その瞬間だった。

 

 戦場の上空で、巨大な眩い白い光が弾けた。

 

「っ!? 何事か!?」

 

 思わず両手で目を覆うノスグーラ。

 次の瞬間、その光の中からノスグーラなぞ比較にもならない“巨大な影”が飛び出してきた。上側を鼠色に、下側を赤色に塗装された巨大な()()

 

ドゴオオオオオオオォォォォン!!!!!

 

 その巨大な物体は、ちょうどノスグーラとティーガーⅠの中間くらいの所に着地した。次の瞬間、爆弾でも爆発したかのような轟音と共に、震度7の大地震もかくやの揺れが発生する。物体が着地した付近の石畳は、耳障りな甲高い音を立てて粉々に割れ飛んだ。そして、全ての家の窓ガラスが()()()(じん)に割れ、通りの家並みが次から次へと音を立てて倒壊していく。それに混じって、金属的な破砕音が響いた。

 

 ノスグーラとティーガーⅠの間に着地した巨大な物体、それは戦艦「大和」だった。全長263メートル、最大幅38.9メートル、満載排水量72,800トンの巨体が、特徴的なバルバス・バウを下にして落下してきたのだ。そりゃあ、大地震が起きるのも当然である。

 第六感が警鐘を鳴らした瞬間、"大和"はいつでも「艦艇形態」に移行できるようにしながら戦場の様子を窺っていた。そしてノスグーラの健在ぶりが確認され、ノスグーラが「黒い炎の魔法」を放つ体勢を取ったのを確認したその瞬間、彼女は15万馬力の力で城壁を蹴り、戦場の空へと舞った。そして空中で「艦艇形態」を展開し、そのまま落下してきたのである。

 なお、「大和」の巨体が着地したせいで、特徴的なバルバス・バウは強烈な圧力がかかり、見るも無惨に崩壊してしまっている。

 

 自重によってバルバス・バウを大破させながら、艦首から着地した「大和」。そこに巨大な黒い炎の鳥がぶつかる。黒い鳥は「大和」の艦首に激突し、そこで霧散した。

 ノスグーラの放った「炎殺黒鳳波」は、元々は突撃してくる敵生物やこちらを待ち構えている敵生物に対して使用するものである。そこには当然、「敵生物が金属製の鎧のような防具を纏っている」場合も含まれるのだが……そうした鎧は必ず生身の部分、つまり“保護されていない部分”がある。そしてその生身の部分は当然ながら焼ける。また、金属製の鎧であっても、炎の温度によっては溶かせるかもしれない。そういう()()で使われる魔法、それが「炎殺黒鳳波」である。

 しかし全身を金属板で、それも“特注品レベルの重装甲”で覆われており、かつ周囲に可燃物のない“例外の相手”に対しては、「炎殺黒鳳波」はあまり意味を成さない。そして「大和」は、その“例外の相手”の(はん)(ちゅう)にいる物である。当然ながら、「炎殺黒鳳波」は「大和」に対してほとんど()()()たり得なかった。

 だがそれでも、“全く”損傷を負わせられなかった訳ではない。「炎殺黒鳳波」は「大和」の艦首部分に大きな黒い焼け焦げを作り、金属板の表面の一部を溶かし……そして、艦首に(さん)(ぜん)と輝いていた巨大な菊花紋章を粉々に打ち砕いた。

 

「な……た……た、太陽神の使いの魔導船!!!

下種どもが! こんなものまで陸揚げする力を持っておったのか!!?」

 

 大地震に足を取られ、ともすれば地面に膝を突きそうになりながらも、ノスグーラは目の前に突如として出現した存在をそう認識した。

 そしてその「大和」の第一(昼戦)艦橋では、大揺れに揺れる中でもしっかりと両の足を踏ん張った"大和"が、艦橋の窓を通してノスグーラを真正面から見据えていた。敵が放った炎の鳥が霧散した直後、“キラキラと光る黄金色の粒子”が宙を舞う。それが何なのか、理解できない彼女ではなかった。

 

「おのれ! よくも皇国の証たる菊花紋章を……!」

 

 憤怒に燃える瞳でノスグーラを睨み付けながら、彼女は「その時」を待っていた。

 着地した「大和」の巨体が重力に引かれ、モーメントがかかる。少しずつ、艦は艦底の方から大地に向かって倒れていき……「大和」の軸線とノスグーラの身体が、ピタリと一致した。

 

()ぇーーーっ!!!」

 

 その瞬間、大音声で"大和"の号令が下る。

 

ズドドドオオオオオォォォォン!!!!

 

 警告ブザーも一切無しで、艦体前方に設置された2基の「46㎝三連装砲」と1基の「15.5㎝三連装副砲」が、怒りの咆哮を放った。発射された砲弾が超音速の速度を以て、魔王ノスグーラに殺到する。

 突然現れた「太陽神の使いの魔導船」に驚愕しながらも、それでも魔王ノスグーラは動いた。咄嗟に無詠唱で物理防御魔法を発動し、自身の目の前に土の壁を地面から生やしたのである。ただの土壁と侮るなかれ、魔力によって超絶強化され、岩をも凌ぐ固さになった土壁だ。道路の石畳を突き破って生えてきた土壁がノスグーラの視界を塞ぐのと、9発の砲弾が飛来するのとが同時だった。

 次の瞬間、マッハ2以上の超高速で突っ込んできた砲弾……それもよりによって戦艦の装甲をもぶち抜く「九一式徹甲弾」6発と、副砲の通常弾3発が着弾。厚さ410㎜の鉄板をも穿つ46㎝砲の「九一式徹甲弾」は、魔力によって強化された土壁を粉々に消し飛ばし、その勢いのまま魔王ノスグーラの身体を物理的に断ち切った。それにほんの少しだけ遅れて、「九一式徹甲弾」の表面に沿って発生した衝撃波が、ノスグーラの身体を粉微塵に打ち砕き、徹甲弾の仕事を仕上げていく。

 もしノスグーラが魔力を十分に残していれば、この一撃も食い止められたかもしれない。だが残念なことに、ノスグーラは「炎殺黒鳳波」2発発射、ゴーレム召喚、無詠唱での物理防御魔法と、これまで散々強力な魔法を使っており、魔力の消耗が激しくなっていた。そのため、今回の物理防御魔法の強さでは、46㎝砲弾を止められなかったのである。

 ノスグーラの身体を貫いた徹甲弾は、ほとんど勢いを緩めることなく大地に突き刺さる。ここに至って徹甲弾の遅延信管が作動し、後から飛んできた副砲の通常弾と共に、盛大な火柱を噴き上げた。

 

ドゴアアアアアアアアァァン……!!!

 

 圧倒的な爆音、そして目を焼き焦がす爆炎。周辺の雪は水蒸気すらも発する暇もなく瞬時に蒸発し、(つち)(くれ)と焼けた石とが宙に舞い上がった。もちろんこの石には、完全に爆砕された道路の石畳も混じっている。

 

 砲弾の爆発による真っ赤な光と時を同じくして、白い光もまた戦場に出現していた。その光の中で、「大和」の巨体が小さくなっていく。

 直後、艦娘形態に戻った"大和"が、その身体に艤装を纏った姿で道路に降り立った。美しい造形を誇った艦首部分は大破し、奇怪な鋼鉄のオブジェと化してしまっている。また、形態変化に伴う疲労により、彼女は息を切らしている。

 しかし、彼女の戦意は揺らぐことはなく、敵意に満ちた目で前方の爆炎を見詰めていた。

 

「や、大和さん!? 助かりました……!」

 

 間一髪で"横転かペチャンコか黒焦げか"の運命を逃れたティーガーIの砲塔上ハッチから、妖精ヴィットマンが顔を出して"大和"に叫ぶ。

 

「「「「「………」」」」」

 

 パンター改やブルムベア改に乗っていたロデニウス連合王国軍の兵士たちや、危ういところで消し炭の運命を免れたロデニウス連合王国軍の歩兵たち、そして共にいたトーパ王国軍の兵士たちでさえも、誰もが言葉を失っていた。

 とんでもないものを見た。まさか、“船が空から降ってくる”なんて想像すらもしていなかった。しかも、その船を1人の女性の中に隠すなんて!

 ロデニウス連合王国は、いったいどんな力を持っているのだろうか?

 

 その時だった。

 

「お……おのれ、おのれぇぇぇぇぇ!!!」

 

 怒りに染まった野太い声が、爆炎の中から響いたのだ。聞き間違える筈もない、魔王ノスグーラの声である。遠くまでよく聞こえるような、強烈な大声だ。

 

「なっ、まだ生きてやがんのか!? あの一撃を喰らったのに!?」

 

 驚愕しながらも、妖精ヴィットマンは素早く砲手に合図を送った。その合図を受けるまでもなく、88㎜砲は既に発射態勢を整えている。それと同時に、「大和」主砲の次弾装填も完了していた。

 と、風が爆煙を吹き散らし、そこから魔王ノスグーラが現れた。……頭部()()。捻じ切られた頭部だけが宙に浮いている。

 

「っ!?」

 

 まさか、自身の46㎝砲を喰らってまだ生きているなんて……唖然としたものの、それも一瞬。即座に、"大和"は主砲の発射トリガーに指をかけた。相手の行動次第では、痛いのをもう一発お見舞いしてやる、とばかりに。まあ、46㎝砲を「痛いの」で済ませられるかは別問題として。

 

「おのれ、太陽神の使いめぇぇぇ! 一度ならず、二度までも我が野望を打ち砕きおってぇぇっ!!

よく聞け、下種どもよ!! 近いうちに、魔帝様の国が復活なさる! お前たちの世界も終わりだ!! 圧倒的な魔帝様の軍の力によって、お前らのような下種は1人残らず魔帝様の奴隷と化すだろう!! 今から心しておくが良い! ハーッハッハッハ……」

 

 ひとしきり喚いた後、笑い声が次第に小さくなっていき、宙に浮いていた魔王ノスグーラの頭部は砂となって崩れていった。戦闘の後に吹き荒ぶ北風が、その砂を吹き散らしていく。

 最大のリーダーであった魔王ノスグーラが討ち取られる、というまさかの事態に、生き残っていた魔物たちは悲鳴を上げ、泡を喰ったように逃げ出した。脇目も振らず、一目散にグラメウス大陸へ続く地峡を目指して逃げていく。

 

「ま……魔王ノスグーラを、た、倒しちまった、だと……。しかも、あんな巨大船を陸に揚げて、街のど真ん中に出現させるなんて……」

 

 傭兵ガイは、あまりに凄まじいロデニウス連合王国軍の力に絶句していた。

 

「な、なんと凄まじい力なのか……」

 

 モアも、それしか言葉が見つからないらしい。

 トーパ王国軍の他の兵士たちも、最初はあまりの戦いぶりに口にすべき言葉を失ったかのようだった。だが、

 

「う……うおおおおおおお!!」

 

 誰かが歓声を上げたのを皮切りに、兵士たちは一斉に各々の武器を空に向けて突き上げ、勝ち(どき)の咆哮を上げる。それは市民たちをも巻き込み、やがて大きな「万歳、万歳」の歓声となってトルメスの市街地全てを包み込んだ。

 

 

 一方、リーダーたる魔王ノスグーラが討ち取られる、というまさかの事態に酷く狼狽した魔物たちは、我先にグラメウス大陸と繋がる地峡を目指して逃げて行く。だが、その撤退行も楽なものではなかった。

 ミナイサ地区にいた人間の兵士たちからの追撃はなかった。勝ち鬨の方に気を取られていたのもあったが、銃でも届かないほど距離が遠かったのだ。

 だが……彼らがトルメスを脱出し、瓦礫の山と化した「世界の扉」を乗り越えて、待機していた赤竜やゴウルアスと合流したその時、「それ」は襲ってきた。低く垂れ込めた雪雲の中から、多数のレシプロ航空機が飛び出してきたのである。

 

「大和さんがいるから、多分ノスグーラは倒せるわ。私たちの仕事はその後よ!

第13艦隊はこの港に待機してなきゃならないけど、航空機はその限りじゃないわ。既に地峡に到着している第3艦隊と合同で、遁走を図る敵を追撃しなさい! 1匹たりとも逃すんじゃないわよ!」

 

 そう言って"(ずい)(かく)"が送り出した、第一次攻撃隊であった。

 真っ先に動いたのは、9機の「F6F-3 ヘルキャット」艦上戦闘機。腹の下に抱いていた増槽を捨てるや、地上の獲物を狙う(もう)(きん)のように地上すれすれまで舞い降り、ブローニング12.7㎜機銃6丁で弾幕を浴びせる。歩兵の持つライフル銃とは比べものにならない威力の機銃掃射に、ゴブリンの頭部が木っ端微塵に砕け飛び、全身蜂の巣にされたオークが断末魔の悲鳴もなく事切れる。

 「F6F-3」の機銃掃射が猛威を振るっている間に、今度は快速を生かして魔物集団の前方に飛び出した「(りゅう)(せい)(かい)」34機のうち24機が仕事にかかっていた。魔物たちの行く手を塞ぐように、母艦から抱えてきた2発の800㎏爆弾を水平爆撃で投下する。

 

ヒュウウウウウウ……ドドドドドドーン!!!

 

 落下した爆弾が爆発するや、白い雪化粧を施されていた地峡の地面は一瞬で真っ黒に変わった。綺麗な雪化粧は跡形もなく吹き飛び、巻き込まれた魔物たちは区別なく黒焦げにされるか、木っ端微塵にされるか、あるいは空高く吹き飛ばされ、地面に叩き付けられる。

 さらに追撃として、残っていた10機の「流星改」が緩降下爆撃で800㎏爆弾を叩き込んだ。しかもそれに飽き足らず、

 

ドドドドド!

 

 両翼に発射炎を煌めかせる。20㎜機銃の太い()(せん)が走り、回避の遅れた魔物を容赦なくミンチ肉に変えていく。そこへ、水平爆撃を行っていた「流星改」も加わって、20㎜弾を次々とお見舞いしていく。

 「流星改」の爆撃と機銃掃射により、魔物たちの足が一瞬止まる。そこへ、

 

ウウウウウウウーーー!!!!

 

 お待ちかねの「悪魔のサイレン」が高く鳴り渡った。23機の「Ju87C改」が、ルーデル仕込みの急降下爆撃を仕掛けてきたのだ。

 サイレンが鳴り止むと同時に、シュトゥーカが抱えてきた500㎏爆弾1発と70㎏爆弾4発を投下する。大地を真っ赤に染める爆発が起き、魔物たちが木っ端微塵に消し飛ぶか、足などを吹っ飛ばされて満足に動けなくなる。動けなくなった魔物に止めを刺すのは、「F6F-3」の仕事だ。

 

 悪魔のサイレンとエンジン音を“勝利の(がい)()”として奏でながら、一仕事終えて意気揚々と引き上げていく攻撃隊。ここだけで既に大方の魔物が死に、赤竜は生き残っていたものの、ゴウルアスは「流星改」の20㎜機銃と「F6F-3」の12.7㎜機銃で動きを止められたところに、真上から降ってきたシュトゥーカの500㎏爆弾で叩き潰された。

 そして、辛くも空襲を逃れて逃走を続ける魔物たちを待ち受けていたのは……艦砲射撃である。

 

「てぇーっ!」

 

 パンカーレ提督の号令一下、第3艦隊の各艦艇が一斉に砲撃を開始する。魔物の逃走が予期されていたため、その退路を断ち切るべく第3艦隊が展開していたのだ。1艦当たりの面制圧力は「大和」に比べて弱いものの、速射性なら「大和」に負けていない。「三式弾」に裏打ちされた凄まじい面制圧射撃が次々と炸裂する。

 

ピギャアァァ……!

 

 何体ものゴブリンが悲鳴を上げながら、火だるまになって灼かれていく。徹甲弾が直撃したゴブリンロードは一瞬でその場から消失し、至近弾を受けたオークは身体を砲弾の破片で切り刻まれ、まともに動けなくなって炎の中で息絶えていく。大東洋共栄圏の平和を乱した者たちを絶対に許すまい、とどの艦も斉射を繰り返し、大小無数の砲弾を地峡に叩き込んでいた。

 次々と降り注ぐ砲弾、それに反比例するように急速にその数を減らしていく魔物たち。そんな中、赤竜だけは必死にロデニウス連合王国軍艦隊の砲撃に耐えていた。

 赤竜はその能力として「重力魔法」という特殊な魔法を使うことができる。これは文字通り、“自身の周囲の空間に働く重力を制御できる”というもので、モン◯トでいうところの「重力バリア」だと思って貰えばよろしい。かつて赤竜は、この魔法によって「太陽神の使い」の魔導船が放った強烈な爆裂魔法を食い止めたこともある。

 しかし、その赤竜の重力操作を以てしても、この攻撃は苛烈すぎた。

 

 絶え間なく襲い来る砲弾。赤竜は属性竜などよりも強く、それこそ神龍にも匹敵し得る力があるが、知能が亜竜並しかない。その、決して高いとは言えない知能を以て、飛来する砲弾を次々と識別し、それらのうちどれが自らに当たりそうか、飛来はいつ頃になるかを瞬時に判定し、自らの能力行使の強さと継続時間を計算しなければならないのだ。これは、赤竜に大変な消耗を強いていた。

 しかも、砲弾は無限にあるようにも思える。それを捌き続けなければならなかった。加えて、砲弾の炸裂によって発生し、高速で飛んで来る砕かれた岩盤や砲弾の破片、更には砲弾の爆発による炎や火の粉、一酸化炭素やらの有毒ガスをたっぷり含んだ爆発煙までも計算しなければならないのだ。

 その上、飛来した砲弾の破片や岩盤の欠片は、別の砲弾の爆発によって発生した爆風や衝撃波によって押され、重力バリアを貫通して赤竜の身体を傷付ける。赤竜の重力バリアは確かに強力だが、実は欠点も多く、一度能力で止めて影響下にある物体に“別の力”が加わると、それを無効化できず貫通してしまうのだ。炎や煙、ガス等粒子が細かい物体も防ぐことはできないし、それに何より、この能力が赤竜の持つ魔力によって発動している以上、魔力が枯渇すると発動できなくなってしまう。この砲煙弾雨の中で魔力が切れれば、即ち死が待っている。

 砲弾や岩盤の破片による物理的な怪我、炎による火傷、濃度を増す有毒ガス、高温に達した空気によって灼かれる呼吸器、そして迫る魔力枯渇。もはや赤竜の歩みは、かなり緩慢になっていた。赤黒い血を引き摺りながら、それでも何とか生き延びようとグラメウス大陸の方向へ歩みを進めている。

 

 その様子を観察していた「流星改」の隊長は、無線機に叫んだ。

 

「敵の赤い竜は弱っている! そのまま砲弾を叩き込み続ければ、遠からず魔力が切れる筈だ! そこで一気にケリを付けてくれ!」

 

 通信の宛先は、第3艦隊の各艦。航空隊はもはや、赤竜に対して使用すべき爆弾を持っていない。機銃掃射ではダメージを負わせられないだろうし。

 ならば、艦隊の艦砲射撃に賭けるしかない。

 

 ……ところが。

 

『こちら第3艦隊、各艦砲弾が枯渇しつつあり! これ以上の攻撃は困難!』

 

 パンカーレの悲鳴じみた声が無線機から聞こえてきた時、隊長は悟った。

 

(くそっ、肝心なところで! ここまで追い詰めたのに、このまま逃げられてしまうのか!?)

 

 怒りと悲しみに胸を打たれた時。

 

 

『真打登場』

 

 

 特徴的な固定脚と逆ガル翼を持つ1機の機影が、「流星改」隊長機の横を掠めていった。

 

 

「目標はあの赤いデカい竜だ! さっき魔王を倒し損ねたこの借りは、これで返す!

行くぞガーデルマン、突撃だ!

 

 そう。空の魔王ルーデルが、戦場に戻ってきたのだ。

 魔王ノスグーラに対して爆弾を見舞い、討伐失敗が発覚した後、妖精ルーデルは「魔王」対決の敗北を胸に宿して母艦に帰ってきた。そして補給中に「残敵掃討中、しかし強力な竜が1匹いる。注意されたし」の報告を聞き付けるや、さっきの魔王対決敗北の怒りを全て叩き付けてやるとばかりに、燃料補給をカットして1トン爆弾だけ引っ提げて舞い戻ったのである。

 爆発炎が煌めき煙が荒れ狂う大地を、這い摺るようにして移動している赤い竜を、魔王ルーデルは見逃さなかった。

 

「よし、ここだ! 最適降下点……突入!」

 

 妖精ルーデルは力一杯操縦桿を引き、フットバーを踏み込んだ。

 1トン爆弾を抱えた鈍重なシュトゥーカが猛禽類のように機体を翻すと、赤竜めがけてほぼ垂直に突っ込んで行く。

 

「降下角度アハトアハト(88度)、ダイブブレーキ正常! …照準器中に目標捕捉!」

「3,800! …3,600! …3,400!」

 

 目まぐるしく回転する高度計の針を見ながら、後部座席に座る相棒の妖精“エルンスト・ガーデルマン”が高度を報告する。

 

ゥゥウウウウウー……

 

 寒い北国の風を切り、心胆を寒からしめる「悪魔のサイレン」が今、鳴り始める。

 

「2,400! …2,200! …2,000!」

 

ウウウウウウウウーーー!

 

 サイレンはさらに甲高く鳴り渡る。

 

(そう、これだ。心踊るこの感覚、そしてこのサイレン!)

 

 妖精ルーデルの口元に、微笑が浮かぶ。

 

ウウウウウウウウウウウウウウー!!!

 

 どこまでも高く鳴り渡るサイレン。

 赤竜がこちらを見上げた。その瞳に「恐怖」という感情が多分に宿っているのを、妖精ルーデルは見逃さない。

 

「400!」

「投下!」

 

 妖精ガーデルマンの報告と同時に、妖精ルーデルは投下レバーを引いた。必殺の一撃となる1トン爆弾が機体から切り離され、大地に向かって落下して行く。

 

 空から降ってくる黒い塊に、赤竜は恐ろしいものを感じた。あれはヤバい、と直感した。

 迷わず重力魔法を行使する赤竜。接近する黒いものが重力バリアの影響圏内に突入し……その運動が止まらない。真っ直ぐに、赤竜めがけて落ちてくる。

 

 魔力切れ。赤竜がそれに気付いた時には、もう遅かった。

 地上に紅蓮の巨大な炎の塊が湧き出し、それは赤竜の巨体を完全に包み込んで焼き尽くした。

 

 

 やがて、航空攻撃隊が全て飛び去り、ありったけの砲弾を全て撃ち尽くした第3艦隊が撤収した後、戦果確認の任を帯びて上空に飛来した「(さい)(うん)」が、トルメスや地峡の上空を何度も旋回した。

 戦艦「大和」の着地痕と砲撃痕、地震の如き揺れによって全壊した家並み、破砕され消し飛んだ石畳。真っ黒に焼け焦げた地峡の様子、あちこちに横たわる射殺された魔物、そして骨だけを晒して横たわる赤竜の死骸。「彩雲」は、それらの全てを下腹に装備したカメラに写真として収めていった……。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 この戦いは、当然ながら多くのトルメス市民たちも目撃していた。その誰もが、驚きに身体を震わせている。

 そして、そうした市民たちの中には、「情報収集」などといった名目で入国している外国人も少なからずいる訳で……ここにもその1人がいた。誰もが認める世界最強の国家、神聖ミリシアル帝国の情報官ライドルカ・オリフェントである。

 

 “古の魔法帝国の遺産の一つ”とされる魔王ノスグーラ。こいつがどの程度の魔力を持ち、どういった魔法を使用するのかを、一般人に紛れ確認する。それが今回、彼に課せられた任務の1つだった。

 

 まずやはり、“制御不能の”魔物たちを()()するノスグーラの能力は凄いものだ。特にオーガなんて、どうやったら統制下に置けるのだろうか、想像も付かない。

 そして、トーパ王国騎士団約200名を滅した技…明らかに超高温と分かる黒い獄炎の炎は、「凄まじい」の一言に尽きる技だった。

 

 遠い昔、魔王ノスグーラに挑んだと言われる勇者たちも、ノスグーラの強さには絶望したことだろう。

 

 そしてノスグーラは、古の魔法帝国の二足歩行型陸戦兵器のレプリカ・「カイザーゴーレム」を使用する。

 通常のゴーレムよりも遥かに大きい。ノスグーラのありあまる魔力があるからこそ、作成し制御できるものなのだろう。

 

 そしてそのカイザーゴーレムに対し、ロデニウス連合王国は「センシャ」とよばれる兵器を使用した。

 

 神聖ミリシアル帝国の魔導戦艦であれば、その巨砲を以てゴーレムを容易く消し去る事が出来るだろう。しかし、陸を走る乗り物に魔導回路を搭載するとなると、現時点の技術から言ってあれほどの大きさの鋼鉄の乗り物を動かし、さらに高威力の魔導兵器を載せて陸戦兵器として使用するのは不可能だ。今のミリシアルの最高の魔導回路を以てしても、出力が足りなさすぎる。

 そう。“世界に誇る”我が国の魔導技術を以てしても、不可能なのだ。

 

 しかし、ロデニウス連合王国の兵器からは魔力反応が見られなかった。信じ難いが、あれはムー国の科学機械に近い技術なのだろう。

 まさか、科学技術で魔導を超える物を生み出せるとは……。

 

 ロデニウス連合王国軍はその鋼鉄の乗り物と、……信じられないことに、ムー国の“プロペラ”とやらいう機構に似た物を装備した「天の浮舟」を繰り出し、カイザーゴーレムと戦った。そして、やや苦戦しているような様子であったが、最終的にカイザーゴーレムを倒してしまった。そのこと自体も衝撃的だった。

 

 崩れ落ちるカイザーゴーレムから、ノスグーラは大ジャンプで脱出してきた。いったいどれほどの身体能力なのだろうか……そのような恐るべきものを生み出したとされる、古の魔法帝国こと「ラヴァーナル帝国」の強さは、底知れぬものがある。

 

 脱出したノスグーラに対し、ロデニウス連合王国軍は戦車と「天の浮舟」の全火力を以てノスグーラを攻撃したが、魔王を倒すことはできず、そしてノスグーラはあの獄炎の黒い炎を使用した。その炎がロデニウス軍の戦車を焼くのは確実と思われた……ところが、それは“あり得ないような方法”を以て止められた。

 

 なんと、ロデニウス連合王国の国旗と白地に赤で太陽を描いた旗を掲げた船が、“空から降ってきた”のである。それも、我が国の誇る「ミスリル級魔導戦艦」よりも遥かに巨大な艦が。

 その艦は、凄まじい揺れを起こしながら着地し、ノスグーラの放った獄炎の炎をあっさりと消し飛ばした。そして、搭載されていた大砲……それも、ミスリル級の零式38.1㎝三連装魔導砲よりも大きいかもしれない三連装砲を撃ち、魔王を粉砕してしまったのである。

 

 信じられないものを見た。まさか、陸にあれほどの巨大艦を揚げ、空から落下させるなんて!

 しかもその艦は、何やらどこかで見覚えがある形をしていた。揺れに足を掬われながら、やっとのことで記憶を探り当てたライドルカは愕然とした。

 それは、今世界を騒がせているグラ・バルカス帝国の超巨大戦艦「グレードアトラスター」に似ていたのだ!

 

 何故!? 何故ロデニウス連合王国に、()()()()()がある!? しかも、それを陸揚げするなんてことが、どうして可能なのだ!?

 

 その疑問に対する答えは、直後に弾き出された。

 着地したロデニウスの超巨大戦艦は、しばらくすると光に包まれ、その姿を消した。しかし、その代わりにそこに、1人の艶やかな女性が出現したのである。そしてその女性は、巨大な金属製の鎧じみたものを装着していた。

 一見すると鎧かと思ったのだが……よく見れば、その鎧の肩口には小さいながらも三連装砲が付いているではないか。それも、さっき消えた超巨大戦艦が装備していたのと“そっくり同じ形状”のものが。

 

 まさか……まさかロデニウス連合王国は、1隻の超巨大戦艦を1人の女性の中に隠すことができるのか!?

 それならば、陸上に展開できるのも理解できる……いやいや、それ以前にそんなことあり得ないだろ!? どうやったら、船を女性に変えられるんだ!? 妙な魔法でも……それこそ古の魔法帝国しか知り得ない、我が国でもまだ知られていない魔法の類でも使ったのか!?

 ライドルカの思考は混乱を極めていた。

 

 形はどうあれ、ロデニウス連合王国軍は魔王を倒した。倒して()()()()

 そして魔王が死に際に言った台詞が、大きな衝撃を以てライドルカに突き付けられた。

 

『近いうちに、魔帝様の国が復活なさる! お前たちの世界も終わりだ!! 圧倒的な魔帝様の軍の力によって、お前らのような下種は1人残らず魔帝様の奴隷と化すだろう!! 今から心しておくが良い!』

 

 ヒト族よりも、いや、あのエルフ族でさえも遥かに上回る魔力を持った人間の上位種「光翼人」が作り上げた歴史上最強の国家、ラヴァーナル帝国。

 神聖ミリシアル帝国でさえ、彼らの遺産に使われた技術が高度すぎて解明できていない点が多い。時々発掘される遺跡からも、とても高度な文明だったことが窺える。

 進みすぎた文明故に、神々に弓を引いたとされる古の魔法帝国。その恐怖の国の復活が近い、と魔王が言い放ったのだ。

 

「こ……これは、急ぎ本国に報告しなければ!!!」

 

 ライドルカは、早急に帰国準備に取り掛かるのだった。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 今回の魔王軍侵攻で、魔王軍は全滅したが、トーパ王国軍も死者3千人以上と、多大な戦死者を出した。しかし、守り切った。

 トーパの民は、フィルアデス大陸に至る前に、魔王ノスグーラの侵攻を防ぎ、魔王軍を滅したのだ。

 恐怖からの解放と、やり遂げた達成感。

 その日の出来事は、トーパ王国の歴史書に大きく大きく掲載されるのであった。

 

 

 その日の夜、トーパ王国の首都ベルンゲンの王城では戦勝の宴が催された。本当ならトルメス城で行われる筈だったが、「戦艦大和の着地」というコラテラルダメージ(その割には下手な戦闘より大きなダメージだが)によってトルメス城は市街地ごと甚大な被害を受けており、已む無くベルンゲンの王城を使うことになったのだ。

 出席者はまず、今回の魔王軍との戦いに動員された全てのトーパ王国軍兵士たち。この時点で、北部守護隊、主力の騎士団、狙撃部隊、全て合わせて既に2万人にも達している。

 それから、絶対に外すことのできない主役。魔王ノスグーラを討伐するという、神話の「太陽神の使い」たちや「勇者パーティー」にもできなかった偉業を成し遂げた、ロデニウス連合王国陸軍の兵士たちと"大和"。

 そして、トーパ王国現国王ラドス16世と各大臣たち。

 実に2万人を超える出席者が集まったお蔭で、王城はもう完全に定員(キャパ)オーバーの状態であり、建物はもちろん、城門内の広場までもが人で一杯になってしまっている。

 

 そして城下町の方も、負けず劣らずのお祭り騒ぎで活況を呈していた。

 王都ベルンゲンはもちろん、どこの町においても、通りという通り全てに市民たちが溢れ出し、万歳、万歳と叫び合っている。「フィルアデス大陸を魔王軍の侵攻から守り抜いた」という事実は、彼らにとっては非常に名誉なことなのだ。

 

「では、此度の魔王軍侵攻の阻止を祝して、そして命を賭して魔王軍と戦った全ての兵士たちを祝して、乾杯!」

「「「「「かんぱーい!」」」」」

 

 ラドス16世直々の音頭と共に、祝宴の参加者たちが一斉に酒の入ったグラスを突き上げる。そして、華やかな宴が開始された……のだが。

 

「トーパ王国新聞です! あの軍艦はどうやって出したのですか!?」

「此度の戦闘に関して、是非とも一言お願いします!」

「よろしければ、あちらのお席で私と酌み交わしませんか?」

 

 1名だけ、ものすごい数の人間に取り囲まれている者がいる。

 

「え、えっと……」

 

 そう、"大和"である。あの超大型軍艦を突如として引っ張り出したこと、魔王ノスグーラを打ち倒したこと、そしてその美貌から、彼女は一瞬にしてトーパ王国において“超有名人”となってしまったのだ。そのため、祝宴開始と同時に彼女は大勢の人間に取り囲まれ、動けなくなってしまったのである。

 

「こらこら、彼女が固まってしまってるじゃないか。皆さんの気持ちは分かるが、彼女も戦闘で疲れているんだ、遠慮してやれよ」

 

 イフセンがそう言って助けに来るまで、彼女は群衆に包囲されてしどろもどろになっていたとか。

 

 

 一方、祝宴の熱気から少し離れたところで、妖精“ミハエル・ヴィットマン”は1人グラスの()(どう)(しゅ)を傾けていた。最初は祝宴の会場真っ只中にいたのだが、一度夜の風に当たろう、と会場を抜け出してきたのだ。

 

(騒がしすぎるのは、あまり好きじゃないんだよな……)

 

 そんなことを考えていた時だった。

 

(ん?)

 

 どこからか、物静かな音楽が聞こえてきたのだ。弦楽器のようだが……ヴァイオリンやハープ等とは違う、変わった音色である。

 

(どこからだ?)

 

 あちこち見回した後、妖精ヴィットマンはついに音源を発見した。

 茶色のロングストレートの髪を持つ、比較的小型な女性が変わった形状の弦楽器を弾いている。音はそこから聞こえてきていた。

 

(ある特定の民族に特有の、伝統的なタイプの楽器か? 日本にも、コトとかいう楽器があると聞いたことがあるし)

 

 などと妖精ヴィットマンが考えていると、弦を弾く彼女の指が不意に止まった。そして、

 

「そこの、ロデニウスのお人。あんたも、風に吹かれて来たのかい?」

 

 いきなり、その女性が話しかけてきたのだ。

 

「は? いや、風に吹かれたって訳では……」

 

 変わった言い回しに一瞬驚いたものの、妖精ヴィットマンはすぐに立て直した。

 

「パーティーも良いんだが、たまには静かに楽しみたい、と思ってな。お嬢さんはパーティーには出ないのか?」

「あたし? あたしは騒がしいのは好みじゃないんだ」

「そうなのか」

 

 言いながらも、取り敢えず女性の側に腰を下ろすヴィットマン。

 その女性は、端正な顔立ちではあったが、その視線は気の強そうな雰囲気を纏っており、どこか「歴戦の女軍人」とでも表すべき雰囲気がある。そしてその眼光には、狙った獲物は必ず仕留めそうな気配があった。

 

(これは……眼光と言い指と言い、大砲の砲手でもやっているのか? あるいは、狙撃兵?)

 

 ヴィットマンは、この女性についてそんな印象を持った。と、

 

「……ふーん。あんた、若そうに見えるのに、結構な修羅場を潜ってるみたいね」

「!?」

 

 驚いた。この女性、想像以上に鋭い御仁らしい。

 

「何でそう思うんだ?」

「あんたの方から吹く風が、そう言ってるからさ」

「………」

 

 もはや絶句するしかない。この女性の言っていることは、かなり的を射ている。

 

「まあ後は、あんたの雰囲気かな。歴戦の軍人ってのは、隠し様のない独特の雰囲気を持つ。あんたも、そんな雰囲気が出てるよ」

「鋭いな、お嬢さん。実際私は、多くの戦場を経験してきている。多くの敵を相手にしてきたが、今朝戦った岩の怪物は初めての相手だったよ」

「岩の怪物? ……ああ、あのゴーレムか。あんた、ひょっとして戦車にでも乗ってたの?」

「ああ。そう言う君は、狙撃兵か何かか?」

 

 ヴィットマンが尋ねると、女性はちょっと舌を突き出して、いわゆる「テヘペロ」に似た動作をしながら言った。

 

「あら、分かっちゃった?」

「眼光が鋭かったもんでな。それと、その指使い……銃か大砲のトリガーを引くのに慣れているように見えてな」

「へえー、歴戦の軍人さんは違うねぇ」

 

 感心したらしく、その女性は改めてヴィットマンの方に向き直った。

 

「そういえば、まだ名乗ってなかったね。あたしはコル・クロッカス。あんたのお見立て通り狙撃兵だよ。狙撃には、人生にとって必要なことの大半が詰まってるんじゃないか、って思ってる。ノスグーラとの戦いでは、空中に浮いてた奴を撃ち落とすのにちょっとだけ貢献したかな」

「そうだったのか。こちらも、名乗り遅れて失礼した。私はミハエル・ヴィットマン。さっきの戦いでは戦車のうち1輌に乗って、最前線で戦っていたんだ」

「ミハエルね、いい名前してるじゃない。気に入ったわ」

 

 気さくな口調でそう言った後、クロッカスは手にしていた弦楽器を構えた。

 

「ね、ちょっと1曲、聴いてもらっても良い?」

「ああ、そういえばさっき楽器を弾いていたな。何を弾くんだ?」

「トーパ王国の民謡の1つさ。今はこのトーパ王国は、この半島だけしか支配してないけど、かつてはグラメウス大陸の方にもほんのちょっとだけ領土を持ってたんだ。1万年前の魔王軍侵攻で、先代のトーパ王国ごと失われたけどね。その失われた国と失われた大地への望郷を謳った曲だよ」

 

 そう言うと、クロッカスはその独特の弦楽器を構え、弾き始めた。かなりテンポの速い曲だが、その指はまるで別の生き物のように素早く動き、物悲し気な音色を紡ぎ出していく。そして全く詰まることなく、1曲弾き切った。

 

「見事なものだな。曲自体も速いテンポなのに、望郷の歌に相応しい雰囲気を見事に醸し出している。そしてこの曲、弦楽器で弾くには相当に難しいだろう。それを完全に演奏するなんて、大した腕前だ」

 

 素直に賞賛する妖精ヴィットマン。

 

「へへ……面と向かってそう言われると、何か照れるな」

 

 照れ隠しのつもりか、クロッカスはそっぽを向きながらそう言うと、どこに置いていたのか、一皿のパスタと葡萄酒をひと瓶取り出した。

 

「冷めちゃったかもしれないけど、一緒にどう?」

「いただこうかな。しかし、何でパスタなんだ?」

 

 妖精ヴィットマンが率直に尋ねると、クロッカスはパスタを刺したフォークを持ち上げながら、片目を瞑った。

 

「あんたのとこの国から伝わった、“ペペロンチーノ”とかいう料理だよ。あたしはこれがお気に入りなんだ。人生にペペロンチーノは必要なんじゃない?」

「……ふふっ、かもしれんな」

 

 苦笑いする妖精ヴィットマンであった。

 

 これは果たして(何とは言わないが)フラグとなるのか? ……それはまだ、誰にも分からない。

 

 

 その後、ロデニウス連合王国軍の活躍はトーパ王国民に大きく報道された。

 大東洋共栄圏の盟主として、また「1人の友」として、自国の窮地を救ってくれたことで、トーパ王国民の対ロデニウス感情は途轍もなく良いものになり、トーパ王国はロデニウス連合王国にとって、極めて友好的な国となったのである。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

ーー中央暦1640年12月17日付のモアの日記より抜粋。

 魔王ノスグーラは強烈な魔法で精鋭騎士団を壊滅に追いやった。

 奴はさらに魔法を使い、神話に何度も現れた伝説の巨体兵「カイザーゴーレム」を作り出す。

 それに対し、王国軍の超エリート部隊「王宮戦闘魔導隊」は、10名全ての魔力を惜しむ事無く注ぎ込み、古代魔法『ライジング・テンペスト』を行使した。圧倒的な雷の竜巻がノスグーラを包み込んだ…が、ノスグーラとカイザーゴーレムにダメージはほとんど無く、誰もが絶望した。

 そこへ、ロデニウス連合王国軍が現れたのだ。彼らは鋼鉄の魔獣とはばたかない鉄の飛竜を使役し、強烈な爆裂魔法を以てカイザーゴーレムを吹き飛ばした。

 そしてなんと、ノスグーラをも倒してしまった。それも、超巨大な船を空から落下させ、激烈な威力を持つ超爆裂魔法を放つという、人間業とは到底思えない離れ業を以て。

 「今」が神話になった瞬間だった。

 

 ロデニウス連合王国は、結果的に本隊の到着の前に、先遣小隊()()であの魔王ノスグーラを倒し、魔王の元に集った魔物たちを蹴散らしてしまったのだ。そして、ロデニウス連合王国軍の被害はゼロだ。

 ああ……なんてことだ。

 

 そして……私は今、気が付いた。

 

 ノスグーラの最後の言葉、太陽神の使いに対する言葉。それを聞いて、思い出したものがあったのだ。

 

 ヤマトとか言ったあの艦隊司令官の女性…あの人が衣服に着けていた印は、白地に赤丸だった。そして、神話の「太陽神の使い」が自らの国、太陽の国の国旗として掲げていたもの……それもまた、白地に赤丸だった。ヤマトさんが着けていた印と、「太陽神の使い」の印が、一致しているのだ。

 神話によれば、太陽神の使いたちは、自らのことを“日出ずる国の住民”と言っていたという。

 

 もしかすると、ロデニウス連合王国と「太陽神の使い」との間には、何か関係があるのかもしれない。

 もしや1万数千年の時を経た今、また「太陽神の使い」もしくはその末裔が、ロデニウス連合王国に召喚されたのだろうか? 神話には、「太陽神の使い」が最初に現れたのはロデニウス大陸だった、とある。そして、今回の「太陽の印」を着けたヤマトさんもまた、ロデニウス大陸を支配するロデニウス連合王国からやってきた。偶然……にしては妙にできすぎているような気がする。さらに言えば、突如として空から降ってきたロデニウス連合王国の超巨大船……あの船もまた「太陽の印」を描いた旗を掲げていたし、それに神話の挿絵に描かれていた「太陽神の使いの魔導船」と何となく造形が似ていたような気もする。

 だが、もし本当に「太陽神の使い」が召喚されているのだとしたら、誰が、何のために、そんなことをしたのだろう?

 謎は深まるばかりである。今一度、神話を読み直す必要があるかもしれない……




【悲報】ルーデル閣下、敗北

というわけで、魔王対決はルーデル閣下の敗北というまさかの結果に。まあ、主人公クラスのキャラが一度敗北してから覚醒するのは、よくあるパターンなわけで…

ま、形はともかくとして魔王軍侵攻、阻止完了です!
そしてヴィットマンさん、何サラッとフラグ立ててるんですか…

なお余談ですが、トーパ王国に出撃していた艦隊が帰還した時に、艦隊の中に「大和」の姿がないのを見た堺は卒倒したそうです。艦首を大破したため艦艇形態での航行が不能になったのもあったのですが、ドッキリを仕掛けようと"大和"がわざと姿を隠していたためでした。もちろん後で真相が伝わり、堺は心の底から安堵しましたが、「タチの悪いドッキリを仕掛けるなよ! ったく、心臓に悪い…」とは本人談。

あと、前回登場した新キャラ「コル・クロッカス」ですが、もちろん元ネタがあります。名前や容姿、性格から、既にネタを理解していらっしゃる方もいると思いますが、解説します。
彼女のフルネームから「ク」だけ省いてアナグラムすると……そうです。「スロ・コルッカ」。つまり、彼女のモデルはシモ・ヘイへと並ぶフィンランド国防軍の「もう1人の白い死神」でした。実在したかどうかが不明な人物ですが、せっかくなので登場させました。そして同時に、どうせなら男性であるユパと対比させよう…ということで女性キャラとして登場です。アーノルドが言っていた「ユパと並ぶ腕前を持つ、サッキア中隊の狙撃手」は、彼女のことです。
彼女の容姿は、"自走砲に乗ってるどっかのカンテレ弾きの少女"と"門の向こうに行った脳筋爆乳女性自衛官"をモデルとしました。また、性格はその"カンテレ弾きの少女"の他に、日本国召喚のあの自衛官を混ぜています。人生にあるスパゲッティが必要だと言ったのは、どなたでしたかね?
なので、彼女が持っていた弦楽器はカンテレに、そして弾いた曲はあのポルカに類似しています。彼女の所属部隊が「サッキア中隊」になっているのも、そのためです。そう、「サッキヤルヴェン・ポルカ」。ソ連に奪われたサッキヤルヴィという街への望郷の念を歌ったフィンランドの歌ですが、そのサッキヤルヴィをもじったのが「サッキア中隊」の名前です。


もう年末ですね。皆様、本年は拙作をご愛読いただきまして、誠にありがとうございました!!
これが年末最後の更新になるかは、まだ判然としませんが、年末年始はあと2回くらい投稿したいと思っておりますので、来年も拙作をどうかよろしくお願い申し上げます!!


次回予告。
ロデニウス連合王国軍が成し遂げた、「魔王討伐」という巨大な功績。神話に残る魔王ノスグーラすら打ち倒すかの国の力に、ある列強国は驚愕し、そしてある列強国は決断する…
次回「ミリシアルの驚愕、ムーの決断」
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